○藤田
参考人 ただいま
委員長から御
紹介にあずかりました立教大学の藤田でございます。
この
交付税の
改正案についての具体的ないろいろ詳細な点は、午前中、あるいはこれからの
参考人の各
地方自治体の代表の方からるるお話があると思います。私は、
地方財政を勉強しております者といたしまして、そういった問題でなく、もう少し基本的と申しますか、これから述べますが、私の見たところでは現在の
地方交付税制度というものが大きくがたが来ておりまして、またあるいは逸脱をしている、いろいろなゆがみが出ております。そうしてそれがどういうものであるか、今度の
改正案を中心に最近の動きを追っていきたい、そうしてそれについての
対策をどう考えればいいか、わずか十五分でありますので、この二点にしぼってお話し申し上げたいと思います。
委員長さんから忌憚のない批判ということでありますので、少し忌憚のない批判をしたいと思います。
それで、五十一
年度の
地方交付税の総額は御
承知のように五兆一千八百七十四億円、これだけの
交付税でもってやっと前
年度並みの歳入総額に対する構成比が二〇・五%、その同じ
水準を維持できたわけであります。
ところが、御
承知のように
交付税の
財源であります国の三税の大幅な減収によりまして、そのままではこの金額が維持できない、それでいろいろ苦労をして減収補てんをやっております。三
国税そのままに三二%を掛けますと、三兆八千億ぐらいにしかならないのですが、それで一般会計から臨時
地方持例交付金六百三十六億円を計上する。その金額の算出はいろいろあるのですが、そういうことは省略します。それから
地方交付税特別会計が資金運用部から一兆三千百四十一億円、これだけを
借り入れる。これによってやっと昨
年度並みの二〇%という構成比を維持できたというわけであります。
ここにいろいろ問題があると思いますが、御
承知のように五十
年度の補正
予算でもってやはり
交付税特別会計が資金運用部から一兆一千二百億円
借金をしました。したがって今度の
借金と加えると資金運用部からの
借金が二兆四千三百四十一億円、非常な巨額に達するわけであります。これは
交付税特別会計の
借金でありますので、
利子分は国が負担するようでありますが、元金は返さなければいけない。
それでそれの返済ですが、二年間据え置いて、五十四
年度から六十一
年度まで八年間にこの二兆四千三百四十一億を償還する。その償還の予定額なんかも出ているようですが、年々二千億、または終わりの方になると四千億を超えていますが、それだけを償還していく。これはつまり、国の三
国税の三二%で法定ではじき出した毎
年度の
交付税からこれだけを毎年引いていくわけであります。そうすると、
交付税の
税率が改められない限りはますます総額が減少していく、総額が
確保されない。そうなると
地方交付税の機能が麻痺するということになります。
これは後でまた
対策で触れますが、いままでは
高度成長のおかげで三
国税がどんどん伸びた。それによって、
交付税率の
引き上げが要求されても、あるいは実現されなくても何とかやっていったわけであります。ところがもう低成長のもとになるとそういうことは望まれない。いま言ったような
借金ばかりして何とかその場をつくろっている。ところがその
借金はこれから毎年返さなければならない。一体どうするのか。したがって、低
成長下では一体
交付税のあり方をどう考えればいいのか。これはもうここでしっかり考えなければならない問題で、五十二
年度からの重大な問題になると思います。
自治省でもその点を研究されているようであります。
それから、いろいろのゆがみ、逸脱という点です。その総額にいま言ったような非常に大きな不安がある。それからその
内容の構造の問題ですが、今度の
地方交付税の
改正案でもって、
基準財政需要額の算定の上で、社会
福祉を
充実するとか、過密
過疎対策の
財政需要を算入するとか、いろいろな工夫がこらされております。これはこれでいいと思いますが、この
交付税の機能なり性格からいって二つ大きな問題点が含まれております。
一つは、御
承知のように、国の
景気浮揚策で公共
事業費が非常に増大した。その公共
事業費のうちの一部をこの
交付税で見ないで
地方債に
振りかえるということをかなり大規模にやっております。その一つは、これは
基準財政需要計算の費目にありますが、その他の土木費、あるいはその他の諸費、これは包括算入と言っておりますが、そこに組まれておる
投資的経費の四千五百億円、それから、今度の公共
事業費の増大の一部分と高校の新増設の
地方負担、まあ公共
事業費の増大の
地方負担ですが、それを合わせて八千億円、合計一兆二千五百億円というものを
地方債に
振りかえております。そして、
地方債計画でもって一般公共
事業債というものを昨年に比べて六倍近くふやしている。そのふやした結果、適債
事業を拡大するとかあるいは各種の公共
事業の充当率の
引き上げをやっている。こういうことなんでありますが、果たして
交付税から
地方債にこれだけの多額のものを
振りかえていいのかどうか、これが研究者としては非常に問題だと思います。
四十一
年度にも御
承知のように、
景気浮揚のために公共
事業を増大して、その
地方負担を
交付税で見ないで特別
事業債千二百億円を発行しました。今度はなかなか、千二百億どころじゃないので、一兆二千五百億円の
地方債に
振りかえていく。これは
地方自治体にとっては、金を
交付税でもらうか
地方債でめんどう見てもらうので、収支の上ではそろばんはとれる。しかし、
地方債と
交付税は、これは全く性格が違うんで、
交付税は簡単に言えばもらい切りのもの、
地方債は枠をもらってもそれは償還しなければならない。
利子をつけて返す、つまり
利子つきの償還義務のある
交付税をもらう、そういう形になります。これでは
交付税の機能が果たして果たせるのか、
地方交付税が崩れてきているのではないか。また、われわれから言いますと、
交付税と
地方債というものがここで簡単に混同されている。これは
地方自治体の側から見ても非常に大きな問題である、そういうふうに思います。
それからその次ですが、今度、
地方税減収補てん債償還費、こういうものを
基準財政需要の計算に一つの費目として新設したのであります。これは御
承知でしょうが、昨年
地方財政の
危機に当たって、五十
年度に
地方の法人
関係の税金が非常に減収した。その減収を補てんするために特別に発行を認めた
地方債が一兆六百億円あります。それの
元利償還金を
基準財政需要で今度めんどうを見ようということなんであります。
従来も、この
地方債の
元利償還金のめんどうを見るということは、たとえば一番多いのは、災害復旧債の
元利償還をいまでもめんどうを見ています。それから、四十三
年度には、前に述べました特別
事業債千二百億円の
元利償還金を
基準財政需要で見るということをやっております。しかし今度の場合は、法人
関係税の減収補てんの公債の償還金をめんどうを見るということで、これは大分問題が違っております。
御
承知のように、法人
関係税の減収というものは、これはちょっと考えればわかるように、むしろ裕福な府県、
市町村、富裕
団体において減収が多い。したがって、多額の公債が発行される。そういう富裕
団体が持ち込んでいる公債の
元利償還を
基準財政需要でめんどうを見るということが果たしてどうかという問題で、
交付税というのは本来から言いますと、弱小
団体の
財源の欠之したものの
財源を補強する、それが本来の目的であります。今度の場合はむしろ裕福な
団体が非常に恩恵をこうむる。恩恵をこうむっても理由があればいいのですが、
借金をしなければならない、そしてその裕福な
団体の
借金の後始末を
交付税で見る、ここには、
交付税の本来の機能から言うと逸脱した点があるのではないか、そういうふうに考えられます。結局、財政
危機に直面して、その苦し紛れに
借金をした、その苦し紛れの後始末を
交付税がしよう、そういうことになるわけであります。
まあ時間がございませんので、以上申し述べましたように、私、四十年近く
地方財政の研究をしておりますが、財政調整
制度の時分から今日にかけて、日本の
地方財政調整
制度がこれほどがたが来て、またいろいろ問題を多く含んでいるということは、余り知った経験がないのであります。
それで、時間の
関係ではしょりますが、当面どういう
対策をすればいいかという問題でありますが、一つは、一般に言われておりますように、
地方交付税の
税率を
引き上げる。そのほかに、たとえばこれは社会党や共産党その他でも言っていますが、第二
交付税とか緊急特別
交付税、これはいまの財政
危機の臨時
措置でしょうが、そういうものもあります。しかし本来は、
交付税の
税率の
引き上げが問題になる。その
引き上げの率はいろいろあるわけですが、一般に言われているのは三二%から四〇%、いろいろなことが言われおります。まあ
交付税の総額がふくれてくれば、その機能もいろいろ発揮できるわけでいいと思うのですが、これに対してはもちろん大蔵省から、国の
財源難を理由に非常な抵抗があると思います。しかし、国が
財源難だからこのままにしておいていい、
地方団体はどんどん
借金をしておればいいんだと言って済ますわけには恐らくこれからはいかないと思います。
それから、
地方交付税についての抜本的な改革の問題ですが、一つは、先ほどからお話ししましたように、
交付税の総額をどうして
確保するかという問題であります。これについては、国の三税の三二%というふうに結びつけないで、その税金の種類をふやせとか、まあこれはわれわれの間でもいろいろな議論があります。しかし、非常に困ったことは、国が国債をどんどん発行していく場合には、どんな税金に結びつけてみても、これは救われないわけであります。そういう意味からいって、昔のといいますか、
昭和二十八年までありました
地方財政平衡交付金の方式に改めていく。これはつまり下からの積み上げで、
基準財政需要額を積み上げ、そして基準財政収入額を積み上げて、その
不足額を国家
予算に計上する、そういう方法であります。これが一番理想的な方法だと思います。シャウプ勧告では、こういうふうにやると景気変動で
地方の収入が変動した場合には、それを
交付税で調整することができる、これをかなり強調しております。つまり
基準財政需要はふえるが収入は減る、その差額を
交付税で賄えば非常に調節ができる、これは平衡交付金でなければできませんが、そういう機能を非常に重視している。今日では全く逆で、一番景気の変動の強い
所得税と法人税に結びついているので、景気変動の
地方収入に及ぼす影響が一層大きくなっている。これは何とかしなければ、ことにこれからの低成長の
経済のもとには、ここにやはりメスを加える必要があるというふうに思います。
さらに構造の問題ですが、時間がないのでごくかいつまんで申しますが、
基準財政需要額の変遷を見ますと、土木費
関係、そういったものの比重が非常にふえております。たとえば、
昭和三十三年に八・七%であったのが現在は二〇%ぐらいになっている。ところが
教育費とか厚生労働費は比重は減っている。最近は、四十四
年度ぐらいと比べると五十
年度あたりは少しは上がっておりますが、こういうふうになっているのは、つまり単価とか測定単位とか補正とか、そういう構造が非常に
高度成長型になっている、
経済中心になっている。これを社会
福祉型に転換していく必要があるというふうに思います。また大都市の
財政需要というものが現在非常に膨張しておりますので、それをどういうふうに
交付税の
基準財政需要に反映するか、これも非常に重要な問題だと思います。
とにかく、この
地方交付税が、先ほど私が申しましたように現在非常に、何と申しますか
危機といいますか、まあ崩壊の前にあるといったような考えを持ちますので、この際、国
会議員の
方々、
地方団体の代表者、
自治省、大蔵省、学識経験者、そういう人が集まって、審議会でもつくって基本的に、当面の
対策は
対策として、基本的にこの問題を低
成長下においてどうあればいいかということを
検討されることを強く希望するものであります。
以上で終わります。(
拍手)