○中江
政府委員 インドシナ半島の現況を、まず簡単に私
どもが
考えておりますところを御説明いたしますと、まずベトナムでございますが、南ベトナムは、チュー大統領のもとにありました政権が崩壊いたしまして、その後に臨時
革命政府が直ちに樹立されるものかというふうに予想されておりましたところ、そういう予想とは違いまして、いまだにサイゴン、ジアジン地区も軍事管理
委員会という一種の軍政のもとにありまして、南ベトナム全域にわたる統一された行政組織、いわゆる民政としての全般的な組織というものは明らかにされない状況のままで続いております。これは、予想外に急転回した軍事情勢であったために、その後の始末をするのに手間取っていて、各地とも軍事管理
委員会レベルの軍政が続いているものであるのか。それとも、全般的な民政組織を確立するに当たって、いろいろの内部事情があるのか。その辺は必ずしもつまびらかにしておらないわけでございますけれ
ども、基本的には、今度の軍事攻勢の主力は北ベトナム
正規軍だということはほぼ明らかになってきておるわけでございますので、この北ベトナムの力と本来の南ベトナムのナショナリズムとの
関係というようなものは、
論理的に
考えましても問題たり得るのではないかというようなことも推測されております。
日本のサイゴンにあります大使及び大使館は、引き続き事実上ほとんど
外交官扱いに近い扱いで、平穏無事に接触が保たれております。交通、運輸、通信手段は一時とだえておりましたが、徐徐に回復して、一部の報道
関係者が帰ってきております。そういう報道
関係者からの話もおいおい聞いておりますけれ
ども、やはり南ベトナムが早急に
一つの民政のもとでの行政組織を確立するまでにはまだ問題がありそうだ、こういう推測がございます。
ただ、解放戦線といいますか、臨時
革命政府の
外交政策としていままで明らかにされましたところでは、非同盟中立という
政策を一度公にしたことがございます。この点は、北ベトナムの共産主義政権とは多少色合いの違うものがあるのかという感じもいたしますが、これも、目下のところ、全般的な国の
政策というものが把握しにくい。しかし在留邦人その他は平穏に生活している。ただ日常生活は、これだけ長く銀行も閉まったままということでございますので、だんだん苦しくなってくる、こういうふうに把握しております。
カンボジアは、これは南ベトナムと違いまして、きわめてわからない。これはもう御
承知のように、わりあいカンボジアの解放勢力には同情的と見られたフランスの大使館すら追い出される。ソ連圏の
外交官も相当厳しく追放された。カンボジア市民も、プノンペンから田舎に行って農作に従事しろということで出される。そういうことでございますので、首府プノンペンの状況は全く暗やみで、私
どもにはどうなっているのかわからない。他方シアヌーク殿下は、一応
国家元首ということでございますけれ
ども、いまだに現地には戻らずに、北京でいろいろ話はしておられますけれ
ども、その実効支配力の点については疑問を差しはさむ向きが多い。それでは一体どういうものができているのかということについては、全くわからない。カンボジアがインドシナ四カ国のうちでは最もおくれているのではないかというふうに見ております。
ラオスは、かねて連合政権で一応まとまっていたはずでありましたけれ
ども、カンボジア、ベトナムにおける軍事情勢のああいう動きが影響したものと思われますが、パテトラオ系の勢力が急速に強くなって、これは力によってというよりも、時の勢いに押されて右派勢力がだんだん弱くなって、非常にハノイの影響力の強い国になっていくんではないかというふうに
一般的に見られております。
こういうインドシナ半島そのものの情勢がいまだにはっきりいたしませんものですから、その周辺諸国の脅威といいますか、反応といいますか、これも一時は心理的に非常に強い反応があったわけでございますけれ
ども、よくよく
考えてみると、一体インドシナ半島はどうなるかということについて、まだ定かに見きわめがつかないということで、一時多少驚きあわてているような
印象が報道されましたけれ
ども、最近の状況では、周辺諸国も、じっくりインドシナ半島の行方を見守っていこう。またそれだけの時間的余裕もありそうだ。仮にインドシナ半島で新しい政権ができましても、それはとりあえず戦災復興と
経済振興、発展というところに集中せざるを得ない。三十年近い
戦争の後でございますから、そういう
政策で臨むのが自然であろうから、それについては周辺諸国も、大いに力になれるものなら力になっていこうというような
政策すら見えているという現状でございます。
先生が特に御
指摘になりましたタイとビルマの問題ですが、タイは、御
承知のとおりこういう事態になります前から、東北タイには共産系ゲリラがずいぶんいたわけでございまして、これがカンボジア、ベトナムから流れ込んだ難民の中からそういう力が生まれた、あるいはそういうものを通しての支援があると言われておりましたが、それを裏づけるようにゲリラの活動が多少活発化したという事態がございましたけれ
ども、これがすぐにタイの領域に向かって進攻してくるといいますか、あるいは軍事的に全面的な圧力をかけるというような見通しは、いまのところございません。タイ
政府は、新聞でも報道されておりますように、これに対して対決するというよりは、むしろそういう国と国交を持っていこうということで、北ベトナムや臨時
革命政府との間で話し合いを進めているというような現況でございます。
ビルマの方は、これはビルマの共産軍と中国の共産
正規軍との
関係というものが、昔から問題視されておったわけでございまして、その
意味でビルマは、インドシナ半島がああいうふうに一方的に片づいた後は、やはり自国内の共産党に対する支援というものが強化されるのではないかという危惧を抱いております。
と同時に、その西の隣国はバングラデシュ、これはインドと非常に近い国でございます。これはソ印条約に基づいて、どちらかというとソ連の影響力の強い国でございますので、その間にあって、いままでのような、多少閉鎖的な中立非同盟主義というものから、どういうふうに自国を守っていくかという
意味では非常に困難な路線を歩んでいくと思いますが、ここでも、インドシナ情勢の急転回があったからといって、何らかの内部の軍事的な衝突なり動乱がいますぐに起きるであろうかということについては、否定的に見る見方の方が強い。そういうふうに見ております。