○
国務大臣(
田中角榮君)
上田哲君に
お答えいたします。
まず第一に、現在の
情勢を分析されて、第二の
インフレ招来の時代ではないかという御意見でございますが、御
承知のとおり、
わが国は
諸般の
物価安定政策を遂行してまいっておるわけでございます。その結果、急速に
安定基調を
確保しつつあると考えられるわけでございます。しかし、この最後的な仕上げをなさなければならないというような時期に、御
承知のとおり、三〇%余に及ぶ
賃金の
引き上げが行なわれたわけでございます。この
意味で、この
賃金の
引き上げ分というのは、これはまあ大ざっぱに申し上げますと、約二十兆円というような大きなものでございます。でございますので、四十八年度の国及び
地方、公社、公団の純計
投資といえば約二十五兆円でございましたから、これに匹敵する金額がべへスアップによって支給せられるわけでございますから、これが全く
物価に無縁であるということにはならないわけでございます。でございますから、これが
卸売り物価に八%、
消費者物価に一一%影響するんだと、ただそのように断定することはできないわけですが、無縁であるというふうに断定して
物価問題を論ずるととはできないことは申すまでもありません。そういう
意味で、貯蓄の増強を行なうとか、
国民の健全な
消費を考えていただくとか、いろいろな
政策を行なうことによって、この
賃上げというものが
国民の望ましい
賃上げであって、これが
物価と
賃金との悪循環というようなものにつながらないように
諸般の
政策を進めていかなきゃならぬことは申すまでもないことであります。そういう
意味で、このような
事態を前提としまして、
物価に影響を及ぼさないように格段の
配慮をしてまいりたいと、こう考えておるわけでございます。本日も
月例経済報告を議題として検討いたしたわけでございますが、四月は、
卸売り物価、
消費者物価とも、
先進工業諸国の二けた台に比べて非常に安定的に
推移をしておるということは事実でございます。ございますが、しかし、これらの問題は
国民全体の問題でございますし、
世界的な問題の中で
わが国は
現実を十分把握しながら万全な
施策を行なうことによって
物価の安定をはかってまいりたいと、こう考えるわけでございます。
企業の
対外進出についての御
発言に
お答えをいたしますが、
民間の
対外投資は
相手国の
経済開発に貢献しておりますが、近年における急速な
拡大に伴い
摩擦も生じており、
相手国国民感情への
配慮を欠かないようにしなければならぬことは当然でございます。本来、
民間の
対外投資は
民間の
自主的判断と
責任において自由に行なわれることが望ましいのでございますが、かりに
対外投資が
相手国との
摩擦のもととなるおそれがある場合には、
政府としては、
相手国政府とも十分話し合いつつ、
相手国の
経済社会との
協調融和がはかられるように努力してまいらなければなりません。
民間の側においても、昨年の
経済五団体による
投資行動の
指針等の
投資適正化の動きが徹底、実行されることを期待いたしておるわけでございます。
今後の
対外経済協力の
進め方等についての御
発言に
お答えをいたしますが、
わが国の
経済協力の規模は年々
拡大の一途をたどっておりますが、今後も
政府開発援助の量、
質両面の
拡充をはかることが必要でございます。また、その対象分野につきましても、工業生産部門のみならず、住民福祉の向上のため、農業
開発や
経済・
社会基盤の
整備等、
開発の基礎的部門に対する
援助の
強化をはかることが必要でございます。同時に、
民間ベ
ース経済協力との
協力体制を
整備し、真に
相手国に喜ばれる幅広い
協力を
推進してまいりたいと考えておるのでございます。
常に国会でも御指摘がございますように、
日本の戦後の
対外経済協力は
民間の
経済ベ
ースによるものが大き過ぎたので、
民間ベ
ースにウエートがかかり過ぎておりましたので
相手国との間に
摩擦が多いのであるという御指摘がございます。そういう面もございます。また、
援助を受ける国々は、
経済開発も必要でございますが、それに付随した民生安定、
生活向上という面に対する
援助も求めておるわけでございますが、これらの面は
民間の純
経済ベ
ースの
援助には乗りがたいケ
ースでございます。そういう
意味で、国が行なう
協力援助と
民間が行なうものとのバランスをとりながら、
相手国に真に喜ばれるような
経済協力体制をつくっていくためには、国と
民間がお互いに調整できるような
機構やその他のものが必要であるということは、間々指摘をせられておるとおりでございます。戦後足かけ三十年を迎え、その後半二十年
対外経済協力を進めておるわけでありますが、ここで新しい
事態、新しい要請にこたえて、真に評価され、価値ある対外
経済投資、
経済協力を行なうというために、何らかの新しい
機構や新しい考え方が必要であるということをひとつ御理解いただきたいと思うわけでございます。
次に、
対外経済協力を担当する
国務大臣の
新設が二元
外交のおそれがないかという
趣旨の御
発言でございます。
内外情勢の
推移に迅速かっ適切に対処するためには、
国政の
機動的運営が必要であります。特に
経済協力につきましては、
開発途上国との間に平和と
繁栄を分かち合うという
基本的
方針のもとに、それぞれの国の
実情に即してできる限りの努力を傾けていかなければなりません。ただ、
経済協力が
関係各省にまたがる
行政でありますので、
開発途上国の
実情を的確に把握しつつその
推進に専念し得る
国務大臣を新たに設ける必要があると考えたわけでございます。この
国務大臣は
無任所大臣でございまして、
外務大臣との職務分掌上の重複等の問題はありません。また、およそ
日本国
政府を代表して
外交交渉を行なう場合には、
外務大臣との間に緊密な連絡協議を行ない、いやしくも
外交の一元化をそこなわないようその職務を遂行していくことは申すまでもないわけでございます。いまも、例をあげて申し上げるまでもございませんが、
日本がシベリア
開発などをやるときに、相手の窓口が二十一もあるということで、行くたんびに話が違うということは困るということは、これは与野党を問わずいろいろな
立場から指摘せられておる事実でございます。同じことが諸外国から
日本政府に対して言われておるわけでございます。これは、
日本から
援助を受けたい、また交換公文がもうすでに締結せられてから何年もたっておる、しかし
各省庁にまたがっておりますのでなかなか話が進まないということで、できるならば窓口を
一つにしてくれということは、もう間々要請を受けておるわけでございます。この間は、
外務大臣——まあ私も参りますし、
外務大臣も参ります。同時に三木副
総理も中東に飛ばなきゃならぬ。中曽根
通産大臣も参る。小坂特使も参らなきゃならぬ。それは国会もございますし、いろいろな面がございます。そういう
意味で、できるだけ窓口を
一つにしてもらいたい、そうすることが望ましいということは国の内外からの要請でございますので、これは各国でもこのような事務をどのような
機構であずかっておるかを見れば一目りょう然でございますので、これらもひとつお考えをいただきたい、こう思うわけでございます。
国務大臣の
新設は、
行政機構の簡素化等の問題、いわゆる
政治姿勢の問題からどうかという問題が最後に提起されましたが、今回増員される
国務大臣は無任所の
国務大臣であり、新たに事務部局を設けるものではございません。御指摘のとおりでございます。言うまでもなく、
国務大臣の定数は、
内外情勢の
推移、
行政需要の
変化、その他
内閣の
運営をめぐる事情の
変化に即応して定めらるべきものであると考えるわけでございます。前にも申し述べましたように、
対外経済協力の遂行に専念する
国務大臣を
新設する必要がありますので、今回の
内閣法の改正を提案したところでございまして、事情御理解をいただきたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣大平正芳君
登壇、
拍手〕