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1974-03-14 第72回国会 参議院 法務委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年三月十四日(木曜日)    午後一時十分開会     —————————————    委員異動  三月七日     辞任         補欠選任      小笠原貞子君     野坂 参三君  三月八日     辞任         補欠選任      星野 重次君     小枝 一雄君      川野辺 静君     重宗 雄三君      高橋 邦雄君     鈴木 省吾君  三月十二日     辞任         補欠選任      中村 波男君     村田 秀三君  三月十四日     辞任         補欠選任      小枝 一雄君     高橋 邦雄君      重宗 雄三君     川野辺 静君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         原田  立君     理 事                 後藤 義隆君                 棚辺 四郎君                 佐々木静子君     委 員                 川野辺 静君                 高橋 邦雄君                 柳田桃太郎君                 山本茂一郎君                 中村 英男君                 藤田  進君    政府委員        法務政務次官   高橋文五郎君        法務大臣官房長  香川 保一君        法務省刑事局長  安原 美穂君    事務局側        常任委員会専門        員        二見 次夫君    説明員        法務大臣官房審        議官       鈴木 義男君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○検察及び裁判運営等に関する調査  (刑法改正に関する件)     —————————————
  2. 原田立

    委員長原田立君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  中村波男君、小枝一雄君及び重宗雄三君が委員辞任され、その補欠として、村田秀三君、高橋邦雄君及び川野辺静君が選任されました。     —————————————
  3. 原田立

    委員長原田立君) 検察及び裁判運営等に関する調査を議題といたします。  質疑のある方は順次御発言願います。
  4. 佐々木静子

    佐々木静子君 それでは一昨日の法務省法制審議会刑事部会総会において、いま問題になっております刑法全面改正作業において一番の私ども国民としてたいへんに関心を持っておりますところの名誉に関する罪、信用及び業務に関する罪、秘密を侵す罪などの部分につきまして総会におけるところの結論が出された、その事柄について法務当局の御見解をぜひとも伺いたいと思うわけでございます。といいますのは、この問題については昨年の九月にこの小委員会での結論が出た際に法務当局にも御意見を伺ったわけでございますけれども、その際の御答弁では、まだ最終的な法制審議会結論ではないからということで御答弁を保留された部分がたくさんあるわけですけれども、いよいよ終盤の大きな山場を今回迎えたわけでございまして、今後この最終的な部分が、新聞報道によりますと、五月ごろにはいよいよもう全部についての結論が出て、あと法案作成作業当局とするとかかられるように聞いておりますので、そうだとすると、ぜひともいまこの機会国民の声を法務当局にもよく聞いていただいて、またわれわれ国民の声を大いに盛り込んでいただかなければこれはたいへんなことになるということから、きょうは法務省に対して若干質問をさしていただきたいと思うわけです。  これはもう御承知のとおり、名誉に関する罪、それから特にいま問題になっておりますところの企業秘密示罪のこの二点につきまして新聞協会からは再々にわたって強い要望書が出されておりますし、また日本弁護士連合会からも、これは人権をじゅうりんする規定であるということで強くこの改正が誤っているということについて反対意見が表明されているわけでございます。そのほかいろんな民主団体からも、これをこのまま放任することはできないということで、いま私たちどうしてもこの問題について法務当局考えていただきたいと思うわけでございます。  刑事局長、お時間の都合もあるようでございますから、まず今月十二日の法制審議会における、いま言いました名誉に関する罪と、それから信用及び業務に関する罪、秘密を侵す罪についての、まず名誉に関する罪についてのその法制審議会における経過というものをちょっと簡単に御説明いただきたいと思うわけです。
  5. 安原美穂

    政府委員安原美穂君) 御指摘の名誉に関する罪につきまして特に問題となりましたのは、審議対象になっております草案の三百十四条、事実の証明の関係におきまして、草案は、現在の名誉に対する罪の事実の証明規定でございます二百三十条ノ二の第一項は、草案も同じでございまして、要するに、事実を摘示して人の名誉を侵害するという行為があっても、その行為公共利害に関する事実にかかり、その目的がもっぱら公益をはかるためであったと認められる場合において、その事実が真実であることの証明があったときは、たとえ名誉の侵害があっても罰しないという規定は、現行法の二百三十条ノ二の第一項と同じでありまするが、草案におきましては、現在の法律の第二項、すなわち、ただいま読み上げました第一項の「規定適用ニ付テハタ公訴提起セラレサル人犯罪行為ニ関スル事実ハ之ヲ公共利害ニ関スル事実ト看做ス」という規定、つまり、第一項で公共利害に関する事実について、目的が、しかももっぱら公益をはかるに出たものと認むるときは、事実の証明があれば罰しないという規定の中の、いまだ公訴を提起せざる人の犯罪行為に関する事実は、法律で、「公共利害ニ関スル事実ト看做ス」という規定があるのを、草案におきましてはその規定削除しておるということが議論一つ対象になりまして、反対論は、そのような草案削除しているのを現行法のように戻すべきである、現行規定適用については、「未タ公訴提起セラレサル人犯罪行為ニ関スル事実ハ之ヲ公共利害ニ関スル事実ト看做ス」という規定を置くべきである、これを削除するということは、犯罪事実に関する新聞報道を制限することになり、報道の自由の制限にかかわるから、現行法どおりにすべきであるという議論でございます。  それからもう一つは、現行法の二百三十条ノ二の第三項に、名誉を侵害する行為が「公務員又ハ公選ニ依ル公務員候補者ニ関スル事実ニ係ルトキハ事実ノ真否ヲ」判断シ真実ナルコトノ証明アリタルトキハヲ罰セス——公務員または公選による公務員候補者に関する事実である場合におきましては、事実の真実であることの証明がありましたら罰しないという規定に対しまして、草案は、そのような行為公務員または公選による公務員候補者に関する事実にかかる場合において、その事実が真実であることの証明があったときはこれを罰しないという規定はそのとおりでございますが、ただし書きといたしまして、その事実がもっぱらそのような公務員あるいは候補者私事に関するものであるときはこの限りではない、私事に関するものであるときは、真事であっても罰せられる場合があるということをただし書きで留保しておる点につきまして、これまた現行法でおりにただし書きをなくした規定とすべきであるという反対論がありました。  その辺の二点をめぐりまして、賛成反対意見が戦わされて、結果におきまして、この草案のとおり、現行法に戻す必要はないという意見が多数を占めたというのが名誉に関する罪に対する審議の概況でございます。
  6. 佐々木静子

    佐々木静子君 このみなす規定削除されたということ、これはたいへんに大きな影響があると思うんでございますが、この採決の結果は、削除賛成の方が多くて、最終的には削除するという御意見審議会のほうでまとまったようでございますが、いま御説明にあったみなす規定を設けたいきさつ、これは私もこの当時の議事録も調べてみたんでございますけれども昭和二十二年のこの改正のときに新憲法制定されて、それ新憲法の精神にのっとって、言論表現の自由を最大限に保障するためにこの規定を設けたわけでございますが、いまの事態と比べまして、現在この言論表現の自由を最大限に保障しなければならないという点におきましては全く変わりないわけでございますけれども、そういう状態のもとにおいて何ゆえ国民世論を代表するところの新聞協会とか弁護士会あるいは刑法学会の中でも非常に反対の声が多いというときに、何ゆえにみなす規定削除されるのか、まあそれは審議会がきめたことで刑事局長がきめたことでないとたぶんにおっしゃるだろうと思いますけれども、きょうは法務大臣を補佐するお立場として、大臣お越しになれないので局長にかわって御答弁いただいているわけでございますが、このように多くの世論がみなす規定削除反対している、この事柄について、まあどういうふうにお考えになっているか、また今後法務省としてどういう態度でこの法案作成に取り組んでいきたいと思っていらっしゃるか、これは刑事局長に一度お尋ねしたいと思っているわけです。
  7. 安原美穂

    政府委員安原美穂君) 佐々木先生御明察のとおり、目下まだ審議中でございまして、まだ審議をいたしておりまして、多数決で採決するというふうにきめたといたしましても、法制審議会といたしましては、これを全部を一度レビューしました結果、全面改正の必要があるかどうかという答申をすることがまず第一問題でありまして、それから改正をするとすればどういう要綱によるかという答申がなされる、まだその段階でございまして、最終的にこのような案によるべしということの答申があったわけでもございませんので、一昨日そういう採決をなさったことをとやかく批判する立場にはないということもひとつ御理解を願いたいと思いますし、もう一つ、これが申すまでもなく政府案として提出するということになりますならば、私はその責任におきましてその相当性を主張し、立証する責務を有するわけでありまするが、そういう段階でもございませんので、ただ今日申し上げられますことは、報道の自由というものは尊重されるべき事柄でありますとともに、政府案決定あたりましては法制審議会答申を尊重するが、各般、いろいろの意見もあることもありまするから、慎重に考慮をいたした上でこの点に関する政府案決定に臨みたい、これだけはいまもって責任を持って申し上げられることでございます。
  8. 佐々木静子

    佐々木静子君 いま全面改正が必要であるかどうかについての事柄もまだ法務省はきめていらっしゃらないというお話でございましたが、これは昭和三十八年だったと思いますが、全面改正の必要があるかどうかということに対して法務大臣から法制審議会に対して諮問された。これに対する回答がないままにいきなり各条項についての改正作業法制審議会で検討されてきたというようないきさつから見ましても、いま全面改正の必要があるのかないのかと、それをまだ法務省としてはさまっておらないという御答弁について、私はこれは言いわけじゃないか。実際のところ、ほんとうにそれがどう改正の必要があるのかないのかということの段階であれば、まず法制審議会が各条文について検討される前に、これは全面改正の必要があるという答申があって、それから始めるべき事柄であって、その答申を待たずにどんどんと各条項についての審議が始められたということは、もうすでにレールが敷かれておって、もう当然全面改正するんだというレールでもう列車が走り出しておる。それは私、今度の経過から見ましても、いまになって全面改正するかどうかということについても法務当局考えておらないとおっしゃっても、それは私は詭弁にすぎないんじゃないかと思うわけですが、ほんとう考えておられないんですか、どうですか。
  9. 安原美穂

    政府委員安原美穂君) この諮問佐々木委員承知のように、刑法全面的改正を加える必要があるかという諮問でありました。あるとすればその要綱を示されたいということでありまして、法務大臣といたしましては、必要があるからその要綱を示されたいとか、必要があると思うから別紙の要綱について意見を承りたいというたてまえになっておらぬということは、心底全面改正の必要があるという判断に達していないことの何よりの証拠でございます。ただ、このような諮問をするということの契機といたしましては、現行刑法制定後すでに六十年余りを経過いたしまして、この間におきます社会情勢あるいは国民感情の推移、日本国憲法制定をはじめとする法律制度の変遷とか、あるいは内外におきます刑法理論刑事政策の発展というようなこともあることも事実でございますので、六十年を経た今日全体を根本的に一度再検討してみる必要があるという判断に達したことは事実でございます。そういう判断であったから、検討する必要があると考えたから、全面改正が必要であるかどうかの意見を聞かしていただきたいという諮問を出したと、こういうことでございまして、いま法務省全面改正の必要があるという判断に達しておるということではございません。
  10. 佐々木静子

    佐々木静子君 これは私も刑法全面改正に必ずしももろ手を上げて賛成しているわけじゃないわけですけれども、いままでの大臣のこの当委員会における御答弁を伺っておっても、かたかなの法文は昭和何年までに全部改めるんだとかいうようなことを、これは歴代大臣がおっしゃっているんです。これは、法務省事務当局全面改正考えていないとおっしゃっても、大臣自身が、歴代大臣がかたかなの条文はやめるのだと、そこら辺に大きな矛盾があるんじゃないですか。全面改正しなければかたかなの刑法はいつまでも残るんじゃないですか。
  11. 安原美穂

    政府委員安原美穂君) かたかなをひらがなにするということも一つ改正でございますが、かたかな、ひらがなの問題あるいは内容のわかりにくいところをわかりやすくするということはいわば幅次的なことでございまして、何よりも中身の実質についての改正が必要かどうかということが先決問題でございます。それがあるとすれば、それに付随して当然わかりやすく、かつ、ひらがなにということが出てくるわけでございまして、そういう必要性というものは、機会があればそういうことはしたいと思いまするが、内容が同じで、それをかたかなをひらがなにするということということが第一次的な問題ではございませんで、その辺は御了解願いたいと思います。
  12. 佐々木静子

    佐々木静子君 まあかたかなをひらがなにするというのは、単なる字句の問題だけでないというようなことは、常識から考えてもわかり切ったことですけれども、まあそれではきょうは政務次官お越しのようでございますので、いまも申し上げておりますように、この名誉棄損についてのいわゆるみなし規定というのを今度法制審議会答申削除するというふうに答申されたということに——まだそうはきまっていないんですが、総会においてそのようにきまったという事柄に対して、これは新聞協会を中心に弁済士会その他民主的な団体あるいは国民世論をあげて強く反対しているわけです。このような世論に耳を傾けて行政を行なって、今後この刑法改正を検討されていかれるおつもりかどうか、いま大臣おられませんので、次官に、国民世論というものをどのようにお考えになっているかということについて伺いたいと思います。
  13. 高橋文五郎

    政府委員高橋文五郎君) お答えいたします。  まだいわゆる本ぎまりになっておりませんので、本ぎまりになったあとで意見を述べるのが当然だろうと思いますが、しかしながら、いまお話しのように、世論をよく聞いていろいろと取捨選択をすると、こういうことには注意を払ってまいりたいと思います。
  14. 佐々木静子

    佐々木静子君 これは実は、この国民世論を代表する者の代表的なものとして新聞協会があると思うんですけれども、この新聞協会が今度の刑法改正に対して、大きくいいますと三つ要望を出しているわけなんです。これは次官に伺いたいと思いますが、いま申し上げました名誉棄損についてのみなし規定と、それから後ほど伺おうと思っております企業秘密を漏らすということについての反対意見、それからもう一つは、すでにこの間法制審議会総会結論が出されました公務員秘密を守る義務についての今度の改正についての反対の点があるわけなんですが、このように国民世論を代表するところの新聞協会方々が特に大きな問題として三つ掲げているところを三つとも全部退けてしまった、こういうふうな法制審議会考え方というものがはたして国民のまあ中庸を得た世論に従っているだろうか、国民考え方法制審議会メンバー考え方とが相当大きな隔たりがあるんじゃないかということを私どもたいへんにおそろしく思うわけですけれども政務次官とされますと、この際国民世論というものを、いまも御答弁いただきましたけれども、特にこの三つの点について大きな世論が盛り上がっているわけですが、どのようにお考えでございますか。世論を無視してでもしゃにむにこの三つの点を推し進めていこうというお考えか、そのあたりをちょっと伺いたいわけです。
  15. 高橋文五郎

    政府委員高橋文五郎君) 世論というものがどれをさすかという問題にも関係いたしますので、いまお話しのようなことに対して、相当に重要な御意見として考えのうちに入れるということは当然だろうと思いますので、それのみでこの問題を考えるわけにいかないと思いますので、今後慎重に検討を加えてまいりたいと思います。
  16. 佐々木静子

    佐々木静子君 ぜひとも慎重に御検討いただきたいと思うわけです。これは実は先ほど申し上げました昨年九月の、やはり刑法改正のこの問題につきまして当委員会で質問さしていただいたときに、いま退席されました安原刑事局長の御答弁に、各界各層意見の大要を法制審議会委員メンバー方々に幅広くお知らせするということをやっておりますということが御答弁に出てきているわけなんですけれども、これはよくわかるようにやっていただいているんだろうとは思いますが、どうもその結果が全く形の上であらわれておらないどころか、そういうふうな、私どもから見ると、国民の声を代表する世論である、考え方であるというようなものが片っ端から否定されている。こういう点に、この改正というものが非常に反国民的な改正である、これはそう思われてもしかたがないんじゃないか。そこら辺について、これはあと鈴木審議官に伺いますが、政務次官としてのこれからの取り組まれるお仕事、お考え、いま世論というものも十分尊重していくけれども世論にもいろいろあるというお考えのように伺ったんですけれども、そしてまたその世論を十分に検討して尊重していきたいという御趣旨の御答弁のように伺ったわけですけれども、すでに前回の安原局長の御答弁でも、十分に各界の御意見を尊重して、委員方々に十分にお伝えするということを言っておられるわけですが、それがちっとも、反対の結果ばかり出てきておるわけですから、その点を十分に政務次官としても今後この問題とお取り組みになるときにお考えいただきたいわけですが、その点についての御所信をちょっと述べていただきたいと思います。
  17. 高橋文五郎

    政府委員高橋文五郎君) 法制審議会におきましても、各方面の御意見というものをしんしゃくしながら御討議を願っておることと思いますけれども、さっき申し上げましたように、審議会結論がまだはっきり出ておりませんので、それらの結論を得た上で、なお将来においても、先ほど申し上げましたような各界各層の御意見をさらに検討いたしまして最善を尽くしたいと思います。
  18. 佐々木静子

    佐々木静子君 この法制審議会メンバーのことにつきましては、これは日弁連でも先日、この法制審議会メンバーが非常に老化した、いわゆる各界における最高権威者であるということは間違いないわけでございますけれども、非常に年齢的にもお年を召した、あまりにも超一流の方ばかりそろえているために、私ども国民の感覚と非常にかけ離れているんじゃないかというようなことが、これは日本弁護士連合会はじめ各民主団体などでこの問題が取り上げられているわけでございます。たとえば刑法権威者だけではなしに、憲法、民法の日本最高レベル学者の方が顔をそろえていらっしゃるが、平均年齢が皆さん七十歳以上ぐらいの方ばかりである。また第二に、弁護士が九名ということになっているけれども、そのうち肩書き弁護士であっても、たとえば検事総長出身であって現在たまたま弁護士をしておるという方が三人、またそのほか検事の経歴がほとんどであって、いま定年その他で弁護士をしていられる方などが弁護士という肩書きで入っておられて、きっすいの弁護士というのは三名か四名しかない。それからそのほか法務省特別顧問、あるいは事務次官、そのように法務官僚が非常にたくさんメンバーに入っておられて、在野からのメンバーが非常に少ないということが日弁連で、これで刑法改正作業に、この法制審議会のお考えほんとうの意味の国民世論というものがはたして生かしていけるかどうかということがたいへんに問題になっているわけでございまして、先ほど刑事局長が御説明になった経過におきましても、これは弁護士委員だけが、三名ないし四名が、いま申し上げました名誉に関する罪、あるいは後ほど申し上げる企業秘密の漏示罪について反対意見を述べているだけで、ほかが全員賛成というふうに非常に極端な意見になっているわけでございますね。特に刑法学者といいましても、刑法学界では大体中堅あるいは若手の刑法学者反対意見がたいへん多いわけなんでございますが、刑法学者として入っている方は全員賛成というふうなことになっているように聞いているわけでございますけれども、そういうこと自身非常にこのメンバーが片寄っているということがたいへんに案ぜられているわけでございますが、そこら辺のあたりを踏んまえて、次、これ、法案作成作業のときに十分にお考えになっていただかないと、この法制審議会の御意見に引きずられて法務当局がもし法案をおつくりになるとすれば、これはたいへんなことになるんじゃないか、これはもう国をあげての大問題になるんじゃないかと、私、その事態をおそれるわけなんでございます。  それから先日もこの刑法改正問題についていろいろ各界の方と私ども打ち合わせをしたんでございますが、刑法というものは単に刑罰をきめるというだけじゃなしに、最低限のモラルをきめる、日本道徳をきめるものだ。そういうことになってくると、特にこれは法律専門家ばかり集まってきめるということ自身がおかしいんじゃないか。やはりもっと広範な国民各層が集まって、そして各層の方の御意見で、日本のこれから先の最低限道徳の基準というものをきめていかなくちゃならないんじゃないか。そういう事柄に対して、このメンバー法律専門家ばかり集まっているということ自体がまず誤っているという御批判がたいへんに強く出たわけなんでございまして、私ももっともな御意見だというふうに感じたわけでございますが、そういうあたり大臣がいらっしゃいませんので政務次官にまた御答弁いただくわけでございますが、そういう点を十分に御配慮の上、この法制審議会結論というものに対して一応の御参考になさるという程度で、引きずられずにこれからの法案作成作業をやっていけるのかどうか、また、そのように御指導いただけるのかどうか、そのあたりについて伺いたいと思います。
  19. 高橋文五郎

    政府委員高橋文五郎君) いろいろと御高見を拝聴いたしました。そういう点なども踏まえて、先ほど申し上げましたように慎重に取り組んでまいりたいと思います。(「答弁にならぬよ、そりゃ」と呼ぶ者あり)
  20. 佐々木静子

    佐々木静子君 もう一度政務次官、その点について、どうもこれは藤田先生だけじゃなくて、私も何だかそれでだいじょうぶかなという気がしたんですけれども、もう少し確信のある御答弁をしていただかないと。
  21. 高橋文五郎

    政府委員高橋文五郎君) 手続がよくわからないものですから、私も答弁がはっきりいたしませんが、法制審議会の御決定がありますればそれを公表いたすのだそうであります。したがって、そこにいろんな各方面の御批判なり御意見なりが出ると思いますので、そういうものを慎重に取り入れて考慮いたしてまいりたいと思います。
  22. 藤田進

    藤田進君 関連して。  経過の詳しいことはあらためてまた他日聞くとして、政府委員説明員でとりあえずいいですが、伝えられるところによると、五月、審議会のほうは審議結了、答申という段階になるのではないか。これはどうです。法務省諮問した側から見ると、いつ法制審は答申をする見込みと考えているか。
  23. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 現在の審議状況から見まして、大体夏ごろまでには答申があろうというふうに見ております。
  24. 藤田進

    藤田進君 夏というけれども、サマーは七月、八月というが、そのどちらです。
  25. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 夏までと思っておりますが、まあ六、七月にはと思っております。
  26. 藤田進

    藤田進君 それはどういう内容答申になりますか、個々の条文は別として。並列になるのか、問題の条項について採決してでも一本化してくるのか、少数意見という形になるのか。どういうふうになります。
  27. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 従来の法制審議会のやり方を前提にいたしますと、大体一本化した結論が出る、すなわち全面改正の必要があるかないか、そのどちらか。あるとした場合に、どういうふうな内容の案にするかという案を一本にして答申があるだろうと思っております。
  28. 藤田進

    藤田進君 そこで、その答申が六月ないし七月のある日あるという見込みのようですが、これを受けた法務省は、日程的にどういうふうにこれを処理しますか。
  29. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) まだ、その後の日程については十分な検討を済ましておりませんけれども一つは、この案の内容、案の内容ももちろんでございますが、それをもとにして全面改正をすることの当否についても検討をいたす必要がございますし、この刑法改正いたします場合には関連する法律がたくさんございまして、刑事訴訟法であるとか監獄法であるとかいうような法律にも関連するところでございますので、そういうものとの関係等をも十分見きわめて検討する必要があろうと思っております。
  30. 藤田進

    藤田進君 そこで、受けた法務大臣が法制局なりを督励して近々法文の編さんに取りかかってということではないだろうと私は思う。そうすると、審議官等が中心になって、受けたものを——答申を受けた以上、これはまた十年も握りつぶすということではなかろうと思うんで、許す限り担当者のところに大臣から答申書というものはおりてきて、これをどうこなしていくのかということを聞いているんです。いきなり法務省の省議にかけるのか、また別の部会か委員会か省内に設けるのか、そういったようなプロセスを聞きたいんです。
  31. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) お答えできなくてたいへん恐縮でございますが、現在の段階ではまだ具体的な作業の段取り等については検討が済んでおりません。
  32. 藤田進

    藤田進君 いつごろその検討が済みますか。
  33. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) まだ法制審議会答申がございませんので、法制審議会答申を待ちました上で検討の方法等についても考えたいと思っております。
  34. 藤田進

    藤田進君 そうすると、答申を受けて、まあまあ中間をとって、早いおそいもあるだろうが、何日くらいでさてこれをどう処理するか、どの程度かかります。受けて、あとこれをどういう機関にかけてみようか——関連諸法、実定法もあるでしょうからね。答申を受けて何日くらいしたら次の段階に入ります。
  35. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) たいへん申しわけございませんが、現在の段階では、まだどの程度の検討期間が必要であるかということについてちょっとお答えいたしかねる状況でございます。
  36. 藤田進

    藤田進君 それは職分上あなたのところではまだ検討してないのか、それはあなたに求めるのが無理であって、たとえば官房長とか政務次官とか、そういう人がきめるべきものですか。
  37. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 個人がきめるかということではございませんで、もちろん私単独できめられるようなことではございません。これはやはり省内で、どういう形で検討するかということも省内の責任ある者が集まってきめるということになろうと思います。
  38. 藤田進

    藤田進君 責任ある者といえば、省内では通常責任あると呼称されている者はどういうクラスです。
  39. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 大体省議のメンバーというふうにお考えいただいていいんじゃないかと思いますが。
  40. 藤田進

    藤田進君 法務省での省議はどういう人ですか。省議のメンバー、わかるでしょう。省議のメンバーはあなた答えられませんか。
  41. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 省議のメンバーは私も知っておりますけれども、まあ省議のことを……
  42. 藤田進

    藤田進君 名前は一々出さぬでいい。職柄でいいです。
  43. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) いや、そういう意味じゃございませんで、省議のことを管掌しておりますのは官房長のほうでございますので、私でも事実は知っておりますけれども、官房長からお答えしたほうがいいんじゃないかと思っているわけでございます。
  44. 藤田進

    藤田進君 あなた、大臣みたいなことを言うけれども、ぼくはあなたに聞いているんだから、わかっていれば答えなきゃ、たとえ証人じゃなくても。どういうクラスなんです。
  45. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 大臣、それから政務次官、事務次官、各局長、それから外局の長、こういうことになっております。
  46. 藤田進

    藤田進君 それではその省議のメンバー、しかも有力な官房長にお伺いしますが、いやしくも、きわめて長期間かかったこの答申内容のよしあしは別として、法務省としては世論を聞いたりなんかするだろうけれども、これを受けてどうするかということは、これはもうすでに日程にのぼせてなきゃうそですよ、どうするか。うるさいものだから、まあいずれ後世の人がやるだろうというのも行き方かもしらぬけれども、そこで省議メンバーである官房長、どうします、これ受けたら。
  47. 香川保一

    政府委員(香川保一君) 法制審議会から法務大臣に六、七月ごろ最終答申がございますれば、これを直ちに公表するのみならず、関係のそれぞれの方面に積極的に御意見を出していただくようにお願いするのが第一段階だと思います。何ぶん問題が非常にむずかしい、しかも広範囲にわたる全面改正のことでございますので、御意見を承るにしましても一カ月や二カ月で御意見を出してくれというわけにもまいらない。おそらくは半年なり一年ぐらいの余裕をもって御意見を聞かなきゃならぬことではないかというふうに思いますが、それと並行いたしまして、刑法全面改正ということになりますれば、先ほど審議官から申しましたように、刑事訴訟法あるいは監獄法、その他関係法律の整理あるいは手直しもいたさなきゃならない。さような作業も、一方で各界からの御意見を承っておる期間に、並行的にいろいろ刑事局を中心にしまして関係の矯正局あるいは保護局、その辺のところで具体的な作業を進めまして、これもまた、現在の審議されております刑法全面改正草案内容から見ますと、おそらく刑事訴訟法の改正あるいは監獄法の改正等につきましても法制審議会審議をわずらわすようなことにならざるを得ないというふうに思っておりますが、さような審議も並行的に進めていただくというふうなことに、大まかに申しますと、さようなことに相なりまして、最終的には一般の御意見をしんしゃく——参考にさしていただいて、片方では法制審議会答申それ自体は尊重しなきゃなりませんが、法務省独自の立場で検討いたしまして、そして成案を得れば国会に提出、そして国会で十分これはもういろいろの角度からの議員先生方の御審議をわずらわすと、かようなことに相なる。大体期間的に申しまして、その作業がどれくらいのめどで、いつからいつまでにどの作業を済ませるというふうな点は、先ほど審議官が申しましたように、こまかな日程等は率直に申しまして決定いたしておるわけではございません。やはり相当幅を見て、何ぶんにも大問題でございますので、できるだけの慎重な配慮を加えながら十分な検討をするということでございますので、期間的にいつごろまでに成案を得るかということは、ちょっと現在の段階では申し上げにくいと思いますけれども、おおよそのめどといたしまして、まあ私個人の考えを申し述べて恐縮でございますが、一年や二年ではちょっとむずかしいんじゃなかろうかというふうに思っております。
  48. 藤田進

    藤田進君 関連ですから、まああと三点ほど。  その第一点は、広く一般の意見を聞くというのが本件に対する法務省当局の態度のように聞いた。そこで、その聞く方法は、法務大臣名で別の部会なり何なり広く集めるのか、あるいは何か他に、方法はむろんありますが、これはどういう方法なのか。これが第一。  それから第二は、関連法規について並行的に——並行的とは刑法の基本法の改正についての作業意見を聞くのも一つ作業でしょう、もう答申を受ければね。その作業段階と並行してという意味に私は聞いたんですが、関連法規について諮問を法制審にして検討願うようになるだろう、こういうわけだが、その場合に、その関連法規の答申を見て刑法改正政府案というものがわれわれ立法府に出てくるのか。これが第二です。  第三は、いま佐々木委員も指摘して答弁は不明確ですが、確かに委員の皆さん、まあほめて言えばその筋の権威者ばかりというようなことでありますが、一方、体力的、能力的から見るとかなり疲労されている人が相当多いように思うですね。われわれ国会におられる年寄りの人はなかなかみなしっかりしております、脳みそも含めてね。それでもときとして会議中にごとりごとり眠ってみるとか、ある種の脳軟化症的な傾向がやっぱり出ている人が千人に一人ぐらいあるように思うですよ。それでこの法制審を見ても、一体どうなのかなあという気がするです。ここだけは明治はまだ去っていないですね。慶応の人はいないですがね。そういう状態だが、これはもうこの際再検討を加えられる必要はないのかどうか。これは大臣でなきゃ答えられなければ、大臣をすぐ呼んでもらいたいですけれども、この三つです。
  49. 香川保一

    政府委員(香川保一君) 先ほど私の申し上げましたことに関連しての御質問でございますので私からお答え申し上げますが、まあ各界意見を聞く方法でございますが、おそらくその意見を聞くために別の審議会を設けるというふうなことではなくて、学界とかあるいは法曹界、あるいは関連するいろいろの、たとえば先ほど話にもありましたような民間団体等の意見も聞く必要があろうかと思います。これは格別に意見を聞く方法に相なろうかと思います。  それから関連法律の問題でございますが、これもおそらくは、まあたとえば今度の刑法全面改正の中で御承知の保安処分を取り入れるというふうなことに相なりますと、当然刑事訴訟法、監獄法に相当改正を必要といたしますので、この作業もなかなかむずかしい作業だと思うんであります。手続的な面、非常に細心の慎重な手続を設けなきゃなりません関係からむずかしい問題だと思いますので、これが刑法全面改正法案が固まる段階で同時に固まるかどうか、ちょっとこれは作業の結果の問題でございますので、いま何とも申し上げかねるわけでございます。  それから法制審議会の構成の問題でございますが、これは御指摘のように、年齢的に見ますと相当高年齢、七十前後の方が多いことはそのとおりでございますが、刑法一つ考えましても、この全面改正の、まあ最高トップクラスで御審議いただくとなりますと、現在のメンバーのようなことに結局相なるんじゃなかろうかと、やはり経験も学識も豊かな方ということから申しますと、現在のような構成のメンバーになるかと思うんでありますが、ただ高年齢であるがゆえ相当疲労しておるというお話でございますが、これははっきり申し上げまして先ほど仰せの千人に一人の部類には決して入らない方ばかりだと思います。ただ、ちょっと関連して申し上げておきたいのは、法制審議会メンバーはトップクラスの先ほど申しました相当高年齢の方々でございますけれども刑法全面改正につきましては、法制審議会の下に各それぞれの刑法の中での幾つかの関連したグループがあるわけでございます。さような問題をそれぞれふさわしい方に御専門的な知識で検討していただくというふうなことで部会を設けてございまして、部会の構成メンバーはむしろ中堅層の方が多いわけでございまして、幾つかの部会でもってそれぞれの専門分野を御検討願ってでき上がりましたのがいま法制審議会審議しておる草案でございますが、決して明治時代の方ばかりの感触で案ができておるわけではないことを付言さしていただきます。
  50. 藤田進

    藤田進君 ただ、いまの点、別の角度から言うと、委員の点ですね、これは私もかなり長期間我妻栄さんと同じ——あの人会長で審査会の委員をしてきましたがね。他界されましたけれども、それはやっぱりあれだけの方ですよ、それでもまだ八十にならない、いま聞いてみると。やっぱり何か死期を早めたような気がしますね、あれだけ苦労さしてね。そういう角度から、もう少し法務省はまるっきり別の形の死刑宣告しとるようなことをしないほうがいいでしょう。これ小野先生なんか八十三歳ですか、年だけでもいきませんが、それは官房長のようなまだ若い頭のほうが記憶力その他から見ていいように思う。それはやっぱり七十過ぎるとどうしても人間はまるくなってくるけれども、しかしがんこにはなるし、明治憲法が頭にひっついて離れぬとか、そういうなかなか融通性がなくなるのですよね。そこをやはり世間は批判していると思うです。これはあなたがいま全くそのとおりだと言うわけにはいかないぐらいのことは私も知っておりますから、そう言いながらもあなた自身感ずるところがあろうかと思うです。これはやっぱり審議官なり政務次官を含めて、適当な時期にはやはり再検討されるべきだと私は思います。その他については、どうも受けたあと作業その他の日程がきまっていないとは言いながらもかなり長期になることはこれは私もわかりますが、それにしてもやはりこの議会中には、ともかく四月一ぱいまでは一応予定されておりますから、いまのところ。四月二十九日までにはやはり議会においても、受ける立法府としても都合もあるし、また一般の世論としてもいろいろタイムリーに世論をぶっつけたいというのは当然のことですからね。五月を前にした一カ月ぐらい前の四月、今国会終了ころまでにはよく省内でも相談されて、どういう処理をするかというぐらいのことは検討をさらに深めてもらいたい。  それから佐々木委員の言われたような諸問題については、これはまだ続いてあるでしょうから、私からも十分これは、特に最近機密漏洩とか、あるいは人権問題等等が出ているときですからそれが時代に逆行するようにも思われるんですね、いまの論評を見ますと。そのようなことのないようにお願いしてもとにもどしたいと思います。
  51. 佐々木静子

    佐々木静子君 いまの法案提出の時期ですが、何か衆議院で大臣が五十年のうちに提案できるとかいうような答弁をされたとかということが報道されているんですが、そのあたりはどうなんですか。
  52. 香川保一

    政府委員(香川保一君) 前の田中大臣が一、二年で提案したいというふうにおっしゃったように記憶いたしておりますが、これはまあ法制審議会答申がございますれば、できるだけ政府としては早く成案を得て国会に提出するのが筋でございますので、法務省の努力目標と申しますか、そういうような点でおっしゃったんだというふうに理解いたしておりますけれども、まあ一年で出せということはちょっと努力目標といたしましても相当の無理があるというふうに私は感じております。
  53. 佐々木静子

    佐々木静子君 それから、いま関連法規として刑事訴訟法並びに監獄法というのを代表的に出されましたけれども、この監獄法の改正が、むろん保安処分などがどうなるかということがきまらないと最終的な結論が出ないと思いますけれども、この監獄法を改正されようというのもこれ長いこと言われていることで、私も当委員会で六回ぐらい伺っていると思いますけれども、これは法務省のほうに何回お願いしても、どういうふうに変わるのかという骨子だけでも示していただきたいということを、これも何回となくお願いしているのにまだどういうものになるのか全くわからないと、メモ程度のものしか資料がないというような御答弁というか、御返事をいただいているわけなんですが、これはいまのお話だとすると、とても五十年というようなことは私も無理だと思います。とてもなかなかそうは作業は進まぬだろうと思いますけれども、これは関連法規を整備した上でということになると、やはりこの関連法規というものが大体三角のものかまるいものかというぐらいの見当がつかなければこれはどうしようもないわけですが、そうした刑事訴訟法が大体の予想ではどういうふうに変わるのか。また、特に監獄法がどういうふうに変わる予定であるのかというようなところ辺は、法務当局とすると、あるいは私どもにある程度の輪郭をお示しになるようなことはできないんですか、どうなんですか。
  54. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) この刑法全面改正に関連いたします関連法律改正の問題でございますが、監獄法につきましては本日責任者が参っておりません。責任者である矯正局長が参っておりませんので私から何も申し上げられないわけでございますが、刑事訴訟法につきましては、これは刑事訴訟法独自に改正するということではございませんで、刑法全面改正をするにあたって必然的にと申しますか、刑法改正するから刑事訴訟法もここが改正の必要が出るというような点について関連の法改正手続をとらなければいけないといいうふうに考えておるわけでございます。非常に形式的な改正、たとえば刑事訴訟法で刑法何条を引っぱっておるというときにそれを変えるというような形式的なことももちろんございますけれども、たとえば先ほどお話の出ました保安処分等につきましては、現在は刑罰を科するための手続として刑事訴訟法というものがあるわけでございますが、一体保安処分を適用していくのにその刑罰を科する手続をそのまま使っていいのかどうか、あるいは別の手続を考えなければいけないのか、あるいは別の手続を考える場合にその内容をどういうふうにしていくのか、いろいろむずかしい問題もございますので、刑法改正と関連法律改正と一緒に国会に提出することになるかどうかはこれはまたわかりませんのでございますが、少なくとも監獄法とか刑事訴訟法について改正のめどと申しますか、方向がはっきりしない段階刑法だけを提出するということはむずかしいのではなかろうかと思っております。
  55. 佐々木静子

    佐々木静子君 その監獄法の概要ですね、それをお示しいただけないのだろうかということを言ったのですが、それは矯正局がおられないと御答弁できないということですか。官房長ではいかがですか。
  56. 香川保一

    政府委員(香川保一君) 矯正局長から御答弁申し上げることでございますが、私が聞いております限りでお答え申し上げます。  御指摘のとおり監獄法の改正はだいぶ以前から叫ばれておりまして、矯正局の中で、これは非常に結果的にはなかなか遅々として進まない現状でございますけれども、真剣に取り組んでおることは間違いないところでございます。なかなか遅々として進まぬと申し上げますのは、まことに泣き言を言うようで恐縮でございますけれども刑法のやはり全面改正を受けて監獄法の何と申しますか、主要な点がきまるわけでございまして、刑法全面改正いまだ答申をいただいていない段階でございますので、その部分がなかなかどうともきめかねるということが一つ。それから、これは刑法とは関係ない問題、将来の矯正施設のあり方としまして、佐々木委員承知のとおり、開放処遇に重点を置いた方向とやはり懲罰的な方向と二通りあるわけでございますが、大かたの現在の監獄法改正のいろいろの議論の中では、矯正に主眼を置いたいわば開放処遇といいますか、さような方向も十分取り入れたことで検討が進められているようでございますけれども、まことにその理屈は理屈といたしまして、現在の刑務所等の矯正施設のあり方の問題でございますが、町のまん中に刑務所があるというふうな状況、これをどこかへ移転しようといたしましても、なかなか移転先の御納得がいただけないというふうな、そういった理論とは別の問題が一方にございまして、さような点も踏まえて検討いたしませんと理論倒れになるおそれもございますので、さような点、非常に現在矯正当局としては施設全体のあり方、全国的な配置規模をどうするかというふうな問題、これはなかなか法務省だけではむずかしい問題でございまして、さような点もにらみながら検討いたしておりますので、まことに時間が長くかかっておる結果には相なっておりますけれども刑法全面改正答申も得られ、学界の意見を十分尊重しながら、その案が固まります段階ではそれを受けて監獄法の改正作業も進捗すると、かように考えております。
  57. 佐々木静子

    佐々木静子君 これはもう監獄というようないまの法律でないことばを使っている監獄法というものが、その刑法全面改正と相まってまたいま非常に全面的な大きな構想のもとにこれから取りかかるということであれば、何か気の遠くなるような話なんでございますが、いまそのことばかり論じておりましても前に進みませんからもとの話に返りまして、いま新聞協会が強く要望しております名誉棄損のみなし規定の問題に戻りたいと思います。  この点について鈴木審議官に伺いますが、このみなし規定削除するということは、これは削除論者のお話によると、すでにダブった規定であるからその必要がないというふうな御意見が多いように新聞によると報道されておるわけでございますけれども表現の自由というようなものは憲法上の権利として当然に少々ダブってもかまわないんじゃないか。特にこれはダブっておらないのであって、みなし規定がなくなれば、これは公共利害のために記載したものであるというふうなことが、一々報道した者が立証していかなければならないというようなことで、これは全然ダブっておらないんじゃないか、やはりみなし規定というものはどうしても残しておかなければ、報道する立場の者に立つと、いつこれで名誉棄損で訴えられるかわからないという点で、たいへんな危険負担を覚悟してかからないといけないんじゃないかということ。特にこれが強盗殺人というような事件であれば名誉棄損で訴えられることも少ないんじゃないかと思いますけれども、それでもいわゆる強盗となるのかどうかわかりませんが、三億円事件というような場合などはやはり名誉棄損の問題が若干起こりましたけれども、一般的に破廉恥罪といいますか、殺人とか強盗とかいう場合にはそういうことはあまり起こらないのじゃないかと思いますが、主として選挙違反の事件とか、あるいは汚職事件などについては、なかなか起訴というようなところまでいかないケースが多いのじゃないか。そういう場合にこれはうっかり新聞報道することができない。このみなし規定削除するとあと名誉棄損でやられるかわからないというような可能性がたいへん多くなって、事実上この報道の自由を非常に侵害するおそれがあるのではないかということを私どもは懸念しますし、新聞協会もその点をたいへんに懸念しておられるわけですけれども、その点について、今後この法文化につきまして、おそらく鈴木審議官御担当になると思うのですけれども、お考えを述べていただきたいと思うわけです。   〔委員長退席、理事棚辺四郎君着席〕
  58. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 法制審議会、特に一昨日の総会でもそうでございましたけれども、刑事法特別部会におきましても、現行法の二百三十条ノ二の第二項のみなし規定は、第一項の原則規定とほとんどダブってしまっておって、それ自体特別の意味がないというのが一番大きな理由で、整理するという考え方が強かったわけでございます。先ほど刑事局長からも申し上げましたけれども改正草案のほうで見ていただきまして、第二百十四条の第一項すなわち事実の証明規定三つの要件があるわけでございます。一つは、名誉棄損になるような事実、それが公共利害に関する事実にかかる、すなわち文書で申しますと、名誉棄損文書に書いたことの内容が、これは公益に関係があるということが一つでございます。それからその次に、そういう文書を出した者がもっぱら公益をはかるためにそういう文書を出したのだということが二つ目でございます。それから三番目は、その文書の内容真実に合する。   〔理事棚辺四郎君退席、委員長着席〕 こういうことでございますが、現行法の第二百三十条ノ二の第二項にございますみなし規定は、犯罪行為に関する事実は公益に関係のある事実だと、こういうようにみなしておるわけでございまして、一体どういう目的でそういう事実を公表したかというようなことは、この第二項ではみなされていないわけでございます。すなわち起訴前の犯罪事実を公表いたします場合には、犯罪事実が公益に関係があるという点だけの推定が働くわけでございます。したがいまして、あとの二つの要件、すなわち行為者がそういうものは公益のためにやったんだということはまた別に立証しなきゃいかぬわけでございます。それから真実であるということの立証も別に要るわけでございまして、まあこの刑事法特別部会及び一昨日の法制審議会におきましては、起訴前の犯罪事実というものが公益に関係のある事実だというようなことはみなし規定を設けるまでもなくはっきりしておるじゃないかということが議論されたわけでございます。
  59. 佐々木静子

    佐々木静子君 いや、その経過説明よりも、今後この問題と取り組まれるときに、そういう声についてどのような——審議官一人でおきめになるわけじゃないと思いますけれども、姿勢で取り組んでいきたいとお思いになっているかということを伺っておるわけです、経過については大体新聞で全部報道されておりますから。
  60. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) この点は、必ずしもこの問題だけに限りたわけではございませんが、先ほど来政務次官刑事局長、官房長等からお答えいたしておりますように、この案の内容については、あるいはこの審議のやり方についてもいろいろ御意見があるわけでございまして、そういうものは十分に考慮した上で検討が行なわれることになろうと思われます。
  61. 佐々木静子

    佐々木静子君 ということは、みなし規定削除すべきでないという意見がたとえ法制審議会では少数意見であったところで、法務当局とすると、やはりそのみなし規定削除しないという方向に進むという可能性を大いに考えられるということでございますね。
  62. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 大いにかどうかは別といたしまして、この法制審議会結論に拘束されるわけでございませんので、いろいろな点を考慮して政府としての態度がきめられる、こういうことでございます。
  63. 佐々木静子

    佐々木静子君 あまり遠慮なさらずに、大いに考えていただきたいと思うわけなんですけれども、まあその点十分にお考えいただけるということをお約束していただけるわけですね。
  64. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) さようでございます。
  65. 佐々木静子

    佐々木静子君 時間がだいぶたってしまいましたので、信用及び業務に関する罪の個所で、今度の改正で、いままで医師、薬剤師、薬種商、弁護士、弁護人及び公証人というふうに限定しておった、この職種を限って秘密の漏示を禁じておったのが、今度は非常に幅が広くなって、しかもその補助者などもその対象改正される案が出ておりますけれども、そのあたり非常に構成要件がばく然としておって、どんなにでも拡大解釈できるんじゃないかという危険が感ぜられるわけですけれども、これなどは、むしろそれぞれの、たとえば医師法とか、あるいはそれぞれの職種についての、薬剤師法とか、そういうふうな職種についての特別法で秘密漏示に対して罰則を設けることによって十分じゃないかというふうに感ずるのですが、そのあたりはどうなんでしょうか。
  66. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 御承知のように、現行法は百三十四条におきまして、医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁護人、公証人、あるいはまあこれらの職にあった者について特別の秘密を漏洩する罪を規定しておるわけでございますが、このほか現在の法律の中にはいろんな職業につきまして、それぞれ、ここに、刑法に書いてございませんような職業のうちで秘密を守ることが特に重要だというふうに考えられるものにつきましては、別に法律でその職だけについて規定しておる例がかなりあるわけでございます。で、たとえば公認会計士などにつきましては、公認会計士法の中に秘密を漏らす罪というものが書いてあるわけでございます。で、この点もまだ法制審議会審議されておる段階のものでございますけれども、刑事法特別部会におきましてこの条文審議いたします際には、どういう形で書いたらいいのか。たとえば公認会計士というような場合につきましては、これはもう社会的に非常に重要な仕事をなさっていらっしゃるわけで、そういう人が秘密を漏らすというような場合について、それはもう刑法ではなくて特別法に書いておいていいのか、あるいは先ほどちょっと読みましたけれども、薬剤師、薬種商、産婆、これらと比較して、どちらがどうということはございませんけれども、こういうものをこちらに、刑法に書いておくならば、やはり公認会計士とか、あるいは税理士とか、そういう人たちについても刑法に書いておかないとたいへんバランスがとれないというような問題もありまして、そういうものを書くかどうか。しかし、あまりたくさんここに並べますとまた問題が出ること等もございまして、この刑事法特別部会ではある程度包括的に、しかし、医療業務法律業務、会計業務その他のあとに、依頼者との信頼関係に基づいて人の秘密を知ることとなる業務ということで、現行法に比べますと、何々士、何々師ということは言っておりませんけれども、これで要件ははっきりするという考え方でこういう案ができたわけでございます。
  67. 佐々木静子

    佐々木静子君 その点も、いま公認会計士のことなどおっしゃいましたが、刑法というものはそうこれたびたび変わるものではないわけで、刑法ができた明治の、何年でございますか、——四十年ですか、には、まだそういう職業は日本にはなかったわけでございますので、いま、薬種商などは、現在秘密を守るというようなことについてそれほど重要なポイントを占めておらないんじゃないかというように考えるんですけれども、そういうふうに時代の移り変わりというものを考えた場合に、いまの時点で重要な職業だというようなことで例示するということは、かえって刑法というものが非常に基本法であるだけにまたあとで問題を生ずるんじゃないか。むしろ、各業種についてそれぞれの、それに対する罰則さえこの法律で設けておけばいいんじゃないかというふうに私も思いますし、またそういう意見もかなりあるのじゃないかというふうに聞いておりますので、その点も慎重に御配慮をいただいたらけっこうじゃないかと思っております。  次に、企業秘密の漏示罪についてお尋ねしたいんですが、前に、当委員会で私は、小委員会結論が出たときだったと思いますがお尋ねしたんですが、これはやはり安原刑事局長から、企業秘密については今日の経済界の状況にかんがみまして機密漏示罪を処罰する規定を置くべきだというふうに御答弁になっておるわけなんでございますけれども、実は私どもの感覚から見ますと、これは全く逆な話じゃないか。今日の事情から見て、こういう企業を一方的に国家権力で国民の目から、国民の批判からかばおうというような、こういうふうな企業秘密示罪というようなものは、今日の経済情勢から見てもますますこれは置くのはおかしいんじゃないかというふうに思うわけなんです。そこら辺、おそらくこれは刑法というものがいま私が申し上げたように、非常に基本的な法律で、そう再々変えるわけにはいかないわけですから、私は必ずしもいまの日本の時点に全部焦点を合わせて刑法をきめなくちゃいけないというふうには思っておりませんけれども、少なくとも国民が企業のあり方というようなことについて知るというのは、これは外部から知るということも多少はあり得るかもしれませんが、ほとんどこれは内部から知るというのが普通でありまして、もし企業の内部にある者からこの企業の実態なり企業の秘密というようなものを漏らすということが、これが刑法上の犯罪になってくるということになると、これはたいへんにおそろしい事態が生ずるんじゃないか。これはまた今度の刑法改正一つの大きな流れとして、国家法益というものが現行刑法よりも非常に大きなウエートを持たれて考えられていること自身、大いに批判しなければならないと思うのですけれども、国家というならばまだともかく、企業を、国家権力でこの企業秘密というものを国民の目からおおうというような、こういうふうな規定というものはこれ全く時代に逆行していると思うのです。審議官、その点どういうふうにお考えになりますか。
  68. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 私の意見というものは、別に先ほども申しましたように、法務省の一員でございますので法務省意見しか述べられないわけでございますので、たいへん恐縮でございますけれども、この法制審議会でどういう議論が行なわれたかということをもってかえさしていただきたいと思うわけでございますが、この企業秘密の漏示罪というような犯罪を新たに設けることにつきましては、現在の企業の中でこういう技術上の秘密が非常に重要な地位を占めておる、これを開発するのに相当な、何と申しますか、研究等を重ねてでき上がっておる、それに相当な財産的価値があるというものでございますし、それから数年来でございますが、数件こういうのを企業の職員が外部へ売ったというような事件もございました。そういうような状況を見ると、こういう企業の生産方法等に関する秘密については、企業内部の者が——外部から中をうかがいに来るのは別でございますが、少なくとも内部の者がそういうものを外へ出すということについては処罰の必要があるのではないかということが議論になったわけでございます。そういうことで、企業秘密すなわち企業の生産方法その他の技術上の秘密というものにつきましては、新たに処罰規定を設けるのが適当であるということになったわけでございます。で、先ほどちょっとお話がございましたように、企業の秘密を外へ出す必要がある場合ももちろんこれはあるわけでございまして、そういう場合につきましては、これは一昨日も法制審議会で御検討あったわけでございますが、三百二十二条は正当な理由がないのにということが要件になっておりまして、企業の秘密を外へ出すことが社会的に見て正当な行為であるというふうに見られる場合につきましては、三百二十二条の規定適用にならないことになっておるわけでございます。
  69. 佐々木静子

    佐々木静子君 これ、いま正当な理由ということをおっしゃいましたが、その正当な理由というものがまた非常にばく然としたことでございまして、しかもこれは現実の問題とすると第一線の警察官の判断にゆだねられるということになると思うわけです。そういう点において、この「正当な理由」ということが書いてあるから心配要らないのだということを言われても、これはもうなかなか心配せずにはおれないというのが実情ではないかと思うのです。ですから、正当な理由という概念自身が非常に定義があいまいであると思うと同時に、これはこういう規定でなくたって正当な理由があればかまわないのがあたりまえなことなんですから、これが、正当な理由というものがゆるやかに解釈されるという、大きく解釈されるという懸念は、私、現実に捜査官の判断にゆだねられている以上、なかなかこれは期待できないのじゃないか。そういう意味において、まずこの規定はあってもなくてもというようなことになってくるのじゃないかと思うわけです。それからいま最初に、こういう企業の秘密と申しますか、一つの企業の技術開発というような事柄について、長い間の年月と費用をかけてでき上がったものを漏らされては困るというその意味はわかりますけれども、そのためにはいろいろな法律がもうすでにちゃんと用意されているのであって、たとえば、そのように開発された技術というものは、特許法によって保護されているわけですから、別にこのような規定を設けなくても、特許権の侵害によって、これはどうとでも手を打つことができるわけですし、またいままでの刑事事件などにおきましても、窃盗とか、業務上横領とか、あるいは臓物故買とか、あるいは背任とか、あるいは資料のとり方によっては、詐欺とか、住居侵入とかいうようなことにでも十分に処罰できるのじゃないかと思うわけですが、いまこの企業の秘密を漏示した事件というのは年間どのくらいあるのですか。非常にふえているというふうに法務省のほうのいただいた資料では書いてあるのですけれども、はたしていまは大体そういうふうなことで全部まかなわれているのじゃないかと思うわけですが、非常にふえているとおっしゃるけれども、いわゆる産業スパイ的な事件というものは、判例集を見ると、ほんとうにもう同じ判例ばかり出てきて、ほかの判例は全然出てこないわけですが、ほんとうにおっしゃるようにたくさんあるのですか、年間に何件ぐらいあるわけですか。
  70. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 現実の刑事事件として、この産業スパイと申しますか、あるいは企業秘密を内部の人が外へ漏らすという行為がどのくらいあるのかという統計はとっておりませんけれども、現実の刑事事件になっておる数は現在のところそんなに多くないというふうに考えております。
  71. 佐々木静子

    佐々木静子君 それではちっともふえていないのじゃないですか。これはおそらくいまも申し上げたように、それほど財産的価値のあるようなものであれば、企業は特許権をとっているのがあたりまえだし、かりにノーハウということになっているとすれば、それは企業が怠慢で、あるいは自分のほうの技術を公開したくないために特許権をとらないだけのことですから、これはあえて特許権をとらない、自分のほうの開拓した技術を社会的に役立たせようとしないで、自分たちが隠しておこうという企業がそれだけの不利益を受けるのはこれはあたりまえのことであって、いずれにしましてもいまの法律で十分まかなえると。また、いま伺っても数は非常に少ないということですから、そうすると法務省のほうで、この企業秘密を漏らすというようなことがたいへんに年々多くなってきて、こういうふうな時代に即応するように、こういう罪を新たに設けなければならない、——これは草案段階では、準備会の段階でも、この問題は全然出ていなかったと思うのですけれども、突如として出てきた。これは私もこの資料を読ましていただくと、財界からの強い要望で出されたということが出ているわけでございますが、法務省が財界の要望でこういうものをちょこちょこ出すようじゃこれは国民としたら全く迷惑な話であって、何ゆえにこういうものをお出しになるのか、財界のための法務省なのかと、これは思わざるを得ないわけなんですけれども、大体この企業秘密というものが、ほんとうに保護するだけの価値があるのかどうか、いまもおっしゃらたように、特許法などで登録さえしておけば、もう当然にいまの法律で保護されるわけなんですが、あえて登録しない企業秘密まで保護する価値が、どうしても人を処罰してまで保護しなければならない法益がそれほどあるのかどうか、そのあたりはどのように法務省とすると今後考えていきたいとお思いでございますか。
  72. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 先ほど来と同じでございますが、法務省としてどうかという御質問に対してはたいへん答えにくいわけでございますが、特許法との関係につきましては、これは刑事法特別部会におきましても、それから一昨日の法制審議会総会におきましても、相当突っ込んだ議論が行なわれたわけでございまして、この特許になりますものについては、もちろん特許法上の保護ということも可能でございますけれども、この特許になじまないような何と申しますか、生産工程上の秘密、生産工程上のやり方というものもずいぶんあるわけでございますし、それからもう一つは、特許を申請いたします場合は、何と申しますか、発明が完成いたしまして、それについて特許を出願すると、こういうことになるわけでございますが、現状、実際のこの特許等になるものの開発の現状を見てみますと、研究所等において何年も研究に研究を重ねてその上でできたものを、さて特許にするかどうかというようなことが検討される場合が多いようでございまして、そういうまだ特許を取れる段階まで至らないような技術上の秘密というものも十分考えられるんじゃないかということが議論されたわけでございます。
  73. 佐々木静子

    佐々木静子君 そうしますと、鈴木審議官とすると、法制審議会における討論の中で、企業秘密示罪を設けようというお立場の方の考え方とすると、企業秘密保護の法的根拠としまして、これは財産権説をとっている方がほとんどなんですか、どのように考えている議論が多いわけですか。
  74. 鈴木義男

    説明員鈴木義男君) 財産権説というはっきりした形で議論はされなかったように思いますけれども、要するに、こういうようにして企業の開発した技術上の秘密というものは財産上の価値が非常に高いのでそれを保護する必要がある、こういう意見であったわけでございます。
  75. 佐々木静子

    佐々木静子君 これは申し上げるまでもなく、これからの公害問題などについての摘発なり、あるいは住民運動などについてもやはりその企業の内部的な問題というものはある程度知らされなければ、これはわれわれの生活権というもの、あるいは環境権というようなものが全く保障されない状態になる。ところが、この刑法全文見ましても、全部見ましても、いまの新しい理念として生まれてきている生活権とか環境権とかというものに対する考え方とか配慮というふうなものが全く出てこないわけでございまして、そこら辺が非常に片手落ちじゃないか、この企業秘密示罪などにそれがはっきりと出てきていると思うわけなんです。  それと、また特にここにつとめている従業員にこの企業秘密というものが課せられているわけですが、これは退職者にも転職者にも課せられるというふうなことから、これは労働者の転退職の自由を奪う結果になるんじゃないか。ここで体得したところの、これが自分自身の個人的に体得した技術であるか、あるいはそこの企業から得たものであるかという区別というものが非常にむずかしいんじゃないかと思うわけでございますので、これは終身雇用制が普通であった時代ならばともかく、これから先一定の期間つとめた経歴を生かしてまた他のところへ転職しようというふうな時代に変わりつつあるときに、その転退職者にこの企業の秘密示罪というものを科するというようなことは、これは職業選択の自由を奪うことはあまりにも明白であると思うわけなんです。この条文を拝見しましても、従業員と申しますか、この定義自身が、秘密とは何か、企業秘密とは何か、あるいはこの企業秘密示罪対象となるのがだれであるか、そのあたり非常にあいまいとしておりまして、拡大解釈しようと思えば幾らでも解釈できるわけでございます。そういう点でもたいへん危険だと思うわけですが、特にこれも新聞協会から出されております。この企業のあるいは欠陥商品のことを取り上げようと思っても、これを企業の中からだれかに聞く、だれかから取材するとなるとこれは共犯罪になるんじゃないか。そういうことで常に報道するについて、いつ刑罰を科せられるかわからないという危険を課せられるということで全く正しい報道ができない。結局これはこの規定ができることによって大企業が大きなベールの中に包まれてしまって、国民にこれを知らせることができなくなる。国民の側から見れば、これを知る権利というものが全く奪われてしまうというたいへんおそろしい規定だというふうに私も感じているわけでございますけれども、そのあたり十分に今後御検討して立法作業を進めていただけるかどうか。これは次官あるいは官房長にも御答弁いただきたいと思います。
  76. 高橋文五郎

    政府委員高橋文五郎君) 明確な答弁でないかもしれませんが、御趣旨のことはよく拝聴いたしましたので十分に尊重する意味で検討いたします。
  77. 佐々木静子

    佐々木静子君 尊重していただけるのはありがたいのですが、何かきょうの質問全部から受けました印象としますと、これ事務当局大臣と何かみんなばらばらのような感じがするわけでございまして、この間の田中——前の法務大臣刑法改正案の提出時期などについても何かだいぶおっしゃっていることが食い違ってきているというよようなことで、やはりこれは重大な問題でございますから、直接御担当の方じゃなくても、もう少しこの問題は、これだけ大きな国民世論の起こっている問題ですから、法務省とするともっと真剣に取り組んでいただきたいと私は思うわけなんです。その点についてもう一度政務次官から御答弁いただきたいと思います。
  78. 高橋文五郎

    政府委員高橋文五郎君) ただいま佐々木委員お話しのような向きもありますけれども、さらにまた複雑な事情もあると思うのであります。したがいまして、御趣旨の点は十分に承りましたので、それを尊重してまいりたいと思います。
  79. 佐々木静子

    佐々木静子君 それではこれは非常に重大な問題でございますし、まだ総会の、法制審議会の全部の結論も出ておりませんので、また次の委員会において逐次質問さしていただくということで本日の質問を終わりたいと思います。
  80. 原田立

    委員長原田立君) 本日の調査はこの程度にとどめます。  本日はこれにて散会いたします。    午後二時四十八分散会      —————・—————