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1974-04-02 第72回国会 衆議院 法務委員会 第23号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年四月二日(火曜日)     午前十時十三分開議  出席委員    委員長 小平 久雄君    理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君    理事 谷川 和穗君 理事 羽田野忠文君    理事 稲葉 誠一君 理事 横山 利秋君    理事 青柳 盛雄君       井出一太郎君    塩谷 一夫君       保岡 興治君  早稻田柳右エ門君       日野 吉夫君    正森 成二君       沖本 泰幸君  出席国務大臣         法 務 大 臣 中村 梅吉君  出席政府委員         法務大臣官房長 香川 保一君         法務大臣官房司         法法制調査部長 勝見 嘉美君         法務省民事局長 川島 一郎君         法務省保護局長 古川健次郎君  委員外出席者         法務省人権擁護         局総務課長   森   保君         最高裁判所事務         総局民事局長  西村 宏一君         最高裁判所事務         総局家庭局長  裾分 一立君         法務委員会調査         室長      松本 卓矣君     ————————————— 本日の会議に付した案件  民事調停法及び家事審判法の一部を改正する法  律案内閣提出第一八号)      ————◇—————
  2. 小平久雄

    小平委員長 これより会議を開きます。  内閣提出民事調停法及び家事審判法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。横山利秋君。
  3. 横山利秋

    横山委員 長年の調停法改正にあたりまして、これを担当する調停委員、そしてまたその組織であります日本調停協会連合会について、まず現状を把握したいと思うのであります。  私の承知するところでは、日本調停協会連合会は——現在調停委員に対する日当は千三百円ですか、その千三百円の一割、百三十円を単位協会へ出して、それがそれぞれの地域の連合会へ、そしてまたその一部が日本調停協会連合会に上納され、それによって収入をはかっておると聞いております。一体日本調停協会連合会年間予算はどのくらいであり、事務員はどのくらいであり、支出はどういうところに向けられておるか、まず伺いたいと思います。
  4. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 日本調停協会連合会の総予算は年約二千万円というふうに伺っております。事務員の数はたしか三人ではなかったかと思います。あるいは四人であったかもしれません。ちょっと正確に把握いたしておりません。
  5. 横山利秋

    横山委員 その二千万円というものは、私の承知しておるように千三百円の日当の一割を協会に充て、それが上納されて二千万円になるのですか。
  6. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 日本調停協会連合会は、各地家裁調停協会分担金という形でもって納入をお願いしておるようでございますが、その分担金の額及び割合につきましては各調停協会ごとにまちまちのようでございまして、横山委員仰せのとおり主として各調停委員日当の中から何%かをさいて各調停協会に納め、また調停協会がその一部を連合会のほうへ納めるということであることには変わりはございませんけれども、一〇%であったかどうかということは、各調停協会ごとに違うようでございますので、正確なところは存じておりません。そのほかに日本調停協会連合会としての基金が二百万円ございますので、その利息等収入の一部になっているだろうと思います。(横山委員「二百万円」と呼ぶ)二百万円でございます。財団法人基金として二百万円でございます。そのほかに、調停委員方々研修用の教材としての出版物等を刊行しておられますので、その売り上げも多少はあるのではないかというふうに考えられます。
  7. 横山利秋

    横山委員 政府日本調停協会連合会に対してどういう援助をしていますか。その財政的あるいはそのほかの援助方法について説明を願いたい。
  8. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 日本調停協会連合会財団法人として設立されましてから、一時国から補助金というものが出されておったわけでございますが、昭和三十八年か九年ごろに、政府補助金整理の政策の一環といたしまして、補助金はすべて打ち切りになったわけでございますが、その補助金に当たる額の一部は、現在口調連調停相談委託費として交付されております。(横山委員「幾ら」と呼ぶ)七十万余であったと思います。それ以外のものは、各地家裁で行なわれます調停委員研修会講習会あるいは高裁管内で行なわれます調停委員協議会等旅費という形で裁判所予算の中に組み込まれたことになっております。
  9. 横山利秋

    横山委員 聞くならく、最高裁判所並びに地方裁判所が、調停委員に対する処遇について、直接支出でなくて間接支出において日本調停協会連合会に対して援助をしておるという話だそうであります。そういうことが一体妥当な方法であるかどうかという点について私は疑問を感ぜざるを得ないのでありますが、一体政府は、日本調停協会連合会の将来というものを自主自立方向でやらせようとするのか、それとも買い殺しのようなやり方最高裁めんどうを見ようとするのか。買い殺しというとたいへんことばが悪いのでありますけれども、結局、最高裁が適当に旅費も出してやる、あれもやってやる、名目上の自主予算は組まなくとも、おれのほうで適当にやってやるというようなやり方に一体今後もいくのか。日本調停協会連合会、今回の法律改正によって長年ついた調停委員のあるべき姿を根本的に一ぺん立て直そうとするのでありますが、その調停委員の自主的な、一応自主的な組織となっておる日本調停協会連合会が将来いかにあるべきかという構図がどうもないようだ。そして従来ともに補助金はやりません、あなた方が一%とか二%出してそれでやりなさいということでいいものかどうか。その点について、調停連合会に対する今後の政府方針基本原則というものが従来ともに変わりはないのか、それでいいのかどうかという点についてはっきりした見解を聞きたいと思います。
  10. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 現在、日本調停協会連合会のほうでも日調連あり方ということについて検討をされておられるようでございます。裁判所といたしましては、調停委員方々が何をお考えになっておられるかということを基本線といたしまして、できる限り自主独立機関として成長されていくことを望むべきではないかと現段階では考えております。
  11. 横山利秋

    横山委員 そんな人ごとみたいなような言い方では納得できませんよ。少なくとも私どもはこの調停法案について若干の疑義なしとしない。若干どころではなく、各質問者意見をいろいろ聞いてみますと、各党ともに異議がある、こう言っている。しかし政府はこの法案の重大な意義というものをしばしば力説をされる。そうだとするならば、調停委員の基本的な自主組織である日本調停協会連合会が将来どの方向に行くのか。あなたはいま簡単に自主独立自主組織だ、自立組織だとおっしゃったならば、その自主組織自主組織らしくいくためにはどうあればいいのかという点について政府構図というものがなくてはならぬと私は思うのです。調停連合会がかってにおきめになることでありますから政府は関知いたしませんということも一つ方針だと思いますよ。思いますけれども、この法律改正政府の発議であり、そして調停委員の諸君に今後大きく望むとするならば、その自主組織ほんとうに自主的にあるべき姿になるようにするための政府考えというものはもう少し明白でなければ、これは画竜点睛を欠くというものです。いまお考えがまとまっていなければいないように、一ぺん相談をして、この連合会のあるべき構図についてひとつ何かなくてはおかしいと思うのです。
  12. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 先ほど申し上げましたように、日調連自身も現在非常に大きな転換期にあるものと考えられまして、旦調連自主独立の基盤をつくるということで努力をされておられるというふうに私ども伺っておるわけでございます。最高裁判所といたしましても、日調連独立機関ではございますけれども調停委員方々に担当していただく事務調停事務でございまして、裁判所事務として密接な関係にあるわけでございますので、その円満な発展にできる限り協力を申し上げていきたい、そういうふうに考えております。
  13. 横山利秋

    横山委員 わからぬですね。日調連自主独立組織である、しかし調停委員仕事裁判所機能一つである、そこのところに矛盾があるのです。私は矛盾を承知して聞いておるのです。いま私の感ずるところを言いますと、日本調停協会連合会というものは、予算的にはまるっきり機能がないとぼくは見ている。そして実は最高裁判所連合会の総会を開くにしたところで、まああらゆる努力をして自分たち間接費用といいますか、そういうものでめんどうを見ているのが実態じゃないか。決して日調連自主自立をしていないと私は思う。こんなことなら、何もていさいのいいことを言わずに、日調連はひとつ最高裁判所のやや下部機構的なものにして、予算補助金もしっかりこの際出してそしてやったほうがいいくらいに思っている。けれども、あなたていさいよく自主自立を応援したいというならば、どういうふうに自主自立をさせるのか。別にあなたいま頭の中にこういうふうにしたいということはないのでしょう。そこはいままでどおりならそれもいいけれども調停委員の新しい体制を整えるにしたならば、当然日本調停協会連合会の新しき出発というものがなくてはならぬと私は思っている。その新しき出発について、ありきたりのていさいのいいことを言って自主自立といったって、どういうふうに自主自立ができるのですか。何もないじゃありませんか。
  14. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 日本調停協会連合会財団法人としてその設立目的を、調停制度の研究、普及、宣伝活動ということに置いているわけでございますから、そういう活動の領域におきましては日調連自主独立活動裁判所としてはいわば背後からあたたかく見守るということでございますが、個々調停委員方々が関与される事務に関しましては、これは裁判所事務でございますので、調停委員適格性を高める意味における調停委員研修協議会等につきましては、裁判所としては全面的におぜん立てをすべき責任があるものと考えております。そういう形で調停協会と、あるいは調停委員裁判所関係というのは結びついていくのではないかというふうに考えております。
  15. 横山利秋

    横山委員 わかりませんな。何かあなたは用意がないようだと思います。答えに別に、突然の質問でまあ一応ありきたりの答えをなさっているような気がしてならぬわけでありますが、私はこの法律通過するといなとにかかわらず現在の日本調停協会連合会あり方にも満足しておりませんが、少なくともこの法律がかり通過をした場合後における日本調停協会連合会のあるべき姿というものは格段進歩がなければならぬ。その格段進歩ということが、あなたのおっしゃるようにもし自主自立であるとするならば、財政的にまず自主自立をしなければならぬ。私はいまの予算で、あなたも予算調停協会連合会事務員が何人おるかまであまり御存じないようでありますが、こんなことで自主自立ができるはずがない。しかも私は、先ほども言っているように、総会一つ開くについても銭はありゃせぬ。だから間接的にあなたのほうがめんどうを見ているというふうに私は聞いておる。そしてもう最高裁首脳部が至れり尽くせりのごあいさつをなさる。それは自分の傘下の団体でありますからともあれ、そういうふうに聞いておる。そんなところにあまり自主自立はないと思う。ここのところはほんとう自主自立をさせるというならば、はっきりした財政支出、はっきりした自主運営、こういうものがかりに限定的な問題であろうとも進歩的な新しい装いをこらして自主自立にいくようにさせなければならぬと思う。いまのあなたの御答弁では私はたいへん不満でありまして、この法案の成立と密接不可分にあります調停委員の将来、その組織の将来についてひとつ御検討を十分願わなければならぬと思います。もしできますれば一ぺん関係者よく御相談の上、あらためて見解があれば伺いたいと思う。  それから、この法律通過をいたしますと、聞くところによりますと、十月ごろ施行だというんですが、現在の調停委員はとにかく全部一ぺんおやめ願うことになるわけですね。
  16. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 この法律が成立いたしますと、九月末日をもちまして現在の調停委員候補者候補者たる身分を全部喪失することになります。
  17. 横山利秋

    横山委員 私は、少ない接触ではありますが、調停委員方々にお会いをいたしました。まあ少しことばが過ぎるかもしれませんが、調停委員で、実際活躍をしておる人と、それから実際はあまり活躍していない人、しかも実際は活躍していないけれども調停委員の中で重要な地位にある人、それから全然活躍していない人、そういうジャンルに分けられると思うのであります。実際活躍している人は、仕事のウエートが非常にかたまっておって、年がら年じゅうという人である。それから、実際そんなに活躍していないけれども、会合その他においてはまん中にすわる人がある。一番問題になるのはまん中にすわる人なんであります。実際は活躍していないけれども、従来の経験とか社会的地位から、自分がもう時代を失っているにもかかわらずまん中にすわっていらっしゃる。そういう人は思い切ってやめてもらわなきゃいかぬ。そのことがほんとうに一体できるんだろうかどうかということについて率直に言って疑問を感ずるわけであります。活躍もしない、まあおれはこの際やめてもいいという人があるならばともかく、私の感ずるところにおいてはみんな継続をしたいと思っている。非常勤公務員になる、そうして新しい装いをこらして名刺調停委員と書く、そうして長年やっておれば今度はほうびがもらえる、勲章がもらえるという意識が、失礼な話でありますが、一部の人には底流にかなり根強く存在しておる、こういう感じがしてならぬのであります。そういうようなことに対して、この際、一刀両断ということをほんとうにおやりになりますか、どうです。
  18. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 ただいま横山委員指摘されました現象がないとは私ども否定できないわけでございますし、またまさしくその点が現在の候補者制度弊害として指摘されたところでもございます。そういう弊害を打破するために今度の改正をお願いいたしているわけでございますので、いかなる名士でございましても調停委員として全く御活躍にならないような方々にはこの際お引き取りを願うということを大方針として定めておるわけでございます。
  19. 横山利秋

    横山委員 その調停委員を、今度首を切られるというかおやめを願う人を従来、私はよく知りませんが、聞くところによりますと参与員にされる傾向があるようですが、そうですか。
  20. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 ただいまの横山先生の御質問でございますが、家庭裁判所関係では家事調停委員をおつとめの方で、やめられる方を参与員にするというような傾向があるということは私存じておりませんが、参与員調停委員を兼ねておられる方がかなりの数あるというのが現状でございます。
  21. 横山利秋

    横山委員 そんなくつの裏から足をかくような答弁やめてもらいたいと思う。私が言っていることはあなたもおわかりでものを言っていらっしゃると思うのです。調停委員やめて、長らく御苦労さまでした、今度はあなたは参与員になってちょうだい。そして、参与員というのは一体何をするのですか。実際問題として参与員活躍をしておるのですか。参与員というものは、まあ今度おやめを願うのだからひとつ参与員になっていただけば、参与員としての名誉、地位勲章、そういうものが継続されるのですからということが暗々裏にあるのじゃないか。一体参与員ほんとう活躍をしているのですか。また実態論として、調停委員やめあと参与員処遇をする、そういう傾向ほんとうにないとあなたはおっしゃるのですか。もしそういう実態をあなたが御存じなければ御存じないでいいのですが、ひとつはっきりした実情認識についての御答弁をいただきたい。
  22. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 御質問でございますが、参与員の方は現在全国で五千八百三十三名おられまして、大体参与員さんが御活躍になるのは、審判事件について家庭裁判所から意見を聞かれたことに対して意見を述べるというふうなお仕事をなさるわけでございますが、家庭裁判所年間約一万件以上そういう事案があるというふうに承知しております。
  23. 横山利秋

    横山委員 五千人おって一万件というと、年間に一人の参与員が二回意見を聞かれる、平均でいいますとそういうことですね。参与員意見を聞かなければならぬということではもちろんない。五千人の人が年間に二回だけ意見を聞かれるほど参与員というものはあまり仕事がないということもぼくは言い得ると思うのです。参与員がどうしてもいなければならないという積極的な理由が一体あるのであるかどうか。あなたの統計が、もう聞かなければどうしても仕事がやっていけなかったというような積極的な事由がほんとうにあったのだろうかどうか、参与員というものがほんとうに必要なのかどうか、私は疑問を感ずる。何か調停委員あと処遇のような感じがしてならぬのであります。どうなんですか。やめたらどうなるのですか。
  24. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 家庭裁判所家事事件で取り扱っておりますのは、審判事件調停事件でございまして、審判事件参与員意見を述べるということで家事審判官がその当該事件についての判断をなすのに民意を反映するということで非常に重要な職責をお持ちだと私は思うのでございます。審判事件民意を反映する一つ民衆参加というような大きな意義を持っておるというふうに考えておるわけでございます。
  25. 横山利秋

    横山委員 どうも奥歯に何か突っかかったような御答弁であります。あなたの言うような重要な役職であるならば、五千人おって年間一万件ということがあり得ないではありませんか。一体家事審判審判をした件数年間何件くらいありますか。
  26. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 家庭裁判所審判事件には甲類事件乙類事件という二つの種類の事件がございますが、その両方合わせまして年間約二十万件ということになっております。
  27. 横山利秋

    横山委員 二十万件ある中で、参与員意見を聞いたのが一万件、参与員の数は五千人、どこか矛盾がありはしませんか。もうそれは有名無実になっておるという証拠ではありませんか。もしも参与員というものが必要欠くべからざるものであるとするならば、そんな五千人で一万件しか意見を聞かなかったということがおかしいんであります。もし参与員が、この意見を聞かなければならないということにするならば、五千人の効用も大いに意義がある。それは裁判官自由裁量だとするならば、全くこれは有名無実ということになりやしませんか。参与員あり方について再検討を加える必要がありやしませんか。
  28. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 ただいま横山先生指摘のように、参与員を活用する例が全体の件数に比較しまして非常に少ないという御指摘は、そのとおりのように私も思います。参与員さんを利用するということにつきましては、家庭裁判所家事審判官裁量によっておりますので、その結果がこういうふうな、先ほど申し上げましたような数字になってあらわれているんであろうと思います。  なお、ついでに申し上げますと、参与員さんも法文の上では結局参与員候補者ということで組み立てられておりまして、事件について御意見を伺う場合に指定して初めて参与員資格を取る、こういうふうなことになっておる次第でございます。
  29. 横山利秋

    横山委員 どうもあなたの答弁説明であって、私の意見、将来どうするかという点について何のお答えもなさらないことばかりなんですが、私はいま言っているように、それならば参与員というのは実態論として有名無実になっているんではないか。そしてしかも、調停委員をおやめになった人に名誉職としての処遇的な感覚がいまあるのではないか。もしどうしても参与員が設立された趣旨がその裁判官民意を聞くということであるならば、もっと活用すべきではないかと右から左からあなたに御質問しておるんだが、説明だけ承っておるんであります。どうするんですか。
  30. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 いまの御質問でございますが、確かに参与員の現在の制度は、将来検討すべき問題であろうというふうに私も考えております。
  31. 横山利秋

    横山委員 これも調停協会連合会と同様に満足すべき答弁ではありません。ですから、この点についても、いまあなたが自分自身だけで判断ができないとするならば、問題があるとおっしゃっただけで、将来どうするかという点について関係者相談の上、ひとつあらためて御答弁を願いたい。  それから、この法案についての認識調停委員皆さん個々にいろいろ聞いてみました。この法案について、実際に活躍をされておる、年がら年じゅう調停委員としてやっておられる人の感触を聞きますと、私は銭金でやっているわけではありません、こう言うんです。私はこの調停委員仕事について、調停委員としての社会的な意義を十分考えて誠心誠意やっております、何が一体私が銭がほしいと思いますか、何が一体非常勤公務員たる資格が私はほしいと思いますか、そんなつもりでやっているのじゃありませんよ、こう言うんであります。それから調停委員の役員をなさっていらっしゃる方は、私はいいけれども皆さんがあまりにも気の毒だからひとつ手当を増額してやってもらいたい。それではあなたは手当が増額されればいいのですか、非常勤公務員として名刺調停委員という肩書きを刷ることがいいのですかと言ったら、少しその返事があいまいになるわけであります。その人たちにとっては法律的な、つまりあなた方のおっしゃるように、そうしなければ手当の増額ができませんという法律的な見解は抜きなんでありますけれども、まず何はともあれ私どもに、あまりにも皆さんがお気の毒だから手当をひとつふやしてやってもらいたい、それならば手当てさえふえれば肩書き、仕組みなんかはどうでもいいのですかと言ったら、その人たちはそこのところはとあいまいになる。ほんとうに一生懸命にやっている人は、六千五百円になったところで、私はそんなことでこの仕事をやっているのじゃありませんし、肩書きなんかで私は仕事をやっているわけではありません、こう言うわけであります。つまり、要するに調停委員としての仕事に熱意を持ち献身的な努力をしていらっしゃる人は、こんなことで私の仕事が誤解されたんでは困ります、こういう見解がまず誠実にやっていらっしゃる人のお考えだと思うのであります。それにどういうふうに報いるかということが、私はオーソドックスなものの考え方でなければならぬと思うのです。絶対に肩書きなんか必要ありません、むしろ民間人として隣のおじさん、隣のおばさんが世間常識をもって、あるいは進歩的な常識をもって、私はこうありたいと思いますよ、どうですかという説得と納得のほうが効果をもたらすと私は考えます、こう言っておるのです。そういうまじめな調停委員皆さんのそういう意見について、政府はどうお考えになっていますか。その人たちに対してどういうふうにこたえようとしているのですか。
  32. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 ただいま横山委員仰せのとおり、調停委員方々のお気持ちはおそらくそのとおりであろうと存じます。待遇をよくしてもらいたいということが第一の要求じゃないことはもちろん私ども十分承知をいたしておりますが、現在の国家制度というものを考えました場合に、日当という形でもって調停委員としての重要なお仕事を担当していただいているということは、やはり国の姿勢として望ましくないということがまた一点あります。あくまでも国としては、調停委員方々にはできる限りの礼を尽くすべきではないかという考え方一つあるわけでございます。  さらに今度の改正の問題は、そういう待遇とかあるいは肩書きとかいう問題ではございませんで、長年候補者制度という形で調停制度が運用されてまいりました。その候補者制度に対する弊害というものが強く指摘されまして、これを改めない限りにおいてはりっぱな方々調停委員としてそろえてお迎えすることが困難であるし、現在の非常に複雑になりました社会情勢を反映した紛争関係に対応していくことができなくなるのではないかという観点から、候補者制度というものをやめて、調停委員の身分を国家公務員法上の原則的な形である非常勤公務員としての委員としてはっきりさせるということが第一のねらいでございます。そういう身分をはっきりさせることに対応いたしまして、必然的に委員手当という形でもって国としては調停委員方々に礼を尽くせることになるのではないか、これが根本的な考え方でございます。
  33. 横山利秋

    横山委員 あるいは御質問があったかもしれませんが、非常勤公務員になることによって、法制的に調停委員はどういう変化がありますか。たとえば日常ふだん法律的にどういう変化があるか、あるいはまた通勤途上の災害があった場合にどういう変化があるか等々、法制的に非常勤公務員制度に変わることによってどういう違いがあるか、はっきりひとつ具体的にしてほしいことと、それから今度は、非常勤公務員になることによって道義的に調停委員がどういう変化があるかということをひとつはっきり説明してください。
  34. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 現在におきましても、事件限りにおきまして非常勤公務員でございます。したがいまして、非常勤公務員たる身分を具有している間は現在も改正後も変わりないものと思っております。具体的にただいま公務災害の問題が出ましたけれども事件限りで指定を受けます現公法下におきましても、公務災害の適用があるというふうに考えております。  結局同じでございますけれども、政治活動の問題それから兼業の問題等につきましても全く同様に考えております。
  35. 横山利秋

    横山委員 事件を担当している間は非常勤公務員である、これはいままでのとおり、事件を担当していなくてもこれからは非常勤公務員になる。日常ふだん非常勤公務員たる変化によってどういう違いがあるのかというのが私の質問の趣旨です。何もないですか。ないとおっしゃるわけですか。
  36. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 私どもとしては、現在違いについて考えられるところはございません。ただ、先ほどから問題になっております待遇の面におきまして、手当を支給できるような態勢になるというふうに考えております。
  37. 横山利秋

    横山委員 法制的にはわかりましたが、今度は道義的にどういう違いがあるか。
  38. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 私からお答え申す筋合いではないかもしれませんけれども、当初からの任命制による公務員の場合に、いわば御指摘の、道義的には自分は常時公務員としての矜持を持つという点があるいは違うということになるかもしれません。
  39. 横山利秋

    横山委員 そういうことでいいのですか、その答弁で。事件を担当しているときは非常勤公務員であるということはだれでもわかっている。今度常時ふだん非常勤公務員であるということによって、何の変わりもない、いままでとちっとも変わりもないということでいいのですかね。  卑近な例ですけれども、いままでは名刺調停委員と刷ってはならぬということでありましたけれども名刺に刷ってもいい、刷れということになりますね。私の言っているのは、法制的に国家公務員としての立場というものはどういうものなのか、もう一ぺん明らかにしなければならぬ。道義的に、あなたは寝てもさめても国家公務員ですよ、非常勤ではあるけれども国家公務員ですよ、こういうことは心理的には大きな変化だと私は思うのです。変わりありませんで、それで済むものかどうか。うどん屋さんやげた屋さんや問屋さんの社長が、あなたは寝てもさめても非常勤の国家公務員ですということが、心理的には大変革をもたらすと私は思う。あなたは、それはちっとも変わりませんと言うが、法制的な立場ばかりじゃ困るので、どういうふうにこれから調停委員としてはあるべきか、社会生活、家庭生活等について何も変わりありませんで済むものかどうか。もう少し大局的な話をなさらなければおかしい。それに反対するか賛成するか別ですけれども法案を提案した趣旨というものがどういうふうに調停委員の心理や社会生活、家庭生活に変化を与えるであろうかということについてお考えがあってしかるべし。それから法制的にも全然関係がない、それで済むだろうかどうか、私もちょっと疑問なんですが、もう一回ひとつ。
  40. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 あるべき姿としての調停委員というものにつきましては、現行法下においても調停委員に望まれるもの、ある理想型というものがあろうかと思います。このたびの法改正によりまして、御指摘のとおり、身分として公務員の身分を持っているという意味で、調停法の目ざす調停委員あり方について心理的により当然プラスになるものと考えます。  それから、改正法後における調停委員の身分は各種審議会、各種委員会の委員等と法制的には同じでございます。その方々がどういうお気持ちでいらっしゃるかということでございますけれども、少なくとも調停法に関する限り改正の前とあとにおきましては、いま御指摘のとおりやはり心理的により調停委員として十分心がまえを持っていただけるというふうに考えます。
  41. 横山利秋

    横山委員 どうも憶病なようですけれども、大臣どうお考えになりますか。心理的にずいぶん違うと私は思うのです。その心理的な違いが実はこの法案のバックグラウンドになっておるのじゃないか。最高裁の任命ですよ、あなたは常時調停委員ですよ、したがって名刺に書くのも当然ですよ。それで名刺を出されたときに、あなたは調停委員ですかということになると、社会的にその人が調停委員であることが喧伝されるわけですね。喧伝されますよ、名刺に書くのですから。そうすると、その人は常に調停委員たる人として世間が見るようになります。そうすると、あなたは調停委員でしたね、何かの関係相談を受けますよ。家庭生活について私はこういうことがありますが、調停委員としてどうお考えになりますか、個人的な相談が続出しますよ。その個人的な相談について、常時の調停委員は、私はここではそういう相談は受けられませんという人もあるかと思えば、それはこうすべきですねと言いますよ。だから公式、非公式を問わず法廷外活動というものは盛んになると思う。法案作成者としてはそういうことがわかっておりそうなものだと私は思うのです。わかっていなければおかしいと思うのであります。そういう法廷外活動というものが一体どういうふうになるのであろうか。  私どもが心配しますのは、調停委員がこの法律改正することによって一つの公然たる社会的地位を占める。いままでは非公然です。裁判所の中での調停委員であって、社会的には調停委員でなかった。隠れたる人なんです。今度は公然たる人になるわけですね。そういう大きな変化というものが、調停委員の心理、社会生活に大きく働くと私は思うのです。私は法廷のことはあまり知りません。むしろ社会的にそういう大きな変化が調停委員の心理にも働くし、そして法廷外活動というものが盛んになっていくという点についての長所と短所というものをてんびんに私はかけておるのです。だから、お役所の答弁は、さっきから私が話しておるようなそういう問題について、どうもくつの裏から足をかいておるような——もしそういう認識がなかったら私はおかしいと思う。それは認識不足なのか、分析不足なのか、判断がそこまではいっておらないのか、社会生活を知らないのか、そういう点だと私は思うのですが、大臣はどうお考えになります。
  42. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 従来は御承知のとおり事件担当時だけが非常勤公務員事件を担当していない場合には調停委員候補者ということであったわけでございますが、今度は常時非常勤公務員ということになりますから、調停委員をなすっている方々は、おそらく調停委員候補者であった従来の制度でも、一般人よりは何か自分調停委員をやっているんだという自覚と責任感はおありであったと思いますが、今度はそれが常時非常勤公務員ということになりますと、なおその責任感が若干強くなるのではないかという感じはいたします。  ただ、考えてみますと、政府でつくりますいろいろな審議会の委員それから調査会の委員、これらの方々非常勤公務員でございまして、別段、この非常勤公務員であるからという特段の重圧を感じておるようなことはないだろうと思うのでございます。役所の審議会の委員になったからといって、審議会委員としての見識は持っておりますが、それでは何かの重圧を感じているかといえば、そういうことはないだろう。要するに問題は、従来は事件担当時だけの非常勤公務員であったのが今度は常時公務員になるというだけのことでございまして、若干の精神的な気分は違うかもしれませんけれども、そうかけ離れた相違は起こってこないのではないかというように考えます。  どうか、そういう意味において、ひとつ非常勤公務員としてこのれからの調停委員方々には、一そう調停委員たる矜持を持って世の中のために御活躍を願いたい、かように思っております。
  43. 横山利秋

    横山委員 それじゃ、逆に質問しますが、私の言うようなよくもあしくも法廷外活動調停委員がなさるであろうという認識について、それについて、どうぞ御自由にということなんですか、それともそれについて制限を与えようとするのですか、どうですか。
  44. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 非常勤調停委員として任命されることになりましても、調停委員としての職務は、調停事件について調停委員としての仕事を命ぜられた場合に限るわけでございますので、裁判所における調停事件の処理以外の面におきまして調停委員の名において事実上の調停活動を行なうということは絶対に許されないわけでございます。その点は、現在の候補者制度と変わりはございません。  ただ、候補者制度のもとにおきましては、候補者になりましても必ずしも事件を担当しないという方がおられるわけでございまして、その点は、先ほど横山委員も御指摘になりましたとおり、必ず事件を担当するという前提でないもとで候補者制度というのは運用されてまいっておるわけでございますが、今度の改正によりますれば、事件の多寡は別といたしまして必ず事件は担当される、調停委員仕事は担当されるという前提の上で調停委員になられるわけでございますから、その意味で調停委員としての自覚は高められるということになろうかと存じますし、したがいまして、調停委員としての自覚が高くなれば、先ほどの例のような私的調停といったようなことはなさらないであろうことを当然期待してよろしいのではないかと考えております。
  45. 横山利秋

    横山委員 もちろん、調停委員の名において法廷外で調停活動をすることは、これは許されないであろうし、実際問題としてないであろう。だけれども調停委員名刺を出して、そしてその人に対して、やあ、あなた調停委員ですか、実はうちでこんなことがあるんですが、夫とけんかしているんですが、どうしましょうか、どうしたらいいんですかと言う、それはまあこうしなさいよという善意ある忠告をする、ああ、それじゃひとつすみませんが、夫にも会ってくれませんかと言う、それじゃ、私は調停委員じゃありませんよ、調停委員だけれどもこの立場ではありませんよ、個人としてそれじゃ一ぺん御相談に乗りましょうということがあり得るのですね。いままではそんなことはないんであります。これからはそういうことがあり得るのではないか。そういうこともあえてなおかつあなたはそういうことはしてはならぬ、こう言うつもりなんですか。個人としての活動もしてはいかぬというのですか。
  46. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 調停委員の方において調停委員としての肩書きを利用する気持ちが全くないという場合でございましても、相談をされるほうの側が調停委員だからということで相談をされるということであれば、やはり避けるのが望ましいあり方ではないかと考えます。
  47. 横山利秋

    横山委員 このことは、あなたはそうおっしゃるけれども、もう公然化する調停委員、社会的に公然化する調停委員ということによって、これからどんなことが起こりそうかということを私はたいへん心配するわけであります。それはいい意味と悪い意味と両面がこれから出てくると思うのであります。その点について私は十分指摘をしておかなければなりません。これについてのあなたのほうの適当な機会に、調停委員のあるべき社会活動、生活活動という点について、何らかの明示をされる必要があると思う。  次に、調停委員と保護司と比較をしてみたいと思います。保護司のほうは、これは法務省の所管でありますから、保護局長お見えになったそうでありますからお伺いをいたします。  たとえばもう一つの人権擁護委員と比べてみましても共通点があります。つまり、調停委員一つの問題について、一人ではないのだけれども責任を持って問題を一案件ごとに処理をする。保護司のほうも一人の刑余者なりあるいは少年犯罪の少年について責任を持ってひとつめんどうを見る。それが最終的責任ではないにしても、常時ふだん、具体的に問題の処理をしなければならぬという共通点があります。そしてまた、社会的にも保護司の方は常時ふだん保護司なんでありまして、候補者ではありません。その意味においては、調停委員よりも常に公然化された社会的責任を持つ人なのであります。そしてまた、同じように保護司の中にも活動をしていない名目的な人もあれば、常時一生懸命に活動をしておる人もあると思います。選任の方法、非常に類似性があると思います。  さて、そういうような分析をしてみますと、なぜ一体、調停委員だけが今回改正をされて日当手当になる、なぜ保護司のほうだけが若干の値上げにとどまるかという点について、多大の疑問なしとしないと思う。役所が違うからということだけでも——法案提出の責任者は法務大臣でございますから、どうして一体、保護司はこれだけであってもよろしい、調停委員手当にして非常勤公務員にしなければならぬ、そういう積極的な理由が一体どこにあるのだろうか、ふしぎでなりませんが、どういうわけですか。
  48. 古川健次郎

    ○古川政府委員 お答えいたします。  ただいま先生から御指摘のとおり、確かに調停委員と保護司には類似性があると思いますが、ただ、保護司のほうは、御承知のように保護観察官と共同体制のもとに地域性、民間性も非常に生かしてやっておる。全国に五万人おりまして、できるだけ山間僻地にも保護司の方がおられるように配慮する。そういう地域性、民間性ということを生かしまして保護観察、犯罪の予防という国家事務に協力をしている。主として保護観察官と共同体制のもとにやる、こういうものでございます。  これに対しまして調停委員さんのほうは、裁判官とともに調停委員会を構成いたしまして、紛争解決機関の主体となって調停という国家事務そのものを処理しておられる、こういう関係でありまして、また資格要件としましても、保護司はまず地域に密着した社会的信望家であることが要件。ところが、民事調停委員家事調停委員のほうの方々は、民事と家事の紛争に関する専門的知識経験、また社会における豊富な知識経験を有することが要求されておる。そのように幾らか両者の間では、同じく民間参与の制度ではあると申しましても、その職責とか国家事務への関与のしかた、さらには資格要件において違う面を持っているのではないか、かように考えるのであります。現在明文でも「保護司には、給与を支給しない。」「予算の範囲内において、その職務を行うために要する費用の全部又は一部の支給を受ける」つまり実費弁償と言っておりますが、そういう実費を弁償される、こういうふうになっているわけでございまして、われわれのほうは、その実費弁償の増額に努力をしているわけです。先般予算分科会におきましても、社会党の山中先生からもっと実費弁償をふやせ、確かに保護司は名誉職なんだから給与はいいとしても、実費弁償のほうは十分やれ、こういう御激励がございまして、できるだけそういうふうに努力するというふうにお答え申しておりまして、現に実費弁償のほうも昨年よりは約一億ふえている状況であります。
  49. 横山利秋

    横山委員 あなたは一体どういうつもりでその答弁をしているのですか。つまり、そんなことしてもらわなくたっていい、日当にしなくてもいい、保護司はこれで十分ですという答弁のつもりなのか、それとも腹の中は、いや私もそう思っておるんだけれども、まあひとつ答弁は大臣の前なのでちょっとこらえてくれという意味で言っているのか、どっちなんですか。
  50. 古川健次郎

    ○古川政府委員 確かに答弁が舌足らずで、先生におしかりをいただいたわけですが、これは、実は保護司は御承知のようにボランティア制度、もちろん調停委員のほうもボランティア制度で、これが幾らか今度は任命制ということで変わってきたかと思うわけですが、保護司はそういうボランティア制度ということで、民間の方々に自発的に御協力をいただいている。先ほどちょっと先生もお話ございましたけれども、やはり保護司の方々の中には、おれは給与をもらうのなら保護司なんかやらないよ、おれは自発的に社会奉仕のつもりでやっているんだ、こういう声が非常に強いわけでございまして、またそういうことから保護司法で「給与を支給しない。」こういう条文ができているんじゃないかと思います。いまそれをさらに変えるということはちょっとわれわれのほうも考えておりませんし、また保護司の方々の中にも相当異論があるんじゃないか、ボランティア制度が非常に強調されているというふうに存ずるのでございます。
  51. 横山利秋

    横山委員 だから私が、調停委員のまじめな一生懸命にやっている人が同じことを言っていると先ほど言ったんだ。それに対して最高裁から、それはそうですよ、それはそう言っていらっしゃる、だけれども役所としてはそれではすまぬ、こういうことでこうしたんだ。あなたはそのことについてさっき聞いておられたはずなんだね。いえいえ私のほうは役所としてもそんなことは必要ありませんよ、みんなそう言っていますからそれでいいんじゃありませんか、そうだとしたら、先ほどの答弁と同じ役所であっても、保護司の人がこれを聞いたら、まああの局長のもとではばからしくてやれぬなと思いますよ。あなたは地域性だとかあるいは民間性とおっしゃるけれども調停委員だって同じじゃありませんか。同じようにやっている。それから調停委員は専門的知識が必要で、保護司は専門的知識が必要でないかのごとくおっしゃる、あるいはそうかもしれぬ。しかし、保護司が、あなたもよく御存じだと思うのですが、不良少年を相手にして、まあそんなこと言うなよと言うて日常ふだんやっている努力は、専門的知識はないかもしれぬけれども、社会的知識それから人間的な温情、そういうものはまさるとも劣らないような基盤をもって一生懸命にやっているのですよ。これは局長に何ぼ言ったって、大臣、あなたに遠慮しちゃっている。わかるでしょう、私の言うことは。だれが考えたって、調停委員日当でいい、しかし保護司は手当で実費弁償でいいという理屈は成り立ちませんよ。あなたは、この調停委員法案を出すときにそういうところに配慮がなかったとしたら、それは無責任ですよ。どう思います。
  52. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 いろいろ横山さんからむずかしい御質問がございました。ただ問題はスタートがどうも違うように私は思うのです。たとえば保護司とか人権擁護委員の場合には、必要な実費は予算の範囲内で弁償をする、しかし給与は支給しないということをわざわざ法律に書いておりますので、これはおそらく事の起こりが人権擁護委員や保護司の場合には、社会奉仕をしていただくというたてまえでスタートをしていると思うのです。そこで保護司、人権擁護委員の場合には手当等は支給していないのですが、調停委員の場合には手当を支給すると法律に書いておるところを見ますと、やはりスタートが若干違うのではないかと思うのです。調停委員としては……。(「日当ですよ、大臣知らないんだから」と呼ぶ者あり)日当です。日当を支給する。(「実費弁償です」と呼ぶ者あり)ですからそういう点が若干スタートが違うのじゃないか。調停委員の場合には、調停事件というのはたくさんありまして、保護司や人権擁護委員の場合よりは、常勤に近いほどに一週間に何べんも出られるので、そういう点もありまして、考え方が違うのじゃないかと思うのです。ですから保護司、人権擁護委員の場合にも、いかに奉仕する気持ちでやっていただいておるとはいうものの、それじゃ気の毒だという気分はわれわれのほうにはいたしておりますけれども、スタートがやはり社会奉仕をしていただくんだということでスタートしておりますから、その精神も非常にとうとい。このとうとい精神を生かしていったほうがいいんだというような感じがいたします。
  53. 横山利秋

    横山委員 それは大臣認識不足ですな。日当手当が大臣の頭の中でごっちゃになっている。それから片一方の保護司は社会奉仕だ、調停委員は社会奉仕でないかのごとくおっしゃっている。調停委員も社会奉仕ですよ。わずかの日当旅費だけでやっているのですからね。だから社会奉仕でやっている、それではちょっと気の毒だから今度こういう制度にするというのでしょう。スタートは一緒なんですよ。それから調停委員は日常ふだんやっておる、保護司は日常ふだんやっておらぬかのごとき話、これも認識不足なんです。あなたは双方の実績比較をなさったことがあるのですか。古川さん、あなたは大臣に十分保護司の実情について報告がしてないから、ここで一ぺん保護司は何人ぐらいおって、年間どのくらいの仕事をやっておって、一人の人は大体どんな業務内容を持っておってということを三十分ぐらい演説しなさいよ。三十分、向こう向いて。
  54. 古川健次郎

    ○古川政府委員 いま、さらに横山先生から御指摘があったわけでございますが、実は大臣、従来から保護司活動には非常に御関心をお持ちでして、各地区の保護司大会にはしょっちゅうお出になっておられます。それでわれわれ絶えず大臣からいろいろ御指示をいただいているわけでございまして、先般の予算分科会の山中先生の質問に対しましても、大臣から、保護は法務省の中でも一番大事な仕事なので、とにかく実費弁償の増額には非常に努力するということをおっしゃっていただいているわけであります。  いまの保護司の実際活動につきましては、これは先ほど申し上げたように全国で五万人おりまして、対象者が同じぐらいに五万人ぐらいおります。それで一人で十人から二十人持たれる方もありますし、またあまり持たれない方もおられますが、実際勤務するのは夜中とか——むしろ勤務時間中、昼間は少年のほうも会いにきませんから夜になるとか、いろいろつらい面もございますが、それを先ほども申し上げたように社会奉仕の精神でやっていただいているわけでありまして、この点については先ほどから繰り返して申し上げておりますように、われわれできるだけこれに報いて差し上げたい。もちろん金銭的にも報いる方法もありますし、その他の面でも報いる方法をしたいと鋭意努力しているわけです。予算も先ほど申し上げたように約八%、昨年の非常にきびしい予算の中でも増額を見ている。今後大いにこの増額に努力いたしたい、こういうわけでございますので、ひとつ御了承願いたいと思います。
  55. 横山利秋

    横山委員 まだ二分間くらいだね。  これでは全国の保護司が泣きますな。そんな、大臣といい局長といい、これほど私が声をからして——声、まだかれておらぬけれども、言っておるのに、これは冷淡きわまるですな。冷淡ですよ。しかし二分間の間にも、勤務時間中ではとてもだめだから勤務時間外に、夜でもやっておるとか、それで調停事案と違いまして、私は調停委員をどうこう言うつもりはありませんが、調停事案と違うのは、調停事案は少なくともこの申し立てがあって調停成立までの期間、時間というものはわりあいに限られているのですね。ところが保護司の仕事年がら年じゅうですよ。一人の不良少年がほんとうに更生する、いろいろなものが解決するまでには、夜昼なしの長い一年がかり二年がかりですよ。ある意味では、一生涯めんどうになったということですよ。一生涯の仕事をやっているわけですね。そういうのに、この速記録を一ぺん、ひとつ保護司の人に送ってあげたらずいぶんおこりますよ。これはおこりますよ、ばかにしておるというので。  それから、確かに調停も保護司もまじめにやっている人は、私は社会奉仕のためにやっている、何も手当を若干ふやしてもらったところでどうということはない、それによって恩着せがましいことを言われるのはごめんだというのがまじめな人の意見だと思う。けれども、おっしゃるように役所としてはそれでは相すまぬでという気持ちが片一方だけあって、片一方にはないというのはおかしいですよ。たった八%が何ですか、そんなもの。そんなくらいならやらぬほうがいいくらいだと私は思う。今度の調停委員のほうも少ないけれども、少なくとも他に比較してある程度の増加額である。これは私は金額だけにつては恕すべき点がある。それならば保護司のほうは何でそういう必要性がないのかということになりますと、これはもうお話がちっとも説得力がない。いわんやそれを理屈づけるために、調停委員はこうこうなさっている、保護司のほうはそんなことまではなさっておらぬ、そんな理屈は保護司の人が聞いたらかんかんになっておこりますよ。もう少し話の締めくくりとして大臣から、全国の保護司の皆さん、と言って頭を下げて何とかいいことをおっしゃいよ。
  56. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 私はもともと保護活動というものは非常に大事である、ことに犯罪の再犯防止ということについてはやはり保護司の人たちの献身的な努力が必要であるということを考えておりまして、保護局の業務につきましては予算の際等については特段の努力を払っておるつもりでございます。今年度もいままでの実費弁償があまりにも低過ぎたものですから、いろいろ予算折衝をいたしまして、一件千九百円というところまでやっといきましたが、問題は若干その性質が違うと私は思いますのは、どちらも同じ社会奉仕的な観念から出発はしておると思いますけれども、保護司の場合には二件なり三件なり、あるいは多い人で五、六件持っておる人もありますが、事件を担当しておって、そしてやはりみな自分が職業を持つとか、ひまがあるにいたしましても手都合というものも考えられるわけです。たとえば刑務所に面会に行ってやるにしても、きょうは都合が悪いからあさってにしようとか、あるいは不良少年を担当している場合でも一ぺんお会いしたい、それではきょうは都合が悪いからあさっていらっしゃいよ、あしたいらっしゃいというようなある程度自由がきくと思うのです。ところが、調停委員の場合には調停委員一人で調停するのでありませんので、裁判官もおりますし、それから二人の調停委員も仲間がおりますし、それから当事者というものがありますから、自分の都合だけであさっては都合が悪いときめてしまうわけにもいかない、いろいろな不自由な事情があるだろうと私は思うのです。やはり裁判官の都合、調停委員同士の都合、当事者の都合で何月何日を次回期日としてきめてもらいたいという場合には、若干自分が都合が悪くてもその日は差し繰ってそれに応じてその期日に出て調停の業務をやっていかなければならないというような若干の差があると私は思うのです。どちらも奉仕の観念がなければ、調停委員がかりに今回一日六千五百円に手当が増額されたとしても、できない仕事でございます。いずれも奉仕の観念には出発いたしておりますが、保護司の場合には若干そういうような差もあると思いますので、待遇改善についてはわれわれ今後とも努力はいたしますけれども、いまの段階ではやはり奉仕を中心にして実費は弁償いたします、こういうことで、実費にいたしましてもこのごろタクシー代その他が上がっておりますから、まだまだ上げなければならないと思うのですけれども、いまのと  ころではそういう程度にとどまっておりますので、今後とも待遇の改善といいますか実費弁償の充実につきましては十分に努力をしていきたい、  こういうように考えております。
  57. 横山利秋

    横山委員 花は咲けども実の一つだになきぞ悲しき、という答弁だろうと思う。しかし、私が提起している問題はかなり深刻に受け取ってもぬといかぬと思いますよ。保護司の皆さんはいまこの法案の上程その他についてはそんなに知らないと思います。けれども、これがそのうちにわかる。なれば、保護司の人だって腹が立ちますよ。金の問題ではないですよ。法務省としてのものの考え方に腹が立ちますよ。あなたがいろいろおっしゃるけれども、それは保護司の人たちにしてみれば一つ一つ反駁しますよ。そんなものじゃない。大臣は認識が不足している。それから古川さんもどうも保護司のことについて、金がほしいわけではないけれども、しかしながら調停委員にこういうようなことを政府が提案するならば、それは最高裁の問題でありますけれども、法務省だって少しは考えてくれてもよさそうなものではないかということはもう人情として当然起こってまいります。私はその点について非常に不満の意を表しておきます。  それから次に、家庭裁判所へこの間も行ってみましていろいろお話を伺ったのでありますけれども、要するに調停委員というもののあるべき姿からいっても、調停委員自身の処世観というものがかなり働く、人生経験というものはかなり働く、それから調停委員が円満に解決しようとするための互譲の精神というものがかなり働くと思うのであります。自己の処世観というもの、人生体験というもの、それから互譲の精神というもの、そういうものは一方において社会正義、法律の示すところということと矛盾する場合が私はあると思う。極端なことをいいますと、権利者たる弱者の譲歩を強要することがあるのではないか、こう思います。夫と妻との夫婦げんかについて、奥さんに、あなた、気の毒だけれども、まあひとつ私の長い体験からいうとがまんをしなさいよという場合があるだろう。それから円満に解決させるために、妻が別れたいというものに対して、しかしお互いに譲り合ってということに説得をしそうな気がするわけであります。このことと、妻の当然の権利に、夫が虐待をする、夫が扶養の義務を果たさないということについての当然の権利というものの譲歩を要求をするという場合が私は当然あると思います。  家庭裁判所調停事案というものは公表されておりません。それで私どもが内容を知る機会があまりありません。それからそれぞれ特殊なケースもあるのでしょうから、統一的な基準というものもありません。したがいまして、私が世間常識として、一般論として考える理論的な問題はそういうことなんであります。調停委員の人生観、社会体験、そして互譲の精神、そういうものが権利者たる弱者に譲歩を要求しておるのではないか、そういうことが当然あり得ると思うのであります。そういうことで一体いいのであろうかどうか。しかし、調停というものは合意が必要である。双方がまとまれば、少しぐらい曲がっておっても、へこんでおっても家庭の円満ということで済むことになる。しかし、それがどうしてもうまくいかなかった場合に審判に移行する。審判の場合は、今度はそうではないだろう。少なくとも権利者たる弱者の譲歩を強要するということではなかろうと私は思う。調停審判との相違点は一体どういうことになるのであろうか。それから、調停審判とは、同じ人が一体やっておるのであろうかどうか。同じ人がやることのほうが、実は条理、経過その他からいって妥当性があると思うのでありますが、このことが機能的にそうなっているかどうかという点について疑問があるわけでありますが、この点についての見解を示してもらいたいと思います。
  58. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 いま横山先生指摘のように、家庭裁判所事件は、家庭内の紛争をどのように円満に、そして当事者が納得してお互いに折り合っていけるように持っていくかということを目的としておりまして、手続のほうでは調停を重視しておる手続になっております。家庭内の紛争は当事者間の合意が基本的に存しませんと、形の上だけで紛争を解決いたしましても、あとにしこりが残るということから、納得づくでいい結果を得たいということが基本になっておりますので、調停を重視しまして、調停が成立いたしませんと、つまり合意が当事者間にできませんと人事訴訟にいくとか、あるいは家事審判のほうにいくというように事件が流れていくわけでございますが、人事訴訟にしろ、家事審判にしろ、どちらも裁判所が権利関係の存否について判断をしたり、あるいは両方の間で一番いい解決はこれだというふうに考えるところをもって裁判をするわけでございますから、どうしてもそこに強制的な要素が入ってくることになろうかと思います。そうしますと、それがあとにしこりを残すということで、なるべくその調停で当事者の間を円満に解決してあげたいということになっておるわけでございます。  横山先生指摘のように、調停委員さん方の人生経験といったものから、たとえ権利があっても、それは少し譲りなさいという言い方をする場合もあろうかと思います。それは権利を重視しないという意味ではなくして、そうしたほうがよりお互いの幸福になるのではなかろうかという観点から、そういうおすすめをする場合もあろうかと思いますが、それは当事者の納得がなければできないことでございまして、どうしてもいやだ、自分はこの権利を守りたいということであれば合意が成立しないので、審判で、あるいは訴訟で解決することになるのだと思うわけでございます。
  59. 横山利秋

    横山委員 要するに、家庭裁判所が今後こういう法律改正することによって、一体どちらの道を選ぼうとしておるのか。つまり、いま私が指摘しました矛盾、ケースワーク的な、行政的な方向にさらに進むのか、それとも権利義務的な、より司法的な方向に一体進むのか。これは極端な話をしておるのでありますから、より重点がどちらに進むのであろうかという疑問を提起しておるわけでありますが、その点について、いまも言ったように、実際問題として裁判官が終始立ち会いしていない。裁判官が最終的には聞くにしたところで、実際調停委員が二人で話し合ってまとめられる。それがよほどでない限りは裁判官がよろしかろうというふうに言ってしまう例が多かろうと思います。そうすると、調停委員の人生経験、社会経験あるいはまた互譲の精神というものが、どうしても弱者に譲歩を強要する結果をもたらす、そういう方向。それでもまとまるならいいではないかというのも一つの理論ではないかと思いますが、今回調停委員が社会的にも法制的にも地位を高めるということであるならば、家庭裁判所はより行政的な、ケースワーク的な方向にいくのであろうかどうかということが私のただしたいところなんであります。もしそうだとするならば、より調停委員の、いま申しました人生体験、社会観、処世観、互譲の精神というものが重視をされる方向家庭裁判所がいくとするならば、一体そのままでいいのであろうかどうか。  つまり私の指摘したいのは、おそらく調停委員の教育もいろいろなさるであろう。連合会も、先ほど注文したように、自主、自立でいろんなことも努力をなさるであろうけれども調停事案というものは公表しない、そして秘密が守られるということになりますと、同じ事案であっても、調停委員の固有のものの考え方によって解決が違う、判断が違うという場合がより増大するのではなかろうか。それでもいいと割り切っておるのであろうか。もしそういう傾向が見えるならば、審判例といいますか調停例といいますか、そういうものが匿名なり何なりで十分お互いに勉強できる。私どももそれを知ることができる。こういう審議につきましても、具体的な事案を提起して、これでいいのかどうかということを私も実は議論したかったのでありますが、そういうことができない状況下にあるものですから、そういう方向に少なくとも統一性、共通性というものが出てこなければいかぬのではないかと考えますが、その点はどうなんですか。
  60. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘のように、調停委員さんが違うということによって、その調停やり方の中身が違ってくるということは望ましいことではないと思うわけでございます。ただ家庭裁判所事件は、いろいろ個々事件ごとにその個性が付着しておりますので、その事件ごとに適正な解決を見ようというためには、それぞれニュアンスのある解決のしかたが出てくるので、バラエティーに富んでおると思うわけであります。  これは多少民事調停と違うところでございまして、民事調停では過去の権利関係の存否というものが問題になってくるわけでございますが、家事紛争では、当事者が将来どういうふうにすれば幸福になっていくであろうか、また円満に折れ合っていけるであろうかという、目の前の事件の現在の紛争を、将来をながめながらいいほうに持っていくように形づくっていくというところに意味があるのでありまして、そういう点から家事調停調停委員さんが御苦労なさっておられるのだ、こういうふうに私は理解しておりますが、先生御指摘のように、審判あるいは判決といったような裁判と調停との関係になりますと、先ほど私がお答えいたしましたように、家庭裁判所ではなるほど調停というものを重視して、その調停の中身、質をよくしようということにわれわれは努力したいということで、このたびの法案もお願いしておるわけでございますが、しかし、その背後には、やはり審判とか判決といったような裁判があるのでありまして、合意というものがどうしても取りつけられないという場合には、やはり裁判、つまり判決であるとか審判であるとかで解決を見る、こういうことにならざるを得ないし、またそうでなくてはならないというふうに考えておるわけでございます。
  61. 横山利秋

    横山委員 極端に言いますと、調停の合意は実行可能である。ただし、権利者の必要なき情報を要求する場合がある。審判のほうは正当な判断をする。しかし、実行が困難である。私はそういう区分けをすることがあり得ると思うのであります。  この間も調停委員に会いまして、あなたは調停をされて、その調停事案なり審判をされた結果についてどういう責任がありますか、と言って、妙な質問でありますが、聞きました。何の責任もありません、あと裁判所が担保をされるのです、いろいろな法的手段もあります、こういうわけであります。それでいいんでしょうかね、あなたは自分のやったことについて、合意成立したあとはおれは知らぬということで済みますか、と言ったら、気持ちはそれは済みませんよ、相談を受ける場合もあります、と言うのですね。その点は一体どうお考えでありましょうか。つまり調停委員がいろいろ努力をしてまとめ上げたものに対する実行が二年かかり、三年かかるという場合がよくケースとしてあり得るわけでありますが、その点について調停委員はもうそれでお役おしまい、あと裁判所がその合意なり審判された結果について、いけなきゃ取り立ててあげますという法的行為のみに終わって、それで実行がほんとうに担保されるであろうかという点についてどうお考えになりますか。
  62. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 ただいまの御指摘は、家庭裁判所事件の取り扱いの基本にかかわることでございまして、これは、家庭裁判所で扱っている事件は当事者の申し立てによって裁判所に出てくるわけでございますが、実際は、その当事者の間の紛争というものは裁判所に係属している間だけに存在するのじゃなくて、両方の人間関係というのは前もうしろもあるわけでございますから、家庭裁判所調停なり審判なりをしてそれで紛争がほんとうに根本的に解決したということであればこれははなはだけっこうなことでございますが、人間というのはなかなかそこまでいかない場合もございまして、家庭裁判所調停で解決してもらったけれども、どうもあとに言い分が残る、そしてまたごたごたするというふうなこともないわけではございません。このために、昭和三十一年でございましたか、家庭裁判所は、家事審判法改正によりまして履行確保という制度ができまして、この制度を利用して、いろいろ当事者の紛争について裁判所で処理した後々の手当てまでして差し上げられるような道が開かれたということで現在やっておりまして、先生御指摘のように、なるほど調停で済めば調停委員さんは当該仕事から手が離れるわけでございますが、その調停で定めたことを一方が守らないということであれば、その方の申し出で家庭裁判所調停できめたことを守るようにしなさいというための措置を講ずることができるようになっておるわけでございます。
  63. 横山利秋

    横山委員 私の質問は、要するに、調停委員の役目はもう調停が成立したら終わりですという法的な今日の事情でいいか、あと実行の担保は家庭裁判所が法に定められたことでやるといういまのシステムでよろしいか、調停委員のやったことについて調停委員の説得力というものを利用しなくてもよろしいか、こういう意味ですよ。
  64. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 御質問でございますが、調停が終わりますと、調停委員さんのお仕事当該事件についてはそれで終わりとなるわけでございまして、それから後に調停委員さんがその後々のお世話までするということには現行法ではなっておりませんし、またそれでよろしいのであろうと私は思うわけでございます。家庭裁判所が先ほど申し上げましたような履行確保の制度でお世話をして、それで当事者の間になおおさまらないところのものがあるということでありますと、その御不満の方が再び調停のお申し出をなされれば、また新たなその後の情勢の推移というものを踏まえた上でさらに調停がなされるということになろうかと思います。
  65. 横山利秋

    横山委員 別な角度で伺いますが、家庭裁判所の終局決定に対して一定の限度において検察官の抗告権を認めよというのが少年法改正要綱の中にあるわけであります。この点について家庭裁判所としてはどうお考えでありますか。
  66. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 それは少年審判のことでありますが、少年審判制度では、現行法のもとでは検察官の関与というものが排斥されておりまして、家庭裁判所審判をした場合に検察官がこれに対して不服の申し立てをする道がないわけでございます。それでは社会秩序の維持というものが十分できないのではなかろうかという立場から、検察官が抗告できるような道を開いてほしいというふうな意見がありまして、この意見に立ちまして少年法の改正要綱でそういうことが主張されておるということでございます。
  67. 横山利秋

    横山委員 そんなことは私が質問してわかっておるのだ。それをどう思うかと聞いているのだ。
  68. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 これはたいへんむずかしい問題でございまして、私どもは一定の限度で検察官の不服というものが検討されてもいいんじゃなかろうかというふうに考えております。
  69. 横山利秋

    横山委員 検察官の抗告権を認めてもよろしい、こういうわけですか。大臣、ちょっとこれは率直に言うと、やや意外な答弁でございます。要するに、家庭裁判所の終局決定に対して、一定の限度において検察官の抗告を認めてもよろしい、考慮してもよろしいという御答弁でございますが、質問する側としては、そうかねとやや意外な感じがしたわけでありますが、これは大臣は御存じでございますか。これはそういうふうに受け取ってよろしいのですか。
  70. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 御承知のとおり、ただいま法務省の法制審議会に少年法の問題は討議をしていただいておりまして、少年法部会で熱心にやっていただいておるところでございますが、裁判所との関係はたいへん大切なことでございますから、今後とも十分の緊密な連絡をとってやっていきたい、こう思っております。
  71. 横山利秋

    横山委員 法務省としては、大臣としては、その点についてイエス、ノーは言いかねる。最高裁としては考慮してもよろしい、間違いありませんね、最高裁
  72. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 先ほど一定の限度でと申し上げましたが、その趣旨は、現行の少年法の基本となっている保護主義、教育主義といったようなその基本的な原則をもとにいたしまして、その範囲内で、一定のワク内でその不服の申し立てが認められる場合があるであろう、こういう意味でございます。
  73. 横山利秋

    横山委員 時間が参りましたので私の質問はこれで終わりたいと思うのですが、先ほどちょっと申しました日本調停協会連合会は将来いかにあるべきか。それから参与員実態というものについて、御答弁が承服しかねる。それから保護司の問題についてたいへん不満であるということを申し上げました。さらに家庭裁判所の今後の方向について、若干の意見を含めて問題を提起したわけでありますが、十分まだただしたい点がございますけれども、要するに、先ほど現場の調停委員皆さんの御意見を率直に御披露したわけでありますが、まじめに一生懸命やっておられる調停委員は、大臣が保護司の問題でおっしゃったように、社会奉仕として一生懸命にやっている。そして何か恩着せがましいことをいわれるなら現状でけっこうです、手当を上げた、肩書きをつけてやったというような恩着せがましいようなやり方なら現状でけっこうです、こういう意見が、まじめにやっていらっしゃる人の共通点だと思うのです。そしてまた調停仕事というものが、民間的要素というものがあることによって説得力がある。裁判官の言うことでなくして、世間常識進歩常識も、そして人情も十分かみ分けた民間的要素であるから、私どもはそういう立場で成功しておると思いますと、こういう意見であります。それに対して、法務省のいろいろな御意見最高裁の御意見は、ある程度わかるのですけれども、しかしどうしても私どもが心配をいたしますのは、一つの体系を整えて、社会的地位を向上するために肩書きもつけて、そして最高裁から任命基準もつくって、そしてひとつ大いに教育をして専門的知識もつけて、こういう方向がどうしても官制的な方向に走りやすいという心配を持たざるを得ないのであります。結論はいずれ私どもも党議にはかってお答えをするつもりではありますけれども、いままでに私の質問した点で足らざるところは、機会がありますならば、ひとつ一ぺん御検討の上お答えを  いただきたい。  以上の点で私の質問を終わります。
  74. 小平久雄

    小平委員長 正森成二君。
  75. 正森成二

    ○正森委員 最初に法務大臣に伺いたいと思います。  大臣は国務大臣として当然国会で付せられた附帯決議には忠実でなければならないと思いますし、それから刑法改正でも法制審議会にはかっているわけですが、法制審議会というものは原則として尊重しなければならないというように思うのですが、それについてどう思われますか。
  76. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 お説のとおり、国会における附帯決議及び法制審議会というのは非常に大事な機関でございますから、ここでいま出つつある結論に近いものも、いろいろまた世間で批判もあるようでございますから、これらをかみ合わせて、法制審議会の結論に対しては十分尊重してまいりたい、かように思っております。
  77. 正森成二

    ○正森委員 ところが昭和二十五年のことでございますが、法制審議会に「各種調停法規を改正、統合する必要があると思われるが、その法案の要綱を示されたい。」こういう諮問を行ないまして、それに基づきまして民事調停法昭和二十六年六月九日、法律第二百二十二号で成立いたしました。今回の場合には、法制審議会に諮問されていないというように思いますし、あるいは国会の決議にいたしましても、第六十五国会で、民事訴訟法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議に「政府及び裁判所は、司法制度改正にあたり、在野法曹と密接な連絡をとり、意見の調整を図るように努めるべきである。」というようになっておりますが、今回の改正にあたっては在野法曹の日本弁護士連合会から有力な反対意見があり、かつ、反対意見があるだけでなしに、事前に意見の調整が十分になされていないというように聞いておりますが、それは先ほどの大臣の答弁の趣旨からみてどういう関係にありますか。
  78. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 今回この改正に臨むにあたりましては、最高裁判所のほうで臨時調停制度審議会というものを設けて、調停事件を取り扱っている裁判所でございますから、そこが審議会を設けて十分検討をする、これはまことに適当なことであろうと私自身も考えております。なるほど法制審議会にも学識経験者は大ぜいおりますけれども調停という特殊のお仕事に対して最高裁判所が所管官庁として審議会を設けて検討するということは、かえって法制審議会よりは適当な結論が出るだろう、こういうように私ども考えております。  それから国会でよく附帯決議があります、法曹三者といいますか、裁判所、法務省、弁護士会、これらができるだけ一体になって進むべきである、この御趣旨はまことにごもっともで、われわれも在野法曹として同じような考え方を持っておりますが、この審議会を設置するにあたりまして裁判所のほうでも配慮をされまして、弁護士会からもたぶん三人ぐらい審議会委員が出ておりました。幹事も二、三名出ておりまして、弁護士の方々にも御参加を願って、結論として、今回の改正の目標が出てきたわけでございます。したがって、先ほど来横山さんからもいろいろ御意見ありましたが、部分的には、なるほど人の考えはいろいろ違いますから御意見はあろうと思いますが、総括した結論としては臨時調停制度審議会で論議を尽くして出てきた結論を採用する以外にはないし、それがまた一番適当ではないだろうか、私どもさように考えております。  それから弁護士会との関係でございますが、これは審議会が済みまして裁判所のほうから法務省に対して、法務省が法律提案をしなければならぬものですから、法律の立案方を委嘱されまして、大体の要綱をつくりまして、要綱ができました段階で、やはり弁護士会のほうにそれの担当の委員会があるようで、その委員の方々には要綱を説明し、御判断を願い、やってきたようでございます。  それから、でき上がりましてから弁護士会のほうへも、日弁連の会長、副会長等と私が会見をいたしまして、いろいろ論議を尽くしたわけでございます。なるほど一応反対と言っておられますが、私がそのときに会った感触では、そういうような弁護士会が反対しているような点については、国会の審議であやまちのないように、十分に速記録へ残しておいてもらいたいという御趣旨のように感じました。特に今度の改正の中で、調停の官僚化ということを弁護士会は非常におそれておる。これは弁護士会の立場としては当然だと思うのですが、しからばどこを官僚化と言うかというと、調停委員が常時、非常勤国家公務員になるということが一つ。それからもう一つは、当事者が調停委員会の御決定におまかせをしますということになりますと、調停委員会が調停条項をつくる、これは非常に強圧で調停の官僚化に通じないのか、こういう点が主たる問題のようでございます。  そこで、いろいろ話し合っておる間に、弁護士会のほうでは、本人が調停委員会に調停条項をおまかせをしますと言うと、もう本人がいやでも何でも調停委員会が調停条項をつくって押しつけるのではないか、こういうことを非常に懸念をされておるようでございます。私はその場合に、これは私の解釈で言ったので、これから国会の解釈等皆さんの御意見もありますが、たとえ当事者がおまかせをしますという一札を出したにしても、それでは調停条項は次回期日何月何日につくりますということになった場合に、その何月何日になって、その場に及んで当事者が、あれはおまかせしましたけれどもいやです、こういうことを言い出せば、それはこわれるにきまっておりますよ、いやだというのに、一ぺん君はまかせたんだから、調停条項をつくるからあくまでそれに従え、こういうことはあり得ないと思う、おそらくその場合には、取り消しになって、また新しく相談が始まるということになるだろうと私は思うので、そういう強圧ということは実際問題として起こり得ないんじゃないですかという話もしたんですが、それならば、そういうような点を審議を通して明らかにしておいてもらわぬというと、どうもわれわれは非常に心配になるというお話でございました。  ですから、いろいろ見方によって、法曹三者の協議が不十分であるとも言い得るかもしれませんが、われわれとしては、できるだけ三者間がうまく円滑にいくことを望んで進めてまいっております次第でございますので、この点どうぞひとつ国会の委員の方々におかれましても御了承いただきたい、かように思います。
  79. 正森成二

    ○正森委員 だいぶ長い間答弁がありましたが、法制審議会というのはどこに設けられる機関であり、臨調審というのはどこに設けられる機関ですか。
  80. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 法制審議会は法務省でございます。臨調審は、御承知のとおり、最高裁に設けられた機関でございます。
  81. 正森成二

    ○正森委員 いまお答えがありましたように、大臣が臨調審でやっているからいいだろうという意味のことを言われましたが、臨時調停制度審議会というのは、最高裁判所に設置されたものなんです。その幹事などを見ますと、私は最高裁判所からもらった資料でびっくりしたんですけれども肩書き最高裁判所と名前のついている者がずらっと並んでおる。これはもうまさに、幹事などは最高裁判所裁判官関係者に、申しわけのように弁護士が二、三人、大学教授が二、三人ちりばめてあるにすぎないというような制度であります。これはごらんになればおかしいぐらい最高裁判所最高裁判所、こういうぐあいに肩書きが入っておる。そういうものに聞いて、その中で二、三人在野法曹がおるから、第六十五回国会における附帯決議が大体守られておるんだというような考え方は、結局、非常に在野法曹との見解の調整というものを軽んじていることにほかならないのではないか。たとえ二、三人入っておりましても、たとえば日本弁護士連合会というのは、法曹三者という意味では最高裁判所あるいは検察庁に匹敵する大きな組織である。それにはおのずから二人、三人の委員以外に、しかるべき手続あるいは会の意思決定のあり方によって意見というものはつくられてくるはずだ。それを調整して尊重するというのが、まさに国会の決議にこたえることにほかならない。かりに日本弁護士連合会が弁護士に関するいろいろなことをきめる委員会を弁護士会の中に設置して、その中に裁判官を二人、三人取り込んで、これで裁判所意見を聞いたから裁判所文句言うなということをおっしゃれば、はたして最高裁判所が納得なさるか。圧倒的多数は弁護士の会員だ、そうはならないでしょう。そうだとすれば、今回の改正やり方というのは、著しく最高裁判所ペースであり、最高裁判所自分の思うようなそういう法律をつくり、あるいは、これからも質疑をいたしますが、規則を制定しようとしておるというように考えられてもしかたがないんじゃないか、こう思うのですね。  しかも、この臨調審で答申されていないことまで今度の法律案では改正条項になっていると思いますが、なぜ臨調審にも十分に出ておらないようなことまで改正するようになったのですか。その部分を指摘しましょうか。わかっていますか。臨調審で出ていないことを改正しているでしょう。
  82. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 私どもといたしましては、臨調審の答申そのものには含まれておらない条項がありますことは、御指摘のとおりでございますが、臨調審の協議の際に出ておりまして、実質的に内容として審議されたものというふうに考えております。  御指摘の点は、八条のいわゆる調停委員の単独で行なう職務の件だろうと思います。  まず第一の専門的意見め陳述につきましては、先ほど申し上げましたように、答申そのものには出ておりませんが、実質的な中身として答申書の中に含まれておりますし、議事録を拝見いたしましてもその点の討議がなされているものと考えます。  それから、第二種の嘱託にかかる関係人の意見の聴取につきましても同様でございます。  次に、第三の職務と一応分けますと、「最高裁判所の定める事務」の問題かと思いますが、この点につきましては、最高裁判所事務的に折衝した際に嘱託にかかる事実の調査であるということでございました。現にすでに最高裁のほうから申し上げているとおり、規則としては嘱託にかかる事実の調査だけを考えておるということでございます。この点につきましても、すでに臨調審で審議されたところでございます。  それから、従前、日弁連の参考人の方が申しましたところによりますと、調停委員会が必要があると認めるときはというところもおかしいではないかというふうな御趣旨の御発言がございましたけれども、一応その嘱託にするにつきまして、意見の聴取につきまして、調停委員会がやはり発議をいたしませんと、どこが主体になってその意見を必要があると認めるかということになりますと、調停委員会以外にございませんし、これをやはり法律で明文化すべきであるというふうに考えた次第でございます。
  83. 正森成二

    ○正森委員 いま何か早口で御説明がありましたが、やはり臨調審の答申の内容というのと、臨調審の審議の中でいろいろ雑談の中で出てきたこととか、答申の明文にあらわれていない最高裁判所とそういうことになっておるとかいうことは、臨調審の中にあらわれていないことであると言わなければなりません。そういうことを言い出せば、ほかに答申の中にきちんと主文にあらわれていないけれども、論議されたことは一ぱいある。ですから、私は最高裁判所の資料を読ませていただきましたけれども、まず法制審議会にはかけず、そして最高裁判所の中に臨調審というようなものをつくって、ほとんど全員を最高裁判所の職員やあるいは裁判官等で固めて、申しわけ的に弁護士や学者を数人ちりばめておるというところで、審議を行ない、しかも、その答申の主文の中に入っていないことを、いろいろ審議の中で出たとか、あるいは最高裁判所との相談の中にあるとか——あたりまえだ、大部分は最高裁判所の職員が幹事なんかをやっているのですから。そういうことで国会へかけてくる。六十五国会での附帯決議にもあるような、司法の一方をになう弁護士会に対しては十分の相談をしておらず、しておらないからこそ弁護士会からは、まっこうから反対と見られてよいような、今度の改正案の本質的な部分について異なった意見が出されておる。こういうようになりますと、あなた方はほんとうに司法というものを在野法曹との協力のもとに進めていこうという気があるのかどうか。特に調停というのは、条理に導かれて当事者が合意することによって合理的な解決に達する、こういう制度です。それに対して、国民の中の有力な部分である在野法曹から強力な反対意見が出ており、しかもそれは十分道理があると思われる部分もあるのについて、あなた方がしいて強行されようとする。こういう意図が私は十分わからない、こう思うのです。  一般論としてそういうことを申し上げておいて、以下、具体的な一つ一つの内容について、この法案の問題点をこれから聞いていきたいと思います。  あなた方はこの調停に関する法律改正以前に、いろいろなことを、実質的に司法行政行為といいますか、そういうことで行なってしまっているというようなことはありませんか。たとえば臨調審というものが設けられましたが、それ以外に、最高裁判所がみずから招集して、調停についていろいろな情報を集めるといいますか、あるいは臨調審に提出すべきいろいろな内容を、みずから会議を開いて収集し、決定するというようなことをしたことはありませんか。
  84. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 臨調審が始まって後におきまして、事務当局といたしましては、臨調審の審議の便宜の上で資料を集め、それを臨調審に提供したということはございます。それ以外に、どういう点を御質問になっておられるのかちょっとわかりかねるわけでございます。
  85. 正森成二

    ○正森委員 その資料を集めるにはどういう方法でやりましたか。
  86. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 従前、地方裁判所家庭裁判所等から報告されております統計資料に基づきまして、調停事件数その他を調査するというようなこともありますし、あるいは各地家裁に特に資料を求めて提出していただいたこともあったと思います。
  87. 正森成二

    ○正森委員 最高裁判所昭和四十七年度に、調停制度に関する中央協議会というような名目で、四十九庁から調停委員及び裁判官を全員、約二百名ほど中央に集めて会議を開いたことはありませんか。
  88. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 毎年一回全国から、調停委員の協議会ということで、調停委員方々にはお集まりいただいていることはございますが、そのときに同時に裁判官を集めたということはない、いままで例はないと存じます。あとは各高等裁判所管内で調停委員の協議会がございますが、そのときには調停委員裁判官が、各高裁別でございますけれども、集まる。それも年一回、これは例年行なっているところでございます。
  89. 正森成二

    ○正森委員 そうすると、それは毎年調停委員の連絡のために行なっている会議であって、臨調審が活動しておるのでそれに対して資料を提供するというような意味で、特に四十九庁からそれぞれ調停委員裁判官を中央に招集したというようなことはありませんか。
  90. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 臨調審が運営されております当時において、臨調審で問題になっている事項についての報告等をする機会は、裁判官の会同等でもあったと存じますが、しかし、中央会同の形で最高裁判所に集めたことはなかったと存じます。各高裁管内のブロック会同の機会に、こういう点が問題になっているということ、並びにそれについての意見があれば意見を伺うというようなことはあったと存じます。
  91. 正森成二

    ○正森委員 そうすると、先ほどあなたが答弁になった、統計等について調べたということだけでなしに、少なくともそういう機会を利用して臨調審に提供すべき資料を集め、あるいは状況を聞いたということはあるわけですね。——はい。  そこで伺いますが、今度調停委員が任命制になるというような改正が行なわれようとしておるわけですが、それで最高裁判所の今度制定されようとする規則のモデルのようなものを見ますと、調停委員はおおむね七十歳未満というようなことになっておりますが、従来はそういう規則はなかったわけですね。
  92. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 現在の調停委員規則では、年齢の点については規定がございません。
  93. 正森成二

    ○正森委員 しかし、いままで実際上、調停委員が約二万名おりますが、そのうちの何%というものを毎年やめてもらうというようなことで、最高裁判所としてあらかじめ計画を立てて、それを実行してきた、あるいは実行しようとしてきたということはありませんか。
  94. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 毎年何名ぐらいやめてくれという形での指導を行なったことはございません。
  95. 正森成二

    ○正森委員 それでは、ここに資料がありますけれども、これは大蔵省に最高裁判所予算を請求するときに提出した資料でありますが、これを見ますと、大体調停委員の実員数の五%の調停委員やめてもらうということで、この資料を見ると、四十七年度の予算では、調停委員二万一千七百七人かける〇・〇五、千八十五人についてはやめてもらう。しかし、やめてもらうについて、ただやめてもらったのじゃぐあいが悪いから、表彰制度を行なう。表彰してやめてもらうからその予算を請求するというようになっておる。そうすると最高裁判所は毎年五%ずつ調停委員やめてもらうということで、予算請求までしているじゃないか。それをいまのように言うのは、明白なうそを国会で言うことになるのと違いますか。
  96. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 それは表彰する員数であろうと存じます。何名やめてくれということでは決してございません。
  97. 正森成二

    ○正森委員 いいかげんなことを言うな。それじゃこの文章を読みましょうか。それでは読みますよ。目的から読みましょうか。「調停委員の表彰」「目的」「調停委員として永年職務に精励し、調停制度の発展に功労のあった者を退任にあたって表彰し、その永年の功をねぎらうとともに、調停委員制度の一層の充実を図ることを目的とする。」いいですか、目的が「退任にあたって表彰し、」こうなっているのです。「必要性」「わが国における調停委員制度は、大正十一年に調停制度が創立されて以来、調停制度の発展とともに歩みを続け、今日に至っている。ところで、調停制度が訴訟その他の紛争解決とともに、司法の重要な一翼をになっている現状のもとでは、調停委員が民事、司法の分野で果たす役割りはきわめて大きく、その職責は重大である。このような調停委員の職責の重要性にかんがみ、各地方裁判所においては、社会の良識を代表する有能な人を得るよう常に努力を続けてきた。わが国の調停制度が創立以来今日までよく発展の道をたどることができたのは、調停委員に適材を得ることができたことに負うところが大きい。しかし、調停委員として毎年地方裁判所から再任されている者の中には、老齢のゆえにその再任を差し控えざるを得ない人も少なくない。七十歳以上の調停委員の数は、全調停委員の約三三%に及んでいるのであって、漸次この割合を減少させ、調停委員の若返りをはかる必要がある。これらの調停委員は永年職務に精励し、調停制度の発展に貢献してきた功績顕著な者であるから、その不再任にあたっては選任庁である各地方裁判所が表彰を実施しその労をねぎらう必要がある。よって、これに必要な経費を要求する。」  実施計画。対象人員、(別表参照)調停委員実員数の五%の調停委員。二万一千七百七人かける〇・〇五、千八十五人、こういうぐあいになっているじゃありませんか。明らかに「目的」のところでは「退任にあたって表彰し。」と、こう書き、その「必要性」のところでも「その不再任にあたっては」「表彰を実施しその労をねぎらう必要がある。よって、これに必要な経費を要求する。」ということですから、五%をやめてもらって表彰するということをきめて予算措置をやっているじゃないですか。私は、言っておきますよ、一定の方に場合によってはやめていただくということが絶対にいけないと言っているのではない。八十歳の方もあれば八十二歳の方もあるでしょうから。しかし、それならそれで、国会で質問されたら、そういうように答弁すべきであるにもかかわらずうそをつき、しかも表彰といえば、それは単に表彰するだけで、やめるのとは関係がないというようなことを言う。それでいいのですか。
  98. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 どうもお答えのしかたが中途半端であって恐縮でございますけれども最高裁判所が各庁に何人ずつやめてくれというような指導をしたことはないということを申し上げたわけでございまして、各庁ではそれぞれ新陳代謝をはかるための基準をつくりましてやってきておるわけでございまして、その実績が大体五%ということでずっと来ておったわけでございます。その方々の退職にあたっての表彰ということで予算を要求していたということでございまして、最高裁判所が特に何人やめてくれという指導をしたということはないという趣旨でございますので、御了承いただきたいと存じます。
  99. 正森成二

    ○正森委員 了承できませんな。私から証拠を突きつけられて余儀なくそういうように言っておるだけであって、予算の請求は最高裁判所がやっておるじゃないですか。最高裁判所がもし、大体五%やめるというのが非常に不十分である。あるいはそれが多過ぎると思うなら、何も予算を五%請求せずに、大蔵省との予算折衝では三%しか認められなかったとか、あるいは七%認められたというようにやってもいいものを、わざわざ五%請求するということは、五%くらいの退任は必要であり、これは毎年実施しなければならないということを、予算上から言うておることにほかならないじゃないですか。裁判所定員法という法律があるでしょう。あなた方はあれを、最高裁判所はただ予算を請求しただけで、別に裁判官を何人ほしいとか、そんなことは考えていないのだ、こう言うつもりですか。そうじゃないでしょう。裁判官が何人必要だと思うから予算を請求するでしょう。調停委員だって何人やめてもらおう、これが妥当だ、こう思うからこそ予算を請求したのでしょう。そんな言い抜けは通りますか。
  100. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 言い抜けをしているつもりでは決してございません。うそを申し上げているわけではございませんで、過去の実績に基づいて予算要求をいたしておるわけでございまして、そのとおり認められているということでございます。
  101. 正森成二

    ○正森委員 それでは、過去の実績ということを申されたので、言いますが、一体その五%はすべて調停委員やめたいというのでおやめになったのですか。そうじゃないでしょう。自然淘汰でおなくなりになる方がある、しかしおなくなりになる方をのけてもこれくらいは不再任ということだ、そういうことでしょう。
  102. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 これは先ほども申し上げましたように、各地方裁判所家庭裁判所におきまして再任をする場合の基準というものを考えて、それぞれ独自の立場でもって運用いたしておるわけでございますので、もちろん御本人のほうからやめたいということでおやめになる方もございますし、老齢あるいは病弱のために調停委員としての仕事ができなくなったということでおやめになる方もございます。また裁判所のほうから、特にこの際御遠慮願いたいということでやめていただく方もおられるということは私ども承知いたしております。
  103. 正森成二

    ○正森委員 あなたは責任を地方裁判所のほうに持っていかれますけれども、それは調停委員候補者というのは地方裁判所があらかじめ選定しておいて、各事件ごとに指定するというたてまえがあるから、それはそういうぐあいに答弁せざるを得ないということで答弁しているのだろうと思いますが、しかし実際上は、最高裁判所法律改正前にも、五%はやめてもらうあるいはやめてもらっていいのだということで予算請求をしてきたということは事実であります。そうしてその五%というのは、私の見るところでは、普通おなくなりになる方というようなのを含んでおらないものと見なければなりません。なぜなら、同じ書類の中であなた方は新しく選定される調停委員についての研修制度についての予算を請求しておられますが、その予算の請求のしかたを見ますと、すべての調停委員の中から法律的素養のある弁護士の数を引いて、その残りの数に六・三%をかけておられます。これが新しく教育を要する調停委員だ、明らかに五%よりも多い。それはなぜかといえば一・三%は自然損耗率ということばを言うとえらい軍隊のようで悪いですけれどもやめてもらう人の中に、ほかに自然におやめになる方もある。だから弁護士を除いた数の六・三%を新しい研修要員、こうして予算請求をしておる。ところがやめる人の表彰については弁護士を含めた全員の五%というのを請求しておる、こういうぐあいになるのです。だから私の推理がぴしゃっと合うわけです。あなた方は、大体最高裁判所が本来関与すべきでないときでも、そういうように予算の上から、これだけはやめるのですよということをやってきたということを、この大蔵省に対する予算請求書は示しておるものといわなければなりません。すなわち最高裁判所は法制審議会にはかけず、自分最高裁判所の中で設置できる臨調審にそういうことをやらせ、その臨調審では最高裁判所裁判官が圧倒的多数を占めるようにし、しかも臨調審の答申にも出ておらないようなことを法案に提出し、臨調審のまだ動いている最中にも、最高裁判所調停委員の数ややめるべき数について予算の上から制約をしてきたということを明らかに示しておる、こういわなければなりません。そういう方向で今回の改正が行なわれるなら、これから質問をする第八条の、最高裁が事実上調停委員の行なう仕事をきめ得ることと関連して、以後最高裁判所が認定する調停委員というのは、最高裁判所が事実上、一般職の国家公務員として、自分が思うように使うことができるという調停委員になる危険性が非常に多いといわなければなりません。その私の危惧は当たっていませんか。
  104. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 正森委員の御疑問に感じておられるようなことを私どもは全く考えておらないということを申し上げるほかはございません。  それから審議会の構成でございますけれども、確かに名簿上は事務総局の局課長が並んでおります。しかしながらこれは事務総局といたしまして、調停制度を改善いたしますと、あらゆる局の関係に影響してまいりますので、一応メンバーとして並べてあるわけでございまして、所管局は民事局と家庭局でございます。常時、審議会に関与いたしておりましたのは民事局と家庭局の係官でございました。ほかの局の関係方々は、当該問題に関連いたしまして必要な限り出てきておられたわけでございます。  それから審議会の状況でございますけれども、これは私どものほうとしましては、事務当局の指導型になってはならないということを深く理解いたしまして、私どものほうからは積極的に意見を述べた例はございません。弁護士の委員の方、幹事の方、また調停委員の委員の方、幹事の方、また学者の方、それから裁判官として調停事務を担当しておられる方々、そういった方々が積極的に意見を述べられました。それらを私どもといたしましては整理し、まとめていくという仕事に徹したつもりでおるわけでございます。私どものほうで審議会をリードしていくというようなことは、意図も全くございませんでしたし、また運営にあたりましてもそういうことは十分注意してまいったつもりでございます。
  105. 正森成二

    ○正森委員 民事局長に伺いたい。先ほど別の方から答弁がありましたけれども、私のところにある資料では、調停制度の拡充強化に必要な経費(民事局経費)として、調停制度に関する中央協議会、これについての費用が提出されております。それを見ると「(目的)全国地方・家庭裁判所から調停事件担当裁判官および調停委員最高裁判所に招集し、現行調停制度に関する種々の問題点について検討協議し、その結果を臨時調停制度審議会の審議の参考に供することを目的とする。」「(開催地)最高裁判所、(日程)二日、(人員)評議員百九十六名、裁判官(地裁四十九人プラス家裁四十九人)計九十八人、調停委員(地裁四十九人プラス家裁四十九人)計九十八人、合計百九十六人、参列員十一人、係員九人、合計二百十六人、」これで予算請求をしております。民事局はこういう予算請求をしたことがないのですか。これは大蔵省で通らなかったのですか。
  106. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 予算要求をいたしましたことは間違いございませんが、妥結の段階で私どもといたしましてはおりましたので、実際に実行いたしておりません。
  107. 正森成二

    ○正森委員 早口で聞こえなかった。予算が通らなかったのですか。
  108. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 結局そういうことでございます。
  109. 正森成二

    ○正森委員 それでは、この予算が通らないで、実際上は各高裁ごとにやったというのですか。
  110. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 高裁単位の民事裁判官の協議会を機会に御意見を伺ったというふうにたしか記憶いたしておるわけでございます。
  111. 正森成二

    ○正森委員 調停委員はどうですか。
  112. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 調停委員につきましても、先ほど申し上げましたように高裁単位の調停委員の協議会がございます。その機会に調停委員の、一部の方々からでございますけれども、御意見を伺ったことがございます。これは念のために申し上げますと、臨調審の委員、幹事の方々の御有志の方々に御出張いただきまして、各地の集まってこられた調停委員方々と懇談の機会を持っていただきまして、いろいろ御検討願ったというふうに記憶いたしております。
  113. 正森成二

    ○正森委員 あなた方が五%について表彰という名目で一定の予算を請求されたということは事実なんですね。そしてそのことを各地方裁判所に、全体として五%については表彰に関する費用は予算で獲得されておるということを各地方裁判所あてに言われたことも事実ですか。
  114. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 五%予算要求いたしたことは間違いございませんが、五%まるまる認められたわけでございませんで、どうも二、三%のようでございます。その額は各地方に確かに調停委員の数に比例してお送り申し上げていると思います。
  115. 正森成二

    ○正森委員 そうすると、一人当たりの表彰費の額がいわゆる水増しじゃなしに水増しをされて少なくなったということになろうかと思いますが、公務員の身分の問題について時間の許す限り——それでは午前中はこれで……。
  116. 小平久雄

    小平委員長 この際、暫時休憩いたします。    午後零時三十五分休憩      ————◇—————    午後一時五十六分開議
  117. 小平久雄

    小平委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。正森成二君。
  118. 正森成二

    ○正森委員 現在裁判所を簡易裁判所と地方裁判所に分けていただいてけっこうですが、裁判官の常時在庁しない裁判所は幾つありますか。
  119. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 乙号支部で九十五庁、簡裁独立庁で百四十四庁でございます。
  120. 正森成二

    ○正森委員 現在調停でも裁判官不在の調停が行なわれているということが非常にいわれているわけですが、そういうように裁判官が常時いないところが合計すれば二百をはるかにこえるというような状況のもとで本法案改正が行なわれようとしておるということになりますと、裁判官がいない調停というようなことがますます広がるのではないかという危惧を弁護士会その他が持っておられるわけですが、今度の改正によりますと調停委員というのは最高裁判所が任命するということになって、従来とは非常に変わってくるわけですが、これは他の委員がお聞きになりましたが、念のためにもう一度伺いますが、従来の調停委員の身分というのは、国家公務員法上どういう身分になっておりましたか。
  121. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 事件限りでの非常勤公務員ということになっております。国家公務員法の適用につきましては、非常勤職員として適用の除外される事項あるいは適用される事項がそれぞれございます。
  122. 正森成二

    ○正森委員 現在でもそれぞれ指定されまして事件を扱っている間は非常勤の国家公務員ということになっていたと思います。そこで、その経済的対価でありますが、先ほど日当だとか手当だとかだいぶ法務大臣の宸襟を悩ましましたが、日当だそうでありますが、実際上は調停委員規則という昭和二十六年最高裁判所規則第十一号ですか、それによって日当は、「執務及びそのための旅行に必要な日数に応じて支給する。」「日当の額は、一日当たり千三百円以内において、裁判所が定める。」こういうことになっていたと思いますが、それで間違いありませんか。
  123. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 仰せのとおりでございます。
  124. 正森成二

    ○正森委員 ところが実際の扱いとしては前に参考人質問のときにも出たと思いますが、千三百円ではなしに事件が二つ入っているというような場合にはそれにプラスアルファされて千三百円プラス千円、二千三百円支給されておるというようなことがままあったと伺っておりますが、それは事実ですか。
  125. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 午前、午後にわたりまして二件以上担当した場合に千円の範囲内で増加して支払った例がございます。
  126. 正森成二

    ○正森委員 そうしますとこの調停委員規則でいう、「調停委員等の日当は、執務及びそのための旅行に必要な日数に応じて支給する。」「日当の額は、一日当たり千三百円以内において、裁判所が定める。」という規則は、事実上守られていなかったと承ってよろしいか。
  127. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 調停制度発足以来、大体調停委員候補者の方は、一日に一件を担当していただくというたてまえで運用されてまいったと思います。大体一件が二、三時間というのが平均的な時間でございまして、したがいまして、一件二、三時間を担当していただくという前提で日当額を考えてきたというのが、歴史的な事実であろうかと思います。  そこで、たまたま一日に二件以上を担当していただいて、しかも午前から午後にわたって非常に御苦労されたという場合には、それに多少のプラスアルファをするというのが、これまた調停制度発足以来の慣行としてまいったわけでございます。それを現在まで承継してきたというのが現実の姿でございます。
  128. 正森成二

    ○正森委員 慣行についての御説明いろいろありがたいと思いますが、慣行であれ何であれ、規則が守られていなかったと承ってよろしいか、こう聞いているわけです。つまり、規則を慣行によって変更したのかと聞いているのです。
  129. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 たいへん苦しい答弁でございますが、一日一件二、三時間というのを一日と私どもは解釈いたしてまいったということになろうかと思います。
  130. 正森成二

    ○正森委員 それは非常におもしろい解釈で、いやしくも法の番人である最高裁判所がそういう解釈をしなければならないというのは、よほど苦しい事情があるに違いない。お顔を見ても苦しそうなお顔をしておられますけれども、それは結局調停委員規則では、「執務及びそのための旅行に必要な日数に応じて支給する。」つまり一日であれば一日、二日であれば二日というのを、故意に日数というのはまず二、三時間のことをいうのだ。午前、午後にまたがれば、これは数時間だから倍といいたいところだけれども、千円プラスするという慣行でございました、こういうことになるだろうと思うのですね。そうすると、あなた方の規則の定め方、もっといえば調停委員日当という形で経済的な対価を支給するという考え方に非常な無理があった。事実上、日当とはいいながら、内容は手当であり、あるいは報酬である、あるいは給与の一部であるという考え方をとらざるを得なかったから、日数というのは大体二、三時間のことだという非常に無理な解釈をして、そういう慣行を長らく続けておったのではありませんか。
  131. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 結局、日当ということになっておりまして、旅行雑費であるという定義づけがされるわけでございますが、その範囲内でできる限り支払いできるようにしたいというのが実際の気持ちでございます。
  132. 正森成二

    ○正森委員 私は、何も最高裁判所といえども木石ではないから実情に合うように規則を解釈することをいけないと言っているのではないのです。いけないと言っているのではないのですが、今回の法律改正にあたって、ある意味では本質にかかわる問題になっておるわけです。あなた方の答弁をいろいろ見ますと、日当である以上は手当だとか給与じゃないのだ。現行の法律、規則では、最高裁判所長官と内閣総理大臣だけが日当は千七百円なのだ、こういうことですね。だから、日当である以上はとてもそんなに出せないのだ、こう言うておられるにもかかわらず、法律にもなく規則にもなく、何にも根拠はないのに日数というのは大体二、三時間の執務のことをいうのだ、それをこえれば千円プラスして二千三百円になる。内閣総理大臣が千七百円だとなれば、調停委員はさしずめ大統領に匹敵するという解釈をしておられるわけでしょう。それは最高裁判所が百も承知のとおり、どんなに法律を解釈しても、規則を解釈しても出てこない。そういう解釈をして、わざわざお金を出しておられるということだと思うのですね。それぐらい融通無碍に解釈できるならば、今度の法律改正なんかやらなくたって、いろんなことができそうなものだと思うけれども、いままで実際上そうしてこられたということは、名目は日当だけれども、実際上は手当、給与、そういうものとして考えざるを得ないような内容を調停委員方々は御苦労願っておったということを、最高裁判所が明示であろうと黙示であろうと認めてきたからこそ、そういう扱いをしておられたのではないですか、内閣総理大臣よりもたくさん出すわけですから。
  133. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 私どもといたしましては、旅行雑費としての観念に入る限度で、できる限りということで運用してまいったということでございます。
  134. 正森成二

    ○正森委員 もうちょっとすなおにお答えになりなさい。さっきから同じようなことばかり答えているけれども、こちらは何も、給与についてあまり低いのを実際上の措置としてたくさん出したのを非難しているわけじゃない。そう解釈をせざるを得ないから、あなた方はそういう扱いをしたのではないですか、こういうことを聞いているわけだから、午前中の質問と違うんだから、そうびくびくせぬと答えなさい。
  135. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 日当でございますので、繰り返すようでございますけれども、給与的な意味を持たすことはできない。手当としての性質も違う。やはり日当日当なんだ。しかし日当としてはできる限りということで運用として取り計らってまいった、こういうことでございまして、それ以上ちょっとお答えしようがないわけでございます。
  136. 正森成二

    ○正森委員 その答えられないようなことをやってきたわけでしょう。規則にも、二件だったら千円プラスしてもいいというようなことはどこにもない。規則では日数に応じて支給しなければならぬとなっておる。日当については千三百円以内となっておる。どんなに首をひねったって出てこないことをやらざるを得ないのは、どうしても実費弁償的な、内閣総理大臣だったら別に歳費をもらって、そのほかに行くときは日当をもらうということだけれども、そもそも調停委員は何ももらっていないんだから、少しはふやさなければいけないということで、そういう解釈をしたんだろうと思うけれども、ということは、調停委員というのは普通の日当的な解釈ではなしに給与的な解釈を持ち込まなければあまりに気の毒だというのが腹の底にあるからこそ、そういう融通無碍な解釈をしたんでしょう。そうでしょうが。顔にはそうだと書いてあるよ、答えられないけれどもと。最高裁答えられないなら、大臣なら答えられるでしょう。融通無碍ですから。大臣何だったら答えてあげてください。
  137. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 予定よりも長時間仕事をしていただいたという意味で、御苦労に対して何らかの意味での謝意を表するという気持ちをあらわしているものと考えます。
  138. 正森成二

    ○正森委員 それじゃ、そういうぐあいに苦労して答えておられるのですから、これ以上聞きませんけれども、言外に、それは単純な日当ではないんだ、御苦労願っておるんだということで給与的な色彩を持っているということを認めざるを得ないような御答弁だったと思うのです。  そこで私は伺いたいのですけれども、今度あなた方は法律改正なさって、任命した上で一般職の職員の給与に関する法律の二十二条を適用なさるおつもりですね。そうでしょう。
  139. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 仰せのとおりでございます。
  140. 正森成二

    ○正森委員 前にほかの委員もお聞きになりましたが、そうだとすれば、現在の調停委員あり方のままでも一般職の職員の給与に関する法律をその限りにおいて適用して、第二十二条で勤務一日について一万二千円をこえない範囲で支給することは、これは十分法律的には可能だと思うのです。絶対にできないというものではないと思いますが、法律的に絶対にできないものですか。
  141. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 先ほどからのお尋ねのとおりでございまして、調停委員非常勤公務員でございますから、その職務の遂行に対する報酬として給与の支給は考えられるべきであるという考えは、おっしゃるとおりだと思います。ただ現在の調停委員が、午前中にもお話が出ましたように、いわば民間人の無償の奉仕というものに依存する制度として発足したことも、これもまた事実だろうと思います。現行法上は形式的には調停委員には旅費日当及び宿泊料、家事調停の場合は止宿料と申しておりますが、を支給するとのみ規定してございます。先日青柳委員から御指摘がございましたように、手当は支給しないとは書いてないではないかという御質問がございました。ただ、私どもといたしましては、先ほど申し上げたような理由から、現行法下はやはり調停委員には旅費日当及び宿泊料のみ国から支給するというふうに解釈してまいったわけでございます。一般職の給与法の二十二条一項の問題でございますが、ここに掲げてあります委員は、顧問、参与というふうに並列してございまして、この委員はやはり資格要件の相当高い者であることを予定しているものと解せざるを得ないのでございます。したがいまして、先ほど申し上げましたような制度として発足した現在の調停委員に二十二条一項の手当を支給することはやはり問題があるというふうに考えておるわけでございます。  今回はこの体制を改めて支給できるような形にしたわけでございますが、またこれも何回も御指摘申し上げたわけでございますけれども現在の、現行法下の調停委員が、事件限りではございますが、非常勤公務員ということでございますが、その身分を取得いたしますのは、調停主任及び家事審判官事件の指定をすることによって公務員の身分を取得するということに相なっておるわけでございます。この調停主任及び家事審判官は、いわば手続上の機関でございます。このような手続上の機関がいわば公務員性を付与するということは、他に例を見ない変則的な形であろうかと思います。今回の改正によりまして、ほかの要請もありまして、調停委員を任命制の非常勤公務員とすることによって、その点は、司法行政機関が任命するということに相なりますので、その意味でもすっきりした形になる。  それからもう一点、現在の調停委員は御承知のとおり候補者制度をとっております。候補者制度をとっておるからといって二十二条の一項の委員に当たらないとはあるいは言い切れないかもしれませんが、ほかに例を拾ってみますと、その場合におきましては、やはり行政主体といいますか、それが任命をしている例でございまして、現行法下の調停委員のようにいわば手続機関公務員性を付与するというのは、他に例を見ないようでございます。  以上のようなことでございまして、現行法下の調停委員に二十二条一項の手当を支給することにはやはり問題があるというふうに考えておる次第であります。
  142. 正森成二

    ○正森委員 いま現行法ということをおっしゃいましたが、現行法では日当旅費、宿泊費ということだけの支給になっておる、だから無理だと言われましたが、いまもるる質問したように、日当のほかに千円は支給しておるわけですから、それはいかなる意味でも日当とはいえないわけだから、日当は一日千三百円以内、こういうことになれば、日当以外に御苦労賃ということで千円出しておるわけです。ですから、あなたがそれほどしゃくし定木に法律の規定を適用されるなら、千円はいかなる根拠で出しておったのか。法律にもない、規則にもないということを言わざるを得ないのですね。それを出しておったというのは、出さざるを得ないような、そういう解釈の余地を許す実態があったからでしょう。  そこで私は伺いますが、かりに現在の調停委員の身分のままで民事調停法の第九条を、「調停委員には、別に法律で定めるところにより手当を支給し、並びに最高裁判所の定めるところにより旅費日当及び宿泊料を支給する。」こういうぐあいに変えれば、一般職の職員の給与に関する法律を適用して、調停委員に一日一万二千円の範囲内で手当を支給することは十分に可能であるというように思いますが、いかがです。
  143. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 ただいまのような形で法律改正いたしました場合に、絶対に支給できないというふうにはあるいは言い切れないかもしれませんが、先ほど申し上げましたように、現行制度が発足したのを全く変えるという趣旨であること、それから現行法下で合意調停委員制度がございますが、この種のものはやはり給与としての手当を支給するのはいかがかということもございます。したがいまして、法律の形といたしまして、絶対に支給できないということは、先ほど申し上げました高い資格の要件を充足した者を調停委員に任命するという前提でありますれば、絶対に乗り得ないという趣旨のものではないというふうに考えます。
  144. 正森成二

    ○正森委員 非常におかしな答弁だけれども、あなたのいまの説明だと、政府が出している法案に賛成しなければ手当も結局支給できないというように聞こえるけれども、そうじゃなしに、現行の、候補者の中から指定でいくという法律のままでも、第九条をそういうように変えれば、形式的にはこれは手当を支給できるのじゃないか、こう言っているのです。それは、現在、わが党の青柳委員が本法案に対する修正案を提出されましたけれども、それは衆議院の法制局でも十分に審議をされて、それは現行の法体系でも十分可能であるということで提出しているのですね。だから、最高裁判所の任命制度にしなければ絶対に支給できないという性質のものではない。私は、形式的に考えればそういうことは十分に主張し得るというように思いますが、いかがですか。
  145. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 現在の形のままでという前提をおとりになりました場合に、ただいまの現行法下の調停委員の任命資格を二十二条一項の委員が要求していると思われる資格まで高めた上でいまのような御改正をいただければ、絶対に支給できないわけのものではないというふうに申し上げる次第であります。  それからもう一点は、調停主任あるいは家事審判官が指定することによって公務員性を取得するというところをすっきりさせる必要がやはりあるのではないかというふうに私ども考えておる次第でございます。
  146. 正森成二

    ○正森委員 それは政府考えだ。あなた方は法案を出しているからそういうように答弁をするけれども、そんなようにしなくても、現在の委員でも十分にそれは可能だというようにわれわれは思うから修正案を出しておるし、衆議院法制局は別にそれで疑義はないというように言うておるのですね。それにあなたは一々、一般職の職員の給与に関する法律二十二条にいう委員だとか顧問だとかいうのと同等の資格であればどうこうというようなことをしょっちゅう言うけれども、何です、それは。それじゃあたかもいまの調停委員というのは、二十二条にいう委員だとかそういうのにも全く匹敵しないしょうもない人間で、この法案が通って何%か淘汰されれば、これから突如としてえらい委員になるというような言い方じゃないですか。いま調停委員で非常に御苦労なさっておる方々に対して非常な侮辱を与えるものじゃないですか。現在の調停委員制度のもとでも、調停委員として適当でない者には、これを取り消すことができるというようになっておる。それほどぐあいの悪い人間なら取り消せばいいじゃないですか。取り消さないでやっていただいているのは、調停委員として十分に御苦労願えるだけの資格を持った人だと思っているからにほかならないでしょう。それをそういうぐあいに仕事をさしておいて、現在のはだめだ、二十二条は適用できない、最高裁判所が任命すれば突如として二十二条にいう委員と同等のそういう資格を持ったりっぱな方になるのだというようなのは、今度の法律案を非常に擁護する立場から言っているのかもしらぬけれども、現在の二万人に及ぶ、このうしろにもこの間午前中あるいは他の日にも傍聴しておられた調停委員に対する非常な侮辱になるのじゃないですか。それほど今度の改正最高裁判所が任命しさえすればりっぱな人になるのですか。いままでだって弁護士も選任されておった、今度だって弁護士とか法曹資格ある者というのは一番トップに持ってきているでしょう。どこが違うのですか。
  147. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 現在の個々調停委員方々に対して侮辱的なことを申し上げている趣旨では毛頭ございません。制度としてより資格の高いものを資格要件とすることについて申し上げているのでございまして、現在の調停委員方々の御労苦に対しては決してそのようなふうに思っておりません。
  148. 正森成二

    ○正森委員 だから私はぎりぎり聞いておる。現在、指定によって非常勤の国家公務員資格を持つというものであっても、第九条を私が言ったように改正すれば手当を支給し得る余地はある、法律的に可能であるということでしょう。
  149. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 現行法下の調停委員の選任ないし指定につきまして、やはり高い資格要件が二十二条一項の解釈として要求されるものというふうに考えております。
  150. 正森成二

    ○正森委員 非常に回り回って言うから何のことかわからないけれども、現在提出されている改正案を通そうとするあまり、二十二条の解釈についても、現在の調停委員の指定制度というか、あるいは職務を行なっていただくについてのあり方というものに対するべつ視があなたの答弁の端々ににじみ出ているというように思わざるを得ません。そして、衆議院の法制局にも相談しましたが、現行の指定制度のもとでも、法律改正によって十分手当を支給し得るというようになっておりますから、あなた方が現在出しておられる改正案、こういう資格の者でなければ一般職の職員の給与に関する法律二十二条が適用できないというように読み取れるような答弁には私は満足できないということを申し上げておきたいと思います。  そこで、今度は任命制度に変えるわけですけれども、私が最高裁判所にお願いをして取り寄せた資料によりますと、いまも答弁の中で出てまいりました当事者の合意によって定められる者、あるいは調停主任が事件を処理するために必要があると認めるときには、前項に掲げる者以外の者を調停委員に指定することができるという規定、これらはあまり活用されておらないように見受けられるわけですね。私がその人数等についての統計資料を出しなさいと言ったら、それはわからないとおっしゃったのですが、それはそのとおりですか。
  151. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 統計資料をとっておりませんので、事件数その他についてはわからないわけでございますが、個々裁判官等に伺ったところでは、あまり利用していないということでございます。
  152. 正森成二

    ○正森委員 当事者の合意で定める者、それについても調停主任が各事件についてあらためて指定するわけです。何も当事者が合意すればそれが即調停委員になるわけじゃないですね。あくまで調停主任である裁判官が各事件について指定するということになって初めて調停委員資格を得るわけですが、これは実際上、活用のしかたによっては、国民の国民による国民のための調停という上からいえば非常に重要な役割りを果たし得るものであるというように私はかねがね思っているわけであります。  それが証拠に、あなた方の、昭和四十五年三月、「民事実務講義案」という裁判所書記官研修所で講義する教科書がある。その教科書を見ますと、ちゃんと一一三ページに「当事者が合意で当該事件調停委員として指定することの申出をした者も、指定の候補者となる。」「調停主任裁判官において、当該事件の処理上必要があると認めたときは、右(一)、(二)以外の者を調停委員に指定することができる。民事一般調停事件において特殊の技術関係の者を指定するとか、家事調停事件において当事者の勤務先の上司を指定するような事例がある。」というように、こういうことは非常に有意義だから活用するようにということで、わざわざ教科書に書いてあるのですね。あなた方は裁判所書記官研修所ではこういうことを講義しながら、実際上ではそれを軽視して活用せず、その統計もとっておらないというのは一体どういうわけです。それぐらいなら、こんなものは活用されていないということで、書記官研修所の教科書から削っておけばいいじゃないですか。わざわざこれをやるようにいっておいて実際上は活用もしていない、統計もとらないというのは、現行の法律にあるものを明らかに軽視して、実際上国民の中から調停委員を選ぶということをやらないようにしているのじゃないですか。
  153. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 書記官研修所の教材は教官の方がお書きになられるものでございまして、私どもはその内容を存じておらないわけでございます。お書きになられました教官はそういうお考えでお書きになられたのかもしれませんけれども、現実の問題として利用されておらないということでございまして、特にそれを軽視しておるという意味ではございません。
  154. 正森成二

    ○正森委員 この教官は安倍さんという方です。しかし、あなたは個人としての意見で書かれたんだろうと言われましたけれども、論文を書いたわけではないので、裁判所書記官研修所の講義案として書かれて、そしてそういうことで教育をしておるのですね。それなら、それ相応の重要性をやはり認めるというのが正しいのではないですか。単に個人の見解だというようには片づけられないでしょう、教科書として出しているんだから。
  155. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 教科書でございますので、現行法の解釈をお書きになったものと思うわけでございますが、個人的な見解と申しましてはあるいは言い誤りでございまして、解釈としてそういう事例を考えておられるということであろうと存じます。
  156. 正森成二

    ○正森委員 いま解釈としてそういう事例を考えておられるということでしたが、これを見ると、「特殊の技術関係の者を指定する」とか「当事者の勤務先の上司を指定するような事例がある。」ということで、そういうことは好ましいという意味のことを示唆しておられるわけですね。少なくとも私どもはこの教科書を読めばそういうように思える。また事実、かりにこの解釈が誤っていたとしても、調停事件というものは、あらかじめ候補者として選定された者だけでなしに、実際上当事者がこの人に調停委員に参加してもらって調停をしてもらいたいということであれば、調停主任は場合によってはその人を指定する、あるいは事件によってこういう技術をよく知っておる人が調停委員になればいいと思えばそれを指定するということができるように現行法ではなっているのですね。これは条理に導かれて当事者が合意によって事案を解決するという調停制度に非常にふさわしいものだと私どもは思うのですね。それが今回はばっさりと削られてしまっているでしょう。こういうのはあったほうがいいんじゃないでしょうか。
  157. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 ただいまの御指摘の例の中で、いわゆる臨時調停委員と呼ばれております者、これは事件の内容によりましてある程度専門的知識を持った方を特に調停委員にお願いしなければならない、またお願いしたほうがよりベターであるという場合に、お願いする制度として確かに法律上認められているものでございます。しかし、この制度につきまして今回の改正案で考えておりますところは、事件の内容に応じましてやはり各界の専門的知識、経験を有せられる方を広く調停委員としてお迎えしようというたてまえをとっておるわけでございますので、臨時調停委員にまつまでもなく、調停委員の中で適切な方を選ぶことができるというのが第一前提でございますし、またさらに、そのときにたまたまどうしてもその領域での専門家が調停委員となっておられなければ、あらためてそういう専門家を調停委員として正式にお迎えすれば足りることであり、臨時調停委員という制度を使う必要はないではないか、そういうのが第一の理由でございます。  次に、合意調停委員関係につきましては、やはり今度の改正の趣旨といたしまして、調停事件の運営にあたりましては、できる限り当事者とは関係のない客観的な立場でもって公正、中正に事案を判断し、事案に即した適切な解決をなし得る方々調停委員としてお迎えしようということであって、当事者と直接結びつきのある方に調停委員になっていただくという制度は必ずしも望ましくないのではないか、むしろそのほうが欠陥が多いのではないか、こういう趣旨でもって合意による調停委員という制度やめるということを考えておるわけでございます。
  158. 正森成二

    ○正森委員 私は、そういう考えであれば、ますます賛成することはできません。なぜなら、合意できめるといっても、自分一人できめるわけじゃないんで、相手方との合意で、この人に調停委員になってもらいたいということできめ、しかもそれを調停主任が、この事件については妥当であるということで賛成するという二重の、いわば恣意的なものでないようにする歯どめがかけられておるのですね。ですから、それをわざわざ排除するということは、調停委員を一般的に公務員にするということとあわせ考えると、最高裁判所は統制することができるように、現在の国民の中から調停委員を選ぶという性質を非常に希薄にして、官僚化するというように言われてもしかたがない一面を持っているんじゃないかというようにわれわれは思います。  そこで、そういう一つの例証として、少しかたい話になりましたので、多少やわらかいことを言いますと、「家事調停条項例集」というのが昭和四十五年九月に、司法研修所の民事弁護教官室によって作成されております。これを見ると、非常に血もあり涙もあるという家事調停が行なわれておる。御参考のために読みますと、たとえば夫婦の和合の家事調停では、「相手方は下記各項を厳守すること。(イ) 職場に真面目に出勤し、辛抱強く働くこと。(ロ) 意思の弱い点や、気分の変りやすい点を自分努力でなおしてどんな境遇におかれても決して間違いをおこさないよう精神を鍛練すること。(ハ) 忍耐心を養つて、すぐに腹を立てたりしないようにすること。(ニ)小遣銭の使い途を明らかにし、無駄使いをしないこと。(ホ) ときどき自分はこれでよいのかと反省する。」これは全部私なんかにも当てはまることでありますが、こういう調停条項をつくっておるのです。あるいは夫婦協力扶助の調停条項を見ますと、「1、相手方は申立人に対し、下記事項を誓約する。(イ) 飲酒は週2回とする。(ロ) 何事も嘘をいわない。(ハ) 家庭内のことは全部相談する。(ニ) 外で酒を飲んで帰らない。(ホ) 月の初めに1カ月の計画を立てて楽しい家庭を築く。2、申立人は相手方に対し、下記事項を誓約する。(イ) 家庭の主婦として細心かつ愛情ある心遣いをする。(ロ) 愛情を以て子供を養育する。」こういうような内容になっているんですね。これは、法律要件がどうのこうのというようなことばかり考えている人ではできない調停条項で、おそらく、家事調停ですから女性も入られ、そしてまた法律家以外の男性も入れてなされたものだと思うんです。これは実に、人間としての情のこもった調停条項ですね。  さらにお聞き願いたいと思って幾つかおもしろいのを申しますと、こういうのがあるのです。「申立人と相手方は、円満なる夫婦生活を継続できるよう双方共努力し、相手方は申立人に対し、暴力を振うことを慎しみ申立人はできるだけ相手方にさからわず、従順でやさしくつくすこと。)こういうようになっておる。あるいはその次を見ると、「当事者らは過去の事件に関し、一切口外しないように心掛け、今後は互いに協力して紛争を起こさないように努力し、万一なんらかの問題が起つた場合にも従来のように申立人は家を飛び出すことなく、本件当事者ら及び必要によっては第三者を交えて良く相談のうえ行動を決する。」実に愉快な調停条項でありますが、そのほかにもこういうのがある。「当事者双方は相互にその親族や家族の事に関し、その職場等に投書する等の中傷するような行為は一切しないこと。」おそらくどちらかマニアみたいのがおって、職場に投書をしたんだろうと思うのですが、そういうことをいうておる。その次の調停条項を見ますと、「申立人及び相手方は長女〇美子外5人の子女に愛情をもつて接すること。相手方は子供に対し小遣銭も気持よく出してやること。」こういうのがある。小づかい銭も、大臣、気持ちよく出さぬと、離婚の原因になるようでありますが、こういうようなことは法律家ではあまり気がつかないのですね。  さらにこういうことまで約束しておるのがある。「相手方は婦人との交渉において妻である申立人の疑惑を受ける事のないよう注意する。将来相手方の行動につき、申立人が疑惑を持つた場合申立人がその交際人物につき調査することに対し、相手方は異存がない。」つまり、愛人ができた場合には調べられてもやむを得ませんということを、あらかじめ無条件降伏するようなかっこうになっておるんですね。  こういうことを長々と言いますのは、こういう調停ができるというのは、非法律家の人、国民の中から出た調停委員が参加されてやったからこそ、こういうことになるんだ。こういういいのは、少なくとも家事調停などについては、十分に残す必要があるのではないかというのが私の意見であります。その意味では、第七条の二項の二号とかあるいは三項というようなものは、十分に活用される必要がある。  あと、おもしろいのがもう二つほどありますから読みますと、たとえば「相手方は今後飲酒を慎み、一度に二合以上は飲まないこと。又単独で家庭外では飲酒しないこと。」こういうことを約束しておるのがあるわけですね。それからあるいは、「相手方は毎日清酒一合に限り、家庭において飲むことが出来ること。それ以上は如何なる酒類も絶対に飲まぬこと。」こういうぐあいになっているわけで、委員長などはさぞお苦しいんではないかと思うわけですが、別の調停ではこんなのがあります。「相手方は今後パチンコなどの娯楽に耽けることのないよう自粛して修養に努め、自己の生業に専念すること。」「相手方は爾今、賭博を絶対にせず、釣遊び、野球遊びを程々にして、かつ、申立人の子女を可愛がり、円満な家庭生活をする様努力すること。」まあ読めば切りがないんですけれども、それから愉快なのはこれがありますね。これは、だいぶ人格を侵害されている点もあるんですが、「相手方は今後における俸給日、ボーナス支給日には相手方勤務先である徳島〇〇株式会社購売部において申立人と落ち合い、〇〇同道の上帰宅すること。」つまり、女房立ち会いでないと給料やボーナスはもらわないということを約束をしておるわけですね。そのうち、国会にもこういうのが来るかもわからぬわけですが、私は何もこれがいいと言うておるんじゃないですけれども、ここまで調停条項をつくって、とにもかくにも双方が合意しておるということは、結局、会社へ女房がのこのこ出て来て給料を受け取ることを認めにゃしようがない、それで円満にいこうということになったんだろう、こう思われるんです。  私は、こういう愉快な、そして人情の機微に合致したような調停案というものが、今度最高裁が任命でばっといく、そしてしかもいまの法律案にある「当事者が合意で定める者」とか、あるいは必要な者というようなものを削ってしまうというようなことの考え方をどんどん進めた場合には、こういう非常に愉快で人情の機微に触れたような調停ができなくなるんじゃないか。  しかも、家庭局長に伺いたいんですが、家庭事件については履行の確保ということも非常に大事なんですね。この場合に、賭博をしないこととかパチンコをしないこととか清酒は二合以内で妻と同伴でなきゃ飲んだらいかぬとか、また別のところにはみだりに会社をサボらないこととか、いろいろあるんですが、そういうのをほんとうに確保しようと思えば、これは一番いいのは、職場の上司や同僚がお互いに調停委員になるというようなことで調停ができたような場合には、これは現実に見ておるわけですから、非常に履行の確保もできるわけです。私は、わざわざこういうようなものを除いてしまうというようなことは必要がないのではないかと思いますし、こういう点は、それは使い方によれば危険な点もありますが、調停主任がきちんとやれば、これは非常に和気あいあいとした、そうして当事者の微に入り細にわたった、そういうところにまで触れた人間味のある調停ができるんじゃないかというように思うんですが、家庭局長はどう思われますか。
  159. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 ただいま、いろいろおもしろい例を御引用になりまして、実は私も、アメリカのカルフォルニアの調停の条項というのをある人に見せていただいたことがあるのでございますが、それによりますと、夫が妻をかまわないような事案につきまして、少なくとも夫は毎週二回妻と夫婦関係を持つことといったような条項があったのを見て驚いた記憶がございます。アメリカでのそういうふうな条項、これは強制執行するということはできませんので、それはどういうふうなことでその履行が確保されているかということを研究した方から伺いましたところでは、裁判所侮辱罪、法廷侮辱罪といいますか、それでもって間接に強制するといったような方法をとっておるようでございます。わが国のほうではそういうふうなあれはできませんので、御承知のように履行確保の制度昭和三十一年に設けまして、せっかく話し合いできまったことも一方が守らないと不誠実であるといったような場合は、その不満を持たれた方のほうが家庭裁判所にお申し出をなさいますと、家庭裁判所で履行の勧告でありますとか、あるいはもし金を払わないなら寄託して相手方にお金を払えるように取り持つような制度というものをつくってまいってきたのでございますが、先生が御指摘のような人情味のある、味のあるおもしろい条項ができるというのは、一つには、やはり家事紛争というものが、権利の存否というものが主として争いとなるのではなくて、人間関係のもつれから、その関係をどういうふうに円満に維持していくか、また発展させていくかということをテーマとしておるということにも起因しておるのではなかろうかという気がいたします。  ただいまは臨時調停委員とかあるいは合意調停委員制度やめるのは惜しいではないかというお話でございましたが、家庭裁判所の立場からいたしましても、やはり国民の方々に質のいいサービスを提供できるような裁判所でありたい、また調停でありたいということを考えますと、調停委員さんにはなるべくりっぱな方になっていただきたい。したがいまして、いままで徳望良識ということだけで調停委員候補者方々考えておりましたけれども、もちろん徳望良識がある上に、なお識見の高い経験の豊かな方をお迎えして、当事者に十分納得いただけるような調停をできるようにして差し上げたいというのがねらいでありまして、そういう点を御了承いただきたいというふうに思うわけでございます。
  160. 正森成二

    ○正森委員 私は、今回の改正が徳望良識ということだけでなしに、三つほど要件をきめておりますが、それが全部いけないと言うておるのではなしに、それはそれで非常にけっこうだと思っております。ただ、それにもかかわらず、調停委員にそういう方が選ばれると同時に、現実に職場におられる方の中にも、非常にしっかりしておられるという方は幾らでもおられますし、そういう方を活用し得る余地を残しておいたほうが実際上国民の中にある調停制度としてよりいいのではないかという意見を持っているわけです。それが失われるということがかりにあるとするならば、非常にさびしいことであるというように思うわけです。  続いて、その関係のことを伺いたいと思うのですが、今度の改正案では、第八条で民事調停委員の職場をきめまして、「調停委員会で行う調停に関与するほか、」これは従来のものですが、「裁判所の命を受けて、他の調停事件について、専門的な知識経験に基づく意見を述べ、嘱託に係る紛争の解決に関する事件関係人の意見の聴取を行い、その他調停事件を処理するために必要な最高裁判所の定める事務を行う。」こうなっております。順次伺いたいと思いますが、一番最後の「その他調停事件を処理するために必要な最高裁判所の定める事務を行う。」こうあるからには、最高裁判所としてはこれを規則その他できめなければならないと思うのですね。そういう御予定ですか。
  161. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 私どもが規則として考えておりますことは、嘱託にかかる事実の調査を調停委員にお願いできるようにしたいということでございます。
  162. 正森成二

    ○正森委員 嘱託にかかる事実の調査ということを言われましたが、そこで最初の私の質問にまともに答えておられないわけですが、これは最高裁の規則でお定めになるおつもりでしょうか。
  163. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 規則で定めるという考えでございます。
  164. 正森成二

    ○正森委員 そこで伺いたいと思うのですが、規則でお定めになる規則というのは、憲法七十七条できめられている最高裁判所の規則制定権によっておきめになるつもりですか。それとも法律の委任があるから、そこで規則で定めるというようにお考えですか。それともその競合ですか。
  165. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 この法律案の八条一項に定めております委任規定に基づく規則と考えております。
  166. 正森成二

    ○正森委員 しかし憲法七十七条の訴訟に関する手続については、最高裁判所は規則を定める権限を有するわけですが、訴訟に関する手続の中に入るということもまた事実ですね。
  167. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 広い意味では確かに手続に関する規定になるわけでございますが、調停委員としての職務内容を定めるという意味で、直接国民に対する権利関係に影響があるという意味で、法律の委任規定が要るというふうに考えております。
  168. 正森成二

    ○正森委員 そこで伺いますが、主として憲法七十七条の最高裁判所の規則制定権に関連してでございましたが、法律の委任に基づく場合でも、法律最高裁判所が定めた規則について、それが矛盾するような場合にはどちらが優先するかについて従来学説が分かれておりました。現在この法案が出ておるわけですが、最高裁判所はどの説をおとりになるつもりですか。
  169. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 最高裁判所として従来どの見解に立つということは明らかにしておらないのではないかと思います。あとは具体的な事件におきまして、裁判になりましたならば、各裁判所判断されることがあり得ると思いますけれども、従前のところ最高裁判所としてどの見解に立つということを明示したことはなかったように記憶しております。
  170. 正森成二

    ○正森委員 そういうお答えだと、私としては本法案を審議するにあたってますます心配であると言わなければなりません。私が調べたところでは、こういう問題に関連して最高裁判所では二つほどおもしろい例があります。  一つは刑訴規則の三条三号について最高裁判所が判例をつくっておるわけですが、そこでは最高裁判所昭和二十五年十月二十五日大法廷判決でいっておりますが、これはこの問題にもろに答えたわけではありませんけれども、その当時沢田裁判官の少数意見がございまして、沢田裁判官というのは、矛盾がある場合には「法律の規定を改廃する規則を制定することは、その委任の範囲を逸脱するもの」であるというように述べておるわけですね。ところが、多数説はこの問題に対して正面から答えないで、避けて通っているというかっこうであります。  もう一つは人身保護規則四条というのがあります。これは人身保護法第二条一項に「法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる」という規定があるわけです。ところが、人身保護規則の四条で「法第二条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。」こうなっておりまして、人身保護の請求をなし得る場合を法律が規定しているところよりも著しく狭く解釈しているという問題があります。この問題については、最高裁判所昭和三十年九月二十八日大法廷判決において、これはこれでいいんだということを判決しておるわけです。それに対しても同じく藤田、池田両裁判官の共同少数意見がありまして、この少数意見というのは「憲法につながる人身保護法の本旨に照し、規則四条は無効と断ぜざるを得なくなるのであろう。」、こういうように言うておるのですが、多数意見はこれを退けておる、こういうことであります。したがってこれらを勘案しますと、学者もそう言うておるわけですが、「法律の優位を認めた意見が表示されているが、いずれも少数意見としてであって、最高裁判所としては、未だ明確に法律と規則との効力上の優劣についてその見解を明らかにした判例はないようである。」正面から答えていませんからね。「それのみでなく、多数意見には規則を重しとする考え方さえあるのではないかと疑わさせるものがある。」というように田中和夫教授は言うておられるわけですね。そうだとすると、この民事調停法の八条を審議するにあたって、われわれは重大な危惧の念を抱かざるを得ない。なぜならば、これは憲法七十七条の、最高裁判所の規則制定権の中にも入り得る問題であり、しかも法律が一定の委任を与えている場合に、もし最高裁判所が、規則のほうが法律よりも上なんだ、規則できめればたいていのことはできるんだという解釈をとるとすれば、これは非常にゆゆしい問題であるといわなければなりません。私はそう思ったから質問したけれども、民事局長は、最高裁判所についてはそういう見解はまだ出ていない、決して法律が優位だとはおっしゃらないわけですね。そうだとすれば、この八条でまさに一定の範囲で最高裁判所に白地でまかしてしまうということにならざるを得ない。それは非常に物騒なことであり、今度調停委員公務員化され、任命制度になるということとからんで、この第八条の運用いかん、規則制定のいかんによっては、調停委員というのはその職務内容においても公務員化され、官僚化してしまうという危惧の念を払拭することができないと思います。それについてどう思われます、どういう歯どめがありますか。
  171. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 事務当局といたしまして、どの見解に従ってやるということを言える立場にはございません。結局規則の問題は、終局的には最高裁判所裁判官会議できめられることでございますので、それ以上立ち入ったことを私どもとしては意見を述べるわけにはまいらない立場にあると思います。
  172. 正森成二

    ○正森委員 そうだとすると、私は、この第八条についてはこれ以上審議ができないと思うのです。最高裁判所裁判官会議でおそらくきまることでしょう、規則制定諮問委員会というようなのもあるようですけれども。しかし、現在の改正案の八条についてはまだ最高裁判所の規則の最終版というものはもちろんできておらない。かりにできたとしても、一たんこの法案の第八条というものが通れば「その他調停事件を処理するために必要な最高裁判所の定める事務を行う。」調停事件を処理するためのものであれば大体何でも入るようになっておる。それが結局調停委員仕事としてきまっていくということになる。こういうことになれば、調停事件関係するものは何が入ってくるかわからないから、そんなものをいまここでふんふんと言って通せば、最高裁判所は、現在でも、また三年先でも五年先でも、いろんなことを入れてくることになるわけです。そうでしょう。それはまさかそこでくつの修繕をせいとかそんなことは入れないでしょうけれども、「調停事件を処理するために必要な最高裁判所の定める事務」こうなれば、調停事件関係があれば原則として大体何でも入り得ることになる。しかもその規則は、あと法律ができても、規則と法律とどっちが優先するかということについては、結局最高裁判所がきめることになるんだという解釈だとすれば、そんなもの物騒でこんな法律通せないじゃないですか。調停委員六千五百万円と引きかえに一体何を言いつけられるかわからない、そうなるでしょう。
  173. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 法律と規則との関係に関する一般的な議論の問題は別といたしまして、本条に関する限り申し上げますと、まず「裁判所の命を受けて、」という法律用語が入っておるわけでございます。ここでいう「裁判所」と申しますのは、いわゆる受調停裁判所調停事件を担当する裁判所もしくは受託裁判所ということになるわけでございますが、受調停裁判所が定める事務、受託裁判所が定める事務というのはおのずからそこに限定があるわけでございまして、無限に広がるものではあり得ないわけでございます。さらに法律の中で例示的に調停委員の単独で行ない得る事務というものを掲げておりますので、その例示されました事務と質的に異なる事務は当然考えられないわけでございます。しかもその上で調停事件の処理において必要な事務ということになりますと、おのずからその範囲はきわめて狭い範囲になるわけでございまして、私ども事務当局として現在考えておりますのは、先ほど申し上げました嘱託による事実の調査以外には考えられないし、考えてもいない、こういうふうに申し上げているわけでございます。
  174. 正森成二

    ○正森委員 そういうようにおっしゃいますが、それならばなぜそういうようにこの法案をおつくりになりませんか。そういうぐあいにおつくりにならないで、いまあなたは裁判所の命を受けてということが頭にかかっているからということをおっしゃいましたが、しかしこの条文をよく見ると、「その他調停事件を処理するために必要な最高裁判所の定める事務を行う。」こうなって、この項には何らの限定がありません。したがって「調停事件を処理するために必要な最高裁判所の定める事務」というものを最高裁が規則できめて、その中でこれを裁判所の命を受けてやりなさいというようにきめれば何でもできるのでしょう。それはもちろん調停事件関係しないことはできませんよ。しかし調停事件を処理するために必要なことだったら、最高裁判所は何でも命じられるのじゃないですか。
  175. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 受調停裁判所の職務内容と申しますのは、調停事件の申し立てを受けまして、それを受理してから終了するまでの事務でございます。その範囲の事務の中で最高裁判所が定め得るだけでございまして、何でも最高裁判所が定めてそれを受調停裁判所に命じ得るということではございません。全く逆になると存じます。
  176. 正森成二

    ○正森委員 私は何も調停事件以外のことで定められるというようなことは言うてないですよ。くつをみがけというようなことはできないでしょう、こう言うているのです。しかし調停事件を処理するために必要なことだったら何でもきめられるのでしょう。しかもその調停事件というのは、自分の受けている調停事件だけではなしに、一般に調停事件を処理するために必要なことは何でもきめられるのでしょう。そうじゃないですか。
  177. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 そうでなくて、最高裁判所が定め得る事務の内容は受調停裁判所がなし得る事務の範囲であるということを申し上げているわけでございまして、具体的に申し上げますと、調停事件の申し立てがございますと、その調停事件裁判官自身で調停をするかあるいは調停委員会を設けて調停委員会で処理をするかということをきめること、それからあと調停担当の裁判官なり調停委員会なりの公権的な作用として、たとえば証人の呼び出しを発付するとかそういったいろいろな事務がついてくるわけでございますけれども、そういった付随的な事務、それが受調停裁判所のなし得る事務でございます。その範囲内でということでございますので、その中で、しかも例示されているような調停委員にお願いするのにふさわしい事務ということになりますと、おのずから限定がある。したがって一般的に広がる、調停事件の処理のために必要であれば何でもできるんだということではない、そういうことを申し上げているわけでございます。
  178. 正森成二

    ○正森委員 何でもということに非常にこだわっておられるようですけれども、何でもということで常識はずれのことをきめると言うておるんではなしに、もちろん受調停裁判所がやることですけれども、受調停裁判所が申し立てを受けてから終局までにやるその中のことについて、最高裁判所は非常に広い範囲でこれは調停委員調停事件を処理するためにやりなさいということをきめる余地を残しているんじゃないですか。何も事実の調査ということだけでなしに、いろいろやれるわけでしょう。だからこそこういうあいまいもことした規定にしているんでしょう。
  179. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 説明が不十分であるかもしれませんけれども、受調停裁判所というのは要するに裁判機関としての裁判所という趣旨でございまして、行政官署としての裁判所ではございませんので、裁判機関としての裁判所のなし得る事務というのはおのずから限定がある。その中で、裁判官でなければできない事務というのは必然的に出てくるわけでございますので、調停委員にお願いできる事務の範囲というのはきわめて限定されているということを申し上げているわけでございます。
  180. 正森成二

    ○正森委員 いまいろいろ御説明がありましたけれども調停委員としてできる事務にはおのずから限定があるというように言われましたが、現在この法案に出ているものだってその限定というのは非常にあいまいになっている部分があるんじゃないですか。少なくも私の解釈ではそういうように思いますが、一つ一つ聞いていきますと、たとえば「嘱託に係る紛争の解決に関する事件関係人の意見の聴取」を行なうというのがありますね。それからいまあなたの御説明を聞きますと、「調停事件を処理するために必要な最高裁判所の定める事務」というのは事実の調査であるという意味のことを言われましたね。その事実の調査はもちろん調停委員会でなくても、調停委員ができるわけですね、今度の改正では。そうですね。
  181. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 この改正案におきまして、調停委員会として調停委員会を構成しない別の調停委員の方の御意見を伺いたいときめた場合に、その調停委員の方の御意見を伺うということでございます。事実の調査につきましても、調停委員会が事実の調査を他の裁判所に嘱託した場合に、その受託裁判所におきましてその事実の調査を調停委員にさせたほうがよいという場合に調停委員にお願いする、こういうことでございます。したがって、調停委員に委員会のメンバーとしてでなしに、調停委員として働いていただく場合はすべて調停委員会できめた場合に限られてくるわけでございますから、その意味でも限定が入ってくるわけでございます。
  182. 正森成二

    ○正森委員 そこで、そういうぐあいに調停委員が事実の調査に行ったりあるいは意見の聴取を行なうという場合には、その結果はどうするんですか。どうして調停委員会が認識し得る状態に置くんですか。それはやはり調書をつくらなければいけないでしょう。違いますか。
  183. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 二つの場合があると思いますが、一つは、調停委員会において専門的な知識を持たれた調停委員の方の御意見を伺う場合は、まさに調停委員会の面前でもって御意見を伺うわけでございますので、調書等書面をつくる必要がないと考えられます。それから嘱託にかかわる意見の聴取もしくは事実の調査の場合に関しましては、必要があれば調書をつくることになろうかとは思います。その場合には調書は書記官が立ち会ってつくるということになるのではないかと考えております。
  184. 正森成二

    ○正森委員 あなた方の見解によれば、書記官が立ち会ってつくるわけですけれども、そうすると、いままでは書記官はそういう意味での調書の作成は自分たち仕事に入っていなかったわけですけれども、これからは調停委員と一緒に出かけていって調書をつくるという仕事も書記官の仕事に入るわけですか。そうですか。
  185. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 入ることになろうと思います。
  186. 正森成二

    ○正森委員 現在書記官の欠員は何人ありますか。私のほうから言いましょうか。昭和四十九年二月一日付であなた方がお出しになった資料を見ますと、書記官は百二十八名の欠員になっております。家裁の調査官は四十五名の欠員になっております。これはおそらくその時点での正しい資料だと思いますが、いかがですか。
  187. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 そのとおりと承知いたしております。
  188. 正森成二

    ○正森委員 そこで私、伺いたいと思うのですけれども、のこのこ出かけていって事実の調査をしたり嘱託にかかる意見の聴取をして調書をつくるという場合に書記官が出ていくわけですが、その場合にはもちろん裁判官がいないわけですね。そうしたら、それを聞いてつくる場合に、一体調停委員はどういう役割を果たすのですか。書記官が独自で調停委員意見関係なく調書をつくるのですか。それとも調停委員は何らかの発言権を持っているなりあるいは書記官に対して一定の指図をすることができるのですか。
  189. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 調停委員は書記官に対しては直接の指揮監督権というものはないわけでございまして、背後には調停裁判所なり受託裁判所なりの命を受けて書記官は事務を行なうということに法的にはなろうかと思いますが、実際問題といたしましては、もちろん調停委員が主としてお聞きになることでございますし、またお調べになることでございますので、その要点を書記官に書いていただく、こういうことになるだろうと思います。
  190. 正森成二

    ○正森委員 ますますおかしなことになってくるのじゃないですか。それじゃ調停委員はつけ足しみたいで、書記官が出かけていけばいいことになるのじゃないですか。裁判の場合は、もちろんそれは書記官が調書をつくりますよ。そして書記官は仕事の中では、あなた方の「民事実務講義案」という裁判所書記官研修所、そこでの四十八年三月の講義案を見ると、これは書記官の職務内容でも最も重大な公証事務ということになっているわけですね。たとえ裁判官であっても、書記官の職務に干渉できない。裁判官がこうと違うというようなことを、裁判官も法廷に立ち会っているわけですから、言った場合にどうしても裁判官の聞いたことと違うと思えば、裁判官の言うとおり直しても、書記官は独自に自分意見は違う、自分はそうは聞かなかったということを付記できることになっておるでしょう。それぐらい書記官の公証事務というのはその点については固有の独立の国家機関ですね。そのように教科書にも書いてある。一体どうするのです。しかも出ていく調停委員というのは、嘱託なんかで別のところで頼まれるわけでしょう。その調停委員が直接事件を担当するわけでもない場合が多いのでしょう。原則としては調書にたよるよりしかたがないじゃないですか。裁判所が行なう場合には、それは裁判官がかわって弁論の更新をするというような場合もあるでしょうけれども、原則として裁判官がそこで聞くということだけれども、本件の場合には調停委員会でよろしく頼むぞということをきめれば、よそのところの調停委員なんかがのこのこ出かけていって聞く。だからたよるものは調書しかないわけです。その調書については書記官が全権を持っておるのでしょう。調停委員は一体何をするのです。その調停委員が書記官に何らかの範囲で影響を与えることができなければ調停委員というのは無用の長物ということになるじゃないですか。
  191. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 書記官が直接に関係人から意見を聴取するということはできないわけでございますので、調停委員関係人から意見を聞く、それを聞いていて書記官か調書にとる、こういうことになるわけでございますので、特に問題はないように私ども考えております。
  192. 正森成二

    ○正森委員 それじゃ、調書ができたときに、調停委員が、わしはこんなこと聞かなかったぜ、第一わしこんな質問をしなかったぜと、こう言ったときどうするのです。
  193. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 その場合には、調停委員には裁判官のように調書の記載を変更させる権限はございませんので、結局調停委員としては聞いたことの証明がつかないことになるわけでございますので、裁判官が行ってもう一度聞き直すことをせざるを得ないであろうかと思います。しかし、現実の問題としては、そういうことはほとんどあり得ないだろうと私は考えております。
  194. 正森成二

    ○正森委員 大体お聞きになったらそういうことでしょう。だから、その調停委員が一緒に行って、自分だけでは調書はとれない、必ず書記官が行かなければならない。書記官が聞いて書いたことで、おれとは違う、こういうことになれば、あらためてもう一ぺん裁判官が行かなければならない。書記官は、裁判官が言うたことにだったら、おれの聞いたのは違うぞと書けるけれども調停委員の言うことには書けない。ある意味では、調停委員と一緒に行ったほうが、書記官の任務あるいは権限というのは低いというてもいいくらいだ。そうすると、調停委員としても困るのですよ。私は確かにこう言うてこう聞いたと思うけれども、書記官は逆のことを書いてある。それを言うたって、書記官のほうでは、あなたの言うとおり書けば、今度はわしが立たないから、それはできない。こういうことになれば、一回わざわざ行ったのはパーになって、もう一回裁判官に行ってもらう。それをもう一ぺんやれというぐらいの調停委員というのはなかなかいないですよ。それぐらいだったら、私は一ぺんや二へん、初めてだけれども、専門家の書記官がそう言うなら書記官の言うとおりにしよう、こういうことになるか、あるいは書記官が言うて、調停委員がそない言うてるのやったらそうしたろうかということになるか。はなはだあいまいなことになるじゃありませんか。これは民事訴訟法における公証事務に対する、書記官の独立の権限に対する、独立の国家機関としての書記官の仕事に対する非常に大きな修正、変更につながるものを含んでおり、それを含んでいないとすれば調停委員はでくの坊みたいなものです。自分はこう聞いたと言っても違うと言われれば、それではわしではあかんな、裁判官に頼もう、こういうことになって引き下がるよりしかたがない。それをそうじゃない、こうだ、こういうふうに言おうと思えば書記官がかってにさらせ、こういうことになればだめだ。そんないいかげんなことで、わざわざ遠方まで調べに行く、権限を持たされるといったって困るのではないですか。裁判官の場合なら、おれはこう聞いた、こう言うても、書記官が違うと言えば両方書けるのですから。ところが、調停委員の場合にはその点は明白な規定がなくて、いま民事局長がおっしゃったようなことであるということになれば、書記官はただでさえ百二十八名欠員があって、いまの人員だって労働強化だといわれているのに、調停委員と一緒に行ってそういう仕事をしなければならない。調停委員が違うと言えば、もう一ぺん裁判官と行かなければならない。そういう仕事をやらされる。しかも、それは書記官の権限のうちの公証事務について非常に大きな問題点をはらんでおる。あなたも御存じでしょう。書記官というのはなかなか権限を持っているのですから、あなた方が判例だとかなんとかを調査させようと思っても、それが書記官の権限かどうかということで非常に問題があって、わざわざ裁判所法六十条を改正したのでしょうが。そういういきさつがあるのでしょう。今度全司法の意見を聞きましたか。こういうことをやって書記官はうんと言うのですか。また、書記官が違うと言うた場合に、今度は調停委員はそんな顔のないことでいいのですか。そういう問題が起こるのですよ。
  195. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 調書の記載内容について意見が一致しないということになりますと、ただいま御指摘のような問題が起こるわけでございますが、これは従前から裁判官と書記官の関係において、御指摘のとおり、裁判官の聞いたところと書記官の聞いたところが違っている場合には、裁判官自分の聞いたとおりにまず調書を書かせる。それについて書記官は、自分の聞いたところではこうであるというふうに併記することになるわけでございますが、併記した事例はほとんどないわけでございますし、もしかりにあったといたしました場合には、やはり調書の記載内容の証拠力の問題でございまして、結局、どちらのほうの記載が正しいかということが判明いたさなければ、もう一度聞き直すということになるわけで、その点については少しも変わりがないのではないかと考えられるわけでございまして、現実の問題としてはほとんど起こり得ないことで、単なる理論上の問題というふうに考えてもよろしいのではないかと思うわけでございます。  さらに、書記官の事務量がそれだけふえるではないかという点の御指摘でございますけれども、こういう嘱託にかかわる事実の調査なりあるいは意見の聴取なりが利用される事件というのは、そうむやみに多いわけではございませんで、ある特定の裁判所について、年間に何件も何件もあることではないと考えられますので、現実の問題として、そう書記官の負担増になるというふうには考えておらないわけでございます。  なお、調停事務の改善のためには、書記官の増員というのは、現実の問題としては、資格の高い書記官を増員することはなかなか困難でございますので、書記官の補助者である事務官の増員を今度の予算でお認めいただいたわけでございます。事務官ができるだけ書記官を補助することによって書記官の負担を軽減し、そして書記官に調停事務に関して大いに活躍していただこう、こういうふうに考えているのでございます。
  196. 正森成二

    ○正森委員 あなた、答弁の中で、理論上の問題にとどまるなんて、えらいみえ切ったけれども、何が理論上の問題にとどまるのですか。理論上の問題だけではないですよ。これは現実に起こりますよ。もし理論上の問題だけだなんて開き直るということがあるとすれば、あなたは実情を知らないからです。  釈迦に説法かもしれないけれども、書記官と裁判官意見が違うて付記されるという場合はわりと少ないようですね。それはなぜだか知っていますか。民事訴訟の場合には双方の代理人が立ち合っているのです。それがみなそれぞれメモをとって、どっちになるかというようなことについては、「も」とか「で」とかいうような一つことばでも、労働事件なんかだったらものすごい主尋問、反対尋問が行なわれるのです。それは速記の場合も多いし、速記でない場合にはどうされるかといえば、われわれはそれを裁判官のところに言いに行き、書記官のどころにも言いに行き、双方の代理人の意見が違い、書記官もはっきりこうだというようにあとになって言い切れない場合には、裁判所は、それだったら再尋問しましょうというような形で解決される場合がしばしばあるのです。だから調書に付記されることが比較的まれなんです。理論上の問題だけじゃないのです。実務としてもそういうことが起こる。  だから、今回でもそういうあいまいな形でこういうことが行なわれれば、理論上の問題だけにとどまるなんというけれども、実際はそうじゃなしに、書記官のほうで一歩引き下がるか、あるいは調停委員が単に質問をする道具になって、その受けた印象などというものについては自分が二歩も三歩も百歩も下がって書記官の言うとおりになるかという形で、結局解決されていくということになるのです。それが現実の姿なんです。あなた方は壇の上に登って見ておられるでしょうけれども、実際私らは質問をして、法廷の実際、調停の実際というものを知っているから、結局そういう形で解決されることになるでしょう。それは調停委員にとっても書記官にとっても決して好ましくないことじゃないのですか。そういうことをなさるなら、たとえば書記官の増員をした上で、書記官ははっきり自分意見を付記することができるというようにきめるとかなんとかしないと、そういうことをあいまいなままでこの法案通過させるということになれば、書記官にも調停委員にも非常に気まずいことになるのではないですか。
  197. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 御指摘の点につきましては、規則を定める際に十分検討させていただきまして、また御意見も伺いたいと思います。
  198. 正森成二

    ○正森委員 問題点のあるところだけはおわかりになったと思いますけれども裁判所法六十条に定められている書記官の権限というのは非常に厳格なものであり、しかも調停の作成というのは公証事務として書記官が非常に権限のあることなんですね。それについて、書記官がこうだと思うのに調停委員が違うといえば調書は作成できない。あらためてまた裁判官が行かなければならない。そういうことを認めるようなことになってしまうということは、それじゃ自尊心のある書記官だったら、一生懸命仕事をして何だということになると思うのですね。だからそういうようなことを残したままで本法案を成立させるということは、いまあなたは規則で手当てをするとおっしゃったけれども、それならそれでそういう規則を早くお出しになればいいと思うのですね、こういうふうにいたしますというようなことを。私どもは実際上問題点をこういうぐあいに見ておって、非常に書記官の労働強化になるだけでなしに、書記官の権限の上にとっても非常に重大な問題だ。おそらく調停委員さんというのは、こういうことのままで事実の調査だとかあるいは意見の聴取に行かれれば、まあ書記官よろしくというようなことになってしまうのじゃないですかね。私はその危険というものが非常に大きいと思いますね。かりに私が調停委員だったとして、非常に微妙な点で意見が違う、書記官がどうしてもこう言う、まあ、私なら、何を言うとるか、それであかぬならもう一ぺん裁判へきてやり直そうというようにやるかもしれませんけれども、それだけ言うというのはなかなかしんどいですよ。そういうような立場に調停委員を置くということは、私は調停委員のためにもよくないというように思いますが、これは規則の点で考えるというようにおっしゃいましたから、時間の関係で次のほうに進ましていただきたいと思います。  家庭局長さん、家裁では調査官がおりますね。調査官というのは、私、調査官のお書きになったものを見ましたけれども、初めはケースワーカー的な抱負を持って、そしていろいろな心理学だとかいうようなものを勉強して非常な希望を持ってお入りになったところが、実際は事志に反してあまりおもしろくない、デスクワークだというようなことを論文にお書きになっておられる方もおりますが、しかし、それはそれとして、家事調停あるいは家事審判について調査官の果たされる役割りというのは非常に大きいと思うのですね。しかし、今回の改正においては、家事の調停委員さんは、たてまえ上調査官と仕事の重複するものができてくると思うのですね。それの配分や調整や権限の分配というのはどういうようになさるつもりですか。
  199. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 先ほど申し上げましたように、家庭内の紛争というのは大体人間関係をどういうふうに折り合わせていくかということでございまして、現行の体制のもとでは、事件を取り扱うものにつきまして、調査官は社会学とか心理学とかそういったような専門の知識を生かしまして事件の調査をいたして、そして審判調停のお役に立つというふうなたてまえでやっておりますので、調査官が調停の場合に事実を調査いたしますのは、調停委員会でいい調停をしていただくための資料をつくって、当事者間の紛争の円満な解決に資するための立場から専門的な意見を出す、こういうことになるわけでございまして、言ってみれば、調停の中身を豊かにし、そしてほんとうにその紛争の実態というものを把握できるような資料を調停委員会に提出するというふうな役目を調査官は果たすわけでございますから、調停委員会のほうとしては、その資料を十分そしゃくして、そしていい調停をするようにやるというふうな、そういうふうな役割りの分担になろうかと思います。
  200. 正森成二

    ○正森委員 いま説明があったのですけれども、その場合にも、いま書記官と調停委員との関係のような問題とは少し性質が違いますけれども、調査官と調停委員との間においてやはりする仕事の重なり合いですね、あるいは調停委員だけが調べに行けるのか、その場合にはやはり調査官が同行するのか、あるいは調査官でなしに書記官が行くのかというような問題があると思うのですね。あなた方としては、調査官と家事調停委員とが一緒に同行して調べるというような場合も予想しておられるわけですか、それは全然予想していないのですか。
  201. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 いまの御質問につきましては、私ども全くそれを予想しておらないのでございます。
  202. 正森成二

    ○正森委員 それでは次の問題に移りたいと思いますが、今度の改正案では十六条の二というのがございますが、従来は商事調停と鉱害のほうで「調停委員会の定める調停条項」というのがあったと思うのですが、たとえば商事調停に例をとりますと、大体年間どのくらい調停の申し立てがあって、そのうちこの合意書面に基づく調停条項を調書に記載するというようなことで成立した案件というのは年間どのぐらいですか。
  203. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 商事調停につきましては、統計資料は四十二年までしかとっておりませんで、四十三年以降は一般の民事調停と合わさって数字が出ておりますので、商事調停だけの件数として見ますと、昭和四十二年は二千四百十一件でございます。それから鉱害調停は大体現在まで年間五ないし六件でございまして、四十七年で見ますと六件でございます。この三十一条の適用された件数は過去二十年間で合計三十五件でございます。
  204. 正森成二

    ○正森委員 二十年間で三十五件ということになれば、いま年間約二千四百件という意味のことを言われましたが、そうすると、私、頭が悪いですが、二十年では二十掛ければ四万八千件、そのうちの三十五件ということになればほんとうに少ないケースだと思うのですね、三十一条で成立しているのは。なぜそんなに少なかったと思われますか。
  205. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 商事調停関係について申しますと、商事調停と一般民事調停の区別必ずしもはっきりしないわけで、したがいまして、統計上も先ほど申し上げましたように現在は一般民事調停と商事調停とは区別しないで統計をとっておるというような状態になっておるわけでございます。事件数自体として非常に少ないということが一つの大きな原因であり、また鉱害事件につきましては、先ほど申し上げましたように、調停事件数自体が五、六件という程度できわめて少ない、これが一番大きな理由であろうかと存ずるわけでございます。
  206. 正森成二

    ○正森委員 そんなことは聞いていないので、あなたのいまの答弁だと、そもそも商事調停が少ないのが三十一条による解決が少ない理由だという意味のことを言われましたが、そんなこと聞いていないので、商事調停というのは昭和四十二年の統計では二千四百あるわけでしょう。ところが二十年間に三十一条で成立したのは三十五件だというのだから、二十で割れば一・七でしょう。そうすると、二千四百件やって一件か二件しか三十一条による解決というのはなかったというのはなぜか、こう聞いているのですから、その答えに商事調停年間二千四百ぐらいしかなかったからでございますと言うのは、これはあなたに対して非常に失礼だけれども、小学生だってそんな答えしませんよ。問いに答えるに問いをもってするというのはこのことです。
  207. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 商事調停と申しましても、わが国における調停事件で商事で出てきます事件というのは比較的高利貸し系統の事件が多い、そういう関係で、この本来の三十一条が予定しておりますように専門家による合理的計算によって適切、妥当な結論を出し得るような種類の事件というものが比較的少ないということになるのではないかと思います。
  208. 正森成二

    ○正森委員 いまそういうような答弁でありますが、二千四百で年間に一件か二件ということは、それはたとえば今度日中貿易協定ができました、そこでも仲裁に関する規定が入っておりますが、ああいう国際的な商取引についてこそ仲裁というのは非常に大事なわけで、そういうのが少ないという説明ももちろんあるかもしれませんけれども、しかしそれ以上にやはり三十一条というのは、それほど国内の調停事件については、それが商事調停であれ鉱害調停であれ、必要とされるような状況が少なかったということが一つと、それからもう一つは、やはり調停委員が、当事者の合意がない状況のもとで、わざわざ書面をとって、これが調停委員会の調停だということできめてしまうということに、やはり一定の遅疑逡巡を感じたというのが実情じゃないのですか。私が商事調停調停委員をしている方から伺うと、どうもそこまで踏み込むというのは日本の国内では必要がないのじゃないかということもあったのだということをおっしゃっている人がいるのですね。ですからそういう点もあったのじゃないかと思うのですが、いかがです。
  209. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 おそらく御意見のようなことも当然あったと考えますし、またこの三十一条を働かせる場合として考えられますのは、やはり当事者双方がある程度煮詰めた段階で、わずかなところでもって話が一致しないという場合に適用の余地が出てくるわけでございますが、そういった場合でも、多くの場合は調停委員会のほうで具体的な提案をすれば、それに双方が応じて本来の調停として成立する場合というのが多いであろうということは十分考えられるところでございます。そういったような事情でこの三十一条を適用する例というのは比較的少ないということになるのではないかと思います。
  210. 正森成二

    ○正森委員 私思いますのに、三十一条というのは一種の仲裁でございますね。その仲裁が活用されなかったというのは、調停制度の途中で、あるいは最終段階で仲裁を持ち込むというようなことは、別のことばでは、これは必ずしも現実の必要性がなかったということを物語っているのじゃないかと思うのです。  そこで仲裁の性質を伺いたいのですけれども最高裁判所では、仲裁の本質というのはどういうものであると理解なさっておられますか。
  211. 川島一郎

    ○川島(一)政府委員 仲裁にもいろいろございますが、民事訴訟法の仲裁とそれから裁判所で行なっております民事調停との比較で申し上げたいと思いますが、いろいろな点で変わっておりまして、何と申しましても仲裁は仲裁契約に基づいて仲裁人が判断をするという形をとりますのに対しまして、調停は一方の当事者の申し立てによって調停委員会のあっせんによりまして合意を成立させるという点で相当な違いがあるわけでございます。  個々的に申し上げますと、調停の場合は紛争の解決機関である調停機関というのは、これは公の機関ということになります。これに対しまして仲裁判断の場合には、仲裁人というのは必ずしも公の機関ではございません。当事者が仲裁契約において定める者というのが原則になっておりますので、民間の者が仲裁人になるわけであります。それから内容的には、調停が合意の成立を前提とするのに対して、仲裁のほうは仲裁契約に基づく仲裁人の仲裁判断ということによって紛争の解決の内容がきめられていく。それからその紛争解決に至る過程でございますが、調停の場合は当事者の互譲による解決ということが行なわれるわけでありますが、仲裁の場合には仲裁判断、これは必ずしも互譲というものを要素にしているわけではないわけであります。それからそれに伴いまして、調停では条理が基準になりますが、仲裁の場合はむしろ実定法的な判断というものが重きをなす、こういうような違いがあろうと思います。そのほか訴訟との関係では、調停が不成立の場合には訴訟に移行する。仲裁判断はそれ自体が終局的な紛争解決手段である、こういうことでいろいろな違いがあるわけでございます。
  212. 正森成二

    ○正森委員 必ずしも私の質問の趣旨に合致しておりませんが、いろいろ調停と仲裁の違いについて御教示を賜わったわけです。ものの本によりますと、これは先日も参考人としておいでになった小山昇教授の著書でありますが、それにはずばり一言「仲裁の本質は、それが私的裁判であることにある。」こういうぐあいに書いておるのですね。これは簡にして要を得たことばで、調停というのは条理に導かれて両方が合意に達する。それに対して仲裁というのは、私の、つまり双方が同意した人による裁判であるという点に非常に本質的な違いがあるというように思うのですね。それがいまの川島局長の説明の中でも間接的にあらわれていたと思うのです。  同じく小山昇教授が「理想的な調停」ということで「自由と正義」一九七三年のナンバー三にお書きになったところを見ますと、調停というのはこうあるべきものだ、こう言っておられるわけですね。「調停は紛争の合意による解決を第三者があっせんするものである。この第三者が化学反応における触媒のような機能を果たして妥当な合意が成立したときにその調停は理想的である。触媒はそれ自身は新たに合成される物質の素材にはならないが、それなくしては合成ができないというものがあるときいている。第三者が、合意の内容の形成に干渉することなく、意思の合致へと陰に陽に貢献するにとどまったにもかかわらず、望ましい合意が成立したとするならば、それは理想的な調停である。当事者自身が条理にかない実情にそくする考え方をして合意が成立したからである。そのようにしむけてゆくのがあっせんする者の力量である。この力量の根源は、たんなる法律知識ではなく、修養による人格、学習による識見、苦労による人生理解と人生経験が教えるものなどである。また、これが生かされるか否かは多分に当事者との組合わせに依る。たとえば小間物雑貨商の紛争を大企業の社長があっせんして成功するかどうかは疑いの多いことである。」こう言っておられるのですね。  これはある意味では調停の本質をついていると思うのです。その同じ方が「仲裁の本質は、それが私的裁判であることにある。」裁判でぴしゃっときめるわけです。ただ違いは仲裁人が自分らの合意した者であるというところに違うところがあります。  そこで私思いますのに、このたびの十六条の二というのは、前に三十一条で規定があったにもかかわらず、年間二千四百件の商事調停の申し立てに対してわずか一件か二件しか成立しなかった、そういうようなものを今度は民事調停全般に持ち込もうとなさる、こういうものであります。   〔委員長退席、大竹委員長代理着席〕 それはいままでもあまり役に立たなかったものを、何らかの意図をもって民事調停一般に押し広げられるものではないかというように思うのですね、大臣。しかもそれは、本来調停というものが、私がいま読み上げたような条理に導かれて当事者が合意をする、しかも調停委員の役割りというのは触媒的な役割りで、決して自分自身がその化合物の内容をなすものであってはならないようなものである。仲裁の場合には文字どおり仲裁人が自分判断してきめる、こういういわば異質のものを一つの手続の中で一緒にするというようなことは、これは調停制度について決して望ましいことでもないのじゃないかというように思うのですが、私はあえて十六条の二をなぜお入れになったのか、当委員会の審議の過程で十六条の二を削除なさる御意向はないかどうかということを大臣に伺いたいと思います。
  213. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 私どもも、やってみないとこれはどれだけ活用されるかよくわかりませんが、ただ問題は、最近、交通事案の調停が非常にふえてきまして、いろいろ事故の原因がどうであるとか、あるいは過失の範囲が四分六か七、三かというようなこととか、あるいはまた賠償の金額についても、大体は合意したけれども、わずかなところでどうしても合意しないというような事案があるので、こういうような条項を入れて、双方が納得がいけば解決をしていったらどうだろうか、こういうようなことで、この十六条の二が入ったように承知いたしております。  そこで、どこまでこれが活用されるかは、実際に運用してみないと結果が出てこないのではないか。いままでの商事調停や鉱害調停から見ますと、まことに適用率が低いので、私どもも同じような疑問をかねがね持っておったわけでございますが、今度一般調停にこれを適用したとなりますと、はたしてそれがどれだけの成果を生むか、まだその点は未知数のような感じがいたします。
  214. 正森成二

    ○正森委員 私の質問に直接お答えになっておらないようですけれども、私は、調停というものは、本来、非常な努力を重ねて、双方の互譲、合意に基づいて行なわれるべきものである。本来、法のたてまえが、調停というのは原則として合意がなければ成立しないものということになっておりますから、たとえば調停委員が現地調停というかっこうで、現地を見て、その心証でいろいろあっせんをする、あるいは、いままででも事実の証拠調べをやるということはございましたけれども、それについて主尋問、反対尋問などを厳密にやらなくても、調停委員さんのおっしゃることが、自分たちが合意しようというところに近づかなければ、いつでも自分たちはその合意を成立させないで調停を不調に終わらせることができるんだと思っているから、わりと気楽にいろいろなことができたわけですね。ところが、今回のように、いざとなれば、それは合意証明を出さなければそれまでじゃないかといえばそれまでですけれども、場合によっては、私的裁判的性質を持つ調停条項というのを調書に記載してしまうことができるということになれば、逆に一つ一つの手続ということをなかなかおろそかにできない、それが結局、心証になってきまるわけですから、ということにもなりますし、私は、商事調停などにあったものを民事調停一般に、年間何万件とあるものに押し広げるということは非常な冒険であるというように思うのですが、それはいかがですか。
  215. 川島一郎

    ○川島(一)政府委員 十六条の二の制度でございますが、従来、商事調停、鉱害調停にあってはほとんど利用されていなかった、先ほど御指摘がございましたとおりでありまして、私も、この規定が一般化されたといたしましても、それほど多く利用されることにはならないであろうというふうに思うわけでございます。  これを一般化することが、何か調停を強権的に成立させるとか、押しつけ調停の危険があるというような点が指摘されておるわけでございますが、従来の実績から見ましても、これがそう急に活用され、たくさんの事件がこれによって解決されるということにはならないのではないか。そういう意味で、私は、必ずしもこの規定が多くの弊害をもたらすというふうには考えませんし、またこの規定自体も、その規定の趣旨がそのまま実現されるといたしますれば、結局、当事者の合意をもとにするという点においては、調停と相通ずるものがあるわけでございますので、それほど悪い規定ではないというふうに考えておるわけでありますが、それでは、反対に、これを一般化するメリットというのはどれだけあるかという点につきましては、必ずしも十分な見通しを持っているわけではございません。  ただ、この規定がねらっておりますのは、当事者は調停事件を終結させたい、しかし訴訟にまでは持っていきたくない、しかしながら、具体的な調停条項に合意するということは、当事者の特殊な立場上、あるいは従来の行きがかり上、感情の上とか、そういった点でどうも具体的な合意には達しにくい、こういう場合を救済するために、あってもこれが意味のある場合が考えられるのではないか、こういうような感じを持つわけでございまして、お答えとしては不十分かと思いますが、そのように理解をいたしておるところでございます。
  216. 正森成二

    ○正森委員 川島局長のおっしゃったのもわからぬことはないのです。私も調停の代理人などを間々いたしておりますけれども、なるほどある程度歩み寄ったけれどもそれ以上はなかなか自分のほうとしてこれだけだということは言えない、しかし裁判にまでなってしまうのは残念だというような場合がそれはときどきあるのですが、そういう場合にも、われわれが代理人としてついております場合、あるいは調停委員の先輩から聞きましたところでは、そういう場合にはおのずから、各人を別々に呼びまして、一方は百万円、一方は七十万円と言っているけれども、ひとつ調停委員努力して八十万円ぐらいのところでかりにまとまるとすればどうですかということを個別に聞いておいて、お互いにその前後なら調停委員さんのお顔を立てましょうと言うているときに、調停委員として八十万円でどうですかということを二人呼んで言わずに、別室でそれぞれ八十万円なら大体いいという答えを得ておいて、二人の前では、調停委員に大体まかせてもらえませんか、決して悪いようにはしませんと、こう言って、両方とも大体、八十万円という腹のうちは聞いているわけですから、それじゃおまかせしましょうということでまかせたら、二人を呼び入れて、八十万円でどうですか、二人とも事前に同意しているわけですから、それじゃ同意しますという場合はしばしばあるのです。これは形の上では、今回の十六条の二と非常に似ておる、あるいは同じかもしれないけれども、実質はそうじゃないんで、非常に努力をした結果の合意による調停なんですね。ですから、こういうことこそ民事調停では望ましいのであって、それを、内容を明らかにせずに、ともかくおれにまかせまかせと、こういうように言うて、それでまかせられたからというのでぽんとやるというようなのは、これは調停の中に異質の、あらかじめみずから選定した者でもない調停委員に、調停のある一定の段階で、それじゃあなたにおまかせしますという仲裁人のような資格を与えて、そうして結局、私的裁判を行なうという異質なものに移行することになるわけです。これは決して好ましいことじゃないと私は思うのですね。  それに、仲裁の場合には、これは理由を付さなければいけないんじゃないですか、川島さん。理由を付さない場合には、そのことだけで取り消しの裁判ができるんじゃないですか。
  217. 川島一郎

    ○川島(一)政府委員 理由を付さなければならないと、仲裁の場合でございますが、そうなっております。外国では、理由を付さない仲裁判断というのがあるそうでございますが、わが国の仲裁判断は理由が必要だ、こういうことになっております。
  218. 正森成二

    ○正森委員 それがなければ取り消しの理由になるんでしょう。
  219. 川島一郎

    ○川島(一)政府委員 はい。
  220. 正森成二

    ○正森委員 大体そういうようになっているんですね。仲裁なんかの場合には、これはやみくもにおまかせするわけですから、理由が納得できないものじゃいけない。理由をちゃんと書いて、理由を書かなければ、その仲裁の取り消しの訴えができるということになっている。ところが、本調停の場合には、どうも理由なんか要らないわけで、調停条項をぽんとつくれば、その理由というのは、いままでまさか仲裁になるとは夢にも思わないから、調停手続でわりと自由な心証で証拠調べをしたということが、やはり陰に陽に腹の中にあってやるということになるのですから、だから、本来、この十六条の二というのは、いまわが国の民事訴訟法にも載っている仲裁の制度の安全弁というようなところも除いてしまっているし、調停かというと調停でもないし、その中間の非常にあいまいなところであって、それは用いられ方によっては非常に調停制度の本質を危くするような方向に使われないとは限らないのですね。しかも、川島さんは、この事例が活用されて、そんなに大きに役立つとは思わないと言われましたが、しかし、実際に十六条の二で解決するということは比較的少なくても、十六条の二があるんだぞということで、それが調停の途中に随時に態度としてあらわれてきて、そして調停を成立させるような一つのプレッシャーになるということは十分にあり得るんじゃないですか。最高裁判所もそのことを予想しているんじゃないですか。
  221. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 この十六条の二につきましては、確かにただいまのお話のように、多くの事例で活用されるということはないのではないかという考え方があるわけでございますけれども、最近、交通事故調停をはじめとするいわゆる不法行為に基づく損害賠償事件とか、あるいは地代、家賃の増額請求といったような問題につきましては、相当煮詰めた上で、なおかつ最後の段階で進まないという場合において、利用される可能性がかなりあるのではないかというふうに一応は考えておるわけでございます。もちろん多くの場合は、ただいま御指摘のとおり、調停委員会が積極的にサゼスチョンなり指導なりをすることによりまして、本来の調停として成立するということが考えられるわけでございますし、それでよいわけでございますけれども、それではどうしてもぐあいが悪い、やはり何とか調停委員会のほうできめた形をとってもらいたいという事例がやはりあり得るのではないか。そうだとすれば、そういう場合にもなおかつ民調法の十四条で、調停を不調にしてしまうというのは惜しい。当事者双方から、何とか調停委員会としてきめてくれという場合があり得るのではないか。そういう場合に利用していただきたい、こう考えるわけでございまして、この規定を背景にして、当事者にいわば調停案を押しつけるというようなことを考えておるわけでは決してないわけでございます。ただ、この点につきましては、正森委員のほうからもお話がございましたように、ではどれだけ利用されるのかといわれますと、私どもとしてもそう数多い事件で利用されるとは考えない。しかし当事者が困って、どうしてもこれでやってほしいという場合は、数は少なくとも、あり得るのではないか。あり得るとすれば、その道は残しておいてもよいのではないか、それが私ども考えでございます。
  222. 正森成二

    ○正森委員 いまいろいろおっしゃいましたが、私は臨時調停審議会答申書というのをいただきました。それの七、「調停委員会の定める調停条項」という点についての意見書を見ますと、七二ページに、「従来、商事調停または鉱害調停においてこの手続が利用された事例がわずかであるところから、これをその他の調停に広げることの実益を疑問視する意見もあった。しかし、調停の実務に携わる者の立場から、」と、こうなって、(ア)、(イ)、(ウ)となっておりますね。この中にも問題がありますが、そのあとでこう書いてある。「等を理由とする積極意見が多く述べられた。そして、このような手続は、仮に実際に利用される事例が多くないとしても、調停機能の充実を助ける一つの技法として、一般の調停においても利用できるものとするのが相当であるとの意見が大勢を占めた。」こう書いてある。つまり、これで成立することが少なくても、調停機能の充実を助ける一つの技法として利用できる。つまり、いざとなったらこれができるんですよということで、調停が成立するように一つのテクニックとしてこれを使うことができる。ここでは技法となっておるけれどもことばをかえていえば、一種のプレッシャーである。そういうことを臨調審自体が認めているじゃないですか。これによっての成立にはあまり役立たないかもしれないけれども、しかし、これがあるということでほかの調停を進めるという一つの技法、テクニックとしてこれが使えるのだと、ちゃんと臨調審答申に書いてあるじゃないですか。だから、まさにねらいは、このことによって成立させるということじゃなしに、こういうこともできるのですよということで、調停委員会の職権的な機能を増大させる、そのことによって調停の成立促進をはかるということがまさにねらいだと、臨調審は書いているじゃないか。私は日本語としてはそれ以外に読みようがないと思うが、いかがですか。
  223. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 私はこの十六条の二の手続を利用することが調停委員会の一つの技法というふうに読んでおるわけでございまして、これを一つの手段に使って本来の調停を成立させる、そういうための手段としての技法だというふうには読んでおらないわけでございます。
  224. 正森成二

    ○正森委員 それはしかし西村さん、何もあなたと私との間で日本語の国語力の争いをするわけではないですけれども、お互いに大学の試験はだいぶ前に済んだのだから。しかし、これを見ると、「このような手続は、仮に実際に利用される事例が多くないとしても、調停機能の充実を助ける一つの技法として、一般の調停においても利用できる」これは国語の先生に採点してもらえば、西村民事局長は零点、正森は百点。それはそうなりますよ、あなた。いや、ほんとの話。自民党のほうの委員から、大臣をいじめるな、局長ならいじめてよろしいという話に近いものが理事懇であったから、私は大臣にはなるべくお聞きしないようにして、局長に聞いているわけですけれども、そうでしょう。だから、日本語はやはり日本語らしく読んで、その上で、そういうことのないようにするとかいうような答弁をしないと、これを読んであなたのような解釈なんて出ないよ。
  225. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 国語の力がどうかわかりませんけれども、私はどうも少ない事例であってもそういう道も残しておくということを言っているにすぎないのではないかというふうに理解して読んでおったわけでございます。   〔大竹委員長代理退席、委員長着席〕
  226. 正森成二

    ○正森委員 まあ国語力についてはあるいは私のほうが零点で西村さんが百点かもしれないから、多くは論じませんけれども、しかし成立するのが少なくても一つの技法としてというのは、これはやっぱり成立にはならぬでも、こういうことができるのだということでやれば、調停全体の成立の比率に貢献できるだろうということをあらわしているのですね。だから、かりに和解するとしても、おそらく西村さんも五十点、私も五十点というような仲裁になるのでしょうな。やっぱりそういう傾向を持っておるわけです。そうだとしますと、小山さんも言うておられるように、調停というのは条理に基づいて触媒的な役割りで両方の合意が成立するように努力するということでありますから、それと異質の仲裁的なものを十六条の二で持ち込むということは非常に危険がある、できれば削除をなさるべきであるというように、繰り返し指摘せざるを得ないですね。  時間が参りましたので、ほかに伺いたいこともございますがこの程度でやめさせていただきたいと思いますが、最後に、私が今回の質問を通じまして、政府委員の方はそうではないというようにおっしゃるかもしれませんけれども法案作成の過程で日弁連等有力な在野法曹の御意見を十分にお聞きになっておらないこと、そして法案の実際上の内容でも、待遇改善ならば、私どもの修正案のようなやり方でも、手当として相当額を支給できる余地があると考えられるにもかかわらず、最高裁判所の任命制ということで、しかも八条で、法律と規則がどっちが優位するかは別として、西村さん自身も規則の点について考慮すると言うておられるように、非常にばくとしたものがあること、しかも十六条の二というような私的裁判の性質を持つものを調停の中に持ち込もうとしておられること等々を考えると、裁判官の不在庁も多数あるという状況のもとで、熟練した弁護士等を一般職の公務員の中に取り込んで、それに対して裁判所がこうせい、ああせいということを規則できめて、十六条の二などを技法として調停を成立させる。そのことによって一般の民事訴訟にいく事件数を調停のほうに吸収して、裁判官の不足という事態も解消していくというような、非常に職権主義的な方向を依然として持っておるんではないかというように、非常に心配になってたまらぬわけですね。その点は、中村法務大臣におかれても十分に留意していただきたいそう思います。  最後に一つだけ。この法案がこのまま通るかあるいは修正されるか、私はよくわかりませんが、調停委員を選任するについては、最高裁のほうにも規則でいろいろ基準があるようですけれども、弁護士会等の意見を聞きますと、いろいろな意見の中に、人権感覚のすぐれた人というような項目を入れてほしいという意見もあります。あるいはいろいろ団体から推薦を受けるというようになっておりますが、団体といえば、日本国民の大部分は勤労者であり、勤労者の団体といえば労働組合であります。したがって、労働組合であれば片寄った裁判をするだろうという偏見をお持ちになることなしに、臨調審だとかなんとかの委員にはちゃんと大きな経団連とかなんとかの人も入っているのですから、そういういろいろな団体から推薦を受ける。それで足りないものは、場合によっては公募も受ける。公募を受けたからといって必ずしも裁判所が指定もしくは選任しなければならないということはないわけですから、そういうようなことも調停委員の選考について考えていただきたいということを申し上げ、それについての答弁を承って質問を終わりたいと思います。
  227. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 調停委員の選考につきましては、できる限り広く各層各界から適任者を選任できるような体制を整えたいと存じます。
  228. 正森成二

    ○正森委員 大臣、一言。政治的な問題ですよ。
  229. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 これは最高裁のほうで、やはり責任ある立場でできるだけ最適の調停委員を選んでいきたいという意欲もありましょうし、また同時に、最高裁判所という三権分立の独立した機関でございますから、適当な結論を得られるだろう、かように期待いたしております。
  230. 正森成二

    ○正森委員 終わります。
  231. 小平久雄

    小平委員長 次回は、明三日水曜日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後四時三分散会