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國井公述人 私は、
國井社会生活研究所長國井國長でございます。
公述の第一は、
社会保障、
社会福祉についてであります。
国民年金、厚生年金は倍額に引き上げられることになりましたのは、国会の先生方の格別な御努力と
政府の努力によるところでありまして、この点深くお礼を申し上げる次第でございます。
しかしながら、四十八
年度予算をしさいに点検いたしますると、おせじにも福祉主導、福祉中心とは申し上げられないのでございます。たとえば今度の改正によりましても、
国民年金は夫婦で当面二万五千円、厚生年金も平均四万円でございます。さらにいろいろな点につきまして、こまかい御配慮が不十分であるということを残念ながら指摘いたしまして、先生方に
予算の御修正の御努力を賜わりたいとお願いしたいのでございます。
その第一点といたしまして、実例を申し上げますと、たとえば、耳の不自由な方に対して支給されておりまするところの補聴器でございます。これはスウェーデン、西ドイツあるいは
アメリカから
輸入されるものは非常によく聞こえて取り扱いが便利で、しかも聴力障害を起こさないものが、三万円から五万円で支給されるのでございまするが、身体障害者福祉法で支給されますものは一万三千四百円。そのために、優秀な補聴器ならばよく聞こえるにもかかわらず、よく聞こえないで不自由している方がたくさんあるのでございますので、こういう点も改めていただきたいと思いますし、ことに補聴器などは、四年たたなければ、新しいものができても支給されないというふうな不合理がございますので、こういう点も改めていただきたいのございます。
それから、ことしは老齢年金の年といっておりまするが、私は来
年度、障害年金、障害福祉年金の大改正を先生方にお願い申し上げたいと思いますので、本日は障害福祉年金のことにつきましてお願いを申し上げたいと思うのでございます。
御承知のように、このたびの
予算案によりますると、障害福祉年金は月額七千五百円でございます。ところが障害福祉年金を支給されます者は、両眼の失明でありまするとか、両腕または両足を失った者、あるいは結核で寝たきりの重度障害者でございます。七千五百円では介護料にも当たらないのでございます。さらに国会の先生方の御努力によりまして、一昨年から六十五歳以上七十歳未満であって、
国民年金法二級のいわゆる老齢障害者に対しましても、老齢福祉年金が支給されるようになったのでございますが、これは改正案によりましてもわずか五千円でございますので、これまた介護の費用に当たらないのでございます。
昭和四十七
年度の
政府予算案の編成にあたりまして、厚生省は障害福祉年金を五千四百円を大蔵省に要求いたしたのでございますが、これが四百円削減されまして五千円と閣議で決定したのでございます。
ところが、一方におきまして、戦傷病者の増加恩給は一項症が五十四万円でありましたものを、恩給局は七十五万円に要求したのでございますが、これが自民党の三役と大蔵大臣の折衝によりまして、一挙に倍額の百四万円に引き上げられたのでございます。さらに軍人軍属の増加恩給の一項症は、四十八
年度予算におきましては百二十七万円に増額するというふうなことに
政府案が決定いたしておるのでございます。
このようにいたしまして、
一般国民に支給されまするところの障害福祉年金は、同じ障害
程度の増加恩給に比較いたしまして、実に十五分の一ないし二十分の一でございます。もちろんこれは、戦争で御苦労なされた軍属あるいは軍人の方に報いるのに、百五十万あるいは二百万円でも十分だとは申し上げませんが、
国民年金法の障害福祉年金は悪過ぎるのだということを、どうぞ先生方は御認識を賜わりたいのでございます。しかも、
国民年金法の一級の、今度月額五千円から七千五百円に引き上げられまするものには、両眼失明の者も支給対象になっておりますが、恩給法によりますると、両眼失明の重度の障害者は、特項症でさらにこの百二十七万円に十分の五以内が加算されますので、大体二百万円になる。でありまするから、二十分の一にしか障害福祉年金があたらないということでございます。
なお、この障害福祉年金も、まともにもらえるならばまだしもでございまするが、きびしい支給制限があるのでございます。その実例を申し上げたいのでございます。それは、今月の二月十五日の朝日新聞に取り上げられた問題でございまするが、千葉県の白井町に住んでおりまする中村仁一さんでございますが、六十五歳になる老人であり、両眼失明者でございますが、この方が戦争中軍に応召されまして、御苦労なさって帰ってまいりましてから、当時の終戦後の食糧難と生活苦による過労のために、
昭和二十二年に両眼が失明いたしたのでございます。それでこの方は何度か死のうということを御決心されたそうでございまするが、家族の者に励まされて死を思いとどまってきたのですが、これに対して国は何らの補償をしなかったのでございます。幸いに、
昭和三十四年に、先生方の格別の御努力によりまして
国民年金法が施行されるに至りまして、このお方は
昭和三十四年の十一月から当時月額千五百円の障害福祉年金を支給されるようになったのでございます。御当人は、わずかな年金額ではございまするが、これが大きな精神的また生活の支柱になるということで喜んでおったのでございます。
ところが、このお方は軍に七年間つとめました関係上、
昭和三十七年から恩給法による普通恩給が支給されるようになったのでございます。
昭和四十四年に至りまして、この恩給法による普通恩給が支給されることによりまして、この障害福祉年金は全額が支給停止されるということになったのでございます。さらに、昨四十七年の七月十七日に、この方は千葉県から、
国民年金法の第六十五条の第三項の規定によりまして、恩給法による普通恩給を支給されているということによりまして併給制限をされまして、本来ならば年額六万円、月額五千円支給されるべきところの障害福祉年金の支給が制限されまして、わずか百四十四円しか支給されないということに処分をされたのでございます。これは新聞でも、「冷たい併給制限」といっておりますが、そのとおりでございます。このような過酷な支給制限をされておりまする者は、障害福祉年金関係におきましては、障害福祉年金の全額支給を差しとめられております者が八百九十人、一部支給を差しとめられております者が四千三百三十七人で、ほぼ五千人の方がこういうふうな冷たい処置を受けているのでございます。
ところで、この併給制限、支給停止によりましてどのくらいが浮いているかと申しますと、その金額はわずか三億円でございます。
田中総理大臣は福祉主導、福祉中心と仰せになっておられるのでございますので、ぜひこういう点は改めていただきたいのでございます。幸いに国会の先生方は、
社会保障の問題につきましては非常に御熱心と私、存じておりますし、また
社会党におきましては、年金改善法案を現在作成中というふうに伺っておりますので、これが超党派で成立いたしまして、この国会で
国民年金法を一部修正して、こういうふうな併給制限をなくしていただきたいと考えるのでございます。
さらに、各年金の支給増額はこの十月からでございますが、すでに
物価のほうは大幅に値上がりしているという状態でございまして、重度の身体障害者、あるいは母子世帯や生活保護を受けている方々は、この国会で、現在厚生省が考えておりまする生活保護の一四%
アップではとうてい従来の生活を維持することができないのであるから、これをもっと引き上げてほしい、こんなふうに強く要望しておりますることは新聞等でも報じられておりますので、先生方におかれましても、特に御配慮を賜わりたいと存じているのでございます。
公述の第二点は、
行政の違法不当処分と権利救済でございます。これは、ただいま申し上げました中村仁一さんの件とも関係することでございます。
国会で先生方が議決されました法律は、行
政府によってこれが執行されるのでございまして、
行政は、申し上げるまでもなく、戦後の
日本国憲法に基づきまして、法治主義、民主主義、地方分権主義の三大原理のもとにこれが行なわれるべきでございまするが、残念ながらこの原理に反しまして、
行政が
国民の権利を侵害することがしばしばあるのでございます。
その
一つとして、特に国会の先生方に御認識を賜わりたいのは、
日本は通達
行政といわれておりますが、法律の精神、法律の趣旨、目的に沿わないような
行政通達がしばしばあるということでございます。
その具体的な例として
一つ指摘申し上げたいのは、健康保険法の看護の承認基準の通達でございます。健康保険法によりますると、付添看護は保険者が必要と認めた場合にこれを給付するということになっておりまして、
行政庁の裁量となっているのでございます。この裁量の基準を示すものとして、
昭和二十六年に厚生省保険局長の通達で、看護の承認基準についての通達が出ているのでございますが、この通達では、きわめて症状が重篤であるとか、あるいは手術後特に絶対安静を要するときのほかは付添看護を認めないというような通達がされておるのでございます。
ところで、御承知のように、法律を施行いたしますためには、政令、それから大臣の制定する施行規則がございますが、さらに細部の
行政を運営いたしまするためには、
行政庁が局長通達あるいは部長通達、課長通知などで下部の機関にいわゆる通達を流しているのでございます。この
行政通達はいわゆる内部の訓令のような性質のものでございまするから、
公聴会を開いて関係
国民の
意見を問うというような手続をいたしませんし、官報にも掲載されないというように、民主的な手続をとっていないのでございます。ところが、
行政の末端におきましては、この
行政通達が金科玉条のように守られておりまして、ただいま申し上げましたように、しばしば法律の趣旨、目的に合わないような通達によって
行政が行なわれているのでございます。
あとで申し上げますが、ただいま申し上げました看護の承認基準の通達も、
社会保険審査会の努力によりまして近々厚生省が改めるように伺っているのでございますが、まだまだそのほかにも通達を総点検する必要があると私は考えるのでございます。
ところで、権利は、御承知のように法律で抽象
一般的にきめているのでございまして、私ども
国民の権利といたしまして具体化するためには、権限のある
行政庁の裁定処分によるのでございます。ところで、
行政庁が裁定処分いたします場合に、もちろん、法律に基づき、法律に従いましてこれを行なうのでございますが、ときには調査が不十分でありまして、事実を誤認いたしましたりあるいは法律の解釈適用を誤りますなどして、違法、不当の処分をすることがしばしばあるのでございます。これが権限のある審査機関または裁判所によって取り消されるだけでも、毎年、
社会保障関係におきましては、ここにございますように、千五百件から二千二百件、国税関係では八千五百件から一万三千件、大体約一万件くらいが違法、不当の処分としてこの権限のある機関によりまして取り消されているのでございます。その違法、不当の処分の被害者は、身体障害者、遺族、傷病者、低所得の老人など、
社会保障によるところの保障が特に必要な方々であるところに問題があるのでございます。
さらに、この違法、不当な処分の多い種類は、健康保険法のただいま申し上げました看護料、あるいは傷病手当金、
国民年金や厚生年金の障害年金、老齢福祉年金、労働者災害補償保険法による遺族補償、障害補償あるいは恩給、援護、国税関係が多いのでございます。
この違法、不当の処分に対しましては、
行政不服審査法によりまして権利の救済がはかられているのでございますが、
行政不服審査制度は、裁判の制度とはやや異なりまして、制度ごとに分立いたしておりますので、この審査制度によりましては必ずしも権利救済の制度として十分でないものがあるということを指摘しなければならないのでございます。ただ、私は、
社会保険審査制度及び労働保険審査制度は、外国に誇ってもいい審査制度であると思います。
社会保険審査法は
昭和二十八年、労働保険審査法は
昭和三十一年の国会で制定されましたので、先生方に対しまして、特にこの点、深くお礼を申し上げる次第でございます。
社会保険審査法は、厚生省所管の健康保険、
国民年金、厚生年金、日雇い健康保険、船員保険、これらのものを
社会保険と称しておりますが、これに対する審査制度でありまして、第一審は都道府県に設置されておりまする
社会保険審査官であります。
社会保険審査官は独任制でありまして、
社会保険審査会の
委員にあるような身分保障がありませんのと、
行政通達を守らなければならないという義務がありますので、その点でまだ十分な、強力な審査権限を持っているといえないのでございますが、それでも審査請求の三〇%ないし四〇%はここで救われているのでございます。都道府県の審査官によりまして、棄却、つまり申し立てを認められなかったものが中央の審査会に再審査請求されるのでございますが、大体、審査官が棄却いたしました約一〇%が、中央の厚生省にありまする
社会保険審査会に再審査請求がされるのでございます。
中央の
社会保険審査会の
委員は、国会で両院の先生方の御同意を得まして総理大臣が任命するのでございまして、審査会の
委員長及び
委員は、在任中は裁判官と同じように身分保障があり、そしてさらに、法令のみによって審査すればよく、審査官のように
行政通達には拘束されないという強力な権限を持っているのでございます。この審査は
委員の三人の合議体で行なわれるのでございまするが、特に厚生大臣から
指名される参与が、不服申し立て国選弁護人的な
立場でこの審理に審査参与権を持ちまして参与するのでございます。私も厚生大臣から
指名された審査会の参与として微力を尽くしているのでございまするが、この審理は公開で行なわれます。そして裁決書は公刊され、それが販売されますので、
国民が批判しようと思えば批判することができるということでありまして、きわめてこの審査会の組織は強力で公正であり、手続もまた公正でかつ民主的でございます。これは私は外国にも誇っていい制度だと思うのでございます。
労働保険審査会も、
社会保険審査会と組織、手続はほぼ同じでございまして、
社会保険審査法及び労働保険審査法は、
行政不服審査制度の通則法でありますところの
行政不服審査法の審査の手続の適用が除外されているのでございます。
この審査会で救われるものは多数あるのでございますが、その審査会で救われましたものは、当然その具体的な直接の効力はその事件のみにとどまるのでございまするが、審査会の裁決が
行政処分の際の指針とされ、あるいは審査官が審査決定する場合の規範ともされるのでございますし、また審査会の裁決によりまして、しばしば
行政指導、
行政通知が改められるのでございます。さらには、審査会がいろいろな問題、たとえば沖繩から内地に帰りました人の福祉年金の支給の問題、あるいは行くえ不明者の年金の支給の問題、あるいは看護料の問題、さらには通勤途上におけるところの災害、こういうふうな問題につきましては、審査会の審理によりまして、現行制度、現行法の不備、欠陥が指摘されることによりまして法律改正の契機になるということがしばしばあるのでございます。
社会保険審査制度、労働保険審査制度は、
一つは
国民の権利救済に実効をあげております。二つには
行政の適正運営の
確保に寄与いたしておりますし、第三には
社会保障制度の
内容の改善にも寄与いたしておるのでございます。審査会の裁決を不服として裁判所に
行政訴訟されるという例はきわめて少ないのでございます。裁判所で審査会の裁決が
最終的に取り消されることはきわめてまれでございまして、これをもちましても、わが国の
社会保険、労働保険の審査制度は
世界に誇っていいものであると私は強調して差しつかえないと思うのでございます。
しかしながら、残念なことに、審査会にかかりますると、綿密慎重な調査、審理をいたしまする関係と、事件が山積いたしまする関係で、どういたしましても、受付から裁決するまでに、一年からときには二年もかかる実情でございます。そのために、現在の
物価の値上がりでは、給付を請求してから二年あるいは三年たちますると、給付金の実質価値が下がるということになるのでございまするが、先生方御承知のように、違法、不当な処分でありましても、権限のある機関によりまして取り消されるまでは、これが適法な処分と推定されまするために、これが後日取り消しを受けましても、その処分は取り消されるまでは有効であるということによりまして、何らの国家賠償がないという不合理な実態をつけ加えておきたいと思うのでございます。
ところで、この
社会保険、労働保険の審査制度は非常に実効をあげておりますし、組織、手続も民主的、強力、公正でございまするが、生活保護、児童扶養手当関係、恩給、援護あるいは国税関係の審査制度には、
国民代表あるいは受給権者、被保険者の代表が参与として審理に立ち会うということが制度上ないのでございますし、審理もこれは非公開でありますし、裁決書も公刊されないという点で、これらの制度は、非民主的、かつ公正が十分でなく、裁判の前審として不適格であると申し上げなければならないのでございます。
この審査制度によりまして、
社会保障関係では毎年千八百件から三千件が救われておりますし、国税関係も八千五百件から一万五千件が救われております。これは、
社会保険関係におきましては、裁決を待たないで、審査請求がありますると
行政庁が再調査をいたしまして、自発的に処分を改めて、請求人が審査を取り下げるという例もございますので、こういうことになるのでございます。
このように、この審査制度によりまして、ほぼ不服申し立ての三件につき一件が権利を救われるのでございまして、この審査制度は、
国民に
行政が信頼されるためにもよい制度であるのでございまするが、残念ながら、
政府のこれに対する広報が不十分なのと、それから、中村さんの事件につきましても申し上げまするが、年金支給の却下通知あるいは年金支給の停止通知などをいたします場合に、審査請求ができるということが決定通知書に書いてはございまするが、この教示が不徹底のために、泣き寝入りする人が少なくないのでございます。
私が、
昭和三十八年及び三十九年の二回、内閣総理大臣官房調査室の委託を受けまして、
社会保障
行政に関する研究並びに
国民の
社会保障意識の調査をいたしましたところ、この審査制度を知っていると答えた人は三〇%ぐらいでございます。しかし、知っているかと聞いたので、知っていますといって答えたのでありまして、実際には知っている人はせいぜい一〇%ぐらいではなかろうかと考えているのでございます。
この中村さんの場合におきましても、先ほど申し上げましたように、千葉県知事、
国民年金課長は、昨四十七年の七月十四日に、中村さんに対しまして、併給を制限するという通知をしたのでございます。ここには、不服ならば千葉県
社会保険審査官に審査請求することができるということが印刷されているのでございますが、それを見落とす場合が多いのです。しかも中村さんの場合には、ただいま申し上げましたように、両眼を失明している方です。おそらく中村さんは家族の方に読んでもらったと思うのでございますが、なかなかそういうことは
一般国民は十分に理解できない。ということは、審査制度というものに対する予備知識がないために、こういうことが理解できないのでございます。ですから、この場合におきましても、中村さんに対しまして電話で審査制度を説明してあげるとか、あるいは別途書面でこういうふうなことを説明してあげなければならないのですが、そういう配慮をしなかった。
さらに問題として、私がここで声を大にして指摘しなければならないのは、中村さんはその処分に不服でありまして、この決定通知書を受けましてしばらくたちまして、千葉県の
国民年金課に電話をかけまして、どうも併給制限されて、六万円もらえるものが百四十四円になったのは私は不服でございます、これは何とかならないのかというふうに問い合わせたのでございます。ところが、千葉県の
国民年金課では、これはどうも現行法上やむを得ませんというふうに答えた。それは確かに現行法上は、
国民年金法第六十五条の第三項によりまして、
国民年金法のたてまえからいえば妥当な処分であったと思うのでございますが、こういうふうに答えた。その際、なお不服ならば審査請求できるのだということを教えてあげるべきでございますが、これは
あとで第三に
行政苦情のところで申し上げまするが、そういうふうな親切さが欠けておったわけです。ところが、中村さんはなお不満でありますので、今月、二月十二日ごろ朝日新聞に、これは何とかならないものでしょうか、私は不服ですということを訴えてきたのでございます。
先ほど申し上げましたように、不服の場合には、審査機関に対して審査請求、再審査請求はできますし、さらに、先ほど申し上げましたように、審査会が棄却いたしました場合には、裁判所に対しまして、
行政訴訟法によりまして処分の取り消しの訴えをすることができるのでございます。裁判所に訴えるのは処分があってから三月以内となっておりますし、それから
国民年金法の第百一条の二の規定によりまして、
社会保険審査会の裁決を経なければこの
行政訴訟をすることができないというふうな審査前置の規定が置かれているのです。もし裁判所が、中村さんばかりではありませんが、この中村さんのただいまの併給制限に対しまして憲法との関係で審査しましたら、また
行政庁とは別の答えが来ると私は思うのでございます。
障害福祉年金は、身体障害に対する保障を理由として支給されるものでございます。障害福祉年金の現在の月五千円の中には、千七百円は介護料の部分が含まれているのでございます。ところが、一方の恩給法によるところの普通恩給には介護料的な部分がないのでございます。したがいまして、普通恩給を支給されておりましても、障害福祉年金は当然併給されるのが妥当でありまして、これを併給しないというのは、憲法第十四条の、すべて
国民は法のもとに平等であって、
社会的な身分により経済的、
社会的な差別を受けないという条項に違反すると私は考えているのでございます。私の想像では、裁判所に判断を求めましたならば、裁判所ではあるいはこういうふうな判断を示したのではなかろうかと思うのでございますが、中村さんの場合には、裁判所の判断を受けるというふうな機会すら奪われてしまったということでございますので、こういう点におきましても、
行政庁はもう少しあたたかく取り扱ってもらいたいと思うのでございます。
時間が少なくなりましたので、
あと続けて少し早口で申し上げますが、次に
行政苦情でございます。
国の
行政、公社、公団の事業に対しまする苦情は、四十六
年度は十万件ありまして、その三九%の約四万件は、
行政管理庁の調べによりましても、
行政庁の事務処理の不親切、法令解釈と運用の誤り、施設の不備、法令の不備、欠陥など
行政庁側に原因があるということをいっているのでございます。この
行政に対する苦情は、
行政管理庁設置法第二条、これは国会で御修正になってできたのでございますが、これによりまして、
行政苦情処理が都道府県
行政監察局並びに全国市町村に置かれている
行政相談
委員によって行なわれておりまして、ほぼ
行政苦情の三〇%はこれによって処理をされているのでございます。ところが、これもまた私が内閣調査室の委託調査で調べたところによりますと、十分にこれが周知されていないために活用が不十分であるように私は考えております。
第四といたしましては、権利の手続的の保障でございます。
行政が公正な手続で行なわれ、
国民の権利が手続的に保障されるように
行政不服審査制度を整備強化し、審査機関を強力、公正なものに改め、審査手続を公正、民主的に改め、違法、不当処分の発生を防止するために、処分の手続を慎重にしてもらいたいのでございまして、たとえば、支給の請求の却下あるいは支給停止のような、いわゆる
国民の不利益処分につきましては、実地調査をし、あるいは請求人に弁明の機会を与えるなどして慎重に処理をして、違法、不当の処分が起こらないように事前抑制をしていただきたいのでございまして、事前抑制と事後救済を一貫とする
行政手続法を整備していただきたいのであります。それによって、権利の手続的の保障というものが確立されることになるのでございます。
その具体的な審査制度の強化は、たとえば
社会保険審査会及び労働保険審査会は、もとは公益、被保険者、事業主の三者構成でございましたが、これが
昭和二十八年あるいは三十一年に現在のような特別職の公務員だけによる審査制度に改められまして、受給権者代表、被保険者代表は参与という不服申し立て弁護人的な
立場で審理に携わっておりますが、これは申し上げるまでもなく裁決権はないのでございます。
社会保険及び労働保険は審査件数が多いのでございますので、非常勤の受給権者代表が裁決権を持って当たるということは、あるいは事件の審理を促進するにふさわしくないと思いますので、現行のような特別職の公務員だけが裁決権を持って
委員として当たることが適当だと思いますが、参与の権限を強化いたしまして、たとえば、審理が終わりましてから裁決がおくれているものに対しましては、裁決を促進する請求権、さらに審査会が請求人の請求を棄却いたします場合に、審査会の参与の
意見と
委員の
意見が異なっている場合、参与の
意見を採用しない場合には、その理由を裁決書に記載することによりまして、これが
行政訴訟する場合に請求人に非常に手がかりになるのでございますが、こういうこともしていただきたい。
さらに、審査会の
委員は国会の両議院の同意を得て任命されるのでございますが、審査会法ができましたときに、附帯決議で、審査会は従来のような公労使の三者構成の実をとって自主的に運営すべきだというふうな附帯決議がつけられておりますし、さらに
委員の任命あるいは再任のときには、審査会の参与の
意見を問わなければならないということになっておるのでありますが、これが実際には行なわれていない。審査会の参与は、どの
委員がどのように努力しているか、どのように執務しているかということをよく知っておりますので、国会で人事がかけられる前に、審査会の参与にまず
政府は
意見を問うことが私は必要であろうと思いますので、そういう点も考慮してもらいたいと思います。
それからさらに、労働保険審査官の制度におきましては、都道府県に審査参与が置かれておりますが、
社会保険はございませんので、
社会保険のほうも都道府県
段階にも事業主や被保険者、受給権者代表の参与を置いて第一審を強化する、このようにしていただきたいのでございます。
それから通達
行政の弊害をなくし、
国民本位の
行政に改革するようにしていただきたいのでございますし、さらに
政府から国会に毎
年度、
行政不服、
行政苦情に関する年次報告をするように改めていただきたいのでございます。
この年金の問題、さらには
行政不服、権利救済の問題につきましては、まだたくさん申し上げたいことがでございますので、まことに恐縮でございますが、
社会労働
委員会及び内閣
委員会に私を
参考人としてお呼びいただきまして
意見を御聴取賜わりたいということを、この席上でお願い申し上げておきます。
私の公述が終わりましてから、先生方の御質問にもお答えさせていただきたいと思うのでございますが、ここで
一つお願いがございます。
この冷たい障害福祉年金の併給制限の処分を受けました中村仁一さんが、ただいまここに
公聴会を傍聴に来ておるのでございまして、中村さんは実情を総理大臣に訴えて陳情を申し上げたいということを申しております。陳情書の陳情の趣旨といたしますところは、障害福祉年金の併給制限を今国会におきまして法律を改正して撤廃していただきたいということ。もう
一つは、障害福祉年金が障害者の介護料を含めました生活保障の実益があるように、この国会で
予算を修正し法律案を改正してほしい、こういうふうな要望でございます。
まことに御多忙中恐縮でございますが、この公述と先生方の御質問が終わりましてから、国会の先生方と御一緒願いまして、
田中内閣総理大臣及び齋藤厚生大臣に中村さんと私お目にかかりまして、陳情させていただきたいと思うのでございます。おそらく
田中総理大臣はこういう実態を御存じないと思うのです。もしこういう実態を御存じならば、決断と実行ということを常々おっしゃっておられますし、福祉主導、福祉中心ということをモットーにされておりますので、即時これをお聞き届けになって改めていただける、私はこのように信じて疑わないのでございます。まことに恐縮でございますが、どうぞ国会の先生方の御努力によりまして、総理大臣並びに厚生大臣にきょう陳情ができますように、お取り計らいを願いたいと思います。
時間の関係で一応私の
意見の公述はこの
程度といたしまして、御質問がありましたならば御質問をお受けいたしたいと思いますし、
行政不服の問題でもっと深刻な問題がございますので、これなども御質問にお答えして申し上げたいと思います。
たいへん御清聴ありがとうございました。(拍手)