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1971-12-14 第67回国会 衆議院 大蔵委員会 第15号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十六年十二月十四日(火曜日)     午前十時三十六分開議  出席委員    委員長 齋藤 邦吉君    理事 宇野 宗佑君 理事 丹羽 久章君    理事 藤井 勝志君 理事 山下 元利君    理事 広瀬 秀吉君 理事 松尾 正吉君    理事 竹本 孫一君       上村千一郎君    奧田 敬和君       中川 一郎君    松本 十郎君       三池  信君    毛利 松平君       森  美秀君    吉田  実君       阿部 助哉君    井上 普方君       藤田 高敏君    堀  昌雄君       貝沼 次郎君    伏木 和雄君       二見 伸明君    伊藤卯四郎君       津川 武一君  出席国務大臣         大 蔵 大 臣 水田三喜男君  出席政府委員         環境庁企画調整         局長      船後 正道君         大蔵政務次官  田中 六助君         大蔵大臣官房日         本専売公社監理         官       福間  威君         大蔵省主計局次         長       吉瀬 維哉君         建設省都市局長 吉兼 三郎君  委員外出席者         運輸省航空局飛         行場部長    丸居 幹一君         日本専売公社総         裁       北島 武雄君         参  考  人         (国立がんセン         ター研究所疫学         部長)     平山  雄君         参  考  人         (財団法人癌研         究会研究所実験         病理部長)   高山 昭三君         参  考  人         (財団法人癌研         究会研究所長) 吉田 富三君         参  考  人         (人間科学研究         所長)     宮城 音弥君         大蔵委員会調査         室長      末松 経正君     ――――――――――――― 委員の異動 十二月十四日  辞任         補欠選任   中嶋 英夫君     井上 普方君 同日  辞任         補欠選任   井上 普方君     中嶋 英夫君     ――――――――――――― 十二月九日  付加価値税創設反対に関する陳情書外二件  (第一四五号)  開墾地等農業所得免税措置延長に関する陳  情書(第  一四七号)  肉用牛売却所得等免税措置延長に関する陳  情書(第  一四八号)  行政費の節約に関する陳情書  (第二  〇二号)  貸金業金利調整に関する陳情書  (第二〇三号)  税制改正に関する陳情書  (第二二一  号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  国の会計に関する件  税制に関する件  関税に関する件  金融に関する件  外国為替に関する件  専売事業に関する件(喫煙と健康の問題)     ―――――――――――――
  2. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 これより会議を開きます。  専売事業に関する件について調査を進めます。  本日は、まず喫煙と健康の問題について参考人から意見を聴取することといたしております。  本日御出席参考人は、国立がんセンター研究所疫学部長平山雄君、財団法人癌研究会研究所実験病理部長高山昭三君、財団法人癌研究会研究所長吉田富三君及び人間科学研究所長宮城音弥君の各位であります。  参考人各位には、御多用のところ御出席いただき、まことにありがとうございます。喫煙と健康の問題について、それぞれの立場から忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。  なお、各位の御意見は、最初におのおの十分程度にお取りまとめいただき、その後に委員からの質疑によりお答え願うことといたしますので、何とぞよろしくお願いを申し上げます。  それではまず、平山参考人よりお願いをいたします。
  3. 平山雄

    平山参考人 私は喫煙病疫学有害表示必要性ということについて申し述べます。  まず肺ガン増加でございますが、肺ガン死亡率は過去二十年間に十倍近く増加し、このままの勢いで増加いたしますと、一九七七年には二万人をこすと予測されます。お手元のプリントのように一九五〇年には千百十九名、六〇年には五千百七十一名、七〇年には一万四百八十九名という増加でございます。これを増加勾配からの計算数で予測いたしますと、一九七七年には二万一千四百五十六名と予測されるわけであります。この暗然とした未来をいかに制御するか、それが今日の課題考えます。  次に、喫煙病の全貌について申し上げます。  厚生省がん研究助成金の援助を受け、一九六五年十月以降、全国の六県の二十九保健所管内に居住する四十歳以上の成人のほとんど全員に相当する二十六万五千百十八人について、まず喫煙状態を含む生活環境条件を詳しく調べた上、継続観察しております。五年間に一万一千八百五十八人の死亡者が出ておりますけれども、非喫煙者と比べ喫煙者に偶然差を越えて明らかに死亡率が高いと判定されましたのは、男の場合は、総死亡、全ガン――口腔咽頭ガン喉頭ガン肺ガン食道ガン、胃ガン大腸ガン肝臓ガンすい臓ガン前立腺ガン悪性リンパ腫であります。その他の死亡原因としましては、結核、蜘蛛膜下出血、その他の脳卒中慢性リューマチ性心臓疾患動脈硬化性心臓疾患、その他の心臓病高血圧性心臓疾患、その他の高血圧症胃かいよう肝硬変慢性気管支炎、肺気腫、肺繊維症であります。女性の場合は、喫煙者の数が少ないために、確かに有意性をもって多いといえる死亡原因の数は少なくなってまいりますが、それでも、総死亡、全部のガン――喉頭ガン肺ガン大腸ガン肝臓ガン、その他で蜘蛛膜下出血、その他の脳卒中動脈硬化性心臓疾患胃かいようが明らかに喫煙者群に多いと認められました。  喫煙者群には、肺ガンによる超過死亡率、つまり非喫煙者死亡率と比べての増し分の実に七・六倍にのぼる総超過死亡率か観察されています。肺ガンはこのように喫煙病という不気味な大きな氷山のほんの一角にすぎないのであります。  喫煙本数が多くなるほど一般に死亡率は高くなります。たとえば肺ガン死亡率は非喫煙者一〇・〇、ときどき喫煙者二一・四、一ないし一四本喫煙三二・七、一五ないし二四本喫煙四五・一、二五本以上喫煙八二・五、いずれも人口十万対死亡率であります。このように喫煙本数がふえるほど死亡率は高くなっております。  しかし、今回特に注目されましたのは、喫煙開始年齢影響であります。表のように総死亡を見ますと、未成年のときに喫煙を開始しましたものは一一七八という死亡率でございますが、たばこを吸わない者八六六という死亡率に比べまして一・四倍に相当しております。ガンの場合は、未成年喫煙は三七三に対して非喫煙は一八五、二・〇倍、肺ガンは五五対一〇で五・四倍。動脈硬化性心臓病九三に対して四四、二・一倍、胃かいよう肝硬変は四二、三八に一六、一六でそれぞれ二・七、二・四倍であります。その関係を図に示したのが第一図でございますが、このように明らかに喫煙開始年齢の若いほど死亡率が高いということが明瞭にうかがわれます。  第三表の下のほうには超過死亡率を書いてあります。つまり非喫煙者死亡率を引きさった死亡率でございますが、これだけのものがたばこを吸うことによってよけいに死んでいるわけであります。たとえば総死亡を見ますと、未成年喫煙しますと、三一二というものがよけい人口十万対死んでいるわけであります。それは第一図の斜線の部分でございます。このようなものをどのようにして防ぐか、特に未成年喫煙は絶対に防がなければならないということを痛感するわけでございます。  喫煙は、以上のように死亡率を高めるだけではなくて、喫煙本数が多いほど症状を訴える人も多く、病気欠勤率も高い傾向があります。私たちのその他の研究、海外の疫学並びに実験室的研究どもたばこの煙の化学的分析とか統計からして、すべて喫煙有害性を示しております。  肺ガン増加は、そのすそ野に呼吸器消化器循環器神経系統などを広くおかす喫煙病増加を伴っており、それが国民健康保険の赤字の重要な一因ともなっていると考えられます。国民健康破壊経済的損失を与えるこのような商品は、基本的には、製造し、販売すべきでないと考えるのが最もすなおで、健全な判断でしょう。もっとより組織的な喫煙対策考えるべきでありますけれども、少なくともWHOも国際対ガン連合もやっきになって強く勧告している有害表示は、政府喫煙対策を行なうという意思表示でありますので、わが国でも当然行なうべきであります。  昭和三十九年一月と二月の厚生省児童局長通達公衆衛生局長通達――備考に示してありますが、それに国の見解は明らかなのに、なぜ有害の表示やその他の方法国民にそれを徹底させ得ないのか。有害性がわかった以上、WHO勧告を入れ、即刻対策を開始すべきと考えます。私たち国研究機関研究者の警告から十七年、厚生省局長通達から七年、WHO勧告がら一年半もたっております。サリドマイド事件で問われている有害とわかってから対策開始までの長さをめぐる社会の良心の問題を、ここで思い起こしたいと思います。  WHO報告でも、わが国研究でも、妊婦喫煙すると明らかに出生時体重が軽く、胎児の発育障害や流産などの発生が高まることがわかっております。  あすの国民を守る上にも、すでに存在している法律を徹底させる上にも、最小限度たばこの包装に未成年及び妊婦は絶対に吸わぬことを明瞭に印刷すべきであり、それに加えて、喫煙は健康を害しますと表示すべきと考えます。  終わります。
  4. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 高山参考人お願いいたします。
  5. 高山昭三

    高山参考人 本日私が衆議院の大蔵委員会専売事業に関する件(喫煙と健康の問題)の参考人として出席いたしました理由は、専売事業審議会の過日の答申の中にありますところの「病理学的には肺がんの発生喫煙との因果関係などについては今後の研究にまつべきものが多く」云々という項と、「疫学的立場病理学的立場との間には、なお一致しない点もあり」云々という二項について意見を述べよと私なりに解釈いたしましたので、過去十年ほどにわたりましてたばこの中のガン原性を中心に研究してまいりました過程から、私の見解を述べてみたいと思います。  たばこ喫煙肺ガン発生と重要な因子があるであろうと考えられた点には三点がございます。その一つは、疫学的研究でありまして、これは先ほど平山先生からお話のあったとおりであります。その第二番目が、実験的にたばこタールの中からガン原性化学物質が発見されたこと、あるいは証明されたことであります。そして第三番目が、病理組織学的な研究から等であります。  第一の疫学調査は、先ほど申しましたように、平山先生からお話がありましたので、私はこれを割愛いたしまして、第二番目のたばこの煙、たばこタール等からガン原性物質証明されたという、その点について述べてみたいと思います。  たばこ消費量肺ガン及びその他のガン発生が並行して増加しているという統計調査から、たばこ喫煙肺ガンとの間に直接的な関係証明しようといたしまして、多くの研究者たばこタールを分析いたしまして、そしてガン原性物質、これは動物に投与いたしますと、ガンを容易につくることのできる物質という意味であります。そのがン原性物質証明する実験を行なってまいりました。その結果、三・四ベンツピレンという芳香族炭化水素に属する化合物でありますが、三・四ベンツピレンやその他の芳香族炭化水素及びごく微量ガン実験的につくることのできるニトロソ化合物あるいは微量放射性元素ポロニウム二一〇でありますが、それらがたばこのやに、煙の中から証明されたわけであります。  この証明方法を簡単に述べますと、たばこの煙を冷却化あるいはフィルターを通じまして凝縮いたします。この操作をいたしますと、煙の中の微粒子は濃褐色のタール状物質として集めることができるわけであります。これを酸とアルカリで処理いたしまして、水で最後に洗いまして、残ったものが中性タールといわれている中性成分であります。多くの有害物質は、この中性タールに集まってくるわけであります。この中性タールを一方では化学的に分析いたしまして、既知のガン原性物質と同定する化学的な操作をいたすと同時に、他方では、この中性タールをアセトンなどの有機溶媒に溶かしまして、そうしてこれをネズミの皮膚に反復塗布する実験あるいはネズミ皮下反復注射をいたしまして、そうしてこのガン原性確めるわけであります。私を含めまして今日まで多く報告されました実験的な研究からは、たばこのやにの中には確かにガン肉腫をつくる能力を持っている物質が含まれているということが証明されております。またこのようなやにを実験動物気官に塗りますと、気官上皮が増殖いたしまして、そうしてガンに似た病変をつくることもすでに知られております。  しかし、このような間接的な証明方法では、喫煙肺ガン発生の十分な証明とはなり得ないといった意見もあります。もし人間発生する肺ガンたばこ喫煙することで発生するならば、実験動物たばこ人間と同様に喫煙させて肺ガンをつくらなければいけない。しかもそれは高率にできなければ、両者の相関を証明し得たとはいえないのではないかといった意見もありまして、事実スイスやアメリカ研究者は、この課題に向かって過去努力を重ねてきたわけであります。  初めはウサギを用いまして、気官を切開いたしまして、そこにチューブを通じてたばこを強制喫煙させる実験を繰り返してみましたけれども、確かにガンと診断し得る成績は得られなかったわけであります。白ネズミ吸入実験でも同様でありました。しかし、このような中にありまして、一九七〇年の二月の五日にニューヨーク市で開催されましたアメリカの対ガン協会理事会の席上でアメリカハモンド及びアウアーバッハという両博士が、犬に対する紙巻きたばこ喫煙影響という研究の成果を発表したわけであります。実験方法は、ビーグル犬を使いまして、それに気官切開を施しまして、気官切開部チューブを挿入しまして、このチューブシガレットホルダーに接続して喫煙させるという実験であります。喫煙は最長八百七十五日間にわたったそうであります。それを人間に換算しますと大体十八年間でありますが、五十四頭中三十六頭に何らかの肺の腫瘍が認められたというわけであります。  この実験フィルターの効果を強調しておることが特徴であります。すなわちその第一は、タール成分を四九%、ニコチンを三七%とることのできるようなフィルターつきシガレットは、両切りシガレットよりも犬に対しては害が少なかったこと。それからその第二は、喫煙をさせた犬は、対照群喫煙をさせなかった犬よりも死亡率が高かったけれどもフィルターつきシガレット喫煙の犬は、同じ本数両切りたばこ喫煙した犬よりも明らかに死亡率が低かったことであります。そしてハモンド博士らは、喫煙をさせることで起こる肺の傷害程度は、喫煙の期間とともに増加をする、また肺の傷害進行度は、フィルターつきたばこ喫煙のほうが両切りたばこ喫煙に比しておそかったと結んでいるわけであります。上述ハモンド博士らの研究は、経気道的にたばこ実験的に動物に投与いたしまして、肺に腫瘍を形成したものでありますけれども、いまだこの実験の追試が行なわれておりませんので、その真偽のほどは認められていないわけであります。  以上申しましたごとく、たばこタールネズミに塗ったり皮下注射をしたりしますと、ガン肉腫を容易に実験的につくることができ、また気官切開を施したところの犬に強制投与いたしますと、肺の腫瘍発生するわけでありますけれども、それならば、たばこの煙、やにの中に含まれている先ほど申しましたガン原性物質が肺の腫瘍形成意味があるのかという点になりますと、はなはだ問題が多いわけであります。  たとえばこのように反論する研究者もいるわけです。先ほど申しました三・四ベンツピレンでありますが、計算の上からは、三・四ベンツピレンは百万本のたばこの中に十六ミリグラム含まれております。百万本人間がのむためには、一日二十本のんでも約百三十年かかります。それでそこからできるところのガン原性物質は十六ミリでありまして、ネズミが三ミリで発ガンする点を考えますと、これを体重で割り出してみますと、人間ではとても十六ミリではガン発生しないのではないかといった意見もあります。またこれはアメリカ報告でありますけれども、自動車の排気ガスたばこの煙よりももっとたくさんガン原性物質を含んでおる。たとえば同じ容積のたばこの煙と排気ガスとを比較しますと、ガン原性炭化水素の量は排気ガスの中に五十倍から百倍多い、そういう報告もあります。次に、イギリスの報告でありますけれども汚染大気の中には、特に大都会の大気中には、一日二十本のたばこをのんだときに生ずるガン原性化学物質の四倍もが、ただ呼吸をしているだけで肺の中に入ってくるという事実もありまして、たばこの煙、タール中にガン原性物質が含まれているからといって、肺ガン発生ガン原性物質は直接結びつき得られないのではないかといった見解もあるわけであります。  次に、病理学的な研究の面からでありますが、たばこ喫煙肺ガン発生関連病理学的に研究していくことは、現状ではかなり問題が多いわけであります。と申しますのは、病理学分野で私どもが扱える人体材料は、いわゆる病気のために摘出されたものであったり、あるいは剖検されたものでありまして、気道病変が他の因子によって修飾を受けているからであります。したがいまして、顕微鏡下で観察されました所見が純粋に喫煙に由来するという判定は非常にむずかしいことであります。  しかし、このような困難性があるにもかかわらず、経験を積んだ病理学者は、患者からの切除材料顕微鏡下で調べまして、喫煙者型と非喫煙者型に区別できる能力を持っているといわれております。たとえばオスロ大学クライバーグ博士でありますが、この先生肺ガン患者九百三十三名を調べまして、喫煙歴を伏せてその組織標本顕微鏡下で見ましたところが、喫煙者の大部分が肺に発生する三つのパターンのうちの扁平上皮ガンあるいは未分化ガンであって、非喫煙者腺ガンであった、こういう報告をしているわけであります。  それで一度このような線が出ますと、あとの研究者はこの線にならって診断するのが常でありますけれども大気汚染で有名なロスアンゼルス市のロスアンゼルス・カウンティー・ゼネラル・ホスピタルの医師団は、このクライバーグ博士意見にまっこうから反対立場をとったわけであります。それはロスアンゼルス近辺でも喫煙肺ガンは確かに増加をしておる、しかし、顕微鏡的検索からは、クライバーグが言ったような扁平上皮ガン、未分化ガン等増加ではなくて、ロスアンゼルスでは明らかに腺ガン増加をしておる、そういうことであります。これと同様の見解は、わが国の東京大学からも出されておりまして、病理学者の間でもこの診断をめぐっての論議はいまだに決着を見ていないのが現状であります。  次に、たばこの煙の中には気道に対して刺激性の強い物質が含まれておるので、したがって、気道を詳細に調べれば喫煙者と非喫煙者との間に何か相違が見出されるであろうという想定で、肺の場合と同様に気道検索も行なっております。そしてたくさんたばこをのんだ人の気道は、細胞が普通は円柱状、茶筒のような形をしておりますが、それが扁平状に変わって、しかもその一つ一つ細胞は異型をなして、中にはいわゆる前ガン様の病変を呈したというのも認められております。  しかし、この気道の変化に対しましても、喫煙によって起こったという特異性のものは観察されなかったという意見も一方の病理学者は持っております。と申しますのは、この気道上述病変は、肺炎等とかなり密接な関係があることからであると考えられております。  以上、実験的な立場と、それから病理学的な立場からたばこ肺ガン関係を簡単にサマライズしてみたわけであります。たばこ喫煙肺ガン慢性気管支炎その他の疾病関連することは、過去さまざまな観点から論議されてきたわけであります。しかし、今日に至るまで疫学調査を除いて以外は、たばこ肺ガン発生に関しましては、私ども分野からは明快な回答は得られていないというのが現状でありましょう。たばこ肺ガン発生また他の疾病との関連に関する研究は、過去の成績とかあるいは実験方式に拘泥されることなく、もう少し一つ一つの事象を科学的に掘り下げて、着実な実績を重ねていくことが必要であろうと考えております。  以上であります。
  6. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 ありがとうございました。  吉田参考人お願いいたします。
  7. 吉田富三

    吉田参考人 本年の三月付で、専売事業審議会から「喫煙と健康の問題に関連する日本専売公社の業務の運営についての答申」が出ておりますが、その中に、その審議に加わった五人の特別委員の名前を連ねた「喫煙の健康への影響についての考え方」というのが出ております。いま平山高山参考人から意見がございましたが、私はこの審議会答申意見と全く同じ意見を持っているものであります。それで、結論としては、ここに書いてありますように、喫煙と健康との関係についてはなお精密な研究を要するものと考えるというそういう考え方であります。  それを基礎にしまして、審議会では、この有害表示という問題については、過去にニコチンタール含有量表示することが現状においては最も適当な方法であろうという答申もしております。その見解に私も全く同感で、同じ意見でありますので、この問題について何かを述べよと言われても、これと全く同じことを繰り返すことになりますし、この三月以後、これを変更すべき新しい事実ないしは情報というものを持っておりませんので、意見はこれに尽きるわけでありますが、本日この席では、こういう答申の中には盛り込むことのできなかったこのような有害表示という問題に対する私個人意見を述べてみたいと思います。  私は、一応ガン研究に関する専門学者でありますが、それの供述としては、あるいは副次的なことあるいは第二義的なことになると思いますけれども、このような問題に関して意見を求められて述べるときの個人としての人間的背景と申しますか、個人考え方、それを申し述べてみようと思うのでありまして、有害表示をするということは、そもそもどういう意味を持っているのかというそういう考え方を、私の個人考え方を述べようと思うのであります。  つまり有害表示は、何を目標として、だれが何を対象としてそもそもやることなのであるか、こういうことであります。こういう意味で私の考えを述べますならば、最初結論を申しますと、有害表示はしないほうがよろしいというのが私の考えであります。そして当面の措置として何かをするとすれば、それは先ほどの答申にある含量表示が最も適当なことであろう、こういう考え方であります。  その理由を一々あげることはむずかしいのでありますが、一応まとめてみますると、第一に、この含量表示ということは、喫煙者個人に対して、自分自身でものを考え自分自身で判断して自分が選択するという個人の自由を残しておく、個人の自由を侵さないという点でよろしいと思っているわけであります。それから、箱ごとに有害というような文字を表示することは、この個人の嗜好、個人の好みを侵害して、ときにはそれを脅迫するようなことになるおそれもあるので、こういうことはしないほうがよろしいというのが私の考えであります。それから第三に、国家的措置としてまたは社会の文化運動として、この健康保持の立場から、禁煙あるいは節煙ということを奨励するということをしなければならないと考えるような場合には、これはよろしく教育的方法によるのがよろしいのであって、圧力をかけあるいは個人をおどすことになるおそれのあるような処置は避けるべきである、こういう考え方であります。  それで、有害表示というようなことについて考える場合に、幾つか考えなければならないことがあると思いますが、私は、第一点は、この警告をするあるいは注意をする主体がだれであるのかということの審議がよくされなければならないと思います。つまり、だれがどういう根拠に基づいて、いかなる資格でだれに向かって警告を発するのであるかという、その問題の考え方を十分に審議しなければならないと思います。日本ではこれがどういう形になるか、私個人はたいへんむずかしい問題だと思っております。  アメリカ有害表示を一番先にした国でありますが、最初コーションの形でなしに、その次にはウォーニングという形でしておる。このことばの意味は、私にはよくわかりませんけれども、初めは注意というようなところからその次には警告というふうに、だんだん語調が強くなったのだと考えますけれども最初の注意というときには、シガレットスモーキング・メイ・ビー・ハザーダスということで始まっておりまして、だれが言っているのか主体が述べられていなかった。その次に、ウォーニングというときには、サージャンゼネラル・ハズ・デサイデッドという書き出しで、サージャンゼネラルというものが有害であることを決定したという表示であります。サージャンゼネラルというのは非常に抽象的なものでありまして、日本で何に対応するのかよくわかりませんが、かりにこれを軍医総監ということとそれほど遠くないと思いますので、日本でいまありませんけれども、軍医総監が喫煙は健康に有害であると決定した、こういう表示をしたということにたいへん似ていると思います。  しかしこれは、こういう方法というものがはたしていい方法であるか。日本はこれを範とするに足るものであるかということに私は疑問を持っております。最近、英国では、政府と業者の合意によって政府がこれを警告する、そういう形をとっておりますが、日本でも、どういう形でだれがこれをウォーニング、警告するのかということを、よほど研究しなければならないと思っております。  この第二点になりますが、警告者がだれにするかということで、イギリスやアメリカでもこれが違っておるということは、こういう警告をする場合に、政府、業界、学界、その他等々の国民的なコンセンサスを得るということがたいへん困難であるということをあらわしているのだろうと思います。  なぜそういう一致を得ることが困難なのであるかということの理由はむずかしいと思いますが、私はその重要な理由一つは、なぜたばこにだけ警告をいましなければならぬのかということに合意が得にくいのだろうと思います。たばこに警告をするほどであれば、酒にも同じような理由があるではないか、いろいろありましょうけれども、酒が一番対応する。イギリスでは、たばこの火事によって毎年百人ほどの人命が失われているというようなことをロイヤルカレッジ・オブ・メディスンというところで嘆いておりますけれども、日本の統計によると、酒酔い、酒気帯び運転で昨年度に起こった人身事故が二万三千何百件というのであります。そのうち死亡事故が千二百人に及んでおる。そういうことをあげるならば、酒でも人命尊重というところからそんなに放置するわけにはいかないのじゃないか。そのほか多々理由がありましょうけれども、かつてアメリカでは立法をもって禁止をしたほどの理由が、酒の害についてのそういう理由があるわけであります。それをなぜたばこにだけ限るのかということについては、全国民の各階層の一致を得るということがむずかしいので、こういう警告を国がするというような場合には、その重点にあるバランスがなければならないということは考えなければならぬと思います。  それから第三点には、たばこは酒と同じく完全な嗜好物だということであります。個人の好みによって、個人が自由選択によって自分でのんでいるのでありまして、公害の問題とはたいへん違う。いまの人命損傷というようなことは公害の観点から考えることができるでありましょうが、それ以外の点は全く個人の嗜好であります。これは個人の人権として尊重しなければならないことであります。私の信ずるところでは、個人の好み、好ききらいというものは、言論の自由、表現の自由、思想の自由ということと同じく個人として尊重さるべきもので、個人の尊厳の重要な部分をなしているものであると考えます。昔からいう一寸の虫にも五分の魂、匹夫もその志を奪うべからずということは、ここに基礎を置いた人権の問題であると考えておりますが、嗜好ということは、思想の自由と同じような意味でこれを侵害してはならないと思うのであります。ですから、もし個人の嗜好が、好みが悪いというときには、これを教育的な方法で導いて、やっぱり悪かったということの合意を得るという方法はあると思いますけれども、いきなり個人の嗜好をねじ曲げるようなことをする権利はだれにもないと私は思っております。ここからも、好んでたばこをのむ人に対してなすべきことは、もしそれが有害であると信ずるなら、教育的方法によってそれを導いていくのがほんとうであると思います。  それから第四点では、発病の原理。病気発生するということのきわめて簡単な原理がありまして、これは昔から現在も変わっていない。それは、一つ病気は、外から加わる原因――外因と、内因との総合作用によって発病する、病気ということが起こるのだということであります。そしてその内因と外因とは、発病に関しては全く同じウエートを持ったものであります。ということは、どんな病原性の強いと称せられる細菌でも、それを受ける個体のほうに内因、つまり受ける素因がなければ発病しないということであります。どのように強いガン原性物質でも、素因がなければ発病しないということでありますので、もし外因の一つの要――外因も内因もきわめて複雑な構造でありますので、一つの外因的な要素をつかんでも、それをもって唯一の原因だとすることはできない。これと同等に働く、あるいは共同して働く外因がもっとほかにもあるのではないかということを追及するのが最も科学的な常道であるということを、この喫煙と人体障害の場合にも忘れてはならない、こういうことであります。  これだけのことを、時間を少し超過して恐縮でありますが、申し上げます。
  8. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 ありがとうございました。  宮城参考人お願いいたします。
  9. 宮城音弥

    宮城参考人 過度の喫煙というものは身体の健康に害があるか、こういわれますと、私はおそらくそうであろうかと思います。過度というのは、いかなる場合においても害をもたらすからであります。しかし、私は心理学者といたしまして心理学をやっておりまして、しかも精神医学を専攻した医師といたしまして、この側面からこの問題を考える余地があるということ、そういう側面から考えますと、有害表示有害性考え得る、こういうことについてちょっと問題にしてみたいと考えるわけでございます。  こういう問題を問題にいたしますときにいつでも問題になりますのに、一番最初に、お配りしたものに「二種の分類」というのを書きましたが、二つの分類を混同するということがあり得るかと思います。皆さん方のところではそういうことはございませんと思いますが、犬、ネコという分類があります。民主的、非民主的という分類があります。これを混同する。犬、ネコの場合は、そこに来たのが多かれ少なかれ犬的だとかネコ的だということはありません。犬かネコかどちらかである。ところが、理想概念の場合には多かれ少なかれであります。民主国だ、非民主国だとは言いません。そういうわけでありまして、この点を考える必要がある。つまり有害だということは、有害必ずしも有益を含まないという意味ではない、こういう意味であります。  二ページを見ていただくとその問題が出てまいりますが、有益及び有害というのは、完全な有益、完全な有害というのは理想概念、極限でありまして、実際はそういうものは世の中にはきわめて少ない。鋭利な刃物、これは害を与えますが、役に立つ。毒というものは薬にもなり得るわけでございます。より有益なものを妨害するものが世の中にはありまして、これを消極的有害、より有益なものを妨害する場合があります。あるいはより有害なものを避けることを可能にするものがありまして、これを消極的有益ということができるかと思います。たばこというのが消極的な有益というものを持っているということが、これが次に問題にしたいことでございます。  非常にわかりやすいように次の三ページを見ていただきますが、ここにこんな図を書きましたが、わかりやすいように「栄養過多」と一番右に書いてあるものから問題にいたしましょう。これは私は精神的なものに関係がある場合があると思います。きわめて簡単な例といいましょうか、身近な例を問題にいたしますと、評論家だった大宅壮一さんが非常に健康を害した。これは口さみしさから、たばこを吸いませんので、ピーナツばかり食べていまして、非常にふとり過ぎというものを起こしたわけでございます。これは栄養過多ということを引き起こした例でございますけれども、精神的なものでも、多かれ少なかれこういった精神的なものが関係した不健康というものはあり得るということが言い得るかと思います。特にたとえばいろいろなテンションが高まる、緊張が高まっている、それを弛緩しようというような人間、あるいは劣等感を克服しようという傾向がいろいろな人間にありますが、これがしばしば攻撃的な傾向を持ってあらわれます。ちょうどいまの栄養過多であらわれたように、攻撃性を持ってあらわれる。そして犯罪、特に麻薬におもむきやすい。たばこはこれを緩和する役割りをしているということは当然考え得ることであります。これは犯罪やいろいろな例を申し上げないといけないかもしれませんが、少なくとも麻薬の代用になっている。そしてそのたばこを持たないところの種族で、麻薬がある程度はびこっているなどという例は、これを示すことであります。  さて、そうしますと、過度の喫煙というのは健康を害すという表示はどうか。これは消極的利益を、いまのように麻薬にいくとか犯罪にいくとかいう、そういうようなことを防ぐ消極的利益を持っている、それを無視させるばかりではありません。  この四ページに、表示の効果というものを羅列いたしました。一つは、教育的、これはこういう肺ガンを起こしますよという指示を与えることです。それからもう一つは、気休めと申しますか、ややおまじない的要素を持っている。気休めのために表示をする。第三は、おどしです。スレットアピールと申しますが、おどかして、肺ガンになりますからというので、おどしの意味を持つ。この三つの意味を持っているかと思います。  ところで、過度、有害というようなものは感情的要素がありますので、どうしても気休めであるかおどしであるかという傾向をとりやすい。単なる指示ではないという要素があるかと思います。ところで、いまの一番最後にありましたおどしのスレットアピールのほうでありますが、これは実験研究がありまして、過度のおどし、スレットというものが逆効果を示すというのがアメリカでもって実験的に示されているのであります。それから逆効果にならない人、むろんありますが、逆効果にならないような人ではおまじない的意味しかないということになると、はたしてそんな表示というのが、それほど意味があるのかどうかということが明らかになりましょう。  そればかりではありません。ここで喫煙者の場合をとって考えますと、喫煙者の場合は、喫煙したいという欲求がある。あるにもかかわらずやめられない。これは欲求とそれに対するブレーキ、これは心の中でコンフリクト、葛藤を起こします。これは五ページのところでそう表を書きましたけれども、こういう葛藤を起こします。それはノイローゼの原因になるということは当然言い得ることであります。ノイローゼというのは、むろんこれは先ほど申しました理想概念でありますから、すべての人が医者のところに行くようなノイローゼを起こすとは限りませんが、多かれ少なかれノイローゼ的になる、不安を持つということは確かなことであろうかと思います。  それでは、今度は六ページに参りまして、「たばこの精神衛生的効果」と書きましたが、つまりこれは、社会心理的には何かプラスがあるかどうかと申しますと、いまのようなより有害なものを防止する、このほかに、社会生活の潤滑化、あるいは苦痛なき税金による心身症の防止、一応こう書きましたが、そういった税金などというものが心身症の原因になる。つまりぜんそくとか胃かいようとかいうものの原因になるといわれておりますが、こういったようなものを少なくするのに役立つということは当然考え得ることでありまして、そういう社会的にいった場合に、肉体的健康にもプラスになる要素があり得る、こういうことが言えるかと思います。  その次のページには、青少年と喫煙問題を問題にしておりますが、これはあとで御質問がありましたときにまた問題にすることにいたしまして、最後の結論のほうに入りたいと思います。  有害表示というものは、第一に画一的に行ないます。したがって、精神的な有害になる可能性を含んでいる。これが第一の点でありましょう。  それから第二に、先ほども吉田参考人が申されましたけれども、教育的方法、これが非常に必要なことであります。下世話なことばでいいますと、教育的方法のしりぬぐいというものがこの表示にあらわれていることはなかろうか。無害な吸い方はこうだ、あるいは、こういうものを吸ったらこうだ、あなたのからだにはこれがいいということを教えるべきであって、それを画一的に表示だけで間に合わすのは、おまじない的な気休めでなければ、そういうおどしであると言ってよろしいかと思います。  第三に、日本人の性格、これは私が最近調査をいたしたりしたのでありますが、何といってもイモーショナル――パッションとイモーションということばがありますが、情動的、かっとなりやすい、そういう傾向がありまして、しんねりむっつりといつまでもあることを追求するパッションというものが少ない、そういうかっとなる性格があるわけでございます。やれこうだということになりますと、これは悪い悪いということになりますと、みんながなるほどそうだそうだということになりやすいのでありますが、これとアングロサクソンのような国民性とは非常に違っております。アングロサクソンなんかでは、全面的禁止だってことによったらできます。かつて、いまもお話のように、禁酒法をも通した、そのくらいですから、それができますけれどもわが国ではこれは不可能であろうというように考える次第であります。  この日本人等の性格のことは、あとでまた御質問がありましたら問題にしたいと思いますが、要するに、こういったような問題を考えて申しますと、そして私の立場だけから、つまり心理的な、精神医学的だけから考えますと、プラスを含んでいるにもかかわらず、こういうような有害表示をするということは、これはやはりマイナスを持っているのではないか。有害表示をしろという方々の健康への非常な熱意というものには敬意を表しますが、この健康というものは、精神的健康をも含めていただきたい、こう考える次第でございます。  あとでまた問題にしたいと思います。
  10. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 ありがとうございました。      ――――◇―――――
  11. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。丹羽久章君。
  12. 丹羽久章

    ○丹羽(久)委員 きょうは、参考人の方々にはそれぞれお忙しい中を御出席いただきまして、私からもお礼を申し上げる次第であります。  ただいま参考人からそれぞれの立場に立って御説明していただきました。特に平山先生高山先生、両先生は、ガンにおける害があるという立場に立っての説明をしていただき、吉田先生は、特にこのたばこによっての害ということ、個人の、特に自由を表示することによって侵すことでないかと、しかもことば強く脅迫的なものになるというようなお話です。宮城先生は、聞いておりますと、精神的に大きく作用するものであるから表示をしなくてもいいじゃないか、こういう理論的な分かれ方に立つわけであります。  まず最初に、統計的に、平山先生高山先生は同じような意見でありますが、たばこによるガン発生というものは、いろいろ御研究の結果、確かにそうした傾向にあるんだから、やはり表示をしたほうがいいだろうという御意見のようであります。このたばこの製造元はどこであるかというと、御承知のとおり専売公社でありまして、これは国家で行なっておるという状態になるわけであります。アメリカあるいは他の国の、自由販売している国とはいささか日本の立場というものは違っております。けれども、どこの国民でもそうでありましょうが、国民の健康ということを中心にして考えていけば、少しでも害あることを十分認識することが必要であろうということで、このたばこの前に、厚生省が許しておりました例のチクロというものも非常なきびしい制限をして、そしてそれはもう全然使わせないという形になってきたんです。それまではチクロというのは、厚生省のそれぞれ研究の結果、この程度ならば人体に及ぼす影響はないということで許可せられてきたんです。許可せられてきたのに、にわかにこれはだめだということでとめられた。しかし、いま私ども病気にかかってなおらないというお医者さんの前提のもとに――なおらないということばは極言かもしれませんが、まあ、ガンという病気にかかったら、早期発見なら別だが、少し手おくれしたらもう全然なおらないといっていいという、そういう医者の判定を受けなければならない死の病気であるという、これに国民は非常に恐怖を持っておるわけなんです。それに関連するたばこというものは、未成年者以外には、安易にどこでもわずかな金でのめる。それをのんだときには、ふらふら歩くわけでもなし、それがある程度の安定剤にはなるかもしれませんが、先ほどのお話のように、酒と違った性格のものである。酒なんというのは、飲めば顔が赤くなる。赤くなれば足がふらついてくる。これはもうずいぶん形が変わっておると思うのです。やはり酒だって、ガンにおけるところの胃ガンのもとはどうだといえば、お医者さんは声をそろえて、あなたは酒を飲み過ぎるから、という人が比較的ガンにかかりやすいということはいわれておる。この点は私どもは常識論として知っておるわけなんですね。そこで私の聞こうとすることは、両先生方は残念ながら前回の審議会には参画していただけなかった方でありまして、特別委員には上田先生と近藤先生と曽田先生が御参加いただき、きょう御出席いただいておる宮城先生吉田先生との、この五人で結論を出していただいて、「喫煙の健康への影響についての考え方」というのが発表せられておるわけなんです。その発表を見ますと、「肺がん、心臓病などの著しい増加に伴って、上記の喫煙との関係に危惧の念が社会に広まっている事実も軽視することはできない。」と、こう出ておるわけなんです。けれども、それにはやはり表示をするということはしないほうがいいだろうということが前段のほうにうたわれているわけなんです。私どもは、少なくとも、国が経営しておるところのたばこが、統計的にそう出ておる。お医者さんへ行っても、たばこをのみ過ぎると必ずガンになりますよというようなことを言っておる。片やお二人の先生方は、そういう影響はないだろう、心理的には大きな作用をするんだ、こうおっしゃいますけれども、もう少し私はこの点を突き詰めて、ほんとうに統計的にはっきりしたものが出てくることを国民としても望んでおりますし、どうでしょうか。  ここでお二人の先生への質問はこれで終わって、吉田先生にお尋ねいたしたいと思いますが、吉田先生がおっしゃった酒とたばこということについて、もしたばこに害があるとするならば、酒にも害があるから同じような表示をしなければならぬじゃないかというような説にも承り、前回総裁にお尋ねいたしたときにもそういうようなことをおっしゃったのですけれども、酒とたばこというものに対してきょうは参考人として吉田先生は同じようなお考えを持っていらっしゃるのですか、どうでしょうか。
  13. 吉田富三

    吉田参考人 先ほど申したとおりです。有害表示というようなことを国でやる場合には、たばこにもやるなら、同時に酒にも何らかの措置を講ずるのがほんとうだろう、そういう考え方でございます。
  14. 丹羽久章

    ○丹羽(久)委員 酒とたばことの有害関係、これはまた同じようなことになりますが、きょうはたばことしての参考人で御出席いただいたわけなんでありますが、酒は、飲んだ場合、これはもう御承知のとおり、飲み過ぎれば足もふらついてくる、あるいは目ももうろうとする、精神的な大きな作用をする、ガンにはこれは影響するかしないかは別として、そうした精神的な動作というものがたいへん変わり方をしてくる。たばこは少々のみ過ぎてくると、声がかれてまいってものが言えないようになるとか、頭がぼうっとしてしまって足がふらついてしまうという、そういう現象になるでしょうか。ここに私は、表示をするしないというところにやはり国民的に――酒を飲み過ぎたらたいへんになるということはよく知っておる。たばこを全然のむなというような問題ではない、たくさんのむと害になるということが医学的統計に出ているとするなら、やはりそれを表示するということは、あまりのみ過ぎないようにしてくださいとかなんとか、もっと表現のしかたがあって、みんなが納得できるような表示程度のことならば、私はそうむずかしいことでなくて、それと酒と一緒にして、何でも悪いやつは全部表示してしまえということは、少し飛躍をしているかと思いますが、その点どうでしょうか。
  15. 吉田富三

    吉田参考人 飛躍しているとお受け取りになればしかだがない。私は、きょうは、最初に申しましたように、こういう表示をするということについての自分考え方をお聞き取り願うということで申しましたので、それがお考えと合わなくてもこれはしかたのないことだと思っております。
  16. 丹羽久章

    ○丹羽(久)委員 尊敬申し上げる財団法人の癌研究会の研究所長をしていらっしゃる先生ですから、また十分御研究になったが、こういうようなたとえば表示をした場合に個人の自由を侵す、しかも脅迫的な表現になるんだとおっしゃいましたが、私はそうとは思っていないんです。そういうことは全然、何というのか、害にならないものを害になるがごとくに言ったことを取り上げてそれを表示したような場合においては、それはやはり個人の自由を侵すことでもあり、脅迫的なものにもなろうと思いますけれども、国立のがんセンター研究所の平山先生なんかは厚生省からの補助金をもらいながら研究もしていると言っていらっしゃいますし、また高山先生においてもずいぶん御苦労せられたあげくにデータはちゃんと出ておるという、数字をあげての説明なんでございますから、これはもう見解の相違だとおっしゃればそれまでのものでしょう。それだけのものだが、国民を愛するという立場において、国民の健康を守るという立場においては、意見が相反するだけの問題で片のつくことではないと私は思うのです。  それからもう一つ、これ以上追及申し上げるというのは、せっかくおいでいただいた参考人に失礼にも当たりますので、後日また私は何かの機会にお尋ねすることにして、時間がありませんので、宮城先生にお尋ねいたしたいと思いますが、宮城先生は、少し意見吉田先生と違って、のみ過ぎればどうかということになれば害があると言わざるを得ないだろうという前段のおことばがあったのですね。そこで、それはそれとしまして、心理的に精神的にという、これを御研究になっておりますが、よくこういうことばがいわれるのです。たとえば薬問題を取り上げましても、そういうことがよくいわれるのですけれども、実際の心理的ということは、私どもでも精神的作用によって憤慨するときもあるし、きく薬でも、こんなものはききやせぬと思って飲んだときには、いわゆるその効果があらわれたかあらわれぬか判然としない場面もありますけれども、心理的作用というものにはどの程度まで大きく作用しているというような御研究の結果が出ておるか、その点を少し聞かしていただけませんでしょうか。
  17. 宮城音弥

    宮城参考人 いま心理的な問題ということでございますが、これはかなり研究が進められております。いま御発言になりましたような場合、つまりプラシーボ・エフェクトと申します、にせ薬を使ってよくすると同じような意味で、パイプなどにせのパイプを使いまして、同じようなことでもって一時的な効果の研究というのは行なわれております。これは一つでございます。しかし、もっと持続的な問題、ノイローゼがどうとか、こういう問題は、これは実験的にできませんが、先ほど申しましたように、たばこのないところで麻薬があるといったようなことで、これを間接的な証明をいたしているわけでございます。それから、たばこなどによってほっとすると、普通の人間の生活ですとほっとするということになりますか、ある程度疲労が回復するというようなこと、そういうようなことについてはすでに若干の研究も行なわれているわけでして、精神的な方面だけからいいますと、これは悪いということがないと言えるかと思います。  いまの御発言の中に、酒との違いということがございました。しかし、その酒との違いがあるので、おそらく吉田先生はより酒のほうに表示すべきだと言われるのかと思います。つまり中枢神経の急性の変化というものを酒は引き起こします。その点でモルヒネなどと同じ意味を持っておる。そういたしますと、あとすっかり意識を失いますので、かえって反社会的な行動をいたします。ところが、たばこはそういうことはない。ここで将来のことを、健康を考えれば、なるほどたばこはこういう害を及ぼすという教育をすることはけっこうでありますが、しかし、禁止するという点から言うと、酒のほうがあぶない、中枢神経をやられてしまって、自分でもわからずに何か殺人を犯すということはたばこにはありませんが、酒にはあり得る、こういうことが言えるのではないか、こう考えております。
  18. 丹羽久章

    ○丹羽(久)委員 時間がありませんから、それじゃ結論的に言っていきたいと思いますが、一般参考人意見要旨で見ますと、ニコチンタール表示せよという方、有害表示をする必要なしという方というふうに分かれておるわけなんですね。この一般参考人という方は、相当いろいろとりっぱな方ばかりに出ていただいたのですが、有害表示をする必要なしと言っていらっしゃる一般参考人というのは三人よりないのです。ニコチンタール表示をせよとか、あるいは有害表示を示せという方が六人。六人に対して、必要なしと言っていらっしゃる方は、先ほどとちょっと数字が違いますか、二人なんです。八人のうち六人は、せよという方です。その有害表示をせよという方のうちでも、ニコチンタール表示をせよという方がここのうちにあるわけで、何にいたしましても参考人としての頭数は表示をしたほうがいいだろうという意見があるようであります。しかし、先生方のうちで、特別委員会では五人の方々は、先ほど申し上げたように、肺ガンだとか心臓病などの著しい増加に伴ってこの事実を軽視することはでき得ないということが言われておるわけなんです。  そこで、私は先日も総裁に申し上げたことは、のみ過ぎると健康に害しますよというような表示程度のことはいいじゃないかというように考えて質問いたしたわけでありますが、そういうことが精神的に大きく作用する、そんな有害はないだろうということでありますので、平行線をたどっておるようなことでありますから、結論が出ないというのは残念でありますが、これが酒に結びつけられていって、それなら酒もということでありますか。私は、酒よりもむしろたばこという問題は、安易に買えるものである、そうしてこれによって、現在日本政府が行なっておるところのたばこの売り上げ高が低下するというようなことはないと私は思うのです。しかも、のむ人たちはある程度そういうことを認識しながらその嗜好を求め、そして精神的な安定を求めるためにも買い求めていくだろうと思いますから、そんなに御心配になるほどのことはないと私は思って、表示をしていただいたほうがいいんじゃないかしらん、こう思っておるわけでありますので、これは私の愚見と申しますか、考えを率直に申し上げたことである。これ以上幾らお話を申し上げましても、どうも平行線をたどるようでございますので、申し上げる必要はありません。  きょうはどうもありがとうございました。
  19. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 堀昌雄君。
  20. 堀昌雄

    ○堀委員 本日は、皆さん医学を専門としていらっしゃる学者の皆さんにお越しをいただいて、私どもがすでに国会で取り上げておりますたばこと有害の問題について伺いたいわけでありますが、私も昭和十六年に大阪大学の医学部を出た医師でございますので、医師の立場として、さらに政治家の立場として、ことしの二月におきます予算委員会の総括質問で、福田大蔵大臣とこの問題のやりとりをいたしました。それに基づいて、実は本日午後大蔵大臣に入っていただいてこの締めくくりをしたいと考えているわけでございますが、そういう意味で、きょうは実はお越しをいただきました先生方からは、医学的な科学者としての立場でのひとつ御答弁をいただきたいと思うわけであります。  最初吉田先生にお伺いをいたしたいわけでありますが、先ほど吉田先生のお述べになりましたことは、一般的な自由業に携わる市民の御意見としては、私も十分了解をさせていただきます。ただ、先生は御承知のような高名な、私もたいへん尊敬しておりますガン研究者であられますから、非常に端的にそういうことはお答えにくいかもわかりませんけれども、私も実は医師の一人としてたばこが害がないということは言えないだろう、害があるということには間違いがないが、その害の程度がどうであるかということは別問題といたしまして、それがガンを引き起こすか、循環器系に障害を与えるかどうかは別としても、少なくとも医学的見地から見て健康に無害であるということにはならないと私は思うのでありますが、吉田先生、その点はいかがでございましょうか。
  21. 吉田富三

    吉田参考人 絶対に無害であるとは考えておりません。ただ、いろいろ現在あげられているガンとの関係において有害である、その他もろもろの重要な疾病にこれほど害があるということが、平山参考人がるる述べられたように出ておりますけれども、それの科学的な直接証明はきわめてむずかしいものだということは、これは高山参考人がたいへんりっぱに述べられていると私は思っておりますが、その点であります。先ほどの御質問の方は、平山参考人高山参考人とは同じようなことを述べられたと言っておられますけれども、堀議員はお医者さんでありますから、そこは混同されないと思っております。
  22. 堀昌雄

    ○堀委員 わかっております。いま先生から絶対的に無害とは言えないというお話でございますから、有害性があるということは吉田先生もお認めになっておることだと思います。  私どもがなぜ表示問題を取り上げておるかといいますと、これはすでにいろいろ御議論があったことだと思いますけれども、たとえばアメリカとかイギリスにおきましては、たばこというのは民間商品でございます。民間商品に対してあるいは公衆衛生局長官とかそういう政府の側からこの問題に対しての有害の問題提起をされておるわけでありますが、残念ながらわが国ではこれは財政専売になっておりまして、政府が直轄をしております専売公社がたばこを製造しておるわけでございますから、私どもは絶対的に害がないと言えないものを政府国民に財政上の理由によって販売をしておるということであるならば、何らかの政府としてはそれに免責をする必要があるというのが、この問題を提起しておる大体の基本であります。  そこでもう一つ、今度は宮城先生にお伺いをいたしたいわけでありますけれども、おっしゃるように、心理的効果というものが確かにたくさんございます。ですから、私は有害表示のあり方が実はそのことに関係があるのではないか。ですから、たとえばいま私もこの問題を取り上げておりますけれどもアメリカのように現在すでに法律で定めておるようなところまで一ぺんにやろうと考えていないわけであります。しかし、少なくとも宮城先生もすでに御指摘になりましたように、過度の喫煙が健康に害があるということは、これは私は、医学者の先生方でなくても、一般的な認識がすでに国民の中にはあると思うのであります。過度のものは何でも悪いということにもなりますが、また過度とは一体何かということは、個人差がありますから、それはその人たちの判断にまかせばいいと私は考えておりますけれども、過度の喫煙というものは害があるということであるならば、少なくとも私の考えは、過度の喫煙はあなたの健康をそこないます、これは私は要するにおどかしでも何でもなくて、やや教育的な効果を持つものだと考えております。要するに、過度の喫煙はあなたの健康をそこないますということは、のみ過ぎないようになさいという教育的な効果を持っておることであるし、おどかしではないと思うわけであります。ですから、われわれは一ぺんに非常にエスカレートした段階で問題を処理しようと考えておるのではなく、少なくとも財政専売としての政府が免責を受けられる程度であって、なおかつ有効な働きをする何らかの手段ということが合理的に考えられるべきではないかというのが、実は私の考えでございます。  そこで、宮城先生にお伺いをいたしたいわけでありますが、いま私が申し上げたような、過度の喫煙はあなたの健康をそこないますというような実現でありますね、これは先生のおっしゃるおどし、それから気休め、それから教育的効果でございますか、指示でございますか、これらについてどういうふうにお考えになるかを承りたいと思います。
  23. 宮城音弥

    宮城参考人 私は単なる指示を越えていると思わないわけにいきません。と申しますのは、確かに、百人おりますと、何人かかなりのパーセントはおそらく堀先生のいま言われているとおりでありまして、教育的なものとして作用いたしましょう。しかし、個人個人というのは、いまもおっしゃったように、非常に違っておりまして、本来神経質な人間というのもいるわけであります。そんなことで一体過度とは何であろうかということを考える場合も出てまいる。したがって、もしこれを教育的な方法で行なうとすれば、画一的なものであってはいけないのではないか、むしろそういうことはもっと学校などでも教える、あるいはもっと社会教育の場面で教えるということがほんとうに教育的なものであって、これを一言そういう文言で書くということで教育ができるというのは、ややまじない的な要素があるというように私は感じているわけでございます。
  24. 堀昌雄

    ○堀委員 私も、実はそれが教育的効果であるというように断定するわけではございませんが、おどかしということに比べますと、やはりその人に対する判断の余地を与えるわけでありますから、過度な喫煙はあなたの健康をそこなうということは、自分で過度でないようにしようという、まあ心理的効果をもたらすものではないか。ですから、その過度というのは、しかし個人的な差がありますから、個人の選択に待たなければなりませんが、しかし、一応そこらが今日段階の表示では適当ではないかと第一に考えるわけであります。  そこで、もう一つ、実は今度お伺いしたいのがニコチンタール量の表示問題でございますけれども、私はさっきの吉田先生のおっしゃるいろいろなお話を聞きながら、吉田先生ニコチンタール表示ならいいだろうとこういうふうなお話最初ございました。一体、ニコチンタール表示するというのはそれじゃ何のために表示をするのでございましょうか。ちょっと吉田先生にお伺いしたいのでございます。ニコチンタール表示ならよろしいと先生おっしゃいましたから……。
  25. 吉田富三

    吉田参考人 タールニコチンが非常に多くなれば有害だということはみんなの知っていることであるから、それをなるべく低タールのものをのむように各自が御判断なさいという目安を与える。それは有害なりとし、ことばで指示することとたいへん違うことだと思うのです。個人の選択がそこにあるということを先ほどからくどく申しておりますが……。
  26. 堀昌雄

    ○堀委員 それはよくわかっております。  実は私は、いますでにたばこは店頭にニコチンタールの量の表示がございますので、ですから、そのニコチンタールだけを表示するということならば、あまり意味がないと実は率直に私は考えております。それは店頭で自分が買うときに、その中で――あれは順序で書いているかどうかわかりませんが、私もたばこをのみませんから。初めからのまなかったわけではないのであります。私も実はたばこをかなりのんでおりましたけれども、実は何回目かの日本で行なわれたガン学会がございましたときに、アメリカの学者が、医師でたばこを吸っておるものは要するに医学的でないとか何とかいうような表現のことばが新聞に出まして、それを私、読みましたときに、なるほど、自分も医者の端くれだと思っていたけれども、そうやって多少悪いと知りながらのんでいるというのは、やっぱりそういう医学的でないのかなと思って、それからやめたわけでございますが、そういうことで、私は表示だけなら、あそこのをもっと大きくして買うときにわかるようにしとけば、選択はそこでできるから、何もたばこの横に幾ら表示をしても、それが多いのか少ないのか、そのたばこだけを見ては私はわからないと思います。大体専売公社の専門家でない限り、おそらくニコチンタールの量が書いてあると、これは全体のたばこの中の下から何番目だとか上から何番目なんということはわからないわけでありますから、私は、それが選択をもたらす意味はあまりないとこう思うのですね。  そこで、私がそういう過度の喫煙はあなたの健康をそこないますという場合には、そういう一つのモーメントですねそうすると、それでは一ぺん見てみようかということのつながりを起こす、モーメントとしての役が果たせればそのほうに意味があるんじゃないだろうか。ですから、私どもは、そういう意味では、一応そういう政府の免責的な問題もありますけれども、要するに、喫煙者の側の判断ですね。喫煙者の側のいろいろな判断を起こさせる。そのモーメントとしては、私は過度の喫煙はあなたの健康をそこないますということは望ましいことではないか、こう考えるわけでありますが、その点について、宮城先生、そういうモーメントとして働くかどうか、先生の御意見をひとつ承りたいと思います。
  27. 宮城音弥

    宮城参考人 私自身は、実はこの問題についてはむしろ普通の人にわかりやすいように、私個人意見でございますが、岩波文庫の星の印のようなもの、あれを一つ二つ三つ四つ五つとこしらえて書いておいて、そうして、自分の健康に合うものを選択させるというほうがよろしくはないでしょうかという意見を申したわけでございます。しかし、御存じのように、先ほど日本人の心理という問題が出ましたが、日本人は非常にイモーショナルであって、これ簡単なことばで言いますと、ヒステリックな傾向が日本人には非常に強い。そうして外国でこういうことをしますと、すぐにそれはやはりまねなければぐあいが悪いということを思う傾きがあるのではないかと思います。特にマスコミの影響というのがたいへん強くて、そういう影響によって何か表示をしなければいけない。で、私たち調査をいたしました。これは私のあとでこういうような――助教授をしているのが中心になってしましたが、そうしますと、ニコチンタール量の数字で表示をしろというのが四五%、吸い方の表示が二二%、こういうわけで、やはり何かしたほうがよい、外国もしたんだからまあその程度のことはということで、そこでやはりニコチンタール量の表示ということに審議会のほうでは落ちついてそういう結論をお出しになったものと私は考えております。ただ、先ほども先生の御意見全くごもっともでございますけれども、過度というのがこれはどうかということと、ほかのものとの関係、酒などと比べてやはり酒も過度ではどうなのかという意見などがございますので、そういうことで、やはり過度というようなものはある程度イモーショナルな、感情的な効果を引き起こすということでこれはどうかという意見審議会などのときにも出たわけであります。
  28. 堀昌雄

    ○堀委員 平山先生にお伺いをいたします。  先生疫学的にこれをお確かめになっておるし、私も実は現在国会の中でいろいろな経済問題をいたしますときでもそうでありますが、今日の社会情勢をある程度具体的にあらわしますためには、統計的観察ということが、これは今日における非常に有効な武器であると思っております。ですから、私もそういう先生疫学的ないろいろな資料を拝見いたしまして、少なくとも政治家として判断するならば、これは有害である。それはなぜかといいますと、科学的に有害が立証されたときはすでにおそいのであります。政治というものは、すでに国民の健康のためには、疑いがあればそれに必要な対応策をとるのが私は政治家の任務だと思います。裁判でございますと、疑わしきは罰せずとこういいますけれども、いまのような国民の健康に害があるおそれのあるものは、おそれがあれば対策を講じるというのでなければ、それがはっきり確定をしてから対策を講じたのでは多数の被害者が生まれるわけでありますから、その点は私は先生が御指摘になっておることは、政治家の私どもとしてはそれで十分だという判断をしておるわけでありますが、ただ、いまさっきからお話のありますように、ガン、それから循環器の障害もございますね。そういうものと、それからもう一つ、今日非常に問題になっております大気汚染でございますが、大気汚染もかなりこれは、さっきからお話高山先生からもあったと思いますけれども、大きな害をもたらす部分になってくると思うのでありますが、その点で先生疫学的に見て大気汚染との関係はどういうふうにお考えになっておるか。いまのたばこの問題でございます。たばこ肺ガンと、その大気汚染があるところないところ、ごくいなかと、私は尼崎市でありますけれども、非常に大気汚染の激しいところに住んでおる者との場合はどんなことでございましょうか。
  29. 平山雄

    平山参考人 ただいまのお話の中で大気汚染との関係を申し上げる前に、私たち疫学的観察が単なる統計だというお話が多少あったと思うのですが、私たちはたとえば動物実験をする場合には、ある動物群にたばこを吸わせる、あるいはたばこタールを与える、片一方に与えないというふうにして、結局その実験的観察というのはやはり統計で示すわけであります。私たち人間には実験ができないので、その場合にあらゆる他のファクターを考慮して、その検討を十分した上で、確かにいま作用している、このファクターがきいているということを見ているわけであります。先ほど申しましたのも、世界でも最初調査といわれるわけですけれども、この二十六万以上の人についてあらかじめたばこを吸っているかどうかということを調べた上で五年間じっと観察して、そこに出てきた違い、この場合他のファクターとの関連性を十分検討しておりまして、たとえば先ほど出ました酒というふうなものを十分検討して、酒よりもはるかにたばこのほうが強い影響があるということは事実でつかんでおります。  それから大気汚染との関係でございますけれども、私たちも尼崎、西宮地方でも調査いたしましたし、また東京、神奈川地方でも最近調査いたしましたし、また全国的規模でも観察しておりますが、要するに、結論的に申しますと、大気汚染の濃いところに住んでいる喫煙者影響がうんと出てくる、つまりこの場合は大気汚染喫煙かではなくて、つまりAオアBではなくて、AプラスBあるいはAかけるBとして作用してくるということが、何回調べても非常に明瞭に出てまいります。こういうことになりますと、この公害時代を迎えると、前以上に喫煙者の上には強く作用してくるということになると思います。もっとも単独の影響、どちらがより影響が強いかということになりますと、いままでのところは喫煙のほうがはるかに強い影響を与えております。しかし、大気汚染も今後どんどん強くなってまいりますから、今後はわかりません。しかし、はっきりしておりますことは、大気汚染影響喫煙者の上に特に強く作用する、AプラスBあるいはAかけるBで作用する、そういうことでございます。
  30. 堀昌雄

    ○堀委員 すでに出しておいでになりますデータが相当高率なデータでありますから、ごくわずかな差というのならば、この問題を取り扱う場合に、私どももいまのような確信を持って処理をすることができませんけれども先生方が御提示になっておりますところの、単にそれは肺ガンにとどまらず、すい臓ガンにおきましてもたいへん高い比率を示しておるということは、私どもから見れば、おそらくこれは因果関係があると見るべきであろう、こう考えておるわけであります。  そこで、この場合に、いま吉田先生は、絶対害がないとは言えない、害はある。しかし、厳密な意味実験的といいますか、実験的には因果関係はどうもあまり明確でないという立場に立っていらっしゃるようでありますが、いま先生のほうでは、統計の問題を離れて、実験的にもやはりある程度困果関係がある、こういうお立場に立っていらっしゃると思いますが、その実験的というのは、日本におきますそういう実験の成果であるのか、諸外国の成果であるのか、そこらちょっといまの困果関係の医学的な面でございますね。平山先生のほうではそこはどうお考えになっておるか。私は何もそこまで必要があると思っておりませんけれども吉田先生はああいうふうにお話がございますので、ちょっと先生立場から伺ったあと、高山先生にお伺いしたいと思います。
  31. 平山雄

    平山参考人 因果関係につきましては、昔、細菌が伝染病の病原体であるということをいうために、コッホという学者がコッホの条件というのを出しておりますが、このたばこにつきましても、たばこ喫煙肺ガンの原因であるかどうかということについては、このコッホの条件に相当するような非常にたくさんの角度からの検討がされております。これは国内にも研究がございますし、国外にも研究がございます。それにつきましては、この実験というのはその満たすべき条件のほんの一つでございます。まず最初人間患者について、いま問題としているファクターを大部分人間が、患者がとっているかどうか。それから、とらないものと比べて明らかに違いがあるかどうか。それから、いま問題にしているものの中に生物学的な根拠があるかどうか。先ほど高山先生お話しになりましたように、明らかにガン物質を含んでいるわけでございます。そのガン物質というものの総合というものがやっぱりきいていると考えられるわけですが、詳細な機序というのはなお研究を要するということは事実だと思います。しかし、現在までのところ、外国の見解でも、また私たちも、いまある証拠を総合いたしますと、明らかに困果関係があり、こういうふうに考えております。
  32. 堀昌雄

    ○堀委員 高山先生にお伺いをいたします。先生も癌研で病理のほうを御担当のようでありますので、いまお話を伺っておりましてちょっと先生のお立場そのものが、非常に客観的には理解はできたわけでありますけれども有害表示の問題を離れまして、先生御自身はやはりいろいろなこれまでの御研究の結果、たばこ喫煙というものが少なくともガン関係があるというふうにお考えになっておるのかどうかを、ちょっと伺いたいと思います。
  33. 高山昭三

    高山参考人 その点は人間の発ガンということに関連してか、それとも動物ガンということに関連してですか。
  34. 堀昌雄

    ○堀委員 人間でございます。
  35. 高山昭三

    高山参考人 人間的にこれを因果関係があるときめつけることは非常にむずかしいわけであります。先ほどから平山先生が申しておられますように、疫学的研究という方向は一つのマスを扱ってこれをやっておるわけであります。一方私ども病理学研究というものは、堀先生も御承知のように、ケースレポート、症例報告というものが問題となるわけであります。私どもの基礎的な医学の研究分野からは、そうしたケースレポートつまり症例報告が問題になりますように、一般の肺ガンなら肺ガンのこういうパターンの示す病気から何かをチョイスいたしまして、それをもととして研究していく立場をとっておりますから、必然的にその姿が違うわけであります。したがいまして、疫学調査の結果を私ども病理学研究の中に直接導入することができませんので、因果関係が明瞭に証明される、されたという考え方あるいはその考えには、私個人としては賛成しかねるわけであります。
  36. 堀昌雄

    ○堀委員 では、因果関係のところはやはり科学的な問題でございますから省くといたしまして、前段でさっき私が吉田先生にお伺いいたしましたように、ガンを離れまして、たばこ、要するに喫煙は健康に――これは程度の問題でしょうからあれですから、逆に参りますと、無害ではないという点は先生もさようにお考えでございましょうか。
  37. 高山昭三

    高山参考人 私自身紙巻きたばこをそれほどのみませんのでよくわかりませんけれども、確かに過度の紙巻きたばこ喫煙は私どもののどを痛めますから、これを有害と言えば有害と言えます。
  38. 堀昌雄

    ○堀委員 あとの質問者もございますので、大体この程度にいたしますが、要するに、いま私、ずっと先生方の御意見を伺って、まず非常に程度の差が大きいと思いますけれども、無害ではない、医学者として四人御出席をなすった先生方が、たばこは無害だとは言えないという点は確認ができたと思います。それでは有害の程度がどうかという点は、吉田先生が絶対に無害とは言えないとおっしゃったのでしたか、ちょっと先生のほう御正確を欠きましたが、害が少しはあるというふうに理解をさせていただいて、私自身も実はちょうど大学の二年のときに、私どもの教授でありました小澤修造先生という内科の先生がおいでになりまして、あるとき実は学生が一ぱいたばこを吸いまして部屋の中がたばこの煙でもうもうといたしておりました。小澤先生が入ってこられるなり、いきなりそこらの窓を一斉にあけられまして、大体君たちは一体たばこを何と心得ておるのか、このたばこの中のニコチンというのは少なくとも植物性神経系統に対する毒物だ、君たちはそういう認識もなしにたばこを吸っておるというのは、もう少し勉強をしたまえといって、一喝をされたことがあります。私どもはすでに二年生でありますから薬理の勉強も始まっておりましたけれども、ははあニコチンというのは植物性神経系統の毒物だなということをそのときから一生忘れないで今日も覚えておるのは、小澤先生のそのときのことばでありますけれども、少なくともニコチンにしてもタール分にしても健康に益があるはずはございません。それは毒をもって毒を制すといいますか、毒物が有効な薬剤として働きは持っておりましたにしても、いずれも過度にとることは必ずそれが健康に影響のあることは間違いないと思いますので、きょうニュアンスの差はいろいろございますけれども、無害とは言えないという点だけは確認をできたというふうに私は了解をいたしたいわけでありますが、それについては御異存がないかどうかだけ、ちょっと。平山先生は害があるとおっしゃっておりますからあれですが、高山先生吉田先生宮城先生にもう一ぺんひとつ、たばこというものは無害ではないという点を意思表示していただけるかどうかをちょっと承って、私の質問を終わりたいと思います。
  39. 高山昭三

    高山参考人 先ほど申したとおりでございます。
  40. 吉田富三

    吉田参考人 私も最初お答えしました。
  41. 宮城音弥

    宮城参考人 無害ではないが、有益な面もある、こう言っていただければよろしいかと思います。
  42. 堀昌雄

    ○堀委員 終わります。
  43. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 貝沼次郎君。
  44. 貝沼次郎

    貝沼委員 いままでいろいろな見解をずっと聞いておったわけでありますが、初めに平山先生にお伺いいたしますが、この第一図のところで、十九歳とか二十歳とか書いてありますけれども、これで若いときから吸った人が非常に多いという結論になっておるわけでありますが、このことについて、若いときからずっと吸ってくれば期間が長くなるからしたがって多いということになるのか、それとも若いとき吸ったからこれが影響が大きいのか、この点についてお伺いいたします。
  45. 平山雄

    平山参考人 現実問題といたしますと、若いとき吸いますと、やはり喫煙継続年数も長いし、また一般に多量喫煙者が多いので、両方がきいていると考えられます。しかし、この問題を検討いたしますと、喫煙量別に見ましてもあるいは各年齢別に見ましてもこういう傾向がうかがわれますから、やはり若いときに吸うということそれ自身にも問題があると考えられます。それが明瞭に出ておりますのは、ここにも、表にも出してありますが、書いてありますけれども、十四歳までのローティーンで吸い始めた場合には著しい高い死亡率が得られているわけでありまして、総死亡率が二・五倍、それからガン動脈硬化性心臓病死亡率は約四倍もたばこを吸わない人よりも高くなっております。若ければ若いほど危険性が高いということを考えますと、これは総喫煙本数もありましょうけれども、若いときにたばこを吸うということがやはり問題ではないか。このことの一つは延長といたしまして、妊婦たばこを吸えば胎児が影響を受けるわけでありますから、最も未成年のときで、そういうことで妊婦喫煙も困ると申し上げているわけであります。
  46. 貝沼次郎

    貝沼委員 単発的に聞きますが、それから、たばこは害があるのではないかと私は思います。実は私もずっとたばこを吸おうと思って一生懸命練習しました。しかし、とうとういまだに私はたばこを好きになれません。からだに合わないというか、吸うことができません。そういったところから、これは人によっても違うと思いますが、少なくとも利益というものはあまり考えられないのではないか、こう思われます。  そこで、たとえば平山先生の場合、表示をするとするならばどういう項目について、そしてどういうところに表示をすべきだとお考えか、その点についてお伺いしたいと思います。
  47. 平山雄

    平山参考人 私はこういうふうな研究をしましてから初めてわかったわけでございますけれども、ゆゆしい害をたばこは、喫煙はもたらしている。しかもそれが、ハイ・リスク・グループと申しますか、未成年たばこを吸い始めたときに特に顕著な影響があるということを感じますので、プリントにも出しておりますように、未成年及び妊婦は絶対に吸わぬこと、それからそれに加えて、喫煙は健康を害しますというような、そういうふうな表現をたばこの包装に印刷すべきである。それに書いてあることによりまして、未成年及び妊婦たばこを吸わないということがやはり現実問題として起き得る。また私たちも、そういうふうに書いてあるんだから吸うなというふうに注意もできる、こういうふうに考えます。
  48. 貝沼次郎

    貝沼委員 ニコチンタール、それから一酸化炭素についてはどのようなお考えをお持ちでしょうか。
  49. 平山雄

    平山参考人 たばこ影響につきましては、ニコチンタールのほかにやはり一酸化炭素その他の毒性物質を総合的に考えなければならないと考えます。しかし、それをこのたばこの包装に全部表示すべきかどうかということになりますと、これはスペースの関係もありますし、それからそれを一般の方がどこまで理解できるかという問題もございます。で、この問題はやはり有害表示という形で表示するほうがベターではないかと考えます。
  50. 貝沼次郎

    貝沼委員 次の問題は、たばこが有害であるかないかということを政府研究しても私はあまり意味がないのではないかと思うのですね。全然ないとは申しませんけれどもたばこは現在専売制でありますから、政府の都合の悪いことはあまり結論が出ないのじゃないかと私は思います。そういう面から、有害であるかないかの研究所というか、研究機関というか、そういうものが別の立場にあっていいのではないかと思いますが、この点についての見解を、各参考人からお願いしたいと思います。
  51. 平山雄

    平山参考人 御質問の要旨は、たばこの害を研究する研究所は別にあってもいいかということですか。――私は医学の研究というものは多専門の者が集まった研究所で研究すべきであると思いますし、それから事病気関連しては、やはり病院と関連のある研究所で研究すべきだと思います。それで、この研究所をつくる問題ではなくて、こういう研究プロジェクトを強くつくるべき問題ではないか、こういうふうに考えます。
  52. 高山昭三

    高山参考人 同様な意見であります。
  53. 吉田富三

    吉田参考人 同じようなことですね、私も。既存のガン研究所あるいは大学等に非常に広くこれを依嘱、委託研究をしまして、その総合的な結果を国の研究成績とする、そういう考え方がよろしいと思います。一つ研究所を、ぽつんとたばこだけの研究所をつくってみても、大きな成果があがるとは考えない。それにはいま言った宮城さんのお答えがあるかもしれませんけれども宮城さんの御研究になっているような嗜好品ですか、そういう面の研究も含めるということが大事ではないかと考えます。
  54. 宮城音弥

    宮城参考人 私もそのとおりだと思います。いまの御発言の中で、御自身のからだに合わないから吸わないというお話も出ましたが、私も実はそうなんです。  ところで、私はある時期に麻薬の収容所にいたことがございます。ところが、この麻薬患者というのはたいていたばこを吸います。もうほとんど吸わない人というのは見たことがない。ところが、一方においてアルコールのほうは、これは必ずしもアルコールをたしなむ者がたばこをめちゃくちゃに吸っているということはありません。私はここに何かからだのほうにおける麻薬とたばこの類似性というものがあり得るかと思っております。そこで、先ほど申しましたように、麻薬にいくのを防ぐ役割りをたばこがするのはそのためだと考えておりますけれども、そういう点で有益な面があると思いますが、そういったような麻薬の収容所とかそういったものにまでやはり研究のプロジェクトを進めていくということが大切ではなかろうか、こう考える次第です。
  55. 貝沼次郎

    貝沼委員 時間がもうなくなってきましたので、最後に二問だけお願いいたします。  先ほど宮城参考人からは、この「結論」というところの三番に、「日本人の性格と表示問題」というところがありました。これは日本人の場合はちょっと無理ではないかという話であったようでありますけれどもアメリカ合衆国はたくさんの民族が住んでいるわけでありますから、そのアメリカ合衆国でできることがなぜ日本でできないのかということです。あるいはヨーロッパでもたくさんの民族が住んでおりますが、行なっておる。  それから時間がありませんのでまとめて申し上げますが、もう一点は、これは去年の八月六日に、大蔵委員会で専売公社総裁が答弁した中に、生産本部原料課では、職務上一日二百本長期にわたってたばこを吸っているけれども、健康に害はない、こういうふうな発言があるわけでありますけれども、一日二百本というと、これは相当の量になるわけでありますが、こういうことが行なわれていいのかどうかということですね。これは私は非常に問題があるのではないかと思いますが、この点については平山参考人高山参考人に御意見お願いしたいと思います。
  56. 宮城音弥

    宮城参考人 日本人というのは非常にイモーショナルな、かっとなる性格がある。これは政治のほうに携わっていらっしゃる方はよく御存じかと思います。とにかくそういう傾向にあります。ただ、アメリカあたりは確かにそういうものを含んではおりますけれども、いろんな異民族がありますので、そういう点が薄まっているということ、もう一つは、やはりピューリタンの文化というものが中心になっております。ピューリタンというものは非常におもしろい。いろいろな点で自分を持するというようなことが多いわけでございます。酒などについても非常にやかましくて、酒なども飲まないことということを一札入れて下宿をしている日本人などもあるぐらいです。とにかくそういうピューリタンの文化があるということ、これが一つ原因だろうと思います。ですから、ヨーロッパに行きましても、フランスなどではかなり違うのではないか。フランスの場合と日本の場合とは非常に違いますけれども、フランスの場合には、つまり個人主義が発達している、したがって、個人の自由にまかそうではないかということが特に強いので、日本とはたいへん違います。フランスでもやはりアングロサクソンの国のような方法はおそらくとらないし、とれないであろう、そういうふうに考える次第でございます。
  57. 平山雄

    平山参考人 まず最初に、その二百本をずっと長期間吸い続けるという場合に、ほんとうに煙を肺の中に入れているかどうかをまず疑うぐらいでございますけれども、そのようなことはどのような根拠でしているのか、ほんとうに研究をしているつもりでやっているのか、そのようなことは私は意義を疑うわけですけれども、私たちのいままでの研究からしますと、健康に必ず害を与えるといってもいいと思いますし、もしその方が心臓、呼吸器病変を持っている場合にはこれはゆゆしい問題だと考えます。それで、それに相当する研究というのが私たちの長期観察成績でございまして、一日五十本以上吸っている人も非常に多数私たちの観察集団の中に含まれております。その中から非常に死亡率が高い、それからいろいろな病気がたくさん出るという事実もわかっているのでございますから、そういう意味でもぜひおやめいただきたいということを申し上げたいと思います。
  58. 高山昭三

    高山参考人 二百本を長期に吸っているとおっしゃるのは、ボランティアでございますか、それとも実験でございますか。
  59. 貝沼次郎

    貝沼委員 そこは明確でありません。
  60. 高山昭三

    高山参考人 その二百本をもし長期に吸うとすれば、健康に害があると思います。
  61. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 井上普方君。
  62. 井上普方

    井上委員 お伺いいたしたいのでありますが、平山参考人のほうから、過去二十年間に肺ガン死亡数は十倍近くふえておる、こういうお話でございますが、この原因はどこにあるとお考えになりますか。ふえた理由であります。
  63. 平山雄

    平山参考人 増加の原因ということにつきましては、現在各国でどこでも肺ガン増加しております。世界的流行ということばも使われておりますので、これにつきましては、諸外国の学者は、喫煙本数が非常にふえてきたためにふえてきた、こういうふうに解釈する者が多いように考えます。私も喫煙本数増加というのも重要な原因だと思います。もちろんその前に、その増加の中にはガン年齢の者の増加、それから診断技術の向上といったようなことも影響はしておりますが、その影響をいろいろな方法で差し引いても、増加していることは間違いないわけです。  また原因に返りますけれどもたばこ本数がふえるからふえているという解釈が現在は通説のようになっておりますが、私はそれだけではないと思います。そのほかにやはり促進原因も作用しているのではないか。現在たばこを吸っている人に、しかも肺ガンを多発させるような他のファクターをいまさがしております。たとえば食生活なんかもある影響を及ぼしているのではないかと考えられる節がございます。こういうことも重なって増加に拍車をかけているのではないか、こういうふうに考えております。
  64. 井上普方

    井上委員 実は私も徴兵検査があったその日からたばこを吸い始めまして、途中で一年ほどやめたことが二回ほどございます。しかし、いまは相変わらずたばこを吸っておるのでございます。私、この委員会に所属いたしておりませんが、たばこについてちょっと興味を持ちましたので、実は発言の機会を得させていただいたのでございますが、ここへ参りまして、いまから十分前に実は知ったことがございます。それは何かといいますと、小売り店でニコチン表示をしておるというのを実は私、初めて知ったのです。現在の専売当局のやっておるあのたばこ表示では、私がそれだけ吸いながらニコチン表示について知らない、この事実をひとつ先生方も知っていただきたいと思うのです。そうするならば、一体現在の表示方法それ自体でいいかどうか、これはひとつお考え願って、四人の参考人先生方の表示に対する見解、現在のでいいのかどうか、お知らせ願いたいと思うのです。
  65. 平山雄

    平山参考人 私は、先ほど申しましたように、包装にタールニコチン量の表示が必要であると思いますけれども、それ以上に必要なのはやはり有害表示である、特に未成年妊婦には吸わしてはいけない、このことを表示すべきだと考えております。
  66. 高山昭三

    高山参考人 私は、いまの御質問に対する答えを何も用意しておりません。
  67. 吉田富三

    吉田参考人 たばこ小売り店の店頭にそれが表示してあるということを知らない人は、おたくだけでなしに、ずいぶん多いと思いますね。それは非常に多いのじゃないかと思います、たばこを吸いながら。それで今度専売事業審議会答申したのは、箱にニコチンタールの含量を書く、そうすればみんなにわかるだろう、こういうことです。小売り店に置いたのでは、大体たばこを買いに自分でいらっしゃらないだろうと思います。ですから知らない人が多いですよ。
  68. 宮城音弥

    宮城参考人 今日いろいろな広告宣伝というのが、テレビにおいて新聞において必要な時代になっております。たいへんにそれが必要になっております。ところが、たばこと健康の問題が起こりまして、特にテレビ番組などを利用してPRをするということはタブーとなっていると聞いております。おそらくそういうことが、こういうものが表示されているということを一般化していないことであろうかと思いますので、私はもっとテレビなどを利用してたばこについてのPR、何も売ることの宣伝ばかりでなくて、そういうPRをすべきものと考えている次第であります。
  69. 井上普方

    井上委員 実は、ほとんどの人たちが小売り店頭に出されておるあの表示を知らないのじゃないかと思うのです。今度は箱に書かれる、こういう方針のようでございますが、それはともかくといたしまして、実は私は、パイプたばこ、葉巻き、シガレット、それからずっとあらゆるたばこを――実は私もヘビースモーカーでございますのでやっておりますが、一番少ないのが、実をいいますと刻みたばこなんです。日本の刻みたばこ、これをさがすために東京の店をずっと各軒自分で歩いて手に入れるのでございますけれども、そういうのが私らに目に当たらない。ただ宮城先生がおっしゃったように、テレビに表示するのは、何ですか、おりおり専売局のたばこを吸いましょうなんというようなテレビの表示、販売政策によって宣伝ばかりがなされておるように思われてならないのです。  そこで、ここで先生方、先ほど堀先生からお伺いしたようでございますが、たばこは無害であるとお考えになるかということにつきまして御質問したのですけれども宮城先生だけが、その点につきましてはちょっと、無害ではないけれども、有益でもある、こういうお話なんです。そこで、お伺いしたいのですが、過度の喫煙はこれは無害でないといえましょうか、どうでございますか。
  70. 宮城音弥

    宮城参考人 過度の喫煙は、身体的には確かに害があります。これはほかの場合も同様ですけれども、酒やなんか、そのほかのコーヒーの場合も同様ですが、確かに害がある。しかし、私が有益ということを申しましたのは、心理的な側面あるいは社会心理的な側面、そういうことであります。特に麻薬などへ人々がいってしまうというのを防ぐ作用を持っているということ、そういうことを申したわけでございます。
  71. 井上普方

    井上委員 麻薬患者喫煙者との関係につきまして、麻薬患者は必ずたばこを吸う、こういわれるのでございますが、これは病理学的に、私がお聞きした範囲でございますけれども、麻薬を吸い出すと酒が飯めなくなるのじゃございませんか。酒を飲む人が非常に少ないといいますけれども、そういうようなこともちょっと本で見たことがございますが、どうでございますか。そういうようなことから考えて、麻薬患者喫煙の問題との相関を考えるのはちょっと早計みたいに考えるのでございますが、どうでございますか。
  72. 宮城音弥

    宮城参考人 その点はむしろ疫学をやっていらっしゃる平山先生に伺いたいと思っていることでございますが、とにかくわれわれの経験、私たちが麻薬中毒患者の収容所にいた経験から申しますと、麻薬中毒患者たばこが好き、つまりたばこへの嗜好、たばこに合っていると申しますか、そういうことと、それから麻薬を嗜好するということと、これは共通の体質的な条件があるのではなかろうかと私は考えている次第です。
  73. 井上普方

    井上委員 それでは宮城先生にお伺いいたしますが、先ほども喫煙は心理的にやはり有益なものがある、こうおっしゃられますけれども、それではこういう表示はどうでございましょう。過度の喫煙は健康に害がある、ということについてはどうでございますか。
  74. 宮城音弥

    宮城参考人 私は、先ほど申しましたように、いまの表示ということは、ただ現実を指示するのか、気休めか、あるいはおどしか、この三つだと思います。過度ということばがすでに感情的要素を持っておりますので、これはおどしの要素がある。したがって、百人中百人ではありませんけれども、確かに神経質な人間などには有害な影響を与える。したがって、表示よりもむしろ教育的方法を、たとえば厚生省あたりの努力によって行なうべきものではなかろうか、これが私の考えでございます。
  75. 井上普方

    井上委員 いろいろお伺いしたい点がございましたが、時間がきたようでございます。
  76. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 津川武一君。
  77. 津川武一

    ○津川委員 時間が限られておりますので、まとめてお尋ねいたします。  一つは、先ほどからだいぶ酒が告発されているようでございますが、宮城先生は社会心理学的に重要だとおっしゃっておりますが、身体的にたばこの作用でいい面があるのかどうか。疫学や病理単の先生方にこういう薬理のことをお尋ねして非常に恐縮ですが、その点、もしおわかりになっておったならば、たばこは全面的に害ばかりでないので、そういう面からも見てみたいという感じがあります。これが一つ。  第二番目の質問は、先ほど宮城先生が話されていたたばこと酒との比較で、酒には急性の中毒、慢性の中毒がある、禁断症状があるなどということでございましたが、たばこの場合、たばこに対する依存、そこから関連して急性中毒、慢性中毒、禁断症状、こういうものが出るのかどうか。四人の先生から、どなたからでもいいですから教えていただければと思うのです。  最後の問題は、日本の国みたいに、国でたばこをつくって、国で売って税金を取っておる、そういう形であるならば、国家として、先生方の研究にどうあるべきか、もしくはこの啓蒙などに国家としてどうあるべきか。最後には、たばこによって明らかに出たこういうガンなどに対する予防、治療にどうあるべきか、これが私企業としてやられているならばまだよろしいのですが、税金をいただいておる、こういう立場からいうならば、これは酒についても同じですが、こういう国の責任に対する、先生方の御研究の上から、予防の上から、治療の上から、教育の上から、お考えがありましたら教えていただければと思います。時間がないのでまとめてお伺いします。
  78. 平山雄

    平山参考人 ただいま酒についての質問がございましたが、飲酒につきましても、毎日飲酒者というものにどういうふうに死亡が高まるかということを、やはり同じ対象につきまして、いま二十六万五千百十八人を長期間観察しております。明らかに、ガンの中では口腔ガン食道ガン死亡率が高くなっております。それから脳卒中死亡率が高くなります。それからそのほかに肝硬変、それから先ほどもお話が出ました事故、それから自殺の死亡率が毎日飲酒者に高いという傾向が出ております。しかし、その大きさ、つまり飲まない人に比べての超過死亡率を比較いたしますと、総合的に見ますと、たばこのほうがはるかに大きいということが、こういう観察から結論されてまいります。  それから、先ほど話が出ましたたばこをやめた場合どうなるか、そういうふうなことに対する衛生教育あるいは医療的な問題でございますけれども、これは私はその点では宮城先生の御意見と同じでございますけれどもたばこはいま吸えと考えている方が非常にたくさんございまして、特殊な方はたばこをやめることによって一時的にやはり非常に不安になる方もあるということを実際にも観察しておりますので、そういうことに対しては特別な医学的な配慮がやはり必要である、こういうふうに考えます。
  79. 津川武一

    ○津川委員 私たち日本人の大便の回数、便通の回数を見てみますと、男のほうよりも女に非常に便秘が多い。男のほうは酒もたばこものむから通じがよくなっている、こういう点があるのです。また夕御飯前の晩酌なんというのは食欲をふやしていく、こういう有効面があるので、たばこに関してこういう有効面を身体的に薬理的に先生方が御存じであったら教えていただきたい。きょうは疫学先生病理学先生なので、もしできなかったら委員長に、また次に、薬理のことも教えていただく機会があれば、こう思っているのですが、お答えいただければお答えいただきたい。  そこで、国に対する研究や教育や予防や治療上のお考えを、あとに残った御三人の先生方が教えてくださればありがたいと思います。
  80. 吉田富三

    吉田参考人 いま専売事業で国でやっているので、このたばこの問題について研究所をつくったらよかろうというさっきお話があったときにその意味のことはお答えいたしましたけれども、つまり既存のガン研究機関、大学等にたばこに関する問題をプロジェクトとして広く与えて、そうしてそれを政府の金で助成して、総合的な研究成果を集めていくということは大事なことであろう、そういうことは申しました。そういう考えは私も持っております。  それから、専売事業であるからということが、これは私どもの守備範囲では全くないことですけれども、先ほど堀議員のお話の中にも、財政的理由によって国が販売しているという、こういうおことばがあったのですが、それを私はどういう意味にとっていいのかわからないでいたのですけれどもたばこはもうかるから国がやっているんだということなんでしょうか。
  81. 津川武一

    ○津川委員 税金を取っている。税金なわけです。
  82. 吉田富三

    吉田参考人 いや、しかし、税金なら民営でやったって取れるのじゃないですか。そのほかに財政的理由というのが何かあるのかを、参考人が質問しちゃいけないのかもしれないけれども
  83. 津川武一

    ○津川委員 宮城先生から……。
  84. 宮城音弥

    宮城参考人 どういうものにつきまして特にお答えしたらよろしゅうございますか。
  85. 津川武一

    ○津川委員 いま国のほうで、国営でつくっているたばこを、税金を取って、地方に行きますと、市町村に還元されるものだから、村で、町で、市でたばこを買ってくださいと、ここまで言っているわけです。その上でこういうことをされておるので、このたばこ研究に対して、またたばこの効果や害悪の啓蒙に対して、また疾病の予防に対して、できた場合の治療などに対して、先生が国に対して考えていることがありましたら、教えていただきたいと思います。
  86. 宮城音弥

    宮城参考人 私は、いま言われたとおり、あるいは常識的に考えられるとおり以上のことは何も考えておりません。ただ、そういう方面のことをぜひやっていただければと思っているわけです。まあそんなことでございます。
  87. 津川武一

    ○津川委員 終わります。
  88. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、御多用のところ御出席をいただき、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  どうぞお引き取りになってけっこうでございます。どうもありがとうございました。      ――――◇―――――
  89. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 次に、国の会計、税制、関税、金融、外国為替及び専売事業に関する件について調査を進めます。  質疑の通告がありますので、順次、これを許します。堀昌雄君。
  90. 堀昌雄

    ○堀委員 実はことしの予算委員会で、私はたばこ喫煙国民の健康に対する有害性の問題について、福田大蔵大臣と論議をいたしまして、福田大蔵大臣は、当時専売審議会に諮問をしておるところであるので、その諮問を待ってひとつ結論を出したい、こういうお話でございました。ただ、御承知のように、大蔵委員会は非常に法案その他が錯綜しておりまして、今日までこの問題を取り上げる機会がなかったわけでありますが、すでに専売審議会答申も出ておりますし、さらに国民生活審議会、それからもう一つ何か審議会から、この問題についての意見が出されておる今日でありますので、きょうはその予算委員会における私の質問を締めくくらせていただくということで、実は大蔵大臣の御出席お願いしたわけであります。  そこで、この問題を大蔵大臣にお尋ねをする前に、実は四人の医学者の参考人にいま御出席をいただいて皆さんの御意見を承ったわけでございます。結論的に言いますと、四人の先生方は、たばこが健康に無害とは言えないという点ではすべて一致をされて、宮城参考人は、無害ではないということは害があるということですが、しかし有益性もあるんだ、こういうふうにお述べになりました。私も喫煙が器質的といいますか、からだそのものに対して有益性があるとは思いませんけれども、心理的にたばこの有益性があることを認めないものではありません。それが今日広く世界の国民たばこを吸うもとであろうと思いますから、私は何もたばこの販売を禁止しろとか、そういうことを問題提起しておるわけではないのであります。  ただ、本日も国立がんセンターの疫学部長であります平山さんから詳細なデータをお配りをいただいてお話を聞いておるわけでありますが、私は少なくとも最近における肺ガンの急激な増加、同時に、肺ガンだけでなくて、特にすい臓ガンも多量喫煙者に非常に高くデータが出ておるわけでありまして、今日病理学的には確かにまだそれが有害かどうか、因果関係がはっきりしないことは、病理学者でありますところの高山さんも御指摘になっております。ただ私どもは、それが医学的、病理学的に結論がついたときには、もうたくさんの被害者が出ておるということになるならば、これは私は国としては非常に重大な責任を感ずる問題であろう、こう思うものですから、どうしてもやはりこの問題については、健康に有害であるということの何らかの表示は必要だというのが実は私の考え方であります。で、専売審議会のほうでは、ともかく一応ニコチンタールの量をたばこ表示をしてみたらどうだろうかという答申が出ておるようでありますが、ちょっとさっき参考人の皆さんにも申し上げたのでありますけれどもニコチンの量が幾らでタールの量が幾らと書いてありましても、一体そのたばこニコチンの量というのはそれで多いのか少ないのかは専門家でなければわからない。ですから、そういうようなきわめて、何といいますか、間接的なことよりも、もしそれができるだけニコチンタールの量の少ない選択を求めるということであるならば、さっきも井上委員たばこ屋の店頭で実はニコチン表示を見たことない、こう言われるのは、その表示が小さ過ぎるからでありますので、もっと大きな表示にして、だれでも買うときにはぱっと目の届くところに表示がしてあれば、私はいまのニコチンタールの量の少ないのを国民が買う場合には買うだろうし、またたばこの中では、たとえばいまフィルターたばこが非常にふえておりますけれども、いや、たばこは何もうまい味で吸うのだから、フィルターなんかないほうがいいのだ、要するに有害であることは百も承知だけれども自分は、何といいますか、そのままのフィルターのないたばこを吸いたいという方もあるのですから、私は個人の選択でちっともかまわないと思いますけれども、やはり一般の国民に対して、少数例外の者をこの際われわれは問題にする気はないわけでありますから、一般の国民に対して、私は何らかの形で、その表現のことはあとで申し上げますが、そういう有害であるという表示をすることが、今日やはり私は日本政府としても求められておるのじゃないだろうか。特にWHO勧告等もあることでありますので、まず概念的に大蔵大臣はどういうふうに考えていられるかをちょっとお答えいただきたい。中身の話はあとでいたしますから。
  91. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 この問題はもう非常に古いときからの問題でございまして、喫煙と健康の問題、一番最初にその起こったときには、非常に簡単な理論で問題を避けられておったと思います。簡単な理論というのは、もしこれが健康に悪いというなら、悪いとわかっているものを売ることがいいか悪いか、売ることをやめるということにつながるというようなことから、この問題の掘り下げを最初は避けておったのは事実だろうと思いますが、しかし、各国にもいろいろこの問題の研究が進んで、取り扱いの例が幾つも出てくるということから、最近急にこの問題が真剣な問題として取り上げられてきましたので、まず何をおいても、ほんとうに健康にいいか悪いかという専門的な研究が必要だというようなことから、審議会に諮問し、審議会参考人とかあるいはそういう専門委員意見を聞いてこの問題の結論を出すということで、いろいろ骨を折ってくださったのですが、ようやく最近になって、こうしたらどうだろうという答申が出てきましたので、私どもは、まああるいはこれが審議会の御意見なら、その程度ではどうかなというふうにも考えておりましたが、しかし、この問題については、もう少し検討をしたい。いろいろ意見もあるからということは、国会筋からもいろいろ出ておりましたので、それならその御意見も聞いて、そうして、一ぺんはきめた審議会でございましても、そういう意見をまた私どもからも述べて、もう一ぺん御相談願うというようなことをして、やはり国民の健康に関する問題ですから、私は最善の措置をとりたいというふうに考えております。
  92. 堀昌雄

    ○堀委員 私、いま大臣がお述べになったことについては、全く同感であります。  そこで、私もさっき参考人に申し上げたのですけれども、ここでいきなり、アメリカがすでにきめておりますように、警告、公衆衛生局長官はたばこは有害であると認定しておるというような、たいへんドラスティックな表現をとろうという気持ちは実はないわけであります。ただしかし、これらのいろんなデータから見まして、こういうことが言えるわけですね。ニコチンタールの量がそのたばことしては少ないかもしれないけれども、その少ないたばこをたくさんのめば、結局害はあるわけですね。  だから、まずこの問題は二通りあると思うのです。二通りあるというのは、もしのむとすれば、できるだけニコチンタールの量の少ないものをのまれたほうがいいということ、これが一つだと思うのです。もう一つは、しかし、ニコチンタールの量が少ないからといっても、たくさんのめばやはり害になりますよ。この二つの問題が今日やはりあるのではないだろうか。これは大体参考人の皆さんのお話を聞いておりましても、過度の喫煙は健康によくないというふうにおっしゃるわけでありますから、その点で私は私なりに一つの提案を持っておりますのは、まず、ニコチンタールの量が少ないものを選択してもらうためには、さっき申し上げたようなもっと大きな表示でそれをする。あるいは、さっき宮城先生がおっしゃったわけでありますけれども、その大きな表示で一々その数を見るのが非常に見にくければ、大きな表示の中でどこかをくくって、星が一つだとか――横に書いておいていいと思うのですよ。実際のニコチンタールの量を書いておいていいけれども、あわせて、その人たちが見やすいように、一つ星、二つ星、三つ星、四つ星、五つ星というようなことで、どこかにニコチンタールの量のくくり方、これは専売公社で適当に考えられて、こっちよりはこれがニコチンが少ないのだ、星の少ないほうがニコチンタールの量が少ないのですということがそこにコメントしてあれば、国民は何もニコチンタールの量だけ――要するにニコチンタールの量の少ないものをのませるという意味での国民の健康に対する問題提起というのは、箱に刷ることよりもそのほうがより有効ではないだろうか。あるいは、さっき宮城参考人が述べられたわけでありますけれどもたばこの宣伝をされるときに、この間から新しい「スリム」というたばこが出てきて、このたばこは、ひょっと見たら、日本のたばこか外国のたばこかよくわからないのですね。公社の総裁、ここにいらっしゃいますけれども、あの中には日本語はほんのちょっとしか書いてありませんね。あれはほとんど英語ですね。ちょっと見ると、われわれこれは外国のたばこかと錯覚を起こすようなんですが、私はどうも少しナショナルに過ぎるのかもしれませんけれども、日本のたばこは、やはりだれが見ても日本のたばことわかるように、もう少し日本語を使ってもらいたいなという気があるのです。  ちょっと横道にそれますが、あの「スリム」の宣伝を見ておりますと、どうもやはり、何といいますか、売らんかなという感じがします。そういう宣伝よりも、たばこをのむときには今度は店頭にこういう表示をしています、マークの少ないのが健康のためによいと思うというような教育的宣伝というものが行なわれることが望ましいんじゃないか、そんなふうに私は思うのです。ですから私は、ニコチンタール表示というのをあそこにするというのは、あんなところに表示してあったから、これは一体健康にどうなのかというようなことについては、あまり有効性がないので、それを国民に知らせるための手段としては、いま申し上げたほうが有効ではないかというような感じがする。ちょっと総裁、最近「スリム」の宣伝というのが少しそういう気がするのですが、いかがでしょうか。
  93. 北島武雄

    ○北島説明員 これは、率直に申しまして、たばこも商品でございますから、やはり売れないとぐあいが悪いわけです。商品のイメージというものもございます。昔からある「チェリー」など、これも英語でございます。どっちかというと外国語のほうが多いというのが実情でございますので、それに対していまの御批判のように、もう少し日本語を使ったらいいじゃないか、こういうお話もございまして、内部にもいろいろそういう意見があるわけでございます。そういう点はやはり今後も十分に考え研究さしていただきたいと考えております。
  94. 堀昌雄

    ○堀委員 そこで大臣、いまのニコチンタール表示ですね……。大臣はたばこをおのみですか、ちょっとそれから伺っておきます。
  95. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 四年前までは有名なヘビースモーカーでした。
  96. 堀昌雄

    ○堀委員 わかりました。いまはもう、私もちょっと見ているとおのみになっていないようですから、それで伺ったのです。  ニコチン表示たばこに書いてあるということは、せっかくそれを知ることは何かといえば、いま大臣がおっしゃったように、やはりこの問題について健康上の問題もあるし、世界各国がだんだんそういう表示もするし、WHO勧告もあるから、何らかの対策を講じたほうがいいのではないか、こういう基盤があるならば、私は、せっかくそれをするのならば、有効に生きるような表示をしたらどうだろうかと思うのです。  そこで、私の提案は、表現は別に過度ということに必ずしも絶対にこだわるわけではありませんが、考え方として、過度の喫煙はあなたの健康をそこないますという程度表示をすることは、いまの世界の段階において穏当な表示ではないだろうか。要するに、幾らニコチンの量が少なくても、過度に吸うことは健康をそこなうということは間違いないわけでございまして、さっきの参考人の皆さんも大体だいぶ――吉田先生はいろいろお話しになっております点でどちらかというと表示に御反対の感触が強かったのでございますけれども、しかし、なおかつ、やはり無害とはいえない、こういうふうにおっしゃっているわけです。ですから私は、やはり国が――さっきこっちに聞いてもいいのかとおっしゃって、専売制の問題について御疑問を持たれたようでございますが、少なくとも、今日私ども財政専売としてたばこを売っております以上は、やはり国としてその程度の配慮をすることが当面どうしても必要じゃないか、こう思っているわけです。いきなりに警告、たばこは有害であるというような、そうなると、宮城先生の発言からくればおどしになりかねないかもしれませんが、私は、過度の喫煙はあなたの健康をそこなう……(「おそれがある」と呼ぶ者あり)そこないます。過度がついていると、おそれがあるでは全く骨抜きになってしまいます。過度なら健康をそこないます。過度がつかないのなら健康をそこなうおそれがあります。どっちかになっていいのですけれども、しかし私は、それよりも、過度の喫煙ということをまず規制することのほうが喫煙をする人にとって意味があるのではないか、こう考える。同時に、そういうようなことによって、それではということで、同じ吸うのならニコチンタールの量の少ないものを吸おう、それは今度は店頭で表示をしたものの中で自分で選択して選ぶ、こういう段階で処理をすることが今日の段階では最も相当ではないか。それならば、世界のいろいろな動きがあっても、しばらくそのままで様子を見ても十分いけるのではないか、私はこういうふうな気がしますので、今日そうするとかしないとかということをここで詰めてお伺いもしませんけれども、大体の感触としては、大臣、どうお考えになりますか。
  97. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 私の経験を言いますと、一日百二十本吸っておりました。ちょうど百万本吸ったときに専売公社へ、ずいぶん税金を納めたから、百万本吸った喫煙者に対しては何らかの表彰の手段を講じたらいいのじゃないか――とうとう表彰されませんでしたが、やはりこれは過度の喫煙者の仲間だと思いますので、そうなると、やはり自分でも心配になりますから、いろいろの医者に喫煙の害というものを聞いたのですが、医者によってまちまちでございまして、まあこれは私どもに迎合ということはないでしょうが、さからわないように言うお医者さんかもしれませんが、これは嗜好品であるから、嗜好する人は、大体これを吸っても、体質上健康にそう大きい害がない人が多い。嗜好しないというぐらいの人は、たばこを受け付けない体質であって、こういう人が無理にたばこを吸うことが一番害があるのだ、だから過度にならない程度にこれを好きで吸っておるというのなら、医者がいう、いわゆる酒の害とかたばこの害というが、ああいういわれるような害がそのままあるものじゃない、安心して吸いなさいという人がわりあいに多かったので、そうかなと思って吸っておったのです。そういうことでございますので、有害だということをそこにはっきり表示するということは、たばこを嗜好する人、しかも、体質上これを嗜好するためにそう大きい害もないというような者にとっては、心理的に有害な面もあるのじゃないかと私は思いますので、有害ということをはっきり言ったのがいいか悪いかということは一つの問題でございましたが、これも審議会で取り上げられたようでございます。  それと今度は、そうかといって、何でたばこの問題を取り上げているかといったら、国民の健康に関する問題なんだから、有害でないというのなら話にならぬで、いまの医学でも明らかに有害なものであるということはわかっているんだから、全く有害でない表示というものは意味がないのだ。そういうことから、それならタールがどのくらいでニコチンをどのくらい含有するというようなことが表示されれば、これは過度の喫煙をしたら相当健康を害するものだということを別に言っていることなんだから、この程度表示ではどうかという意見も当然出たと思いますし、それからもう一つは、いまおっしゃられたような、これを多く吸うことはいけないという警告を出すというのなら、それだけの表示で、それとまたあわせて分析表を出したりなんかしなくても、どっちか一つでいいのじゃないかという意見も出ておると思います。要するに、意見が、その辺を最後にどうするのが適当であるかということに落ちつくのじゃないかと思います。私は、単に有害だというのでしたら、そのために未成年には吸わせない、体質の固まらない者には吸わせないという処置をとっているのですから、嗜好品に対してあまり有毒というようなどぎつい表示のないものが望ましいのじゃないかと思います。問題は、いまおっしゃられるような程度の表現か、それとも分量を示す程度で注意を喚起しておくか、この二つを併用するというのもどうかと思いますが、どちらかぐらいのところじゃないか、私自身はそんなような感じがしております。
  98. 堀昌雄

    ○堀委員 水田さん、三年前まで吸っていらっしゃって、どうしてやめたのですか、百二十本吸っていたのを。何かやめられた動機があるでしょう。
  99. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 何ということなしに――とにかく百二十本というと、朝、家を出るときにマッチをすって出てきますと、次々にそれをやると、夜、家に帰るまで全部もつ数量が百二十本ということでして、要するに一日にマッチが一本あればいいという数字であります。そこまではだれがいってもとにかく吸い過ぎであると、あまりによそから注意されますので、節煙しようと考えたのですが、数量を減らすということはこれはできません。やめるかどちらかで、もう決心して、過度をやめるというためには全部やめるよりほかしかたがないという結論でやめたわけです。
  100. 堀昌雄

    ○堀委員 要するに、百二十本のんでいることは、どの医者も、あなたの健康によくありませんよ、こう言ったことは間違いありませんね。たばこを百二十本吸ったらたいへん健康のためにいいですと言う医者があったらお目にかかりたいと思います。それはないと思うのですね。私も日に十本ぐらいたばこを吸う患者に、あなたたばこをやめなさいなんて言ったことはないのです。私は医者として十一年診療に従事していたわけですけれども、それではどういうときにたばこをやめなさいと言うかといえば、やっぱり心臓疾患がある、あなたは一体どのくらいたばこを吸いますか、日に三十本吸います、それならばせめて十本ぐらいにできませんか、もし十本にできなければあなたのいまおっしゃるように、やめなさい、あなたはたばこと命とどっちが大事ですかと言うと、おおむねの患者は、やめますと言って、やめる人のほうが実は多いのです。  それで、酒の問題になりますと、私は別に自分は酒を飲まないのですけれども、少量なら酒は有効性が非常に高いのですね。その限界は私はどこに置いているかというと、晩酌をしたときに、ふだん晩酌をしなければ御飯を二はい食べる人が、晩酌をしたことによって二はい半食事ができるという条件の範囲ならば、あなたの健康にその酒量は有益です、しかし、それをこえていくと酒も決して有益とは言えないというあれをしているわけですね。ですから、たばこと酒というのは、大量になれば同じことですが、いずれも問題はありますが、少量でも、実はたばこは無害とは言えない点があるわけです。しかし、嗜好品という意味でのプラスがありますから、有害性と嗜好品としてのプラスとがバランスがとれるところまではやむを得ないと私も思うのですね。だけれども、やはりいま水田さんもいみじくもおっしゃったように、やっぱりそれは過度の喫煙なんですね。だから、そういう意味で、過度の喫煙はあなたの健康をそこないますということは、これは私は、ニュアンスとしては、有害表示というよりは、過度の喫煙はやめましょう――たばこをのむなと言っているのじゃないわけです。  実は私は、非常に譲歩をしてきょうこの問題提起をしているわけです。そのことは何かというと、それよりも後退をすることは、この問題の本質を失うことになるということを考えておるものですから、ひとつその点、水田大蔵大臣の御経験を体して、さらにひとつ御検討をいただいて、望むらくは、私がいま申し上げておるような、過度の喫煙はあなたの健康をそこないますということが一つと、ダブルがどうかとおっしゃったのですが、そのことと実はニコチンタールの少ないものを選んでもらうということは、いずれも国民の健康のために役立つことだと思うのですね。ですから、過度の喫煙の戒めと同時に、大きな表示で星をつけたり字を書いたりして、できるだけニコチンタールの少ないもの、そしてさっきアメリカの犬による実験例も申されておりましたけれどもフィルターのついたものが、そのタールニコチンの吸収量五〇%のものならば非常にそういうものの防止に有効であったという実験的データも出されておるようですから、あわせてフィルターのついたものが望ましいというようなことが店頭表示されれば、そのことも私は、国民に対する健康のための一つの教育的な指示として有効ではないか、こう思いますので、そこらのところについてはひとつ十分御検討をいただいて、少なくとも日本が国民の健康のために、アメリカ、イギリス、カナダその他がすでにとっておるにもかかわらず、そうしてこれはいずれも民間の商品に対する政府の指示でありますが、日本の場合は、財政専売であるという特殊性をも含めて、私はこの問題については十分ひとつ国民の健康を中心とした考え方で処理をしていただきたいと思います。その点だけをちょっと伺って次に入りたいと思います。
  101. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 ちょうど専売公社の総裁もおられますので、十分相談の上検討したいと思います。
  102. 堀昌雄

    ○堀委員 実はこれからちょっと問題を取り上げたいのは、日本の今後の財政のあり方でありますけれども、日本の財政というより経済全体の問題でありますが、これまでは少なくとも民間設備主導型といいますか、成長の中心に民間設備の増加部分が非常に大きな役割りを果たしてきたことは大臣も御承知のとおりでありますけれども、ここへまいりまして、これまでのいわゆる高度成長型経済が引き続き行なわれることがすべての点で望ましくない、やはりそういう意味ではここで頭を少し切りかえられて、国民生活を中心とした財政主導型の経済をしばらく続ける必要がある、こういう点については大臣も御異存がないと思いますけれども、いかがでしょうか。
  103. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 そのとおりでございます。
  104. 堀昌雄

    ○堀委員 そこで、財政主導型で経済を運営する中で、非常に大きな比重を今後占めるものは私は公共投資だと思います。この公共投資を軸にして財政主導型の経済運営が行なわれていく、こうなると思いますが、この公共投資を行なうにしても、これは今度幾らになりますかあとでちょっと主計局に答えてもらいますが、来年度予算で、昭和四十七年度予算で国債発行として、建設国債として見合う公共投資の総ワクですね、ちょっとこれ主計局のほうで答えてください。幾らぐらいの予想ですか、ラウンドナンバーでけっこうです。大体の予想。国債対象です。
  105. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 まだ最終的にはきまっておりませんが、おおよそ二兆円はこすかというような感じでおります。
  106. 堀昌雄

    ○堀委員 そうしますと、いまの国債、建設国債見合いのものとそれ以外のものが少しありますね。それを含めて前年比では大体どのぐらいに、ざっとの見当でいいですが、ざっとどのぐらいの伸びになりますか。
  107. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 大体二〇%をこえる伸び率になると思います。
  108. 堀昌雄

    ○堀委員 これは過去の例から見ると、実はかなり大幅な伸び率になりますね。  そこで大臣、きょう私がこの予算編成を前にして特にこの問題をとらえておりますことは、この公共投資というのは、財源は国債によろうと税収によろうと、いずれも何らかのかっこうで国民が負担をするものであることに間違いありませんね。そこで、国民が負担をする費用で公共投資をやる場合には、やはり国民の願う公共投資、国民が希望する公共投資をやるというのが当然私は政府としてのかまえ方だと思いますが、いかがでしょう。
  109. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 そのとおりだと思います。
  110. 堀昌雄

    ○堀委員 ところが、これは全部の住民ということではないかもわかりませんけれども、その地域におけるかなりの住民が実はそういう公共投資――いま私が取り上げようとしておりますプロジェクトは、たとえば飛行場、たとえば道路、それからたとえば新幹線、これらのものはいずれもその社会的公共のために必要なものであることは間違いないですね。ところが、必要であるけれども、同時にたとえば新幹線が新たに通りますとその周辺にたいへんな騒音をいまもたらしておる。この問題は、私もうだいぶ前になりますが、山陽新幹線問題というのでだいぶいろいろ論議をしたことがあるわけですけれども、そういう問題もある。特にいま私どもが住まっております関西で大きな問題になっておりますのは、いまの大阪の大阪空港と言っておりますか、伊丹飛行場の騒音問題というのは、その周辺住民にきわめて大きな問題をいま投げかけております。私も実は伊丹空港から自動車で約十八分ぐらいの距離におりますから、伊丹空港の騒音公害の被害者の一人でありますけれども、私のところは十五分ほど走りますからまだいいんですけれども、より近い周辺の住民がたいへんな被害を受けて、これについてすでに訴訟が起きていることを大臣も御承知だと思うのであります。私どもは、そういう航空公害が起きているために、この阪神間における住民というものは航空機の騒音その他の航空公害といいますか、これについてはおそらくその他の地域の住民に比べて非常に関心を高く持っておるわけです。  そこで最近の例を申し上げますと、そこに運輸省は新しく三カ所の飛行場の建設予定をしておる。いずれも海の上につくるんだということで、神戸市のポートアイランドの沖とかあるいは明石沖とか泉南沖とかいうところが予定をされておるわけです。ところが、この沿岸の神戸市をスタートに、全部の沿岸各市は反対請願を――神戸市は反対請願を全会一致で認めておるわけですし、芦屋市議会は議会で現在この空港に対して反対決議をしておる。西宮市、尼崎市もいずれもそのような形での反対の意思が表示されておるわけです。ずっとこっちの泉南まで連なっておるわけです。そうして地元では、いまのようなやり方をされるならば、地元の出資金については出資はいたしませんというのが現在の阪神間の情勢になっているわけです。これほど保守党もわれわれも全会一致で反対請願を認めるというような情勢、住民全体の反対ですね、議会の取り扱いとして見れば。あるいは芦屋市の場合には全会一致で議決が行なわれる。こういうような国民が望まない公共投資を、運輸省は一方的にどんどんやろうということでやってきておる。これは私は非常に重大な問題だと思うのです、今後の問題として。これにはずいぶんたくさんの費用がかかると思うのです。運輸省、これは大体幾らですか、一応の完了までの費用の見通し、国の費用の負担は。
  111. 丸居幹一

    丸居説明員 昭和五十三年、四年に供用開始を予定しておりますが、そのときまでに要する費用が約五千百三十億、そのうち出資を約三割というふうに読んでおりまして、できれば地元に一割ぐらい負担していただいて、国が二割ぐらいの負担をしたい、そういう計画でございます。
  112. 堀昌雄

    ○堀委員 そうすると、国の負担は千億ということですか、大体。
  113. 丸居幹一

    丸居説明員 そのとおりでございます。
  114. 堀昌雄

    ○堀委員 千億という負担は決して私はわずかな負担だとは思わないわけであります。実はデンマークでやはりスウェーデンとの間に新しく、これは島というほどではないらしいですけれども、陸地のあるところが海の中にあって、そこに新しく空港をつくるということについては、ほぼ十年近い調査の結果、今日ようやく、もう国民全体が納得をして処理をするというところに来ておるようですが、今日いま運輸省はたいへん急いでこの問題の処理をやっておられますけれども、沿岸各市はきわめて非協力な状態にあるというのが現実ですね。ですから私は、来年度の公団の予算等も要求しておるようでありますけれども、まず私は、このような大きなプロジェクトをやるときには、住民が納得をするためのすべての手だてを経て、沿岸各市として、その程度ならやむを得ない、それは公害をゼロにすることはあるいはできないかもしれないが、その程度ならやむを得ないということが沿岸各市の議会によって認められる段階にならない限り、いまのような段階では、私はこのようなことのために貴重な国民の費用を使うことは認めるわけにはいかない、こう思うのですけれども、大臣、いかがでしょうか。
  115. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 その問題は、航空審議会でもまだ検討中の問題であると聞いておりますし、現に私どものほうには非常に賛否両論が入り乱れておって、まだ別に飛行場の位置がもうきまった問題でもございませんので、したがって、来年度の予算措置というような問題については、当然慎重に考えるべき問題だと考えております。
  116. 堀昌雄

    ○堀委員 おっしゃるように、位置もきまらないものに予算をつけるなんということは科学的でありませんね。位置がきまらなければ費用が正確に出るわけでもありませんから、おっしゃるのは当然でありますけれども、やはり私は、この際公共投資のあるべき姿というのは、少なくともごく少数の者が反対をしているというなら、それはまた要するに社会的な基準でその反対者の納得を得る何らかの方法考えられていいと思うのですが、いま私が申し上げたように、沿岸の全市が反対をしているなんというところに、そういうプロジェクトをやろうなんという発想が私はちょっと問題がある、こう思っているのです。だから、そこらは今後の公共投資が財政主導型の中で非常に大きな比重を占めるときに、その沿岸の国民がみな所得税その他の税金を払ったものを、その人たち反対するもののために使うなどということは、これは私は大蔵省としては十分慎重に考えていただきたいし、今後の方針として明らかにしてもらいたい。  そこで、環境庁に一つお伺いしたいのですけれども、聞くところによると、アメリカではそういうプロジェクトを検討する際には、法律によってそういう問題が環境上国民のマイナスにならないというための事前の手段が講じられておるというふうに聞いておるのですけれども、ちょっと環境庁のほうからその点を解明してもらいたいと思います。
  117. 船後正道

    ○船後政府委員 アメリカに一九六九年に制定されました国原環境政策法というのがございまして、これの百二条の二項C項でありますが、連邦政府のいかなる機関も、人間環境の質に重大な影響を及ぼすような行動を行なうための立法提案や計画立案を行なう場合には、その提案された政策が実行された場合に環境に及ぼす影響、あるいは避けられないような環境に対する影響、または提案にかかわる政策に対する代替案等につきまして詳細な報告書を作成して、これをレビューするという制度になっております。
  118. 堀昌雄

    ○堀委員 いま環境庁のほうで説明がありましたように、大蔵大臣、これは非常に重要なことだと思うのです。それは私は財政の効率の問題だと思うのです。要するに、財政を最も効率的に運用するためには、少なくともそういうある程度行ってしまって、そうしてこれはおかしいということになるよりも、こういうふうな事前の問題として問題を処理し、レビューをした上で問題を進めていくならば、調査費そのものの使用その他についても、財政は効率的に使用できるのじゃないかと私は思うのです。たとえば田子の浦のヘドロのような問題でも、ごく初期に気がついて対策を講じておれば、私は今日のようなああいうたいへんなことにならなかったんじゃないかと思うので、今日、いま政治の上で求められておるものは、これらの公害問題というものに対しては、まず事前にひとつ十分やるということが重要だ、こう思うので、私はいま船後局長が説明をされたものが当然日本でも立法化されるべきものだ、こう思いますし、おそらくこれは環境庁が原局として立法を提案するこにとなると思いますけれども、しかし私は、財政の効率的運用という意味からも、大蔵省としては十分このことは考えていただく立場にあると思いますが、大蔵大臣、いかがでしょうか。
  119. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 私も別に異論はございません。
  120. 堀昌雄

    ○堀委員 もう一つ、ちょっとこれは地元に関係のあることばかりでたいへん恐縮なんですけれども、実は第二阪神国道と中国縦貫道路のアクセス問題というのが実は私の居住しております尼崎市で起きておるわけです。それが武庫川という川の尼崎側につけるか西宮側につけるかというので問題になっておるようですが、要するに、アクセスをつけることによって武庫川という一つの川を中心にして、あの辺非常に公害の多い地域ですけれども、そのことによって公害がやや救われておるという唯一の河川敷のある川を、またもや高速道路をそこへつけて住民に被害を与えようということで、住民はいま非常に反対をしておるのですが、建設省のほうではこれはいまどういう経過になっておるか、ちょっとお答えをいただきたいのです。
  121. 吉兼三郎

    ○吉兼政府委員 お尋ねの路線は、阪神高速道路公団のいわゆる武庫川線といっている路線でございますが、この経緯につきましては、たしか昭和四十五年に一応阪神高速道路公団の新規路線といたしまして、私どもが予算計上いたした路線でございます。  ところが、この高速道路は、まず前提として都市計画決定をしなければならないということになっております。その都市計画決定の手順を進めるべく、四十五年来準備を進めてまいったのでございますが、先生御指摘のような沿線の主として西宮、尼崎地域住民のこれについてのいろいろ反対意見が出てまいりまして、計画決定をされておる兵庫県におきましては、当面この計画につきましては沿線の環境との調整について、道路の計画、構造等をどうするかという点について十分検討を加えたいということで、目下そういう計画立案前の段階の作業中ということでございます。
  122. 堀昌雄

    ○堀委員 大臣、いまお聞きになったような問題があるのです。しかし、阪神高速道路公団というものがもしそこでやるとすれば、これは国の費用が関係するわけでございましょう。県道ということもあるのでしょうが、県道ももちろん県だけで全部つくるわけではありませんから、やはり国の費用が関係いたす、そういうことですね。ちょっと答えてください、建設省。
  123. 吉兼三郎

    ○吉兼政府委員 これは阪神高速道路公団の財源は、国並びに関係の地方公共団体が出資をいたしまして、あとは一般の借入金でもって事業をやる、こういう仕組みになっております。
  124. 堀昌雄

    ○堀委員 いまのようなことで、やはり国の財政にやはり関係があると思いますので、いま県でせっかくそういう調整の問題で検討しておるようでありますが、さっき船後局長が御説明があったように、日本でもひとつ国家環境政策法でありますか、こういうものがすみやかに立案をされ、それが立案されないまでも、この趣旨を体して、ひとつ大蔵省としては全般の公共投資が国民の望む公共投資である、要するに、国民反対をする公共投資にどんどん財政資金をつけるなどということは、この際財政の効率運用のためにも、国民のためにも避けなければならぬことだ、こう確信をいたしますので、これについての大蔵大臣の御答弁を承って私の質問を終わりたいと思います。
  125. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 私のほうでは、いま予算の査定の上で、公共投資で必要な公共投資の要望が多くてこの配分に非常に苦心しておるときでございますので、非常に公害を起こす危険のある公共事業とか、地元に非常に問題の多い、反対のあるものというもの、この際はこういうものを一時やめておかせてもらえればこちらのほうは非常にありがたいというような事情でございますので、その点は十分気をつけたいと思います。
  126. 堀昌雄

    ○堀委員 終わります。
  127. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 藤井勝志君。
  128. 藤井勝志

    ○藤井委員 先月の下旬にローマでの通貨調整に大蔵大臣出席をされまして、また明日から引き続きワシントンにおもむかれるわけでありまして、お役目柄たいへん御苦労千万に存じます。  申し上げるまでもなく、戦後初めての対外的経済政策としては一番根幹の大問題でございまして、当委員会はこの問題をめぐっていろいろ理事会においては心配をいたしておるわけでございますけれども、時間の都合で、明日出発を控えてきわめて限られた時間での質問でございますし、事柄の性質上、また公の論議のできないような性質のことも多いと思いますけれども、やはり日本が外貨建て取引がもうほとんどであるという特殊性、同時に、来年度予算編成を目前にして、四十七年度の日本の経済成長をどう考えるか、こういったときでもございますし、またローマの通貨調整のあのような状態を考えると、いよいよ適当なところで――相手のある話でございますから、こちら側の一方的な線だけでもいけませんけれども、要は日本の経済が安定した健全な成長に向かう方向に向かって全力を投入していただきたい。まさに潮どきが来ているのではないかというふうに思うわけでございまして、いよいよ明日臨まれる通貨調整に対する所管大臣としての基本的姿勢、心がまえ、こういうことについてお話のできる範囲でけっこうですからお答えを願いたい、こう思うわけでございます。
  129. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 前から御報告申し上げておりますとおり、国際通貨の安定をはかるためには、やはり基軸通貨をなしているドルの安定をはからなければならない。そのためには米国の国際収支の赤字をなくすることに各国も協力するという態度できょうまで国際会議が重ねられてまいりましたが、この協力のしかたがようやく軌道に乗ってきまして、欧州と米国との貿易交渉はもう先週から交渉に入っておって、まだ結論は出ないようでございますが、さらに引き続きワシントンを舞台にして欧州から交渉団が米国に相当長期の気がまえで駐在するということをきめてこの問題に取り組むという態度をきめているようでございますので、これが通貨調整の問題と並行して行なわれることになりますか、その問題の動向を見てやはり通貨調整の話に入る。もとからこれは一体であると主張しているアメリカの態度がここで問題になるわけでございまして、もうそこまで来たら並行してこの会議を進めようということでございましたら、通価調整の話も非常に急速に進んでいって、よくすれば年内解決もあり得るというようなところへ来ておると思いますが、しかし、そうではなくて、やはり関連したいろいろな問題も一緒に解決したいという態度をアメリカが持っております以上は、なかなか通貨調整を切り離した問題として解決することはできない、年を越す可能性もいま十分あるというところでございます。  そこで、日本はすでに八月以来二国間で貿易交渉を持っております。これは閣僚レベルの会を持っておりますので、その最後の締めくくりだけは事務的につけようということになりまして、一昨日ハワイで三省の当局が会って貿易の話をしてまいりましたが、まだ少し詰まらないところがございますので、これが引き続きワシントンのGテンの会議と並行してその詰めをしたいということで、こちらもそういう方針にきめましたので、引き続きまた十七日にそういう問題の交渉をするということになりましたので、まあいろいろな懸案が大体同じ時期に解決の方向へ向かっておるということでございますから、いよいよこの通貨の解決もそう長くないときに行なわれるだろうという見通しだけはついてきました。  その場合に日本としてはどうすべきかということでございますが、これは世界の各国の経済の実力と申しますか、これの相違、経済の変動によってもともと起こったことでございまして、米国経済のいまのような問題、同時に、これまでのいろいろな国民の勤勉によって日本経済が強くなってきたということもやはり世界の通貨秩序を乱している一つの原因でございます。したがって、日本は日本の実力に合った一つの平価調整ということは、これはまた当然こちらからこちらの要望としてもすべきものでございますので、これは進んで日本も協力する。そうして各国とも通貨の安定のために共同の負担をしようというのが日本の立場でございます。したがって、国際収支の恒常的な赤字国、基礎的な赤字国であると断定されているアメリカが全然平価の切り下げをやらないで各国に切り上げを迫るということは、やはり通貨調整の常道ではないということから、米国のドルの切り下げをもわれわれは主張しておりましたが、この点については、米国はやはり柔軟性をいま示しておるということでございます。そうしますと、米国もこの共同の負担をして通貨調整に参加するという立場になりますというと、あとは各国がその力に応じてどういう分担をするかということがお互いに合意されればこれで解決ということになるわけでございますが、これにはひとり対ドルの比率だけではなくて、お互いの国の、マルクと円とか、円とポンドとか、こういうものの比率もやはりお互いが合意されるところでないというと最後の安定というものがないということになりますので、この辺の交渉において日本が不当な負担をする必要はございませんので、不当な負担だけはわれわれは避けるという立場であくまでこの多国間交渉に臨みたいというのが、いまのところの私どもの心がまえといいますか、そういうことでございます。
  130. 藤井勝志

    ○藤井委員 いろいろお話を承りまして、お立場の現時点においての御答弁としてはしごくごもっともなお答えだと思うわけでございまして、ひとつせっかくの御努力をお願いをいたしておきます。  時間がえらいございませんが、もう一つ最後に、四十七年度の予算編成が目下進行中でございますが、財源対策につきましていろいろ新聞を通じまして承っておりますが、党内にも御案内のように三兆円国債論も出ておりますし、同時にまた、新聞を通じてでございますけれども、物価問題には非常に慎重であり神経過敏であるべきはずの経済企画庁の方面からも、積極的予算編成方針、積極的予算を組め、国債発行も積極的にやったらどうかという、こういう姿勢がうかがわれるわけでございます。  いままで予算編成の基本的なかまえとしてわれわれが長年頭にしみ込んでおる考え方は、入るをはかって出るを制する、こういう発想でございます。この点は、貧乏世帯になれたいままでの日本、ところが、明治政府以来ここに初めて長年の懸案であった国際収支が黒字基調に定着しつつあるというこの時点、特に昨今は異常な状態でございますけれども、外貨が百五十億ドル以上もたまっておるというこういう事態、同時にまた、設備は非常に余裕があり、国内は金融は緩和し、よくいわれる企業マインドは冷え切っておる、こういう状態、いわゆる不況の状態でございますが、こういったことがこのまま推移せんか、いわゆるしぼり出し輸出というようなことで、国際収支はなかなかバランスがとれないという苦いごく最近の経験を繰り返すようなことになってはいけない、こういったことを考えますと、この際入るをはかりながら出るをもはかるという、どっちがどっちになってもいい、両方あわせて考えるべきじゃないか。財政運営の発想をひとつそこで転換するという私の意味は、この際非常に立ちおくれた生活環境の整備、社会資本の充実のためにこれだけ金が要るんだという、出る方面をにらみながら入るほうも考える、そのとおりにどうしてもこれだけは要るんだけれども、やはり金がある程度不足する、これがいわば赤字公債という赤字国債であって、昨今新聞なんかでも見ますし、この赤字公債はいわゆる財政法の四条ただし書き、こういったところの法律論で、やはり営繕費を国債発行の対象にして、これまでは建設公債だという、こういうふうな考え方でなくて、私がいま申しましたような、入るを考え出るも考えながら、足らぬところはこれがいわゆる赤字公債、こういうふうな発想で考えて、この際不況を乗り切り、安定成長の方向に財政主導型でいくべきじゃないかというふうな考え方が頭に浮かぶわけでございますが、この財源問題をめぐり、大蔵大臣が四十七年度予算編成に対する基本的姿勢と申しますか、先ほどの堀委員からのお話は、生活環境優先という、これも一つの大切な柱でございますけれども、いまのような金の使い方ですね、予算編成の運び方、これに対して、前どおり入るをはかって出るを制す、これだけしかないんだというので引き締める、こういうことでなくて、そこら辺は両方をにらんでいくのが現在の日本の経済環境に対応する四十七年度の予算編成ではないか、こう思うのですが、大蔵大臣、いかがでございますか。
  131. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 この不況を克服しなければなりませんので、そのために財政主導型予算を組むという方針は前からきめて、すでに本年度の補正予算のときから発足しておる方針でございますが、それによりまして、大体不況対策として出るほうがどれくらいあったらいいかということを私どもは今度の場合はやはり先に考えます。そうして、これだけの公共投資というものができるならこの不況に対処し得るというような一応の構想を描いて、そうしてそれに対する財源ということをいままで苦心してやってまいりましたが、一応いまになりましてその見通しがつきました。と申しますのは、いままでの予算の伸び率から見ましても、ここ八、九年来これは最高の伸び率で、予算ワクの二〇%台の拡大というものは来年度の場合どうしてもほしいという方針できましたが、大体二〇%台を確保することができるということと、しかも歳入減、税収減とかいろいろなものがあるにしましても、一般歳入をもって一般歳出を大体補える、そうしてまかなえる、そうして予算の重点配分も大体支障なくできるということと、そうして公共投資は、財政法の許す範囲内の公債政策の活用ということでやっていけるという全貌がようやく描けるようになりましたので、したがって、来年度は、いわゆる世間でいわれている赤字国債というようなものは一切出さなくて対処できるという見通しと自信がようやくできましたので、その方針で予算の編成に取りかかりたい、いまこういうふうに考えております。
  132. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 広瀬秀吉君。
  133. 広瀬秀吉

    ○広瀬(秀)委員 時間がありません。いよいよあした出発されて、年内解決の可能性もある、こういう立場で蔵相会議に臨まれるわけですが、そこで、ローマ会議アメリカがドルの若干の切り下げ、あるいはまた通貨調整ができた段階における課徴金の撤廃、こういうことを示唆をした、そういう気持ちを持っているということを表明されたということは、十六日、十七日の蔵相会議にもこぎつけられた、年内調整の可能性を生み出した最大の問題だといわれておるわけでありますが、この十六、十七日の蔵相会議で、アメリカはこのドルを切り下げるという問題、これを明確に何%というように出すか、あるいは国際通貨調整ができた段階では必ず課徴金を全面的に撤廃をするというところまでいくことになっておるのか、まずその点を。
  134. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 過去ロンドン会議におきましても、ワシントン会議におきましても、アメリカがこの点で態度をはっきりしませんために通貨調整が進行しなかったというのが実情でございまして、そこで先般のローマ会議で、あくまでその態度を明快にしない限りはもうこれ以上会議は進めないということにはっきりなってきましたので、そこで初めてアメリカが柔軟な態度を示したということでございますが、その場合でも、そう約束するとかなんとかということではない、かりにそうするということを仮定するとすればという仮定を置いてお互いに議論を進めようということをアメリカが承知したということでございますので、いままでは仮定の問題じゃなくて、その問題に触れるんならもう会議をしないというので、議題に取り上げることすら拒否しておったというのが、今度はそうじゃなくて、一応この通貨調整ができた場合には課徴金は全部なくなるものと思っていい、それから、そういう調整の進み方によってはドルは切り下げられるということを一応仮定するとして、その上の議論として、それでは各国はどういう態度をとるかというようなことで、一応それを仮定の問題として議論をして話が相当進展したということでございます。あくまでも仮定であって、それは約束したんではないということは一つ入っておりますが、それはなぜそこまでアメリカが用心しておるかと申しますと、その間にやはり欧州に対する貿易交渉を進展させたいということからの考慮であったと思います。会議の席上でも、日本とカナダとはすでにお互いの貿易交渉をずっと始めているんだ、そうしてある程度いろいろ合意に達していることが多いのに、欧州諸国に対しては全然この交渉を受けつけてくれないので、交渉の入り口にも入れない、こういう形では一切そういう議論に応じられないということで、いままで態度を絶対に表明しないできたために、とうとう欧州も閉口して、この貿易交渉に入る、そうして簡単な問題は次のワシントン会議までにみんな結論を出すということを約束するというところまで欧州諸国は貿易交渉で折れましたので、それならばというので、それならこういう仮定を置いて通貨の議論を進めることにアメリカは同意するという形でこの通貨論議が進んだといういきさつでございますので、十七日、今度のワシントン会議ですぐにアメリカがそういうものを示してくるかどうかということは、私はひとえに欧州の貿易交渉がうまくいっているかいっていないにかかるんじゃないかというような気がいまいたしております。
  135. 広瀬秀吉

    ○広瀬(秀)委員 いずれにいたしましても、日本にコナリー長官が来たときにも、日本の実情はよくわかっていただいたということを大蔵大臣言われたわけでありますが、ローマ会議におきましても二〇%というようなかなり大幅な円の切り上げが出されている、要求されているというようなことが伝えられておるわけなんですが、いずれにいたしましても、変動相場制下にある今日、三百六十円の固定相場からずっと円高になって、三百二十三円何がしというようなことで今日あると思うのでありますが、この問題と、この十六日、十七日の蔵相会議におけるこれが、あるいはその辺ここ両三日のうちにおそらく三百二十円くらいまでいくんじゃないかと、こういう予想もされるわけでありますが、このことと円の切り上げ幅というものは大蔵大臣が腹の中で考えておるものとはかなり近いものになってくる、そういう関係と、今日における円の相場、こういうものとの関係というものをどういうようにわれわれは理解したらよろしいのか。大臣のいわゆる攻防の線はここだということは、なかなかこれは手のうちを見せるようだからむずかしいだろうとは思うけれども、もうすでに三百二十三円というような相場が実現しているというようなことになりますれば、大体その辺のところか、あるいは三百十五円か、あるいは十円までいくのかというようないろんな説が乱れ飛んでおるわけでありますが、この関係というものをどういうようにとらえて対処されるおつもりであるのか、この点お伺いいたします。
  136. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 いろいろの論議が行なわれましても、やはり各国とも変動為替相場制をとっております以上は、現実の取引に出てきた相場というものは、各国ともある程度の実勢の反映だということで、これはやはり各国は討議をする場合の一つの根拠になるだろうと思います。それと現実にこの課徴金というものがあるんですから、あった上でのいろんな変動相場制ということを考えますと、この課徴金を取るということについてのまた変化というものが若干予想される、そういうことからおのずから各国とも一つ考えが出てくると思うのですが、その場合困りますことは、ドルが下がるだろうとか、あるいはどこの国はどのくらいのことを考えているだろうというようなことがやたらにいまいわれておりますので、それによってやはり市場が、そう大きい思惑というものに左右されなくても、これはやはり影響するものでございますので、アメリカがドルについて柔軟な態度をとったということだけでドイツあたりはやはりドルが下がってマルクが上がるということで、あれ以後各国の切り上げ幅というものは現実に上がっておりますので、こういうものを通常のほんとうの実勢と見るのか、いろいろ通貨調整なんか妥結が近づいてきた前のまた一つの一時的な現象と見るのか、いろんなそういうことによって、これから大ぜいの国が集まったときにそういうものの見方、いろんなものが入ってのかけ引き論議が行なわれていくだろうというふうに考えております。
  137. 広瀬秀吉

    ○広瀬(秀)委員 もう本会議の時間にそろそろなるものですから、最後に要望だけいたしておきますが、いずれにいたしましても、日本の経済にとってたいへんな影響を持つ通貨調整問題でありますから、不当なアメリカの要求に安易に屈服するような態度は絶対にとられないで、やはり国益を守り抜くという立場で、将来この通貨調整問題で水田大蔵大臣は獅子奮迅の活躍をしたと後世の史家に書かれるようにひとつがんばっていただきたいということを特に要望をいたしまして、議論の時間がありませんでしたけれども、これで終わりたいと思います。御健闘を祈ります。
  138. 齋藤邦吉

    齋藤委員長 水田大蔵大臣、何か答弁されますか。――いいですね。  次回は、明十五日水曜日午前十時理事会、十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後一時五十九分散会