○佐藤(観)
委員 私は、
日本社会党を代表して、
所得税法、
法人税法、
租税特別措置法の一部を改正する
法律案につき、反対の討論をいたします。
まず、
所得税法について申し述べます。
減税額というのは、
政府が
国民の税負担をどれだけ軽くするかをあらわすバロメーターの一つだと
考えます。この観点からいいまして、本年度の所得税
減税は、
減税という名に値しないほどのわずかです。すなわち、自然増収が一兆四千九百六十五億円にのぼっているのに対し、その
減税額は千三百八十七億円、所得税
減税分だけでも千六百六十六億円にすぎません。物価上昇の激しい今日、
政府の当初見通し五・五%の物価上昇に押えられたとしても、七百四十億円がこの物価調整に食われてしまいます。加えて、
税金の一種である健保料、厚生年金保険料、失業保険料などの社会保険料の引き上げ等を合わせると、今度の
減税は、単なる物価調整あるいは税法上の
減税にとどまり、実際は自然増収を
考えれば増税になっているのであります。
次に、課税最低限の問題ですが、現行夫婦子供二人で八十八万三百二十八円が九十六万三千七百二十七円となりましたが、この額も物価上昇と
国民生活の高度化、多様化から
考え合わせると、決して満足なものとはいえず、まだまだ勤労者の
生活費にまで食い込んで課税されております。
また、妻の内職
収入については、社会党の年来の主張をいれ、その配偶者控除の適用限度額が引き上げられはしましたが、その額は低過ぎます。せっかくパートタイムで働き、物価上昇で悩む家計の一助にと思っていても、かえって
税金が重くなってしまうからやめようという人たちがふえています。せめて独身者並みの三十九万円、これは改正案ですが、にすべきであります。
さらには、未成年者、独身者に対する課税が重いこと、給与所得者の必要経費の問題等、再三論議されたところでありますが、残念ながら今回の改正案には何ら考慮が払われておりません。
次に、
法人税法についてであります。
今回の改正の一つに、従来、建設業を営む
法人が建設工事の完成後に起こった補修の費用を一定
金額損金で算入できるという、完成工事補償
引当金制度をさらに拡大して、造船業、テレビ、カメラ製造業などに新たに製品保証等
引当金制度を創設しております。しかし、この
制度には多大の疑問があります。従来、アフターサービスは
企業の独自の支出というより、すでに販売価格の中に入っているのが普通であります。したがって、新たにこの
制度を設ける必要は認められず、過度の
企業擁護としか
考えられません。
また、
法人税率については今回は何の改正もされませんでした。現在の三六・七五%という
数字は昨年百分の百五上げられたもので、それ以前は不況を
理由に、三十年の四〇%から三十三年に三八%、四十年に三七%、四十一年に三五%と三度
引き下げられました。しかし、現在の経済
情勢は不況を脱して、逆に景気が行き過ぎ、総需要の抑制、物価騰貴、インフレを抑制しなければならぬ。加えて、社会資本の絶対的な立ちおくれを一日も一早く脱却しなければならない
状態にあります。また、
日本の
法人税率は外国に比べてまだ低い税率となっております。これらの観点から、
法人税率はせめて、不況対策の名のもとに
引き下げられる以前の四〇%に一挙に戻すことは無理だとしても一、三%
程度は引き上げられるのが適当だと
考えます。
租税特別措置法が税の公平を欠く法律であることは論をまちません。これに対して
政府は、この点は認めながらも、特別な経済目的と称して今日まで毎年拡大を続け、その数、百四十項目、また、四十六年度の減収見込み額は国税、地方税合わせて六千四百六十三億円になろうとしております。
政府は、特別な経済目的といいながらも、それでは一体その経済目的のためにこの法律が具体的にどれぐらい効率的に働いたのかというと、確固たる
数字をあげての
答弁ができておりません。
政府の諮問機関である
税制調査会の四十五年十二月の
答申においても一、その整理、合理化について次のように述べております。
「租税
特別措置については、その政策目的の合理性や政策手段としての有効性の判定を厳格に行ない、既得権化や慢性化を排除するよう努力すべきことはいうまでもないところであるが、これらの措置が
税制を通じて経済諸施策を遂行しようとするものであることからみて、経済社会
情勢の進展に即応して、随時、弾力的な改廃に努めるべきものと
考えられる。
また、新たに
税制上の誘導措置を講ずる場合においては、名目的な政策目標のもとにいたずらに措置の数をふやすことなく、真に緊急に必要とされるものについて重点的に措置することとし、かつ、新規の措置の創設及び既存の措置の拡充は、既存の措置の整理合理化に伴う増収額の範囲内にとどめるべきである。」
しかし今回の改正案は、明らかにこの
方向と逆であり、既存の
制度はできるだけ温存し、期限切れになったものについては、それにかえるに直ちに新たな
制度の創設をもってするという、既得権の
保護に偏していることや、経済の国際化など新たな段階に対応できるよう
制度を組みかえ、海外進出を助ける
税制に改められていること、また戦略産業を
保護するために新
制度を創設していることなど、あげていったら枚挙にいとまがありません。すなわち、銀行の貸倒
引当金、鉱業所得に対する
特別措置など、不当に多い
積み立てを認める
制度を是正する件や、
時代に合わない輸出振興
税制を思い切って改廃すること、高額所得者を優遇し過ぎるという非難の多い利子・
配当所得に対する
特別措置や株式譲渡所得非課税の
制度の廃止など、これらの問題は、昨年の当
委員会で、佐藤首相、福田大蔵大臣ともその
検討を約束したところでした。ところが、たとえば輸出振興
税制一つをとってみても、本改正案は
部分的な圧縮にとどまり、
税制面の援助体制を新たな段階に質的に振り向けるという改正を行なっており、その額は平年度で三百二十二億円にのぼります。
このようにして、租税
特別措置は全般的に改廃の
方向に行くべきことはわかっておりながら、当
委員会の附帯決議や
税制調査会の
答申に沿うことなく、別個にますます複雑に、そして
税体系をいびつなものにし、
国民の間に、大
企業と高額所得者ばかりを
保護しているという、納税をきらう気持ちをかもし出す原因をつくっております。
また、問題の交際費課税については、損金不導入割合を現行の六〇%から七〇%にしたにとどまり、根幹である四百万円プラス資本金の千分の二・五については何ら改正をしておりません。これでは一兆円にのぼるといわれる交際費について、何ら実質的な抑制効果はありません。
また、来年度から創設される青色
事業主特別経費
準備金の
制度は、青色
事業主が死亡、転廃業の際に取りくずしができるよう、年間最高十万円まで損金に算入できることになりましたことは、青色
事業者にとって一歩前進といえます。しかしこの
制度は、長年青色
事業者が要望している
事業主報酬を必要経費として認めるかわりの、すわかえであることは、福田大蔵大臣も認めているところであり、しかも最高十万円では、三十年
積み立てても三百万円、この物価上昇率では、おそらく三十年後の三百万円では価値がなくなっているでありましょうし、青色申告をやめた場合には積立金は
事業所得とみなされるなど、まだまだ大
企業の
優遇措置に比べれば月とスッポンと言えます。
以上が、われわれが税三法の改正案に反対するおもな
理由であります。