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三島参考人 三島でございます。
私は、いままでのお二人と違いまして、大学で
核燃料工学という講座を持ちまして講義をしたりしている者でございますけれども、今回の
保障措置の問題につきましては、昨年の夏から
科学技術庁の中でこの問題に関する
検討会がつくられまして、
専門家の方を集めて
検討しておられたのでございますけれども、その会合の場にメンバーの一人として加わりまして、ことに
総括グループの主査をつとめまして、取りまとめのお世話をしたりした
関係で、主として
技術的な問題について
意見を申し述べたいと思っております。ことに
条約が
調印されまして、九月までというくらいの期間で、
IAEAでもいろいろ
査察の問題についても
検討がこれからされるようでございます。
わが国としてもそれに備えていろいろ御
検討になると思うので、私の
意見も御
参考になればと思って申し上げたいと思っております。
一般論として、御
承知のとおりでございますけれども、何か
防止をするというような
目的で規定をつくろうという話になりますと、本来性善説とよくいわれるのに立ってものを考えるか、あるいは
性悪説に立ってものを考えるかで行き方がたいへん違うことは御
承知のとおりでございます。それで、よく
防犯関係の
規則などもそうでございますけれども、もっぱら
性悪説に立って
規則をつくってしまいますと、
ほんとうに性善な者から見るとたいへん迷惑がかかるということになるわけでございます。
査察の問題についての目下の
日本の
立場というのはこれに近いのじゃないかという気がいたします。そこで、実施にあたりましてくれぐれも
日本が不当に損をしないように、十分配慮をしなければならないと思います。しかし当人が、ただ
自分が性善だといってがんばるだけではなかなか現実論としてはむずかしいと思いますので、いままでもいろいろお骨折りになったと思いますけれども、
原子力の
平和利用については
日本という国は性善なんだということを国際的によくわからせるように、あらゆる
機会をとらえて今後も
努力をする必要がございます。
IAEAでいろいろなルールをきめます上に、
日本の
主張を通すためにもなお一そうの
努力が必要だろうと感じております。
査察の受け方でございますけれども、これにつきましては、すでに先ほどからお二人の
参考人の方もおっしゃいましたとおりに、
日本のように
ほんとうに
平和利用しか考えていない国が、
原子力の各分野の健全な伸びがこれによって極力妨げられない、しかも
IAEAで考えております
査察の
目的が達成されるような
方法を見つけることが必要でございますけれども、これについては、
わが国も積極的に大いに
努力をして、手伝わなければならないだろうと思われます。この場合に、いろいろの事情を考えますと、核を持たない国の中でもって、
日本のように大きな
原子力工業を持っておって、しかも
核燃料サイクルについてかなり確立したものを持っているというのは、
一つの特殊事情であると思いますので、そういう
立場からの
主張というものを非常にはっきりしたほうがいいと思います。したがいまして、この
査察の実施
方法がどうきまるかによって、最も実質的に影響をこうむるのが
日本ではないかという気がいたしますので、国連でいろいろ
検討されます場合に、十分
日本の
意見を
主張していただきたいと思います。
保障措置の方式でございますけれども、これは昨年の末に東京で開かれました
IAEAのパネルのときにも論ぜられたと思うのですけれども、受ける国が責任を持ちまして、その国の中で
核物質の
平和利用でない方向へ転用されることを防ぐようなシステムをちゃんとつくりまして、その国の持つ管理制度のようなものを確立しておりますということを見せて、したがって信用してまかせてくれといったようなやり方がよいとされておりますが、これはそれでよろしいと思いますが、国際的な問題でございますので、
世界にはいろいろな国がございますから、ただ当人が、
自分の国のやり方はかくも確立しておるから安心してまかしてくれと言うだけでも、必ずしもうまくいかないかと思いますので、国際的な
査察を受けるということを用意しなければなりませんけれども、それについては先ほどからいろいろ御
意見がありましたように、できるだけよってこうむる被害が
最小限度に済むように考えなければいけない。それには具体的にどんなふうにしたらいいか、と申しますのは、
最初に申しました、昨年
検討会で
報告書をつくったりしておりますけれども、そこに述べられておりますような
考え方がやはり妥当であろうと思うのでございます。それは、そもそも
性悪説に立ちまして一切監視するんだという調子でかかりましたら、これはとうてい現実論としてできるわけもございませんし、
ほんとうに性善だというものにとっては弊害ばかり出てまいりますので、
検討会の
報告書のときもそういう考えをとったのでありますけれども、本来の
目的以外に転用がもし起こったらすぐ見つかる、必ず見つかるという方式をつくっておいて、したがって事実転用ができないというような
考え方をとるほうが妥当であろうと思われます。そのほか、すでに二人の
参考人からも御指摘がございましたように、
わが国の中で
原子力産業の生産活動や
研究活動がこれから伸びてまいりますのに、その障害を
最小限度にするような
努力をしなければなりませんが、それには、
原子力施設というのは、本来
核燃料物質を扱ったりするわけでございますから、
自分の安全性あるいは経済性確保のために、必要に基づいて
自分で
核物質の管理のシステムというものを持たざるを得ないで持っておるわけでございますから、これをじょうずに利用いたしまして、新たにつくる
規制というのを
最小限度にとめるように
努力することがよいだろうと思います。
なお、それでも
保障措置を適用するために必要な設備が多少プラスアルファが必要になりましたり、あるいは手続のために費用がかかったりすると思いますけれども、そういうものについては
査察を受ける側だけが負担することにならないように配慮をする必要があると思います。
それから、先ほど
機密の
お話も出ておったのでございますが、
原子力産業あるいは
研究施設の活動が円満にまいりますためには、そういう仕事の上の諸情報が外に漏れるということは
最小限度にとめるべきでございまして、いやしくも
査察という名にかりましてそういう秘密が不必要に
漏洩するということがないようには十分配慮しなければいけないと思うのです。特に
産業機密の話はもっともでございますけれども、
研究開発につきましては、
わが国の
原子力研究というのは、
最初は欧米の追試のようなことが多かったわけでございますけれども、最近ではたいへん独自性のあるものがたくさん出てきております。何の
研究でもそうでございますけれども、プライオリティの確保というのは非常に大事でございまして、だれさんが初めてどういう問題に着目して
研究を始めてというようなことは非常に尊重されるべきでございます。結果はもちろん公開でございますけれども、公開のところまでいく途中で、
研究の内容なりなんなりが不必要に
漏洩することがないように、これは十分配慮いたしませんと、
わが国の独自の
研究開発が妨げられると思います。
それから保障のシステムでいろいろな問題点があると思うのでございますけれども、
核物質といっても一律ではございませんので、緩急をよく考えて差をつけてやるということについて十分配慮をしたほうがいいと思います。それはどういうことで緩急順序をつけるかと申しますと、核爆発の装置に対しての
技術的、時間的距離と申しますか、そういったものをよく考えまして、その大きいか小さいかによって
査察のきびしさというのを当然かなり変えたほうがいい。いままででも
査察の回数をきめますためにエフェクティブ・キログラムというものを目安にして区別するという
考え方がございまして、こういうのが
一つの例であると思うのです。さらにもう少し進めてまいりますと、同じウランでも天然ウラン、低
濃縮、それから高
濃縮までいろいろの
濃縮度がございますけれども、それに応じましてもっと差をつけてもいいんじゃないか。それから
プルトニウムといっても、
一つの
プルトニウムというだけでなくて、同位体の比率というもの、その辺も十分考慮して、多少の差をつけるようなことが考えられていいんではないかといったような気がいたします。
検討会でいろいろ
検討したときもそうでございましたが、具体的なやり方といたしまして、大別して二つございまして、
核燃料物質を扱う施設別に分けて、それぞれ施設ごとに収支をちゃんと管理する。そのためには、封印できれば一番簡単でございます。封印でれきば、入ったもの、出たものだけつかまえておれば、中でどうなっておるか見ないで済むわけでございます。封印できない施設もございますので、そういうものについては監督、管理体制というのをしっかりつくって、それを信用しまして、そこからの
報告で見ていく。そうして何かおかしいことがあったら、もちろんいつでも調べることができるようにデータはとっておきますけれども、日常的にそのデータを全部提供しろということは言わないというようなやり方がとられます。もう
一つ新しい
考え方といたしまして、
検討会で試みをしたわけでございますけれども、国の中での
核物質の流れを
一つの系と考えまして、それに対して最近いろんな工業でとられておりますようなシステム解析の手法を適用いたしまして、全体の流れとして押える。そしてそれに基づいて
査察をやる場合に、押えるべき点がどことどこだという
最小限度のポイントを押えまして、それだけで済ませられないかという方向に向かって
努力をするわけでございます。これはまだ開発の途上にございますけれども、
わが国の
立場なんかから見ますと、多分こういうやり方というのが一番被害が少なくて実効をあげるいい
方法になるだろうと思いますので、これからも
わが国でもこのやり方につきましては、大いに費用もかけなければいけませんし、十分援助をして
努力してほしいと思います。今度
IAEAで既存の
保障措置の再
検討も含めていろいろ
検討されるのであれば、こういうやり方について大いに
主張をしていただきたいと思います。しかしこれは
査察を受ける国がいろいろな国があって事情がみんな違うわけでございますから、どれかの
方法を画一的に
世界じゅうのみんなに押しつけるというのはかなり困難だと思われますので、
日本のような場合には、先ほど申しましたような、全体の流れを
一つとして押えましてシステム工学でいくというのがたいへん都合がいいわけでございます。小さな国で
原子炉が
一つしかないとか、あるいは
原子炉はあるけれども再
処理の施設がないとか、いろいろな国の場合に必ずしもそうでないほうがいいかもしれませんので、施設別に
検討するというやり方と、システム解析のように全体を
一つの流れとしてやるやり方と、両者をうまいぐあいに二本立てに使い分けるというようなことも
一つの
考え方かと思います。こういう、
わが国の
査察を受けますときに最も被害少なく、しかも効果が上がるような
方法の開発というのはまだやることが残されておりまして、計量方式その他いろいろございますけれども、こういう問題の
検討についてはこれからの
技術的な面で大いに私どももお手伝いをしてやりたいと思っております。
実際の
査察のやり方といたしましては、よく話が出ますように、ヨーロッパの
ユーラトムのやり方がありまして、
ユーラトムが責任を持って引き受けるというやり方でございます。
わが国の場合にもちょうどこれに対応して、
日本という国が責任を持って引き受けるからまかせてくれというやり方でよいだろうという御
意見が非常に多いわけでございますけれども、私もこれでよろしいと思っております。ただ、ほかの国からながめました場合に、片方は共同体でございますし、
日本の場合は
一つの国でございますから、そういう事情の違いというのが当然考えられるわけでございまして、
日本の
主張を通しますためには、それに対応して適当ないろいろな処置を考えなければいけない。たとえば、国連から見た場合の
わが国の信頼度といったような問題について、よそから見た事情というようなことを十分認識いたしまして善処しなければならないかと思います。国際的の信頼度というのはなかなかいろいろなむずかしい問題があると思います。ただ道徳的にまじめであるという話だけでは済まないかと思いますので、諸般の国際情勢をよく考えていただいて、私どもの
技術的に詰めました
査察方式をバックにしていただいて、
査察の適用によって
日本の
原子力関係者への望ましくない影響のようなものが
最小限度になるように今後とも
努力をしていただきたいと思っております。大きな線といたしましては、
核防条約の
調印の際に
政府の声明が出ておりますが、あの中に書かれておりますような
考え方に立脚してよいと思いますけれども、それにさらに
検討会で結論を出しましたいろいろな
技術的な問題を盛り込んでいただいて、その後の
技術進歩なども考慮に入れて修正をしていただいてよろしいと思っておりますけれども、多少心配なのは、八月の終わりまでにというような、
検討期間がかなり限られております。その間に、
最初から十分いろいろなことをよく考えていただいて、内外の情勢を御判断いただいて、提案のしかたにしても発言のしかたにしても有効な
方法を考えていただきまして、時間切れだということになって不利なことで承認せざるを得なくなるということにならないようには、くれぐれも御配慮願いたいと思っております。
以上、簡単でありますが、私の
意見を申し述べました。