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渡部一郎君 私は、公明党を代表いたしまして、先日
沖繩の
米軍基地において発生いたしました
毒ガス問題などにつきまして、
佐藤総理及び
関係大臣に
緊急質問をいたすものであります。
政府は、
毒ガスを含む
化学兵器及び
生物兵器に対してどう
考えておられるか。これに対しては、これらの残忍非道の
兵器というものは、人類に対する許しがたき犯罪であり、人間性の否定としか
考えられないものであります。従来、
わが国民は、このような
兵器を、
平和憲法のもとに両立させることはとうてい不可能なものであり、
わが国に保有されることもないと
考えられておったわけであります。しかるに、これらの
兵器に対する
政府の所見はどのようなものでありましょうか。
沖繩におけるこれら
兵器の存在というものは、
日本国民に大きな衝撃を与えたのであります。これらの
CB兵器は、つくらず、持たず、持ち込まさずと言われた例の
非核三
原則以上のきびしい
原則が、これに対して確立せらるべきであると思いますが、この点をどう
考えられますか。
CB兵器の
使用は、国際
条約においても明記されておりますとおり、
国際法の一部としてその
使用禁止が確定しているのでありますから、
日本においては、さらに進んで
研究、
製造、貯蔵、
使用を
禁止する方針を世界に向かって宣明すべきであると思いますが、この点はどう
考えられるか
伺いたいと存じます。(
拍手)
ここで、われわれが全く納得できないことは、わが
日本政府が一九二九年の
ジュネーブ議定書を調印しないことであります。戦争における窒息性、毒性またはその他のガス及び
細菌学的戦争
方法の
使用禁止をきめた
ジュネーブ議定書に参加しないのは
アメリカと
日本のみであります。戦後の
日本が、
平和憲法を持ちながらこの議定書に参加しないのは一体なぜでありましょうか。
米国がこの議定書に加入していない、そのために追随して加入しないというのでありましょうか。当時の
日本政府の事情があったと、
外務大臣は先ほど弁明をされたわけでありますが、少なくとも、戦後二十数年間にわたって続いてきた自民党
政府の責任はどう
考えられるのでありましょうか。
米軍のガス
兵器を認めるために批准、加入をためらったというしかないのであります。同議定書に対する加入の門戸は大きく開いているわけでありますから、いまからでも加入は全くおそくはない。この点どう判断され、どう対処せられるか、明らかにしていただきたいと存じます。(
拍手)
ウ・タント国連事務総長は、国連総会決議に基づき、
化学・
生物兵器白書を
発表し、次のように述べました。
CB兵器の
被害は
核兵器に劣らぬ
脅威的なものであって、その結果は戦闘員のみにとどまらず、平和的住民にも無差別かつ無限大に
被害を及ぼすものであって、
人道上許すべからざる最悪の
兵器であると。これに対して
政府はどのような
考えを持っておられるか
伺いたい。もし良識の持ち主であるならば、この
CB兵器の
禁止のために一体何を実際的に処置せられるのか
伺いたいと存ずるのであります。(
拍手)
最近
軍縮委員会に
提出されたイギリスの
生物兵器禁止案に対して、またどういう
態度をとるつもりか
伺いたいと存じます。
この提案は、
毒ガスを含む
化学兵器の
使用については言及していないのでありまして、まさに重大な欠陥を含んでいると言うべきでありましょう。仄聞するところによりますと、イギリスは、現在
アメリカが
ベトナムで
化学兵器を
使用しておりますために、故意にこれを
条約案から落としたといわれておりますが、われわれとしては、
日本政府が同様の卑屈な
態度をとることに断固反対するものであります。
次に、
日米安保条約改定交渉において、
CB兵器について協議が行なわれたかどうか。
政府の言明によれば、例によって例のごとく、
アメリカの善意を信頼して、
事前協議の対象にすら取り入れる取りきめさえせず、
日本本土を
CB兵器に対して野放しにしたということは何たる失敗でありましょうか。
政府は、歴代自民党
政府の重大なる失敗に対して、
国民に対して深く謝罪すべきであると思いますが、いかがでありましょうか。(
拍手)
次に、われわれは
日本に
CB兵器が配置されているのではないかという疑惑を払いのけることができないのであります。一体、
日本国内にこれら
兵器の
研究、
製造、配置が行なわれているかどうか、これまでに確めてみたことがあったかどうか、今回の
事件であわてて
アメリカに照会してみたのではなかったのか。報道されておりますとおり、相模原にある四百六
細菌部隊という
アメリカの
部隊は、すでに
生物兵器の基礎
研究を行なっていることは著明な事実であります。
外務大臣の御
答弁によりましても、同
部隊が
生物学的
研究を行なっていることを否定できなかったのであります。このような
部隊の存在と活動をなぜ点検することなく放置せられておるのでありましょうか。
一九六九年五月号、米雑誌ランパーツによれば、
わが国にもガス
兵器が配備されていることを述べております。われわれとしては、むしろこれが常識ではないかと思うのであります。しかし、
米軍当局の言明によれば、
日本国内には貯蔵されていないとのことでありますが、
政府は天真らんまんにも、一方的な話をそのままうのみにしようとされるのでありましょうか。早急に査察をし、そしてその事実に基づいて
撤去を
要請すべきでありますが、
政府は、これを実施される勇気があるかどうか。再び
アメリカは信頼すべきであるというような弁明で糊塗せられようとされているのか、明らかにしていただきたいのであります。(
拍手)
国民の生命、
国民の財産の保護の任に当たることは
政府の最大の責任であります。今日のような投げやり的な、放任的な
態度であっていいものであろうかどうか。私は、
岐阜におけるミサイルの落下紛失
事件に対する
態度といい、
政府はその責任の重大さを、いまやしみじみと自覚せらるべきであろうと思うのであります。岩国基地所属の米F4Bファントムが、
岐阜上空においてスパロー3型ミサイルを落っことしてしまったことにつき、
政府はどう
考えておられるでありましょうか。平時都市
上空の武装機通過を
禁止するのを最低
米軍に対して要求するのが当然であろうかと思うのでありますが、どうお
考えでありましょうか。(
拍手)
次に、
総理は
CB兵器は極東の安全を維持する上で必要だと思われるかどうか、抑止
兵器として有用であるとお
考えになっているかどうか、重ねてお
伺いしたいのであります。と申しますのは、参議院本
会議の
答弁におきまして、極東の安全を
考えながら
CB兵器の
撤去要請を
考えるというような意味合いの御
答弁をなさいまして、私
たちは、極東の安全を
考える以上、早急の
撤去を
考えるというふうに
総理がおっしゃったのではないかと疑っておるのであります。この点、
細菌戦争、
毒ガス戦争をもって敵を倒さんとすれば、報復としてわが愛すべき本土を病菌と
毒ガスの荒れ狂う阿鼻叫喚のちまたにすることを覚悟しなければならないのであり、それは民族の絶滅を意味するのであります。まさに、
CB兵器は
核兵器以上の人類みな殺しの
兵器であることを深く認識すべきでありましょう。そうして、これはジェノサイドを
禁止した国際
条約違反の
兵器であると思うのであります。よもや
アメリカの
化学兵器と
細菌兵器の
抑止力のかさの下に
日本政府は安全を維持するなどとは言わないとは思いますが、念のため
政府の所見を重ねて
伺いたいと存じます。(
拍手)
次に、一九六八年八月二十五日付ニューヨーク・タイムズによれば、現在十五カ国が何らかの形でBC
兵器の
開発研究を行なっていると言われております。
アメリカ、ソ連、イギリス、カナダ、中国、台湾、フランス、西ドイツ、ポーランド、スウェーデン、スペイン、エジプト、キューバ、イスラエルであります。
政府はこれらの国に対して
研究開発、貯蔵を中止し、あわせて
CB兵器の
禁止条約の作成について呼びかける決意はないかどうか。もし、
政府が、このBC
兵器をおそろしいみな殺し無差別の
兵器であり、非
人道的
兵器であることを認識されるならば、直ちに
軍縮委員会のみに依存せず、みずからのイニシアチブによってこの
兵器の
禁止を全世界に向かって呼びかけるべきであると思いますが、この点はいかがでありましょうか。(
拍手)
また、
沖繩県民を代表し、屋良琉球
政府主席は、このニュースに接して、
沖繩は世界最悪の基地だと、悲痛な訴えをいたしました。
政府はまたしても
CB兵器で
沖繩を見殺しにしようとしたとの非難に、
政府はどう答えるのでありましょうか。
アメリカ当局は、きのう、ごうごうたる世界世論の反撃をかわすためか、
沖繩における
GBガス兵器の
撤去を行なうと言明しました。しかし、依然として、いつ
撤去されるかという日時も
方法も明確ではありません。これに対して十分なる確約を取りつけるべきであると思いますが、
政府の御見解を承りたい。
その上、
米政府は、この
毒ガス兵器の展開はケネディ時代のものであり、現ニクソン政権は
関係がないと弁明をされ、かつ、
GBガス兵器というものは、VX
神経ガスの十分の一くらいしか能力のない弱いガスであり、それを
撤去するのだと弁明されました。公明党は、
沖繩、本土からのガス
兵器の
撤去について、米当局の決断を高く評価するのでありますが、依然として重大なる疑惑を払いのけることはできない。それは、まず
生物兵器については一言も触れていないことであります。
日本や
沖繩に
生物兵器はあるのかないのか、
伺いたいのであります。
また、
GB兵器のみの
撤去では全く安心できないということであります。一九六五年三月、南
ベトナムにいたAP記者ピーター・アーネットは、
アメリカ軍が
毒ガス戦を試みている事実をスクープし、米当局はこれを認めました。そして、その際米当局は、
使用ガスは非致死性であり、DM、すなわちアダムサイト、
CN、すなわち
クロルアセトフェノン、CS、すなわちクロルベンジルマロノニトリルであることを明らかにいたしました。ところが、この非致死性とは名ばかりでありまして、DMは砒素、塩素系の化合物であり、一立方メートルの中に三十グラムありますと人間の半数を殺すといわれております。
CNのほうは一立方メートルの中に十一グラムの濃度がありますと、人間の半分が死ぬ。CSは一立方メートルの中にたった二十ミリグラムをこえると窒息死するという
報告もあります。いずれも、
米軍でさえも、相手に死者が出てもかまわないという
状況によってのみ
使用することと、
注意しているのでありまして、このような
兵器を、非致死性という名前のもとに
沖繩及び
日本に容認することは断固許されないことであります。これらの
兵器があるかないか。
政府はその重大な疑惑に対してどう対処されるのか。
また、BZという無能力ガスは、すでに南
ベトナムにおいて
使用されているという事実が報道されております。また、第一次大戦において
使用されたイペリットという悪名高いびらん性ガスは、H3という名前で米
陸軍の正式
兵器であり、これもまた非
致死性ガスであります。これらのガス
兵器は、ことごとく人間生命の存在を遮断する悪魔の
兵器であります。それを非致死性というような名前によるごまかしに乗って、
米側の弁明をまるのみにするというのは非科学的、非論理的、非理性的、そして対米隷属的というしかないのであり、私は深い怒りを表明せざるを得ないのであります。
ジュネーブ議定書において
禁止されているのは、非致死性とか致死性とか、そういったことばを問わず、
化学兵器、
細菌兵器はすべてであることを知らなければならないのであります。
ジュネーブ議定書の精神を重んずるならば、なぜこのような非
致死性ガスについてはよいというような
米政府側の詭弁に同調されるか、私は、強い不満を持って御
質問したいのであります。
次は、
日本本土及び
アメリカにおいては、
国際法上において、
CB兵器の存在を認めることはできない
国際法上の義務を負っているということを指摘したいと存じます。
それは、一九〇七年のいわゆるヘーグ
条約「陸戦ノ法規慣例二関スル
条約」第二節「陸戦」の前文には次のように書かれております。すなわち「一層完備シタル戦争法規ニ関スル法典ノ制定セラルルニ至ル迄ハ、
締約国ハ、其ノ採用シタル条規ニ合マレサル場合ニ於テモ、人民及交戦者カ依然文明国ノ間ニ存在スル慣習、
人道ノ法則及公共良心ノ要求ヨリ生スル
国際法ノ
原則ノ保護及支配ノ下ニ立ツコトヲ確認スルヲ以テ適当ト認ム。」ここには回りくどい言い方ではありますけれども、常時使われなかった
兵器、やがてあらわれる一そう残虐な
兵器に関しては、
人道の法則に基づいて、良心の欲求に基づいて、
国際法の慣例に従うことを明らかにしているのであります。したがって、
毒ガスを主体とする
化学兵器、
生物兵器、
核兵器の三つは、人類の良心の上に立って徹底的に
禁止せられるべきものであります。(
拍手)ヘーグ
条約に加盟した
わが国において、これら
CB兵器の全面
撤去の義務を負うことは
国際法上も明らかであります。したがって、
日本政府及び
アメリカ政府は、
沖繩に
GBガス兵器を置いていたということが世界人類に対する重大なる背信行為をおかしているということを認識しなければならないのであります。
沖繩に潜在主権を保持しているわが
日本の
国民は、施政権がないから
アメリカに抗議ができないというような、そのような妙な弁解をするのではなく、
アメリカ政府に対して、
日本国民は
国際法の立場により、悪魔に対するがごとく、ごう然と抗議してしかるべきものであります。(
拍手)ところが
日本政府は、
アメリカに対して一回もまともに抗議することは、どうやらなかったようであります。調査あるいは問い合わせ、あるいは哀願というようなものはあったようでありますけれども、そのような正式な抗議は行なわなかったとは何たる醜態でありましょうか。
政府の重大な責任というものであります。
なぜ
アメリカにまともに抗議ができないのか。なぜ
沖繩の県民をこのような危険にさらしていたのか。なぜ
国際法に違反する
アメリカのガス
兵器に対して、主権国家であるわが
日本がき然たる
要請をしないのか。私は
日本政府のかねてより続いておるその対米隷属の姿勢に対して、
日本国民の名において深く反省を求め、私の
質問といたすものであります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕