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参考人(官村
攝三君) どういうことを申し上げていいのかあまりはっきりしないのでありますが、おそらく最近私が学会で発表しました件について、新潟の小千谷付近で
地震があるのではないかという記事が新聞に出ましたので、そのことに関して御関心があってお呼びいただいたと思いますので、これに関連して
発言したいと思います。
新聞に出ておりますことは、
内容はよくお読みいただければほぼ正しい、別に間違っていることが出ておりません。ただ、ある新聞の見出しなどに「東大
地震研が初の予知」ということばが出ておりましたけれども、これはまだ予知というようなものではないこと、もう
一つは、「
地震研が」ということが出ておりましたが、大学の研究所は主として何ごとかをきめて出すということは一応やらないたてまえになっておりますので、それは研究者としての学術上の
意見が発表されたものである、というふうに考えていただきたいと思います。
さて問題の件でありますが、これは一般に
地震と申しましても、関東
地震とか南海
地震のような特大の
地震というものがまず日本の場合ございますが、これは太平洋側のほうにございまして、日本の内帯のほうには起こらないのでございます。それからその次の大
地震というものは、これは日本の内帯にときどき起きており、新潟
地震、えびの
地震というふうなたぐいのものでございます。それでその次に中
地震あるいは小
地震どまりの
地震活動というものがございます。このたぐいのものの一種類が現在問題になっておる活動褶曲というものに伴う
地震ということになります。
活動褶曲というのは、褶曲というのはしわということでございまして、地層のしわのようなものが東北、日本の内帯
——青森県から長野県に至るところに百万年ぐらいの前からたまっておる第三紀層という地層がございます。石油などが取れる地層でございますが、これが百万年ぐらい前からしわのようになって所々に積もっておるわけです。そのしわのよった運動というものが、現在国土地理院などが水準測量という地面の上がり下がりをはかる測量があります。その水準点の標石がこの褶曲構造の軸を横切っているような部分、たとえば米代川の下流あるいは新潟県の長岡付近、小千谷付近というような所で国土地理院の測量の結果を見ますと、このしわの運動が現在も動いておる。年間ごくわずか何ミリかでありますが動いて、このしわがだんだんひどくなるということになっておるということは、これは
昭和十四年ごろからわかっておりまして、しかし、その状況が十分さらに詳しくわかるために
地震研究所は所々にさらにこまかく水準点をきめまして、頻繁に測量を繰り返すということを考えてやってまいりました。しかし、いろいろ研究費の都合その他であまりそうひんぱんにはやらないし、運動もそれほど激しくないので、数年ないし十年くらいの間に一回半くらいということでやってきたわけです。
ところが、それで小千谷付近の場合には、十年くらい前に特別の石を入れまして、そうして昨年再びこれをはかってみたわけでありますが、その十年間に初めに十三個ばかり石を入れておいたのですが、九個ばかりはいろいろな事故や何かでだめになりまして道路のわきにあるもんですから、破損しましたので、わずかに四個ばかりが残っておったわけで、それの変動ですから、小千谷付近でもって年に土地の傾きが百万分の一ぐらいの割合で最近の十年間に進行しておったということがわかったわけです。この変動は、こういう活動褶曲という運動のあるいろいろな場所、米代川とかその他の場所の運動の中でもかなり大きい量である、こういうことがわかりました。一方、長岡の西のほうにはやはり同じような構造がずっと続いているわけでありますが、ここでは一九六一、二年に長岡
地震と称する局地的な小さい
地震がありまして、多少の
被害があったわけであります。それから先ほど申しました秋田県の米代川下流においても、やはりこういう構造のあるところで一九五五年に二ツ井というところで二ツ井
地震というものがございまして、これもやはり局地的
被害がございました。そうしてその運動はその水準測量による活動褶曲の進行ときわめて密接な
関係があるということがわかっております。したがって、小千谷の付近においてもやはり同様なことが期待されるわけであります。ただし、
地震と地面の変形ということは必ずしも直接的に結びつくものではない。土地土地のくせのようなものがございますし、そうしてこの変形がある
程度進んだところがあまり大きくない
地震であって、それが解消していわゆるそういうようなかっこうで進行していけば、あまり大きい
地震にはならないわけでありますし、それから小さい
地震が非常に起こらないでその変形がずっと進行して、そうしてときどき破壊されるということになりますと、やや大きい
地震が起こるということになるわけです。小千谷付近の
地震の状況は、一九〇二年、明治三十三年にちょっとした
地震が、長岡
地震程度だと思いますが、マグニチュード五・八という
程度のものが明治五年にあったということがわかっております。あとはそれほどの大きさの
地震はございませんで、すでに数十年たっております。ただ、人体に感じる
程度の
地震となりますと、気象庁の発表でも一九五一年、
昭和二十六年に
一つ小千谷付近というのが
報告されておりますが、マグニチュードどの
程度であるかは発表されておりません。おそらくもちろん五よりは小さいものであるはずでありますが、しかし、この
程度の
地震が小千谷付近におきましてどのように起こってきたかということは、十分まだ研究されておりません。それから現在もどの
程度そういうものが起こっておるかということは、これから調べないとわからない。気象庁の観測網は、残念ながら新潟の測候所はたいへん振動の激しいところにあって、
地震計の倍率があげられません。あの付近では高田測候所が近くでありますが、ごく浅い小さい
地震の探知にはまだ不十分のような状態であります。すでに
地震研究所でも
地震予知計画の一環として、柏崎に本年
一つ観測所をつくることができました。そういうようなものでもってこれから十分あすこの
地震活動を調べていきますと、この変形の進行を今後もはかっていって、その進行がどういうふうであるかということと、例の
地震でなしくずしになっているかいないかということを調べるということで、あすこに
地震が起こり得るかどうかということが、これから監視する必要があるという変形の最悪の場合、
地震が全然いままで一九〇二年以来なくて、数十年経っていって、そうしてあまり大きい
地震がなくて、そうしてあの
程度の進行がしかもずっと一様に続いていたとすれば、つまり最悪の条件を考えると、数年以内に小さい
地震が、明治三十五年
程度の
地震が起こる準備ができているのではないかと思ったわけです。ただし、いろいろの条件がございますが、つまり変形の進行がずっと一様であるかどうかということも監視していかなければいけない。それから
地震活動もどういうふうであるかということも監視していかなければいけない、こういう要注意地域であるということを発表したわけです。
ここに注意しなければいけないことは、ここの研究は数十年前から始まっているわけですけれども、これと類似のところは南のほうで十日町の付近に至るまでずっと長岡の辺から続いているわけでありますから、他のところは十分調べているわけでありませんので、小千谷だけを調べたので、こういう状態であるということがわかったということを申し上げているので、調べてないほかのところのことはわからないわけです。ただし、
地震活動の
調査のようなものは過去の記録をもう少し調べるとか、あるいは今後調べるというようなことで他の地域のこともわかるし、それから地形、地質などの
調査は他の地域についても調べることができると思います。ただ地形の変動をはかるという水準測量その他となりますと、こういうネットをかぶせて監視の測量をしなければなりませんので、そうすべてのところをやるというわけにはいかないのではないかと思います。しかし、必要とあればやらなければならないとは思いますが、現在、まあここはこういうようなこの種の
地震は小規模の
地震でありまして、しかも浅い小規模の
地震でありますから、監視のネットは比較的小規模で済むので、すでに研究所としては
一つのこの種類の
地震の予知に対する非常にいい何というか、重要な研究地域である、こういうふうに考えて注目してやってきているわけであります。しかし、もちろんその間こういうような情報が得られましたので、地域のほうにはやはり最悪の場合を考えて御注意をいただいたほうがいい、こういう
意味で新聞記者にもお話したわけであります。
先ほど申しましたように、ここに起こり得る
地震というのは、まあ幾ら大きくてもマグニチュード六をこえることはないという
程度の
地震でございますから、そういう
地震は東京付近などでありますと、ときどきあるのでありますが、しかしこれは深いところで起こりましたために
被害がほとんどないのであります。しかし、新潟の奥の活動褶曲に
関係した場合は二キロとか五キロとかいう浅いところで起こりますので、ごく限られた範囲ではありますが、
被害が起こるというので注意はしなければならない。特に新潟
地震のような大
地震と違って、広い範囲に
被害があるわけではないのでありますが、震源地が相当浅いのです。ただし、その
地震の性質は非常に短期間に終わります。しかし震動は激しい速い震動であります。それから上下動を当然震源地のそばですから伴うのです。そういうようなことを注意して要心が必要であるということになるわけです。対震防災に関しては私専門でございませんので、そういったほうについては、また専門の方にも研究を聞かしていただく必要があるかと思います。
それからもう
一つちょっと調べてわかっていることは、この種の
地震は
一つ二つ同じ
程度のものが組みになって起こるということは、ときどきあります。松代のように点々とたくさん群がって起こるというような種類ではないだろうと思います。
それから、この新聞の発表のあったすぐあとで、十四日の夜中に小さい
地震があって、たいへん土地の方は驚いたというお話でございましたが、気象庁に問い合わせましたところ、この
地震は飯山の南方の発哺温泉の近所の
地震でありました。私の現在申し上げてる小千谷付近の褶曲活動の
地震とは別物であったようであります。新潟県南部にはこういったような局地
地震の起こるところが、いろいろところどころにあるということの
一つの例であります。
それから、こういう
地震についての観測体制は、先ほど申しましたように、必ずしも十分ではございませんが、それを補なうためには、こういう浅い
地震については住民の方々の御協力によって、人体に感じる感じないというような
調査を、これから広くやりたいと思います。で、そういう人体に感じるような
地震でも、気象庁の観測所では、現在一、二点でとれる
程度の、ということがこういう
地震の場合多いわけです。そうでありますと十分震源がきめられないということになりますので、むしろ人体感覚の
調査は、非常に住民の御協力を得て、正確にできますと、相当現状においてこういう
地震の状況が調べられるわけです。これは何も新潟だけのことじゃない、全国的なことでありますが、新潟の問題について特に必要なものです。で、新潟
地震のような種類の
地震は、そういう浅いところであの辺に起こるということはないと考えております。
大体申し上げたいことは、ちょっと言い残したことあるかもしれませんけれども、こんなところでございますので、あとは
質問……、新聞記事にも書いてありましたように、変形の監視には上下運動ばかりでなくことしからは光波測量、光の波の測量による長さの伸び縮み、水平の伸び縮みの変動などもはかりたいと思っております。