○志場説明員 森脇文庫の脱税
事件に
関連しまして、通常の脱税
事件でございますと、御承知のとおり、国税局の査察官が
調べまして検察陣に告発をし、それによって
検察庁が
起訴をしていくという事実上のルールで動いておるわけであります。ところが、森脇文庫につきましては、すでに御承知のような巨額な脱税でありながら、一体それまで査察もやらず、また、税務署の
段階におきましても申告をうのみと申しますか、よく
調べていなかったじゃないか、どうしたのだということでございまして、その点、私どもも非常に遺憾に思っておるわけでございます。森脇氏につきましては、昭和二十三年ごろでございましたが、すでに一度同じ貸し金業につきまして、脱税容疑で査察を行なっているわけであります。しかも、その税金が、億をこすような税金が、なお十分に完全に徴収されておりません。さような、いわば問題人でありまするので、当然これに対しまして、税務当局としては十分な課税
調査、あるいは査察立件ということを行なうべきであったじゃないかという御批判は、まことにごもっともであろうと存ずるのであります。いろいろとその後国税庁におきましても、
反省、検討をするために、事実を詳細に
調べておりました。そうしますと、いろいろ理由もございますが、数年前におきまして、ほかの刑事
事件によって森脇文庫の
証拠書類等が
検察庁に押収されたというようなことで、帳簿書類等について
調べることが不可能であったというような事情も確かにあったようであります。ですけれども、それがいつまでも続いているわけではなくて、かりにその後にいろいろ注意しておれば、ある程度の
調査のめどというものも、糸口もつかめたじゃないかということも確かに
考えられるのであります。たまたま、きのう国税庁におきましては、この
事件を
反省をいたしました結果、一体どういうところにこの欠陥があったか、これをどういうような方向で除いていけば将来よろしいかということの現
段階における取りまとめをいたしまして、今日の
新聞にも若干載っておるようでございます。結局いろいろと見てまいりますと、先ほど
横山先生のおっしゃいました、勇気がないとか、度胸が足らないとかいうようなことに、必ずしも結びつかないと申しましょうか、限られた人数で
調査いたします場合に、また税務行政は、脱税
事件を私どもが査察でやっておりましても、通常十中八、九、九十何%というものはおそらくそうなのでございますけれども、やはり納税者の方の税務行政に対する理解と協力ということの期待の上に立ちまして行政が行なわれている面が多いわけであります。その場合に、
本件について見てみますると、この利息収入につきましては、ほかの貸し金業がいろいろとございますけれども、それと比較してみましても、結果的には確かに赤字の申告ということになっておりまするが、利息収入の面から申しますと、資本金四百万円の会社だということは、これは資本金は名目でございまして、実質をあらわすものではないと存じまするけれども、ほかの数千万円の貸し金業としての会社、数億円の資本金の貸し金業者としての会社などの利息収入というものなどから見ますると、森脇文庫につきましては、同業者間の比較検討というところから
考えまして、それほど極端に、一見でたらめでとんでもないというようなことに思わなかったろうということにもなっておるのであります。
それからなお、本人のところへ、もちろんほかの家族
関係者等の名義による不動産の取得というようなことも資料としてございまするし、いろいろと
調査に当たっておったのであります。ですけれども、先ほど申し上げました税務行政におきまして非常に私どもがお願いしたい、また必要不可欠と
考えておりますところの協力という面になりますると、全然これは得られておりません。というようなことで、かたがた税務署としましては日常多くの数をかかえまして忙しく仕事に追われるというところから、ついつい税務署では手に負えなくて国税局のほうに連絡をしたものであったというようなことにつきまして、これはやっぱり
一つの局署の管理体制の問題といたしまして、今後こういうことがあってはならないという
意味で上がってきた問題でございます。
一方、査察のほうにおきまして、これは単に任意の
調査では課税標準の
調査ができないから、国税反則取締法に基づきますところの強制
捜査を行なうというわけにはまいりません。やはり捜索令状をもらいますためには、査察官といたしましては令状をもらえるだけの具体的
証拠をそろえまして
裁判官の令状が初めて得られるわけでございます。森脇につきましても、法の課税面がさようなことでございまするけれども、決してこれは注意をしていなかったわけではございません。もっとも査察立件をしない
段階における査察官の権限というものは、すでに御承知と思いますけれども、間接強制を伴った実地検査権もないわけでございまして、全くの任意の検査権しかございませんが、それにいたしましても、種々の観点から苦心をいたしまして、たとえば預金につきましても、これはもちろんすべて架空名義等でございまするので、はっきりと森脇氏個人ないし森脇文庫の名称によるところの預金はないわけでありますけれども、いろいろな観点からしておそらく森脇文庫なり、少なくとも森脇
関係の預金ではなかろうかといったような架空名義も、かなりの額をつかんでおったことは事実であります。ですけれども、先ほど冒頭申しましたように、申告面におきまして利息収入がかなりの額を計上しているのであります。そういたしますると、やはり金を回転しながら貸していくわけでございますから、ある時期におきましては相当の額の預金というものがある。またそれに、それは架空名義を使うかもしれませんが、さようなことの金が、事業
資金の回転の途上におきまして、これは単に所得の純然たる蓄積という
意味ではなくて、回転途上におきまして預金がある期間ある金融機関に滞留するということもあり得るわけでございます。さようなことからいたしまして、私どものほうが査察のほうで極力把握をして、これは本人のものらしいと推定した金額によりましては直ちにこの査察立件をいたしまして、本人に脱税容疑ありという確証を持って
裁判官に令状を請求するというまでの
段階に至っておらなかったことは事実でございます。
さようなわけで、いろいろとそれぞれの言い分なり
立場もございますが、それぞれの
立場におきましては、現在の
段階におきましてできるだけの配慮は払っておったつもりでございますけれども、いかんせん、結果におきましてかようなことになりましたことは、私ども非常に
反省をいたししまして、申しわけないと思っておる次第でございます。したがいまして、今後におきましては、かようなことのないように、いろいろと時間をかけてじっくりと、それにこだわらず、継続的にあるマークすべきものをマークしていくという態勢をがっちりととりたいと思っておる次第でございます。
なお、
本件につきまして先ほど
刑事局長からお話がございましたように、本税額のみだけで申しましても約四十億円近い額が課税されておるのであります。これは、
検察庁がほかの先ほど申し述べられました詐欺あるいは私文書偽造、同行使あるいは恐喝といったようなこと等の
捜査の過程におきまして、脱税容疑も把握されまして、そのころから私どもとの接触につきましては十分に密にしておったつもりでございます。と申しますのは、ただいま御指摘のとおり、せっかく課税をいたしましても、これが実際に徴収にならないことには何にもならぬのでございます。ましてやこの貸し金業という性質からいたしまして、やはり課税額を完全に徴収をするということが、本人に対する打撃という点から申しましても最も大事なことでございます。さようなわけで、私どものほうとしましては、その課税の面におきまして、一歩おくれをとったということは申しわけない、面目ないことでありますけれども、しかし、いずれこうなった間におきましては完全徴収を目ざすことがわれわれに残された大きな使命であるということから、
検察庁のほうも全く同じことを
考えておられたわけでありまして、非常に密接に連絡をとりまして、
起訴の
段階で連絡を受けますと同時に、税務署といたしましては直ちに決定を行ない、また国税徴収法によりまして繰り上げ徴収の措置を行ないまして、把握されておる財産につきまして差し押えの手続を即日から始めておるわけでございます。ただ、昭和二十三年の脱税がなお滞納されておるままで完全に徴収されていないということは、繰り返しますけれども、われわれのほうが勇気がないとか努力が足らぬというようなこととも必ずしも面が違うことでございまして、つまりこれは、申しますと純然たる法律面での法律闘争でございます。
本件の場合につきましても、いま申しましたように、本人の預金ということで課税しておりまするが、その預金はほとんど架空名義、他人名義になっておるのでございます。また、不動産等につきましても、どうも先ほど申し上げましたように、本人の名義は使っておらぬようであります。さようにいたしますると、これははたして本人のものでないというようなことで、いろいろと法廷闘争的なことが十分
考えられるわけでございます。私どものほうといたしましては徴収部の全力をあげまして、とりあえず本人のものであるという信念のもとに、徴収上の差し押えを行なっておりますけれども、これが訴訟の
段階におきましていかようになりまするか、こういった純然たる法律上の闘争の問題として予見される次第でございます。しかし、いずれにいたしましても、課税の面におきまして、本人のものという前提のもとに
起訴もされ、課税も行なっておりまするから、私どもはあくまでも実質が本人のものであるという前提のもとに、あらゆる努力を傾けまして、完全徴収のための最大の努力をしてまいりたいというふうに
考えております。