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中村順造君 私は、
日本社会党を代表し、ただいま議題となりました
昭和四十年度
一般会計予算、
特別会計予算及び
政府関係機関予算の三案に対し、反対の
立場を表明し、討論を行なわんとするものであります。
佐藤内閣は、さきに三十九年度補正予算を編成されましたが、これは内閣成立直後でもあり、前池田内閣のあと始末ともいうべきものでありました。今回提出されました四十年度予算三案こそ、
佐藤内閣の真価を問うべき最初の予算として内外の注目を集めたものであります。
政府の予算編成方針によりますと、この予算は、わが国経済の長期にわたる安定成長をはかることを
主張とし、人間尊重の理念に基づき、
国民生活の向上と社会経済の各分野にわたり均衡のとれた社会開発を期することを基本としているといわれております。
私は、まず第一に、深刻なる現下の経済情勢に対し
政府のとらんとする財政経済政策が、はたして長期安定を目ざした姿勢であるかどうかを問題にしたいと存ずるのであります。
政府は、昨年来の経済情勢を軽微な調整過程だと見ており、本年後半からは景気もよくなるというような楽観的
見通しに立っております。経済企画庁をはじめとする官庁エコノミストの間には、マクロ的経済指標のみを見て、
日本経済は好景気だとさえ言っておりますが、これは全く誤った認識と言わざるを得ません。
倍増計画が始められて以来の異常な無計画なる設備拡充競争は、われわれのしばしば警告したように、過大生席力化し、基幹産業は全面的に操業短縮を余儀なくされ、工業生産指数、出荷指数、輸出や在庫の
状況だけから見て、好況かといえば、企業は借金で設備をつくっておりますので、生産は落とせない。だから、製造したものを無理に押し出す。そこで企業間信用は増大して、日銀の調査によれば二十兆円から二十三兆円にのぼるともいわれておるのであります。これは
日本の製造工業製品の一年数九月分のものが中間市場に滞留していることを示したもので、生産過剰の隠れた姿なのであります。輸出の好調が伝えられていますが、その中には出血輸出も少なくなく、金融千段として在庫を国内から海外に移したにすぎぬものもあります。昨年来の記録的な企業倒産は信用限度を越したところから破綻を生じたものでありまして、企業破綻による
商社や銀行の焦げつき債権はばく大な数にのぼり、社会不安にまで発展せんとしつつあるのでありますが、日銀が裏から救済をしてかろうじて恐慌とはならない現状であります。山陽特殊鋼が倒産をいたしましてから明るみに出たように、大企業といえ
ども決算面を粉飾しなければならないという実態から見て、
政府、日銀がいかに株価
対策を請じようとも株価は暴落の一途をたどり、ダウ平均はいまや千百円も危うしという
状況であります。
政府にしてもし冷静にこの情勢を認識いたしますならば、高度成長を安定成長のペースにスローダウンすることなく、成長政策の看板を下ろし、過剰生産力の整理と企業信用の正常化に最大の精力を傾けるべきであります。しかるに、
佐藤内閣は中期経済計画を内閣の基本政策として採用する旨を決定いたしました。この計画は本来、所得倍増計画の行き過ぎを反省し、成長政策の手直しをするのが使命であるはずでありましたが、作成されたのが池田内閣の時代であったため、その内容は依然投資主導型の成長促進計画となっているのであります。池田政策の批判者として政権をとられた
佐藤総理ですから、このような中期経済計画には断固としてつくり直しを命ずべきであるにもかかわらず、
佐藤総理が修正を命じられたのは、この計画をさらに大きくするため弾力的運用云々の字句を加えさしたのであります。このように
佐藤路線は池田路線を踏襲するものだとしますと、
日本経済の前途は膨大なる過剰生産をはらんだままインフレの深みに入ることは必至で、中小企業の没落と農業生産の荒廃、物価の続騰は不可避であるのであります。
次に、本予算の財源を見ますと、大蔵当局は予算編成の前から財源難ということを大きく言ってまいりました。はたして財源雑なのでありましょうか。四十年度は減税前の税の自然増収が四千六百四十七億円、税外収入の増と剰余金の減を調整すると、合計四千八百四十億円が新規財源であります。三十九年度はこれが四千八百九十億円ですから、わずかに減ってはおりますが、四千八、九百億円といえば決して少ない領ではありません。しかるに、財源が苦しいというのは、新規財源のうちから当然増経費に大部分が食われる結果になるのでありますが、しからば何ゆえ当然増経費が年々増大するかといえば、従来、財政当局は自然増収と剰余金は当然あるものと期待をし、ルーズに歳出増加を認めたこと、また次年度以降の財源先食いのようなやり方で安易に経費膨張を認めてきたため、今日のような歳出の硬直化をもたらしたのでありまして、もし真に財源難とするならば、不急の、既定費の整理をすべきであります。
補助金整理については、補助金等合理化
審議会からの答申があり、行財政整理については臨時行政調査会の権威ある答申もあり、その線に沿うた整理を断行すれば相当の財源が浮くはずであるにもかかわらず、
政府はこれに対し全く
熱意を失っておるのであります。さらに、大企業への補助金、資産家への恩恵である租税特別措置を整理廃止することによっても財源はできるのでありますが、これら一切を行なわずして、
政府は低所得と高物価に悩む
国民大衆をねらって、本年一月から消費者米価を値上げをし、医療費を引き上げました。これが人間尊重を説かれる
佐藤内閣の政策であり、その本質であります。さらに
田中大蔵大臣は、四十年度予算のつじつまを合わせるため、さまざまなトリックを使っておられるのであります。すなわち財政法第六条の改正を行ない、剰余金の中から国債償還充当分を五分の一に切り下げることにより、約二百億円を一般財源に回し、住宅金融公庫、住宅公団、農林漁業金融公庫に利子補給をつけることにより、産投出資を一般融資に切りかえ、一般会計から産投会計への繰り入れを三百億円
程度減らしました。このような方法は、当面四十年度の財源調達としては効果はありませんが、反面、後年度における財政負担を増加するものであり、慎重な財政家であれば絶対に採用しない手段であります。私は、四十年度予算は、
田中大蔵大臣の食い逃げ予算であると断ぜざるを得ないのであります。
さらに、四十年度
政府の減税案でありますが、
佐藤総理は
総裁立候補の際、所得税は重い、
国民を富ませるため三千億の減税を行ない、その財源は公債発行でもよいと公約をされ、さらに
総理大臣として、人間尊重の
政府を打ち出されたのであります。しかるに、今回の減税規模は、平年度でも千百十六億円、うち所得税の一般減税は四十年度八百二億円にすぎないのであります。しかも、このうち物価上昇による名目所得に対する増税分を調整するときは、わが党の木村
委員が明らかにされたごとく、実質的減税ともいうべきものはわずかに百九十四億円にすぎないのであります。このほかに消費者米価の値上がり分子五百三十八億円、医療費九・一五%引き上げの四百億円等を計算に入れますと、実に千七百四十四億円の
国民大衆への増税となり、収奪となるのであります。三千億減税も、人間尊重の政策も、全く予算の中には見当たらないのであります。
政府はこのような低所得の勤労
国民に冷酷でありますが、大資本、大資産家の不労所得の課税についてはすこぶる温情を示しておるのであります。今回の税制改正に当り、税制調査会は、利子所得も原則的に総合課税とする案をつくり、利子と配当で平年度五百二十億の増収となる案をつくったのに対しまして、
政府案ではこれと逆に、株式配当も利子と同様に分離課税とするようにすりかえ、増収は四十八億円にすぎないことといたしました。この差額四百七十二億円は大資本家への奉仕となっておるのであります。このような不合理、不公正な税制改悪は従来かつてその例を見ず、
田中大蔵大臣の名はわが国税制史上の一大汚点として長くその名をとどめることでありましょう。
歳出につきましては、詳細な討論をする余裕がないので、社会保障と社会開発の関連だけにとどめますが、従来の
政府は、岸、池田両内閣でも、社会保障の充実と公共投資を予算の二大支柱としてきましたが、
佐藤内閣となってから、社会保障の充実にかわって社会開発ということばを用いたのであります。しかし、具体的にこれといって示されたものもなく、今回の予算の中にも、
佐藤総理の言われる社会開発費はどこにも見当たらないのであります。われわれは、どれだけ
佐藤内閣が社会開発に積極局であるか、将来十分監視するでありましょう。社会開発という場合、社会保障と物価の安定とは、これが前提であり、これがくずれては何の
意味もないことは当然であります。社会開発を推し進めるという名目のもとに、社会保障の前進を怠ったり、これを後退、改悪するというようなことは断じて許せないのであります。しかるに、
佐藤内閣の最初の予算において、すでにその傾向が顕著となっておることははなはだ遺憾であります。たとえば生活
保護基準引き上げについて、毎年二〇%の引き上げが望ましいというのが社会保障
審議会の答申であります。が、かつて二〇%引き上げを見たことは一度もないのでありまして、三十八年度一七%、三十九年度一三%、四十年度においては一二%と次第に下降の傾向をたどっておるのが現状でありまして、しかも、四十年度社会保障費の増加の大半は診療費値上がりの
関係で占められ、給付改善の面では既定計画によるもののほか、実質的な前進はありません。この医療費については、
政府がルールを無視して健保法の改悪を強行せんとしたため、重大な社会問題化したことは周知のとおりであります。
政府は、中央医療協の答申を無視して九・五%の医療費値上げを行ないながら、このため生じる保険諸会計の赤字に対し、
政府管掌健保では三十億円、日雇い健保では三億円、
国民健保では十五億円を追加負担するのみで、残りはことごとく保険料と患者負担の増加を企てておりますが、これに対し
佐藤総理は、一歩後退二歩前進のつもりと言われたが、まさに十歩も二十歩も後退で、このまま強行すれば
日本の医療保険制度は崩壊するおそれさえあるのであります。
政府も
国民大衆の反対の世論に屈しまして、
衆議院段階においてわが党の
協力を求め、健保の赤字
対策は白紙に戻し、社会保険
審議会の答申を待ちまして、国庫負担を大幅に増加することを約束せざるを得ないことになったのであります。
このほか、本予算の欠陥につきましては多くの指摘すべき点がありますが、時間の
関係で省略をいたします。
さらにまた、本
予算委員会を通じまして明らかとなりましたことは、
佐藤内閣の南ベトナム問題に対する無能さ、軟弱、無原則なる
日韓交渉、対中共政策の混迷など
佐藤内閣の外交の失敗、さらには三矢図上研究に関し暴露されました問題として、
佐藤内閣の憲法否認的
態度、自衛隊に対する文民優位性の欠除等、大いに糾弾すべきものが多々あるのでありますが、これもまた時間の
関係で省略をいたします。
要するに、本予算案は決して
国民大衆のための予算ではなく、あくまで一握りの独占資本のための予算であると断定をいたしまして、私の反対討論を終わります。(拍手)