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1965-03-25 第48回国会 衆議院 社会労働委員会 第11号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十年三月二十五日(木曜日)     午前十時二十二分開議  出席委員    委員長 松澤 雄藏君    理事 井村 重雄君 理事 小沢 辰男君    理事 齋藤 邦吉君 理事 八木  昇君    理事 吉村 吉雄君       亀山 孝一君    熊谷 義雄君      小宮山重四郎君    坂村 吉正君       田中 正巳君    竹内 黎一君       地崎宇三郎君    中野 四郎君       橋本龍太郎君    藤本 孝雄君       松山千惠子君    粟山  秀君      山口喜久一郎君    山村新治郎君       亘  四郎君    淡谷 悠藏君       伊藤よし子君    大原  亨君       小林  進君    滝井 義高君       長谷川 保君    松平 忠久君       八木 一男君    山田 耻目君       本島百合子君    谷口善太郎君  出席国務大臣         厚 生 大 臣 神田  博君  出席政府委員         検     事         (刑事局長)  津田  實君         法務事務官         (人権擁護局         長)      鈴木信次郎君         厚生政務次官  徳永 正利君         厚生事務官         (大臣官房長) 梅本 純正君         厚 生 技 官         (公衆衛生局         長)      若松 栄一君         厚生事務官         (薬務局長)  熊崎 正夫君         厚生事務官         (児童家庭局         長)      竹下 精紀君         厚生事務官         (援護局長)  鈴村 信吾君  委員外出席者         専  門  員 安中 忠雄君     ————————————— 三月二十五日  委員長谷川保君辞任につき、その補欠として大  原亨君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  精神衛生法の一部を改正する法律案内閣提出  第八五号)  母子保健法案内閣提出第九六号)  戦傷病者特別援護法の一部を改正する法律案  (内閣提出第六六号)  戦没者等遺族に対する特別弔慰金支給法案  (内閣提出第六七号)  戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正す  る法律案内閣提出第六八号)  厚生関係基本施策に関する件(薬務行政に関  する問題)      ————◇—————
  2. 松澤雄藏

    松澤委員長 これより会議を開きます。  内閣提出精神衛生法の一部を改正する法律案及び母子保健法案の両案を議題といたします。
  3. 松澤雄藏

    松澤委員長 提案理由の説明を聴取いたします。厚生大臣神田博君。
  4. 神田博

    神田国務大臣 ただいま議題となりました精神衛生法の一部を改生する法律案について、その提案理由を御説明申し上げます。  精神衛生施策は、近年とみにその重要性を加えてまいったのでありますが、最近における向精神薬開発等精神医学の格段の発達とも相まって、必ずしも現行精神衛生法は新しい事態に即応し得なくなってまいったのであります。したがいまして、政府といたしましても、精神障害者に関する発生予防から社会復帰までの一貫した施策をその内容とする法改正をかねがね準備中のところ、その機運が熟してまいったため、今回精神衛生法の一部を行なおうとするものであります。  改正の第一点は、都道府県精神衛生センターを設置することができることとした点であります。従前、都道府県等は、精神衛生に関する相談指導等を行なうための施設として、主として保健所精神衛生相談所を併設していたのでありますが、この程度のものでは、とうてい現下の精神衛生施策の進展に即応するものとはいえませんので、今回、これを廃止し、別に新たに都道府県における精神衛生に関する綜合的技術センターたる精神衛生センターを設けて、知識の普及、調査研究を行なうとともに、保健所が行なう精神障害者に関する訪問指導について技術援助を行なおうとするものであります。  改正の第二点は、警察官、検察官等精神障害者に関する申請通報制度整備することにより、精神障害者の実態を把握し、都道府県知事が行なう入院措置に遺漏ならしめるとともに、その医療保護に万全を期することとした点であります。  改正の第三点は新たに緊急の場合における措置入院制度を設けた点であります。精神障害者は、その疾病の特質上、間々自傷他書の著しい症状を呈することがあり、社会公安上及び本人の医療保護のためゆゆしい問題を生じますので、都道府県知事精神衛生鑑定医の診察を経た上で、四十八時間を限り、これを緊急入院させ得ることとしたのであります。  改正の第四点は、向精神薬の著しい開発等精神医学発達により、精神障害程度のいかんによっては必ずしも入院治療を要せず、かえって通院による医療を施すことがきわめて効果的となった事情にかんがみ、精神障害者につき、新たに、その通院に要する医療費の二分の一を公費負担することとした点であります。  改正の第五点は、在宅精神障害者に関する訪問指導体制充実をはかった点であります。そもそも在宅精神障害者の把握とその指導体制整備は、精神衛生施策の展開をはかる上できわめて緊要なことでありまして、第四点の通院医療費公費負担制度の新設と表裏一体の関係にあり、今回の法改正の主要点をなすものであります。この見地から新たに、保健所業務として地域における精神障害者訪問指導等を加え、また、保険所にもっぱら精神衛生に関する相談指導等に当たる職員を配属し、その実をあげることとしたのであります。  改正の第六点は、最近における施設整備状況等にかんがみ、従来認められていた精神障害者私宅監置制度たる保護拘束制度を廃止し、それらの患者はすべて精神病院に収容することとしてその医療保護に遺憾なきを期することとしたのであります。  以上がこの法律案を提出いたしました理由及び改正要点でありますが、何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。  次は、ただいま議題となりました母子保健法案につきまして、その提案理由をご説明申し上げます。  政府は、かねてより児童福祉行政の一環として妊産婦乳幼児保健指導等母子保健対策を講ずることにより、その健康の保持増進につとめてまいったところでありますが、先進諸国に比べて、わが国妊産婦死亡率はいまだに高率にとどまり、また、戦後著しく改善向上を見た乳幼児死亡率、体位、栄養状態等についても、その地域格差が依然として縮小されない等なお努力を要する課題が残されております。  このような状況にかんがみ、今後、母子保健向上に関する対策を強力に推進してまいりますために、健全な児童出生及び育成基盤ともなるべき母性保護のための措置を講ずるとともに、乳幼児が健全な成長を遂げる上で欠くことのできない保健に関する対策充実強化をはかる必要があると考え、この法律案を提出した次第であります。  次に母子保健法案内容について、その概略を御説明申し上げます。  最初に、この法律案におきましては、母子保健に関する原理として、健全な児童出生及び育成基盤ともなるべき母性保護及び尊重並びに心身ともに健全な人として成長していくための条件ともなるべき乳幼児の健康の保持増進がはかられるべきことを、明らかにするとともに、国及び地方公共団体は、母性及び乳幼児保護者とともに、母性及び乳幼児の健康の保持増進につとめるべきことを明確にいたしております。  次に、母子保健向上に関する措置の第一として、母子保健に関する社会一般知識の啓発及び従来児童福祉法において都道府県知事または保健所長事務とされておりました妊産婦乳幼児保健指導健康診査、新生児の訪問指導等につきましては、今回これを市町村長が行なうべき事務とすることにより、母子保健事業が、住民により密着した行政として一そうその効果が期待できるように配意するとともに、いわゆる未熟児に対する訪問指導及び養育医療については、その事業特殊性にかんがみ、都道府県知事または保健所長において行なうようにいたしております。  第二に、妊産婦及び乳幼児に対する栄養の摂取に関し、市町村が必要な援助につとめることを規定いたしております。  第三に、妊娠または出産に支障を及ぼすおそれのある疾病にかかる医療についての妊産婦に対する援助でありますが、これは妊娠中毒症対策を中心とする母体または胎児の保護のために必要な援助につき、都道府県努力すべきことを明らかにしたものであります。  最後に、母子保健施設に関する規定でありますが、これは、従来から、市町村における母子保健事業の拠点として重要な役割りを果たしております母子健康センターについて、市町村がその設置に努力すべきことといたしております。  以上、この法律案提案理由について御説明申し上げたのでありますが、何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。      ————◇—————
  5. 松澤雄藏

    松澤委員長 内閣提出の、戦傷病者特別援護法の一部を改正する法律案戦没者等遺族に対する特別弔慰金支給法案及び戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案の三案を一括議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、これを許します。橋本龍太郎君。
  6. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 今回戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案戦傷病者特別援護法の一部を改正する法律案並び戦没者等遺族に対する特別弔慰金支給法案の三法律案一括審議となりました機会に、厚生大臣並びに事務当局に対しまして幾つかの点について質問をいたしたいと思います。  本年はわが国の歴史始まって以来初めてともいうべき大敗北を喫しました第二次世界大戦終結の年からちょうど満二十周年に当たります。二十年前、市街地は焼け、人々はすっかり力を失い、また荒れ果てた国土にたいへんな問題がありました時期、現在その当時を顧みまして、いまの日本と比べてみますときに、ほんとうに隔世の感なきを得ません。しかしその中で、本来ならば自分たち生活を守ってくれた御主人あるいはお子さん、こうしたたよるべき方を失いまして、その当時の苦しみからいまだに抜け切れない戦没者遺族方々あるいは国のために戦って負傷され、あるいは病に倒れられた戦傷病者方々、こうした方々の不幸をまだ救い得ない部分が残されて戦争つめあとをいまだにとどめておられる御家庭が非常に多いということを私どもは忘れるわけにはまいりません。かつては問題を取り上げることさえ非常にちゅうちょされた時代もありましたにかかわらず、二十年後の現在ではいつの間にかこうした戦争犠牲者方々に対する援護の問題などというものは国民大半の念頭から消え去ってしまい、その感謝の念も消え果てておりますけれども、少なくとも現在の日本の姿からこうした方々の苦労を逆に察し、できるだけの援護をすることはまた国としても当然の責務であると思います。この終戦二十周年の本年、戦争犠牲者方々、特に戦没者遺族及び戦傷病者援護について政府はどのような施策を講じようとしておられるか、この根本的な問題をまず大臣からお答えをいただき、質問を続けたいと思います。
  7. 神田博

    神田国務大臣 お答え申し上げます。  ただいま橋本委員がお述べになりましたように、かの大戦争日本が非常に惨たんたる戦禍を受けて、そして国民の非常な悲しみのうちに終わった戦争でございますが、すでにお述べになりましたように本年で二十年を迎えまして今日ではすでに戦前日本ではないというようなことを言われる声もあるのでございますが、しかしお述べになりましたようにまだ至るところ戦争の惨禍と申しましょうか、つめあとが露呈されていることは私も感じております。そういう意味におきまして、いま終戦後二十年に当たるが、政府戦没者遺族及び戦傷病者援護についてどのような施策考えておるかというようなお尋ねでございましたが、政府といたしましてはいろいろ考えたのでございますが、しかし国の財政にも限度がございますので、第一に、恩給法改正によって恩給の増額に努力しよう、遺族援護法による障害年金遺族年金等の額を本年十月から引き上げたい。第三に、戦没者遺族に対して、あたかも戦後二十年になりますので、特別弔慰金支給いたしたい。第三といたしましては、戦傷病者について援護内容改善をはかるとともに、戦傷病者に対する相談業務等々をいわゆる戦傷病者相談員に委託するようなことができることとして援護改善をはかり、援護行政の一段の努力をいたしてみたい、こういうような考えでございます。
  8. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 ただいま大臣お答えをちょうだいしまして、そのお答えの中から問題点を拾い上げていきたいと思います。  まず最初に、特別弔慰金の問題からお尋ねをいたしたいと思います。  ここしばらく前から御遺族の各位の中からいわゆる祭粢料支給に対する要求が非常に強くなりまして、相当長い期間これが論議せられておったように思います。ところがこれがなかなか実現をされませんままに今日までまいりました。昨年この同じ社会労働委員会において、私もこの問題について当局お尋ねをいたしましたが、当時政府を代表いたしまして砂原政務次官から、従来と非常にニュアンスの変わった非常に前進したお答えをちょうだいいたしまして、関係する者の一人として非常にうれしく思っておったわけですけれども、今回その祭粢料要求というものが特別弔慰金という姿において立法化せられ、この審議に入りましたことについて私どもたいへんうれしく考えております。そこで、この特別弔慰金というものの立法理由をどのようにお考えなのか、この立法理由からお尋ねをいたしたいと思います。
  9. 神田博

    神田国務大臣 特別弔慰金支給法立法理由は一体どういう根拠に基づいておるかということでございますが、かように考えております。  御承知のように、かの大戦におきまして多くの軍人、軍属及び準軍属方々が戦闘その他の公務等のため国に殉ぜられましたが、政府としてはこれらの遺族に対して恩給法及び遺族援護法等による公務扶助料遺族年金弔慰金等支給するほか、できる限り援護措置を講じてきたところでございます。しかるに、終戦後二十年を経た今日、公務扶助料等受給者の中には、死亡によりあるいは成年に達したこと等により受給権を失う者が相次いで生じ、また兄弟姉妹のように当初から弔慰金のみしか支給を受けなかった遺族についても、その大部分昭和三十六年の九月をもってその国債償還が終了する。現在としては、身近な遺族であり戦没者に関して国から何らの給付を受けておらない者が相当数にのぼっておる状況でございます。今日わが国戦前にも例を見なかった繁栄の道をたどりつつあるのを見るにつけましても、思うのは、これらのとうとい犠牲となった戦没者及びその遺族心情でありまして、本年はあたかも終戦二十年にも当たることでもあるので、筆頭遺族と認められて弔慰金を受ける者及びその筆頭遺族死亡している場合あるいは妻が再婚した場合等にあと戦没者の子があるときはその子に対し、あらためて弔慰の誠を披瀝することがこの際時宜に適した措置である、かように考えまして、このような立法措置をとった。こういう次第でございます。
  10. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 いまお答えをいただきました点につきまして、同じ戦没者等の御遺族でありましても、その力があるいは公務扶助料あるいは遺族年金等受給者であります場合、または他の遺族の方がこれらの給付を受けておる場合に対して、こうした場合には特別弔慰金をともに支給しないということを定めておられます。こうした方々に対しても、いま大臣からお答えをいただきました趣旨からまいりますと、当然やはりこの特別弔慰金支給してもよいように考えますが、ともに特別弔慰金支給しないときめられましたその理由お尋ねをいたしたいと思います。
  11. 神田博

    神田国務大臣 ただいまのお尋ねでございますが、この特別弔慰金は、現在の時点において、戦没者及びその遺族心情に思いをいたし、国として弔慰の誠を披瀝するために支給するものであります。現に公務扶助料等支給が行なわれている場合は、それによって国が相応の処置をしておる、こういうような考えのもとで特別弔慰金支給しない、こういうことにいたした次第でございます。
  12. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 私はちょっとこの点、まだ大臣お答えでそのまま納得をいたすわけにはまいりませんが、次に進ませていただきます。  この特別弔慰金というものの支給金額三万円、この三万円という金額が、現在の貨幣価値から見まして、はたして国がこうした方々に対して弔慰を示すに十分な金額であるかどうか。私は非常に軽少に過ぎるような感がいたしますが、これは一応決定をせられたものとして了承するにいたしましても、この三万円というものを記名国債で交付せられる。しかも償還期限は十年となっております。三万円の十年、年三千円。現在の貨幣価値から見て、この金額に比してこの償還期限はあまりに長きに失するような感じがいたしますけれども、その点はいかにお考えになっておられますか。
  13. 神田博

    神田国務大臣 いまお尋ねのございました弔慰金の額が三万円では少ないじゃないかということ、また、しかもこの三万円を記名公債でやって十年間。十年間とすると、一年三千円ということでございます。非常に軽少ではないかということでございますが、これはどうでございましょう。考え方と申しましょうか、弔慰金でございますから、国の財政が許せば、これはできるだけ弔慰の誠を披瀝することが、私はそれに沿った措置考えております。しかし、御承知のように、なかなかこうした受給をされる方も多いのでございます。国債にいたしましても、総額およそ百二十三億円というような数字にも予定されております。それからまた、弔慰金の性質上、一度に、ちょうど二十年だから一度にぱっとしてしまって、そこでお祭りが済んだというようなことであっても——これは考え方でございまするが、十年間細々といいましょうか、とにかくいわゆる政府気持ち国民の総意だ、こう思います。そういう国民のみんなの気持ちを十カ年間、一年で割れば三千円でございますけれども、心にかけた、こういうような気持ちをくんでいただきたい、こういう趣旨です。ですから、一つ財政面でございますけれども一つはもっと心のあったまったような、ぬくまるような、国民気持ちに長くしみ込むようなことにいたしたらば、こういうような気持ち考えた次第でございます。
  14. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 財政面という点は私どももわかるのですが、細々と長く分割することがはたして国民感謝の念を永続させることかどうか、これには私はたいへん疑問があります。これはけっこうでしょう。  そこで、この問題に関連して、一昨年戦没者未亡人に対する特別給付金というものが決定いたしまして、昨年からこれに対する担保貸し付けが行なわれております。この特別弔慰金についても、買い上げ償還あるいは担保貸し付け等を行なう計画を現在お持ちであるかどうか、またお持ちであれば、その計画内容はどのようなものか、この点をお答えいただきたいと思います。
  15. 神田博

    神田国務大臣 お答えいたします。  ただいまお尋ねございましたことも大事なことだと考えておりますが、いまさしあたっては実はそこまでの配慮はしておりません。しかしお述べになりましたような事情もございますし、私どものほうの事務も、来年一ぱいには裁定事務が完了いたしまするので、そういう事務が完了した後におきまして、いまお述べになったようないわゆる親切といいましょうか、そういったあたたかい気持ちをひとつ取り入れていきたい、こういうように考えております。
  16. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 ところがこの特別弔慰金というものの性格から考えまして、あるいはこれによって墓石を建ててやりたい、あるいは祭壇をきれいにしてやりたい、こうした心を持つ方はずいぶん多いと思われます。ところが三万円の記名国債が十年間に分割して支払われた場合、これでは墓石を建てることもできない、あるいは仏壇を新しく飾ってやることもできない。はたしてこの特別弔慰金というものが分割されることがよいかどうか。これについて私は疑問を申し上げましたが、この十年間均等償還ということが変えられないものなら、これは私、当局としては、買い上げ償還なり担保貸し付けなり、この金額が各御遺族によってある程度自由にまとめて使えるような、そうした御配慮も当然していただかなければならないと思います。それについて、この法律が施行された場合において生活保護を受けておられる方が、たとえば、この特別弔慰金をお受けになる。現在の生活保護法規定というのはわりあいきびしい点の多いものであります。もしこの特別弔慰金収入として認定するようなことがありますと、これは非常に問題ともなりますし、またこの特別弔慰金というものを設定いたしました先ほどの大臣の御答弁の御趣旨とも非常に反すると思います。こうしたケースにおいて、この特別弔慰金というものを収入としては認定すべきではないと思いますけれども、この点はどうお考えになりますか、お答えをいただきたいと思います。
  17. 神田博

    神田国務大臣 ただいまの第一の問題でございますが、この特別弔慰金をもってあるいは石碑を建立したいとかあるいは仏壇を買いたい、いろいろ遺族として使途と申しますか、なくなられた方々に対するお気持ちをあらわす点について、まとまってほしいというような配慮をお持ちになることは考えられることでございまして、そういう気持ちは十分尊重していくべきものだ考えております。実は予算折衝におきましても、そういう配意のもとで折衝を続けたわけでございますが、先ほどもお答え申し上げましたように、この段階においては、この一年は裁定事務も多いから、百二十三億にものぼっておるし、これはひとつそういう気持ちであらわそうじゃないか、それからもうすでに石碑もできている方もおありと思います。仏壇を購入した方もおありと思います。いろいろこれは事情があるわけでございますから、明年度以降においては、いま橋本さんのおっしゃったような事情をひとつ考えたい。いわゆる貸し付け制度をひとつ一年実施後に御相談しよう、こういうようなことになっておりまして、私どもその点についてはぜひいま御希望のございましたこと、これは国民の声だと考えておりますから、そういうような措置をひとつとるようにいたしたい、かように考えております。  それから第二の問題でございますが、生活保護を受けておる場合に、いわゆるこの弔慰金収入認定に入るのかどうかということでございますが、これはむろん入らない、これは特別のものであるという考えのもとで、財政当局とも十分相談の上で、あたたかい気持ちでこれは差し上げるのでございますから、一般支給金と違いますから、これは別途いわゆる特別弔慰金だ、こういうふうにお受け取り願いたいと思います。
  18. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 そうしますと、いまの大臣お答えは、特に前半の部分、この特別弔慰金についての担保貸し付けあるいは買い上げ償還等処置は、明年度以降において実施をされるつもりはあるというふうに解釈してよろしゅうございますか。
  19. 神田博

    神田国務大臣 そういう配慮のもとで当初から相談をいたしておりますし、来年度もその決意で財政当局と御相談いたしまして議をまとめたい、こういう強い考え方でございます。
  20. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 ぜひそのとおり実現していただきたいと思います。  ところで、いま続いて戦没者の妻に対する特別給付金を例として引き出したわけですが、ついでにこの点についてもお尋ねをいたしたいと思います。現在この特別給付金支給事務進捗状況、これはどのようになっておりますか、この点、これば局長からでけっこうです、お答え願いたいと思います。
  21. 鈴村信吾

    ○鈴村政府委員 お答えいたします。  ただいまお尋ねのありました特別給付金支給事務進捗状況でございますが、予定件数四十四万件ありますうち、本年の一月末日現在では受付が約三十八万九千、これはパーセントでいきますと八八%余りになっております。裁定件数は三十六万六千七百五十件でありまして、約八三・五%ということになっております。すでに国債を交付しておりますものが三十四万二千ばかりでありまして、これが七八%ということになっております。当初のこの四十四万件のうち、四十万件はぜひ三十九年度末までに処理したいというふうに考えておりましたので、いま申し上げました一月末日現在の数字がそのようでありますから、大体予定どおり進捗しておるというふうに考えております。
  22. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 その事務進捗状況についてはそれでけっこうなんですけれでも、この中で、貸し出しの希望状況がどの程度になっておりますか、この点についてお尋ねをしたいと思います。と申しますのは、私ども遊説その他で各地に出てまいります。そうした場合に、戦没者未亡人方々のお話を伺う機会も非常にしばしばございます。そうした場合によく問題になりますことは、貸し付けを認めるといいながら、現実に貸し付けを希望してもなかなか実現をしない、自分たちが必要に迫られて懸命にたのんでいるにかかわらず、往々にしてその貸し付け希望というものがかなえられないことが多い、そういう不満をよく耳にいたします。たしか昨年鈴村援護局長からこの問題についてちょうだいした答弁では、七月に受付を開始し、八月から貸し出しができるものと考えているのだ、ワクとしては十億円というふうなお答えをいただいていますけれども、現実に昨年中行なわれました貸し出しの総額がどの程度になっているか、この点ちょっとお答えいただきたいと思います。
  23. 鈴村信吾

    ○鈴村政府委員 お答えいたします。  ただいまお尋ねの件でございますが、貸し付けのワクは、本年度は十億円ということになっておりますが、二月末日現在で約七億円の申し込みがなされております。生業資金という性格になりますので、その点で、貸し付けの際の理由とかそういうようなことから、若干貸し付けがおくれたり、停滞する場合もございますが、いままでのところ、二月末日で大体七億円の申し込みがなされておるという状況でございます。それから、四十年度も同じく十億円のワクで貸し付けを行ないたいというふうに考えておる次第であります。  なお、貸し付けと関連いたします買い上げ償還の問題でありますが、これも昭和三十九年度十億円の予算で買い上げをすることにいたしておりまして、やはり二月末日現在で五億六千万円ぐらいの買い上げをすでにいたしております。このほうは、来年度はワクが相当ふえまして、約四十億円の予定で買い上げをいたしたいというふうに考えておる次第であります。
  24. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 いまの答弁でも、おそらく全般の空気というものは察せられると思いますけれども、この戦没者未亡人に限られた特別給付金でさえ、全体の件数のうちで相当多くの買い上げ希望、あるいは生業資金というワクをはめられながらもその範囲内での貸し付け希望というものは、相当数にのぼっておる。この点については、むろん今後も推進をしていただいて、この希望をかなえてあげることのできるように御処置を願いたいと思いますが、同時に、同じようにこの特別弔慰金の問題についても、おそらく国民の意思というものは、個々に分割をして長い間に分けていただくことより、一挙にまとめてこの金額を受け取りたいという方のほうが、私ははるかに多いと思います。その意味からも、大臣から明年度において考えるという御答弁をちょうだいしましたが、貸し付けあるいは買い上げ償還という制度も、この特別弔慰金に対して早急に方針を決定せられて、実行に移せるように、お願いをいたしております。  戦傷病者特別援護法のほうに移りますけれども、今回の改正で新たに戦傷病者相談員を設けることに決定をいたしております。ところが、私は、なぜこれがいままで実現をされなかったかということで非常に不満もありますし、また疑問にも感じております。現在非常に援護法自身も複雑化しておりますし、また、厚生省の所管の援護関係のほかにも、この方々関係のあるものとしていわゆる恩給法関係のものもあります。なかなか一般方々にこれだけ複雑化した法律内容を理解することは、時間的にもまたそのチャンスの上からも困難な場合が往々にしてあります。そうして現在未裁定に終わっておられる未処遇者の方々の中に、こうした制度がもっと早くつくられておれば、何らかの解決策を見出し得た者も私は相当数あるのじゃないか。そうしたものから見ても、当然もっと早くになされていなかったということに対して私はたいへん不満があります。それでも今回この戦傷病者相談員というものが認められたことに対しては、おくればせながらこれはこれで意味のあることだと思いますけれども、これを設定された趣旨はどの点にあるのか、この点をお尋ねしたいと思います。   〔委員長退席、井村委員長代理着席〕
  25. 神田博

    神田国務大臣 お答えを申し上げます。  戦傷病者援護相談員の制度がおくれた、これはもうおっしゃるとおりでございまして、私どももこの点につきましては一言もございません。弁解申し上げません。当初からもっと早くからあったほうが援護のすべてがスムーズにいった、かように考えております。役所関係のいろいろな折衝がございまして、そういった過程でおくれておった、これはもう言いわけにならぬ言いわけでございますが、ほんとうに遺憾に思っております。しかし今回長年、二十年この方こういう仕事をいろいろ処理してまいっておりまして、どうしてもこれは官庁や県や市町村だけではできない、民間の御協力なくしては援護の完璧を期せられない、こういうような事情がすべてにわかってまいりまして、そして今回これを置くというようなことになったわけでございます。たいへんおくれて恐縮に存じますが、今度でき上がるわけでございますから、最後の追い込みと申しましょうか援護の完璧を期したい。人選等におきましても十分意を使いまして、最後の仕上げと申しましょうか完璧を期したい、こういう考えでございます。
  26. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 いま大臣の御答弁をいただきましたとおりに、一日も早く実現ができますようにお願いいたしておきます。  ところが、この戦傷病者特別援護法関係でもう一点実は問題があると思います。現在国鉄の無賃乗車船の取り扱いを受けられる戦傷病者の方の範囲というものは、恩給法規定による傷病恩給受給者にのみ限られておる。これはきわめて不合理であります。むしろ戦傷病者方々の中で、恩給法のワクからはずれておられる方の中に、国からの援護の手あるいはその他の点で恵まれておらない方が相当多数ある。そうした方々がこの無賃乗車船の特権を得ることができなかったことに対して非常に私は遺憾に思いますけれども、今回の改正でこの範囲の拡大が行なわれた。この範囲の拡大がどこまで行なわれたのか、そしてその範囲からなおかつはみ出す方があるのかどうか、この点お答えをちょうだいしたいと思います。
  27. 鈴村信吾

    ○鈴村政府委員 お答えいたします。  お尋ねの件でございますが、ただいまの取り扱いでは恩給法上の給付を受けておられる力のみが無賃乗車船の取り扱いの対象になっておる次第でありますが、これを援護法によります障害年金等の支給を受けておられる方にも拡大しようということでありまして、さらに今回の拡張によりましてもまだその対象にならない方といたしましては、たとえば準軍属で申しますと、現在いわゆる六項症の方までが給付を受けておられますので、いわゆる第一款症以下の方にはやはり無賃乗車船の取り扱いができない。それから軍属の力でまいりますと、いわゆる三款症の方まで給付を受けておられますので四款症以下の力はまだその対象にならないということでありますので、結局そういう方々は依然としてこの取り扱いの範囲外になるわけでございます。
  28. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 昨年もこの点は御質問申し上げたのですけれども、いまの障害年金受給資格あるいは六項症以上あるいは三項症以上、これ自身に私はまだ不満が残っています。しかしこれは昨年にも答弁をいただき、現状はここまででしかたがないということでありましたし、ことしもおそらく同じ援護局長からいただける答弁の範囲としてはそういうことになるのだろうと思いますから、この点はもうこれ以上申し上げません。  同じように、戦争において負傷されあるいは病を現在もなお回復し得ないでおられる方に対して、程度の差こそあれ、不自由を感じられる点においては変わりのない方々に対して、今日まだこうした意味での恩典が与えられないでいるということは、私は非常に残念であります。この国会において、内閣委員会において現在恩給法改正案が提出されておりますけれども、これに伴って戦傷病者戦没者遺族援護法、戦傷病者特別援護法、未帰還者留守家族援護法、これにおいて定められている障害年金、障害一時金、遺族年金遺族給与金、留守家族手当及び療養手当、これらについてどの程度までの改正が行なわれたか、この内容を説明願いたいと思います。援護局長からでけっこうです。
  29. 鈴村信吾

    ○鈴村政府委員 ただいまのお尋ねの点でございますが、今回の遺族援護法等改正は、恩給法改正と大体軌を一にしたものでございます。内容的に申し上げますと、障害年金につきましては、第一項症にかかわる者の額を二九%引き上げまして、第二項症以下につきましては、第一項症との間差を終戦前に適用されておりました間差に改めて算定して、そしてそれぞれの金額を出しておる次第であります。それから障害一時金についても同様の増額を行なっておる次第であります。それから遺族年金につきましては、やはりこれも恩給法と同様な考え方でありますが、現在七万一千円でありますのを九万二千円に増額することにいたしております。それから遺族給与金につきましては、その半額の三万五千五百円を四万六千円にいたし、それから留守家族手当の月額につきましては、やはり従来遺族年金の十二分の一の額であります五千九百十円にいたしておりましたが、これを今度の増額に伴いましてやはり同じ十二分の一の額の七千六百七十円ということにいたしております。なお本改正、特に遺族年金につきましては、直ちに本年の十月から全部引き上げるということではなくて、三カ年にわたりまして逐次引き上げるということにいたしておる次第であります。
  30. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 一時に引き上げができないで分割されて三年間に分けれる。すなわち、七十歳以上の力については昭和四十年十月から全額、六十五歳以上七十歳未満の方については四十年十月から四十一年十二月までは増加額の二分の一、四十二年の一月から全額を引き上げる。六十五歳未満の配偶者、子、不具廃疾の父または母及び孫については四十年の十月分から同年十二月分までは増加額の三分の一、四十一年一月分から同年十二月分までは増加額の二分の一、四十二年一月分から全額引き上げる。六十歳以上六十五歳未満の者については、四十年十月分から四十一年六月分までは増加額の三分の一、同年七月分から同年十二月分までが増加額の二分の一、四十二年一月分から六月分までは増加額の三分の二、同年七月分からようやく全額引き上げる。六十歳未満の者については、四十年十月分から昭和四十二年六月分までは現行のまま据え置き、昭和四十二年七月分からようやく全額引き上げるというふうにきめられておりますけれども、はたしてこれでいいものなのか、私はこれは非常に疑問に思います。現在のわが国の各企業において、いわゆる定年制というものが厳として存在しております。大体において五十五歳が定年、この中で働いて、自分で一定限度までの収入をあげられる方がはたして何人おられるのか、特に六十歳以上の方に対して、その方々収入を得る道が一体幾らあるか、おそらくこうした方々がその生活の相当大きな基礎をこの遺族年金その他に置いておられると思うのですが、上げると言いながら、これだけの期間に分割して上げられて、はたしてこれで改正を行なっただけの効果があがるものかどうか。私はたいへんこれは不満であります。その上、特に男子の場合ならばまだそれでも働き得る要素は多分にあるでしょう。しかし未亡人の方々、特に現在六十歳をこえておられる、あるいは六十歳未満であっても、未亡人の方々生活を維持していく上において、この年金というものは非常に大きな比重を占めておるにかかわらず、せっかくの改正を行ないながらも、これだけ分割されて一時期にそれだけの効果があがらないような改正のしかた、はたしてこれでいいものかどうか、私はたいへん不満なのです。この点について当局としてどのようにお考えになっておられるのか。ただ単に財政的な理由によってのみ、こうした分割が行なわれているのか、あるいは何かほかの理由があって、こういうことになったのか、この点についてのお答えをいただきたいと思います。
  31. 神田博

    神田国務大臣 お答えいたします。  ただいま橋本委員からお尋ねございました、いわゆる扶助料等のベースアップの問題でございますが、いまお話もございましたように、できるだけ上げることが私もけっこうなのじゃないかと思っています。政府としては、物価政策もとっておりますが、しかし、これを受けている附属の方々受給者の内訳を見てまいりますと、生活苦というものが相当深刻なことも承知いたしております。そこでできるだけひとつ上げたいという所存でございましたが、財政当局折衝いたしておりますと、やはり恩給法との関連もございまして、恩給法の上げた率でひとつがまんしてくれぬかというようなことでございました。これは上げるといたしますと、恩給法を度外視して考えていく、もう一ぺん根本にさかのぼって、基礎が低いのだから、ここで基礎を新しく改定してみる、そこでひとつベースアップのことを考えるというようなやり方をすると、いまお尋ねのございましたようなことが考えられると思います。そういう点までにわたって実は御相談をしたのでございますが、時間切れと申しましょうか、恩給法のベースアップ等にやはり関連しまして、同じ率でやってもらわなくちゃ困るというようなことでございまして、これは不本意でございましたが、そういうように妥結したわけでございます。実際問題として、繰り返すようでございますが、初めが低いのでございますから、これはやはりいまお話もあったように、ある程度改めるべきものじゃなかろうかと私は思っております。これはたいへん恐縮でございますが、今後十分また配慮してみたいと思っております。
  32. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 大臣がその間の事情をきわめて正直にお答えくださいまして、これ以上の追及がしにくいのですけれども、いま大臣自身が答弁をされました中にも、これに対して必ずしも当局としても是認をしておられるわけでもない。ただ予算編成の時間的な制約に追われてがまんをしたという御答弁のように聞きました。明年度の予算編成までにはまだだいぶ日数がございます。この間努力を続けられまして、四十一年度の予算編成の際にこの処分を撤廃をしていただくことができれば、影響はきわめて少なくて済む。せいぜい半年間がまんをしていただければ、大半の方がこの値上げの恩典にそのまま浴することができると思います。特にその中で、大臣、よくお聞きをいただきたいと思いますが、特に未亡人の方々に関してはこの制限を一日も早く取り払っていただいて、この改正の恩典が直ちに与えられますように、そうした御努力を願いたいと思いますが、そういう御努力が願えるかどうか、この点についてお答えをいただきたいと思います。
  33. 神田博

    神田国務大臣 もう努力は先ほども申しましたようにこれはやりますが、しかし、実際問題として予算の制約を受けておりますから、なかなかむずかしいのじゃなかろうか。私どもとしてはむしろ来年度以降に期待を持ちましてやってまいりたい、こういう考えでございます。
  34. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 与野党各委員の中から、この問題についてたいへん関心を持たれる方が多いようにここで聞いておりますけれども、この状況で見まして、おそらく自由民主党、社会党、民社、共産、各党勢力をそろえて、この問題に関しては厚生大臣に応援をいたすと思います。全力をあげて御努力を願いたいと思います。この点は特に強く要望をいたしておきます。ところが、終戦後満二十年を迎える今日に至っても、現在まだ未収集の御遺骨がずいぶんたくさんあるように思います。特に旧満州地域を主体として遺骨の収集はほとんど行なわれておらない地域、また象徴的な遺骨を持ち帰り、追悼を行ないながら今後なおかつ多数の御遺骨の収集が行なわれる状況もあると思いますが、今日なお異郷の地に多数の御遺骨がそのままに放置されておるということは、国民すべて残念にも思い、今後ともに当局の熱意ある努力を希望しておると私は考えております。こうした気持ちを持っているのは決して私一人ではないはずであります。昨年この委員会におきまして、たしか河野委員からこの問題についての御質問がありましたときに、厚生省当局からなされた回答というものは非常にその点不誠意なものであった。与党の私どもから考えましても非常に不十分な御答弁をちょうだいしたように思います。そのためにたしか相当議論も長引き、問題が残されたように覚えておりますが、現在の国際情勢から見てこの御遺骨の収集ということが非常に困難だということは十分私たちも承知しております。引き続きこの御遺骨の収集というものに対しては御努力を願いたい。  また大臣が参議院に行かれる時間が迫っておりますようなので続けて申し上げ、お答えをちょうだいいたしておきたいと思いますが、ソ連各地をはじめオーストラリアのカウラあるいは樺太など諸所に点在する旧日本軍将兵あるいはそれに付随して倒れられた一般人の方々の墓地というものがあります。こうした現地にある墓地に対して、できるだけ本国にこの御遺骨というものを送還していただき、日本国内においてその霊を慰めることができればそれにこしたことはありませんが、同時に現地追悼を行なうこともまた重要なことであろうと思います。この問題についても引き続き実現方に御努力をいただきたい。  また、今日なおかつ生死不明のままに未帰還者として扱われておる方々の留守家族に対する処遇について政府としてどのようなお考えをお持ちか。これについてまとめて大臣の御答弁をいただきたいと思います。
  35. 神田博

    神田国務大臣 私から一言答弁させていただきます。  いまお述べになりました未帰還者の調査の問題、それからまた遺骨収集の問題、さらにまた現地における建碑と申しましょうか、慰霊の碑を建てる問題等につきましては、歴代政府もずっと一貫した考え持ちまして誠心誠意やってまいっております。現に今年に入りましても、南方地域の御遺骨の収集あるいはまた最近におきましてはアメリカ当局の好意による小笠原諸島の墓参の問題も具体化しつつございますし、昨年はまた藤山愛一郎さんその他の入ソによりまして、シベリア地区における墓参も今夏相当大幅に許可をされるというようなことでございます。戦後のあと始末としていつも思いに残るのはこのことでございまして、これは国民ひとしくさような考えを持っております。   〔井村委員長代理退席、委員長着席〕 この気持ちを十分あらわしてまいりたい、かような考えを持っておりますので、十分今後も意を用いて、そして国民の期待に沿いたい、かように考えております。詳細なことは政府委員から答弁させていただきたいと思います。
  36. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 いまの大臣お答えに続いて援護局長質問をいたしますけれども、この未帰還者の問題の中で、現在未帰還者として扱われておる力の人数、どの地域においてどの程度あるか、これについてまずお尋ねいたします。
  37. 鈴村信吾

    ○鈴村政府委員 お答えいたします。  いわゆる未帰還者としていま把握されておりますのは六千六百七十七人、これは昨年の十二月一日現在の数字でございます。内訳を申しますとソ連地域が六百四十八人、中共地域が五千百三十七人、北鮮地域が二百五十五人、南方諸地域が六百三十七人、こういうことになっております。
  38. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 未帰還者として扱われておる方々の中で現在生存の確認されておる方、これがどの程度ありますか。
  39. 鈴村信吾

    ○鈴村政府委員 ただいま申し上げました数の中で生存が推定されるというものの数を申し上げますと、ソ連地域六百四十八人のうち三百八十人程度が一応生存と推定されております。それから中共地域の五千百三十七人のうち約二千九百二十人が生存を推定されております。それから同じく北鮮地域の二百五十五人のうち九十人が生存を推定されております。合計六千六百七十七人のうち三千三百九十人が生存推定者ということになっております。
  40. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 私は確認とお尋ねしたのですが、いまちょうだいしたお答えは推定ということです。推定でもけっこうですけれども、その中で帰国を希望されておられる方、それがどの程度ありますか。
  41. 鈴村信吾

    ○鈴村政府委員 ソ連地域三百八十人の推定者のうち約二百人が帰国を希望しております。それから中共地域の二千九百二十人の推定者のうち五百二十人が帰国希望者、それから北鮮地域九十人のうち約十人の帰国希望者となっております。  それから、先ほどのお尋ねで確認されておる者ということに対して私が推定と申し上げましたのは、なかなか確認できる資料が把握されがたい場合が多いわけでありまして、推定はできるけれどもなかなか確認されないというのが実情でありますので、一応推定ということばで申し上げた次第であります。
  42. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 生存が推定されておられる方々の中で帰国希望の方がソ連地域において約三百、中共地域において五百二十、北鮮地域において十名ということでありますけれども、この方々が帰国を希望しながら現在なお日本に帰り得ない。これについてはいろいろな事情がありましょうけれども、その原因の主たるものは何か。そしてまたそうした帰国希望者の方々に対して政府として帰還促進のためにどのような努力をしておられるのか。これについてお答えをいただきたい。
  43. 鈴村信吾

    ○鈴村政府委員 お答えいたします。ただいま申し上げましたソ連地区の二百人の帰国希望者でありますが、これは昨年藤山愛一郎氏がフルシチョフ前首相と会われました際に、いまの二百人の方は、主として樺太地域におられるわけでありますが、希望があれば帰すということをソ連の前首相は言明されまして、現在のコスイギン首相になりましてからも、前フルシチョフ首相の言明は十分尊重するという意向の表明がありまして、その後外務省それから日赤等が現地の樺太の帰国希望者にいろいろ申請書を出すようにということを勧奨いたしまして、逐次申請をしたわけでありますが、それらの方々のうち、すでに先月でありますか、舞鶴経由で一人帰ってこられました。これはいまの藤山・フルシチョフ会談の結果の帰国第一号の方ということになるわけでありますが、すでに一人帰っておられますので、手続の済み次第、あるいは便船のあり次第、逐次こちらに帰ってこられるのではないかというふうに予測しております。なぜこれらの二百人の方々が、帰国希望がありながら、現在まで帰国できなかったかということでありますが、これは主としてこれらの方々がいわゆる朝鮮人の夫を持っておられる方が多いわけであります。したがいまして、自分一人なら比較的早く帰れたわけでありますが、夫である朝鮮人の出国の許可が出ないために、結局夫と別れるのは忍びないということで、いままで向こうにとどまっておられた方が多いようであります。それがこの間帰られた方の例にもありますように、初めて今回、漆山・フルシチョフ会談の成果だと思いますが、夫である朝鮮人の出国も許されまして、こちらに帰ってこられたわけであります。夫である朝鮮人の方も、一応日本で、一年間の期限つきではありますけれども、入国許可が出たわけでありまして、仙台の近くの実家に落ちつかれたということであります。したがいまして、おそらく今後二百人の方が、近い将来において逐次帰ってこられるであろうというふうに予想しておる次第であります。  それから、中共地域でありますが、これは帰国希望があっても、なかなか帰れないケースが従来多かったようでありまして、これは一つには内地との音信不通といいますか、家族の所在がわからないとか、それから帰国の旅費の負担を日本政府でいたすことにしておりまして、日本赤十字社等を通じて援助をいたしておるわけでありますが、中国の広い地域でありますので、なかなかそういう趣旨が伝わらなかった方もあるのではないかというふうに考えられます。あるいは中共政府がなかなか出国許可を出さなかったというふうな事情もありまして、おくれておる方が多いと思いますが、しかし最近、少しずつではありますけれども、帰ってきておられますので、この模様でいきますと、おそらく従来にも増して帰国者数が逐次ふえてくるのではないかと考えております。ただし、お帰りになる方の事情を見ますと、大体現地で夫と別れてこられる方が非常に多いわけであります。大体女の方は、夫と別れて子供を連れてこられる方もありますし、連れないで単身帰られる方もありますが帰ってこられる。そういうふうな、夫と別れるというようなことも、やはり一つの帰国しにくい理由ではないかというふうにも考えられる次第でございます。
  44. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 これに対する努力というものは、今後もなお継続していただかなければなりませんが、それとともに、いまの答弁から逆に出てまいりますことは、戦後三十年という今日になっても、なお生死不明のままに未帰還者として扱われておられる方が非常に多いということであります。今日なおいまだに未帰還者として扱われ、しかもその生存が確認できない。あるいは政府の答弁をそのまま逆用すれば、生存が推定できない方々が多数おられる。しかもむなしくそうした方々の消息がはっきりするのを待っておられる留守家族の方々気持ちというもの、こうした気持ちに対して答えることのできるものは、国の努力というものしかないはずであります。国として最大の努力を尽くしてこの方々の安否を知り、そして帰国を希望される方に対しては、でき得る限りの外交的努力を積み重ねて、その方々の帰国ができるようにし、あるいはお気の毒にも死亡の確認された御家庭に対しては、またそれ相応の処置というものは当然これは国がしなければなりません。こうした問題について、今後とも国として真剣に努力を続けていただきたいと思いますが、その意思があるか、その意思を徳永政務次官から御表明をいただきたいと思います。
  45. 徳永正利

    ○徳永政府委員 お説全く同感でございまして、そのとおりだと思います。政府は今後とも格段の努力を払ってまいらなければならぬと思っております。
  46. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 昨年一月七日の閣議に、おきまして、戦没者各位に対する叙位叙勲の復活というものが決定されました。四月二十五日に第一回、続いてたしか五月三十日と記憶しておりますが、第二回の戦没者叙勲が行なわれました。当時一部にはなお相当むずかしい議論もありましたけれども、御遺族各位の中においては、物質的に不満足ながらも国は援護の手を伸ばしてきてくれたが、戦没された方々に対する精神的な国としての感謝と、また弔意というものが示されなかった過去に対して、この戦没者の叙位叙勲というものが非常に好感を持って迎えられたことは当局もよく御承知のことだと思います。ところが当時、戦没者に対する叙位及び叙勲の事務の終了には五カ年間を要すると予定をされておったようでありますけれども、その後の進捗状況はどのようになっておりますか、この点についてお答えいただきたいと思います。
  47. 徳永正利

    ○徳永政府委員 戦没者の叙位叙勲の対象は、約二百万件と推定しておるのでございますが、本年度から五カ年計画でこれを処理するように進めておる次第でございます。本年度は近く発令する予定とされているものを含めまして、総数約十二万八千名に叙勲の発令が行なわれるわけでございますが、引き続きまして明年度は約三十万件の叙勲と叙位を行なう予定で、さらにその以後におきましても、これの増加をはかる計画で進んでおる次第でございます。
  48. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 これに伴いまして、次官はじめ当局にぜひお考えをいただきたい点があります。援護ということば、このことばが含む意味は、ただ単に国が差し伸べる物質的な支援の手、これのみをさすことでは決してないと私は考えています。過ぐる大戦の最中に、私はまだ幼い子供でしたけれども、その私たちでも、召集されて家族や友人に送られながら入営していかれる方々の姿というものは、いまだに忘れることができずに、心の中に残っておりますけれども、そうした方々が入営する際、あるいはまた外地へ出征していかれる際に、死んだら靖国神社の森で会おうじゃないかと言いかわしながら見送られて出発していかれた光景というものは、当時幼かった私どもにとっても、これはおそらく一生涯忘れられない記憶の一つであろうと思います。当時、国も、なくなられた方々に対しては、護国の英霊として靖国神社に合祀することを約しておる。国民もまたそれを信じておりました。今日戦没された方々の大半はすでに合祀されておりますけれども、種々の状況により、あるいは敗戦の後に戦時中の傷病が原因となって没せられた、そうした方々の中で、当然同じように護国の英霊として靖国神社に祭られるべき方々、そうした方々がいまなお合祀されずにそのままになっておられる力もあるやに聞いております。先日たまたま私は宮崎県に遊説でまいりました。そのときに、ある未亡人の方から、自分の夫が戦後しばらくして戦時中の負傷がもとで死んだが、ほかの戦没者方々がみな護国の英霊として靖国神社に祭られ、最近県下の遺族方々が集団で靖国神社に参拝をなさる。自分の夫はその中には祭られていない。子供ももう間もなく成人式を迎えようとしているけれども、いまだに、なぜ自分の父親だけが同じ戦争のために命を失いながら、他の戦没者方々と同じように祭っていただけないのか納得がいかないでいる。ほかの方と同じようにお参りをしても、最も愛していた自分の夫がこの中には眠っていないと思うと、むしょうにさびしくなる、こうしたお話を私は聞いて帰ってまいりました。一宗教法人となっております現在の靖国神社に対して、国が容喙することの許されぬことは私も存じております。この問題に対して国に発言権のないことも存じておりますけれども、国として戦没された方々に対して示し得るきわめて少ない感謝の心と弔意をあわせて表明する方法の一つとして、こうした問題に対しても、ぜひ私は政府の御考慮をいただきたいと思います。援護というものは決して物質のみではない。遺族各位に対しては、精神的な面の表明もまた非常に大きな慰めとなるのであると私は考えておりますけれども政府としていかがお考えになるか、次官からお答えをいただきたいと思います。
  49. 徳永正利

    ○徳永政府委員 この問題は、御説の中にもございましたように、国家行事を離れた問題でございまして、いま政府がこれにどうこうするというわけにはまいらぬわけでございますが、貴重な御意見として承っておきたいと存じます。
  50. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 以上で私の質問の大要を尽くしましたけれども、この際特に申し添えておきたい点があります。およそ法の運用の妙はその人にあり。古いことばの中にありますけれども、今日まで改正改正を重ねてまいりました援護法におきましても、なお現在において、あるいは立証が困難なために、あるいはたまたま法の定める期間より多少長生きをせられたという理由だけで、当然援護を受けてしかるべき方々の中に、あるいはその他種々の事情によっていまだに未処遇となり、何ら援護の手を差し伸べられないままに泣いておられる方々が全国にはまだ相当残っております。今回もまた改正が行なわれるわけでありますけれども、願わくは法の運用においてその精神を生かして、できるだけそのワクを広げて、未処遇の方の一人でも救うことができますように、あたたかい心での御努力をお願いいたします。  最後に、私は、全国戦没者追悼式についてお尋ねをいたしたいと思います。全国戦没者追悼式もことしで三回を迎えます。本年は特に戦後二十周年でもありますし、国民の心もまた、過ぐる大戦を回顧して、この戦争によって物故せられた方に対してあらためて弔意を示そうとしているように思います。今年においてこの規模をできるだけ広げ、参列される方々もできるだけ範囲を広め、人数も多くして、盛大に行なうべきだと思いますけれども、本年度の計画についてどのような計画をお持ちか、お答えをいただきたいと思います。
  51. 徳永正利

    ○徳永政府委員 本年は終戦二十周年でもございますし、私ども家庭の法要にいたしましても、五年とか、七年とか、十三年とか、いろいろ区切りがあるわけでございますが、二十周年を迎えました今年度は、いま御説がございまましたように、人数もふやし、また盛大な慰霊の追悼式を挙行いたしたいと思っている次第でございます。なお、この問題につきましてはいろいろ御議論もあると思うのでございますが、大方の御意見を拝聴いたしまして、国民的な行事というふうに取り行ないたい、かように考えておる次第でございます。
  52. 小沢辰男

    ○小沢(辰)委員 ちょっと関連して一言お伺いしたいのですが、私は、昭和三十四年の十二月に第一船を出しましてから、昭和三十五年の六月まで朝鮮人の帰還問題を担当しておりましたときに、朝鮮の引き取りにおいでになる代表に、日赤の社長、副社長と一緒に、北朝鮮における生死不明の人名簿、推定名簿を出しまして、早急に調査をしてもらいたいという要望をしたところが、できるだけひとつ努力をいたしましょうということでしたが、その後寡聞にして回答があったということを聞かないのですが、そういうような、先ほど橋本先生が質問をしておられましたが、在外の生死不明あるいはその他の調査について、北朝鮮関係はたしか相当の数があったと思います。その後明確になっておるかどうか、一言だけお伺いしておきたい。
  53. 鈴村信吾

    ○鈴村政府委員 お答えいたします。  ただいまの御質問でございますが、結局北鮮側からはいまだに何の回答もないようでございます。
  54. 小沢辰男

    ○小沢(辰)委員 そこで、ソ連地区もそれに類似した問題があるはずなんでございますが、ただあのときにお願いをしっぱなしになっておるか、その後政府が何回も、あるいは日赤が何回もやっておられるかどうか。われわれがお願いしたのは、いまから見ますともうすでに五年前になる。その後繰り返しお願いをしておるのか。私が日赤の社長と一緒に向こうの代表に手渡した名簿もそのままになっておるのか、その後努力を重ねておるけれども、まだないのか、その点ひとつはっきりしていただきたい。
  55. 鈴村信吾

    ○鈴村政府委員 お答えいたします。  北鮮等につきまして、再三催促をした事実があるように聞いております。しかしいまだに回答がないようであります。それからソビエトにつきましては、去年藤山愛一郎氏がフルシチョフ前首相に会われたときに、約三千人にのぼるソ連地区の行方不明者の調査についてお願いしたところが、それではことしの十月までにもう一度調査した上で回答をするという話でありますので、おそらくことしの十月までに何らかの回答があるのじゃないかというふうに期待をしておる次第であります。
  56. 小沢辰男

    ○小沢(辰)委員 厚生政務次官に要望いたしておきますが、やはりこれは橋本先生がさっきの質問で言われましたように、留守家族の者にとりましては、非常に大事な問題でございます。もうすでに終戦後二十年でございますから、もっと積極的に調査をし、回答をもらうように、 これは人道上、国際法上も当然のことでございますから、一そうの努力を要望いたしまして、関連質問を終わります。
  57. 松澤雄藏

    松澤委員長 政府側に委員長から申し上げます。  国会の答弁に対しては責任を持って、その責任を果たすように御努力を願います。
  58. 橋本龍太郎

    橋本(龍)委員 それこそ世間で、もはや戦後ではないということばが使われ出してから相当長くなります。しかし敗戦二十周年を迎えることしになって、いまだにこうした問題が残され、こうした問題での議論を続けなければならないことは、私は非常に残念に思います。おそらくこの委員会の各位も同じような考えをお持ちだと思いますが、こうした問題の根本的な解決というものは、これ以上延ばすことはできません。一日も早く戦争犠牲者の御遺族が納得のできるような処置を願わなければならないと思いますが、現在の援護法になりましても、まだ軍人、軍属の御遺族に対して不十分な処置しか与えられておらない。動員学徒あるいは徴用工等の方々に対し、改正すべき余地は相当広範に残されておるように思います。その他未歳還者の問題あるいはいまだ海外に放置せられておる御遺骨の問題等、私どもが解決いたさなければならない諸点はいろいろ多数残されております。先ほど次官より御答弁をいただきました全国戦没者慰霊祭、第一回は日比谷で、第二回は靖国神社の大鳥居のものでそれぞれおごそかに挙行せられました。特に昨年靖国神社の大鳥居の前において行なわれました追悼式は、非常に印象深く私の心に刻み込まれたのです。年来私は靖国神社を国家において護持すべきであると考えております。この問題が議論され始めましてからすでに非常に長くなっております。本日それをこの席で繰り返すつもりは私はございません。憲法あるいは宗教法人法の規定をもってこの問題を云々せられる方もございますが、その他にもいろいろの御議論もあるようです。また野党筋の各位においても非常に根強い反対論をお持ちのことも私はよく存じています。しかし、少なくとも第二次世界大戦が終結するまでの間に、国は国民に対して護国の英霊をこの神殿に祭ることを誓ってまいりました。国が国民に対して誓った以上、ことには戦没された方々に対して誓った以上、私は、靖国神社だけは憲法の上での議論としてではなく、国の誠意として責任を持って護持すべきものであるとかたく信じております。  いずれこの問題については、他に議論の場も与えられることと思いますし、これ以上申し上げることはありませんけれども、願わくは本四十年度の全国戦没者追悼式が英霊の眠る靖国神社の森でりっぱに行なわれますよう、なお十分の御検討を行なわれることを強く要望いたしまして、質問を終わります。
  59. 松澤雄藏

    松澤委員長 本会議散会まで休憩いたします。    午前十一時五十八分休憩      ————◇—————    午後二時五十五分開議
  60. 井村重雄

    ○井村委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  厚生関係基本施策に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、これを許します。小林進君。
  61. 小林進

    ○小林委員 厚生大臣お尋ねいたしますが、今朝の新聞には「社員に新薬の人体実験」という見出しで、一つの薬会社がその社員を百八十七名も新薬の実験にこれを使って、十七名も入院をせしめ、ついに一名を死亡せしめたという、こういう民主主義のわが日本には考えられないようなおそろしい事件が報道せられておるのでございまするが、この事実をまず一体大臣はいつお知りなったのか、その点から御質問を始めてまいりたいと思うのであります。
  62. 神田博

    神田国務大臣 お答えいたします。  けさの新聞で私も実は承知した次第でございます。
  63. 小林進

    ○小林委員 大臣がお知りになったのはきょうの新聞で初めてでございますか。ははあ、これは実におそるべきことだ。間違いございませんか。いま一回御答弁を願いたいと思います。
  64. 神田博

    神田国務大臣 これは詳しく申し上げますれば、実は新聞でけさ承知いたしまして、私も驚きまして、さっそく関係者を呼びまして調査いたしました。その調査の結果をひとつ申し上げてみたいと思います。  この事の起こりは一昨年ですね。三十八年の十月、興和株式会社という会社で新薬の治験例を収集する際に、社員に、副作用が少ないというので飲ました、こういうことでございます。ところが、一人死亡して、十七人が入院という事故が発生した。これは三十九年の二月ごろ一部新聞紙上に報道されて、その後会社側と社員側との事故者に対する援護措置について意見の食い違いが生じて、今回の人権擁護局に対する提訴となったものだ、こういうような報告でございます。  御承知のように、新薬の許可申請にあたっては、動物実験であるとか、あるいは臨床実験のデータをつけて厚生省に申請することになっているのであります。臨床データの収集は、大学病院、研究機関で行なったものを資料とすることになっており、医師の厳重な監督のもとに行なわれることになっております。今回の例のごとく社員に服用させるということは、これは不穏当でございますことは言うまでもございません。当時、会社側の責任者を呼び出しまして、今後かかることのないよう厳重注意しておいたという報告でございます。なお、この新薬の許可申請は、会社側はそこで断念しておった、こういうような報告でございます。現行薬事法では、治験段階の薬については、ガン、結核等については届け出をさせることになっているが、その他のものについては何らの法的規制がなく、医師の責任のもとに行なわれている、こういうような状況でございます。  以上お答え申し上げましたが、もし詳細あれでございますれば、政府委員から答弁させます。
  65. 小林進

    ○小林委員 大臣は、いま事務当局が書きましたものをすらすらとお読みになりましたが、私は、そのまとめた御答弁だけで満足するわけにいかぬわけであります。おっしゃるとおり、当時この事件が起こりました初日、昭和三十八年の十月十五日に東京と名古屋——いまおっしゃいました興和株式会社はもろもろの事業をやっているところでございまして、その中には製薬部もあります。名古屋に本社がございまして、東京に薬品部というものがある。その東京と名古屋の両方で十月十六日、十七日、名古屋のほうは一日おくれておりますけれども、社員に薬を飲ませた。その結果事故が起きたんですよ。事故が起きたんですが、三十九年の二月ごろ一部新聞にも報道せられたようだがとおっしゃいますけれども、それはあなたのおっしゃるような一部報道などという軽いものではない。ここに新聞がございます。これはもろもろの新聞の中の日本経済新聞の昭和三十九年三月七日の新聞です。この中の見出しは、「二十六人が肝臓障害、流感特効薬」「動物では異常なし」、五段扱きの見出しの記事です。しかも「社員使って新薬をためす」、これは今日各紙が出している新聞の記事よりももっと大きな記事で、三十九年三月七日に報道せられておる。しかも、「社員使って新薬をためす」などという人間モルモットみたいな記事だ。私は、こういうことは厚生省の厚生行政の中では最も重要な問題として取り扱っていただかなければならないと思います。当時あなたは大臣でいらっしゃいましたか。——昭和三十九年の二月は大臣でいらっしゃいませんでした。けれども、あなたが大臣になられれば、何をおいてもこういうことは、下僚としては——薬務局長、あなたは当時薬務局長でありましたね。あの当時談話が載っているのですから、あなたは逃げるわけにいかない。あなたはもう当時薬務局長であられた。こういう問題をけさの新聞に報道せられるまで大臣の耳に入れておらないなどというところに、ぼくは厚生行政の弛緩があると思うのだ。どうですか大臣、あなたは、監督官としてそれでよろしいと思いますか。業務局長大臣に仕える業務行政の最高責任者として、今度事件が起きて初めて大臣の耳に入れて、それで責任を全うせられたと考えられるのかどうか、お二人に御答弁をお願いいたしたい。
  66. 神田博

    神田国務大臣 実はけさ早朝にこの記事を見まして、がく然としたわけでございます。業務行政が最近とかくの評判と申しましょうか、注目の的になっておる際にこういう記事が出ましたので、私も早朝から督励いたしましてこの真偽を調べたわけでございます。たまたま私は、昨年の七月就任でございますから、その当時の担当ではございませんが、かようなことが私の耳に入っていないということにつきましては、私もまことに汗顔の至りでございまして、どうしてそういうことが入らないかも調べたわけでございますが、事件として解決している、そこでそういうことを申し上げるまでもないということでございまして、決して部下をかばおうとかどうとかいう意思はございませんが、まあまあ済んでおる、だいぶ厚生省も前向きの仕事が多うございますので、過去のことがつい耳に入りそこなった、こういうことじゃなかろうかと思っております。部下が怠慢で入れなかったとは、さらさら私も考ておりません。実はきょう新聞を見て驚きまして、これはどうも容易ならぬことである、かように考えまして、いろいろ各方面から資料も収集する、また善後措置も協議している、こういうかっこうでございます。
  67. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 お答えいたします。  一昨年十月の事故でございまして、先生御指摘のように、昨年三月ごろの新聞は、私が薬務局長になってからのことでございまして、当時報道機関の方々とこの事件についていろいろと意見を交換したこともございます。問題は、いわゆる治験段階といいますか、治験例を収集する段階に起こりました事故でございまして、この治験段階につきましては、医者の責任のもとに治験例を収集するということになっておりまして、御承知のように、現在の日本の医師法のもとでは、医師たる者は、新薬であろうとそれが許可以前のものであろうと、どういうものであろうと医師の責任のもとに治療を続けることは、医師の正当な業務行為として許されておるわけでございます。したがいまして、治験段階におきましてどのようなことが起こったかということにつきましては、これは薬務行政としてはそこまでタッチするわけにはいかないようなことになっておるわけでございまして、私どもも、この事件が起きたということを直接会社のほうの報告ではなしに、新聞、報道機関のほうでその情報をキャッチしたときに初めて当時知ったという事情でございまして、事前にそういうふうな事故があるということにつきましては、これは製薬会社の立場としては、当然監督官庁の私のほうに報告があってしかるべきだとは思っておりますが、必ずしもその辺は、医師の監督のもとに行なわれておる仕事であり、また、薬務行政の介入できない部面であるというふうな点もございまして、なかなか情報としてはキャッチできなかったという事情もあったわけでございます。その辺は、事情御了承の上、当時の事情とそれから今回起こった事件の中身等につきましても、表ざたになって初めて大臣なり何なりに報告をせざるを得ないということに相なったわけでございます。
  68. 小林進

    ○小林委員 この問題は、率直に言いますが、一つには基本的な人権侵害の問題がありますよ。あとでこの法律論印はやります。  それから第二番目には、いまも、もろもろの欠陥があるように言われたけれども、厚生行政業務行政はこのままの状態でいいのかということだ。おっしゃるとおり事故が起きるまで厚生省は何ら責任がない、薬事法によってこの事件の経過における何らの指示監督もできないというがごときことは、裏を返せば、この事件の過程において、人体実験をやられていかに人間が殺されたところで、厚生省のいまの行政では手も足も出ないということになるのだ。そういうことが、一体理屈として認められるかどうかという問題です。  第三番目には、やはり企業のあり方だ。これはきわめて人間軽視の思想です。利潤追求なんだ。ほかの会社よりも早く利益をあげて早くもうけたいというその目的は、ただ一つ会社の利益追求で、その目的のために人間がモルモットにされて、かくまでも軽視せられているということだ。この薬という企業をこうした形で一体野放しにしておくのがいいかどうかということは、多くの問題がありますよ。なお言えば、厚生省と薬屋との関係、結びつきです。これも私はあとで具体的な例をあげて申しますけれども、薬屋と研究機関との結びつきの中には、目に見えない——私は汚職があるとか、あるいは贈収賄、があるとかいうまでは確信を持って申し上げるわけではございませんけれども、それに近いような醜悪な幾重のからくりが行なわれておる。厚生省の業務局に薬屋の監督をさせることは、強盗の番をどろぼうにさせるのと同じだ、こういうことを極言しておる者がある。私はそのことばが極言であるかないか、あとでいろいろ申し上げますが、ただ、いまも言うように、大臣はこの問題は事件として済んだとおっしゃる。そのことばだが、あなたはまだ実態をちっともつかんでおりませんよ。大臣、事件は済んだなんというものではないのです。済んでいないのですよ、あなた。そういうふうにあなたが、人間の生命がこれほど軽く扱われている問題を、もう事件として終わりましたなどというような形で報告を受けて、そして軽くそれを流そうとされるから、問題が、いつまでたったところで真相が究明されていかないのです。私、申し上げましょうか。十月十五日に人体実験がされて、その薬を知っていますか、私、説明してあげましょうか。私はいまここにこの薬を持ってきませんでしたけれども、黄色い色をした八つ入りの袋です。一枚八つのシール製のものなんです。これが八つ入っている。朝三つ飲ませるのです。それから昼飯に二つ、夕飯に三つ飲ませる。八個ずつ、これで一日分ですが、入っている。それを、百八十七名の人体を二組に分けて、片方には、同じ色をした、同じ形をしたものだけれども、それはにせものなんだ、にせものを飲まして、そして半分には新薬を飲ました。それも、飲ませるためには二週間分飲ませなくてはならぬといって、それを十四枚持たせた。八個の十四枚ですから百十二個です。その百十二個を社員に飲ませたわけだ。片方のほうは、同じものを十四枚渡したが、これは色つやは同じでも内容はにせものだ。そういう人体の実験をしたわけなんです。その中で、たった一人、男の社員が、一体これは副作用がないのですかと聞いたときに、薬品学術部第二課長佐々木信元なる者が、副作用はない、こう言っているんです。飲みたくなかったけれども、社員という身を拘束されているしがない身の上であれば飲まざるを得ない。精神的拘束力の前に彼らはやむを得ずして飲んだ。ただ一人飲まない社員がいたんです。これはこの新聞にも報道されているごとく、飲まなかった社員はその後上役と衝突いたしまして、上役のおぼしめしよからず、彼は非常に迫害、圧迫を受けるという形になっている。ほかの人は飲んだんです。ところが飲んでたった一日もおかないうちに、もはや症状が出た人がありますよ。十六日、飲んでもう症状が出てきた。その症状は何ですか、その自覚症状は何ですか。私、読みましょうか。私は全部調べてあるんだ。第一番にくるものは頭の重さです、頭重。次が頭痛です。目まい、全身倦怠、脱力感、肩のこり、熱感、発熱、食欲不振、吐きけ、腹部膨張感、次には心窩部痛、腹痛、下痢、便秘、発しん、黄だん、掻感、咽頭痛、耳鳴り、腰痛と、こういうふうにずっと病状があらわれてきた。いいですか、大臣。その結果どうもぐあいが悪いからと言って苦痛を訴える人があっても、まあ二、三日でなおるだろうから、薬はそのまま続けていってくれ。やめさせないのですよ。そのとき名古屋では、病院のお医者さんに頼んで診察をしてもらったんだけれども、そのお次者さんも中止を命じなかったのです。そこに一つ、私は重大なまた医療行政の欠陥があると思う。やめさせない。続けて飲んだらそのうちになおるだろう。いいですか。そういうようなことをやってきたものですから、とうとうたまらなくなって、途中でやはり社員が、会社には悪いと思いながらも、苦しいものでありまするから、ついに途中で服薬をやめたのでありますが、その結果、東京関係で十三名が入院した、名古屋関係で四名、計十七名が入院したのでありまするけれども、先ほどお話しのとおり、そのうちの一名、宣伝課の内田美穂子さん、長野県出身、まだ未婚者にして二十四歳、花なればまさに咲かなん女の盛りであります、その未婚の女性が二十四歳にして死亡しているんです。病名は骨硬化症、ガンの骨髄転位です。入院いたしましたのが昭和三十八年の十一月十三日、死亡いたしましたのが三十九年二月二十七日です。こういうような結果なんですよ。こればかりではないのですけれども、あなたはこういう実情を一々お聞きになりましたか。問題はもう終わっているなんて簡単なものではないのですよ。この現実の重要性というものをあなたに認識していただかなければ、結果に対する処置というものはできないから、私はここで説明しているのです。いいですか。それに対して会社では、この人の死亡に対して、これはいまの抗ビールスとは関係がない、こう言っている。関係はありませんか。厚生省業務局長は、会社の宣伝どおり、彼女の死亡はモルモット人体実験と関係がないと考えておられるかどうか、あなたの調査の結果をお聞かせ願いたい。
  69. 神田博

    神田国務大臣 ちょっとその前に私から申し上げたいと思います。  一昨年の十月のことでございますから、私の耳に入らなかったということは、その後それは解決した、こういうことを私が想像して申し上げたのでございまして、部下がそういう報告をしたということではないのでありまして、いま小林委員からそういう事実を詳細に承りましてがく然としたということで、どうかそこの辺を訂正させていただきたいと思います。
  70. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 副作用の関係で、いま先年御指摘のような事故が起こったということにつきましては、会社側が関係ないというふうに言っているのは、私は間違いだと思います。私ども関係があるというふうに考えておりますし、また、昨年そういう事故が起こったあと、会社の責任者側は、この新しい薬については許可申請はやめますという報告がきておりますので、明らかに関係があるがゆえに申請を取りやめたというふうに私どもは解釈をいたしているわけであります。
  71. 小林進

    ○小林委員 私はかくのごとく自由意思の発表も自由行動もできないこういう社員等に、半強制的に薬を飲まして死亡に至らしめたとか、あるいは不具になったとか、いまでもなお通院しているという者に対して、薬をやめて相当の治療費を出すことによって、しかも社員の身分を保持することによって会社の責任が済んだかのごとく考えている、その根性がいかにも憎くてたまらない。私は、あなたたちもそういう解釈をしたと思います。こういうようないまの階級的な国家観の中において、資本家だとか薬屋だとか経営者だとか、あるいは炭鉱の経営者だとか、あるいは鉄道の総裁だとか、こういう者が当然にやらなければならない注意事項、そういうものを怠って、炭鉱では何百人の人間を殺し、汽車では何百人の人間を殺し、薬屋はこうして人間をモルモットにして殺していくことに対して、みんな考え方は一貫している。社員の身分であとさえ保障してやれば、そうして何か弔慰金でも出しておけば、りっぱに責任を果たしたというような考えが、いまの日本の支配階級における一つのものの考え方なんです。それで事故が絶えないのですよ。あなたたちもそう思っているのだ。冗談じゃない。刑法学者はみんな言っておりますよ。これは一般市民犯罪だ、自由もきかないものを押えつけて、これを飲ませれば事故が起きて命があぶないのだ、必ず事故が起きると知りながらそういうことをやらせるのは刑法上の殺人罪だ、車の運転手が事故で人をひいたり、あるいは道ばたで三輪車が人を殺したというので刑の八年や十年食らうのよりは、もっと悪質な殺人罪だと刑法学者は判断している。残念ながらあなた方はそう判断されない。(「聞いてみろ」と呼ぶ者あり)いや、おいおいいきますよ。  まず私は、問題の重要性大臣に認識してもらうために言うのです。この死んだことに対して私の調査したことを参考までに申し上げまするけれども、ウイルス病化学療法研究会、東大伝研の付属病院の橘田晃博士は、キセナラミンがガンの進行を促進したと考えられないことはない、面接の死亡の原因ではないだろうけれども、彼女の死亡を促進したということだけは間違いない。ほかに高橋晄正という東大の先生も、キセナラミンがその死因となるかどうかは別として、この薬が死期を早めたことは間違いがない。全部専門家はこのように証明をいたしております。会社というものがいかにずうずうしいものであるか、この薬とは関係がないなどという、こういうことで世人をごまかしている。いいですか。薬務局長はいみじくも原因があると言われたから、この問題はあなたの答弁で一応私はこの追及をやめまするけれども、そのほかに、いまなお田島昌子さんという御婦人がいらっしゃる。この人ばかりじゃない。このたびの人体実験を受けた者は婦人が多い。しかも薬科大学を出られた薬剤師の方々が多いのです。そういう未婚の方々、既婚の方々もおられるけれども、そういう婦人の方々は、いずれも生理が異常です。その異常である中の一人の田島昌子さんという女子は、いまでも婦人科の病院にお通いになっていられるのでありまするが、この方は排卵がないのです。結婚しても子供ができぬです。こういう状態で、いまだ病院通いをしている。非常に彼女はショッを受けている。人間と生まれて、結婚して子供が生まれないということを予告せられる者のつらさ、これはものの考えようによっては、事実上人間の子孫繁栄のもとを根絶してしまうのだから——多産系で子供が十五人も二十人もいるから、これから先生まぬように避妊手術をしよう、これはけっこうだが、いまだ未婚の婦人にして、結婚しても子供が生まれないような異常なからだにさせられるということは、死刑にも値するようなたいへんなことです。ただ、こういうことも、彼女をして言わしむるならば、その薬を飲む前に確かにいわゆる子供を生める卵があったかどうかという証明書がないから、排卵がないと言ったところで、会社のほうから、おまえ、薬を飲まない前からなかったのだろう、こう言われればそれを反駁する証明がない、こういう一つの悩みは持っておりまするけれども、普通健康な婦人ならば、まずまず子供を生む能力は当然あってしかるべきでありまして、それがいまのこういうような薬を飲まされてからなくなっているという、こういう事実であります。しかも、そのほかに入院いたしている者は、平均いたしまして大体二カ月、昭和四十年の今日まで、いまなお退院しても通院をしています。通院している者が二人もいる、こういう状況です。どうですか。一体これで問題が解決したなんというものじゃございませんでしょう。重大な問題じゃないですか。
  72. 神田博

    神田国務大臣 いま小林委員からしさいに承りまして、私、深くがく然としておる次第であります。   〔井村委員長代理退席、委員着席〕 けさ新聞を見たときには、非常な憤りを感じまして調査を命じたわけでございまして、たまたま御承知のように、午前中は参議院の予算委員会、また衆議院の社労等がありましたし、また午後も本会議、こうした社労という委員会でございまして、調査をつまびらかにする時間的余裕がなくて、十分私承知していなかったことをまことに遺憾に存じます。しかし、いま幸いにして小林委員からこの間の事情をしさいに承りまして、まことに、先ほど来繰り返しておりますが、私はがく然とし、あ然としておる次第であります。これが何かやはり業務行政一つの声点というか、失点というか、これは非常に考えなければならぬことと考えております。元来、少なくとも薬務行政というものは、最近仕上の議論が出てまいりまして、いろいろ考えさせられることがある、こう考えておったのでございますが、いまのような時点を考えますと、これはひとつ相当思い切った考え方をしなければいけないのじゃないか。人間尊重の立場、いわんや製薬業者みずからの工場の中で従業員をモルモットがわりに使うというようなことは、これは言語道断といわなければならぬと思います。さようなことは、私は聞いたこともない話でございまして、想像もしなかった出例でございます。これは全くお説のとおりだと私は思っております。私の知らなかったことは、まことにこれは申しわけないのでございますが、いまいろいろお聞かせ願ったわけでございます。十分これは調べまして、そしてひとつ措置しなければならぬ、こう考える次第でございます。
  73. 小林進

    ○小林委員 私は、事実の問題でまだいろいろ申し上げたいことがありますが、事実問題は、あとでまた御要求があれば、会社がそれに対してどういう治療をやって、家族に対してどんな見舞いをし、入院費や治療費や欠勤中の賃金をどんなぐあいにしておるかということは、私は詳しく調べておる。私が調べておるのだから、ましてあなた方は権力を握っておるのだから、私よりもっと詳しく調べていなければならぬはずじゃないか。やはり問題のとらえ方が、私は少し甘いのじゃないかと思うのです。あなたもおっしゃるとおり、参議院へ行ったり衆議院へ来たりしてお忙しいから、あなたが調べるわけにはいかないだろうけれども、あなたにはこれだけの下僚がいるじゃないか。ほんとうに問題が重要だと思ったら、そんなことは、いま少し私以上に詳しく調べていなければならぬはずじゃないですか。ぼくの言いたいことは、大臣が知らぬということじゃない、問題のとらえ方、あるいは問題の重要性に対する認識のしかたが甘いのじゃないか。おそらく厚生省は、まだ人の命というものを私らが考えるほどそう重要視していられない証拠じゃないかというその一点が、いかにも私はものさびしいということを申し上げておるのです。人の命が大切だというならば、いま少し真剣に事実を調査されてしかるべきじゃないか。私は、そこで、薬務局長が先ほども言われました、新薬の場合でも発売前には人体実験の臨床データがなければ許可がおりない制度になっておる、大臣も言われました。ところが、ガンと結核と抗生物質だけで、あとの薬は薬事法上何らの制約もない、こうおっしゃいました。そのとおりでございまましょう。けれども、あなた方は、薬務行政をおやりになるのであれば、そういうふうな新薬の実験の過程において、一体これが危険性があるかないかぐらいは、あなたたちにはやはりあらゆる資料に基づいて——そのために専門家も、薬務局にも厚生省にも山ほどおるのだから、私はちゃんとデータをおつかみになっていたと思う。私をして悪意を持って言わしむるならば、この薬は、人体実験をする前に危険があるということは、前にしばしば実験があるし、学術論文も出されておる、発行されてきておる、これはあぶないぞという記事があるにもかかわらず、薬屋がこれだけの事故を起こすまで黙って見ていられたところに、悪意の推定をすれば、やはり厚生省と薬屋と結びついて、危険であるとは知りながら黙視して、最悪の事態にまで突っ走らしめた。薬務局長、あなたは首をかしげられておる、あなたは正直な人だ、あなたがおやりになったのじゃないが、あなたはなかなか清潔な人だから。けれども、私は厚生行政全般の上からそう疑って見ざるを得ない。というのは、たんとここにもありますし、私のノートにもある。ここに「人権侵害事実調査申立書」の中にも書いてある。第一、昭和三十八年の五月一日——この事件が起きたのは十月十五日ですから、その五カ月前の五月一日発行の「内科」という専門誌、これは厚生省にもいっているでしょう。その「内科」の八六二ページには、北本治という東大の伝研付属病院の病院長が、「抗ビールス物質中の左記の記載」——動物とか人とかということばを実験には用いますが、その人間です。「人では副作用として肝炎が認められた。」これはいま病院へ十七人も入っている人はみな肝炎です。肝臓をやられているのです。そのときにこの付属病院長は、すでに人では副作用として肝炎が認められたということを発表しておる。なお、同じく三十八年四月五日の「薬局」という雑誌、ありますでしょう、その九五ページでは、北山徹先生が、「インフルエンザの化学療法」中の記載の中で、やはり「人に用いた場合、肝炎その他の副作用があることが判明して一般に使用されていない。」ちゃんとこういうように学者が発表しているのですよ。まだ資料があります。これはあぶないのだ、必ず副作用で肝炎、肝臓をやられるのだということを、こうして専門学者はみなそれぞれ権威ある雑誌で発表しているじゃありませんか。まだ出しましょうか。しかもその前も、ネズミをどこかで使用した場合、これは中村兼次、関東逓信病院小児科、抗ビールス剤のインフルエンザに対する実験的、臨床的使用成績、こういう発表の中にも、「マウスによる実験結果の解説によると、インフルエンザに感染したマウスにキセナラミンを使用すると、使用しないものより体重が減り、生存率が低い」、ちゃんとこういう研究が一九六二年四月「治療」という雑誌の四十四巻の四号の一二二ページに、関東逓信病院の共同研究したものとして載っているじゃありませんか。これほど幾多の場面において、こいつはあぶないのだ、必ず肝臓をやられる、ネズミでも生命が減ってくるし、副作用があるのだと言っているにもかかわらず、あなた方は何ですか。こういう記事が、あなた方は雑誌をとっておるし、みんないっているはずにもかかわらず、そのままこういう実験をやって、そうしてこういう結果を起こしておるということは、厚生省の監督行政の中にこれは責任なしとは言えないと思う。一体この問題をどうお考えになりますか。
  74. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 お答えいたしますけれども、治験段階におきます治験例の収集ということにつきましては、先ほど申し上げましたように、現在業務行政がタッチする形にはなっておらないのは、これは事実でございまして、なぜそういうことになっておるのかという、やはり根本問題がそこに介在するわけでございます。つまり現在の日本医療制度のもとで、先ほど申し上げましたように、医師が治療行為を行なう場合には、これはどのようなことをやっても正当業務として、医師の場合には刑法上の問題にはならないわけでございまして、結局、新薬開発の場合に、まず最初に現在行なわれておりますのは動物実験をやる。そこで安全性が明確になりました場合に、それからあと臨床実験に入るわけでございますが、この臨床実験をやる場合には、権威ある病院あるいは研究機関で医師の責件のもとに行なわれる、こういうことになるわけであります。今回の御指摘の事件につきましても、やはり治験例の収集はある大学病院に頼んで、委託して行なわれておるわけでございます。結局、治験例の収集をやります場合に、学者の先生から頼まれて、学者の先生がなおかつ必要な治験例の収集をしたいというようなことでもって行なわれたというふうに私どもは報告を聞いておるわけでございまして、これが社員について行なったということにつきましては、確かに、御指摘のように私どもは問題だと思いますが、治験例の収集の段階において、医師の責任のもとに行なわれます治療行為その他のことにつきましては、薬務行政としてこれが介入する余地がないわけでございまして、その点、この事件に、つきましていろいろ問題はあろうかと思いますが、あくまでも治験段階の事故であるという点に、この問題の内在した複雑な問題があるということを御了承いただきたいと思います。
  75. 小林進

    ○小林委員 それは、あなたはある大学とおっしゃったが、はっきり言いますと、これは東北大学の中村教授です。その中村教授にある会社が委託をして、そしてその実験を頼んだ。中村教授も、この問題に対しては非常に一つの夢を持っていられた。一九六二年十二月二十五日に——この薬は御承知のとおりイタリアで発見された。しかし、イタリアでもまだ実用化されておりません。実験の過程にある。これは大臣、居眠りしないでよく聞いておってください。この薬はイタリアのマグラシーという教授によって発見されたのです。けれども、彼も、非常に効果はあるけれども副作用が非常に大きいというので、千何ぼにわたって緻密な実験をいま計画中であります。それに対して中村教授が手紙を出しているのです。日本でも近く大げさな実験が行なわれるであろう、もしこれが成功すれば、あなたの功績は真に顕著なものと言うべきだろう云々と、こういうことを言って、中村教授も若干勇み足の傾向なきにしもあらずだけれども、私の言いたいことは、その教授を責めるのではない。その十月十五日に実験するまでの昭和三十八年四月、五月には、いまも言うように東大から、いわゆる伝研の付属病院から、関東逓信病院から、あらゆる病院でみな学者がこれを研究して、そして同年の四月、五月ごろは肝炎という副作用があってこれは非常に危険だということは、学界の定説になっている。としては当然知っていなければならぬ問題ではないかと思う。雑誌の名を申し上げたように、あらゆる雑誌にあげられたように、これは危険だという、そういう学界の定説になっているにもかかわらず、それをやはり厚生省の段階では何ともできないと言ってそのまま放任しておいて、ついに一会社と一教授との委託行政に基づく実験でこういう大きな犠牲者が出て、その犠牲者が出たあとで初めて会社を呼んで厳重な警告を厚生省の薬務局長がやるという、それだけのことしかできないのかと言っているのです。そんなことしかできないならば、こういうふうに学者があらゆる研究をして危険だ、危険だと警告をし、あらゆる雑誌にそれを発表しても何も効果がない。一製薬会社の利益のために学者が引きずり出され、そうして人間は次から次へとモルモットにされていく形というものを押えることはできないのかと言うのです。あらゆる学者が研究して、これはもう危険だという世論があっても、それでも厚生省としては監督行政上打つべき手がないというのか。なければ将来一体これをこのままにしておくべきなのかどうか。どうなんです。
  76. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 先生のおっしゃることは、私よくわかります。それで問題は、やはりそのような副作用があるということがわかっておる場合に、これを治験段階において、少なくとも対症療法をやる場合、あるいは治験例収集のためにそういう投薬方法をやるということは、結局最終的には、その治験例収集を委託された医師の良心の問題であり、またそれを会社側が社員に飲ませるということも会社側の良心の問題でございまして、私どもとしましては、そこに介在する医療行為の中身についてまでこれがどうだとかこうだとか言うことは、現在の医師法のたてまえにおいてもなかなかそこまで介入できないというような事情になっておるわけでございます。
  77. 小林進

    ○小林委員 それは、私は医師の専門家のかおり高い教養と常識を疑うわけじゃありません。今回の場合なんか、特に東北大学の中村教授が主任となって、何とかいう研究機関を持ってやっていられるのですから、中村教授個人を云々しようというのじゃないけれども、ただその依頼をする会社というものは、これは企業会社なんですよ。特に業界における激しい自由競争といいますか、この競争率の激しいこと、おそらく資本主義のもろもろの経済の中でもこれは一番激しいのじゃないか。私は時間があればあとでもっと大臣にお聞きしたいと思いますけれども、あのテレビやラジオや新聞マスコミはこれを言うといやがるのですよ、ブルジョア新聞なんかを助けている多くの広告料、維持費なんというのは、みんな薬屋が持っていると言ってもいい。テレビやラジオやマスコミ等における薬屋の広告料というものは、あらゆる企業の中で二番目だそうです。家庭電気器具の次だそうです。朝から見ていると、不老長寿の何とか、肝臓の何とか、中高年の何とかという、まるで薬の広告の中に朝目をさまし、薬の広告を見ながら眠っていくというくらい激しい広告戦線の中で、みんなそういう形で大衆から搾取しているのだ。そういう中から学者をもしろうらくしたり、不当な金を出したりして研究の委託をして——いまだってそうでしょう。私は学者の良心を疑いません、りっぱな人ですから。けれども、薬屋のあらゆる手練手管で、彼らはもうけんかな、もうけるために手段を選ばず、そのために自分の社員までモルモットにするのです。そういう行政の現実の姿に監督官庁たる厚生省は、ただ医師の良心にまつ以外はない、薬屋の良心にまつ以外はない、われわれは拱手傍観していく以外に手はないというこの答弁は、私はいただきかねる。そんなことならば厚生大臣業務局なんかないほうがいい、あって無益だから。なければ、私どもは国会で十分監督いたします。私のほうでしますよ。そんなものはあって無益だ。そうでしょう。大臣考えてください。そうじゃありませんか。現実にこれほどの事故が起きている。その起きている原因は、いまも言うように、もうけんかなという薬屋は、もうけるために学者に委託しなければならぬ。研究を委託して自分の社員をモルモットにしている。しかし、こういう形は将来続いていこうとも厚生省としては何ら打つべき手はございません、学者の良心にまつほかはありません、会社の良心にまつほかはありません、われわれはそういうことじゃ満足できないですね。委員長、ひとつ確信ある答弁を促してください。
  78. 神田博

    神田国務大臣 いまお述べになりましたように、社員を使って新薬の実験をする、こういうようなことは私は不都合であり、けしからぬことだと思っております。厚生省といたしましても、これはそういう事件を耳にしました際に全国に通達いたしまして、そういうことは取りやめるようにということをいたしたと承知いたしております。さらにまた、この新薬の実験をして事故が起きたわけでございますから、その事故に介入できないというような消極的なものではなかろうと考えております。一般監督権から考えまして、そういう事故が起きた場合には、やはり薬事行政の根本の問題でございますから、当然これは介入して処置していいのではないか、こう考えております。
  79. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 現在の新薬開発の場合の一般的なやり方を、ちょっと私から簡単に申し上げたいと思います。  例のサリドマイドベビー問題を契機といたしまして、薬の安全性の問題については、学界その他製薬界を含めまして、非常に慎重な取り扱いをいたさなければならないということで、まず胎児実験をやる。新しい開発をやる場合には動物実験をやりまして、しかも動物実験の中に生まれた子供がどのようになるかという胎児家験をやって、その上で、まず動物実験をやった場合に安全性が確保されるということになって、初めて臨床実験に移すということで、非常な厳重な、むしろ酷に過ぎるというふうな批判も出ておるくらいの厳重な規制を現在のところやっておるわけでございまして、したがって、新薬の許可申請といいますものは年々少なくなってまいりまして、現在は、年間三十ないし四十件くらいというふうになっておるわけでございます。  御指摘のただいま問題になっております事件は、その新薬開発の過程におきまして起こりました事件であり、また会社自体が非常に大きな会社ではございませんし、その新薬許可申請の過程におきまして、動物実験を十分完全にやり、また臨床データを完全に収集しようとした段階での事故でございまして、そういう事件を契機として、界のほうには、ますます不測の事故が起こらないように十分取り扱いに慎重を期するように、その後もたびたびの機会に私どもからは厳重注意をいたしておる次第でございます。
  80. 小林進

    ○小林委員 それはあなたの方の厳重注意の御苦労は御苦労ですけれども、あなたもそのうちにはまた薬務局長をおやめになるだろうし、そうすれば、あなたの厳重警告というものは一ぺんで終わってしまう。しかし、人命というものは将来にわたって長いのです。何といっても根本的な原因は、新薬ブームで、何でも他の会社の先を越そう、一歩でも越してもうけんかなというおそるべき企業の利益追求の精神、企業意識、これがこういう人体実験やら死亡者を出しておる問題のすべての根本の理由なんですよ。大臣、いいですか。あなたお話し中でしたからもう一回言いますけれども、こういうことが起きてくる根本の理由は、乱立する企業の中で、一歩でも早く自分の同業者を抜いて、新しい薬で先を越してひとつもうけたいというこの企業意識、これがすべてに優先するのです。この企業意識を、あなたは、厚生省の薬務局長の一片の通達やら口頭の厳重な取り締まりなんかいだしましても、これが抑制できる、修正できるなんて、世の中はそんなに甘っちょろくないですよ。そんな甘っちょろい考えでおられるから、人命軽視の思想というものが絶えない、あとからあとから事故が赴きてくる。あなたは、の許可は少なくなったと言うけれども、サリドマイドから、厚生省の貧弱な業務行政のために幾人の人間が犠牲になっていますか。人間の命は地球よりも重しとは、いみじくもだれかが言った。そのとうとい人間の命を、薬務行政のために何百人殺すのだ。何をやっているのだ、だれが守るのだ。それを守れない厚生省なんか要らない。だれが守る。なぜ直さない。監督官庁に不備があるのなら、なぜ法律の修正を出さない。こういう資本主義経済の中だからそういう法律ができない、その裏を返せば、資本主義経済の中においては人間の命を殺すのを黙って見ておる、こういうことだ。こういうおそろしい思想があるから、われわれは黙って見ているわけにはいかない。いいですか。そんな資本主義の世の中でも——もちろん社会主義の国家というものは、人の命というものを何百倍、何千倍と重く見るけれども、資本主義の国家だって、世界じゅうに日本ほど人間の命を粗末にするところはありません、日本の佐藤内閣ほど。それから次はアメリカ、アメリカはベトナムでベトナム人を戦わしてあれだけ殺している。あれは人類最大の虐殺行為だ。日本政府と、次はアメリカ、これは人殺しの本場であります。  そこで私はあなた方に言うのだが、この副作用の危険のあったことを一体知っていながらこの実験を強行したのかどうか、それまでも厚生省はお調べになったのかどうか、それをお聞きしましょう。あまり会社を代弁するような話は聞きたくありませんよ。
  81. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 副作用を知っておったかどうかということにつきましては、私ども、会社側の言明につきましてはつまびらかにいたしておりません。
  82. 小林進

    ○小林委員 監督行政をおやりになる上で、それをお聞きにならないということはいかぬ。副作用があるかどうかは別だけれども、副作用がもし出れば非常に危険性があるということを、一体会社が承知しておったかどうか。承知しながら、なおかつこの実験を強行したかどうか。もし副作用が出れば危険だけれども、まあまあ危険が出ることはまずなかろうといって実験をしたのか。ともかくこの危険というものを会社が一体認識していたかいなかったかということを、あなた方が問いただされたかどうかということを私はお聞きしているわけです。
  83. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 当時治験例収集段階におきまして、病院におきましての治験の数の症例は大体六十前後というふうに覚えておりますが、その例につきましては、会社側は、東北大学病院の実験データによっては、大体治験段階で行なった場合にはたいした副作用はなかったというふうに、委託された大学の先生から言われておったということを私どもは聞いております。
  84. 小林進

    ○小林委員 そういうあなたたちの答弁が出てくることを私は予定したから——東北大学の中村教授はそう言っていますよ。興和株式会社の代表取締役三輪隆康氏から依頼を受けたが、中村教授だけは、いまおっしゃるように、もはや副作用の危険はないと判断をしたと言われておるけれども、先ほどから繰り返しておるように、当時の四月、五月のあらゆる薬事専門雑誌の中には、ほとんど、これは危険な副作用があります、肝炎があります、モルモットまでやせていった、生存率が低くなっていますという研究発表があるじゃないですか。当時、もはや五カ月前にはこれは危険だというのが学界における世論であるということを、私は先ほど申し上げたじゃないですか。そこに問題のギャップのおそろしさがあるということなんです。そこに会社がやはり危険性を承知しながら、もうけたい一方で、あえて危険を承知の上に人間をモルモットにしたという悪意があったのじゃないか、私はその点をあなたに聞いておる。あなたは会社の代表じゃないのだから、あなた自身の公正な判断をしてください。一体どうなんです。
  85. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 私どもは、当時直接その仕事に当たりました会社の研究機関の長を呼びまして、それで確かめたわけでございますが、当時大学の先生から言われたときの研究所長の話としては、副作用については、当時大学で集めました治験例の段階においては、そうたいしたものではないというふうな話があったので、なおかつ治験例を多く集めるということについていろいろ協力をお願いしたいんだという申し入れがあって、社員にこれを呼びかけた、こういうふうに私どもは聞いておるわけでございます。
  86. 小林進

    ○小林委員 そういうあなたの答弁にもあいまいなデータがあるんだけれども、私は次に申し上げますが、当時の厚生省薬務局製薬課長の平瀬君の談話が発表されている。これは昭和三十九年三月七日ですが、「厚生省としては、新薬の臨床試験段階であまり干渉することは学問と企業の自由尊重の立場から好ましくないと考えている。」これは人間が幾ら殺されても、学問の研究という名がつけばいいということの裏づけだ。「法規上でも臨床試験を事前に届け出なければならぬのはガン、ライ、結核といった特殊な病気にかぎられている。しかし、いかにカゼ薬とはいえ、百人もの多人数を対象に障害試験をしたのなら人道上の問題でもあり、さっそく関係者から事情を聞く。」こう発表せられておる。私がお聞きしたいのは、一体その後、この当時のあなたの部下だった平瀬君がどういう処置をしたか。新聞にこういうりっぱな発表をしていながら、彼はその後製薬会社の重役になって行っています。あなた知りませんか。あなたの部下だから知っているだろう。藤沢薬品のたしか重役に入られたはずです。一体、この新聞談話を発表されてから、どれぐらい厚生省にいられて、それから退職してその製薬会社の重役に行かれたのか、その事情を一応お聞きしておきたい。大臣もお聞きください、重大なことですから。だんだん問題は出していきますから……。
  87. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 当時の製薬課長がそのような談話を新聞に発表いたしたことは、私はよく承知いたしております。直ちに関係者を呼びまして事情を調べまして、私も報告を受けたわけでございますが、大体いままで答弁した中身のことでございまして、それ以上のことは私はその後聞いておりませんし、また研究所長からの報告も、いままで答弁いたしたとおりの中身でございます。なお、製薬課長は八月に退官いたしまして、御指摘の薬品会社に入りましたが、重役ということではございません。一応社長付ということで、会社の全般的ないろいろな勉強をするということで入ったわけでございます。
  88. 小林進

    ○小林委員 それは新しい一つ法律ができたから、直接関係している会社には何カ年間は重役に入れないということで、顧問で入ったり付で入ったりするという当今はやりの形で、製薬会社、自分たちの直接監督した会社の中だから、それは人事院の目も光っておりますから重役に入れない。一定の期限だけは重役付、社長付ということでお入りになっておるんだろうから、世間の人は重役に入ったと見る。世間の人の目のほうが正しい。  そこで、私は大臣お尋ねするのです。厚生省の薬務局から製薬会社にどれぐらいお入りになっていますか。これは終戦後でもよろしいです。私も調べているのですが、厚生省の役人で課長補、課長等々を含めて、一体どれぐらいお入りになっておりますか。まずまず、薬の大きなメーカーの会社の出店は厚生省の業務局というような感じだな。
  89. 神田博

    神田国務大臣 いまの製薬課長の転出でございますが、最初の第一点でございます。私が七月就任いたしました直後でございますが、前大臣以来の懸案になっておって、製薬会社に入社したい、後進に道を譲りたいということであったと思います。そういうことで局長になるわけにもいかぬ、後進も十分待機しているようなかっこうだからやめたいということを次官まで申し出ておると次官から御相談ございましたので、私が就任して間もなく決済した人事でございます。  それからもう一つは、そういった課長クラスで何人くらい製薬会社へ行っているかということでございますが、これはただいま調べまして、政府委員から答弁させたいと思います。
  90. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 終戦後からということになりますと、少し私ども、資料が古くなりましてなかなか調べがたいのでございますが、最近の資料によりますと、歴代の製薬課長、監視課長につきまして二十七、八年ごろからのことを申し上げてみますと、製薬課長が現在の課長まで四代続いておりますが、いずれも退官をいたしまして会社のほうに転出をいたしております。それから監視課長につきましては、会社のほうに現在の課長まで二十八年から五代にわたっておりますが、そのうち会社に入りましたのは二名でございまして、あと二人はそれぞれ団体の専務理事ということになっております。
  91. 小林進

    ○小林委員 お聞きのとおり大臣、大体、製薬課長になれば薬屋の重役くらい相場でございましょう。二十八年から四代続いて四人がいずれも退官されて会社に入られておる。監視課長も二十八年から五代続いて、そのうち二名が会社に重役でお入りになって、あとのうちの二名は製薬関係の団体にお入りになっている。大体みなそういう形ですよ。そこで因縁が結ばれるのですからね。これじゃいまも言うように、その製薬会社の厳格な監督なんかできようはずがないじゃないですか。できると思いますか。課長になってやめたら製薬会社に行こう、それじゃ世間のいうようにどろぼうにどろぼうの監視をさせるようなものだ。世人の評判もなまじっか当たっていないわけじゃないでしょう。そういう感じを受けませんか。これは私の言い過ぎですか。ここに問題の一番大きな重点がある。この厚生省の役人、課長、その下にみんな課長補佐から平職員までいるのです。これがまたみんな入るのですから、まさに厚生省の薬務局は製薬会社の出店だという世間の評判も、この一例だけをもってしても無理からぬ批評だ。もちろん課長をやめてしがない商売をやったところで、晩年は暮らしていけるわけじゃないですよ。どこかへ就職しなければならない。通産も大蔵もみな企業機関に落ちている。厚生省は人生の気の毒な者を相手にしているのだから、薬屋あたりの機関をやっているものは、薬会社に行くよりしようがないじゃないか、立場を変えれば私はそういう理屈も出てくると思います。その点は、まことに気の毒だ。将来の保障がないのだ。けれどもしかしいまそのために人間の生命が非常に軽視せられている。これだけの多くの事故はそういうことを間接の理由にしている。何らかの因果関係があるというなら、やはりこの際断ち切ってもらわなければいけませんよ大臣。いわゆる薬の実験機関を別個に国が設けるか、どうですか。あるいは厚生省の役人と薬会社とのそういう天下り人事の結びつきを何とか断ち切るか、抜本的な方法を講じなくちゃならぬ。大臣、ひとつどうですか。
  92. 神田博

    神田国務大臣 ただいま小林委員のお述べになりましたように、薬務局の製薬を担当しておる課長あるいは係がそれぞれ年輩になってやめて、そして製薬業界に入る、あるいは製薬団体に入るということは、そこですぐ不正と結びつくということでは私はなかろうと思います。しかし、それじゃ全然つかぬかということになりますと、これはいやつかないのだと言い切れることでもないのじゃないかと思います。これはやはり人によりまして清廉剛直の士もございますし、また人によりましてはそういうことを好む人もあろうかと思います。ですから、これは人によることでございまして、そうなったからすべてがそうだというふうには考えられないのじゃないか、こうも私は思うのでございます。ただしかし、いまお述べになったように、そういうことは好ましくないという反面は私も同感でございます。そこで、じゃ一体どうすればいいかという問題でございます。いまもお話がございましたように、たとえば厚生省の外局として、あるいは外郭団体でもけっこうでございますが、日本の薬業界、薬学の進歩のために、何かりっぱな機関ができて、そこでのいろいろな実験過程を経てそれが企業化されていく、こういうようなことはどうだという御意見であるならば、それは私は非常に望ましいことだと考えております。しかし、この段階でこういうのと結びついてすぐそういう団体ができるかどうかということになりますと、これはいますぐできるともできないともちょっと申し上げにくいのじゃなかろうか、ただ問題はいろいろ誤解もあろうと思いますし、また私は小林さんのおっしゃったことは誤解でない、ほんとうのこともあるのだという御意見、これも私はそうじゃないと否定する材料を持っておりません。でございますから、今後のいわゆる薬事行政をどうするかという問題はひとつ真剣に取り組んで、いわゆる人間尊重の立場、しかもまた貿易自由化を前提にした世界との競争に立っておるわけでございますから、そういう観点に立って薬業界の新規開発をやる、そして日本の薬業界の躍進をはかる、こういう指導をするべきではないか、私はこういう考えております。
  93. 小林進

    ○小林委員 いま大臣がいろいろおっしゃいましたけれども、私は人の問題ではないと思う。人間というものは資本主義の世の中に生きていくために、薬屋なんていうものは利益が目的なんだから、自分の会社に利益にならないような剛直清廉な、そんな厚生省の課長なんかだれが雇うものですか。やはりだんだん利益が上がって、会社のためにどこかうまい味があるからそういうやつを薬屋は入れているし、また退職しようとする課長なんていうものは、自分の行こうとする会社のために在官中から手心を加えるというのは人情の機微です。加えないと言えばうそです。そうですよ。しかし具体的に例があるかと言えば具体的に例はないというのは、これは人情です。だからそんなことは水かけ論で、大臣いかに言われてもだめだ。その結びつきがある限りは薬務行政というものは公正を期しがたい。  時間がありませんから、この問題はまた将来の問題としてここで繰り返しますよ。この厚生省の業務局と薬屋とのひもつき関係は、どうしても断ち切らなければこういう事故を防ぐわけにはいきませんから、どうしてもやります。あなた方がやらぬと言えば、やると言うまでこの問題は追及します。  それからいま一つ、ここで大臣約束していただきたいことは、なお言うように、この薬屋が確かに副作用の危険があることを知っていてその実験をやらせたと確信するべきものがある。だから、ここで薬屋を呼んで、同町にひとつ実験に立ち会われた関係の専門家の中村教授もごめんどうでも来ていただいて、前に副作用の危険があったという発表をされた反対側のお医者さんも呼んでいただいて、会社がほんとうにこの危険があってなおかつ実験をさしたかどうかということで明白にするために話をする。いまの薬務局長の答弁では明確になっていないのだから、やはりこれは実験の問題ですから、危険を知るためにいつでも実験をやられてはたまったものじゃありませんから、これはぜひひとつ呼んでいただきたい。  それから次に、人権擁護局長がお見えになっておるはずですからお尋ねしますが、今朝あなたのところに人権侵害事実調査申立書が提出せられました。その中には大体問題が三つ含まれているわけだ。第一番目には、社員が承諾をしたと言っておるけれども、現にその社員の中の一人は半強制的にやられたという証言をしておりますけれども、実際問題としてその社員が服用を拒否できないような雰囲気の中で問題の実験が行なわれたということ、これが人権に関する第一の問題でございます。この点は一体どうであったか、あなた方どう判断されるかという問題が一つ。第二番目は、服用にあたって会社は、どうも副作用があるのではないかという質問に対して、上司が副作用はないという言明をしておる。そういう説明の中で、事実医学誌の中でこれこれこのように副作用がないのであるという説明が一つも加えられていない。ただ上司の権力的な説明で副作用はないという一言でそれを承服せしめて飲ましておるということ、これも一つ人権問題にからまる大きな重点ではないか。第三番目は服用後の処置です。先ほども言ったように、二遇間分渡しておりますけれども、二日目からすでに事故が起きて、吐きけを催したり頭痛を催したり、あるいは発しんを来たしたり、からだから皮がむけているのです。そういう状態の中でなおかつその中止を命じなかったということ、そのうちなおるからとにかく二週間分だけ飲んでくれとその継続をすすめたということ。この三点はいずれも人権に関する重大問題であると判断いたしますけれども人権擁護局は一体どののようにお考えになりますか、御所見を承りたいと思います。
  94. 鈴木信次郎

    ○鈴木(信)政府委員 先ほど来いろいろ御指摘の事件につきましては、昨日、すなわち本月の二十四日に東京法務局に対しまして、御指摘の会社の薬剤師で被害者にあたる中村晴子という人からその代理人である内田という弁護士を通じまして、人権侵害事実調査申立書と題する書面の提出がありました。その内容の概留は、興和株式会社が昭和三十八年十月十五日、かねて研究中の抗ビールス新薬キセナラミンというものを、その副作用を隠して、多数の社員に対しまして服用させ人体実験を行なったところ、食慾不振、頭痛、発熱等の症状を訴える者が続出し、十七名が入院、そのうち一名が死亡した、これは人権侵害であるから調査をしてほしいという趣旨のものでございます。なおその詳細につきましては、大体において先ほど来御指摘のような事実が書いてございました。  しかし、私どもといたしましては、この書面のみで、まだ具体的内容につきまして十分明確でない点もございますので、東京法務局におきまして早急にこの申し立て人であります中村精子さんその他関係者の方々から事情の詳細を聴取するために、目下関係者を呼び出しているという状態でございます。したがいまして、現在御質問の三点、すなわち社員がこの薬を服用するにつきまして拒否できるような雰囲気にあったかどうか、あるいは副作用がないというふうな説明をしたかどうか、さらに服用後二日目からすでに副作用が出てきたのになお中止を命じなかったという点、これらの点につきましては調査の結果あらためて御説明をいたしたいと存じます。
  95. 小林進

    ○小林委員 ちょっと参考までにお尋ねしますけれども、あなたの前職は検事でいらっしゃったのかあるいは弁護士からでもこの局長におなりになったのか、ちょっとあなたの身分をお聞かせ願いたいのです。
  96. 鈴木信次郎

    ○鈴木(信)政府委員 自分のことになってまことに恐縮でありますが、私は旧時代長く裁判所の判事をしておりまして、新制度になりましたちょうど切りかえのときから法務省にまいりました。現在は人権擁護局長として法務事務官という名称をちょうだいいたしております。
  97. 小林進

    ○小林委員 私はそういうことも言っておいたほうがいいと思いますが、私ども会議員をやっておりますと実はこういうことが入ってきます。この人権擁護局ができました当初は、弁護士が局長とかあるいは地方における責任者に任命されたときは人権はよく守られた。最近はどうも人事が変わって検事等の身分のある方が責任者にすわられる。それからはどうも人権擁護の問題がはかばかしく進まない、こういうようなことを聞くのであります。私はその真偽はわかりませんけれども、私どものアンテナにも、どうも提訴せられた問題がはかばかしく進んでいないというような風評が入るのであります。そこで参考までにあなたが検事でいらっしゃったか弁護士でいらっしゃったかお尋ねしたわけでありますけれども、検事にあらず弁護士にあらず、前歴は判事を長くおやりになった、こういうことでございます。そこで、いまのお話では、裁判官らしい非常に固いすき間のないお返事がございました。私は、事実調査をいたしましてそれから結果を出しますというのでは、何もここに来ていただいてそんなことを貴重な時間をかけてお尋ねしなくたってよろしいのです。あなたも新聞をごらんになっているだろうし、提訴せられた書類の内容もお読みになっているだろうから、これに対して一つの所見というものを、子供じゃないのだから、メッセンジャーボーイじゃないのですから、局長ともなるならば、やはりそこにみずからの意見もあり、思想もあり、多年の経験に基づく所見も出てこなくちゃならぬ。私はそれを国民の立場からお尋ねしているわけであります。
  98. 鈴木信次郎

    ○鈴木(信)政府委員 先ほどもお答えいたしましたように、現在まだ申告があった段階でありまして、それでは真相はどうかという点につきまして私どもまだ調査が終了しておりませんから、的なことは申し上げかねますが、大体このような人体実験がはたして許されるかどうか、こういったことに関しまして、人体実験がすべて人権侵害であるというふうに断定することはできないと思います。しかしながら、いやしくも新薬を人体について実験するにつきましては、これはきわめて慎重な配慮が必要であろうと考えます。すなわち、おそらく薬でありますから、一定の治療目的を持って製造されたものであろうと思われますが、しかし、同時に、人体に対しましてどのような副作用があるか、これは動物実験を繰り返すこと、その他いろいろな方法によりまして、あらかじめ十分に研究調査をした上、その害がまずないということを確認することが第一であろうと思います。それからまた、万一生ずべき副作用に対する予防ないしは治療の態勢を整備しておくことが第二に必要であろうと思います。さらに第三番目に、被実験者、いわば実験の材料になる相手方に実験の実情を十分に説明いたしまして、完全な同意を求めること等の措置をとり、いささかたりとも生命身体に対して危険が予測せられるようなときは、絶対その実験は行なうべきものではない、かように考えておるわけでございます。学問の発達のために、場合によっては、あるいは人体実験が必要であるという場合があろうと思います。またお医者さんあるいは製薬関係の学者の方々で人類を救おうという非常な熱意を持ってこういう仕事に当たっていらっしゃる方もたくさんあると思うのでありますが、同時にやはりその対象となる人間を尊重するということがきわめて重要なことでございまして、どうしても人体実験をするという場合には、やはりただいま申し上げましたようなそういう配慮が絶対に必要であろう、かように考えます。またかような立場から現在、御指摘の事件につきまして調査を進め、一刻も早く結論を出したい、かように考えておる次第であります。
  99. 小林進

    ○小林委員 私はここでお尋ねしますけれども、現に熊崎薬務局長も先ほど答弁せられたように、人間に試薬を飲ます場合は、専門医の指導監督下に行なわなければならぬのは当然であろうと言われておる。ところが、今回の場合は専門医の指導監督下に行なわれていないのであります。学術課の佐々木信元課長が単に社員を集めて、そしてかぜの薬です、イタリアでは市販されているんだが、効果を確かめたいので飲んでください、副作用はありません、こう言っておる。これは業務局長、手続上手落ちがありませんか。現在のこの会社のやり方は、手落ちがあるでしょう。
  100. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 私が直接当時会社側から事情を聴取いたしましたのは、いまお話しになりました佐々木という課長じゃありませんで、たしか研究所長から直接聞いたことでございますので、ちょっとその辺は食い違いがあると思います。勅使河原という方が興和の研究所長でありまして、その人から、先ほど申し上げましたように、東北大学の臨床データでは大体有効だというふうな五、六十のデータが集まっておるが、なお知見例を集めたいという先生のほうの御希望もあって、それで社員にこれを頼んだというふうな話を私は聞いております。
  101. 小林進

    ○小林委員 そういたしますと、それは先生に頼まれて会社側がやったといっても、そのデータが六十、七十そろっているから、実際に人体実験をやるときにはだれもいなくてもいいということにはならないでしょう。それはそれであって、やはり実際に試薬を服用させたり人体実験をするときには、医師の監督下にやらなければならないということは当然だとあなたは言っているでしょう。ところが、いまの話の中では、研究所長が立ち会ったという話もなければ、医師が立ち会ったという話もない。それでは証明にならないじゃないですか。そうすると、そういうことをやらせたこと自体はやはり大きな手落ちがあったと見なければならぬかどうかということです。
  102. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 知見例を収集する場合に、医師の監督のもとに、医師の責任のもとに行なわれるということについては、これはむしろ当然のことでございまして、各大学病院あるいは研究機関においても、あらゆる場合に医師の責任のもとに知見例の収集が行なわれておるわけでございます。ただ、その前に申し上げたいことは、医師の責任のもとに行なわれるといった場合に、それが病院の中で行なわれるか、あるいは外で行なわれるかということにつきましては、いろいろの例があろうと思います。しかし、あくまでも医師の責任のもとに常に、不測の事故があった場合には、医師が全責任を負ってその治療なり回復をはかっていくということはもちろん当然でございまして、今回の興和の場合に、大学の先生が責任を負ってこの知見例の収集をやるということは事実上行なわれておったわけでございます。ただ、問題として、雇用関係にある会社の社員を使うということ自体が非常に問題ではないかということを私どもは直ちに感じまして、今後そういうことのないように厳重に注意をいたしたわけでございます。
  103. 小林進

    ○小林委員 あなたの説明を聞くと、ちょっとおかしい、そうすると、大学の先年がその場に立ち会わぬでも、全責任を負うて事後処置をする確約ならば、医者がいなくても、医者の指導監督下でなくても、これは監督下にあったと同じだから、薬会社には責任はない、手落ちはない、こういうことですね。いままでのあなたの説明はそういうことになりましょう。
  104. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 結論は、薬会社の責任の問題とかなんとか、そこまでいくかどうかについては十分検討しなければならない問題があると思いますが、ただ、委託を受けた研究機関、それから委託された会社側という特殊な関係のもとにおいて、医師の責任のもとに知見収集をするといった場合に、だれが責任を負うかという問題になった場合の法律的な問題があるわけでございまして、やはりその場合には委託された病院なり研究機関の医師たる者が責任を負うということになってくるわけでございます。ただ、その場合に、薬の種類によっていろいろと変わってくると私は思うわけでございますが、たとえば、結核とか、ガンとか、あるいはらいとかというふうに長期間服用しなければならないものにつきましては、これは途中で不測の事故が起こる可能性もなきにしもあらず、また長期間知見例を集めるために、医薬品という形でこれが市中に販売されても困るというふうな点で、私どもはこういう長期間服用しなければならぬものについては届け出をさせるという取り扱いをいたしておるわけでございますが、御指摘のような薬につきましては、これはおそらく短期間の服用で足りるというふうな考え方もございまして、医師のほうも大体副作用についてはそう心配がないというふうな判断を下したのではないかと考えて、それで会社側に委託したのではないか、こういうふうに私ども考えておるわけでございます。
  105. 小林進

    ○小林委員 これは重大なポイントだからいま一回聞きますが、あなたはガンと結核とらいをあげられた。それは届け出る必要がある。あとは届け出る必要はない。しかし、人間に試薬を飲ます際には専門医の指導監督下に行なわれなければならないのは当然である。このことはあなたも認めておられる。ところが、この場合は医者の監督指導下でなかったわけだ。そうでしょう。医者の監督下でなくて社員に楽を飲ませた。ではその責任はだれがとる。あなたのお話を聞くと、その責任は会社ではなくて、その指導監督に立ち会わなかった医者に責任がある。こういうふうにもあなたの説明は聞こえる。医者の責任だと言うのか。会社側の責任だと言うのか。その立ち会わなかった責任はどっちなんだということを、いま一ぺんはっきり言ってくれないか。私は頭が悪いからわからない。
  106. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 その点は私どもも、責任の所在につきましては非常に慎重に検討する必要があると思いまして、いまここでどちらということの即断をすることは、ちょっともう少し検討の時間を与えていただきたいと思います。
  107. 小林進

    ○小林委員 では人権擁護局長、いまの問題について、試薬を飲ませるときには必ず医者は立ち会っていなければならぬのか。当然立ち会うべきなのに立ち会っていないで、会社の何とかという課長が、剛作用がないからのみなさい言って、百数十名の人に薬を飲ました。それで事故が発生したわけです。どっちの責任とお考えになりますか。
  108. 鈴木信次郎

    ○鈴木(信)政府委員 その場の具体的な事実、ただいま御指摘のとおりかどうか、これはやはり事実を調査いたしまして、真実はこうだということの前提に立ってお答えいたしたいと思います。いろいろ関係も複雑なようでありますから、ここでただいま結論的に責任者はだれだとこう簡単に割り切ってお答えするのは、現在では適当でなかろう、かように考えます。
  109. 小林進

    ○小林委員 刑事局長もお見えになっているようでございまするが、本問題はもう先ほどから一時間有余応答をいたしておりますので、事件の全貌はお知りになっていると思います。これに対して、刑事責任が発生しないかどうか。これほどの被害者が起きているのは、刑事責任はないとおっしゃるのかどうか。私は刑事責任について、その存否の問題にからんで専門家の意見をお聞かせ願いたいと思います。
  110. 津田實

    ○津田政府委員 ただいまの具体的事案につきましては、もちろん事件として捜査をいたしておるわけではございません。私自身としては、本日承知したわけでございます。事件そのものといたしましては、人権擁護局に提訴がございまして、さしあたり人権擁護局で調査をすることになっておるようでございますが、抽象的な問題としてお答えをするとすれば、刑事責任を生ずる場合ももちろんあり得るというふうに考ております。あるいはそのこと自体、刑事責任を生ずること自体につきましては、いろいろ複雑な事実関係なり理屈があるわけでありますので、それを調査いたしました上でないと確たることは申し上げられませんけれども、まあ一番考えられるものとしては業務上過失傷害というものが考えられるのではないかというふうに考えております。
  111. 小林進

    ○小林委員 刑事局長ですから、それほど政治問題をお尋ねするわけにはいかないと思うけれども、今度の国会の中でしばしば論じられている問題はそれなのです。鶴見の鉄道事故から三井三池の大惨事から今回の夕張炭鉱の問題から、これはだれが考えたって、やっぱり管理者、経営者がいわゆる専門的なそういう管理処置を誤っているから事故が起きている。ところが、わが日本では、残念ながら、あなた方も含めて、そういう経営者の管理責任だとか注意責任だとか業務上の特別の注意事項に対する刑事責任というものを非常に軽視をしている。だから、日本の管理者や経営者というのは何百人人を殺したってそれに対する深い反省というものがない。彼らは、人を殺したあとに、あ、これは民事訴訟が起きてくる、あるいは損害賠償を取られて会社が赤字になるとか、あるいは治療費から入院費から家族の慰謝料も出さなければならぬから会社は損失を受けるとか、そういう考え方しか頭の中にない。人間のかえがたい命を失った、それに対する自分たちの刑事責任を問われるというふうな反省は一つもない。だから事故のあとが絶え間がないのです。私はあなた方のような専門家じゃないから、世界各国の刑法上の問題の罪の軽重をみんな知っているわけじゃないけれども、しかしいかにも日本の国の刑法も支配階級には実に都合よくできているということなんです。そのくせ、庶民階級が、先ほどからも言うように、若干自動車で人を殺したとか人をひいたというようなときには、ぐんぐん刑罰を加重していって、その妻が飢え、その子がひもじゅうて泣こうとも、遠慮会釈なくあなた方は刑事罰をぶっかけていくけれども、こういう経営者や資本家の罪なんというものは、やれ犯意がないの、事故がないの、過失がなければ罪にならないとかといったようなじょうずな理屈をあなた方のほうがつけてくれる。本人は刑法上のしろうとであってもあなた方がじょうずにつけてくれて何にも刑事責任を問わない。そして業務上の過失だとか業務上の致死なんというものも、これもまた実に軽い刑罰法規なんだ。ぼくら乱暴かもしれませんけれども、あれだけの大きなガスが発生したにもかかわらず、そのガスも規制しないで、国会でけつをはたかれた結果、ようやく鉱山監督局あたりが監督に行く。これはあぶないから少し規制したほうがよろしいでしょう。注意を受けた。それじゃ金がかかるからぼつぼつやりましょうかなんというときに、ばあっと起きて何十人、何百人がもう死んだ。そういうような事故が起きたその炭鉱の社長あたりをひとつ死刑にしてみろとぼくは言うのだ。そうすると炭鉱の事故はなくなりますよ。私は責任を持って、なくなりますと言います。ああいうような過重労働をやる労働者を痛めつけて、第二組合をつくったり、組合と組合と対立せしめたりしておかしな行政をやっているから鉄道の事故が起こるのだから、鉄道の総裁ぐらい死刑にしてみなさい。あしたから鉄道事故はなくなりますよ。断じてなくなる。そういうことに対するあなた方のものの考え方がいかにも——しかし、刑事局長だって、人権擁護局長だって、時の権力に使われているからしかたがない。あなた方もおまんまが大切だから、おまんまも食っていかなければならないからやむを得ないだろうけれども、その意味において、こういうような問題なんかも——一体社員に自由意思がありますか。だれが実験用の薬を飲ませられて喜んで飲む人がいますか。これは自由意思で飲んだとあなた方は判断されますか。刑事局長、どうです。こういうものを自由意思で喜んで飲んだとあなたは思われますか。
  112. 津田實

    ○津田政府委員 ただいまのお尋ねの自由意思で飲んだかどうかということでございますが、刑事的に申しますると、いわゆる脅迫その他のことによって飲んだか飲まないかというようなことによって判断するよりほかに方法はないわけであります。したがいまして、自分の利害得失を考えて飲むということになれば、そこに脅迫なり暴行なりというものはないということを言わざるを得ないわけです。したがいまして、その辺は具体的事実に即さないといけないわけです。ただ、どの程度の心理強制になればそれが脅迫になるかということが実際上の問題になる、それが法律問題になるというふうに申し上げるよりほかないと思います。
  113. 小林進

    ○小林委員 刑事局長、いま一度聞きますが、あなた方はこの問題を刑事問題としてお取り上げになりますか、なりませんか。いまのところはお取り上げになる意思はありませんか。これだけ聞いておきましょう。
  114. 津田實

    ○津田政府委員 本件につきましては、本日私は承知いたしたわけですが、検察庁におきましても、もちろんかような重要に取り上げられている問題でありますから十分関心を有しておると思うのであります。したがいまして、刑事事件として取り上げる端緒があれば当然刑事事件として捜査を開始するものというふうに考えております。法務省といたしましては、直接この問題について検察庁を指揮するということにはもちろんならないのですが、検察庁として十分関心を有していることは事実であるというふうに私は考えております。
  115. 小林進

    ○小林委員 ともかく国民は非常に重大なる関心を持って見ているのですから、あなた方はこの前のサリドマイドの問題から批判されているけれども、まだ検事局とか日本のそういう公益を守る機関においてこうした業務行政において峻厳なる措置をおやりになったということは残念ながら聞いていない。これもやはり、こういうことが次から次と起きてくる大きな間接的な原因の一つである。裁判所は別として、あなた方検事局なんというものは時の権力によって動く。検事局なんというのは、世論の動向を見ながら法律の運用に誤りなきを期さなければならないのだから、これくらい大きな事故が次から次と起きているんだから、つまらないわれわれ社会党なんかの金のない者の選挙違反なんかを追うのをやめて、こういうところをもう少しきちっとやって、人命を尊重するというような措置考えてもらわなければならぬと私は思う。私は強く要望いたしまして、私のほうではあなた方のやり方をひとつ見せてもらいますから、早急に措置してもらいたい。  それから次に、私は人権擁護局長に申し上げますが、この際は、こういうことで提訴いたしましたこの中村晴子さん、御承知のとおり、これはどこかの薬科大学を出て、薬剤師の身分をとって会社につとめられた。いま二十四歳ですけれども、この問題を人権擁護局に申し出たことに対して本人は非常に悩んでいるのですよ。これを申し出たことによって、彼女はあるいは職場を左遷されるんじゃないか、会社に冷遇されるんじゃないか、あるいはともすれば別個の措置を迫られるんではないかということを非常に心配いたしておるのでありますけれども、こういう問題をあなたに申し立ていたしました者の身分という関係を、あなたが一体どういうふうに擁護してくださるのか、擁護してくださる意思があるのかないのか、これを伺っておきたいと思うのであります。
  116. 鈴木信次郎

    ○鈴木(信)政府委員 人権侵犯の事実ありとして提訴した結果、会社におきまして本人に対して不利益な差別待遇をするというふうなことがもしあるといたしますと、これがまた別個に問題になるのでありまして、もしそういうことがあれば、これは私どもとしてもとうてい放置することができない問題であると考えております。
  117. 小林進

    ○小林委員 その点は私のほうからも強くお願いしておきたいと思うのでありまするけれども、この申し立てをすることについて、本人はそれを拒否した。外部の人が、こういうことは重大問題だからあなたは決意をしなさいと言って決意を促したときにも、その本人中村晴子さんだけではなくて、同じように病院へ入院加療している仲間の諸君が、全部といっていいくらい、ほとんどの人がやめなさい、これ以上事件を大きくしたら会社の圧力を受けて治療費ももらえなくなるし、われわれが治療に通院することも困難になってくるだろう、会社はしっぺ返しをして治療費もくれなくなる、通院もさせなくなるだろう、こういう危険があるから、あなた、なるべくやめなさいと仲間の多くがこれをとめたというんだ。これが、いわゆる雇われる者と雇っている者との精神的苦痛なんですよ。こういうところをよく見てもらわなければならぬ。こういう大きな問題で提訴をする、申し立てをする者の個人的心境などというものは、実に聞くも涙の物語である。ほんとうに勇気があって、しかも外部の人が大丈夫だからと言う、こういう大きな努力がなければ、なかなか申し立てばできないのですよ。そういうところをあなた方よく見てくれないと、結局この中村さんという人は社会的に殺されてしまう。第一、仲間から、おまえ、そんなことを言うな、われわれに迷惑がかかってくるではないかと、まずはたの諸君から苦情を申し込まれる危険もあるわけであります。絶対あなた方はそんなことがないように責任を持ってくれますか、擁護局長
  118. 鈴木信次郎

    ○鈴木(信)政府委員 ただいま御指摘の点につきましては、十分に注意をしながらこの事件の調査を進めていきたいと思っております。
  119. 小林進

    ○小林委員 まだ問題が幾つも残っておるようでございますけれども、先ほどから申し上げておりますように、会社が一体こういう副作用の危険性を承知しておきながら社員に飲ましたかどうかということは、まだきょうの討論の中に明らかになっておりません。また、いまのキセナラミンは人体に副作用がある、肝炎を起こすということをあらゆる学界の専門家がそれぞれの機関誌に半年前から発表をいたしておるにかかわらず、一企業会社が利益追求のために自分に都合がいい——と言っては悪いけれども、一学者に実験をやらせたということに対して、厚生省としてはその実験を見た結果、現法規のもとにおいては事故が起こるまでは何ら措置することができない、野放しにしておくわけではないが、というように先ほどからの御答弁にもありましたけれども、こんなことは、私どもはそうですかと聞きっぱなしにしておくわけにいきません。この問題は、また期日を改めてどうしても解決をしていかなければならない問題であると思います。  政務次官、あなたは副大臣でありますから、この新薬実験の問題についてもよく了承しておられると思っておりますけれども、現在の企業家と学者だけにまかして新薬を次から次へと実験をさせて販売せしめる、単に厚生省は届け出を待って、あとは行く末をながめているという今日の薬の実験方式、薬務行政のあり方、これでよろしいと考えておりますか、あなたの所見を承りたいのです。
  120. 徳永正利

    ○徳永政府委員 この問題につきましては、私、古くからの経過をつまびらかにしておりませんけれども、ただいまおっしゃいましたように、こういう新薬をしかも副作用の多いといわれているような新薬を、そういう状況のもとに人体実験をやるということは不注意きわまるものだと思います。少なくとも専門医の監督のもとに、また飲ませる前にも十分からだを調査して、一人おなくなりになったという事実があるようでありますけれども、これもあとから前の病気だとかあるいはその薬の副作用だとか、いろいろ議論が分かれているようでありますが、前から、そういうような人体実験をやるようなときには、少なくも健全なからだに健全な検査のもとに、専門医が十分配慮をしてやるべきものだと私は思っております。したがいまして、直ちに薬事法をいまここで改正するのかどうかというような大問題につきましては、なおよく検討を重ねなければならぬと思いますが、今日、そういうような事態が発生したことに対処いたしまして、今後は十分指導あるいは監督を厳重にしてまいらなければならぬと存じております。
  121. 小林進

    ○小林委員 現在、いまも言うように、あまり厚生省と薬屋が密着し過ぎている。密着し過ぎているところに問題の発生の間接的な原因がある。しかし刑法に触れる問題じゃないのだ。それから薬屋というものは、やはり利益を追求するために、お医者さんにも誘惑の魔の手を出し過ぎるのです。しかし、医者は教養もあり、良識もあるから、このような薬屋の誘惑には負けないと私は信じておりますけれども、非常に誘惑を出す。そういうところに問題発生の原因があるのです。私は、時間がありませんから簡略にしますけれども、今度も十七人の人たちがみな入院をいたしておりますが、その入院をいたしました病院も全部見ております。やはりそういう病院、伝研の付属病院だとかあるいは東医歯大学の付属病院だとか、日大の付属、中野組合病院も慶応病院も入っておりますけれども、こういう病院の先生方のところに会社からみんなつけ届けがしてある。それはわずかなものといえばわずかなものだし、またそれは感謝の意味で、決して贈収賄に該当するものではございません。また研究を依頼した機関にも、それぞれ金がみないっております。それも買収供応だとか、先生の良心を眠らせるような、何百万円とか何千万円という金ではございません。やはり自分たちのかわいい社員を治療してもらった、手当てをしてもらった御礼の形でございますという程度のものだろうけれども、そういう会社のつけ届けが、だんだん密着していくのですよ。密着していく一つの危険がある。人間というものは動物ですから、ものをもらっておこる者はない、ものを食わしてもらっておこる者はない、金をもらっておこる者はない。こういう人間の弱点を、いまの薬屋あたりの資本家たちは、片っ方は厚生省のお役人のほうに対して——お役人は、私はわいろをもらったとは言わない、特に熊崎さんという方は、石の地蔵さんみたいにかたい男ですからいいが、そういう人たちには退職後の就職の道を薬屋が開いてやったり、片方、依頼するお医者さんのほうには金銭を使ったり、また自分たちの人体実験で入ったその病人の手当てをしてくれるお医者さんにも、くまなく行き届いた礼をしておる。ということになってくると、なかなかこの真相というものはとらえがたいなという感をわれわれをして深うせしめるのです。だから私は、こういう点が、人命に関する薬の問題だし、この実験問題なんかも、こういう悪い形は断ち切るというところまで、薬事法の改正か厚生行政改正か、抜本的な形でいかなければ、私は問題の解決にならないと思うのです。それをどうですか、あなた、まだおやりにならないで、いまのように事故が起きたたびに会社を呼んで、厳重な注意をするという形でいいのか。それであなたは一体いままでの形でいいとお考えになっているのかどうか、副大臣お尋ねしているのです。
  122. 徳永正利

    ○徳永政府委員 こういう事件が現実に起きておるのでございますから、決して私はこういう形がいいとは考えておりません。今後は十分検討して、そういうようなことは絶滅を期さなければいかぬと思っております。
  123. 小林進

    ○小林委員 もう時間も過ぎましたからやめますけれども、繰り返して言いますが、いままでは、三十八年の十月からやみに葬られてきたじゃないですか。これは当時から、こんなに大きく新聞に出ている。五段抜きで出ているが、どうもあなた方はそれをやみに葬ってきたじゃないか。たまたま一社員が、二十四歳の中村晴子さんという人が、はたに責められて、——それもいやだ、こんなことを申し立てれば職場も失うし、将来も影響あるからいやだと言うけれども、はたに気がついた人があって、これは将来にわたる、国民全般に関する問題だから、あなたが犠牲になって申し立ててくれというので、ようやく一年半もたってこの問題が表面化してきた。永山の一角と言ったらお気に召さぬかもしれないが、こういう勇気のある人がいなければ、みんなやみに葬られていくのです。私はそれを言うのです。これは人権擁護局長に言うのです。こういうことで被害を受けた者がすなおな気持ちで、いつでもあなた方のところに提訴できるような、そういうう国民の権利がいつでも守られているという形を、あなた方は人権擁護局としてつくっておかなければいけません。  刑事局長、あなたにもお願いしたいのですよ、ほんとうに。先ほども言うように、人の命にかかわらぬようなことばかり一生懸命になって人を追い回したりしておいでになる。それもやはり法治国家であれば法律上やらなければならぬでしょうけれども、こういう人命に関する問題をいま少し真剣に考えていただきたいと思うのです。私は、あなた方の動きを見ております。特に、厚生省にお願いいたしますけれども、これは一事件じゃないのです。一年半も埋もれていて、やっと一人の女が勇気を持って動いたから表面化したという事実を考えていただいて、どうかこういうことが二度と繰り返されないように法改正と、行政の改革をやってください。おやりにならないのですか、あなた。いま答えられなければ、またあしたでもお聞きしますが、やってくださるのか、やってくださらないのか、一体どうなんですか。
  124. 熊崎正夫

    ○熊崎政府委員 いろいろ御注意を受けまして、私どもとしましては、従来の薬務行政につきまして、各方面よりいろいろと御批判をいただいておる点もよく部内で検討いたしまして、勇断をもって薬務行政の正しい形を進めるべく、私どもは十分今後とも努力をしてまいりたいと思います。  ただ一言、私どもと製薬会社との関係その他につきまして、いろいろ御批判はあろうとは思いますけれども、私どもとしては、そういうことの絶対にないように日ごろから注意をいたしておりますし、また、薬会社におきましても、いろいろ薬会社には種類がございますけれども、少なくとも新薬メーカーといったものは、企業利潤を追求しなければならぬという宿命とともに、やはり生命を尊重する、そのための薬を製造していくということで、日夜まじめにつとめておる会社もあるわけでございますから、この点はいろいろと事故があるつど、私どもは十分警告につとめるとともに、薬務行政の正しい推進に大いに今後つとめてまいりたいと思います。
  125. 小林進

    ○小林委員 いま局長の答弁が出ましたから、私も一言しゃべりますけれども、私は、何も技官が薬会社と不正に密着しておるというのじゃない。ただ私がいまも言うように、先ほどあなたが証明したように、二十八年からの統計で、四代の薬務局長が全部薬屋に重役として入っておる。監視課長が五代のうち、二代もやはり薬屋の重役に入っており、あとの二人は薬関係の団体に就職を得ておるという形がある限りは、ほんとうに薬に対して厳格な指導監督はできようがないというのです。人間の弱さです。きょうまでは厳格に薬屋の行政を監督する、あす厚生省を出ていくときには、その薬屋の重役に入るという、そんなに人間は使いわけできるものじゃないと私は思う。それを言っておるのです。その行為を断ち切るか、さもなければ薬務局の課長や何かの監督権や、薬屋に対して新しい薬の実験を許可、認可をするというような行政は、別個に離してしまうというようなことをしなければ、いかに局長がうまいことを言っても、そういう人事的な、いままで薬屋の重役に行った厚生省の役人が何十人、何百人いるのですから——もっとも薬剤の技官なんていうものは、定年退職後、行くところがないから、薬屋に行く。それはまあ、やむを得ないが、しかし、この因縁を断ち切らぬ以上は、この弊害は絶対に直らぬと言っておる。これは不正があると言っておるのじゃないのです。これを断ち切るか、さもなければその薬屋等の監視、監督を根本的に変えなければならぬということを育っておる。それからいま一つは、製薬会社も利益追求のほかに、公に奉仕するという考え方でやっている製薬会社もあると、薬務局長、薬屋の代弁をするようなことを言ったけれども、そんなことがあるかないか、ここに薬屋の代表を十人でも二十人でも来てもらってやろうじゃないですか。これはうちの委員長にもお願いしておきますけれども、薬屋を参考人に呼んで薬屋の実績やその他、この原因がどこにあるか、薬屋の側からもこれを聞くようにしたい。委員長委員長をわずらわしましたけれども、ともかく人命に関する重大問題でございますので、きょうは主として官側の意見を聞きましたが、この問題については、民間の営利会社の主張もあろうと思いますので、今度は薬屋の代表を多数呼んで、民間側の意見を聞くように特別のお計らいを賜わりますよう切に懇願をいたしまして、私の質問を終わることにいたします。
  126. 松澤雄藏

    松澤委員長 本日はこの程度にとどめ、次会は明二十六日午前十時より開会することとし、これにて散会いたします。    午後五時一分散会