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加藤シヅエ君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題になっております本
条約の
承認に
賛成するものでございます。
いまさらここに繰り返して申し上げるまでもないことでございますけれども、私ども
日本民族が、広島に、長崎に、
原爆の洗礼を受けまして、
被爆犠牲者の苦悩は、これは単なる
戦争の惨害の程度をはるかに越えた、
人類そのものを
破滅に追い込む人道問題として、これを深刻に体験し、しかも、その後に至っても、
水爆実験による
死の灰の
犠牲者をも出し、
原爆に対する
恐怖をわが肌によって感じ、この
脅威を取り除くことについては、
国民の総力をあげての熱意が表明されているのでございます。したがって、
日本国民としては、本
条約が、後に述べられるところの数点の欠点、
不満はあるといたしましても、われわれの
悲願達成への大きな一歩前進として喜ばなければならないと思うのでございます。
以下、順を追って
賛成の
理由をあげてまいりたいと思います。
第一に、本
条約が、昨年八月五月、
モスクワにおいて
米英ソ三国によって
署名されたことは、第二次
世界戦争後、実に二十年という長きにわたって続いた
緊張が緩和され、
東西両
陣営が「
核戦争は絶対に避けなければならぬ」という
決意をこの
条約によって表明し、
平和共存への
努力こそ、今日の
時代に課せられた
国際間の
共通の
目標であり、また、その
目標に向かって進むことを
世界に宣言したことでございます。このことは、同時に、際限ない
核兵器の
開発と製造によってばく大な国費を浪費してきた苦い経験から脱皮して、
自国の
国民の
防衛費の負担を軽減し、国内の
経済的繁栄をはかることをも、可能ならしめるものであります。
実に長い間繰り返してきた
東西間の「
相互不信の
ことばのやり取りをする
時代」、これを踏み越えて、「
東西間の
信頼への道」に接近していこうとする
契機を、この
条約がもたらしたことは、すでに、この新しい機運のもとに、米国の小麦の
対ソ輸出の一例に見られる
東西貿易促進の傾向、ひいては、
わが国の
対ソ、対
中共貿易の
促進にも自信と根拠を与えることになってきた事実にも見られるのであります。そればかりでなく、今日、
世界的に存在する
東西ならぬ南北の問題、すなわち、
国際間の文化的、
経済的格差是正のために、低
開発国は援助されなければならない、その
目的のためにも、もっと本格的な
取り組み方ができるようになるであろうということも、本
条約締結がもたらす明るい面と考えられます。
本
条約成立にあたって私どもが考えられることは、
破壊はやすく、建設には
忍耐と
努力の積み重ねが要求されるということであります。
顧みれば、第二次
世界戦争が、
原爆投下による人間の
大量殺戮によって終止符を打ったという事実は、
戦勝国、
戦敗国の境なく、
原爆に対する絶望的な
恐怖を感ぜしめたのであります。それですから、
国連においても、すでに
昭和二十一年、
原子兵器を含む
原子力の
国際管理の問題が取り上げられておりましたが、一向に誠意ある
解決の
方法は案出されないままに年月は流れ、ついに、一昨年の秋の
キューバ事件の際には、
原爆炸裂の命令のボタンはまさに押されんとし、
世界じゅうの人々の心臓を寒からしめましたことは、私
たちの記憶に新たなところでございます。しかし、この
世界戦争勃発のせとぎわに立った教訓は、
米ソ両国の
首脳をして、
世界は好むと好まざるにかかわらず
平和共存への道に転換せざるを得ないことを悟らせ、まず、偶発的な
戦争勃発を防止するために、
米ソ両国首脳間に、緊急の際、
話し合いのできる
電話設備が設けられ、次いで三十八年の四月には、
米英首脳と
フルシチョフ・
ソ連首相との書簡の交換となり、六月十日には、故
ケネディ米大統領の
アメリカン大学における
演説に見られる「
高級核停会談開催」の
決意表明となり、そうして、続いて七月二日、
フルシチョフ首相の同様な
決意は、
東ベルリンにおける
演説によって表明され、八月五日、ついに
モスクワにおける三国の
署名と相なり、現在までにすでに百九カ国が
署名するに至ったことは、本
条約がいかなる苦難な経路をたどってきたか、また、いかに重要な
意義を持つ
東西間の
政治条約であるかが、うかがわれるのであります。
さらに、このようにして醸成された
平和共存ムードは、昨年十一月十七日、
国連総会において、「
核兵器など
大量破壊兵器の宇宙軌道打ち上げ
禁止」の決議がなされ、
人工衛星等を利用しての
核実験も
禁止されることになりました。さらにまた、本年四月二十日、
ジョンソン米大統領、
フルシチョフ・
ソ連首相は、同時に
核分裂物質の
生産の削減を声明しております。かく見てまいりましても、本
条約が
人類の
平和共存への道を前進させる城門でもあったことについて、われわれは高く評価するものであります。
第二の
賛成の
理由といたしまして、この
条約が直ちに
軍備縮小であるとは申されませんが、従来全く
停とん状態になっておりました
軍備縮小の
交渉に光明と希望を与えたことであります。
全面完全軍縮の
達成は、われわれの強く希望するところでありますが、
科学兵器の進歩と
国際情勢の
複雑性とは、
前途に多大の困難が控えていることを見ないわけにはまいりません。けれども、この
条約が
全面完全軍縮達成に向かって、大きく、強く、ものを言っているという点で、支持さるべきものと考えます。
第三に、この
条約実施によって、全
世界に
放射能をまき散らす害毒を食いとめるということであります。すでに、この
条約の
締結の前後から
米英ソ三国はその
実験を
停止したため、
世界にまき散らされる
放射能は著しく減ってきており、特に、地理的に
東西両
陣営の間に位して、
死の灰の谷間にあるとして脅かされてきた
日本といたしては、この不安から解除されることを歓迎すべきことだと思います。
以上は、わが党として、本
条約の
成立に
賛成するおもなる
理由でありますが、口を開けば平和、
戦争反対と叫んでいる
日本共産党が、本
条約に
反対しているのは、はなはだ遺憾であり、(
拍手)また、その
反対理由としてあげられているものは、どれもこれも、われわれ
日本人が理解に苦しむものであり、この一握りの
反対者のために本
会議における満場一致の
賛成が得られないことは、返す返すも残念なことであり、
大衆政党、
革新陣営の看板が泣くであろうことを考えて、まことに遺憾しごくでございます。
共産党のために惜しむものであります。真に
人類の福祉をこいねがうならば、
核兵器を伴う
戦争をすることは、どこの国がどんな
理由でやろうと危険であり、
人類の
破滅を意味することは、子供にもわかる理屈であります。ある特定の国がやる
戦争に限って聖戦であり、正当化されるべき
戦争であるなどという理論は、イデオロギーをとうとぶ
政党として、全く矛盾きわまるものであります。本
条約に
反対することは、すなわち
核実験を野放しにし、
大国間の
核実験製造競争、
放射能による空気の汚染をも放任してかまわないということになり、全
世界の平和への願望を裏切ることになり、
共産党がかかる考え方を持っているということに、私は強く反省を求めるものであります。
以上述べましたところは、本
条約を
賛成する
理由としてあげられたものですが、本
条約は長い間の
東西両
陣営の
緊張と苦悩の陣痛の中に生み出されたものでありますから、その間の事情を察し得られないわけではありませんが、でき上がったものが完全でないことは、本
条約五ヵ条を
審議する際、多くの同僚議員から指摘されたところであります。
その第一として、本
条約は、
大気圏内、
宇宙空間及び
水中における
核兵器の
実験を
禁止しておりますが、
地下におけるそれを含んでいないことは、不完全と申さなければなりません。現に、
アメリカがこの
条約を
締結、批准後、たびたび
地下実験を行ない、かつ、
大気圏内実験をいつでも再開できる
準備を公然と進めていると言っていたことは、
大統領選挙を目前に控えた国内事情にもよることかと解釈できないわけではありませんが、この
条約の不完全さについて一まつの不安を覚えることは、いなめません。
次に欠点の第二は、本
条約の期限は無期限とされておりますが、第四条に、異常な事態が
自国の至高の
利益を危うくすると認められたときは、三ヵ月の
予告をして脱退することができるという点であります。
このような不完全さを持つ
条約ではありますが、われわれ社会党は、前に述べました
理由に基づきまして、本
条約は
承認すべきものと認め、同時に、この際、
政府に対し、次の数点を要望しておかなければならないと思います。
その
一つは、本
条約はすでに
世界百九ヵ国の
署名を得たにもかかわらず、いまだに
署名せず、しかも、いまなお
大気圏において
核実験を行なっている国、及び行なおうと
計画している国に対しては、直ちにかかる意図を
停止するよう勧告すること、
その二は、他の
条約署名国とともに、
国連の場を通じて、あるいは
軍縮委員会と協力して、完全な
禁止条約の
成立に向かって率先
努力すること、
その三は、
フランスが、もし近き将来
実験をしようとしているならば、これをやめさせるように働きかけること、
フランス、中国、その他の未調印国に
署名参加を求めるための活動をすること、
核
拡散防止のための
努力をすること、
アジアにおける
非核武装地帯を設けるために
努力すること、
などであります。
最後に、
日本はこの際、その地理的、工業力的、民族的、あらゆる角度から見て、どうしても
軍縮委員会に
参加しなければならない使命を負った国として、その
参加が
実現するよう各国に働きかけ、
日本国憲法が高らかにうたい上げている平和への念願、ただ
一つの被爆国としての悲しき経験、そこから得たとうとき教訓、その上に立った積極的な
軍備縮小へのフォーミュラーを研究して、その
実現のために活動を始めることを、この際、
政府に強く要望して、本
条約に
賛成するものでございます。(
拍手)