○大矢正君 私は、ただいま
趣旨説明のありました
特定産業振興臨時措置法案について、
日本社会党を代表し、池田
総理並びに
関係各大臣に、以下若干の
質疑を行ないたいと存じます。
御承知のとおり、この
法律案は昨年の第四十三
国会に
提出をされ、通産省の積極的な
運動にもかかわらずその成立を見ることができず、引き続き第四十四
国会にも
提出をされましたが、これまた同様の結果となり、ここに三たび目の
提出という、他にあまり類を見ない難航を重ねている、いわくつきの
法案であります。本
法案がなぜこのような取り扱いを受けなければならなかったかといいますれば、まず第一に、この
法案はあまりにも多くの欠陥を持ち、その
運用を一歩誤りまするならば、中小企業の存立を危うくし、
一般消費者の利益をそこね、かつ
労働者の首切りと合理化を招くからであります。また、第二に言えることは、この
法案の
対象と目される業種及び金融界が、この
法律をよりどころとして行なわれる行政が官僚統制の
傾向を生み出し、このことがひいては企業から自主性を奪うのではないかという不安からくる反対意見が強かったからであろうと思うのであります。最近、ある雑誌に、「特振法は運を天にまかせる以外にない」、言いかえるならば、積極的な
努力をしてまでこの
法案を通す気持はすでに失われているかのごとき通産大臣の心境の表明がしるされておりましたが、まさにこのことが、先ほど来の反対意見の強さを物語るものであります。ここに三たび目の
提出を試みた通産官僚の執念と独善は、池田
総理を頂点とする官僚日本の中にありましても、その最たるものであると言わなければなりません。すでに本院において
質疑が行なわれた
法律案ではありますが、あらためて
政府の所信をただしたいと
考えます。
まず第一に質問をしなければならないことは、この
法律案が
総理の公約に矛盾をするのではないかということであります。本
法律案が、開放経済に対処するための国際競争力
強化の美名に隠れて、特定産業の独占体制を強め、
一般消費者の唯一のとりでとも言うべき独禁法にまたまた風穴をあけ、これを骨抜きにしようとするものであることは申すまでもないところであります。また、これら独占体によって形成される管理価格が、すでに存在している他の管理価格と相まって、ただでさえ上昇
傾向にある
わが国の物価水準の上昇に拍車をかけ、本来下げるべき価格を下げないばかりか、むしろ下ささえの役割りを果たすであろうことは、想像にかたくないのであります。独禁法の骨抜き、管理価格の拡大は、
一般消費者や
労働者の生活に重大な脅威を与え、中小企業に対しても同様にそのしわを直接間接に波及させ、企業の存立を危うくすることは、当然予想されるところであります。なおまた
政府は、この
法案が成立を見なければ、独禁法自体に手をつけ、これを全面的に後退させるための
法改正をも
考えているといわれております。このような立場から見ますると、先般の総選挙で
総理が公約をした高度の福祉
国家とは、大企業や一部産業界の育成のためのものであると疑われてもいたし方がありません。もしこの
法律案が
ほんとうに、力の弱い中小企業者、
一般消費者、
労働者に犠牲をしいるものでないとするならば、どのようにしてこの
法律から生ずる独占寡占の弊害をチェックしようとするのか、
お答えを願いたいのであります。この際、ただいまの質問に対する答弁とあわせて、
総理の経済政策の理念及び本
法案の価値について
お答えをいただければ幸いであります。
次に承りたいことは、本
法案が意図している、いわゆる官民協調方式の実効についてであります。
政府、産業界、金融界が、同じ場でそれぞれの主張や見解の突き合わせを行ない、産業のあるべき姿に方向づけをする官民協調方式は、この
法案によりますと、通産を主にする主務大臣としての通産大臣、大蔵大臣、産業界代表、金融界代表の四者討議、主務大臣と産業界の二者合意という形で進められるようであります。この協調方式については、民間側の多くが、形を変えた官僚統制だと批判し、産業界では、業界の自主調整にまかせよという声が、依然として大きいのであります。官僚が統制を好み、民間業界が官僚の前には弱いという悲しむべき習性が、いまだ
わが国においては牢固として抜きがたいものがあることは、
総理自身がよく御存じのことであろうと思います。このことを
考えますると、
政府の苦心の作である官民協調方式は、官僚に主導権を握らせる官僚独善方式になるか、あるいは産業界と通産省の共同謀議に終始し、大蔵大臣や金融界は、単に形式だけで実質的には何ら協調しない事態も容易に想定されるのであります。また、官民協調方式といいながら、
労働者代表を入れることを明記しなかったことは、まことに片手落ちではないかとも思われるのでありますが、
内閣の統括者としての
総理のお
考えをこの際承っておきたいと思います。
次に、通産大臣にお伺いをいたします。
趣旨説明にもありましたとおり、本
法案は、いわゆる成長産業といわれるものに対し、各種の共同
行為、すなわちカルテル
行為を認めることにより、過当競争を排し、他面、企業規模の適正化の美名に隠れて企業の集中合併を促進することにより、業種の寡占体制をつくり上げようとするものであります。そこで、もちろん私は寡占体制そのものに反対でありますが、かりに寡占体制がしかれたとしても、それがはたして国際競争力の
強化に役立つものなのかどうか、国際的な競争に勝てるものなのかどうか、まずお伺いをいたしたいと思います。
次に質問をいたしたいことは、企業の適正規模が即生産体制の適正規模なりやいなやということとあわせて、この
法律の存在意義についてであります。今日望ましいことは、少品種大量生産であります。ところが、
わが国では、企業規模だけは大きくとも、その企業が多品種少量生産という最悪の生産体制をとっていることが多いのであります。
法案の候補業種である自動車がその最たるもので、有機化学や特殊鋼も、程度の差こそあれ、その例に漏れないのであります。通産省としては、この
法案によって企業の寡占体制をつくり、何とか少品種大量生産の形に持っていきたいようでありますが、企業はみずからの判断と業界内の事情で必ずしもこういう生産体制をとることを好まず、また、
法案の適用
対象としての申請を行なわない場合も
考えられるのであります。こうなりますると、この
法案の存在意義は全くなくなってしまいますが、そのような場合いかがなされるおつもりか、
お答えをいただきたいのであります。
次にお尋ねをしたいことは、いままで申し述べたような寡占体制がもしつくられた場合、中小企業の利益を不当に侵害するのではないかという懸念であります。
政府は、中小企業基本法をはじめ、一連の中小企業
対策をもって、中小企業の体質改善が進みつつあると強調しているようであります。しかし、中小企業の近代化は、現在の
政府の方針をもってしてはなお多くの時間を必要とし、特定産業の寡占体制の確立よりは、はるかに長い年月がかかると言わなければなりません。もし下請のほうが近代化されないうちに親会社が単一巨大になってしまいますれば、いまでさえ親会社対下請企業の危険な
関係は、さらに深刻な様相を露呈するのではないでしょうか。この
法案の
対象業種を見ましても、自動車工業と下請中小部品工業、有機化学では原材料メーカーと中小需要業者、また、特殊鋼等の業界で同じ業界内に併存する大企業と中小企業等、それぞれの業態においては、多少の相違はあるとしても、大企業の大幅なカルテル
行為と合併により、中小企業のあるものは合理化の名のもとに買いたたかれ、あるものは管理価格の支配下に原料高の製品安に悩み、また、あるものはようやく築き上げたシェアを食い荒らされる等、はなはだ憂うべき事態の起こる可能性がきわめて大きいのであります。弱肉強食は資本主義経済の常とはいえ、さらにこれを助長する本
法案は、まさしく悪法中の悪法と言わなければなりません。私の申し上げる不安危惧が、もし、ないとするならば、この際その対処策を明らかにしていただきたいと思うのであります。
次の質問は、外資導入と本
法案との関連についてであります。貿易の自由化、資本
取引の自由化見込み等を通じ、最近、外資の導入はより積極的に進められようとしております。外資の
わが国への進出は、たとえば自動車におけるノック・ダウン方式とか、石油精製や石油化学に見られる系列化等、まことに顕著なものがあります。そこで、このような外資の
わが国へのなだれ込みが出てまいりますれば、当然この
法案がねらう合併や提携が阻害をされ、
わが国の産業秩序が必要以上に撹乱されるであろうことは明白であります。また、中小企業への影響も見のがすことはできません。通産省では、外資
法等によってスクリーンをかけ、外資の選別をしようといたしておりますが、世界経済の自由化方向と関連して、外資に対しどの程度の抵抗と選別ができるのか、また、その際の選別の基準をどこに置くのか、この際お伺いをいたしたいと思います。
次に、大蔵大臣に伺います。
わが国の産業界に過当競争を招来した
責任は、系列融資方式を中心とする銀行と企業の癒着
関係にあると言われております。本
法案の立案過程において反対した全銀協の言い分は、
政府の資金統制や融資命令的なものを予期したからだと言われております。それは、従来の融資方式をくずされたくなかったからだと思います。
法案はその意をくんだのでありましょうか。金融界の自主性を尊重しつつできる限りの支援をさせるという
趣旨の、全くの宣言的な
規定を置いているにすぎません。この点、
法案の意図するところに対し、銀行側の協力
責任はきわめて弱いと言わなければなりません。系列融資や情実融資の多い
実情からして、この
法案の
規定のみで、はたして銀行側の協力が得られるかどうか、大臣の所信を承りたいと思うのであります。
次に、経済企画庁長官にお尋ねをいたします。
本
法律案は、その
目的に、「貿易の自由化等に」対処し、「生産又は経営の規模の適正化を通じ産業活動を効率化するため」とあります。