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亀田得治君 私は、
日本社会党を代表し、ただいま議題となりました
行政事件訴訟法案(以下本
法案という)外一件につき、
反対するものであります。
本
法案は、現在の
行政事件訴訟特例法(以下、単に現行法という)にとってかわるものであります。私たちも、現行法が決して完全なものでないことを認めるのでありますが、しかし、現行法は、戦前の行政裁判
制度を根本的に改め、
行政権による侵害に対し国民の権利を擁護するために果たした役割は非常に大きいのであります。したがって、たとえ現行法を改めるとしても、その特徴は十分これを保持しながら改正作業を行なうべきであります。しかるに、本
法案は必ずしもそのようなはっきりした態度をとっていないのであり、かえって
反対に、
行政権のために国民の権利を抑制する方向すら示している点があるのであります。以下、そのおもな点につき、具体的に論及してみたいと思うのであります。第一に、現行法の
総理大臣の
異議の
制度を存続しようとしている点であります。本
法案の二十五条によると、行政
処分によって
法律上の利益を侵害された者が、その
取り消しを求めて訴えを提起しても、行政
処分の効力、
処分の執行等は当然には停止しないのであります。しかし、そのままに放置したのでは、提訴者に取り返しのつかぬ事態になると思われる場合には、一定の
要件のもとに、
裁判所は行政
処分の効力、
処分の執行等を一時停止することができるとしておるのであります。ところが、本
法案二十七条によると、
内閣総理大臣が
公共の
福祉に重大な
影響ありと考える場合、この
執行停止に対し
異議を述べることを許しておるのであり、その
異議が出ると、
裁判所はそれに拘束されて、
執行停止することができず、また、すでに
執行停止しておるときは、それを取り消さねばならぬことになるのであります。元来、二十五条によって
執行停止するにあたっても、
行政庁は
意見を述べる機会を与えられており、
裁判所も
公共の
福祉という点も
考慮しながら決定するのであります。しかも、
裁判所の決定に対しては、即時抗告の道も開かれておるのであって、
行政庁といえ
ども、この裁判のルールに従って主張すべきものであります。しかるに、二十七条のごとき
規定を置き、有無を言わさず裁判を拘束することは、全く筋違いでありまして、このような
制度を存続することは、三権分立の国政の基本的秩序を乱るものであります。元来、このような
制度は、世界中どこにも見られないものであります。
行政権優位の戦前の
日本の行政裁判
制度にすらなかったものであります。このような
制度が現行法に導入されたのは、戦後の特殊
事情によるものでありまして、当時、
日本側で立案いたしました
行政事件訴訟特例
法案は数種ありましたが、そのいずれにもこの
制度は入っておりません。ところが、昭和二十三年二月に入り、国会提出を前に、その
法案について
日本側とGHQとの間で
意見交換が行なわれたのでありますが、その際、GHQ側からこの
制度を強く持ち出されたのであります。GHQは、
裁判所の
判断で占領政策が妨害されることをおそれたのであります。
日本側は、
司法権に対する侵害になるとして強く
反対し、何回も交渉した結果、らちがあかずに、ついに押し切られてしまったのであります。現行法を改正するとするならば、そのような経過で生まれたこの
制度こそ、まっ先に廃止すべきであると考えます。しかるに、本
法案は、この異例とも言うべき
制度を存続するばかりでなく、ある点では、たとえば
裁判所の決定後にも
総理大臣の
異議を出し得る点等では、一そうその
制度を強化しておるのでありまして、はなはだしく不当と言わねばなりません。
次に問題になるのは、行政
訴訟と行政上の審査請求との関係であります。御承知のとおり、現行法は原則として訴願前置主義をとっております。すなわち、訴願など、
行政庁に対する不服申し立ての
方法が、ある場合には、その
方法を用いた後でなければ行政
訴訟を提起できないとしておるのであります。しかしながら、
行政権偏重のわが国の実際に徴するに、訴願などの
方法で国民の権利が救済されたことは少ないのであり、そこで、本
法案は、第八条において、行政上の審査請求と行政
訴訟とを同時並行的に起工してもよし、あるいはいずれを先にし、あるいはいずれか
一つの
方法のみをとってもよいとし、国民の自由としたのであります。
行政庁が国民の不服申し立てを謙虚に聞いてくれれば、国民は何を好んで費用をかけて行政
訴訟の道を選びましょうか。国民がいずれの道を選ぶかは、今後の
行政庁のあり方
一つにかかっておると言わねばなりません。ところが、これに対し、第八条第一項ただし書きは、本法以外の
法律で例外
規定を設けて、まず審査請求することを義務づけ得る旨、
規定したのであります。これでは、せっかくの改正も台なしになってしまうおそれがあるのであります。すでに本
法案とともに審議されておる
行政事件訴訟法の
施行に伴う
関係法律の
整理等に関する
法律案によって、五十数個の
法律について例外を認めておるのであります。今後、各
行政庁が自己の所管の
法律についてそのような例外
規定を設けようと努力するであろうことは、今回の第八条ただし書きに関する関係官庁間の交渉を振り返ってみても予想されるのであります。政府は例外が今後ふえないよう努力する旨、答えており、われわれもその努力を期待するのでありますが、しかし、各
行政庁の執拗な圧力が、結局第八条の原則と例外をひっくり返してしまうおそれが消えておらないのであります。元来、現行法の訴願前置主義の原則も、
総理大臣の
異議の
制度と同様に、GHQの要求で成立したものであることは、当時の資料によって明白なのでありまして、今回の改正を機会に、せっかく訴願前置主義の廃止の方針をとりながら、この例外
規定を設けたことは、はなはだ遺憾であると言わなければなりません。
第三点は、本
法案第三条の表現
方法であります。
提案者は、第三条は、抗告
訴訟を同条の第二項ないし第五項のものに限定する
意味でなく、それ以外の
訴訟、たとえば義務づけ
訴訟、
処分権不存在確認
訴訟などについても、将来の学説、
判例によって、是認されるものは同条の第一項にすべて含まれる旨、述べておるのであります。もし、そのような
意味であるならば、第三条第一項は、「この
法律において抗告
訴訟とは、次のものをいう」とし、新たに第六項を設け、「その他
行政庁の公権力の行使に関する不服の
訴訟」というふうに
規定したほうが、はるかに明確であります。このことは、決して単なる表規
方法の差異として軽く見ることができないのであります。すなわち、たとえば、いわゆる義務づけ
訴訟について見まするに、世界の
立法の傾向は、これを是認する方向にあるのでありまして、わが国においてこそ、現在は少数説でありましても、必ず学説、
判例が漸次その方向に向かうものと期待できるのであります。ところで、本
法案が、この機会に、そのような新しい
訴訟の発達に対して、積極的に前向きの姿勢を示すかどうかということは、今後の学説、
判例の動向にも
影響するものと考えられるのでありまして、もし
提案者の説明のごとくであるならば、私たちが提案したように明確に書いておくことが一番時宜に適しているのではないかと考えるのであります。
次に、第四点として、民事
訴訟の仮
処分の
制度を全面的に排除したことは少し軽率ではないかと考えるのであります。
すなわち、現行法のもとにおいても、たとえば確認
訴訟につきましては、民事
訴訟の仮
処分の
規定を用いる余地がありとする有力な学説もありまするし、少数ながら
判例も存在するのであります。しかるに、本
法案は、第四十四条においてはっきり、一切の行政
訴訟につき民事
訴訟の仮
処分制度を排除したことは、少し行き過ぎであると言わねばなりません。このようなことは、もう少し学説、
判例の実際の推移を見守るべきではなかったかと考えられるのであります。ことに、
提案者の説明によっても、理論的には、将来義務づけ
訴訟などを排除していないのでありますから、それらの各種の
訴訟と関連いたしまして、仮
処分に関する民事
訴訟の
規定が働く余地も予想されるのであります。そういう段階で、その途中で、事前に、一切の行政
訴訟について仮
処分の道を遮断したことは、はなはだ遺憾であると考えるのであります。
以上、要するに
提案者は、説明としては、本
法案は、戦後確立されました行政に対する司法審査の
制度の根幹を変えるものではない旨述べているのでありますが、しかし、本
法案を具体的に検討いたしますると、国民の権利擁護よりも、行政の便宜に重きを置こうとしておる点が見られるわけでありまして、その点、はなはだ遺憾であります。社会党は、こういう
立場から、国民の権利を擁護するためにという
立場から、本件二
法案に
反対するものであります。