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参考人(岡松雄君) ただいま御紹介をいただいた炭労の岡であります。実は、私
ども今まで
政府に対してもあるいは国会においては
商工委員会、
社会労働
委員会等に組織を代表してしばしば
意見陳述を行なって参りました。したがって本日は、
案内によりますと、
合理化に
関係する
石炭政策について、こういうことでありますから、重点的に要点だけひとつ
意見の開陳を行ないたいと思います。
そのまず第一の問題として、実は、
石炭政策についての基本的な
意見の相違がございます。それは、拡大生産
方式をとるか、あるいは五千五百万トン
方式をとるかということでございます。本問題については、先ほど阿
具根先生と
萩原参考人との間に若干の
質疑がありました。私
どもは拡大生産を主張するその根拠として、国内資源の尊重活用、雇用問題の解決、それから安全保障、さらに
産炭地の疲弊による
社会不安の排除、
国民経済的視野に立つ石炭の評価、こういうことを根拠として拡大生産を主張して参りました。したがって今日、抜本的な
対策を立てていただいて
石炭産業の恒久安定をはかるべきであるというのが、基本的な
考え方の骨子であります。一方、
政府のほうは、いわゆる
経済合理性の追求による価格
競争、これを問題の
中心に据えて、現在の
合理化政策ができていますから、結局は、
合理化の
遂行過程における若干の矛盾あるいは
合理化を
遂行するにあたっての障害の排除、こういうことにどうしてもなります。したがってその現われが、今回の
合理化臨時
措置法の一部
改正、こういうことになったのだろうと思います。したがって、今後の
石炭政策については、ぜひひとつこの拡大生産をとるべきか、それとも五千五百万トンを維持すべきかという点については、特に各
先生方の御検討をわずらわしたいと思います。
第二の問題ですが、現在の
合理化の現状の把握についてのいちじるしい認識の相違がございます。実は、本日配布を願った
石炭鉱業合理化臨時措置法の一部を
改正する
法律の提案理由の中に、こういうことがあります。「今日までのところ、ほぼ基本路線に沿った
合理化効果を上げてきたのであります。」、こういう認識をもしお持ちだとすれば、私はこれは誤まりではないか。具体に反論をいたしたいと思います。
実は、
昭和三十四年の十二月に
合理化審議会の基本問題部会から答申をされた内容は、これは
先生方もおわかりだと思いますが、生産、流通、
経営、労働、各面にわたって体系的な適切な
措置を段階的にとるべきである。これが答申の骨子であります。
政府に対しては、
総合エネルギー政策を確立をして、体系的な石炭
対策をとって
産業安定をはかるべきである。こういう石炭
対策についての基調の答申がございました。これが今日実施されているのかどうか。さらに三十五年の九月に、
合理化審議会の生産部会から具体的な答申がなされております。
その内容をひもどいて見ますと、まず第一に、産炭
構造の
近代化という問題があります。私も基本的には産炭
構造の
近代化に不可欠の条件を持つのは鉱区の
整理統合だと思いますが、このことに対する
意見はさておいて、実は三十五年の三月に、当時、
全国に散在する
炭鉱の数は六百二十四というふうに発表されました。それを
昭和三十八
年度においては、三百八十四
炭鉱に
整理縮小するというのが第一の問題であります。三十六年九月現在で、それがどのような
整理が行なわれたのか、これは五百九十七
炭鉱という数字が計上されております。おそらく今月においてもこの五百九十七
炭鉱からそう多く減っているという
状態ではないのではないか、だとするならば、
昭和三十八
年度において、産炭
構造の
近代化をはかるためには、約二百の
炭鉱を
整理しなければならない、こういうことになります。したがって、こういうことができるのだろうか、この方針が忠実に実行されておるのだろうかという点を第一の疑問点として出してみたいと思います。
それから第二の問題なんですが、生産
能率の問題を三十八
年度中において二十六・二トンに上げるという
計画がございます。今日、三十六年の十一月に二十三・七トンという
実績になっております。これも実は三十五年の答申当時から見ますと、相当
能率は上昇しておりますけれ
ども、これは
人員整理による
能率の上昇である。
能率の算定は、総出炭を労働者の総在籍で除しておりますから、結局人を減らせば
能率が上がります。しかし、この人減らしの具体的な
方法についてはしばしば私も
委員会において申し上げたのですが、これはたとえば坑外における関連部門の切り捨て、坑内外の人減らし、こういう
方法をとっております。したがって、
石炭産業に必要のない作業場を閉鎖をする、あるいは切り離すということではありませんから、一応在籍労働者から切り離して請負あるいは臨時作業員を採用して継続する、こういうことになりますと、若干の労働力は低減されてくる、いずれにしても根本的な解決になっておらない、その現象が今日若干
能率が上がっても生産面におけるそのコストが低減されていないという矛盾が露呈されております。
それから第三の問題なんですが、これは生産
構造の機械化、
合理化、このことも積極的に推進をするという答申がなされておりますが、現在の
近代化、
合理化資金は大平資本の一部の
炭鉱の
合理化には確かに役立っております。先ほど
長岡参考人からも
意見陳述があったのですが、産炭
構造の非常なウエートを持つ
中小炭鉱に対して、現在の
近代化、
合理化資金がどれほど本来の目的を達しているのかということになりますと、ほとんどその実効の点においては見るべきものがない、こういうふうに申し上げざるを得ません。
第四の流通機構の
合理化についてであります。これも答申は特に流通機構の
合理化によって中間経費の節減をはかるべきだ、こういう答申がなされました。
先生方御存じのように、今回の三十七
年度の予算によって若干の流通機構の改革の
予算措置がとられた。しかし、答申がなされてから今日まで、この流通面における
合理化には手がつけられておらない
状態であります。
それから第五の問題ですが、千二百円下げの
状態がどうなるか、これは私
労働組合の
立場から言うのはおかしいのですが、答申をされたあの時点では、
経営者が公表した八百円の下げ、それから
政府が諸
施策を強化をすることによって四百円、いわば千二百円の下げが想定される、こういう答申の内容でありました。今日
大手のほうでは諸資材の値上がりがコストにはね返って四百円だと思っております。
中小のほうは二百八十円ないし三百円だと思っております。この点若干理解に苦しむのでありますが、いずれにしても値上がりが三百円から五百円の間にある、こういうことになりますと、物価の横ばいを前提とした千二百円の下げが現在できる
状態にあるのかないのかという問題がございます。
最後に、実はこの
人員整理の問題なんですが、答申の時点では約二十八万人の
炭鉱労働者がおります。今日
炭鉱労働者の数は十九万六千人になっております。
計画では
昭和三十八
年度中に十七万六千人にするという
計画であります。したがって、このように三十四年の十二月の答申なり、あるいは三十五年の九月に行なわれた生産部会の答申の具体的な
合理化についての
施策がどの面で実施をされ、どの面が実施をされなかったのか、極言でたいへんおそれ入るのですが、六項目にわたる
合理化に関する答申の中で、いわゆる実施をされたのは首切りによる
人員整理だけであるということを、今私が申し上げた具体的な内容から
先生方に御理解をいただけるんではないかと思います。
したがって、現在のこの
合理化の現状を、基本路線というのは、三十四年の
合理化審議会の答申なり、三十五年の
合理化審議会の生産部会の答申をもしさすとするならば、私は決して基本路線に沿った
合理化の実効を上げている現状ではない、こういうふうに判断をいたします。したがって、今後私
どもどういうそれでは
石炭産業の
合理化を望むのかという点について若干
意見を申し上げたいと思います。
実は四月の五日に
政府から私
ども要求した拡大安定の問題と、雇用安定の問題、最低賃金の確立という三項目について
政府回答が行なわれました。先ほど
経営側の
参考人から若干
意見があったところですが、六項目にわたる回答の
中心は、私は少なくとも一つは
総合エネルギー政策の確立に踏み切ったと、こういうふうに理解をいたします。もう一つは、
石炭産業の雇用を
中心とする総合的な調査を行なう、このことが今度の
政府回答のいわば柱ではないのか。さらに加えて
政府と炭労との会見の席上、池田総理は次のような発言をなされました。新
政策で
政府が
考えているのは、第一に雇用の問題である。第二に国際収支の問題である。第三に安全保障の問題である。私はこのことを骨子として今後の
石炭政策を推進をしたい、うそを申しません、こういう席上総理の言明があったわけです。したがって、今の
合理化政策に関する諸問題は、池田総理がたまたま通産大臣のころに策定された
石炭産業の
合理化の方針であります。したがって、今日、今申し上げた三つの点を新しい
石炭政策の基本的な方針として総理が言明されておりますから、このことが基盤となって今後の石炭
対策が行なわれることを私は信じております。したがって、先ほどの、これは田畑先生と
萩原参考人の間で
質疑があったんですが、かりに今度の調査団が三カ月、あるいは六カ月かかることは、私はまだ予測の限りではありませんけれ
ども、おそらくこの調査団にしろ、あるいは
エネルギー審議会の討論にしろ、やはり
政府が言明したこのことが
中心になって討論されるのが当然ではないのか、こういうふうに判断をいたします。
したがって、まず第一に今後の
石炭政策で私
どもが望みたいのは、ただいま申し上げた総合
エネルギー対策の確立をぜひ次期国会には立法
措置によって確立をしていただきたいと思います。実はすでにヨーロッパに対する石炭の調査団、あるいは石油の調査団、今回の石油業法の提案、で、三十四年の十二月の
合理化審議会も
総合エネルギー政策をすみやかに確立せよという答申がございます。加えて三十九国会で三党一致の決議の中でも、
総合エネルギー政策の早急な確立をするということがうたわれました。したがって、今日このことはもう国会はもちろんのことですが、世論としても私は常識ではないのか。しかも、その素地はできておる。
政府が踏み切れば
総合エネルギー政策というものは早急に確立をされる段階にあるというふうに理解をいたします。したがって、ぜひ本件については基本的な石炭
対策の柱として諸
先生方の御検討を願いたいと思います。
それから第二の問題ですが、具体的な
施策として、私はまず第一に、雇用安定を基盤として今後の石炭
対策を立てていただきたいと思います。これは理由のないことではございません。先ほど申し上げたように、
政府が当初立てた
全国の
炭鉱労働者は十七万六千人に対して現在はどうか、十九万六千人であります。おそらく
計画の八〇ないし九〇%が
遂行されているのは、この
人員整理の問題だけでありますから、その
人員整理と
合理化の
関係では非常に矛盾として露呈をしたのが、
人員整理を行なったんだけれ
ども、コストの低減にはならなかった、こういうことがありますから、この際
人員整理を歯どめをすることによって、やはり本来の
石炭産業の
合理化にとりかかる必要がある。それは何か、生産面における
近代化、機械化の問題があります。あるいは技術面の
合理化の問題もありましょう。こういったところに、まず第一に手をつけなければ、首切りが
合理化だ、こういう今までの
考え方を持っている限り、本来の
合理化にならない。こういう
考えを持っておりますから、ぜひ雇用安定を基盤とした今まで
政府が
合理化の方針の中に取り入れておった具体的な内容を、今後強力に推進をする、こういうことで踏み切っていただくべきではないのか、こういうふうに
考えます。
それから次の問題ですが、実は
日本の
石炭産業の一番盲点になっているのは、大体国内資源としての石炭が幾らあるのか、どういう
状態に置かれているのか、掘れるのか、掘れないのか、そういった基本的な調査が行なわれていないということであります。したがって各
企業ごとの埋蔵炭量の調査なり、賦存
状態の調査が行なわれておりますから、行なわれていない部面の埋炭調査なり、賦存
状態調査を実施する必要がある。これがなければ、今後の大型
炭鉱化といいますか、集約
炭鉱といいますか、そういった方向での
合理化計画は立たない。今までこういった
方面について非常にずさんであったために、
国家資金を投入しながら、今日第二会社に移行しなければならない、こういった例が非常に多くあるわけです。ですから今回、
政府回答にある雇用を
中心とする総合的調査、この内容に、ぜひ今提起した埋蔵炭量なり、この炭がどういう
状態にあるかという調査を、基本的な
合理化計画を立てるためにも、ぜひ実施をしていただきたいと思います。これがなければ、今
政府がいう
スクラップ・アンド・ビルドという
政策は具体的には実施されません。こういうふうに私
どもは
考えます。
それから最後に、流通過程における
合理化の問題でありますが、これも今度予算で石炭専用船を作るということが可決をされておりますが、これだけでは、その問題の解決にはならない。答申にも規格売炭という問題を取り上げております。販売機構の一元化を研究しろということが取り上げられました。こういった流通面における
合理化を積極的に取り上げれば、
政府がいう千二百円の下げを、首切りでない他の
合理化で吸収することが可能だ、こういうふうに判断いたします。時間の
関係で、それでは具体的にその内容を解明するいとまがないのは残念でございますけれ
ども、以上、基本的な
政策についての
考えと
合理化の現状の把握の仕方について申し述べました。
最後に、今後
石炭政策について何を望むのかという点で、六点にわたって申し上げた次第ですが、今まで私
どもは、しばしばこういった内容を
中心に
意見陳述を行なって参りましたが、ぜひ今日申し上げたこの諸点については、
先生方の格段の御検討をお願いをいたしたいと思います。以上で
意見を終わりたいと思います。