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1962-03-27 第40回国会 衆議院 外務委員会 第17号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年三月二十七日(火曜日)    午後一時十二分開議  出席委員    委員長 森下 國雄君    理事 北澤 直吉君 理事 野田 武夫君    理事 福田 篤泰君 理事 古川 丈吉君    理事 松本 俊一君 理事 岡田 春夫君    理事 穗積 七郎君 理事 松本 七郎君       安藤  覺君    愛知 揆一君       井村 重雄君    池田 清志君       宇都宮徳馬君    宇野 宗佑君       齋藤 邦吉君    椎熊 三郎君       正示啓次郎君    竹山祐太郎君       床次 徳二君    稻村 隆一君       木原津與志君    黒田 寿男君       戸叶 里子君    帆足  計君       細迫 兼光君    森島 守人君       井堀 繁男君    田中幾三郎君       川上 貫一君  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         外 務 大 臣 小坂善太郎君  出席政府委員         法制局長官   林  修三君         法制局参事官         (第一部長)  山内 一夫君         外務政務次官  川村善八郎君         外務事務官         (大臣官房長) 湯川 盛夫君         外務事務官         (アジア局長) 伊関佑二郎君         外務事務官         (アジア局賠償         部長)     小田部謙一君         外務事務官         (アメリカ局         長)      安藤 吉光君         外務事務官         (条約局長)  中川  融君         大蔵事務官         (理財局長)  宮川新一郎君  委員外出席者         通商産業事務官         (企業局次長) 伊藤 三郎君         通商産業事務官         (企業局賠償特         需室長)    池田 久直君         専  門  員 佐藤 敏人君     ————————————— 三月二十七日  委員島本虎三君、楢崎弥之助君及び田中幾三郎  君辞任につき、その補欠として帆足計君、稻村  隆一君及び井堀繁男君が議長の指名で委員に選  任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  日本国に対する戦後の経済援助処理に関する  日本国アメリカ合衆国との間の協定締結に  ついて承認を求めるの件(条約第一号)  特別円問題の解決に関する日本国タイとの間  の協定のある規定に代わる協定締結について  承認を求めるの件(条約第二号)  国際民間航空条約改正に関する議定書締結  について承認を求めるの件(条約第三号)  日本国アルゼンティン共和国との間の友好通  商航海条約締結について承認を求めるの件(  条約第四号)  海外技術協力事業団法案内閣提出第九二号)      ————◇—————
  2. 森下國雄

    森下委員長 これより会議を開きます。  この際、参考人招致の件についてお諮りいたします。  ただいま本委員会において審査中の、日本国に対する戦後の経済援助処理に関する日本国アメリカ合衆国との間の協定締結について承認を求めるの件及び特別円問題の解決に関する日本国タイとの間の協定のある規定に代わる協定締結について承認を求めるの件、右の両件について、それぞれ、二十八日及び二十九日午前十時より参考人を招致して意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 森下國雄

    森下委員長 御異議がないようでありますから、さよう決定いたします。  なお、参考人の選定及びその他の諸般の手続につきましては、理事の協議の上、委員長において決定いたしたいと思いますので、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議はございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 森下國雄

    森下委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。      ————◇—————
  5. 森下國雄

    森下委員長 日本国に対する戦後の経済援助処理に関する日本国アメリカ合衆国との間の協定締結について承認を求めるの件、特別円問題の解決に関する日本国タイとの間の協定のある規定に代わる協定締結について承認を求めるの件、国際民間航空条約改正に関する議定書締結について承認を求めるの件、日本国アルゼンティン共和国との間の友好通商航海条約締結について承認を求めるの件、海外技術協力事業団法案を議題となし、質疑を行ないます。  質疑の通告がありますので、これを順次許します。川上貫一君。
  6. 川上貫一

    川上委員 私は、この前の委員会で、日韓会談の問題について、この会談は暗い影と戦争のにおいがつきまとうておるということを述べて、湯川康平氏の問題について質問をしまして、さらにいま一つの問題を簡単にお聞きしたいという、そこで委員長がこの委員会の休憩を宣告されました。そのあと理事会で協議された結果、本日ここでその残りの一つの問題を質問する承認を得ておりますので、ここでその残った問題を一つだけ質問をさせてもらいます。  それは、日韓会談についての崔という韓国参事官についての問題であります。全部を一括して質問をいたしますから、一つずつについてお答えを願います。  崔英沢、これは日本読みであります。この参事官在日韓国代表部員でありますかどうでありますか。これが一つです。  第二は、日韓政治会談にこの人は出席していると思いますが、何回、どういう会談に出席したか。総理もお会いになりましたか。これが二点です。  第三は、昨年の六月一五日に、朴光浩、これも日本読みであります。という名前日本入国したのは同じ人でありますかどうか。これが同じ人間であるということは、警視庁、外務省東京入国管理事務所等は知っておるはずだと思いますが、ここであらためて御答弁をお願いしておきたい。これが三点です。  第四点は、同じ人が二つの名前を使うて来て、その人が今は日韓会談韓国側代表の中に、正式代表ではありませんけれども、加わっておるということを確認するかどうか。これが第四点です。  第五点として、この崔という参事官は昨年の三月立川基地から日本入国したことがあるかどうか。この時分の名前はどういう名前で来たか。そのときに山王ホテルに行ってアメリカの要人と会ったかどうか。ここで何を相談したか。——おそらくわからぬと言うでしょうが、クーデターについて相談をしておるということを御承知かどうかということです。  その次の最後の問題は、こういう人物日韓会談相手国の一員に加わって、事実上陰の大使とさえ言われておるが、こういう会談が正式な会談として、ノーマルな状態会談であるとお考えになるかどうか。  たくさんの問題を一括していいますが、これは時間の関係です。  それにつけ加えて、韓国入国した人、千六百人以上昨年は行っておるが、六百人ぐらいより帰ってこない。これは残って何をしておるのか。ことし、防衛庁関係者二名、内閣調査室関係者二名が韓国に行っておるはずでありますが、これは何をしに行ったのか。湯川康平氏の子分というのですか、そう言えば失礼になるかもしれませんから、関係者、浅枝という人、元陸軍少将、これは行ったきり戻っておりません。これは調査なさっておるかどうか。何をしておるのか。  一切謀略と暗い陰とがつきまとうておると思いますので、これを聞きたかったので、ここで前の続きとしてお聞きしますから、この一つ一つについてお答えを願いたい。これだけです。
  7. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 お答えいたします。まず第一に、崔英沢という人が韓国代表部部員であるかということでありますが、との人は、昨年の六月二十九日在日韓国代表部を通しまして外務省に対して入国申請がございました。現在参事官ということでございます。従って、部員でございます。  それから、日韓会談に参加したか。これは、参事官ということでありますので、参加をいたしました。最初二回相当人数会談をいたしましたので、そのときは会談をいたしております。それから、最後に別れますときに、一緒にテーブルに並んで写真をとったのですが、そのときもおります。  それから、朴光浩という人と同一人であるかということでありますが、これは同一人であります。なお、念のために申し上げますと、韓国にはわが国の在外公館がございませんので、韓国から直接日本入国する者については、代表部を通じて外務省入国申請がある、こういう手続によっております。私ども、朴光浩という名前入国をしたということがその後になってわかったのでありますが、これについて、この事実を日本政府に打ち明けて了承を得ることを怠ったということにつきまして、きわめて遺憾であったということを、伊関アジア局長に陳謝いたしております。従って、現在韓国代表部構成員でございますから、そのように扱っておるわけでございます。  なぜそういう偽名を使って入ったか。あるいは柳泰夏大使を連れ去ることに工夫したのではないかとか、いろいろ言われておりますけれども、こういう点は、韓国の革命直後の事情でやむを得ずそうしたのだということで、そのことを、今申したように深く陳謝をいたしておりますので、このことでわれわれとしては一応の了解をいたしておるわけであります。  それから、昨年三月立川基地から入って入国したかどうか、あるいは香港へ行ったがその目的は何か、あるいは湯川康平という人との関係、あるいは浅枝という人の消息等質問がございましたけれども、これは、われわれとしては別に何もわかりません。また、特にわれわれとして知っていなければならぬようなそういう重大な問題はなかろう、こういうふうに思っておるわけであります。
  8. 川上貫一

    川上委員 質問したことがまだ残っております。昨年千六百人以上行っているが、六百人しか帰っておらぬ。これをどういうふうに調べてあるか。これは何をしておるのか。それから、防衛庁関係二名、内閣調査室関係二者が韓国に行っておるはずなんです。これはどういう人が何をしに行っておるか。それから、湯川康平氏の関係で、浅枝という元陸軍少将、これは韓国朴議長にも知り合い関係があるし、それから湯川康平氏にも関係がある。二・二六事件にも関係のある人です。この人が行ったなり帰っておらぬ。これを調べてあるかどうか、何をしているのか、これが残っております。
  9. 伊関佑二郎

    伊関政府委員 昨年千六百名行って六百名しか帰っておらぬという話でございますが、そういうことはないと思います。行った者はほとんど全部二、三週間おれば帰っておると思います。  それから、内閣調査室の者が二名視察に行ったことは存じております。  浅枝という人のことについては、何も存じません。
  10. 川上貫一

    川上委員 何しに行ってどういうことをしたか、それを一緒に聞いてある。
  11. 伊関佑二郎

    伊関政府委員 内閣調査室と申しますのは、いろいろな情報関係もやっておりますので、韓国の実情を視察に行ったことと思います。
  12. 川上貫一

    川上委員 氏名も聞いた。前の質問の中に一緒になっている。
  13. 伊関佑二郎

    伊関政府委員 名前までは存じません。二人参ったことだけを知っております。
  14. 川上貫一

    川上委員 それはいかぬ。旅券を出したのだから、名前を知らぬということはない。外務大臣名前
  15. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 伊関局長が私にかわってお答えした通りであります。
  16. 川上貫一

    川上委員 時間がありませんからこれでやめますけれども、総理大臣、こんな会談なんです。名前を二つ使うて来たこの人が断わりをした、それで認めた、これがノーマルな会談の形と思いますか。国交を回復するという会談です。これに偽名を使って、あたかもスパイのような格好と言われても仕方のない状態で入ってきた人物です。この人物会談のうちに加わっている。私はこれを一つだけあげておるのでありますけれども、この会談というものはそういうものなんです。この点については、総理大臣、十分お考えになる必要が私はあると思います。あえて質問するわけじゃありません。警告をしておきます。これだけです。
  17. 森下國雄

  18. 森島守人

    森島委員 私は、タイ国との現在問題になっております特別円協定について質問をするのでございますが、勢い、この協定の基礎となりました昭和三十年の協定にさかのぼって質問せざるを得ないのでございます。  と申しますのは、旧協定国会において論議されましたときには、当時あたかも日ソ国交回復の問題が最も重大なる問題でございまして、国会の注意も主としてその点に集中しておったのでございます。そのほかに、もう一つは、この旧協定の第二条、すなわち、「日本国は、両国間の経済協力のための措置として、合意される条件及び態様に従い、九十六億円を限度額とする投資及びクレディットの形式で、日本国資本財及び日本人の役務をタイに供給することに同意する。」という点につきましては、与党においても野党におきましても、何ら疑点がなく、有償であるということについては一点の疑いがなかったのでございます。その上に、この種の条約協定、専門的な事項にわたりますものについては、従来の委員会の論議を見ますと、比較的簡単に取り扱われておった。政府当局の専用的の知識等に信頼をいたしまして、比較的簡単に取り扱われておったというふうな事情から出たのでございます。質問らしい質問はほとんどなかった。戸叶議員がおそらく一、二の質問をされ、また、ビルマの賠償実施状況に関する質問等があっただけで、委員会承認されたのでございます。今度のこの新協定が上程されましたのにつきましても、勢い旧協定審議ぶりからいたしまして、旧協定についても詳細なる検討を必要とすることは、私、当時の事情から当然だと思う。この点につきましては自民党の床次委員もお触れになったようでございますが、私は、新協定とあわして旧協定内容に関して詳細なる検討を必要とすることはきわめて当然であると信じておるのでございます。この点につきまして、総理外務大臣の御意見を承りたいと存じます。
  19. 池田勇人

    池田国務大臣 三十年の協定の一部を変更するのでございますから、三十年の協定につきましての御質問その他につきましてもお答えすることは当然だと思います。
  20. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 総理大臣お答え通りに私も考えております。
  21. 森島守人

    森島委員 その後、この協定に関しまして、タイ側態度に疑わしい点が出た。タイとしては誤解があったのだということを言っておりますが、私は、この点のタイ態度は、国際信用と申しますか、国際信義と申しますか、この国際信義を破棄する唾棄すべき態度だと私は思っておるのでございます。その後五、六カ年間においてもいろいろと質疑が出ましたが、政府態度を総合的に考えますと、政府としては、当時タイ側代表でありました外務大臣のワン・ワイ殿下に自国へ帰る取り急いだ事情があったというのが政府答弁一つであります。もう一つは、旧協定の第四条に規定せられております合同委員会協定とともに設置する措置をとらなかったのは誤解を生じた原因であるということに帰一しております。これらの点についてはいずれあとで触れるかと思いますが、要するに、タイ側誤解だという点に政府答弁は帰一しております。しかるに、今回新協定が上程されますと、その提案理由説明の中に、タイ側協定の解釈に関する日本側立場の正しいことを認めたとありますが、私は、今日まで六、七年間にわたりまして、タイ側日本立場の正しいことを認めたというがごときことは、ただ一回も御答弁に接しておらないのでございます。一体、いつごろから、タイ国政府としてはその態度を変えて、タイ側に非のあったということを認めたのでございますか。この点につきまして外務大臣の御所見を伺いたいと思います。
  22. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 従来しばしば申し上げておりますように、タイ側としては、三十年協定が七月に調印されて八月に効力を発生した、その年の十二月から、あれはもらったものだということを協定の当事者であるナラティップ外相が言ってきたわけでございます。その年の明けました翌年早々に、タイ側としては政府筋からこのことをしきりに言っておったわけでございます。外務省あるいは大蔵省というようなものから言っておったわけでございます。わが方としては、これはあくまでクレジットあるいはインベストメントを供与する、供給するということであるということで、いろいろな案を持っていったわけでありますが、これはしばしば毎々申し上げたわけであります。そこで、昨年の一月ごろであったかと思いますが、サリット首相大江大使に、どうしても一つあれは解決したいということを言っておりまして、そのときに大江大使協定文をたてにとって反駁したところが、それはその通りであろう、しかしながら、何としても国民感情が許さないということを非常に強く言い出しまして、ずっとその後の交渉におきまして先方はその態度を譲らないといういきさつがございますわけであります。
  23. 森島守人

    森島委員 日本国民としては全く政府にだまされたのだという感じを持たざるを符ないのでございます。私も本会議において大筋のところを質問いたしましたが、私に対する政府側答弁も、どれ一つ私の満足すべきものはなかったのでございます。従って、本委員会におきましても私の本会議における質問の線に従って質問を続けたいと思うのでございまして、主として私は政治的な見地から総合的な質問をするにとどめたい、その上で今回の協定内容に入りましてこまかい質問を時間があればいたしたいと思っているのでございます。  政府は、今回の協定において有償のものが無償になったことについて、池田さんの言を引いて申しますれば、タイ国在留日本人の中でも、お前のやったことはよかったといって喜んでくる人もおるということでございます。外務大臣になりますと、狂喜乱舞していると、全く現地で見てきたような言葉を吐いておられますが、これは当然なことである。タイにおる在留民はこのような問題を大所高所から批判する立場にありません。目前の自分たちの直面しておる商売の利害関係だけから打算するというのは、これは当然であります。池田さんが在留民が喜んできたと言うのも当然です。有償と思っておったのをただでもらうのだから、これは狂喜乱舞するのも当然なので、何もこれは政府態度を是認して支持する根拠になるものではないと私は思う。  そこで、政府は、本協定を是認する理由といたしまして、大所高所論を掲げております。それも、抽象的な議論で、何ら具体的な事実を国民に示したことはございません。松本委員——松本七郎さんではありません。松本俊一委員が二月の二十一日に本委員会において外務大臣質問をしでおります。その言葉を引いてみますと、日本側無償論を繰り返していた事態から、何らかタイ側における経済活動または文化的活動について不便が生じただろうと思われるが、具体的に外務大臣説明を求めるといって外務大臣説明を求めておられるのでございます。しかし、小坂外務大臣は、この松本さんにまつ正面から答えないで、何ら具体的な事実の説明はなかった。ただ、具体的な事情を申し上げることもこの席上では少しいかがかと思うという御答弁だけであったのです。具体的な事例は一つもお示しになっておりません。抽象的に、「全般的に申し上げますと、さような邦人活動が非常に制限せられつつあり、もしこれがさらに延引いたしまするにおいては、非常に厄介な事情もあるいは考えられるかもしぬというような状況でありました」と御答弁しておられるのでありまして、私は、この際、小坂外務大臣から、この非常に厄介な事情というのは一体どういう事情であったか、具体的に御説明を求めたいと存じます。
  24. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 現実にそういう厄介な事態が起きる前に、こういう点を回避しようとして大所高所に立って解決したわけでございますので、さもなくばどういう事態が起きたであろうかという、これは想像になるわけでありまして、そういうことを申し上げることもいかがかと思ってその程度にいたしておいたのでありますが、そこまでお聞きでございますればということでお答えしておきます。  タイ国内には対日輸入制限を強硬に主張する者が現われてきておるということになりますと、これもしばしばお答え申し上げておるように、七千万ドルからの日本側タイに対して出超になっておるのであります。一九五九年当時でございますが、輸出が九千七百七十八万ドル、タイよりの輸入が二千六百五十七万ドルということで、そういう強硬論が非常に出て参った。そこで、トウモロコシの増産等を奨励し、これを買いつけるという開発輸入をやっておりまして、現在では一億一千万ドルからの輸出が出て、タイというものは東南アジアで最大の輸出市場になっておるわけでございます。しかも、タイからの輸入というものはやはり五、六千万ドル程度を低迷しておるのでありまして、いろいろ邦人活動に税金その他の面で支障があるという話も聞いておりましたし、今申し上げたように、輸入制限の挙に出るという公算もあったわけであります。かくては、はなはだ大きな市場を失うということになりますし、日本が、タイという国の当時の、戦後の不備といいますか、法律的な無知といいますか、外国人を頼んで条約を結ばなければならなかったという、そういう状態に藉口して非常な無理押しをしているということに対するタイ側国民感情の反発というものが現われますると、これはやはり東南アジア全体に対して非常にまずい状態が出るということを心配いたしておったわけであります。
  25. 森島守人

    森島委員 私は、その点では池田さんの方がむしろ率直だったと思う。池田総理は、二月九日の参議院の本会議で、森元治郎君が質問をしたのに対し、「タイ特別円解決がつかなきゃ経済断交をやろうかという声もある。」と正直に告白しておられます。一体この情報というものはどこから入手になったか。こまかいことは要りません。タイ側官辺筋から出ているか、あるいは日本側民間情報であるのか、あるいは日本大使館筋情報であるのか、これを池田総理にお聞きしたい。しかも、どの程度まで信憑性があるとお考えになっておるか。これは大きい問題ですから、池田総理に御答弁を願いたい。
  26. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、タイに行きます前にやはりタイ事情に通じておる人にも聞いております。また、タイ新聞にも対日輸入制限という議論が出ておると外務省からも聞いておるのであります。
  27. 森島守人

    森島委員 このことは、総理府で編集している「政府の窓」というパンフレットがございますが、三月十五日発行のものを見ますと、それに唐島基智三氏との対談が出ている。そして、池田総理はそのことに言及されているのであります。その通り読みます。「こんなことになっているのに、経済断交とか」、——輸入制限じゃございません。経済断交ですよ。非常に重要な問題である。「経済断交とか、日本のものは関税を上げるとか、あるいは買わぬようにしようというようになると大へんな損ですからね。」、こう言っておられる。池田さんは、民間から出ようがタイ新聞に出ていようが、この情報に対して非常に大きな信憑性を認められたと私は思いますが、この点はいかがでありますか。
  28. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、東南アジアのある国で、日本が物を輸入することが向こうの言う通りにならぬというので、対日輸入制限あるいは経済断交とまでいきませんけれども、そういうような格好のことが起こったととも知っております。従いまして、タイ日本との従来の関係考えますと、私は、そういうようなことが起こらないようにするのが外交である、こう考えまして、大所高所からこの問題を片づけたのでございます。
  29. 森島守人

    森島委員 私は、総理がこれらの情報信憑性を置いて、特に大所商所論を掲げて日本国民をリードされたその御努力はわかります。しかし、これらの情報なるものは、単なる流言飛語と言うべきものであって、その流言飛語を基礎にして国民をミス・リードするような結果になる行動は、絶対にやつちゃいかぬ、大所高所論の基礎にはならぬと私は思っております。それでも池田さんはここではっきり経済断交があるのだというふうなことを言っておられますが、経済断交を避けるために大成高所からこの協定問題を片づけたのだ、こうおっしゃるのですが、私は逆ではないかと思う。日本に対しては経済断交なんかできる道理がない。日本品の輸入税を上げるということも、これは私はできる道理がないと思う。もしやれば、大局論として損するのはタイ国だと私は思う。この点に関する条約的な根拠をお出し願いたい。日本タイとの間には現在通商条約が厳存しているのです。通商条約の条項をごらんになればはっきりわかる。日本品に対してだけ差別待遇をしたり、あるいは日本人だけを特殊扱いするがごときことは、通商条約の根幹とも言うべき最恵国約款に違反することは当然ではありませんか。この点に関する池田総理大臣最後の御答弁を求めたい。
  30. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これは外交上の問題でございますので、だれがどう言ったということを言いますことは、せっかく友好関係をこれによってさらに躍進せしめようとしている際でございますので、総理大臣としては特に差しさわりのない範囲で言えることをおっしゃったのでありまして、私どもの持っております情報は、それはもう非常に喫緊なものが感ぜられるような情報であったのは事実でございます。しかし、森島委員は、条約をたてにとって交渉すればいいじゃないかとおっしゃいますけれども、東南アジアの国といろいろ交際をいたして参ります際に、なかなかその面だけでいかない。非常にエモーショナルな面があることは、私から申し上げるまでもなく御承知のことだと思います。そういう相手方の感情というものをやはり十分こっちの頭に入れながら、日本がアジアにおける先進国として、工業国として立てられておる立場をとっていかなければ、東南アジアにおける外交というものはうまくいかないというふうに考えております。
  31. 森島守人

    森島委員 なるほど、今おっしゃった事情も私は了解しないわけではありません。相手のあることですから、日本の意向を貫くということもなかなか困難な事情のあることは十分承知しております。しかし、日本タイとの間には通商の根本を規定している通商条約が存在している。この条約タイが違反して、これを侵害して日本に無理を押しつけてくるということになれば、やはり私は条約の根本にさかのぼって問題を検討する必要があると思う。私はこれ一つが交渉方法だとは言いません。これも一つの大きな交渉上の題目として、池田さんみずからタイと交渉なさる上の大きな参考にすべきものだと思う。  そこで、私は池田総理にお尋ねしますが、池田さんが二日か三日かおいでになってこれをまとめ上げた、こういうことなんですが、そのときに、外務省関係者としては、あるいは条約局長が行っておったかもしれない。欧亜局長が行っておったかもしれない。一体だれがあなたにアドバイザーの資格を持ってタイ国一緒に滞留してこの交渉に当たったか、この点を明らかにしていただきたい。
  32. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、タイに参ります以前から、この問題につきましては、さきにお答えしたように、相当研究して行ったのであります。そしてまた、タイに参ります直前に、外務大臣タイを通過し、会っております。その報告はビルマでも聞きました。そして、タイでの交渉は、大江大使はもちろんでございますが、島参事官並びに条約局の課長、名前はちょっと忘れましたが、そういう方々と一緒会議をずっとしたわけでございます。
  33. 森島守人

    森島委員 そういたしますと、外務省の出先関係大江大使とかあるいは一緒に行っておった連中が、何ゆえにこのタイとの条約の根本関係について十分なる知識を池田さんに与えなかったか。池田さんとして大きな手落ちであり、外務省としては大きな事務的な欠陥があるんじゃないかと私は思いますが、この点を一つ答弁求めます。
  34. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 条約をたてにとって言われるならば一言もない、しかしながら、そういうばかな条約を結んだということは一つタイの青史に残そうというくらい非常に思い詰めた言辞もしばしば私交渉の過程で聞いたのでございます。条約をたてにとって、条約通りに先方がやってくれるならば、初めからこういう問題は起きないわけでございます。そこにこの交渉のむずかしい点があるということは、外務省におられた森島さんにもぜひおわかり願いたいと思うし、また、大いに御理解願えるのではないかと思うのであります。そういう点で、この問題は非常に苦労いたしましたが、結局、総理の御裁断によりまして、外務省も私も従来いろいろ申し上げたのでありますが、結局八年間に延べ払いをする、この点で事実上の減額はできておるわけでございます。金利六分五厘で計算してみますと、六十何億円かを一ぺんに払ったと同じことになるわけでございます。そういう点で、先方の希望も満足し、わが方の減額という問題についての主張も通ったということが一つの妥結点ではなかったかというように思います。いわば、撃ちてしやまむみたいに、自分の言うことばかり何でも通すということでは、私は東南アジアとの外交というものはなかなかうまくいかないのではないかというように思います。
  35. 森島守人

    森島委員 私の質問に全くはずれた答弁をなさっております。私は満足いたしません。タイ条約を慎重に順守するならこういう問題は起こらなかったと言われるのですが、私の言っているのは、今度の旧協定の問題ではなしに、日本タイとの間に存在しておる、通商の基本点をきめておる通商条約の問題に私は言及しておる。御答弁は得ておりませんが、ただいま予鈴が鳴ったそうですから、私の質問は本会議後に続けることにいたしまして、この程度でやめます。
  36. 森下國雄

    森下委員長 本会議散会後再開することといたしまして、この際暫時休憩いたします。    午後一時五十四分休憩      ————◇—————    午後三時二十六分開議
  37. 野田武夫

    ○野田(武)委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  委員長所用のため、指名により理事の私が委員長の職務を行ないます。  質疑を続行いたします。森島守人君。
  38. 森島守人

    森島委員 私は、外務省条約局長に対して、現在タイ日本との間には通商条約が厳存しておると思いますが、この点、一つ明らかにしていただきたいと思います。
  39. 中川融

    ○中川政府委員 日本タイとの間には、昭和十二年にできました友好通商航海条約が戦後復活されまして、現在有効に存在しております。
  40. 森島守人

    森島委員 その付属文書と申しますか、最終議定書に最恵国待遇の規定がございますが、これはその通りで間違いございませんね。
  41. 中川融

    ○中川政府委員 最恵国待遇の条款がございます。
  42. 森島守人

    森島委員 その最恵国待遇を規定しておるのは、最終議定書の四に載っているはずですが、「本条約第二条ノ規定二関スル一切ノ事項ニ付締約国ノ一方ノ臣民ハ他方ニ依リ別国ノ臣民又ハ人民ヨリ不利益ナル待遇ヲ受クルコトナカルベシ」、こうはっきり規定しておりますが、そこで、条約局長条約上の見地から申しまして、総理の言われる経済断交等が条約上でき得るものであるかどうかを明快に御答弁願いたい。
  43. 中川融

    ○中川政府委員 最恵国待遇があります際に、もちろん、最恵国待遇の効果といたしまして、たとえばタイに行きます日本人入国とか滞在とか、そういうことにも最恵国待遇が適用になりますが、商品についてもその最恵国待遇があるわけでございまして、従って、日本だけをはっきり名前をあげまして、ほかの国よりも悪い待遇を日本に与えるという措置タイがとりましたら、これは明らかに最恵国待遇に違反するわけでございます。しかしながら、先ほどから問題になっておりました日本に対する経済上のいろいろ制限をするというようなことは、実質をさしておると思われるのでありまして、従って、世界各国に共通に適用されるというような格好で、現実には、日本から輸出いたします綿製品であるとか、機械であるとか、金属製品であるとか、こういうものがタイに事実上入れなくなるようにする、こういう措置も、日本との貿易を制限する方法としては、最恵国待遇に支障なくとり得るおけでございまして、そういう格好でいきます際には、これは最恵国待遇の違反問題は生じないわけでございます。
  44. 森島守人

    森島委員 今条約局長は私の質問しないことまで御答弁願って非常に御親切だと思うのだが、しかし、私は、今明確に、経済断交というもの、通商全般を日本との間に打ち切ってしまうというような措置がこの最恵国約款の条項によって条約上の見地からこれができるかどうかをお尋ねしたのであります。事実上の関係については私は触れておりません。その点、もう一度お答え願います。
  45. 中川融

    ○中川政府委員 経済断交というものが何であるか、これは実ははっきりしないのでございまして、いろいろなやり方があると思います。経済断交というのが、たとえば、中共が日本にいたしましたように、日本とは一切貿易をしないということであれば、これはこの最恵国待遇に違反するかもしれません。しかしながら、非常に日本に不利益になるようないろいろな措置を実際上タイ国がとるということもあり得るわけでございまして、従って、単に経済断交といったからといって、すぐにそれがどんな形のものであるかということは直接には出てこないと思うのでございまして、具体的にどういうことを先方がするかということがはっきりしませんと、最恵国約款に違反するかどうか、結論は軽々しく出せないように思います。
  46. 森島守人

    森島委員 それじゃ、条約局長にお尋ねしても答弁が得られないのだから、総理大臣にお伺いしますが、総理大臣がしばしば用いられておられます経済断交というものはどういうものなんですか。総理大臣から御答弁願います。
  47. 池田勇人

    池田国務大臣 経済断交というのは、一切取引をしないという場合にも使いましょうが、実質的に非常に経済がうまく運営しないというような場合におきましても、広い意味では使っておるのもあるのであります。そして、最恵国約款がございましても、日本タイとの交流物資のうちで、ほかの国にあまり影響がないものについてやれば、最恵国約款に当てはまるわけではないのであります。そしてまた、この条約なんというものも、これは一方が破棄するといったときには、これは一定の期間が経過すればできるわけであります。私は、そういうふうなことがあるとは言いませんけれども、そういう挙に出るかもわからぬということは、やはり相手がこの問題を非常に深刻に考えておる場合におきましては、われわれとしても考えなければならぬ、こういう意味で言っておるのであります。
  48. 森島守人

    森島委員 単にそのこと、ばかりでなしに、日本の商品に対する関税の引き上げということも総理はおっしゃっております。この点については今条約局長から条約上の明快な御答弁がなかったのです。事実上あり得るようなお話であったのですが、これこそ最恵国約款に対する違反じゃありませんか。御答弁をいただきたいと思う。
  49. 中川融

    ○中川政府委員 日本から入るある特定の品物に対してのみ関税を重く課するということは、タイが法令を出しましてきめれば、これは明らかに最恵国待遇の違反になるわけでございます。
  50. 森島守人

    森島委員 法令を新たに出して日本品に対する関税を高くするということが条約違反であることは、今条約局長答弁で明らかになりましたが、事実上、日本品に対して特殊な取り扱いをするということは、はたしてどういう格好でできると御想像になりますか。条約局長の御答弁を願います。
  51. 中川融

    ○中川政府委員 万一タイ日本に対して実際上貿易上の差別をしようと思ってどんな措置をとるかということを想像してみますと、たとえば、タイでは政府がやる貿易が非常に多いのでございます。政府がやります貿易にあたりましては、政府はいわば商売人の立場に立ちまして日本との間に契約を結んでやるわけでございますから、政府が、その場合に、たとえば日本から機械を買うか、あるいは同じ機械をイギリスから買うか、アメリカから買うか、これはいわば自由に選択できるわけでございまして、そういう形で、日本から買うべきものをアメリカから買うというようなことにして、実際上日本との貿易を阻止するということもあり得るわけでございまして、そういうのは、一番最恵国待遇にかからない、いわば巧妙なやり方でございます。あとのものは、たとえば、自分ではほしいけれども、しばらくがまんして、日本から繊維品をたくさん買っているのを一般的にこの種の繊維品を押えるというようなことで抑える措置もあり得るのでございまして、こういうことによって日本からの貿易を阻止する、こういうやり方もあると思います。いろいろ、やろうと思えば、最恵国待遇にかからないような格好で貿易を事実上阻止するという方法は相当あり得るのじゃないか。これは現地の例でも各国との間にいろいろ問題が起こるのでございますが、そういう例を考えましても、考えてやろうと思えば相当程度のことはできるのではないかと思います。
  52. 森島守人

    森島委員 この経済断交の問題につきましては、日本人は太平洋戦争の発生に関連しまして非常に不愉快な印象を持っております。アメリカが日米戦争に踏み込みます前にまずやりましたのが経済封鎖です。経済封鎖をやる前にとりましたのが通商条約の廃棄の問題です。たぶん半年の期間で通商条約は廃棄されますが、アメリカはまず日本に対して半年の期間をもって廃棄通告をいたします。半年たった後に日本との通商航海条約を廃棄いたします。その後にとったのが経済封鎖の問題でございまして、アメリカとしましては非常に巧妙に、列国から非難を受ける余地のないようにして、日本に対して経済的な措置をとった。これが戦争に至った一つの原因だというふうに右翼の人は言っておりますが、ともかくも、条約上非難を受ける余地のないような措置をとったのです。従って、日本国民といたしましては非常に敏感な感じを持っておるのであります。いやしくも、一国の総理である池田さんが、日本国民に対して公然と、経済断交をやる危険があるのだとか、可能性があるのだとかいうことをおっしゃるのは、私は逆だと思う。タイ国の官憲なり何なりに対して、そういうことをやっては条約違反問題が起きるということで、タイ国の官民を指導されるのがほんとうでございますが、日本人に対して、大所高所論を持ち出したあげく、経済断交の危険があるのだ、いろいろ事実上の方法はあるかもしれませんけれども、経済断交をやるなんていうことは実際上考えられないと私は信じておるのです。池田さんとしては、むしろ日本国民の蒙を開くために、そういう危険はないのだという立場をおとりになるのが私は自然だと思う。いたずらに日本国民を混乱に陥れて、ミスリードするような言説をおはきになることは、私は慎まなければならぬと思う。大所高所論だけなら抽象論です。池田さんははっきり言っておられる。「政府の窓」にも書いておられる。私は逆だと思う。もっと、日本人をリードするために、そういう危険はないのだ、あってはタイ立場が悪くなるということで、タイの官民の蒙を開いてやるだけのことをやればいいのに、まるで経済断交論におびえて腰砕けになったというのが池田さんの立場です。その結果九十六億円をまるまるうのみにしたと私は批判せざるを得ないのです。総理として非常に不適当な措置だと私は思う。不適当な言論をはいておられると思う。この点は今後厳にお慎みを願いたいと思う。総理の御感想をお述べ願いたい。
  53. 池田勇人

    池田国務大臣 国民を指導するといって、日本国民を指導するという意味でございますか。どうもお話がよくわからないのですが、タイ国民あるいは政府は、日本が、あの条約を、これは間違いないのだ、タイが間違いだといって主張するならば、タイ国民タイがばかであったということを、タイは青史に残すであろうという言葉まで使っておるのであります。それでタイの人の気持を言うのでございますから、タイ経済断交をしないのだということを日本人に私が言うということは筋が違いはしませんかな。タイが誤りだったということをあくまで日本が主張するならば、タイがばかであったということをタイの歴史に残す、このところまで言っておるという報告が来ておるのでございます。私は、そういうことを考えまして、先ほども申し上げましたように、両国の貿易が正常化されない、いろいろな弊害が出てくる、あるいは、国際間の勢いですから、経済断交といって全部貿易をとめるところまでいかなくとも、断交に近いようなこともあり得るということをわれわれとしては考えなければならぬ。それを、日本人を指導するということは私は筋が違うと思います。タイの人に、そういうような気持じゃない、われわれは経済交流をもっと推し進めていかなければいかぬ、だからタイの方も一ぺんに払えというようなことを言わずにというところで言ったわけなんでございます。貿易上のことは、利害が相反しますと、必ずしも、あなたが平時のときにそう大事に至らないというふうなことをお考えになっても、やはりそういうふうにいかぬのが今の実情であるのであります。
  54. 森島守人

    森島委員 私は、日本国民に対しても、条約の根拠をもってすればその危険がないのだということを説かれるのがいいのに、日本国民に対しては、経済断交があるのだ、関税引き上げを実行するんだというふうな、まるで日本国民に対してどうかつ的な言辞を弄されるということは、私は総理としてはとるべき態度ではないと思う。全くおどかしておる。私は、タイ国の官民に対するのと、それから日本の官民に対するあなたのとられた措置は、間違っておると思う。  次に私が伺いたいのは、池田総理のとられた措置は独断専行じゃないかということを私本会議質問で申し上げました。これに対して池田さんは、大蔵大臣とも相談をした、外務大臣とも相談をしたという全く事務的な御答弁で終わっております。これは当然なことで、総理としていかに全権を持っておっても、大蔵大臣にも外務大臣にも相談するのは、これはあたりまえのことで、私の聞いたのは、こういう政府部内のことを私は聞いておりはしません。日本国民がこの問題についていかに考えておるかという、国民の感情を尊重すべきものだという趣旨で私は申し上げたのです。ところが、小坂さんなんかの本委員会説明を見ましても、タイ国民の国民的感情を尊重し云々という言葉を使っておられまして、政府が今度の措置をとるにあたりまして、日本国民的感情をどの程度考慮に入れたかということについては、私は非常な疑問なきを得ないのであります。その証拠といたしまして、私は当時発表されました新聞の論調を調べてみました。もとより、政府のような大きな予算があるわけでなし、大きな規模の組織があるわけではないのですから、私の調べた範囲はおのずから制限があるということは当然でございますけれども、私の調べた範囲内におきますと、当時発表せられました新聞は一様に政府措置を非難攻撃しておることは明らかであります。比較的新聞論調を出さなかったものを見ますと、これは無言のうちに消極的な意味で政府のとった措置に対して反対を表明しておるものだ、こう私は思う次第であります。長くなるかもしれませんが、私は、日本国民はいかに考えておったかということを明らかにする意味におきまして一、二の例を引いてみたいと思います。二月一日付の東京朝日新聞の夕刊に、御承知のように「今日の問題」というのが載っております。これは大所高所論です。「大所高所」という題で論説を書いておりますが、大体こういうことを言っております。「昭和三十年七月の特別円に関する協定締結から六年半も経って、その内容を変更し、貸すはずのものが進呈になったというのは、国際間の協定としては前例のないところらしい。これを支払わされる国民の側としては、キツネにつままれたような気持がしないでもない。」、これが朝日の論説です。それから、東京の新聞がまた習いております。同日付の日本経済新聞はどう言っておるか。「長い間の外交上の懸案が解決したことは喜ばしい。しかし今度の場合、喜ばしいと言ってばかりおられないものがある。日本側が借款または投資の形で提供するものと了解していた九十六億円を無償で供与するというので、そこには何らかの理由がなければならないはずであるが、その理由が必ずしも明確でないからである。従って国会でも野党の激しい追及を受けているが、政府答弁はすっきりしていない。」、こう言っております。まだ幾つもあります。それから、同日の北海道新聞は、「タイ特別円国民を納得ざせることができるか」という題目のもとに、「純然たる日本の債務返還に付随して借款または投資の形でタイ国に提供することになっていた九十六億円をめぐって、その後タイ国から無償供与するよう要求され、ここに外交上全く異例の協定響きかえが行なわれたが、どんな言いわけをしようと、これを日本の債務と理解するのは至難である。池田内閣ははたして国民をよく納得させることができるであろうか。よくわからぬまま国会審議を数で押し切った南ベトナム賠償と同じ轍を踏まぬよう厳重に警告する。このような保守党政権の心がまえが早急に改められないと、韓国の対日請求権などで国民はまたまた重い負担を負わされる危険性が大きい。筋道を通して、国民のすべてが納得するまでは国会承認を控えるのが順当である。政府は第一回支払い予定の五月に間に合わせようと調印を急ぐそうだが、もってのほかというべきである。」、これは承認は急いではいかぬということを言っております。それから、同日付の中部日本新聞は、「一般論としては、相手が別な解釈で主張したからといって、それなりに修正に応ずるなどということは前例のないことで、確かに不見識だと言えよう。政府は率直に不手ぎわのあった点は反省し、野党に対してももっとよく説明して協力を求めるべきである。」、こういうことを言っております。それから、東京新聞は三日の社説で、「タイ特別円協定に関する新協定国民としてこれほど割り切れない協定はなかろう。旧協定で九十六億円は借款または投資の形でタイの経済開発に協力することになっていたにもかかわらず、政府無償供与とし、しかも利子までつけるような大幅な譲歩をしたことは了解しがたい。特別円処理タイ国ともめることは、両国の友好増進、貿易の伸長等から好ましからぬことだが、それだからといって政府が旧協定の一部を修してまでタイの要求をのまなければならない理由はあるまい。」、続けて、「わが国は特別円交渉に次いでビルマ賠償交渉と日韓交渉とを進めねばならぬ立場にある。こうしたときに政府タイ特別円処理にとった態度は影響が重大である。」と論じておるのでございます。どの新聞一つとっても、政府のとられた態度を是認しておるものではありません。しかも、その他多数の新聞が論説を掲げておらないのは、政府立場を積極的に支持してない結果だと私は断定せざるを得ないのでございます。  そこで、私はお尋ねしたいのだが、池田さんは、独断専行したのじゃない、大蔵大臣や外務大臣とよく相談したんだと、こういうふうに言っておられますが、国民に対しては、この幾つかの社説を見てもはっきりするように、何ら事前にこれを明確にせられておらない。これでどうして大所高所論だけで国民の納得を求め得るのか。私は、今日のこの席上における論議が広く伝わりまするならば、国民の反対論はますます高くなる、こう信じておるのであります。私は、池田さんに対して、大蔵大臣や外務大臣と相談しただけで国民の了解を得ておるんだとお考えになったら、あまり皮相な考えであって、別に何らかとらるべき方策があったんじゃないか、こう考えておるのですが、御所信がありましたらお伺いしたい。
  55. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、今国会を通じて政府説明国民は納得して下さると思います。   〔「森島さんはどうしようとおっしゃるのですか」と呼ぶ者あり〕
  56. 森島守人

    森島委員 あなたに答弁する必要はない。私は、総理大臣に対しては、事前に何ゆえに国会の秘密会くらい開いてその席上で一切の事情を明らかにして了解を求められなかったか、あるいは党首会談を開いて、野党の党首との間の了解を進められなかったか、これらの点につきましては、総理のとった態度は必ずしも満点じゃない、遺憾なものがあると思っておりますが、この点に対しても御所見を伺いたいと思います。
  57. 池田勇人

    池田国務大臣 満点ではないかもわかりませんが、私はまあ適当な措置だと考えております。
  58. 森島守人

    森島委員 私はこの前の本会議のときにも申しましたが、これは異例中の異例である。こんな例は世界の国際政治史の上においてただ一つもない。小坂さんは、事務当局の入れ知恵だと思うのですが、ベルサイユ条約を引き合いに出して、ドーズ案があるとか、ヤング案があるとかおっしゃった。しかし、これも松本俊一委員から指摘したように不適当な例だ。これはベルサイユ条約に対するなるほど改定です。しかし、これは多額な金額を減らしたんです。日本のやつは金額を九十六億円もふやして払う、そこに大きな違いがある。それからまた、国際政治に及ぼす影響から申しましても、ベルサイユ条約に参加しておる国は非常に多い。これは、世界の経済を動かし、世界の政治にまた非常に不利な影響を来たすことは当然想像できる。日本タイとの関係はそうはいきません。そこで、そういう不適当な例をお引きになっても、私としては納得できぬ。これは世界歴史始まって以来初めての例じゃないかと思う。これくらい従来の歴史に例のないようなことを総理独断でおやりになったんだから、これは事前に国会の秘密会でも開いて十分御説明になり、その後に署名に移ればいい。私は、署名前に秘密会を開くなり、あるいは党首会談を開く道があったと思うので、総理が万全じゃなかったと言う点は多といたしますが、何ゆえにそういうふうな措置に出なかったか。憲法の規定に従ってやっているんだとおっしゃるが、これは形式論です。こういう特殊な条約、世界の歴史に例のないような条約ですから、池田さんも低姿勢でやっているんだとおっしゃるのだから、もっと現実の政治論に立脚してこの異例な措置をおとりになったと思うので、何ゆえに署名前国会の審議を求められなかったか、この点についての御所信を伺いたい。
  59. 池田勇人

    池田国務大臣 六年間ももみにもんできておるのでございまして、皆さん御承知の通りでございます。従いまして、私は政府の外交権によってやりました。そうして、それの是非を今国会で御審議願っておるのであります。
  60. 森島守人

    森島委員 外交権でおやりになったというのだけれども、私は、外交権でおやりになっても、憲法上の規定に違反してやれというのじゃないのです。事前に国会承認をとりつける、了解を縛るというふうな御措置をとって決して差しつかえなかった、こう私は思うのでございます。重ねて御所見をお伺いいたしたい。
  61. 池田勇人

    池田国務大臣 前にお答えした通りでございます。
  62. 野田武夫

    ○野田(武)委員長代理 森島君、発言いいですか。
  63. 森島守人

    森島委員 今発言いたします。  そこで、私はお伺いしたいのですが、池田総理は、私から、ビルマの交渉をやる、あるいは韓国に対する請求権の交渉に対して悪い影響があるじゃないか、そのおそれはないかと申しましたら、性質が全然違うのだからそのおそれはないのだということで、私の質問を突っ放された。私は非常な確信を持っておられると思ったのですが、はたして今後影響がないか、この点どういうふうにお考えになっておりますか。
  64. 池田勇人

    池田国務大臣 韓国やビルマに影響はないと私は確信いたしております。
  65. 森島守人

    森島委員 私は、ただ一言、こう思っておるとか、思ってないとか、どういう理由でどういう状況にあるからということを述べていただかなければ、あなた方のひとりよがりをしておることは、そのまま受け取ることはできませんから、もっと具体的に明確に御答弁願いたい。
  66. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この問題は、しばしば申し上げましたように、事柄の性質が違うわけでございます。タイ特別円が日銀の帳簿じりに残高が十五億円何がしかあって、そしてこの中で売り渡すという約束をしておって実行してないものが四千四百万円あった。それを当時の金価格に見積もって換算して、そしてなお引き渡すということになっておって実行してなかったものが〇・五七トンあって、それを計算して、今の四千四百万円を十五億円から引いたものと足して、五十四億円にした。そして、全体の金額からすると、タイの方か言ってみれば、金約款がかりにあるとすれば千二百六十七億円ある、一バーツが十一ポンドであるということで計算してみれば千三百五十億円になる、あるいは先方がいろいろ考えて、一バーツ一円ということにして、三十年当時の一バーツが二十ドルということで計算してみれば二百七十億円になる、それをだんだん交渉の結果百五十億まで詰めて、しかも五十四億と九十六億にしたのだ、その九十六億というものは、その発生の由来からすればタイ側の貸金と考えておったものが、気がついてみるとこれはタイ日本に借金をしたことになる、これはとてもタイ国国民感情が許さない、こういう経緯があったことはしばしば申し上げたわけですね。その他にはそういう国の例はないわけです。従って、例のないものから、同種の問題は起きないというのが総理の言われたことでございます。
  67. 森島守人

    森島委員 私は、その以外にも心理的な影響というものが非常に多いと思う。池田さんのところへさえに行けばうのみにしてくれるのだ、池田のところへ行けということになるでしょう。韓国のことを考えましても、小坂さんと話しておったんじゃあかん、池田のところに行けばまたうのみにしてくれるのだというふうな心理的な影響は、これは否定すべからざるものだと私は思う。むしろ、小坂さん自身は、いろいろ公式な交渉にお入りになったけれども、私は失敗しておると思う。これは失敗するのが当然なんで、私は別個の機会に韓国の問題をやりますけれども、小坂さんは公式会談に入ったって、あのぶざまじゃ私はどうにもならぬと思う。  そのほかにも私は一つ小坂さんの例をあげましょう。小坂さんも、私日は忘れましたが、フィリピンの通商航海条約の問題で、いつでしたか、閣議の了解を得たというので新聞記者のところへ行って堂々とやった。そうしたら、片一方から大平官房長官が出てきて、これは新聞発表をやめたのだというふうな事例もありました。これをもって見ると、小坂さんに外交を全部まかし得るかいなかということは、私は大きな試金石だと思う。私はそういうことを心配しておるのです。  それから、今ビルマや韓国には影響がないとおっしゃいましたが、私はその他にも日本に対するクレームというものはあると思う。これは、松本俊一議員も、クレームというものは化けもののようなもので、どこから出てくるかわからぬと言いましたら、小坂さんも、これを受けて、ごもっともだという返事をしておられるのです。私は、ほかにも、この種の債務——債務というのは適当かどうか別といたしましても、この種の日本に対する請求は来るところがあるのではないかと思っておりますが、この間新聞で見ますと、シンガポールにおいても、大東亜戦争中に被害を受けた華僑がその身体及び生命に対する損害に対して賠償を要求することになって、シンガポール政府を通じて英国政府にその要求を出したという記事がございましたが、これはどうなっておりますか。
  68. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 その前に、フィリピンの通商航海条約の問題は、これはいろいろ書いてはございますが、私の言った通り新聞が書いております。その結果は、御承知の通りで、ちっとも状態は悪くも何ともなっていないのみならず、かえって非常に好ましい方向に進んでおると私は思っております。  それから、今のシンガポールの問題でございますけれども、何か政府の失態のようにおっしゃいますけれども、これは戦争の結果いろいろできておる問題であるということは、これはお互いの問題として考えておいていただきたいと思います。その後の交渉につきましては、今この時期に申し上げる段階でございませんけれども、非常に悪くなれかしとお考えになることは、お互いの立場からいかがかと思います。円満な方向で処理をしたいと思っております。
  69. 森島守人

    森島委員 私は何も国民の一人として悪くなれということは言ったことはございません。あなたもフィリピンの問題等に関しましても悪い方向に行くようにというふうな取り越し苦労をしておるので、私はそういうことは言ったことはございません。  それから、このシンガポールの問題にいたしましても、交渉中だから今発表できぬとおっしゃる。それはその通りかもしれません。シンガポール政府からイギリス政府を通じて日本政府に申し入れのあったことは事実でございますか、事実でございませんか。
  70. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 それはちょっとあれですが、機微ですから速記をとめていただいていいですか。(「秘密外交だ」と呼ぶ者あり)——いや、秘密外交ではなくて……。それはないと申し上げるとかえって火をつけるような場合もあるわけなんでありますから、これはないのでございましょうと御了解を願っておきたいと思います。非常に機微な問題でございますから、その程度に申し上げておきます。
  71. 森島守人

    森島委員 私はそういう答弁では満足できないので、それが事実であるかないかと私はお尋ねしているのです。  それから、もう一つは、私自身が小坂さん同様に愛国心に燃えておるつもりなのです。それに対して、日本の外交関係が悪くなるようにというふうなただいまの御発言があったことは、私は取り消していただきたいと思います。
  72. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私は別にあなたを非難するような意味で何も言っておらないのでございますが、私どもの立場として、これはないと申し上げると、それではイギリスの政庁はなぜ日本に言ってきていないという問題が起きるから、私はそのことを明確に申し上げることはできるだけ避けたい、こう言っておるわけであります。
  73. 森島守人

    森島委員 しかし、私は、いやしくもそういう新聞記事が出た以上、しかもシンガポール政府の発表だったと思いますから、これは在外機関もあるのですから、これはお尋ねになったことはありますか、ないですか。
  74. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 もちろん、この問題はいろいろやっております。しかし、今イギリスの政庁から何も正式に言ってきておりませんけれども、そのことを言ってきてないということを強調いたしますと、今度は、なぜそれをまだ言わないといって、現地のそういう問題も起きるということを懸念いたしまして、こういうことを申し上げておるわけであります。
  75. 森島守人

    森島委員 少なくともイギリス政府なりシンガポール政府に対して、こういう事実があるかないかということをお問い合わせになって、事態を明確にしておくことが、日本外務省としてとるべき措置だと思う。その点は、私は事実であるか事実でないかを聞いておるのです。
  76. 池田勇人

    池田国務大臣 その問題につきましては、今触れない方がいいと思います。これはあなたも内容を御存じでございましょう。私も存じております。触れない方が、国のために、また、わが国のみならず、向こうのためにも、イギリス本庁のためにもいいと思いますから、差し控えておきたいと思います。
  77. 森島守人

    森島委員 それでは、私は適当な時期になったら事態を明らかにしていただくことを求めまして、ただいまこの点につきましてはこれ以上申し上げません。  その次に私がお尋ねしたいのは、北ベトナム、北朝鮮なんかに対する問題は、どういうふうに御処理になる御方針でございますか。
  78. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 この時点で、この問題につきましては慎重を期したいと考えております。
  79. 森島守人

    森島委員 それからまた、長い間、イギリスとの間には、在華権益侵害に対する賠償問題と申しますか、補償問題と申しますか、起きておったはずなんです。これはどういうふうに処理されましたですか。
  80. 中川融

    ○中川政府委員 一年半ほど前に、イギリスとの間にこの問題を最終的に解決いたしまして、日本が五億円ほど払いまして、最終的に解決いたしました。
  81. 森島守人

    森島委員 その次に私がお尋ねしたいのは、なおクレームの問題が出てくるかもしれぬということを外務大臣委員会における答弁でおっしゃっておられますが、どの辺のことをお考えになっておるか、伺いたい。
  82. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 なお、カナダの問題も、これは昨年解決いたしました。イギリスなどは、この戦前クレームの問題を解決いたしましてから、国交関係が非常に緊密になってきたと思っております。しかし、その他にも若干ないわけではございません。これはなるたけ触れぬ方がありがたいと思います。
  83. 森島守人

    森島委員 いや、私は、その他にあるとおっしゃるのは、大した問題じゃないと思う。この席上で説明ができぬ道理はないと私は思っておる。もう一つこれをお聞きいたしますのは、日本の外債負担能力が一体どれくらいあるかという問題にも触れなければならぬと思うので、この点は大蔵大臣出ておられませんから私は触れませんけれども、そういうふうな観点から、その他の問題がどういうものがあるか、これは、小坂さんとしては、そんな軽微な問題でしょうからお話しになったってちっとも差しつかえないじゃないですか。いつも小坂さんは、外交上の秘密だとか何とかいう逃げ口上ばかりで、ことさらに国会における審議にあたって答弁を明確にされないという傾きのあることは、与党の議員も野党の議員も同様に私は感じておると思うのです。そこを一つ考えを願ってお答えを願いたい。
  84. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私は、申し上げられることは非常に率直に申し上げておるつもりでございますが、先ほどのようなお話は、今微妙な段階にございますので、特に差し控えておるわけであります。
  85. 森島守人

    森島委員 じゃ、それでは、その御答弁から伺いますと、現在問題になっておるということなんでしょう。将来出てくるかもしれぬというだけではなしに、現在問題になっておるから微妙な関係にある、こうおっしゃるのじゃないですか。
  86. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 問題になっておるからということではございませんで、よい方向に向かうように努力しておる、こういうことと御了解願いたいと思います。
  87. 森島守人

    森島委員 よい方向に向かうように努力しておるというなら、事実があったことをお認めになっておるのだから、私は大した大きな問題ではないと思うので、その事実の内容等をこの委員会で御説明になるのが国民の了解を得るゆえんだ、私はこう信じておるのでございます。ことさらにこの問題をひた隠しにするということは、私は了解できないのです。その点について重ねて御答弁を伺いたい。
  88. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これはシンガポールの政府の性格から御判断が願えるのではないかと私は思っておったのですが、シンガポールというものはどういう性格の政府であるかということに関連いたしまして御了察を願えると考えております。
  89. 森島守人

    森島委員 私は寡聞にしてシンガポール政府の法的な性質とかなんとかについては知識がないのですが、ここで小坂さんに、御答弁という意味じゃなしに、御教示を願えたらけっこうなんですが……。
  90. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これは、御承知のように、外交権を持っていないわけですね。イギリスが外交権を持っておるわけです。従って、いろいろインヴォルヴされる関係方面があるわけでございます。これはもちろん事実を認めないなんということを私は初めから言っていないのでございまして、これをよい方向に解決したいと思って努力をいたしておるということを申し上げる程度で御了承願いたいと思います。
  91. 森島守人

    森島委員 それじゃ、事実があるということは今お認めになったのだから、適当な時期に国会一つ説明願うことにいたしまして、この点の質問は私留保しておきます。  きょう、朝日新聞を見ましたら、非常にいい記事と申しますか、衆議院外務委員会の審議に望むというのが出ております。この中を見ますと、まあ両方の主張を掲げまして、「これが、いわゆる政治的見解の差というものだが、そういう論争なら、平行線をたどる外はない要素を持っているともいえよう。しかし、この平行線を、国会審議の面でどう決着させ、どう処理するかが当面の重要問題である。いかなる場合にも、与、野党ともに強行突破や暴力的阻止に出ていけないのは言うまでもない。」、(「その通り」と呼び、その他発言する者あり——君の方も書いてある。委員長に注意を求めておきます。その次に、「政府説明に、明確な失態、欠陥、間違いなどがあれば修正なり撤回なりの措置が必要であろうが、」ということを述べております。これはお読みになりますとわかるように、撤回するのも一案でしょう。撤回されるのもあなたの方は一案。それから、もう一つは修正の問題があります。修正の問題については、私は安保委員会の際に持ち出しまして、議論がつかなかった。当委員会においても参考人等を呼び、それから議運においても審議をされましたが、遺憾ながら結論に至っておりません。そこで、私は自民党の内部事情は知りません。知りませんが、自民党の中にも相当な反対意見があるのじゃないか、こういうふうに聞いております。(「ノーノー」と呼ぶ者あり)——それは派閥関係でいろいろあるかもしれぬ。  そこで、私がお伺いしたいのは、昭和三十一年、日ソ共同宣言が出ましたときに、自民党が一体どういう態度をとったかということを私は思い浮かべてみたい。私は記録を持っておりますが、当時日ソ共同宣言には事実上の反対をしたと私は信じているのですが、自民党の中で七十九名の欠席議員がある。このごろのようにやかましくなかったと見えて、七十九名も大量に本会議を欠席した。その筆頭が今の池田さんであり、小坂さんである。それから、ここにおる北澤君もそうです。もっとあげましょうか。床次さんもやって、大平さんもやっておる。それから田中角榮氏もやっておる。自民党の現在の幹部はほとんど出ておらぬということなんですが、これに対する池田首相の御所感を私は求めたい。
  92. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、その問題は、総理大臣としてお答えすることはお答えいたしたいと思います。
  93. 森島守人

    森島委員 総理大臣としてでなくてもけっこうですから、池田さんや小坂さんの、この今の問題に対する池田議員としての、あるいは議員としての小坂さんの御所見を伺いたい。
  94. 池田勇人

    池田国務大臣 私は個人として申し上げることは差し控えます。
  95. 森島守人

    森島委員 では、個人としての御所見も伺えないのは私ははなはだ残念ですが、しかし、当時内心抱いておった日ソ共同宣言に対する反感、反対と申しますか、あるいは鳩山派に対する反発かもしれませんが、そういうところから七十九名も——一々名前を読んでもいいですよ。七十九名も欠席されたのだと私は思うのです。  そこで、私お伺いしたいのは、過去六年間池田内閣としては、——池田内閣ばかりではございません。岸さんも石橋さんも御努力になったと思いますが、本協定が国際政治の上で前例のない悪例であると私は思っておる。このことについては御異論がなかろうと思う。二つには、本協定締結にあたって、いたずらにタイ国国民感情のみを考慮して、日本国民の感情を全然度外視していった点も間違いがないと私は思うのです。これはさっきの私が引用しましたいろいろな新聞の論調がすべてこれを裏書きしておると私は信じております。それから、第三に、減額交渉を池田さんもやられたはずであります。政府としては、減額してでも一時払いにするとか、あるいは石油精製工場を作るとか、いろいろな案をもって御交渉になったことはしばしば御答弁で聞いておりますが、さっきの日本タイ国との通商条約等の関係から申しましても、いま一段減額交渉でもっておやりになる道が必ずあったものと私は信じておる。そうしますと、私は、国民の間にも、まるまる九十六億円払わぬでも何とか方法があったのじゃないかというのが、きょう朝日新聞が書いておるところによってその感情を表わしておるものと私は思う。そこに、困ったことには、従来の政府がとっておられる解釈並びに態度から申しますと、修正の余地はなし、オール・オア・ナッシング、是認するかあるいは否決するかというのが条約審議のやり方だというこの態度について、私は再考を促さざるを得ない。私としましては、常識から考えても、これくらいの修正ができぬなんということはあり得ないと思う。この点に関する憲法上と申しますか法制上の御見解を、林法制局長官からでけっこうですから伺いたいと思います。
  96. 林修三

    ○林(修)政府委員 条約国会における御審議にあたっての問題、これについては、今お話がございました通りに、安保条約改定の際に国会で非常に御議論がございまして、外務委員会においても、あるいは議院運営委員会においても御議論があって、国会としての御結論が出ておらない状況で、それに対して私とやかく申すのもいかがかと思いますけれども、私どもの考えておる法律的見解を蓄えというお話でございますれば、私法制当局として考えているところを申し上げたいと存じます。  これは修正という言葉自身の意味に一つなると思うのでございまして、いわゆる法律案等の修正と同じような意味で、たとえば国会の議決によって条約内容が変わるというような意味の修正は、条約というものは引手方との合意を必要とするもので、かりにその条約について国会で修正すべしという議決があっても、それで直ちに修正になるものじゃないわけで、そこの問題は、結局、もう一ぺんこういうふうに直して先方ともう一ぺん交渉したらよかろう、こういう御意思になるのだろうと思うわけでございます。それを修正と呼ぶに値するか値しないかという問題はそこにあるわけでございます。これは、要するに、この原案ではいけない、もう一ぺんこういうところを直してやってこい、こういう趣旨ではないかというふうに考えるわけであります。これは、私どもの見解で言えば、いわゆる修正ではないのじゃないかというふうに考えるわけでございます。そこで、もう一つまた問題になりますのは、そういうふうに、たとえばここはどうも気に入らないから直してこい、まあだめだとおっしゃった場合に、こう直してやれ、要するにこれを修正してもう一ぺん向こうと交渉すべしという希望の意思の表明じゃないか。それに従って政府が先方と交渉するかしないか、あるいは交渉しても妥結しない場合には、これはどうにもしようがありませんし、あるいは、妥結すれば、そこでもう一ぺん国会にかけるべきなのか、国会にもうかけなくてもいいのか、そこらはいろいろ問題があるわけでございまして、そういうことから申しまして、いわゆる修正という意味を厳密な意味で言えば、私ども条約についてはオール・ナッシングだと思うわけであります。いわゆる希望意思の表明、こういうことに直したら承認してやろう、これではだめだという希望意思の表明をされることを否定するわけにいかないと思います。それを修正と言えばまた修正かもわかりません。しかし、私は、それはほんとうの意味の修正ではない、かように考えておるわけでございます。
  97. 森島守人

    森島委員 この問題は安保のとき以来議運にかかっておりまして、今まで結論を得てないということは委員長も御承知だろうと思う。この点は今林法制局長官からもその通りの御発言があった。これはおそらく委員長も御承知だと思う。私は、こういうふうな、今まで例のないような、国際政治史の上に例のないようなこの種の悪い条約承認するわけにはいきません。しいて、言えば、議連において、はたして修正が、できるかできぬかという憲法上の根本問題をまず御決定願って、その上でこの審議を続けたらいいと私は思うので、委員長に対して、議運へ差し戻していただいて、根本的な点を検討していただくようにお願いしてやまぬのです。委員長、どういうふうに取り扱っていただけますか。
  98. 野田武夫

    ○野田(武)委員長代理 ただいまの森島委員の御発言でございますが、この外務委員会と議運の関係、まずこれを検証すること、それから、今議運における条約上の修正問題が決定しなければこの審議に云々というお言葉がございましたが、委員長といたしましては、外務委員会の審議は、議運の意向にかかわらず、独自の立場であくまでも進めるべきだと思っております。従って、その御希望がありますれば、御希望として、一応議運に対して、その問題についての審議状態がどうなっておるか、経過だけ聞くことは、私、取り計らいたいと思っております。
  99. 森島守人

    森島委員 私の求めるところは、議運における従来の経過を聞くだけでなしに、条約の扱いの問題について、あらためて議運の意見を聞いていただきたい。
  100. 野田武夫

    ○野田(武)委員長代理 委員長として、その取り扱いについて重ねて申し上げます。外務委員会としては、外務委員会本来の使命にのっとって審議を進めたいと思っております。ただし、御希望がございましたから、議運にその経過をただし、その結果その他については、あらためて理事会にお諮りして、御相談して、その後の議運の取り扱いその他についての経過を申し上げると同時に、理事会で御協議いたしたいと思っておりますから、御了承願います。
  101. 森島守人

    森島委員 私は本委員会における審議をお進めになる点については異存はございません。と申しますのは、安保条約を審議の際にも、この問題が出ました。しかし、結局両委員会における審議を続けるという結論になりましたので、私はその通りのお取り計らいでけっこうだと思います。ただ、議運に対して経過だけを聞くというだけでは、私は不満足です。この際ぜひとも結論を出していただき、その結果によって、今後一般総論的に条約の審議をどう取り扱うかというふうに取り扱っていただかなければならない、こう存じております。重ねて御意見を伺いたい。
  102. 野田武夫

    ○野田(武)委員長代理 ただいま申し上げました通り理事会で諮りまして、本問題についての理事会の意向をきめたいと思いますから、御了承願います。
  103. 森島守人

    森島委員 それでは、私は、時間の関係上新協定の各条にわたる内容にわたって質問する時間がございませんでしたから、この質問を留保いたしまして、私の本日の質問を終えたいと存じます。
  104. 野田武夫

    ○野田(武)委員長代理 井堀繁男君。
  105. 井堀繁男

    井堀委員 ガリオア・エロアの問題について、前回留保いたしておりました部分についてお尋ねをいたし、さらにタイ円の問題について続いてお尋ねをいたしたいと思っております。  まず第一に政府にお尋ねをいたしたいガリオア・エロア関係につきましては、さきにどなたかの質疑の間で一応取り上げたようでありますが、われわれどうしても納得はいきませんので、さらにダブってお尋ねすることになるかと思いますが、それはガリオア関係とエロアの関係を全く同一視して協定をなさったもののように判断されますが、これは明らかにその本質を異にするものでありますから、別に協定内容を明示して同一協定にするか、願わくは別々に協定をなすべきものだとわれわれは判断をいたすおけであります。言うまでもなく、占領地域における経済援助の資金と救済資金とは全く異なった性質のものであります。このことはわれわれも多少当時のことを記憶いたしておるのでありますが、アメリカにおいてもこの問題は最初別々に取り扱っていたのであります。いつの時代か混同ずるような結果を生じたということもほのかに聞いておるわけでありますが、しかし、それは、言うまでもなく、債権債務と心得るかどうかという際に、この問題は明確にしなければならぬ第一条件ではないかと思うのであります。この点について、前回どなたかの質問に対して、区分しがたき模様をるる述べておるように伺っておりますが、それは相手側であるアメリカの方の都合でそうなったのであるか、あるいは日本政府もそういう考え方であったのかについて、もう一度お尋ねをしてみたいと思います。
  106. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ガリオアというのはガヴァメント・アンド・リリーフ・イン・オキュパイド・エリアズ、これの略したものでございます。それで、一九四九年に至りまして、エコノミック・リハビリテーション・イン・オキュパイド・エリアズ、この目的が追加されたわけでございます。これは両方とも陸軍省の同一の予算からさようなものが支出されておるわけであります。よく例に引くのでございますが、西独の場合は、ガリオアと、それと全く性質の違うECAによる援助、これを一括して三十億から十億ドルにして支払っております。わが国の場合も同一予算でございますし、それから、一ぺんに支払うものは一ぺんにまとめた方がよかろうというのでフレ・ガリオアも入れ、それから、SPと言っておりますが、サーフラス・フロバンティーズ、この余剰物資も入れて、全部一本にいたしまして支払いましたわけでございます。双方で合意してさようなことにいたしたわけでございます。全部をまとめて、向こうの言っているものの四分の一というのが、結論的に日本の債務としようという金額になったわけであります。さような経緯でございます。
  107. 井堀繁男

    井堀委員 ガリオアとエロアの性質が異なることはきわめて明らかであります。これはどうしてもやはり別々にはっきりさせることを日本政府としてはアメリカ側に、要求すべきであったと思うのであります。何ゆえにその要請をなさらなかったのであるかについて、どうしてもわれわれ納得ができないのであります。この点について明確な御回答を一つ願います。
  108. 安藤吉光

    安藤政府委員 お答え申し上げます。  ただいまの外務大臣の御説明を幾分敷衍することになるかと存じますが、具体的事実に基づきまして御説明すれば御了解願えるかと思います。  ガリオアができましたのは一九四七年の軍事予算法からでございます。これにつきましては、この委員会でいろいろと御説明申し上げたと思います。そのときには、やはり占領地の救済とか、そういったことが“的になっておったわけでございます。ところが、一九四九年の予算になりまして、これも私具体的に持っておりますが、表題はガヴァメント・アンド・リリーフ・イン・オキュパイド・エリアズという同じ表題になっております。その中で、従来と同じ目的のことがずっと書いてございますが、それに、新たに、先ほど外務大臣から御説明がありましたように、これを占領地の経済復興のために使い得るということが追加されておるわけです。従いまして、その元が、出ます費目も同じでございます。ただ、目的が、一九四九年の法律から追加されているというだけのことでございまして、アメリカの歳出予算の性質から言いましても同じでございます。そういったわけで、この前ここの委員会にお配りしましたアメリカの決算ベーシスの数字にも、ガリオアとエロアと区分していないというわけでございます。
  109. 井堀繁男

    井堀委員 アメリカの側の方が区分していないということでは回答にならないのじゃないか。すなわち、政府国民を納得させるためには、そういう理由は私は意味をなさないと思う。というのは、これはもう、どのような条約その他の関係をたぐってみましても、占領下における救済的な意味を持つ物資もしくは資金と経済援助を前提とする資金とは、常識的に判断をしても全く異質のものであります。そういうものを、もしアメリカ側が主張するように明確に区分することができないとうことであれば、むしろ それは、前回もお尋ねをする際に述べましたように、国連憲章の精神なりあるいは国連を通じて一貫しておりまする国際的な大きな目標である新しい民主主義の理想を貫くという大思想の上からいきましても、私は、その混同した意味を善意に理解をして、すなわち、経済復興のための資金というよりは、占領下における統治上の問題、あるいは平和主義への日本民族の協力を求めていくという主義に理解すべきものだと思うのであります。この点は、日本政府としてはアメリカ国に対して十分理解せしめるような説明を必要としない、すなわち、きわめて明確な事柄であるのでありますから、そういう点を明らかにして協定の際交渉を行なうべき筋のものではないかと思うのでありますが、外務大臣はこういう点に対して交渉の際どのような態度でこの問題を協議されたかを明らかにする必要があると思いますので、念のためもう一度伺っておきたい。
  110. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 このエロア資金につきましては、先ほど申し上げましたように、アメリカの陸軍省の予算上はガリオア資金という項目の中で支出されておるわけでございます。しかし、そのかりオアの目的のほかにエロアというものが加わりまして、先方の勘定区分は一つになっておるわけなのでございます。全体の問題といたしまして極東委員会の決定、あるいはその前に参りました昭和二十一年七月の覚書、そういうものを全部包括されておるわけでございまするから、これを清算するに際しましても同一のものによる、かように考えるのが当然だろうと私どもも思うわけでございます。のみならず、先ほど申し上げたように、ECAによる援助、これは西独の場合でございますが、西独では、ガリオア、プレガリオアで十五億三千万ドル、それからECAによって十五億二千万ドルという援助があったわけでございますが、それを一括して三十億ドルにして、それを三分の一払う、こういうことにいたしております経緯もございまして、当時の戦後の援助というものに対しましては同一の基準によって考えていこう、こういうことで合意いたした次第でございます。
  111. 井堀繁男

    井堀委員 たびたび西独の例をとりますが、私どもは、西独はきわめて巧妙な外交交渉をやって、アメリカに対してはかなり有利な条件を確保したものだと思う幾つかの事実を承知しておるのであります。しかし、西ドイツがどうであろうと、わが国はやはりわが国の独自の立場で交渉を行なうべきものでありますから、参考にすることはいいと思いますが、それよりは、むしろ、今問題になっておりまする、ガリオアとエロアの問題を混同して協定するということは、国民としては絶対に了解できぬ。ことに、私がここで強調いたしたいと思いまするのは、日本が降伏した事情と西ドイツの降伏した事情とは、大きな線においてはもちろんポツダム宣言の規定に基づくのでありますけれども、やや事情が違うと私は思う。ことに、占領下における占領政策というものについてはっきりさせなければならぬ問題が幾つかあると思う。その最も重要な点として、西ドイツと日本との異なる点は、広島、長崎に原爆を見舞われたということは、国際道義の上からいきましても、国連憲章がその大理想にしておりまする点からいきましても、アメリカ日本国に対して重大な道義上の責任を痛感しておると私は思うのであります。これを私どもの方から要求をいたさなくても、アメリカ日本に対してたびたびそういう趣旨のことを、外交文書においても、また公式の国際連合の機会においても、反省の事実を誠実に表明いたしておるのは枚挙にいとまないのでございます。こういう関係からいたしまして、むしろガリオアとエロアを混同してアメリカ協定に持ち込んだとするならば、西ドイツに対するように経済復興に対する援助はある意味における投資でありますから、その結果がよければ適当な反対給付を予定するということはあると思うが、しかし、ガリオアに関する限りは、これはこの際私は政府一つ猛打を促す意味でお尋ねをしたいと思うのでありますが、日本とドイツ国の非常な違いというものは、原爆を使用したということ。従来の第一次世界戦争のあとにおいて、世界のすべての人々がこの悲劇を繰り返さないためにという強い要請があって、第二次世界戦争が発生してこれをさらに繰り返すことのないようにということを強く世界の人々が念願してきておるのでありまして、その念願を、悲願を国連憲章の中に明文化したことは、今さら強調するまでもないのであります。こういう経緯からいたしまして、アメリカがもし日本との間にこの問題を折衝する際に混同して提唱してきたというならば、むしろ日本はガリオアにこれを併合したものだと理解していくべきではないか。そうすると、ここに道義的には、アメリカのそういう援助に対して、なるほど原爆に対する相手方の反省の意思表示であったとしても、この好意に対して報いるという態度を必ずしも私どもは否定するものではありません。もっと高い人道主義的な立場からいたしまするならば、敵に塩を送るという気持も日本民族としてはあってもしかるべきだと思うのであります。しかし、そういう意味に国民が理解することができまするならば、今回の協定の中において、どうしてもガリオアとエロアというものを分けて、もし分けることが不可能でありますならば、以上言うたように、これはガリオアに併合したものだという考え方の上に立って協定が行なわれるべきではないか。そうすれば、従来政府はたびたびこの委員会あるいはその他の委員会で明らかにいたしておりますように、債務と心得るという法律的な用語は私はよく理解することができませんけれども、常識として、そういう好意に対しては好意で応ずるというその精神を前提にして協定の交渉に当たるべきではなかったか。ところが、今までの御答弁によりますと、むしろエロアに重点が置かれて交渉したというふうにしか理解できないのであります。この点はまことに遺憾でありますとともに、次にこのことを言えばなおはっきりしたところがお答えいただけるかと思うのであります。  それは、何といいましても、一本の降伏条件、すなわちポツダム宣言の内容に言及しなければこの問題に対する回答は私は出てこないと思うのです。ポツダム宣言に対してもしわれわれと政府が理解を異にするようなことがありましては、大問題でありますが、念のために私はポツダム宣言の中の規定について一つ政府の理解の仕方を伺ってみたいと思うのであります。  それは、ポツダム宣言はもちろん日本民族にとってはきびしいものではありますけれども、やはり、平和主義をかなり強く要請しておりまする一貫したその主張の中で、たとえば第六項、第七、項、第九項、第十一項、これらの中にかなり明確な文言になつ、て表明されております。こういうものを一つ一つあげてお尋ねする繁雑を避けますが、十分お読みになって御回答願うようにお願いしたいのであります。私は、この中で終始一貫したものがあると思うのであります。それは、日本の軍国主義者を憎むこと、あるいは軍国主義にくみした勢力に対する懲罰は非常にきびしいものがある。これはむしろ占領軍の実力をもってそういうものを排除し、もしくはその再現を根絶しようという強い態度は憎々しくうかがえるのでありますけれども、しかし、その反面に、日本の平和主義を、あるいは平和を愛好する一般の善良な国民に対しては非常な積極的な要求と協力すらが主張されておるのであります。この意味を正しく理解するならば、ガリオア、エロアの取り扱いについてはおのずから明確になってくるのではないか。すなわち、日本の敗戦後の実情というものについては、この中でも言っておりまするように、平和主義を育てていくためには新しい民主主義の基礎をつちかわなければならないということを強く言っておるのであります。現に、連合国が一番最初に日本の民族に呼びかけたのは、人権五原則の中にもよく現われておるのであります。この人権五原則は、ポツダム宣言の精神を受け継いで、司令部が日本政府日本の民族に呼びかけた主張であります。この強い要求はかなり具体的なものになっておるのでありまして、言うまでもなく、その当時の連合国は、日本の民族が長くしいたげられるというようなことは、この思想を育てる上に大きな障害になる、のみならず、日本国民の良心に訴えて軍国主義を根絶しようという態度からいくならば、当然生活の最低を保障する措置をとらなければならぬということは、この宣言の中によく出ておるのであります。一体あの当時の、ガリオアはどんなものであったか。今日腹はふくれて、のどもと通れば熱さは忘れるでありましょうけれども、あの当時のことを思い起こしますならば、私ども感謝の念ももちろんでありますけれども、その感謝は私的なものではないはずである。恩を売ったものに恩を返すといったような私的なものではなしに、要するに、世界の民族の求めてやまない世界の恒久平和への理想実現に日本民族も心から協力しようというのが、私はほんとうの誠意にこたえる態度ではなかったかと思うのであります。それに対して銭勘定で幾ら幾らのものを幾らに値切ったというようなことは、日本国のあの当時の実情をこういう形において表明するということは全く誤まったものではないかと私は思うのでありまして、こういう意味におきまして、ポツダム宣言のこの日本の平和主義を育成しようとする情熱的な考え方の上から来るガリオア、エロアの扱い方については、むしろ、先ほど来言っているように、ガリオアとして問題を一つにして扱おうというのなら、目的はそういう点にあったのではないかと思うのであります。アメリカの世論も、私はそういう方向に発展しておると思うのでありますが、この点に対する政府の見解は、今までの質疑応答の中ではどうしてもわれわれは理解することができません。むしろ、逆に、政府態度というものは、何かぜい六根性で、取引するような際に使われる考え方のようにしかとれぬのであります。この点を私はこの機会に国民に明らかにする義務があると思うのでありまして、非常にくどいようでありますが、以上、要するに、ポツダム宣言の中に盛り込まれております精神とこの取り扱い方に対する政府態度とは全く相反する態度のようにしか理解できないのであります。この点について、もう一度、政府の交渉に臨まれました当時の経過なり考え方なりというものを伺っておきたいと思います。
  112. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 このガリオア・エロアの対日援助に対しまして、この場でもしばしば申し上げましたことでございますが、一九四七年六月十九日に極東委員会が決定を行なっておるのであります。すなわち、降伏後の対日基本政策、それは、ポツダム宣言に基づきまして、日本の占領政策をどうするかという決定をいたしたわけでございますが、その中に、日本輸出代金は非軍事的輸入の費用に使用することができる、かようになっておるのであります。すなわち、この日本に対する援助の代金というものは、結局これは取り立てる性格のものであるということを言っておるのであります。これより先、このガリオア援助というものに対しては、これが日本との関係はどうなるかということについては、ガリオアに対する覚書が一九四六年の七月に出ております。その他、すべて、日本側に対する援助というものはどういう性格のものであるかということを、アメリカの予算をきめます際に、アメリカ側としてもしばしば証言しておるのでございまして、これはすべて債務性をうたっておるわけでございます。また、わが国におきましても、一九四九年四月の阿波丸の協定並びにその付属了解事項におきまして、日本国に供与ざれた信用及び借款は有効な債務となるのだということを心得ておるという了解をいたしておるのでございます。従いまして、だんだんのお話にございましたような、この戦後の復興に際しまして、アメリカが主として当たったこの対日占領政策の非常な新しい行き方というものに対しては、われわれはこれを多とすると同時に、その性格そのものは、ただ全額日本に金を貸したのだ、こういうものでないことは、これは私どもも主張したところでございます。私どもは、そういう了解に基づきまして、ガリオアの援助についてはその何がしかを払うという交渉をいたしたわけでございます。そこで、西独等においては、すでに九年前にこの協定を結んでおりまして、その返済協定を結んだ実例があるわけでございますので、それを参考にせざるを得ないわけでございます。しかし、お話のごとく、日本には日本独自の立場もございまするので、種々交渉をいたしまして、アメリカ側の言っている四分の一払うということにいたしたわけであります。しかもなお、その払いまするもののうち、日米の文化交流に充てる金が二千五百万ドル横へのけられまして、これは日本に積み立て、さらにその残余のものについては、まだ開発のおくれている国に対する援助に使われる。アメリカはそれをそのままふところに入れないで、幸いにして日本は戦後の復興をなし遂げましたけれども、まだ開発のおくれている国がある、その国に対する援助にこの金を使おう、こういうことにいたした次第でございます。井堀さんの仰せのごとき気持を含んで交渉をいたしたわけでございます。
  113. 井堀繁男

    井堀委員 お気持がそうであった、とするならば、私は結果も協定の上にそう出てくるべきではないかと思うのでありますが、協定書を見ますると、そうではないと思うのであります。もっとはっきり言いますならば、もっとも、アメリカの民族性と日本のものとは異なるからでありましょうけれども、先ほど私はなぜ。ポツダム宣言を引例したかと申しますと、やはり、国際的な一つの基準を定めたものとしては、これはかなり有力なものであったと思うのであります。あなたのおっしゃられるような交渉であったとするならば、私は、やはり、ガリオア・エロアというものをはっきり、区分をして、そして、占領地域における救済については、これはもう。ポツダム宣言を正しく理解いたしますならば、占領軍の単なる権利義務の形においてではなしに、やはり大きな平和主義を育成していこうという大目標の上からいきますならば、それがよし全然返済の見込みがないといたしましても、なさなければならない世界民族の共通の一つの仕事ではなかったか、こう理解すべきものだと私は思うのであります。その理解が誤まっておるというのでありますならば、私は、アメリカ考え方は、国連憲章なりあるいは、ポツダム宣言の中に盛り込まれた思想とは全く背馳することになりまするから、そういうことはあり得ないと見るべきだと思うのであります。ただ占領地域における経済復興資金の問題については、政府がいろいろな例をお引きになっておりまするように、経済復興を意図いたしまするのは、やはり、世界の平和を維持するためには、一つには軍国主義的な経済についてはこれを厳重に制圧するけれども、平和的な世界の人類の福祉をつちかうような経済については協力をしていくということも、単なる支配と被支配とか、あるいは戦勝国、戦敗国といったような関係を離れて行なおうということも、ひとりエロアに例を引くまでもありません。アメリカがかつてヨーロッパに対する経済援助をいろいろな形においてなされてきておる例を見てもわかるのであります。それは、必ずしも債権債務という、幾らの貸付に対して幾らの金利を見込んで、それがどのくらいの期間において元利が償還されてくるといったような、今日の企業経済の中で見るような採算の関係に置いていない。それがよし元をするようなことがあっても、長い将来において平和産業への、要するに軍国主義的な経済の阻止勢力になるならば、それは重要な意義を持つ。私はここに資料を、二、三用意いたしましたが、あなた方がここに出されておりまする資料は、アメリカのそういうものも出してくるべきではなかったか。アメリカは国連の会議の際にそのことをたびたび形の変わったところで述べておるのであります。でありますから、私は、このベースの上に立ってこういう問題を討議し合うという態度が賢明な外交交渉のあり方ではないかと申すのでありまして、何も借金を払いたくないからそういう主張をするというのではないのであります。これはやはりポツダム宣言の精神を貫くという共同の立場において主張ができるはずである。ここで抽象論をやりましてもどうかと思いまするが、政府がわれわれに示されておりまする資料だけで判断をいたしても、私はそういう議論国民の前に有意義であると思いまするから、この資料に基づいて一つお尋ねをしてみようと思うのであります。  この資料一は、「米国の戦後対日援助が債務性を有するものであると考えられる根拠資料」というので出しておる。私はその前文も気に入らぬのでありますが、この内容を見て参るとわかりますように、明らかにガリオアとエロアを別に考えておる。この当時は、政府はもう十分御存じだろうと思うのでありますが、最初アメリカもこれを明らかに区別しておったのであります。どういう事情一緒になったかということが明らかにされていないのでありますけれども、そういう場合は、やはり大局的なこういう問題を決する根拠的なものはポツダム宣言の精神によるという考え方が正しいと私は思う。これにもありますように、「非軍事的輸入であって降伏以来すでに」云々のこの点から明らかになっておりますように、もし日本が経済復興をなし遂げたならば、——また、経済復興をぜひさせたいという意図は、先ほど言うように、根本的な考え方であった。それから、やはり打算的なものももちろんあるだろうと思うのでありますが、そういう点で、経済復興を援助することは将来大きな反対給付を得られるという期待は私はここにあると思うのであります。しかし、ここにも言っておりますように、マッカーサー元帥の言葉の中に、しきりに慈善ではないということを言っておるのであります。この慈善ではないという意味は、言うまでもなく、単なる慈善という理解よりは、もっと高い見地に立って、すなわち、世界の民族が平和を、しかも恒久平和を確立するための努力としてこういうことがなされなければならぬというふうにこれは理解すべきではないか。アメリカ人はそういうふうに理解されておるという証拠は、私は幾つかの文献によって見ることができると思う。こういう点について、私は、政府はわれわれに示すに当たりましても、これを一々読むことの繁雑を避けますが、今までの論争の中でも、この問題に対してはあまり掘り下げた政府の意思が表明されておらぬようであります。私は、明らかにこれは二つの意味を盛り込んでおると思うのであります。すなわち、ガリオアとエロアというものを一緒の文書にしておりますけれども、理解の仕方は明確になっておると思うのでありますが、この点に対する政府の見解を一つ伺っておきたいと思います。
  114. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 アメリカは人道主義に基づきまして占領に対処して諸種の行政を行なったということはその通りだと存じますが、   〔野田(武)委員長代理退席、北澤委員長代理着席〕 さればといって、それでは無償でやるのかといえば、無償ということはどこからも出てこないわけで、この点については資料でいろいろ申し上げております通りであります。  なお、私ども、この戦争のことはすべて反省の気持のみでございますが、日本軍が占領した当時などは、全部現地調弁をやっていったわけでございます。当時の人の話を聞きますると、アメリカ軍が参りまして現地調弁をされるのではないかということが非常なわれわれの心配だったと聞いております。アメリカ軍においては、それをしないのみならず、かかるわれわれの今日の経済復興の基礎になるような膨大な援助をして参ったということは、これはもうすでに非常な新しい占領に対する考え方だと思えるのであります。これをいかにすべきか。これについては、援助の性格をいろいろ規定する文書をわれわれはもらって、輸入食糧の放出を懇請するに際しましては、すべてその支払い条件その他金額については追って相談するということを了解の上でこの援助を受けておるのでありますから、やはり、われわれの側といたしましては、将来日本国民として堂々と世界の外交界を濶歩する上から言いましても、われわれの矜持においても、やはりこれだけの合意したものは払うというのが妥当であると考えておる次第であります。
  115. 井堀繁男

    井堀委員 考え方の相違は、議論では終局しないと思うのでありますが、しかし、私どもの非常に重要と考えていることは、ポツダム宣言に対する理解だけは正確にしておく必要があると思うのです。そういう立場がはっきりしませんと、私どもの質問の意味もなさなくなると思うのでありますが、たとえば、この第二の資料の中にありましても明らかに言っておりますように、救済と慈善をはっきり説明しておるのであります。たとえば、ここにもありますように、「日本の債務となるが、これは日本国内にあるすべての資産に対する第一義的債権によって保護されなければならない。」、翻訳でありますからたどたどしいのでありますが、われわれのこの理解は、すなわち、在日米国財産というものを確保するためには、日本が一日も早く経済的に立ち直る、しかもそれは平和的姿において成長されるということが、アメリカ軍の持つ債権をすみやかに、そうして確実に保護することになるという趣旨でありまして、これは当然なことだと思うのであります。でありまするから、たとえばこのように、エロアにいたしましても、単なる債権債務という考え方でないということをここでも明らかにしておるのであります。それを、今まで政府説明によりますと、向こうの要求額から多額の減額をさしたからそれだけ利益ではないかという説明では、こういうものに対する答えにはならぬと思うのであって、むしろ、日本が忠実に賠償にこたえていけるような態度に早く立ち上がったということは、このマッカーサーの議会におけるメッセージの精神を忠実に果たしたことになるのでありますから、あるいはアメリカは金銭ずくで日本にこの協定を要求したものでないと理解すべきだ。でありまするから、金銭が多いとか少ないとかいうことよりは、ガリオアとエロアというものを明確に分けて、そして、前者についてはお互いに精神的な決済をしていく、後者については、その目的が那辺にあったかということを明らかにして協定していくべきではないか。こういう点については、どうしても政府の今までの答弁説明では納得ができぬのであります。  なお、きょうの御都合があるそうでありまして、私あとタイ特別円問題についてお尋ねをいたさなければなりませんのですが、この問題については私どもは多くの不満を持っておることを明らかにいたしておきたいと思っております。なおまたこれに対する質疑の機会を得たいと思っております。  次に、タイ特別円の問題についてお尋ねをしてみたいと思うのであります。  今まで予算委員会あるいはこの委員会などにおいて政府が明らかにしておりまする態度は、これは、同じ立場で戦争を戦った仲間の国でありますから意味は多少違うと思うのでありますが、しかし、この友好関係をさらに一段と深めて、そして今後日・タイの経済関係などに提携を深めていこうという考え方については、ほのかに理解ができるのであります。しかし、そうであるからというので、従来タイの方でも理解をされておりまするように有償で問題を処理すべきものを、無償に置きかえるということは、ある意味においては相手を見下げた態度で臨んだというふうにとるべきではないか。これは先ほどのガリオア・エロアとは本質、的に違いますけれども、外交交渉の将来のためにというのでありますならば、そういう方法ではなしに、もっと対等の立場で問題を扱うということになれば、従来の協定した精神に基づいて善処されべき道があったのではないか。この点はまあ理解の仕方に上るだろうと思うのでありますけれども、少なくとも、タイ国との、特に東南アジアの諸国との日本の今後の外交交渉などについては、その一波は万波を呼ぶと思うのであります。そういう意味で非常に重要だと思いますので、われわれの考え方は、こういう方法で何か相手の上にのし上がったというような感じを残すような再協定をやるべきではない、再協定をもし必要とするならば、むしろ、もっと友好を深めていくという立場において協定がなされるということになれば、こういうことにならなかったのではないか。この点は非常に遺憾と思います。一体なぜそういうようなことになったのか。今までのあれで言いますと、今後の外交交渉やあるいは経済交渉などについて両国の間に有利な条件をという意味だということを繰り返しておるだけであります。そうだとするならば、こういう形とは逆になったのではないかと思われるのでありますが、この点は、池田総理が直接そういう窓口を開かれたという経過がありますので、池田総理のこの点に対する見解を伺っておくととが大切だと思います。
  116. 池田勇人

    池田国務大臣 今回の協定を結びますにつきまして、優越感とかなんとかいう考えは一切持っておりません。われわれは過去の善隣関係を一そう高めるというつもりでお互いにいっておるのであります。私は、今後におきまして、われわれの期待する通り、どこの国よりもタイ国日本とやっぱり経済協力その他文化、いろいろな点で協力することを誓い合ったのでございます。私は、今までの懸案を一掃いたしまして、新たな、輝かしい場面が出てくることを期待し、先方もそういうふうに言っておるのであります。
  117. 井堀繁男

    井堀委員 このことは私は非常に遺憾に思うのでありまして、政府がこういう交渉へ切りかえるということについては、むしろ外交折衝上マイナスになるのではないかという考え方がどうしても解消いたしません。この点についてお尋ねをしていきたいのであります。  もう一つ、今すでに問題になっておりますが、ビルマと日本との間の平和条約の中でも、こういう一つ協定を改められたということによって問題が再燃してくるのではないかという危険が幾つかあると思います。たとえば、平和条約の第五条の第一項(a)の(III)でありますが、この中で、「日本国の経済力とに照らして、公正なかつ衡平」云云という、日本の経済力の消長いかんによっては協定についてさらに話し合いをしたければならぬという意味のものがありますし、また、ビルマ、と日本国の間の賠償関係協定いたしました賠償及び経済協力に関する協定の第一条の第二項にも、それよりもっと積極的な規定があると思うのであります。これなんかを見ますと、経済協力関係いたします点を将来に約束しておる点が明確であります。こういうような点からいきまして、日本タイ国との関係がこういうように更新されるという前例を残しますと、またこういうところからの要請が必然的に起こってくると理解するのでありますが、そういう危険性は全然ないと思われるかどうか、あるいは、もし話があったときにはどういう工合にしようとお考えになっておるか、伺っておきたいと思います。
  118. 池田勇人

    池田国務大臣 これは、ビルマ、インドネシア、フィリピンとの賠償でございますが、タイ特別円賠償ということから来ているのじゃございません。全然出発点が違っておるわけでございます。それからまた、ビルマとの間の経済協力の分には似たような文句を使ってございますが、これはもう出発点が違うのでございますから、問題は起こりっこございません。今問題が起こっておるのは賠償の再検討条項、これは今折衝中でございます。タイのこういうことをやったからといって、これが他の賠償国に影響するということは、根本的に建前が違うわけでございますから、起こり得ないと確信いたしております。
  119. 井堀繁男

    井堀委員 これは非常に重要なことで将来へ関係を持つことでありますから、もう一ぺんはっきりしておきたいと思いますが、この平和条約規定によりましても、これはどう理解しておるか知りませんが、もちろん、一方は平和条約であるし、また他方は賠償に関する協定であることは、これはもうさっき言った通りであります。条約が違うからということについて、今言う第三号の規定にありますように、日本の経済力と照らし、この協定の精神に基づいて改定をする必要をここに書いておるわけでございます。だから、タイの場合は賠償ではないから、相手方が違うから、こういう問題については何らの影響を及ぼさないというふうに総理は今答弁をなさったのでありますが、私は、それは機械的な解釈ではないかと思う。  それで、外務大臣にお開きしたいと思いますが、第五条の今の三号の方に書いてあります、「日本国の経済力とに照らして」という方からあとの文でありますが、これは一体どういうふうに理解したらいいか、それから伺っておきましょう。もし私の理解の仕方が違っておるといけないから。
  120. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ビルマは一番最初に日本と平和条約を結びまして賠償の決定をしたわけでございます。そこで、他の国との間に均衡を失する場合にはこの再検討条項を適用したい、こういうのがビルマ側の希望でございます。それで、いかなる国との均衡を失しておると現在考えてこの発動を、要求しているかということでございますが、先方の申しますのは、インドネシアとフィリピンを言っております。
  121. 井堀繁男

    井堀委員 それでは、もう一項、今言う賠償協定の場合の第一条二項は、やはりそう理解すべきかどうか、ここにちょっと問題があると思いますので、この点をお伺いいたします。
  122. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これは再検討条項とは関係ございませんで、あらゆる可能な措置をとるという約束をしている、こういうことだけでございます。
  123. 井堀繁男

    井堀委員 今言う平和条約のものは他国との均衡上の問題を留保されておるわけでありますから、さっき言うように、なるほど条約の相違は明らかでありますけれども、この意味は、今外務大臣答弁にもありますように、経済的な条件が前提になっておるのでありますから、日本がもしタイに対しても、こういう要するに恩恵と、言ったら言い過ぎかもしれませんが、過分にと思われるような行為をしますような再協定がなされるということになれば、私はこの精神は一つの比較の対象になって出てくるのではないかと思う。これは対象にならぬと言い切れますかどうか、もう一度念のためにお聞きいたします。
  124. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先ほども総理大臣からお答えがありましたように、はっきりと対象にならないということでございます。もしかりにそういうことがありといたしまして、さような要求がありましても、断るということをはつきり申し上げておきます。
  125. 井堀繁男

    井堀委員 私は、外務大臣の政治力に期待いたしたいし、池田内閣の外交上の地位ができるだけ高まることを望むものでありますけれども、しかし、相手も、条約規定したものを日本の解釈だけで引き下がるかどうか。これは要するに日本政府がそう考えるということによってきめられるものでないことは明らかであります。一体、これは国際法上の考え方もあるだろうと思う。また、一本とタイ国あるいは一本とビルマだけの間で話ができたと仮定いたしましても、日本の言い分だけで相手が引き下がるかどうかというと、問題があると思う。そういう意味で、もう二度、この平和条約の第五条第一項(a)の第三号の解釈につい、て、条約局長から、全く政治論をまじえないで、こういう条約に対してどこへ出してもその主張が通るか通らぬかを明言できるかどうかを、もう少し伺っておきたい。
  126. 中川融

    ○中川政府委員 この平和条約第五条第一項(a)の第三号の解釈は、この条約ができました当初から、この通りの字句で先方との間に合意を見ておるわけでありまして、そこに一つも解釈の相違は今まで出てきておりません。どういう解釈かと申しますと、ここに書いてある通りでありまして、すべての賠償請求国に対する最終的解決があった際に、その結果と、つまり賠償請求国に対して日本が行ないました最終的解決の結果と、それから、そのときにおける日本賠償総領の負担に対して向けられる経済能力、これとを考えまして、この公正なかつ衡平な待遇に対するビルマの要求、こういうものが初めからあるわけでございまして、この公正なかつ衡平な待遇、こういうものに対するビルマ連邦の要求を、そのときもう一ぺん検討してみるということに日本が同意しておるので、あります。従って、今すでにすべての賠償請求国に対する最終的解決があったわけでございますから、日本としては、こういうことを考えまして、つまり、最終的解決の結果と、それから現在における日本賠償に振り向けられる経済的能力というものとを考えまして、そしてビルマが最初から持っておりましたこの公正なかつ衡平な待遇——衡平なというのは決して均等なという意味じゃありません。要するに権衡を失しないという意味で衡平な待遇に対するビルマの要求をもう一ぺん見直してやる、こういう約束でございます。それを今やっておるところでございます。従って、タイとの解決がこれに悪影響を及ぼす、これはあり得ないわけでございまして、つまり、賠償請求権の最終的解決を対象にして考えているわけでございます。タイとの関係はないわけでございます。
  127. 井堀繁男

    井堀委員 私は、タイ国関係があるかないかをあなたに聞いておるのじゃなくて、それはわかっておるわけです。この条約タイ国との関係に直接つながるというのではないのであります。ただ、あなたの説明の中で非常に重要だと思われますのは、日本国の意思をここに約束しただけではないのであります。明らかにビルマ側の要求するところの権限をここに保留しておる。その保留の理由は、この条約の中にあるように二つの要素があるのであります。一つは他との均衡が問題になる。すなわち、賠償国でありますから、まあタイ賠償の対象国でないとすれば、それはその場合には対象にならぬかもしれぬということがあるかもしれません。しかし、それは日本国側の解釈だけではいけない。すなわち、相手側が要するに保留しておるのでありますから、ビルマがその問題を問題にした場合に、それは問題にならぬということを一方的に言い切れないという一つ関係があるのであります。それから、もう一つ大事なことは、それより重要なことは、日本の経済能力がということが前提になってきておるのであります。でありますから、その場合に、日本が、もうすでにタイとの間に話し合いがついておったにもかかわらず、さらに協定を改定をしてまで経済的な積極的な行為を示せるのではないかという理由をあげられたときに、一体どうしてそういうものを拒むことができるか。ことに、私は、日本の内閣は御存じのように絶えずかわっていくわけであります。永続政権ではないのでありますから、池田内閣の協定池田内閣によって始末をするということは事実上できないのであります。次の内閣に申し送られるわけでありますから、外務大臣総理大臣の個人的見解でこういうものはきめらるべきものではないことは、今さら言うまでもないのであります。それで、私どもがここで心配をして質問をしておるのでありますから、政府の主観や、あるいは外務大臣総理大臣の主観で問題を決すべき筋のものではないのであります。しかも、相手国はあるわけであります。相手側だけの権利を保留するという条項に属するのでありますから、こういうものに対しては念には念を入れて、そういう、言いがかりという言葉は適当じゃありませんけれども、要するに、理由にされるような、外交交渉の中で経済的な条件というものはよほど慎しんでいかなければならぬことだと思うのであります。日本賠償に対する終結というものはまだどこにも見られてないのであります。ことに、今言うように、こういう相手国から権利を保留するような条項のある場合、こういう点において、私は、これは賠償とは違うからという理由だけで相手が引き下がれないのじゃないかと思われるのであって、これは、総理の見解は単なる個人の見解ではなくて、今後を通じて日本政府の対外的な大きな意思表示になるわけであります。こういう点についてはどうしても理解できがたいので、この点に対する見解を念のためにもう一つ伺って一おきたい。
  128. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、このビルマとの第五条第一項(a)第三号、この分は自分も関係したのでございますが、賠償国に対してビルマは一番早くやったわけでございます。その後の状況によって再検討しよう、こういう条項でございますので、他の賠償国に対してはございません。従って、ビルマが留保しまして、そうして日本がこれに応ずるというので、今再交渉しておるのであります。それから、タイとの問題は、御承知の通り、第二条によってクレジット及び投資の形式において労務あるいは資材を供給する、こうなっております。しかし、その供給の仕方は、第四条で合同委員会できめるということになって、それがきまらないのであります。だから、われわれは、こういう規定がきまらなければそのままでほうっておくと言ったって、これは国際信義上何ら差しつかえないわけであります。第四条できまらない、きめずにおくことが両国の関係から言って望ましいことか、望ましくないことか、こういう問題でございます。それからまた、九十六億円の資本財及び労務を供給する、こういうことにしております。九十六億を何年間で供給することにしておるか、こういう問題につきまして、これは非常にばく然たるものがあるから四条があるわけで、これを今有償とか無償とかいう議論がございますが、有償というので、九十六億円を二分とか二分五厘の利子で三十年も四十年もやられたら大へんなことなんです。それがきまらない。そこに一つのむずかしい点があるのでございまして、賠償する国々との関係と全然性質が違うのでございますから、私は、ビルマとの平和条約第五条(a)第一項第三号の問題は別個の問題で、タイなんかとは全然違う、ビルマに影響するところはないと確信いたしております。
  129. 井堀繁男

    井堀委員 これは、日本政府の見解を強弁いたしましても、タイ日本との関係であればそこでいいと思いますが、さっき私のお尋ねしておりますのは、ビルマが日本タイ国との協定改定についてとにかくどう理解するかは、これは日本タイ国との関係だけで問題を限定するということは、こちらではそういうことが望ましいかもしれませんけれども、ビルマがそれを例にして来ることを拒む理由にはならぬのじゃないか。それが経済的に後退さしたという内容のものであれば、むしろ逆にこういう例もあるからということになると思うのであります。日本の経済力が将来ますます成長していくことは何人も希望しない者はないわけでございますから、そういう意味では、このビルマとの平和条約第五条第一項(a)の三号というものは、まあ払える能力がどんどんできてくればたくさん出すことはいいということにもなるのでありまして、要するに、相手方がこれを保留したという精神は、他との均衡と、もう一つには、今の状態ではこの程度かもしれぬけれども、将来は日本の経済状態がよくなればもう少しちょうだいいたしますよということであって、そういう際に、こういう協定が今日の段階において結ばれたということは、影響なしにはいられないというのが私の質問している要点です。それが絶対にそういう懸念がないというはっきりした御答弁がありますならば、私の質問は了承するわけであります。どうも今のところは了承ができませんので、なおもう一度お尋ねいたします。
  130. 池田勇人

    池田国務大臣 ビルマの平和条約第五条第一項(a)第三号によっての要求は、タイとの特別円とは全然関係ございません。私は、また、そういう問題につきまして、ビルマから一切そういうことを聞いておりません、単に他の賠償国、すなわちフィリピン、インドネシア等と比較して、こういうことで来ておるのでございます。それは、われわれが条約を結ぶときに、そういう場合もあり得るとして、そこへ書いた通り協定を結んだわけであります。その協定に基づいて来ておるのであります。タイ特別円がどうだとかこうだとかいうのでビルマは一切言っておりません。
  131. 井堀繁男

    井堀委員 今もちろんそういうことを、言ってこようはずはないと思います。まだ協定承認されるかされぬかは、これからの問題でありますから、今後の問題であることは言うまでもないのであります。しかし、そういうことで、私の今お尋ねしておる二つのうちの一つは、賠償国の関係だけに限定されての均衡だというふうに理解すれば問題は一つ解消する。それから、次に、前にあります日本の経済能力の問題は、私はむしろ非常な不安をそそると思うのであります。これは納得ができがたいのであります。  そこで、もう一つ、これは条約局長にこの際明らかにしていただきたいと思います。すなわち、ビルマとの賠償及び経済協力に関する協定の第一条の二項の解釈でございます。あなたの解釈を一つ伺っておきたい。
  132. 中川融

    ○中川政府委員 ビルマとの賠償及び経済協力に関する協定の第一条第二項でございますが、これは、条約効力発生の日から十年間、その間に日本が年平均五百万ドルに相当する日本人の役務及び日本国の生産物を、日本人とビルマの政府または国民との共同事業の形で使用に供する、そういうことによって行なわれる経済協力を容易にし可能にするためにできる限りの措置をとる、こういう約束をしておるのでございます。すなわち、十年間に総計五千万ドルに達する日本人の役務と日本の生産物が合弁事業の形でビルマの手に入る、こういうようにしてやることのためにできる限りの措置をとる、こういう約束をしておるわけでございます。従って、十年間にはたして五千万ドルに達するやいなやは、この規定からはすぐには出てこないのでございまして、できる限りの措置をとるということを政府は約束をしておる、こういうことであります。
  133. 井堀繁男

    井堀委員 条約局長にもうちょっと伺いたい。このあとの「あらゆる可能な措置」というのは、実は先ほど説明されました関係に限定してのことであろうか。この協定二項全体を見ていきますと、可能な措置というのはかなり広い意味を規定されておるのじゃないかと思いますが、もう一ぺんこの点を念を押しておきます。
  134. 中川融

    ○中川政府委員 「あらゆる可能な措置」でございまして、従って、でき得るだけの措置政府がとる、こういうことでございます。しかしながら、いろいろできない措置も当然あり得るということを一方この裏には予想しておる規定でございまして、われわれがこれを作りました当初から、これはいわば最終的な義務をここではっきり確定した意味の規定ではなくて、むしろ、政府としてやり得る限りのことをする。つまり、法律その他もございます。日本の国内法によって制限されているようなことは、いかにしてもできないわけでございます。日本政府は、日本の国内法を変えてまでそれを可能にする義務はない。しかしながら、現在ある国内法の限度内ではできる限りの便宜をはかってやるというのが、初めからの考え方であったわけであります。
  135. 井堀繁男

    井堀委員 可能な範囲というのが、先ほど条約局長から説明がありましたように、この共同事業の形式云々という内容の範囲内における可能な、あるいは不可能なということを規定したものでありますならば、格別私は心配はないと思うのであります。ところが、この二項全体から受けます解釈というのは、そこに限定しておるのじゃなくて、やはりもっと広い意味で相手方の方で要求権というものが保留されているというふうにとる場合においては、さっきの問題との関係が出てくると思いますが、この点条約局長はどういうふうに思っておられますか。
  136. 中川融

    ○中川政府委員 その点は協定規定ではっきりしていると思うのでございまして、つまり、政府の義務は、こういう共同事業の形による経済協力を容易にするため、それが容易になるようにあらゆる可能な措置を講ずるというのであって、政府のやります目的は、あくまで容易にすることでございます。しかも、それが可能な範囲内でやるということでありますので、実質的なはっきりした確定目標をここで約束した趣旨ではない。要するに、できるだけそういう措置をとる、こういうことを約束してあるわけであります。
  137. 井堀繁男

    井堀委員 タイ特別円の問題につきましては、またこれが前例になるという危険性と、いま一つは、外交折衝、特に、東南アジア諸国に対する、賠償の対象になる国と、それから交戦国と、あるいは当時同盟国だった国との関係について問題があると思いますが、伺いますと、何か理事会のお約束なんかがありまして、五時半までということのようであります。多少中途半端でありましたけれども、一応、お約束に従いまして、きょうのところはこの程度にいたしておきたいと思います。条約の問題については、私もまだ十分検討をいたしておりませんし、いろいろな説があるようでありますので、そういう点をもう少し調べまして、機会がありましたらまた発言をいたしたいと思います。  本日はこれで終わります。
  138. 北澤直吉

    ○北澤委員長代理 本日はこれにて散会いたします。    午後五時三十六分散会