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1962-02-21 第40回国会 衆議院 外務委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年二月二十一日(水曜日)     午後零時二分開議  出席委員    委員長 森下 國雄君    理事 北澤 直吉君 理事 野田 武夫君    理事 福田 篤泰君 理事 古川 丈吉君    理事 松本 俊一君 理事 岡田 春夫君    理事 戸叶 里子君 理事 森島 守人君       池田 清志君    宇都宮徳馬君       宇野 宗佑君    大久保武雄君       正示啓次郎君    田澤 吉郎君       竹山祐太郎君    床次 徳二君       福家 俊一君    黒田 寿男君       田原 春次君    穗積 七郎君       松本 七郎君    受田 新吉君       川上 貫一君  出席国務大臣         外 務 大 臣 小坂善太郎君  出席政府委員         外務政務次官  川村善八郎君         外務事務官         (大臣官房長) 湯川 盛夫君         外務事務官         (アメリカ局         長)      安藤 吉光君         外務事務官         (条約局長)  中川  融君         外務事務官         (移住局長)  高木 廣一君  委員外出席者         外務事務官         (経済局次長) 中山 賀博君         専  門  員 佐藤 敏人君     ————————————— 二月十九日  委員古川丈吉辞任につき、その補欠として高  碕達之助君が議長指名委員に選任された。 同日  委員高碕達之助辞任につき、その補欠として  古川丈吉君が議長指名委員に選任された。 同月二十一日  委員賀屋興宣君、濱地文平君、勝間田清一君及  び受田新吉辞任につき、その補欠として大久  保武雄君、宇野宗佑君、田原春次君及び西村榮  一君が議長指名委員に選任された。 同日  委員宇都宮徳馬君、田原春次君及び西村榮一君  辞任につき、その補欠として濱地文平君、勝間  田清一君及び受田新吉君が議長指名委員に  選任された。 二月二十一日  理事床次徳二君同日理事辞任につき、その補欠  として古川丈吉君が理事に当選した。     ————————————— 二月二十日  ドミニカ国ネイバ地区引揚者の更生に関する請  願(赤澤正道紹介)(第一二九二号)  同(小泉純也君紹介)(第一二九三号)  同外一件(澁谷直藏紹介)(第一二九四号)  同(古井喜實紹介)(第一二九五号)  同(木村守江紹介)(第一三四七号)  同(門司亮紹介)(第一三四八号)  同(米山恒治紹介)(第一三四九号)  同(小笠公韶君紹介)(第一四〇七号)  同(中村寅太紹介)(第一四〇八号)  同(二階堂進紹介)(第一四〇九号)  同(山中貞則紹介)(第一四一〇号)  同(安藤覺紹介)(第一四八六号)  同(坊秀男紹介)(第一六八〇号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  理事辞任及び補欠選任に関する件  日本国に対する戦後の経済援助処理に関する  日本国アメリカ合衆国との間の協定締結に  ついて承認を求めるの件(条約第一号)  特別円問題の解決に関する日本国タイとの間  の協定のある規定に代わる協定締結について  承認を求めるの件(条約第二号)  国際民間航空条約改正に関する議定書締結  について承認を求めるの件(条約第三号)  日本国アルゼンティン共和国との間の友好通  商航海条約締結について承認を求めるの件(  条約第四号)  海外技術協力事業団法案内閣提出第九二号)      ————◇—————
  2. 森下國雄

    森下委員長 これより会議を開きます。      ————◇—————
  3. 森下國雄

    森下委員長 この際お諮りいたします。  理事床次徳二君より理事辞任いたしたいとの申し出があります。これを許可するに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 森下國雄

    森下委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。  なお、理事辞任に伴う補欠選任につきましては委員長に御一任を願いたいと存じますが、いかがでございましょう。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 森下國雄

    森下委員長 御異議がないようでありますから、委員長理事古川丈吉君を指名いたします。      ————◇—————
  6. 森下國雄

  7. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 海外技術協力事業団法案につきまして、その提案理由を御説明いたします。  わが国対外技術協力は、技術研修員の受け入れ、専門家派遣海外技術協力センター設置運営、公共的な開発計画に関する基礎的調査実施等、さまざまな形でアジア地域を初めとする開発途上にある諸地域に対して実施して参ったのであります。  この技術協力の第一義的な目的は、一言で申し上げますれば、開発途上にある諸国経済的社会的発展に資するため知識及び技能を伝達または提供することにあるのでありまして、この目的から、国の行なう技術協力はすべて無償供与の形でなされ、これら諸国経済発展、ひいてはわが国との経済交流を促進して参った次第であります。  最近においては、特に開発途上にある諸国に対する経済協力世界経済発展国際政治の安定のために不可欠のものであることが世界的にも強く認識され、一九六〇年代は開発援助の時代であるとまで言われております。その中でも、開発途上にある諸国一般的技術水準の向上と開発計画に関する基礎的調査がこれ等諸国に対する資本協力の効果をあげるために不可欠であることが再認識され、技術協力重要性が国際的にもその比重をとみに増大しております。従来わが国コロンボプラン地域等を中心として行なっておりました技術協力は、昨年のコロンボ計画協議委員会においても非常に高くその成果を評価されており、今後ともわが国技術がこれら開発途上にある諸国経済的発展に寄与することが国際的にも期待されている次第であります。  このような諸般の情勢からいたしまして、技術協力わが国の重要な施策の一環として今後ともなお一そう拡充強化して参らねばならないと考えるものであります。  このような見地から、アジア地域その他の開発途上にある諸地域に対する条約その他の国際約束に基づく技術協力実施に必要な業務を効率的に行なわせるため、この法律に基づく特殊法人としての海外技術協力事業団設置することといたしたい所存であります。  次に、法律案内容につきまして、その概略を御説明いたします。  第一章総則におきましては、海外技術協力事業団目的法人格、事務所、資本金等について規定いたしておりますが、事業団資本金につきましては、当初これを二億円とし、政府間ベース技術協力という事業の性格からいたしまして、政府がその全額を出資することとし、政府は、必要と認めるときは、予算範囲内で、事業団追加出資をすることができることといたしております。  第二章役員及ひ職員におきましては、事業団に、役員として、会長一人、理事長一人、理事四人以内及び監事二人以内並びに非常勤の理事四人以内を置くこと、会長理事長及び監事外務大臣が任命し、理事会長外務大臣認可を受けて任命すること、その他役員の任期、欠格条項、解任、兼職禁止職員任命等について規定いたしております。  第三章運営審議会におきましては、事業団に、会長の諮問に応じ、事業団業務運営に関する重要事項審議する運営審議会を置くこと、運営審議会は、事業団業務の適正な運営に必要な学識経験のある者のうちから、外務大臣認可を受けて会長が任命する委員十五人以内で組織すること等を規定いたしております。  第四章業務におきましては、事業団は、アジア等地域からの技術研修員に対する技術研修を行なうこと、アジア等地域専門家派遣して技術協力を行なうこと、アジア等地域設置される技術協力センターに必要な人員の派遣機械設備調達等その設置及び運営に必要な業務を行なうこと、アジア等地域における公共的な開発計画に関し基礎的調査を行なうことを国の委託業務として行なうほか、技術研修員のための研修施設及び宿泊施設設置運営、これらの付帯業務並びにその他事業団目的を達成するため必要な業務として外務大臣認可を受けた業務を行なうこと等を規定いたしております。  第五章財務及び会計におきましては、事業団事業年度事業計画資金計画及び収支予算、財務諸表、短期借入金余裕金運用等について規定いたしております。  第六章監督におきましては、事業団は、外務大臣監督すること、その他外務大臣監督権限について規定いたしております。  以上のほか、本事業団業務運営につきましては、関係各省協力がぜひとも必要でありますので、大蔵大臣その他の関係大臣との協議規定し、さらに、事業団に対する交付金交付及び必要な罰則について第七章雑則、第八章罰則の各車において規定いたしております。なお、附則におきましては、事業団設立手続社団法人アジア協会からの引き継ぎ、税法上の特例措置等について必要な規定を定めております。  以上がこの法律案提案理由及びその概要であります。何とぞ御審議の上すみやかに御賛成あらんことをお願いいたします。      ————◇—————
  8. 森下國雄

    森下委員長 ただいま提案説明を聴取いたしました海外技術協力事業団法案、及び、日本国に対する戦後の経済援助処理に関する日本国アメリカ合衆国との間の協定締結について承認を求めるの件、特別円問題の解決に関する日本国タイとの間の協定のある規定に代わる協定締結について承認を求めるの件、国際局間航空条約改正に関する議定書締結について承認を求めるの件、日本国アルゼンティン共和国との間の友好通商航海条約締結について承認を求めるの件、以上五件を一括議題として、質疑を行ないます。森島守人君。
  9. 森島守人

    森島委員 本委員会において審議せらるべき条約法律案等日程表事務当局からお出し通りでございます。そのうちで、すでに提案説明のありましたアルゼンチンとの通商航海条約に関しまして、私は質問したいと思います。  小坂外務大臣は、昨年の暮れアルゼンチン外務大臣が参りました際に、通商航海条約のみにとどまらず、その他に二、三の取りきめ並びに協定等調印をせられたと私は了解しておりますが、この点はいかがでございますか。
  10. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 その際、通商航海条約調印いたしましたほかに、移住協定ができました。さらに、食肉に関する協定、それから海運の所得に対する課税の相互免除に関する取りきめについて調印いたしました。
  11. 森島守人

    森島委員 別にあげ足はとるつもりはないのですが、もう一つ取りきめに御調印になっておりませんか。
  12. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 三カ月以内の査証の免除の取りきめでございます。
  13. 森島守人

    森島委員 私は、二つ協定二つの取りきめに調印された、こう了解しておりますが、これらは、本委員会に御提出になる、すなわち国会審議に付される意向があるのかないのか。この間日程表はいただきましたが、その中には一件も掲上されておりません。この点について外務大臣の御所見を伺いたいと思います。
  14. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 御提出申し上げているもの以外については、国会において御審議をいただかずに、そのまま有効な行政取りきめ、かように考えております。
  15. 森島守人

    森島委員 それでは、私はお伺いいたしますが、ブラジルとの間における移住協定は、昨年の秋だと記憶しておりますが、すでに国会審議を了しております。しかし、移住協定というものについてアルゼンチンとの間に署名しながら、それをお出しにならぬ理由はどこにあるのでございますか。
  16. 中川融

    中川政府委員 ブラジルとの移住協定国会で御承認を得たこと、御指摘通りでございます。しかし、それ以外にも、日本は、たとえばパラグァイとの移住協定等ございますが、これは国会の御承認を得ていないのでございます。今回のアルゼンチンとの移住協定国会の御承認を得ない扱いといたしたのでございますが、その理由は、国会の御承認を得ない方の移住協定は、先方の義務規定するだけでございまして、日本側としては、いわゆる法律事項に該当するような義務というものはないのでございます。ブラジルの場合は、これに反しまして、双方がお互い義務を負うという格好になっておるわけでございます。アルゼンチンの場合は、日本側でやりますことは、政府行政権範囲内において移住する人にいろいろ便宜を供与するということだけがきめてありますので、従って、これは国会の御承認を得る必要のない、いわば行政協定と申しますか、その限りでやる国際約束という取り扱いをしておるわけでございます。
  17. 森島守人

    森島委員 私は今のような抽象的な御説明では満足できません。ブラジルその他の移住協定国会にかけておきながら、アルゼンチンのやつだけを国会にかけぬという理由承知するためには、移住協定それ自体をこの国会へお出しになって、そして御説明を求めたいと思うのでございます。外務大臣の御所見を伺いたいと思います。
  18. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ただいま正式のそういう御要求でございますから、参考資料として配付申し上げますと同時に、また、当委員会以外の場所におきまして御説明をさしていただきたいと思います。
  19. 森島守人

    森島委員 移住協定外務委員会にかかるのは当然じゃございませんか。それを当委員会以外の委員会とおっしゃるのは、どこでどういうふうにおやりになるわけでございますか。
  20. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 当委員会以外の委員会とは申し上げておりません。当委員会において御審議願うものはここに御提出申し上げておりますが、参考でございますから、当委員会を開いてでなくて、いろいろ森島さんや岡田さん等によく御説明を申し上げたい、こういうことでございます。
  21. 森島守人

    森島委員 しかし、法律的に、戸叶さんやあるいは岡田さんに説明するというのは筋違いです。これは参考でもいいから委員会へお出しになって、私たち納得のいくような御説明を求めたいというのが私の趣旨なんです。私は、移住局長を今呼んでおりますから、移住局長からでも詳しく御説明を得たい。抽象的ではだめです。具体的に、どういうところが日本権利だけに関連しておるのか、日本義務影響するととろがないのだという趣旨の御説明をいただかなければ、私はこれ以上は話を進めることはむずかしいのではないか、こう存じておりますが……。
  22. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 実は、当委員会に非常にたくさん法律案の御審議を願っております。委員会の御審議日程都合等もございますと思いまして、私は、皆さん方の御都合のよいときを見て、今私が申し上げたのは社会党理事皆さんでございますから、社会党を代表する理事皆さんに対しまして御相談を申し上げ、御説明を十分申し上げさしていただきたい、こういうふうに申し上げたのでございます。それでいけませんですか。   〔岡田(春)委員議事進行」と呼ぶ〕
  23. 森下國雄

    森下委員長 議事進行について発言を許します。岡田春夫君。
  24. 岡田春夫

    岡田(春)委員 きょうは条約は四件かかっている。その中にアルゼンチンとの通商航海条約も入っていることはおわかりの通りです。それなのに、きょうは、移住局長経済局長は来ていない。これは一体どういうわけなんですか。外務省の方は局長関係としてはもうこれだけしかお出にならないのかどうなのか。それではわれわれの方の審議にも支障を生ずるわけですから、これはどういうようになっているのか、はっきりしていただきたいと思います。
  25. 森下國雄

    森下委員長 ただいま経済局長移住局長を呼んでおります。ただいま参ります。
  26. 森島守人

    森島委員 それでは、移住局長経済局長のお見えになるまで質問をやめるということはいたしませんが、おいでになりましたら詳しく内容について御説明を承って、はたして日本人の義務影響するところがないかあるかという点については、私たちは詳しく御説明を聞かなければ、外務省官僚だけで、これを出していいのだ、これを出して悪いのだというふうな勝手な取り扱いは、私は国会といたしまして許すことはできぬと思うのです。今後幾多の条約も出ることと思いますので、私は、この際そういうふうなことに対する特殊な機関を何か作られる必要があるのではないか、こう思っておるのでございます。そうしなければ、条約案だけは外務省官僚で勝手にやるということでは、国会審議につきましても重大な影響があると私は思っておるのでございます。御所見を承りたいと思います。
  27. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 実は、私といたしましては先ほど申し上げたような考え方を持っておるのでございますが、森島委員からそういう御要求があり、当委員会においてさようなことでございますれば、さようなことに政府としては従う考えでございます。
  28. 森島守人

    森島委員 それでは、今後、この種の条約をかけるかけぬということについては、何らかの機関国会内の機関で御審議を願って、その上で、この条約はかける、この条約はかけないということを……。(「それはおかしい」と呼ぶ者あり)今外務大臣は従いますと言いました。これは政府限りでやっては国会権威を阻害いたします。国会審議権に対して大きな影響を与えると思いますが、この点重ねてお伺いいたします。
  29. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 これはかける、この法律案の御審議を願うというようなことは、これは政府が決定いたしまして国会へ出すわけでございます。これこれの法案が出る、条約案が出るということは、もうこの国会が始まりました当初から御相談を申し上げておるわけでございます。今そういうお話があらためて出てきたわけでございますが、政府といたしましては、その御要求を承りまして、先ほど申し上げたように、参考としてそれを御送付申し上げ、説明の御要求がございますればそれについて御説明申し上げる、こういうことだと思います。
  30. 森島守人

    森島委員 参考としてお出しになるというお話ですが、はたして権利義務影響を及ぼすかいなかという点につきましては、移住局長等説明を十分に徴さなければ私たち納得ができない。常識から考えましても、移住協定たるものをかけるかけぬを外務官僚だけで御決定になるというのでは、私は将来に相当及ぼす影響が多いと思う。私は、そう言うなら一つ例をあげますよ。阿波丸事件はどうですか。あの協定のごときは憲法によって当然国会にかくべきものだと私たちは確信いたしておる。それを、政府国会が了解したのだということで国会審議に何ら付さないでほおかむりしていくというがごときは、これは、自民党の諸君も、国会権威を阻害したものとして私と同感だろうと思うのです。これのごときはいずれ問題になると思います。阿波丸事件に対する外務大臣説明を求めたい。
  31. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 先ほども申し上げましたように、このアルゼンチンとの移住協定の問題は、これももうすでに理事の各位にはさような方針であるということは申し上げておるわけであります。この国会が始まったときからこの理事会外務省として申し上げておることでございますので、今あらためてのお話でございますから、そういうふうにしたい、こういうことであります。  今の御質問阿波丸のことでございますが、(「何をやりましたか、移住協定問題なんか全然触れてない」と呼ぶ者あり)——どういう協定が出るかということは申し上げてあるはずでございます。阿波丸請求権処理につきましては、これは、何回も、本会議でも申し上げ、あるいは当委員会でもお触れになったことでございますが、昭和二十四年四月六日に衆参両院におきまして可決された同文の決議によりまして、こういうことを政府はやれ、こういう御決議がございましたので、政府米国政府と交渉して協定を結びましたわけでございます。国会の御決議は、そういう協定を結んで国会に報告せよということでございましたから、その趣旨に従って、その同年四月十四日に協定を結んだ次第を、国会に報告したものでございます。すなわち、国会の御要求、御決議の次第に従って政府は行動し、その結果、次第を国会に報告した、こういうことでございます。何も政府が勝手にやったのじゃないわけでございます。これは御承知通りであります。
  32. 森島守人

    森島委員 その点はいずれ後日問題になると思いますが、外務大臣としては、憲法条章通りにやる御決意なのか、あるいは国会決議があったからそれで済んだのだというふうに手軽におやりになるのか。それは憲法上の問題として将来大きな悪例を残すと思う。重ねて御意見を伺いたい。
  33. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 政府といたしましては、国会の事前の授権があったわけです。こういうことをやれということを政府授権されましたので、その授権によって行政取りきめとしてこの協定締結したのであって、少しも憲法違反とは考ておりません。そういうことを授権する方がいいか悪いかということは国会がおきめになることでございまして、悪いということでございますれば、国会はそういうことをなさらなければよろしい、こういうことかと思います。
  34. 森島守人

    森島委員 それは非常な詭弁です。しかし、いやしくも憲法規定していることは文字通り実行されることが、政府としてとるべき態度であると私は確信いたしておるのでございます。この点、いずれ後日論議の対象になると思いますから、お含みおき願いたいと思います。  次に、もう一点だけ。これはかねて私疑問に思っておった点ですが、条約案審議に関連しまして一つ説明を求めたいと思います。と申しますのは、通商航海条約国会審議に付されることは当然であります。しかしながら、通商航海条約は、貿易に関する点におきましては、ややもいたしますと抽象的な事項が多いのじゃないかと私は思っているのです。これの実質的な内容を作るものが貿易協定だろう、こう私は存じておるのでございます。これまでの慣例を見ますと、貿易協定については政府は一件も国会審議に付議されておらないのであります。私は、貿易協定こそ国会審議に付議すべきものだ、こう存じておるのでございます。たとえば、最近、昨年の暮れですか調印せられました日英貿易協定のごときは、その内容が非常に重大でございまして、この具体的な内容国会審議に付議されない以上、私たちとしては納得いかぬと思っておるのでございますが、貿易協定を何ゆえ国会審議に付議せられないのか、この点について条約局長通商局長から御説明を求めたいと思います。
  35. 中川融

    中川政府委員 御指摘通り貿易協定国会の御承認を得ない仕方にずっとやってきておるのでございます。その理由は、貿易協定というのは、御承知のように、両国間の大体毎年度における貿易の量、品目等についてお互い約束し合うというものでございます。その内容もいろいろございまして、単にこの程度のものに両方でできるだけ貿易量を達成せしめるようにしようというだけの、いわば目標額を掲げた場合もございます。あるいは、さらに具体的な数量としてここまで出そうというふうな意味約束をすることもございます。しかし、いずれにいたしましても、それは、政府が現行の国内法令に基づきましてある程度貿易を管理規制する権限があるのでございますが、その範囲内でいわば政府行政措置としてやり得る限度のことをお互い約束するというのがその原則でございます。従いまして、それ以上のこと、国内法で言えば新たに法律を要するような事項、あるいは新たに財政措置を要するような事項、こういうものをきめておるのは貿易取りきめではないのでございまして、その意味で、これは政府のすでに与えられておる権限内でのことを取りきめる国際約束であるということから、これは国会の御承認を得ないで、いわば行政措置として実施しておるわけでございます。これに反しまして、通商航海条約は、あるいは関税のことでありますとか、根本的なことをきめております。ある意味でそれは国内法改正する効力もあるものでございます。あるいは将来の国内法のいわばスタンダードをきめるということにもなるのでありまして、これは当然国会の御承認を得なければならぬ条約である、憲法七十三条にいう条約である、かような取り扱いにいたしておるわけでございます。
  36. 森島守人

    森島委員 その点に関連しまして、従来の外務省の解釈によれば、条約と言おうと、協定と言おうと、取りきめと言おうと、いやしくも国民の権利義務に関係するものについては国会審議に付するというのが従来の条約局長の解釈でございました。私、この点から考えまして、はたして貿易協定がどれもこれもこの点に関連がないかどうかという点も非常に疑問に思っているのです。私は、一々の条約に基づきましてその内容にわたって検討しなければ、その判断ができぬのじゃないかというふうに考えておるのでございます。私は、この点は質問を留保いたしておきまして、審議を延ばすなんという意向は持っておりませんが、別個の機会においてもその点については条約局当局の慎重な御検討を一つ願いたい、こう思っておるのでございます。  先ほど局長の話では、アルゼンチンとの移住協定内容について、ブラジルの場合とは違って国会に御提出に相ならぬということになっておりますが、これを御決定になった意向並びにその内容について御説明を求めたいと思います。
  37. 高木廣一

    ○高木政府委員 お答え申し上げます。  日本アルゼンチン共和国との移住協定は、総括的に申しますと、アルゼンチン政府が一方的に日本に便宜を与え、あるいは最恵国待遇を与えるとか、その他の便宜供与を約しておるのでございまして、日本政府としてはこちらの方から義務を負っているものはございません。その点が、従来のボリビア、パラグァイの移住協定と大体似ております。ブラジルの場合は、合同委員会の事務局を設置するとかいうような義務もございまして、予算的措置も講じなければいかぬという点もございます。その他こまかい点でブラジルの方はもう少し権利義務についての規定がございます。アルゼンチン政府の方はそれがないというのが大きな特徴でございます。  これを簡単に御説明申し上げます。  このアルゼンチン日本移住協定は、ちょっと読んでみます。「移住者に繁栄の機会を与えることが日本国の利益であること並びにアルゼンチン共和国の経済開発に必要な産業上の技術及び資材の導入を伴うすぐれた労働力を受け入れることが」アルゼンチンの利益であることを考慮してこの協定を結んだのだということを前文で書いております。  そして、第一条は、「アルゼンチン共和国への日本人の移住は、この協定及び両国の現行法令の規定に従って行なわれる。」  それから、第二条は、「両政府は、日本国の産業及び技術アルゼンチン共和国の経済開発のために農業、漁業及び工業の専門的分野でもたらすことができる寄与を考慮し、両政府の合意により作成される具体的な計画に基づいてアルゼンチン共和国へ渡航する日本人の移住を特に促進する。以下、これらの日本人を計画移住者という。」ということが書いてございます。  第三条は、「日本人移住者は、アルゼンチン共和国への入国に関して、いかなる第三国からの移住者に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。」、第二項として、「アルゼンチン共和国政府は、アルゼンチン共和国へ渡航する日本人移住者の同国への入国の許可に関する手続を簡易化するよう努力する。」、これが第三条の規定です。  第四条は、「日本国政府又はその指定する団体は、計画移住者の予備選考を行ない、及び日本国からアルゼンチン共和国の上陸港までの輸送について計画移住者に対しできる限りの便宜を与える。アルゼンチン共和国政府は、計画移住者の最終選考を行なう。」、これは、現在渡航費を貸し付けたり何かしている現状をうたって、そうして、最終選考はアルゼンチンでやる。これは査証のところで押えられるわけでございますが、現行のままでございます。  第五条、計画移住者は、自用品、組立家屋その他一万米合衆国ドルまでのものについては統計税、関税及び為替課徴金を免除される。これらの財産は各家族の日本国出発前三十日以内または出発後百五十日以内に船積みするものとする。これは、現在移住者の持って入ります荷物の税金の問題が非常にうるさい、特にアルゼンチンはうるそうございますが、この協定でこれを簡易化していこうということでございます。  それから、「アルゼンチン共和国政府は、移住及び植民に関する日本国の団体で日本国政府が認めるものが申請し、かつ、それぞれの場合について移住及び植民に関するアルゼンチン共和国の当局が許可するときは、入植地の建設に必要な機械について前記の統計税、関税及び為替課徴金を免除する。」、トラクター、グレーダー、ブルドーザー、トラック及び小型トラックを含む。これは、移住者ではなくて移住の関係、たとえば海外協会連合会、そういう機関が入れる場合も免除する。  第六条は、「日本人移住者は、アルゼンチン共和国において、第三国の移住者が移住法及びその施行令の定めるところに従って与えられているか又は将来与えられることがあるすべての権利、特権及び利益を与えられる。」、これも一方的な便宜供与でございます。  第七条は、アルゼンチン共和国における日本人移住者は、同国の憲法の定めるところに従ってアルゼンチン人と同等の待遇を与えられるということです。  第八条は、「アルゼンチン共和国政府は、計画移住者のアルゼンチン共和国における定住のためできる限りの技術上及び行政上の援助を与える。」、一方的なことです。  第九条は、「日本国政府は、日本人移住者のアルゼンチン共和国における農業、漁業、工業その他の経済活動を容易にするため、同移住者が日本国の金融機関による融資を受けられるようにできる限りの便宜を与える。」、これは、海外移住振興株式会社がございまして、これを向こうの方にこの協定で認めさせるという趣旨でございます。「日本人移住者は、アルゼンチン共和国において、公的金融機関から農業融資、漁業融資又は工業融資を受けることにつき、アルゼンチン人と同一の条件を享受する。」、これは、アルゼンチンの金融についての同一待遇を先方が与えることを約束した点であります。  第十条は、「日本国政府は、移住者がアルゼンチン共和国への出発前に又は同国への旅行中に同国の言語、地理、歴史及び社会条件一般についての基礎的な準備教育を受けるようにできる限りの措置を執る。また日本国政府は、移住者がアルゼンチン共和国の社会環境にすみやかに適応するように直接及び間接にできる限りの指導を行なう。」、これは現在移住あっせん所がやっていることでございます。  第十一条は、「この協定の適用を容易にするため、合同協議会をブェノス・アイレス市に設置する。この協議会は、各政府が三人ずつ任命する六人の委員で構成される。「、これは、ボリビア、パラグァイも同様でございます。ブラジルの場合は事務局を作るという点が日本政府に特別の義務を課しておるわけであります。  第十三条、「この協定は、日本国及びアルゼンチン共和国の国内法上の手続に従って承認されるものとし、その承認を通知する公文が交換された日に効力を生ずる。」  これが協定の全貌でございます。
  38. 森島守人

    森島委員 ただいまの御説明で大体の御趣旨はわかりました。しかし、念のために写しを一つ委員会にお出し願いたいと思いますから、よろしくお取り計らいを願いたいと思います。  私の質問はこれでやめます。
  39. 森下國雄

  40. 田原春次

    田原委員 今回締結された日本アルゼンチンとの移住協定内容について二、三質問をし、それから通商協定の方に移りたいと思っております。  まず最初に、大臣は、この協定を議会に出さないのは、日本側にとって有利である、もしくは日本義務がなくて先方の方にその義務があるからだと判断して出さないというのでありますけれども、今移住局長の言われました十二カ条にわたる協定の中でもすでに数点疑問点があるわけです。たとえば、第二条の、農業及び漁業、工業の分野でもたらすことのできる寄与を考慮し云々というのでありまして、先方は農業、漁業及び工業の移住者に対してのみ大体考慮しているのでありますが、向こうにすでに行っております日本人の一番希望している点はこれに入っておらない。それは何であるかと申しますと、医療設備、医療機関、それから、二世、三世に対する教育機関ということであります。この点については、日本とパラグァイとの移住協定の中には、今ここに条文を持っておりませんが、たしか、主として日本よりの移住者を診療する場合は、日本から医者が行ってもいいというのがあったと思うのです。それから、ブラジルとの移住協定の中にも、日本政府の指定する団体の医療機関等についての交渉の余地を残してあるがごとき条文があるわけです。アルゼンチンに関してはこの点がない。従って、これは十分論議ができる問題でありまして、この点だけ見ましても、私は、この条約が一方的に有利であるからというだけではいけないと思います。なぜ一体、そういう教育に関する交渉、それから病院・診療所に対するところの交渉等をしなかったか。この点をまずお尋ねいたしたいと思います。
  41. 高木廣一

    ○高木政府委員 ブラジル政府もそうでございますが、アルゼンチン政府は特に、同国の教育につきましては外国の影響を非常にきらっております。これはもう戦前から徹底した主義でございます。同じように、医療関係、医師の開業につきましても、実は個々のケースでずいぶん戦前からもアルゼンチン政府と交渉しているのですが、これは南米の開けた国はみな共通でございまして、外国医師がアルゼンチンあるいはブラジルで開業することを認めない。これは、大体各国の医師、南米の医師は特に政治的力を持っておりまして、外国からの圧迫を避けるという意味であろうと思いますが、この点は非常に強硬でございます。それで、先方から今般の移住協定の話がございましたときに、この話は在京のオルフィーラ大使にも申して、せっかくの好意であるなればここまで認めることを私どももずいぶん申したのですが、彼もアルゼンチンの事情を十分承知しておりまして、それはとてもできないことなんだ、これはほかの国にも認めておりません、そういう関係で、われわれとしては決して満足するわけではございませんですが、先方がいやだというものをどうしても出すわけにはいかぬというような事情でこれは認められておらないので、御了承願いたいと思います。
  42. 田原春次

    田原委員 むろん、アルゼンチンの医師会の規定のようなものもあると思いますけれども、私の言うのは、現地、ある地域を限っての医療機関というものは、交渉によって認められる余地があるのじゃないかと思うのです。   〔委員長退席、北澤委員長代理着席〕 たとえばブエノスアイレスで日本人が堂々と開業するというようなことについては、医師会等は医師の保護その他の見地から賛成しないかもしれませんけれども、しかし、それでも、すでに外務省承知のように、ブエノスアイレスには、星野という、向こうの医師の資格もなく、日本の医師の資格もない人が指圧みたいなものをやっており、そうして向こうの医師をみなお得意にしておるわけです。アルゼンチンの医者へ来た患者で、自分のところではなおらぬものは星野のところに持っていくというようになっておりますから、事実上は、星野氏は医者ではないけれども、アルゼンチンの医者の推薦によって医者のなおし得ないものをなおしておるという例もあるわけです。今度は、逆に、今日本人の入っております北部のミシオネス州、あるいは西部のメンドサ州、あるいは今度調査して行こうというネウケン等は、全く僻遠の地でありまして、アルゼンチンの医者というものが近所近辺におらない。それで、たとえば産婆さんもいない。ですから、新しく移住した人たちは、おかみさんが子供を生むとき、ともかくしろうとながらみんなでなんとかかんとかやって済ましておるというような状態で、非常に心さびしく感じているわけです。ですから、東京での交渉で、ごく一般論としてアルゼンチンの医療法に規定する医者でなくちゃいかぬというようなことを言われるのは、向こうは当然ですけれども、こちらとしては、せっかく農業、工業、漁業等の移民をこれから入れるについては、言葉も不自由であるし、それから、比較的僻遠の地、ブエノスアイレスよりも離れたところに入れるわけなんですから、そういうところに対しては、たとえば日本の医師会で推薦した者についてはその土地限りにおいて何年間か診療に従事し得るというような交渉をこれからする必要があると思う。  それから、なお、この間のドミニカの移民からも察知されますように、その土地に永住するという人は家族を連れて行っておりますので、小さい子供が大きくなってその国の教育を受けることはもとよりでありますが、父母との意思の疎通その他を考えますと、どうしても日本語をある程度教えなければならぬ。この点、一般的に言えばいろいろな制約はありますけれども、なおブラジルその他においては便宜上認めているところがあるのです。ところが、アルゼンチンでは、在留日本人が少ない関係もありますが、また分散している関係もありまして、大へんその点は苦労しております。  従って、今度のこの協定がせっかく向こうから申し出があったならば、少なくとも教育と医療についてもう一ぺん話をする余地はないか。この協定のほかに、たとえばアルゼンチン日本文化協定というようなものでももう一つ作って、そうしてそれについて補充するというようなことをしない限りは、私は、その簡単に日本人が幾ら協定ができたからといって大勢行けるものではない、永住できないと思うのです。そういう点の心配をいたしますので、それらのことをこれから交渉してはどうかと思いますが、いかがですか。
  43. 高木廣一

    ○高木政府委員 このアルゼンチンとの移住協定は、実はアルゼンチンの大統領がここへ来る機会にぜひやりたいということで、われわれといたしましても、大統領が帰ったあとまで交渉していたのでは結局できないという判断をいたしました。そういう実情でございますので、そういう点で、今申されましたように、教育、医療の問題について必ずしもわれわれの希望通りではございませんが、やむを得ないと考えます。  なお、医療及び教育につきましては、アルゼンチンブラジルと違いましてかなりに開けております。また、今申されましたネウケンのようなところでございますと、これはまた相当総合的な計画を立てて先方政府とも話し、また、この協定第八条の「計画移住者のアルゼンチン共和国における定着のためできる限りの技術上及び行政上の援助を与える。」という規定を活用いたしまして、現地側の学校あるいは医療の完備をはかるということにいたしたいと思います。  なお、日本語教育につきましては、公式の学校教育として日本語を教えることはむずかしいのでございますが、課外の教育として日本語をやることも、現在ブエノスアイレス郊外でもやっております。また、その他父兄に対する日本文化の啓発ということによって、父兄を通じての日本語の浸透ということも考えられると思います。
  44. 田原春次

    田原委員 文化協定のことについてまだ御意向が聞けませんが、最近読売新聞の報ずるところによりますと、日本テレビとアルゼンチンのテレビとの間にニュースその他の交換の話が進んでおるということであります。これは、民間で政府よりも一歩先んじて日本アルゼンチンとの親善のために計画されることは非常にけっこうだと思いますが、これなども、やはり、うしろだてとして文化協定のごときものを作っておいて、ひとりテレビのみならず、ラジオあるいは新聞、出版物等についても、やはり対等に、しかも親善の意味でやるべきものでありますから、先ほどお尋ねしたように、文化協定を次の段階で考えておくべきではないかと思うのですけれども、これに対して大臣はどうお思いになりますか。
  45. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ごもっともなお話でございまして、実は、先般大統領と一緒にカルカノ外務大臣が参りまして、将来いろいろな協定も結んでいこうじゃないか、たとえば文化協定などもお互いに研究していく、こういうようなことは言い合っておる次第でございます。御趣旨はまことにけっこうだと思います。
  46. 田原春次

    田原委員 次は、第四条のしまいの方、「アルゼンチン共和国政府は、計画移住者の最終選考と行なう。」と書いてある。先ほどの高木局長の説明ですと、ビザその他であろうと言われておりますが、たとえば、最終選考というのを到着地のブエノスアイレスで行なう場合を考えますと、これは大へんなことなんです。もうすでに御承知のように、去年、おととし行きました移住者の中で、この協定のできる前でありますが、ブエノスアイレスでトラホームの痕跡があったというので全家族送還を命ぜられた。つまり、入国を拒否された。そこで、その帰りの船賃は大阪商船の全額負担であり、それから、日本に帰っても、すでに家財道具を売り払って、送別会を開いてもらっておるのでありますから、郷里に帰ることができない。こういうような悲劇にあっております。一条、二条、三条、四条は非常に平易に文章が書いてありまして、一応アルゼンチン側も日本移住者の優秀な点をお認めになっているがゆえに、大統領の御訪日に際してこういう協定になったとは思いますけれども、この第四条に最終決定権をどこで行なうかということがはっきりしておりませんと、これは迷惑をこうむる者は移住者でありはしまいかということを私は心配する。たとえば、これが横浜移住者宿泊所あるいは神戸の乗船前の宿泊所等で行なわれるものならば、お前は行ってもだめだからあきらめなさいということが最終的に言えるわけです。しかし、海路五十日もかかってブエノスアイレスへ行って、そしてそこの一般移民の選考規定によって断わられた場合はどうかということですね。いい点ばかりでなくて、そういう万が一にも起こる場合をやはり考慮して協定というものは作らなければならぬので、何ゆえにこれに対してすなおに先方の言いなりになったのか、どういう考えであったのか、当時の事情を明らかにして、それから、私の申しましたような入国拒否者が出た場合どう扱うかということもあわせて一つ聞かしていただきたい。
  47. 高木廣一

    ○高木政府委員 ただいまのところ最終選考はアルゼンチンにある。これはアルゼンチンブラジルも一緒でございますが、南米には「ゴベルナール・エス・ポブラール」という言葉があります。南米では、国民を、移住者を入れるということが主権である、国の一番大きな仕事であるという考えがありまして、この国民として入る人を選定するのは主権であるという考えが強いのであります。それで、ブラジルでもアルゼンチンでも、イタリア等には移民官というものを送りまして、これが決定しております。日本の場合には、数も少のうございますから、そういうことができなくて、結局領事査証でやっておるわけでございます。それから、入る場合の術中規則、特にトラホームなんかにつきましては、これもブラジルアルゼンチン同様でございますが、特にアルゼンチンでは、トラホームをほとんど撲滅いたしました関係で、少しでもトラホームに入られては困るというので、非常に厳重な検査をしておるのであります。実際上は、日本の国内では、いなかではトラホームがほとんど普通であるというような感じで非常にルーズな検査をするということで、従来は実はアルゼンチンは東京でなければ検査は困ると言っていたのを、地方の赤十字社でもできることにした次第であります。それで、厳格にトラホームでない人を送る限りにおいてはその心配は全然ないのであります。それは移住者の衛生上の問題でございまして、われわれが厳格にやる限りにおいては問題は起こらない、こう思うのであります。
  48. 田原春次

    田原委員 ところが、トラホームの治療の痕跡があっても、ブエノスアイレスでは断わられておりますが、日本側の医者に言わせますと、トラホームの痕跡と結膜炎の痕跡とは、専門家なら見分けがつくと言うのです。これは結膜炎の痕跡であるから差しつかえなしとして査証を出し、出発しておるにもかかわらず、ブエノスアイレスでは、この痕跡はトラホームの痕跡だと言って、何ら抗弁もできず、そこに日本の医者もいないために、みすみす返された例があるのです。ですから、これはよほど日本出発前に万全の策を施して、特に先方のそういう規定があるならその規定によって、ごたごたが起こらないようにすべきである。もし最終選考がブエノスアイレスにあるならば、日本のお医者さんも一応置くというような御用意をすべきであると思いますが、これから相当大ぜい日本から移民が行くことを予想するならば、そのトラブルをだれが一体解決するか。船の船医だけではいろいろな点において交渉ができない場合がある。そういう場合、先方がもし、私が言いましたように、悪意でないにいたしましても、痕跡を非常に広く解釈して、すべての痕跡はいかぬということになった場合には、泣く泣く帰らなければいかぬということになるでしょう。そういう場合の措置をどうしますか。
  49. 高木廣一

    ○高木政府委員 この点は、アルゼンチンに関します限りは実は解決しておるのでございます。そして、日本のお医者さんにもアルゼンチンの基準を伝え、意見を聞き、そして、日本の専門医自身が、アルゼンチンの言うのがもっともである、しかし、日本のいなかの方ではトラホームというのは非常に多いものだから、アルゼンチン規定通りにしないからであるということで、東京の専門医がアルゼンチン規定するトラホームについてのこまかい条件をはっきりと書き出しまして、これを地方における医療検査機関に通達いたしまして、問題が起こらないようになっていると思います。従来は、実は、追い返された例なんか、ざっくばらんに申しますと、相当顕著なトラホームのものもございました。この点は、先方のトラホーム撲滅という希望にやはり協力して、厳重に選考することが必要であると思います。
  50. 田原春次

    田原委員 それでは、しばらくやり方を拝見しました上で、そういう弊害が繰り返されるかどうか見た上で、また他の機会に質問することにいたしまして、第五条に移ります。  第五条は、「計画移住者は、自用品、組立家屋、原動機付車両」云々とあります。それから、「種子、肥料及び家畜を持ち込む場合」についても便宜をはかることになっておりますが、それ以外のものは一体持っていけないかということです。先ほど第二条のときに申し上げましたように、定住者にとっての一番大きな負担は、日本語教育と医療であります。従って、教材、それから薬品、——薬品も、御承知のように、アルゼンチンの薬品は、国産品のほかに、フランス、イタリア等の薬が多くて、普通の日本の医者でも読めないようなラテン語等で書いてあるものがあります。それをずっといなかの薬局で買いましても、使い方さえもわからぬ。また、これを聞くだけのスペイン語もよくわからぬという場合があります。従いまして、北米のようにすでに相当日本人の行っているところでは、日本の薬品が行っておりまして、日本語で書いてありますので、かりに医者がなくとも当座の間に合うわけです。かぜだとか、それから、けがだとかいう場合に使えるわけです。医者は近所にいないし、日本語のわかる医者もいないし、ブエノスアイレスから呼べば大へんな診療費を取られる。そこで、ここ二、三年分の仁丹、ヘブリン丸のごときものを持っていこうとしても、これは第五条に書いてないということで税金をかけられたら一体どうなるか。こういうことを少しも心配してなくて、移住者の立場から一体こういう取りきめを承諾したのかどうか、はっきり私は聞きたい。  その次は、同じく、「種子、肥料及び家畜を持ち込む場合」云々としてありますが、家畜等となぜしなかったか。つまり、農業に必要なものは、種子、肥料、家畜以外のものもあり得るわけですから、そういうものをなぜ加えなかったか。三点にしておけば、税関で厳重に解釈すれば、それに従わなければならぬと思う。そういう点に手ぬかりがあったと思うのですが、そういう場合にはどう処置するか。  それから、携行品についてもう少し範囲を広げる交渉ができないものかどうか、この点もお聞きしておきたいと思う。
  51. 高木廣一

    ○高木政府委員 ただいま田原先生のおっしゃいました薬の点ですが、この第五条の初めの方の自用品の範囲でありますれば問題ないのであります。あまりに量が多くて販売用にされるような心配があるという場合には問題になると思います。従って、この自用品という範囲であれば問題ないと思います。  それから、なぜ家畜等にせなかったかということでありますが、この税関関係といたしましては、アルゼンチンは非常に厳重なんでございまして、家畜なんか持っていくかどうかわかりませんが、こういう規定を入れたことも相当の便宜供与でございます。そうして、御承知通りアルゼンチンは白人の移住者優先主義でございまして、日本人もわずか入っておりますけれども、非常に門戸を閉ざされた狭いものでございまして、今度の協定で広く広げようという先方の気持になりましたので、その熱のさめないうちにできる限りの便宜をとるということでありまして、それから、合衆国貨一万ドルというのは相当の金額になっております。
  52. 田原春次

    田原委員 一万ドルは相当の額だと言うけれども、現在すでに五千ドル見当は長い間ブラジル移民等について携行を許されておりますから、その一万ドルだからといって安心するということは、これは私はおかしいと思うのです。  それから、次に、言いにくいことですが、税関における紛失問題が非常に多いのですね。これは、どう処理をするかというと、ほとんど泣き寝入りでしょう。大体、日本からの品物のみならず、各国から入った移民の品物で盗まれぬものはないという状態です。——簡単に言いますと。ネクタイとかハンカチくらい盗まれたのはあきらめもしますが、組立部分品なんかで一部を盗まれたらどうにもならぬ。ヴエノスアイレスではやむを得ずそういう状態になっておるわけだが、そういう場合のクレームといいますか、交渉といいますか、そういうことについても、税関はこの移住者に対して責任を負うとか、これは当然のことだけれども、当然のことだと思って日本の税関並みに考えて甘く見てとういうふうな規定が入っておらぬのじゃないかと思いますが、そういう場合にはどうしますか。上陸時における携行器具等の紛失についてはどうするか。紛失といっても、堂々とトラックなんかに載せて出ていくところなんかを見ていて、盗まれておるじゃないかというようなことが多いのですが、これをどうするか。この際これをあわせて明らかにしておいてもらいたいと思います。
  53. 高木廣一

    ○高木政府委員 南米にはよくそういうことがあることは事実でございますが、アルゼンチンの場合にトラックに載せて持っていくというようなことはございませんし、この税関検査は一応本人が立ち会いの上に行ないますので、アルゼンチンに関する限りはそういうととはないと思いますが、なお、実際の扱いといたしまして、十分われわれとしても注意するようにいたしたいと思います。
  54. 田原春次

    田原委員 次は、第九条に移ります。第九条の三行目から以下に、「同移住者が日本国の金融機関による融資を受けられるようにできる限りの便宜を与える。」、これは向こうの政府の方が便宜を与えるのでありますが、実情は少しもその金融機関はその便宜を与えておらない。御承知のように、アルゼンチンでは東京銀行の支店があります。それだけでありまして、あとは日本海外移住振興株式会社の支店があります。二つとも非常に貸し出し規程がやかましくて、特に、東京銀行は、預かりはするけれども貸さぬという、今なお古い正銀時代からのならわしを持っておりまして、在留日本人はそれに対しては失望しておるのです。最高日本の円にして十万円程度をしかも短期に貸すだけが支店長に与えられた権限でありまして、いわゆる商業資金であります。農業、工業、漁業等のやや長期にわたる金融については東京銀行は貸しません。それ以外には日本の金融機関は行っておりませんことは皆さんも御承知通りです。これをどういうふうに日本国内の普通の商業銀行並みに拡張してやらせるかということです。現地を見られた人は御承知通り、東銀のアルゼンチン支店は百名ばかりの行員を持っておりまして、支店長に聞きますと、もうかっておりますと言っております。大部分は為替業務でありましょうが、その範囲内でもう少し貸し出しを親切にやってもらえないか。ブラジルでは、たとえば、東銀のほかに富士銀行系の銀行、それから住友関係の支店、こういうのがありまして、そのほか二、三地元の日本人向けの銀行がありますが、少ないながらも一応資金は貸すことができます。これは、ブラジル日本人が多いこと、いろいろの点もありましょうが、せっかくアルゼンチンに関して第九条でこういうように「日本国の金融機関による融資を受けられる」とうたってある以上は、私は、日本海外移住振興株式会社の貸付規程において大幅に権限を与えて、そうして、花屋さんにいたしましても、あるいは八百屋さんにいたしましても、あるいは漁業家にいたしましても、郊外の定着農民にいたしましても、もう少し借り入れられるようにすべきだと思うのです。こういう規定があるからといって安心するのではなくして、この規定を実際に生かす具体的な案を持っておるかどうか、この機会に明らかにしてもらいたいと思うわけです。
  55. 高木廣一

    ○高木政府委員 この第九条の第一項は、東銀を考えておるのではなくて、移住振興会社のアルゼンチン支店の活動を考えておるのであります。東京銀行は、あれは法律上はアルゼンチンの銀行になっておるわけであります。そういう意味におきまして、従来、アルゼンチンは、自分の方が東銀を一行認めておるから日本にも一行出したいということで、一行々々というような形でほかの銀行の進出を認めておりませんが、海外移住振興株式会社の海外の金融活動を協定上認めさせたということが第一の効果であります。第二の方は、従来、アルゼンチンの移植民金融というものは、イタリア人とか欧州人には与えられておりましたが、日本人には全然与えられておらなかったのであります。第二項によりまして、今度アルゼンチンは本格的に植民金融をやるということになったわけであります。  なお、海外移住振興会社が移住金融でどういうふうに援助を与えるかということでございますが、これは二年ほど前でございますが、御承知通りアルゼンチンではときどきすごい霜があったり、ひょうが降って、花屋さんとか八百尾さんが非常な打撃を受けるということでございましたが、海外移住振興株式会社が組合に一括金を融資し、そのおかげで一年で復帰しただけでなくして、借りた金を返して非常に感謝されたというケースがございます。こういうようなことももっと活発にやっていきたいと思います。
  56. 田原春次

    田原委員 まだこの移住協定の全体に対して質問がございますが、それは保留しておきまして、もう一回やらしていただきます。  この際、大臣がお見えになっておりますので、私は移住問題について一点だけこの機会にお伺いしておきたい。それは、内閣に設けられております海外移住審議会のあり方及び今後のやり方についてお尋ねしたい。  私も社会党を代表して移住審議会の一員でありますが、移住審議会は近来開かれておりません。たまに開きますが、その場では、年寄りのお茶飲み話のようなもので、午後二時に始まって、十分、二十分、三十分ごろまでにみなそろいます。そうして、二、三の人がいろいろ話をしながら、四時ころにはそろそろ帰ってしまう。従って、一つもまとまったことはやっておらない。今度のドミニカの問題のように生きた問題があるときに、なぜ一体移住審議会が開かれないか。そうして、その場で政府国会と違った角度からよく事情を調べ、対策等についての建言もすべきではないかと思うが、これらは開かれなかった。これは、移住審議会の事務局はなくて、大体審議会の事務はたしか外務省でやっていると思う。外務省が忙しいときには開かぬというようなことでは困ると思うので、従って、海外各地、特に中南米の各地の日本人団体等では、移住審議会というものは何もやっておらぬではないですか、単に年寄りのお茶飲み機関ではないですかというように思われております。これはまことに残念なことで、一委員のどうにもできないことでありますが、海外移住審議会というものが、設けられた趣旨は、おそらく、外務省、農林省、建設省、運輸省等出先にいろいろな機関があって調整できぬ場合もある、また民間団体等についてもあっせん事業をしなければならぬ場合もある、あるいは政府に建言したり勧告したりする場合もあるということで各界の人を集めておると思うのでありますが、実情は少しも動いてはおりません。第一回のときは、私は第一回以来議席のある限り移住審議会の委員でありましたが、総理大臣が出てきて、そうして関係大臣も六人か来て一応話を聞くような格好だけはしておった。その後になると大臣は大体こない。   〔北澤委員長代理退席、委員長着席〕 それから、局長も来ません。次官も来ません。政務次官なんか来てもわからぬかもしれませんが、大体来ない。そうして、各省の課長もしくは課長補佐級が隅にすわっておるが、質問があれば答える程度でございまして、移住政策を審議するにはまことに貧弱なんです。従って、移住審議会を廃止するか、かわるべきものを作るか、あるいは移住審議会をもっと強力なものにして、政府にとっては目の上のこぶになる場合もあるけれども、すばらしい意見が出るならばそれを採用していくという義務づけしたものにするか、何とかしなければ、全く立ち腐れの格好であると思います。これに対して外務大臣はどう考えておるか、また、どうこれをよくするか、そういう意見をこの際明らかにしてもらいたいと思うのです。
  57. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 海外移住審議会についてのいろいろな御意見は、私も非常に同感するところが多いのでございまして、ぜひともこの審議会を強化したいということで、今人選その他について抜本的に考えるようにさしていただきたいと思っております。もとより、国会側からの御参加の方々についての問題ではなくて、主として、この移住という問題に情熱をつぎ込んで、しかも非常に高い見地からこのことについて有効な建言をしていただけるような方々による人選というものを今考慮中でございます。  なお、移住審議会の事務は総理府が主管しておりまして、外務省はもちろん協力する立場にございますけれども、外務省そのものがその事務をやっているということではないことをつけ加えさしていただきます。
  58. 田原春次

    田原委員 移住審議会の委員の任期が来る場合、交代等は当然でありますが、今大臣のお話ですと、有力な者を入れかえようと言われておりますけれども、実際は、関係省に推薦をそれぞれ依頼する、あるいは、自由民主党から三名なら三名、社会党から一名程度にいたしまして、各党に持ち帰ってやるわけでありますが、それでは強化ということにならぬと私は思うのです。従来通り二十人なら二十人の委員がやっぱり多く採用されると思うのです。私が言う強化というのは、もう少し増員して、そうして、それは、自由民主党からもう何名か出るのもよろしいでしょう、それから、社会党からも増員する、それから、学識経験者の中でももう少し熱意のある者を出すというふうにするのには、今のように各省別に一名ずつ推薦するという格好では、私は強化にならぬと思うのです。だから、この際増員するということをきめ、それから、移住審議会で決定したことは政府が遂行する義務を負うというくらいに、強化する方法を具体的に講じない限りは、依然たるものではないかということを心配しておるのですが、もう一度その点に関して大臣の所見を、増員可能なりやいなやということを一つお尋ねしたいと思います。
  59. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ただいまの御意見はよく検討さしていただきたいと考えております。いずれにしましても、移住審議会がこういう従来のような形ではどうも好ましくないということを考えまして、今せっかく人選等については努力いたしておるのであります。遠からず、これはなるほど熱意のある人選をしたというふうに思っていただけるようにしたいと思っております。
  60. 田原春次

    田原委員 私は次の機会にドミニカ問題についての質問をしたいと思っておるのです。というのは、ドミニカ問題は、決算委員会等で相当実情ははっきりいたしました。帰ってきた者に対する処置とか、一応ドミニカ問題はどうにか格好はつくでしょう。しかしながら、地方に帰ってみますと、ドミニカもブラジルも同じに考えておりまして、ああいうふうに帰ってくるようじゃ、うっかり行けませんということで、非常に動揺しております。従って、今後海外移住をもっと盛んにし、行く人の立場からいろいろな手配をし、定着後における財政、金融あるいは教育、医療、文化等の点についても考慮するためには、移住問題についてとっくり意見も聞き、われわれの意見も話したいと思っておるのでありますが、時間の関係等でこれは次の機会にまとめて御質問申し上げたいと思っております。そこで、私は、それらの質問を後日に保留しておきまして、一応私のきょうの質問はこれで終わっておきます。
  61. 森下國雄

  62. 松本俊一

    松本(俊)委員 この外務委員会で目下付託となっております議案の中で最も重要なものは、何といいましても、いわゆるガリオア・エロアに関する協定並びにタイの特別円の協定でありますが、この二件につきましては、あるいは予算委員会、あるいは本会議、あるいは当委員会におきましても先日わが党の正示委員からの質疑で相当詳細にわたる問答がありました。私どもも、ほぼこの二協定に関する政府側のとられた措置についての御説明ぶりを知ったのでありますが、しかしながら、私個人といたしましても、なお両協定の二、三の点について十分政府側の御意向を承っておいた方がいいと思う問題があるのでありますが、何分にも、この両協定は、日本にとりましては金を払う協定でありまして、政府としても非常に困難な交渉の後に到達されたものと思いますけれども、しかしながら、その交渉の過程なり、また、協定内容なり、また、その金額なりにつきまして、十分国民が納得するような説明を徹底さしておきませんと、とかく、こういう問題については何か割り切れないものが残って、その結果、せっかくわが国がこれらの国と親善関係を一そう深めようという目的のために作りました協定が、かえって親善関係を害する、——具体的に言えば、ガリオア・エロアの問題について、せっかく政府がアメリカ政府と長年にわたって交渉されてこういう協定ができて、いよいよ今度金を支払うことになったにもかかわらず、その交渉の過程なり、また根拠なりが、もし国民の納得のいかないものでありますときには、かえって日本のアメリカに対する国民感情に悪い影響を及ぼして、ひいては日米関係にも悪い影響を及ぼすこともあり得ると思います。もとより、私は、この両協定が、一方は米国との関係、他方はタイとの関係を一そう緊密にし、この米国なりタイなりとの関係をよりよくしていくことは信じて疑わないのでありますが、ただいま申し上げましたような見地から、少しく政府側の御説明を拝聴したい点があるのであります。従って、少し話がこまかくなる場合もございますが、それはそういう趣旨でございますから、ごかんべん願いたいと思います。  まず私の伺いたいのは、先日本会議の席上で戸叶委員から御質問があり、池田総理大臣並びに小坂外務大臣から一応の答弁がありました問題でございますが、いわゆる阿波丸請求権処理のための日米協定、並びに、それに付属しておるのかどうか、これは政府の御説明を明確に私は承らないとわかりませんが、少なくも同日に署名されました了解事項というものがあります。この二つにつきまして、私の疑問とするところを一つはっきりさしていただきたいと思っておるのであります。  阿波丸の事件はまことに不幸な事件でありまして、実は私自身も阿波丸を南方に派遣したことに責任がある一人でありまして、当時外務次官をしておりまして、当時の連合国側と折衝しました。連合国から切なる希望がありまして、南方地域における連合国側の俘虜に救恤品を贈りたいということで、あの船を出すことにきめたのであります。私もそれをきめた当事者であります。ただ、私は、あれをきめて間もなく仏印へ赴任することになりました。私は、そのときに、あれをやっておりました係の人に、人だけは乗せない方がよかろうということを言ったのでありましたが、しかしながら、その後いろいろな都合で人を乗せることになりました。本日委員長を勤めておられます森下先生も、当時外務参事官をしておられまして、危うくあの船に乗られるととろでありました。これが助かったのは、たまたま臨時国会が召集になりまして、当時参事官であられた森下先生は乗れないことになったので助かったのでありますが、そのかわり、その身がわりとして、私の最も信頼しておりました親友であります山田調査局長が乗りまして、ついになくなりました。そういう、私にとりましては、職務上、また感情上、非常な深い関心を持っておる事件であったのであります。そうして、私は友邦国の態度についてとかく申すのは心苦しいのでありますが、あの事件についてのアメリカの態度ははなはだあいまいだったと思うのであります。最初は責任は一切ないと言って参りました。そうして、しばらくして、いや責任はあるから後日賠償を払うということを申して来たのであります。これは外務省の方は御存じと思いますが、そういう経緯がありまして、あの船に乗りました多数の友人、それから仏印で私に協力してくれました多数の部下があれに乗って家族ぐるみなくなっておるのでありまして、私もこの協定の賠償については非常な関心を持っておりました。  ところが、この阿波丸請求権処理協定、これは当時いろいろアメリカの国内の事情があったのでありましょう。マッカーサー元帥が仲介の労をとりまして、日本とアメリカとの間にこの協定を結ぶことになって、そうして日本請求権を放棄したのであります。その第一条には、「日本国政府は、ダグラス・マックアーサー元帥の下に日本占領が開始されて以来進展した公正な事態を考慮し、且つ、降伏後の期間において米国政府から受けた物資及び役務による直接及び間接の援助を多として、阿波丸の撃沈から生じた米国政府又は米国民に対するいかなる種類の請求権をも、日本国政府自身及び一切の関係日本国民のために、すべて放棄する。」、こういう協定になっておりますが、まず最初に、私は実はこの協定の当時は追放中でありまして、ただ新聞で読んで、実ははなはだけしからぬ協定ができたと思って心では憤慨しておったのでありますが、しかし、当時の事情まことにやむを得ないことも私は推察しておりましたが、ここに、「且つ、降伏後の期間において米国政府から受けた物資及び役務による直接及び間接の援助を多として、」とございますが、この援助の中には、今度の協定目的になっておりますガリオア、エロアの援助というものは含まれておるのでありますか。その点をまずお尋ねしたいと思います。
  63. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 お答えを申し上げます。当時の体験とともにお話しになりました松本先生の御質問、非常に敬意を表して承りましたが、逐次お答えを申し上げます。  今御質問の点でございますが、ここに言っておりまするアメリカからの援助には、いわゆるガリオアなど、戦後対日援助がおもなものになると考えておりますし、そのほかにも、各種の、綿花借款、あるいは海外からの日本人引き揚げのための米国の船舶提供、あるいは地方自治体に対する建設資材の無償貸与等の直接間接の援助というものがございましたので、こういうものが含まれておると考えます。
  64. 松本俊一

    松本(俊)委員 ガリオア、エロアの全部が含まれておるわけですね。
  65. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 さようでございます。
  66. 松本俊一

    松本(俊)委員 そこで、次にお尋ねいたしたいのは、先日の本会議における答弁、並びに本日先ほどお話がありましたが、この協定並びにその了解事項というものは国会審議をしなかったのでありますが、これは、先ほどの御説明によりますと、この協定は四月の十四日に署名して即日効力を発生しておる。了解事項もそうであります。ところが、その前の四月の六日に、参議院の本会議、衆議院の本会議、双方で阿波丸事件に基づく日本国請求権の放棄に関する決議というものがあって、その中にこの協定のおもな条項が全部一、二、三、四と入っておる。従って、国会はこの協定について事前に決議をもって意思表示をしておるから、従って、この協定は再び国会審議を経なくても憲法の条章には違反しないという御解釈でございますか。
  67. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 その通りでございます。
  68. 松本俊一

    松本(俊)委員 それは、私は、この憲法規定を非常に狭く解する必要はないので、そういう形式においてある種の協定国会において事前に了解を与えておくということは、今後もそういう方法は条約の交渉上便利な方法だと思いますので、それは何らこの際問題にする必要はないと思います。ただ、問題は、この了解事項であります。この決議には、了解事項に関することは、これは御説明を承りませんとわかりませんが、どうも入ってないようなんであります。  そこで、まずこの了解事項について私はお尋ねしたいのでありますが、この了解事項は、私自身としましてもいろいろな点において疑問を抱く点があるのであります。それは、まずなぜこういう了解事項が必要かということがよくわからないのであります。了解事項内容は、皆さんもうすでに御承知通り、「占領費並びに日本国の降伏のときから米国政府によって日本国に供与された借款及び信用は、日本国米国政府に対して負っている有効な債務であり、これらの債務は、米国政府の決定によってのみ、これを減額し得るものであると了解される。」、これは私はきわめて当然なことが書いてあるのじゃないかという気がするのでございます。当然なことをわざわざ同日両政府の代表者がマッカーサー元帥の認証のもとにこういう了解事項を作ったという理由が実は私はあまりはっきりのみ込めないのでありまして、私の解釈を申し上げて、間違っておるかどうか、政府側の御意向を承りたいと思うのであります。  この了解事項が必要になった理由として考えられますのは、先ほど私がお尋ねした、「且つ、降伏後の期間において米国政府から受けた物資及び役務による直接及び間接の援助を多として」、——英語の方は「イン・アプリーシエーション・オブ」と書いてありますが、そういう援助があったから、それを非常に多として、阿波丸の撃沈から受けた損害に対すゑ米国の責任を解除するというわけですが、そういうことを書いてありますので、アメリカ側としては、もし第一条がこのままで、何にもちゃんとした了解をつけてないと、あるいは阿波丸について日本で有する請求権を放棄したということになると、それだけ米国政府から受けた物資及び役務による援助というものからそれが差し引かれるということに解釈されるおそれがあるということを、アメリカの在日大使館の人か、本国の国務省か、あるいは軍関係の人か知りませんが、心配して、それじゃこういう了解事項をつけてそういう心配のないようにしておこうじゃないか、減額するときはあくまでアメリカ政府がやるのであって、この協定から減額は将来しないというふうにはっきりさしておこうじゃないかという議論が起きたのではないかと思う。非常に勘ぐりますと、両院の決議がありました四月の六日にはこの了解事項はなかったのじゃないか。これがいよいよできて、その調印のときに、——これは私の邪推かもしれないのですが、最後の瞬間にこういう了解事項ができたのではないか。私の経験から申しますと、条約の交渉の最後の段階にこういうことが起きるということはよくあることである。あるいはそうではないかもしれないが、そういうふうに読まないと、これはなかなかわかりにくいというふうに私は思うのですが、その点はいかがでございますか。
  69. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 ただいまのお話の中で、まず了解事項決議そのものに含まれていないというふうにお考えのようでございましたが、私どもも全く同様に考えております。ただ、後段でお述べになりました、決議ができるときにはこの了解事項のごときものを予想していなかったではないかという点につきましては、実は、その決議趣旨説明が行なわれました際、衆議院で岡崎さんから、参議院で佐藤さんが説明をなさいましたが、その中に、やはり、この請求権を放棄することと戦後の対日処理の問題が何らかの形で関連するのではないかという誤解がないようにという趣旨のことを述べておられるのでありまして、やはり、その決議案が出ますときにそういう了解のもとに出たというふうに、当時の趣旨説明からいたしますと読めるわけでございます。従って、さようなこともあったせいでございますか、この阿波丸処理協定のみでは、阿波丸請求権を放棄することとアメリカの対日援助の処理とが何らかの形で関連せしめられるという誤解を生むおそれがあったので、このような誤解が生じないように、アメリカの援助は無償ではなく、いずれ何らかの形で解決することを要するという意味で債務となる性質のものである、こういう了解がつけられたものと考えております。  なお、それでは、協定とこの了解は不可分のものかという問題があるかと思いますが、これは不可分の一部をなすものではない、ただ念のため同時に行なった、私はかようなふうに考えております。
  70. 松本俊一

    松本(俊)委員 今の外務大臣の御説明で一応わかりました。そういたしますと、この了解事項というものは、阿波丸請求権処理のための協定と不可分一体ではない、——条約上、よく、議事録とか了解事項について、付属の覚書、議定書等に不可分一体ということが書いてあります。それは書いてありませんが、不可分一体ではない、しかし、阿波丸協定ができるとこういう疑いも生ずるから特にこういう特殊の文書を了解事項として作っておこう、こういうことでございますか。
  71. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 さようでございます。念のために特に了解事項を作っておこう、こういうことと心得ております。
  72. 松本俊一

    松本(俊)委員 そこで、この了解事項内容についてお尋ね申し上げたいのであります。  この了解事項の字句はよくできておるとは実は思っていないのでありまして、非常にあいまいな字句になっておるように思うのであります。われわれ、外交官として、先輩から、外交というものは正確を期することが最大の任務である、外交上の正確さということはもう外交官の最も心得べきことだというふうに教わってきたのでありますが、この了解事項内容は非常にわかりにくいのであります。しかしながら、この中の、「借款及び信用は、日本国米国政府に対して負っている有効な債務であり」とあるこの「借款及び信用」というものにガリオア・エロアはやはり入っておるのでございますか。
  73. 中川融

    中川政府委員 松本先生の御指摘通り、この了解事項に書いてあります字句は、占領費と、それから借款及び信用というのでありまして、これの中にはたして何を含むかということは、これからはそのまま直接には何も出てこないわけでございますが、あのとき内閣総理大臣がこの国会説明されました際に、これの中に、先ほど大臣から申されましたような、綿花借款であるとか、あるいはガリオア・エロア等、こういうものが入っておると説明をしておられるのでございます。従って、そのときの政府としては、これの中にいわゆるガリオア・エロアも含まれておるのだ、こういう考えでこの了解事項をアメリカとの間に作った、こう考えられるのでございまして、その後政府は一貫してそういう態度をとっておるわけでございます。
  74. 松本俊一

    松本(俊)委員 それでは、この中にガリオア・エロアも含まれておる。そうすると、ガリオア・エロアをここに当てはめて読みますと、日本国に供与されたガリオア・エロア等は、日本国米国政府に対して負っておる有効な債務であり、こういうことになるのですが、そうでございましょうか。
  75. 中川融

    中川政府委員 債務であり、それからあとにいろいろなことが続くわけでございますが、債務であり、これこれし得るものであると了解されるということでございまして、債務であるものと了解するということを言っておるのでございます。従って、いわゆる心得ると同じ意味である、こういうふうに考えます。
  76. 松本俊一

    松本(俊)委員 そうすると、「イット・イズ・アンダストゥッド」とありますが、このアンダストゥッドというのは、債務を確認したことではなくて、両国の政府が債務と了解することに重きを置いて解釈なさるのが、政府の解釈ということでございますか。
  77. 中川融

    中川政府委員 その通りでございまして、了解するということを確認しておるわけでございます。
  78. 松本俊一

    松本(俊)委員 そこで、了解事項は、政府のお答えになりましたように、債務を確認したものではないのであって、債務と了解して、今後の措置は、やはり、ガリオア・エロアの解決の原則になっておる終戦の翌年の七月かに出たスキャッピンというものがこの準則になるわけでありますか。そういうふうに了解して差しつかえございませんか。
  79. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 さようでございます。先ほど条約局長が申し上げましたように、いずれ解決を要するものである、こういう意味におきまして債務となると了解したのでありまして、法律的な債務を負担したということではございませんと思います。
  80. 松本俊一

    松本(俊)委員 そうしますと、スキャッピンの方が優先すると申しますか、そういうことも含めてこの了解事項の中にそういう事態をリマインドする意味でこの了解事項ができているもの、こういうふうに解釈して差しつかえありませんか。
  81. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 スキャッピンというものがそういう債務と了解さるべきものの基礎を作った、こういうことでございまして、お説のように、これをさらにリマインドする、こういう趣旨でこの協定ができている、こういうことだと思います。
  82. 松本俊一

    松本(俊)委員 そこで、そういたしますと、この了解事項で債務を認めたから憲法違反であるという議論、並びに、減額するというか、憲法違反であるという議論には政府は全然根拠がないという解釈でございますか。
  83. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 さようでございまして、憲法違反論は、この問題に関しましては全く根拠がないと考えております。この了解事項の性質上、国会に報告するということは当然のことでありまして、さように考えております。
  84. 松本俊一

    松本(俊)委員 阿波丸の問題はそれで私もほぼ明確になりましたので、なおきょうの御答弁の趣旨をもう一度よく思索してみまして、自分でもう少し研究してみたいと思っておりますけれども、その程度にいたします。  そこで、その次に私が疑問を抱いておりますのは、今度の協定の第一条第一項、これはこの協定の根本の規定で、「日本国政府は、第六条に定義する戦後の経済援助の提供から生じ又はこれになんらかの関連があるすべての懸案となっている問題の最終的処理として、合衆国政府に対し、ここに四億九千万合衆国ドルの額の債務を負うものとする。」、この第一条の第一項によりまして、日本政府米国政府に対して四億九千万合衆国ドルの債務というものを初めて確認したことだろうと私は了解しているのですが、それに間違いございませんか。
  85. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 その通りでございます。
  86. 松本俊一

    松本(俊)委員 そこで、私は、第三条の第二項の規定と今の第一条第一項との関連について多少の疑問を持っておりますので、この点をはっきりさせていただきたいと思います。  第三条の第二項には、「日本国政府は、連合国最高司令官と大韓民国との間の清算勘定で千九百五十年四月一日前に存したものの残高及び連合国最高司令官と琉球との間の清算勘定の残高に関し、今後はいかなる請求権をも合衆国政府に対し提起しないことに同意する。」、この第二項に書いてあります清算勘定の残高、これは、外務省が本委員会にお出しになりました資料によりますと、この資料3これはここへも配ったのでしょう。——確かに配付になっておりますから、それでは質問を続けます。それで、第三ページの(F)がこれに当たるものでございますね。
  87. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 さようでございます。
  88. 松本俊一

    松本(俊)委員 そうすると、第三条の二というものと一の関連におきましてこういう疑問を私は持つのであります。「(F)から控除する項目」というので二つ、日韓清算勘定残高、日本、琉球清算勘定残高というので四千八百七十五万というものが出ておるのです。これを控除されたのですが、そうすると、これを控除する前の日本の債務というものがあると私は思うのです。第三条の二項は、日本の債権を合衆国政府に対して提起しないことに同意しておるわけですから、従って、日本の債権に充当した部分だけプラスしたものが確認される債務になるのではないかという疑問を持つのですが、その点はどういうふうに解釈しておられますか。
  89. 中川融

    中川政府委員 御指摘の御趣旨は、日本のいわば完全な債権である二つの項目、三条二項に書いてあります二つの項目を差っ引いたのであるから、その差っ引く前の、この数字で言えば五億四千三百万ドル強というものが確定さるべき債務額ではないかという御質問であろうと思うのでございます。実質から言えばまさしくその通りでございます。二つのやり方が考えられたわけでございます。一つは、この五億四千三百万ドルを一応債務として確定いたしまして、それから反対債権をさらに差っ引くというやり方も考えられましたし、これを一つ協定といいますか一つの方式にまとめてしまいまして、最終的に出ます四億九千万ドルを債務として確定するというやり方と二つ考えられたのでございまして、これは結局両方とも同じ趣旨のことである。必ずしも一応はっきり五億四千万ドルを債務としてまず確定しておいてその上から反対債権を引くということをしなくても、当然日本側の債権は計算の過程において完全に満たされるのであるから、満たされたあとのものを債務と確定してそれを支払うという義務を負うのでいいではないかという法制上の見解に基づきまして、ただいまのような形の協定にしたのでございます。しかし、その経過につきましては、これをはっきり国会で御説明すると同時に、日本の債権額は完全に充足されたという意味を表わす意味で三条二項の規定を特に設けまして、これについては今後一切合衆国に要求をしないということをはっきり書いておるわけでございまして、三条二項の裏から申しまして、この債権は完全に実質上に充足されておるということを表わしているわけでございます。
  90. 松本俊一

    松本(俊)委員 つまり、相殺した結果を確定債務としてこの第一条の第一項に掲げた、こういうふうに了解してよろしゅうございますか。
  91. 中川融

    中川政府委員 その通りでございます。
  92. 松本俊一

    松本(俊)委員 次に私が御質問したいのは、参考として本委員会提出されております支払金の使途に関する交換公文というものがあります。この支払金の使途に関する文換公文というものは本協定と一体をなすものでありますか。
  93. 中川融

    中川政府委員 本協定に付属するものでございます。その意味で、一体と申せば一体と言うことができるかと思いますが、ごらんのように、これは参考として出してあるのでございまして、国会の御承認を得るという案件としてははずれておるわけでございます。
  94. 松本俊一

    松本(俊)委員 これを参考として出されたのは、これが内容的に純粋の条約的の効力を持ってなくて、政府間の一つの了解という趣旨でできた交換公文であるから、この条約とともに国会審議に付せられなかったのでありますか。それとも、何かほかに理由があるのでありますか。
  95. 中川融

    中川政府委員 ただいま松本先生の御指摘になった通り理由でございます。
  96. 松本俊一

    松本(俊)委員 そうすると、内容について御質問いたしますが、この交換公文の第一項を見ますと、「合衆国政府は、適当な立法措置を経ることを条件として、前記の協定に基づき合衆国政府が受領する資金の大部分を、低開発諸国に対する経済援助に関する合衆国の計画を促進するために使用する意図を有する。」、こうなっておるのでありますが、そうしますと、合衆国政府は、今度のガリオア・エロアの協定並びにこの交換公文によっては、受け取る金を必ずしもこの交換公文に掲げた目的に使えない場合があり得るわけでありますか。
  97. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 適当な立法措置を経ることを条件として大部分を使うということでございますから、御指摘のような点もないわけではございませんと思います。ただ、具体的に適当なる立法措置というのはどういうことかということでございますが、これは、昨年の春米国議会において成立いたしました一九六一年対外援助法というものによって実質的に充足されておると考える次第でございます。のみならず、また、将来の予算法等によっても実現されることがあり得ると考える次第でございます。一九六一年の対外援助の原案におきましては、低開発地域に対する長期低利の借款をするということのために、五カ年間に八十八億ドルの開発借款基金を設定いたしまして、その財源として、財務省借入金のほか、ガリオア・エロアの対外債権の毎年の返済金三億ドルを充てるという提案をいたしたのでございます。しかしながら、議会における審議の結果、この返済金を直接開発基金に繰り入れるという方法によらないで、また、財務省借り入れという形にもよらないで、——両方これは議会の承認されるところとなりませんでしたが、一般予算から対外債権の返済金を実質的に含めた額を、支出するという権限が認められたわけでございます。従って、アメリカがガリオア返済金の大部分を低開発国に対する経済援助に充てる趣旨の意図は、一般予算に含めて支出するという意味で実質的に充足されておるもの、かように考えております。
  98. 松本俊一

    松本(俊)委員 これは、そういう趣旨ならば、私ども簡単に考えますと、交換公文でこういうことを規定するかわりに、本協定に合衆国政府義務として書いた方がよかったのじゃないかという議論が出ると思います。そういう議論をする人もありますが、そういう措置をおとりにならなかったというより、なれなかったのは、どういう理由でございましょうか。そういう点を明らかにしていただきたいと思います。
  99. 中川融

    中川政府委員 もとより、この交換公文の内容協定の中に入れるということも、日本としてもこれはむしろその方がよかったとも言えるわけでございますが、やはり、アメリカ政府といたしましては、要するに、受け取る金をどう使うかということは、法律的に申せば、アメリカ政府のいわば勝手と申しますか、専管事項であるべきなわけでございます。それを、特に日本側の要望をいれまして、低開発諸国に対する援助に大部分を使おうということを書くわけでございますから、また、低開発国に使うということも、アメリカとして言えば、これはアメリカの国会でいわば最終的に決定する権限があるわけでございまして、その事項を特に書くとなりますと、やはり、アメリカ政府といたしましては、ここに書いてありますような適当な立法措置を経ることが必要なことをどうしても条件としてつける必要があるわけでございます。ただいま大臣が申されたように、昨年の対外援助法で実質的にその条件は満足されていると考えるわけでございますが、これも五年間の期間が認められているだけでございまして、六年目以降のことは、まだいわば白紙になっているわけでございます。六年目以降この協定に基づく支払いが行なわれますが、この六年目から先のことについては、まだ実は国会からの授権もないわけでございまして、その意味から言って、やはり、アメリカ政府としては、こういう条件付で政府の方針という格好でうたっておく以外に方法がなかったわけでございまして、政府といたしましても、これを了として、交換公文の形でこれを書くことに同意したわけでございます。
  100. 松本俊一

    松本(俊)委員 まだほかにお尋ねしたいこともございますけれども、時間の関係もありますので、タイの特別円の方に移りたいと思います。  このタイの特別円の解決に関する日・タイ協定のある規定にかわる協定、これはこの前の昭和三十年の協定のうちの第二条、第四条を変える協定でありますが、この問題につきまして私が根本的に疑問を持っております点は、一体、三十年の協定、つまり旧協定に署名し、かつ、これをタイ側は国会承認を経てないようですが、日本国会承認を経たのですが、その過程におきまして、との問題になっております第二条について、日本国タイ国との政府政府との間に完全な意見の一致があったかどうかということについて疑問を持つのであります。それは、もしこの協定の字句を見れば非常に明々白々でありまして、これがいわゆる有償のものであるということについては、これはこの協定を読めばはっきりするのであります。しかしながら、タイ側が、その後六年間にわたって、あくまで無償でなければ自分の方は特別円の処理に同意できないという非常にかたくなな態度をとったことは、何か初めに第二条ができますときから双方に誤解があったのではないかという疑問を抱くのは、これは当然のことでありますから、私は、この点について、交渉の経過並びにその後の取り扱い方について政府におかれても相当明確な説明をされておきませんと、今国民がこのタイの特別円について抱いております疑問は、率直に言って、なぜこの第二条で有償のはずだったものが突如として無償になったのか、その一点であります。その意味において今度の特別円の協定は、その背景をはっきりさせないと、国民の疑惑がなかなか解けないおそれがあると思うのであります。  私は政府側の今までの御説明を聞いておりますし、また、この旧協定調印者であるタイのワン・ワイ殿下を私は実は非常によく知っております。実は、日本が参戦しました大東亜戦争の前年でありますが、昭和十五年の暮れに、当時の松岡外務大臣タイと仏印との間をあっせんしまして、タイと仏印との間の国境を改める条約をやりました。そうして、その条約の案文を作りますのに、当時ワン・ワイ殿下はタイ外務省の顧問でありまして、東京へ参りまして、それから、仏印側からゴーチェという当時の仏印総督府の総務局長が参りました。私は当時条約局長をいたしておりましたので、三人であの条約を作ったのであります。そのときの私の印象によりますと、ワン・ワイ殿下という人は、きわめて練達堪能な外交官であり、かつ法律家であって、いやしくも一字一句をおろそかにしない。私もフランスのゴーチェも、ワン・ワイ殿下には相当実は悩まされたわけです。彼はフランス語も英語も非常に達者であります。皆さんも御承知通り、二、三年前にはニューヨークの国連総会の議長を勤めた人です。そこで、私は、そういう人がこの交渉の衝に当たりながら、この特別円の元の協定、ワン・ワイが署名した協定の第二条について、私はタイ側に誤解があるわけはないと思うのであります。  そこで、その誤解はあるはずがないのにかかわらず、それの履行を六年の長きにわたってタイ側が渋ったということについては、何かそこに深い理由があるのではないかということを考えるのは、私はきわめて常識的ではないかと思うのでありますが、その点について外務当局ではどういう見解を持っておられますか、お尋ねしたいと思います。
  101. 中川融

    中川政府委員 昭和三十年当時のいわゆる旧協定締結当時の経緯についてのお尋ねでございますから、私からお答えさしていただきますが、松本先生がお述べになりました通り、先方の首席代表でありましたワン・ワイ外相は外交に最も練達の方でありまして、従って、この協定の字句の解釈について誤解があったとはわれわれも考えていないのでございます。しかしながら、タイ側の国民感情といたしまして、戦争中の日本に対する債権を返済してもらうのに、結局そのうちの半分以上のものは今度はタイ側がかえっていつかは日本に返さなければならぬような仕組みになったということについては、どうしてもタイの国民感情上納得できない、あるいはがまんができないということが、やはりタイ側の態度がああいうふうになりました一番根本原因であるようでございます。その点につきましては、御承知のように、タイ側も、最近に至りまして、はっきり、条約解釈については日本側の言う通りであるということを実は認めておるような次第でございまして、従って、締結当時に誤解があり、あるいは何かそのような誤解を与えるような理由があったかという点につきましては、何らそういう事実はなかった、かように考える次第でございます。
  102. 松本俊一

    松本(俊)委員 そうしますと、つまり、交渉者であったワン・ワイ殿下が、——私は、この人は非常に尊敬する人でありますから、決して彼を非難するつもりはございませんが、ワン・ワイ殿下がタイの国民感情というものを見誤ったのでありましょうか。そういうふうに解釈する以外ないように思うのでありますが、それとも何かほかに理由があったのかという点がまた疑問になるのであります。
  103. 中川融

    中川政府委員 これは、日本が交渉いたしました相手の国、しかも日本として非常に友好的関係にある国の内部事情でございますので、日本政府当局として、どういうふうにそこの事情を判断しているかということは、これは申し上げにくいところでございます。事実は大体私の申しましたようなことであろうかと推定しておるわけであります。
  104. 松本俊一

    松本(俊)委員 その点は、幾ら議論してみても、結局はタイ側は内部のいろいろな政治上のいきさつもあったかと思うのであります。しかしながら、さらに国民が疑問に思っておる点は、向こうは無償だということを主張する、しかし、日本側としては、協定の第二条というものは厳然として存在しておる以上、そう軽々にタイ側の主張に耳を傾けるわけにもいかないというので六年間たったのでありますが、その六年間にそれではこの特別円の三十年の協定の第二条を動かすために外務当局としてはどういう手を打たれたのであるかということでありまして、それを少し聞かせていただきますと、今日までのつながりがわかると思います。
  105. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 お話のような経緯でございまして、わが方といたしましても、この六年間何とかこの協定を動かしたいということを考えまして努力いたしたのでございます。あくまで、この第二条の協定趣旨は、あとでこの金は返してもらう、こういう趣旨でございますから、九十六億円を長期低利でタイに投資または融資して、タイで行なった事業のあげる利益から年々元本利子を償還していく案、あるいは、九十六億円を同じく長期低利でタイに融資して、タイの国内金利との利ざやから年々元本利子を償還してもらう案など、いろいろ提案いたしましたが、いずれもタイ側の納得するところにならなかったわけでございます。  さらに具体的に詳しく申し上げますと、昭和三十一年の六月、わが方から、日・タイ合弁会社に日本側が九十六億円の現物出資をいたしまして、そうして合弁会社の利潤からタイ側が日本出資株を買い取るという案を提案いたしましたが、これは拒否をされました。昭和三十二年の二月に、わが方から、日本側タイ製油所の建設のためにタイ国開発公債を担保として九十六億円をタイ政府に融資するという案を提案いたしましたが、これは三十三年五月にタイ側から拒絶をして参りました。それから、三十五年の六月に、わが方から、日本側タイ側に九十六億円の円借款を行ないまして、これを元利均等償還で返還せしめる案を提案いたしましたが、これまた拒否を受けた。こんなような経緯がございます。
  106. 松本俊一

    松本(俊)委員 そこで、お伺いしたいのは、タイ側は、日本の歴代の外務大臣、大使がそういういろいろ苦労されたにかかわらず、依然として無償論を繰り返しておった。そこで、そういう事態から、何かタイにおける日本人の経済活動あるいは文化的の活動について、この事件が片づかないために不便が生じた、あるいはタイ側の感情がどうもおもしろくないというようなことがあっただろうと想像されますが、それの具体的な事例がありましたらお聞かせ願いたいと思います。
  107. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 タイは、御承知のように、非常に長く日本との間に友好関係のある国でございまして、先方に現在千人の邦人がおるわけでございます。貿易額も現在では一億一千万ドルの輸出がこちらにございますが、タイの方から米を買っておりまして、この外米が内地の食糧事情の関係でそう買えないということになりまして、六、七千万ドルの当方の出超になっております関係もございまして、どうも事ごとに邦人の活動がうまくいかない。千人おります日本人がもっと十分に経済活動を行ないまするためには、何とか一つタイ特別円を解決してもらいたいという希望は非常に強かったわけでございます。そういうような具体的の事情は申し上げることもこの席では少しいかがかと思いますが、全般的に申し上げますと、さような邦人の活動が非常に制限せられつつあり、もしこれがさらに延引いたしまするにおいては、非常に厄介な事情もあるいは考えられるかもしれぬというような状況でありましたことは御承知通りでございます。
  108. 松本俊一

    松本(俊)委員 そこで、今度の協定調印になりまして以来、この間の外務大臣の言葉をかりて申しますと、タイ側は非常に欣喜雀躍しておるというお話であります。私は、今後タイ日本との間のいろいろな懸案がありとすれば、そういうことも日本に有利に解決することを期待せざるを得ないのでありまして、もしそういうことがなければ、わざわざ古い協定日本の不利に改めていくこともないというような、これは非常に低いと言えば低い考えかもしれませんが、そういう感じを抱くのは当然でありますから、その点について外務当局としては十二分の成算がおありでありましょうか、念のため承っておきます。
  109. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 私も御質問趣旨はごもっともと考えます。タイ側でも、すべて日本との間の協力関係を中心に今後のタイ発展を考えようというくらい非常に力を入れておりますわけで、現に租税協定の交渉を始めておるのでございますが、今後、タイの国内における鉱物資源の開発、あるいは邦人の活動によります合弁企業の推進とか、そういうふうなものについては著しく展開を見るものと考えて、そうなるように政府としても極力努力をしなければならぬ、かように思っております。
  110. 松本俊一

    松本(俊)委員 最後にもう一点お伺いしておきたいと思います。これは私の隣にすわっておられる森島委員が本会議でも聞かれたと思いますが、今度のような旧協定を改める協定、これは実際外交上なかなか前例のないことでありまして、この間小坂外務大臣は本会議でドイツの賠償のドーズ案、ヤング案を引かれましたが、あれは千三百二十億マルクのドイツの負担を徐々に身軽にしてやったのであります。今度は、実を言いますと、日本の負担を増しておるのでありまして、前例としてはあまり適当ではないと思うのでありますけれども、そういうことは別としまして、そういう前例のあるなしよりも、今度の協定が前例になって、これが連鎖反応といいますか、——日本に対してまだこの種の請求権を持っている国があります。韓国は申すまでもなく、ビルマも賠償の交渉中でありますし、まだほかにもある。クレームというものは国際法上の化けものでありまして、非常に厄介な問題で、クレームをどういうふうに解決するかということはなかなかむずかしい問題であります。これは日韓交渉が主としてこの請求権の問題にしぼられたというような格好になっておることから見ても明らかであります。そこで、今度のような協定をやって、日本は甘いぞ、何でもどんどんクレームをつけて払ってもらおうじゃないかというような気風が起きたら困ると思うのであります。そういうことのないように私は希望しておるのでありますが、この点について外務大臣の御所見を承っておきたいと思います。
  111. 小坂善太郎

    小坂国務大臣 御質問のように、インドネシアあるいはフィリピン、ビルマ等の賠償協定には経済協力に関する取りきめがございますし、クレームというものはほんとうにいろいろな点から芽を吹いてくる、これはお説の通りと思いますが、これらの取りきめの現存やっておりますものの解釈については、これは争点はございません。タイの場合とは全く前提を異にしております。戦争中に日本に貸したと思ったものが、協定を結んでみると借金になり、赤子の手をねじるようにわれわれの立場に対して日本がのしかかってくる、これは何とか頼むというような例は他にないと考えておりますし、また、そのようなことがございましても、政府といたしましては絶対にそれに応ずるわけにいかない、こう考えておる次第でございます。
  112. 松本俊一

    松本(俊)委員 なおこまかい点について伺いたいこともございますが、くれぐれも外務当局にお願いしたいのは、この種の金を払う協定は国民にとってあまり愉快な協定ではないのでありまして、この内容が非常に明確であり、そしてやむを得ない、しかもその相手国との間の親善関係がこれで非常に増すのだという実証を外務省としてもなるべく一般に周知させることが肝要ではないかと思います。私から申し上げるのははなはだおこがましいのでありますが、そういうことを申し上げて、私の質問はこれで打ち切りたいと思います。
  113. 森下國雄

    森下委員長 本日はこれにて散会いたします。    午後二時二十五分散会