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山際参考人 いろいろの最近の
金融経済情勢についての
お尋ねに多少とも御
参考になろうかと
考えますので、まず
最初に、最近における
金融経済情勢の
一般につきまして、ごく概略でございますが申し上げておきたいと思います。
私は、本年二月でございましたか、当
委員会に
出席を求められまして、その当時における
金融経済情勢について
お話を申し上げたと記憶いたしております。当時は、昨年秋以来の諸般の
経済動向が大体において
落ちつきぎみに
推移いたしておりました。しかしながら、なお前途を
考えます場合に、
輸出の先行きの見通しについてはなかなか楽観を許さざるものがある。また
企業の
設備投資意欲というものは、各般の動機によりましてなかなか強いものがあるということを御報告申し上げました。従って、現在の
段階においては
割合に
落ちつきぎみに
推移はいたしておるけれ
ども、今後の
推移については、私
どもとして十分これを注意していく必要があるということを申し述べたように記憶いたしておるのでございます。さらにその後、三月及び五月に参議院及び衆議院の
予算委員会、同
分科会におきましても、
国際収支等の
情勢につきまして御
説明を申し上げたのでございますが、その際、
経済の
成長のテンポがあまり早過ぎますと、どうしても
輸出意欲が鈍りまして、
国際収支の
均衡を維持して参るためには、
政府の
計画されておる以上に
設備投資が
行き過ぎないように、各種の角度からこれを
調整していくことが望ましいということを申し上げたように記憶いたしておるのであります。
日本経済は、御
承知の
通りここ数年来非常な
好況に恵まれまして、おのずから
経済にも力がつき、また
企業家にも自信ができて参りました。それだけに、ある
一つの
政策的方向が示されますと、
企業家の心理といたしまして、その
目標に向かって突進するという
可能性があるという点を、私は当時実は最も懸念しておったのでございます。しかして、もしさような
事態が発生いたしました場合には、
政府といたされましては、その
考えられておる
方向との偏差をなるべく臨機に修正していけるような
態勢をおとり願いたいということを申し上げて参ったと思うのであります。
日本銀行といたしましては、かような
経済の動きに対処いたしまして、すでに当時、四月ごろから
金融の量的な
引き締めを
実行いたしておりましたが、さらにその後、融資の抑制に努めて参りまして、あまり
経済の
投資行き過ぎが起こらぬように努めて参ったのでありましたが、その後の
経済の
推移を見ますと、内需の
増勢は引き続ききわめて旺盛であります。それに伴いまして、御
承知の
通り輸入の
増勢が続きまして、一方
輸出の伸張も十分でない点がございました。従って
国際収支は、五月以降
総合収支においても
赤字に転ずるに至ったのでございます。そこでわれわれ
金融当局といたしましては、
国内需要の一段の
増勢を
調整する必要を認めまして、そのためには何といっても、われわれに認められておる正統的な
金融政策手段に訴えることはやむを得ないという
判断のもとに、七月の下旬でありましたが、
公定歩合を一厘幅
引き上げたのでございます。また、この
引き上げを背景といたしまして、
窓口規制等による
量的引き締めも一そう強化することに努めて参ったのでございます。ただ、その際
輸出の
増進を念願いたしまして、
輸出金利につきましては、
一般金利を
引き上げますのと反対に一厘方引き下げて、
輸出増強に資したいという
考え方をとったのでございます。かかる
推移をたどりまして、
金融市場及び
資本市場は漸次
一般的に引き締まりの度合いを強めて参りました。
企業の
段階にもこの
趨勢は漸次浸透して参ったと思うのでありますが、それにもかかわらず、
企業の
投資態度は依然として強気が多い。従って、
経済拡大の歩調はそれほど鈍化する気配も見えませんでしたので、また二面において
国際収支につきましては、季節的な
輸出増を待望する向きもございまして、この
機会に好転するのではないかという期待も持たれたのでございますが、しかしかような
経済情勢を映じまして、
現実には
国際収支は
赤字は縮小せず、そればかりか、急速には
国際収支の
均衡を回復する見込みというものはだんだん薄らいで参るような気がいたしたのであります。
そこで、本行といたしましては、九月の下旬に再び
公定歩合を
引き上げをするとともに、同時にあわせて全般的に
金融引き締め態度を強める
意味において
準備預金率の
引き上げあるいは
日本銀行から
資金を借り出します場合の
高率適用の
強化措置等を併用いたしまして、一段と
金融引き締めを強化する
態勢をとりまして、
国内需要を極力抑制することに強い
態度をもって臨むことといたしたのでございます。ただ今回、九月の
措置につきましては、七月の場合にも申し上げました
通り、
輸出振興の見地から
輸出貿易手形の
金利は、
前回公定歩合引き上げの際には、今申し上げました
通り逆に引き下げたのでありますが、九月の場合はそれをそのまま据え置きまして、さらにこれが
輸出の
増進に資することを期待いたしたのであります。同時にまた、これは毎々申しておることでございますけれ
ども、とかく
金融引き締めの影響は
中小企業にそのしわが寄るということをあらかじめおそれまして、極力
金融機関に対して、この点に関して十分の
配意を求めて参った次第でございます。
幸いに、かかる
情勢の
推移に応じまして、
政府におかれましても、過般発表されました
国際収支の
改善対策ということで、
日本銀行の
金融引き締め強化措置と相待って、
財政その他の
施策を通じて、
景気の
調整について本腰を入れてこられる
態度を示されるに至っておるのであります。かかる
政府及び
日本銀行の
態度を通じまして、
経済界全般における最近の
事態は、その認識がようやく深められて参ったように思うのであります。もちろん、であるからといって、
国際収支の
逆調が短期間に改善されるということは、かかる大
規模な
程度に発展いたして参りました
経済界の
趨勢から
考えまして、なかなか期待しにくい点であります。従いまして、私といたしましても、今回の
金融引き締め態勢はかなり長期にわたって続くものと覚悟せねばならぬと
考えておるのであります。またこれが十分な
効果をおさめるためには、
財政その他の
施策の
協力を十分に発揮せられまして、
経済全般にわたって必要な
調整がはかられることがぜひとも必要であるということを確信いたしておる次第でございます。
かようにいたしまして、今回われわれといたしましては、かなりきびしい
金融引き締め措置を講ずるに至ったことは、結果から申しましてまことに遺憾なことでありますが、私は、
日本経済は過去数年の著しい
好況を通じまして、その蓄積せられた力というものは相当なものに達しておる現在、ある
程度のきびしい
施策を打ち出して参りましても、そのために
経済が慢性的に不況に陥る、あるいは弱体化するというようなことはなく、むしろかかる試練に一そう鍛えられまして、将来一そう健全な発展が再び期待せられることを確信いたしておる次第でございます。
日本経済は、俗に申されますけれど、これは年令にたとえますならば、いわば
青年期にあると思うのであります。決して
老衰期にあるわけではないし、また他の十分な保護、保育を必要とする乳児の
時代でもない、いわば
青年期に入っておる
時代であると思いますので、
力余ってこの潜在的なエネルギーが特に
過度に発揮されるという
傾向は生じがちでありますけれ
ども、かかる
行き過ぎに対して、適時に適当に
調整の
措置を講じる期間を与えますことは、将来さらに一そうの
飛躍をここに期待できるということに相なろうかと実は
考えておるのでございます。
先般、私はIMFの総会に
出席をいたしまして、各国の
代表者の諸君とも会談をいたしたのでありましたが、大多数の人は、
日本経済の驚異的な過去の
成長に対しては、むしろ非常に羨望の念を抱いておったのであります。しかして現在の
国際収支の悪化が、幾たびか過去において
日本がかかる
機会に遭遇しながらも、よくこれを克服して次の
飛躍の
段階に臨んだということを思い出しまして、今回もおそらくは同様の経路をたどるであろう、かような
意味において
日本経済に対しての信頼をつないでおるような実情に接したのであります。私
どもといたしましては、かかる国際的な
信用にこたえる
意味におきましても、この際各界の御
協力を得まして、今回の
景気調整の
措置の
効果を十分に今後おさめて参ることに一そうの努力を払いたい
考えでございます。
以上、大体において最近の
金融経済情勢についての御
説明を申し上げた次第であります。