○国務
大臣(松野頼三君) ただいま議題となりました
じん肺法案及び
労働者災害補償保険法の一部を
改正する
法律案につきまして、その提案理由及び概要を説明申し上げます。
労働者の業務上の傷病に対する予防及び災害
補償につきましては、一般に労働基準法及び
労働者災害補償保険法に基づいて実施いたしているところでありますが、けい肺はその予防が困難であり、一度かかると治癒しがたく多くの場合、労働基準法または
労働者災害補償保険法により三年間
療養補償を受けた後においてもなお引き続き
療養を必要とするのでありまして、また、この点については重度の外傷性せき髄障害もけい肺と同様であるのであります。そこでこれら二つのものについては、その特殊性にかんがみ、関係
労働者の保護の充実をはかるため、
昭和三十年、けい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法が制定され、石炭鉱山、金属鉱山その他遊離珪酸粉塵を発散する場所で働く
労働者に対して定期的にけい肺健康診断を行ない、その結果に華づき一定の者について粉塵作業からの作業転換をはかる等健康管理について特別の
措置を実施するとともに、けい肺及び外傷性せき髄障害にかかった
労働者に対して、労働基準法または
労働者災害補償保険法による打ち切り
補償が行なわれた後さらに二年間引き続いて
療養給付及び休業
給付を支給することとされたのであります。
しかるに、
昭和三十二年秋ごろからけい肺等特別保護法による
給付の期間が切れる者が生じ、しかもその大
部分の者は依然として
療養を必要とする状態にありましたので、とりあえずの
措置として、
昭和三十三年けい肺及び外傷性せき髄障害の養療等に関する臨時
措置法が制定され、けい肺等特別保護法による
給付の期間が切れ、なお引き続き
療養を必要とする者に対しては、
昭和三十五年三月三十一日まで、
療養給付及び
傷病手当を支給することとされますとともに、
政府はけい肺及び外傷性せき髄障害にかかった
労働者の保護
措置について根本的
検討を加え、
昭和三十四年十二月三十一日までにけい肺等特別保護法の
改正に関する
法律案を国会に提出しなければならないこととされたのであります。
そこで、
政府といたしましては、
昭和三十三年六月に、けい肺昨特別保護法の
改正に関してけい肺審議会に諮問をいたし、同審議会では一年有半にわたり審議
検討が行なわれた結果、公益側
委員の
意見を中心に、労使各側
委員の
意見を付した答申がなされたのであります。
続いて
政府は、
補償に関する問題につきまして、労災
保険審議会にも諮問をいたし、その
意見を聞いた上けい肺審議会及び労災
保険審議会の公益側
委員の
意見の線に沿い、これら審議会の労使各側
委員の
意見をも考慮しつつ、慎重に
検討をしたのであります。その結果、予防及び健康管理につきましては、最近における医学の進歩、粉じん管理に関する技術的研究の成果等を基礎として粉じん作業に従事する
労働者について適切な保護
措置を講ずることとし、その
対象についても、医学的にその実態が明らかにされて参りました石綿肺、アルミニウム肺等鉱物性粉じんの吸入によって生ずる他のじん肺を含めて、新たに特別法を制定すべきであると
考えたのであります。また、
補償につきましては、
労働者災害補償保険法を
改正して、けい肺等特別保護法及び同臨時
措置法の
補償に関する
部分を吸収し、けい肺及び外傷性せき随障害に限らず、潜水病、放射線障害、頭部外傷等類似の重篤な業務上の傷病にかかった者及び両手、両足の切断、両眼失明等重度の身体障害を存する者に対して必要な
補償を行なうため、これらの者に対する現行の一時金による打ち切り
補償費又は障害
補償費にかえて長期
給付を行なうことが必要であると
考えたのであります。そこでそのような
考えに基づき、それぞれ
法律案要綱を作成し、再度、前者の
法律案要綱についてはけい肺審議会に、後者の
法律案要綱についてはけい肺審議会及び労災
保険審議会に付議いたしますとともに、後者については
社会保障制度審議会にも諮問いたし、その結果に基づいて
じん肺法案及び
労働者災害補償保険法の一部を
改正する
法律案を作成し、昨年十二月二十九日に提案する運びとなった次第であります。
次に、それぞれの
法律案について概要を説明申し上げます。
まず
じん肺法案について申し上げます。
第一に、現行のけい肺等特別保護法では、
対象をけい肺に限っておりますが、この
法律案では、現行法の施行の過程を通じ、ようやくその医学的実態が明らかにされて参りました石綿肺、アルミニウム肺等鉱物性粉じんの吸人によって起こるその他のじん肺をも広く
対象としたのであります。これらのものはいずれもその発生原因、治療の困難性等において非常に類似しておりますところから同様に取り扱うべきこととしたのであります。
第二に、じん肺の予防に関して、労働基準法及び鉱山保安法の規定によるほか、技術の進歩に即応した粉じん発散の抑制
措置、呼吸用保護具の整備、着用等じん肺の予防のための適切な
措置について使用者及び
労働者双方の努力義務を定めるとともに、使用者は粉じん作業に従事する
労働者に対して、じん肺の予防及び健康管理に関し必要な教育の徹底をはかるべきこととしたのであります。
なお、これら予防に関する技術的
措置につきましては、一般事業場における一そうの促進をはかるために
政府といたしましても積極的に技術上の援助を行なうこととし、衛生工学に関し学識経験を有する粉じん対策指導
委員を新たに設けて、各事業場について実地に技術士の援助指導を行なうこととしたのであります。
第三に、
労働者の健康管理のために、使用者は常時粉じん作業に従事する
労働者に対して、その新規就労の際及び三年又は一年以内ごとに定期的に、または新たに肺結核にかかったことが明らかにされた者についてはそのつど、それぞれじん肺健康診断を行なわなければならないこととし、これらのじん肺健康診断の結果の資料は都道府県労働基準
局長に提出を求めまして、じん肺診査医の診断または審査により
労働者の健康管理の区分を決定することとしたのでありますが、これはじん肺の症状等の決定が一般に困難であることと、この決定の効果として、じん肺健康診断の回数が変わり、作業転換の勧告等が行なわれることとなりますので、公の立場から公正的確にその健康管理区分の決定を行なう必要があるためであります。
第四に、じん肺健康診断の結果、じん肺が管理区分三の程度になっている者については、個々の場合の必要に応じ都道府県労働基準
局長が粉じん作業からの転換を勧告して
療養を要する
段階に至らないよう防止
措置を講ずることとし、また、この勧告に従って作業転換を促進させるよう使用者において粉じん作業から転換する
労働者に対して賃金の一カ月分に相当する額の転換手当を支払わなければならないこととしたのであります。
第五に、作業転換の勧告を受けた
労働者について、使用者の努力にもかかわらず作業の転換が企業内において行なわれがたく、そのためにやむを得ず離職せざるを得ない
労働者に対して一は、
政府といたしましては職業紹介、職業訓練等についてできるだけ適切な
措置を講ずるよう努力いたしますとともに、さらに進んでこれら離職した
労働者のために就労の機会を与えるための
施設または労働能力を回復するための
施設を設置経営いたしまして、その
労働者の
生活の安定をはかるよう努力いたすこととしたのであります。
第六に、この
法律の施行に万全を期するよう、じん肺の予防
措置等について一そうの促進をはかるために関係研究
施設等の整備充実をはかるとともに、じん肺の診断については中央、地方を通じてじん肺診査医を置きましてその公正を期することとし、また、労働省にじん肺界議会を設置してじん肺に関する重要事項を
調査審議することとし、法施行に遺憾なきょう期しております。
次に、
労働者災害補償保険法の一部を
改正する
法律案について申し上げます。
第一に、現行
労働者災害を
補償保険法では業務上の傷病が
療養開始後三年を経過してもなおらない場合には、平均賃金の千二百日分に相当する額の打ち切り
補償費を支払い、以後一切の
補償を行わなくてもよいことになっており、ただ、けい肺及び外傷性せき髄障害につきましては、けい肺等特別保護法及び同臨時
措置法によりましてその後引き続き約四年間
療養給付、休業
給付等が行なわれることになっているのでありますが、この
改正法律案におきましては、けい肺及び外傷性せき髄障害に限らず、潜水病、放射線障害、頭部外傷等
療養開始後三年経過してもなおらないすべての傷病について、必要の存する期間、打ち切り
補償費にかえて長期傷病者
補償を行なうこととしたのであります。
第二に、以上のような長期傷病者との均衡をはかるとともに、外傷性せき髄陣容等殖産の身体障害者に対する対策といたしまして、
療養開始後三年以内に症状が固定した場合でも、半身不随、両手、両足の切断、両眼失明等労働能力を百パーセント喪失した障害等級第三級以上の重度の身体障害を残す者については、従来の一町金による障害
補償費にかえて長期
給付金である降雪
補償費を支給することとしたのであります。
第三に、長期傷病者
補償及び長期
給付金である障害
補償費に要する
費用につきましては、傷病の特殊性、使用者
負担の増加等を考慮し、長期傷病者
補償については、労働基準法による打ち切り
補償に相当する
部分をこえる
部分について、じん肺に関してはその四分の三、その他の傷病に関しては二分の一を国庫が
負担し、障害等級第一級から第三級までの身体障害者に対する長期
給付金である障害
補償費については、政令で定めるところにより、労働基準法による障害
補償に相当する
部分をこえる
部分の一部を、国旗が
負担することとしたのであります。
第四に、今回の
改正による長期
給付については、現行の
保険加入
制度のままでは、労災
保険に加入していない事業場において業務上負傷しまたは
疾病にかかった
労働者で、三年間
療養を行なっても傷病がなおらない者あるいはなおった後、障害等級第一級から第三級までに該当する身体障害を残す者は、労働基準法による災害
補償を受けることができるのみで、これらの長期
給付を受けられないわけでありますので、このような場合に対する特別の
措置といたしまして、その後かかる事業が労災
保険に加入するに至ってその事業主あるいはその業場の
労働者の過半数が希望するときは、事業主から特別
保険料を徴収して、
労働者に長期傷病者
補償または長期
給付金である障害
補償費を労災
保険から支給することとしたのであります。
第五に、今回の
改正は、けい肺等に対する特別保護
措置の根本的
検討から出発したものである経緯にかんがみまして、けい肺等臨時
措置法が失効いたします
昭和三十五年三月三十一日において、けい肺等特別保護法または同臨時
措置法による
療養給付の支給を受けるべきである者であって、同年四月一日以降なお引き続き
療養を必要とするものにつきましては、経過
措置として、この
改正法律案による長期傷病者
補償を行なうこととしたのであります。ただ、これらの者は、すでに労働基漁法または
労働者災害補償保険法による打ち切り
補償を受けた者でありますから、これを、新たに三年の
療養を経過して長期傷病者
補償を受けることとなる者に比較いたしますと、少なくとも打ち切り
補償分だけは余分に
給付を受けていることになりますので、それに相当する額を減額することとしたのであります。
第六に、長期傷病者
補償または障害
補償費のうちの長期
給付金の支給を受ける者が、同町に厚生年金
保険法等の障害年金または国家公務員共済組合法の廃疾年金を受けることができる場合には、その者に対する当該長期
給付金の額は、これらの障害年金または廃疾年金のうち、国及び使出者の
負担割合に相当する額を減じたものといたし、また、長期傷病者
補償及び障害
補償費のうちの長期
給付金につきましては、労働省で作成しております毎月勤労統計による全産業の
労働者の平均給与額が百分の二十以上変動した場合には、その比率を基準としてその額を改訂することとしたのであります。
以上申しのべましたこの
改正法律案の
内容につきましては、他の
社会保障制度と関連する問題もあり、将来
社会保障に関する
制度全般の調整がなされる機会におきましては
検討を加えなければならないと
考えておりますが、そのような見地より国庫
負担、厚生年金
保険の障害年金等との調整及び賃金情勢の変動に伴う長期
給付金の額の改訂につきましては、本法案に定める
措置を当分の問のものとし、そのような機会に
検討して必要な
措置を講ずることとしたのであります。
以上が
じん肺法案及び
労働者災害補償保険法の一部を
改正する
法律案を提案するに至った理由及びその概要でございます。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御賛同あらんことをお願い申し上げます。
ただいま議題となりました
身体障害者雇用促進法案につきまして、その提案理由及び
内容の大綱を御説明申し上げます。
最近における
わが国経済の進展により、雇用情勢は一般に好転しつつあるどころでありますが、身体障害者は、その障害のために就職の機会が少なく、一般に比べ多数の者が失業または不完全就業の状態に置かれているのであります。
政府といたしましては、これまで、職業紹介の強化、職業訓練の充実等行政
措置の推進をはかり、身体障害者の雇用の促進に努力して参ったのでありますが、なお、その就職は困難な実情にあるのであります。
諸外国の状況をみますと、現在すでに本数ケ国が身体障害者の雇用について立法
措置を講じており、また、
昭和三十年には、国際労働機関第三十八回総会において、「身体障害者の職業更生に関する勧告」が採択されているのであります。
これら諸般の情勢にかんがみ、労働省は、身体障害者の雇用の促進について根本的対策を講ずる必要を認め、各方面の
意見を求めつつ鋭意
検討を進めて参りましたところ、このたび成案を得るに至りましたので、ここに
身体障害者雇用促進法案を提出いたし、御審議を仰ぐことといたした次第であります。
次に、その
内容の概要を御説明申し上げます。本法案は、身体障害者が適当な職業に雇用されることを促進することにより、その職業の安定をはかることを
目的としておりますが、その具体的
措置といたしまして、第一に、身体障害者の雇用を促進するため、公共職業安定所は、求人者に対して、求人の条件についての指導、雇用に関する技術的事項についての助言を行ない、また、身体障害者に対しては、就職後においても作業の環境に適応させるために必要な指導を行なう等公共職業安定所の業務をさらに充実することといたしました。
第二に、身体障害者の就職を容易にすることを
目的として、都道府県は、事業主に委託して、身体障害者の能力に適した作業の環境に適応させるために適応訓練を実施することとし、これに必要な経費の一部を、国が補助することといたしました。
第三に、国及び地方公共団体等に対しまして、身体障害者雇用率を定め、任命権者はこの率以上であるようにするため、身体障害者の採用
計画を作成しなければならないことといたしました。また、民間の一般、雇用主に対しましても、身体障害者雇用率を定め、雇用主は、この率以上であるように身体障害者を雇い入れるように努めなければならないこととし、公共職業安定所長は、必要があると認める場合日には、百人以上の
労働者を使用する事業所の雇用主に対し身体障害者の雇い入れ
計画の作成を命ずることができるごととして、その雇用の促進をはかることといたしました。
第四に、通常の職業につくことが特に困難である重度障害者に対しましては、その能力にも適合する特定の職種を定め、これについては一般の身体障害者雇用率とは別に重度障害者雇用率を定めることによって、重度障害者についてもその就職の促進が円滑に行なわれるような
措置を講ずることといたしました。
第五に、身体障害者の雇用の促進に関する重要事項を
調査審議させるため、労働省に身体障害者雇用審議会を設置することといたしました。
以上のほか、身体障害者の雇用の促進について、
政府は
国民一般の理解を高めるため必要な
措置を講ずるとともに、労働
大臣は身体障害者の職業安定に関し必要な事項についての
調査研究に努める旨を規定いたしました。
以上この
法律の制定常並びに
法律案の概要を御説明申し上げた次第であります。
何とぞ御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。