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1960-02-05 第34回国会 衆議院 予算委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年二月五日(金曜日)     午前十時三十分開議  出席委員    委員長 小川 半次君    理事 上林山榮吉君 理事 北澤 直吉君    理事 西村 直己君 理事 野田 卯一君    理事 八木 一郎君 理事 井手 以誠君    理事 田中織之進君 理事 今澄  勇君       青木  正君    井出一太郎君       江崎 真澄君    岡本  茂君       川崎 秀二君    久野 忠治君       倉石 忠雄君    小坂善太郎君       櫻内 義雄君    重政 誠之君       周東 英雄君    田中伊三次君       床次 徳二君    橋本 龍伍君       保利  茂君    松浦周太郎君       三浦 一雄君    水田三喜男君       山口六郎次君    山崎  巖君       淡谷 悠藏君    岡  良一君       木原津與志君    北山 愛郎君       小松  幹君    河野  密君       島上善五郎君    楯 兼次郎君       辻原 弘市君    堂森 芳夫君       永井勝次郎君    横路 節雄君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         法 務 大 臣 井野 碩哉君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君         文 部 大 臣 松田竹千代君         厚 生 大 臣 渡邊 良夫君         農 林 大 臣 福田 赳夫君         通商産業大臣  池田 勇人君         運 輸 大 臣 楢橋  渡君         郵 政 大 臣 植竹 春彦君         労 働 大 臣 松野 頼三君         建 設 大 臣 村上  勇君         国 務 大 臣 赤城 宗徳君         国 務 大 臣 石原幹市郎君         国 務 大 臣 菅野和太郎君         国 務 大 臣 中曽根康弘君         国 務 大 臣 益谷 秀次君  出席政府委員         内閣官房長官 松本 俊一君         法制局長官   林  修三君         総理府総務長官 福田 篤泰君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君  委員外出席者        専  門  員  岡林 清英君     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和三十五年度一般会計予算  昭和三十五年度特別会計予算  昭和三十五年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 小川半次

    小川委員長 これより会議を開きます。  昭和三十五年度一般会計予算、同特別会計予算、同政府関係機関予算、以上三案を一括して議題といたします。  これより質疑に入ります。周東英雄君。
  3. 周東英雄

    周東委員 私は自由民主党を代表いたしまして、過日行なわれました総理施政方針演説外相外交演説、蔵相の財政予算に対する説明、企画庁長官経済演説等に関しまして若干の質問をいたしたいと思うものであります。  第一は外交問題でございます。そのうち、まず、安保条約改定について総理並びに外相にお尋ねいたしたいのでありますが、この安保条約改正につきましては、すでに昨年の八月ごろからその内容については世間に公表され、各所において十分に論議が尽くされ、しこうして、国民感情に基づく、かつて結ばれておる現行条約の持つ不平等性、あるいはアメリカ意思の自由によって種々の行動が実行されるというような点について、また日本人アメリカ軍人軍属、その家族等との間における差別的な待遇を含む行政協定、こういうものに対する改正を意図して、盛り込まれているものでありまして、何ら野党の言われるような、これが軍事同盟であるとか、あるいは日本戦争に巻き込む準備機構であるとか、あるいは積極的に他国侵略するような内容を持たないことは、もうすでに明らかになっておることでありまして、その意味においては、総理お話しになっておる、あくまでもこの安保条約改正国連憲章第一条並びに第五十一条の趣旨にのっとって結ばれておるものであって、もし日本に対する侵略行為がないならば、永久にこの安保条約発動はないものであるという主張は、私は正しいものであると考えるのであります。しかるに、これに対して、その解明あるにかかわらず、間違った趣旨宣伝がなされておることは、まことに遺憾しごくでありまするが、私はその意味において首相が言われていることに付帯して解明をしてもらいたい点があるのであります。首相が言われる侵略なきところ常にこの発動はないと言われる趣旨——最近における世界戦争のあとにおいてできました国際連合趣旨は、あくまでも今後における国際紛争というものは、これを国連安保理事会等の活動によって、力によらず話し合いによってこれを解決する、この趣旨のもとに国際連合ができておる。しかしながら、人間社会のことでありますから、常に乱暴者がおって、局地的な紛争というものが起こるということは、これはいなむべからざることであります。そういう際においても、その紛争が起こったときにじっと国際連合発動を待っている間に息の根をとめられては仕方がない。殺されてしまってから医者にかけつけたのでは問題にならぬのでありますから、その間における自衛的な行為は五十一条の趣旨において認めておる。それが一国で不可能な場合において他の国と共同防衛の位置に立つという趣旨において、総理はそういうお話をされておると私は思うのでありますが、いかがでありますか、お伺いいたしたいと思います。
  4. 岸信介

    岸国務大臣 申し上げるまでもなく、今回の新しい安保条約は、御指摘のように、現在ある安保条約の不備を、国民感情に基づいて、われわれの多年の要望を実現しようとするものであります。そうして、その前提は、御指摘にありましたように、あくまでも国連憲章精神前提としておるものであります。条約にも各所にその旨を明らかにいたしておりますが、言うまでもなく、今の国際情勢は、あらゆる場合に国際紛争平和的手段解決する、力を用いず、武力を用いずに解決するということが国連精神であり、またそれを今回の安保条約も大きく取り上げておるわけであります。ただ国連憲章五十一条にもありますように、いろいろな国際の現状から見ますというと、その間、国際連合が適当な処置をとる間において侵略が行なわれ、一国の安全と平和が害せられるという場合において、自衛権として行動をし得ることは憲章にも明らかにしておるところであります。これらの点を取り入れまして、われわれはあくまでも日本の安全と平和を通じて極東の平和と安全に寄与し、ひいて世界の平和を進めるという趣旨基本方針でありまして、反対的な議論は、私は何ら根拠のないものである、あるいはしいて条約を曲げて解釈しようとするものであると解するほかはない問題である、かように思っております。
  5. 周東英雄

    周東委員 私も総理の御意見に同感でありますが、私は重ねて外相にお伺いしたいのであります。私どもの非常に遺憾とする点は、この国連憲章第五十一条に基づいて結ばれておる日米間の安保条約というものが、日本だけが何かないしょでこそこそとこういうものを結んで、そうして他国侵略する企図があるがごときょうな宣伝をする、そういうことに対し非常に遺憾に感ずる。私は第二回の世界大戦の後においてできた国連憲章、この五十一条の趣旨に基づいて結ばれておる同趣旨の、日米安保条約と同趣旨条約というものは、日本だけでなくてほかの国も結んでおると思うのでありますが、いかなる国々が結んでおりますか。
  6. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 御承知通り国連憲章におきまして集団安全保障体制というものが認められておるわけであります。従いまして、今日平和を維持するために、それぞれの国が集団安全保障体制をとっておりますことは、これは単に自由主義世界ばかりでなく、共産圏国々の中においてもそういう条約があることは御承知通りだと思います。また国連憲章そのものに準拠しておりますかどうか別でありますけれども集団安全保障体制としてソ連中共とが中ソ友好同盟条約という、集団的な条約を結んでおることも事実でございまして、世界各国おのおのそうした状況に現在ございます。
  7. 周東英雄

    周東委員 私もさように思うのでありまして、ことに日本アメリカ安保条約改正を攻撃することに中心が置かれている。私は、大体同趣旨の規定と思いますのが、自由陣営においてもまた共産陣営においても結ばれていると思います。ことに私ども遺憾に存じますのは、中ソ友好同盟条約というものがどんな内容を持っているかということが国民にしっかりと了解をされておらないと思うのであります。もし野党諸君の言われるごとく、日本アメリカとの間に結ばれた安保条約なるものがかりに早くできておって、それがどうも中ソでも仮想敵国にして結んでおるというような恐怖にかられて中ソ友好同盟条約ができたなら別であります。しかし、私どもの見ておりますのは、日本アメリカ安保条約を結んだのは、御承知通り昭和二十五年二月であります。一九五〇年の二月であったと思います。日本安保条約が結ばれたのは、講和条約締結とともでありますから、調印は一九五一年九月であります。そうして、発効したのが一九五二年四月二十八日であったと思います。しかも私どもが非常に解せないのは、当時日本国内情勢というものは、講和によって独立をかち得るのではありますが、当時は自衛隊のごときものは一人として、一兵もなかった。国内における警察の状態も、現在ほどしっかりしたものではなかった。そこに新しい講和条約ができて独立する。しかも社会党諸君はよく言われますが、国際情勢というものは非常に変わってきていると言われる。しかし、日本が結んだ当時の事情及びその後における国際情勢考えてみましても、社会党の言われるような状態でないと私は思う。ことにただいま申しましたように、日本講和条約を結んだときの状況安保条約を結んだときの状況考えますと、その約一年八カ月前に中ソ友好同盟条約が結ばれておって、しかもその内容は、御承知通り、そのプリアンブル、前文にこう書いてある。「ソヴィエト社会主義共和国連邦最高ソヴィエト幹部会及び中華人民共和国中央人民政府は、日本帝国主義の復活及び日本国侵略又は侵略行為について」云々、これを防止するために共同防衛をやる、こう書いてある。またその第一条においても、日本に対する共同防衛世界平和への協力という見出しで、「両締約国は、日本国又は直接に若しくは間接に日本国侵略行為について連合する他の国の侵略の繰返し及び平和の侵害を防止するため、両国のなしうるすべての必要な措置を共同して執ることを約束する。」二項には「締約国の一方が日本国又はこれと同盟している他の国から攻撃を受けて戦争状態に陥った場合には、他方の締約国は、直ちになしうるすべての手段で軍事的の又は他の援助を与える。」と書いてある。一体一九五〇年二月当時、日本国力は、中共を、中国を侵略し得るような態勢にあったかどうか、実に哀れな状態にあったことは事実であります。しかも、そういう状態において、日本侵略したら、共同防衛するのだと、日本の国をメンションして、はっきり表わして同盟が結ばれておる。これこそ、共産党あるいは野党諸君のいわれる仮想敵国をもって軍事同盟を結ぶということを言われるなら、ソビエト及び中共の間における中ソ友好同盟条約こそその形ではなかったかと私は思うのであります。すなわち、私の言いたいことは、中ソ友好同盟条約は、日本をメンションし、これを仮想敵国として結ばれておる、こういう状況が一年八カ月前にやられ、さらに当時の環境といたしましては、朝鮮における南北戦争が起こって、北の共産圏から南方に侵入して釜山まで来ていた、こういう環境のもとにおいて、日本講和条約を裸で結ばなければならぬ状態にあった。そこで、このころにおいて日本国連には加盟しておりませんけれども国連憲章趣旨に基づいて、自己の国の防衛をなすために、アメリカと協約を結んだということは明々白々の事実であって、何も日本のような弱国が他国侵略する意思に基づいてかくのごとき協定を結んだものとは私は考えないのであります。でありますけれども、その当時の事情において、日本は非常に弱い立場にあったために、結んだ けれども、かなりアメリカ発言権が強くて日本が不平等な立場に置かれた、また日本人アメリカ軍人軍属あるいはその家族等の間における差別的待遇行政協定でとられたというような事柄は、何としても残念しごくなことでありまして、それを改正してくれということは国民的感情要望するところでありました。これが今度の改正である。そうすれば、何らそこに日本侵略的な考えもなければ、日本アメリカとの軍事同盟でもつないということははっきりするのでありますが、私は政府におかれましても、こういう点は機会あるごとに、むしろこの中ソ友好同盟条約なりその実態を明らかにし、日米安保条約成立経過等をはっきり国民に認識させるようにしていただきたいと思うのでありますが、総理所見を伺いたい。
  8. 岸信介

    岸国務大臣 日本平和条約を結んで独立を回復したその際に、日本国情国力は、周東委員の御指摘になった通りであります。また、日本を取り巻く周囲において、これに先だつ一年余前に中ソ友好同盟条約ができて、これに明らかに日本というものを明示して、軍事的な同盟条約が結ばれておるという状況のもとにおいて、日本が安全と平和を維持し、またわれわれが理想としておる国民の繁栄と自由を守っていくために、われわれはアメリカの力にもっぱらたよって、日本の平和と安全を守るほかはなかったのであります。しかし、それは成立のときからそういう特殊な事情ではありましたけれども国民感情からいうと、独立国としてあまりにもこの条約が不平等であり、また日本自主性が全然認められておらないということに対して、また米国駐留軍国内におけるいろいろな待遇が、あまりにも他の同種の場合と比較して不当であるということは、初めから論ぜられたことであり、その後国会においても幾たびかこれを指摘して、再検討し、改定をすべきものであるという議論が行なわれておったのであります。われわれは、その国民の声を聞き、国民要望を取り入れて、今回の改正をしたわけでありまして、あくまでもこの安保条約精神は、現行安保条約と同様に、さらにその後における国連の忠実な一加盟国としての義務を遂行する上から申しましても、あくまでも防衛的な、他を侵略するような意図の全然ない条約であるのでありまして、制定当時からの事情安保条約本質について、さらに国民の理解を得るように、政府としても、今後とも、あるいは国会を通じて、あるいはその他の方法によりまして、できるだけの努力をすべきものだと考えております。
  9. 周東英雄

    周東委員 次に申し上げたいことは、野党諸君お話は本会議等においても伺いましたが、一体国際情勢の認識において政府は間違っておる、もっと今日は雪解け状況になっておるので、それに対処してこれは不要だ、こういうふうな議論が出るのでありますが、——私はこう考えるのですが、政府はどういうお考えでありますか。この安保条約というものは、先ほど申し上げたような趣旨でできてきたことはお話通りでありますが、これはあくまでも局地紛争、これがあるということが前提でありましょう。そうして、その局地紛争を、小さい芽のうちにつみとってしまう。これが国際連合の仕事であって、平生から、「平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整又は解決平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること。」こういうことであります。この趣旨は、局地戦争が起こっても、これを芽のうちにつみとって、拡大した世界戦争に持ってこない。ことに今日雪解け状況といわれる内容は、米ソ中心とする両陣営の対立が激化して、破滅的な世界戦争が起こるということを避けるために、米ソ中心としたこの冷戦をなくそうということで話し合いが進んでおる。しかし、そのことは、局地戦争が起こるということを否定しておるものではないのであります。私はそう思う。こういう問題に関しまして、今日の状態は、その局地戦争というものが起こる可能性のあるということは、この協定のできた当時の事情はもとよりのこと、その後においても、あるいはベトナム南北紛争、あるいは中近東における紛争、あるいはチベット問題、最近においては中共・ビルマの国境紛争中共・インド間の国境紛争のごときが出ておるのであります。こういう際にも、この紛争をして大きな形に拡大させないようにする。しかもその間において、国連憲章の五十一条の関係において、自衛戦争あるいは共同防衛体をとるという関係でありますから、いわゆる社会党のいわれる雪解け状態において、世界情勢が変わっているということをかりに肯定したとしても、そのことによって安保条約改定、存続を否定する理由には私はならぬと考えるのでありますが、総理の御所見をお伺いしたい。
  10. 岸信介

    岸国務大臣 国際情勢をどう認識するかという問題に関しましては、過日来本会議を通じて私の所信を明らかにいたしております。野党諸君とこの点において考え基本に食い違いがあることは、私も非常に残念だと思うことであります。  言うまでもなく、今日の軍事科学の発達から、全面戦争世界破滅を来たすようなことは、これはわれわれがあらゆる努力を払って防止しなければならぬということは、米ソ首脳部初め、世界各国考えておることであります。従って、強大なる米ソ武力が全面的に使用されて、世界破滅になるような事態を避けるためには、話し合いによって東西間の問題を解決していこうという機運が動いておるというのは事実であります。しかし、それがこの東西間の重大問題であり、また主題であるところのあるいはドイツ問題であるとか、あるいはこの軍縮の問題が容易に解決するというふうな見通しを立てることは、まだまだ早いと思います。  それからまた、現実に、今御指摘になりましたような局地的な紛争が、遺憾ながら世界各地に起こっております。国連がそれを平和的に解決するために努力をしていることは御承知通りであり、日本もそれに対して積極的な協力をして、これが平和的解決に貢献をしておることもまた事実であります。そういう現実事態と、われわれの望んでおる、希望であり理想であるということを混同してはならないのであります。やはり現実に即して平和を守り、安全を守っていくということにつきまして、先ほど来お話がありますように、各国集団安全保障体制を、東西陣営ともとっておって、それを強化していくことが、私は今日の世界現実から見て平和を維持するゆえんであり、この新しい安保条約もそういう精神に出ているものでございまして、決して世界の大勢に逆行するというような性質のものではないと私はかたく確信をいたしております。
  11. 周東英雄

    周東委員 それにつきましても遺憾千万なのは、最近におけるソ連声明であります。それに対して私がただいま申し上げたような趣旨で結ばれている日米安保条約というものは、日本ソ連との間における共同宣言というものをなされた当時から実は日米安保条約の存在はしておったわけであります。にもかかわらず、そのときにおいては何らの発言なくして、今日、同趣旨のものがただ内容的にもっと日本立場をはっきりさせる意味において、日本アメリカだけの意思でもってすべての行動をしてもらわぬようにいろいろの点において文字通り改正されたものではありますけれども内容においては日ソ共同宣言の行なわれた当時のものと同一のものであります。にもかかわらず、突如として共同宣言内容に盛られたところの、将来日ソの間における講和条約ができたときになされるべき一つの問題であった歯舞、色丹の返還をしないというようなことを声明したことは、非常に矛盾するおかしな問題だと思います。これこそ明らかに大国主義的な考え方であり、強国主義的な考え方であって、力をもってどうかつ、恐喝をして、日本をして正当な主張でも押えようとする主張にしか見えません。私ども党としてはこれに対する決議案を出そうとしておりますが、政府におきましても近くこれに対する反論をされるそうでありますが、このことは国民に向かってもその実態をはっきりと解明を加えて声明をしてもらいたいと私は思うのであります。ことに今日実行、協議されつつある日ソ漁業条約の問題、かくのごとき問題についても、これは一体こういうふうな日米安保条約改定というような問題とは無関係な問題なのであります。にもかかわらず、伝えられるところによると、日米安保条約改正によって日ソ漁業条約話し合いも困難になるであろうという新聞記事の報道であります。実に驚き入った事柄であると私は思うのであります。こういう点に対しても、日ソ漁業条約は、別個の関係において、あくまでも学問的立場に立って資源の調査等が行なわれておるのでありますから、こういう問題と離れてまじめな交渉をし、妥結をすることが必要だと思いますが、これらに対しての政府所見を聞きたいのであります。ことに私が遺憾なのは、このソ連声明に対して社会党の淺沼氏が鬼の首でも取ったような形で、それ言わぬことではないかというような話が出た。一体どういうお考えであるか、私はその真意をつかむのに困るのであります。一体日本の国に対してかくのごとく不合理な声明がなされておることを、日本政府が悪いようなことを外に向かって言われるようなことがあるこのこと自体が、日本国内を二分しようとしておる外国の宣伝といいますか、謀略に乗ることだと思います。これは遺憾なことであると考えます。先ほどの点について政府所見をお伺いしたい。
  12. 岸信介

    岸国務大臣 安保条約のこの改定問題が起こりましてから、ソ連中共方面からいろいろとこれに反対するところの動きが起こっており、また国内に対していろいろな工作が行なわれてきたことは、私ども非常に遺憾とするところであります。すでに昨年の五月、ソ連大使よりの口上書に対しまして、われわれは当時この安保条約本質について日本立場を明らかにしたところでありますが、重ねて最近のグロムイコ外相覚書というものは、これはその内容が、われわれ日本立場から申しまして、全く安保条約というものを故意に曲解して、そうして国際信義に反したような、御指摘のような領土問題にまでこれを結びつけての覚書は、これは全く国際法の従来の考え方をじゅうりんするものである。いわんや私が申し上げているように、われわれがどういう方向によって安全保障体制をとるかというようなことは、これはわれわれの自主的にきめるべき問題であり、他から干渉を受けるべき性質のものではありません。また日ソ共同宣言の中におきましても、互いに内政については干渉しないということを厳粛に申し合わせているにかかわらず、そういう点にまで触れていることは、われわれは非常に遺憾とするところでありまして、ごく近い時期に、日本政府の態度を中外に——ソ連に回答すると同時に、これを国民に明確に理解してもらうような方法をとるつもりでおります。  なお、御指摘になりました漁業交渉の問題は、これは日ソの間の漁業協定に基づいて年々科学的な根拠に基づいて漁獲数量専門委員会の間においてきめる問題でありまして、何ら外交的な、いわゆる政治的な意味を持つものでないことはきわめて明瞭であります。従って、その問題とこの安保条約改定の問題との間には、何らの関係がないのであります。あくまでもわれわれは漁業協定趣旨に従って、科学的な根拠に基づいて、専門家の間において十分討議を尽くしていきたい、かように考えております。
  13. 周東英雄

    周東委員 安保条約に関しましては、冒頭に申しましたように、相当に長い間討議されて議論されたところであります。与党の私さらに重ねての質問を避けまして、外交委員会に譲りたいと思いますが、かくのごとく当然なことすら、実際国民の中にはまだ十分に浸透されておらない、その内容が理解されていないということについては私は遺憾に思いますので、この上ともその理解を求めるべく努力するとともに、議会を通じて安保条約の当然性というものを十分に天下に知らせるために、この審議に当たってはあまり時間を限って急ぐということでなくて、総理の言われるように十分な審議期間を与えて審議させていくことが必要だと考えるのであります。ただしかし、いつまでも時間を与えるということにも限度があります。同じことを何べんも繰り返して、考え方の相違ということでいつまでも理解せぬというような形になるならば、これは世論が判断してくれると思いますが、ただこちらから早く打ち切って早く通そうという態度でなくて、十分な審議を尽くさして、あれだけやっているのにとにかく議事引き延ばしのために繰り返し議論をやるというような場合においては、おのずから世論が判断することになると思います。十分な審議を尽くさせていくことが必要だと思いますが、どうぞ所見を伺いたい。
  14. 岸信介

    岸国務大臣 安保条約の問題は、すでに相当に論議された問題でありますけれども、いよいよ批准を求める、この国会において批准を求める、また最近におきまして、その提案の説明もいたし、これの御審議を願うことにいたしたいと思っております。きわめて重要な問題でございますから、国会において十分に審議を尽くし、反対の考え方も、またこれに対しての解明も、国会を通じて国民の前にできるだけこれを明らかにして、そうしてこの批准を成立せしめたいというのが私の願いでございます。十分な御審議を願って、そうして国民の前にこの意義をはっきりさせて、国民の、背後の御支持のもとに、国会において批准が成立するように進めていきたい、かように思っております。
  15. 周東英雄

    周東委員 次に、総理外相にお伺いしたいことは、施政方針演説お話しになりましたように、総理は、今後は平和外交を積極的に推進するということであります。また外相は、同様に、平和外交の積極的推進と善隣外交を進めるというお話でございます。私どもはその御意思は最も尊重し、かくあるべしと思いますが、具体的にはどういう形で世界平和に対する積極的な推進をなされるか、お考え方を一つお伺いしたいと思います。
  16. 岸信介

    岸国務大臣 かねて私は日本の進んでいくべき外交方針として、国連中心の外交政策を進めるということを申しております。平和外交ということは、これを外交の基本としてわが党が立党以来堅持してきておるところでありまして、それを具体的に進める方法としては、国連に加盟し、国連の一員として、国連を通じてこれを展開していくというのが基本考え方でございます。言うまでもなく、国連世界各国が加盟しまして、平和機構としてあらゆる機能をだんだん整備してきており、またその活動も世界の平和を維持するために、非常に強化されてきつつあります。日本もまたあるいは安保理事会の一員とし、あるいはまた総会におきまして、その他の理事会等におきまして、われわれはこの任務を進めております。従って、そういう意味において、今後といえども国連中心にやっていくべきであると思います。ただ必要なことは、日本が国としてどういう基本的な立場をとるか、われわれはあくまでも自由主義の立場を堅持し、人間の尊厳と自由を守り抜く態勢こそ、真の世界の平和をもたらすゆえんであるという立場に立って、たとい政治体制やものの考え方の違う国々との間におきましても、お互いの立場、お互いの政治体制というものを十分に理解し、尊重して、そうしてお互いに侵さず、共存の道を見出していく、こういう立場をはっきりして、今後といえども世界のあらゆる国々と友好親善の関係を深めて、平和を増進していきたい、かように考えております。
  17. 周東英雄

    周東委員 私はただいまの御意見はごもっともであると思うのでありますが、今後の世界の平和をどうやって維持し、進めていくかということに対して、最も大きな問題は軍縮の問題であろうと思うのであります。しかも、それに対しては、すでに関係各国の間に十ヵ国の会議が持たれております。その中には、共産圏を代表する国五カ国と、自由主義国を代表する五ヵ国が、軍縮に関する問題を討議することになって、三月十五日からやるはずであります。こういう問題について、一月の二十一日において、中国の全国人民代表大会常務委員会拡大会議というところで、陳毅外相は、中国は自国が同意した国際義務を何のちゅうちょもなく引き受けることは考えるが、しかし、中国が正式に参加せず、かつその代表の署名のない軍縮に関する国際協定は、当然中国に対して何らの拘束力を持つものでないという声明をしております。これに対してアメリカのバーター長官は、とにかく軍縮の計画には参加させる、入ってもらいたい、協定は守ってもらいたいが、交渉には入れない、また同時に、その義務を負うてもらう協定の中には入れるが、しかしそのことは中国を承認するものでもなければ、国際連合加盟を承認するものでもないという証言がなされております。この間において私は非常な疑問を持つのであります。今日世界平和の促進といいますか、確立をはかるについて、軍縮ということが大きな議題になっておる。なかなか総理お話しになったように、このことはむずかしいと思います。が、しかし、これはあくまでなし遂げねばならぬし、総理も本会議の御演説で、ぜひこの十ヵ国会議がスムーズに成功して、軍縮が成功することを祈るとお話しになっておりましたが、こういう点において、せっかくできたと仮定しても、それに対して大きな軍事力と経済力を持とうとしておる中共がこの協定に服しないというような——これはあるいはどうかつかもしれませんが、そういうことでは、はたして軍縮ができたと仮定しても、世界の平和というものは非常に脅かされるのではないかという気がいたすのであります。ただ私はその点について、この十ヵ国会議に代表として選ばれた共産圏の五ヵ国というものは、これは国際連合会議でありませんから、国際連合に加入しておらないものも代表としてなり得ると思うのでありますが、その際において、ソ連中共を代表に出そうとしたのでしょうか、どうでしょうか。また代表として出そうとしても、これは許さなくて出られなかったけれども、この五ヵ国の共産圏代表の交渉した内容というものは、当然に共産圏を代表して出ておるのであるから、束縛するものであるかどうか。これが束縛できれば、ただいまの陳毅外相声明なるものはまことにどうかつしたものであって、信義に反する問題であると思うのでありますが、これはいかがな内容でありましょうか、おわかりになっておったら御教示を願いたい。
  18. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 御承知通り国連におきまして軍縮問題を数年前から取り上げて参ってきまして、その国連における軍縮委員会の構成につきましては、その数等の問題について自由主義陣営と共産側との間に話し合いがつきませんで、国連の軍縮委員会が円滑に進行しなかった状態にございました。その結果としてソ連及びアメリカ等が話し合いをして、いわゆるソ連のパリティ方式による国連外の委員会というものができることになりました。それがただいまございます十ヵ国委員会でございます。この十ヵ国委員会ができましたのは申し上げましたように、パリティ方式でありまして、共産圏を代表する五ヵ国、また自由主義圏を代表する五ヵ国というパリティを持った委員会になったわけでございます。その際に、中共をこのメンバーにするかしないかという問題は論議になっておりません。しかしながら、少なくも共産圏五ヵ国と自由主義圏五ヵ国という形においてできました委員会というものは、相当に共産圏側の意向を全面的に代表するものと見て考えていくことは適当だと思います。ただ、現実の問題といたしまして、この委員会においてどういうふうに話し合いが進んでいくか、またそれによって中共との関係がどういうふうになっていくかということは、今後の問題にゆだねられることだと思います。従いまして、国連といたしましても、この十ヵ国委員会と十分な連絡をとりまして、そうして十ヵ国以外の国の意見も十分この十ヵ国委員会に反映するように、国連においてはオブザーバーなりあるいは何なりを出すという考え方、あるいは何らかの形で連絡をとるという方向に進んでおるわけであります。従いまして、この委員会が進行する過程におきましていろいろな問題が出て参ると思います。むろん膨大な軍備を持っております中共を除外しての軍縮というものが、ある意味において非常に大きな欠陥を持つということは当然各国考えておるところでありまして、それらの問題は、今後の動きからできるだけ各国考えて善処していくことに相なろうと思います。
  19. 周東英雄

    周東委員 私はこの点が今後における世界平和のかぎを握る一つの問題ではないかと思うのであります。ただいま十ヵ国会議においてともかく共産圏を代表した五ヵ国が出てきており、その大きな力でその共産圏意思を左右し得る力のあるのはソ連だと思うのですが、これが実際の内面的な話し合いにおいて中共を導き得るならよろしいのでありますが、そうでないとすると、実際上、先ほど申し上げたように、この軍縮会議というものができたと仮定しても、なかなかそれだけでは済まない状態になるのじゃないかと思います。その意味においては、今日におきましては、総理あるいは外務省が言われる善隣外交を進めるということの中に、中共に対して日本に対する誤解を解いて、理解を求めつついろんな話をやっていきたい、貿易の問題なりあるいは漁業の問題なり、そういう問題について話し合いを進めていきたいというお話でありますが、私は決してそのお考えに対して異議を申すのではなく、全く同感であります。ただ、それは今日の事態において、日本中共の理解を求め、誤解を解いて、日本との関係だけをまず改善していくということは当然でありますけれども、今日の日本は、日本日本だけでなくて、世界日本として、世界の世論を大きく引っぱっていくというくらいの気魄は持っていいのじゃなかろうか。また今度の安保条約改定というものによって、日本世界における地位がある程度確保されるということも事実であり、その地位を大きく活用して、世界日本として、私はこの軍縮会議を成功させるために、一体中共はどういうふうに持っていくかというようなことは、国連を通じてでよろしいが、積極的に働きかける必要はないのかと、こう思うのであります。私は善隣外交を強力に進めるというお話について、誤解を解いて、ある程度貿易なりあるいは漁業なんかを進めていくということは、内面的にはともかくも、中共をある問題については相手にしていくということであるのじゃなかろうかと思う。しかし私は、だからといって今日直ちに中共を承認せよとか、国際連合加盟だとか申すわけじゃないのです。ことに中共は、あるいはソ連も同じでありますが、現在の態度を改めていかなければ、外に向かっては非常な恐喝的なことをやり、あるいは中印国境紛争をやって侵略的な行為をやってみたり、あるいはビルマに対しては、最近協定ができたようでありますが、国境を侵してみたり、そういう形をやって、世界の平和というものについての観念がなく、そうして国際連合というような趣旨にも服従するという考えもない。そんなものをとにかくそのままで扱うことは困難でありまするけれども、ほんとうに世界の平和を念願するならば、この膨大な軍備を持つ、ことに日本の近所にある大国について、世界平和のために軍事力の制限、削減というものができるような形に持っていくことが必要じゃないか。それについてはもっと積極的に、日本世界日本となった今日出ていくことが必要ではなかろうか、私はこういうふうに考えるのでありますが、首相の御意見を伺いたい。
  20. 岸信介

    岸国務大臣 中国大陸と日本との関係は、地理的に申しましても、歴史的に申しましても、あるいは民族的に申しましても、非常に密接な関係にあるところでありまして、この意味において、世界のどの国よりも日本は中国大陸に対する関心は最も深いと思います。また長いつき合いの上から、われわれの認識というものは、世界のどの民族よりも最も深いものを持っておると思います。しかも、日中の関係が今日のような状態にあることは非常に遺憾な状態である。従って、これを何とか打開していかなければいかぬということは、私は国民のひとしく願うところであると思います。そして、こういう断絶しておる状況がどうして起こっているかということを考えてみますると、私は、その非常に多くの部分が誤解であると思います。特に、安保条約改定等に対しての中共側の言い分を見ますると、私が先ほど来論じてきているように、これは全くわれわれの真意を取り違えておる、あるいは故意に曲解しているのじゃないかとすら思われるような言動すらあるのであります。こういう状態は非常に遺憾であって、そのことに対して、われわれが誠意を持ってその誤解を解くように、正当な理解をするように進めて参らなければならぬことは言うを待ちません。しかし、中共政府国際的地位についての問題につきましては、これはただ単に日本と中国との間の関係だけでは解決できないので、いわゆる世界政治の流れにおいてこれは解決していかなければならぬ。この意味から申しまして、私は、関係諸国と十分話し合いをしていかなければならぬ、しかし、その場合において、先ほど来申しておるように、われわれが中国に対して持っておる深い関心と認識と、従来の長いつき合いから生じておるところのわれわれの持っておる考え方というものを、十分に関係諸国にも理解せしめつつ、話し合いをして解決していく必要がある、かように考えております。
  21. 周東英雄

    周東委員 総理の御意思はよくわかるのでありますが、今日の段階においては、国際連合を通じて、もしくは直接に米英というような方面とのお話し合いを積極的に進めて、どうするか、世界の平和を確保するために中共というものを度外してできないのだが、それを一体どうするかということについて積極的な提案なり考え方を述べて、相談を始めることが必要ではないか。私はこのことは決して日本だけでできるとは思いません。ことにわれわれとして最も考えなければならぬことは、台湾の日本に寄せられておるこの従来の信義であります。これを簡単に捨て去るわけにはいきませんが、しかし、台湾というものについてどうするかという問題は、当然そこの含みに考えられていかなければならぬ、こういうふうに考えております。しかし、今日の状態における中共というもの、中国というものをどういう関係において持っていくかということは、これは、世界各国、米英といえども苦慮しているところだと思います。だからこそハーター長官の談話の通り、とにかく軍縮に関しては、協定等の会議交渉の中には入れないけれども、できた協定は守らせるのだというようなことが出てくるゆえんであって、そこに悩みがあると思うのです。しかし、私は、世界平和のために過去の問題をいろいろ考えつつも、そういう点の話し合いを積極的に日本がやるべき立場じゃなかろうか、こういうふうに考えるわけであります。今日同じく自由主義国の中においても、英国はすでに中共を承認しておる。しかし、いろいろなやり方に対しては、中国の行動に対して非常に批判的に英国はやっております。これは、私どもは今直ちに国連加入とかなんとかいうことを言うのではありませんが、とにかく軍縮会議というものの重大な現段階において、これをほんとうに実らせて、査察を伴う核兵器を含む軍備の規制、減少、廃止というようなことまで進むのには、やはりこの中国というものが中へ入って縛られるような軍縮の実質的な協定でなければ無意味だと思いますがゆえに、その点についての積極的な今後の働きかけを考慮し、プログラムを立てる必要があるのじゃなかろうか、こういうふうに考えるわけであります。重ねて総理の御所見を伺います。
  22. 岸信介

    岸国務大臣 国連においては、御承知通り、台湾における中華民国政府を、安保理事会の常任理事国の一つとしてこれを認め、国際連合の重要な機能を果たさしております。こういう前提のもとに、全然この関係を無視して国際関係を作るということは、今日の段階においてはまだできない状況である。こういう問題を、私が言ういわゆる世界の政治の流れにおいて解決していかなければならぬというのであります。しかして、具体的の問題として、軍縮の問題に関連して、あの大きな中国大陸というものが世界の軍縮から抜けていくということは、世界全体の軍縮の実をあげる上から言ってこれははなはだ不完全なものである、と同時に、最も地理的に近接な日本としては、非常に関心の深い問題であります。従って、その問題がいよいよ現実の問題として、軍縮問題が結論を得るに近づくにつれまして、先ほどから外務大臣が申し上げているように、中共の問題をどう扱っていくかということが非常に大きな国際問題となると私は思います。また、そういう際におきまして、われわれが先ほど来申しているように、長い関係を持ち、最も深い関心を持っているわれわれが積極的に世界に働きかけていくということは、当然われわれのやらなきゃならぬことである、かように思います。
  23. 周東英雄

    周東委員 それはそのくらいにいたしまして、最後に外務大臣に伺いますが、善隣外交を推進されるについて一番大事な、一番近いところの韓国の問題でありますが、実は、釜山に抑留された人間それ自体はもう二年越しになっている。これは、大村に収容されている人間との交換ということがもうかなり出ておりますが、しかし一向実現をいたしません。これは、私はよく事情承知しておりまするがゆえに、政府の御努力というものはよくわかっておりまするし、いかにむずかしいものか、無理を韓国側が言っておるのじゃなかろうかと思われるのですが、これは何とか一つ、交渉の焦点を変えてでも、すみやかに韓国の問題を解決するという方向へ向かう必要があるのじゃなかろうか、こういうふうに考えます。これはとにかく、いろいろな財産権の問題なり、あるいは韓国人の日本における資格の問題なり、いろいろ問題はありますが、一番困っているのが東海公海に出る、あの近辺に出る漁業者の問題であります。年々漁場が縮小されてきて、そうして成り立たぬような格好になっているだけではなくて、人間は抑留されて非常に困っておる。同時に、そのしわ寄せが沿岸漁業にきて、あの近海を荒らす、漁村も共倒れになるということが間接的に起こっておるということは見のがすべからざる問題でありますが、この点については、今後の方向としてどういうふうにお考えになりますか。交渉再開はできておるようでありますが、一向その後の状況がわかりませんが、お話しを願いたい。
  24. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 韓国との交渉の経緯につきましては、御承知通り、今日まで日本といたしましても、できるだけ慎重に、またできるだけ忍耐強くわが方の立場を説明もし、理解を得るように努力して参ったのであります。同時に問題点につきましては、われわれとしていろいろな日本側の要望を先方にも伝えまして、そうして極力それが達成を期して参ってきておるわけであります。ことに今御指摘のありましたように、釜山に抑留されております漁船乗組員の方々に対しては、まことにお気の毒でありますし、ことにその家族等のことを考えますと、われわれも一日も早くこの問題を解決しなければならぬという決意をもって進めておるのであります。  旧臘この問題につきまして、ある程度在日韓国人の処遇の問題についての話し合いが進みまして、ほぼわれわれ日韓会談の交渉の面におきましては見通しがついて参ったのでありますが、突如としてその話し合いがつこうという瞬間に韓国側が態度を変えまして、そうして国際司法裁判所等に北鮮帰還の問題を提訴するというようなことを申し入れて参りまして、これが中断をすることになったわけであります。この点はまことに遺憾でありまして、われわれとしては北鮮帰還の問題は既定方針通り進めて参ってきておるのであります。それらの点につきまして、十分理解を求め、また国際司法裁判所に提訴すべき問題ではないという説明をいたしまして、韓国側にその了解を求めたわけであります。  今日韓国側におきましても、さらに会談を続行する気持になってきておりますので、われわれといたしましては、困難な交渉であり、また忍耐強くこれをやって参らなければなりませんけれども、何としてもかつてわれわれと俗に言う同じ一つかまの飯を食った間柄でありますから、できるだけ円満に、できるだけ理解の上に立って、一日も早く交渉を妥結するように持っていきたいつもりで、われわれとしては考えを練りながらただいま善処しておるような状況でございます。
  25. 周東英雄

    周東委員 私は外務大臣のただいまのお話はよくわかるのですが、もう少し交渉の形式なり方式なりを変えなければならぬのではないか。あるいはこちらからも政治的に、政党からでも代表を送って、もっと別の観点から折衝するとか、これはあくまでも外務省と密接な連係の上にでありますが、やる必要はないのか。ただ今まではともすると外務省が一本に表から出ているが、裏で別個な動きが出てくるというようなところに、統一ある形がとれないところに、いろいろな問題があるのではないかと思います。こういう点について、重ねて深甚な御研究を願って、すみやかに解決の方向へ向かっていくように努力を希望いたしておきまして、私のこの問題の質問を終わります。
  26. 小川半次

    小川委員長 周東君、外務大臣は委員会にさらに残ってもいいことになりましたから、どうぞ。
  27. 周東英雄

    周東委員 次には治安問題について、総理並びに法務大臣にお尋ねをいたします。  今日非常に目に余るものは、組織された国家社会において、法を無視して社会全体を傷つけたり、善良な国民の自由と権利が侵害されるような行為がひんぴんとして起こっております。このことは戦後において、民主主義という名のもとに隠れて、個の尊重が行き過ぎて、個人はいかなることをやっても、これは法の外にあるがごとき取り扱いがされて、ますます彼らをして不覊奔放な行動に出でしめたのではないかと思うのであります。なるほど日本戦争に負ける以前の日本状態においては、あまりにも個というものが尊重せられなかった。極端なことでよく言われますが、軍部の状態から言えば、一銭五厘のはがきで人間なら済むけれども、馬の方がとても大切で、なかなか大へんだというようなことを言われたようなこともあります。こういう個人軽視というものは、日本の実にむずかしい問題の発生の原因をなしたとも思うのであります。しかし戦後においては反対に個の権利を主張するの余り、個の尊重される余り、集団的に組織ある社会ができておる、その社会の利益というものはむしろ無視される形である、その結果は善良な国民が非常な迷惑をこうむる、これをある程度社会から隔離しようとすれば、弾圧である、民主主義に反するという名のもとにこれがまた放置される、集団暴力によってそれがやられるということは、いやしくも国家というものが全体の国民のために治安を維持していくという責任のある以上は、そういうふうな問題については十分な考慮をめぐらし、考えなければいけない、一面において善良な国民を善導していくかわりには、あくまでも社会秩序を破壊して他人に迷惑をかけるというようなものは隔離していくということが私は必要だと思うのでありますが、こういう点においてどういうお考えをお持ちになるか、まず総理大臣の御見解を承りたい。
  28. 岸信介

    岸国務大臣 民主政治を完成するために、個人の人権とその自由が尊重されなければならぬことは、言うを待たないのでありまして、これが不当に侵害されるということは、あくまでもこれを擁護していかなければなりません。しかし個人の自由を主張する者は、やはり他人の自由も認めなければなりません。個人の人格の尊厳を主張する者は、他人の人格の尊厳も尊重するというところに真の民主政治というもの、民主主義というものは成り立つものだと思います。従って憲法の、いわゆる人権を擁護する規定におきましても、この憲法全体を見ましても、やはり社会の福祉と公共の福祉というものは常に念頭に置いて考えられなければならぬ。われわれ多数の国民がこうした平和な安全な生活をし、おのおのの業務に励んでその生活を豊かにし、向上せしめるというためには、やはりここには個人の自由であるとか個人の尊厳というものが他人との関係においてある種の制約を受けるということは、これは私は当然なことだと思います。これをあるいは集団的な行動により、あるいは暴力行為によって他人の平和な生活や自由や人権をじゅうりんするような事態は、政府としてこれを取り締っていかなければならぬことはこれは当然であります。われわれが民主政治の前提として法秩序の維持ということを強く言うておりますのは、この意味であります。従って最近におけるところのいろいろな事態を見ますと、その背後におけるいろいろなそういうものを作り出しておる環境もわれわれは見のがしてはなりません。そういう環境を改善していくことを考えると同時に、行き過ぎた行為に対しましては、やはり法秩序の維持の観点から、これに対して、その行き過ぎたものに対する処置を考えていくということが治安の意味から当然であり、これは国全体が住みいいところであり、国全体の国民がその生活を楽しみ、平和になっていくという意味から申しまして当然のことである、かように思っております。
  29. 周東英雄

    周東委員 私は当然かくあるべきだと思います。私どもは、敗戦以後における社会状態というものは、思想的にも混迷をいたしました。その間に乗じて、いろいろな内部的撹乱が行なわれたことも事実であります。その撹乱があったことにやや遠慮した形になっておるのが現在の状態ではないか。私は、今日の事態において、経済が復興して国民の生活がだんだんとよくなってきておるときに、この治安上の問題において思想上の問題において、日本は再び昔の国家というものを守るということ、決して、それは封建的な考え侵略的な行為をやれとか、あるいは軍部がかつてやったような侵略をやれというのではなくても、日本の国というものを育て繁栄させる、日本の国家というものを愛するという正しい愛国心というものは必要だと思う。その意味からいったら、間違った形で社会組織を破壊する行動、他人に迷惑を与えてやられる集団行動というようなものは、私は、もう少しはっきりした信念を持って取り締りをやる必要があるのじゃないか。もとより、そういうことに対する、やる反面においては、ただいま総理お話しになったような、積極的に社会保障制度あるいは社会の人が暮らしよくなるための所得倍増その他の計画をあわせ行なわなければならぬということは当然でありますけれども、何としても恣意的に、そういうことを聞かずして革命的行動に走ろうとする者に対しては、はっきりした態度をとっていくことが私は今日の急務ではないかと思う。これは信念を持ってやることが必要だと思うのですが、総理はどのようにお考えであるか。
  30. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどお答えを申し上げました通り、私は、多数の国民の福祉とその生活の向上、またわれわれが国をなして、国全体として繁栄していき、国全体を構成しておる人々が、いずれもその立場が尊重されていくように治安の維持に努めなければならぬ。これがためには、現在の国際情勢から見ますると、いろいろな国際共産主義の動きもございますし、またいろいろな誤った指導者の指導もございますし、また国民全体がそういうことに対しての認識を十分に持たない点もございますし、あらゆる面から、私は、この治安の維持に対しましては、お話通り強い信念を持って、あくまでもこれが維持に努力をしていきたい、かように思っております。
  31. 周東英雄

    周東委員 もう一点法務大臣にお伺いしますが、ただいまのことと関連して嘆かわしい状態は、最近における法廷闘争であります。裁判というものはほんとうに三権分立という立場においてできておる。そうして何人の容喙も許さず、厳正公正な、神聖な判断をなすべき裁判所において、この裁判を歪曲さえさせるような集団的な威嚇行為が行なわれておる。あるいはまた裁判所において法廷闘争と称して、ささいな裁判官の言動をとらえてもまず、まれには出廷拒否をやるというようなことで、はたして神聖な公平、中正な裁判ができるかどうか。裁判というものは、民主主義国家においては正しい立場に立って裁判をするという立場であります。これが集団の暴力に威嚇され威圧されて不公正な裁判が行なわれるということになれば、これでは法治国も何もないと思う。こういう問題について、私は、やはり、間違った行き方ではいけませんが、信念を持って、正しい方向に裁判所のあり方を考えていくことが必要だと思いますが、法務大臣の御所見を伺います。
  32. 井野碩哉

    ○井野国務大臣 最近法廷内において、今周東委員が言われますような事態が頻発しておりますことは、まことに遺憾に存じております。法廷内の警察権につきましては、裁判所法で裁判長が持っておりますし、また裁判所法七十三条で審判妨害罪もございますし、また法廷等の秩序維持に関する法律もありまして、裁判長がすべての責任を持って法廷内の秩序を維持しなければならぬ立場にありますが、今日までそれがとかく実行されておりませんことは私ども遺憾に存じております。これに関しましては最近田中最高裁長官が非常に憂慮されまして、裁判長の会同をしばしば開催して、この点を裁判長は厳に一つしっかりやっていけという訓示をいたしておりまして、各裁判長もその気持で今後は臨んでいかれると思いますので、その推移によってまたわれわれも善処して参りたいと思います。ただ、裁判所外のデモ等につきましては今日まで法規を欠いております。これは情勢の推移によりまして、必要があれば政府としてもその規制法についても考えていかなければならぬ。これは外国の立法例もございますので、今十分研究をいたしておる次第でございます。
  33. 周東英雄

    周東委員 次に、私は、経済問題について二、三の点についてお伺いをいたしたい。特に大蔵大臣、通産大臣、農林大臣にお伺いをいたしたい。  そのまず第一点は貿易自由化及びこれに対する処置という問題であります。ただ、私は、最初にお伺いしたいことは、今日貿易為替の自由化というものがかなり叫ばれてきておる。何だかあすの日からでも関税が撤廃され、安い物がどんどん入ってきて、日本の弱い立場にある中小企業者あるいは農業というものが押しつぶされはしないかという不安感を伴っておるようでありますが、私は、おそらくそういうことでなくて、最初起こったことは従来の保護、温存されてきた管理貿易のもとに割当輸入等をやっているものを自由にするということがまず問題であったと思う。もとより、その背後においては昔のような形に貿易を自由化するということは当然出て参りますが、その自由化が冒頭申し上げましたような形において、今日早急の間にいろいろな問題を起こすことにはならぬのじゃないかと思うのですが、その意味において、貿易自由化の持つ意義と申しますか範囲と申しますか、その実施の時期というようなものをいかにお考えになっておるか、まずお伺いをいたしたいのでありますが、これは通産大臣にお伺いをいたしたい。
  34. 池田勇人

    ○池田国務大臣 貿易為替の自由化は、わが国の経済に課せられた大きい問題でございます。世界情勢にかんがみまして、また日本の経済の基盤を強化し、この上とも貿易を拡大して、経済の上昇を保つというためには、どうしても越えていかなければならぬ関所だと考えております。しかし、多年にわたって貿易管理、為替管理によりまして立てられた日本の産業組織を一挙に変えていくということはなかなか困難であります。従いまして各業種、各品目につきまして影響の少ないものについて、しかも、またその対策を講じながら、やっていく考えでございます。今輸入総額三十一億ドルのうちですでに自由化いたしておりますのが大体十億近くあるのであります。三割二、二分でございます。しこうして、あとの六、七割のうち対ドル地域に対しましてのみ——他のいわゆるスターリング地域につきましては自由にいたしておりますが、対ドル地域に対して特に管理をいたしておりまする十品目、たとえば銑鉄、大豆あるいはラワン、アバカ、石こう、銅合金、牛脂、牛皮等につきましては実態を見ながら徐々に変えていくことにいたしております。御承知通り今年の一月から銅合金、ラワン、アバカ、石こうの一部については自由化したのであります。四月からは牛脂あるいは鉄くずにつきまして自由化していく。そうして最も困難な銑鉄、大豆、牛皮につきましては大体十月を目途といたしておりますが、ことに大豆につきましてはよほど善後策を講じなければなりませんので、今これに対しての検討を加えておるのであります。これをいたしますると、大体輸入総額の一〇%余りをあれしますので、本年内には四十数%の自由化ができると思います。  自由化のうち一番大きい問題は、繊維原料でございます。原綿、原毛、これは輸入額の大体二割を占めております。しかも関係産業が非常に多いのでございます。従いまして、業界の実情、また業界人の意見を十分聞きまして、昨年の暮れ、昭和三十六年四月より実施することにいたしておるのでございます。この繊維関係は、わが国の最も重要な産業であり、輸出産業でございます。また原料がほとんど全部外国から来ております。また最近起こっておりまする合成繊維、化学繊維等の関係もございますので、この間の調整、その他設備につきましてのいろいろな方法を講じまして、来年の四月から自由化に移りたい。こうやって参りますると、大体来年の四月以降、おもなる輸入原料で残るものは、石炭と石油と砂糖がおもなるものでございます。大体三十六年の四月からは、原材料につきまして六割五、六分。しこうして、またその間におきまして、機械とかあるいはいわゆる消費財、この消費財につきましても、随時業界の事情を見ながら、これを自由化していこう。昨年の秋以来、数百品目につきまして自由化していっておるのであります。国内の産業、ことに中小企業に対しまする影響を極力少なくしながら、随時やっていく考えでおるのであります。
  35. 周東英雄

    周東委員 私はただいま通産大臣のお話しになったようなこと、これは政府は時期を考え国民に明示する必要がある。それでないと、とにかく今日は、いかにも自由化によってわが国産業には非常な影響が来てというような気持がみなぎっておる。またそういうふうな形に投じたということもある。おそらく私は、わが党の内閣として自由化というものは、今日世界の大きな要望であり、それをやることが日本のある面においては経済発展に必要なんだ。しかし、それには、品目別に、あるいはそれぞれこれをやるについて必要な処置を政府もとる、こういう措置をとるのだということの明示をして、各業界を安心させることが私は必要じゃないかと思う。ただいまも一部の御意見の発表がありましたが、私はこれをぜひやっていただきたい。ことに私はどうしてもやっていかなければならぬということ、自由化をやっていくについて時期的にあるいは準備をしなければならぬ問題は、まず一つは資金の問題、あるいは体質改善をやる場合における日本国内における関係業界の体質改善ということが必要であり、また外国との競争力を強くすることからいえば、金利の低下という問題も必要になってくるし、またよくいわれるように——資本構成というものを改善をするということを、大蔵大臣は施政方針演説の中に言っておられた。資本構造、これはおそらく自己資本を充実して、他人資本を変えるということだと思いますが、こういう問題についても、おそらく実際問題として遂行するについては、増資または配当等に関する減税措置の問題ということ、これは積極的に考えなければならぬ問題であると思う。また償却の期間を繰り上げて、早くして、これによって将来に対処する、こういうことは積極的にやっていかなければならぬ問題であると思う。また通産大臣にお願いしたいことは、やはりこの体質改善と必然的に関連してくる問題においては、合理化の問題がある。これをやるについては、ことに中小企業等の設備の近代化、合理化ということに対して、ことしは、ある程度わが党の政府の政策として、党の政策をお入れになって、相当に大きな合理化、近代化の資金がふえました。大体三億五千万円。ところが、これはおそらく予算の折衝、編成の以後に起こった問題であります。こういう問題については積極的に、将来いかにして近代化、合理化についてやるかというようなことについて、もっと私は親切に明示して方針を示すことが必要だと思う。そういう点について、まず大蔵大臣の御所見を伺いたいのであります。
  36. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 ただいまお尋ねの貿易の自由化、同時にこれと関連しまして為替の自由化、これは大へんな大きな問題でございます。一昨年欧州共同市場が発足いたしまして、まず為替の面において交換性を回復した、こういう事態が起こりました。昨年一年間は、この欧州共同体の経済発展、ことに通貨の交換性を回復する、こういう点についていろいろ準備を続けて参ったわけであります。大体昨年一年の経過によりまして、国内経済においてもまた国際的にも、為替貿易の自由化の方向に強く発展していくという、いわゆる国際的潮流がはっきりして参りました。わが国におきましても、これにおくれをとらないように諸準備を進める。そこで、この一月の初めになりまして、経済企画庁を中心にして、関係閣僚で、貿易の自由化の促進閣僚懇談会を持つことになりまして、そうして、この懇談会を通じて、各種の計画を発表していく。その発表の計画のうちには、ただいま通産大臣から御説明いたしましたような、通産関係物資を主体としての貿易の面についての自由化の方向の大体のスケジュールを一応立てております。ところで、為替の方の自由化はややおくれておりますが、さきにドル為替の導入、これをいたしましたものの、円為替の導入という点になりますと、なお相当の準備を必要とするのであります。  ところで、この為替の問題もさることですが、貿易を自由化した場合の国内産業に及ぼす影響、これが、原材料であるというだけでございますが、この扱い方がもし間違うと、弱肉強食というような結果にもなって参るでございましょう。従いまして、受け入れ態勢を十分整備しなければならぬ。そういう意味において、業界の自主的調整の方法考えて参りたいと考えております。同時にまた、在来の為替管理の方式から、これが自由になる、割当がなくなる、こういう意味から、いろいろただいま申したような、業界自身に混乱を来たさないようにすることが一つ、同時にまた、事業自身を強化して、国際競争に負けないようにする、こういう面においては、御指摘の資金の面であるとか、あるいは関税政策の面であるとか、あるいは国内税制面等についても、十分事業自身を強化する方策をとっていくということを考えておるわけであります。  ところで、この貿易の自由化をいたします場合に、各品種別にそれぞれの影響度が違っております。また関係する範囲も違っております。従いまして、一口に自由化とは申しますが、それぞれのケースに対応して処置をしていかなければならない。先ほど通産大臣がお話しになりましたように、原綿、原毛ということになれば、わが国の繊維関係は、これは大へんな問題だし、さらに合成繊維、化繊の非常に発達しておる今日から見ますると、原綿、原毛の自由化をはかった場合に化繊その他がどうなるか。しかもこの繊維関係と申しましても、大企業、中小企業、綿紡と織機関係をいかにするか、こういうような問題も十分考えなければならないし、また原皮という皮の問題にいたしましても、わが国の皮の扱い業者が非常に小さいというようなことを考えると、これの自由化については、特段の措置考えていかなければならない。こういうように非常に範囲が広いのです。先ほどお話のありました大豆なども、ドル地域以外においてはもうすでに自由化になっておりますが、ドル地域の大豆が自由に入ってくるということになれば、国内産大豆との関係、ただ生産者ばかりの問題ではない、大豆を原料にして二次製品をやっておるもの、それらについてどういう影響があるか、それぞれ考えていかなければならないということで、これは自由化については、一応の目標を作りまして、そしてその目標に合わして諸準備を進めていく、こういうことで政府も非常に本腰を入れて対策を作る。そうしてその目標達成に最善の努力を払う、こういうような考え方でございます。
  37. 周東英雄

    周東委員 私はそういう計画でなくてはならぬと思うのであります。ことに総理の御主張でありまする所得倍増、総生産を倍化する、三倍化するというような問題なり、あるいは今日農林漁業基本問題調査会において研さんを進められておる農林漁業の総生産の増大をはかるということ、農林漁業と他産業との生産の不均衡あるいは収入の不均衡というものを是正する、こういう大きな二つの問題は互いに相関連するものであります。こういう問題を片一方にひっかかえながら、もし自由化等に対する処置を、準備をなさらずしてやってくれば、その方面の計画がくずれてしまう。農林漁業に関する、ことに農業に関する保護政策というものが将来やめられるのかということで、今日農業界が不安にかられておる。おそらくそういうことはない、それぞれの処置をとられるのだと言っておりますが、そういうふうなことを私は総合的に考えて、一面自由化がいいからどんどんやる、片一方で所得倍増で大いに国内産業を振興させる、農業も大いにやると言ってみても、その別の方面からくずれるというような総合性がなくなっては困ると思うのであります。ただいまのような一、二の例でお話しになったと思いますが、私も時間があれば個別的にお尋ねをいたしますが、時間がないからこの辺で省略いたしますけれども、ただ最後に農林大臣から、農業界等に心配のないように御答弁を願いたい点は、二月九日からジュネーブにおいて始められると思いまする各国の農業生産の検討であります。これはガットの第二委員会でやっておるわけと思います。これなんかは為替自由化の波に乗って各国の農業政策を検討して、保護政策をやめさせるというようなことにもなるのじゃないか、そういう点が不安にかられている点であります。私は常に今日自由化が叫ばれておるにかかわらず、欧州においては共同市場の関係する各国、また新たに発足せんとしておる自由貿易連合の問題、これなんかむしろその関係国内部においては、生産性の向上もある種の強い連合ができて、この経済ブロック内においては、ほんとうにお互いの利益のある一つの貿易交渉をやり、外に向かって自由化を強制するということになれば、なかなかむずかしい問題が出ると思う。こういう点なんかを考えたときに、やはりただいま蔵相のお話しになるように、おそらくは農業に関しても現在研究しつつある農業問題の発展のためにも、いろいろ施策は考えられておると思う。ただ無計画に自由化だけを推進して、農業に影響を与えることはしないのだ、こういうふうなことだと思いますが、農林大臣の口からはっきりとその点を御説明を願っておきたい。
  38. 福田赳夫

    福田国務大臣 お答えいたします。お話のように、ただいまジュネーブにおきましてガットの第二小委員会が開かれまして、各国における農業貿易、農業生産品の貿易につきまして、その障害事項につきましてそれぞれの国から報告を求めておる、こういうことでございます。これは主として農業生産をする後進国におきまして、どうも関税の引き下げというガットの主要目的だけではその効果を発生いたさない、こういうことから関税以外に、関税をもぐって、何か関税は引き下げてもそれにかわる障害を置いている事情はないか、こういうことを検討しようというので逐次報告を求めておる、こういうことでございますが、わが国におきましては委員を派遣いたしまして、ただいま説明に当たらせようといたしておる段階であります。しかし各国におきまして、農業生産物につきましてはどこでも保護政策をとっております。自由化といいますが、決して手ぶらな自由化はいたさないのであります。政府といたしましても、たとえば米麦のような重要な生産物につきまして、これを自由化するような考えは持っておりません。またこれから大いに伸ばしていこう、所得倍増とも関係のあります酪農製品につきましても、かたくこの自由化という線ではいかぬという方針をとっております。しかし自由化が与える影響について考えてみますると、自由化のために、たとえば農具が自由化されたといえば、農具の価格が下がるという傾向を持ちますので、これは非常にいい傾向を持つのです。ところが国内で生産される農産物と競合するような関係が起こってくる。たとえば大豆のごときはその例でございますが、こういうものにつきましては、政府において今までの農家の所得を維持するように価格支持政策を活用いたしまして、これを買い上げるというような考え方をとりますとか、あるいは一月からマニラ麻の自由化をいたしましたが、これなども政府が補助金を出しましてその生産性を高めるとか、あるいは印刷局においてこれを買い上げるとか、対策を万々尽くしまして、いささかも農家に不安がない、こういうような状態において初めてこれを採用する、かような考えを持っておる次第であります。
  39. 周東英雄

    周東委員 どうか自由化に関しては、国民に安心を与えるように、順序、方法、時期というものを明示され、やることはわが国の経済発展のために必要でありますから、やらねばならぬことにつきましては、これに対応する資金の面、あるいは法制、税制の面、あるいは共同購入に対する処置をどうするかというような、あらゆる必要な考慮は十分お考えになってやるということを早く発表していただきたいと思います。  時間がございませんから、これはこれで略しまして、対外経済協力に関して一つ総理の御構想をこの際この席を通じて発表していただきたい。わが国の将来における経済発展の基礎を形づくるのが——貿易市場の確保と日本の計画されておる産業経済の発展を目途としておるその産業経済における原材料資材の確保というものをはっきりつかむということが、今後の日本経済の重要な点だと思います。その意味においては、今日世界各国において新しい市場、新しい原材料確保の場所として後進地域の開発というものを一様に目途として進んでおることは総理の仰せの通りであります。わが国といたしましても、その意味においてこのたびかねがねの主張をお入れになりまして、経済開発協力基金というものを政府において設けられて、その一本に積極的前進の形をとられたことは私は非常に喜びにたえませんし、敬意を表する次第であります。ただしかし世界各国がその後進地域に目をつけて、この地域を確保することが各国における一つの将来の産業発展の基盤を作るものとして動いているために、かなり大きくこれについて共産圏はもとよりのこと、ヨーロッパ関係においても動いて参ると思います。その際に、実は今年は大蔵大臣もなけなしの中からずいぶん苦労されたようでありますが、やむを得ず五十億ということでありますが、これはなかなか五十億で経済開発協力をするといっても、どうも少し小さ過ぎるのじゃないかと思います。もとよりこのたび第二世銀というものができて、その方にも三千三百何万ドルの出資をなさいます。第二世銀の計画というものが第一世銀でやられなかった後進国開発ということに対してもう少し条件を緩和した形において出そうという計画でありますから、この方面とも密接な連絡をとりつつやるということはもとよりのことであります。必要でありますが、国内としてもせっかく首相の構想でできたこの五十億、これをただ少ないからばらばらに使うというのじゃありませんが、これに対して、もう少し積極的に資金的な面について御構想を将来拡張していただきたい。せめて一億ドル、三百六十億円ぐらいまでは出てくるような方向に持っていくことが必要ではないか。こういうことが、経済開発協力に対して必要な、後進国を開発するにも絶対必要なことであり、はね返りは日本の経済発展のために必要なんじゃないか、かように考えますが、御所見を伺います。
  40. 岸信介

    岸国務大臣 後進国、低開発国の経済の開発に先進工業国が力を合わせて協力するという世界の動きは、言うまでもなく、最近各地において——特に戦争独立した国々がたくさんありますが、それらの国における民族の生活の水準は必ずしも高くないし、経済がそういうふうに繁栄しておらない、独立を裏づけるに必要なような経済基盤ができていないために、いろいろな政治不安も起こってき、社会的な不安も起こっておるというような状況は、これは世界の平和の上からも望ましくないことであります。従って、先進工業国は協力して開発をしようじゃないかということが、世界の一つの流れとして起こっておるのでありまして、日本もそれにあらゆる面において協力をしたいと思います。それは、これらの地域がそういうふうにして経済基盤も固まり、繁栄するということが、大きく見てそれらの地域の繁栄と、それを通じて世界の平和に貢献するゆえんでありますが、同時に、日本立場から考えてみましても、われわれはどうしても貿易を拡大していかなければならぬ、経済を成長せしめていかなければならないという見地から、貿易の拡大、経済の成長ということから見ますと、御指摘になりましたような原料をできるだけ豊富に取得して、これを原料として日本の経済を発展させ、またでき上がった製品を広く海外市場に売って、そうして日本の貿易を拡大していくということでありますから、この後進国の経済開発に協力するということは、世界全体の問題として、それぞれの国々にとって私は全く望ましいことであると思います。従って、従来から海外経済協力について私が常に強力に主張しておったのでございますが、今回の予算において、御指摘のように、もちろん十分ではありません。五十億の基金を設けて、これを運用して後進国の経済開発に協力しようということになったわけであります。もちろん日本としてはこれだけじゃなしに、今御指摘のありましたような第二世銀の問題、第一世銀も従来から参加しておりました。またコロンボ・プランにも参加をいたしておりますし、また国連における基金に対しましてもわれわれが協力しておる。いろいろな点において協力をいたしておりますが、私は現在の世界情勢から見、また日本経済の将来を考えまして、後開発地域に対する経済協力は今後一そう積極的に進めていきたい。すでに五十億の何はしておりますが、これは将来拡大していく必要のあることはもちろんであります。また、経済のいろいろな日本の計画を立てる上におきましても、海外経済協力という項目を取り上げて、将来計画を立てていくということが必要である、かように思っております。
  41. 周東英雄

    周東委員 ぜひさようにお取り計らいを願いたいと思いますが、それにつけても、経済協力に関しましては、これほど大きな世界的の問題になっております。日本としては、どうしても後進地域の開発をして、これらの後進地域の国民の生活水準を高め、これらを幸福にするということの意味を持ちつつ、日本の経済発展に資することが必要でありますが、それについても、私は政府が大きく後進国開発計画についてのプロジェクトをよく調査の上、総合的な計画を立てて進むことが必要ではないかと思うのであります。従来往々にして後進国開発と申しましても、やれインドにおいてこういうことがある、インドネシアにおいてこういうことがある、中南米もやらなくちゃならぬ、アフリカもやらなくちゃならぬというようなことが、民間のばらばらの動きによってばらばらに政府に要求してこられるということがありますが、今後総理がこれを大きくとらえて、大きく踏み出す以上は、やはりそういう点については、民間の意見は十分に聞きつつ、そのプロジェクトをどこでどういうふうに取り上げるか。日本としてはなけなしの金を出して——これはこれからふやしても、大きく動くことは、国内の問題もありますので、なかなか困難でありますが、少なくもその金を有効に活用するためには、どのような面について、どの資源については協力し、ある資源についてはどの国に持っていく、こういうようなことまで総合的な見地に立った一つの計画を立てて進まれるような方向に持っていくことが必要であろうかと思うのであります。そういたしませんと、ただいたずらに計画についての競争ということになりますとよくないと思うのであります。ほんとうに、真に有効に活用するにおいては、そういう体のことをこれから進めていくことが必要でありますし、また、その意味においては、ある意味ではアメリカその他ともよく連絡して、そうして日本の受け持つべき分と他の国の受け持つ分との事柄まで話がつくということが必要であって、そういうことなくして、いたずらに裏から国際競争をやられて、日本がみじめな目にあうということも考えなければならぬと思いますが、そういう総合的な計画を立てることについて、私は総理の積極的なお考えを聞きたいと思います。
  42. 岸信介

    岸国務大臣 経済協力について総合性を持たなければならぬということは、御指摘通りであります。今回の基金の運営に関しましても、総理大臣のもとに海外経済協力審議会を設けて、審議会の議を経てこれをやっていくというふうに進めて参りたいと思います。  大体これらの後進国におきましては、御承知のように、それぞれの国において自分の国の経済開発についての長期計画を持っているのが普通でございます。また、これは言うまでもなく、各国が自主的に立てた計画の一部分に対してわれわれが協力するという問題でありますから、われわれが計画を立ててこれを押しつける性質のものでないことは言うを待たないのであります。それぞれその後進国の希望もありますし、また、実際のその計画の樹立を見ますと、やはり計画樹立の道程、過程においても、われわれがある程度連絡を得、情報を持ちつつ、また、われわれの経験や知識をある程度において反映せしめて、計画を十分なもの、完全なものにせしめるということが適当であるというような場合も少なくないと思います。そういう意味において、在外公館においては常にその国の政府筋との間の連絡を密にいたしまして、そうしてわれわれの総合性を持った計画なり、遂行を円滑にするようにしたいと思います。ややともすると、各国間の競争もありますし、また、従来の例でみますと、日本の中における民間同士の各企業の競争のために、かえって適当な時期と方策を失うというような場合もないわけではございませんから、そういうようなことについては十分意を用いて、これが有効に運用されるように努めていきたい、かように思っております。
  43. 周東英雄

    周東委員 時間がございませんので、その辺にいたしまして、次に、教育問題について、総理並びに文部大臣の御所見を伺いたいと思います。  総理は、施政方針演説の中におきましても、「文教の振興は、わが国が世界の進運に伍して将来の繁栄を確保するための根本であります。」とお述べになっております。当然のことでありまして、ぜひそうなくてはならぬと思います。ところが、それに関しましてお述べになっておるすし詰め教室の解消のために文教施設を整備し、あるいは教員定数を充実させるというようなこともとより今日必要でありますが、総理が別の機会にお話しになっているように、今後における教育の根本の問題として、基礎的な力をつけるということが必要であろう、こういうことをお話しになっておる。私は、この点について、総理にまずお伺いしたいことは、日本の優秀な国民性から見まして、やむを得ずして改革されたのでありますが、いわゆる六・三・三制の制度は、必ずしも日本国民の力をつけ、知識を高める内容ではなかったと思うのであります。今日の六・三・三制の三という中学は、昔の高等小学校の程度であります。今日の三の高等学校はもとの中学五年の制度における内容よりもはるかに劣るものであります。そうして四年の大学の課程は、かつての高等学校よりも程度がやや毛のはえたくらいなものでありまして、こういう点からみると、教えれば、鍛えればりっぱになり得る日本国民に対して、むしろ知識を下げるような方向じゃなかったかと思うのであります。しかしながら、今直ちにこの六・三・三制を改正なさるかどうか、せよという意味ではありませんが、私は日本の将来のために、この制度についてそろそろ改正するとかせぬとかいう問題でなくて、その問題を再検討する時期ではなかろうか。もとより朝令暮改をされるということは、子供が一番かわいそうであります。よく検討の上立ち上がらなければならないのですが、かくのごとき六・三・三制の内容について、長所ももちろんございますが、長所は生かしつつ、その知識低下の関係になっておるような内容のこの制度について再検討を加える御意思はないのでしょうか、いかがでしょうか、お伺いします。
  44. 岸信介

    岸国務大臣 教育制度の根本の問題は、これは非常な重大な問題だと私は思います。どこの国を見ましても、そういう根本の制度というものは、やはりその民族とその国の長い間の歴史というものが根底をなしておるのであります。しかし六・三・三制、これはほとんど革命的に戦後行なわれたものでありまして、またこれが日本の国情にも合わない点があったことも事実であります。私は、しかしながら、最近やはりこの制度がある程度だんだんなれてきておる点もあると思います。従って、また再びこういう問題を軽々に変更するというようなことは、これはよほど注意をしなければならぬ。ただ、言うまでもなく、この教育の問題におきまして、一番大事なことは、義務教育の課程において、国民全体が、やはり国際の進運に伍して活動できるにふさわしいような基礎的な学力を持つということ、また大学やその他専門学校、上の制度におきまして、それぞれ専門的な研究をし、高い学問のレベルを維持して、そうして日本の文化を高め、世界の文化の向上に協力する。こういうことでありまして、現在の六・三・三制のもとにおいて、われわれはいかにして、今申し上げましたような基礎的な一般の国民の学力を高めることが可能であるか。それが絶対に不可能であるということならば、これは制度の問題にも立ち帰らなくてはならぬと思いますが、私はまだ戦後やられておることで足らないことが非常に多いと思う。この点においてこの基礎学力の向上についても、むしろ教育内容の刷新を考えなくてはならぬということを考えており、それから大学におけるところのこの問題につきましても、戦後に全国的に見て非常にたくさんの大学ができましたために、あるいは設備においても不完全なものがあり、教授陣の内容においてもはなはだ大学の名にふさわしからぬようなものもまだあったのであります。これらはやはり充実する方向に今後力を用いていかなければならぬ、かように今考えておりまして、とにかくこれにつきましては、文部省に置かれておる中央教育審議会でございますか、ああいう専門家の意見も十分聞き、各方面の意見も十分に聞いてこの問題を処理すべきものだ。ただ、そういう制度の問題に触れなくとも、現在申したような、あるいは基礎学力の充実であるとか、あるいは学問の最高研究の問題に関して施設なり内容を充実する問題であるとか、あるいは人間として最も大事な道徳教育の問題であるとかいうような問題は、この制度のもとにおいても、私はなお充実することができる問題である。これはぜひやりたい、かように思っております。
  45. 周東英雄

    周東委員 その点はわかりました。  次には、今日の学制というものが六・三・三制一本で進んでおります。その結果は、その制度の要求するところ、当然に各府県に大学昇格ができて、多数の大学ができておる。しかし、その内容はどうかというと、一般的な学問だけでありまして、実力がこれに伴わない。ことに今日の状態といたしまして、総理主張されているように、今後の日本として立っていく上において、実業教育、技術教育の普及ということが行なわれなければならぬ。その意味において、今度の予算におきましても、大学における技術教育に対する施設の補助とかその他はできておりますが、しかし一般的に六・三・三制一本によって出されておる。そうしてそのためにできておる各県の大学というものは、私は技術に関して必ずしもりっぱな教育ができておるとも思いません。むしろ今日はあなたの御主張のように、あるいは施政方針演説でもお触れになっておる実業教育、技術教育というものを徹底させる、またそれを就職戦線に送り出す場合において、実際に早く役に立つ実力ある人間、中堅の技術者を養成するということがむしろ必要じゃないのか、こういうように思います。そういうことを考えたときに、六・三・三制の根本の制度についてはまだ検討の時期早しといたしましても、もとの高等工業学校のような形において、あるいは高等学校二年ならば大学三年、高等学校三年ならば大学二年というような形における短期の工業大学のようなものを作るか、あるいは高等学校程度のものの専門学校を作るかいたしまして、もっと社会が中堅技術者を要求しておる、その声にこたえることが、日本の今後における経済の発展についても適当でないのか。総理が実業教育、技術教育の進展を考えておられる、その意味においては専門的な学校の設立ということに対して、学校教育法の改正をして、世間にいわれている、いわゆる複数制と申しますか、六・三・三制一本にあらずして、そういう形の専門学校を作る必要はないのか、これに対して御所見を伺いたいし、これに対して文部大臣にも伺いたいと思います。
  46. 松田竹千代

    ○松田国務大臣 お話のように、今日の日本の教育制度に基づいて教育するよりも、戦前の制度の方が、学力の点において、今日はむしろ劣っておるではないかということは、世間でもよくいわれることであります。しかし今日の六・三・三・四の制度については、日本にこれを持ってきたアメリカにおいても、古くから疑問を持っておったようなわけであります。ところが、六・三・三・四の制度がわが国においてはようやく落ちつきを見せてきておる程度でありまして、今日これに全面的に手を加え、改正を加えていくということは、きわめて慎重を要することと思います。そこでとりあえず社会の進運に即応して、まず教育の課程の内容に手を加え、そうして今日の時代の要求にマッチするように持っていきたい、かような考え方を持っておるわけであります。お話のように、今日中学校を卒業しただけで世の中に出ていく者もあるし、また高等学校を終えただけで社会に出ていく者も半数くらいある、こういう実情であります。それで一応完成した社会人としての準備ができておるかということについても考えさせられる面が多いのであります。そこでまずあえずお話のように、これを六・三・三・四をずっと一本でやらずに、中学校、むしろまた小学校の上級、それから高等学校というようなところでもって、これを今日の時代の要求しておる大幅な技術要員の必要性から考えてみて、技術課程を教育内容によけいに織り込むようにしてやっていきたい、こういうような考え方を持っておるわけであります。ですから、一本でなしに、やや先に進むに従って技術課程の科目を多くして、技術課程の要素を十分に織り込んでこの点を強化してやっていきたい、かような考え方を持っておるわけであります。なおお話の専科大学とでも申しますか、こういう点については、これまたしばしば論議された問題でありまして、産業界方面においても相当強い要求もあることであります。また大学関係の方面でも、今日は賛成しておる向きも多いのであります。しかしこういう制度は、現在は望ましい制度とは考えておりますけれども、なおいろいろ関連する面が相当多いのでございますので、今しばらく検討さしていただきたい、かように考えておるわけであります。
  47. 周東英雄

    周東委員 あまり時間がありませんので進みます。  次に、私は外国語教育の改善について総理あるいは文部大臣にお尋ねいたしたいと思います。  総理は、かねがね次代をになう青少年対策についてはいろいろの構想をお持ちになって、着々これを制度化し、予算化されていることにつきましては、非常に敬意を表するのであります。ことに三十四年から実施いたしました農村青少年の海外派遣ということ、これは人格、識見等の高い人を中心にいたしまして、百人これを東南アジア、アメリカ、ヨーロッパへ派遣して、見識を広め、国際人たるの素質を養成するとの趣旨のもとに行なわれました。これは非常な成功であります。今日、三十五年度におきましても、その意味においては多少ながら増加して継続することになっておることは喜びにたえないのであります。これに関連しまして私がお尋ねいたしたいことは、何といたしましても、今後の日本人は、もう少し視野の高い世界的な、言いかえれば、日本日本人ではなくて、世界日本人たる方向へ青少年を教育し、教養を高めていくことが必要だと思うのであります。その意味において、ただいまのような青年の海外派遣を計画されたことは当を得たものと考えております。が、私の今日考えますことは、英語教育であります。今日中学から英語を——外国語でもよろしいが、主として英語ですから私は英語と申しますが、英語の課程は中学から始まります。そしてホワット・イズ・ジスから始まって、主として本を読むことの勉強を始めます。しかし中学だけで終わる人間は全くあとになって忘れてしまいます。役に立たない。たまたま高等学校、大学へ進みます者は、その中でも卒業して本がりっぱに読めて外国語を勉強するのは一割にも足らぬ人間だと思う。そうして大部分は中学から始まって英語の試験の重荷に困って、これは悪ければ落第させられる。こういう負担の重いことをやっておいて、役に立たぬような英語教育をそのまま続けていくことはいいのか悪いのか、私は検討する必要があると思う。昔の日本は、勉強して英語というものが読めるという形を作っておくことによって、まあ本でも読めるかということでありまして、あまり外国へ行く人も少ないし、接触は少ないし、しゃべることの機会が少なかったと思うのであります。あるいは必要がなかったのかもしれない。しかしながらヨーロッパ各地におきましてもその地方におきましては、ぽっと出れば三十分でドイツに行く、一時間たてばフランスに行くという格好でありまして、大体おのおのの国人が各国の言葉が自由に話せる状態であります。今日世界の距離が狭まって、やがては本年中には、総理に今晩はサンフランシスコでごちそうしようかということで連れていってもらえるような近距離になってきておる。こういうふうな世界が近くなってきている状態においては、もっともっと日本人が外国語をしゃべる機会が多いのではないかと思う。また、しゃべることができることによって、あるいは経済交渉その他においても、あるいは日本の海外発展においても、非常な効果を上げるものと思うのでありますが、その意味において私は今後の英語教育を——やらぬのならいいです。やっても負担だけかけて役にも立たぬようなやり方をするよりは、中学時代から会話専門のしゃべることを中心として、試験なんかなくてもよろしい。一週間毎日会話の時間を設けてやるようなことをすれば、中学だけで終えても、三年だけやれば一通り会話ができるとすれば、新しい方面にその若い者が発展することもできますし、さらに高等学校、大学と進むにつれまして、海外に発展する人が、おのおのその言葉をもって安心をし自信を持って外に出ていくことができる。これが総理の言われる、青年に夢を持たせて、移民関係においても教養ある青年を海外に出そうとされることの裏づけにもなるし、また日本日本人でなくて世界日本人たる教養を与えるためにも言葉というものが一番大切だろうと思う。妙なことを申しますけれども、われわれお互いに文字を覚えてからしゃべったのじゃなくて、六つか七つまでは、文字は知らぬけれども「お父さん行ってらっしゃい」の言葉はしゃべってきた。だからむしろ私どもは今日の段階において、会話を主とした英語教育に改善していくことが必要であろうと思うのですが、いかがでございましょうか。ただしそれは私がそう言ったからといって、あしたから一ぺんにやるわけにはいかぬ。教える先生がいないのですから、三年計画もしくは五カ年計画をもって、会話のりっぱにできる日本人を養成するなり、そういう方向へ持っていくことの計画を今から進めるべきではなかろうか、かように私は思うのでありますが、総理の御所見を伺いたい。
  48. 岸信介

    岸国務大臣 日本民族の活動の場面は、ただ単にこの四つの島だけに限られておるのではなしに全世界である、こういう意味で、若い世代の人々が国際的視野で考え、また教養を身につけるようにすることが必要である、かように考えまして、その一助として海外派遣の青年のこともやっておりますが、その他教育の内容におきましても特にそういう点を注意しなければならぬと私は考えております。  語学の問題についての御質問でありましたが、そのことについては現文部大臣は身をもっていろいろの体験を持っておりますので、文部大臣からお答えさせることにいたします。
  49. 松田竹千代

    ○松田国務大臣 お話のように世界のスピード化から世界が小さくなって、世界中の人種がきわめてひんぱんに往来するようになった。そういう時代において語学の必要なことは言うまでもないのでありますが、現にフォード財団あたりにおいて今日は世界の数ヵ国語を話す人材を要求している切なるものがある。だからこれに応じて、できるならば、東京においても世界国際語大学を作りたいというような話も持ってきておるわけであります。わが国においては、長期にわたって外国語を、主として英語を相当に力を入れて教えて参ったのでありまするが、その結果は、必ずしも活用という面においては遺憾な点が多い。そこでどうしてももう少し役に立つ、実際的な語学を修得せしめなければならぬということが非常にやかましくなって参っております。文部省におきましても、特にこの点に留意いたしまして、専門家、学識経験の深い人々等によって協議会を開きまして、特に英語の教育の方法について至急に検討して参りたい、かように考えておるわけであります。まあ現実の話をすれば、オリンピックもくることであり、この点だけを考えてみても、その接受にも役に立つような人を養成していかなければならぬのじゃないか、こういうようなことも考えておるわけであります。従来の英語の教え方というものは、主としてヴィジュアル、目からくるやつ、これはどうしてもフォウネティックでなくてはいかぬというような説が強いわけでありまして、これはその通りなんです。そうでなければナチュラルな言葉はできない、こういうわけでありますので、特に急速にこの方面に力を入れて、そうして教育、語学の教授の方法を検討して参りたい、かように考えておる次第であります。
  50. 周東英雄

    周東委員 だいぶ文部大臣は賛成のようでありまして総理のおっしゃるように、あなたは自由に英語がしゃべれるようでありますが、どうか、今オリンピックがやられるので、そのときに役に立つ人間、しゃべれる人間、ガイドのための養成というような問題でなくて、私の言ったのは、結局日本の青少年を、あの試験地獄、英語の試験地獄で苦しめておいて、あとで役に立たぬようなことをやるよりは、会話を主とした英語教育の改善に乗り出してもらう意思があるかどうか、またそれについては、あしたからすぐというわけにいかないのだから、直ちに調査会でもこしらえて、あるいは外国語の会話のできる、発音の正しい先生を養成する方法について、三年計画等で考える必要はないか、こういうことでございますので、それについての御所見を重ねてお伺いをいたしたい。
  51. 松田竹千代

    ○松田国務大臣 オリンピックの話をいたしましたのも、これは一例として申し上げました。むろん語学の十分な修得は望ましい、会話のお話もありますが、これは実用的な点から言ってきわめて必要でありまするけれども、今日の世界の縮図されたというお話、また世界が一つであるという考え方から、いやしくも外国語を完全に修得することは、ただに視野を広めるばかりでなく、むしろ別世界を取り入れるというようなことまで言われるのでありまするから、十分お話の点は注意をいたしまして、青年に、外国語を通じて別天地のあることも知らしめ、そうして青年の夢を達成することのできるように教育の内容を改めていきたい、方法を改めていきたい、かように考えております。
  52. 周東英雄

    周東委員 時間を超過しましてまことに恐縮でございますが、最後に一点だけお尋ねを許していただきたい。厚生大臣にお伺いしたいのですが、それは今度医療金融公庫というものが設立されましたことは、まことに従来からの希望を達成したということで、厚生大臣の御努力を感謝するわけであります。しかしこのことはあくまでも国民皆保険制度の実施を三十五年に控えまして、町医者に対して近代的な医療設備等が不足しておるものに対して一般にこれを設置させて、そうして大いに働かせようという意味から、それに金融をつけることができたということは非常にけっこうなことであります。しかし私が今日伺いたいのは、これはそういう計画ができたのであるからぜひともやらなければならないのですが、根本は三十五年から実施される国民皆保険そのものを実施するについて考えなければならない問題が多々残っておると思うのです。それは医療制度の問題であります。その内容は何かといえば、申すまでもなく一体今日の医療制度を進めるについて診療制度をどうするのか、あるいは一部自由診療制度に持っていくにはどうするのか、あるいは診療基準はどうするのか、といういろいろな点が重大な問題になってきておりますので、それらの点を一体どうするかということが根本にならなければ、国民皆保険制度に進んでもなかなか困難な事態を生ずると思うのです。そういう個々の問題について検討し、立案するについて必要な問題は、すでに一年近くも開催が放置されておる医療制度審議会をいつお開きになるのか、こういう根本問題をどっちへ持っていってどうするのかという具体的な相談に入るためには、どうしても医療制度審議会を早くお開きにならなければならないと思うのですが、ちょうど医療金融公庫ができ上った際であります。おそらく渡邊厚生大臣は手は打っておられると思いますが、どういうふうに医療制度審議会の発足をお考えになっておるのか、これを一つ最後にお尋ねをいたしまして私の質問を終ります。
  53. 渡邊良夫

    ○渡邊国務大臣 今日の国民医療につきましては、国民皆保険の実施されておりますところの今日におきまして、保険行政の見る国民医療と日進月歩に進んでおりますところの医療技術、こういうものにつきまして調整ということが必要ではなかろうか、かように考えられるわけであります。現在言われておりますところの差額徴収とか、いろいろな問題がございますが、いわゆる保険行政で見られないところの問題につきましても十分考慮しなければならないとして現在検討を進めておるような次第であります。でありますから、医療制度全般につきまして現在私どもは研究すべくただいま御指摘になられました医療制度調査会の発足というものを急速に要望されて参っておるような次第でございます。でありまして、各方面の御協力を得まして医療制度の発足もこれを機会といたしまして、すみやかなる機会にこれをとらえまして近く発足いたさなければならない、かように準備を進めておるような次第であります。
  54. 小川半次

    小川委員長 午後一時三十分より再開することといたしまして、暫時休憩いたします。     午後零時四十八分休憩      ————◇—————     午後二時一分開議
  55. 小川半次

    小川委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。河野密君。
  56. 河野密

    ○河野(密)委員 私は日本社会党を代表いたしまして、先日行なわれました岸総理施政方針演説その他の演説につきまして、御質問を申し上げたいと存じます。  私は、時間の関係がございまするので、質問を集約いたしまして新安保条約に関する諸問題、防衛予算の問題、特に戦闘機機種選定の問題並びに昭和三十五年度の予算の問題点にしぼって御質問を申し上げたいと思います。主として岸総理並びに関係閣僚に御質問を申し上げるのでありまするが、事務当局の御答弁は御遠慮を願いたいとあらかじめ要求いたしておきます。  第一の問題でありますが、先般岸総理は施政方針の演説の中で、わが国は自由主義世界の一員として共産主義世界との共存の道を見出すための熱意と努力を欠くものではありません、こう述べております。この言い方は従来の岸総理の言い方になかったものだと私は思うのであります。いわゆる両陣営の共存の方向に対して、積極的な意図を表明したものではないかと私はとったのでありまするが、その後の言動はこれと著しく異なっておるのであります。そこで私は岸総理にまずお尋ねしたいのでありますが、安保条約改定が共存の道といかなる関係を持っておるのか。われわれの見るところによれば、安保条約改定というものはその逆だと思うのでありまするが、この共産主義諸国との共存の道を見出すための熱意と努力というものと安保条約改定はいかなる関係にあるか、これをまず承りたいと思います。
  57. 岸信介

    岸国務大臣 今日の国際情勢を見ますというと、御承知のように東西陣営に分かれておって、共産主義の陣営におきましても、その共産主義国の間の団結を強固にしておるし、また自由主義の立場をとる国々におきましても協力関係を強化していっておる。そうして両方の間においては、力によらず、話し合いによって懸案を解決していく、こういう方向に進んでおることは御承知通りであります。私は現在の世界の大勢におきまして、いわゆる雪解けというけれども、まだどの国も軍縮を積極的に行なう状況にはなっておらないし、また安全保障についても国連の機構に一切をまかすという状態になっておらない。この関係において両陣営においてはやはりそれぞれの団結を固め、安全保障体制としていろいろな機構を持っておることは御承知通りであります。こういう中にあって、日本が従来持っておる安保体制というものを、日本国民の自主的な立場から、日米対等な、合理的な基礎において改定しようということは、何ら国際のこの現状から見て大勢に逆行するものでもなければ、それ自身が何ら両方の陣営の緊張を強化するものでもないと私は思っております。ことに新しい安保条約の規定が国連憲章を大前提とし、あくまでも平和的手段国際紛争解決するという精神にのっとって防衛的な意味を持っており、それに終始しておるということから申しまして、決して共産陣営とに対して緊張を激化するものでは絶対にない。そうしてわれわれが立つところの考え方、いかなる政治体制をとるか、いかなる外交方針をとるか、その国がどういう外交上の進路をとるかということは、これは各国が自主的にきめる問題である。その立場において、たといその考えを異にする陣営との間にも話し合いをして、そうして共通の広場を見出していくということが、われわれが今後努力をしなければならぬことであり、またわれわれも努力をしようと思っておるのであります。これと安保条約改定という問題は、私は決して矛盾するものでもなければ、この間にそごがあるとは絶対に考えておりません。
  58. 河野密

    ○河野(密)委員 一つ御答弁は簡潔にお願いしたいのですが、要点だけを述べていただきたいと思います。安保条約改定のどの部分が一体共存の道と関係があるのか、こういうことをお尋ねしたのでありますが、今総理がお述べになりましたように、現在世界が二つの陣営に分かれておる。これはわれわれとしても認めざるを得ないのであります。その二つの陣営に不幸にして分かれているときに、一つの陣営と相互防衛条約を結ぶということは、好む好まざるとにかかわらず、必然的に他の陣営を敵とせざるを得ない。これは当然のことであります。これは共存の道とどういう関係になるのでありますか。これを承りたい。
  59. 岸信介

    岸国務大臣 この安保条約をごらんいただけばわかるように、あくまでも防衛的な、侵略が起こらない限り防衛に関する規定は発動しないのであります。かつて存在しておるところの中ソ友好同盟条約のように、一国をはっきりメンションして、これに対して特殊の軍事行動を約しておるというような性質とは全然違うのであります。従って日本が自由主義の立場を堅持し、自由主義の立場の国と協力して安全を守るというだけでありますから、決して共存の道と私は相反するものではない、かように思っております。
  60. 河野密

    ○河野(密)委員 岸総理の御答弁を承りますと、中ソ友好同盟条約には日本及びその同盟国という仮想敵国を明らかにしておりますが、今度の安保条約には仮想敵国というものをあげておらないから、それだからしてこれは防衛条約ではないのだ、こういうような御趣旨のように承るのでありますが、それならば一つ岸総理に承りまするが、今極東の地域にはアメリカ中心としての防衛条約は幾つかあると思います。この幾つかある防衛条約——私は申し上げますが、まず一番最初にできたのは米比相互防衛条約、ANZUS、米韓、SEATO、米華、それぞれの安全保障条約もしくは相互防衛条約と、今度の日米安全保障条約とどこが違って、どういう点に今岸総理のおっしゃるようなそういう共存の道と相反するものでないという、そういうことがありますか、これをお示し願いたい。
  61. 岸信介

    岸国務大臣 共存の道を見出すということは、今世界のなににおきまして一番大きな流れは、御承知通り米ソ首脳部の間に話し合いが行なわれておるのであります。私は今おあげになりました幾つかの安全保障条約がいずれも一方がアメリカであるにかかわらず、アメリカ首脳部ソ連首脳部との間では共存の道を話し合いによってこれを見出そうと努めておるのであって、私はこれらの条約といえども決して敵視政策を根拠としておるものではないと思います。こういう意味におきましてこの安全保障条約というもの自体が、そういういわゆる敵視政策を持っており、共存の道を見出そうとすることに反対しているのだという考え方は成り立たない、かように思っております。
  62. 河野密

    ○河野(密)委員 そうなって参りますと、岸総理日米安全保障条約というものをこの時点において今日結ばなければならないという理由が、われわれとしては納得がいかないのであります。今日この時点において何がゆえにそれを結ばなければならないか。米韓、米比、あるいは米華というものはそれぞれ数年前の条約でありますが、この時点においてなぜ結ばなければならないか、この理由を明確にしていただきたい。
  63. 岸信介

    岸国務大臣 河野委員も御承知のように、日米安保体制というものは現在厳として存しておるのであります。ただこれが成立当時の特殊の事情から、成立当時から論議されているように、日本自主性と対等性がない、アメリカ一方的の条約であるのであって、これを改正しようというのが今回のわれわれの考えであります。決して安保体制が全然なかったものを安保体制をここに創設するという性質のものではないのであります。
  64. 河野密

    ○河野(密)委員 そこで私はこの際岸総理にお尋ねしたいのでありますが、過般ソ連からの覚書なるものが日本政府に参っております。私は率直に申し上げますが、われわれはこの覚書を肯定の上に立って何もかも申し上げている、こういうふうに曲解なされずに、率直に聞いていただきたいと思うのであります。岸総理はこの覚書に対しまして内政干渉である、こういう立場をとられまして、独立国が他の国といかなる条約を締結するのも自由である、だから許すべからざるものであると非常に最大級の言葉を使って非難され、現在の改定された日米安全保障条約というものがソ連あるいは中共仮想敵国とするものでない、こういうことを強弁されまするけれども、私が先ほど申し上げましたように現在二つの陣営に分かれておるときに、一つの陣営と相互防衛条約を結ぶということは、とりもなおさずもう一つの陣営を敵とするという結果になる、こういうことを言っておると私は思うのであります。この意味において岸総理の認識は足りないと私は思うのであります。さらに現在安全保障条約があるじゃないか、これを改定したのに対してなぜ文句をつけるのだ、こういう御答弁でありますが、その覚書の中に——私はこの点がきわめて重要だと思いますが、こういうふうに書いてあるのであります。「本条約内容は、極東と太平洋地域における情勢並びにこれによりこの広範な地域にある多数の諸国、もちろん、第一にソ連邦及び中華人民共和国のごとき直接の隣国の利害に重大な影響を及ぼすものである。」こういうことを言っておる。これは私は今申し上げたように、二つの陣営に分かれておって、この一つの陣営と相互防衛条約を結ぶ以上は、そのもう一つの陣営に重大なる影響を及ぼすという考え方に立つのは当然だと思うのであります。さらにこう言っておるのであります。「この条約によれば日本国政府の自発的同意により長期間日本国領域に外国軍隊が駐留し軍事基地を置くことが再度確定されている。」私はこのソ連覚書の中において重要な点は、「日本国政府の自発的同意により」という点だと思うのであります。現在の日米安保条約は、これは平和条約と抱き合わせになったものである、そこには日本立場として了とすべきものがあると、私はおそらく中国もソ連考えておると思うのであります。しかるに今回の日米安全保障条約改定は、日本の自発的意思によって行なわれたものである。日本の国がアメリカ軍の駐留を自発的に求め、日本アメリカとの間の相互防衛というものを自発的意思によって行なっておるというところに、重大なる問題があると思うのであります。この点について岸総理はいかにお考えになるのであるか。
  65. 岸信介

    岸国務大臣 現行安保条約も、言うまでもなく日本国民意思によって結ばれたものでありますが、しかし当時の事情と今日の事情とは違うということも私は前提におきます。しかし私は覚書に非難しておるように、日本がどういう立場をとり、どういう方法によって安全保障の道を講ずべきかということは、私は日本が、国民がこれを決すべきものである、自主的に決すべきもの、進んで決すべき問題である、かように思っております。これをきめたいということに対して非難を受けるということは、私はこれは許すべからざる内政干渉の現われである、こう言わざるを得ないのであります。
  66. 河野密

    ○河野(密)委員 私は岸総理大臣の考え方は非常に短見だと思うのであります。何となれば安保条約というものは、その根本は日本の安全を守るというところにある。もし一つの陣営を敵とすることによって、日本の安全がより危殆に瀕するようなことがあったとするならば、この責任たるや私はきわめて重大だと思うのであります。その点を岸総理はどう考えるか。  私は岸総理が先般の本会議の席上において、あるいは委員会の席上において、最大級の言葉を使ってソ連を非難された。内政干渉である、許すべからざるものだということを非難された。私は岸総理のその言動を聞いておって、非常な不安を感ぜざるを得なかった。何となれば岸総理は最近アメリカに行かれて、アメリカの口調をまねられるのかもしれない。しかしアメリカはそれだけの大きな力を持って、その背景の上にものを言っておるのである。しかるに岸総理がこの日本の現在の立場において最大級の言葉をもってこれを非難するというようなことは、きわめて危険なことである。どれだけの確信を持ってこういうことを言い得るか。最近は外交上の辞令というものが非常に錯雑いたしまして、最大級の言葉を使うことが流行いたしておりますが、私はこれは避くべきことであると思う。許すべからざるであるとか、内政干渉であるとかいうようなことを、一国の総理が軽々に言うべき言葉ではないと私は思うのであります。こういう意味において政府一体ソ連覚書に対して、どういう内容においてどれだけの覚悟を持ってこれに対する回答を出されようとしているのか、これを承りたい。
  67. 岸信介

    岸国務大臣 ソ連覚書全体をお読み下さるならばわかるように、私はいわゆる外交文書として他国に送った文書で、かくのごとき激しい、もしくは私どもから考えますと何らかの意図を持っておるような、あるいは脅迫を含んでおるような文句を入れた文書というものは、私は従来例を見ないものであると思います。しかしながらわれわれはあらゆる場合において、われわれが自主独立立場から、われわれが主張しなければならぬことはあくまでも強く主張していくことが必要であり、誤まりを正さなければならぬことはあくまでもこれを正さしめるように進んでいかなければならぬと思う。いわゆるその国がどれだけの実力を持っているか、あるいはその実力というものが軍備を背景として、そうしていろいろな国際的な発言をし、あるいは他国に自分の考えを押しつけようとするようなことは、これこそ雪解けの方向をわれわれが念願しており、また雪解けの方向といわれる時代において、私はそういう態度はとるべきものではない、かように思っております。従ってこのソ連覚書に対しましては、われわれはあくまでもこの日ソ共同宣言趣旨並びにこの安保条約のほんとうの本旨というものを十分説明して、そしてソ連の反省を促すように強くこの返事を出すつもりでおります。
  68. 河野密

    ○河野(密)委員 安保条約国際的に知らしめるということも必要でありますが、内容については私はこれからお尋ねしようと思うのです。  もう一つソ連覚書に関してお尋ねしたいのでありますが、ソ連覚書の中に総理が非常に非難された点に、歯舞、色丹、これを日本からアメリカの軍隊が撤退しない限りにおいては、引き渡すことをやめるということを言ったことに対して、非常に信義の原則に反するというような言葉をもって述べておられるのであります。しかし私たちがこれを考えまするのに、先ほど申しましたわれわれの前提に立つならば、歯舞、色丹を速急にソ連との間の話し合いによってこれを引き渡してもらいたいという考えをわれわれが持つ以上は、少なくとも日本政府は北方の領土に対して、歯舞、色丹はもちろんのこと、その後の交渉に上るであろう南千島、あるいは北千島、千島列島の問題にいたしましても、日本はこれらの地域に対しては、かりに日本に引き渡されたとしても、再武装はいたしません、ここに軍事基地は設けませんというくらいの日本政府の考慮があってもしかるべきものである、私はこういうふうに思うのでありますが、この点に対する総理の見解を承ります。
  69. 岸信介

    岸国務大臣 北方の領土問題については、御承知のように日ソの間に長い交渉が行なわれましたが、ついに両方の意見は一致せずにおります。歯舞、色丹については、日ソ共同宣言のうちに日本に引き渡すことが明示されております。ところが今度の覚書におきまして、この日ソ共同宣言にないところの新しい条件、外国軍隊が一切撤退するにあらざれば引き渡さないということの条件を付加しておる。御承知通りこの宣言がなされた当時におきましても、日本には安保条約に基づいて米軍の駐留というものはあった、外国軍隊は入っておったのであります。こういう事情のもとにおいてこの宣言ができたのにかかわらず、今回そういう新たな条件を一方的に付してこれの引き渡しを拒否するということは、国際信義に反しておる、私はこういう考えであります。今この領土の引き渡しをされるならば、ここに軍事基地を設けないということの考慮をしたらいいじゃないかというお話がございました。私は、われわれが今領土にはっきりと軍事基地を設けるとかなんとかということではございませんが、われわれが領土権を復活した後において、その領土をどういうふうにしていくかということは、これは私は主権国として、われわれが自由に考えていいことだと思っております。しかしながらその両方の交渉の過程において——今河野君の言われるのは新しい御提案でありますが、ソ連の方からそう言われれば、われわれは返すということを言うておるわけでは決してございません。そういう際に、こうすればどうだということは、私は主権国として自主的に考えていく、こう答えるほかは今日の情勢においてはないと思います。
  70. 河野密

    ○河野(密)委員 そういう形式的なことでなく、北方の領土の返還を求め、あるいは問題になっている歯舞、色丹の領土権の回復の問題を解決しようとするならば、そういう際にはそういう考慮もなすべきだ、それこそ岸総理が言う自由主義陣営と共産主義陣営との共存に対する熱意と努力の現われとして、私は当然日本がやってもいいことではないかと思う。そのくらいの考慮をしないで形式一点張り、法律論一点張りで国際関係を律することは、私は非常に危険だと思うが、総理はどうでありますか。
  71. 岸信介

    岸国務大臣 北方領土の問題については先ほど申し上げましたように、日ソの間の意見が今日まで全然対立をしております。従来は歯舞、色丹については平和条約ができれば無条件にこれを現実に引き渡すということができ上がっておることは御承知通りであります。これを非武装地帯にするとかどうとかいう問題は、この点においては何ら問題が出ておらなかったのであります。また南千島その他の問題に関しましては、これはソ連側はいかなる意味においても、もう条約上自分のものになっているのであって、いかなる意味においてもこれを一歩も日本に引き渡すということは、絶対にその主張は曲げないというのが従来の交渉の過程でございます。しかしながら私ども日本の固有の領土に対して、ソ連がそういう主張をしておることは間違っておる、日本に返さるべきものであるということを一貫して主張しておるのでありますが、この見解は今日までのところ一致いたしておりません。それ以来この領土問題が交渉の対象になっておらないことも、両方の意見の対立したままであります。しかしながらこれを将来どういうふうに交渉していくかという問題に関しましては、将来の問題としてわれわれももちろん考えなければならぬと思いますが、今日の状態においてはそういう状態でございます。
  72. 河野密

    ○河野(密)委員 その問題は解決しないままにしまして、あとでまた触れるといたしまして、安保条約に対する第三の疑問は、先ほど申し上げましたように、この安保条約政府側においては軍事同盟でない、これによって日本防衛義務というものが新たに加重されたものでないという見解のようであります。さらに本会議その他におきまして、国連憲章で非難されておるような武力侵略のない限り、本条約は眠っておって発動されるものでないということを強調されておるのであります。これはそれだけを聞くといかにもそのように聞こえるのでありますが、新安保条約というものは、先ほど私が申し上げましたように、極東地域にある米韓、米比あるいは米華、ANZUS、SEATO、これらの条約内容的に見て、私の見るところによれば少しも違っておらない。だからしてこの条約というものは、岸総理日米対等の立場において結んだものであるとか、日米新時代であるとかいう最大級の言葉を使われまするけれども、これは一体アメリカのべースで条約を結んだとしかわれわれには思えないのでありますが、これは日本のべースで条約を結んだというならば、日本のべースの点は一体どこでしょうか。これを一つはっきりお示しを願いたい。
  73. 岸信介

    岸国務大臣 これは現行安保条約と比較されればきわめて明瞭であると私は思います。と申しますのは、従来の条約におきましては、米軍の行動に対して一切の事柄は米軍の思うままに決定し、行動しておる。これに対して、いわゆる事前協議の事項において日本の実質的な立場を明らかにした点や、あるいは条約の期限の問題につきましても、現行の期限は無期限でありますが、これに対してわれわれの考えから、これを適当と認める期間に改めるとか、すべて大体この改定の経過を御承知下されば、日本のべースでこれが行なわれたということは、私はきわめて明瞭であると思います。アメリカの方としては、むしろ現行条約をそのまま存続していくことの方がより都合がいいのであるけれども日本立場から主張した事項を取り入れて、従来国民が不満と考えておったところを是正するというのが改定の要領でありまして、従って決してアメリカのべースでこれが行動されたという性格のものではございません。
  74. 河野密

    ○河野(密)委員 次にお尋ねしたいのは、現行安保条約に比して、新安保条約は義務が加重されておらない、いわゆる日本の要求に従って日本のべースで直されておるのだ、こういうことでありますので、私は具体的に一つお尋ねをしたいと思うのであります。  まず第一にお尋ねしたいのは、日本に駐留する米軍が出動する場合は、一体どういう場合があるかというのであります。日本に駐留する米軍が出動する場合は、私が想定してみまするのに、第一に国連軍の一部として米軍が出動する場合があります。それからその次は、今あげました米華相互防衛条約、米比条約、米韓相互防衛条約等によって、それらの類似の条約からくる日本の基地にある米軍の出動という場合があると思います。さらに第三には、いわゆる集団的、個別的自衛権発動に基づいて米軍が出動する場合があると思うのであります。これらの場合において、現行安保条約によりまするならば、日本はただ基地を提供するだけであって、わが国に権利もむろんありません。権利もありませんけれども、これに対する何らの義務もないはずであります。しかるに今度の改定安保条約は、相互方式によりまして、こういう場合においていわゆる協議ということが生じて参ります。権利めいた協議というものが生じて参りまするが、同時にこれに対する義務も生じておるはずであります。そこで私が聞きたいのは、これらの今私が申し上げましたいずれの場合においても、政府考えておる事前協議ということがこれらに適用されるのでありましょうか。それとも適用されないのでありますか。この協議の結果いかなる共同行動の義務がわが国に課せられるのでありますか。これを一つ明確にお答え願いたい。
  75. 岸信介

    岸国務大臣 日本に駐留しておる米軍が出動する場合の第一の場合は、言うまでもなく日本が他から侵略されて、これに対する出動がある場合でございます。さらにこの日本以外の地域に米軍が出動する場合は、今おあげになりましたような場合があろうと思います。これに対して従来は米軍の思うままにこれができたわけであります。権利もなければ義務もないというお話でありますが、その日本の領土にあるところの基地や施設を使用して、そうして出動するわけでありますから、それを日本としては受認すべき義務が従来といえどもあったわけであります。今回におきましても、そういう場合において協議をする、協議をしてわれわれが同意をしたものにつきましては、それらの基地を使用し、施設を使用して出動するということを受認する義務がある、その点は少しも変わらないと私は思っております。
  76. 河野密

    ○河野(密)委員 ではもう一つお尋ね申しますが、国連軍の一部として出動する場合にも、これは事前協議の対象になる、そう考えてよろしいですか。
  77. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん事前協議の対象となります。
  78. 河野密

    ○河野(密)委員 米華、米比、米韓相互防衛条約等に基づいて米軍が出動する場合においてはどうでしょう。
  79. 岸信介

    岸国務大臣 そういう場合も事前協議の対象となります。
  80. 河野密

    ○河野(密)委員 集団的及び個別的の自衛権発動によるという場合はどうでしょう。
  81. 岸信介

    岸国務大臣 日本から外へ出ていく場合においてはすべて、理由のいかんにかかわらず事前協議の対象になるわけであります。
  82. 河野密

    ○河野(密)委員 そういたしますと、日本に駐留するアメリカ軍というものの出動する場合は、これは極東の地域ということをあとで伺いますが、極東の地域には、さっき私が申し上げましたように南の方、ANZUS、SEATOから米華、米比、米韓というように、防衛条約の網が張ってあるわけであります。その網に基づいて米軍が日本の基地から自由自在に出動して、そうしてこれに対して、すべてこれは日本における米軍の権利として、われわれが安全保障条約によって今度は自発的にこれを認めていかなければならない、こういうことに相なるということは、これは私は日本国民でも初めて聞く重大な問題じゃないかと思うのです。
  83. 岸信介

    岸国務大臣 いろいろな場合において日本の基地におる米軍が出動する場合がありますから、従ってわれわれに事前協議して、われわれの同意を得ない限りは、そういう行動をしないということを申し合わせたのが今回の条約でございます。
  84. 河野密

    ○河野(密)委員 もう一つあとから伺いますが、そこで、個別的あるいは集団的な自衛権発動の場合においても協議をする、こういうのでありますが、その個別的、集団的発動の場合を考えてみますと、まず在日の米軍施設が攻撃されたという場合があります。それから日本に対して攻撃が加えられた場合というのがあります。第三に沖縄、小笠原等に対して武力攻撃が加えられたという場合があります。これらの場合に対するところの協議は一体どういうふうにいたすのでありますか。これに基づくところの共同行動の義務というものは一体どういう内容を含むものか。
  85. 岸信介

    岸国務大臣 共同行動の義務というものは私はないと思いますが、いわゆる自衛的な意味において、日本の領土内における米軍の基地が攻撃されたということは、私ども、この条約においても、日本の領土がそれだけの侵略を攻撃を受けておるわけでありますから、日本自衛権発動として、これに対してこの侵略を攻撃を排除するということは、当然のわれわれの権利であると考えております。また沖縄、小笠原につきましては、われわれは潜在主権を持っておりますけれども、今回のこの安保条約における条約地域に入っておりませんから、日本自体が、これに対して攻撃があった場合に、直ちに日本の自衛隊が出動するということはございませんが、その沖縄、小笠原にあるところの米軍が、これに対して対抗すると同様に、この日本の基地を使ってこれらに出動する場合においては、事前協議の対象になるものと考えます。
  86. 河野密

    ○河野(密)委員 伺いますが、事前協議の対象となることはわかりましたが、事前協議の対象となって合意がととのわない場合においては——この問題はあとで伺いますが、合意がととのわなかった場合においてはわれわれはそれに従わないのだ。それでは合意ができた場合は一体どういうことをやるのですか。
  87. 岸信介

    岸国務大臣 協議がととのった場合におきましては、米軍が日本の基地を根拠として出動することができるのであって、それに対して日本はこれを受認する義務が生ずるとこう私は思います。
  88. 河野密

    ○河野(密)委員 現在の、日本が攻撃された場合は一体どうなるのですか。共同行動の義務があるのですか。
  89. 岸信介

    岸国務大臣 いわゆる共同行動の義務があるかどうかは私は別だと思いますが、日本の領土が侵略された場合においては、日本自衛権としてこれを排除すると同時に、アメリカ駐留軍は日本と共同してこれを防衛すべき義務を持っておるのであります。
  90. 河野密

    ○河野(密)委員 この点はすべてが事前協議の問題にかかっておるのでありまして、この事前協議の問題で一つお尋ねしたいと思うのであります。事前協議、プライアー・コンサルテーションというのはおそらく初めてのあれかもしれませんが、この事前協議というものが、今の岸総理お話によりますと、この安保条約が、はたしてわれわれの考えるように、戦争に巻き込まれる危険性を持つものであるかどうかという問題のかぎになるであろうと思います。そこで事前協議の問題でお尋ねしますが、まず第一に、事前協議に拒否権があるかないかということが、昨年来非常に問題となりました。与党の内部にすら、これは重大なる問題となったはずであります。その与党の内部におきましても、事前協議に拒否権があるということを認めさせなければ、この条約というものは非常に危険なるものである、こういう意見が相当あったように承知いたしております。その最後の結論は、条約の本文あるいは交換公文に拒否権があるということを書かなくとも、せめて議事録にだけでも拒否権があるということを書きとどめるということで、与党の話し合いがついておるはずであります。そういうことになっておったはずであります。しかるに今度でき上がった条約を見ますると、条約本文にはもちろんそういう言葉はございません。交換公文にもありませんし、議事録にもありません。そしてただたよるところは共同コミュニケだけでありますが、岸首相も調印後の記者会見で、事前協議には、法律的に拒否権が成立しないのだ、こういうことを述べたと新聞が報道されておりますが、これはほんとうでありますか。事実この点はどう考えておるか。その拒否権に対して政府一体どういうふうに考えておるか、これをまず承りたいと思います。
  91. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 協議にあたりまして、協議が成り立ちますためには、話し合い成立しなければならぬのでありまして、イエスという場合とノーという場合とあると思います。ノーという場合を通していきますれば協議がととのわないことはあたりまえであります。でありますから、当然ノーということを通して参れば拒否する権能があるわけでございます。協議が成立しない、ことに今度の協議にあたりまして事前協議という言葉をつけましたことは、問題を始める前の事前の協議であります。事前に協議がととのわなければならぬということ、そういうふうに事前協議という言葉はその意味をはっきりさしておるのであります。従ってこれは当然協議が成立しなければ、一方的にこれを行なうことはできないということは、われわれの交渉の初めからの解釈で過ぎております。これは今回の岸・アイク共同声明においても確認されておるということであります。
  92. 河野密

    ○河野(密)委員 藤山外務大臣は御存じだと思うのですが、この協議するという言葉は、単に日米安全保障条約に初めて現われた文字ではありません。協議するというのは、NATO以来みんなどの条約の条文をお読みになっても、同じような場合にウイル・コンサルトという言葉を使っております。協議をするということをちゃんと使っております。その協議と日米安全保障条約に言う協議とはどこが違うのですか。
  93. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 今回の交換公文の場合には、特にプライアー・コンサルテーション、事前協議という言葉でこれを表現いたしております。
  94. 河野密

    ○河野(密)委員 交換公文の中に初めて今お話のプライアー・コンサルテーションという言葉が出ておるのであります。そのプライアー・コンサルテーションという言葉についてはまたあとで伺いますが、その事前協議の協議をするということの中には何らの区別がないわけで、条約の本文における協議とはプライアー・コンサルテーションを意味するのだということが交換公文なり議事録なりにあるならば、これは事前協議だと言えるけれども、そういうことはないのであります。プライアー・コンサルテーションという言葉が出てくるのは交換公文の中で、それはかくかくのことにだけ適用するのだということになるのでありますから、この条約の本文にあるコンサルトということは事前協議であるということにはならないのであります。これはどうですか。
  95. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 むろん今回の条約各所に協議ということが出て参ります。むろん協議していろいろ情勢を判断する、そういうような問題について協議が行なわれることは当然でございます。従って協議という言葉が使われております。しかし同時に、われわれが決定的に必要でありますことは、日本から戦闘作戦行動に出て行ったり、そういうものをチェックしていかなければならぬのであります。その場合に特に事前ということをつけて協議をきちっときめて参った。事前協議という言葉を使いましたことはそういう意味であることを御了承願いたいと思います。
  96. 河野密

    ○河野(密)委員 それは御答弁にならぬのです。その条約の本文にある協議するという言葉は、これはNATOにも、そのほかのさっき私があげたすべての条約にみんな書いてある言葉なのです。それが事前の協議だということにはならない。事前協議という言葉は、安保条約の交換公文の第六条に関係して書いてあるのだが、それは基地を使うとか装備を変えるとかいうような場合において適用されるのであって、協議をするものはみんな事前協議だ、そんなことにはならぬのです。それは外務大臣がもっと条約をよくお読みになった方がよいのであります。そこで事前協議というのは——事前協議というそのプライアー・コンサルテーションという言葉については、これは拒否権があるかないかということが問題で、合意が与えられなければ、合意しなければそれが成り立たないのだ、協議が成り立たないのだというような、そういう子供だましのようなことではこれは通らないのであります。なぜ通らないかというと、アメリカでもこれを問題にしているから通らないのであります。この事前協議に対して、岸総理のおそらく唯一のよりどころとするのは、共同コミュニケであると思います。共同コミュニケの中にこういう言葉がございます。「日本政府意思に反して行動する意図のないことを大統領が保証した、こういうことを言っておるのであります。しかしこれはこの原文において、「日本政府意思に反して」という言葉は、日本政府意思ではなくて、日本政府の希望に反してやるようなことはしない。日本政府意思ではないのでありまして、希望、ウィッシェズであります。その希望に反して行動する意図のないことを保証したというのでありまして、この原文はすこぶるあいまいであります。あいまいでありまするからして、これはアメリカでも問題になっておるのであります。国務省と国防省との考え方は違っておる。国務省は外交的の立場から、拒否権というようなものを、拒否権らしきものを認めようという立場をとっておるが、国防省はこれに対して絶対反対であるという立場をとっておると伝えられておるのであります。この点は一体どうでありますか。  なお私は総理にお尋ねしたいのでありますが、総理は、日本の新聞がたよりないということをハワイで言われたそうであります。その例に、ニューヨーク・タイムスは非常に信頼すべき新聞だと言われたというのでありますが、その総理のすこぶる信頼すべきというニューヨーク・タイムスがこの問題について、この条約には二つの大きなあいまいな点がある、一つはこの条約の適用範囲がどの地域に及ぶかということがあいまいである、もう一つは、この協議ということに対して、これは一体ヴィトーの権利があるのかないのか、こういう問題がついに解決されないで、将来の紛争の種になるであろう、こう言っておるのであります。岸総理の信頼おくあたわざるニューヨーク・タイムスが言っておるのでありますが、こういう点にかんがみましても、これは日本だけの問題じゃない、国際的に問題になっておる。アメリカ政府の内部にも、今申し上げたように国務省と国防省との間には意見の違いがある。これを一体総理は何をもって拒否権があるということを断定されるのでありますか。
  97. 岸信介

    岸国務大臣 これはアメリカ日本との間に改定交渉をいたしまして、その間一貫してアメリカ側の主張として、この交換公文に設けました一定の事項を事前協議の主題とするという意味は、両方の意思が合って初めて協議は成立するのであり、アメリカ日本の拒否した場合において、その意思に反した行動をとる考えはないということをずっとアメリカ政府の意見として一貫して交渉をして参ったのであります。そのことは、交渉に当たりました外務大臣がしばしば国会においても御説明申し上げた通りであります。しこうしてそのことを今回私がアイゼンハワー大統領と会いました際に、さらに大統領が共同コミュニケにおきまして確認した。すなわちさっきから言っているように、法律論としては協議が成立するためには両方の意思が一致する必要がある。日本としてはもちろんイエスと言う場合もあるし、ノーと言う場合もあり、ノーと言うた場合にアメリカが、ノーというのを無視して行動ができるということになれば、これは非常な危険がある。それがどうだということが、要するに拒否権があるかないかということの実体の問題であると思います。私は法律論として拒否権とか云々というような事柄につきましては、いろいろそれ自体が持っておる特殊の意義がありますから、要するに問題は、われわれがノーと言った場合に、アメリカがそれを無視して行動できるかどうかという点が問題であるのでありまして、その点に関しては、交渉の過程においてもはっきりしており、また共同声明においてもそれは再確認されておるということで、私はきわめて明瞭になっておると思います。
  98. 河野密

    ○河野(密)委員 先ほど私がお尋ねしたように、総理は記者会見では、これは協議に拒否権なんというものは法律的にあり得ない、そうお答えになったのですか。
  99. 岸信介

    岸国務大臣 今申し上げましたように私は記者会見のときに、拒否権があるか、ヴィトーの権があるかというような質問がありましたので、ヴィトーの権があるかないかという法律論は別として、こうこうだということを私は言ったのであります。
  100. 河野密

    ○河野(密)委員 これは私は与党の諸君に聞きたいのですが、一体これで与党の諸君はよろしいのですか。これだけ問題になった拒否権の問題、しかもこの条約戦争に巻き込まれる危険性があるかないかという問題のかぎは、この一点にかかっておると私は思うのであります。与党の諸君は、せめて議事録になりともこれをとどめなければいけないということを強く主張されたと私は記憶しております。それにもかかわらず、今質疑応答ではっきりしないように、拒否権があるのかないのか少しもはっきりしておりません。一体これでよろしいのか。この条約を認めるか認めないか、この条約がかりに批准されたとしても、この条約の適用の問題が起こった場合に、これは直ちに問題になると思うのであります。そうなれば私たちは岸総理の決意を聞かなければならないが、岸総理一体国民意思——今度はほんとうの意思でありますが、国民意思に反して米軍の日本の基地からの出動というような場合において、これをノーと言い得るところの確信が持てるかどうか。問題はそこにある。
  101. 岸信介

    岸国務大臣 お話通り問題は、いわゆる法律論としてのヴィトーを持つか持たないかということではなくして、日本国民意思に反した行動アメリカの軍隊がとるかとらないか、そういう場合において、日本国民を代表してわれわれがノーと言い得るかどうか、ノーと言うた場合に、これに対してアメリカが責任を持って日本意思を尊重するかどうかということが、かかって私は問題であると思います。その点はこの交渉の過程において、そういう場合において日本がノーと言う場合もある、そうしてそのノーと言った場合には、その意思に反してアメリカ行動しないということを前提として、この事前協議の問題が交渉をされております。そのことは、先ほど申し上げたように外務大臣がしばしば国会において明らかにしておる通りであります。それを今回私が行った場合において、さらに大統領が再確認をしたことを共同声明に盛っておるのでありまして、問題はきわめて明瞭になったと私は信じております。
  102. 河野密

    ○河野(密)委員 私は与党の諸君までも希望したように、せめて議事録になりとも、拒否権がある、ノーと言い得る場合があり得るのだということをとどめることがなぜできなかったのか、この疑問は私は残ると思うのであります。これは交渉の過程の問題でありますが、私はこの点を明らかにする義務が政府にあると思うのであります。
  103. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 御承知のように拒否権という言葉は、相互二つの場合の言葉ではございません。多数の決議に対して一個もしくは数個の少数の意見がそれを拒否する場合に拒否権という言葉が使われております。ノーと言いまして協議がととのっていかないということは、それは拒否されたことになるわけでありまして、拒否される権利がそれにある。いわゆる拒否権という言葉ではございませんけれども、それが拒否されていくわけなのであります。そういう意味において、われわれはことにそれが事前に協議されることでありますし、従ってそういう意味において、われわれは、今の大統領と総理との確言を通じて現われております事実がその通り示しておると思っております。
  104. 河野密

    ○河野(密)委員 これは私はひとりわれわれが疑問とするばかりでなく、また与党の諸君が疑問とするばかりでなく、国民全体がこの条約に賛成するかしないかという問題の重要なるキー・ポイントになると思うのであります。この点は、与党の諸君は賛成するについてこれを条件にしたと私は聞いております。少なくとも議事録にこれをとどめなければいけないということを条件にしたと私ははっきりと聞いておりますが、これは与党の諸君ははたしてこれに満足されるのかどうか。私は与党の諸君に伺いたいと思うのでありますが、これは少なくとも議事録に載せることを努力をして、努力をしたが、どうしてもそれが載せられなかったというならばその理由、国防省と国務省との見解の相違があるという点についてはどういうふうにお考えになるか、もう一ぺん御返事願いたい。
  105. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 協議の場合にノーと言いますことは、当然だれでも言えることでありまして、あたりまえのことであります。従ってそれを特に協議の場合にはノーということが言えるんだというようなことを書く必要は、私は毛頭ないと思っております。
  106. 河野密

    ○河野(密)委員 この問題はさらに同僚の議員から一つ追及していただくことにいたしまして、今度の条約によりまして事前協議の場合は——私はこれから申し上げますが、違っておるなら違っておる、その通りならその通りと一つ答えていただきたいのです。事前協議の場合は、第四条、第六条、第六条に関する交換公文、合意議事録等に規定されておるのでありまして、これを要約してみますと、日本の安全または極東における平和及び安全に対する脅威があった場合、このときに協議をするといっておりますが、これは事前協議であるかどうか。条約の第四条、それから沖縄、小笠原に対する同様の問題があった場合において、これは合意議事録によると同じように取り扱っておるが、これも事前協議であるかどうか。合衆国軍隊の装備、配置の変更移動、それから日本の基地からの戦闘、作戦行動、この四つであると思うのでありますが、この通りであるかどうか、これを答えていただきたい。
  107. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 条約に明らかになっておりますように、事前協議という言葉を使いましたのは、交換公文にありますものでございます。その他の協議という問題につきましては、常時協議をして参ってお互いに情勢の判断をし、意見の交換をして参る必要があるわけであります。そういう意味において協議ということを一般的に使っております。
  108. 河野密

    ○河野(密)委員 これは藤山さん、さっき私が質問したときの答と混同してあなたは答えていらっしゃる。日本の安全または極東における平和及び安全に対する脅威というその条約の第四条に対しては、その折その折に協議をするというのと、最後にこういう脅威があったときには協議をするということになっておるが、私はこの協議というものは、事前協議というものには当たらぬ。事前協議とはたして言えるかということをさっき聞いたら、あなたは、事前協議だ、こうおっしゃった。だから事前協議と言えるのか、こう聞いたら今度はまた別のことであなたは答えていらっしゃる。全然はっきりしておらないのでありますが、条約第四条の最後に書いてある協議というのは、これは一体事前協議に入るのか入らないのか、これを聞いておる。私は入ると思うが、それは入るのかどうか、こういうふうに聞いておるのです。
  109. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 条約のいろいろな個所に協議というところがございます。これはむろん先ほど来申し上げておりますように、協議をいろんな形においてしていく。たとえば日本侵略の危険があるだろうかないだろうかということを常時協議していくことも必要でございます。意見の交換をし、あるいは極東の平和と安全が脅かされているかどうかというようなことも常時協議して参りますことは、これは当然だと思います。私が先ほど申し上げましたのも、いわゆる交換公文における事前協議のことを申し上げたのでありまして、他の部面について事前協議という字が書いてあると申し上げたわけではございません。従って事前協議のところは事前協議、一般的に協議と使いましたことは協議と使っておるということでございます。
  110. 河野密

    ○河野(密)委員 藤山さん、あなたの言うのは、私がさっき言ったように条約第四条の協議も事前、前の方にいってそのときどきに協議をするということは、これはいいのですが、あとで日本の安全または極東における平和及び安全に対する脅威があった、こう認めたときに協議をするというのは、これは事前協議でありますか、こう言って聞いているのです。
  111. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私前から申し上げておりますように、交換公文における事前協議というものが事前協議でございます。むろんしかし他のところに使われております協議というものは、常時協議をして参るわけでありまして、常時協議をしていくということは、むろん事が起こってから協議をするというのでない、事の起こりそうなことがありはしないかというようなことでありますから、むろん事柄自体については事前の協議になりましょう。しかしながら事前協議と使いましたものは、今申し上げるように、何か協議の結果行動を起こすときに、あらかじめ事前に協議をしてもらわなければ困る、そうしてそれはノーというはっきりした日本の言い方をするために、特に事前協議という言葉を交換公文では使った、こういうことでございます。
  112. 河野密

    ○河野(密)委員 どうも与党の諸君はわかったそうですが、僕にはわからないのです。私の聞きたいと思うのは、その事前協議という言葉は、交換公文にだけ初めて現われてくる言葉であるが、そうするとその事前協議の対象となるものは、交換公文に現われているだけで、合衆国軍隊の装備、配置の変更移動それから日本国基地からの戦闘、作戦行動、それだけが事前協議、こういうことに限定するのですか。
  113. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 その通りでございまして、一般的に事態の推移がどういうことになっておるかということを協議して参ることは、これは平生協議をして参らなければならぬと思います。そのこと自体は、やはり何か起こりそうだというので協議をする、あるいは何かありはしないかというので協議をするのでございますから、いわゆる通俗的に言えば、事の起こる前にいろいろな相談をしていく、こういうことが起こりはしないかという意見の交換をする。ですから事態は事前になりましょう。しかし交換公文で今申し上げたような点について事前協議ということをいたしたのは、先ほど申し上げましたようにノーと言える、はっきりノーと通せるという意味において、そういう形で事前協議、事前に協議をそういう行動の前にする、それは行動をする意思をはっきりさせるということであります。
  114. 河野密

    ○河野(密)委員 そうすれば私がお尋ねしたい点が非常にはっきりしたのですが、日本の安全または極東における平和及び安全に対する脅威があった、そのときに協議をするということは、これはもう事前協議でもない、これは普通の協議、協議と申しますか、NATOあるいはSEATO、そういうものと同じものだと解釈してよろしい。それからそれを受けて条約四条の準用をすることは、沖縄、小笠原に対する同様の問題があったときにも、それはやはり合意議事録によって、同じようにこの四条で準用すると書いてあるから、沖縄、小笠原に対して脅威が加えられたと思うような場合においても、これは事前協議ではなくて、いわゆるSEATO、NATOというようなものと同じような協議ということになるのだ、ただ問題は日本に駐留しておる合衆国軍隊の装備とか移動とかその配置の変更とか、それから合衆国軍隊が戦闘的作戦行動、これはあとで伺いますが、戦闘的作戦行動をとるときだけに事前協議が行なわれるものである、条約の事前協議というものはそういうものである、こうはっきりとお答え願えますか。
  115. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 だいぶはっきりしてきたと思うのでありますけれども、事前協議というのは、今申し上げましたように、何か特殊な行動を起こす場合には、それは日本に影響があってはいけませんから事前に協議をする。それにはノーとはっきり言える場合がある。従って、交換公文に書いておりますような、今お話の配備、あるいは装備、あるいは戦闘作戦に基地を使うというような場合になるわけでございます。一般的に協議をするということは、むろんこの条約を両国で運営して参ります場合には、十分平素から協議をして参らなければならぬのであります。それは、われわれとして当然条約において協議をしていくということでございます。
  116. 河野密

    ○河野(密)委員 そうしますと、そのいわゆるアメリカ軍隊の域外行動だけが事前協議の対象になるわけだが、その域外行動を戦闘的作戦行動、ミリタリー・コンバット・オペレーションという言葉を使っておりますが、こういうことに限定してあるのでありますが、こういうことになりますると、この事前協議の対象となるものは非常に狭いものになってくるということをわれわれは考えなければならぬ。たとえば、台湾海峡において第七艦隊が演習という名前によって、金門、馬祖の問題のときに行動をした。これは演習でありまするから、戦闘的作戦行動というワクには入らない、こういうことになると、事前協議の対象となるものはきわめて少ない、限られたものであるということでありますが、そういうふうに解釈するのですか。
  117. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 むろん協議でございますから、普通の場合の協議におきましても、お互いにそれぞれの国の意見を言い合うことであります。でありますから、日本としても率直に、こういう情勢に対してはこういうことをあまりアメリカとして考えるべきじゃないんじゃないかということは当然言えると思います。また言わなければならぬと思います。ただ、今お話しのように、交換公文におきましては、日本の基地を作戦行動、ことに戦闘の作戦行動に使います場合に、ここから飛び出していって、そうして戦闘行為に参加するというような問題につきましては、むろんわれわれとして、十分な事前協議によって日本意思をはっきりさせていかなければならぬということでございます。
  118. 河野密

    ○河野(密)委員 事前協議の問題と関連いたしまして、この条約の重要な点は、適用範囲の問題であります。この条約の適用範囲の問題は、先ほど私が指摘いたしましたように、この条約の四条によりますると、「極東における国際の平和及び安全に対する脅威」というふうに規定しておりまして、適用範囲が非常に広いのでありますが、この「極東における国際の平和及び安全に対する脅威」ということになりますと、私が指摘いたしましたように、米華、米比、米韓相互防衛条約の認めておるところの地域というものが、みんなこれに入ることになると思うのでありまして、いわばこの米華、米比、米韓条約というものと、この日米安全保障条約というものが、みんなこれは一環としてつながっておる。こういうふうに考えられるのであります。たとえて言うならば、米比条約では地域が太平洋ということになっております。米華条約によりますと台湾、澎湖島及び合意によるその他の地域となっておるのであります。こういうふうに米比条約によると太平洋が入る。米華条約によれば台湾、澎湖島その他合意による地域でありますから、大陸もこれに入る。こうなりますると、「極東における国際の平和及び安全に対する脅威」ということは、すべてこれらの条約に規定しておるところの地域というものと同じことになる、私はこう解釈せざるを得ないと思うのでありますが、この条約の適用範囲は一体どの程度に適用されると考えておるのか。お答え願いたい。
  119. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 今回の条約における条約地域というものは、日本の四つの島であることは申すまでもございません。しかしながら、極東の平和と安全というものが日本の平和と安全にうらはらであることも、これまた間違いのないことであります。従って、極東の平和と安全という事態に対して日本として無関心であり得ないこともまた当然だと思います。従いまして、それらの地域に何か起こりましたときに、日本の平和と安全に脅威を与えるか与えないかということは、当然われわれとしても考えて参らなければならぬと同時に、その極東の平和と安全というものが安定を欠くことは、われわれとして望み得ないことでありますから、そういう意味において、条約地域としての日本国、四つの島以外にそういう範囲内においてアメリカ軍が行動し得る場合があるということでございます。
  120. 河野密

    ○河野(密)委員 そういたしますと、条約地域というものは、日本の施政下にあるところの島々ということでありますが、しかし、実際問題として、アメリカ軍というものは極東の全域における平和と安全のために行動するということになりますると、日本に駐留するアメリカ軍というものは、これは米華、米比、米韓、SEATO、ANZUS、こういったようなものによって行動することが当然あり得る、こういうふうに考えておられますか、どうでしょうか。
  121. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 極東の平和と安全のためにアメリカ軍が行動する、あるいは今お話しのような米華、米韓、米比というような条約のもとに行動するということは、アメリカ自身の個別的な自衛という意味から言えばできるわけでありますけれども日本におります限りにおいては、やはり日本の平和と安全ということがまず必要でありますし、また、極東における平和と安全ということも必要であります。従って、それらの行動の場合においては、事前協議によりましてこれを制限していくというのが、今回の条約趣旨であります。
  122. 河野密

    ○河野(密)委員 そこで私は、今までの私の質問とお答えとを要約してお尋ねしますから、この通りならこの通りというようにお答えが願いたいと思います。  日本の施政下にあるところの領土に対して武力的な攻撃が加えられた場合においては、アメリカ軍もこれを防衛するところの義務を負うと同時に、日本もこれに対する協力をする義務を負う、私は、これは軍事的義務だと思うのでありますが、これはどうでありますか。それからその次に、沖縄、小笠原に対して攻撃が加えられたという場合においては、これは議事録によりますと、島民の福祉のためにとる措置協力する、これだけは書いてありますが、島民の福祉のためにとる措置協力するとは一体どういうことを意味するのであるか、何をやろうというのであるか。それから極東の全域は、今申し上げましたように、アメリカ軍は極東の全域にわたって行動するのであるが、この場合に、日本から出ていくアメリカ軍に対して、日本はただ基地を使わせるということだけで義務は足りるのか、それともこれに対して何らかの義務があるのかないのか、これを明確にしてもらいたい。さらに、極東の地域というものはどこにも明らかにしておらないので、将来この条約が適用された場合において、すぐこの問題に対して紛争を生することは火を見るよりも明らかだと思うのでありますが、この場合に、一体極東の地域というものを明らかにしなかったのはどういう理由に基づいておると考えておるのであるか。これはわれわれの考えによれば、この極東の地域というものを明らかにしないで、ばく然と極東ということをうたっておるのは、たびたび繰り返すように、アメリカ中心にして結ばれておるところの米華、米比、米韓相互援助条約というものを暗黙のうちに承認して、この地域全体を一つの極東の地域というものに含ませておるということになると思うのであるが、これはどうお考えになるか、これを一つお答え願いたい。
  123. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 日本におります米軍が攻撃されましたときには、日本の領土、領海、領空を侵さないで攻撃することはできません。従って明らかにこれは日本に対する攻撃だとわれわれは考えるわけであります。従って日本は自衛の措置を講ずることができるのであります。同時にアメリカはこれに対して援助をする義務を今回はしょっておるわけでございます。  また第二の御質問は、沖縄の場合に、今回沖縄人の福祉のために協力をするということはどういうことであるかという御質問だったと思いますが、沖縄を攻撃されましたようなときに、沖縄の人は日本人でございます。従ってこの人たちの幸福を願いますことは日本人としては当然でございまして、条約地域として日本自衛権発動して防衛をするわけには参りません。しかし沖縄住民に対してできるだけあたたかい気持を持って、そうして赤十字活動なり、避難をさせるなり何なり、沖縄人の福祉のために日本努力していくということは必要なことだと思います。でありますから、そういう際には協議をして、そういう沖縄住民の援護措置をやっていきたいというのが、われわれの希望でございます。  またアメリカ軍がこの基地を使います場合に、基地提供の義務以外には何もつけ加わったものはございません。極東の範囲というものは昔からいろいろに解釈されておりまして、はっきりいたしておりません。むろん現行安保条約においても極東という字が使われております。われわれは現行安保条約の極東ということを考えて参るわけでありますけれども、今日われわれとしてはフィリピン以北、日本中心にしたところが大体極東の地域だ、こういうふうに了解いたしております。
  124. 河野密

    ○河野(密)委員 こまかい点はまた同僚から御質問を願うことにいたしまして、その次に御質問したいのは、本条約の第三条において、自衛力増強の義務を負うということになっております。いわゆるバンデンバーグ決議を織り込んだバンデンバーグ条項といわれるものでありますが、この防衛力増強の義務というものが内政の上にいかなる影響を与えるかということが問題でありますが、一番大きな問題は、防衛力増強の限界を一体どうするのであるか。これは憲法のワク内とか、あるいは日本国力の許す範囲とか、国民生活を脅威しないとかいうようなばく然としたことでは、防衛力増強の限界というものが、条約の上に明らかにうたってある以上は、われわれはこれをそういうあいまいなことでごまかすわけにはいかないと思うのでありますが、一体憲法のワク内とはどの限界をいうのであるか、この国民生活を脅威しないというのは一体どういう限界を持つのであるか、これを明確にしてほしいと思います。
  125. 岸信介

    岸国務大臣 日本の憲法は、御承知のように、この自衛権を裏づけるに必要な最小限度の実力を持つということが許されておるだけであります。従ってこの憲法の範囲内ということは、われわれの自衛上、今申したような限度の範囲内でやるということであります。その範囲内でそれではどういうふうにやるかということは、国防会議においてきめております国情と国力に応じて漸増するという基本方針に従ってやるわけであります。従って国民生活の面との問題につきましては、常に予算の編成に当たりまして、われわれが国民の福祉なり、いろいろな生活安定のために必要な予算を、この国防力を増強するために減額してまでそれをやるというようなことは、これは国力、国情に応じてわれわれが漸増する基本方針に反しておるものであるという考えで、従来の通りのこの方針を貫いていく考えでおります。
  126. 河野密

    ○河野(密)委員 その従来の方針というものが少しもはっきりしないのでありますが、この問題はあとで一つ予算の問題のときに御質問を申し上げたいと思います。  そこで私は、安保条約全体に対する質問を終わりますについて総理に伺いたいと思うのですが、この安保条約を私は内容的に検討して参りまして、政府の御答弁をいただいても、これははっきりしない面が非常に多いのでありますが、それによりましてこの条約を判定いたしますのに、この条約によって戦争に巻き込まれる危険性というものが少しも払拭されておらないということだけは明らかであると思うのであります。ことに極東地域にあるところの、同じような安全保障条約に基づくところの米軍の義務というものが、日本に駐留する米軍によって行なわれる場合においては、これはわれわれが思いも及ばざるところにその影響を受けるということをわれわれは覚悟しなければならないと思うのであります。そういう意味合いにおきまして、この安全保障条約というものが日本の安全を保障するという点においては、われわれはむしろ逆な結果になることを危惧する面の方が非常に強いと思うのであります。その安全保障条約改定、しかも世界が二つの陣営に分かれて、一つの陣営に対して相互防衛条約を結ぶということは、もう一つの陣営を刺激するという時代において、なぜこの時点においてこの安全保障条約を結ばなければならないのか、改定しなければならないのか、この問題をわれわれとしてはどうしても氷釈することができない。これは寝た子を起こすと申しましょうか、寝た子を起こすような行動をなぜ政府はとらなければならないのか。平地に波乱を起こすようなことをなぜ政府はやらなければならないのか。極端に言うならば、これは岸総理の個人的なアンビションだということすらいわれるくらいでありまして、私はそれを信じたくはないけれども、この時節に、国民の側の中にこれだけ反対があり、国際的に影響力の多い条約改正を、なぜ今の時点においてやらなければならないのか。この点は私は国民がどうしても納得し得ないところだ、こう思うのであります。これは岸総理の一つ率直なる御意見を私は承りたいと思う。
  127. 岸信介

    岸国務大臣 御承知のように、現在安保条約が存在をしております。そうして現在のこの安保条約において米軍が日本の領土内に基地を持っておって、基地を中心として行動することは、一切アメリカの自由になっております。従ってこれに対して従来も、今河野委員の御指摘のように、アメリカ軍の思うままなる行動によって、日本がそのために戦争に巻き込まれるおそれはないか、従ってこれはどうしても日本のこの自主的な意思をその中に入れない限りにおいては非常に危険じゃないか、国民意思に反した行動アメリカ軍が勝手にとって、そうして日本が知らない間に戦争に引き込まれるような危険が現在の条約においてはあるじゃないかということがしばしば論ぜられたのであります。今回のこの改正によりまして、われわれは事前協議の対象として日本立場から、これが不当な出動である、適当でないと思う場合においては、ノーとこれを拒否して、そしてアメリカ日本意思に反して行動しないということを明らかにせしめることによって、今お話しの現行法が持っておる大きな欠陥を是正できるのであります。そういう意味におきまして、この問題の交渉の最初から、われわれは日本立場考え、また日本の地位から考えて、安全を保障するためには、やはり日本が立っておる自由主義の立場を堅持し、自由主義の国々と提携していくことが望ましいことであるという考えに立って合理的に改正するように、また今御指摘になったような事態をできるだけなくするという方向に向かって今日まで交渉をしてきたわけであります。この条約はあくまでも防衛的なものであって、われわれが侵略をされない限り、国連憲章にもとった侵略がない限りは防衛に関する規定は一切発動することのないことがきわめて明瞭であるこの条約をこういう際に改定して、そうして今言ったような、従来論ぜられておった危険性、あるいは核兵器を持ち込まないということを私がしばしば明言しておりますけれども条約上その根拠はないじゃないか、こういう点について、明瞭な事前協議の対象にして、われわれの意思を十分これに反映せしめるようにすることは一日も早くやらなければならぬことである、私はかように考えております。
  128. 河野密

    ○河野(密)委員 今のお話によれば、かかってやっぱり事前協議の拒否権の問題になるわけでありますが、この問題についてはまた同僚の委員から御質問をしてもらうことにいたしまして、今度の安全保障条約改定も含めて重大な問題は、日本防衛力増強の問題でございます。その防衛力増強の問題の一つとして、いわゆる戦闘機種の問題、FXの問題というものが三年越し日本の政界において論議されて参りました。国民はこの問題に対してぬぐうべからざる疑惑を持っておるのであります。  今私は国会の速記録を通じてこのFX戦闘機種問題の論議の跡を顧みてみまするのに、昭和三十三年の四月の十二日に、最高国防会議においてグラマンF11F—1Fを内定したことが発表されました。この内定に対して、昭和三十三年の八月二十二日に、衆議院の決算委員会が初めてFXの問題を取り上げて論議をいたしました。越えて九月の二日には、自由民主党の川島幹事長、河野一郎君、左藤防衛長官、廣岡国防会議事務局長等を証人として喚問をいたしまして、決算委員会において論議をし、九月九日には岸総理自身もこれに出席をされて、この論議に答弁をされておるのであります。自来約十カ月間、いろいろの経緯がありました。その経過は省略いたしますが、昨年の六月十五日に至って、国防会議は、一たん内定した戦闘機種の問題を御破算にして白紙に戻すことになり、新たに源田空将を団長とする調査団を派遣いたしまして、その報告に基づいて、昨年の十一月六日、ロッキードF1〇4と決定した、こういう経過をたどっておるのであります。  ここで私は岸総理並びに防衛長官に御質問するのでありますが、昭和三十三年四月十二日に、国防会議においてグラマンF11F—1Fを内定したときに、大蔵省、防衛庁等においてもっと慎重に調査すべきであるという議があったにかかわらず、国防会議において、急いでこれを内定したのは、いかなる理由によって行なわれたのであるか、これをお尋ねいたしたいのであります。
  129. 岸信介

    岸国務大臣 FXの問題、いわゆる次期戦闘機の問題につきましては、第一次国防計画のうちにこれが定められておりまして、従来用いておりましたF86の生産の工程が大体終わる時期に新しい次期戦闘機の機種の生産を始めることが最も望ましい状態であったのであります。従って、そういう意味におきまして、いろいろな資料について、その当時問題になりましたF1〇4やあるいはグラマンのF11というようなものをいろいろな点から検討をいたしまして、当時グラマンに内定をしたのであります。しかしながら、それは決して機種の最後の決定ではなくして、一応内定して、それに関してさらに詳細な数字やあるいは材料を整えて最後の決定をしよう、しかしそれを整えるためには一応内定することが望ましいということで、当時内定という形をとったのでございます。
  130. 河野密

    ○河野(密)委員 その一たん内定したグラマン機採用が、国会の中で取り上げられました。その国会の中で取り上げられたことについては、野党側よりもむしろ与党側においてこれが熱心に取り上げられたと思うのであります。その論議の経過については、私は速記録を持っておりますが、一々は申し上げませんけれども、その論議の結果、これは一たん白紙に戻す。われわれはその論議の過程を通じて、おそらくこの次の戦闘機の機種はロッキードに決定されるであろうと予想したのでありますが、はたしてその通りにロッキードに決定された。源田空将をアメリカに調査団として送って、その源田空将の報告書の検討をした。その源田空将の報告書の検討は僅々二時間しかやっておらないとのことであります。二時間の検討で急いで十一月六日にロッキードF1〇4と決定した。一体政府は、この間において、どういう考え方によって一たん内定したものを白紙に戻し、卒然としてその報告書に基づいてロッキードと決定されたのか、承りたい。
  131. 岸信介

    岸国務大臣 グラマン機に内定した当時におきましては、まだグラマン機もあるいはロッキード機も十分開発されてはいなかったのであります。いろいろな点がなお夫決定であったのであります。その後においてロッキードの1〇4が正式にアメリカ空軍において採用され、また西ドイツ等におきましてもこれを採用したというような国際的な事情もあり、また開発されておらなかったものが現実に開発されており、いろいろな理論的な数字も実際の数字としてわかるような状況になってきたのであります。従って、こういう事態のもとに、前の内定を、ただ内定をしたという理由だけでもって推し進めることは、こういう重大な問題として適当でない。どうしても飛行機の問題については、専門家が現実に乗ってみて、また現地について、現物について、あらゆるデータを調べ上げて、そうして、どの機種がFXとして日本に最も適当であるかということをきめるのが一番よろしいという結論に達しましたから、一応内定を白紙に還元して、そうして源田空将を団長とする最も権威ある調査団をアメリカに送って、そして問題になるロッキードやグラマン、その他の新しい機種につきましてもことごとく実際に搭乗し、操縦してみて、またいろいろな機種の性能等につきましても、現地について生産の工程にもついて調べる。そしてその結論を得て、これにきめるという方針を昨年六月にきめたわけであります。そのときに、こういう問題は、言うまでもなく政治的にきめるべき性質のものではなくして、純粋に、そういう専門家のほんとうの検討に基づいて、正確なる技術的な、科学的な根拠によってこれは定むべきものである。従って、この調査団を編成するにあたりましても、その人選について大いに意を用いると同時に、その調査団の調査は、これを尊重して最後の機種をきめるという考えのもとに白紙に還元したのであります。従って、源田空将が参りまして、あらゆる点から相当長きにわたって、いまだかつて国際的にもないような精密な検査なり調査をした、その調査の結果に基づいてこれをきめたわけであります。
  132. 河野密

    ○河野(密)委員 この戦闘機機種決定の問題については、国民の大多数はきわめて割り切れない疑惑の感情を持っておるのであります。単に国民が疑惑の念を持っておるばかりでなく、政府与党の中にも疑惑の念があるのであります。自民党の総務の早川崇君が十二月二十一日の読売新聞紙上において「ロッキード採用の疑点」と題して「次期戦闘機の問題については、率直にいって遺憾ながら国民は疑惑を持っているように思われる。」こういうことを書いておるのであります。われわれが疑惑を持っておるばかりでない。与党の総務すらこの点について疑惑の念を持っておるのでありますから、国民がこれに疑惑の念を持つのは当然だといわなければならぬのであります。私は、まず国民の素朴な考え方から政府の答弁を求めるのでありますが、政府が機種選定にあたって最後に残ったものはグラマンF11F—1F、ノースロップN156F、ロッキードF1〇4C、コンベアF1〇6と、こういう四種類である。これは赤城防衛長官国会でたしかそう言っておると思うのでありますが、こういうふうにものがしぼられてきたわけであります。これらの機種につきましては、われわれもとよりしろうとでありますが、それぞれ一長一短を有して、必ずしも一つが絶対的である、これが絶対であるというふうには考えられないものであると思われるのであります。従いまして、これらの商社の日本防衛庁に対する売り込み競争というものは実に激烈なるものがあったのであります。あるものはわれわれのところに印刷物を送ってき、あるものはいろいろな比較表を送ってくるというようなことでありまして、非常な激烈なる競争が行なわれた。私が甲乙つけられないと申しますのは、たとえて申しまするならば、グラマンF11F—1Fは音速の一・八倍の速力を持っておる。しかしこれにはFCS、ファイア・コントローリング・システムにおいてはAER〇13というすぐれたものをつけておる。ロッキードF1〇4Cは音速の二倍の速力を持っておる、余剰推力も持っておる。しかし、それにいわゆる射撃管制装置、FCSはナサールというややAEROよりもつ劣ったものをつけておる。たとえばアメリカが最近採用したといわれるコンベアF1〇6は音速の二倍の速力を持っておるが、これもまた同時にMG1〇、MA1というようなファイア・コントロール・システムを持っておる。こういうように比較して見まするのに、いずれが絶対的であるというようなこういうあれはないように見受けられるのであります。従いまして、この間におけるところの売り込み競争は実に激烈をきわめておる。その間にあって、あるいはグラマンと決定し、あるいはそれを国会の論議があったからといってロッキードに豹変する、あるいはコンベアがいいのだという議論をなすというがごときことであるといたしますと、われわれはその間において非常な疑惑の念を持たざるを得ないと思うのであります。  この際に、私は政府に伺いたいのでありますが、この機種決定の間における政府並びに与党に対して疑惑の念を国民が持っておるといたしますならば、これをいかにして払拭されようとするのであるか、政府はこれに対していかなる態度をもってこの国民の疑惑にこたえられようとするのか、この点を明確にお答え願いたいと思うのであります。
  133. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 今おあげになりました機種について、それぞれ一長一短のありますことは、御説の通りであります。ただ日本の地利的条件、防空の組織、こういう点から考えまして、いろんな点がありますが、速力、上昇力あるいは余剰能力、また価額の点もありますが、そういう点からロッキードF1〇4Cを日本型に改造して採用するということが最も適当だ、こういう結論に達したわけであります。この間におきまして、国民の疑惑とかいろいろな議論がされたことは御説の通りであります。そういう議論あるいは疑惑がありますので、これは先ほど総理が御答弁申し上げましたように、今、しろうと論議とか、あるいはまた机上において論議するとか、あるいはまた日本において集めた資料のみで決定するということは早急ではないか。それよりはドイツにおきましても、あるいはカナダにおきましても、現地に権威ある調査団を派遣して、実機について操縦し、また機械等の検討等も加えて、その結果を尊重する。これが国民の疑惑を除くゆえんであります。そしてまた公正妥当な決定である。こういうように考えましたので、昨年の八月に白紙還元いたしましてから、先ほど申し上げたように源田調査団、パイロットそのほかに三人、技術者が二人でしたか、そのほか民間からも三人、こういう調査団を編成して、その調査団の実地についての操縦、それから緻密なる検討、こういうものを九十日近くにわたって検討した結果の結論を尊重いたしたわけであります。私は、そのことによって国民の疑惑は、これは公正に決定したのだということで除ける、こう信じてやったわけであります。しかしながら、その後におきましてもいろいろまだ氷解してない点もあるようであります。それにつきましては、私どもはその詳細につきましていろいろ御質問にも答え、あるいはその他の文書等によりまして国民の了解を得るように現在でも努めておる次第でございます。
  134. 河野密

    ○河野(密)委員  われわれのみならず、国民が一番疑問に思うことは、これに対する疑いの言葉を発しましたのは、疑惑の念を持ち始めたのは与党そのものであります。与党の内部から火の手が上がった。これが国会を通しまして、いろいろ論議をされ、その論議が中途半端になったままで、いつの間にかグラマン戦闘機がロッキードということに変更になり、そうしてなるほど今仰せの通りに、九十日にわたる調査というものは行なわれたでありましょうが、しかしそれならば、四月の十二日に決定した決定というものが非常に軽率であったのか、十分なる調査を進めないで卒然として内定したのであるか、こういう問題も起こる。さらにそれならば、なぜその問題が国会で論議された場合に、徹底的にこの論議を明らかにすることなしに、そしてしばらくの間決算委員会も開かれないというような状態のもとにおいて、ロッキードということに卒然として変えたのであるか。これらの問題については、われわれとしてはどうしても納得がいかない。われわれが納得がいかないばかりでなく、国民もおそらく納得がいくまいと思うのであります。私は源田空将の調査そのものには敬意を表します。敬意を表しますけれども、しかしその前提となった問題については、赤城長官の言であるけれども、その問題はわれわれとしては依然として疑問が残ると思うのでありますが、どうでありますか。
  135. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 三十三年の四月にグラマンに内定いたしました。その当時におきましては、防衛庁といたしましても、十分に資料を整えて、グラマンが適当ではないかということで内定いたしたのでありますけれども、先ほど総理が答弁いたしましたように、これを決定にまで持っていくのには、なお調査の不十分なところがある。こういうことで内定をいたしておったわけであります。ところがグラマンのF11F—1Fという、これはもともと艦上機でありますが、陸上に改装されたものが二機できたままでずっとあったわけであります。一方ロッキードの方におきましても、F1〇4Aという飛行機が開発中でありまして、その後新しい型のF1〇4Cというものが出てきて、アメリカの空軍にも採用された、こういう事態に立ち至った。また一方におきまして、先ほど申し上げましたように、現地において調査をして決定するという方法を、ドイツあるいはカナダにおきましても採用しているということでありますので、国民の税金をもってまかなうものでありまするから、十二分に慎重にこれは決定した方がよかろう、こういうことで白紙還元したわけであります。  それからもう一つ申し上げておきたいことは、グラマンに内定いたしましてからも、実は防衛庁内の佐薙空幕長なども、ぜひパイロットを向こうへ出して実地に乗せてみたいという考えは持っておった。これはそう言っております。しかし、非常に性能のすぐれた戦闘機を試乗するといいますか、乗りこなせるのかどうかという疑問が、まだ当時においては残っておった。こういうことで現地にパイロットを出して操縦するということが行なわれなかったわけであります。そういうふうな事情から、先ほど申し上げましたように、現地について検討を加える、しかも権威ある調査団で検討を加える、これが何よりも国民の疑惑を払拭する道ではないか、そしてまた公正妥当な機種決定の方法ではないか、こういうふうに考えておったので、そういう手続きをとったわけでございます。
  136. 河野密

    ○河野(密)委員 国民の疑惑の一番大きい点は、これは価格の問題であります。グラマン機におきましても、グラマン機を決定する前後から、だんだんと価格が上昇しておりました。これは防衛長官御存じの通りでありますが、ロッキードについてもその価格はだんだんと値上がりをしております。最初ロッキード社の出した見積もりによると、一機の価格が七十九万ドルということであったのでありますが、これを日本的に改装して、F1〇4Jとして国産化する場合においては、当然単価の上昇を見るといたしましても、このロッキードに積載のできる、先ほど申し上げましたナサールよりも、グラマンに積載するところのAER〇13というFCS、射撃管制装置というものの方が性能がすぐれておるというので、このAER〇13を装備しても、百七万ドルで国産化できるというふうに言われたのであります。しかるにその後だんだんと価格は上昇しまして、政府当局も百二十万ドルということを言ったこともあるし、百十五万ドルの線でやりたいというふうにも述べておられました。その後アメリカから使節団が参りまして、交渉した結果、折衝で決定した額は、一機百十二万ドル、部分品を含めて百三十四万ドルと聞いておるのでありますが、これはその通りでありましょうか。予算的に見ましても、二百機約九百六十八億でありまして、このうちの六百九十八億が、いわゆる予算外国庫の債務負担行為として計上されておるのでありますが、こういうように、だんだんと値上がりしてきておるのは一体どういうことであるか、その点を一つ明白にしていただきたい。  先ほどからお話のありますように、ロッキードは日本だけではない。西ドイツで六百六十機、カナダで二百機、オランダで二百機、ベルギーで百五十機、それに日本が二百機、このロッキードを注文することになっておるそうでありますが、この大量生産によった場合において、この戦闘機一機の値段というものは相当に値下がりをするように私は聞いておるのでありますが、一体だんだんと値上がりをしてきておるのはどういう結果であるか、これを明白にしていただきたい。
  137. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 筋道は今お話通りであります。一昨年の八月でしたか、ロッキードの見積もりが七十九万ドルであります。しかしこれは国産するという前提でなくて、ロッキード社だけの見積もりでありますので、これを国産するというようなことで計算したものが、机上の計算でありますが、先ほど御指摘の百七万ドルであったわけであります。その後昨年の八月でしたか、その白紙還元するころであります。そのころはやはり百十何万ドルであります。それから昨年採用する前に、私どもはロッキードを採用するとか、グラマンを採用するとか、コンベアを採用するとかいうことをきめておったわけではございません。しかし、調査団がどういう結果を持ってくるかということに対処するために、各機種の価格を調査いたしました。この調査は、私ども自身で調査をするよりは、第三者の方に依頼をして、それで公正な調査をしてもらった方がよかろう、こういうことで調査を依頼しました。そのときの価格は大体百三十万ドルであったわけであります。こういう変化を来たしております。それで最終的な百三十万ドルを基礎といたしまして、決定後価格の折衝をいたしたわけであります。その価格の折衝におきまして問題になりますのは、国産化率の問題であります。御承知のように、向こうから買うといたしますならば非常に安いわけであります。しかし、国産するということになりまするならば、ある程度これは高くなります。しかし国産することによってアメリカの援助もMSA協定によりましてあるわけであります。そういうことでありますし、また日本の航空産業の関係もありますので国産化する、その国産化の率によっても価格は違ってくるわけであります。それからいろいろな費用をなるべく低めていくように交渉を進め、あるいはまた今申しりたようにナサールにFCSをかえる、これは少し上がりましたが、そういうように上がる条件、下がる条件というものをしさいに交渉いたしまして、昨年の十一月でしたか、大体一機当たり百十五万ドル、こういうことになって、それを基礎といたしましてアメリカ側と折衝をいたしまして、ことしの一月に向こうから折衝団が参りました。そうして折衝団と一緒にこの価格の点を交渉して、今のところ百十二万ドル、ここまで下げ得たのであります。これはドイツあるいはカナダ、最近におきましてはオランダ、ベルギー、こういうところにおきましてもロッキードのF1〇4Cが採用されるということになっておりますので、そういう生産の条件等も考慮して価格の中に入っているわけであります。その点から、百十二万ドルになったということは価格が上がってきたということではなくて、私どもからいえば、価格を相当程度下げてきた、こういうふうに考えておるわけであります。
  138. 河野密

    ○河野(密)委員 今度入れる日本型に直したF1〇4Jには練習機が二十機あるはずであります。この練習機はF1〇4Dであるというのでありますが、このF1〇4J、それからF1〇4D、この両方とも同じ価格でもって買うことにしてあるのでありますか。予算に計上してあるとすれば非常に不思議だと思うのでありまして、練習機の価は幾ら、それから戦闘機百八十機の値段はどうか、これを一つ明確に示していただきたい。
  139. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 今度二百機を生産するうちで、二十機は御説の通り練習機であります。この練習機は国内では生産はいたしません。向うから買うことになっています。でありますので、輸送のために解体されたものを日本で組み立てする、こういうことになっております。日本で純粋に国産をしていくのは百八十機ということになっております。その一機当たりの価格は、今資料をここに持っていませんから、後日申し上げたいと思います。
  140. 河野密

    ○河野(密)委員 練習機、それから練習機以外のものと込みで予算に計上してあるのですか。込みで予算に計上するというのは不当ではないかと思います。一機当たりの単価の違うものを、明確にしておいていただきたい。
  141. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 予算におきましては、練習機の二十機と戦闘機の百八十機とを平均した価格を二百にかけて出ておると承知しておりますが、なお詳細につきましては政府委員から説明いたさせたいと思います。
  142. 河野密

    ○河野(密)委員 練習機の価格と戦闘機の価格は、明確に単価を出してもらいたいと思います。
  143. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 単価はわかっております。練習機F1〇4Dは百四万八千四百ドル、F1〇4Jは百十二万八千ドル、平均して百十二万ドルということであります。
  144. 河野密

    ○河野(密)委員 ロッキードの価格の問題については、なお同僚から質問をすると思いますから、その点は同僚の質問にゆだねますが、このロッキードの調査に源田空将が調査団長として行かれましたが、この調査団長の源田空将が述べた言葉の中に、こういう一節があります。「渡米して一番気を使ったことは、なるほど今度は日本人が行って自分で決定したんだけれども日本が出したのはわれわれのための旅費だけなんです。飛ぶ飛行機もアメリカのものだし、われわれにいろいろサービスしてくれる向こうの空軍の人あるいは会社の人に対する報酬も、日本からはびた一文も出していないんですね。そしてアメリカがわれわれの調査のために使った金は、日本が出した旅費の数倍にもなっているんです。」こういうことをある座談会で言っておるのであります。先ほど申しましたような重大な決定をする調査団の費用というものを一体幾らお出しになったのですか。こういうようにアメリカにすべておぶさって調査するというような調査であったのですか。
  145. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 調査団の費用として一千万円を支出いたしております。
  146. 河野密

    ○河野(密)委員 しかし、一千万円の費用というのは旅費にかすかす充当できるだけであって、調査その他のものの費用はもうみんなアメリカ側の負担である、こういうあれでよろしいのですか。
  147. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 調査団の費用一千万円は、旅費、宿泊その他調査の費用でありますが、アメリカ軍の協力を得て調査するということになりましたから、宿泊あるいは飛行機の借り料といいますか、そういうような入っていない部門があるかもしれません。
  148. 河野密

    ○河野(密)委員 とにかくこれだけ重大な問題を決定する調査団の団長が、旅費だけでもって自分たちはほかに何にもないんだからというような、向こう持ちの調査をしたような結果というのは、私は非常に遺憾であると思うのであります。これは一つ十分に御調査を願いたいと思うのであります。  さらにその次に、この安保問題と新戦闘機機種選定の問題との連関性についてお尋ねをしたいと思うのでありますが、安保条約にバンデンバーグ条項があることは、当然防衛力の増強を義務づけるものでありますが、今度の戦闘機種の採用も当然その一環として考えてよろしいのか。大蔵大臣は、今度の戦闘機の買い入れは第一次防衛五カ年計画の残部である、こういうことを言っておりますが、もしこれが第一次防衛五カ年計画の残部であるとすれば、第二次防衛五カ年計画というものはどういう構想に基づいて、何を中心としてやられようとするのか、これをまず承りたいのであります。
  149. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 次期戦闘機の採用は、安保条約と直接関係はありません。お話しのように第一次三カ年計画であります。三カ年計画におきまして、陸海空三自衛隊の計画を国防会議の議を経て決定いたしております。その中で航空機は千三百機ということになっております。その中に含まれた百八十機及び訓練機二十機の次期戦闘機の採用であります。でありますので、第一次計画の中のものとしてですから、三十三年ごろから論議されておった問題であることは御了解願いたいと思います。しからば第二次計画はどうなのか、こういうことであります。第一次計画は三十三、三十四、三十五と、この三カ年間で一応結末がつくわけになっておりますけれども、その第一次計画の中におきまして、あるいは第一次計画を変更しなければならぬものもあるし、あるいはまたこれを延期してあとへ繰り延べるものも出てきておるわけであります。でありますので、三十六年度を初年度とする第二次計画を私ども立てたいと思っております。それにつきましては、実は三十五年度を含めて、三十五年度を初年度として、三十五年度から昭和四十年までの六カ年の第二次計画というものを検討してきておったわけでありますが、しかし、三十五年度はすでに予算も提案しておるということでありますから、三十五年度を起点として第二次五カ年計画を作りたい、こう考えております。でありますので、前に計画いたしました六カ年計画は、これは変更することに相なるわけでございます。その構想等につきましては、まだ国防会議に提案するまでの段取りにいっておりませんので、今申し上げる時期には達しておりませんけれども考え方といたしましては、できるだけ装備の近代化をはかる、そしてまたこの装備等につきましても、三自衛隊それぞれ効率化をはかっていきたいということをねらいといたしております。それからまた三幕の調整等も考える。それにおきまして、陸海空それぞれ計画を今検討中でありますが、先ほど申し上げましたように、まだ国防会議に提案するまでにいっておりませんので、今詳細申し述べる段階には達しておらないわけでございます。
  150. 河野密

    ○河野(密)委員 安保条約は、先ほど来総理が言われたように、防衛的なものであるというのでありますが、この戦闘機種の選定も、当然この時期において行なわれるとするならば、この安保条約の、政府考えるような純防衛的なものでなければならぬと思うのですが、ロッキードF1〇4Jというものがはだして防衛的なものであるかどうかということが問題になると思います。現在アメリカの空軍では、ロッキードF1〇4というものは防空空軍、ADC、エア・ディフェンス・コマンドの中からはずして、戦術空軍、いわゆる基地をたたく空軍、相手のエア・べースをたたく空軍の中に編入されているとのことであるけれども、そうであるとするならば、これは日本でいう防衛的なものということに、このロッキードの選定というものが相背馳するように思われるがどうであるかというのが私の質問であります。アメリカの空軍は、言うまでもなく戦略空軍、戦術空軍、防空空軍、輸送空軍というのに分かれておりまするが、今まではロッキードのF1〇4というものは、防空空軍、ADCというものに所属しておったのに、現在は戦術空軍、相手の基地をたたく空軍、いわゆるTAC、タクティック・エア・コマンドというものの中に所属させられておる。日本に来ているアメリカの飛行機は、大体コンベアにかえられつつある、こういうふうに言うのであります。それが日本において、しばしばすでにロッキードはスクラップ化されたじゃないかということの議論であると思いますが、私はスクラップ化されたとかいうようなことには同調はしませんけれども、しかし少なくとも、このロッキード機種の選定、F1〇4Jというものが、今言う防空的な目的にはたしてかなうものであるかどうか、こういう純防衛的なと言われる政府の言葉を、事実の上において裏切っておる行為ではないか、こういうふうに思われるのですが、これはどうですか。
  151. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 アメリカにおきまして、戦術、戦略、防空、輸送、こういう空軍があることも御指摘通りであります。それからロッキードF1〇4Aという旧型が、今まで防空空軍に編入されておったのでありますが、昨年の秋ですか、暮れですか、戦術空軍に回されました。日本で採用することにいたしましたF1〇4Cは、初めから戦術空軍に入っておって、何ら変更はないわけであります。ところでこういう戦術空軍は敵地等を爆撃するものじゃないか、こういうことでありますが、敵地爆撃というようなものは戦略空軍に入っておるわけで、日本で採用し、日本に改造しようというのは、もっぱら迎撃機、迎え討つ戦闘機として1〇4Cを採用することにいたしたのであります。従って迎撃用あるいは地上の作戦にも協力いたします。あるいは偵察等もいたしますけれども日本の財政上の都合もありますし、日本防衛というものがもっぱら外へ出て攻撃するというようなことではない趣旨に沿うた機種として採用し、そういうことに改装もいたすわけであります。それから日本に来ておりますコンベアー1〇2というのは、全天候性を持っておりますので、日本に全天候性のあるコンベアをアメリカからよこしてきておるわけであります。F1〇4Cは全天候性でないわけであります。繰り返して申し上げますように、迎撃機としての機能を十分に発揮する、こういうものとして採用し、またそういうものとして改装していく、こういう建前で進めております。
  152. 河野密

    ○河野(密)委員 時間がないそうですから、あと簡単に一つ、二つお尋ねをいたしたいと思いますが、このロッキードのF1〇4Jというものは、これが具体的にでき上がるのは昭和三十九年になるわけでありますが、最近の世界情勢はそれこそ科学の進歩に応じて、いろいろな兵器というものが次々に出て参ります。国民がこの間に対して非常な危惧を持っておりますのは、せっかく莫大な金を使ってこういう戦闘機種を選んでも、これができ上がるころにはもう時代おくれになってしまって、何らの役に立たないのじゃないか、そういうものに金を使うことが、はたして何の意味があるのだ、こういう問題であろうと思います。  最近速力の早い爆撃機が出ておる。きょうの東京新聞にもそのことが論じられておりますが、アメリカではB58という音速の二倍の速力の爆撃機ができておる。またB7〇はいわゆる音速の三倍、三マッハの速力を持つ爆撃機として誕生しようとしておる。一方にはICBM、IRBM、飛行機から発射するALBM、こういうものが具体化しようとしておるときに、中途半端なジェット戦闘機というものに対して莫大な国費を費やすことがはたしてどれだけの意味があるか、こういう問題が、国民の非常に大きな疑問とするところであります。この点について防衛庁では一体どう考えておるであるのか。この防衛力増強ということが、実際においては何らの役に立たないものにむだな金を費やす結果になるのではないか、究極兵器が発達した今日においては、防衛とかいうような問題について安全保障条約全体についても考え直すべき時期に来ておるのではないか、こういう問題でありますが、これに対する防衛長官の見解を承わりたいのであります。
  153. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 お話のように、アメリカの爆撃機B58、こういうものも試作は終わっておるようであります。またB7〇、これも第一期の完成が三年後でありますが、作戦用として配備されるのはなお四、五年たつわけであります。こういうような高速の爆撃機ができておるということに対して、二マッハ級のロッキードのような戦闘機は役立たなくなるのじゃないか、こういうことでありますが、昭和四十年の一月までにロッキードの日本の国産が完成をするわけでありますが、そのころまでにこういう爆撃機が出現するという予想、ある程度の見込みは持てますけれども、そういうものに対抗いたしましても、この日本で国産する爆撃機が有用でなくなるということは全然ない、こういう立場に立って私ども考えておるわけであります。  もう一つは、今御指摘のように、ICBMとかIRBMとか、こういうような長距離あるいは中距離弾道弾が出現して、これに対抗することはできないじゃないかという、これは大陸間弾道弾とかあるいはまた中距離弾道弾とかいうものに対抗する措置はもちろんできません。しかし、そういうものが日本に使われることがかりにありとしますならば、これは全面戦争世界戦争になるときだと思います。私はそういうことはあり得ないと考えております。もしありといたしますならば、そういうものに対しましては、やはりアメリカの報復力、こういうものが役立ってくるのではないか、こう考えております。  それから第三番目におきましては、有人機でなくやはり地対空のミサイル、こういうもので装備するのが至当ではないか、こういう御意見であります。これは世界的に見ましても、地対空等のミサイルに有人機がかわりつつある、こういう傾向であり、そうなくてはならぬというふうにも考えております。しかしながら地対空のミサイルというものができたから、有人機というものは全然不要になるということには相なりません。こういうふうに考えております。それはやはり地対空のミサイルというものは相当有効な防空装備でありますけれども、弾力性がないといいますか、方々へ移動することもできません。偵察等の機能も発揮できません。でありますので、この二マッハ級の戦闘機というものはミサイルに移行する傾向がありといたしましても、相当の年月必要なものであり、ことに日本にとっては必要だ、こういう観点に立って採用いたしておるわけであります。
  154. 河野密

    ○河野(密)委員 時間がなくなりましたから、最後に大蔵大臣にお尋ねをする項目を一つ、二つ申し上げたいと思うのであります。昭和三十五年度の予算編成方針は、健全財政を堅持して、財政面から景気に刺激を与えることを避け、通貨価値の維持と国際収支の安定を確保すること、こういう基本方針を定められております。これは私は間違っていないと思います。そのよって立つ根拠は、日本の経済の現状はきわめて微妙な段階にある、過去の経験によって経済の過熱は避くべきである、国民総生産は一五%の増を示しておる、こういうようなことを土台といたしまして、右のような方針をきめられたと思うのであります。しかるに昭和三十五年度の予算を見ますると、まず問題にすべきものは予算の規模でありますが、一般会計予算において千五百四億円昨年に比してふえております。これが一〇・六%。財政投融資が七百四十三億円増になっております。一四・二%の増。それからこれに三十四年度の補正に回した分が百三十九億あります。防衛費の債務負担行為、これが千四十九億あります。戦闘機分の七百四十一億円を含めまして防衛関係で千四十九億。これだけでも相当に大きい予算の膨張でございまするが、そのほかに国債費を二百七十九億円減らしております。これは目に見えない一つの予算のふくらまし方であります。さらに賠償費を八十三億円減らしております。これも目に見えない予算のふくらまし方であります。でありまするから、実質的な規模というものは、予算の面の一兆五千六百九十六億というようなものよりもはるかに大きくなっておることは、これは言うまでもないのでありますが、こういう予算を組まれて、公債財源によらないからといってこれは一体健全財政と言えるであろうかどうか。これが私の第一に疑問とするところであります。  昭和三十五年度の政府対民間の関係は、大体千八百億の散布超過というようなことであります。前年度、三十四年度の二千二百億以上の散布超過に比して少しくそれは少なくなるような見込みでありますが、私はこの前年度の今申し上げたようなこういう数字から見ましても、散布超過は相当大きくなると思うのであります。さらに自然増収の見積もりが、これはしばしば問題となりまするように、二千百五十三億租税において見積もっておる、専売納付金において百六十二億円の増を見積もっておる、こういうようなことでありまして、この財政の立て方を見ますると、われわれはこの財政によって、一体どういうことが起こるだろうかということを頭の中にまず描くのであります。この財政は政府がしばしば国会の壇上やその他で言われるような、手放しで楽観すべきような状態をはたして導くであろうかどうか、さらに為替貿易の自由化ということが問題となっておるこのときにおいて、はたして日本の経済を強化するに役立つところのものであるかどうかということは、これは国民のひとしく疑問とするところであると思うのであります。大蔵大臣のこれは単にかけ声だけでなく、率直にどう考えておるか、これを一つ伺いたいと思います。
  155. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 ただいま、ことしの予算は中立予算でなく、非常に積極性のある予算じゃないか、こういうことで現状経済に対して十分まかない得るかというお尋ねであったと思います。  ところで、ただいまおあげになりました項目そのものにつきまして、私意見があるのであります。まず第一の総予算の一兆五千六百九十六億、財政投融資の五千九百四十一億、これが前年度当初予算に比べまして、御指摘のように二千二百四十七億増である。この二つの増がはたして過大であるかどうかということをまず申し上げてみたいと思います。  ただいま、さらに第三次補正も加えるべきだという御議論をなさいましたが、第三次補正は三十四年度内に出すものでありますし、災害復旧費を除きましては、これは生産的なものであったり、あるいは義務的なものでございますので、これはまず三十五年度予算の場合には除いて考うべきではないかと思います。また、債務負担行為、FXの債務負担行為を全額をおあげになりましたが、このうちでFXの分はまず除くのが適当じゃないか。と申しますのは、三十六年度以降におきまして、まずFXは最初の飛行機ができるのではないかと思いますので、予算化いたしますのは、幾らをするかということは別でございますが、FXに関しては、三十六年度予算で頭を出すことになるだろうと思います。さように考えますと、通常の債務負担行為、建艦その他の関係です。普通毎年やっております二百億をこす前後のものです。まずそういうものが、これは適正かどうかという問題になるのでございますが、これは大体例年よりか少ないように思いますので、この点はあまり問題にならない。  また国債償還の問題についてのお話がございましたが、これは御承知のように、剰余金の二分の一を積み立てることになりますので、これは当然剰余金が少ないと減って参るのでありまして、これは故意に減らしたわけではございません。従いまして、これらの点、それからもう一つは、賠償の問題は前年度繰り越しのものがございますので、本年は減っておるわけでございます。これも故意に減らしたわけではございません。  ところで、問題になりますのは、以上の点を御理解いただきますと、予算と財政投融資、この二つが一体国民総所得に対してどういう割合になるか、そこでその規模が適正かということを判断していただきたい、かように思いますが、予算が国民所得に対する割合は、三十四年度の場合は、当初予算は一五・九%でございました。補正の場合にもこれが一五・五%、ところで三十五年度は、国民所得に対して予算の方は一五%でございます。これは三十四年よりも予算が小さい。また財政投融資を加えた場合にどうなるかと申しますと、三十四年度の際は二一・六六%、これは当初予算であります。しかし今回の三十五年度予算は二〇・六八%、だから、三十四年のときよりも財政投融資を加えた国民所得に対する割合は小さいのであります。この意味におきましても、三十四年の規模よりも今回は小さい規模を計上したということになるわけであります。さらにまた、この予算、財政投融資、それにさらに特別会計のもの、各公社関係の予算でありますとか、あるいは地方財政等を加えたいわゆる政府の財貨サービス購入の伸びというものを見ますと、三十五年度は大体八・五の伸びであります。これは三十四年度の伸び率は八・七であり、国民総生産の伸びは六・一である。ことしは八・五で、しかも所得の増は八・一だ、実はこういう比率が出て参るのであります。これらの点から申しまして、私は今回の予算は適正な規模、かように実は考えておる次第でございます。
  156. 河野密

    ○河野(密)委員 今のように国民所得に対する比率とかいろいろな数字をあげてみますと、なるほどそのように計算はできるのでありますが、私は経済に対する見通しというようなものは、勘の問題だと思うのであります。はなはだあれを申し上げて恐縮ですが、私はこの予算がどういうことになるかということは、これは一つは勘の問題だと思うのであります。私は、この前池田大蔵大臣が、一千億減税、一千億施策と言って大みえを切られたときにも、私はこの国会の壇上において警告を発しましたが、そのときには私が申し上げた通りになってしまった。私は、今日大蔵大臣が数字をあげていろいろお話しになりますが、これは勘の問題だと思います。勘の問題というと、少し神秘的になりますけれども、私はそう思う。これはなぜかと申しますと、政府の予算をずっと私が見まして、時間がありませんから、詳しくは申しませんが、大体今度の予算の柱というものは、二本の柱だと思います。一つはいわゆる防衛費に対する債務負担行為、これはとにかく今すぐは問題にならないにしても、これが一つの大きな柱である。もう一つは、何といっても土木事業であります。私の計算したところによりますと、一般会計、特別会計、それから政府関係機関、これらを通じまして予算に計上されております土木事業が、これは重複したものを除けばいいのですが、重複したままで計算してありますが、七千六百五億、こういうのが予算に計上されております。この七千六百五億の土木がとにかく昭和三十五年度の予算になって、大きな柱としてこれを貫いておるわけであります。この土木事業がどういう影響を持つかということを考えてみれば、私はこれはインフレ的な要因というものは相当顕著に現われてくるだろう、こういうふうに考えられるのであります。そういう点を見まして、しかもこの土木事業が前年に比べてどれだけふえておるかというと、千四百五十九億ふえておる。七千六百五億円の土木予算で、前年に比べて千四百五十九億というものがふえておる。私はこれをもってして、この予算の運営というものは容易ならざる要素を含んでおる、私はそう考えるのであります。あの高橋大蔵大臣が、景気か不景気かというのを見るときに、いろいろな数字をあげたり何かしたときに、あの人は、家が幾ら建つかという家の統計をとってみろ、家の統計をとってみればそのときの景気の動向がわかると言われたのでありますが、私はそれは非常な卓見だと思います。だれも気のつかないような家の建築の統計をとるだけでそのときの景気の動向がわかる、こういうのは卓見だったと思うのでありますが、私はそれをまねるわけじゃないのですけれども、この予算に現われておる、土木事業を貫いておる、これが私は今度の予算のあれだと思うのであります。この意味におきまして、この予算を実行した場合における日本の経済の動向というものは、大蔵省あるいは当局が楽観をしておるようなものではない、私はそう思うのですが、どうですか。
  157. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 今数字をダブっておるとおっしゃったのでございますが、七千六百は、今事務当局が調べたところによりますと、こういう数字が出ております。公共事業費は四千四百八十五、三十三年の当初予算が二千六百二十六でございます。従いまして八百五十九億の増加であります。ダブっていると断わられたのでございますから、この点は正確に申し上げておきたいと思います。これは大体国民総生産に対しまして三・五%という数字であります。今高橋蔵相の話が出ましたが、おそらく家がたくさん建てば景気がいいという意味だろうと私は思います。ところで今回の土木事業のうちには中身がいろいろございます。いわゆる国土保全の事業であるとか、あるいは災害の事業であるとか、あるいは鉄道、道路、港湾、あるいはまた農業関係の土木事業であるとか、あるいは通信関係であるとかあります。この土木事業として考えられますもののうちで、それぞれみんな経済効果を持っておるのでありますが、ものによりましては非常に経済効果の高いものもある、また比較的程度の低いものもある。それらのことをいろいろ勘案してこの土木事業の持つ意義を十分考えていかなければならぬだろう、かように、私は思います。  ところで先ほど数字について申し上げましたが、最近の経済の動向そのものは、私は一部で心配しておられるような過熱の議論はあまり当たらないんじゃないか。別に私手放しで楽観しておるつもりではございません。しかし少なくとも昨年の秋口におけるような非常な物価の変動なり、あるいは過熱的要素というものは十二月以降相当落ちついてきた。十二月なり一月なりの、たとえば年末金融の動きなどを見ましても、私どもが予想したよりも通貨の量は少なくて済んだ。さらにまた一兆円をこしました通貨そのものの還流状況は非常によろしい。また物価そのものにいたしましても繊維関係や鉄等基幹産業の物価が非常に弱含みである。これらのことを考えてみますと、昨年の秋口に心配したようなことはまず今のところのままでいけばないんじゃないか、しかし絶えず注意を要することでございます。よく引き合いに出されます株の値段の問題でありますが、昨年の十月から十一月にかけて非常な株の暴騰を来たした。ところが最近は株の値が非常に落ちついておる、むしろある程度株の値段も上げてくれなければ証券業者の中小の者は非常に困っておる、こういうような話すら実は出てきておるようになっておる。これは証券の株の値段そのものでございますので、業界自身の問題とはこれはおよそ別な観点で見るべきものだと思います。そういうことを考えてみますと、もちろん設備投資に対する金融意欲は非常に強いのでありますから、警戒もしなければなりませんし、さらにまた午前中いろいろ御意見も出ておりました為替貿易の自由化というような大きな問題もございますし、そういう際に現状を手放しというわけには参りませんが、十分注意して参りますならば、幸いにして私どもの勘が今度は当たるのじゃないか、実はかように考えておる次第であります。
  158. 河野密

    ○河野(密)委員 もう時間がずっと経過しましたから、あと一点だけ伺いたいと思うのですが、一つは為替貿易の自由化の問題について私は何をやるかということは、これはいろいろ技術的なやり方はあるだろうと思いますが、何しろ今までのささえがはずされるのでありますから、経済の要するに基礎を固くするということ以外にはないのですから、それは何をやるよりも私は減税をやるべきだと思います。ところがなぜ減税をやらないか、これだけの大きな見積もりをしておきながら減税をやらないか。昭和三十六年にやるのだというのでありますが、これは時間がありませんから申し上げませんが、昭和三十四年で余剰金はみんな使い尽くしてしまっている。三十五年は自然増収でもってわずかにし、全く弾力性のないものになっている。経済基盤強化の問題もすでに使い尽くしてしまっておる、弾力性のない予算であります。もし伊勢湾台風のようなものが——そういうことがないことを望むのですけれども、万が一にも昭和三十五年度にあったとするならば、これはお手上げであります。健全財政も何もありません。お手上げであります。そういう弾力性の全くない予算にしておいて、ぎりぎり結着、財布の底をはたくまで使い尽くしてしまって、それで三十六年になって、減税をやりますとか、あるいは為替の自由化に備えて施策をいたしますとか言っても、それは私は単なる気休めの言葉にすぎないと思うのでありまして、なぜやらなかったか、減税をこの際やるべきだ、どうしてももっとこの財政の基礎を固くしておくべきだ、私は非常にそれが不満であります。  それからもう一つは、防衛費の問題でありますが、先ほど総理にもお尋ねしたのですが、今度の安保条約によってバンデンバーグ条項というものが入っております。憲法のワク内ということはあっても、一体憲法のワク内というものはどこまでの限度を言うのか、これが明確にならないじゃありませんか。国民生活とか、国の経済を危うくしないと言ったって、一体それはどれだけの限度を言うのか、その尺度はないじゃありませんか、この点については大蔵大臣、一体どういうふうにお考えになりますか。
  159. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 ただいまの三十五年度に減税を行なわなかった、これは私も本会議で釈明をいたしましたように非常に残念に思っております。しかして、ただいま財源をみんな使い果たしたじゃないか、たとえば剰余金も使い果たした、あるいはたな上げ資金をみんな使った、こういうことでございますが、これは他の見方をもっていたしますと、いわゆる財政の健全性の方から申せば、その年に出てくる財源を使う、それこそほんとうの中立性の予算である、こういうことも一面言えると思います。従ってこれは最近の経済の成長そのものを考えてみますと、将来においても自然増収というものが相当考えられると思います。ことし減税をすることができなかったのは、申すまでもなく、治山治水の国土保全であるとか、あるいは災害復旧であるとか、あるいは社会保障費等の当然増、それらをまかない、しかもただいま申すように健全財政を貫くという意味でこれはやむを得なかった、かように考えております。しかし政治といたしまして、国民負担の現状から見れば、当然減税は行なわなければならない、そういう意味で私どもも最善の努力は払っているつもりであります。  ところで、三十四年の、昨年のような災害が起きたらどうなるかというお話でございますが、もちろんこの災害に対する対策は予備費でまかなうというのが普通の考え方であります。しかし非常な大きな災害が起きました場合に予備費でまかなえないときに、これはまたそのときに十分知恵を出しまして考えていかなければならぬことだと存じます。  ところで、今防衛費のお話をなさいましたが、防衛費は先ほどもちょっと触れましたように、次期戦闘機を除きました残りの、いわゆる普通、例年行なわれます債務負担行為、こういうものの金額は二百億ちょっとこしておるかと思いますが、これは全部が予算化されるわけのものでもございません。大体私ども来年三十六年度の防衛費は一体どうなるかということを考えるのでございますが、その場合にまず維持分には幾ら要るか。これは申すまでもないことですが、ことしある程度地方施設隊を設けたり、その他施設大隊を作ったり、あるいは一部艦船を作ったりしておりますが、そういうものが平年度化される金額なり、あるいはまた給与の改善をこのたびいたしますが、その給与改善の平年度化であるとか、あるいは債務負担行為のものの一部が、どういう工合に、いわゆる維持分、増勢ではなくて現有勢力の維持分としてどの程度のものが必要か、まずこの程度は考えられることでございますが、私どもから見まして、維持分といたしましては、まず百億前後ではないか、かように実は考えます。そこで増勢分についてどういうような予算を見積もるかということになりますと、国土保全の治山治水計画であるとか、あるいは社会保障費であるとか、その他の重要なる項目と十分均衡がとれるように、総予算のうちにおいて無理のかからないような方法でこれを考えていくということでございまして、そういう際には、もちろんただいま御指摘になります減税というような策も取り入れて考えて参る、こういうつもりでございます。
  160. 河野密

    ○河野(密)委員 先般防衛長官は、本会議でもって防衛予算について国民所得に対する防衛予算、あるいは一般予算に対する防衛費の比率をあげられまして、防衛予算は大きくない、こういうことを言っておられました。防衛長官は今でもその通りにお考えなんですか。
  161. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 本年度の予算は、本会議で申し上げましたように、国民総所得に対しまして一・四八%、総予算に対しては九・八%、これは率からいいまするならば戦後最も少ない予算である、こういうふうに私は考えております。でありますので、この間本会議で申し上げた通り考えております。
  162. 河野密

    ○河野(密)委員 防衛長官がそういうことを言われたあとで、私どうも記憶があったので調べてみたのですが、大蔵省で発表されました「国の予算」の中にこういうことが書いてあります。防衛長官も一つよく聞いてもらいたい、「国民一人当りの所得額が少いことと実質的な所得額が少いので、もし国民所得に対する国防費の割合が、諸外国と同じくらいであるとしても実質的な負担ははるかに重くなる。これを考えれば現在の防衛費の負担は必ずしも軽いとはいえないのである。同じことは各国の歳出予算に占める軍事費の割合についてもいえる。」「国防費については、国民所得の何パーセントまでとか、歳出予算総額の何割くらいがよいという絶対的な水準というものはない。」「それはあくまでもその国の経済力の許す範囲内にとどめられなければならない。」「しかし、問題はこれだけにとどまらない。国防にぼう大な国費を使っても、IRBMやICBM等が出現した現在では在来の兵器と隊員の増加にのみ重点を置く当面の防衛力増強のごときは、もはや無意味と化しているのではないかという疑問が残る。」これは大蔵省が「国の予算」という中に書いてある。「国の予算」の二百五十二ページと三ページに書いてある言葉であります。これは私が言った言葉じゃないのであります。これに対して一体防衛長官はどうお考えになるのですか。
  163. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 もちろん国民所得に対しての比率あるいは総予算に対しての比率が比較の絶対的なものとは考えておりません。しかし世界情勢から見ましても、日本はまだ自衛隊でありますが、そういう点もありましょうけれども世界で最も少ない所得に対する比率あるいは総予算に対する比率になっておる、こういうことを申し上げたわけであります。  そこで一体防衛費の限度はどこか。これは正確にどの数字だということはなかなか出ないと思います。国民の生活程度あるいはまた諸般の事情等によって決定されるものと思いますけれども、しかしもう自衛隊も十年になっていますから、今までの比率というようなものが防衛費の基準を出す有力な参考資料になろうとは考えています。私どもといたしましては、日本防衛というものは、世界の軍備というものが戦争抑止力に変わってきている、その抑制力の一斑をになうだけのものに持っていきたい、またその限度にとどめたい、しかしそれにはやはり先ほど第二次計画の構想で申し上げましたように、近代化し、あるいは効率化して戦争の抑制力として十二分に役立つ役割ができる程度のものを考えておるわけであります。
  164. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 一応申し上げますが、これにちゃんと書いてありますように、大蔵大臣、石原主計局長推薦とはなっておりますが、これは大蔵省が別に出しておるものじゃございません。しかも、今のは前の方をお読みになりまして、その結論としては、これらの点について疑問がある、かように申しておるのでありまして、これは筆者自身の意見でございますから、どうか誤解のないように願いたいと思います。
  165. 河野密

    ○河野(密)委員 最後に総理に私は最近の政情について一つお尋ねしたいと思うのですが、現在の政界の情勢でわれわれが憂慮すべき一番大きなことは何かというと、政治に対する一般の信頼が非常になくなっておるということであります。政治に対する信頼がなくなっておる。そのことは何に起因するかというならば、政治というものが——これは総理に非常に言いにくいことでありますが、金力並びに権力によって政治が動かされるという印象というものが一般に国民の中に浸透しておる。特に私はこれは岸内閣になってからその傾向が非常に強いと思います。金権政治というような傾向が……。選挙において金がかかるということは、もう非常な勢い、とうとうたる勢いでもって進みつつある。これに対して一体総理はどういうふうに真剣に考えておられるか、これがいいと思っておられるはずはないと思うのですが、これは一体どうしたら直るか。私は、この問題は、日本の将来のために非常に憂慮すべき問題であると思うのであります。戦前のことを言っては大へん恐縮でありますが、戦前に選挙粛正ということが叫ばれました。選挙粛正が叫ばれたときに、その当時のわれわれの委員長でありました、なくなった安部磯雄先生は、選挙粛正を自分が実践するためには自分は一千円で選挙をやる、その時分の一千円でありますけれども、それでもその時分五千円あるいは一万円一人の選挙にかかるのが常識でありました。そのときに自分は一千円で選挙をやるといって、実際に選挙をやったわけであります。最高点で当選されたのでありますが、そういうふうにみずから実践をするだけの良心がある政治家がおらないというところに、私は今日の政治がどんなに百万べん説教をしても、百万べん政治の信頼を説いても、国民がこれを納得しない理由があると思うのであります。これは一体だれがこれを実践すべき責任があるのか。私は現在の政治の衝に当たっておる者がやるほかはないと思うのであります。総理は三悪追放であるとかいろいろなことを言われますけれども、みんな国民の頭の上を通り過ぎていっている。国民はそんなものを聞いていない。聞いていないのは、今の政治家がそんなものをやっておらないということを国民が知っておるからであります。私はここにおそるべきことがあると思うのでありまして、この点について私は岸総理のほんとうに心からなる見解を聞きたいと思うのであります。
  166. 岸信介

    岸国務大臣 民主政治の要諦は、国民が政治に対して信頼を持ち、また国民が全部政治に参与するという考えのもとに政治が公明に行なわれなければならぬ。これは当然でございます。それについて最も大事なことは、民主政治の、この政治の運営の基礎であります選挙というものを、今河野委員もお話のように粛正し、ほんとうに公明選挙が行なわれるようにすることが必要であることは、私も最近の選挙の実績にかんがみて痛切に考えておるものであります。そのためにはこの選挙制度、また選挙の運営についての問題に関しまして、各方面の有識者の意見も聞き、これに対して改正をすべき点、また運営においてこれを改むべき点、さらに国民全体にこの選挙の真の意義を徹底せしめ、そういう金力でもって出てくるというようなことを、国民みずからもこれに対して強い批判を与えるというような、いわゆる公明選挙運動に関する理解を深めていく。各方面の点においてこれをやっていかなければならぬと思います。今回の通常国会におきましても、かねて諮問しておりました選挙制度調査会の答申の一部を立法化したいと思っておりますが、もちろんこれだけでもって、今言ったようなことが全部改まるものではございません。これは私自身も政治の衝に当たり、政局を担当しておる者として強く責任を感ずるとともに、ほんとうに民主政治の国民の信頼を回復するためには、選挙粛正の問題について一つ私も非常な決意を持って当たっていきたい、かように考えている次第であります。
  167. 小川半次

    小川委員長 明日は午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。     午後五時四分散会