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公述人(伊東岱吉君) 私、一昨年から約一年間海外の
中小企業問題を調べて参りました。まあ、今までそういう
日本との比較研究等をしたものが少いので、この機会にまず第一に海外と比較して、
日本の
中小企業問題というものがどういう特色を持っておるか。で、従ってまたその深刻さといいますか、そういう問題の
特徴に従って
政策というものがいかにあるべきか。そしてまあ、今の
政策を考えると、どういう点を考えなければならんか、こういう基本問題から申し上げて、そして今日のこの
予算というものがどうであるかというような点を申し上げてみたい。少し時間が超過するかもしれませんが、
委員長の許しを得ましたから、そういう点を申し上げてみたいと思います。かいつまんで申し上げると、欧米十数カ国を見て参りましたが、大体欧米諸国の産業構造といいますか、そういうものと比べて
日本が非常な特色を持っているという点は、たとえば統計的に見ますと、
日本の全体の、たとえば工業従業員の総数の中での規模別の構成というものを見ると、
日本の非常な特色は、この十人未満の零細
事業場というものの比重が非常に高い。まあこれは近年
近代化することによって、だんだん比重が下ってきておるとはいうものの、まだ非常にそれが高い。つまり零細
企業というものが
日本では約二割、これに対して英米等においては大体四、五%、つまり
日本は四倍の大きさを持っている。さらに、それから上の三十人、さらに五十人というようなこの小工場でありますが、この比重が
日本では三〇%も占めておる。欧米においては大体一一%前後であります。つまり、そしてその小工場というものが、実は戦後ますますふえてきておるということが非常な特色です。
さらに上の方を見ますと、それ以上の中工場となりますと、これはむしろ欧米に比べて比重は下って参ります。さらに三百人以上、五百人以上、千人以上と大きくなるに従ってその比重は急速に
日本では減って参りまして、で、千人以上に至っては欧米の半分以下、こういうふうになっておる。ですからこういう点から、
日本にいかに零細
企業が多いか、つまり
企業の規模のピラミッド構成を考えますと、
日本は非常に中腹からすそ野が長い、広い。こういうことがわかるわけであります。これがどうして起ってきておるかということが問題なのであります。
経済白書でも二重構造というようなことを問題にするようになりましたが、この二重構造ということの理解の仕方、これによってまた非常にこの
対策も変って参ります。つまり、二重構造というものが、ただ単に一方がどんどん
近代化する、一応はおくれているという、何か並行して別々の関係のように考えてはいけない。まあこれは少し図式的になりますけれ
ども、今、このピラミッドで、この中腹、ことに下の方、こういう方からのまあ吸い上げといいますか、上からのしわ寄せといいますか、これによってですね、下のますます零細なものが行き詰まる。それからまた、
日本の非常な低賃金体制といいますか、こういうことから
中小企業の中に働く人々が将来見込みがない。相当のところにきたが食っていけない。こういうようなことからどんどん独立される。つまり、開業の調査を私のゼミナールで今度やってみましたが、その結果、相当はっきりしてきたことは、
あとから
あとから生まれるということの原因の一つの大きなものは、これはこの
中小企業における非常な低い労働条件にあるということがわかって参りました。で、前途の見込みがない、これではやっていけないということで、思い切ってこれは独立しようというのが、最も大きなアンケートの結果出てきたものであります。ですから、工員出身者というのが非常に多い。戦前には特に多かったのでございますが、戦後は工員出身者が、今度は独立しようとしても、最近では非常に
近代化というようなことで、資本の必要な最低量が上って参りましたから、なかなか独立できなくなった。それだけそこでは問題は、深刻になっているということがわかるわけであります。
こういうふうな、つまり二重構造と申しますけれ
ども、実は一つの統一された構造の中での、俗に言うしわ寄せが
日本で非常にひどい。ということは、下からの吸い上げといいますか、収奪機構といってもいいのでありますが、それが非常にひどい。こういうことから、この二重構造がどんどん進行しているということであります。で、これをさらに今度は、たとえば今言ったような
企業規模別の従業員一人当りの付加価値である、年間付加価値であるとか、あるいはその従業員の年間現金給与額であるとか、あるいは付加価値から現金給与を引けば、
あとは粗収益となりますか、粗収益であるとか、こういうものを試みにイギリスと比較してみますと、イギリスではほとんど規模別差がありません。つまり、付加価値においても、現金給与においても、あるいは粗収益においても、幾らあっても、せいぜい二割以内。よく、賃金
格差が一割ないし二割といいますが、粗収益についてもそういうことが言えるわけです。つまり、規模別
格差というものが、それほど、ほとんどごくわずかしかない。
日本は極端な規模別
格差がある。その
格差たるや、付加価値においては、大体千人以上を一〇〇としますと、十人、二十人ぐらい、まあ小工場のところでは、三割何分になってしまいます。ちょうど賃金
格差と付加価値、それからさらに、そこへ
あと残った
企業の粗収益といいますか、そういうものが、同じような
格差になって下っている。よく、付加価値が非常に
中小企業において低いのは、
中小企業の生産性が低いからだ、生産性が低いんだから賃金が安いのは当りまえだ、こういうふうに言われますけれ
ども、もちろん、それが一番大きな原因です。しかし、
日本ではそれだけでは言えないものがある。ということは、付加価値というのは価格なんですから、従って、大
企業の、つまり、さっきのピラミッドの上の方へ行けば行くほど、価格は比較的独占的になる。
不況になってもなかなか下らぬ。それに対して、下へ行けば行くほど、
過当競争価格になる。非常な低い価格になる。実質以下に下ってしまう。さらに、下請関係等をごらんになればわかるように、非常なしわ寄せをここで受けている。こういう価格なのでありますから、どうしても価格そのものにもう
最初から非常な
格差がある。それは、実は付加価値
格差につけ加わっている、こういうことを見なければならないわけです。
で、
中小企業の現金給与の
格差を見ますと、これは付加価値
格差とか、あるいは粗収益
格差よりは比較的まだ少い。ということは、下へ行けば行くほど、賃金を幾ら下げようといっても、限界がある。そのために、結局、収益すらここで得られなくなってきているということがわかるわけです。これが、今度は上の方へ行きますと、イギリスと比べて、御
承知のように、大きい
企業においては、
日本は賃金がイギリスの半分、非常に低い所があります。そして、今度は粗収益を見ますと、一人当りの粗収益実額は、イギリスの一倍半ぐらい
企業が収めておる。つまり、粗収益は非常に高い。その源は何かといえば、結局、非常に低賃金体制にしてあるから、ここで付加価値は、イギリスより少し低い、あるいはほぼ同じなんだが、結局、粗収益か非常に大きいんだということがわかってきて、
日本の大
企業のあり方というようなものの特質がわかるわけであります。
で、今のような関係から、二重構造が深まってきている。で、二重構造、二重構造といいましても、ことに賃金
格差等から見ますと、これは戦前にはもちろん二重構造はあったわけですが、今日のような極端なことはありません。今日において、それがいよいよひどくなってきている。戦前は、労働市場を一つお考えになっても、まだ
中小企業から大
企業に移動するということもできた。つまり、経験工というものが相当価値が高くて、労働の移動というものは、横の移動が割合できた。つまり、労働市場というものは、まだ欧米並みに、ある
程度横に動けるようになっていた。戦後それが非常に変ってしまった。ということは、大
企業が、ことにドッジ・ライン以降、吸収する率が非常に減ってしまった。そして大
企業が、もっぱら新規学校卒業者ですね、この中の優秀分子を一割余りですが、それをまずとる。
あとの残りは、それは
中小企業へ殺到します。さらに、一般労働市場と、それ以外の一般の労働市場を見ますと、ほとんど大
企業はそれと無関係になってしまった。つまり、大
企業は非常に封鎖的になりまして、一たび入れば終身勤務のようになる。そこで、職工養成をやり、そしてこの
企業に最も忠実な人間を育て上げるという組織をがっちり作り上げる。従って、一般の労働市場の人々、それから新規卒業の余った人々は、
中小企業へ殺到します。その場合に、かつてならば、それが相当一般労働市場に、自由に大
企業に行けたのが、行けなくなる。その人々が、今度は大
企業へ行こうとすれば、ここに差別される。つまり、臨時工でなければとってくれない。さらに、一般労働市場の人が
中小企業へ入る。それは大
企業は今度は下請や社外工という待遇で利用する。つまり、労働というものを非常に差別した形で大
企業が利用するということで、実は一方で資本の階層ができた、労働市場で労働の階層ができた、こうなってきておる。
そうして、この点が欧米とまた非常に違うところであると思いましたが、こういう階層化ということが、実は
日本の
企業において、先ほど申し上げたように、労働者もその
企業の中へ閉じ込められて、そこで、もう縦の関係になる。同じように、
企業の系列というものを見ても、大
企業、その下の下請といいますか、縦の系列でこういうふうになります。そうなってきて、そうして
日本では、独占的大
企業というものすら、激しい
過当競争をやるといいますか、実はそれぞれのグループごとで激しい競争をやる、こういう形になる。欧米においてはむしろ自由競争、独占的になっておっても、
企業々々は縦の関係じゃない。割合、
中小企業とみな対等の関係になっておる。ですから、これが横の自由な関係にあります。ですから、大
企業といいましても、何も
自分の下にずっと系列を作って従えてやつておるというわけじゃない。こういうふうな
日本の財界の特殊なあり方というようなものが、この
格差をひどくする。ということは、たとえば下請を一つとってみましても、下請を利用する目的が、欧米においては、やはり何といっても社会の分業ですね、つまり専門家を利用して、そうして下請
企業を育成するという形になってきておる。ところが、
日本においては、その面も少しは出てきておりますが、そういう対等の関係というよりは、やはり
景気変動の場合のクッションに利用するとか、あるいは下請が、
資金が安い。生産性が低いが、さらに賃金が安い。そこにこの
格差を利用するということは、もうすでに
最初からの前提になっております。ですから、そういう関係で、合理的な
意味での下請
企業と非常に違ったものになってきておる。これが非常に問題であろうと思うのであります。
こういうふうなことでありますから、
日本の
中小企業政策というものを考える場合に、やはり基本点は、今のようなしわ寄せをどうやってなくしたらいいか、こういう
格差を絶えず生み出すようなことをどういうふうに防いだらいいかということが、一番の焦点になってこなければならない。大体、
中小企業の問題を大きく分けまして、私は、第一次元、第二次元、第三次元、第四次元と。第一次元は
中小企業経営内部の問題であり、二次元は
中小企業経営相互の問題であり、三次元は大
企業と
中小企業との関係の問題である。四次元は国家を通じての問題である、こういうふうに整理して、それで
各国と比較してみます。そうして考えてきますと、
日本における問題は、もちろん、
各国がそれぞれ、今言った大
企業との関係、それから国家を通じての関係、もちろん、
中小企業の問題を生み出すものがありますけれ
ども、それが
日本において、今申したように、極端にしわ寄せというものがひどい。それが結局、一次元、二次元のいろいろな問題をむしろ引き起す。元来、
中小企業は小さいとか、あるいはおくれておるということから、いろいろな問題が出てきますが、それを絶えずおくれたところへとどめておくものは何かといいますと、上からの圧力といいますか、それがあるということになるわけであります。一次元の問題について、規模が小さいから組織化しなければならない、あるいは、おくれておるから
近代化しなければならない、
近代化、合理化ということがいわれます。二次元のところで、
過当競争というものがひどいから、何とか
過当競争を是正するために、やはり団体法等で組織化しなければならぬといわれますけれ
ども、実は
過当競争というものがひどくなるということも、ことに一次元で非常に資本蓄積ができないような状況にある。もっと大きくいうと、上からの今のようなしわ寄せ、収奪が非常にひどいから、いよいよそうなっておるのだということがあります。
さらに、もう一つ、
過当競争というものの
日本的特色を申し上げますと、これはやはり原価計算といいますか、ほんとうに生産を合理化していって、そしてコストが下って、それで価格競争をするというのならいいのであります。そうじゃなくて、非常に不合理な形で、向うでは不公正競争といいますが、不合理な形で労務コストにしわ寄せする。つまり、労働費用という部分が非常に
日本では伸縮性を持っている。さらにまた
中小企業の階層自体が、さっき言ったような労働階層だ。家内労働が下請、さらに内職がある。こういうふうなものへしわ寄せをすることによって、このコスト構成というものが非常に伸縮性を持っている。一方で非常に
技術を高め、労働基準法を守り、まじめにやろうという産業資本家が、それに対して、たとえば問屋上りの方が、ほとんど設備らしいものを持たない内職とか家内労働を利用して、非常に安いコストで、まあ、安かろう悪かろうという競争をやられると、一方は伸びようったって伸びられない、こういう点に一つの根本問題があるということがわかりました。
で、第三次元の問題としましては、この第一に、やはりこれは
各国共通ではありますけれ
ども、この独占価格という問題、これは全体に関係した問題です。これだけに独占禁止法の改正というものは、よほど慎重にやっていかなければ困る。独占価格の問題、さらに
中小企業の領域に大
企業がどんどん進出してくる。戦後、ことに海外市場が狭くなったために、
日本の大
企業が
国内市場に出てくる、こういうことがあります。で、ここでやはり
過当競争とも関係しますが、欧米においては比較的大
企業領域と
中小企業領域、また今度はそれぞれの
中小企業の中でも、それぞれの専門化というものが非常に進んでいる。
日本ではそれが非常に進んでない。で、大
企業が
中小企業に出てくるやり方を見ておりますと、そのやり方は、何も大
企業が
自分でそれを作るのじゃない、第二次製品に進出するといいますか、シャツや何か、これは皆系列を作って
中小企業をピック・アップしていく。そして出てくるわけです。系列外と系列内は非常な
格差ができてくる。そうして
中小企業の問題と、そこに出てきた競争の場面においても、すでにもう第三に、この下請に対するしわ寄せ、これは先ほど申しましたように、下請に対して
日本のような不当にしわ寄せをやっているところはない。たとえば支払い遅延の問題、これも下請支払い遅延の防止法ができましたが、これが実に実効をあまりおさめてない。すなわち、支払い遅延の問題ということにつきましても、私欧米で一生懸命に探して歩いたけれ
ども、どこでもこれは発見できない。たとえば三カ月の、九十日の手形というのを話したら向うは目をまるくして驚いた。よく世論やその他が黙っているな。
日本ではそういうのが当りまえで、むしろいい方になっている。お産手形の十カ月のものとか台風手形、つまり七カ月のものという、そういう言葉があるように、
日本では非常に長い期間の手形になっているわけです。しかも、下請支払い遅延の長期手形から始まりまして、さらに一般の取引すら非常なそういう手形の横行というようなことになって、非常なディスオーダーになっている。こういう点をもつ、根本的に改めなければならんのではないか。しかも向うでは、私はデトロイトで下請の問題が最もやかましいというので調べたのですが。非常に大きい
企業ほど払いが最もいい。
日本では大きい
企業が払いが悪い。で、まあ支払い遅延防止法を作ってみたが、公正取引
委員会が一生懸命ある
程度やるだけで、つまり
中小企業者が、先ほど言ったような階層位置にいるために、また彼らが下請から首を切られることがおそろしいために、それを利用できないというような条件がある。そういう点を直していく力こそ国家の力でなければならぬのであります。
で、さらに第四の国家を通じての問題になるので、これは
財政の問題あるいは
経済政策における大
企業偏重の問題であります。そこで、今度の
予算を拝見いたしますと、まあいろいろな特色があると思うのであります。で、その場合に私が、いろいろこの
予算全体についての批評もすでになされておると思いますが、
中小企業について言いますと、これはやはり今度の
予算は、非常に大
企業偏重の
予算であるということは、たとえばまあ
財政投融資、これは非常な重要な問題でありますから、これを拝見しただけでも大
企業関係に対しては非常にこれがふえてきている。これがまた今度の
予算の
特徴でしょう、数字は御
承知であると思いますから申し上げませんが、それに対して、
中小企業に対する
財政投融資は、これは一応前
年度並みのようであるが、よく見ると、
政府返済金というものがありますから、これを抜いてみると非常な実質的な減少になってしまう。もちろん、昨
年度はデフレ
政策が行われたときだから、特別にふやしたという言いわけもあるかもしれませんが、しかし、今年においても
中小企業はよくなるという約束も何もないわけです。それだけにこの削減は、実質的削減ははなはだ残念だと思う。たとえば
中小企業金融公庫に対して二百七十五億、国民
金融公庫二百五十億、それから商工中金
政府出資十二億、商工債券引き受け二十億というふうになっておりますが、その中から、
中小企業金融公庫、国民
金融公庫からの
政府返済金がそれぞれ百六十六億になっておりますから、それを引きますと実質的な増加というものは、これは二百二十三億ですかになるのであります。そしてこれは昨
年度のこの貸出額の純増分というものと比較してみますと、
中小企業金融公庫においては二十五億のマイナスになっておりますし、それから純増分がむしろ減ってきている。国民
金融公庫においては六十八億のマイナスになっている。さらに商工中金について二十億のマイナス、つまり貸し出し純増加分というものは百十三億のマイナスになっている。もちろん自己
資金というものがだんだん回収されてふえて参りますから、全体としての貸し出しはふえてくるわけですが、増加分が減ってきております。こういうことはまことに残念だと思う。そのほか信用保険の方に出るものもありますけれ
ども……。
次に、
中小企業対策費という面を見ますと、これが実に全体の
予算の中の割合がわずかでありまして、まあ今年は十億余りふえまして二十二億になっております。しかし、全体の
予算の関係でいうと、わずか〇・一五%、先ほどの
中小企業金融公庫等の
財政投融資分と合せてみても二百五十億余りでありまして、全体の
予算の一・七%、二%にもなっていない、つまり
中小企業というものが、いかに
国民経済の上で重要な地位を占めているのかということに対して、あまりにもこれは貧弱なものではないかと思うのであります。もちろん
対策費を見ますと、設備
近代化のために十億余りを出すということは、昨
年度の六億から四億ふえたということは、けっこうなことでありますけれ
ども、これも実は
中小企業全体から見て、今日老朽設備が非常にひどくなっております。さらにまた、新設の必要ということが、非常に今緊急のことになっている。こういう要求を見ると、少く見積っても五百四十億くらいのものが必要なんです。ただいまの十億というものに、これは国家が出し、県が十億出します、それにまた別のあれがありまして大体二十五億で踏んでみても、それが三分の一の補助でありますから全体で七十五億、結局現在必要としているものの七分の一にすぎない。まあ
中小企業庁は三カ年計画で、今年四十億出してもらって、今の問題を解決しようとしておったのですが、これがこのように削減されてしまっているという点は非常に残念であります。そのほか
技術指導を
強化するとか、非常に全体からいうと、わずかのものでありますが、
中小企業庁がねらっているいろいろな方向は非常にけっこうなんです。けっこうだけれ
ども、その額はあまりにもわずかである、ということで、まあ残念に思う。で、これは、今日
経済白書等も二重構造というような問題、
日本のこういう矛盾の問題を指摘しているのでありますから、これをほんとうに直していこうというならば、ここらあたりでもっと本格的な
中小企業の
対策費なり、投融資なりを考えなければならぬときにきているのではないか、こう思う次第です。
さらに
中小企業に対する労働問題が非常にやかましくなり、その
政策が審議されております。で、先ほど申したように、この
中小企業の問題は、これは
現実の
経済の動きも大きいものへだんだん集中し、いよいよ大きいものが
近代化していく。その場合に、その大きいものの
近代化、進展において、この下請や、あるいは税金や、
金融関係や、その他を通じて、この
中小企業から吸い上げられるが、
中小企業には戻らない。こういう関係で、
中小企業が行き詰まってきているのですから、ですから、この基本
動向をチェックするというようなこと、そこで公正取引
委員会が非常に重要なんでありますが、チェックしなければならない。そうしながら、
中小企業の二重構造を直していかなければならない。従って、その仕事は、
経済の自然にまかしておけばそうなっていくのでありますから、これはどうしても国家
財政なり国家の
施策に待たなければならぬということになる。で、
中小企業者自体はばらばらで、なかなか団結できないということでありますから、それは国家が大いにやらなければならぬというのに、それに対してこれはあまりにも私は少いんじゃないか。
それから、もう一つ重要なことは、従って、上から
中小企業にしわ寄せされ、
中小企業はしわをまた労働者に転嫁する、こうしてやってきている。そこで、労働者自身がここで組織を作る。それからまた、国家がそれを
援助してやって、そうして最低賃金制なり、その他いろいろな労働
対策をもって、その底を入れてやるということをやれば、二重構造是正の基盤ができるわけであります。ところが、それについて、今日の最低賃金制というものを拝見しまして、
現実に確かに賃金
格差が極端であるから、なかなか理想的なことはできないという事情もありますけれ
ども、また、それだけに、あまり弱いことをやればいつまでたっても二重構造は直せない、こういうことになってくる。で、今日の業者間協定というようなものだって、あるいは——もちろんあの案には、それが
中心で、いろいろ
あと案がありますけれ
ども、それを
中心としてやるという行き方では、私はほんとうの
意味の最低賃金制ではないんじゃないか。
各国でもこういうふうな例を見ることができません。つまり、労働者が参加しないような最低賃金、いわばこれは労働力を商品として考えるならば、買手のカルテルであります。買手側のカルテルにひとしいようなものであります。ですから、今の最低賃金を上げるんだという、これに条件をむしろ、今度は賃金を押えることにもなり得るものであります。で、そういうふうなものをもって最低賃金制度とするということは、私は二重構造を直していくことにはならぬと思って、残念に思うのであります。
で、今のようなつまり労働条件を高めていくということが、実はこれは
中小企業にとっても、上からのしわ寄せや、そういうものを排除しながら、
近代化していくための土台になるんだということを、もっともっと深く啓蒙していかなければならぬ時じゃないか。で、そういう方向にだんだん持って六かなければならぬ。で、ドイツでいろいろな例を見ましたし、それから
各国で見ましたが、
各国の
政治家の頭はもうそうなっております。つまり、非常にひどいテープ・レーバーというようなことが起ってくると、それを非常に社会悪として、それをむしろ直していく方が、産業
近代化の国の
経済を擁護していくゆえんであると。ところが、
日本では、財界においても、あるいは政界においても、まだそういう点の十分な認識がないんじゃないか、これをどうか深めていただきたい、こう思うのであります。
で、大体において、歴史を考えてみましても、イギリスが二重構造をだんだん、脱却というか、産業革命後それを直してきたゆえんは、やはり資本家同士が競争をする。そうして労働者が要求して工場法等がここで出てきますと、資本家同士が同じ平面で競争しているから、そこで労働条件をお互いに共通にしよう、不当なひどい労働条件でいるものはなくしていこう、こういう方向に向うわけであります。そうなってくれば二重構造がなくなっていく。
日本は、どうかすれば、明治以来のこの
日本の産業の
発展の仕方によりますけれ
ども、常に大きいものが小さいものを利用して、さっき言った縦の系列で、その下に労働者がおる。そうなると、労働基準法等はこっちは免除してやる、特例を設けてやる。つまり、大きいものは
中小企業を利用して、そこからしぼっていますから、それを全部に厳格にやるというような要求が大資本側にも出てこない。こういう点が、最も
日本の反省しなきゃならない点である、こう思うわけです。
で、もしも国家の
政策というものが、今の二重構造是正にほんとうに向わないとすれば、やはりこれは労働者の
立場から、下からつき上げていくという行き方を強めざるを得ない。こうなってくれば、いよいよ社会不安になる。そういう方向をとらないというならば、つまり、欧米においてもすでに
日本のようなそういう不合理なものはないのですから、同じ資本主義だって、そういう不当なしわ寄せというようなものは、それほどひどいものはなくなってきているのですから、
日本で行えないはずはないのであります。ですから、どうか、私は、この
日本の財界自体も、その大きなところが手放しで、やたらに支払い遅延なんかをやっておるのでありますが、こういう点を改めてもらいたい、こう思うわけであります。
じゃ、これで……。(
拍手)