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1959-03-11 第31回国会 参議院 予算委員会公聴会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十四年三月十一日(水曜日)    午前十時十七分開会   —————————————  出席者は左の通り    理事            小柳 牧衞君            近藤 鶴代君            塩見 俊二君            堀木 鎌三君            片岡 文重君            鈴木  強君            矢嶋 三義君            森 八三一君    委員            植竹 春彦君            大沢 雄一君            小幡 治和君            勝俣  稔君            紅露 みつ君            小山邦太郎君            館  哲二君            苫米地英俊君            西田 信一君            北村  暢君            栗山 良夫君            坂本  昭君            高田なほ子君            中村 正雄君            羽生 三七君            松浦 清一君            松永 忠二君            田村 文吉君            千田  正君   事務局側    常任委員会専門    員       正木 千冬君   公述人    経済同友会事務    局長      山下 静一君    東京銀行常務取    締役      神野 正雄君    日本労働組合総   評議会政治部長  小山 良治君    慶応義塾大学教    授       伊東 岱吉君            二瓶万代子君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○昭和三十四年度一般会計予算内閣  提出衆議院送付) ○昭和三十四年度特別会計予算内閣  提出衆議院送付) ○昭和三十四年度政府関係機関予算  (内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 堀木鎌三

    理事堀木鎌三君) ただいまから予算委員会公聴会を開きます。  まず、委員の変更について御報告いたします。  三月十日、後藤義隆君が辞任し、その補欠として泉山三六君が、柴田栄君が辞任し、その補欠として館哲二君がそれぞれ選任せられました。
  3. 堀木鎌三

    理事堀木鎌三君) 開会に当りまして、公述人の方に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は御多忙中のところを御出席いただきましてありがとうございました。公聴会の議題は、昭和三十四年度予算でございます。公述人の方は、大体二十分ないし三十分程度で御意見の御開陳をお願い申し上げます。  それでは、まず経済同友会事務局長山下静一君からお願いいたします。
  4. 山下静一

    公述人山下静一君) 私山下でございます。私の属しております経済同友会において、日ごろ問題にいたしております点を中心に、若干私の意見を加えまして、新年度予算に対する見解と申しますか、意見を申し述べさせていただきたいと思います。  私は、ここで最初結論から申し上げたいと思います。  第一に、新年度予算特徴は、減税が予想を下回り、また、国民年金も、最初に比べましてやや後退ぎみでございましたが、しかし、減税国民年金、それから経済基盤強化事業など公約履行中心にしたところに特徴があるのではないかと思います反面、選挙予算のにおいが強いことも、否定できないと思います。  第二は、均衡財政には違いないが、経済の安定よりも成長主眼としたために、長期的に見まして果して健全といえるかどうか、疑問を持っておるのでございます。ことに運用いかんによりましては、後半にインフレということも危惧されるのではないかと思っております。  第三に、過去の蓄積を食いつぶし、かつ、歳入見積りがぎりぎりでありますことは、歳入弾力性を欠いておる。それからまた、三十五年度予算がどうなるかということに一まつの不安を持っておるのでございます。これは財政長期計画性ということから見ますと、ややそれに反するのではない九と、こういうふうに見ておるのでございます。  第四に、中間階級の層を厚くするために、減税措置を徐々に行なっているのはいいことだと思うのでございます。さらに進んで、企業及び経済全体の体質改善のために税制及び税率について改正ということを考えるべきではないかと思っております。しかるに、法人税それから所得税にしましても、あるいは直接税ないし間接税にわたって税制体系が現行の方法で通しておりますのは、体質改善の上から見ましてもはなはだ遺憾だと、こういうふうに考えるのでございます。最も重要なのは最後の点でございます。予算現実経済情勢の間に大きなズレが生じておりまして、これが景気を刺激し、ひいては設備投資をめぐる過当競争を激化させるおそれがあることでございます。せっかく機運が出て参りました経済界自主調整を妨げる要素となっておるのではないかと見るのでございます。従いまして、予算運用に際し、情勢に即応した措置をとられるとともに、経済界のよき慣行を育てるような役割を持つべきではないかと、こう考えております。言いかえれば、予算景気調節機能を果せるような運用を望んでやまないのでございます。  以上のごとき結論に基きまして、さらにポイントについて敷衍いたしたいと思います。すなわち、昭和三十四年度予算に対し、私どもすれ違い予算というような見方をいたしておるのでございます。何となれば、この予算を編成いたしました時期が、ちょうど不況の最中でございまして、従って、予算としてはどうしても積極的ならざるを得なかったのであります。その結果、予算が刺激的な性格を持っておるというのも、これはまあやむを得なかったかと思います。しかるに、昨年末からことしの春にかけまして、景気が漸次好転のきざしを示して参ったのでございます。こうなりますと、予算が逆効果を招くおそれがあるのでございます。これがすれ違いの第一でございます。  次に、やはり予算を組んでいる最中には表われておらなかったのでございますが、年末にはヨーロッパ交換性回復という新しい事実が生れてきたのでございます。このことにつきましては、あとに出られる神野公述人もおられますので、そのときにきっとお触れになることと思いますが、これは予算に直接どうのこうのということはございますまいが、これから日本経済をどういうふうに持っていくかという点で、相当重視しなければならない材料だと思います。今後予算運用していく際に、やはりそういう点から大きな問題として考えていただかねばならぬ。  ここで最初の第一のすれ違いの点について触れてみたいと思います。  前に申しましたように、予算経済の悪いときに組まれましたが、実際にそれが国会に出て参りましたときには、経済の様子が一変いたしております。そこで、予算提出の書類にはある程度用心深い言葉をもって説明されておりますが、実際問題としては、やはり拡大予算として民間を刺激しているのは争えない事実でございます。かくて予算拡大景気好転ということで、年明けとともに思惑が起りまして、一部物資に値上りというようなことも起ったのでございます。他方、一年半以上も押えられておりました設備投資も、景気回復近しとばかりに頭を持ち上げてきております。これに対する警戒論も出まして、一時騒がれたいわゆる景気過熱論というようなことが論議されたわけでございます。事実通産省が現在調べております主要企業設備投資計画によりますと、中間集計の二百社分だけですでに前年に比べて一五%の増加見込みであります。早くも設備投資の過剰が懸念されて、再び経済バランスが破られるのではないだろうかという心配が出ているのでございます。あとで申し上げますが、もしそのような事態になりますならば、予算の遂行もはなはだしく困難になるのではないかと考えるのでございます。予算というものが国民経済発展不可分関係にあることは、今さら申し上げるまでもないことでございます。特にわが国のごとく経済変動の激しい国におきましては、予算景気調節機能として非常に大きな役割を持つのではないかと思うのでございます。しかるに、従来の例から見ますと、予算が積極的で拡大的でありますと、これが民間を刺激し、たちまち景気が過熱し、次の反動は大へん深刻なものとなっているのでございます。同時に、予算景気動向に対して先手を打つというよりも、とかく後手に回っている場合が多かったのでございます。今度の予算においても、多分にそういった心配が感じられるのでございます。いうなれば、景気調節機能予算が果し得ないといううらみがあるように感ずるのでございます。近年経済変動周期が早くなってきたということがいわれております。それは、景気循環に関する研究方法も進んで参りまして、完全とはいえないまでも、大体三十五カ月ないし三十六カ月をもって周期とみているようでございます。少くともこれは一つの目安となるのではないかと思うのでございます。予算はこのような目安を念頭において作られるのが適当ではないかと考えております。そうしますと、拡大よりも安定成長という方向へ持っていくのが正しいのではないか、もとより近代経済は、国民総生産の伸びが経済力をきめるものでございます。そこで、この国民総生産を上げるための方法、特に設備投資が最大の問題となってくるのでございます。従いまして、設備投資は不断に進めなければなりませんが、それが過当競争となった場合、たちまち過剰投資となりまして、経済を不安定ならしめるのでございます。大体わが国経済過当競争に陥りやすい体質を持っております。設備投資を刺激する場合、こういったことを忘れずにやらなければならぬということになるのでございます。かような見地から、一昨年不況に突入したとき以来、私どもの方では、日本経済体質改善のために設備投資中心自主調整ということを唱道して参ったのでございます。それは不況の最中に問題を提起いたしましたために、あたかも不況対策のごとく見られておりますけれども、決して不況対策という、不況切り抜け策という短期的なものではなしに、前にも申し上げましたように、設備投資経済力の直接のきめ手となっておるという事実から考えまして、それを最も効果的に行える経済体質に改めようという全く長期的立場から問題を取り上げたのでございます。自主調整が正しいということは固く確信いたしておりますが、現実には大へんむずかしい事業でございます。しかし過当競争のために設備投資がいきすぎて、金融が締まり、あるいは輸入がふえますれば国際収支はすぐ悪化するし、そのことによって経済変動を早めることは自明のことでございます。この経済変動をゆるやかにしなければならぬというところから、何とかして過当競争を防止しよう、そのために自主調整をやる環境を作ることにつとめようじゃないかということからこの問題は出発いたしておるのでございます。ところが今度の予算積極予算であるために、これが企業家心理をかり立てまして、設備投資がすでに内燃化しておるのでございます。そして自主調整は一そう困難な状態に置かれておるのでございます。もとより過当競争はどこかで規制しなければならないのでございます。それをだれがやるか、これが問題でございます。まず経済界社会的責任としてそれをやるのが最も理想的ないき方ではないかと考えます。しかし高度に発達した今日の経済のもとで、経済界の力だけでそれをやるにはおのずから限界がございます。それには金融政策あるいは財政による側面からの援助と、それから自主調整をやれるように誘導する必要な政策が伴わなければならないのでございます。もちろん、これは政府の力をたよろうとか、そういった意味ではございません。このように考えまして、予算運用する場合には自主調整を促進するような配慮があってしかるべきではないかと考えておるのでございます。  財政投融資計画では八百八十八億円の民間資金の動員を計画しております。つまり一方に大幅の散布がありますので、それを他方で吸収するつもりでありましょうが、ここに相当問題があるように思うのでございます。すなわち設備投資拡大しますと、これに要する資金は莫大なものとなって参ります。金利引き下げに伴いまして、早晩預金の利子も問題となりましょうが、これは先のことでございますから論外としまして、金融機関としては、今の情勢から見ますと、どうしても設備投資の貸し出しに走ることは避けられないと思います。そうなりますと八百八十八億円のうち、生命保険に割り当てられました百七十億円を差し引いた七百十八億円の金融機関の受け持つ分はかなり窮屈になってくるのではないか。もちろんそれは達成できるでしょう。そのかわり日銀に対する借り入れ金の返済が減ることも起り得るのでございますし、その場合通貨価値に悪い影響を与えることはまぬがれないのでございます。設備投資経済発展の上からおこたることはできませんが、それはあくまでも国際競争力の充実というところに主眼を置かなければなりません。経済を不安定ならしめるような行き方は極力防ぐべきであると思うのでございます。予算運用において、このことに関しては非常に大きな責任があるということをくり返して申し上げたいと思います。すれ違いの第二点にあげましたヨーロッパ交換制回復は、わが国経済に取っては他山の石としなければならないと思います。ヨーロッパ諸国自由化を実現するためには長い間政府もまた経済界も周到な準備を進めてきたのでありまして、一足飛びにここへ到達したわけのものではございません。のみならず、ヨーロッパにおける貿易自由化、あるいは共同市場発展というものは、わが国がきびしい国際競争の中に追い込まれることを意味しているのでございます。このことを考えますならば、財政にしても産業政策にしても、今年は転換期に直面しているのではないだろうかと思うのでございます。しかも、ヨーロッパ諸国安定経済に入っております。アメリカにしましても、やはり安定を重視しております。ひとり、わが国だけが拡大成長というのはここで考え直す必要があるのではないかと思うのでございます。いずれにしましても内外ともに重大なときでございますから、予算実施に当りましては経済体質改善に真剣に取り組むという気魄を示していただきたいのでございます。個々予算については立場々々でいろいろ意見もありましょうし、かつ私自身不勉強であまり準備いたしておりませんので、ごく気のついた二、三の点について意見を申し上げたいと思います。  まず、新年度予算経済基盤強化に重点を置いたのは正しいと思うのでございます。主要産業向上はまさに先進国クラス内容と外観を備えております。しかるに工場から一歩外へ出てみますと、道路といい港湾といい後進国なみでございます。これが経済発展の大きなネックとなっているのは今さら申し上げるまでもないことでございます。この面に対する施策はむしろおそきに失するぐらいではないかと思うのでございます。しかして従来の例から見ますと、どうも経済強化という点で欠けているように感ずるのでございます。今度はそういった欠陥を補って、重点的で、かつ経済効果を上げる方法をぜひ講じていただきたいのでございます。ついでに申し上げたいことは、わが国国際収支バランスが、貿易外収入においては特需に依存しているのでございますが、これは現在の状態ではあるいはやむを得ないとしても、実は危険であり、かつ正しい姿ではないのでございます。これは漸次世界各国と同様に観光収入というものに置きかえていくような努力を必要としているように思うのでございます。これを具体化する上から考えましても、道路整備はぜひ急がなければならない問題ではないか、こういうふうに思っております。  次に、中小企業に対する予算でございます。この予算はどうも中小企業の融資に偏しているように感ずるのでございます。経済拡大するに伴いまして、中小企業は量的にもふえますし、また大企業との格差、それから中小企業間の格差、これも拡大しておるのでございます。従いまして経済体質改善の上からも、中小企業に対する施策は非常に重要になっておるのは当然でございます。特に中小企業経済的な面からみましてもあるいは社会的な面からみましても、大きな生産力であり、かつまた大きな社会勢力でありますから、これを育成していくということは絶対必要でございます。その場合に、資金とあわせて経営近代化というものをやはり積極的に取り上げなければならないのではないかと思います。中小企業対策は、大企業中小企業均質化が進んでおりますところのアメリカにおいても非常に大きな問題になっております。アメリカ政府中小企業庁は資金を貸し付ける場合あるいはあっせんする場合にも必ず経営近代化というひもをつけておるのでございます。また大統領直属中小企業に対する技術及び配分援助会議というものがございまして、これが中小企業生産分野の確定について助言するのでございますが、その場合に経営技術向上についての具体的な意見を具申いたしております。中小企業者の要求するものはもっぱら事業資金にあることはアメリカわが国も同様でございますが、アメリカ政府はそれを資金だけにとどめないで、進んでは経営技術向上を熱心に指導しておるのでございます。このやり方はわが国にとってアメリカ以上に急務となっておるように思うのでございます。その意味からしまして、中小企業対策経営及び技術援助ということを積極的にやるのが適当ではないでしょうか。特に国際分業の精神を植えつけ、輸出産業を伸ばしていくというような政策を確立する必要があるように思います。この面を考えますと、中小企業に関する予算というものは相当増大されてしかるべきものではないかと考えるのでございます。  それから失業対策についても一言申し上げたいと思います。失業対策費わが国経済体質潜在失業を吸収するという方に力が注がれているように思われるのでございますが、経済発展に伴いまして、生産性向上ないしは技術革新に伴います摩擦失業に対する対策というものを万全を期する必要があるように思われるのでございます。しかるに新年度予算におきましては予算そのものが膨脹しておるのに比し、失業対策に関する費用が若干減っておる、これはちょっと矛盾しておるように思うのでございます。  最後に、しめくくりとしてちょっと言わせていただきます。魚を釣るために釣ざおを水面に投げ出しましたときに、水面はまことに穏かなものでございますが、底には早い流れと激しい渦が巻いております。釣糸はぐんぐんと流されてしまう。それは釣をおやりになる方はすでに私から申し上げるまでもなく当りまえの話というふうにお受け取りになるかもしれません。しかしながら、実は国内経済にしましても世界動向にしましても、この底流と同じような早さと激しさで動いておるのでございます。このことを考えまして、予算情勢に応じて弾力的にかつ機動的に運用されることを切望いたしまして、私の公述を終らせていただきます。(拍手
  5. 堀木鎌三

    理事堀木鎌三君) 山下公述人に対しまして、御質疑のある方は御発言を願います。御質疑がございません  ようでしたら……。山下さんありがとうございました。
  6. 堀木鎌三

    理事堀木鎌三君) 次に、東京銀行常務取締役神野正雄君からお願いいたします。(拍手
  7. 神野正雄

    公述人神野正雄君) 御紹介にあづかりました神野でございます。  私の専門的な立場から、国際金融あるいは国際経済から、今回の予算について考えていることを一応述べさしていただきたいと思います。  今度の予算を拝見しておりますと、その予算を作った基礎的の経済情勢に対する把握といいますか、それについてはこれはまことに妥当なんじゃないかと、大体なべ底景気もはい上りに来ている。従って日本としては調整期を終って成長期に入っているのだ。そのために今後は通貨価値の維持ということ、まあ国際収支強化ということを第一義にして、そうして体質改善とかあるいは経済基盤強化経済成長的安定と、こういうものをはからなければならぬ。こういう立場から予算をお組みになったというふうに聞いておりますけれども、それでは個々予算面でそういう点がどれほど盛られているかというと、あまりにそれがどうもはっきり意欲的には出ていないのじゃないか。たとえば一例でありますけれども貿易振興経済協力の点は、一兆四千億の予算の中でたった三十八億、これも十一億は去年に比べてふえてはおりますけれども、これはいかにも少い。それからその内容を見ましても、大体あんまり目新しいものはない。外国のとっておりますいろいろな政策に対して、何か非常に、ちょっと心細いような気がいたす次第なんです。先ほどの公述人が申されましたように、去年の暮に通貨交換性回復と、こういうものがあり、そのときはもうすでに今回の予算はできていたのでありますから、それについて、とやかく言うわけではありませんが、この交換性回復ということは、まあじわじわ非常な影響日本経済に及ぼすのじゃないか。今までは大きな海にちょうどコンクリートの壁を作って、一方の波が立ってもこっちには影響しないようにしていたのでありますけれども交換性回復によって、少くとも貿易上の決済面はほとんど全然といっていいぐらい自由になった。ですから今後は国際資金流動性が非常にふえております同時に、その国際経済の波が日本経済に非常にかぶりやすくなっておる。それでありますから、従来のように、いたずらに高いコンクリートの壁のような為替管理法で外界からの被害を防ぐというような考え方でいては、とても日本経済世界経済と伍していけないような状態になってきておるわけであります。  われわれが非常に今回の欧州各国交換性回復で感じましたことを二、三申し上げますと、第一はこれは政治の安定ということ、今回の交換性回復の動機になったのは、これはフランス政権が安定したということ、ドゴール政権ができて、そしてその安定政権ができたので、初めてイギリスその他も交換性回復に踏み切った。およそ通貨関係のポリシーというものは、もう絶対的に政権政治の安定といいますか、そういうことが必要だということを非常に痛感いたしました。  それから第二は、国際協力ということ。従来のようなナショナリズムで、自分の国だけでやっていた日にはとてもやっていけない。今回の交換性回復は、各国の、少くとも欧州各国が共同してやる。他国為替が下るということは自分の国の為替が下ると同じように見て、そして相寄って共同してやる。ですからフランスが平価の切り下げをしまして交換性回復したときも、ドイツその他は金を出し合ってこれを助けております。それから御承知のように、国際通貨基金、これも交換性回復によって、従来二十五億ドルぐらいしか他国に貸せる金がなかったのでありますけれども、今回はいわゆる増資もしましたし、交換性のある手持外国通貨がふえましたので、二十五億ドルが一挙に百十億ドル程度のアベーラブル・ファンドがふえた。こういうものをもって国際的に協力して弱い国の通貨を助けて、そして為替界貿易界であまり決済面からの波動がないようにしていく、こういうことをこれは相当真剣に考えているのではないか、そういうふうに感じられる次第であります。  それから今回の回復交換性回復諸国は、実に真剣に国内経済インフレ・チェック、こういう点で非常に熱心に諸対策を立てているということでありまして、これはもちろんその国によって非常に違います。違いますけれども、たとえばフランスであります。フランスは御承知のように、ドゴール政権になってフランを切り下げて、フラン交換性回復して、それから相当極端に貿易自由化をやりました。それと同時に、国内は非常な健全財政健全財政といいましても大へんな赤字でありますけれども、前年に比べては極端な健全財政をとっている。それから補助金の廃止、それから増税をして、それから付加価値税その他の新税を行なっております。それから生計費指数にリンクした賃金スライド制というものをとっていたのでありますけれども、それはやめまして、そして最低保証賃金制というものにかえる。それから農産物価格とか、家賃の価格というものは、その生計費指数にリンクしてスライドしていたのを、これも最低保証価格にしたわけです。そういうふうに、一方非常に耐乏、緊縮の予算を組んでいながら、他方においては、いわゆる低所得者のためにそれを緩和するという措置もとっておりまして、たとえば失業保険基金を強化する、あるいは最低賃金を二月以降に多少上げるとか、あるいは公務員とか国有企業の従業員の給料を上げるとか、老齢者の援助資金をふやすとか、そういう低所得、あるいは社会施設は相当ふやしております。こういう政策をとっておる次第なんであります。それからアメリカでありますけれども、私どもは、アメリカが現在のように非常にやっきになってインフレ・チェックの対策をやっている。これがどうしてああいうふうにあんなにやらなきゃならぬか、実はよくわからないのでありますけれどもアメリカは、もう非常にインフレ・チェック政策をしております。たとえば、公定割引歩合を盛んに引き上げております。引き上げて今一分七厘五毛から三分にしておる。それから株式証拠金を非常に引き上げて、五〇%を九〇%という高い率の証拠金にしております。それからいわゆる均衡予算を今回もとっております。それかられは、この一月の末に経済成長安定のめたの価格安定閣僚委員会というのを作って、価格安定に真剣に乗り出した。それから上院、下院の合同委員今で、これは従来ともそうでありますけれども、熱心にインフレ対策を研究しております。それから雇用法を改正するとか、そういう点で非常に国内インフレ・チェックに非常に熱心であります。これは為替自由化とうらはらの問題でありまして、為替自由化という問題は、これはどうしても国内の価値安定というものをより熱心にしないと為替を維持できないということになりますので、これは当然のことでありますけれども、この点なかなか他国は非常に熱心にやっておるという印象を受けております。  その次は輸出の振興であります。今度交換性回復為替自由化、あるいはひいては将来貿易自由化ということになりますと、どうしても一国の経済国際収支第一主義になり、国際収支を黒字に保つということが絶対必要になります。従って、そのためには従来より正そう輸出振興に努めなきゃならぬ。従って、日本としましても、これはなみなみならない他国の挑戦に対してどういうふうに対抗していくか、これは将来非常に大きな問題になるだろうと思います。今回の予算はもう手おくれでありますけれども、この次の予算においては、積極的に輸出振興対策予算をいろいろな面で大幅に組む必要があるのじゃないか。輸出競争といいましても、いろいろ内容があります。  第一は、今度の交換性回復しますと、要するに価格要素が非常にふえてくる。いわゆるコンマーシャル・べースで物をどこからでも買えるということになりますので、従来のような、日本としても安い物をどこからでも買える。これは急にではありませんけれども、大勢としては徐々になる。それから、ほかの外国としても、どこから外も質のいいやすい物を買えるという価格要素が非常にふえて参りますので、その価格要素がふえるための輸出競争というものが非常に出てくるわけであります。これで非常に有利になるのは、やはりアメリカだろうと思います。相当大量生産で安い品質のいい輸出品を持っておりますから、アメリカなんかは非常に有利だろうと思いますけれども、こういう価格操作からくる輸出競争、これが第一に考えられる。それから交換性回復をしました諸国は、自分の国の国際収支強化と、それから為替相場の維持のために積極的に輸出に打って出る。これは当然考えられることでありまして、これも念頭に置いておかなければいけない。  それから従来は、いわゆる何カ国といいますか、交換性回復していない通貨の国々に対して、われわれはあまり売ることを好まなかった。そこに売ったところで、かわり金は交換性のない通貨をもらうわけでありまするから、それよりも交換性のある通貨の国に出した方がいいんじゃないか。今回はそれが全部とれましたから、従来そういう何カ国に対してレラクタントであった各国の輸出は、一度にそういうところにラッシュするおそれがある、この点でまた輸出競争が起るわけであります。  それからまた次には、いわゆるヨーロッパ共同市場、そういうようなブロック経済的なものが非常にできてくる。現に情報によりましても、ヨーロッパ・コモンマーケットからの鉄鋼の輸出というものは相当ダンピング的の安値で出しておる、こういうことを聞いておりますので、これは一例でおりますけれども、そういうブロックド・エコノミー、いわゆる昔風に言えば広域経済である。広域経済内部は自由にするけれども、一たび広域経済の外部に出るときには非常に積極的に打って出る、こういう傾向が出るわけです。これが非常にこわいわけです。  それから最後には、いわゆる輸出競争の新しい形として、海外投資、海外投資を先にしておいて、そしてその国の物を買う基盤と購買力を作っておいて、そしてその国の物を輸出する。いわゆる経済協力もこれでありますけれども、いわゆる海外投資が非常に盛んであります。で、この点は日本としてもよく考えて、たとえばアメリカなんかは欧州共同体の中に盛んに工場を作り、盛んに投資をしておるわけです。これは一例でありますけれども、いわゆる日本も海外投資あるいは海外に対する企業の進出というものに対して、もう少し長い目で見て、積極的に援助する必要があるんじゃないか。従来はとかくほとんど実行できないような条件を押し付けて、海外へせっかく出た企業に対して、二階に上ったけれども、はしごを取ってしまったというような形になりやすいのでありますけれども各国企業進出、海外投資は決してそうなまやさしいものではない。これに対しても日本は大いに反省する余地があるんじゃないか。  今のようなそういう各方面から今後は非常に輸出競争が盛んになります。これは、急に来年から盛んになるとか、そういう問題ではありませんけれども、じわじわと、ひしひしと日本も感じるようになるんじゃないか。日本の御承知のように輸出産業と申しますものは、たとえば繊維であるとか、鉄鋼とか、そういうものを各国に割と広く出しております。それに対して軽工業品、主として軽工業品を先進国に出している。それから重工業であるとか科学製品、こいつを後進国に出しておる。こういうような輸出産業の構成なのでありますけれども、これが今後の為替自由化、ひいては将来起るであろう貿易自由化に対してどういう変更を受けるか、あるいはどういうふうに変更さすべきものであるかということを、少し前広に日本も考えてその対策をとる必要があるんじゃないか。従って日本としては今まで為替管理法その他で各企業がどてらを着ていた。今度はどてらを脱いで、そしてほかの国と裸で競争しなければならぬという情勢に将来なるのであります。急にどてらを脱げばかぜをひくというので、依然たる保護貿易政策をとっていてそれでいいものかどうか。あるいはあまり早まって急にどてらを脱いでまつ裸にさして、かえって日本の産業を傷つけるということもあって、そのころ合いはむずかしいのでありますけれども、少くとも大体の方針はこういうふうにやるんだということを政府としても方針をきめて、各企業に前広にPRしておかないと各企業としても非常に困る、日本輸出産業でも非常に困るのじゃないかというふうに考えられます。御承知の通り日本貿易というものは、日本貿易に依存度が非常に高いわけでありますけれども、これは商社によって行われている、これは日本の非常に特殊の様相だと思います。貿易商社というものは、あまり各国にはないのでありますけれども、これは発生的に、いわゆる国際的問屋制度が発達したものではないか、これは日本の一つの産業構造、貿易構追のしからしむるところなんだろうと思うのでありますけれども、現在日本貿易をやっている、業として貿易をやっている商社は、大体三千五百くらいありまして、そのうちでビッグ・セブンというのは、大体一カ月に二百億以上の商売をしている商社が七軒あって、その商社で日本の全体の輸出の三九%、輸入の五五%をやっております。それからずっと下げまして、月の商売が一億円以上の貿易商社が大体二百八十四軒ある、その二百八十四軒で日本の全体の貿易の輸出は六〇%、輸入は九四%、それ以外のものはメーカーがじかにやるか、あるいは一億円以下の小さい貿易商がやっているわけなんです。ここでおわかりのように、輸出においては一億円以上の商社が二百八十四軒でやはり六〇%しかやっておりません。ですから、輸出のあとの四〇%というものは少数のメーカーと、それから商量一億円以下の、月商一億円以下の非常に小さい零細な輸出商社がやっておるわけであります。ここに日本の輸出業というものの特殊性があるわけであります。輸入は御承知の通り大商社でほとんど全部占めておるというふうにあるわけです。もう一つ日本では外貨保有を許されております商社は大体二十社あります。その二十社で日本貿易の輸出は五四%、輸入は八一%やっておる、こういうのが日本情勢なんでありまして、こういう商社は今後まあこれから見ましても、日本貿易は大体商社中心でやっておるということがわかるわけでありますけれども、これらの商社は、まだ非常に弱体、といってはあれですけれども弱体のものが多い。そこに持ってきて、さっきお話しいたしましたように、今後徐々に輸出競争がひどくなってきたときに、果してどういうふうに持っていったらいいか、これは相当助成して日本の輸出が負けないようにする必要があるんだと、これは国際競争でありますから、やはり選手制度というものが必要なんであって、日本のやり方はちょうどマラソン競走をやるのでも、非常にあまり早くない、強くない選手をたくさん出して、お互いに足がからみ合って進めぬというようなやり方でありますけれども外国のやり方は、それこそカルボーネンとか、そういう強いのを数人出して、それで争うというようなやり方なんでありまして、この点は非常に日本としても、いわゆる総花的の海外進出ということに対して反省する余地があるのではないか、こういうふうに考えられる次第なんであります。こういうふうに見て参りますと、日本の対外貿易から見ます将来というものはなかなかむずかしいのでありまして、ただ私ども日本経済力というものはそんなに卑下する必要はないのじゃないか。日本輸出産業を見ましても、たとえば自動車でありますけれども、非常な悪条件で、アメリカも小型車を作り出したとか、そういうことを言いますけれども、とにかく非常に短かい期間の間にあれだけ輸出し得るだけの基礎は作っている。長い間の不況にもかかわらず、繊維製品も輸出は少しも落ちていない。いわゆる過当競争だとか何とか言われておりますけれども過当競争というものは非常に困った話なんでありますけれども、これは一つは外国も悪い。外国日本の商社をしていろいろなことを言って、そして過当競争に追い込むという点もありますし、日本としてもあまり民主主義だか何だかわかりませんけれども、非常にだれでももぐり込み得るような貿易体制をするために起るのだろうと思うのでありますけれども、とにかく日本経済は浅瀬とか何とか言いますけれども、そんなに浅瀬ではないように思う。これは貿易を取り扱っておりますときにしばしば感じる次第なんであります。従って今回の予算も非常にインフレ予算であるとか、いろいろなことを言われるわけなんでありますけれども、そうしてなるほど今期の支払い超過はやはり二千億くらいにはなるんだろう。税収も非常によけいに見積られているようでありますから、この支払い超過は大幅に減るということはあまり考えられない。一方民間資金に依存する部分が八百八十八億ですか、それもありまして、これは時間的には、一時的に金融梗塞を招く一つの要因だと思うのでありますけれども日本経済発展の過程から見ればそんなにひどいインフレ予算とは思えない。まあ、もうちょっと日本としても自信をもって外貨予算の操作であろうが、それから海外進出に対する、企業進出に対する援助であろうが、もう少し自信をもって、そうしてもう少し金を便り、それは現在の観点からすれば、非常にむだ金あるいは捨て石のように思われるものもあるかもしれませんけれども外国でやっているように十年、一十年というような長い間には必ず実を結ぶのではないかというふうに思います。メキシコに対してアメリカのゼネラル・エレクトリックですか、十年同でようやく初めて黒字を出したというようなケースは至るところにあるの。ありますから、日本も今後本格的に海外に貿易を伸ばし、海外進出をしようということを志すならば、もうちょっと海外に対する企業資金に対しても寛大な措置をとってやる必要がのるのじゃないかというふうに思われる次第であります。いろいろこまかい点で申し上げるここもないわけではございませんけれども、あまりいろいろなことを申し上げて、かえって散漫になってはと思いまして、もっぱら貿易面あるいは輸出面についての今度の予算を見ますと、もうちょっといろいろな予算がほしかったということを申し上げて私の話を終えさせていただきたいと思います。(拍手
  8. 堀木鎌三

    理事堀木鎌三君) 神野公述人に対し質疑のある方は御発言を願います。——ございませんようでしたら……。神野さんどうもありがとうございました。   —————————————
  9. 堀木鎌三

    理事堀木鎌三君) この際お諮りいたします。本日午後の公述人岩井章君が急病のため出席不能でありますので、その代理に日本労働組合総評議会政治部長小山良治君を推薦して参りました。本院規則第七十一条の規定によりまして、公述人の代理については委員会が特に許可することになっておりますので、この際これを許可することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  10. 堀木鎌三

    理事堀木鎌三君) 御異議ないと認めます。よって小山良治君に公述をお願いすることにいたします。  午前の会議はこれで休憩をいたしまして、午後は一時より再開することにいたします。    午前十一時十六分休憩    —————・—————    午後一時二十五分開会
  11. 小柳牧衞

    理事(小柳牧衞君) 公聴会を再開いたします。  再開に当り、公述人の方に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は御多忙中のところ、御出席をいただきましてありがとうございました。公聴会の議題は昭和三十四年度予算でございます。公述人は大体二十分ないし三十分の程度で御意見の開陳を願いたいと存じます。  まず、日本労働組合総評議会政治部長小山良治君からお願いいたします。
  12. 小山良治

    公述人小山良治君) 私は総評の小山良治であります。  私は、昭和三十四年度予算に対して、主として労働者としての立場から若干の意見を申し上げたいと思います。  われわれ労働者は、この予算案を見まして、全体として大きな失望の気持を持っているということをまず諸先生方に知っていただきたと思うのであります。それは、はじめに働いて真に日本の興隆を願っておりまする労働者がこの予算に期待しておりまするものは、社会保障の問題、失業対策の問題等でございまするが、これらがほとんど顧みられず、きわめて不満な点があるからでございます。  まず、ざっと見渡しますと、三十四年度予算総額は、一兆四千百九十二億円で、前年度に対する増加額は一千七十一億円であります。この増加額のうち、おもなるものは公共事業費四百六十九億円で、これは増加額全体の四四%になりまするが、これに対して、社会保障の増加額はその半分以下の二百十九億円であります。一方、防衛賠償費は二百二十億円もふやしています。  政府予算編成方針を見ますと、三十四年度予算案は、日本経済の安定的成長とか、質的改善のためとか述べられておりますが、政府の出しました厚生白書や、経済白書でさえも、現在の日本経済においてまずもって是正しなければならない点は、国民生活のアンバランスであり、所得格差、生活格差の解消ということであったと思います。具体的な例を申し上げますると、総理府の労働力調査によって見ましても、神武景気のときにおける統計でさえも、日本の総世帯二千七十三万戸のうち、年所得十六万円以下は半数以上の一千五十五万戸、約四千万人もあり、さらに失業者、休職者を合せますると、千二百三十三万戸、四千五百万人で、国民の半数に及んでおります。賃金労働者約一千六百万といわれておりますが、このうちの約半数七百九十三万人は月収入一万円以下であります。農林業戸数六百三十四万戸のうち、月所得が約一万円以下の戸数は三百二十五万戸、漁家戸数中約四〇%の十万戸は月一万円以下の所得であります。これらすべてを含めれば、いわゆる日本の極貧層あるいは日の当らない方々の人数は、全日本国民の半数を占めておるということは容易に想定せられることであります。従って、私は、まずこれらの人々の生活安定を第一義的に考えることが日本経済安定成長体質改善のための予算の使命であると考えざるを得ないのであります。公共事業費の増額中、道路、港湾予算が特に大きく増加し、増加額三百六十七億、総額一千五十八億に達したようでありますが、幾ら道路、港湾がりっぱになりましても、また、軍備が充実しましても、国民の生活が不安定であればだめだと思います。また、このような使い道は、結局公共事業中心とする対策にもあるのだという御意見もあろうかと思いますけれども、私はそれには賛成いたしかねます。生活保護を受けなければならない人が百五十万人もいるし、国民の半数が極貧層と考えられる条件の中で、いかにしてこれらの方々の生活を改善させるかということを考えなければならないと思います。やはり私は考えたくはないことではありますけれども、セメント会社や土建会社、鉄鋼資本等を富ませることが先に立ち、民生安定があと回しになっているという感じが強くするのであります。このような予算の中で、必然的に社会保障や失業対策の面が薄く取り扱われていると思います。社会保障の拡充ということは政府の公約であり、特にこの予算での重要施策の一つであり、労働者も大きな期待をかけてきたわけでありまするが、残念ながら失望せざるを得ませんでした。三十四年度の社会保障費は一千四百七十七億円でありまして、一方、防衛賠償費は二千八百二十七億円と、約二倍であります。私は第一、このような配分のもとで社会保障を云々することはできぬのではないかと率直に思います。社全保障費の中で、現在審議中の国民年金は一つの大きな柱となっております。これについては、当初の公約では、三十四年度は三百億で発足することになっておりましたが、これも百十億と約三分の一、また、拠出制度の実施を昭和三十六年度に延期して、無拠出の老齢、障害、母子の三年金のみを実施するなどといろいろ不満な点がありまするが、それはさておくといたしましても、月約千円の援護年金を、七十才以上、四カ月分、二百五十万人に支給するというのが柱となっていますが、月千円というのが一体年金といえるかどうか、これなどは二千八百二十七億円の防衛関係費の中のほんのわずかでも回せばすぐ二倍、三倍となり得ることではないかと思います。私はさらに、このために、他の社会保障の諸面が犠牲になっていると考えられる節が多くあるように感じます。国民年金を除くと、社会保障関係の増加額は約百九億円でありますが、これでは人口の自然増に伴う社会保障費の自然増に及ばないのではないかと思います。特にわれわれが注目したいことの第一に生活保護費がございます。生活保護費は物価値上りによって二・六%保護基準額を引き上げていますが、人員については逆に減っています。昨年は百五十万二千人であったものが、ことしは百四十七万九千人と二万三千人減っています。この基準については生活保護法第三条に、健康にして文化的な生活水準を維持することができる保護額と規定されてありまするが、実際の支給額は、東京都の場合で、標準五人世帯で九千七十一円にすぎません。これでは一人一日当りで主食、副食費を含めてわずか四十円程度で、とうてい暮せるものではございません。二%や三%の増加で、物価値上りに見合った生活維持ができるものとは思えません。また、人員の減少についても、大蔵省干計局の出された予算説明書には、生活扶助人員については、最近の実績に対して増加を見込んで、百七十四万九千人としている、と書かれてありまするが、これなどはかなり行政的に押えられた気配も濃厚のようであり、また、これについての調査も、日本社会事業大学が行なったものであるようで、全くわれわれの了解に苦しむところであります。われわれは、この生活保護基準額は二倍程度に引き上げても、一人当り月約四千円、これでも健康にして文化的な生活からはほど遠いものでありまするが、当面そういうことにしていただきたいと考えるものであります。  第二に、失業対策費であります。失対事業費については、就労日数を一カ月について半日ふやし、二十一日から二十一日半としています。そのかわりに対象人員は前年度と同じ二十五万人としております。現在の雇用情勢にはきわめて憂慮すべきものがあることは、これは政府の方でも一様に認めているところであります。経済の下降傾向、合理化の伸展等のために、昨年からことしにかけて大きく失業者が増加したことは御承知の通りであります。また、三十四年度は生産年令人口が百二万人もふえています。このような状態の中で、三十四年度経済計画では雇用増七十四万人であります。雇用されなかった者を政府は一体どう保障するのかと考えれば、全くこの失対事業費にはたよりないものを感ずるわけであります。さらに、この失対事業は、吸収人員の中に六十ないし七十才という老齢者を多数含んでいますが、このため本来の失業労働力の吸収という意味がぼけてきているように考えます。当然、老齢の人はしっかりした社会保障によって生活を安定させなければ、失対事業は雇用政策としての意味を失ってしまうと思います。  第三に、失業保険についてであります。現在失業保険が改正されようとしていますが、全く約得のいかないことだと思います。それは、現在失業保険の黒字がかなり大きくなったため、この際、国庫負担を三分の一から四分の一に切り下げようとするもののようであります。われわれは、これには反対せざるを得ないわけであります。すなわち、もともと社会保険には、国家と労働者と資本の間の均分負担という原則があると思います。国家の負担を三分の一から四分の一に減らすというのは、もちろん労働者負担の〇・二%切り下げということもありまするが、この均分負担の原則からはずれていることになると思います。  昨年末、失業保険特別会計が五百四十億円の黒字を出したわけでありまするが、まずこの黒字は、労働者が一体となって要求していること、すなわち給付期間の延長の方に回してもらいたいということを心から考えているものであります。さらに給付額を引き上げるとか、また、三十二年の調査では、失業保険制度の未適用者数は三百三十五万人もあるそうでありますが、これらの人を加入させるとか、いろいろと前進的な方向で処理していただきたいと思います。  私はこれまで主として国民年金、失対事業、失業保険の三点について述べてきましたが、その他の社会保障全体について考えを申し述べれば、それは全体として低所得層の生活安定からはかなり遠いものと思われます。国民健保も、病気になったときの医療費は半額は自己負担であるし、中小企業退職金も金額が少いことと、通算措置があいまいなため、退職金が非常に不利になるか、もらえなくなる可能性があることなど、重要な問題を含んでいます。一つ一つについて言うことはいたしませんが、社会保障については当然憲法に定める、すべて国民は、健康にして文化的な生活を営む権利がある、という生活基準に従って考えるべき筋合いのものであって、ないよりはあった方がいいというような考え方のものであってはならないものだと考えますが、この予算を通じまして見ますると、どうも後者の考え方に基いていると考えざるを得ない点が多いと思います。ぜひともこのようなことは諸先生方の力で改めていただきたいと思います。  私は労働者としてこのように強調する理由は、まず極貧層の生活確立は政府責任であること、このことはす下に近代国家の常識となっていること下ありますが、さらに日本経済発展のために大切であると考えるからであります。神武景気の頭打ち以来、日本経済を襲った不況のあらしは、過剰生産恐慌と呼ばれているではありませんか。この過剰生産の消化は、当然大衆購買力の増強によって一日も早く切り抜けるべきであるとともに、国際市場での公正な競争によってはかるべきことと思います。西ドイツのエアハルト氏も語ったように、日本労働者の低賃金がこの点の大きな障害となっているのが現状であります。従って、特にこの点は、低所得層の生活確立をはかり、大幅に社会保障を拡充するとともに、業者間協定ではない全国一律月八千円の最低賃金制と、ILO条約八十七号の批准をすみやかに行うことが大切であると思います。  最低賃金制あるいはILO条約については、この予算についての直接的なテーマからは若干離れていますが、政治の安定、日本経済発展という観点からはまことに重大なことであり、政策の具体的な実現手段である年度予算とは表裏一体の関係にあるものであります。特に労働者の代表としてこの際、全国一律月八千円の最低賃金制の実施と、ILO条約の批准を今国会において実現するようお願いいたしたいと思います。この予算はよく「一兆よいくに」というようなことで自画自賛されている向きがあるようでありますけれども、私どもまじめに働いている労働者にとりましては住みにくい予算にならないことを重ねてお願いいたしまして、私の意見を終るものであります。(拍手
  13. 小柳牧衞

    理事(小柳牧衞君) 公述人に対し質疑のある方は御発言を願います。
  14. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 一つだけ伺います。小山さんに一緒にあわせて三点伺いたいと思います。  その一つは、最近政府と労働組合の対決の姿がよく新聞等に報ぜられ、私ども新聞紙を通じて知るのですが、労働者の強制捜査とか、あるいは逮捕とか、さらには起訴というような案件が非常に続発しておりますが、あなたは総評の政治部長をしておられるから、末端の事情を御存じと思いますが、どういう事情であるか、かなり弾圧的なものが出てきているのではないか。将来、史家が今の時代を振り返ってみた場合には、あの時代は労働者に対する大きな弾圧の時代であった、日本の国の一つの転換期であったというような評価をするのではないか、私はこういうような感じをもって見ており、かなり重視しているのですが、その点と、それから次は、私ども国家公務員法、地方公務員法等を取り扱っているわけですが、よく国会で論ぜられるのは、同じ内容の仕事に携わっている職員の中で、定員内に繰り入れないで差別待遇を受けている常勤的非常勤とか、非常動職員ですね、こういう職員の数が相当多くて、よく国会で論じられるのですが、果して現場において定員内の職員と定員外の職員に能力差とかいうものが相当あってああいう差別扱いをしなければならぬような実情なのかどうか。現場の諸君の能率とも関係することでありますし、その点を承わりたい。  それからもう一つは、ただいま国家公務員共済組合法の改正法律案が出ております。近くは地方公務員共済組合法案も次の国会ぐらいに出る予定ですが、先般は公労法関係の共済組合法の改正が行われたわけですが、われわれよくこの内容を検討する場合に、厚生年金もそうですが、これらの組合の積立金が、最近の傾向としては資金運用資金の方にぶち込まれていって、それで大蔵大臣の管理権というものが非常に強化されて、それが政府政策に基く財政投融資計画の中に入っていく。相互扶助の立場でやっているのだから、組合員にしてみれば、自分たちが積み立てた組合費で何か福利厚生施設をしたいというような声があるというようなことを聞いているのですが、ああいう資金運用資金の方に投入して大蔵大臣の管理権が強くなるが、そうならないで組合等が相当にこの運用にタッチしていけるようになった場合、組合員、労働者の福利厚生事業としてあなた方はどういう方向に進めて参りたいというような見解を持っておられるのか。  以上三点だけ一つ参考に聞かせていただきたいと思います。
  15. 小山良治

    公述人小山良治君) 最初の点から申し上げたいと思うのですが、私どもの感じを申し上げますと、保守党政府が今長く政権にあるわけですけれども、特に私は岸さんが総理大臣になってから非常に意識的に労働組合を押えつけるというか、そういう傾向になっているのじゃないかと思うのです。しかも、そのやり方というものは、たとえばわれわれが団体交渉を要求してもそれにはちっとも応じない。そして今度はどうしても問題を解決しないということで意思表示をする、そういうことを全般の、たとえば憲法であるとか、あるいは労働組合法とかいうものでなくて、それと違う法律でもって理由をつけて押えつける、こういうのが今の実情じゃないかと思うのです。これは私はどうもさか立ちをしているお考えではないか。私も多少外国なんか回ってみてそう思うのですけれども、よく私ども日本の組合は何かわからずやが多いというようなことを政府が宣伝されておりますけれども、たとえばイギリスなんかにおきましては、あらゆる政府の機関には労働組合が参加してその意見を十分聞いてやっている。あるいはまた西ドイツなんかにおきましては経営にタッチをしておる、こういう状況で、私は戦後のヨーロッパの再建というものは労働組合の意見というものを十分聞いてその上にできたのじゃないかと思うのです。ところが、日本ではかつて吉田さんが「不逞のやから」、そして岸さんになれば「総評は敵である」、一番まじめに安い給料で働いている、日本の柱じゃないかと私は思うのですけれども、こういうものを踏んづけて面子を失わせて、それで押えつけるということでは、私はほんとうの意味日本の再建ができるかどうか、これは私は根本的にさか立ちしているお考えではないか、こう思っているわけです。もちろん、これは資本家の政府ですから、多少の利潤や何かを考えていることはもちろんだと思うけれども、労働者を主体として考えていかなければならんことではないか。特に最近の傾向は、警察の方々が、当然話し合いや労使の関係でできるものを不当に介入してきて、かえって経営者の方が迷惑する、こういう状況が多いのではないかというふうに思っております。  それから、第二の点の定員外の問題なんですけれども、私はやはり今の政府運用というものは非常に公式的で、それで机上プランじゃないか。実際に働いている方々を何か一線を画して定員外、それから定員内ということでやっておって、私は、その仕事自体に希望が持てないじゃないか。たとえば、また、年末なんかに年末手当がくるのに、片方は全然もらえない、こういうばかげたことになっているのではないかと思うのです。こういうことをするよりは私どもはもっと将来の希望を持たして十分働いて能率を上げて、それによって国家全体がうまくいくという方法を考えた方がかえっていい。私は、机上。フランで一線を画してやるということは、ばかげたことじゃないか、かように考えているのです。ですから、われわれの方から言えば、むしろこの際、今十万人おるこういう方々を全部定員の中に繰り入れていただいて、自分が希望を持って働けるようにしていただきたいことを一つお願いしておきます。  それから、共済組合の掛金の問題、これはまあ、先ほど申し上げましたわれわれの健保の問題なんかでもそうでありますけれども、たくさんのお金が今蓄積されていると思うのです。それが大蔵省の管理でもって財政投融資というのに使われているということは、われわれから言えば非常な不満なんです。これは、むしろかけているところの労働者に十分相談をいたしまして、それは安い利息で、たとえば住宅の建設であるとか、あるいは病院の建設であるとか、あるいは遊園地を作るとか、そしてあしたの労働に再び元気を出して働ける、安心して働けるこういう施設のためにお金を使っていただきたいと思うのです。財政投融資がいけないということではないのですけれども、そういう、われわれが零細な月給の中からさいて出すようなものを使うということは、私は非常に不当じゃないかと思います。それであるならば、私は財政投融資をする場合に委員会でも作って、また、その建設されたあと、利子を返すとか何とかいうことをお考えいただくならけっこうですけれども、お金はふんだんに使って、もうけは全部自分では、働いている者は、ふんだりけったりということで、われわれとしては了承できない。今のままで考えていられないということであれば、われわれは将来相当の考え方を持たなければいけないじゃないか。これは再三総理大臣あるいは関係大臣に今まで要求書を出しましてお願いをしておる、こういう現状でございます。
  16. 小柳牧衞

    理事(小柳牧衞君) 小山さん、ありがとうございました。   —————————————
  17. 小柳牧衞

    理事(小柳牧衞君) 次に慶応義塾大学教授伊東岱吉君にお願いいたします。(拍手
  18. 伊東岱吉

    公述人(伊東岱吉君) 私、一昨年から約一年間海外の中小企業問題を調べて参りました。まあ、今までそういう日本との比較研究等をしたものが少いので、この機会にまず第一に海外と比較して、日本中小企業問題というものがどういう特色を持っておるか。で、従ってまたその深刻さといいますか、そういう問題の特徴に従って政策というものがいかにあるべきか。そしてまあ、今の政策を考えると、どういう点を考えなければならんか、こういう基本問題から申し上げて、そして今日のこの予算というものがどうであるかというような点を申し上げてみたい。少し時間が超過するかもしれませんが、委員長の許しを得ましたから、そういう点を申し上げてみたいと思います。かいつまんで申し上げると、欧米十数カ国を見て参りましたが、大体欧米諸国の産業構造といいますか、そういうものと比べて日本が非常な特色を持っているという点は、たとえば統計的に見ますと、日本の全体の、たとえば工業従業員の総数の中での規模別の構成というものを見ると、日本の非常な特色は、この十人未満の零細事業場というものの比重が非常に高い。まあこれは近年近代化することによって、だんだん比重が下ってきておるとはいうものの、まだ非常にそれが高い。つまり零細企業というものが日本では約二割、これに対して英米等においては大体四、五%、つまり日本は四倍の大きさを持っている。さらに、それから上の三十人、さらに五十人というようなこの小工場でありますが、この比重が日本では三〇%も占めておる。欧米においては大体一一%前後であります。つまり、そしてその小工場というものが、実は戦後ますますふえてきておるということが非常な特色です。  さらに上の方を見ますと、それ以上の中工場となりますと、これはむしろ欧米に比べて比重は下って参ります。さらに三百人以上、五百人以上、千人以上と大きくなるに従ってその比重は急速に日本では減って参りまして、で、千人以上に至っては欧米の半分以下、こういうふうになっておる。ですからこういう点から、日本にいかに零細企業が多いか、つまり企業の規模のピラミッド構成を考えますと、日本は非常に中腹からすそ野が長い、広い。こういうことがわかるわけであります。これがどうして起ってきておるかということが問題なのであります。  経済白書でも二重構造というようなことを問題にするようになりましたが、この二重構造ということの理解の仕方、これによってまた非常にこの対策も変って参ります。つまり、二重構造というものが、ただ単に一方がどんどん近代化する、一応はおくれているという、何か並行して別々の関係のように考えてはいけない。まあこれは少し図式的になりますけれども、今、このピラミッドで、この中腹、ことに下の方、こういう方からのまあ吸い上げといいますか、上からのしわ寄せといいますか、これによってですね、下のますます零細なものが行き詰まる。それからまた、日本の非常な低賃金体制といいますか、こういうことから中小企業の中に働く人々が将来見込みがない。相当のところにきたが食っていけない。こういうようなことからどんどん独立される。つまり、開業の調査を私のゼミナールで今度やってみましたが、その結果、相当はっきりしてきたことは、あとからあとから生まれるということの原因の一つの大きなものは、これはこの中小企業における非常な低い労働条件にあるということがわかって参りました。で、前途の見込みがない、これではやっていけないということで、思い切ってこれは独立しようというのが、最も大きなアンケートの結果出てきたものであります。ですから、工員出身者というのが非常に多い。戦前には特に多かったのでございますが、戦後は工員出身者が、今度は独立しようとしても、最近では非常に近代化というようなことで、資本の必要な最低量が上って参りましたから、なかなか独立できなくなった。それだけそこでは問題は、深刻になっているということがわかるわけであります。  こういうふうな、つまり二重構造と申しますけれども、実は一つの統一された構造の中での、俗に言うしわ寄せが日本で非常にひどい。ということは、下からの吸い上げといいますか、収奪機構といってもいいのでありますが、それが非常にひどい。こういうことから、この二重構造がどんどん進行しているということであります。で、これをさらに今度は、たとえば今言ったような企業規模別の従業員一人当りの付加価値である、年間付加価値であるとか、あるいはその従業員の年間現金給与額であるとか、あるいは付加価値から現金給与を引けば、あとは粗収益となりますか、粗収益であるとか、こういうものを試みにイギリスと比較してみますと、イギリスではほとんど規模別差がありません。つまり、付加価値においても、現金給与においても、あるいは粗収益においても、幾らあっても、せいぜい二割以内。よく、賃金格差が一割ないし二割といいますが、粗収益についてもそういうことが言えるわけです。つまり、規模別格差というものが、それほど、ほとんどごくわずかしかない。日本は極端な規模別格差がある。その格差たるや、付加価値においては、大体千人以上を一〇〇としますと、十人、二十人ぐらい、まあ小工場のところでは、三割何分になってしまいます。ちょうど賃金格差と付加価値、それからさらに、そこへあと残った企業の粗収益といいますか、そういうものが、同じような格差になって下っている。よく、付加価値が非常に中小企業において低いのは、中小企業の生産性が低いからだ、生産性が低いんだから賃金が安いのは当りまえだ、こういうふうに言われますけれども、もちろん、それが一番大きな原因です。しかし、日本ではそれだけでは言えないものがある。ということは、付加価値というのは価格なんですから、従って、大企業の、つまり、さっきのピラミッドの上の方へ行けば行くほど、価格は比較的独占的になる。不況になってもなかなか下らぬ。それに対して、下へ行けば行くほど、過当競争価格になる。非常な低い価格になる。実質以下に下ってしまう。さらに、下請関係等をごらんになればわかるように、非常なしわ寄せをここで受けている。こういう価格なのでありますから、どうしても価格そのものにもう最初から非常な格差がある。それは、実は付加価値格差につけ加わっている、こういうことを見なければならないわけです。  で、中小企業の現金給与の格差を見ますと、これは付加価値格差とか、あるいは粗収益格差よりは比較的まだ少い。ということは、下へ行けば行くほど、賃金を幾ら下げようといっても、限界がある。そのために、結局、収益すらここで得られなくなってきているということがわかるわけです。これが、今度は上の方へ行きますと、イギリスと比べて、御承知のように、大きい企業においては、日本は賃金がイギリスの半分、非常に低い所があります。そして、今度は粗収益を見ますと、一人当りの粗収益実額は、イギリスの一倍半ぐらい企業が収めておる。つまり、粗収益は非常に高い。その源は何かといえば、結局、非常に低賃金体制にしてあるから、ここで付加価値は、イギリスより少し低い、あるいはほぼ同じなんだが、結局、粗収益か非常に大きいんだということがわかってきて、日本の大企業のあり方というようなものの特質がわかるわけであります。  で、今のような関係から、二重構造が深まってきている。で、二重構造、二重構造といいましても、ことに賃金格差等から見ますと、これは戦前にはもちろん二重構造はあったわけですが、今日のような極端なことはありません。今日において、それがいよいよひどくなってきている。戦前は、労働市場を一つお考えになっても、まだ中小企業から大企業に移動するということもできた。つまり、経験工というものが相当価値が高くて、労働の移動というものは、横の移動が割合できた。つまり、労働市場というものは、まだ欧米並みに、ある程度横に動けるようになっていた。戦後それが非常に変ってしまった。ということは、大企業が、ことにドッジ・ライン以降、吸収する率が非常に減ってしまった。そして大企業が、もっぱら新規学校卒業者ですね、この中の優秀分子を一割余りですが、それをまずとる。あとの残りは、それは中小企業へ殺到します。さらに、一般労働市場と、それ以外の一般の労働市場を見ますと、ほとんど大企業はそれと無関係になってしまった。つまり、大企業は非常に封鎖的になりまして、一たび入れば終身勤務のようになる。そこで、職工養成をやり、そしてこの企業に最も忠実な人間を育て上げるという組織をがっちり作り上げる。従って、一般の労働市場の人々、それから新規卒業の余った人々は、中小企業へ殺到します。その場合に、かつてならば、それが相当一般労働市場に、自由に大企業に行けたのが、行けなくなる。その人々が、今度は大企業へ行こうとすれば、ここに差別される。つまり、臨時工でなければとってくれない。さらに、一般労働市場の人が中小企業へ入る。それは大企業は今度は下請や社外工という待遇で利用する。つまり、労働というものを非常に差別した形で大企業が利用するということで、実は一方で資本の階層ができた、労働市場で労働の階層ができた、こうなってきておる。  そうして、この点が欧米とまた非常に違うところであると思いましたが、こういう階層化ということが、実は日本企業において、先ほど申し上げたように、労働者もその企業の中へ閉じ込められて、そこで、もう縦の関係になる。同じように、企業の系列というものを見ても、大企業、その下の下請といいますか、縦の系列でこういうふうになります。そうなってきて、そうして日本では、独占的大企業というものすら、激しい過当競争をやるといいますか、実はそれぞれのグループごとで激しい競争をやる、こういう形になる。欧米においてはむしろ自由競争、独占的になっておっても、企業々々は縦の関係じゃない。割合、中小企業とみな対等の関係になっておる。ですから、これが横の自由な関係にあります。ですから、大企業といいましても、何も自分の下にずっと系列を作って従えてやつておるというわけじゃない。こういうふうな日本の財界の特殊なあり方というようなものが、この格差をひどくする。ということは、たとえば下請を一つとってみましても、下請を利用する目的が、欧米においては、やはり何といっても社会の分業ですね、つまり専門家を利用して、そうして下請企業を育成するという形になってきておる。ところが、日本においては、その面も少しは出てきておりますが、そういう対等の関係というよりは、やはり景気変動の場合のクッションに利用するとか、あるいは下請が、資金が安い。生産性が低いが、さらに賃金が安い。そこにこの格差を利用するということは、もうすでに最初からの前提になっております。ですから、そういう関係で、合理的な意味での下請企業と非常に違ったものになってきておる。これが非常に問題であろうと思うのであります。  こういうふうなことでありますから、日本中小企業政策というものを考える場合に、やはり基本点は、今のようなしわ寄せをどうやってなくしたらいいか、こういう格差を絶えず生み出すようなことをどういうふうに防いだらいいかということが、一番の焦点になってこなければならない。大体、中小企業の問題を大きく分けまして、私は、第一次元、第二次元、第三次元、第四次元と。第一次元は中小企業経営内部の問題であり、二次元は中小企業経営相互の問題であり、三次元は大企業中小企業との関係の問題である。四次元は国家を通じての問題である、こういうふうに整理して、それで各国と比較してみます。そうして考えてきますと、日本における問題は、もちろん、各国がそれぞれ、今言った大企業との関係、それから国家を通じての関係、もちろん、中小企業の問題を生み出すものがありますけれども、それが日本において、今申したように、極端にしわ寄せというものがひどい。それが結局、一次元、二次元のいろいろな問題をむしろ引き起す。元来、中小企業は小さいとか、あるいはおくれておるということから、いろいろな問題が出てきますが、それを絶えずおくれたところへとどめておくものは何かといいますと、上からの圧力といいますか、それがあるということになるわけであります。一次元の問題について、規模が小さいから組織化しなければならない、あるいは、おくれておるから近代化しなければならない、近代化、合理化ということがいわれます。二次元のところで、過当競争というものがひどいから、何とか過当競争を是正するために、やはり団体法等で組織化しなければならぬといわれますけれども、実は過当競争というものがひどくなるということも、ことに一次元で非常に資本蓄積ができないような状況にある。もっと大きくいうと、上からの今のようなしわ寄せ、収奪が非常にひどいから、いよいよそうなっておるのだということがあります。  さらに、もう一つ、過当競争というものの日本的特色を申し上げますと、これはやはり原価計算といいますか、ほんとうに生産を合理化していって、そしてコストが下って、それで価格競争をするというのならいいのであります。そうじゃなくて、非常に不合理な形で、向うでは不公正競争といいますが、不合理な形で労務コストにしわ寄せする。つまり、労働費用という部分が非常に日本では伸縮性を持っている。さらにまた中小企業の階層自体が、さっき言ったような労働階層だ。家内労働が下請、さらに内職がある。こういうふうなものへしわ寄せをすることによって、このコスト構成というものが非常に伸縮性を持っている。一方で非常に技術を高め、労働基準法を守り、まじめにやろうという産業資本家が、それに対して、たとえば問屋上りの方が、ほとんど設備らしいものを持たない内職とか家内労働を利用して、非常に安いコストで、まあ、安かろう悪かろうという競争をやられると、一方は伸びようったって伸びられない、こういう点に一つの根本問題があるということがわかりました。  で、第三次元の問題としましては、この第一に、やはりこれは各国共通ではありますけれども、この独占価格という問題、これは全体に関係した問題です。これだけに独占禁止法の改正というものは、よほど慎重にやっていかなければ困る。独占価格の問題、さらに中小企業の領域に大企業がどんどん進出してくる。戦後、ことに海外市場が狭くなったために、日本の大企業国内市場に出てくる、こういうことがあります。で、ここでやはり過当競争とも関係しますが、欧米においては比較的大企業領域と中小企業領域、また今度はそれぞれの中小企業の中でも、それぞれの専門化というものが非常に進んでいる。日本ではそれが非常に進んでない。で、大企業中小企業に出てくるやり方を見ておりますと、そのやり方は、何も大企業自分でそれを作るのじゃない、第二次製品に進出するといいますか、シャツや何か、これは皆系列を作って中小企業をピック・アップしていく。そして出てくるわけです。系列外と系列内は非常な格差ができてくる。そうして中小企業の問題と、そこに出てきた競争の場面においても、すでにもう第三に、この下請に対するしわ寄せ、これは先ほど申しましたように、下請に対して日本のような不当にしわ寄せをやっているところはない。たとえば支払い遅延の問題、これも下請支払い遅延の防止法ができましたが、これが実に実効をあまりおさめてない。すなわち、支払い遅延の問題ということにつきましても、私欧米で一生懸命に探して歩いたけれども、どこでもこれは発見できない。たとえば三カ月の、九十日の手形というのを話したら向うは目をまるくして驚いた。よく世論やその他が黙っているな。日本ではそういうのが当りまえで、むしろいい方になっている。お産手形の十カ月のものとか台風手形、つまり七カ月のものという、そういう言葉があるように、日本では非常に長い期間の手形になっているわけです。しかも、下請支払い遅延の長期手形から始まりまして、さらに一般の取引すら非常なそういう手形の横行というようなことになって、非常なディスオーダーになっている。こういう点をもつ、根本的に改めなければならんのではないか。しかも向うでは、私はデトロイトで下請の問題が最もやかましいというので調べたのですが。非常に大きい企業ほど払いが最もいい。日本では大きい企業が払いが悪い。で、まあ支払い遅延防止法を作ってみたが、公正取引委員会が一生懸命ある程度やるだけで、つまり中小企業者が、先ほど言ったような階層位置にいるために、また彼らが下請から首を切られることがおそろしいために、それを利用できないというような条件がある。そういう点を直していく力こそ国家の力でなければならぬのであります。  で、さらに第四の国家を通じての問題になるので、これは財政の問題あるいは経済政策における大企業偏重の問題であります。そこで、今度の予算を拝見いたしますと、まあいろいろな特色があると思うのであります。で、その場合に私が、いろいろこの予算全体についての批評もすでになされておると思いますが、中小企業について言いますと、これはやはり今度の予算は、非常に大企業偏重の予算であるということは、たとえばまあ財政投融資、これは非常な重要な問題でありますから、これを拝見しただけでも大企業関係に対しては非常にこれがふえてきている。これがまた今度の予算特徴でしょう、数字は御承知であると思いますから申し上げませんが、それに対して、中小企業に対する財政投融資は、これは一応前年度並みのようであるが、よく見ると、政府返済金というものがありますから、これを抜いてみると非常な実質的な減少になってしまう。もちろん、昨年度はデフレ政策が行われたときだから、特別にふやしたという言いわけもあるかもしれませんが、しかし、今年においても中小企業はよくなるという約束も何もないわけです。それだけにこの削減は、実質的削減ははなはだ残念だと思う。たとえば中小企業金融公庫に対して二百七十五億、国民金融公庫二百五十億、それから商工中金政府出資十二億、商工債券引き受け二十億というふうになっておりますが、その中から、中小企業金融公庫、国民金融公庫からの政府返済金がそれぞれ百六十六億になっておりますから、それを引きますと実質的な増加というものは、これは二百二十三億ですかになるのであります。そしてこれは昨年度のこの貸出額の純増分というものと比較してみますと、中小企業金融公庫においては二十五億のマイナスになっておりますし、それから純増分がむしろ減ってきている。国民金融公庫においては六十八億のマイナスになっている。さらに商工中金について二十億のマイナス、つまり貸し出し純増加分というものは百十三億のマイナスになっている。もちろん自己資金というものがだんだん回収されてふえて参りますから、全体としての貸し出しはふえてくるわけですが、増加分が減ってきております。こういうことはまことに残念だと思う。そのほか信用保険の方に出るものもありますけれども……。  次に、中小企業対策費という面を見ますと、これが実に全体の予算の中の割合がわずかでありまして、まあ今年は十億余りふえまして二十二億になっております。しかし、全体の予算の関係でいうと、わずか〇・一五%、先ほどの中小企業金融公庫等の財政投融資分と合せてみても二百五十億余りでありまして、全体の予算の一・七%、二%にもなっていない、つまり中小企業というものが、いかに国民経済の上で重要な地位を占めているのかということに対して、あまりにもこれは貧弱なものではないかと思うのであります。もちろん対策費を見ますと、設備近代化のために十億余りを出すということは、昨年度の六億から四億ふえたということは、けっこうなことでありますけれども、これも実は中小企業全体から見て、今日老朽設備が非常にひどくなっております。さらにまた、新設の必要ということが、非常に今緊急のことになっている。こういう要求を見ると、少く見積っても五百四十億くらいのものが必要なんです。ただいまの十億というものに、これは国家が出し、県が十億出します、それにまた別のあれがありまして大体二十五億で踏んでみても、それが三分の一の補助でありますから全体で七十五億、結局現在必要としているものの七分の一にすぎない。まあ中小企業庁は三カ年計画で、今年四十億出してもらって、今の問題を解決しようとしておったのですが、これがこのように削減されてしまっているという点は非常に残念であります。そのほか技術指導を強化するとか、非常に全体からいうと、わずかのものでありますが、中小企業庁がねらっているいろいろな方向は非常にけっこうなんです。けっこうだけれども、その額はあまりにもわずかである、ということで、まあ残念に思う。で、これは、今日経済白書等も二重構造というような問題、日本のこういう矛盾の問題を指摘しているのでありますから、これをほんとうに直していこうというならば、ここらあたりでもっと本格的な中小企業対策費なり、投融資なりを考えなければならぬときにきているのではないか、こう思う次第です。  さらに中小企業に対する労働問題が非常にやかましくなり、その政策が審議されております。で、先ほど申したように、この中小企業の問題は、これは現実経済の動きも大きいものへだんだん集中し、いよいよ大きいものが近代化していく。その場合に、その大きいものの近代化、進展において、この下請や、あるいは税金や、金融関係や、その他を通じて、この中小企業から吸い上げられるが、中小企業には戻らない。こういう関係で、中小企業が行き詰まってきているのですから、ですから、この基本動向をチェックするというようなこと、そこで公正取引委員会が非常に重要なんでありますが、チェックしなければならない。そうしながら、中小企業の二重構造を直していかなければならない。従って、その仕事は、経済の自然にまかしておけばそうなっていくのでありますから、これはどうしても国家財政なり国家の施策に待たなければならぬということになる。で、中小企業者自体はばらばらで、なかなか団結できないということでありますから、それは国家が大いにやらなければならぬというのに、それに対してこれはあまりにも私は少いんじゃないか。  それから、もう一つ重要なことは、従って、上から中小企業にしわ寄せされ、中小企業はしわをまた労働者に転嫁する、こうしてやってきている。そこで、労働者自身がここで組織を作る。それからまた、国家がそれを援助してやって、そうして最低賃金制なり、その他いろいろな労働対策をもって、その底を入れてやるということをやれば、二重構造是正の基盤ができるわけであります。ところが、それについて、今日の最低賃金制というものを拝見しまして、現実に確かに賃金格差が極端であるから、なかなか理想的なことはできないという事情もありますけれども、また、それだけに、あまり弱いことをやればいつまでたっても二重構造は直せない、こういうことになってくる。で、今日の業者間協定というようなものだって、あるいは——もちろんあの案には、それが中心で、いろいろあと案がありますけれども、それを中心としてやるという行き方では、私はほんとうの意味の最低賃金制ではないんじゃないか。各国でもこういうふうな例を見ることができません。つまり、労働者が参加しないような最低賃金、いわばこれは労働力を商品として考えるならば、買手のカルテルであります。買手側のカルテルにひとしいようなものであります。ですから、今の最低賃金を上げるんだという、これに条件をむしろ、今度は賃金を押えることにもなり得るものであります。で、そういうふうなものをもって最低賃金制度とするということは、私は二重構造を直していくことにはならぬと思って、残念に思うのであります。  で、今のようなつまり労働条件を高めていくということが、実はこれは中小企業にとっても、上からのしわ寄せや、そういうものを排除しながら、近代化していくための土台になるんだということを、もっともっと深く啓蒙していかなければならぬ時じゃないか。で、そういう方向にだんだん持って六かなければならぬ。で、ドイツでいろいろな例を見ましたし、それから各国で見ましたが、各国政治家の頭はもうそうなっております。つまり、非常にひどいテープ・レーバーというようなことが起ってくると、それを非常に社会悪として、それをむしろ直していく方が、産業近代化の国の経済を擁護していくゆえんであると。ところが、日本では、財界においても、あるいは政界においても、まだそういう点の十分な認識がないんじゃないか、これをどうか深めていただきたい、こう思うのであります。  で、大体において、歴史を考えてみましても、イギリスが二重構造をだんだん、脱却というか、産業革命後それを直してきたゆえんは、やはり資本家同士が競争をする。そうして労働者が要求して工場法等がここで出てきますと、資本家同士が同じ平面で競争しているから、そこで労働条件をお互いに共通にしよう、不当なひどい労働条件でいるものはなくしていこう、こういう方向に向うわけであります。そうなってくれば二重構造がなくなっていく。日本は、どうかすれば、明治以来のこの日本の産業の発展の仕方によりますけれども、常に大きいものが小さいものを利用して、さっき言った縦の系列で、その下に労働者がおる。そうなると、労働基準法等はこっちは免除してやる、特例を設けてやる。つまり、大きいものは中小企業を利用して、そこからしぼっていますから、それを全部に厳格にやるというような要求が大資本側にも出てこない。こういう点が、最も日本の反省しなきゃならない点である、こう思うわけです。  で、もしも国家の政策というものが、今の二重構造是正にほんとうに向わないとすれば、やはりこれは労働者の立場から、下からつき上げていくという行き方を強めざるを得ない。こうなってくれば、いよいよ社会不安になる。そういう方向をとらないというならば、つまり、欧米においてもすでに日本のようなそういう不合理なものはないのですから、同じ資本主義だって、そういう不当なしわ寄せというようなものは、それほどひどいものはなくなってきているのですから、日本で行えないはずはないのであります。ですから、どうか、私は、この日本の財界自体も、その大きなところが手放しで、やたらに支払い遅延なんかをやっておるのでありますが、こういう点を改めてもらいたい、こう思うわけであります。  じゃ、これで……。(拍手
  19. 小柳牧衞

    理事(小柳牧衞君) 公述人に対して質疑のある方は御発言願います。
  20. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 一つだけお伺いしますが、最近、中小企業界内部における企業間の格差がだんだんと強まってきている、激しくなってきていると、こういうことをよく聞くのですがね、果してそうなのか。これはいかようにしてどういう対策を講じていけばいいものか、その点だけお聞きしたいと思います。
  21. 伊東岱吉

    公述人(伊東岱吉君) 今お話しの通り、その企業格差が非常にひどくなってきている。で、それがまた、実は中小企業の団結を妨げたりしております。しかし、これには二つの面がある。一つの面は、日本経済のやはり技術革新近代化。  さらに、私はここでもう一つ申し上げたいことは、単に近代化技術革新ということだけでなくて、技術革新に伴って、もう非常に新しい原材料ができたために1原材料等が出てきまして、それで国民の消費需要が、実は明治以来の伝統は戦前まであるが、戦後は急激に変化しまして、これはもう特に注目しなければならぬ大変革だと思います。そのために、今度は地方産業とか、在来固有産業ですね、げたとか、また日本の和式のもの、これが今どんどん没落しつつある。これはもう非常な重大問題だ。それに対する認識を深めないと、社会問題になってきていますから……。ことに零細なものが多い。しかも、それを転換するためには、どうしても資金を出してやる。そういう重要なことが地方至るところに起っております。こういうふうな、つまり経済の必然的発展から来る非常な格差が出てくるわけです。いち早く転換するか、いち早く近代化を取り入れたところは、ぐっと伸びますけれども、取り残されたところは、どんどんおくれてしまうというようなことが、現在急速に起っている。  もう一つは、系列なんであります。もう一つは系列で、系列に入った上の方は、大企業が、つまり大企業に利用できるように急速に今近代化しておりますから、それで引き上げようとしているのだ。大企業の顔でもって、資金の融通をさせたり、いろいろなことで、そこはよくなる。ところが、系列の末端は、実は階層があるので、下へ下へとしわ寄せされておる。ここは必ずしもよくなっておりません。つまり、系列からはずれちゃったものは、これはつまりあぶれたような形になると、つまり大企業中心でさっき言った系列を作って進んでいるから、それからはずれた連中がまた階層を作るようになる。こうして階層は非常にひどくなってきておる。で、これに対しては、これは私はやはり大企業日本の今のようないわゆる利用の仕方を反省してもらいたいのです。それは、大企業が系列のもとにあるものを近代化すること、これは非常にけっこうだと思います。しかし、しわ寄せを大いにやる、あるいは大企業中小企業領域にやたらに出てくる、こういうことはもっと自制してもらいたい。英国なんかは特に非常によく自制しております。  そういう点が一つと、それから国家の政策というものが、これは各国常にそういう傾向に陥って、今問題になっておりますが、中小企業といいますと、中小企業の定義をどんどん広げていくのであります。事実中小企業の上の方の層ですね、これも困ってきておる。たとえば戦前は従業員百人未満であったのが、今や二百人未満であり、さらに三百人未満になり、どんどんこれを広げてきておる。広げてきておる理由の中には、そういう上のものもやはりしわ寄せを行われるようになったということがあります。しかももう一つ、大企業が利用できるもの、これに中小企業政策を集中させる、あるいは最も大きなものは、金融機関が中小金融としてやるときに、自分たちのべースに乗るようなものを扱いたいのですな。この末端のものはあまり扱いたくない。だから、中小企業の定義が上へ広がれば広がるほど政策は上にだけ集中するということになるのです。下にいよいよ及ばなくなって零細企業は忘れられてしまう。で、私はやはり今零細企業政策ということがある。これをもっと根本的に考えて取り上げなければならぬところじゃないか、こう思っております。アメリカでもスモール・ビジネスといいまして、スモール・ビジネスという範囲でどんどん広げてきてしまったんです。だから今度は、ある学者のごときは、スモール・ビジネスといって実は上のものばかりかわいがっておる、中小企業庁はそれじゃいかぬ。一番問題なのは零細なものであり、そこが一番深刻なものである。これはちょうど日本中小企業の問題と同じであります。これをリトル・ビジネスと呼び、リトル・ビジネス政策を要求してきた。これはアメリカでも同じことであります。だけれども、今言ったように、定義がだんだん大きくなるときに気をつけなければならぬということは、そういうことであります。  私はここでもう少しつけ加えたいことは、日本中小企業の統計とか、あるいは実態というものが、実は全く、まあ最近非常に進んだといっても、実は全体がつかめておらないのであります。私は産業合理化委員会で、この前の中小企業の基本調査の仕事をやらされましたが、その場合に、日本で実は今従業員三百人未満とか何とかいっておるけれども、業種別、業態別にこれは考えていかなきゃならぬことなんです。そんな一律にやれないことなんですな。ですから、もっとまた、中小企業の間に階層があるのです。そういうことをはっきりさせ得るような調査をやって、そうしてそれを分析して、新しく日本日本に適した中小企業の業種別それから業態別、そういう定義を作ろうということが委員の共通の願いでありました。ところが、予算が非常に削られてしまいました。本年度予算を見ると、その基本調査をやりっぱなしでもって、基本調査を分析するための——これはわずかな予算でいいのでありますが、それの定義と国民経済的重要性等を研究する、分析する研究費もゼロになっておる。これは私は一体調査というものをやりっぱなしじゃ、全くこれはおざなりじゃないか。これはやはり中小企業庁あたりが予算をちゃんととっていただいて、十分これを専門家を動員して、しっかりした中小企業政策の基本を作るべきじゃないか、こう思うのです。  統計についてちょっと申し上げますと、通産省の工業統計表では、実は企業別は何もわからない。今度の統計はようやく少し企業別が出てきておりますが、わからない。事業所別なんです。事業所別ということは、大企業も中小事業所を持っております。ですから企業別と事業別は全然意味が違うのであります。われわれは、常に中小企業と言っているときに、大企業事業所が一ぱい入っているのです、あの中に。つまり大企業でも従業員二百人、三百人未満の事業所は幾らもある。こういうものがみんな一緒に入っておって区別がつかない。ですから、今度私は栃木県に頼まれていろいろその企業別の分析調査をやった。分析調査を企業別にやってみると、はっきりわかってくるのでありますが、驚くべきことに、普通言われる以上の較差がはっきり現われてくる、企業別較差ですね。そういうふうな調査というようなことに実はもっと予算を——これはもう全体からいえばわずかなものなんですから、投じて、私は日本中小企業政策の土台になる、そういう実態調査をしっかりやってもらいたい。また、そういうものをもっと進めなきゃいけないんじゃないか。今までのようなただ腰だめで、中小企業というと、ある人はこんなことを考え、ある人はこんなことを考える、こういうことじゃいけないんじゃないか。もっとこれを科学的に発展させることが政策出発のスタートではないか。まあ少し横道へそれたようでございますが、こういうふうに考えております。
  22. 小柳牧衞

    理事(小柳牧衞君) 伊東さんありがとうございました。速記をとめて。    〔速記中止〕
  23. 小柳牧衞

    理事(小柳牧衞君) 速記を始めて。   —————————————
  24. 小柳牧衞

    理事(小柳牧衞君) 最後に、二瓶万代子君にお願いいたします。(拍手
  25. 二瓶万代子

    公述人(二瓶万代子君) 私は、主婦の立場から社会保障について少し実情をお話ししてみたいと思います。かぜを引いておりますので、お聞き苦しいところがあるかと思うのですが、どうぞよろしくお願いいたします。  私たち主婦は、家庭の円満を何とか保ち続けたいと願っております。そのために集まりをいたしまして、嫁しゅうとめの問題や親子の問題、住居の二夫や子供の教育から、生活の問題など、日ごろ話し合っております。老人問題研究会はもう五年にもなりますが、痛切に感じますのは、経済的な問題がいろいろの問題を引き起す原因を作っているということでございます。五十才、六十才、七十才となっていられる方たちは、老後に不安を感じているというよりも、むしろ直接その中にいるのでありまして、問題をたくさん持っております。どんなに若いころ一生懸命働いてたくわえを持っていた人も戦争で失ってしまいました。恩給をもらえる人はうらやましがられるほど、ほとんどが何の生活の保障もございません。従いまして、私たちは、国民年金の、ことに老齢年金を願い続けてきたのでございますが、たのたび政府も考えて下さいまして、お年寄りにはどなたにも年金を差し上げますということなので、まあ一同は大喜びをいたしました。  それではその老齢年金はどのくらいもらえて、どういう仕組みになっているんだろうかということを張り切って調べてみたものでございます。前から、社会保障制度審議会で案が出されますと、それを読んだり、厚生省案が出ますと熱心に調べたりいたしました。このたび、衆議院を通りましたところの国民年金の三十四年度予算は百十億でございますが、老齢年金、母子年金、身体障害者年金と三本建で、内容は拠出制を建前として二十歳から五十九歳まで、月百円から百五十円の保険料を支払いまして、保険形式の積み立て、最低二十五年間かけていれば、月二千円、四十年間かけた場合は、月三千五百円ということでございます。これは若いうちに、自分の老後のためにする積み立てでございますが、まず、その若い人たちがびっくりいたしました。二十五年間でさえ職場が変ったり、いろいろな事故があったりして続けられるかわからないということでございます。まして四十年間の長い間、とても先のことはわからないというのでございます。六十才、七十才になっていられるお年寄りも、自分の過去を思い出して、とてもとてもとため息をもらしました。また、国民年金は全国民に適用する。ただし、当分の間は、既存の公的年金の適用を受けている者はこれを除外するという形でありますが、既存の公的年金との通算は考えられていないようであります。苦しい生活の中から積み立てておりましても、職業が五年くらいで変って、厚生年金の保険料を新たに出すようなことになったときに、五年かけました年金の積み立てばそのままになってしまうようでございます。これではいやだと一同思いました。  では今、年寄りの人はどうかと言いますと、無拠出年金がありまして、これは七十歳以上からもらえて、月千円ということです。七十歳を過ぎていらっしゃるお年寄りが、まあうれしい、月千円ではお小づかいでしかないけれどもと言いながらも、ほっとした顔をなさいました。しかし、これには制限がありまして、住民税の均等割を納める者や、同じ世帯に所得税を納める人がいる場合は受給資格がないと知りまして、そのお年寄りはすっかりがっかりしてしまいました。しかも、拠出制年金を基本として、経過的、補完的に無拠出年金を並用するといっていますが、これにも疑問がわいて参ります。何しろこの無拠出年金をもらえる年寄りというのは、七十才以上ということですから、三百十万人いるわけですが、そのうちの百九十八万人しかもらえないことになります。このような不完全な国民年金は社会保障と言えないと思いますし、もうしばらく研究していただいて、私どもの不安をなくし、社会保障としてのものを考えていただきたいと思うのでございます。  この支給額の少い不十分な国民年金は、生活保護の基準額から割り出されたものでありますし、その生活保護の基準は、昭和三十二年に改訂されたもので、標準五人世帯で夏季におけるものが一万百三十九円、一般世帯に対する被保護世帯の消費水準の割合は改訂されているにもかかわらず三六・三%という低いものであることが厚生白書に示されております。  被保護者の主婦の方に、どんな生活をしていられるか聞いてみましたところが、毎月八日に出るこの保護費はとても一カ月間もつはずもなく、月末へ来てから八日までの間は一銭もなく、内職をしてやっとおかゆをすすっているけれど、どうかすると内職用ののりさえもなめることがあるということで、あぜんといたしました。しかも内職をしたことがわかれば、保護費から差し引かれるのでございます。それでごまかしごまかし生きているというのでした。主食は一日十円でありますし、野菜は四円、魚は四円五十銭、みそ、しょうゆが一カ月八十円ぐらいしか使えません。入浴は月三回、床屋は月に六十円、婦人にはこの六十円すらありません。長い間の低い賃金と失業に悩まされて、つくつく貧乏の悲しさを味わっているということでありました。全国百七十万の被保護者の人たちは決して特別な人たちではありません。あしたの自分たちであるかもしれないのです。最近被保護人員は増加傾向を示してきているということでございます。  生活保護の三十四年度予算額は、三十三年度より三十四億円の増額になっておりますが、物価の値上りと失業の増加からくる被保護人員の増加などを考えますと、このたびの基準三・一%引き上げは焼石に水であると思われます。それは一カ月の生活費がわずかに五十五円上るだけだということなのです。基準が低いところへもってきまして、わずか働いた収入は差し引かれる、年金の加算はされないということでは、更生して立ち上る機会はほとんどないのではないでしょうか。先日ニコヨンの人たちや大ぜいの労働者が、戦争と失業に反対して、各地から行進を続けたようですが、貧乏のつらさを訴えなければならなかったほどつらい生活が続いていると思います。  また、貧乏に病気はつきもので、医療扶助費が生活扶助費を上回っているということでございます。どうやら生活している者にとりましても、病気となりますと治療費は上りましたし、入院費も高くなっております。健康保険に入っている家族ほ半分治療費を支払うわけですが、その半分の治療費さえ考えてしまうので、私たち主婦は医者に行くべきところをつい行かずにいることはしばしばございます。ある医者が、豊島区の中で調査をいたしましたところ、医者にかからなければならない人のうち五〇%がかかっていないということでございます。また、国民保険によって多くの人たちが医療を受ける仕組みになったといたしましても、その人口増加による予算を取っただけであって、医療内容改善するような予算措置はなされていないのでございます。つまり半額自己負担でありますし、その療養中の生活は保障されていないのであります。これでは商売も休むことはできず、医者にも行くことができないありさまでございます。生活保護の入院費の平均は、月に一万三千円かかります。この医療費の払えない階層はますますふえております。お金に困らない人はいいでしょうが、貧乏人は貧乏から立ち上ることができないように悪循環を繰り返しております。それであるのに医療券の打ち切りが多くなっていると聞いて、憂慮にたえません。厚生白書にも示されましたが、金持は一そう金持に、貧乏人は一そう貧乏になっていくような、今年度予算が組まれていると思うのであります。  結核対策については前から政府も力を入れて下さって、化学療法等の進歩もあって死亡率が下っているということは喜ばしいことだと存じます。しかし三十三年の厚生省の調査によりますと、全国で結核のために医療を要する患者は三百四万人、観察を必要とする者百四十七万人、合計四百五十一万人もあるということでございます。百人のうち五人はこれに該当するわけでございます。入院を必要とするものが八十六万人あるのに、病院のベッドは二十五万人分しかないということです。それなのにベッドは一割はあいているという状態です。もちろん、これは入院費、医療費が高いためや、あとの生活が心配で入院しなければならない人が入院できないからであります。死亡率は減ったが病人はふえているのですから、ここで政府の結核対策を一そうしっかりしたものにしていただきたいと願うのでございます。  また、私たちが地域でお世話になる保健所でございますが、保健婦さんに聞きますと、保健婦の人員に基準があるのに、その半数しかいないようなところもあって、五九・八%の充足率にすぎないのであります。こんなですから、保健婦さん自身が、お産が近づいても休むこともできず、異常出産が多いと言っておりました。このように働く婦人が無理をしているということは、母体はもちろん、生まれてくる子供に及ぼす影響も多いのでございます。夫の賃金が低いため、どうしても妻が働かなければならない人は増加しておりますのに、産休もとれなかったり、保育所も足りないありさまでございます。保育所は働く母親にとりましてぜひ必要なものであります。今まで長い間保育所がほしい、保育所がほしいと言い続けてきたはずでございます。必要に迫られて、母親同士で地域に作ったりしているところもございますが、未認可の状態で、困難をきわめております。しかし一方、生活が苦しくなって保育費が払い切れずやめてゆく子もふえているようでございます。ボーダー・ライン層の母子世帯は全くこんな状態で危機に瀕しております。一番保育所を必要とする人が、利用できないことは問題だと思うのでございます。しかも、児童を四段階に分けるようになりますと、一そう問題を広げるものと思われます。また、私立の保育所に働く保母さんは、期末手当は少し上っても、やめてゆく子供が多くなっているために園の収入が少くなり、保母さんの収入も少いということも起きているようでございます。保育所から見ただけでも、母子世帯の問題、母親の就職の機会、低賃金の問題等、考えていただきたいことがたくさん現われておりまして、社会的な配慮がなされなければならないと思うのでございます。  なお、ほかの児童福祉関係の予算を見ますと、児童福祉費は昨年度より三億九千万円の増加でありますが、母子福祉費が一億四千万円の減、その他児童相談所費、原爆障害対策費、社会福祉事業振興会出資等が減っております。母子福祉貸付金が減ったということは、母子世帯にとって大へん問題ではないかと思います。貸付金は何と言っても母子世帯にとって大切なもので、母親は子供を抱えてしゃにむに働かなければならないのでございます。母子年金はまだのことですし、たとえもらったとしましても月千円、しかも母子年金も貸付金も制限のワクがありまして、ごく狭い範囲の母子世帯しか当りません。青少年の不良化も増加しているわけですが、生活の不安定が親の精神的不安を起し、家庭の中には問題が累積して原因を作っている状態でございます。  福祉国家の増進のために社会保障制度を約束した政府でありますのに、以上のように、名目だけは社会保障のようであっても、社会保障ということのできない内容であります。三十四年度予算では、失業対策費が二億円減らされておりますが、このようにこれを減らされて、あっちにくっつけたり、わずかにふやしてはあっちを減らすということで、まことに私どもにとっては意外なことでございます。政府は社会保障に力を入れると言いながら、旧軍人恩給費は、国民年金費よりも多い百十三億円も増額するということはどういう考えなのか、さっぱりわかりません。また防衛庁経費は千三百六十億円という膨大なもので、三十三年度より百十三億からの増加でありまして、社会保障費と比べまして納得がいかないのであります。三月八日の新聞に、「消えた予算へ救い」という大きな見出しで出ておりましたが、それは盲人福祉協会の方たちが委員会の傍聴に見えて、らい患者の盲人の杖の予算が認められないことを知りました。偶然に坂田厚相に呼ばれたときに、その一話をしたために、さっそく坂田厚相は調べさせ、厚生省の予算要求の中から二千人分のらい患者の盲人の杖の予算が削られた事実が確められました。厚生大臣のはからいで、同じ患者の他の予算の中からやりくりをして、やっと杖を支給することになったと報じてありました。私はこれを読んで、こんなことでよいのだろうかと思ったのです。もし盲人の方たちが傍聴に来ていなかったらどうでしょう。もし坂田厚相に呼ばれなかったら、そして話をしなかったらどうなっていたでしょう。二千人のらい患者の盲人に杖は渡らなかったのではないでしょうか。言わなければ出ないということはおかしいことですし、言われようと言われなかろうと、国民の福祉のために当然考えられなければならないと存じます。しかもそれが同じ患者のお仲間の何かに使われ、費用から回されるようになったということもふに落ちないことでございます。  私たちの選んだ議員さん方が、私たちの代表として、私たちの声を予算の中に取り入れて下さいますように、主婦の立場から実情をお伝えして、希望を述べたものでございます。  それから、もう一言加えさしていただきたいのは、実は、この実情を裏づけるいろいろの予算の説明が必要でございましたので、参議院の方から、今年度予算の説明という資料を送っていただきましたが、こういうようなわかりやすい予算書というものが、一般の私たち主婦にはなかなか手に入りにくいものでございますので、こういうようなものが、もっと何か安く手に入るとか、もっと一般の人たちにわかるような、そういうことをしていただきたいとお願いいたします。(拍手
  26. 小柳牧衞

    理事(小柳牧衞君) 公述人に対し、質疑のある方は御発言を願います。
  27. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 だれもなければ、いい機会ですから、家庭の主婦の方ですから簡単なことを三つだけお伺いをしたい。その一つは、あなた方もデパート等にお入りになると思いますが、デパートに入ってみますというと、ずいぶんきれいな御婦人方がたくさんいらっしゃって、購買力というものはたくましいものがありますね。また最近株値がずいぶん上っておりますが、大体推察するところ、大衆も相当株を買っているのじゃないかと推察されるわけです。これは相当根拠があると思います。相当株が大衆によって買われる。デパートに行ってみると、きれいな着物を着て、きれいなお化粧をして、ずいぶんよくもあんなに買えるものだというような購買が行われている。そういう姿を見た場合、御婦人、家庭の主婦として、どういう感じを持たれるか、感じだけでけっこうです。  それから第二点は、失礼ですけれども、あなたはお子様があられるかどうか、学校に行く子供です。もしあるならば、その学校に行くお子様はあなたの居住地の通学区の小学校なり中学時に通学さしておられるか、それとも、あなたの通学区域以外の小中学校に通わせておられるかどうか。と同時に、最近やみ入学というのがいわれておりますね。あの点に婦人並びに主婦としてどういう見解を持っておられるか。それから、最後として、第三点は、新聞あるいは雑誌で活字を通じてグラマン汚職や賠償汚職という活字を見たことがあられるか、あるいはテレビ、ラジオ等を通じてグラマン汚職あるいは賠償汚職というようなものを聴視したことがあられるかどうか。もしあるとすれば、御婦人並びに家庭の主婦としてどういう感じを持っておられるか、その三つをせっかくでございますから御参考に聞かしていただきたい。
  28. 二瓶万代子

    公述人(二瓶万代子君) デパートの大へん購買力があって、主婦たちがきれいにして、いろいろたくさんなものを買っているが、どう思うかということでございますが、私は私のところ、自分のことを考えてみまして、まあ、デパートへ行って買いものをする場合は、やはり私サラリーマンの妻でございますから、そうやたらに買っては破産してしまいますので、大体、計画を立てまして買いますから、ほしいものがあるときには、二月とか三月ほど前から計画いたして、また、ボーナスなどを当てにして計画いたしておりますが、ですから、そんなにデパートには年中行っておりません。たまに行きますと、非常にすごい人が入っておりますのをよく見ますが、私たちが参りますところは大てい特売場で、安い品を引っかき回すぐらいで、それから、高級品のところへいらっしゃって買っていらっしゃるのは、やはり特別の金持の奥さんではないかと思っております。それは身なりなんかを見ましてもよくわかるのでございます。そういうのはやはりごく少いのじゃないか。それから、私たちは、やはり特売場でより安い、しかも長持ちするものをと思って汗を流して引っかき回しております。ですから、あすこの中に行ってほしいものばかりでございます。ですから、そのつもりになってほしいと思って買ってきますれば、家庭の方は破産してしまいますから、たまに行って自分の必要なものを特売場であさってくるという程度でございます。  それから子供があるかどうか。私、子供を二人持っております。もう小学校も中学校も高等学校もみな地域の学校へ入れております。すぐ近所の小学校です。上のは大学へ行っております。下のが高校でございますが、高校も地域でございますから歩いて通っております。それからやみ入学でございますが、私はあれはほんとうに困ったことだと思っております。でも実際に親の立場としまして、やみ入学をしなければならないような、そういう実情じゃないかと思うのです。というのは、やはりいい大学へ入れたい、というのは就職にからんできますし、いい大学に入るのには、またそこによく入るような高等学校、そこの高等学校へ入るようないい中学、その中学に入る地域というふうにつながっておりますから、どうしても就職ということを考えますと、何とかして無理してでも、子供にむちうってでもそういうところへ入れたいというのが親だと思うのです。それに非常に矛盾を感じておりながらそうしなければならない今の社会の情勢だと思います。でもこれは当然何らかの方法で変えていかなきゃならないんじゃないかと思っております。親の虚栄心だとよく申しますが、虚栄心じゃなくて、やっぱり就職——子供が将来食べていかれなくちゃ困るので、やはりそういうところにつながっているものだと思います。中にはもちろん虚栄心の人もありますが、実際はやはり就職というところへつながっていると思います。  それから汚職のことですけれども、汚職というのはまあ新聞でよく見ますが、そのたんびに腹を立てております。私たちが払っているその税金の行方というものがそういう形で使われているということは、まことに腹の立つことでございます。税金を納めていられる人はまあいい方な状態でございますけれども、やはり苦しいながら税金を納めているんだと思います。ことに私どもサラリーマンはごまかすことなんかできません。働いてきて月給のところからちゃんと引かれますから、実に私の手元へ持ってきますのは少くなっておりますので、それを勝手な汚職になんか使われるということには、全く腹の立つ……、これをそのまま何とはなしに、結末もつけられずに何とはなしに消えてしまっている状態をほんとうに心から憎んでおります。
  29. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 ちょっと。今の第三点ですね、こういう点を伺いたかったんです。新聞雑誌で見たとされれば、ああデマ記事が出ているなあというような印象を受けられているか、やっぱり少しは何かくさいなあという程度か、あるいは、やっぱりこういうことがあるんだなあというような気持で記事を見ておられるかどうかという、そこに重点を置いて伺いたいと思います。どういう印象を……。
  30. 二瓶万代子

    公述人(二瓶万代子君) それはそういう事実があるから新聞に出るんだろうと思うのですけれども、まあ新聞記者たちがどういうふうな記事の書き方をなさるか知りませんけれども、汚職というものがあるということは、新聞から事実として受け取っております。まあ、内容につきましては、やはり私たちは新聞を読んだり、ラジオを聞いたりして、そういうふうなことぐらいしかわかりませんので、やはりそれを信じております。
  31. 高田なほ子

    高田なほ子君 予算委員会の公聴会に珍しく主婦の立場の方がおいで下さって、大へんけっこうな御意見をわれわれにお聞かせ下すったことに対して心から敬意を表したいと思います。で、これは私の感覚から申し上げることかもしれませんが、まだまだ一般の男子の方なり政治の衝に当る方々などは、まだまだ日本の主婦が政治、特に国の予算等に対してはそう科学的な考え方を持っておらないのじゃないか、という考えを持たれておるような場合もございますが、まあ私どもいろいろ主婦の会におじゃまをいたしますと、特に二瓶さんのみならず、最近一般の主婦の方が特に政治問題、なかんずく予算自分の生活ということについて、大へん関心を高めておられることを特にこのごろ痛感するわけです。  お尋ねをするわけでございますが、二瓶さんも地域の主婦の方々などとともに、こういったような研究サークルあるいはまた婦人団体の中に懇談会を開いていく、というようなこともなすっておられるのではないかと思いますが、そのような実情、また今日の主婦が、政治に対する関心というものがどんなふうに高まっておるか、実際、地域の主婦としての考え方、いかがですか、お聞かせいただければ大へん仕合せだと思います。
  32. 二瓶万代子

    公述人(二瓶万代子君) 私も公聴会なんか出て参りましたのは初めてでございますし、こういう機会があるということはうすうす知っていたのですけれども、一般の私たちが公述人となることができるということも一般は知らないのじゃないかと思います。だんだんこのごろ主婦たちもいろいろ勉強しておりますし、やはり自分たちの生活が苦しいものですから、一体それがどういうふうになったら苦しくならないのか、それから子供の問題だとかいろいろの問題で、いろいろな壁にぶつかっておりまして、隣近所の人たちと小さな話し合いをしまして、それがだんだん大きくなって、その地域でいろいろな集まりを持っておりますが、私の方でも全国に会員がございますが、地域で小さく分れております。そこでやはり子供の問題だとか教育の問題、それから生活の問題、それから嫁しゅうとめが何とか仲よくしていく方法ということを話し合っていきますうちに、どうしても国の政治というものが関係が深いということをだんだん知って参りまして、もう選挙も近いものですから、最近では都政の勉強をだいぶいたしております。私どもの会ばかりでなく、方々でそれはやられておりまして、自分たちの税金がどういうふうに使われておるかということを、このごろだんだんお母さんたちがわかってきております。初めのうちはなかなか……その選挙というような、そういう話のときは集まりが悪かったのですけれども、その結びつきということが大へん大切だということがわかってき、集まっていらっしゃるお母さんたちもふえておる実情でございます。ぜひそういうところにいろいろのわかりやすいようなお話をしていただいたり、また私たちの声も聞いていただきたいと、議員さん方にお願いいたしたいと思うのでございます。
  33. 小柳牧衞

    理事(小柳牧衞君) 二瓶さんありがとうございました。(拍手公聴会はこれをもって終了いたします。   本日は散会いたします。    午後三時八分散会