○江口参考人 私は
天然ガスを使って仕事をしております者の一人としての考え方を申し上げてみたいと存じます。
新潟は御承知の通りに、日本で
天然ガスを最も多量に産出いたしております。今から八年ほど前に、私どもがそれを化学工業に利用することを考えまして、最初に
天然ガスからメタノールを作ることを考え、現在においては、日本において最大の生産能力を持っておりまして、年産六万トンの化学工業となった。次いで松浜地区に今度は肥料を作りますところのアンモニア、硫安、尿素を作ります工場を建てまして、これまた今春硫安換算年産四十万トンという日本における最大の肥料工場の一つにまでなって参りました。どうしてこういうことになったかと申しますと、ひっきょうするに、
経済的に見ますならば、
天然ガスが安い、石炭よりも、石油よりも
天然ガスが安いから、こういう仕事が次々と
発展して参りました。私どもがこの仕事を始めましたについて、日本における同業者二十数社が同じく
天然ガスに着目いたしまして、これに転換しようというので、はからずも
国内に
天然ガス・ブームを起したのでございます。ところが、ちょうどこの
天然ガス化学工業というものが、やっと日本においても芽を吹いたというや
さきに、まことに不幸にも
地盤沈下の問題が起って参りまして、ただいまその原因については、科学技術庁において調査して下さっておりますが、あるいは
天然ガスをとるための地下水のくみ上げ過剰によるのではないかというような疑問がかけられまして、私どもも非常にこれを悩んでおる。一面においては、やっとこの日本における大
産業の一つである肥料の製造ということが、国際レベルまで持っていけるというや
さきにこういう難問題が起った。しかし、私どもはやはり市民に御迷惑をかけてまでこの仕事をあくまで強行せねばならぬという筋合いのものではないと思います。どこまでもこれは良心的に行きたいということです。もしもガスにその原因がございますならば、これはまこ」とに大へんなことであるから、早く原因を究明して、私どもに明示してもらいたい、それによって、私どもはいかようにもまた方向転換して適当な
措置をとらなければならぬというふうに考えて、その原因のはっきり出てくるのを、実は鶴首して待っておるような次第でございます。ところが、これは大へんむずかしい問題でございまして、日本のみならず世界各国において
地盤沈下の問題は、そこにもここにも起っておる。そしてこの問題は、学理的に調べて参りますと、実にむずかしい問題となって、これをはっきりと明言するまでには相当な時間を要するということが、どこの国でもわかってきておる。そこで、それでは私どもは
新潟市民の感情も勘定に入れなければならぬということで、このたび
新潟の
地盤沈下の最もひどい場所において、ガス業者は自発的に日産十三万五千立方メートルという大量のガスの採取をとめたのであります。一口に十三万五千立方メートルといいますけれども、これを
経済的に見ますと、千立方メートルをもってアンモニアが一トンできる、また一トンのアンモニアから一・六トンの尿素ができる、一トンの尿素は四万円の価値を持っている、従って、これを年額に換算いたしますと、三十億円に相当するのでございます。けれども、私どもはそういう問題でないから、一応このガスをとめて、そのうちに原因もはっきりするだろうからということで、このガスをとめたのであります。そうして、と同時にいろいろ親切に考えて下さる方々がございまして、この原因がはっきりするのに時間がかかるであろうから、しばらくの間
新潟中心部からガスの採取をやめて、
新潟市の周辺あるいは郊外の方の遠距離にこのガスの採掘というものをずっと疎開していって、これをガス・パイプでもってつないで、それをガス業者に供給してみたらどうかというような議論が、地元においても最近行われるようになり、またこれは相当真剣に考えられてきております。そこで、私はこの考え方はきわめて妥当な考え方であろうと思いますけれども、ガスを取り扱う業者として一吉だけこれについてこの点だけは考慮に入れておいていただきたいということを申し上げてみたいと思います。
ただいま申し上げましたように、
天然ガスを使うということは、ガスが原料として安いということでございます。もし
天然ガスの値段が一立方メートル八円以上になりますと、もはや
天然ガスの
経済的の値打ちはなくなってきまして、それくらいだったら石油を使った方が安上りということになってしまいます。そこで、国際市場において私どもがこの製品を戦わせるということはもう可能性がなくなってきます。ただ安いということにかかっている。しかるに、かりに私ども
新潟と長岡あるいは直江津というふうな遠距離の地区にガス・ラインをもってつないでみるということを考えて、いろいろのケースを勘定してみますと、一立方メートルについて二円ないし三円コスト高になって参ります。そうすると、現状において
新潟天然ガスの値段は一立方メートル六円ないし八円くらいのところでございます。それに二、三円プラスしますと、八円以上十円くらいの値段になって参ります。そういう値段で一体製品が国際市場に持って出れるかというと、これは全く不可能であります。
これを数字をもって申し上げます。まず日本の状況を申し上げてみますと、現在
国内において四百五十万トンくらいの硫安換算肥料を生産しております。そのうち
国内使用は二百七十万トン、
外国に輸出しなければならぬというのが百八十万トンで、その輸出をしなければ、この
産業は成り立っていかないという状況であります。是が非でもこの百八十万トンの肥料を輸出しなければ食っていかれない、これにつながるところの何万人かの労働者も食っていけなくなる、こういうことになって参ります。その輸出しなければならぬ百八十万トンというものは、たとえば硫安にしますと、一トンについて四十ドルというような安い値段、ところが今日
国内においてどれくらい生産費がかかるかというと、やはり五十ドル以上かかっている、従ってこの輸出会社は年々大量の赤字を積み重ねながら現に数十億の赤字を背負って、苦境にあえいでおるのであります。しかるに、
外国は一体どういう状態にあるかということをぜひ頭に入れておいてもらいたい、そのために私はイタリアの地図をここに張りました。これはイタリアの北部の地図でございますが、赤線を引っぱってございますのは
天然ガスのラインでございます。つまり
天然ガスをクモの巣のように引き回してございます。しかもこの
天然ガス・ラインは三十気圧ないし四十気圧の高圧力のもとにつながっております。それから青線の引っぱってありますのは、
新潟と同じように水とともに上ってくる水溶性
天然ガスでございます。これはイタリアにおいては半官半民の会社が全部これをコントロールいたしております。その産額、これは一九五五、六年の統計でございますが、年産実に六千億立方メートル、これを日本に比べますと、日本の約二十倍でございます。そういうものを一つの会社がコントロールしてやっております。そうしてこれは井戸元においては実に一立方メートル八十銭、日本における価額の十分の一であります。そしてこれをガス業者に供給いたします場合には、税金その他を加えまして四円五十銭、これを燃料とする場合には日本の金にして七円というようなことでございまして、日本の業者の使っている原料と比べますと、実に安い原料を供給しておる。しからばそのでき上った品物はどうかといいますと、日本では硫安といたしましてわずか一トン五十二、三ドル、しかるに諸
外国、欧米の値段を見ますと五十七ドルから六十七ドルというふうに
国内価格は高くして原料は安くする、これほどまでに諸
外国、欧米各国においてはこの
産業をあらゆる面からよく指導していっておるのでございます。日本の現状におきましては、原料は高い、
外国に出すときにはほっちらかして四十何トルというような出血輸出をしなければ食っていかれないという状況になっておる。でございますから、かりに
政府におかれまして今後いろいろこの問題をお取り上げ下さいます場合には、どうしても諸
外国においてこういうことをよく考慮してやっておりますることを御研究下さいまして、これをお取り入れいただきますようにお願い申し上げたいと思う次第であります。これが私の申し述べたいことの一つでございます。
それから左の方の地図に赤くぬってございますところ、あの付近が
地盤沈下のひどいところでございまして、ガス工業者としてはここを自発的にガスをとめております。ところが私どもまだ原因がはっきり明示されないうちに、このガスを中心部から自発的にとめてしまったということは、ただいま申し上げましたように非常な
経済的な大きな犠牲の上に立っているわけでございます。従ってこの地区におけるガス井戸をずっと郊外に疎開していきつつございますが、この疎開井戸を開設いたしますような場合には、ぜひとも
政府におかれましても御同情あるお
取扱いを優先的にいただきとうございまして、これはいろいろと御考慮をいただいておると思うのでありまするが、重ねて業者として懇願申し上げた次第でございます。
それからなおもう一つつけ加えさせていただきたいと思います。これはガス業者からお願いしていることでございまして、
天然ガスは一応
地盤沈下の原因の一つではないかと申されております。私どももそうであってはならぬのでいろいろと心配いたしております。現に臨港地区に参りまして工場または住民の方々が非常に現実に
地盤沈下に悩んでいらっしゃる状況を見まして、ほんとうに私も御同情にたえない次第であります。しかるにここに非常に不思議なことがある。と申しますのは、私はここに写真を持って参りました。これは万代橋ができましたときに、
昭和四年に
新潟県において編さんされましたパンフレットです。これにでき上ったときの万代橋の写真が出ております。しかるにこれはきのう私が上京いたしますときに、きのうの朝、私は万代橋の写真を撮影してみました。三十年荊の万代橋と現在の万代橋はほとんど変っておりません。つまり臨港地区における
地盤沈下はものすごい勢いで沈下しておるわけですが、あれから千メートルばかりしか離れていない万代橋は、三十年間かくのごとくほとんど
変化していない。ほんとうにこれはどういうことであるか。また私はガス井戸を疎開するために、ずっと
新潟の北の中条の方へ参りました。これからガスを採掘しなければなりませんものですから、
地盤沈下でガス業者が悩まされては困ると思いまして、あらかじめ私はそこの写真撮影をいたしました。ところがこれは驚いたことに、ガスを採取しないのにこの地区は神社も民家も道路も水びたしになって、ひどい
地盤沈下が認められるのであります。これは私はここに写真を持って参りました。そこでこの付近における
地盤沈下というものは、なるほどガスもあるいは御調査の結果、原因の一つとして出て参るかもわかりません。いわゆる護岸地区がこういうひどい沈下、またこの臨港地区からほんの千メートルしか離れていない万代橋がほとんど沈下していない。あれやこれやを考えますと、実に不思議なことがございます。そこで私はこれはほんとうに全力をあげて御調査していただきたい。ことに私どもしろうとといたしまして申し上げたいのは、あの大河津の分水の出口に千町歩からの陸地ができておる。そうしてこの一方において信濃川の川合は、どんどん侵食されていくということと一連の
関係があるようにも思われます。従ってこういうこともガスの原因調査と同じウエートを持って、どうぞ一つ御研究、御調査をお願いしたい。もしガスをとめて
地盤沈下がとまってくれれば仕合せでございます。しかし私どもがガスをとめて
地盤沈下がさらに継続する場合には、それだけ手おくれになるということが考えられますので、この調査というものはあらゆる
角度から同じウエートを持って進めていただきませんと、後になって大きな手違いにならぬとも限らないということを私はほんとうに心から考えております。
こういうことを申し上げまして、御当局の何かの御参考になりましたらと思う次第でございます。どうかよろしくお願いいたします。