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1957-02-18 第26回国会 衆議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年二月十八日(月曜日)     午前十時三十三分開議  出席委員    委員長 山崎   巖君    理事 川崎 秀二君 理事 河野 金昇君    理事 小坂善太郎君 理事 川俣 清音君    理事 柳田 秀一君       伊藤 郷一君    今井  耕君       植木庚子郎君    宇都宮徳馬君       大橋 武夫君    小泉 純也君       纐纈 彌三君    周東 英雄君       須磨彌吉郎君    楢橋  渡君       野田 卯一君    橋本 龍伍君       福田 赳夫君    船田  中君       古井 喜實君    松本 瀧藏君       山本 勝市君    井手 以誠君       井堀 繁雄君    今澄  勇君       勝間田清一君    河野  密君       小平  忠君    島上善五郎君       辻原 弘市君    成田 知巳君       西村 榮一君    古屋 貞雄君       森 三樹二君    矢尾喜三郎君  出席国務大臣         大 蔵 大 臣 池田 勇人君  出席政府委員         農林政務次官  八木 一郎君  出席公述人         朝日新聞論説委         員       土屋  清君         全国販売農業協         同組合連合会企         画監理室長   土岐 定一君         早稲田大学教授 末高  信君         全国農業協同組         合中央会会長  荷見  安君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和三十二年度予算について     —————————————
  2. 山崎巖

    山崎委員長 会議を開きます。  これより、昭和三十二年度予算につきまして公聴会に入ります。  開会に当りまして御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます、  本日は御多忙のところ貴重なる御時間をさいて御出席をいただきましたことに対しまして、委員長といたしまして厚く御礼を申し上げます。  申すまでもなく本公聴会を開きますのは、目下本委員会において審査中の昭和三十二年度予算につきまして、広く各界の学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位の忌憚のない御意見を承わることができますれば、本委員会の今後の審査に多大の参考になるものと存ずる次第であります。  議事土屋さん、土岐さんの順序で御一名ずつ順次御意見開陳及びその質疑を済ませていくことといたしまして、公述人各位の御意見を述べられる時間は議事の都合上約二十分程度にお願いいたしたいと存じます、  なお念のために申し上げておきますと、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また発言の内容は意見を聞こうとする案件の範囲を越えてはならないことに相なっております。なお委員公述人に質疑することができますが、公述人委員に対して質疑することができませんから、さよう御了承をいただきたいと存じます。  それではまず朝日新聞論説委員土屋清君より御意見開陳をお願いいたします。
  3. 土屋清

    土屋公述人 衆議院におきまして、明年度予算案に対する私見を述べることができますことは非常に光栄に思います。  私は三点について意見を申し上げたいと思います。  第一点は財政政策基本的考え方であります。今回の予算案を拝見しますと、一般会計は一兆一千三百七十四億円、財政投融資は三千二百五十億円となっておりまして、それぞれかなりの膨張であります。すなわち一般会計においては一千二十億円、財政投融資においては六百八十億円、合計して一千七百億円の増加になっております。その財源経済発展に伴う自然増収に求められておりまして、それ自体決して不健全なる財源ということはできません。従って財政収支均衡であれば、一応健全な予算だということが言えると思います。特にこの予算において、経済界情勢に対処するために、経済基盤強化のために意を用いておるということは、注目されるべき特色だと考えます。そこでこの予算案が一応収支均衡健全予算だという形をとっておりますが、少しく財政政策あり方としての問題を拾って考えてみますと、過去二年間予算収支均衡であるばかりでなく、かなり中立的な予算でありました。そしてまたそれに成功いたしました。この二年間世界景気が異常な上昇過程にありましたそのときに、予算が中立的に組まれておったので、この世界景気の波に乗ることができまして、日本経済は現在異常な好況に恵まれるという事態になっております、こういう経済が好調の発展にあるときにおいては、基本的な考え方といたしまして、財政面から経済に対して与える刺激を少くする、いわば好況に追い打ちをかけるような形にならない方が、財政あり方としては一番賢明なのではないかと私は考えます。しかもこの世界経済状況を見ますと、過去二年間の異常な景気上昇が多少変化しつつあるやに考えられます。すなわち今までの好況状態からかなり波乱含み情勢に入りつつある、これが急激に下降するとは考えられませんが、少くとも異常な上昇は一応限界点に到達しているように考えられる。最も注目すべきは米国の景気動向でありますが、アメリカ景気を昨年来ささえて参りました投資景気も、本年の第二・四半期が頂点であって、七月以降、すなわち下半期においてはこれが低調化するということは、ほぼ定説になってきており、その投資景気の低下に伴う景気の後退についての警戒論が、アメリカ内部におきましてもかなり強くなっているような情勢であります。またヨーロッパにおいてはイギリスが注目されますが、イギリススエズ影響もありまして、先般来公定歩合引き下げを行いました。公定歩合引き下げを行うということ自体が、すでに英国経済がかなり不況の過程に入りつつあるその対処ということが考えられている証拠だと考えられます。このように英米経済動向を見ましても、世界景気の基調に今までと違った証拠が現われてきておる。こういう情勢であるだけに、日本経済特に財政あり方というものは慎重を期する必要があるように思うのであります。従ってこういう場合には、経済発展して自然増収が出たからといって、一挙に財政を大幅に拡大することについては、できるだけ控え目にする方が望ましいように考えられる。現に今審議されようとしておるアメリカ予算案を見ましても、二十億ドルの超均衡予算を組んで、国債償還に充てるというような処置をとっておる。ドイツは引き続いてやはり超均衡予算を組んでおり、歳入超過分を積み立てているというような状況であります。そこでわが国においても、考え方としては歳入があるからそれを全部使うといってしまうのではなくて、その場合にとり得る方策が二つあると思うのです。一つアメリカのように超均衡予算を組むか、あるいは自然増収見積りを大幅に見ないで、結果において自然増収歳入超過として出すか、そういう道が一つ、それから第二のやり方は歳入が多い場合においてそれを減税に振り向ける、すなわち今度の一千億減税をさらに上回る大幅の減税をするか、この二つの道があるように思われるのであります。  まず最初の超均衡予算を組んで、公債償還に充てるかという問題でありますが、これも一つ考え方と思いますけれども、必ずしも今国債償還を無理にしなければならぬということも考えられません。それでは自然増収見積りを、意識的にと申しては語弊がありますが、ある程度控え目にして、自然増収を結果として歳入超過の形にするかという問題でありますが、これをいたしますと、その結果経済界においては金融が締って参りましてオーバー・ローンになるというところに問題がございます。現に本年度においても歳入揚超財政揚超が非常に増大したために、結果的にかなり金融が締ってきておる。そして日銀貸し出し増加しておるという形をとっておる。これを再現するということも必ずしも適当な策とは考えられない。そうしますと歳入が非常に多く、自然増収が多いという場合においては、一千億減税より以上の減税を行なって、歳出規模増大に充てるということを避けた方が、一番いいように私には思われます。先般の税制調査会答申におきましても一千億の所得税減税は、一千億の自然増収明年度においてあるということを前提にしての答申であります。それ以上の自然増収のある場合においては法人税減税を行うべきだ、中央地方を通じまして二百五十億円程度法人税減税を行うべきだという答申をいたしております。私は歳出増加に振り向けるよりは、むしろこの際においては減税の幅を大きくするということを考えるべきだというように考えます。また財政投融資財源増大しておるという場合においては財政投融資規模を一挙に大きくしないで、できるだけ公募債等民間の負担になるのを減らして、民間資金活用によって事業をなし得る幅を大きくする方が適当だというように考えるのであります。この点考えられますのは、二十八年度予算案であります、私も二十八年度予算公聴会にもやはり出席した記憶があります。今になって考えてみますと、二十八年度予算案か二十九年度において激烈なデフレを経験せざるを得なかった大きな原因になっておる。当時は世界景気がなお持続する、多少くずれて参りましたけれども、なお持続するという考え方で、かなり一般予算においても財政投融資においても拡大いたしました。ところが朝鮮動乱が二十八年の七月に終ったというような予想できない事態も加わりまして、世界景気が二十八年の下半期において下降いたしました。そうしますと日本経済膨張が特に財政膨張がきっかけになってインフレ的になってきた。しかも世界景気が下降するというので、そのすれ違いのために、国際収支赤字増大する、これには凶作による食糧輸入の追加という問題もありましたが、構造的には今申し上げましたように、日本経済あり方特に財政あり方世界景気の食い違いということが二十八年度事態を引き起し、その後のデフレ経済を招かざるを得なかった大きな理由だと考えられる。今日二十八年度と全く同じだとは私も考えません。しかし今申しましたように、日本経済が非常な好景気状態にある。しかも世界景気の前途について多少の不安が感ぜられるということでありますれば、財政基本考え方としては、自然増収があるから、全部それを歳出増加あるいは財政投融資増加に振り向けるというのではなく、もっと慎重を期すべきではないかというように考えるのであります。  第二に申し上げたい点は、この予算インフレをもたらすかどうかという点であります。これが今日世間も一番注目している点だと思います。先ほど申しましたように予算自体収支均衡しておる、しかも健全な財源に依存しておりますから、私はインフレ予算だとは申しません。これは健全財政だということができると思うのであります、しかしこれが経済にもたらす影響が、中立的なのか、あるいはインフレ的なのかという問題は、予算自体の形式的なあり方は別として、別個に検討しなければならぬ点だと思います。この点について政府当局インフレをもたらすおそれはないということを強く言い切っております。ところが世間一般には逆にまたインフレが今にも起るのではないかというような不安が強いのでありまして、両極端の対照を見せております。私はこの世間インフレが起るのではないかということには、かなり思い過ごしもあるし、誤解もあるので、そういうインフレ不安がかえって、悪い事態を起すので、そういう誤解は除かなければならないと思いますが、同時に政府があまりにインフレにはならないというふうに安易に言い切ることも逆効果をもたらす。真理はその両方の中間にあるのではないかと思います。現在この予算の結果としてインフレが生ずるかどうかということを検討する場合、問題になるのは、投資インフレ消費インフレと、それからコストインフレと、この三つの要因だろうと思います。まず第一の問題は投資インフレでありまして、これが私は一番心配の点であります。今度の予算においては財政投融資が約七百億円ふくらんでおる。一般会計投資的部面も数百億円の膨張である。それから国鉄等設備投資も五百億円以上ふえておる。財政全体の投資需要というものは、結局二〇%以上ふえておるというように考えられる。もちろんこの投資というものは、民間投資が金額としては大きいので、それと一体にして考えなければならないのでありますが、民間投資はどうかと申しますと、昨年夏以来設備投資がきわめて盛んになりまして、本年度において約六千億円内外、それから三十二年度においては六千五百億円ないし七千億円、すなわち一五%内外設備投資増加が見込まれている状況であります。そうしますと、財政において二〇%、民間投資において一五%の増加ということになりますと、財政並びに民間両方投資需要がかなり多くなるということが予想される。もちろん投資需要財政民間を問わず盛んであるということは経済発展証拠であって、それ自体は必ずしも悪いことではないし、むしろ経済基盤強化をしなければならないとか、あるいは外国に対抗して設備近代化を行なって、輸出発展基礎を作らなければならないということを考えますと、投資意欲が強いということは決して悪いこととは言えないと思うのです。しかしそれにもかかわらず、その投資需要経済規模、あるいは生産力を上回るような程度に達するときには、それがいわゆる投資インフレを招く、つまり総需要と総供給との関係におきましてインフレ的な傾向が生ずる懸念が強いのでありまして、それで今の投資需要財政が二割、民間投資が一割五分という形でふえていく。それに伴う投資乗数効果を考えた場合において、果して全体として需給バランスがとれるかどうか、この点がもっと検討されなければならない点であります。特に総供給と総需要に大きく影響するのでありますが、現在の経済基盤強化して、険路の打開をやるために投資を行う。ところがそのための投資がまた隘路自体をさらに隘路化する、こういう循環が起ろうとしておる。すなわち鉄鋼電力輸送力この強化をやろうとすると、また鉄鋼電力輸送力が三十二年度において足らなくなる。それに加えて最近は石炭並びに機械というものも隘路物資になろうとしておる、こういう情勢であります。このうち電力輸送力外国から輸入ができないものであります。しかし同時にその価格は公定といってはなんでありますが、価格は一定に定められておりますので、需給のアンバランスが起ってもそれ自体価格騰貴しない。騰貴はしないが、しかし電力輸送力が足りなくなれば生産制限とか、あるいは輸送制限とかいう形で直接間接に生産に障害を及ぼす、あるいは物価に響くという現象を招くおそれがございます。また鉄鋼石炭機械等隘路物資は不足する場合は外国から輸入できる建前でありますが、輸入できるといっても、果して鉄鋼のごとき適時に必要な量が輸入できるかどうかが問題である。現に三十一年度においても百万トンの輸入を考えながら四十五万トン程度しか輸入できないような情勢で、それが鉄鋼価格の暴騰をもたらしたというような事例がある。明年度においても鉄鋼は本年度の八百五十万トンに対しまして一千万トン内外需要だと見られる。そうしますと輸入は百万トンくらいに達するでしょうし、生産もまた百万トン近く、七、八十万トンの増産をやらなければならない。そうしますとその増産に必要な鉱石なり、くず鉄なりが果して適時確保できるかどうか、これが大きな問題であるばかりではなく、それだけの増大した輸入が、今の国際情勢のもとで果して円滑になし得るかどうかが問題である。ということになりますと、こういう隘路物資輸入ということも、一つの対策ではありますが、それがうまくいくかいかないかによりましては、やはりこれが需給影響する。そうして基礎物資であるだけに、それが全体の生産並びに物価に対する影響というものは相当重要なものがあるのじゃないかというふうに考えられます。  こういうふうに財政並びに民間投資需要が私は大き過ぎると思う。それに一体どう対処したらいいかという問題になりますと、私はこの総需要と総供給とをバランスさせるためには、やはり財政投融資規模圧縮することが必要だと思う。しかも隘路の打開に重点を置かなければならないとすれば、できるだけ隘路以外の他の部面については、より一そうの圧縮をやらなければならない。そのためには財政投融資圧縮はもちろんとして、時期別の実行計画の作成というようなことも必要だと思います。しかも財政においてそれだけの調整を加えるばかりではなく、結局財政民間両方投資需要が競合するわけですから、民間投資についても調整を行うことが重要である。これが三十二年度の最大の課題ではないか。すなわち金融において一般的に引締め政策強化する必要があるとともに、不急不要の融資を押えて、その選別を行うということが大きな課題になって参ります。要するに財政金融両面から、投資需要については総供給と総需要とのバランスをくずさないような配慮をしていくということが必要だと考えます。三十一年度においてもわが国卸売物価は八%ないし一〇%くらい騰貴しております。インフレでない、インフレでないといいながら卸売物価が、すでに一割近く上っているということは現実なんです、この卸売物価騰貴というのは外国に比べましても非常に高いです。イギリスアメリカ等の例を見ましても日本よりは低いのです、日本が今インフレでない、インフレでないといいながら卸売物価が八%上っているということは、私はすでに投資インフレというものが現われつつあるのだと言っていいと思います。もちろんこの八%の騰貴にはスエズの問題の影響とか、特殊の原因もありましょうが、やはり根本的には私は投資インフレがすでに現われてきておるのだ、それに帰すべき部分が相当多いのだと考えるのでありまして、だからこのままの財政投資並びに民間投資状況でいっても、それはインフレにならないのだということは、すでにもう現実事態において、やはり慎重に反省せざるを得ないような状態になっているように思うのであります。  第二のインフレの問題として消費インフレになるかどうかということであります。世間では、この投資インフレよりは、むしろ消費インフレの方を気にしているようであります。すなわち今度の予算案におきましては、減税を一千億円行う。このうち幾ら消費購買力がふえるかは問題でありますが、一応税制調査会においては七百億円くらいが消費購買力に向う。それが年間においてどれだけの消費購買力の増になるかというと、一千五十億円の消費増という算定をいたしております。こういう減税に加えまして、今回の予算、特に一般会計においてはかなり消費的経費増加が目立っております。すなわち給与費において百五十六億円、恩給費において八十六億円、社会保障費において九十一億円等の増加が見られる。これはもちろん必要なものも多いと思うのでありますが、給与費については地方財政に対するはね返り等も考慮しますと、なおその全体の中央地方を通じた消費的な財政支出増大というものは相当大きい。結局こういう支出が七百億円以上の増加になると見られる。それがもたらすこの乗数効果による消費購買力の増が、やはり一千億出程度であります。そうしますと減税並びに給与費等増加による消費購買力の全体が、この財政の結果増大するのは、年間二千億円を下らないものと考えられるのであります。これが果して消費インフレになるかどうかという問題でありますが、私はその懸念は少い。その点については私はそれほど心配はいたしておりません。もちろんこれは貯蓄を今後も奨励していくことが必要だと思いますけれども、根本的には現在消費財生産能力というものがかなりゆとりを持っておる。しかも消費財在庫が多いのでありますから、消費購買力消費増加しても、すぐにそれが消費インフレ的に影響はもたらさないと考えられる。かなりこの在庫並びに生産が追いつかなくなっても、生産能力キャパシティそのものは余っておりますから、原材料輸入すれば、その結果として供給量をふやすことができるということになりますと、結局それは国際収支においては原材料輸入という面で、一つ赤字要因にはなりますけれども、インフレ要因にはならないということが考えられる。ただしこの消費性向が急激に変動する場合においては、もちろんこれは相当警戒をしなければならないのであります。しかし現在のところ消費性向は比較的安定しておる。その他の投資インフレ等要因が激化しない限りは、消費性向はまずくずれないということが考えられる。従って消費インフレについては、今後貯蓄の奨励に意を用い、しかも消費財供給確保について、国内生産並びに外貨予算等配慮を適切に行なっていけば、消費インフレになる懸念は少いというふうに考えます。  それから第三点は、コストインフレ問題であります。コストインフレという言葉は必ずしも適切とは思いませんが、これは国鉄運賃値上げ、あるいはどうなのかわかりませんが、米価値上げ等が起った場合、それが賃金あるいは運賃の値上りを通じて商品コスト影響して、それが循環的にこのプライスインフレーションを招くのではないか、こういう一般の不安であります。つまり運賃だけに限っていえば、国鉄運賃が上れば、たちまち、これが商品コストに響いて、結局全体の物価水準影響しないかという、こういう問題、これがコストインフレであります。私はこの点は心理的な影響はかなり国民にあると思う。つまり米価が上る。上るかどうかは別として、上ると言ったり、あるいは運賃が上るといえば、それがすぐにインフレーションになるのじゃないか、こういうふうに心理的には考えると思いますが、しかし理論的には、運賃値上げ並びに米価値上げというものはデフレ要因でありまして、インフレ要因とは考えられない。財政金融基本がゆるまないでおれば、米価並びに運賃という形で、民間購買力を強制的に吸収するということは、デフレ要因にこそなれ、インフレ要因にはならないと考えます。特に運賃でありますが、運賃については、先般の昭和二十七年の一割値上げの例を私は国鉄経営調査会において調べたことがございますけれども、それは石炭とか木材とか、個々のコストにはかなり影響しますが、全体の物価水準にはほとんど一割値上げ影響というものは認められなかったということを、その当時確認いたしました。今回の一割三分の値上げについても、経済の各段階において、それはコストの中に吸収される。もちろん企業努力に待つべき面が多いと思いますが、運賃コストが上ったから、ずるずるとプライス価格が上って、そうして価格インフレになるというふうに考えることはできない。従ってコストインフレ可能性は必ずしも大きくないように思います。そうしますと、結局このインフレになるかならぬかというのは、消費インフレとかコストインフレの問題はないので、投資インフレが起るかどうか、こういうことにしぼられてくると思うのであります。この点は先ほど申しましたように、すでに三十一年度においても卸売価格上昇の主たる原因になっておる三十二年度においてさらにこの財政並びに民間投資需要増大する場合においては、総供給と総需要バランスがくずれないとは決していえない。しかも隘路物資確保において非常の問題がある。私はこの点について先ほど申しましたように、財政金融両面にわたって、あらかじめ十分の手を打っておくことが一番いいのではないかというふうに考えます。  第三に私が申し上げたい点は、国際収支の見通しをどう考えるかということでございます。今回の予算の前提になっておる経済計画においては、輸出二十八億ドル、輸入三十二億ドルといたしまして、貿易外を加えて、この国際収支は五千万ドルの赤字、大体収支とんとんというような想定になっておるのであります。ところがこの国際収支の想定が妥当かどうか。いろいろの意見がございまして、楽観論者は、収支とんとんじゃない、黒字が三億ドルも出るというようなことを言っておるし、悲観論者は、たとえば日銀あたりは収支とんとんどころか赤字が三億ドルも出る。つまり黒字三億ドルから赤字三億ドルまで約六億ドルの開きが、両極端の見解にはあるほど見方が違っておる。まことに珍しい事態であります。私はこの国際収支の見通しについては、輸出の二十八億ドルというのは、どうもあまりそれほど確信のある数字とは思われない。いろいろ輸出二十八億ドル説をとる方の意見を聞いてみましても、去年が二〇%伸びたのだから、ことしは一五%くらいはいくだろうというだけのことでありまして、いかなる地域で、いかなる物資において、いかなる情勢のもとに三億ドル以上の輸出の増大が起るかということについては、あまり根拠のある議論を聞くことができない。もちろん三億ドルは、それはいくかもしれないですけれども、世界経済の先ほど申しましたような基調の変化から考えまして、ここまでいくと考えない方が、まず穏当のように思われる。特にこの内需が増大し——消費インフレにならないまでも、消費がふえ、あるいは投資がふえて内需が増大するということになると、それが輸出意欲の削減するということも考えられる。この点において、輸出の方は想定よりかなり低下する可能性の方が強い。問題は輸入でありまして、輸入の三十二億ドルがもっとふえるか、あるいはもっと少くなるか、これによって国際収支の見通しに大きな狂いが出てくるのであります。輸入の見通しに大きな関係のあるのは在庫の問題でありまして、三十一年度、本年度輸入に相当の異常在庫が存在しておる、正常在庫以外に、スエズの問題その他にからんで異常な在庫が存在しておる、異常在庫分は、それだけ来年度においては輸入する必要がないから、輸入は必ずしもそうふえないという説をとれば、これは黒字になるし、いや今の投資並びに消費動向から見ると、在庫はそれほど異常という程度に達していない、従ってこの基調のもとになお輸入増大するということになれば、輸入がもっとふえて国際収支赤字増大する、こういう議論にもなってくる。この在庫をどう見るかということについては、わが国在庫統計がきわめて不備でありますので、的確な判断はどこにもできない。みんな群盲象をなでるような議論をいたしておるのです。しかし私は、今の投資動向並びに消費インフレを押えなければならない、そういう必然性等を考えますと、輸入はやはり三十二億ドルという想定より、もっとふえる可能性の方が強い、それを押えにかかるとインフレ的になる危険性がある、そうしますと、輸出が計画より多少減少し輸入が計画より多少ふえるということになると、たちまち国際収支には一億ドル内外赤字が出る可能性があるように思います。一月末の外貨が十三億五千五百万ドルになっておる。かなりあるように見えますけれども、このうち四億五千万ドル内外は、日本の各種の借り入の見返りになって使えない部分だと思われる。これを差し引きますと九億ドルしかない。しかも三十一年度二十九億ドルの輸入といたしまして、その一体何%が輸入の運営のために必要な運転資金であるかと言いますと、まず輸入の二〇%内外というのが一応の常識だと考えます、そうしますと、これも五億ドルから六億ドル見当の運転資金が必要だということになってくる。そうしますと、九億ドルからそれだけ差し引くと、使い得る外貨はせいぜい四億ドルのうち二億ドルがかりに赤字になるということになれば、三十二年度において使い得る外貨は一億ドルくらいしかない。かなり窮屈になってくると思います。もちろん国際収支は一年々々で区切って議論すべきものではありませんから、三十二年度においてかりに国際収支が多少悪くなっても、それ自体をそう重視することはないのですが、しかしその傾向が三十三年度においてさらに続く、あるいは強化される方向にあるかどうか、この点が問題でありまして、今申しましたように、ずるずると輸出が伸びなくなり、輸入がふえるというような基調の上にそういう事態が現われるということであれば、相当警戒する必要があると思う。従って三十二年度の問題としては、絶えず国際収支動向に注意を払いまして、その国際収支の動きを検討しつつ、それに伴って財政並びに金融面から機に応じた調整を加えることが必要であるように思われる。必要の場合には実行予算を組むこともいいでしょうし、あるいは財政投融資計画の繰り延べをやることもいいし、あるいは外貨予算というものを絶えず時期別に検討していく必要があると考えられます。要するに、私はこういう経済好況のときには、財政基本考え方として、いい気にならないで、むしろ余力を残して慎重でいくのが妥当だと考える。不況のときにこれ、財政調整的な、積極的な役割を果すべきであって、全体としてはこういうときには引き締めるくらいのつもりでいて、ちょうど、いいことになるのではないか。その意味においては、明年度予算全体として経済に対してインフレ的とは考えないが、少々刺激が強いように思われる。これを純粋な形の中立くらいのところまで引き戻すということが、この際何よりも必要ではないかと思います。これをもって終ります。(拍手)
  4. 山崎巖

    山崎委員長 ただいまの土屋公述人の御発言に対しまして御質疑がございますれば、この際これを許可します。
  5. 勝間田清一

    ○勝間田委員 土屋さんに一つお尋ねしたいと思うのですが、運賃の問題は直接コスト影響がないということを聞きましたわけでありますが、一般的にはそういうことがいえると思う。特にまた滞貨などが輸送の面から来て相当影響ある場合においては、それが積極的に解消していけば、滞貨の方のマイナスが逆にカバーできて、さほど大きな影響がないということも考えられると私は思うのですが、ただ私が一つ問題に考えられるのは、国鉄の運賃だけの問題ではなくて、かなりガソリンの値上りなどもあるし、それからまた道路税といったような問題もあるし、そういうものを加えていくと、国鉄の運賃の三百六十何億に対して、なお数百億のそういった面の負担というものも考えていかなければならないのじゃないだろうか。それからもう一つは、やはりこういう際に、あなたのおっしゃる通り輸出の問題を重要視して考えていく場合においては、特にそういったコストの問題を重要視していかなければならないのじゃないだろうか。特に海外のスエズ運河地帯の問題から見て、相当船賃も上っておる状況に、実はあるわけです。従って一般輸送力や輸送運賃コストというものは上っておる。そういう状況下において輸出力を増大するという点から考えますると、政府のいうようなネックを云々して、それから対外競争力を増大るすというようなテンポより、そういう逆のコストの値上りのテンポの方が的確であり、しかも早いのではないかと私は思う。従ってそういう面から考えていきますと、むしろこういう際には運賃の値上りとかそういうような問題を押えていくべき時期じゃないだろうか、私はそう思うのです。もしそれをおやりになるとすれば、現在の財政投融資も相当余裕があるし、また相当の財源があるわけですから、それを直ちに値上げという形に持っていくよりも、国家があくまで負担する方向に向った方がよかったのではないか。少くとも政策と少し逆行しているのではないかということを私は感ずる。従って運賃値上げというものを海上運賃と関連をさせて考え、輸出の伸び悩みという状態も考える、そう申しますと、この際にあなたの考えが少し楽観的じゃないだろうか。むしろこの際はそういう方向に行くべきじゃなかったかという議論が、非常に有力な意見として成り立つのではないかと私は思うこういう点について一つあなたのお考えを伺いたいと思うのです。
  6. 土屋清

    土屋公述人 確かに国鉄運賃三百五十億円とそれからガソリン税百五十億一円の増徴、約五百億円ですね。国鉄運賃については先ほど申し上げましたように、一割三分がどうなるかということは、私は大体この前の一割値上げでもって論証できていると思うのです、これは経営調査会を半年ばかりやったときに私が主になって調べた。大体あのときの一割値上げというものは全体の物価水準に響いていないです。これはつまりコストとしては累加されますけれども、経済の各段階においてコストがそのまま価格にははね返るものではない。コストが上るならば利潤を削減することもあるし、合理化で吸収することもあるし、いろいろな形で経済の各段階で、その程度値上げは吸収できている。私は今度の一割三分にしましても、企業によっては石炭とか木材とか響く産業は相当あると思いますが、それが直ちに価格に現われるとは考えない。おそらく自由経済の機構のもとにおいては、それは経済の各段階を経過することに吸収されて、価格上昇はもたらさない可能性の方が強いと思います。それからガソリン税に伴うバスその他の自動車の問題も、大体私は同様に考えております。それから海上運賃ですが、これも確かに上りましたけれども、スエズの開通が予想より早い三月ないし五月といわれておる、その方の攻勢も大体限界が見えてきておるので、これ以上ずるずる上っていくことはないと思います。それで確かに国鉄にしてもあるいはガソリン税にしても、上げないで済めば私は上げない方が一番いいと思う。しかし国鉄が現にこれだけ今輸送難で困っている。これを放置したら、私はやはり相当国会というか政党というか責任があると思うのです。われわれは経営調査会が一昨年の十二月に一割二分ないし五分の値上げ答申したのですが、政党ですか国会ですかの御意向で、ずるずると一年以上も延ばされた。あのとき値上げしておけば時期としては最もよかったし、そしてまた輸送力増強もできて、今日の困難は相当解消しておる。まだ運賃値上げできないで、四月から上げて、それで輸送難を打開しようというのですから、輸送難が出ればそれだけコスト上昇原因になっている、時期を失していると思う。今からでもおそくはない、一日も早くやった方が、全体としてはコスト引き下げにも役立つし、同時にまた物価にも影響がなくてなし得るのではないかと思っています。  それからガソリン税の問題は、これは道路の整備という問題でありまして、また別個の問題ですが、私はやはり今この際多少の負担を消費者にかけても、道路をよくした方が全体としては日本経済のためだと考えております。
  7. 勝間田清一

    ○勝間田委員 それからもう一つ、ぜひお聞かせ願いたいと思いますのは、投資インフレの関係が非常に心配になる、私も全く同感であります。しかしこれを的確にやっていく方法というものが、実は大蔵大臣からも聞きたかった問題であります。インフレは起るかもしれない、起らないかもしれないという予測の段階は、それは雑誌やその他でけっこうだと私は思う。しかし政治としてそれを行なっていく場合には、どういう手段でどういう方法で、これを解決をつけていくから懸念はないのだというところが出てこないと、政治でないと私は思う。どちらかというと、今まではジャーナリスティックな論説が多かった。そこできょうは土屋さんが問題を提起されたわけでありますから、たとえば四半期ごとに、もっと需給計画を立ててみたらどうか、ことに資金のコントロールをやってみたらどうだ、それから輸出の問題、ことに国際収支バランスの問題を検討していきながら、財政の処置を的確にやっていったらどうか、こういういろいろの有力なサゼスチョンがあられたわけであります。今日大蔵大臣からあるいは支払い準備制度を、どうしたらいいかとか、若干の財政のコントロールの施策が出て参ったわけでありますけれども、この物と金とのバランスをとっていく、また財政の季節別のコントロールをやっていく、あるいは輸出入のある場合に、できれば必要なる場合においてはこの投資を繰り延べたり、あるいは輸入を押えていかなければならぬ、そこにもコントロールができてくる。この操作をどうやっていったらいいか、特に一体現在の保守党で、そういうことができるだろうかということで私は心配になります。であるから財政、物と金融、それから輸出入、そういった問題についてのアジャストをどういう形でやっていった方がいいか、若干お話がございましたけれども、もう少しお話を聞かしていただきたい、こう思うのであります。
  8. 土屋清

    土屋公述人 それはむずかしい問題で、私もあまり自信はないのです。しかし先ほど申しましたように、一番の基本財政金融との調整をどうはかるか、こういうことだと思うのです。それでまず金融ですけれども、私はやはり金融の引き締め政策をとらざるを得ない段階に来ていると思います。私は昨年の九月以来、投資が異常な高水準で、このままの傾向がなかなか沈静しない、早目に手を打っておかなければいかぬという引き締めを提唱した。その当時は産業界も金融界も一致して、健全で行き過ぎではないといってがんばって、がんとして聞かなかった。今日になってきますと、もう金融自体投資を押え切れなくなって悲鳴を上げているような状態、産業界も多少反省する機運になってきておる。それはけっこうなことで、私はおそかったと思うくらいです。しかし、今しからばほっておいて、このままで民間投資需要が沈静するか、私は理論的には沈静すべきはずだと思う。つまり世界経済の見通しはどういうふうになるか、あなたはどういうつもりで投資をやっているか、世界経済をどう考えますかと聞いても、企業家はみな確信ある返事ができない。それでいて投資をやっている。その点非常に不安だ。しからばなぜ投資をやめないかというと、これは私は日本で非常に大きな弊害だと思うのですが、要するに投資競争ですね。貸し出し競争ですね。相手がまずやるからおれもやる、相手が貸し出すからおれも貸し出す。それでみんなが相手の顔を見ながら、抜かれまい抜かれまいというような結果の投資増大ですから、これを一体どうするという問題になってくる。これは結局精神論になるのですよ。その前に私はやっぱり大きな金融の方向として、はっきり引き締めの方向を打ち出さなければいけないと思う。それは公定歩合を引き上げることも必要でしょうし、それから現在でも各種の優遇措置がとられています。そういったものも必要でしょうし、要するに今金融を引き締めなければならぬ段階にきているということを、はっきりさせることが必要なんです。ただ金融の引き締めが中小金融にかぶってくるという問題があって、あまり引き締めということが歓迎されないのです。今度の予算を見ましても、かなり中小金融に対する国家融資がふえていると思うのですね。私は民間金融が締められた場合においては、中小金融は国家的な融資でカバーするほかないと思う。そういう形になっていくことは大へんけっこうだと思うのですが、そういう多少の摩擦を覚悟しても、一般的な金融引き締めをやることがまず第一段階だ、それと同時に軒並みになるべく投資を抑えるということよりは、その間の選別が要るわけです。選別をどうするか、これは資金調整までいっても私はうまくいかないと思います。それは過去の戦争中の例を見ても、資金調整というものが、法律的にあるいは統制的にはなかなかいかない。要するにこれは金融界と産業界の自主的な判断ということが一番重要なんです。今欠けているのはそれだと思うのですね。先ほど申しましたように、自主的な判断で投資をやっているということよりは、自分の企業、相手の企業のことだけ見て、全体のその産業の問題を見ない、あるいは日本経済全体の問題を見ない、そこにまず自主的な判断が欠けているという理由があると思う。その点についての反省を促すことが必要なんです、それが選別融資を行うための前提じゃないか。それでどうしてもうまくいかなければ、もう少し強い手段に出なければならぬ必要があると思います。そこにいく前に考えるべき、なすべきことがあるように思っております。  それから財政につきましては、私はやはりできるならば今の予算ももう少し削って、そうして減税をやるとか、あるいは財政投融資を重点部門だけに限ってかなりずるずるとふくらんでいると思うのです。今度の財政投融資をいろいろ見ますと、これは国会の方とは御意見が違うと思いますけれども、資金だけつけて事業は何をするのかわからぬような計画がいろいろあるのです。事業あって資金はつくはずなんです。資金だけ確保して、あとから計画を考えるという安易な面があると思うのです。財政投融資についてもワクを削ることが必要なんです。と同時に今言った世界経済日本経済の動きを見ながら、財政投融資については必要な調整を行う、つまり繰り延べとかあるいは中止するとか、そういったことを当然やらなければならぬと思う。予算についても、そういう情勢を見ながら実行予算を組んでいく、なかんずく物質とのバランスをよく見ながら調整していくということをやるべきじゃないかということを考えます。
  9. 西村榮一

    ○西村(榮)委員 私ちょっと飛行機がおくれまして、あなたのお話の中では国際収支のところと財政を引き締めるというところだけ伺ったので、前半が少し失礼するかもしれないのですが、一つあなたに教えていただきたいのですが、これはやはりインフレーションの非常な危険に現在直面していないのでしょうか。将来としては十分対策を練っておかなければならぬ、予防策の時期じゃないか。またそれからくる面デフレの危機もある。しかし当面はやはりインフレだ。そうしますと、これは政府の統計によりますと、去年だけでアメリカイギリスが三%物価値上げした。それから西ドイツとフランスが一%で、国際的に見れば一五%去年は上った。ところが日本生産財が一二%上った、こういうことですね。それで一体このコストで輸出が可能かどうかということ。  それからもう一つは、アメリカほどの潜在資金を持ちながらも、なお金利引き上げとかなんとかいう金利政策では、もう物価対策は困難を来たした。そこで従来のような金利政策物価抑制ということが困難なら、立法処置において物価を抑制していかなければ国際競争に耐えられない。しかも三%しかアメリカ卸売物価は上っていないのにそれだけの真剣さがある。そうするとそれに対して日本は事情が非常に悪く違うのですが、そういうときは物価抑制策として日本としてはどういうふうにしたらいいだろうか。  それからもう一つ教えていただきたいと思いますことは、去年の数字のとり方はいろいろ違いましょうけれども、何と申しましても、去年はいろいろな統計で大体五割ほど生産施設がふえた。そうすると、五割ふえたらやはり生産力が二割ないし三割ふえるのですから、そのマーケットを国内国外においてどういうふうに求められるか。  それから次には、去年は企業利潤が四八%高まった。しかるに所得は一三%ですか、一二%しか高まっていない、その差が資本力の充実となって、あるいは設備投資となり、あるいは借金の償却となって、資本力が充実してきたと言えるのですが、しかしいつまでも四八%の利潤に対して所得増大が一三%にとどまることは、社会的には困難ではないか。そういうふうなことに対する見通しですね。  それからもう一つは、今度は設備も峠を越えた、増資ももう峠を越えたということになると、今までの四八%の利潤率は、やはり高原景気が継続するとすると、その利潤が継続されていくとすれば、それがとんでもない消費の方に向わずに資本力の充実というところに、再生産の方向に持っていくためにはどういう処置をしたらいいか。これらの点を教えていただきたいのです。
  10. 土屋清

    土屋公述人 お答えいたします。アメリカインフレ問題について御指摘がございましたが、先ほど私もちょっと触れましたように、日本卸売物価が、私の数字では八%ないし一〇%ですか上っておるということは、これは国際的にも相当高い方でして、だから私は投資インフレの方向へいくと思う。インフレが起るか起るかと言っておるのでなくて、インフレが起って——この程度物価騰貴というものは軽視しているのではないがただ日本消費財がたくさんあるから、すでに消費インフレという形で出てこないということが強みなんですけれども、卸売生産財の価格騰貴ということは軽視できない面を見せていると思います。それだけに今後の投資インフレというものについての警戒をしなければいかぬということを申し上げたのです。アメリカでは、日本と違いますことは、相当警戒的な措置をこの一年来強くとっておりまして、過去一年半の間に連邦準備銀行が金利を動かしたのは、たしか、六回と記憶しておりますが、金利政策の弾力的な運用によって非常に警告を加えてきておる。しかもその金利政策というものは、すでにもう大体アメリカにおいては限界だということが感ぜられ、それが不安になっておる今度のアメリカ予算で二十億ドルという超均衡予算を組んだということも、そういう情勢を背景にして考えられますし、それからアイゼンハワーが先般予算教書において、かなりインフレの危険ということを強く説いておることもそれからうかがわれるのです。そういうアメリカ事態と比べまして、私は、やはり消費インフレとかコストインフレとかいう問題を離れて、投資インフレというものについてはもっと日本人は真剣に対処しなければいかぬと思う。それがすぐに生産財のコスト上昇、ひいては輸出の不振という問題になって現われますので、ばく然とインフレがくるとも申しませんが、これが心配はないのだというような考え方ではなくて、いかにして投資インフレを押えていくかということについての対策を考えなければいけないということを、先ほどから申し上げたわけであります。  それから第二点のマーケットの問題でありますが、私は三十二年度経済はそう悪いことはないと思っておるのです。問題は、やはり三十三年度以降になりますと、これだけの投資が動き出して、それが生産力になってきた場合に、一体その有効需要をどこに求めるのか、非常に私は懸念いたしておる。それだからこそ、昨年秋以来投資を押えろということを私は申し続けてきているわけです。つまり、年間五千億、六千億と申しますと、二、三年前の二倍の投資でありまして、それだけの投資がずっとふえてきて、おそらく三十二年度の末期から三十三年度にかけてそれが生産力化されるということになりますと、それに応じて輸出がふえるとは考えられない。国内市場からは、それだけの有効需要も出てくるとは考えられない。どうしても、これは相当過剰生産になってくる。つまり、デフレ要因として現われるのではないかという懸念を持っておるのです。それをできるだけ食いとめるということが、三十二年度においてやはり考えられなければならない問題である。今のままでいけば、過剰生産、それに伴うデフレという事態が、三十三年度以降において起り得る可能性の方が強いと思っております。  第三の利潤率と賃金の上昇率の問題ですが、確かにお話のように、私は利潤率の増加に比べて、賃金の上昇率はおくれていると思うのです。これはまた、日本の産業がもっと資本を充実して設備を更新しなければならぬ、そういう必要に迫られていることを考えますと、同じ率でふえなければならぬということはないと思うのです。しかも個々の企業において、業績の上昇に伴って違いが起るということも、また否定もできないと思います。その間が、労使間の話し合いで合理的に解決されなければいけないと思います。ただ、利潤率が今のままで続くとは思いません。もうこの三月期が頂点で、九月期以降においては利潤率は低下していく、低下していきますけれども、賃金上昇の勢いはやむかというと、むしろ賃金上昇の勢いは上っていく。そこで、今非常に開いておりますが、やがてはこれがだんだん接近してくる。西ドイツはここ二、三年来こういう形を呈しておりますが、そういう同じ形をとるのではないか、こう考えております。
  11. 西村榮一

    ○西村(榮)委員 次に一つ教えてもらいたいのですが、私もあなたのおっしゃる通り、ことしは無難に切り抜けられても、来年はちょっと見当がつかないと思うのです。そこで、去年からことしにかけてかなり、財政は楽になってきているわけです。こういうときに、財政規模が大きくなるとか、小さくなるとかいうことでなしに、財政に弾力性を持たせる、そうして悪いことが出たときに弾力性をもって経済調整をはかるということになれば、財政に弾力性を持たせるには一体どうしたらいいか。たとえば現在の公債の償還費を多く持つとかなんとか、ものを使ってしまわないで、予算規模はふくれてもいいから、その内容が少し弾力性を持っていつでも経済の変動に備えられるという態勢、それがためには一体どういうふうなへそくり——率直にいえば財政のへそくりをどうすればいいのか。  それから、今勝間田さんも質問せられたのですが、政府所管の公益事業が料金が上るわけです。しかし、低コストのためには民間企業努力に依存する、それをやってもらってコストを上げないようにすることが果して可能かどうか。私は精神的にいっても、まず第一に政府所管の公益事業から企業努力の範を示して民に臨まなければならぬのではないかと考えるのですが、しかし、それには価格政策とかなんとかいうふうなものが必要ではないか、ともすれば、そういう危険なときには必要ではないか。同時に、コストの切り下げは、民間努力ということは、やはり主として生産設備近代化だとか、経営の合理化とかになると思うのです。そうすると、大産業は一応頂点に達しても、中小企業の設備近代化というものは、これから行わなければならぬのです。それには一体どうするのか。  それから第三点に教えていただきたいのは、従来の自由主義的経済考え方では、設備がどれだけ拡張しても、そしてそれがためには行き過ぎても、経済の自然現象で調整されていくということが、今まで長所でもあり、短所でもあったのですが、長短は別として、これからそういうことが可能かどか。たとえば、生産拡張をしている連中は、なるほど反動がきたときには困るが、しかし、その反動期でも、事業家の心理としては、おれの事業はその反動期でも生き延びていくのだという自信を持って生産拡張に乗り出すだろうと思うのです。ところが、国全体の経済調整バランスからいってそのことをほうっておいていいかどうか、それより何か資本主義的な立場なら立場においてだけでも調整する必要があるのではないか、それなら一体どういうふうな調整の仕方が穏やかな方法であるかどうか。この三点について教えていただきたいと思います。
  12. 土屋清

    土屋公述人 いずれもむずかしい問題ばかりでお答えしにくいのですが、第一点の、財政に弾力性を持たせる、一特に不況のときに備えるためにどうしたらいいかという問題は、先ほどちょっと申し上げましたが、私は好況のときには超均衡予算を組んで公債を償還するというのも、つまり公債発行能力を確保することですから、弾力性を持たせる方法だと思います。あるいは西ドイツのように、五十億マルクの金を積んだまま——これにはユリウスの塔といって積んでおくのです。これなどは再軍備の費用に充てるためだと思いますが、全く積んでおくだけです。そういうこともあり得ると思います。しかし、それよりも減税をしていくことが、一番弾力性を持たせることだと思います。先ほども申し上げましたけれども、財源にゆとりがあるならば、減税をもっとやっておくべきです。それによって経済全体の弾力性を付与しておく。また必要なときには増税の可能性も残しておくということが、一番いい方法ではないかと思っております。  それから第二の中小企業の設備近代化をどうしたらいいかという問題は、お話の通り日本では中小企業と大企業は質的に違っておる。アメリカでは、大企業と中小企業は大きさは違うけれども、質的には違わない。生産性までは違わない。ヨーロッパでもそうだと思います。日本は質的に違っているので、その差をなくすことが中小企業問題解決の根本だと思うのです。それに対処するためには、中小企業の近代化をやらざるを得ない。しかもその資金は結局国家資金に待つほかはない、これはもうその通りだと思います。その中小企業が個別に自己の判断でやる近代化が、果してうまくいっているのかどうか、なかなかそこのところが問題なんです。それこそ国が指導組織を強化するなり、あるいは共同的な体制を確立するなりして、少からざる金が中小企業には投ぜられていると思うのです。必ずしも少くないと思う。それがもっと有効に、質的な、中小企業のマイナスを取りのけるために使われるような工夫が必要だと思っております。  それから第三点は、主として国鉄のことだと思いますが、国鉄はもちろんその企業努力をさせなければならぬと思うのです。現にたしか私の記憶が間違いでなければ、経費の一割天引きを今年からやっているはずです。これはある程度の無理が伴っていると思うんですけれども、しかし企業努力で吸収するといっても、三百六十億円吸収するということは言うべくしてなかなかできない。何ほどかはできると思いますが……。やはり企業努力させることはもちろんとしても、そのことが運賃引き上げをしなくてもいいという論拠には、私はならないと思います。
  13. 西村榮一

    ○西村(榮)委員 よろしいですか、もう一つお尋ねして。皆さんの御都合は……。
  14. 山崎巖

    山崎委員長 もう一人残っておりますので……1。
  15. 西村榮一

    ○西村(榮)委員 これは私があなたにお尋ねすべきことよりも、政治に携わっておる者自身が判断することだと思うんですが、今まで、減税それから財政投融資が、いいか悪いか知らないけれども、それは自然増収予算規模膨張でまかなってきたんですね。ところが私はたとえていうと、ことしの予算の中の行政費の中に人件費を除いて、やむを得ない動かすことのできないものを除いて、物件費、旅費、営繕費等を入れると四千六、七百億になりますか、私は、主として減税自然増収だからできたけれども、ほんとうからいえばそういうものを節約して財政投融資減税に向けるということが、これは常識じゃないかと思うんです。ことしは恵まれたからやれたんですが、従って政治が努力して減税するというのは、私はそこに努力を集中しなければならぬと思う。そうすると、あなた方政治の圏外におられて、経済学者としてごらんになられて、今の——将来もあることなんですが、企業努力と関連してくるんですけれども、人件費を除く現在の行政費はどのくらい節約したらいいか。これはあなたにお尋ねするのは少し無理なことなんですが、これはなかなか困難なんです。人件費だけは別ですよ。会計検査院や何かの報告を見ても、かなりいろいろなことを言われてくるし、私は大まかにいって一割は可能じゃないかと思っているんですが、外からごらんになってあなたのお考えはどうでしょうか。
  16. 土屋清

    土屋公述人 この前も、数年前の公聴会で三木武吉氏から同じような質問を、受けたことがあるんです。私はそのとき喜劇は可能だということを申しました、今でもやはりそのくらいはできると思います。ただ、質問するわけじゃないんですけれども、私はやはり人件費を減らさなければいけないと思いますね。役人の数が多過ぎると思います。社会党が御賛成下されば、私は一番いいと思います。(笑声)その辺から始めないと、ほんとうの経費の節約にならぬと思います。
  17. 山崎巖

    山崎委員長 川崎君。
  18. 川崎秀二

    ○川崎(秀)委員 私は簡単に伺います。あなたの御議論が、一月以来消費インフレを押えろということにあったことは、紙上を通じ、各種のあなたの書かれたもので承知をいたしておりますが、きょうはその全貌がわかった意味で非常に参考になったと思うんです。ことに勝間田君が第二問に提起した財政金融との関係、これに対して明確な御答弁もありましたので、私は聞きたい点を、これはずばりと伺いたいと思うんですが、つまり先ほどから伺っておる結論は、中立的な予算をもう少し続けたらいい、こういうことであったように思うのです。中立的な予算という意味は、一般会計においては減税をもう少しやれということの意味であると私は思いますが、どうかということが一つ、それからもう一つは、財政投融資も少しふくらみ過ぎたんじゃないかということを言われておるんですが、それは一つ、どことどこがふくらんだかということをあなたに求めるのは非常に困難なことだと思うんですが、たとえばどこがふえたかということは御指摘をいただいた方がいいんじゃないかと思うんです。私は二年前に、あなたが軍人恩給が年金制度の障害となっているということを勇敢に指摘をされて、そのために全国の軍人恩給団体から相当な脅迫を受けられたことも知っておるので、その意味において警世的な財政通だと非常に尊敬をしております。従って、投融資の額が相当多い、ことに最近になって相当まじめな学者の中で、住宅投融資が多過ぎるのではないかとい議論が出ておるように私、聞いておるのです。これは政治からいえば、住宅投融資をやりたいということは、どの党でもやりたいことだと思うのですが、一昨年来の鳩山内閣の政策でかなり軌道に乗ってきておる。その際に住宅投融資というものが二百億もふくらんだということはどうなのかということについて、かなり真剣に憂慮しておる者もあるようです。私はたとえばと、申し上げたのだが、そういうような点について、中立的な予算というのは、一般会計においては減税を主たるものとするのか、あるいは投融資についてはどういうところがふくらんでおるか、ということを伺っておきたいと思います。
  19. 土屋清

    土屋公述人 一般会計についてはお話の通りでして、私はかなりまだ減らすべき余地があるように思うのです。何と申しましても税金の負担が重いことは明らかなんで、そしてこの絶好の機会に減らしておく必要がある。ですから、所得税についてはあのままでいいとしても、法人税はもっとやはり減らさなければいかぬと思うのです。  それからこれはちょっと矛盾したように聞えるかもしれませんが、私は消費税は増徴すべきだという議論ですけれども、今のような酒とかたばことかの税金はあまり高過ぎる、まるで税金をのんだり吸ったりしているような形になっている。一般消費税は税の体系としてはもっとふやしていかなければならないかもしれませんけれども、その中で酒とかたばことかばかりに片寄っている形もやはり直すべき時期が来ておるのではないか。今度はそれは問題になりませんけれども、法人税について下げることが必要ではないか。要するに一般会計についてはもっと減税をやった方が、財政投融資増大よりはいいのではないか。  それから財政投融資について、たとえばというお話ですけれども、やはり資金効果を考えて財政投融資というものは検討しなければいけない、これが一番問題なんです。よく問題になる農林漁業関係、これは、だれもがあれだけの資金を投じてそれだけの効果が上っているとは思っていないと思うのです。今度も農林漁業、金融公庫が四十億か五十億ふえておるがと思いますけれども、ふやしたいという気持はあるが果してふやすだけの効果が上っているかどうか、そこまでは考えていない。北海道開発とか東北開発は地方的に大事な問題で私は必要だと思う。しかしそれだけ資金をつけてそれだけの開発ができるのか。開発計画があって資金をつけるならいいけれども、先に金を出しておいてあとから計画を立てるんだというような放漫なやり方はいけない、りっぱな計画があってつけるのは賛成だが、どうもそれだけりっぱな計画があるようには聞いてない。こういうところも今の段階ではずるずるとふやすべきものではないと思う。  住宅についてはやはりやるべきだと思います。これは確かに一部にそういう声もあるように聞いていますけれども、私はやはり住宅は、日本で道路と一緒に最後に残された解決を要する問題で、二百億ふやすのもいいだろうと思います。やり方の問題で、金をふやすことについては別に異議はございませんが、全体として、財政投融資の個個の費目がずるずるとふくらんでいるという感じが非常にするので、今度の段階では重点的に隘路部門の打開はいいけれども、それに便乗してほかのものがずっとふくらんでいないか、資金の効果を考えるとふくらんでいるのではないか、こういうことを申し上げたいのです。
  20. 山崎巖

    山崎委員長 川俣君。
  21. 川俣清音

    ○川俣委員 ちょっと二点だけお教え願いたいのですが、運賃の値上りがあまりコスト影響しないというふうに、非常に楽観したお話なんですけれども、その点について二点お尋ねしたいと思います。一体今度の運賃の値上りで年度内に輸送の増強と申しますか、緩和というものが大体どのくらいできるというふうに見ておられるかということが一点です。もう一つは、この結果どうもインフレになるのじゃないかというような感じがするわけですが、それについてお尋ねするわけです。  今日本の工業の大宗をなしておる化学工業の中において、硫酸の需給が逼迫しておって、化学工業間において争奪戦が起っている。ソーダ工業も同様ですが、これらは急速に生産拡充をするといたしましても、なかなか生産が上ってこないと思うわけです。ことに硫酸の原料であるS分は、硫黄にいたしましても硫化鉱にいたしましても、日本では品位が低いものが非常に多いわけです。この品位が低いということは輸送費に非常に金をかけるということになるわけです。S分に対してはもしも輸送運賃が上って参りますと、山元において合理的な生産をするということになると、品位を上げるための設備に今年は力を入れなければならないのではないか。ことに硫酸工場の生産を見まして、今では急速に年度内において硫酸の生産を増強するようなことが予想できないわけです。もしそうとすれば、粗鉱と申しますか、硫黄鉱山なりあるいは硫化鉱鉱山の品位を上げてくるということにならねばならない、上げなければ増強できないということになる。今のような品位の低いものでは非常に輸送費が高まってきて、とうてい硫酸工場が生産確保するような輸送が困難ではないか、こう思われるわけです。そうして参りますと、結局硫酸の需給のアンバランスが化学工業の生産を増強させることができないでコスト高になってしまう、こういうことになるのじゃないかと思うのです。原料の面から来る障害のために生産が渋滞して価格を高騰させるということになるのじゃないかと思うのですが、これについて御意見をお伺いしたい。
  22. 土屋清

    土屋公述人 一年間にどれだけ輸送力を増強できるかということはよく知りません。しかし今度の輸送計画は五カ年計画ですから、一年間でそう大したことはないと思うのですけれども、しかし貨車を作るとかそういったようなものは一年間で大体できるのでして、発注したものが、それだけの能力も余裕もございますから、できると思うのです。それ以上操車場を作るとかあるいは複線にするといったようなことはやはり五年たたなければできぬ問題です。ただ、ことし間に合わぬからといってまた一年繰り延べたら大へんです。私は運賃値上げの問題は一年おくれていると思うのです。おととしの暮れに、われわれが答申したときに、国会がきめて下されば、今ごろはだいぶ緩和されていると思うのです。またここで一年おくらすようなことは、かえってまずいことになるのじゃないかと思うのです。  それから硫酸のことはよく知らないのですが、そういうことは私も心配しているのです。硫酸についていえることは、機械工業における鉄鋼についてもいえる。つまり隘路物資というものがいろいろなところに出てくる。急激な伸びですから、その隘路がたとえば機械工業においては鉄鋼に現われ、化学工業においては硫酸に現われる、いろいろなところに出てくる。そういうことも、投資インフレが結局需給バランスをくずしてインフレ要因になる危険性を持っているということは、おっしゃる通りだろうと思います。硫酸のことは知りませんが、考え方としてはやはり投資インフレにならないように、そういう物資の需給面についての対策というものを十分練らなければいけないと思うのです。
  23. 川俣清音

    ○川俣委員 もう一点だけ、輸送が緩和されればコスト影響しない、一これは政府もそう答弁しているわけです。しかし、いつからかというと、やはり三年なり四年なり先だということになりますと、それは非常に大きなネックになるのじゃないか、こうお聞きしているわけです。そこで、値上りする前に財政投融資なりなんかである程度見込みが具体的に緩和されるならば、または増強される方向になったときに、値上げをするというわけにはいかないかどうか、むしろそのほうをとるべきじゃないか、今では生産を押えるような条件の方がむしろ強いのじゃないか、こういうことでお尋ねしたわけです。
  24. 土屋清

    土屋公述人 その意味では私はちょっと誤解しましたが、財政投融資である程度まかなえば三百六十億円、運賃まるまる上げないでも資金的にはいくわけです。そうしますと財政投融資はやはり返さなければなりませんから、四、五年先になると金利負担だけで大へんだと思う。そういうことはわれわれが運賃値上げを考えたときもずいぶん議論しましたけれども、運賃を上げないで、財政投融資あるいは借入金でやれば資金的にはやれないことはないでしょう。しかし今日の状況から見て結局金利負担で同じような問題がはね返る。それよりは先ほどから繰り返して申し上げましたように、一割ちょっとの値上げであれば、経済の各段階で吸収さるべき性質のものであるとわれわれは思う。それほどこれがコストに響く、全体のプライスに響くとは思わない。やはりこの機をとらえて運賃を上げた方が全体としてはいいのではないかと思います。
  25. 山崎巖

  26. 小坂善太郎

    ○小坂委員 もうお疲れでしょうから一点だけお伺いいたします。今度の問題として指摘されたインフレ問題の中の消費インフレは起きないだろうというお話がありまして、これは私も非常に同感なんでありますけれども、一つお教えいただきたいのは、今度の給与関係で恩給増、社会保障増を見ますと三百三十三億増加しているわけです。そのほかに減税の千億というものがありますが、これで今の預金利子課税を免除する、生命保険は控除を三万円にするという対策だけを前提として、どのくらいが消費に向けられるかということ。もう一つ、現在の減税法人税というものをもう少し考えたらいいじゃないかというお話がさっきあったわけですが、もう少し減税を多くして、その反面財政投融資を減らすという考え方、どの程度財政投融資は、さっきお話のあった資金だけつけるものを削ればいいが、あるいはまた法人税減税をどの程度ふやして財政投融資の方を減らせばいいかというような二点でありますが、お教え願いたい。
  27. 土屋清

    土屋公述人 最初の減税とそれから給与費等増加によって消費がどれだけふえるかという問題ですが、これは税制調査会でもそのことを議論したのですけれども、今の限界消費性向を〇・七と見ている。つまり〇・三が貯蓄だ。ですから一千億円の減税の場合は七百億円が消費について三百億円が貯蓄にいく、こういう考え方です。七百億円が消費に向うのは、乗数効果で年に何回転かいたしますから、その回転の平均をとりまして大体七百億円が千五十億円くらいになるのじゃないか、こういうふうに見ている。今のいろいろな数字から申しますと、限界消費性向が〇・七くらいに見ていいのではないかと思います。  それから一般会計の方の給与費増加恩給費増加社会保障費増加は、ほとんど貯蓄ということよりは直接消費に向く可能性がございます。しかも日常的な生活必需物資的なものに向う可能性が多い。この方は一般会計で三百億円、それがまるまる——多少は貯蓄にいくと思いますが、大多数は消費に向くと考えた方がいいのではないかと考えております。  それから第二のお話の法人税財政投融資との関係でありますが、法人税は一応税制調査会のときの財源に余裕があれば、国で二百億円、地方で五十億円、二百五十億円の減税をすべきだという議論が非常に強かったのです。ですから今度は当然政府税制調査会答申を尊重してくれば、自然増収はこれだけあったのだから法人税までやってしかるべきものだとわれわれは考えます。中央地方を通じて二百五十億円くらいはいいと思うのです。  財政投融資をどのくらい減らすかという問題は、これは金額よりは事の性質だと思うのです。私は元来財政投融資は積極的な支持者なんで、民間金融のできないことをやるという意味において財政投融質の機能はあると思う。だから民間金融ができるようになれば、だんだん民間金融に振りかえていくことが必要ですけれども、まだやはり財政投融資でなければできないものは多い。ですからむしろ金額よりは事柄自体に個別に決定されなければならぬ。ずるずるとあまり資金効果を考えないで出ているような金が相当ありはしないか。これを削れば百億でも一百億でも、あるいはもっと削れるのじゃないかと思います。そういう資金効果の面から財政投融資は検討した方がいいのじゃないかと思っております。
  28. 山崎巖

    山崎委員長 他に御質疑がなければ、土屋公述人に対する質疑は終了いたしました。  土屋さんまことにありがとうございました。(拍手)  次に、全国販売農業協組合連合会企画監理室長土岐定一君の御意見をお願いいたします。
  29. 土岐定一

    土岐公述人 私に求められました公述の問題は、食糧管理を含む農政ということであります。農林省の推計によりますと、食糧の自給の関係で言いますと、食糧の生産並びに国内におきまする消費が現状のままで推移いたし出すと、消費人口の増加とか、あるいは農地の壊廃というようなことによりまして、昭和三十五年におきまする米と麦の不足量というのが約六百万トンになる。これは米に換算いたしますと約四千万石ということになるわけでありますが、そういうことが出ておるのであります。ところが、食糧自給に対しまする政府の施策、予算の関係は、年々減って参っておるのであります。この点食糧自給度の向上という面から見ますと非常に遺憾に存じておるわけでありますが、そういう農政全般のことよりも、当面の食糧管理の問題を中心にいたしましてお話を申し上げたいと思います。  三十二年度の食糧管理特別会計の予算の関係で見ますと、予定貸借対照表によりますと、三百三十七億の赤字ということになっておるのであります。これは累年の損失といたしまして百九十五億、それから新会計年度におきまして百四十二億、こういうことになっております。この累年の損失につきましては、これはいずれ補正なりということで片づけられることだと思いますが、新しい年度におきます百四十二億の赤字につきましては、これを今後どう処理されるかということが非常な関心の的となっておるのであります。これは臨時食糧管理調査会というものを政府で設けられまして検討されるそうでありますが、この問題をまず申し上げたいと思うのであります。  三十二年度赤字の百四十二億の処理ということにつきましてまず出ますのは、消費価格の引き上げをしてこれを処理しよう、こういうことが案としてまず出てくると思うのであります。でありますが、結論から申し上げますと、消費価格を引き上げることによりましてこの赤字を処理するということにつきましては、賛成をしがたいのであります。とかく、食糧管理の面に出ます赤字につきましては、赤字であるから消費価格を上げようとか、あるいは赤字になるから生産価格を下げていこうとかいう議論が出がちなのであります。またよくこれを耳にするのでありますけれども、これは食糧管理の本質から言いますと非常に筋道が違っておるような気がするのであります。この消費価格の引き上げとか、あるいは価格を決定しますのは、消費者の一般大衆の生活水準と照らしましてどうであるかという見地に立って決定するのが妥当なのであります。食糧管理の会計の赤字であるからこれをその処理の対策として上げる、こういうことは筋道をはずれておるのではないかと思うのであります。食糧管理法におきましても、消費価格の決定につきましては消費者の家計を安定させることを旨としてこれを定める、こういうふうにあるわけであります。でありますから、消費者の家計から見て、あるいは一般大衆の生活水準から見て、そのことが妥当であるかどうかということによってこれを決定すべきものであろうと思うのであります。そこで、特にこの消費米価の引き上げというようなことは、国民経済全般に影響を及ぼすことでありますので、特別にこれは慎重に対処されることが望ましいと思うのであります。  そこで、消費価格を現在の希望配給の価格程度に上げても一般の生活に影響を与えない、特に減税等の関係から見まして何ら生活に影響を与えないのだというような考え方もあるわけでありますが、試みに現在配給を受けております者の中で減税と関係のない者がどれだけあるかということを推算をいたしますと、昨年の十二月の食糧庁の調査によりますと、配給を受けておりまする世帯数というのは千三百三十五万戸あるのであります。この千三百三十五万戸の中に税金と何ら関係のない世帯がどれだけあるかということを推定するわけでありますが、一方、納税の人口といたしましては、これも千三十五万人あるわけであります。この千三十五万人を、世帯主だけが納税をいたしておると一応仮定いたします。実際問題は、これは一世帯の中に二人あるいは三人おるところもあるわけでありますけれども、一世帯一人だけが所得税の納税をしておるものだとかりに仮定いたします。そういたしますと千三十五万世帯になるわけでありますが、その中で米の生産世帯で配給を受けていない者がおよそ六十万世帯と考えられるわけであります。ですから、千三十五万世帯から六十万世帯を引きますと、九百七十五万世帯ということになるわけであります。これだけ受配いたしております千三百三十五万世帯から引きますと、三百五十八万世帯というものは税金とは何ら関係のない世帯であるということになる。この数字は最低の数字でありまして、先ほど申し上げましたように一世帯一人ないし三人の納税をしておる者があるわけでございますから、これ以上の世帯の数が税金とは何ら関係のない、またこのたび減税をされても何ら恩典に浴さないという世帯になるのであります。千三百三十五万世帯が配給を受けて、そのうち三百五十八万世帯は何ら減税に関係がないのであります。これが最低の数字であります。これ以上の数字になるわけであります。一口に言いますと、約三割以上のもの、あるいは四割になるかもしれませんが、三割以上のものが何ら税金とは関係ない。これが、今後さらに消費米価を引き上げますと、この三百五十八万世帯以上の世帯の者は何ら減税の恩典に浴さないで、もっぱら引き上げによる家計に対する圧迫のみが残るということになるのであります。これはただ一例を申し上げたのでありまして、かなり影響を受けるのでありますので、慎重にこの問題については対処をお願いいたさなければならないじゃないかと考えるのであります。  そういうことでありまするので、食糧管理の赤字云々ということでこの消費価格を引き上げるというようなことをされるのではなく、これは当然食糧管理をやっております本質から言いますと、一般会計での負担なり他の財政負担によりましてまかなわれることが望ましいのであります。  しかし、現在の食糧管理特別会計の中にも合理化すべき点は多々あるわけであります。御存じのように、食糧管理特別会計の赤字云々といいますけれども、その中には行政費的な部面がかなり含まれておるのであります。三十二年度の食糧管理特別会計の予定損益計算書を見ましても、食糧行政費関係の事務、人件費に当りますものが九十九億八千六百万円、約百億のものが人件費、事務費として含まれておるのであります。これは行政費でありまするから一般会計において負担するのが当然なのであります。そのほか、他の会計へ繰り入れまするものとして百二十五億何がしのものが見込まれておりまするが、その中には金利関係が約百億あるのであります。これは食糧管理をいたします場合に要しまする金利であります。これらあたりも国庫の余裕金を運用することによって節約は可能な部面でありますので、こういう点等を十分合理化いたされまして食糧管理の運用をされることが必要であろうと思うのであります。  次に、米の生産価格の問題でありまするが、三十二年産米の予算米価といたしましては、石一万円が計上されておるのでありまして、これはどういう基準でこうきめられたのか明確でありませんので、その内容自体について批判をすることはできないのでありますが、いわばこれはつまみ程度でこういうふうに入れられたものであろうと思うのでありますが、この一万円というものは、昨年の三十一年産米の価格一万七十円よりは低いわけであります。この低い一万円というものが、算定基準がはっきりわからないのですが、入れられておるわけであります。これは、農業団体、農村関係の主張といたしましては、この米価生産費及び所得補償方式で決定すべきであるということになっておりまして、またわれわれもこれを主張いたしておるのでありますが、かりに生産費及び所得補償方式というものを別にいたしまして、従来の政府で計算しておるやり方で計算いたしますると、パリティ指数は昨年よりかなり上昇をいたしておるのであります。昨年一万七千円をきめましたのは、三十一年の四月のパリティできめたのであります。そのときのパリティ指数は一一八・九であったわけであります。それが昨年の十二月におきましては一二一・六九と上昇いたしております。その間上昇の率は二・七九だけ上昇いたしておるのであります。今後、依然同じような傾向をたどって上昇いたしておりますので、三十二年産の米の価格を実際に決定いたされます場合におきましては、この予算米価にかかわらず適当な米価が決定せられることが望ましいと思うのであります、  さらに、次に麦の政府買い入れ価格でありますか政府予算におきましては、小麦は昨年の価格より約三十二円上げられておるようであります。一方大麦におきましては三十九円昨年の価格より下げて予算の麦価として入れられておるようであります。これは、この予算におきまして大麦、裸麦の対小麦価比の加算が落されているから、こういうふうな関係に出てくるのだろうと思うのでありますが、間接統制下におきましては市場価格の実勢を反映させるということは妥当な措置でありますので、昨年産麦の算定方式を本年産麦においても当然継続されまして、対小麦価比の加算をつけられることが妥当なものであろうと考えられるのであります。  次に、外国食糧の輸入の問題でありますが、新聞紙等によって拝見いたしますると、政府は第三次の余剰農産物の受け入れを中止されたというふうに聞いておるのでありますが、これはまことに同感であります。現在の国内食糧の需給の実態に応じますると、当然そうされなければならないことであるのであります。また、この予算面におきましても外国食糧の輸入がかなり減らされておるようであります。外米六十八万七千トンの昨年の予算が、ことしは四十万七千トンというふうに、麦等においても同様に大幅に減らされておるようでありますが、この点はまことに賛成なのであります。今後の予算の運用に当りましても、国内食糧の生産と集荷という面を優先されまして、外国食糧の輸入を極力抑制されることが望ましいのであります。  最後に、農産物価格安定法の関係におきまして、農産物等の買い入れでありまするが、カンショ澱粉の買い入れ数量が予算面におきまして大幅に減少されております。昨年の実際買い入れられた数量から見ますると半分程度に減らされておるのでありまして、これを実際運用されまする場合に、予算面の数字を買い入れ限度として、またそのワクとして縛られるということは妥当じゃありませんので、需給実態に即応いたしまして弾力性のある運用をされることが望ましいのであります。  以上で私の公述を終りたいと思います。(拍手)
  30. 山崎巖

    山崎委員長 土岐公述人の御発言に対しまして御質問がございますれば、この際これを許可します。川俣清音君。
  31. 川俣清音

    ○川俣委員 三点ばかりお尋ねしたいのです。  一つは三十二年度生産価格政府の買い入れ価格はどの程度が妥当だというふうに考えておられますか。それが一点。  二点は、今までの政府予算買い入れ価格は、二十五年、六年の一番都市との所得の均衡のとれた年を基準にしておりますが、今年はそういう基礎がなしにつまみ金で計算しておられる、こういうことでしょうが、特にパリティの上昇も、二十五年、六年が家計部門と生産部門との均衡のとれた年であったことはお認めでしょうが、その後はむしろ消費部門が横ばいであるために上昇しないで、経営部門の資材面が非常に高騰してきておるわけです。ですから、従来の平均では上昇率が割合に少いのですけれども、資材部門だけを見ますると、今お話しになりました一二〇・九というようなものよりもかなり上昇してきているわけです。これらについてどういうふうにお考えになっておりますか。再生産確保するというような建前をとらせるとすれば、むしろ家計部門よりも最近上ってきております、農業新パリティの中に占める経営部門、生産資材の上昇率は非常に高いわけです。従って、これらの比率をどうお考えになりますか。その点が第二の点です。  第三の点は、今るる消費米価を上げてはいけないというお話がありました中において、約三割くらいよりも影響がないという計算をしておられましたが、私の見るところでは、納税世帯、消費世帯とを比べてみますると、約四割九分ほどが影響がないように思うのです。免税による影響というものは世帯数から言うと四九%程度まで影響がないように思うが、その点について御見解を承わりたい。
  32. 土岐定一

    土岐公述人 最初の、三十二年度産の価格はどの程度が妥当であるかという御質問でありまするが、これは、生産費及び所得補償方式によりまする算定につきましては、生産費の実態の調査がまだできておりませんので、われわれの主張によりまする生産費及び所得補償方式によりまする価格としてどの程度が妥当であるかということの正確なお答えができないのであります。しかし、従来政府がやっておるそのままの行き方で考えましても、二百円ないし三百円昨年産米より上昇するということは当然考えられることだと思います。これはパリティの関係から見ましても当然そういうことになろうかと思います。生産費及び所得補償方式によりまする算定ができました際にこの問題につきましては正確にお示しを申し上げたいと思いまして、算定ができますまで御猶予が願いたいと存じます。  その次に、このパリティの上昇部面におきましても、御質問にありましたように、生産資材部面の高騰がひどいのであります。でありまするから、従来のようなパリティ方式の生産費なり消費財部門なり家計費部門なりにおきまするウエートのとり方に問題があるのでありますパリティによりますと、そのウエートをどう変えるかということを検討しなければならないと思うのであります。しかし、私はこのパリティ計算には賛意を表しておらないのでありまして、生産費及び所得補償方式によりますと、当然御質問の問題点は解消するものと考えられるのであります。  最後に、減税に関係のない世帯数のお話がありましたが、これはあるいはそういうふうな。パーセンテージになるであろうかと思います。私が申しあげましたのは、絶対間違いのない最低の数字を申し上げましたので、一世帯二人ないし三人ありますから、一・五ないし一・三ありましても、当然そういうふうなパーセンテージになるもの考えられるのであります。
  33. 川俣清音

    ○川俣委員 もう一点だけ。これはあなたの公述中になかった問題ですけ上ども、毎年政府が買い入れ価格をきめますが、一年の後においては、交渉しました買い入れ価格よりも年々手取り価格が石当り上っておるのが通例なんですが、三十一年度の一万七十円は、これは表向きは一万七十円でありましたけれども、昨年の手取り額は九千九百五十円を割るのではないかと思われますが、この点についてはどうい所感を持っておられますか。おそらく農民の間においてはだまされたということでだいぶやかましくなってきておると思いますが、この点についてお伺いいたしたいと思います。
  34. 土岐定一

    土岐公述人 お尋ねの、昨年は一応表面的に一万七十円という価格が示されたのであります。しかし、実際平均しまして三十一年産米の価格はどの程度になるかということを私のところで試算いたしますと、大体九千九百七十円くらいになるという試算が出ております。この間約百円開きがあるわけであります。政府が一万七十円と言われたのが事実は九千九百七十円だ、百円だけ下ったということになるのでありまして、この点につきましては、当然生産農家といたしますと何らか割り切れない気持を持っておるものと考えられます。こういう差がなぜできたかといいますのは、昨年一万七十円ときめます中には、時期別価格差を二百十円と見込んでおったのであります。ところが、事実は 昨年天候か非常に悪くて出がおくれたというような関係等から、この二百十円が百円ちょっとしかなかったということになるのであります。また、二百十円の時期別価格差によります場合に、いついつは何万石出る、いついつはどうということに多少の作為的数字があったということも考えられるわけであります。こういう点が百円の開きができた基礎になっておると思うのであります。当然、生産農家といたしますと、その点につきましては割り切れない気持を持っておるものと思います。この影響は、特に東北、北陸等の米の主産地に影響を与えておるのであります。これは全国ならしにいたしまして百円だけ下っておりますが、主産地におきましては、より以上の影響を与えておるということが言えると思うのであります。
  35. 川俣清音

    ○川俣委員 もう一点だけ。おそらくその九千九百七十円というのは十一月末の集計だと思うのですが、一月末では九千九百五十円内外だと思います。これはあなたの調べが十一月末だということを明確にしていただかないといけないと思いますが、この点いかがですか。
  36. 土岐定一

    土岐公述人 それは確かに最近の数字でありませんので、私の申し上げた点につきましては誤差があるものと考えられます。
  37. 山崎巖

    山崎委員長 他に御質議がなければ、土岐公述人に対する質疑は終了いたしました。  土岐さんにはまことにありがとうございました。(拍手)  それでは、午後一時半より再開することといたしまして、暫時休憩いたします。     午後零時三十一分休憩      ————◇—————     午後二時開議
  38. 山崎巖

    山崎委員長 休憩前に引き続き公聴会を開きます。  御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。本日は御多忙のところ貴重なる時間をさいて御出席いただきましたことに対して、委員長といたしまして厚く御礼を申し上げます。  申すまでもなく、本公聴会を開きますのは、目下本委員会において審査中の昭和三十二年度予算につきまして、広く各界の学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位の忌憚のない御意見を承わることができますれば、本委員会の今後の審査に多大の参考となるものと存ずる次第であります。  議事は末高さん、荷見さんの順序で御一名ずつ順次御意見開陳及びその質疑を済ませまして、公述人各位の御意見を述べられる時間は、議事の都合上約二十分程度にお願いいたしたいと思います。  なお念のため申し上げておきますと、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ることとなっております。また発言の内容は意見を聞こうとする案件の範囲を越えてはならないことになっております。なお委員公述人に質疑することができますが、公述人委員に対して質疑をすることができませんから、さよう御了承をお願いいたします。  それでは、まず早稲田大学教授、末高信君より、御意見開陳をお願いいたします。
  39. 末高信

    ○末高公述人 委員長並びに委員諸君、これから社会保障の観点に立ちまして、三十二年度予算案に対する私の所見を申し述べてみたいと思います。  石橋総理大臣は、その五つの誓いの一項目といたしまして、社会福祉の推進を掲げているのでございますが、三十二年度予算案はその誓いを実現するための特に社会保障に重点を置いたものとして説明せられているのであります。すなわち第一は医療についての国民皆保険を打ち出したこと、第二は結核対策として予防面を取り入れ、健康診断等の費用の全額公費負担を打ち出したこと、第三には生活保護における母子世帯の加算を打ち出したこと、第四番目には国民年金制度のための調査を始めるということ、第五番目には原爆犠牲者に対する医療費の公費負担を打ち出したこと等が、そのおもな項目になっているのであります。以下逐次それらの予算と、その基礎となっている考え方につきまして触れてみたいと存じます。  第一に衣料保証でございますが政府は医療についての保険の未適用者二千七百万人に対しまして、四カ年で皆保険の実をあげる計画のもとに、三十二年度におきましては国民健康保険の新規加入者五百万人を予定したのでございます。国民健康保険を中心といたしまして国民皆保険の推進の方針をおとりになったということは、それ自体としては賛意を表するものでございますが、それがため予算といたしましては給付費の二割と創業費にも当るところの普及促進費という名前で、二千三百六十二万円が計上せられているにすぎないのであります。このことははなはだ納得のできないことであります。今日まで国民健康保険を開始することのできなかったような町村は、財政的にはいわば貧弱町村でありまして、二割の給付費の国庫負担では、とうていこれを実施することができないと考えられます。そこで国といたしましては、かねて社会保障制度審議会から勧告せられている通り、三割を負担するとともに、この国民健康保険制度では、実際の医療に要した費用の五割だけが保険によってまかなわれている現状を改善いたしまして、少くとも保険でかかった医療費の七割は給付かできるように、特段の指導をなすべきであると考えます。また創業費に当るところの国民健康保険普及促進費として計上せられている二千三百万円は、これを対象人員五百万人に割り当てますると、わずかに一人当り四円余りにすぎないのであります。このような金額をもって新たに国民健康保険を開始するというようなことは、とうてい市町村の実情におきましては不可能であろうことは今さら申し上げるまでもないことであります。  国民健康保険とともに医療保障のもう一つの部門であります勤労者のための健康保険に対する補助といたしましては、三十二年度予算におきましては前年度と同額三十億円が計上せられているにすぎないのであります。これも病気から国民生活を守るという国の責任を明らかにするため、かねて社会保険の審議会等から勧告せられておりまする通り給付費の定率負担の線で、予算を組むべきであったと考えるのでございます。このことは船員保険における医療部門につきましてももちろん同様でございます。医療保障というものは言うまでもなく国が国民の医療についての責任を明らかにするための一つの仕組みであり計画でございます。この計画はその性質上二つの面からなっております。すなわちその一つは医療に要する資金の計画でありまして、健康保険や国民健康保険はこれに当るのでございます。他のもう一つは医療そのもの、従って医療担当者等に対する計画でございます。両者とも国が責任を持つところの計画でありまする以上、ある程度国の統制や関与があるのは当然でございます。すなわちそれがため国は健康保険をみずから運営したり、国民健康保険に対してはその運営の基準を示し、これを指導しているのであります。しかるに医療ないし医療担当者につきましては、大体放任せられております。一例をあげるならば、国民健康保険では自由開業の医療担当者の諸君との自由契約をもちまして、その医療を委託している実状でございます。従ってその医療内容や医療報酬等も地区ごとの町村理事者と医療担当者との力の関係できまり、その内容はまことに千差万別でございます。すなわち国が医療保障と真剣に取り組むとするならば、保険によって計画的に準備せられた医療費の支払い先でありまするところの医療担当者を含めて、医療組織一般に対しまして国はもっともっと計画性を持たなければならないものと考えます。それがため国といたしましては医療担当者の公的性格を確認いたしまして、その職務や地位に相応する待遇をいたしまするとともに、その地域的な分布を適正にし、診療基準を定め、適切な医療が国民全体に保障できるよう、これを規則すべきであります。現在のまま皆保険を推進するということになりますれば、国民の受けるところの医療のアンバランスは、一そう拡大するだけであります。極端な例を申し上げますれば、かりに無医地区を考えますと、住民は保険料を取られながら、病気を見てもらうところの医師がいないということになりかねないのでございます。そこで予算におきまして、僻地に開設せられる診療所の運営費に対しまして、二分の一の補助をいたすことが認められ、二千五百万円が計上せられているのでございますが、こうような額で一体無医地区の解消なんということは、百年河清を待つの類であろうと考えます。  第二は、国民年金に関連する予算でございますが、老齢というものはその人から所得を奪い、生活を破滅させる点におきまして、むしろ病気より深刻な悩みでございます。従って英米等におきましては、年金制度こそ社会保障の中心をなしております。しかるにわが国におきましては、恩給や年金制度のもとにあるものは、二百五十万人の公務員と、九百万人の民間勤労者だけでありまして、大部分の国民は何らの老後の保障なくして放置せられているのであります。従って国民年金に対するところの要望は、全国民の間に盛り上ってきております。しかるに三十二年度予算におきまして現われたものは、わずかに年金制度調査費といたしまして一千七十万円と、生活保護における母子世帯に対する月千円の加算の四億五千万円の二項目にすぎないことは、決して年金制度に対する国民の要望にこたえるゆえんではございません。  第三は、結核対策の予算でございますが、このたびはパスその他三剤併用の措置のほかに、健康診断や予防接種のための公費全額負担が認められたのでございます。従来の治療面にのみ終始しておりました結核対策が、予防面に一歩足を踏み出したことを語るものでございまして、その意味におきまして一応納得できるものと考えます。  第四は、生活保護並びにそれに関連のある制度でございますが、この予算案におきましては、第一は、前述の通り母子世帯への加算が前年度五百円から一千円に引き上げられたこと、第二に、扶助額が全体として六・五%の引き上げを見、特に生活扶助という部面におきましては、七・五%の引上げが行われましたこと、第三には、原爆被害者に対しまして医療費の全額公費負担としての一億七千万円が認められたこと等、いずれも当然の措置ではございますが、社会保障の一環としての公的扶助の前進といたしまして考えてよいと思われるのでございます。ただし原爆被害者に対する援護は、単に医療の面ばかりでなく、その生活面にも及ぶべきであると考えます。生活保護に関連いたしまして、このたびの貸付資金として三億円、医療費貸付資金といたしまして二億円の計上を見たことは、額はきわめて微々たるものでございますが、従来貧乏を救うという意味にのみ限定せられた厚生行政が、ボーダー・ライン層ないし低所得者の階層を対象といたしまして、防貧という積極面に乗り出したことを示すものでありまして、結核対策における予防面の取り入れとともに大いにほめてよいことと考えるものでございます。  第五は、社会保障の一環としての住宅に対する予算でございます。すなわち庶民ないし低所得階層に対する住宅は、第二種公営住宅であると考えられますが、その三十二年度計画は二万五千戸でありまして、前年度より五千戸余りの増加を見ているのでございますが、その家賃は実際には千八百円を上回るのではないかと考えられます。そういたしますると、二万円程度のサラリーマンでなければ結局は住めない。ところがボーダー・ライン層の平均所得というものは月額一万二千円前後でございますことを考えますると、どうしても第三種住宅と申しますか、あるいは一そう簡易な住宅を建設して、月一千円くらいの家賃でこれを供給することが必要であると思われるのでございます。この予算案におきましてそのような計画を欠いていることはまことに遺憾であると考えます。  次に、以上申し述べた私の意見基礎となりました考え方を明らかにいたしまして、結論にかえたいと思います。私は現代国家に課せられた最大の任務は、第一、労働のにない手としての勤労者の保護と、第二には産業の発展にもかかわらずその恩恵を受けることのない日陰に取り残されている人々に対する生活の保障であると信ずるのでございます。一言にして申しますれば、福祉の推進ないし社会保障の充実というものが、国家の第一任務でなければならないと考えております。このような立場に立ってわが国の現状を見ますると、今日ほど社会保障推進のためのよい機会はないのであります。すなわち三十二年度一般財政における自然増収は二千億円を見込まれております。政府といたしましても、これを財源といたしまして千億減税、千億施策の方針を打ち出し、その政策を推し進めておられるのでございます。ところが千億減税によって恩恵を受けることのできるものは、国民のうち一千百万人の納税者でございまして、その他の階層は鉄道運賃の引き上げあるいはただいま一時的には見送られておりますが、いつかは予想せられる主食の値上げ等によりまして、その生活は一層苦しくなるはずでございます。こういうことを考えますれば、千億施策の千億円は、まさに社会保障のために充当せらるべきであったと思うのあります。しかるに千億施策の実態を見ますると、前年度に比し一千二十五億円の膨張を来たしました一般予算におきまして、社会保障関係におきましてはわずかに九十一億円が充てられたにすぎないのでありまして、その他は総花式に単に各種の行政費に分割せられてしまったのであります。これは全く納得のできないことでございます。そこでこの千億の全部を充当して、あの世界に誇っておりまするイギリスの社会保障制度が、かつての日、保守党によりまして計画せられ、樹立せられた例にならいまして、この際合理的な全国民を対象とする社会保障を推進すべきであると考えます。これが最上の策でありますが、しかし石橋総理大臣も組閣以来各種の公約をしている関係から、このうち幾らかは一般の施策に充てなければならない、これをかりに三百億円と考えましても、あとの七百億円というものは、社会保障の推進に向けらるべきであったと思います。さてこの七百億円の資金をもちまして、社会保障を推進するといたしまして、その重点を医療と、老齢及び遺族の生活保障に置くべきであることは多言を要しないところでございます。  さて医療保障につきましては、すでに述べましたように、国民健康保険の推進のための予算のほか、勤労者のための健康保険における給付費に対する定率国庫負担を合せまして、約百億円を投入すべきでございましょう。次に老齢年金を創設するといたしますと、この際七十才開始、月千五百円という線が妥当ではないかと思います。その所要経費四百八十億円、また遺族年金は、これを母子年金に限るといたしまして、母子世帯四十九万に対しまして、月二千円といたしますると、所要経費百十億円になるのでございます。  以上の社会保障推進の計画は、七百億円のワクのうちで十分おさまり、これを実現することができるのであります。従って、現在政府として決意すれば、実行し得る計画でございます。石橋総理大臣の誓いの一つとしての福祉国家の推進を、単に一片のキャッチ・フレーズに終らしめてはならないと考える者といたしまして、私はこの際、政府の決意を強く要望するものでございます。  特にこの際申し添えたいことは、国の施策としての社会保障は、これを必要とする者に対しまして、公平に与えられなければならないということでございます。二十八年に復活いたしました軍人恩給は、今や八百十一億という巨額に上り、遺族、留守家族援護を合せますると、一千億を上回っているのでございます。一般国民もそれぞれの職業、それぞれの地位におきまして、日本という国家、日本という社会の発展に貢献しているわけでございまして、それら九千万国民の生活を守るということが、究極におきまして国の責任である、こういう考え方が福祉国家の理念であると考えております。重ねて、二千億の自然増収のあるただいまこそ、福祉国家推進の好機であり、この際千億施策の中核といたしまして、七百億円を社会保障に充当すべきであるということを要望いたしまして、私の意見を終るものであります。(拍手)
  40. 山崎巖

    山崎委員長 末高公述人の御発言に対しまして御質疑がございますれば、これを許可いたします。
  41. 井手以誠

    ○井手委員 ただいま御公述になりました中に、七百億円を社会保障に向けるべきであるというお言葉でございますが、その七百億円の内容を、少し聞き漏らした点がありますので、もう一回お願いいたしますとともに、それをどのように発展したらよいのか、御腹案をお示し願いたいと存じます。
  42. 末高信

    ○末高公述人 お答えを申し上げます。こまかい計数を私ここで申し上げることができないのでございますが、大ざっぱに申しまして、先ほど申し上げましたように、約百億円を医療保障の充実のために、それから老令保障といたしまして、私の考え方は、七十才即時開始の、千五百円の年金ということで、四百二十億くらいで足りると考えております。そのほかに、かせぎ人をなくしたところの世帯に対する生活保障というものが遺族保障でございますが、この遺族保障は、母親が子供をかかえているという遺族、そういうものに限るという、要するに未亡人、母子世帯でございますが、これが全国四十九万と今考えられております。それに月二千円ということを考えますと、百十億円ということになりまして、かれこれ七百億円のワクでもっておさまる、こういうふうに考えております。
  43. 井手以誠

    ○井手委員 ただいまお示しになった老令年金並びに母子年金について、将来この年金制度をどの程度まで充実したならば、社会保障としていいのか、その構想を承わりたいと思います。
  44. 末高信

    ○末高公述人 お答え申し上げます。これは、今後の経済発展成長、それから財政規模、それに対する国民のいろいろな考え方の変化があろうかと考えますが、大体私ども現在の年令構成から申しまして、将来豊かになった時代においても、六十五才まで引き下げれば十分じゃないか。世間におきましては、老令年金というと、すぐ六十才を考える。しかし今日、平均生命がずっと伸びてきたということは、皆さん御承知の通りでございます。そこで六十才でかりに退職をするということになりましても、六十五才ぐらいまでは国民全部勤労態勢をとって何らかの生産に従事するという、国の完全雇用という面からの施策がなければならない。その点におきまして六十五才までは所得があり得ると考える。そこで六十五才開始の年金ということになりますれば、世界的に見ましても満足すべき水準と申しますか、年金制度であると考えております。そういたしますと、その年令層に当るところの者は、七十才以上の者につきましては、ただいまのところ二百七十万人でございますが、六十五才以上と限りますと、約四百万人ちょっとこえます。従ってその程度財政の所要資金がふえて参ると考えております。
  45. 井堀繁雄

    ○井堀委員 今度の予算の中で、私ども社会保障の問題については、かなり具体的なものが出てくるものであろうと予想しておったのでありますが、まことにりょうりょうたるもので、まことに残念に思っております。ことに石橋内閣が、公約の中でも社会保障、医療保険の問題を取り上げて皆保険を言っておられるが、予算の中では、どこにも皆保険に見合うような予算が見当らないでいるわけですが、この皆保険に対する先生の御批判なり御意見を承わりたい。
  46. 末高信

    ○末高公述人 皆保険の考え方につきましては、十分御承知であると思いますが、社会保障制度審議会等におきましては、一方において国民健康保険を推進していくとともに、五人未満の零細企業の被用者に対しましては、第二種健保というものを創設すべきであるという御意見であったのでございます。それも一つ考え方であると私も存じておりますが、しかし制度が屋上屋を重ね、複雑にまた複雑を重ねるということは非常におもしろくないことのほかに、五人未満の零細企業において考えてみますと、御案内の通り、約三百万人の被用者がいるのでございますが、その事業主が百五十万、一事業人主当り二人。一体、みずから勤労者であるか雇い主であるかということの区別がつかないようなものに対しまして、特別にこれは雇い主である、事業主であるという負担を課するということが、現在の日本においてどうかというようなことを考えてみますると、遠い将来はしばらくおきまして、当分の間は、地区の住民としての国民健康保険で行くべきであるというふうに、私個人としては踏み切っているのでございます。そういう意味におきまして、先ほど申し上げましたように、皆保険は国民健康保険を中核として推進するという政府の今の御方針に対しましては、一応賛意を表するにやぶさかでない、こういうことを申し上げたわけでございます。ただし先ほど申しましたように、現在残っておりまする地区というものは、いわば財政的に申しますと貧弱町村でございまして、もっとも東京の区制をしている部分などにつきましては、これは例外でございます。この点は明らかにいたしておきますが、全国的に見ますれば貧弱町村でありまして、二割の国庫負担の程度におきまして、実際に推進することはむずかしいのではないか。従いまして、どうしても三割という線をもっていかなければならないというふうに私は考えております。
  47. 井堀繁雄

    ○井堀委員 そこで、健康保険の問題では、先生のおっしゃられるように、五人未満の零細事業場の労働者をどう把握するかということについてでありますが、先生のお話では、国民保険の中で特殊な操作を考えるというようなお考えのようであります。ここで雇い主の立場からすれば、負担能力その他の問題があるということはわかるのですが、被保険者になる雇用労働者の側からいいますと、零細企業のもとに雇用されたということで、せっかく成長を遂げつつある健康保険の恩典からはずされる結果になると思うんです。いま一つは、健康保険は単なる医療保険というだけではなしに、やはり労働政策が多分に盛り込まれておると思うんです。こういう点に二元的な生命か持っておる。健康保険のほかに、第一種健康保険というものがどういうものと考えておるか、私どもよく存じませんが、この点に対する先生のお考えを伺いたいと思います。
  48. 末高信

    ○末高公述人 お答えを申し上げます。大へんむずかしい問題でありますが、保守党であるとか、あるいは進歩的政党であるとかいうことについて、ここで申し上げる必要はないと思いますが、しかし私ども、五人未満の事業というようなものは、もはや事業的性格を持っておらぬ事業である。もしも社会党の立場に立って考えてみましても、これは被用者である、使われておる人間である、労働者であるから社会賞的だ、事業主であるから、これは自民党的だというような区別をすべきではない。むしろ社会党の立場から申しますれば、雇い主ぐるみこれを自党に参加すべきものである、こういうような立場をとることが、むしろ賢明ではなかろうか。わが国の五人以上というところでも、中小企業の小規模のまた小企業でございます。五人や十人というところですね、これでさえ、一体事業主的な性格を持っておるかどうかということは、はなはだ私は危ぶむのでございますが、五人未満ということになりますると、これは一介の勤労者であって、ただそれがたまたま人を手助けに使っているというにすぎない、こういうような立場のものを区別されるという考え方に対しましては、私はむしろ納得ができない、こういうふうに——公述人は質問してはいかぬということでございますから、これは質問ではございませんが、私はどうもその点が納得できない。こういうことを申し上げます。
  49. 井堀繁雄

    ○井堀委員 先生のおっしゃられる面の道理は、私ども当然、解決の道は——日本の零細企業というものは、労使関係だけで解決することのできない問題だ、むしろ日本経済全体の中で、あるいは全体の政策の中で解決をはかるべきものである、こういう点は一応納得のできる事柄である、そうあるべきだとわれわれは信ずるのであります。しかし現実の問題としては、にわかに零細企業、ことにそういう小規模の事業場に働いている、悪い労働条件の実質を、たとえば社会保障の中で問題を限って考える。たとえば、もう一つ小さく攻めれば、医療保険という問題の中で、私は健康保険の持つ使命というものが非常に大きいと思う。一番長い経験を持って、いろいろな意味において新しいものを生みつつある健康保険ですから、この健康保険の長所というものをいささかもつまないで伸ばしていくという考え方が、私の前提になっているわけです。そういう点から、今日の日本の労働者に対する法律的な定義だけに限ったわけではありませんが、一応雇用関係の中の限定された労働問題というものがあると思う。そうだとすれば、段階的には雇用関係を持つ労働者については、健康保険のようなものを一応伸ばして、さらに国民保険なり全体の保険の中でどう統合するかというふうに考えていくべきではないか。それを、健康保険を二つに割るような形に保険の統合なり社会保険の発展を進めるということは、非常に大きなネックになるのではないか、こういうふうに考えているものですけれども、先生のお話で言うと、他の政策の問題とからみ合せて議論すればあると思いますが、一応今社会保障制度、ことに医療保険という限られたワクの中で、もう直ちに問題になっているわけであります。ことに私どもの言いたいことは、零細企業のもとに雇用されている労働者ほど、社会保険の切実な恩恵を要求している層はないと思うのです。こういう切実な問題を解決できないで理想に手を出すというやり方は、実際的でない。特に先生が言うように、われわれは党の立場を越えて、当面の一番切実なものである、皆保険をもし真剣に提唱するものがあるとすれば、まず五人未満の零細企業の労働者を健康保険の中に吸収していくという具体的な案を持ってきて、その内容で議論をされるなら私はいいと思う。だけれども、それはむずかしい。零細企業の企業主は、負担能力はないからということではずすなら、労働政策全体に影響してくる、経済政策全体の中で何かの答えを出さなければならない。それは、別に見送ってしまうということになりますと、あれはあれ、これはこれというように、実際問題としては分けられない問題ではないか。こういう点で、先生のような社会保険は対する構威者が、何か最初から零細企業の労働者を見捨てるような感じを与える案というものについては、実際的でもそうだし、論理的でも非常な矛盾があるのでないかと思います。非常にくどいようでけれども、もう一度先生の考えを伺いたい。
  50. 末高信

    ○末高公述人 お答えを申し上げます。なかなかむずかしい問題でありますが、私は、零細企業の労働者を労働者として扱う部面は、むしろ失業保険をそれらの階層に伸ばしていくという方向がとらるべきであると考えております。それから健康保険につきましては、もちろん認識もあり、資力もあり、力もあるというようなものにつきましては、また同時に労働者の立場から申しましても、その労働の実態が明確に把握できるようなものにつきましては、これを現在の健康保険の方に取り入れていく、できるだけその方に拾っていく。なお落ちこぼれる零細企業というものは、私は井堀先生の御説得にもかかわらず、やはり事業主的性格が非常に希薄であるところの企業である、こういう工合に考えておりますので、国民皆保険の推進の中核は、やはり国民健康保険に置かるべきである、こういうふうに考えております。
  51. 井堀繁雄

    ○井堀委員 どうも先生にしてそういうお考えであるということは、まことに私としては残念に思うのです。  そこでもう一つ、このことについてお尋ねをいたしておきます。日本の零細企業、中小企業の本質問題については、この国会では論議されると思うのです。この問題は、あらゆる点から解決を迫られておる問題だと思います。完全雇用の問題の中からも出てくる。一体完全雇用とは何か。完全就業者というようなものが、生活の最低を維持することのできないような収入で雇用されて、それが完全雇用の数の中に入るというような考えじゃおそらくないと思うのであります。ことに今の雇用の内容を分析していきますと、零細企業というふうに言った方がいいかどうかわかりませんが、たとえば賃金給与の格差というものを、かぼそい統計の中でわれわれ拾っていきましても、かなり広範で、しかもその実態はおそるべき傾向があると思うのです。これは今日の政府の力をもっていたしましては、こういうところに手が及ぶほど行き届いた政策は、どこにも発見ができぬと思います。そういう実際問題の上に立って、先生の言う国民保険で、そういう人々を救っていく。僕は雇い主側の立場に立つ者は、それでいいと思う。雇い主は、今日健康保険の負担どころではない。今申し上げるように、賃金それ自身が払えないという実態ですから、それにさらに保険料を賦課するということは、実際問題としてもできないと思う。だから、こういう雇い主それ自身が、今日保険の対象にならなくちゃならぬのですから、これを国民健康保険で吸収していくということは、私はきわめて妥当なものだと思うし、可能な道だと思う。しかし、こういうものに一応雇用されておるのですね。そして、今日唯一の保護法である労働基準法の保護も受けられないというような、深刻な事実が非常に広範なんです。統計は、申し上げるまでもなく、先生御存じだろうと思います。それからもう一つ大事なことは、日本の企業の規模というものを、労働者の雇用数で見ていくことがいいか悪いかも、学問的には異論があるかと思いますが、五人の線を引きますと、五人が十人にふえたり、あるいは三人に減ったりという変化に富んだカーブを見ることができると思います。こういう点もありますから、先生の言うように、国民保険に踏み切ってされてしまうということは、実際問題として、これは労働問題として尾を引くことになるんじゃないか。他の労働政策とのからみ合いで、非常に大きな問題が起るんじゃないか、こう思うので、こういう点について、私ども非常に苦慮しておるわけです。しかし、一応健康保険と国民保険との統合をここで考えなければならぬと思う。その場合に、先生のお考えを一つ伺っておきたいと思うのですが、健康保険の場合においては、雇用関係の中における、雇い主の負担の形における相互扶助の操作が行われておる。国民保険の場合は、全くこれとは異なるわけであります。この点、もし医療保険の統合ということになりますと、これをどういう工合に調和されるというお考えがあるか。これを伺えば、前の問題についても多少はっきりしてくると思います。
  52. 末高信

    ○末高公述人 お答えを申し上げます。これも大へんむずかしい問題でありますが、健康保険という勤労者に対する保険制度と、国民健康保険という地区住を民対象とする健康保険を、保険という形で統合するということは、百年たってもすべきではないと私は考えております。では、統合は絶対に賛成しないのか、あるいは不可能と考えるかというと、そうではございません。これは何年先ということを申し上げることはできません。けれども、ある時期がきたならば、これはやはりイギリスのように、医療というものの国家の責任というものを確認いたしまして、医療を全国民に与えるという制度に切りかえていく。お金の面は別に考える。別に考えるというのは、つまり特別税なり、あるいは保険料という形でいくか、あるいは大部分を国費でもってまかなうかということは、そのときになって考える。医療というものについて国民全体に平等に与えるという時期が、つまり医療国営と言っては大へん悪いですけれども、私は国営という言葉を使いたくないですが、医療が社会化される、国民全体に対して必要にして十分な医療が与えられるという制度に切りかえるときです。今の地区住民に対する国民健康保険と、勤労者に対する健康保険というものは、こういう形のままでは、いつまでたっても統合はできない、こういうのが私の結論でございます。
  53. 井堀繁雄

    ○井堀委員 私どもも、健康保険と国民保険との問題は、似ていて異なるものがある、この点が基本的なものだと先生もおっしゃる、私もそうです。それで、先ほどのことをお尋ねしたわけです。あとさきになって恐縮いたしました。  そこでもう一つ、いい機会でありますから、先生に伺っておきたい。今・度の予算の中で、ほんの申しわけ的に年金制度に対する頭を出してきた。いいことだと思うのです。ほめてやっていいことだと思うのですが、育つか育たぬか、根をおろすことができるかどうかというところに疑いはありますけれども、しかし、そういうものを出してきたということは、ほめてやっていいことだと思う。ただそこで年金制度について、私はそれが将来芽を出してくる本質を持っておるか、あるいは根が伸びるであろうかという点に対する先生のお考えを一つ伺いたいと思うのであります。それは、私どもの考えでは、今日いろいろ問題があります中で、年金制度と恩給制度の問題がすぐ出てくると思う。これは、私どもの考えを申す必要はないかと思いますが、恩給制度の中における旧軍人恩給の問題が、なまなましい事実として出てきておるわけです。これは、私ども恩給制度の中で解決していくというやり方は復古主義であるし、まことに手のないことだと思うのであります。こういうものは年金制度の中でという考え方は、相当うがった意見だ、またそうすべきではないか。しかし、今度の政府の所信をただしてみますと、そういうものを考えていないようであります。ことに旧軍人のうち、日清戦争、日露戦争——日清戦争はありませんけれども、日露戦争当時の人で金鵄勲章などで年金をもらって、それだけで食っていた人が、とたんにひどい目にあって、非常に気の毒な何人かに相談を受けて、非常に矛盾を痛感しておるわけであります。実際問題として、これに似たのがたくさんあるんじゃないか。戦争責任を道義的に負わなければならぬような高級軍人は別として、ほんとうに戦争犠牲者として極端な責めを負った者に対しては、年金制度の中でめんどうを見る、あるいは社会保障制度の中で、どういう形が望ましいか。私どもは年金制度の方がいいんじゃないか。そういう間口のある年金制度を、日本の場合は考えていいんじゃないか、こういうふうに私どもは考えておるのです。これは、やはり社会保険の中にある厚生年金保険の問題が出てくるわけです。健康保険と国民保険の問題と同じように、毎年厚生年金保険の問題が出てきておりますけれども、こういう問題ともどういう形かで結びつけていかなければならぬ時代ではないか、こういうときに、保守党の政権でこういう措置をしなければならぬということは、日本の民族にとっては非常に不幸なことだと思うのですけれども、こういう実際問題をどう処理するかという必要に迫られておりますが、一向に芽を出していない。この点に対する先生の御意見をお聞かせ願いたいと思います。
  54. 末高信

    ○末高公述人 御質問と申しますか、御意見でございましょうか、大体御質問の中に含まれている御意見には、気分的には賛成をいたします。それで、私この点につきまして先ほど申しましたように、神武以来の景気といわれている今日、こんないい機会はない。かつて戦争中、チャーチル内閣がイギリスにおきまして、あのりっぱな社会保障制度を立案構想して準備をしていたということに対しまして、多大の敬意を払っておるものでございますが、今こそやはりその時期ではないかというふうに考えまして、こういう席上で、多少何か学者の迂遠な寝言のようなことを申し上げることは差し控えるべきであると考えたのでありますが、むしろこういう席においてこそ申し上げておいた方がいいと考えまして、あの構想をこの席で申し上げたわけでございまして、ああいう点におきまして石橋内閣が踏み切られたならば、後世の歴史は、石橋内閣を確かにたたえるに違いないと考えております。
  55. 島上善五郎

    ○島上委員 簡単に二、三点お伺いしたいのです。大へん貴重な御意見を伺わせていただいて感謝しておりますが、まず最初に伺いたいのは、石橋内閣は運賃値上げをやって、米の値上げも実はやろうとしたけれども、露骨に言うと、党内のごたごたで一時思いとどまった。これは、米価審議会とか米価問題調査会で一時逃げておいて、やがては必ず出てくるであろう、こう私ども察しておる。そういたしますと、運賃値上げ運賃の値上りだけにとどまらず、運ばれる品物の値上げになり、米の値上げは、米だけでなしに他の値上げ影響する。物価は横ばいだといいますけれども、私どもの見るところでは、一ぺんには上らぬにしても、じりじりと上るのではないか、こう心配しておりますが、先生は、この点に対してどのようなお考えをお持ちですか。
  56. 末高信

    ○末高公述人 その点は、先ほど私が申し上げた所見の中で明らかにいたしましたが、運賃値上げ、それからガソリン税の引き上げによりまして、当然バス代等々も引き上ってくる、要するに交通費が上ってくる、それから米は一時保留されたけれども、年度内にはどうやら引き上げるのではないか、この予算委員会におけるいろいろな御論議を新聞を通じて知っているものでございますが、ややそういう感じを私は受けております。従いまして、生活費はどうしても上っていくと考えます。そういたしますと、千億減税によって恩恵を受けることのできない連中は、特に生活が一そうきびしくなるから、一千億施策というものの中心は、千億社会保障でなければならないというのが、そこから出てきている私の意見でございます。
  57. 島上善五郎

    ○島上委員 その点はわかりますが、物価が上りまして、官公吏の諸君の賃金も多少上げる、それから日雇い労働者の賃金も、ほんのちょっぴり申しわけ程度上げる、こういう予算が組まれておりますが、戦後十年間の例に見ましても、物価と賃金との関係は、物価の方が先に行って、賃金の上り工合があとからよたよたとあれについていくという状態です。ところが、この物価の値上りについていけない低賃金の労働者が日本には非常に多い。一体、この賃金でどうして生活しているだろうと、私ども賃金の金額を聞いただけでは、どうしても理解できないような低賃金の労働者が非常におるわけです。この低賃金の労働者は、おそらくことしもまた物価の値上りにとうていついていけないで、取り残されていくのではないか、こう思われる。そこで私どもは、こういう驚くべき低賃金の労働者に対して、最低賃金制というものを今こそ具体的に考えて実行すべき時期ではないか、こういうふうに思うのですが、先生はどのようにお考えでしょうか。
  58. 末高信

    ○末高公述人 お答えを申し上げます。その点の御見解に対しましては、全く賛成でございます。その通り考えております。
  59. 島上善五郎

    ○島上委員 それから日雇い労働者の賃金でございますが、御承知のように、ことしは二十円ほど増額して三百二円であります。これと生活保護の関係でございますが、三百二円としまして、全国平均の就労日数が二十一日か二十二日ですから、そういたしますと、失業保険や健康保険の掛金を差し引きますと、完全に就労しましても月に六千円内外、そうすると、家族四、五人かかえている者は、日雇いの労働をするよりは、生活保護を受ける方が収入が多くなる、こういう矛盾が生ずるわけです。勢いそこでは、働く意欲というよりも、働かずに生活保護を受けた方がいい、こういうことになって、働く能力を持っている者が働かずに生活保護を受ける、この日雇い労働者の低賃金というところから、そういう弊害が生じてくるのではないかと思う。私どもは、日雇い労働者の賃金は、今まで安過ぎたのでございますが、この際もっと、まあこれならどうやらこうやら少くも生活保護よりは上回った生活ができる、働けばそれだけの生活ができる、こういう希望を与える程度に引き上げるべきではないか、こう考えておりますが、生活保護との関連において、どのようにお考えでしょうか。
  60. 末高信

    ○末高公述人 お答え申し上げます。日雇い労働者の賃金は、御案内の通りニコヨン、二百四十円という時代から逐次上昇を見て、現在まで平均して二百八十二円、今度二十円上げて三百二円というように私は承知いたしておりますが、これが、ただいまお話しのように低過ぎて勤労意欲を失わしむるものであるかどうかということは、他の一般企業における低賃金の実態と比べてみますと、必ずしもそう低賃金ではない。私は三百二円でもう御の字である、それ以上上げる必要はごうまつもないということを申し上げるのではなくて、日本全体がいわば神武以来の景気であるとはいいながら、実際は非常に窮乏のうちにあるその実態をどうすることもできないということを、やはりお答えとして申し上げなければなるまいと思います。たとえば、最近でございますが、私立学校教職員共済組合というものの制度を変えていきたい、法律を変えていきたいというようなことで、いろいろ話を聞いたのでございますけれども、現在四千円、五千円という低賃金の私立学校の先生がある程度いるのでございます。もしこれが七千円というところまで参りますれば、かなりの。パーセンテージがそういう数である。一体、こんなわずかの賃金をもらっている先生方に子弟の教育が託されるかどうかということが、その審議会と申しますか、その席上におきまして問題になったのでございますが、事実において存在しておるということを考えてみますると、先生と日雇い労働者を同一に論ずるということは忍びないところでございますが、しかし一方において、三百二円の日雇に労働者の賃金が非常に低い、勤労意欲がないということを御指摘になると同時に、ただいま申し上げたようなことはほんの一つの例でございますが、わが国全体がまだ低賃金のうちに低迷しているんだ、こういうことを考えてみますると、なかなか問題は簡単には解決できないと考えております。
  61. 島上善五郎

    ○島上委員 わが国全体が驚くべき低賃金であるということは、私もそうだと思います。だからこそ、これを引き上げて最低賃金制を急速に実施する必要がある、こう考えております。  もう一つの伺いたいのは、現在の生活保護でございますが、ことしもまたちょっぴり上げるようになっております。これはまあ上げないよりもましだという程度において私どもは賛成しておりますけれども、一つの問題がありますのは、現在の生産保護では、特に都会地では生活するということはなかなか容易ではない。少くとも非常に苦のいことは事実です。そこでちゃんとした職場に働くとかいうようなことはできないが、からだは悪いけれども、うちで多少内職程度は子供に手伝わしてできるというような者が内職しますと、その副収入は差っ引かれるんですね。一万円も一万五千円も副収入があるという場合にはこれは別でしょうけれども、三千円や五千円の内職の副収入を生活保護から差っ引くというのは、これは実に何と申しますか、情も涙もない冷酷無情なやり方だ。(「それは政府に言わなきゃだめだよ、末高先生に言っても……。」と呼ぶ者あり)それを末高先生から伺って、これが最も公平な意見であろうと思いますので、それを伺っておいて、そして政府を追及するその参考にいたしたいと思います。
  62. 末高信

    ○末高公述人 今助け舟で、政府が答弁するだろうというお話でございますが、この社会保障の中の扶助というものの性格の上から申しまして、やむを得ざる弊害とでも申しますか、その線をくずすということになりますと、生活保護、公約扶助というものが全然意味のない乱給は陥るという弊を防ぐことができない、かように考えますので、今先生が血も涙もない政府だというふうにきめつけられましたが、どうもその点はあまり血と涙をそれに加えますと、むしろ世界の歴史は乱給に陥って、かえって収拾のできないということをわれわれに教えているように考えております。ただしその内職につきましても、ある許容せらるる限度は、現在でも基準というものがあると思います。そういうような基準をどうするかというこまかい問題につきましては、ただいまもどなたか仰せられましたように、事務当局の人と一つ御懇談を願いたいと考えております。
  63. 島上善五郎

    ○島上委員 どうもありがとうございました。
  64. 山崎巖

    山崎委員長 他に御質疑がなければ、末高公述人に対する質疑はこれをもって終了いたしました。末高さん、まことにありがとうございました。(拍手)  次に、全国農業協同組合中央会会長荷見安君の御意見開陳をお願いいたします。
  65. 荷見安

    ○荷見公述人 ごく簡単に要旨だけ申し上げたいと思うのであります。その前に、私ども農業団体側が農家経済の安定と農業の発展向上のために要望しております項目を申し上げておきたいと存じます。  第一、食糧自給度の向上をはかるため、国内食糧増産基本とした農政の確立をはかること。  第二、予約売り渡し制を基調とする現行食糧管理制度を継続実施すること。  第三、治山治水、土地改良等につき抜本的施策を講ずること。  第四、農産物の価格安定と市場開拓のため特段の措置を講ずること。  第五、畜産振興について強力な施策を行うこと。  第六、以上の施策実施の中軸としての農業団体、特に農業協同組合の活動の強化をはかること。  かようなことを農業協同組合側といたしましては失明させることを要望いたしておりますので、最初に御紹介申し上げておきます。  それでその背景になっておりますることを申し上げたいのであります。政府のお示し下さいました昭和三十二年度予算の説明の最初の方にあります二十八年度における急激な国際収支の悪化とインフレの傾向に対処するため、二十九年以来三カ年にわたり財政金融の緊縮が行われたことは云々ということが書いてございます、その原因につきましてごく簡単に申し上げてみたいと思うのであります。  その原因昭和二十八年度の異常な凶作の結果によるところが多いのでふりまして、御承知の通り昭和二十八年は米の収穫高が五千四百九十二万石、前年に比べまして千二百万石の減収であったのであります。そのため二十九米穀年度には、輸入いたしましたのが米が百六十三万トン、小麦及び大麦を合せて四百七十七万トンの輸入が行われたのであります。二十八米穀年度におきましては米は九十八万トン、小麦及び大麦は合せて三百二十三万トンであったのでありますから、凶作のために二十年米穀年度には米が四十万トン、小麦及び大麦を合せまして百五十四トンの輸入増加いたしたのであります。合計いたしますと二百万トンの増加輸入があったのでありますが、それがちょうど前年度の減収より少し超過した程度に思うのであります。その他の食糧の輸入を合せますと、二十九米穀年度輸入した金額が増加分だけが約一億ドル程度にあったかと思うのでありまして、このために外貨の支払いを要し、予算の説明にありますように、国際収支を非常に悪化いたしたのであります。しかるに三十年産米は、これは申し上げるまでもなく未曽有の大豊作でありまして、次いで三十一年度におきましても相当な豊作になりまして、海外市況の好況とも相待って経済界の繁栄を来たすようになったのであります。しかしながら農業は天候に左右されることが非常に多いのでありますから、果して二十八年のごとき大凶作が今後あるかないか、もちろん農業の改良、技術の改善、農薬の使用というようなことによって、非常なものは避け得ると思いますけれども、必ずしも凶作がないということは申せないのであります。それを前提に申し上げておきます。  次に農家の経営規模の問題、これも農政を論ずる背景になると思いますので、ごく簡単に申し上げます。耕地面積並びに農家について申します。と、耕地面積は戦前の昭和十五年に六百七万町歩であります。戦後の昭和三十年には五百四十四万町歩であります。農家戸数は、十五年には五百四十七万戸、三十年には六百十万戸になっております。一戸当り経営耕地を念のために申し上げますと、十五年は一町一反一畝、三十年は八反九畝であります。昭和二十九年の農林統計によりますと、三反歩以下の農家が百三十六万戸、三反歩以上五反未満が百四万戸で、五反未満の農家戸数は二百四十万戸、総農家戸数の約四割であります。五反以上一町未満が百九十七万戸でありまして、一町未満の農家が四百三十七万戸、総農家戸数の約七割に当っておるのであります。戦前戦後では、かように農家の経営状況が異なっておるのでありまして、それが全人口の四割以上、約三千七百万人の農家のうちの大部分であるということを一応頭に置いていただいて農業政策をお考え願えれば、大そう仕合せだと思うのであります。  そういうわけでありますので、ただいま農業団体側として希望いたしております国民食糧自給度の向上を目標とする、食糧増産基本とする農業政策の確立を望むということは、一応御理解が願えることと思うのであります。食糧自給度の向上によりまして、国民生活の安定、国民経済の自立、農業の発達、農業経営の改善に役立つことになると思いますので、われわれはそれを要望いたしております。  それで、本年度予算を私どもが拝見いたしまして目につきますのは、特定土地改良工事特別会計法が設けられるということでありまして、これによって特定の土地・改良事業について効率的施行と資金調達の円滑化、経済性を確保するということがうたわれておりますが、これは一つの大きな進歩であると思います。しかし私はこの計画を一歩進めていただいて、制度をお立て下さるときに、全国的に開発地区計画を立てられて、漸次実行に移すというようなことをお考え願い、現在のような総花的に多数の開発地区に着手して、一年の予算は各地区非常に少いことになります結果、着手から完成までに多くの年限を要する方法をやめられまして、重点的に実行するようになりますれば、経費も経済的でありますし、効果も一そう大きくなると思うのであります。同じ国費で実行するといたしましては、この工事の施行分量がふえるということと同時に、最も効果を上げるということが一つの大切なことであろうと思うのであります。  別に御説明を申し上げるまでもないのでありますが、工事に着手いたしまして、数ヵ月やって、あと放擲しておいて、また次の予算がついたときに、それを実行いたすということになりますと、非常にロスが多いのでありまして、私どもが実際関係いたしました地区の干拓の例などを見ますと、一年に三、四ヵ月サンドポンプによって堤防を築くために砂を上げますが、あと半年ばかり放置してあります間に、四割程度は手戻りをいたしまして、次の年にまたそれを補充して参らなければならぬというようなものが目についておりますから、ぜひともこの工事はある地域々々につきまして集中的、重点的に実行されるようなことをお考え願えましたらけっこうではないかと思います。またその地区につきまして、着手する順位がきまっておりまして、確実に何年からは実行されるということになりますと、その順位を持つ間にいろいろな用意もいたしておけるということになると思うのでありまして、一つ順位を立てて集中するというようなことを、せっかくこの特別会計法ができます際にお考えを願ったら、いかがであろうかと思います。  なお望むらくは、食糧増産促進法のようなものが立案されまして、各地の開拓、開墾等に対する促進の法的根拠が与えられますれば、非常に仕合せだと思うのでございまして、そのことを一項目申し上げておきます。  次に畜産問題について一応申し上げたいのでありますが、今日の畜産は、数量的には大きな躍進を遂げつつあるのであります。すなわち、有畜農業の普及に伴いまして、畜産物の生産増大し、たとえば牛乳では六百十五万石余、戦前の四倍、食肉は二十三万トン余、同じく一・八倍、鶏卵が六十七億個余、同じく一・八倍となっております。これに伴いまして農家経済における畜産のウエートも漸次増大し、養畜収入は農業粗利益の一割に達しようといたしているのであります。しかし有畜農業経営が確立されておりませんために生産費が高い。特に飼料の自給率が低いのであります。また畜産物の流通機構には、なお改善を要すべきことが残っており、市場の取引機構や、畜産物の需要増進施設等の措置が今少しく工夫されんことを望むのであります。ことに畜産物の価格を調節する制度がないことがはなはだ残念でございまして、これらにつきましては調節制度の工夫を願いたいと思うのであります。なお自給飼料施策につきましても、この際一般の御考慮が願いたいと思うのであります。こまかいことは省きます。  それからもう一、二項目申し上げておきたいのであります。預貯金の奨励のために預貯金の利子所得を免税とすることが本年も行われることになっておりますが、現在ではいわゆる隘路産業その他の施設等の投資増加し、資金需要増加しておるのでありますが、これに対応する貯蓄の増強は不十分であります。いわゆるオーバー・ローンの傾向が多いのであります。今回政府でお考えになっております一年以上の長期預貯金に対する免税は、これは一、二年行われました臨時措置法によりますものよりは少し範囲が後退いたしておるのでありますが、でき得れば現在程度の租税免除に対する措置は継続されれば、はなはだけっこうではないかと思うのでありまして、これによりまして現在における国民の勤勉心と節約心を刺激いたし、預貯金を奨励して、それが進みますことは、農村と都市とを問わず、はなはだ必要でありますし、ことに物価騰貴を押え、なお通貨価値の維持という点、予算の執行というような点からもごく大事なことではないかと思うのであります。  次に運賃値上げ問題についてちょっと申し上げたいのでありますが、これは運送の施設の充実をはかるために必要なことであるというのであればやむを得ないこともあろうと存じますが、農産物につきましては、その数量も多いし、その値上りをいたしますことは、あるいは農産物価の値上りになることもありますし、生産者の負担になることもありますので、値上げになりましても、遠距離輸送の取扱いの現在の程度は存続されますことと、農産物の運賃についての取扱いを一そう安い取扱い等級に整理していくというようなことがお考えを願えれば仕合せだと思うのであります。  それから食管の問題について一言申し上げてみたいと思います。予算の説明を拝見いたしますと、米の集荷は前年と同じく予約売り渡し制度を継続することになっておりまして、これは農業団体が要望いたしております予約売り渡し制を基調とする現行食糧管理制度を継続実施するということと全く一致するのでありまして、きわめてけっこうなことと存ずるのであります。もちろん予約制度を維持しますにつきましては、これに伴う予約売り渡しに対する免税措置でありますとか、あるいは前渡金の制度、予約価格差等を継続願いたいと申すことは当然であります。また予算の説明を拝見いたしますと、米麦買い入れ価格決定について現行方式によって算定することとなっておりまして、これもこのほかにやりようはないと思うのでありますが、その数字の取扱いにつきましては、今後十分御検討を願いまして、公正な価格を出すようにありたいと思います。なお消費価格の引き上げは行わないで現行通りとするという御説明も、現在の社会経済事情からまことに当を得たものであろうと考えます。  そこで一言意見がましいことを申し上げてみたいのでありますが、元来食糧管理は、供給不足に際しまして、消費者の保護を目的として実行され始めたものでありますが、当初実行のときには、生産者側といたしましては、自己の生産した米穀の自由処分を制限されましたので、反対が起きましたことは御承知の通りであります。しかしただいまでは施行後十数年を経まして、その制度にもなれ、かつ自由取引の機構というものも全然失われたのでありまして、ちょうど一昨年から行われました農家の自主性を尊重する予約売り渡し制度によって農家の気分も相当変りまして、ただいまでは、最初に申し上げましたように、予約売り渡し制度の継続を希望するようになっておるのであります。これはもっともと思うのであります。なお間接統制というものにしたらばどうかというような世論がときどきございます。間接統制としての米穀統制の目的は、生産者に対してはいわゆる価格支持の効果を持つことになると思うのでありますが、かような方法は、供給過剰の場合におきます数量調節の方法による価格調節の手段として行われるものでありまして、その結果、当然地域的な価格の相違、季節的な価格の変動というものは避けられませんで、ただいまのような年内を通じ、または年と年とを通じての安定ということは不十分になるということはもちろんであります。なお、これに要する財政負担は、過去の実績によって考えてみましても、相当多額に達すると思いますし、一朝供給不足の場合に食糧混乱等も起りますと、社会生活に非常な不安を与えるものと思うのであります。なお現在は、国内食糧は非常に不足でありまして、外国食糧の輸入によってこれを調節しておるということは、ここに繰り返して申し上げる必要もなかろうと思うのであります。  さようなわけでありまして、これらの希望を達し、またこれらの政策を十分実行されますために、農業団体の活動強化をはかっていただくということは特に必要と思います。それらにつきましては、ただいま審議の過程にあります再建整備奨励金の取扱いのことまことについては、もっと慎重なお考を願いたいと思いますし、また農業生産確保のため農業改良普及事業を一そう整備拡充されまして、農協の営農改善と十分な連係を保ち、強化措置を講ぜられることを私は希望いたしておるのであります。  はなはだ飛び飛びのことを申し上げましたが、気つきました点だけを申し上げまして御参考といたした次第でございます。(拍手)
  66. 山崎巖

    山崎委員長 荷見公述人の御発言に対しまして御質疑がございますればこれを許可いたします。
  67. 川俣清音

    ○川俣委員 荷見さんにごく要点だけ御意見をお伺いしたいと思います。今度政府に作ろうといたしております調査会に対する所見なんですが、前の農林大臣の河野君のときも農産物価格協議会か何かを作りましたし、たびたび農林省では食管制度に関係するような調査会が作ってありますが、いずれも結論は大体似たようなものになっているわけであります。今度集められる人人も、大体前に関係したような人が主はなるのではないかと思うのです。そうしますと、結論は大体前と同じような抽象的なことになるのではないか。もっと具体的に掘り下げるということになると、半年や一年ではなかなか結論は出ないのではないかと私ども想像するのです。前に関係しておられました荷見さんといたしましても、たびたび苦労されたことでありますから、大よその所見はお持ちだと思いますので、これについての御意見をお伺いいたしたいと思います。
  68. 荷見安

    ○荷見公述人 お尋ねでございますが、政府の方でいかなる方々で調査会をお作りになりますか、全然承知いたしておりませんので、何か御工夫があることと考えております。  今しばしば調査会等を設けても同じような結論ではないというお話でございましたが、まことに御指摘のように問題が非常に広範でございますので、大体の方針をきめるということは調査会としてはやむを得ない結果になるために、あのようになる、こう考えております。
  69. 川俣清音

    ○川俣委員 多年苦労された荷見さんでありますから、大体調査会の結論等については見通しがついておられることだと思います。しかし国会では今だいぶん非常にいい結論が得られるように思われている向きもありますので、お尋ねいたしたのでございます。  次にお尋ねいたしたいのは生産価格のことですが、価格の問題はあとに譲りまして、今御希望の出ました農業団体から希望の出ております予約制度を実施してほしいという点、政府もまた予約制度を従来通り実行しようといたしておるのであります。免税措置等についても議論がございますが、これは何とか解決するようでございますけれども、いまだにはっきりしておりませんのは、予約較差と申しますか、奨励金としてこの制度運用の妙味であります点が明確ではないのです。むしろこれは欠除しておると見てもよろしいと思うのですが、このままではおそらく農業団体も御不満ではないかと思います。どうでございますか。
  70. 荷見安

    ○荷見公述人 予約較差の問題につきましては、ただいまも申し上げましたように、農業者側では従来通りのお取扱いを願いたいということが意見としてきまっておるのでありまして、さだめしそのようなお取扱いを願われるのではないかと想像いたしているわけであります。
  71. 川俣清音

    ○川俣委員 そうすると多大の期待をかけておる、こう了承してよろしいですね。  今度の予算米価から見ますと、一万十三円と出して、一万円に切り下げておりますが、この中には予約較差が入っていないことは御承知だと思います。これに予約較差が入り、さらに歩減り較差が入る、あるいは前年同様の季節較差というものも石当り二百十円ということになりますと、昨年の一万七十円をはるかに突破することになると思うのであります。農業団体ではいまだに生産価格について意見を出しておられませんが、いつごろ農民団体の意向としてお出しになる用意がございましょうか、この点をお尋ねいたしたいのです、
  72. 荷見安

    ○荷見公述人 米価の決定は、五月ごろにはおきめになることと思いますが、本年度生産の模様は、ただいまでははなはだ判明しがたいのでありまして、これから田を起しましたり、種をまきましたり、いろいろな模様も調べつつ参りまして、そういうものを見合わして米価決定が審議会等で審議されますころには、そちらへ申し入れたいと思っておる次第であります。
  73. 川俣清音

    ○川俣委員 次に、国民所得の中に占める農業者の所得の問題ですが、企画庁の見込みでは、農業所得は去年より少し上昇するであろう、大体横ばいであろうという見方をしているわけです。しかも消費物価が横ばいである、農産物価も大体横ばいである、こういうことになって、しかも農業所得がふえるということになると、農業所得の大宗を占めまする米麦の価格が幾らか上ると見込まなければ、農業所得がふえると見られないと思うのであります。ところが一方は平年作だと見ているのでありまするから、そこでもしも農業所得を昨年通り確保することになりますと、平年作と見られまする政府の予定しております六千百万石を達成するには、二年豊作のあとでありまして、しかも気象台の長期予報は、ことしはあまり芳ばしくない予想を立てておりますときに、六千七百万石を維持すること自体が、非常に困難ではないかと思われるのであります。政府としてやり得るのは、天候を支配する力はおそらくどんな政府でもないのですから、もしも農業所得を確保して、工業の購買力を維持するということになりますと、価格の面で施策をとっていかなければならぬ。平年作は、これは予定ですけれども、政府のいかんともしがたいところ、しかも長期予報が非常に悪いのでありますから、平年作を下るのではないか。しかしながらそこに農業団体なり、農民団体が非常な努力を払い、その下に価格政策が加わらないというと、全体の農業所得を維持することは困難ではないかと思われますので、価格問題は今年は重大だと農業国体はお考えになっておりませんかどうか、この点をお尋ねいたします。
  74. 荷見安

    ○荷見公述人 私ども、毎年川俣先生から御指導で、非常に重要に考えておるのでありまして、本年もお話のように経済界の変動もございましょうし、非常に大切だと考えておる次第であります。
  75. 川俣清音

    ○川俣委員 もう一点だけお尋ねいたします。先ほど土地改良の問題についてお話になりましたが、今度の特別会計というものを非常に賞賛しておられるようですけれども、これは抽象的には賞賛に価する部分もないではないと私も見ておりますが、しかし理論的根拠がすこぶる明確ではないのです。と申しますのは、すでに土地改良事業に灌漑、排水または干拓等に事業をいたしましてから、いまだに完成を見ない点が非常に多いし、しかも残余工事が非常に残っておるのであります。灌漑、排水にいたしまして十三年ですか、あるいは干拓になりますと十数年なお残余期間を残しておるわけです。工事に着手するときは少くとも五年計画か七年計画で始めたものでありますから、今日まで残されている被害は、国としても甚大であろうし、地方団体も甚大であろうし、農業団体もおくれたための被害は非常に大きいと私どもは見ておるのですが、この点はどうでしょうか。
  76. 荷見安

    ○荷見公述人 私は今度の特定地区の土地改良工事を特別会計でおやりになる、しかも国の財政で負担しますほかに、ほかからの繰入金もあって、事業分量が増加できるということにつきましては、大へんけっこうだと考えたわけであります。ただしそのあとすぐ述べました意見は、あなたの御意見と同じような点が多いのでありまして、この際一歩を進めて、食糧増産促進法のような制度にまだあれが発展されまして、そして一年の工事期間をごく一年の小部分に限ることなしに集中してやりますと、資本の効率も非常に増すわけでありますから、特別会計法などを御審議になる際にそういうこともできますようになれば、大へん仕合せだという感じを申し上げたわけであります。
  77. 川俣清音

    ○川俣委員 そこでもう一つこれに関連してお伺いいたしたいのです、ところが政府の説明によりますと、今度の土地改良特別会計によりますと、非常に利益を多く受けるのだ、従来の受益者たる農民または地方団体よりも今度は非常に多く利益を受けるのだ、その利益の受け方は、今までおくれておるのは当りまえとして、それよりも早く竣工できるのだから負担を増してもいいじゃないか、こういう考え方なんです。ところが先ほどお尋ねしたように、今までおくれたことが非常に損害であったということを認めないで、その責任を転嫁して、それが普通であるから、普通よりも早くできるのであるから、利益が多いから、地元負担なりあるいは農民が負担せよということになりますと、農地法にも抵触いたしまするし、従来の土地改良をいたしました農業政策とも反する結果が出てくる。被害が非常に多かったのは当りまえである、これは非常によくできるのだから、その分だけ利益だと見る点について問題があると見ておるのです。この点について一つ伺いたい。
  78. 荷見安

    ○荷見公述人 これまでも私どもは重点的施行を希望いたしておりましたが、これは財政その他の社会情勢の結果やむを得なかった仕事であると思うのでありますが、私のけっこうだと申し上げるのは、今回かような制度がとにかく芽を出しまして、国の財政支出するものより以上の資金をこれに加えて、仕事が早くできるということになりましたことは、客観的に見て一つの進歩であると考えますので、それはけっこうだと感じておるわけでございます。
  79. 周東英雄

    ○周東委員 一、二お尋ねしたいと思います。まず第一にただいまの土地改良についての特別会計の問題は、今荷見公述人も申されるように一つの進歩だと思うのであります。これはかつてアメリカの占領下にありましたときに、今川俣君もお話しになったように、土地改良というものは、それだけ土地の生産力を上げて増産できるのだから、借入金でやってもいいじゃないか、それで利益をとれるようにしたらいいじゃないかというずいぶん乱暴な意見を、アメリカの方で言っておりました。私も当時関係者として、それはアメリカのような資本農家であり、ことに低金利、無利子の金が相当あり、また金利がつきましても三分五厘前後、しもかそれが据置き三年の償還期限十五年ということであるならば、われわれはその一部を補助金で、あとを地元負担でやるよりはよほどいいので、そういうことにしてくれるならば無利子の金だから、大いにやろうと言うたことはありました。しかしその当時は一割五分とか二割の金でしたからいけません。私どもは新しく政府がやりました今度の問題につきまして一歩前進だというのは、すべて補助金だけでいくということでなくて、ある場合においては特別会計によって資金運用部の金が安く出るということであれば、そういう形も一つ作っておくことがよろしいのじゃないか、ただ常に補助金だけで解決するということは、全額補助ならばよいのでありますが、一部補助であって他が地元負担ということになれば、安く金が出るような一つの制度がほしいということでありましたので、そこを政府は思い切って踏み切ったのだと思います。この点においては私賛成でありますが、今後の運用の問題については、いかに安い金が出るかということと、それに関する条件がどうなるかということであろうと思います。これについては私どもぜひ努力したいと思いますが、私のお尋ねしたいのは、土地改良等に関連しての自給飼料の問題です。先ほども公述人から、畜産奨励に関しては何としても自給飼料の問題が解決されなければならない、これに対して今度の予算は多少不満であるというようなお話でありましたが、この点については私ども非常に悩みを持っておるわけであります。一体どうしたらこの自給飼料の増産ができると農業団体の方においてはお考えになっておるか、そういう点について御意見をお聞きしたいのであります。  あなたはたしか食生活改善協会というものを御主宰なさっておると思います。あくまでも日本の食糧というものは米麦中心のものでなくて、あるいはパン食でもよいように持っていかなければならぬ、そうなれば相当に自給度が向上するといいますか、食糧自給に貢献する余地があるという立場に立っておることは、私どもも同感でありますが、しかしそれも、ハンだけ食っておってもどうにもならないのであって、そこにどうしても畜産物、魚類をよけい食べるようにしなければならないのに、日本の畜産物の値が高いというところに悩みがあると思うのであります。これをいかにして安くするかという大きな点は、何といっても自給飼料の増産でなければならないと思います。先ほどその点は時間がないのでお控えになりましたが、むしろ自給飼料の増産が中心になるというあなたの御意見はまことに賛成でありますが、どういうふうなお考えをお持ちになっておるか、お伺いしたいと思います
  80. 荷見安

    ○荷見公述人 先ほどいろいろ供述いたしたのでありますが、自給飼料の増産の問題につきましては、一つは土地の開発に関係があると思います。従来できるだけ耕地の開発については、水田等についても努力して参られたと思うのでありますが、現今の状況を見ますと、開発する土地のおよそ四分の三くらいは畑地でありまして、水田は日本の水利の関係上開発が非常に困難であります。従ってこの畑地の経営というものをうまくいたしませんければ、食糧増産の施策が伸びない。畑地を経営いたしますについては、有畜農業とも関連いたしておるのでございます。そこで飼料を作る方法を考えなければいけないのでありまして、一番具体的な問題といたしましては、採種事業の整備ということに努力をするということが第一であります。それから草地経営方式を確立いたしますことが第二、それから飼料作物の輪作体系を十分に調査いたしまして、それに着手するというようなことでありまして、畑地の拡張と相並んで参りますと、日本の畜産は、まだまだ非常に発展の余地があると思います。また、それが直ちに農家の収益も増し、国民の栄養給源としての増加もできるということになりますから、ぜひさような方面にもお考え願いたいというふうに考えておるのであります。また先ほど一言申し上げましたが、いわゆる農業改良普及員のようなものも、そちらの方に働けるように少し整備していただきまして、農業団体等と密接な連絡をとって調整いたしますれば、比較的多額の経費と要しないで、そちらの面が非常に開発されるのではないか、かように考えております。
  81. 周東英雄

    ○周東委員 もう一点お伺いします。ただいまの御意見は、従来からそういう意見を述べておられますから、その点は賛成でありますが、基本的には、日本が今後食生活の改善をする、しかも相当に大きく畜産を取り入れる、それは畜産物を食うということでありましょうが、それをするためには、自給飼料の増産をやるについてただいまのような草地の改良とか、あるいは採草地の共同経営ということが必要であります。また国有林原野の開放ということも必要だと思いますが、根本は、農業団体が農家指導の立場において従来は畑地あるいは田ですか、この増田開畑ということで、でき上ったものには常に人間の食うものを、まず植えなければならぬという立場に立ってきておったと思います。これは明らかに米の価格の方が高くて、飼料というものをどういうふうに作るか、それによって収入が減るという問題がありますから、もちろんこの問題に関連はありますけれども、やはり人間の食う米、麦だけを作るというのではなくて、たとえば土地改良によってある土地の収量が一割ふえた、あるいは二割ふえたという場合においては、従来の八割の土地において、従来の米麦をとって、あとの二割は一初めから飼料作物を植えるというような指導はできないものか。ここに自給飼料というものの大きな見地があるのではないかと私は思います。これは何としてもむずかしい問題だと思います。農家というものに対する収入との関係がありますが、もし酪農関係で乳を売った、あるいは豚を作って売る。その飼料というものを自分の畑地で作ってそれを食べさせ、飼料というものをほとんど負わないで済ましていくことによって、豚肉を高く売り、乳を高く売るという収入面から考えて別個の方法をとらなくてはならないのではないか。こういう指導について大きな見地に立って飼料自給策というものを考えなければいけないと思う。農家の指導の上に立っての中央会でありますから、そういう問題についてはどういうふうにお考えになりますか、重ねてもう一点お伺いいたします。
  82. 荷見安

    ○荷見公述人 お話しのような点はごもっともでありまして、最近いろいろ総合経営計画を農協として指導することを研究していますが、各団体ができ得れば畜産部のようなものでも作って、そららの方の改良に尽していこう、ただいまお話しのありましたような自給飼料を作りまして、これによって有畜農家の基礎を立て、食生活が改善され、あるいは農家の収益を有益にしようということを考えておるわけでありますので、そのことを申し上げておきます。  先ほどちょっと取り残しましたが、今後の御研究の問題として家畜の問題につきまして、飼料自給安定法というものが食管会計の中にありまして、あの運用は私初めから関与しておりますが、なかなかむずかしいのでありまして、もしも御研究の結果、将来できますればああいう特別会計は、独立して弾力性をもって働けるように御研究が願えれば仕合せかと思いますので、この機会に申し上げておきます。
  83. 山崎巖

    山崎委員長 他に御質疑がなければ、荷見公述人に対する質疑はこれをもって終了いたしました。まことにありがとうございました。(拍手)  それでは明日は本日に引き続き午前十時より公聴会を開催することといたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後三時五十四分散会