○
土屋公述人 衆議院におきまして、
明年度予算案に対する私見を述べることができますことは非常に光栄に思います。
私は三点について
意見を申し上げたいと思います。
第一点は
財政政策の
基本的考え方であります。今回の
予算案を拝見しますと、
一般会計は一兆一千三百七十四億円、
財政投融資は三千二百五十億円となっておりまして、それぞれかなりの
膨張であります。すなわち
一般会計においては一千二十億円、
財政投融資においては六百八十億円、合計して一千七百億円の
増加になっております。その
財源は
経済の
発展に伴う
自然増収に求められておりまして、それ
自体決して不健全なる
財源ということはできません。従って
財政が
収支均衡であれば、一応健全な
予算だということが言えると思います。特にこの
予算において、
経済界の
情勢に対処するために、
経済基盤の
強化のために意を用いておるということは、注目されるべき特色だと考えます。そこでこの
予算案が一応
収支均衡の
健全予算だという形をとっておりますが、少しく
財政政策の
あり方としての問題を拾って考えてみますと、過去二
年間は
予算は
収支均衡であるばかりでなく、かなり中立的な
予算でありました。そしてまたそれに成功いたしました。この二
年間世界景気が異常な
上昇過程にありましたそのときに、
予算が中立的に組まれておったので、この
世界景気の波に乗ることができまして、
日本経済は現在異常な
好況に恵まれるという
事態になっております、こういう
経済が好調の
発展にあるときにおいては、
基本的な
考え方といたしまして、
財政面から
経済に対して与える刺激を少くする、いわば
好況に追い打ちをかけるような形にならない方が、
財政の
あり方としては一番賢明なのではないかと私は考えます。しかもこの
世界経済の
状況を見ますと、過去二
年間の異常な
景気上昇が多少変化しつつあるやに考えられます。すなわち今までの
好況状態からかなり
波乱含みの
情勢に入りつつある、これが急激に下降するとは考えられませんが、少くとも異常な
上昇は一応
限界点に到達しているように考えられる。最も注目すべきは米国の
景気動向でありますが、
アメリカの
景気を昨年来ささえて参りました
投資景気も、本年の第二・四半期が頂点であって、七月以降、すなわち
下半期においてはこれが低調化するということは、ほぼ定説になってきており、その
投資景気の低下に伴う
景気の後退についての
警戒論が、
アメリカ内部におきましてもかなり強くなっているような
情勢であります。またヨーロッパにおいては
イギリスが注目されますが、
イギリスは
スエズの
影響もありまして、先般来
公定歩合の
引き下げを行いました。
公定歩合の
引き下げを行うということ
自体が、すでに
英国経済がかなり不況の
過程に入りつつあるその対処ということが考えられている
証拠だと考えられます。このように
英米経済の
動向を見ましても、
世界景気の基調に今までと違った
証拠が現われてきておる。こういう
情勢であるだけに、
日本の
経済特に
財政の
あり方というものは慎重を期する必要があるように思うのであります。従ってこういう場合には、
経済が
発展して
自然増収が出たからといって、一挙に
財政を大幅に拡大することについては、できるだけ控え目にする方が望ましいように考えられる。現に今審議されようとしておる
アメリカの
予算案を見ましても、二十億ドルの超
均衡予算を組んで、
国債償還に充てるというような処置をとっておる。ドイツは引き続いてやはり超
均衡の
予算を組んでおり、
歳入超過分を積み立てているというような
状況であります。そこで
わが国においても、
考え方としては
歳入があるからそれを全部使うといってしまうのではなくて、その場合にとり得る方策が二つあると思うのです。
一つは
アメリカのように超
均衡の
予算を組むか、あるいは
自然増収の
見積りを大幅に見ないで、結果において
自然増収を
歳入超過として出すか、そういう道が
一つ、それから第二のやり方は
歳入が多い場合においてそれを
減税に振り向ける、すなわち今度の一千億
減税をさらに上回る大幅の
減税をするか、この二つの道があるように思われるのであります。
まず最初の超
均衡の
予算を組んで、
公債償還に充てるかという問題でありますが、これも
一つの
考え方と思いますけれども、必ずしも今
国債償還を無理にしなければならぬということも考えられません。それでは
自然増収の
見積りを、意識的にと申しては語弊がありますが、ある
程度控え目にして、
自然増収を結果として
歳入超過の形にするかという問題でありますが、これをいたしますと、その結果
経済界においては
金融が締って参りましてオーバー・ローンになるというところに問題がございます。現に本
年度においても
歳入の
揚超、
財政の
揚超が非常に
増大したために、結果的にかなり
金融が締ってきておる。そして
日銀貸し出しが
増加しておるという形をとっておる。これを再現するということも必ずしも適当な策とは考えられない。そうしますと
歳入が非常に多く、
自然増収が多いという場合においては、一千億
減税より以上の
減税を行なって、
歳出の
規模の
増大に充てるということを避けた方が、一番いいように私には思われます。先般の
税制調査会の
答申におきましても一千億の
所得税減税は、一千億の
自然増収が
明年度においてあるということを前提にしての
答申であります。それ以上の
自然増収のある場合においては
法人税の
減税を行うべきだ、
中央、
地方を通じまして二百五十億円
程度の
法人税の
減税を行うべきだという
答申をいたしております。私は
歳出の
増加に振り向けるよりは、むしろこの際においては
減税の幅を大きくするということを考えるべきだというように考えます。また
財政投融資の
財源が
増大しておるという場合においては
財政投融資の
規模を一挙に大きくしないで、できるだけ
公募債等が
民間の負担になるのを減らして、
民間の
資金活用によって事業をなし得る幅を大きくする方が適当だというように考えるのであります。この点考えられますのは、二十八
年度の
予算案であります、私も二十八
年度の
予算の
公聴会にもやはり
出席した記憶があります。今になって考えてみますと、二十八
年度の
予算案か二十九
年度において激烈な
デフレを経験せざるを得なかった大きな
原因になっておる。当時は
世界景気がなお持続する、多少くずれて参りましたけれども、なお持続するという
考え方で、かなり
一般予算においても
財政投融資においても拡大いたしました。ところが
朝鮮動乱が二十八年の七月に終ったというような予想できない
事態も加わりまして、
世界景気が二十八年の
下半期において下降いたしました。そうしますと
日本の
経済の
膨張が特に
財政の
膨張がきっかけになって
インフレ的になってきた。しかも
世界景気が下降するというので、そのすれ違いのために、
国際収支の
赤字が
増大する、これには凶作による
食糧輸入の追加という問題もありましたが、構造的には今申し上げましたように、
日本の
経済の
あり方特に
財政の
あり方、
世界景気の食い違いということが二十八
年度の
事態を引き起し、その後の
デフレ経済を招かざるを得なかった大きな理由だと考えられる。今日二十八
年度と全く同じだとは私も考えません。しかし今申しましたように、
日本経済が非常な
好景気状態にある。しかも
世界景気の前途について多少の不安が感ぜられるということでありますれば、
財政の
基本の
考え方としては、
自然増収があるから、全部それを
歳出増加あるいは
財政投融資の
増加に振り向けるというのではなく、もっと慎重を期すべきではないかというように考えるのであります。
第二に申し上げたい点は、この
予算が
インフレをもたらすかどうかという点であります。これが今日
世間も一番注目している点だと思います。先ほど申しましたように
予算自体は
収支均衡しておる、しかも健全な
財源に依存しておりますから、私は
インフレ予算だとは申しません。これは
健全財政だということができると思うのであります、しかしこれが
経済にもたらす
影響が、中立的なのか、あるいは
インフレ的なのかという問題は、
予算自体の形式的な
あり方は別として、別個に検討しなければならぬ点だと思います。この点について
政府当局は
インフレをもたらすおそれはないということを強く言い切っております。ところが
世間一般には逆にまた
インフレが今にも起るのではないかというような不安が強いのでありまして、両極端の対照を見せております。私はこの
世間の
インフレが起るのではないかということには、かなり思い過ごしもあるし、
誤解もあるので、そういう
インフレ不安がかえって、悪い
事態を起すので、そういう
誤解は除かなければならないと思いますが、同時に
政府があまりに
インフレにはならないというふうに安易に言い切ることも逆
効果をもたらす。真理はその
両方の中間にあるのではないかと思います。現在この
予算の結果として
インフレが生ずるかどうかということを検討する場合、問題になるのは、
投資インフレと
消費インフレと、それから
コスト・
インフレと、この三つの
要因だろうと思います。まず第一の問題は
投資インフレでありまして、これが私は一番
心配の点であります。今度の
予算においては
財政投融資が約七百億円ふくらんでおる。
一般会計の
投資的部面も数百億円の
膨張である。それから
国鉄等の
設備投資も五百億円以上ふえておる。
財政全体の
投資需要というものは、結局二〇%以上ふえておるというように考えられる。もちろんこの
投資というものは、
民間の
投資が金額としては大きいので、それと一体にして考えなければならないのでありますが、
民間の
投資はどうかと申しますと、昨年夏以来
設備投資がきわめて盛んになりまして、本
年度において約六千億円
内外、それから三十二
年度においては六千五百億円ないし七千億円、すなわち一五%
内外の
設備投資の
増加が見込まれている
状況であります。そうしますと、
財政において二〇%、
民間投資において一五%の
増加ということになりますと、
財政並びに
民間両方の
投資需要がかなり多くなるということが予想される。もちろん
投資需要が
財政、
民間を問わず盛んであるということは
経済発展の
証拠であって、それ
自体は必ずしも悪いことではないし、むしろ
経済基盤の
強化をしなければならないとか、あるいは
外国に対抗して
設備の
近代化を行なって、
輸出発展の
基礎を作らなければならないということを考えますと、
投資意欲が強いということは決して悪いこととは言えないと思うのです。しかしそれにもかかわらず、その
投資需要が
経済の
規模、あるいは
生産力を上回るような
程度に達するときには、それがいわゆる
投資インフレを招く、つまり総
需要と総
供給との関係におきまして
インフレ的な傾向が生ずる
懸念が強いのでありまして、それで今の
投資需要が
財政が二割、
民間投資が一割五分という形でふえていく。それに伴う
投資の
乗数効果を考えた場合において、果して全体として
需給の
バランスがとれるかどうか、この点がもっと検討されなければならない点であります。特に総
供給と総
需要に大きく
影響するのでありますが、現在の
経済基盤を
強化して、険路の
打開をやるために
投資を行う。ところがそのための
投資がまた
隘路自体をさらに隘路化する、こういう循環が起ろうとしておる。すなわち
鉄鋼、
電力、
輸送力この
強化をやろうとすると、また
鉄鋼、
電力、
輸送力が三十二
年度において足らなくなる。それに加えて最近は
石炭並びに
機械というものも
隘路物資になろうとしておる、こういう
情勢であります。このうち
電力と
輸送力は
外国から
輸入ができないものであります。しかし同時にその
価格は公定といってはなんでありますが、
価格は一定に定められておりますので、
需給のアン
バランスが起ってもそれ
自体の
価格は
騰貴しない。
騰貴はしないが、しかし
電力、
輸送力が足りなくなれば
生産制限とか、あるいは
輸送制限とかいう形で直接間接に
生産に障害を及ぼす、あるいは
物価に響くという現象を招くおそれがございます。また
鉄鋼、
石炭、
機械等の
隘路物資は不足する場合は
外国から
輸入できる建前でありますが、
輸入できるといっても、果して
鉄鋼のごとき
適時に必要な量が
輸入できるかどうかが問題である。現に三十一
年度においても百万トンの
輸入を考えながら四十五万トン
程度しか
輸入できないような
情勢で、それが
鉄鋼価格の暴騰をもたらしたというような事例がある。
明年度においても
鉄鋼は本
年度の八百五十万トンに対しまして一千万トン
内外の
需要だと見られる。そうしますと
輸入は百万トンくらいに達するでしょうし、
生産もまた百万トン近く、七、八十万トンの
増産をやらなければならない。そうしますとその
増産に必要な鉱石なり、くず鉄なりが果して
適時に
確保できるかどうか、これが大きな問題であるばかりではなく、それだけの
増大した
輸入が、今の
国際情勢のもとで果して円滑になし得るかどうかが問題である。ということになりますと、こういう
隘路物資の
輸入ということも、
一つの対策ではありますが、それがうまくいくかいかないかによりましては、やはりこれが
需給に
影響する。そうして
基礎物資であるだけに、それが全体の
生産並びに
物価に対する
影響というものは相当重要なものがあるのじゃないかというふうに考えられます。
こういうふうに
財政並びに
民間の
投資需要が私は大き過ぎると思う。それに一体どう対処したらいいかという問題になりますと、私はこの総
需要と総
供給とを
バランスさせるためには、やはり
財政投融資の
規模を
圧縮することが必要だと思う。しかも隘路の
打開に重点を置かなければならないとすれば、できるだけ
隘路以外の他の
部面については、より一そうの
圧縮をやらなければならない。そのためには
財政投融資の
圧縮はもちろんとして、時期別の
実行計画の作成というようなことも必要だと思います。しかも
財政においてそれだけの
調整を加えるばかりではなく、結局
財政、
民間の
両方の
投資需要が競合するわけですから、
民間投資についても
調整を行うことが重要である。これが三十二
年度の最大の
課題ではないか。すなわち
金融において
一般的に引締め
政策を
強化する必要があるとともに、不急不要の融資を押えて、その選別を行うということが大きな
課題になって参ります。要するに
財政金融の
両面から、
投資需要については総
供給と総
需要との
バランスをくずさないような
配慮をしていくということが必要だと考えます。三十一
年度においても
わが国の
卸売物価は八%ないし一〇%くらい
騰貴しております。
インフレでない、
インフレでないといいながら
卸売物価が、すでに一割近く上っているということは
現実なんです、この
卸売物価の
騰貴というのは
外国に比べましても非常に高いです。
イギリス、
アメリカ等の例を見ましても
日本よりは低いのです、
日本が今
インフレでない、
インフレでないといいながら
卸売物価が八%上っているということは、私はすでに
投資インフレというものが現われつつあるのだと言っていいと思います。もちろんこの八%の
騰貴には
スエズの問題の
影響とか、特殊の
原因もありましょうが、やはり根本的には私は
投資インフレがすでに現われてきておるのだ、それに帰すべき部分が相当多いのだと考えるのでありまして、だからこのままの
財政投資並びに
民間投資の
状況でいっても、それは
インフレにならないのだということは、すでにもう
現実の
事態において、やはり慎重に反省せざるを得ないような
状態になっているように思うのであります。
第二の
インフレの問題として
消費インフレになるかどうかということであります。
世間では、この
投資インフレよりは、むしろ
消費インフレの方を気にしているようであります。すなわち今度の
予算案におきましては、
減税を一千億円行う。このうち
幾ら消費購買力がふえるかは問題でありますが、一応
税制調査会においては七百億円くらいが
消費購買力に向う。それが
年間においてどれだけの
消費購買力の増になるかというと、一千五十億円の
消費増という算定をいたしております。こういう
減税に加えまして、今回の
予算、特に
一般会計においてはかなり
消費的経費の
増加が目立っております。すなわち
給与費において百五十六億円、
恩給費において八十六億円、
社会保障費において九十一億円等の
増加が見られる。これはもちろん必要なものも多いと思うのでありますが、
給与費については
地方財政に対する
はね返り等も考慮しますと、なおその全体の
中央地方を通じた
消費的な
財政支出の
増大というものは相当大きい。結局こういう
支出が七百億円以上の
増加になると見られる。それがもたらすこの
乗数効果による
消費購買力の増が、やはり一千億
出程度であります。そうしますと
減税並びに
給与費等の
増加による
消費購買力の全体が、この
財政の結果
増大するのは、
年間二千億円を下らないものと考えられるのであります。これが果して
消費インフレになるかどうかという問題でありますが、私はその
懸念は少い。その点については私はそれほど
心配はいたしておりません。もちろんこれは
貯蓄を今後も奨励していくことが必要だと思いますけれども、根本的には現在
消費財の
生産能力というものがかなりゆとりを持っておる。しかも
消費財の
在庫が多いのでありますから、
消費購買力が
消費を
増加しても、すぐにそれが
消費インフレ的に
影響はもたらさないと考えられる。かなりこの
在庫並びに
生産が追いつかなくなっても、
生産能力、
キャパシティそのものは余っておりますから、
原材料を
輸入すれば、その結果として
供給量をふやすことができるということになりますと、結局それは
国際収支においては
原材料の
輸入という面で、
一つの
赤字要因にはなりますけれども、
インフレ要因にはならないということが考えられる。ただしこの
消費性向が急激に変動する場合においては、もちろんこれは相当
警戒をしなければならないのであります。しかし現在のところ
消費性向は比較的安定しておる。その他の
投資インフレ等の
要因が激化しない限りは、
消費性向はまずくずれないということが考えられる。従って
消費インフレについては、今後
貯蓄の奨励に意を用い、しかも
消費財の
供給確保について、
国内生産並びに
外貨予算等の
配慮を適切に行なっていけば、
消費インフレになる
懸念は少いというふうに考えます。
それから第三点は、
コスト・
インフレ問題であります。
コスト・
インフレという言葉は必ずしも適切とは思いませんが、これは
国鉄運賃の
値上げ、あるいはどうなのかわかりませんが、
米価の
値上げ等が起った場合、それが賃金あるいは
運賃の値上りを通じて
商品コストに
影響して、それが循環的にこの
プライス・
インフレーションを招くのではないか、こういう
一般の不安であります。つまり
運賃だけに限っていえば、
国鉄運賃が上れば、たちまち、これが
商品コストに響いて、結局全体の
物価水準に
影響しないかという、こういう問題、これが
コスト・
インフレであります。私はこの点は心理的な
影響はかなり国民にあると思う。つまり
米価が上る。上るかどうかは別として、上ると言ったり、あるいは
運賃が上るといえば、それがすぐに
インフレーションになるのじゃないか、こういうふうに心理的には考えると思いますが、しかし理論的には、
運賃の
値上げ並びに
米価の
値上げというものは
デフレ要因でありまして、
インフレ要因とは考えられない。
財政金融の
基本がゆるまないでおれば、
米価並びに
運賃という形で、
民間の
購買力を強制的に吸収するということは、
デフレ要因にこそなれ、
インフレ要因にはならないと考えます。特に
運賃でありますが、
運賃については、先般の
昭和二十七年の一割
値上げの例を私は
国鉄経営調査会において調べたことがございますけれども、それは
石炭とか木材とか、個々の
コストにはかなり
影響しますが、全体の
物価水準にはほとんど一割
値上げの
影響というものは認められなかったということを、その当時確認いたしました。今回の一割三分の
値上げについても、
経済の各段階において、それは
コストの中に吸収される。もちろん
企業努力に待つべき面が多いと思いますが、
運賃コストが上ったから、ずるずると
プライス、
価格が上って、そうして
価格インフレになるというふうに考えることはできない。従って
コスト・
インフレの
可能性は必ずしも大きくないように思います。そうしますと、結局この
インフレになるかならぬかというのは、
消費インフレとか
コスト・
インフレの問題はないので、
投資インフレが起るかどうか、こういうことにしぼられてくると思うのであります。この点は先ほど申しましたように、すでに三十一
年度においても
卸売価格の
上昇の主たる
原因になっておる三十二
年度においてさらにこの
財政並びに
民間の
投資需要が
増大する場合においては、総
供給と総
需要の
バランスがくずれないとは決していえない。しかも
隘路物資の
確保において非常の問題がある。私はこの点について先ほど申しましたように、
財政、
金融の
両面にわたって、あらかじめ十分の手を打っておくことが一番いいのではないかというふうに考えます。
第三に私が申し上げたい点は、
国際収支の見通しをどう考えるかということでございます。今回の
予算の前提になっておる
経済計画においては、輸出二十八億ドル、
輸入三十二億ドルといたしまして、貿易外を加えて、この
国際収支は五千万ドルの
赤字、大体収支とんとんというような想定になっておるのであります。ところがこの
国際収支の想定が妥当かどうか。いろいろの
意見がございまして、楽観論者は、収支とんとんじゃない、黒字が三億ドルも出るというようなことを言っておるし、悲観論者は、たとえば日銀あたりは収支とんとんどころか
赤字が三億ドルも出る。つまり黒字三億ドルから
赤字三億ドルまで約六億ドルの開きが、両極端の見解にはあるほど見方が違っておる。まことに珍しい
事態であります。私はこの
国際収支の見通しについては、輸出の二十八億ドルというのは、どうもあまりそれほど確信のある数字とは思われない。いろいろ輸出二十八億ドル説をとる方の
意見を聞いてみましても、去年が二〇%伸びたのだから、ことしは一五%くらいはいくだろうというだけのことでありまして、いかなる地域で、いかなる物資において、いかなる
情勢のもとに三億ドル以上の輸出の
増大が起るかということについては、あまり根拠のある議論を聞くことができない。もちろん三億ドルは、それはいくかもしれないですけれども、
世界経済の先ほど申しましたような基調の変化から考えまして、ここまでいくと考えない方が、まず穏当のように思われる。特にこの内需が
増大し——
消費インフレにならないまでも、
消費がふえ、あるいは
投資がふえて内需が
増大するということになると、それが輸出意欲の削減するということも考えられる。この点において、輸出の方は想定よりかなり低下する
可能性の方が強い。問題は
輸入でありまして、
輸入の三十二億ドルがもっとふえるか、あるいはもっと少くなるか、これによって
国際収支の見通しに大きな狂いが出てくるのであります。
輸入の見通しに大きな関係のあるのは
在庫の問題でありまして、三十一
年度、本
年度の
輸入に相当の異常
在庫が存在しておる、正常
在庫以外に、
スエズの問題その他にからんで異常な
在庫が存在しておる、異常
在庫分は、それだけ来
年度においては
輸入する必要がないから、
輸入は必ずしもそうふえないという説をとれば、これは黒字になるし、いや今の
投資並びに
消費の
動向から見ると、
在庫はそれほど異常という
程度に達していない、従ってこの基調のもとになお
輸入が
増大するということになれば、
輸入がもっとふえて
国際収支の
赤字が
増大する、こういう議論にもなってくる。この
在庫をどう見るかということについては、
わが国の
在庫統計がきわめて不備でありますので、的確な判断はどこにもできない。みんな群盲象をなでるような議論をいたしておるのです。しかし私は、今の
投資の
動向並びに
消費インフレを押えなければならない、そういう必然性等を考えますと、
輸入はやはり三十二億ドルという想定より、もっとふえる
可能性の方が強い、それを押えにかかると
インフレ的になる危険性がある、そうしますと、輸出が計画より多少減少し
輸入が計画より多少ふえるということになると、たちまち
国際収支には一億ドル
内外の
赤字が出る
可能性があるように思います。一月末の外貨が十三億五千五百万ドルになっておる。かなりあるように見えますけれども、このうち四億五千万ドル
内外は、
日本の各種の借り入の見返りになって使えない部分だと思われる。これを差し引きますと九億ドルしかない。しかも三十一
年度二十九億ドルの
輸入といたしまして、その一体何%が
輸入の運営のために必要な運転資金であるかと言いますと、まず
輸入の二〇%
内外というのが一応の常識だと考えます、そうしますと、これも五億ドルから六億ドル見当の運転資金が必要だということになってくる。そうしますと、九億ドルからそれだけ差し引くと、使い得る外貨はせいぜい四億ドルのうち二億ドルがかりに
赤字になるということになれば、三十二
年度において使い得る外貨は一億ドルくらいしかない。かなり窮屈になってくると思います。もちろん
国際収支は一年々々で区切って議論すべきものではありませんから、三十二
年度においてかりに
国際収支が多少悪くなっても、それ
自体をそう重視することはないのですが、しかしその傾向が三十三
年度においてさらに続く、あるいは
強化される方向にあるかどうか、この点が問題でありまして、今申しましたように、ずるずると輸出が伸びなくなり、
輸入がふえるというような基調の上にそういう
事態が現われるということであれば、相当
警戒する必要があると思う。従って三十二
年度の問題としては、絶えず
国際収支の
動向に注意を払いまして、その
国際収支の動きを検討しつつ、それに伴って
財政並びに
金融面から機に応じた
調整を加えることが必要であるように思われる。必要の場合には実行
予算を組むこともいいでしょうし、あるいは
財政投融資計画の繰り延べをやることもいいし、あるいは外貨
予算というものを絶えず時期別に検討していく必要があると考えられます。要するに、私はこういう
経済の
好況のときには、
財政の
基本の
考え方として、いい気にならないで、むしろ余力を残して慎重でいくのが妥当だと考える。不況のときにこれ、
財政が
調整的な、積極的な役割を果すべきであって、全体としてはこういうときには引き締めるくらいのつもりでいて、ちょうど、いいことになるのではないか。その意味においては、
明年度の
予算全体として
経済に対して
インフレ的とは考えないが、少々刺激が強いように思われる。これを純粋な形の中立くらいのところまで引き戻すということが、この際何よりも必要ではないかと思います。これをもって終ります。(拍手)