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千田正君 ただいま大臣から、このたびソ連に行かれまして、この北洋漁業の問題を十分先方に理解させ、そうして今後とも日ソ親善の基礎の上に立って、
日本の漁業の発展を期せられるために行かれると、まことにわれわれも双手をあげて
賛成するのであります。ということは、今までのソ連との各国の交渉を見まするというと、大体一国の首相あるいは主権者がみずから乗り込んで行ってソ連との間の交渉をされておる。たとえば英国のチャーチルにしてもその
通り、あるいはドイツのアデナウアーにしてもその
通り、国をあげてこの
アメリカの問題にしましても、ソ連の問題にしましても、その一国の首相なりその責任者が行って、全力をあげてこれに傾注して一応の妥結を見ておる。ところが残念ながら昨年の六月以来
日本の
政府としましては、全権を送ったけれども、ある意味において
政府を代表した鳩山首相でもなく、あるいは外務省代表である外交を担任の最高責任者であるところの外務大臣でもなかった。そうして結局日ソ間の交渉というものは途中において頓座した。一面この日ソ間の交渉が順調に運ぶものとして、
国内におけるところのいわゆる国際漁業である北洋漁業に対しましては、
河野農林大臣を初めとして業者もともども、ことしこそはさらに昨年よりも増大して漁撈ができるのだという意気込みをもって待機しておったにもかかわらず、ついに途中にしてこの日ソ交渉が決裂の状態に陥った。ただいま大臣が仰せられるように、もう明日にでも出航しなければならない
状況のもとにおるところの漁業者にとっては、現在こうして手をこまねいて、いつ果てるともわからないという
状況のもとにおるということはとても耐え忍ぶことができないことであります。このときに際しまして、農林省の担当所管大臣として、さらに
日本の外交のあるいは一端になるかもしれないところのこの漁業問題をひっさげてモスクワまで使いされるということは、まことに御苦労様でありまするが、こういうような時代にはとかくいろいろな非難やいろいろな攻撃を持って行かれる方がむしろかえって督励にもなり、あるいはかえって引きしまって堂々と交渉できるかもしれません。日露戦争の場合には御承知の
通り小村全権が国民の期待に十分沿えなかったと言うて焼打事件にされるほどの、いわゆる身を削りながらとにかく
日本の国政のためにあの外交交渉をされてきたということをわれわれが歴史上から見ましても、このたび
河野農林大臣は相当の御覚悟を持って行かれると思います。
そこで私は、参議院
農林水産委員会は、長い間この北洋漁業問題については何回となくこの
会議において論議もし、あるいは審議も尽したのであります。もうすでに審議し尽されたと思うほどでありまするが、残る問題はいかにして安全に操業ができるか、いかにして一日も早く漁民が待望するこの漁業に就業できるかと、この一点しかないのでありまして、この漁民の声ばかりじゃない、
日本の将来の北洋における国際漁業の確保ということと、またさらに
拡大すれば、ソ連との間の交渉がこれを契機としてさらに進んで握手ができるような段階に入るだろうと思いますので、特に私は御注文申し上げたい。ということは、私も先般
アメリカへ行って、この漁業問題等についていろいろ交渉した際におきましても、とにかく外国人は
日本の水産ということに対して認識が少いのでございます。ということは、
日本人は開闢以来
農業と漁業ということは国民生活に切っても切れないところの重大な産業であるにかかわらず、外国にとっては水産業などというものはほんの一部にしかすぎない。魚を食うなんということは一日のうちにも食うか食わないかで、いわゆる国の
政策から見ても百分の五くらいしか行政の指導をしておりません。おそらくソ連においても同じような
状況にあると思います。そういう国柄と、
日本のように
農業と漁業というものは国民の切り離すことのできないところの重大産業であると、民族の消長とともにこれは常に滅び常に生きなければならないところの産業であるということについては、おそらく海外に行った場合において、水産業が常にそういう点に向ってはまことに認識が外国は不足なのでありますので、この際特にこの北洋漁業は
日本の漁業にとっては、今日に至っては一千億以上を突破するくらいの用意をしなければできない
状況でありますので、どうか大臣はこの国民の総意をもって行かれるだけに真剣にこれに取り組んで、一日も早く安全操業ができるような妥結点を求めてきていただきたい。
もう一つは、先般ソ連側の発表によるというと、漁業
協定をした後でなければ制限措置を考慮しないということを声明しておるのです。漁業
協定なんというと、相当これは資料も十分ととのえなければならないし、それから交渉の期間も相当長引く、ところが実際においては明日にも出漁しなければならない段階でありますので、一体この点をどういうふうに交渉されるか、あるいはこの際これは公表することは外交折衝上うまくないとおっしゃるかもしれませんが、われわれは一日も早くはっきりしてもらいたいという点は、ソ連側のこの
協定後でなければ制限措置に対して考慮しない、こういう点が非常にわれわれとして深く考えられるのでありまして、制限措置はどの程度の制限措置をするか、この間発表されたような制限措置であったならば、とうていわれわれはこれをのむことはできない。この点のいわゆる
協定後でなければ制限措置をしない、あくまで
協定が先なんだ、こういう向うが言い方をしております。御承知の
通りソ連は外交においてはなかなか老獪な手段をとり、また端倪すべからざるところの手段を持っておるところの国でありますので、この際大臣としての、もしもこの点について触れても差しつかえないという点がありますならば、この際御所信を多少でもお漏らしになっていただきたい。われわれとしましては、一日もすゆやかに妥結の点を見出されて、そうして大臣が行っている間でも、漁民は明日からでも出漁して、もうすぐに網を手にするという意気を持っておりますので、そうした点の、安全弁に対するところの指導的な役割であるところの大臣としての、
国内の漁民に対する声を一声でもかけていって行くならば、どれほど彼らが勇気百倍して、あなたの今度の使いに対しての期待を持つであろうということを考えますときに、この際でありますので、一端を漏らしていただけばなお幸いと思います。とにかくわれわれの要望は一日もすゆやかに漁業ができるように、そうしてまた
日本の国力を落さずにやってくる、これはなかなか容易なわざではないと思います。しかし、一国の輿望をになって行かれる大臣でありまするから、単なる農林省の大臣というのみならず、
日本の国の代表としての責任を十分全うして来られることを特に要望いたしまして、先ほど申し上げました点だけをもしもお漏らし下さるならば幸いだと思います。
以上要望をかねて質問を申し上げます。