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1954-04-15 第19回国会 参議院 厚生委員会 第28号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年四月十五日(木曜日)    午後二時十一分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     上條 愛一君    理事            大谷 瑩潤君            常岡 一郎君            湯山  勇君    委員            高野 一夫君            西岡 ハル君            横山 フク君            廣瀬 久忠君            堂森 芳夫君            有馬 英二君   委員外議員            加藤シヅエ君   事務局側    常任委員会専門    員       草間 弘司君    常任委員会専門    員       多田 仁己君   参考人            マーガレツト            ・サンガー君    通     訳 村松  稔君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○社会保障制度に関する調査の件  (人口問題と受胎調節に関する件)   —————————————
  2. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 只今から厚生委員会を開きます。  社会保障制度に関する調査の一環として人口問題と受胎調節に関する件を議題にいたします。  本問題に関しましては、本日は特に世界的な権威を持つサンガー夫人の御出席をお願いいたしております。この機会に一言御挨拶を申上げます。  サンガー夫人には、今回来朝早々お疲れとお多忙の中をお繰合せを願いまして当委員会に御出席下さいまして、世界各国における人口問題と受胎調節実情について、貴重なる御高見を拝聴することのできますことは最も有意義と存じまして、委員会を代表しまして篤く御礼を申上げる次第であります。  御承知のごとく、日本は敗戦後この狭隘なる四つの島に八千七百余万の人口を有するのみでなく、毎年百二十万内外の人口が殖えつつありまして、人口問題は最も重要なる国策としての課題となつているのであります。幸いに、近来出生率は年々下つているのでありますが、併しこれは受胎調節によるというよりも、むしろ人口妊娠中絶の流行のためと考えられまして、母性の健康の上に好ましからざる現象と存ぜられるのであります。又、我が国における受胎調節は主として知識階級有産階級の間に行われておりまして、真実に受胎調節を必要とする労働階級、農民、中小商工業者等の間には、多く行われるに至つておらない実情であります。当委員会におきまするサンガー夫人お話が、私どもの人口問題に対する貴重なる参考となりますのみでなく、広く国民に対しましても受胎調節の必要と理解を深め、その実際方法具体策等について徹底せしめる一助となることができまするならば、誠に幸いと存じておる次第でありまするに幸いと存じておる次第でありまするので、何とぞよろしくお願いいたします。
  3. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 本日ここにお招きを受けまして、委員長先生初め皆様方の前で、この非常に重要な問題につきましてお話申上げ、更に又具体的な討論の機会を与えられましたことは、非常な喜びでありますと同時に、私にとつて無上の光栄でございます。  非常に重要な問題でございまして、私が成人になりましてから非常に長い間、この問題に一生を捧げて参りました。もう何年と申上げていいかわからないくらい長い間、この問題に私の心身を打ち込んで参つたわけであります。実際的な面及び教育の面から申上げますと、米国におきまするこの方面運動は、遠い昔即ち一九一四年に始まつたと申上げてよろしいと思います。但し一般人々のこの産児調節関係関心を喚び起すということが、現在のような場合にはかなりいろんな国で問題になつておりますが、アメリカの場合にはそういうことは特に必要でなかつた。と申します私の意味は、当時の米国人口という点では決して過剰ではなかつた、又近い将来に人口過剰というものの可能性があるという状態でもなかつたわけであります。併しながら現実におきましては、この一九一四年当時人工妊娠中絶というものが非常に広く行われておりまして、勿論これは法律的に申しまして合法的でないものもありますために、推測で数を申すわけでありますが、恐らく当時二百万以上の人工妊娠中絶アメリカ合衆国において行われておつたということが言われております。
  4. 上條愛一

    委員長上條愛一君) ちよつとお話の途中でありまするが、各委員に御了解を願いたいと思いまするが、時間の関係上、先ずサンガー夫人から世界人口問題と受胎調節状況についてのお話を承わり、その後に各委員から御質疑を願うことにいたしたいと存じます。なお本日は委員外議員の方からの発言申出があつた場合は、これが許可は委員長に御一任願いたいと存じますが御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 御異議なしと認めます。  それから本日の通訳といたしましては、いろいろ技術的のこともありまするし、学問的のこともありまするのでで、特に厚生技官村松博士を煩わすことにいたしましたので御了承を願います。  それではお話を続けて頂きます。
  6. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 従いまして、私にとつて非常に大きな興味でありますことは、現在の日本におきまするこの家族計画と申す仕事に対しまして非常に大きな関心が持たれておる。そのよつてつた原因が一九一四年当時のアメリカと同じく、人口妊娠中絶が非常に多い時代に直面して、こういう面の大きな関心がまき起されて来たという点は、私に非常に興味がある点であります。それで日本状態を、現在のところを私拝見いたしておりますと、これは非常に結構なことと存じますが、非常に立派な理路整然たる優生関係法律日本では持つておいでになるという点であります。アメリカにおきましては、当時入つて参ります外国からの移民ということに関しましての優生的な法律はございました。例えば悪い病気、伝染性の疾患でありますとか、或いは精神的に異常のある人であるとか、或いはその国にとつて不利益になるようなそういう障害を持つた人々を入れないようにするという意味での優生的な法律を持つておりました。日本の場合には国内にこれが適用されまするところの本当意味での優生という観点から、立派な法律的な政策を持つておいでになるわけであります。  当時この運動が始まりました米国におきましては、この問題に対する反対は非常に強かつたのであります。例えばピユーリタンと申しますか、その系統の人々の考えでは、性でありますとか或いは産児制限と申しますような、そういう自然の本能に関したことは一切口にすべきでない、公の席上はもとよりでありますが、個人的な場合におきましても滅多にそういうことを品にすべきではなく、品にすることは即ち淫わいなことだという観念が非常に強かつたのであります。こういうふうなピユーリタン的な意味での反対のほかに、更に又、合衆国の連邦政府の持つております法律並びに各州の持つております法律というものは、こういう仕事関係でいろいろな例えば書いたものでありますとか或いは文献、図表と申しますか、そういうようなものを郵便で送つたり或いは発表したりすることは犯罪になる、こういうことは医学に携る人でさえもしてはいけないということが規定されておりました。初めのうち少くとも十年間と申しますのは、我々がこの運動に携わりましてから、その運動本当意味しておるところを一般の人に知らせるのに非常に苦心を払つた時代でございます。歴史的に申しまして、バース・コントロールという言葉が現在でも盛んに使われておりますが、私自身この歴史的な言葉を作り上げたと申上げてもよろしいかと思います。今でもそういう言葉を言つておりますし、バース・コントロールという言葉はいい言葉だと思つております。但し、この言葉を使います場合の定義というものはかなりむずかしいわけでありまして、それを慎重に、本当意味するところはこうであるというふうに、人々教育する点に私最大努力を払つたわけであります。で、私の申しますこのバース・コントロールという言葉意味は、自覚的に出生率というものをコントロールするということでございます。特にこの際に注意いたしておりますことは、妊娠というものがあらかじめ起るのを防ぐということが趣旨であり、決してすでにできておるものを破壊する、壊すということではないという点が一つと、もう一つコントロールと申しますのは、英語で申しまするリミツト、即ち、制限をするという言葉と同じではない、即ち一人、二人で制限せよと申すことではないのでありまして、母親の健康と父親の経済的な能力というものとよく考え合せまして、自分たちに育てられるだけの子供の数を生むようにコントロールするという、この二つの点に注意を払つて参りました。  今申上げましたところが第一の我々の運動の幸福な面と申しますか、仕事をやつて参りますときに第一に申上げたい面でございます。  それから第二の点は、私自身が当時看護の方面に携わつておりまして、こういう運動を進めて参りますのには、全医学界というものが正しい認識を持たなければならないということを痛感いたしたわけであります。こういうふうにいたしまして全医学界というものが十分この問題に対して支援を与えてくれるように、そういうふうに導いて行くまでには、随分長い年月を要しました。例えばワシントンで、この方面努力いたしました約七年間これに費したのであります。その結果中央連邦政府法律を変えることができたのであります。その際に、東京の病院におられました日本医師の方が一人私たちに、この運動の今申上げましたような成果を挙げるのに非常に尽力して下すつたのであります。と申しますのは、このときに日本のこのお話いたしました医師の方の努力というものが私たちに非常に助けになりまして、それが非常に大きな原動力となつて、申上げましたような成果挙つたのでありますが、箱に入れました避妊の器具でございますが、ペツサリー、これをアメリカへお送りになりまして、これを私たち最高裁判所に持つて行つて、こういうような外国からの応援と申しますか、それを借りて、法律的にアメリカでもお医者さんはこういうものを処方したり、或いは教えたりすることができるという状態に導いて行つたわけでございます。一九三五年でございます。  現在アメリカでは直接産児関係クリニツクが全国で五百余ございます。すべて医学関係人々の十分な指導の下に運営されております。併しながら現在の米国におきましても大きな問題がございます。それは御承知のように広い土地の上に住んでおります人間でございますので、比較的そのうち町に住んでいる人々は、こういうクリニツクに来る機会が多く与えられている。従いまして主にそういうクリニツクに出て参ります人々は、一般的に申しまして教育の高い、教養もかなり高い水準を持つた、又比較的収入の多い人々が多いのであります。従つてそういう人々に多くの産児制限の正しい知識が分たれて行く。それに反しまして比較的収入の低い層の人々は、町を遠く離れました農園と申しますか、農業関係人々が多いために、なかなかこういうクリニツクに来て、正しい指導を受けるということがむずかしい。而もそういうふうに離れた土地におります人々が、実際はこの方面知識が非常に必要だという状態であります。  こういうふうな何と申しますか実際に要る人々たちに実際の知識が渡らない。この正しいところにまあ逆淘汰と申しますか、そういうような傾向があるわけでありますが、只今こちらで委員長お話を伺つておりますと、日本の場合にも同じようにこういう問題についての困難がおありなように拝聴いたしました。ただ、日本の場合には私非常に立派な目標を立てておられると思つておりますのは、この家族計画関係仕事というものを、公衆衛生関係のいろいろな施設を通じてお仕事をなさると同時に、社会福祉方面とも深い関係をつけて、そういうふうに例えば収入の低い、実際に非常に多くの数であり、又非常に切実にこういう方面を求めておる人々に、今の衛生及び福祉を結びつけてこの要求に応えて行きたい、それによつてこの困難を克服したいということに努力をしておいでになる、その点を非常に立派なお仕事だと思つております。現在の日本におきましては厚生大臣の御指導の下に、厚生省が非常にこの方面に大きな関心払つておいでになります。又公衆衛生院古屋先生も御承知のように幾つかのこの方面での優れた仕事をしておいでになります。例えばそのお仕事のうちの一端を伺つたところでは、農村でありますとか、或いは鉱山関係、或いは漁村というようなところに個々の人々を尋ねてこういう問題の指導に当つており、今のバース・コントロールという問題に対してこういうところに住んでおる人々がどのような反響を示すか、どの程度関心を持つかということをよく研究なすつておいでになります。現在日本人口は約八千七百万と伺つております。年々の自然増加は約百万を超えるというお話でありますが、従つてこの方面での仕事というものは、かなりスピードを早くいたさないと、なかなか追いつかないというような状況かと考えます。  日本のほかに、同じような仕事をしておりますもう一つの国、即ちインドという国がございますが、ここでも最もこういうことが必要なところにおいて人口増加というものをできるだけ抑えて行く、合理的な範囲に抑えるという努力をこれからも続けてやつて行くわけであります。インドの場合のことを少し申上げますと、我々の持つております人口よりも桁違いに大きな人口を持つておる国であります。従つてそのインド人口問題も非常に深刻なものがある。全人口のうちの六六%は一日に満足な食事を一度すらもできないというようなことが言われております。そのぐらい非常に深刻な人口問題に悩んでおりますが、インドの独立以来、このような非常に深刻な時局に直面いたしまして、国を挙げてこの問題に大きな関心を寄せております。で、ネール首相もそのインドの五カ年計画というものの中に、是非このバース・コントロールのプログラムを入れるべきであるということを非常に強く強調いたしました。一定予算相当額予算を国家がこれに当てて、十分の仕事をやつて行くべきであるということを言つたわけであります。この結果といたしまして、昨年のボンベイで我々が会議をいたしましたあと聞いておりますところでは、勿論インドの金でございますけれどもアメリカのドルに直しまして約百三十万ドルに相当する額の予算を出しております。これを公衆衛生並びに社会福祉関係のほうに割当てて、貧民窟と申しますか、非常に貧しい人々がたくさんに住んでいるような地域に対して重点的に人口を抑制する、人口増加を抑制するということに仕事を行うべきであつて、実際にこれをやつておるわけであります。  で、今お話しいたしましたようなインド予算と申しますのは、この深刻なインド人口問題並びにほかのいろんな問題から見ますと、額としては非業に決して多くない額と思います。ほかにも例えば灌漑用のいろいろな予算、それから土地の若返り、或いは又食糧というような、日前に差控えております緊急な仕事に、何百万ドルというような金が年々必要であり、又これが注ぎ込まれているわけでありますが、まあ仮に今年なら今年に五百万新らしい出生があり、又来年六百万次の子供たちが生れるというようなことになつて参りますと、折角モンスーンが持つて来てくれた水を、灌漑に使うという仕事も、又土地を若返らせるというような努力もどんどんどんどん殖えて参ります。例えば一千万人或いは千五百万人というような新たに食糧を求める人口というものにとても追いつけない、どんどん人口増加のほうが先に行つてしまう、どんなに金を費やしてほかの仕事をやつても間に合わないということになつて参ります。従いまして我々の持つております知識という点、或いは又現実的な政策という点、或いは又宗教的な観点というようなことからいたしまして、インドという国が現在もつとよい国、仕合せな国というものを作り上げるために、最大努力をこれから捧げて行こうというわけであります。恐らくこれは併し早急にはそういう目的は達成しがたい。十年経つてやつとそろそろ成果が上るということになるかも知れませんが、併しこういうふうな人口の問題が幾らかでもそれでおさまつて来るということならば、非常に意義の深いことだと思います。例えば町に溢れております乞食の数が減る、又病人、誰もみる人もない病人がどんどん減つて行く、或いは又住むに家のない人も減る、それから町の一隅のどぶの中で生れて、恐らく一生をそのどぶの中で暮して行くというような人、又その人たちから生れる子供たちも同じような状態を繰返して行くというような、誠に悲惨極まるこの状態が幾らかでも改良されるということでありますならば、どんなこの方面運動であつても、それは必ず偉大な仕事になるに違いないと断言して憚からないところであります。   私自身この日本芸術、なかんずく絵のほうに興味を持つておりますが、いつも感じますことは、この一七〇〇年代から一八〇〇年にかけましての日本の大体百年間くらいの人口が、増減のない大体一定の線を上下しておつた経常人口であつたということを伺つております。で当時、その線と申しますのは、約三千三百万という線を下らない、或いはそれを余り越すこともないという線であります。而もその時代に私の伺つておりますところでは、日本の文化といいますか、芸術の面で非常に大きな発展があつた。現在でも皆様方昔のその偉大な芸術家、或いは絵を画く方々というものを鑑賞しておいでになり、又その当時のことをいろいろ美しい記憶を持つて毎日を暮しておいでになるわけであります。それが明治維新以来日本工業化の途を辿りまして、非常な速度で工業的に発展して参りました。でそれと同時に人口増加も非常に顕著なものがございまして、一九二二年、大正十一年私が前に日本に参りましたときには、人口が約六千万人、現在は八千七百万、非常に急速にその間に殖えているわけであります。で只今委員長のほうでお話がありましたように、そのように人口の殖えた現在の日本は、六千万の人口を養わねばならなかつた時代に比べて、食物を生産すべき土地は更に減つている。従いまして非常にこれは重要な大きな問題でございます。併し大きな問題ではございますが、必ず解決のできる問題だと存じます。  それでは結論として一言申上げまして、あとで皆様方とのいろいろ疑質応答ということを期待いたしておりますが、このようにいたしまして人口が過剰であるというような問題は、ただひとり日本の問題のみでなしに、殆んどすべての、全世界国々程度の差こそあれ、或る程度直面しつつある問題でございます。勿論米国という国は現在のところはその度が低いというわけでありますが、間もなく近い将来にこの問題に当然直面せざるを得ない状態だと考えられます。同時に又ヨーロツパの国々、ドイツ、イタリア、イギリスというような国々をおとりになつてみましても、同じように大きな人口の問題に現在直面いたしております。こういうような世界の情勢の下に極めて重要なことは、インド日本という二つの国が極めて現実的な態度をこれにとつて、この問題を直接解決に導くような方途を現に実行しておいでになる。この点が何にも増して重要な現在の状態であると私考える次第であります。フレデリツク・アツカーマンという名前を御存じの方も多数おいでになると思いますが、この有名な学者が曾て日本に参りまして、二年間天然資源関係調査をいたしてアメリカ帰つたのでありますが、その報告の結論の中に、この先生言葉を借りて申しますと、大要次のごときことが書かれております。日本の将来には選ぶべき途は三つある。一つは、自覚的に、建設的に、而も自然に無理のない方法出生率を下げて行く、バース・コントロールというものによつて出生率を下げて、将来の事態に備えるという途が一つ、それから永久的に食物を他の国、例えば米国のようなものに自分たち人口を養う食物を永久的に頼つて行く、第三の途とたいしましては、常に自分たちが一人々々与えられる食糧或いは生活のための必要品というものを切下げて行く、いつでも不十分なものを食べ、又不十分なもので暮して行くというこの途、この三つの途が残されておるということを言つております。最後に申しました一人一人の割当を減らして生きて行くということは、知性のある、又元気溌剌たる国民でありますれば、当然それには我慢ができない。何とかして自分たちがもつとたくさんのものを獲得するように、或いは自分たちが生残るというために、非常に反社会的な方法に出るということも十分考えられるわけでありまして、例えば革命というようなことにもなりかねない勢いだと思います。第二の点について申上げますれば、ほかの国にそういう重要なものを頼つて行くということは、少くとも誇りを持つた、或いは自尊心のある国民でありますれば、これもやはりどうにも承認いたしかねるということになつて参ります。従つて残る途は、第一に申しました出生率死亡率というものとの調和ということを考えて、自分の力でこれから先日本人口は間もなく一億の線にも達するであろうということが言われておりますが、できるだけ早く自分たちの手で自主的にこういう状態に対応できる道を作つて行く。即ち残されたその最も理智的な道は第一の点に帰するということになると存じます。  で、実際的な方法につきまして最近非常な進歩が見え始めておるということについて一言申上げておきたいと思いますが、現在までこの方面に関しての技術的な実際の方法は、例えば簡単でない、お命がかかる、或いは害がある、いろいろな欠点が多くありました。而も世界を通じて非常にたくさんの数の人々がこういう問題を非常に必要としておるということから、そういう実際的な方法につきましていろいろな障害ということは、極めて大きな困難を我々に与えておるわけであります。ところがここ七年間、アメリカにおきましてはいろいろ仕事学者の間で研究されております。それによりまして非常に簡単で安くて而も害のない、そういう産児制限方法受胎調節方法を作り上げようという努力が行われて来ております。例えば人間の卵を妊娠に対して免疫にする、例えて申上げますと、御承知のようにコレラでありますとか、天然痘というものは、予防注射によつてこれを防げるということでありますが、同じようなことがどうして妊娠というものに対して免疫にすることができないか。できない理由もないということから、このことが非常に現実的になつて参りました。勿論医学世界におきます新らしい発明発見というようなものは、これが確実になるまでは、かなりの時日が要するものでございます。殊に害が全然ない、人間に対して無害であることが確証されるまではかなり慎重でなければならないわけでありますが、このような問題につきまして、日本イギリスアメリカインド、プエルト・リコというようなところの人々が一致協力してこの問題を衝いて行くということにいたせば、恐らくもう一年も待てば確実な、決定的な、而も簡単で安くて無害であるという避妊方法ができるというこの希望が非常に多くなつて参りました。私自身も今回参りました一つ目的の中には、日本のこの方面の研究の方々に是非この問題に  ついて一緒にお話申上げたいということが含まれているわけであります。残念ながら私日本語が喋れませんので、直接皆さまがたお話することができませんが、皆さま方が貴重なお時間を割いてお聞き頂きましたことを心から御礼申上げる次第であります。(拍手)
  7. 上條愛一

    委員長上條愛一君) それでは御質疑を願います。
  8. 横山フク

    横山フク君 お伺いいたしたいと思いますけれども、この前、一昨年でございましたかおい出なつたとき不幸にしてお月にかかれませんで、そのときストーン博士から伺つたのでございましたけれども、内服薬で、そして精子或いは卵子に作用して、そうして生殖機能を喪失させるという薬が考えられているということを伺いましたけれども、今度おいでになりましたときに、そういう方面の研究がお済みになつて、そしてそれを厚生省のほうに御推薦頂いたのじやないかと新聞で拝見したのでございますけれども、この前のとき伺いましたときには、内服いたしましてからその効果が現われるまで、相当時間がかかつて、而もその有効期間が短いように伺いましたが、その後あのお薬の研究程度はどういうふうになつておりますか。伺わせて頂きたいと思います。
  9. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 只今のお答えに直接今関係がないことかと思うのでありますが、ストーン博士が二年前に、お話のように参りましたときに、当時まだ実験的な段階であつたものについても、少しお話なつたように記憶しております。で、例えば一つ方法といたしましては、極く簡単な方法として油を使うということが出ておりますが、ただこれは飲むというようなことでなしに、現在、例えばインドにおりますドクター・クレアランス・ギヤンブルという方がおられますが、この人あたりが、インドで今盛んに研究しておりますのは、飲み薬ではなくて、普通の油を局所的にタンポンのような形で使うということであります。で、そのほかにも又そういうものの有効成分を抽出して注射をするというような研究も進んでおりますが、現在のところ今申上げております油というものを中心にしたところで、単に実験的な段階で、まだこれから先、相当研究が要ると考えられます。
  10. 横山フク

    横山フク君 アメリカサンガークリニツクでは、非常に実地指導のほうが進まれておりますということを伺つたのでございますけれども、私たちが実際に教えます場合に、実地指導の面で困難いたしているのでございますけれども、サンガークリニツク実情を少し詳しく教えて頂きましたら、大変結構だと思います。
  11. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 実際の方法なり手段ということに関しましてアメリカクリニツクお話のように非常に最近成功の率が高まつて参りました。九八%ぐらいの成功率だというふうに言われておりますが、この実際のクリニツクの運営に当りまして一番大事な点は、担当の医師がこの方面に専門的な訓練を受けた人間であるということにあると思います。不幸にしましてアメリカにおきましても普通の医師教育医学校におきます教育の過程においては、受胎調節関係のことは殊更詳しく教わつて参りませんので、この方面関係する医師人々は、例えばドクター・ストーンであるとか、その他の人々に十分指導を受けて、然る後専門的な医師となつてこういうクリニツク仕事をするようになる。即ち実際の担当の係であります医師の能力と申しますか、その能力ということが先ず第一でございます。なぜかと申しますと、ただ単にこういうクリニツクにおきましては、方法を口ですらつと教えればいいということでなしに、実際にその婦人が求めて来ておるものをよくつかまえて、自分でそれが完全にこなして、而も自分でよくできる、したいと思うというような雰囲気を作るということが非常に重要であります。普通の場合には二日あとにもう一度見るとか、或いは又それ以後にも、一人の婦人を一度クリニツクに来たらそのまま置くということでなしに、後々までもその人の経過を追うということを盛んにやつておりますが、十分自分自身で習熟して、而もそれが自分でできるという状態に持つて行く、その点での医師の能力というものが極めて重要だと思います。
  12. 横山フク

    横山フク君 その技術的な問題、或いは一番多くとられておる方法等を伺わせて頂きたいと思うのでございますが。  なおサンガークリニツクの経済、収支の状態ですが、どういう、政府のほうからの援助とか、或いは一般の寄附とかといつたような方面も伺わさせて頂きたいと思います。
  13. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 最初に申上げておきますが、政府は我々の仕事に全然関係がございません。少くも財政的な面では、全然私どものほうが援助を仰いだということはございませんで、一般の財団関係というものからの寄附金がございます。それから又実際にクリニツクに参りました婦人は、その受けました指導並びにその材料に対して金を置いて行くわけでありますが、担当の医師はその自分たち仕事の時間の何分の一かをそのために割いてくれるわけであります。それから教育関係仕事は通常の場合全然無料でやつております。  で、主な我々関係クリニツクでやつております実際の方法は、ペツサリーとそれに滑りをよくするためのゼリー、即ち二重の予防と申しますか、機械的なものと科学的なものと二重の予防をする、これを多くの場合来ました婦人に渡してやるわけでありますが、二重の予防でありますために成功の率が極めて高い。併しながら確かにこれは費用のかかる方法で、ございまして、非常に貧しい人の場合には、これはなかなか払いきれないということがございますが、建前といたしまして、来ました婦人の収入に応じて、婦人の家庭の収入に応じて適当な額を徴収する。従つて全然払えない場合にはこれを無料で与えるということもやつております。
  14. 横山フク

    横山フク君 私たち実際に指導いたします場合に、料金等の問題についても苦労するのでございますけれども、収入に応じてというのも非常に幅があるように思うのでございますけれども、そういう点から何か参考になるような書類等がおありでございましたら、若し一つ恵与して頂けましたら、大変仕合せに存ずるわけでございます。そのほかサンガークリニツクのいろいろな報告書も何か若しおありでしたら頂けたらと思つております。  なお、お話の通りにアメリカでお困りになつていらつしやることと、日本で私たち指導する面において困つておることと、お話の通り同じでございまして、貧困階級、農山村においての指導はどういうふうにしたらよいか、呼びかけをどういうふうにしたらよいか困つておるのでございますが、お困りになつていらして、それに対して今どういうふうにお働きかけになつていりつしやるか。或いはサンガークリニツクを主体としてそういう方面は余り積極的に出ていらつしやらない、或いは人口がそれほどお困りにならないので、度合が違うかと思いますけれども、そこら辺のところ、呼びかけ方などについて、若し私たち参考になることがあつたら、お知らせ頂きたいと思います。
  15. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 只今の御質問私非常に有難い質問だと思います。と申しますのは、今御指摘になりました点が私どもやつておりますアメリカ産児制限運動一つの大きな弱点である。即ち下積みになつているような人々に対しての働きかけが実際によく行つておらない。これには政治的及び宗教的な非常に強い反対がございまして、端的に申しますならば、マツカーシズムというものが現在のアメリカに流れており、この方面からの非常に大きな反対があるということも申上げられると思います。ただ日本の場合には、この点につきまして、話を伺つておりますと、公衆衛生並びに福祉方面関係方々がこういうふうな不平等な行き渡りのないようにするという点で大いに仕事をしておいでになる。アメリカにおきましては、例えばいろいろな疫病でありますとか、或いはみじめな状態、すべての点において、例えば栄養不足というような点におきましては、全部こういうふうな下積みになつておる人々の働きかけが非常に積極的でありますが、ただ一つバース・コントロールという点になりますと、アメリカのこういう公的な機関というものは、なかなかこれに反対をします。その点むしろ日本のほうが進んでおるような感じを受けるのであります。
  16. 横山フク

    横山フク君 長いこといろいろ教えて頂きまして有難うございました。  なお私も言葉が直接に通じませんので、何か隔靴掻痒の感で、ぴつたり伺えないような気がして残念でございますけれども、又いつかあちらのほうへ伺わせて頂く機会が長い間にはあるかも知れませんが、そういうときに、実際に見せて頂くときに、なお御便宜頂きたい。丁度いい機会でございますので、お願い申上げますと同時に、もう一つお願いいたしたいのでございますけれども、日本ではやはり戦後の政府の財政では乏しうございまして、勿論私たち実際のほうにそういう政府からのお金は流れておりませんし、又アメリカのような財団からの寄附ということも日本では望まれておりません。でございまして日本人口問題ということは日本の非常に癌という問題でもあると同時に、曾ての戦争も幾らかこういう問題からにも起因しているかと思います。でございますので、こういつた日本の国情や何かについて御理解頂きまして、サンガー夫人に折角おいで頂きましたので、なお日本実情等から日本受胎調節が今後よく推進されますように、あらゆる面において御援助、御指導をお願いいたしたいと思うのでございます。で、日本人口問題のほうにおきまして、なおいろいろの方面で御援助頂くことをお願いいたしまして、私のお疲れのところのくどい質問を終らせて頂きます。大変有難うございました。
  17. 上條愛一

    委員長上條愛一君) なお委員の方にお願い申上げますが、あとで又懇談のときにいろいろなことをお話願うとして、質問は要点を簡明に一つ、時間の都合もありますので、そういうふうにお願いいたします。
  18. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 只今の御質問全然同感でございまして、将来そういう機会がありましたら、是非私の国にもおいでになつて、実際どういう状況であるかを見て頂きたいと思います。同時に又近い将来、多分一、二年の間に皆様に先ほど来お話いたしました簡単で、よくて、最も安い、害のない薬を持つて来ることができるようになるということを心から望んでおるわけであります。  一つここでちよつとした笑い話のようなことを少し脱線して申上げますが、北アメリカのインデイアンが昔から出生率が低いということでよく知られております。御承知のようにインデイアンの人々は、アメリカの政府がどうも自分たちの取扱いによからんことをしたというわけでいつも憤慨をしている。で、こういうような国の政府の支配下にあるなら、一つ出生のストライキをやろうということらしいのでありますが、とにかく出生が非常に少い。すべてのアメリカン・インデイアンの中のいろいろの種族がございますが、その間に亙つて出生が大分少い。で而も又面白いことには、約二年ほど前に我々アメリカ人がこの北米のインデイアンから学んだところでは、その一つ方法がインデイアンの間で行われている出生が低い理由は、沙漠に生えております一つの草、それをインディアンがお茶にして飲む。そうしますとどうやらそれが避妊のほうにきいて目的を達しているらしいということがわかつたのであります。そんな意味で冗談のようにして申上げますと、お茶の好きな国々行つて、これから盛んにお茶を飲んで、結果として出生も下つたというようなことは、ほど近い将来になるのではないかと考えます。
  19. 高野一夫

    ○高野一夫君 簡単に一つ通訳の方を通して伺いますが、アメリカで、まあ日本でもそうでありますが、受胎調節方法に器具を使つたり、薬品を使つたり、いろいろな方法がございましようけれども、アメリカみたいな西洋式の家屋に住んでおつて、そうしていろいろの方法を実行する場合と、日本みたいな家屋、部屋の構造において同じ方法を実行する場合とでは、その受胎調節の効果と申しますか、そこは同じ方法であつても非常な差異があるのじやないか。先ほど通訳の方の通訳を伺いますと、九八%効果があるというお話がありましたが、それは何か一つ方法が九八%なのか、いろいろな方法をひつくるめて、総合した結果統計をとつてみて九八%の効果があつたのかどうか。そこでいろいろな方案をひつくるめましてで結構ですが、アメリカにおいて百回受胎調節方法を利用して何十%の効果があるか。更に又百組の夫婦が実行して何十%の夫婦が成功するか。そういうような統計は日本でも多少あると思いますが、アメリカのほうにそういう統計がありましたらお知らせ願いたい。
  20. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 先ほど申上げました九八%成功率と申しますのは、私どものやつておりまするクリニツクに参ります患者の間で、ペツサリーとゼリーと併用する、その患者についての、即ちその方法についての成功率という意味で九八%と申上げたのであります。婦人によりましては、いろいろその状態によりまして、ペツサリーとゼリーが使えん人もたくさんにある。例えば、子宮脱でありますとか、子宮下垂というような、或いは筋肉の弛緩というようなことがありますと、ペツサリーが使いたくとも使えん。従つて、ほかの子宮頸管のキヤツプでありますとか、或いはゼリーというような方法を止むを得ず使う人もあります。この場合には、幾らか成功率が今の九八%よりも劣つて参ります。従つて、正常な普通の婦人が使つた場合に、我々のクリニツクの経験によりますと、ペツサリー・プラス・ゼリーは九八%の効果率であつたと申上げたわけであります。  第二の統計学的な効果率の判定ということにつきましては、或る一つの財団が、曾て私たちのほうに経済的な援助をしてくれましてそれによりまして、我々関係クリニツクの最初の約一万例についての成功率を出した統計がございます。これは、当時、昔のことでございましたので、担当の医師人々がまだ習熟が十分でなかつた自分たち医学教育の上に更に特別な再教育を受けてこういう仕事をせねばならなかつたというようなことが非常に多かつたがために、九八%を下廻る率で出ております。併し、現在のところ、全米国にありまするいろいろなクリニツクからニユーヨークにありまする本部にしよつちうリポートを送つてつておりますので、そういうものをよく御覧になつて頂ければこの現在の率がどの程度になつておるかはよくおわかりになると思います。従つて、私のほうで喜んでその資料をお送りいたすつもりでおります。
  21. 常岡一郎

    ○常岡一郎君 狭い国土にたくさんの人間が押し詰められております今日の日本にして、特にサンガー夫人の今まで努力して来られましたバース・コントロール運動に非常に共鳴と感謝をするものであります。併しながら、ここでお尋ね申上げたいと思いますのは、自然の力というものを考えました場合に、例えば、地球の求心力と遠心力、太陽を中心とした求心力と遠心力の、真反対の力がみごとに調和いたしまして、レールもないのに正しく軌道を守つております。この宇宙の摂理というものを考えました場合に、或いは我々が願いもせずに、計らいもせずにちやんと二つの目を持ち、二つの耳を持つて生れて参りましたような、こういう生命の問題、こういうような点から考えて参りますと、この宇宙には非常な相反するものをみごとにコントロールする、調節をとる自然の働らきと宇宙の真理があると考えられる場合に、こういう問題を宗教的に神を信ずる人たちから言いまするならば、ややこの運動に対しまして反対の考え方が世の中にあるのではないかと思います。そういう反対の考え方との間に、いろいろ曾てお苦しみになつたことがありますか。又それとも、神の摂理を待つておれないで、そういうことは信じられないので、これを運動によつて人間の計らいによつて調節をとるのだということが遥かに勝るものであるかというような点について先ずお尋ねいたしたいと思います。こういう点について、宗教家の非常な反撃といいますか、無理解批判というものに苦しまれたことがございますかということをお尋ねいたします。
  22. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 只今御指摘の宗教的な点からの反対ということは、アメリカにおきまして私たち最初の運動を始めた頃の非常に強い反対でございました。これはもう非常に我々にとつては忘れることのできない重要な問題であつたのでありまして、根本的なその方面人々の言い方は、神が人間のために生命、従つて生命に必要な衣食住というものは整えてくれるということであります。で、現在のようなアメリカにおきましてもなお且つ十分に衣食住というものを持ち得ない人が多数あるわけでありますが、そういう状態にもかかわらず現在でもこういう点で宗教的な反対がありまして私どもいつもそれと闘つて来ておるわけであります。この点についての私の考えは、人間というものには神がインテリジエンス、知性というものを与えた、又考える自由、思考の自由ということを与えた。で、それらのことがあるために人間は普通の動物というものの上位に位して、はるかにただの動物というものよりは位の高いものになつておる。で、そういう神が人間に対して与えてくれたこの知性、或いはインテリジエンスと申しますものは、それだけに人間はこれを十分活用する責任がある。別な言葉で申しますれば、自分たちが生んでも責任の持てないような、そういう一個の生命をこの世の中に出すということを認めるほど、この理性を人間に与えた神は残酷な神ではないというのが、まあ言葉は足りないかも知れませんが、私のお答えしたい点でございます。
  23. 常岡一郎

    ○常岡一郎君 それならばお尋ねいたしますが、例えば日本でアイヌ族というのがあります。アメリカのインデアンの話が出ましたが、これは何とか種族を保存し、少くとも少しは栄えさせたいと考えてみましても、殖えないのであります。別に知性が高いがために人口が減つておるのではない、殖やしたいと思つても不思議に殖えないというような人たちがあるのも、これも自然の調節の一つではないかと考えられる。或る国によつて人口を殖やしたいと思つても、だんだん減つて行くので心細いという国もあるということを、例えばフランスのような話を聞きますか、もう少しおおらかに全世界人たちが小さな国という割拠した考え方を捨てて、全人類に全世界の富源を全部開放するという運動をするならば、なお且つ興隆する民族には、人間の小細工のようなバース・コントロールをやるということが、これが却つて近視眼的の考え方ではないか、こういうような疑問を持ちますが、この点は如何でしようか。  更にそれに加えて申上げますならば、日本でさえも封建時代には土佐、鹿児島のような非常なぎようかくな土地には産児制限が盛んに行われたのであります。併しそれが日本一つの経済単位となつて、一国経済の単位となつて、封建制度が破壊されて、人間のために、日本人のために広い場所が与えられるようになりましてからは、遥かに多くの人を養うに至つておるのであります。全世界が正しく生れ出ずる者のために共同に愛を以て広げて行くことこそ、これが神が与えた英智ではないかと考えられる。それを狭いところにおる者に伸びんとする力を抑えるような考え方、そうして広いところに開放を解かなかつたならば、片手落ちではないかというような、こういうふうな考えも起りますが、如何でしようか。
  24. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 只今の御質問に私がお答えするのが適当かどうか。ほかにもつと適当なお答えができる人があると存じますが、私として申上げたいことは、御承知のように現在国際連合という機関がございます、原則に対して一致した見解を持つ国々が集つて世界一つにしようという努力をやつておるわけでありますが、御承知のように現在のところでは国際連合ですらの全員がこれに入つておらないというような実情であります。こういうような問題を考えますときに、自分でありますとか或いは自分子供というようなものを考える場合には、今話題になつておりますような哲学的或いは形而上学的な考え方というものはそのまま妥当すると思います。併し例へばメキシコでありますとかイタリアというような国々は、非常にみじめな現在状態にある。而もその主な一つの国の行き方の中に宗教的な、あえて私は迷信と申しますが、暗黒時代のそのままの昔の迷信的な宗教というもののために、そういうような苦しい目にあつておる。そういう人々を目の当り見るときには、どうしてもそういう国々に尊敬を払う気になれない。やはり現在我々が持つております近代的な知識、或いは判断或いは科学の成果というものを応用して、本当人々の幸福ということ、生きております人間の幸福ということを考えて、そういうことをはつきり自覚しておる人々に私はむしろ尊敬を払いたいのであります。何よりもまして重要なことは、自分たち知識或いは責任ということをよく考えて、我々自身が十分に面倒の見てやれるだけの人間を、この世の中に新しく持つて来るということが一番大事ではないだろうか。生まれた自分子供をよその家の庭に入れて、よその人に世話をさせるというようなことは、できるだけ避けるべきであり、自分子供自分の愛情で以てできるだけ十分に養育して行くというのが本当の親ということだと考えるわけであります。
  25. 廣瀬久忠

    ○廣瀬久忠君 私は本日世界的の権威者であられるサンガー夫人お話を承わりまして、非常にエンカレツジされ、又インプレツシヨンを非常に深くしたということについて、先ずお礼を申上げなければならない。それでお話のうち、数個の点において私の記憶に深く印象ずけられたものがあるのでございますが、そのうち特に二つの点についてお話を承わりたいのであります。  一つは、私が最も困難であると思つておりました日本人口問題の将来について、夫人は日本人口問題は非常に重大であるが、併しこの問題は解決し得る問題であるということを仰せられましたが、これは私としては非常にエンカレツジされた点であります。夫人も申述べられたように、徳川時代において我が国の人口は殆んど定着しておつた。その後明治時代において漸次増加をしたのでありますが、戦争前においてはどうにか人口を国の資源を以て養い得た。ところが敗戦後においては非常な人口過剰になりましてこの人口問題を如何にすべきか。これは今日我が国の政治、経済、社会の各方面に亙る根本の問題で、この問題の解決如何こそ政治の動き如何にも、社会の思想の問題にせよ、或いは各般の社会上の問題等にせよ、すべてが深く関係を持つておるのでありまして、今日日本の政治土に関係するもの、或いは社会事業に関係するもの、或いはお医者さんであろうとも、すべて非常にこの問題には深い関心を持つているのであります。この問題について夫人は大胆率直にこの問題は困難であるけれども解決し得る問題であるということを伺いまして、私は非常に力強く感じたのであります。長い間人口問題に経験を持つておられるサンガー夫人がかくのごとき言葉を発せられたことは、私として非常に感銘を新たにするのであります。つきましてはこの日本人口問題解決、これは今ここですべてをお話下さることはできないと思いますが、私は極く大筋の、夫人から御覧になつて日本人口問題解決については大筋として政治家としてはどこに心がけるべきであるか、或いは社会事業家としては如何に心がけるべきであるか、又衛生関係のお医者さんその他については如何に心がけるべきであるかというような問題について、極く大筋を伺えれば非常に仕合せだと思います。
  26. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 只今お話で、私がこの面での非常な専門家であるというふうなお話がございましたが、最近のこの方面の事情は私のむしろ専門を遥かに乗りこえて進んだような感じがございます。むしろ私自身は先駆者ではございましたが、電燈を付ける事業の一番最初のボタンを押した人間だというような意味においての先駆者だと私考えておりまして、現在のこの方面のいろいろな学者と申しますのは、非常に範囲が拡がつて参りまして、いろいろ医師人々であるとか、或いは社会事業の人々、或いは人口問題関係の専門の学者、生物学その他いろいろな科学に携わる方々の総合した知識と協力に待たねばならない状態となつてつたのであります。ただ、そのうちで先ず第一番に申上げておきたい最も重要な点と申しますのは、生れて来ます人間の質というものが一番大事だという点でございます。で御承知のように子供を生めなくなるようにする手術、不妊手術というような、一見極めて残酷なような或いは荒々しい方法というようなのがございますけれども、これは大きな目で見れば、結局親切な方法だということにもなるのではないか。社会或いはその国の人口にとつて悪質の遺伝のあるような人々子供を生まないようにするということは、この生れて来る人口、次の世代の人口というものの質を考える場合には、極めて大きな問題となつて参るわけでありまして、最近では医師人々、或いは社会学関係人々がこれに大きな関心を寄せておる次第であります。それから又この立派な国会を議場として皆様、仕事をしておいでになります方々にとつては、公衆衛生並びに福祉の事業に対しての、他を幾らかは犠牲にしても、できるだけの努力をして、今申上げましたような関係人々が、十分に自分たちの才能を発揮できるような物的或いは心的な設備を持つようにしてやつて頂きたいということであります。貧しくてこういう方面の助力を待ち望んでおる人々はたくさんにいるわけでありまして、無数の人々皆様方努力の結果で、こういう関係の第一線の人々がよりよい仕事をする、その人が一日も早く到達するのを待つておるわけであります。従つて国会に仕事をしておいでになります国民の代表の皆様方がその資格において政治家として、又日本の国のためを考えて、実際の担当の人間が十分に働けるように物質的な面、或いは精神的な面での態勢を整えてやるということに最大努力を払つて頂きたいと思うのであります。
  27. 廣瀬久忠

    ○廣瀬久忠君 只今夫人から非常に示唆に富んだるお話を承わりまして誠に御尤もに思います。私も長い間ソーシヤル・ウエルフアーの仕事関係いたしておりまして、どうか社会事業方面に十分な財力を与えたいということを考えておつたのでありますが、その方面について日本は甚だ貧弱である、誠に遺憾に思つております。私ども政治家として大いに努力をするつもりでありますが、夫人がたまたま我が国においで下さつたということは、非常にかような方面に対する力付けをして頂けるものと思うのでありまして感謝をするのであります。  それからなおもう一つの点を、お疲れのところをもう一つの点をお伺いしたいと思う。それは夫人は先ほど日本のこの家族計画の問題について、お賞めの言葉がありましたが、私も家族を計画的にするというこの運動は、誠に結構な運動であると思つておるのでありますが、これについてこの運動は古屋博士を中心にして現に数年間行われておるのでありますが、これについて夫人が御覧になつた上で何かアドバイスをして頂けるようなことがあつたら教えて頂きたいと思うのであります。  私は日本人口問題が非常に大きくて、どうも家族計画或いは計画家族というようなことでは、非常にスピードが遅いということを非常に憂うるのであります。併しながら日本世界に向つて日本の移民を受取つてもらうということについては、日本みずからもやはり人口問題について自分の家族の計画を持つというくらいのことは、私は当然のことであると思う。それで是非これは強く推進したいと思つておるのでありますが、日本計画家族の運動について、夫人からこれをお誉めを頂いたが、どういうようなところに主として力を入れるべきかということについて何か教えて頂く点があれば、一つ御意見を伺いたいと思うのです。
  28. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 只今私の前の発言に対しまして、非常にお営めを頂きまして、大変有難く感謝いたす次第であります。私今回参りましたのは、日本医師方々或いはほかの科学者方々と一緒に話合いをして、できるだけ速かに、必要ならば出生を下げるということを検討する。その可能性を検討するために参つたわけでありまして、昔なら十年でよかつたところも、現在では二年というような短期間内に至急にこれをやつてもらわなければならないような、非常に差迫つた状態と思います。いずれにいたしましても、日本医学或いはほかの科学方面に携つておられる方々と手に手を取りあつて協力して仕事をして行く。で、又近い将来に私が参つたときには、又格段の進歩をしておつたというようなそういう嬉しいニユースを聞きたいと期待をしておるわけでございます。
  29. 加藤シヅエ

    委員外議員加藤シヅエ君) 委員外議員の発言をお許し願います。  今日はサンガー夫人厚生委員会において御招待下さいまして、委員長を初め各本員が熱心なる質疑をして下さいましたことを、又いろいろ委員長が御援助下さいましたことを大変感謝をしております。  最後に私は一つ質問したいのでありますが、それはサンガー夫人が長い間過剰人口というものが歴史的に見ると戦争の原因になつておるということをよく言われます。そしてこの過剰人口解決するために、今までは自然が、大地震とか洪水とか飢饉とかこういうようなもので一挙にしてたくさんの人間を殺戮して、そして人口を減すために役に立つて来たのだということをよく言われたのでございます。それにつけましても私どもが今知りたいのは、最近アメリカで水素爆弾の実験をされましたときに、日本人は非常な衝撃を受けております。それでこの水素爆弾というようなものが大量に人口を殺戮するために役に立つというこういうような恐ろしい現実に対して、アメリカの進歩的な輿論は、これに対してどういうような意見を発表していらつしやるか。このことを一つ伺いたいと思います。
  30. マーガレツト・サンガー

    参考人マーガレツト・サンガー君)(村松稔通訳) 只今御発言の加藤先生はこの方面に関しましてもやはり先駆者の一人であらせられまして、バース・コントロール関係仕事が行われておる国では、世界の至るところでよく名前の知られた方でございます。私よくほかの機会日本方々によつて米国が最近やりました水素爆弾の実験についてどうして米国側は、米国民は抗議をしないのかというような質問を受けるのであります。例えばイギリスがその国会を通して非常に正しい意味の抗議をしておる。でそういうことをどうしてアメリカがしないのかというわけでありますが、確かにイギリスという国は、そういう正しい事態を知る権利もあり、又これから先何が起るかということを知る権利があるのであります。殊にイギリス一つの島国であります。ほんの一瞬間の爆発によつて島全体が立ちどころになくなつてしまうというような危険もある国であることを考えますと、イギリスの抗議というのは、単にそういうものが危険だという程度を超えて、自分達の生存のためにこういうことは当然抗議すべきだという解釈をとつておると考えます。米国の中におきましてもこれと同じような進歩的な意味での抗議というものが多数にございます。ただこれが新聞の見出しに出て来ないだけのことでありまして、御承知のように領土的に広い国でありますので、私が住んでおりますアリゾナで、例えば何人かの人が抗議をしても、それがニユーヨークの人には全然響いておらないというようなことがしよつ中起つておるのでありますので、国全体が輿論として挙げてこれに抗議をする。それがアメリカの国務省というものを動かすということになるまでは、皆さま方外国の方には、それがわからないということだと思いますが、現実にはこのイギリスと同じような点からこれに対して正しい抗議をしておる。或いはそういう意見を持つておる人が多数あるということをお伝えしておきたいと思います。
  31. 上條愛一

    委員長上條愛一君) なお御質問もあろうかと思いますが、時間が長くなりましたので、本問題に対する調査はこの程度にいたしたいと思います。御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  32. 上條愛一

    委員長上條愛一君) 御異議ないと認めます。  サンガー夫人には長時間に亙りまして極めて有益な御意見を発表して頂き、且つ質疑に対しましては御懇篤なるお答えをして頂きまして誠に有難とうございました。委員会を閉ずるにあたりまして厚く御礼を申上げます。貴重なる資料を参考といたしまして、今後我が国の直面する人口問題と受胎調節に対し、万遺憾のない対策樹立に私どもは努力して行きたいと存じております。  終りに臨みましてサンガー夫人並びに長時間に亙りまして明快なる通訳に携わつて頂きました村松博士に対しままして深甚なる謝意を表したいと存じます。(拍手)  それでは本日の委員会はこれにて散会いたします。    午後四時四十一分散会