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参考人(
横川正市君)
横川でございます。
仲裁委員会から
仲裁案が提示されまして、
郵政省と私
どもとの間に起
つている
紛争が
国会に持込まれて参
つたわけでありますが、本日は非常に休会中御多用なる中にもかかわりませず、終始
審議をして頂くことを、更に私
どもは
参考人としてここにその
内容を申述べる機会を得たことを心から御礼を申上げたいと思います。私
どもは今まで
国会の中にいろいろな問題を持込んで陳情申上げておるわけでありますが、
組合全体の
考え方といたしましても、最近に
至つて私
どもが過去いろいろ
経験いたし、或いは思い及ばないで
考えてお
つたことが幾分修正しなければならないのじやないかという
考えでおるわけであります。と申しますのは、
郵政委員会という
郵政省の
一般事業に関して常に注意を払い、その
事業の円滑な
運営を図
つて頂いているこの会が、これは
衆参両院に共通した点として非常に超党派的に
事業のことと
従業員のこととをよく
考えて頂いて、そのたびに適切な御指示、御
指導を
願つているという点であります。私は非常にそういう
性格の中での
郵政委員会に率直に今までの私
どもの
考えというものを申上げまして、今度の
仲裁裁定の問題についても
善処方を是非お願いいたしたいと思うのであります。
全
逓信従業員組合というのは、これは終戦後いち早く結成されましてその
運動方針、或いは行な
つて来た過去の業績というものが、
一般には
全逓は
共産党の
指導する
組合だというような、こういう印象を多分に与えてお
つた時期があ
つたのであります。併し
昭和二十四年のこの
組合内部におけるところの
民主化運動が芽を出しましてから、私
どもの
組合は
人事院の登録の問題をめぐ
つて遂に分裂をいたしまして、殊に
組合指導の顧問であ
つた共産党の手から脱皮いたしまして、新らしい民主的な
労働組合を結成して今日に
至つておるわけであります。こういう
紛争の起
つた時期に私
どもは
共産党の
理論攻勢に対して対抗して参
つたのは、
人事院が
勧告制度を明確にしたのだから、これをいわゆる
紛争を解決する
唯一の
手段として尊重しようじやないか、単に
実力行使、或いは法を乗り越えた非常に激発的な
闘争を行な
つたということよりか、この
第三者介入によるところの
紛争を解決する
手段を最も有効に利用することによ
つて組合の民主的な
運営を図ろうじやないか、こういうことが話されてお
つたわけであります。併し不幸にして
人事院の
勧告は一応の道義的な
責任は持
つてお
つたと思いますけれ
ども、完全に実施されたことはありませんし、又その
たびごとに私
どもは非常な苦労をして
賃金の問題をや
つて来なければならなか
つたのは、これはもう
国会の
皆さんのよく知
つて頂いておる
内容だと思うわけであります。こういう中で
全逓というような
現業官庁である特殊な
仕事については、これは
公企体法に変えたらいいだろうというので、本年の一月一日に
公企労法適用職員の仲間入りをさせて頂いたわけであります。私
どもはやはり今度の
公企労法の
建前から
言つて、
仲裁制度というものが如何に尊重されなければならないかという点について非常に認識を深めてお
つたわけであります。そういうようなこの
組合の今までの
運動と、それからそれをいろいろに変えて参りました、
国会で作られた法規というものを私
どもは尊重しながら現実にな
つておるわけであります。
さて今度
裁定が出たわけでありますが、実はいろいろと
専門のかたがたの
意見を聞き、或いは過去に
経験を
賞めた
国鉄や
専売や、これらの
組合の
意見を聞いて見ますと、明らかにこれはこの
仲裁制度によ
つて紛争を円満に解決して行くというのが
公労法の
建前であります。こういうふうに私
どもも認識し、それらの過去の
経験を持つ
組合も
考えておるわけであります。そういうことから、私
どもは
仲裁裁定が出たということは、これは少くとも
労使間の、現在で言えば
全逓と
郵政省との間の
紛争については、これはもう必ず解決してもらえるもの、かように
考えてお
つたのであります。ところが事実もう
新聞で報道されておりますので
皆さんも知
つていられる事項であるかと思いますが、官公労は昨日から
大蔵省の前に徹夜で、一体
予算上
仲裁裁定の実行をどうしてくれるかということを
大蔵省に対して
要求いたしておるような
実情であります。
仲裁裁定が出るまで私
どもは
生活がどうであるとか、或いは資料がどうであるとか、そう
言つていろいろ仲裁委員会に持込んで、そこで最も妥当な
仲裁案が決定されましたら、もうそのときに
組合としての行動というものは停止してしまうのが本当なはずなんでありますが、それが実は
仲裁委員会と話しているときには非常にスムースに円満に
事情を話し、そしてその良きを取上げ悪きを捨ててもらうという、こういう
段階にあるわけでありますが、さて
仲裁が出てしまうと、今度は褌を引締めて
闘争しなければいけないと、こういう形に変
つて来たわけなんです。私もやはりこういう
組合が
民主化されて、そして
唯一と頼んでおるところのこういう
第三者介入の
仲裁を若しもどちらかが守らなか
つた場合に、これは非常に不信を招くことでありますし、結果的には
組合の
民主化というものも、或る一部の
人たちの実際の扇動や或いはアジによ
つて激発的な
闘争にならないということは保証しがたい問題であろうと思うわけであります。こういうようなことから今
国会にかけられております
仲裁については、私
ども組合の
立場から見ますと、是非これを実行して頂きたい。勿論今の情勢は農村におけるところの疲弊や、或いは
風水害、或いは
凶作等によ
つて国の出費が如何に多いかということについても私は十分認識いたしております。併しながら
政府の機関で、こんなに困
つておるのだから、
予算がこれだけしかないのだから、どうだこれでいいかというようなことを一言も私
どものほうには話しかけてもらえないのであります。ただ一方的に十七
国会では
公企労法十六条後段の
予算上
資金上不可能であるからということでこれを
国会の
議決を得ようとしておるわけでありまして、その誠意のほどにつきましては非常に私
どものほうは残念ながら認めがたい、こういう
実情にあるわけであります。
それでは、
政府の言う
予算上
資金上の問題で、本当にないのだろうか、こういう点で三
公社五
現業のいろいろの
内容をそれぞれ研究してみますと、決してないということが正当な
理由を以て証明できない
事情にあるということが明らかであります。
新聞では
国鉄と
郵政というのは
予算がないのだからできないのだと言われておりますが、
国鉄の場合の今度の
風水害によるところの
建設資金の中に持込んだ金が
国家資金で若しも賄われるならば、今度出されます
仲裁を完全に実施してまだ
予算上余るというような状態でありますし、
郵政の場合も
先ほど仲裁委員長が
説明されましたように、決して
予算上
資金上これが不可能だというようなそういう
内容ではないというふうに私
どもは
考えておるわけであります。殊に
郵政の
仕事はいろいろ
先生がたに御苦労を
願つて十分
内容については御
検討を
願つておることでありますので、今更私から申上げるまでもありませんが、雨の日も風の日も外に出て、そうしてどん
なつらいことがあ
つても自分に与えられた職責を守
つている実直な、まじめな
従業員が大半でありますし、私
どもの持
つている
仕事そのものは非常に華かなものとは非常に縁が遠い、併しながら持
つている
性格というものは非常に
責任のある重要な
仕事だということを
従業員全体が認識しておるところであります。
今までの
郵便企業に従事する
従業員の
給与関係については、
一般の社会の通念、常識化されたような
関係で、
一般官庁の
従業員よりか
郵政の
従業員は待遇が悪い、それから非常にいろいろな
仕事の環境が悪いということは
一般がそういうふうに認識してお
つたことでありまして、私
どもはこういう
実情の中で営々として働く
従業員が恵れないでいるということについては非常に残念な一念でお
つたわけであります。併しながら戦後いろいろな
支援関係や、或いは
努力によ
つて幾分改善されて来たことは事実であります。
現状私
どもが
賃金の
内容として
考えております
要求賃金と、それから今度の
裁定とは大きく開いてはおりますけれ
ども、その開いた低い
賃金であ
つても、これは大体
電電公社と
一つのまあ比較して余り遜色のない
賃金に変
つて来ている、或いは
専売、
国鉄の
人たちと幾分見劣りはしても、大体そこに追ついて来ておる
賃金である、こういうふうに
考えていいと思
つておるわけであります。今度の
仲裁裁定でお前のほうの
仕事は
予算がないからこれは駄目だというようなことになりますと、そこには大きな
賃金の開きが出て参りまして、今まで私
どもが営々としてこのアン・
バランスを是正しようとした
努力も一朝に消えてしまうということはこれは当然であるわけであります。
そこで
郵便関係の
事業の
内容を
考えてみますと、大体まあ普通にはこういう
独占事業においては儲か
つたからこれを配分する、こういうような
考え方は間違いで、儲か
つているのは当り前で、これは税金も納めていないし、
独占企業で経営しているのだからそれくらいの
黒字は出るのは当り前だ、こういうふうに言われるのでありますが、それならば実際上はどうなるかと言えば、
郵便料金の決定はこれは
国会で行うのでありまして、実際のいわゆる取扱の手数による
コストというものに比例して
人件費や
受信費を賄うという
考え方ではなしに、政策的に
料金が決定されているということは御案内の
通りであります。そのために今なお大体三種あたりでは
コストから言いますと、約十七円
程度かかるのに三種が一円という非常に低廉な
料金でこれを配達いたしております。殊に北海道のように遠隔な地におけるところの場合には、まさに
郵便配達というようなことよりか
新聞配達というようなことに名前を変えたほうが適切なくらい、その持歩いている
郵便物の比率というものは九対一
程度まで大きく開いているところもあるわけであります。
新聞だけを配達しているのが
郵便屋さんだというような
状況でありまして、而もその持ち歩いているのが
コストからい
つて殆んど問題にならない低廉な
料金でこれを持ち歩いているというのが実際であります。而も
郵便企業はこれは機械化することもできませんし、特殊な
方法を設けることもできません。やはり
親書は
親書、或いはどんな葉書、
新聞、どんな
郵便物であ
つてもこれはそこの家まで持
つて行
つて渡さなければなりません。そのためには人的な非常に大きな面をどうしても他のものによ
つて補うことができないというのが
郵便企業の
特殊性でありまして、そうい
つた点から
考えてみますと、政策的にきめた
賃金、それからそういうような
事業内容から
人件費が非常に大きくかかる、こういう
事業の
内容はどうしてもこれは
現状として服することができないわけですよ。併しそれを実際に本
年度の
会計から見てみますと、
今井委員長の大体
検討された
内容と同じように、本
年度において約二十億
程度の
黒字というものが予測されているというふうに言われているわけであります。これは
当局に十分聞いて頂けばわかるわけでありまして、私
ども実際に当
つたものでありませんから、この点についてはその真偽については十分質して頂きたいと思います。こういうふうに低廉な、而も
人件費を多く使いながらなお且つ
物件費や日常の費用というものを節約しまして、増収を図
つているというのが
郵便事業の実態であるわけであります。
今
一つは、今度の
裁定を実施するのに
郵政省は実施できないのだ、こういうことを
言つている一番大きな癌は何かと申しますと、これは
貯金事業であります。
貯金事業は御案内のように私
ども従業員が営々として一軒々々廻りながらそれぞれの家庭を訪問いたしまして、零細な金を集めて参
つているわけであります。その金は
大蔵省の預金部
資金へ全部入
つておりまして、そこから大体六分四厘の利廻り計算でこれらの実際の
人件費やその他を賄
つておるわけであります。その
コストは七分四厘六毛、一分六毛の大体
コスト高にな
つておるわけであります。これは民間の
銀行や相互
銀行等の
コストを
検討してみましても、決して高い
コストではありません。ただ民間
銀行では恐らくこの
コストではや
つて行けないのじやないか、八分くらい以上にな
つているのではないかということが言えるのではないかと思いますが、大体データーで言いますと、七分四厘くらいまでかか
つているというのが
実情であります。こういう
関係から集められた総額は約三千億くらいあるわけでありまして、国家のいわゆる融通し得る
資金としてはもう実に厖大な金を私
どもは集めてこれを
大蔵省に預けておるわけであります。平常におけるところの
運営さえ大体三十一億
程度の赤字を出しておるのが現在の経営状態でありまして、そういうような状態ではですね、到底まあ
貯金事業としては
郵政省として持
つて行けないというのが現況であります。これを何とか改善してもらう、或いは
一般会計から補填してもらえれば、今この一番問題にな
つております
仲裁裁定の実施については、ほかの官庁等の、ほかの
公社或いは
現業等の困難な度合いとはまあ一部の違いはあるにしても、そう全然お前のところは駄目なんだという投げ捨てにされてしまうような
事情ではないわけであります。保険
会計についてはこれは非常に
皆さんのお骨折りで、
資金の運用が一部
郵政省へ返
つて参りました。そういう
関係から決してこれも
資金上不可能な状態ではありません。あと他の
会計からの繰入れを行うわけでありますが、この点についても決してまあ困難な
状況にはないというふうに私
どもは
考えておるわけであります。そういたしますと、全体的に
予算上、
資金上の問題からも大体今度の
裁定は解決するのではないかというふうに思
つておるわけであります。
更に私
どもは
公企労法の第十七条で、若しもこの
紛争が解決しないからとい
つて労働組合が
実力行使を行いますと、その場合は
公企労法の適用をされております一切の権利を失うことになるわけであります。これはいわゆる
団体交渉をする権利であるとか、或いは
調停、
仲裁等に対して私
どもから問題を持込む権利であるとか、更にはこのことによ
つてその人間が首を切られてしま
つても抗弁権を持たないというような、或いは刑法上の問題までも起すというふうに、この十七条の後段におけるところの処罰
規定については非常に厳格な
内容があるわけであります。先に私
どもは
人事院の
勧告が若しも通らなか
つた場合に、マツカーサーのオーダーで出されたあの
内容というものは、これは明らかに罷業権を奪う代りのために出したものだから、若しも実施しない場合は罷業権が返
つて来るだろうということを強く
主張いたしたことがあ
つたわけであります。それと同じように
公企労法の場合もこの
仲裁裁定が
労使間を拘束するという
建前に立
つておるならば、これが実施されない場合に私
どもは同じように罷業権が
労働組合の本来の姿として手に返
つて来る、こういうふうに
考えることがこれは正しいのではないかというふうに思
つておるわけであります。いろいろな学者や或いは
関係者のこの法に対する解説もありますし、さつきの
国鉄の例から申しますと、地裁では
組合側が勝利をし、
政府がこれは敗訴いたしております。それから高裁におきましては、審理の結果これは又変りまして、
政府が勝
つて組合側が負けたという事実はあります。併しいずれにいたしましても、私は
国会できめられた法律の解釈が裁判においてこういうふうに白黒変
つて来るということは、少くとも
国会の権威というものを尊重し、作られた法規によ
つて労働組合の
労使間の慣行というものを打立てて行きたいという、こういう気持に燃えておる民主的な
労働組合の
運営については、信頼の問題としては非常に又マイナスになるのではないかというふうに
考えるわけであります。こういう
建前から是非私
どもは
公企労法という、或いはいろいろな不備な点はあろうかと思いますけれ
ども、不備であ
つてもこれが作られた権威によ
つて飽くまでも
労働組合はこれを守る。
国会もこれを権威付けて実施するために
努力してもらう。これが本当に民主的な
労働組合の
運営を助長することでもありますし、これは非常に将来の問題としても望ましいことではないかというふうに思うわけであります。いろいろな
関係からここに
先生がたに御苦労を
願つて検討を願うわけでありますが、是非こういう
内容を持
つている
仲裁裁定については、これを実施するよう格段の
努力をお願いいたしたいと思うわけであります。
非常に貴重な時間でありまして、長時間浪費したことをお詫び申上げまして、
参考人としての口述を終りたいと思います。