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参考人(
早川勝君) 先ず何よりも先に、この長い
間炭鉱の
ストによりまして
国民全般に多大の御心配と御迷惑をおかけしておりますことを深く済まないと思
つております。又
国会の
議員諸公におかせられましても、いろいろと御心配頂きまして誠に恐縮に存じております。なお、先回の
委員会には当
石炭連明の
重要会議と丁度時間的にぶつかりましたために止むを得ず本日のことになりまして、勝手をいたしたことをお詑びを申上げます。
委員長からお示しのように、従いまして要点を申上げたいと思います。経過は一応省略させて頂きまして、
双方の、即ち
労使双方の間において最も大きく対立いたしております点を先ず申上げまして、それから現在の
段階における
状態をお耳に達したいと思います。
最
重要対立点は、実は二点でございます。第一点は
炭労側の要求いたしまする
賃金の
倍額引上げでございます。
坑内、
坑外それぞれ率は多少違いますが
倍額の
引上げと相成ります。その
根拠といたします点は、いわゆる
マーケツト・バスケツトの
理論でございます。これが交渉の初期の
段階において鋭く応酬がございまして、結論を申上げますと、私
どもの側から
マーケツト・バスケツト理論というものの根本において承認できない点があるということを、
理論的に且つ具体的にまあ反論いたしました結果、
炭労側といたしましては、この
論議はもうやめたと
言つてその
論議をまあなくしたわけでございます。
従つて倍額引上げの
基礎になりますところの
理論的根拠と申しますか、
主張というものは一応
炭労側としては引込めたという形に相成
つておるのでございます。私
どもの側といたしましては事実に基きまして
炭鉱労働者の
賃金が他の
産業と比べて低くない、
官庁統計及び我々のほうで掴んでおる
数字も申しましたし、又
炭鉱労働者の
生活実態を
調査しております
数字を具体的に列挙をいたしまして、これについてまあ納得を求めたのでありますが、
組合側としては、これに対する
反対資料というものはあえて提示はなか
つたわけであります。その点につきまして、即ち
賃金の
金額の点につきましては
幾らにしろということについては、最早
論議といいますか、
理論闘争的には話が行かないのでありまして、今度は問題が
標準作業量の問題に相成りました。
標準作業量と申上げますと、これは
炭鉱の主として
採炭夫等の
仕事をいたします場合に、その
採炭夫が一日にどれだけの炭を出せば
幾らの金になるという場合の、どれだけの炭をといいます
仕事の
分量を出すのであります。即ち
切り賃の
標準になりますところの
能率のほうの
ベースであります。この
能率ベースというものは、少しくどいようでございますが、非常に重要なもので、ここで申上げたいと思いますのは、その
切り賃というまあ
請負給の
賃金の
標準になりますところの実際の
作業量はどのくらいにしておくのが妥当か、それを
労使双方間できめまして、それがまあ
標準に相成るわけでありますが、その
標準に対しまして、
賃金がいつも
仕事量に対して支払われると、ところが御案内のように
炭鉱は
終戦後年々
回復いたしまして、大掴みに申しましても毎年一割、一〇%ずつの
回復をしております。今後もその
回復の
過程にあると考えております。その
理由は相次いで多額の
設備資金を投資いたしておりますし、又諸般の
機械設備乃至は
坑内の
作業方式等につきましての改善を図
つておりますので、この
作業の
採掘作業量の
実績というものはどんどんと止る一方でございます。ところが丁度例えて申しますと、こちらの
場所からこちらの
場所まで或る荷物を運びますのに、初めは大八車で運んでお
つた。ところがその後三輪オートバイで運ぶようになり、今度はトラツクで運ぶようにと相成りますと、運びます
仕事の
分量は著しく殖えて来るのでございます。それと同じような理窟で、
炭鉱における
復興過程におきましては、そのきまりました
標準作業量に対して、若し
標準そのものを変えずにおきますならば、
作業の量はどんどん
上つて参りまして、それこそとてつもないような
賃金の額に相成るのであります。
賃金の額に相成るのみならず、それだけ
設備を改善し、
作業方法を改良いたしましたところの
企業努力というものは、一向
企業側には酬いられないで一方的に
労働者のほうにばかり流れてしまうというのがアンフエアーでございます。そこで私
どもの考えといたしましては、
作業の
分量が
企業努力によ
つて上つて来たというふうに考えられるものは、
企業の取り分にするのが当り前である。こういう
主張に立つものでございます。この点につきまして
組合側といたしましては、きま
つた分量はそのきま
つた分量を
目安にして働いて
収入の増加を図る、ところがその
目安のほうが
引上げられるということになると、自分の
収入が減るか或いはもつとたくさん働かねば、その
金額は取れないという点につきまして、大変に
反対をするのでございます。
労働者の
立場から考えれば、或る
意味でそれは理解できるのでありますが、
能率がどんどん
上つて行き、
炭鉱の
復興する
過程においては、その
炭鉱の
労働者側の
言つております点は妥当でないのでございます。その点十分説得いたしまして、
理論としては
組合側のそれを納得せざるを得んような
状態にあろうかと存じます。ところが
両方の二点の問題につきまして、一点につきましてはもう
炭労側としては
主張すべき
根拠を失い、ただ一点の点は
標準作業量の問題で
押し合いへし合いのまま
ストライキに入
つたので、
ストライキが
長期に相成りまして、
双方の間にやはりこれは妥決する必要があるということが、
両方の
執行機関の間で一応話が進みまして、先月の二十四日以来妥決するための、解決するための
努力が払われたのでございます。そこで私
どもとしては従前の
考え方を、
妥決収拾のために変えまして、飽くまで
標準作業量を改正是正して、そうして
炭鉱の
復興というものを実現し、それによ
つてコストを低減し、それによ
つて安い
石炭を供給するという
考え方が、
組合側としてそんなに喉にひつかかる骨であるなら、それでは
賃金というほうでは
組合側としては
理論的な
根拠がないのであるから、
賃金の問題については私
どもの
主張しておる
通り物価は
上つていないし、
生活の
実態はよくな
つて来ているし、及び他
産業に比較しても悪い
賃金じやないというので、これで我慢してもらいたい。その
代り標準作業量は今回に
限つて目をつぶろうというのが、先月の末に提案いたしました
当方の
最後案でございます。ところが不幸にして
組合側は何らかの事情がありましたと見えまして、それを容れるところとなりませんので、そのまま
対立状態が更に継続いたしまして、そこへも
つて労働大臣の依頼によりまして
中山中労委会長が
斡旋に乗り出すことになられました。私
どもに対しましても、
労働大臣からこの
斡旋によ
つて解決するようにという
勧告がございました。
労使双方に同
内容の
勧告がございまして、私
どもは
中労委会長の
斡旋下に現在立
つておるわけでございます。そこで
中山会長が丸々三日間に
亘つて、
双方の間に立たれて
斡旋をされて、正確に言えば昨日の零時過ぎに、
労使双方の間に
斡旋の案を提示して申入れがあ
つたわけでございます。これにつきまして
当方といたしましては、早速昨日から、本日もそうでありますが、
検討を加えているというのが現在の
段階でございます。ただ、まだここで決定的なところに入
つておりませんので、私から申上げることは如何かと思いますけれ
ども、
斡旋案の
内容に対しましては、私
どもとして不満な点を持
つておる。概括的に申上げますれば、今申し上げました
標準作業量の問題に関しましては、原則的にはそういうものは
引上げるべきであるけれ
ども、この際は
据え置きとするということでございます。
従つて標準作業量の問題は、先には
賃金の額を向うも下げればこつちも下げるということでおりますのに、次に申上げるように
賃金の額を
引上げて、而も
標準作業量は
据え置きとするということは片手落ちだと思うのであります。この点が第一点であります。
それから
賃金の額を七%
引上げる、ほかに
月額三百円の一種の
生産奨励のための金を支給するというのがその第二の
斡旋案の
内容でありますが、これにつきましても、私
どもとしては
賃金をこの際
引上げるということにつきましていろいろ
検討いたしました結果、その
根拠がないという
判断を持
つておるのであります。而も
中山会長の示された
引上げの
根拠につきましても、私
どもとしてはまだ納得できない節が多多あるのでございます。例えば一、二、三というふうに
理由を挙げておられますが、その前提として、やはり
炭鉱の
賃金は他の
産業と比べて
劣つてはいない、又
物価は去年の秋からずつと安定しているということは、
斡旋案の中にも容認しているのであります。C・P・Iは一・五%しか
変つていないというふうにその点も認めておられながら、更に七%以上の
引上げをするということの
根拠につきましては、我々は甚だ疑問を持つのでございます。正確に
検討した上で、又我々としては態度をきめることと相成ろうと思いますが、例えば昨年やはり
中山会長の
斡旋がありまして、大巾な
賃金引上が行われました。その際の
中労委会長の
引上の
根拠といたしましては、
物価が
CPIで一四%
上つている。
炭鉱の
利益の
状態は前期に比して著しく高くな
つている。他の
産業に比べて凡そ
月額二百円は低い。だからこれらを勘案して、約二割の増額をなすべきである。こういう案を提示されたのであります。今回はその三つの点につきましては、すべて逆にな
つているのでございます。同じ地位にあるかたの
斡旋案が時によ
つてそう
変つていいものであろうかという感じを受けると共に、今度は昨年の十月から現在に
亘つてどう
違つておるかということを判定されるならば、或る
意味で又了解できるのでありますが、今年の一月から他の
産業については八、九%
上つている。併し
炭鉱はこの一月からは二%しか
上つていない、それはその筈でございます。昨年の十月に一カ年の
協定をしたのでございますから、而も昨年の十月に二割以上の増収を図るように
協定をしたのでございますから、その協約のままで一カ年推移するのは当り前でございまして、二%上るのもおかしいくらいなんであります。それとその他の
産業が、
勤労統計によりまして累次若干パーセント
上つているということと比べられているのは如何でありましよう。去年の十月以降、十月の
時点において、
両方のものを一応
標準の
基礎におきまして、それを基準に
現状を
推測つて、比べられるということなら相わかります。
CPIについて
もさようでございます。
CPIについては、
CPIといいますと
実質家庭生計調査のことでございますが、これを比較されるにいたしましても、同じ
時点から出発して現在どうな
つているということを、現在を推し測られるならば、私
どもも
資料として了解できるのでございますが、これ又私
どもとして了解できない節がございます。例えば今年の一—三月の間の
実績を取りまして、それを
基礎にして一〇%ですか、
資料がございますが、
上つているというに対して、今度は
炭鉱の
賃金の上昇が今申しました約二%
程度だ。比べるものが違うのでございます。
炭鉱の
CPIを使いますならば、私
どもとしては四二%
上つているという事実の
数字を持
つているのであります。そういうふうに、まだ公式に確定的に申上げる
段階ではございませんけれ
ども、示されたるところの
内容につきましても、多大の疑点を持
つているわけでございます。なおこの
斡旋によ
つて賃金を上げるというふうにいたしますと、
トン当り百八十八円
コストが高くなる。こういうことを
中山氏は申しておりまして、それは影響はあることはあるが、今直ちに
炭価に響くというようなことなしに吸収されるのではないかと思うと、こういう
判断をと
つておられる。その見解に対しましては私
どもは納得することはできないのでございまして、
炭鉱の
経営の実情というものは非常に困難な而も
長期の見通しに立てばますます困難な
状態でございまして、なまやさしいものでないのでございます。その点についてもいろいろと
検討をいたしております。現在の
段階におきましては概要この
程度でございまして、私
どもとしては成るべく早期に問題を解決したいという一念には燃えておるわけでございます。よろしくお願い申上げます。