○成瀬幡治君 私は
日本社会党を代表いたしまして、
政府提案による
恩給法の一部
改正について若干の
質問をいたします。その前に、
吉田総理に私は
質問するように実は用意しておつたのでございますが、
総理は例の所労によ
つて出席ないのであります。参議院軽視なのか、或いは政治に対して熱意と
責任感を失われたのかわかりませんけれども、そういう熱意と
責任感のない人に、
お答えを願うのも如何かと存じまして、(笑声)
官房長官に、副
総理としての緒方さんに御
答弁を願いたいと思います。
そこで先ず緒方副
総理にお伺いするのでございますが、
軍人軍属関係の
恩給法の停止は覚書に基く
勅令六十八号でなされて、その精神は平和憲法とも重大な
関係があるのでありますが、傷病者並びに
遺族に対する今日までの
政府の
態度或いは施策などを
考えて参りますときに、今回の
処置はどうしても納得のできない点があるのであります。
軍人恩給の
復活によるところの今回の
改正は、どういう精神に立脚してなされておるのか。
戦争の犠牲者は単に
軍人だけでないのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)どういう精神に立脚して今日のこの
改正をなしたのか。警察法、独禁法などと共に、占領政策の是正であるとか、或いは行過ぎの点を是正するのだというふうなことも承わ
つておるのでございますが、そういう
意図によるのか、
お答え願いたいのであります。
第二点は、憲法第二十五条、
国家公務員法、マイヤース勧告など、いずれも
社会保障制度の確立を示し、
社会保障制度審議会が二回に亘
つて厚生
年金保険、公務員の
恩給、
軍人恩給などの
年金制度について勧告並びに
意見書を発表しております。その
内容は、貧困を防ぎ、
国民の最低
生活を保障するためには、現行法のごとく各種
年金制度がその理念の明確さを欠くことによ
つて、甚だしく不
均衡に陥
つておる点を
指摘し、近代的な
社会保障の理念に基いて、総合一貫性のある公平にして而も
均衡のとれた
制度に整備すべきであると、その必要性を強調しておるのであります。即ち
社会保障制度の確立によ
つて問題を総合的に解決すべきであると主張しております。これは全く私ども同感でございまして、そうして間違いのない正しいことだと思います。
政府はこの正しい勧告、
意見に対しまして、あえて耳や目を塞いで、
恩給法特例審議会を新らしく設け、その
建議案を中心として単に
軍人恩給復活のみを主点としたところの
法律改正を今回提案しておるのでありますが、
政府は
恩給制度、
年金制度に対して、基本的に如何なる
態度を今後とろうとするのか。抜本的、総合的
見地から、
社会保障制度の一環として
恩給制度を再検討する用意があるのかないのか、併せて
お答えを願いたいのでございます。
現行法で社会立法として一応
考えられるところの健康保険、
生活保護、
社会福祉、児童福祉、それに厚生
年金、
恩給などありますが、これらはすべてそれぞれ違つた行政機構の上で、それぞれ独自の立場から問題が取上げられております。そのために独善的に、名目的に終始してお
つて、
国民生活の安定、民生の安定には、
政府が言うがごとく、又期待しておるようには実績を上げておらないのが事実であります。
政府は本当に
国民生活の安定、民生安定のことを真剣に
考えられ、その施策を進めるというなら、この雑然としたところの理念の下で、不公平、不
均衡、而も独善的なこれらの施策を
社会保障制度の理念の下に総合的に解決を図るべきであると
考えます。これらの社会立法は、口先だけで
国民をこまかすためのものであり、
国民に言訳をするために
法律を用意しているのだと、こう
政府が言うなら問題は別であります。現下
社会保障制度の確立は急務あるにかかわらず、今回単に
軍人恩給のみを
復活させるところのかような
法案を提案し、基本的、根本的に問題の解決を見送
つてお茶を濁そうとしておるのでありますが、その
態度は全く了解に苦しむ
態度であり、研究或いは準備が不足してお
つて出せなかつたというならば、その怠慢の
責任は免かれ得ないものがあるのであります。
吉田総理は、道義の高揚をしばしば説かれるし、又社会不安からの暴動に備えるための保安隊の設置、増強を力説されて参りましたが、およそ道義の頽廃であるとか、社会不安の原因は、時の政治が公平、明朗、而も民主的に行われているかどうかにかか
つておるのであります。或る一部の者のみにうまい汁だけを吸わして、他方に犠牲、負担を強要するような不公平な独善的な施策は、
国民の間に不平不満を起させ、社会に動揺を与える以外に何の役にも立たないのであります。
均衡のとれた公平な犠牲、負担は、たとえ
国民は苦しくとも、不平不満を言わないものでございます。保安隊を設け、警察法を
改正して、威嚇と権力によ
つて社会不安の除去と防止に努めましても、それは防ぎおわせるものではありません。
国民生活の安定こそが、すべて唯一にして根本的解決策であります。それであるにもかかわらず、民生安定
関係費は七百三十億で、県
予算の七%にしか過ぎません。而もこの割合は、
昭和二十五年度から据置のままでありましたが、今回これに
恩給関係四百五十億は加わりますが、それでも余りに少な過ぎるのであります。七百三十億と四百五十億の計千百八十億で総
予算額の約二%に当るのでありますが、諸外国の例をとりましても、これは余りに少な過ぎます。これでは今次
戦争犠牲者に対して不公平、不
均衡な差別的な取扱いをしなければならない結果にな
つてしまいまして、
国民生活は安定しないし、又不公平、不平不満から来るところの社会不安は取り除けないのであります。従
つて威嚇と権力、力の政治というような結果になるのであります。力の政治は、即ち政治の貧困から来るのであります。力の政治は、
国民に如何に悲惨、苦しみを与えるかは過去の歴史が雄弁に物語
つております。吉田
内閣がすでに政治に力を必要とすることは、公平な民主的な政治をやらない物的証拠であります。向井
大蔵大臣は、この際
国民生活の安定と
戦争犠牲者が、公平にして
均衡のある取扱いを受けるために準軍事費
予算と目されるところの千六百五十億と前年度残の六百億、こうしたものをすべて
恩給制度などを含めたところの
社会保障制度に廻す用意がないのか。又追加
予算を
考えておるかどうか。この点をお伺いするのでございます。
次に、本
法案の提案
責任者であるところの
緒方官房長官にお尋ねしますが、今次
戦争によるところの犠牲は、単に
軍人のみではない。国の補償、救済は
戦争の犠牲、被害を受けたすべてのものに対して公平にして納得の行く
処置がとられなければならないのであります。今次
戦争によるところの最大の被害者は般の
国民であります。特にお気の毒に堪えないのは、
一般人で空襲、爆撃などで死亡された人、傷を受けて一生不具の身になられた人、又勤労学徒、徴用工、挺身隊、勤労報国隊、それから船舶
関係などで死亡し又は負傷した
人々であります。
政府はこれらの人に対して補償をしたというのか、又生命は保
つておるとしても、戦災によ
つて職業を失い、家を失い、その
生活の根拠を失つた場合には、
国民に何の体補償をしたと言うのでありますか。
戦争の犠牲は単に
軍人のみではありません。差別待過を何故やるのか、又何故般
国民とこの
軍人との差別待遇を行うのか。又
法律に種々除外規定を設けておりますために、同じ
軍人であ
つても差別待遇を受けるのであります。即ち連続勤務七年以下の者は、
退職金すらもらえないのであります。又加算を認めておらないことによ
つて多くの
軍人は何らの恩典にも浴せないことになるのであります。これらの人が
一般応召兵であることは勿論であります。これでは
軍人の中の特権
階級たる職業
軍人のみが応召兵の犠牲によ
つて救われることであ
つて、(「その
通り」と呼ぶ者あり)特権
階級職業
軍人優遇のために本
法案を提案したというのであるか。又負傷者の中で七項症以下二日症までは、終戦時の兵にして最高万八千円の時金の
支給がなされておるのですが、これで事足れりとし除外したというのでありますか。無給軍属は、死亡し負傷した者でも全部が現在まで何らの国からの恩典を受けておらないのであります。これらの人は放
つておけばそれでよい。こういう
態度でありますか。数え上げれば、私はきりのない不
均衡、矛盾がこの中から出ると思うのであげますが、
官房長官にしつかり
お答え願いたい点は、今次
戦争の犠牲者は単に
軍人のみではない。
戦争犠牲者すべてが公平に
均衡のとれた補償を受けなければならないと思うが、何故に差別酌取扱いをするのか。旧
法律に準拠したから止むを得ないと言うなら、国の
保護は万人に対して平等であり、基本的原理に基いて悪法は潔よく改めてやるべきが最も妥当だと思うが、(
拍手)どうしてこうした差別待遇をしておるのか
お答え願いたい。
第二点は、先に述べましたところの補償や救済から除去され、取残されておる人たちへの
対策はどうな
つておるのか。第三点は、
一般年金に対しまして、公務員給与のベース・
アップがなされたときに、いつも問題になるのでございますが、今度のこうした
年金制度に対しては、公務員のペース・
アツプがなされるときに同じようにやるのかどうか。この三点をつ明確に
お答え願いたいのであります。
なお副
総理としての緒方さんにお伺いしますが、
法律の附則の第二十四条の第二項で、
戦争の元兇たるA級戦犯に対しまして、拘禁が解除されたときは
恩給その他を
支給するというのでありますが、B級、C級戦犯は別といたしまして、
戦争の
責任者であり、元兇であるA級戦犯に恩典を与えられて、そうして他方多くのこの
戦争犠牲者を見向きもしないのは全く了解に苦しむのであります。公務員の
恩給は、懲役に処せられてさえ
恩給権は消滅するのであります。矛盾も甚だしいものがあります。今次
戦争の
責任は体誰が負うのか。誰が
責任者と
考えておるのか。平和を念願している多くの
国民に与える影響並びに世界の国々に及ぼす影響も重大と
考えますから、本
法案の提案の狙いが何であるか。これと
関連して、一つ
お答えを願いたいのでございます。
次に山縣
厚生大臣に伺いますが、
戦争によるところの傷病痍者で現在なお治療を受けるために療養所或いは国立病院に入
つておるのでございますが、
昭和二十四年四月以降、国庫補助の減額と国立病院、療養所の独立採算制のため、入院患者に対して
厚生省が勝手にこの人は扶養者があるのかないのかを断定いたしまして、扶養者のある者に対しましては、入院費を請求しておるのであります。そうしてその支払がなされないときは、こういうことが書いてあるのであります。「種々御都合もございましようが、御支払が遅れますと、貴殿に対し御迷惑をかけるような
手続を執らなければなりませんので、何月何日までに是非御払込み下され度く」云々と、こういう請求書が出されておるのですが、これは言葉は丁寧でも、支払がなされない場合は病院から、療養所から追出すということであります。傷病痍者にとりましては、全くの脅迫状であるのでありますが、傷病痍者の家庭を
考えて参りますとその
生活の中心を失つた家族は自分たちの
生活を支えるのが、私はやつとだと思うのでございます。一体こういう人たちは、今回の
改正によ
つて優遇されるのか。もう脅迫状をもらわないでもすむのか。この点を
お答え願いたいのでございます。次に、傷病痍者に対するところの職業斡旋であるとか或いは職業補導をどういうふうにされておるのか。私は大臣といえども、十分であるとはお
考えにな
つておらないと思う。今後どうされるか
お答えを願いたいのでございます。
最後に
官房長官に伺いますが、本
法案は要するに
戦争犠牲者の犠牲の上に職業
軍人たる特権
階級を作り出すものであり、
戦争犠牲者の多くを除外するための
法律であります。不公平と不
均衡を社会に産み出すところの
法律であります。
内容におきましては、家に対するところの観念は
恩給法と
援護法とが違
つておるのでございます。公務員法にないところの雇用員を
恩給法では認めておるのでございます。常勤的非常勤職員に対して
恩給はどうするのか。とにかく矛盾と穴だらけの
法案でございます。困苦と窮乏に喘ぐところの老人、未亡人、傷病痍者、孤児等は、すべてが旧
軍人関係ばかりではございません。国の
保護は、万人に対して平等であるべきが鉄則であります。一部の特権
階級の満足をさせるがために、他方に多くの犠牲を強要するような、こうした片手落の本
法案は、この際あつさりと撤回されて、
社会保障制度に立脚されて再提案をされるところの意思があるのかないのかをお伺いしまして、私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣緒方竹虎君
登壇、
拍手〕