○公述人(
井藤半彌君)
一橋大学の
井藤半彌でございます。御命令によりまして公述いたします。実は二月二日に同じく衆議院の
大蔵委員会の
公聴会で同じ法案について卑見を申述べました。それと大体一致するのでありますが、それから後多少調査したもの、その他もございますので、あのとき申述べなかつたことをも付加えさして頂きます。大体併し同じことになると思います。
そこでこういう
税制改正法案を取扱うについて、どうしても二つの立場から取扱わざるを得ないのであります。一つは一般的なその背景、それからもう一つはその具体的な
改正案の内容です。そこで一般的な背景と申しますと、
租税制度全体の概観であります。これはまるで学校の講義みたいなことになるのでございますけれども、一応これを述べておきませんと、具体問題に入り得ないのでございますので、極めて簡單に一般的なことを申述べさして頂きます。一般的なことと申しますと、現在我が国の租税の数量と種類はどうかという問題であります。そこで先ず数量の問題から入ります。これはもう釈迦に説法のようなことを申上げて恐縮でございますが、極めて簡単に申上げます。二十七年度の予算によりますと、租税及び
印紙収入が六千三百八十一億、それから租税と同じ意味の
専売益金が千二百十三億、合計いたしますと広い意味の国税は七千五百九十四億であります。それから
地方税でありますが、この推算は絶えず変つております。私が今日申しますのは、一番新らしく、最近に
地方財政委員会の事務局で出した数字でありますが、
地方税の合計は二千九百二十四億と言われています。両者合計いたしますと、国税、
地方税を合計して一兆五百十八億であります。例によりまして租税の
国民所得に対する割合、これはもう皆さんも……これはいろいろな資料が出ているのでありますが、租税の
国民所得に対する割合は二十七年度は二一%、二十六年度同じく二一%であります。二十五年度は二三%、二十四年度が二九%、二十三年度が二四%、二十二年度が一八%、ずつと飛びまして昭和十年度一三%、そこで二十七年度の二一%というのは、昨年とこの
パーセンテージから言いますと全然同じことであります。それから国税だけをとりましてもやはり同じことで、国税だけをとりますと一五%、昨年も国税だけをとりますと一五%、だからまあ昨年と今年と少くとも租税の
国民所得に対するこの比率から言うと同じことだ。これが当てにならんということは多くのかたが言うことであります。そこでこれはもう昨年のこの参議院の公聽会で申上げたのでありますが、これでは余りに大雑把過ぎるので、もう少し真相に近い数字といたしまして、この
エンゲル係数を使いまして、この
国民所得から食費に当る部分を引いた残り、これがいわば
負担能力の最大限と解釈いたしまして、そうして租税のそういう意味の
負担能力に対する割合を計算いたしました。これは昨年も計算してありますが、今年は係数が改まつただけであります。そこで二十七年度の
エンゲル係数は幾らと見るか、これは推計の問題でございますが、今年の一月の
エンゲル係数が五一%であります。それで今日は五一%という数字を使います。それから去年の
エンゲル係数が、これも私の目の子の、概算でありますが五四%、二十六年度が五四%、それから二十五年度がこれは
エンゲル係数でございますが五五%、二十四年度は六〇%、二十三年度は六三%、二十二年度が六三%、十年度が三〇%、これは
エンゲル係数によりまして食糧費を計算し、これを
国民所得から引いた残り、これを分母におきまして、分子にこの祖税の金額、そして割算いたしますとどういう答えが出ますかというと、昭和二十七年度は四三%であります。昭和二十六年度は四六%、昭和二十五年度が五〇%、二十四年度が七二%、二十三年度が六四%、二十二年度が五一%、昭和十年度が一九%となつております。それでこのあとの今申しました数字のほうが、前申しました祖税の
国民所得に対する割合よりはより真相に近い数字であるということは言うまでもないことであります。それを見ますと、二十六年度に比べまして二十七年度はまあ国民の負担が軽くなつておるということになつておるのであります。なぜこうなつたかというと、
エンゲル係数が低くなつたからであります、これは数量の問題、それから内容の問題でありますが、これも極めて簡單に申します。そこで租税の内容がいいか悪いか、一般的に調査するという場合に、これは極めて教科書的なことを申しますが、この租税を直接税と
間接税に分けてどちらが多いかということ、その場合直接税の多いほうがいい、少いほうが悪いということが、これは常識論の問題でありますが、そう言われております。これは私ずつと前から気がついておることでございますが、特に強く主張したいことは、我が日本におきまして直接税とは何か、
間接税とは何かという、この概念がはつきりしておらないことであります。
所得税は直接税だ、それから物品税は
間接税だ、こういうようなことについてはまだ誰も疑義がないのでありますが、直接
消費税であるとか或いは
流通税であるとか……、直接
消費税と申しますと、
遊興飲食税であるとか、
通行税であるとか、
入場税であるとか。それから
流通税……、こういうものが果して直接税か
間接税かということは人によつて皆解釈が違うのであります。それで直接税が何%、
間接税が何%と申しましても、人によ
つて解釈が違うのでありまして、この検討が案外我が日本では行われておりません。それで一番普通に行われている解釈は、御案内の通り、直接税というものは国家がその税金を負担せしめようと思うものから直接取る税金が直接税、
間接税はそうでないものから取る、
価格引上の形で転嫁せしめて取る、これが
間接税だ。これはまあ一番普通の解釈でありますが、そういう解釈をとりますと、
遊興飲食税とか
入場税とか
通行税という、これはいわば直接税なのであります。
消費税でありながら直接税になる。これはどうも不合理ではないか。私は次の解釈のほうがより正しいのではないかと思います。それはどういう解釈かと申しますと、直接税というものは税源即ち所得又は財産を標準としてかける税金が直接税。それから
間接税というものはそれ以外のもの、税源の存在を間接に推定せしめるものを標準としてかける税金が
間接税、こういうふうに解釈すれば、さつき申しました直接
消費税などは皆
間接税に入るのでありまして、私はそのほうがいいのじやないか。というのは勿論どちらでいいとも言えないのでありまして、こういう分類というものは目的によつて皆違います。そこで
財務行政とか何とかいう立場で言えば、さつき申しました分類が或いは便利かもわからんのでありますが、併し大衆が負担するか金持が負担するかという立場から、税金を分類するという立場をとりますと、私があとに申しました解釈のほうがより正しいのではないかと思うのであります。こういう解釈をとりますと、大蔵省で発表しております
分類——大蔵省は三分法をとりまして直接税、
間接税、その他のものというのでありますが、大蔵省の言うその他のものというのは、すべて
間接税に入るのであります。私はどうもこの解釈のほうがよりいいのじやないか、そういう解釈をとりまして、これは日本の学界におきましても、それ以外のところにおいても、割合に見当の立たないものでありましてこれは一つ問題があるのつではないかと思つております。そういう意味であとのほうの意味に解釈いたしまして、日本の国税を、国税だけでありますが、直接税と
間接税に分類いたしますと、昭和二十七年度は直接税は六〇%で、
間接税は四〇%であります。それから二十六年度もやはり直接税は六〇%で
間接税が四〇%であります。それからあとはもう簡單に申上げます。二十五年度、これは直接税だけ申上げます。従つて一〇〇から引けば
間接税が出るのでありまして、二十五年度五六%、二十四年度五七%、二十三年度五一%、二十二年度五三%、それから戰争中の真最中の昭和十九年度が六七%、昭和十年度が四一%となつております。まあこれを見ますと、昭和十年の頃は直接税が少なかつたが、戰争中は直接税が重くなつて来た。これはまあ
租税体系という点から行くと非常によかつたのであります。ところが
終戰後又直接税の比率が減つて来たのでありますが、又去年あたりから法人税の増徴などによりまして、直接税が殖えて来ております。そこでまあ大雑把な学校の
教科書論といたしましては、日本の
租税制度が最近一両年内はいい傾向に向つておるということになるのであります。これも私いろいろな機会に申上げることでありますが、現在我が日本におきましては直接税、
間接税の区別というものは無意味に近いということは、直接税は金持が負担する、
間接税は大衆が負担すると申しましても、現在我が日本におきましては
所得税その他の直接税というものは、とかく
大衆課税、大衆が負担する
大衆課税的色彩が強い、だから直接税も大衆が負担する、
間接税も大衆が負担する、と申しますのは、直接税といいましても、
所得税の
納税者の中核をなすものはいわば大衆と目すべき人々であるからであります。これについても私前からいろいろな計数を申しておりますが、今年又違つた……少し変えて申しますと、数字を変えるだけでありますが、それは
所得税の
申告納税であります。
所得税の
申告納税の昭和二十六年度のもの、これの三十万円以下のものをとります。この三十万円というものは
基礎控除その他控除前の所得でありますが、それで三十万円以下の者は全体の何%を占めておりますかといいますと、
申告納税者の人員三百八十万人のうち三十万円以下のものは八二%、それから
申告納税の所得高の合計が八千四百八十九億円のうち六〇%は三十万円以下のものであります。それで三十万円というと非常に大きいようでありますが、井藤でも三十万円を突破しておるのでありまして、これは昭和十年頃の
貨幣価値で申しますと、大体一千円であります。昭和十年頃とこの頃と比べますと、
物価指数は大体三百倍になつておりますので、三十万円と申しましても、昭和十年頃の
貨幣価値で申しますと一千円、昭和十年頃は御案内のように第三種
所得税は千三百円が免税点であつたのでありますからして、現在はどうかというと、昭和十年頃だつたら
所得税を拂わなくてもよかつた連中が
所得税の大部分を負担しておるという状態になつておるのであります。これは一例であります。もつとほかの角度からもこういう証明はできると思います。それで直接税、
間接税と申しましても、現在我が日本におきましては、この分類はやや昔のような意味を持つておらない。これを裏から申しますと、現在我が日本におきましては
間接税というものにも存在の理由がある、ということは直接税も
間接税も大体同じ階級が負担するのです。ところがこの
間接税は納税の便宜とか、それから
納税者が税金を拂うことについて選択ができるとか、その他いろいろの便利なことがございますので、そこで
納税者の便宜などを考えまして、同じ取るのだつたらもう暫らくの間は
間接税に重点を置くほうがいいのじやないか、これは我が日本が遺憾ながら
余り社会経済状態が進んでおりませんので、それに対応した税制が必要となつて来る。だから当分の間やはり
間接税中心主義というものが意味があるのじやないか、少し脱線いたしますが、そういう立場から申しますと、
遊興飲食税の半減論であるとか、或いは
入場税の
半減論等は私は反対でございます。これは
地方税の問題でございますが……、一方で
間接税中心主義というものを唱えながら、典型的なる
奢侈消費税を半減しようということは、理窟として成立たないのじやないかと思つております。脱線いたしましたので元へ戻します。念のために申上げますが、私は
間接税を重くせよというのではございません。私は直接税も減税して頂きたい。
間接税も減税して頂きたい。ですが将来減税する場合には、直接税を更に減税して頂きたい。これが私のいわんとするところでございます。ちよつと長くなりましたが、これで一般的なものは終りまして、そういうものを背景といたしまして、今度の問題のこの
改正案について意見を申上げさせて頂きます。
今度の
改正案は皆さん御案内の通り、これは部分的な改正である。又その一部はすでに昨年の秋に
臨時措置として国会を通過したものを平常化するものでありまして、割合に私は問題は少いと思うのであります。それで個々の点について私は賛成、反対の意見を申述べますが、結論的に申しますと、大体賛成でございます。それでは私全部賛成かというと、必ずしもそうではございませんので、そこで個々の問題について意見を申上げさせて頂きます。部分的にいうといろいろやはり問題があるのであります。先ず
所得税から申上げます。この
所得税につきましては、果して実質的に見て減税であるかどうかということが問題になつております。成るほど
基礎控除が上つておるとか、税率は下つておる、併しながら貨幣の価値が変化しておるのだからして、実質的にみて減税でなくて、單なる制度の調整だという説もあるようでありますが、それで果して
所得税だけを抽出して問題にする場合に、実質上の減税かどうか、これは私は結論的に申しますと、実質上のやはり減税だと思うのであります。それは何によつてこれを申しますかというと、
貨幣価値の変化というもの、
貨幣価値の下落というもの、物価の騰貴というものと、それから
所得税制度の改正を比べていうのであります。例えて申しますと、これも申上げるまでもないことでございますが、例えば十万円以下のものに対しては一%の
所得税、二十万円のものには例えば二%の
所得税がかかつておる、こうした場合に貨幣の価値が半分になる。それから国民の所得はノミナルで倍になる。そうすると例えば従来十万円のものに対して一%、二十万円になつてもやはり当然一%でなければならないにもかかわらず、税制が変らないと二%の税金がかかりますので、これは増税になる、そこで税率を二十万円のところを一%に下げましても、実質的に見れば少しも減税になつておらないのであります。こういうはうな建前で
貨幣価値の変化というものと、それから税率その他を比べて、果して実質的にみて減税になるかどうか、これを調べてみたのであります。これもやや話は脇にそれますが、第一次
シヤウプ勧告におきましては、あらゆる
所得階層のものについて減税になつておるということを
シヤウプ使節団の人々は言つておりますが、あれは私は間違いであると思う。あれは
貨幣価値の変化というものを見ておらないのでありまして、これは
確か衆議院の
大蔵公聽会であつたと思いますが、
シヤウプ勧告においてすべての
所得階層に対して減税であるというのは必ずしもそうはいえないのであつて、あのとき私数字を挙げて申しましたが、
シヤウプ勧告におきましては、一部のものは実質的に見て増税になつておつたのであります。今の
貨幣価値で計算してみますとどうなりますか、今度の場合は私は大体実質的に見まして減税になつておると思うのであります。それはいつと比べてかと申しますと、昭和二十五年と比べて、二十五年というと
シャウプ勧告による新税制の実施されたとき、それと現在と比べますと、確かに実質的に減税になつておる。但し私の計算では
地方税は含んでおらない、
市町村民税も入つておりませんから御注意願いたい。あの
シヤウプ税制と現在の
改正案と比べると、実質的には減税になつております。それは現在物価は何倍になつておるかということに関係するのでありますが、この場合
物価指数を比べますと、
消費者物価指数は、これは全都市を取りました。東京都でなくて全都市の
消費者物価指数は昭和二十五年四月が一二四・三、ところが最近の
物価指数と申しますと昭和二十六年十二月が一六二・八であります。そういたしますとこの間に約三一%、大体三割
消費者物価指数が高まつております。それから日銀の
卸売物価指数をやはり使いますと、五七%の騰貴となつております。一方を取ると三一%、一方を取ると五七%と大分違うのでありますが、どちらを取るのがいいかと申しますると、これはやはり
国民生活に関係あることでございますので、
国民生活に直結いたしております
消費者物価指数を取るほうがより理論的と思いますので、私は
消費者物価指数を取つて、大体三割物価が高まつておる。これに比して
基礎控除、
扶養控除はどうかということをちよつと見てみますと、そういたしますと
基礎控除でありますが、昭和二十五年の
シヤウプ税制の実施されたときは
基礎控除は二万五千円でした。今度の
改正案ではそれが倍になつて五万円になつておりますから、これは確かに実質的には負担は軽減になつております。それから
扶養控除でありますが、昭和二十五年初めの
シヤウプ税制におきましては、一人について
扶養控除は一万二千円でありました。今度は大分細かくなりまして、三人までは二万円になつております。これもやはり三割以上であります。一万二千円の三割増にしても二万円になるのであります。これは実質的に減税であります。ところが四人目からどうかというと、今度の
改正案は一万五千円になつております。そうすると、ちよつと細かに計算いたしますと、一万二千円の三割増になりますと、一万五千何百円ということになるのでありまして、これはやや三割を割るのでありますが、併しながらこれは大体
物価指数に比例していると見て大なる誤まりはないだろう。四人目からでございますので大体これは合うと思います。それから税率について申しますと、一々申上げませんが、例えば
シヤウプ改正におきましては二〇%というのは五万円以下の金額ですが、今度は八万円以下である、二五%はどうかというと、これは
シヤウプ税制では二五%は五万円超であるのが、今度は八万円超になつている。これを一々検討いたしますと、全部三割以上の
貨幣価値の開きということが考慮されております。
以上申しましたことは皆やはり実質的に見まして、一昨年よりは減税になつていると言えるのであります。ただ減税になつているとは言えない、むしろ増税になつているというのが一つございます。それは何かというと、
勤労控除の点であります。
勤労控除につきましては、我が国におきましては従来
シヤウプ勧告以前におきましては二五%であつたものが一五%になつた、これが少な過ぎるということが絶えず問題になつているところであります。この一五%の
パーセンテージはこのままといたしまして、一五%と言つておりますが、最高はどうかというと三万円であります。三万円と言いますと、
勤労所得二十万円以上の人は
幾ら勤労控除があつても三万円以上は引いてもらえないということになるのであります。これは
シャウプ税制以来今日まで据置になつているのであります。併し今度の
税制改革によりましては、
貨幣価値の変化ということを考えまして、ほかの点につきましても、例えば
簡易税率を適用する範囲をどうするとかいうあらゆる点について、多少
貨幣価値の変化ということが考慮されているにかかわらず、
勤労控除の最高三万円だけが据置だということは、これは私は再考を要するのではないか、この分はいわば増税なつているのであります。この点は幾らにしようと具体的に言われると困るので、政府の收入の問題、その他いろいろの問題がありますが、この三万円据置ということはほかとの釣合上どうかと思うのであります。念のために申上げておきますが、私は
貨幣価値の変化に
従つて基礎控除、
扶養控除、税率等を自動的にスライドせしめよというのでございません。そんな簡單なことでは
国家財政はやつて行けないのでありまして、
国家收入の必要とかその他いろいろの事情を考えてやらなければいけないので、これは自動的にスライドせしめよとは言いませんが、併しながら考慮することは必要ではないかと思うのであります。それが一つ。
それからもう一つ、やはり今度の
所得税改正ついて私が賛成できないことは、それは
讓渡所得の問題、相続の場合の、
讓渡所得相続という形で財産の移転があつた場合に、この
讓渡所得が計算されますが、これを非課税とするということ、これは私は今度の
税制改革においては改惡じやないかと思うのであります。この問題は
相続税ではございません、
所得税でございますので、この点御区別をお願いしたいのであります。それでこの
讓渡所得課税でありますが、これはいろいろのものに
讓渡所得税がかかりますが、一番主なものは不動産、それから更に重要なものは
有価証券であります。殊に株式であります。そこで株式の
讓渡所得をかけるということは、配当した場合には個人に
所得税がかかる、配当金に対しては個人に
所得税がかかる、それを配当しないで
社内留保を多くする、そういう形で個人が拂う
配当所得税の脱税、ということは少し強過ぎますけれども、個人の負担を軽くする、そういう目的で配当しないで
社内留保をするというようなことが大きな
家族会社ではよく行われているのであります。それで、これは讓渡したときに計算いたしまして、そうして、そこで過去において拂われておらなかつた
所得税の一部を取るということは、或る面、確かに合理的なものであります。それで相続の場合にはやはり過去において拂うべかりし
所得税を取ろう、これが日本の現行の制度であります。ところが、これを今度はやめることになつたのでありますが、これは私は理論的に見てよくないのじやないかと思うのであります。これによりまして財閥という言葉も強過ぎますが、大財閥が
讓渡所得相続という形で長く
讓渡所得税を拂わない、又別の言葉で言うと、
所得税を拂わないで済むというふうなことがあります。この
讓渡所得課税の問題は皆さん御案内の通り、この
シヤウプ税制、
従つて日本の
現行税制における理論的に言うと一番重要な問題である、ところがこれはなかなかうまく実施はできておらないのでありますが、それが今度この相続の場合にこの
讓渡所得を非課税にするということは、これは改惡ではないか、それで外国の立法例を見ると、
讓渡所得についてはいろいろございまして、英国並びにブリテイツシユ・ドミ二オンスにおきましては、あらゆる
讓渡所得は原則として、原則としてでありますが、非課税であります。そのためにいろいろな脱税が行われるということは、最近戰後に出ましたイギリスの財政学の書物を見ましても、ここに英国の
所得税制度の欠陷があるということを言つておるのであります。ところがアメリカではどうかと言うと、
讓渡所得課税ということは非常に発達しておる。但しアメリカでは相続の場合は
讓渡所得は免税にすると、このためにアメリカの大富豪は
所得税を拂わないで脱税をすると言われておるのであります。何故この相続の場合はアメリカでは
讓渡所得税をかけないかと申しますと、相続の場合は財の移転と言つても、本当の移転があつた、売買があつたわけではないのであります。これはいわば、アンリアライズド・インカムである、現実化されておらない所得、所得と言つても本当の
讓渡所得で、株なら株を売つた場合は現金が入つて来るが、相続の場合は売るものではないので、いわば讓渡、アンリアライズド・インカムで、アメリカの大審院、最高裁判所におきましても、アンリアライズド・インカムを課税の対象とすることについては否定的な立場をとつております。そういう立場もあつて、こういうことになつておるのではないかと思うのでありますが、
所得税制度としては、私はこれはよくない。それで我が日本の制度はアメリカの、少し言葉が強いようでありますが、惡例に右へならえをやつたのでありまして、これは改惡ではないか、更に大袈裟なことを申上げますと、
讓渡所得課税のこういう方面につきましては、日本の制度は理論的に言いまして世界最良と言われておるのでありますが、それは少し大袈裟でありますが、今の点だけを抽出すれば世界最良であります。それが少し惡いと言いますか、理論的に言つて変な方面に向きつつあるということを指摘したいのであります。そこで今度のこの相続の場合の
讓渡所得非課税によつて、誰が利益を受けるかというと、アジみたようなことを申しますが、大相続者、相続財産の多い人が利益を受ける、相続財産の少い人は利益を受けない、何故かと言うと、今度の
税制改革案の
所得税法の
改正案を見ると、山林所得、一時所得、或いは
讓渡所得の合計十万円のものが控除して計算される、そういたしますと、相続の場合は十万円の控除ということは当然適用されて、相続財産の少いものは、これによつて余り恩惠を受けない、十万円控除のほうで恩惠を受ける。そういたしますと、やはりそれを超えた相続財産をもらう人が利益を受けるのではないかと思うのでありますが、そこで何故日本の今度の
改正案でやろうとするのかと言いますと、アメリカのアンリアライズド・インカムの非課税というところに理論的な根拠があるのかも知れませんが、もう一つの基礎は株式の評価が困難である、市場に上場されておる株式の場合はいいのでありますが、そうでない株式の評価は困難である、そういう便宜上の意味にも出るのではないかと思うのでありますが、便宜もやむを得ないのでありますが、近頃の日本の
租税制度その他の動きを見ると、無記名定期預金を復活するとか、課税上いろいろ何とか手加減をするとかいうような、ちよつと課税の一般理論から言いますと、どうかと思われるような傾向が非常に強くなつておるのでありますが、私はこの点は何とかお考えを願いたい。やはり税金は税法通り嚴重に励行を願いたい。殊に今度の
改正案その他によりまして、源泉徴收ということが非常に多くなつております。そのためにこのほうは非常に嚴格に取つておるのでございますが、それとの負担均衡という点から申しまして、賦課税におきましてもやはり嚴重に取つて頂きたいと思うのであります。それで
所得税についてはそれだりけ……。
それから法人税でございます。法人税につきましては、これは極めて今度は問題が少くて、余り問題がないと思うのであります。ただこれに関連いたしまして、我が日本の現行制度におきまして、法人税の欠陷と思うところを指摘いたしたいと思うのでございます。それは御案内の通り、これは法人税とそれから配当金に関係あることでありまして、個人
所得税と両方に関係あることでございますので、さよう御了承願いたいのであります。それで現在の日本の現行制度は御案内の通り、
シヤウプ勧告によりまして、大体法人擬制説的な考えをとつて、法人所得に対して二重課税をするのはよくない、こういう建前をとつております。ところが現在日本では、
シヤウプ勧告も同様でありますが、二重課税をやつております。法人税もかける、個人に配当した場合は個人所得に、二重課税をやる。併しながら二重課税しつ放しではいけないというので、負担緩和のために、個人の
所得税から配当金を二五%引いております。これは日本の現行制度であります。ところがこの日本の現行制度につきましては二つの欠点がある。一つは不合理性であります。もう一つは反社会政策性がある。これを指摘したいと思います。それにつきまして説明の便宜上、皆さんよくお聞きを願いたいと思います。便宜上こういう表を作つて参りましたので、この表を御覧願いたいと思います。この大きな表でございます。そこでこの表を簡單に御説朗いたしますと、私の申上げたいことが皆さんおわかり下さることと思うのでありますが、一番左の上に
所得階層、それからABCDEFGHI……JKLMNはあとにお廻わしいたします。Aは
基礎控除による免税の階層、Bは八万円以下の所得、ずつと行きましてIが二百万円を超える階層、そこでこの次の欄を見て頂きますと、一般個人
所得税、これを仮に一としておきました。この一は何を示すかと申しますと、配当金以外の所得に対する租税であります。配当金以外の所得に対してはAは免税、零、あとは百円について二十円、二十五円、これは税率をずつと書いたものであります。どうぞこのずつと下の備考を御覧願いたいと思いますが、備考の一といたしまして、この備考の一番上の、一番に当るのですが、配当金以外の個人所得百円に対する税額であります。これは別の言葉で申しますとフルストツプでありますが、どういうことになるかと言いますと、法人税が仮に全廃されまして、個人
所得税一本建となつた場合に、配当金にかかる税金、まあそういうことになります。その次が今度上へ戻りまして、法人税であります。二番が法人税、この下の備考を御覧願いたい。備考に書いておきましたように、法人所得百円に対する法人税額、即ち四二%であります。ABCDEFGHI、これは四十二円、この通りこれは問題ございません。この三番は配当金に対する個人
所得税、これは備考を御覧願いたいのでありますが、配当金に対する個人
所得税、これは備考の三番ですね、法人所得が全部個人に配当されたものと仮定いたします。別の言葉で言うならば、
社内留保はないと仮定するのであります。法人所得が全部個人に配当されたものと仮定する。その場合に、法人所得百円から法人税四十三円を控除した残り五十八円、これが個人に配当されますので、五十八円に対する個人
所得税額を各階層、ABCDEFGHIについて計算したのであります。そうすると皆さんに御注意願いたいことは、ここに少し変なことが出て参りまして、Aは勿論免税であります。という
所得階層は、法人税の四十二円は、これは拂わなくちやならないが、配当金に対する個人
所得税は拂わなくてもいい。従つて零。問題はBの八万円以下の階層は、法人税は四十二円拂います。△とありますが、これはマイナスであります。マイナス一円九十銭、△はもう一つございますが、これはマイナスということでございますが、これはどうかというと、むしろ返してもらえる計算になつております。なぜこういうようなマイナスが出て来たかと申しますと、Bの八万円以下のものは、個人所得の税率は二〇%、ところが配当控除率は二五%であります。だからして結局返してもらうほうが多い。この人は配当金以外の所得の部分からこういう二円九十銭だけは返してもらうことになるのでありますので、税率という点から言いますと、そうすると結局どういうことになるかというと、三番の配当金に対する個人
所得税の税率は、結果から言うと〇%、マイナス二・九%、〇%、それから二・九%、五・八%、こうなるのであります。ここに一つ私は不合理な点が現われておると思います。そこで四番は、二番と三番を合計したものでありまして、四は法人税と配当金に対する個人
所得税を合計したもの、つまり三番と三番を合計したもの、それを見ますというと、Aという
所得階層は百円について四十二円、ところがBの八万円以上の階層は、さつき申上げましたようなわけで、三十九円十銭、それからC、八万円以上十二万円までが四十二円、それからこういうことであとはずつと御覧頂きますと、高まつて行きますが、そこでこれがさつき申しました現在の日本の制度の不合理性というものを、この点を指摘いたしたいのであります。八万円以下のところは累進税でありながら却つて少くなつて、Aより税率が軽い。これは私は不合理性という名前で言いたいのであります。もう一つは反社会政策性ということはどういうことかいうこと、日本の現行制度のような、こういう制度におきましては、やはり所得の配当金でありますが、配当所得の少い人には、比較的多い税金がかかつて、配当金をもらう金額、配当金をたくさんもらう、二百万円、三百万円とたくさんもらう人には、比較的軽い税率となるということ、それはどれとどれを比較すればおわかり下さいますかというと、一番と四番を比較して頂きたいのであります。そういたしますと、先ず一番におきましては、A
基礎控除による免税の階層は、配当金以外の場合は〇%、ところが配当金のほうについて法人個人通算すると、四二%重くかかつておる。あとはずつと四番のほうが重いのです。重いのですが、この所得の金額が殖えるに従つて、一番と四番の税率の違いが少くなつております。先ず極端な場合は、Aが〇に対して四二、HIのIを見ますと、Iは五五%、一番は五九・四%、こちらのほうが、四のほうが多いのでありますが、併し開きが少い。そこでこれをもう少しわかるように、これは税率を仮定したのです。線を引つ張りまして、JKLMNは、日本の税率でも何でもないのですが、今度は六〇%という税率がかかる。一番の配当金以外の所得に対する租税六〇%という階層ができる。六〇%、六五%、七〇%、七五%、八〇%、こういうものができると仮定して計算しますと、四番と一番とを比べて頂きたいのでありますが、Jはどうかというと、一番の配当金以外は六〇%、四番は六二・三%、Kは六五%、六五・二%、この辺は大体一致しております。Lになりますと逆になりまして、配当金の場合は法人、個人二重課税であるにかかわらず、六八・一%になつております。二重課税だから税率が重いかというと、そうではないので、高額所得者に対しては二重課税のほうが軽くなるのであります。Mはどうかというと、一番は七五%、ところが四番は七一%になります。Nは八〇%に対して七三・九%、これを私は反社会政策性と言いたいのであります。これは日本の現行制度のようなやり方に内在する一つの欠陷であります。これに対する対策でありますが、どうしたらいいか、その対策は先ず不合理性を除去するにはどうしたらいいか、これは法人擬制説を前提にしての話であります。その場合はこの配当控除率現在二五%、配当控除率を
所得税の累進税率の最低率以下にすればこういう不合理性はなくなるのであります。例えば配当控除率二五%を二〇%とする、
所得税の最低率は二〇%、或いは最低控除率を更に少くして一五%、こういうふうにすればさつき申しましたような不合理性はなくなります。或いは又そういうやり方をするか或いは英国式の課税方法をとる、英国式の源泉徴收の方法をとつて、それから前にかけた法人税をあとから返す、あとから人民に拂戻しをするという形をとれば今の欠陷がなくなるのであります。そこで私は、これはシヤウプの考え、法人擬制説を前提としての話であります。ところが法人擬制説を前提とせないで、法人実在説の立場をとればどうか、そうしますと、この表にございまする五番目でありますが、これがやはり法人実在説をとりまして、法人税引受取配当金百円に対する個人所得であります。これを見ましてもさつき申しましたような理由でありまして、このBのところがマイナス五%という不合理性が出て来ておるということを御注意願いたいと思います。これは日本の法人税の現行制度における欠陥じやないかと考えております。私は法人課税については、結論を申しますと、二つに分ければいいのじやないか、法人と言いましてもいろいろの種類がありまして、この頃のように、法人課税をすると税金が少くなるというので、個人経営と同じようなものが法人の形態を採るということが多い、私は法人を二つに分けて、
家族会社的な、いわば個人経営的な、組合的な色彩の強い法人、これに対しては擬制説的な考えをとる、それ以外の大部分につきましては法人実在的な考えをとるほうがいいのじやないかと考えております。これはやや話が横道に外れましたが、この機会に申上げさして頂きます。
今度は相続税の問題でありますが、今度
相続税は
基礎控除十五万円を三十万円に引上げ、それから税率を引下げました。私はこの案には賛成であります。併しながら引下げたと申しましても昭和十年頃はどうだつたかと申しますと、昭和十年頃は遺産
相続税の税率は最低一%、最高二一%、それに比べますと、今度は二〇%乃至七〇%であり、それから貨幣の価値の変化なんかから申しますと、これはかなり重いものじやないか、現在の制度でも相当重いと思うのであります。それでこれについて問題になりますことは、
所得税率との関係であります。ということは、外国では
所得税の最高率と
相続税の最高率と比べますと、殆んど例外なく
所得税の最高率のほうが重いのであります。数字を申しますと、アメリカで、中央の政府の税金だけではないのでありますが、アメリカでは
所得税が九一%、
相続税は七七%、イギリスでは
所得税が九七・五%、
相続税が八六%、フランスでは
所得税が七八%
相続税が七七%、ドイツでは
所得税が九五%
相続税が八〇%、勿論こういう国は
所得税の制度は日本とは違いますが、こういうふうに軽い、日本におきましても、
シヤウプ勧告の直前は、
所得税の最高八五%
相続税の最高が六五%、ところがこれが逆になつておりまして、これがどうかということが問題になつておるのであります。私は結論的に申上げまして逆になつておつてもいいと思うのであります。日本におきまして
所得税の最高五五%というのは、あの富裕税が補充税としてあるという問題、勿論ドイツでも財産税がかかつておりますが、富裕税があるということが一つ。もう一つ、二番目は個人の勤労意欲と財の蓄積という立場から申しますと、
所得税を軽くして相続税を重くすることが資本の蓄積、勤労意欲から言つて望ましい、そういう考えはアメリカの学界で起つておりまして、私はこの考えが正しい、そういう意味から日本の現行制度はこれでいいのじやないかと思います。日本の現行制度には次の重大な欠陷があるのじやないかと思います。今度の相続税について次の重大な欠点があると思います。それは御案内のように、日本の相続税は二九四五年にアメリカのラデイツクという人が唱えたものであります。これは学問上の名前はアクセツシヨン・タツクスというのですが、これは極めて精密なものでありまして、日本の
相続税、アクセツシヨン・タツクスというのは世界で最初のものじやないかと思います。
シヤウプ勧告によつて最初の税が二つできました。一つは附加価値税、一つはアクセツシヨン・タツクスであります。その内容は皆さん御案内の通り、これは精密なものでありますが、御案内の通り過去から我々がもらつたあらゆる相続財産又は贈與財産を合計して、アクセツシヨン・タツクスで累積して、而も一生を通じて三十万円を引く、これはなかなか面白い考え方であります。併し現行制度には次の欠点があると思うのであります。それは何かと申しますと、貨幣の価値の変化を一年間や二年間無視してもいいのでありますが、一生を通じて計算つしまして、過去のものを累積して税金を計算するということ、これは理論的に申しますといろいろの不合理が出て来ます。この点は不合理でありまして、これをなくするにはどうしたらいいか、これは面倒臭い話でありますが、
物価指数を基礎として過去の取得金額に調整を加える必要があるのじやないかと思うのであります。若し精密なものにするというのならば、そういうことにしなければならないのじやないかと思います。
それから最後砂糖
消費税であります。砂糖の
消費税、これは今度の
税制改革によりますと、関税をも含めまして小売価格の三割程度の税金となるのでありますが、これもいろいろ問題があつると思いますが、これは止むを得ぬことじやないかと思うのであります。
以上申しましたことを結論付けて申しますと、今度の
税制改革というものは部分的な改革であります。個々の点については私は賛成できないところもございますが、大体まあいいのじやないかと思うのであります。それからもう一つ、この機会に申述べさして頂きたいことは、我が日本においてはとかく
税制改革が多過ぎる、勿論社会経済が変れば、それに応じて税制が変るということは当然なことでございますが、余りにも多過ぎる、それで我が日本としては止むを得ない事情もあつたのでありますが、
租税体系に伝統がないのです。ドイツとかイギリスとか、フランスとかは皆伝統があるのです。日本は或るときはイギリス式、或るときはドイツ式、アメリカ式、或いはフランス式等にになつておりまして、これはまあそれも過ちを改むるに憚ること勿れで、改正することはいいのでありますが、余りに頻々と変りますために人民が
租税制度に慣れないのであります。そのために心ならずも、脱税というような意思がなくても脱税をするとか、滯納するとかいうことが人民の側に惡意がなくても起るのでありまして、納税成績の挙らん一つの理由は、改正が余りに頻々過ぎるということじやないかと思うのであります。それも止むを得ない事情でありますが、我々は何とかして税の変化の少いようにして頂きたい。これは私の希望でおります。これを以て私の公述を終ります。