○
政府委員(
土屋隼君)
只今石原次官より
提出理由についての
説明がございましたので、ここに皆さんのお手許に差上げてございます
北太平洋公海漁業に関する
国際条約案につきまして、各条簡単な
説明を加えさして頂きたいと思います。
この
条約は
附属書と共に
日本、
カナダ及び
アメリカ三国の共通の
関心事であります
北太平洋の
公海におきまする
漁業資源を最大に継続的に持続して、その最大な継続的な
生産性を如何にして維持するかということに
条約の目的があつたわけであります。
従つてこの最大の
持続的生産性を維持するために有効且つ適切なる方法はどこにあるかということが
条約の目的でございました。
日本の立場から見ますと、特にこの点について差し加えたいと思いますのは、
戦前日本の漁船は
北太平洋の
アメリカ並びに
カナダの
沿岸地域に出漁することについて、ややもすれば
アメリカ側からの疑惑を招きやすかつたのでありますが、この
条約を規定することによ
つて、当然の権利として行ける部面には
日本は出漁して差支ない。何らの
アメリカの非難も
カナダの非難もないわけでありますし、一方
日本として或る意味で抑止しなければならないという条件のきまつたものについては、
日本側としてそこに
措置を講ずるということが当然に予期されるわけでありまして、その趣旨を目的としたこの
条約であることを先ず第一に申上げなければならないと思うのであります。それからあとで
説明をいたしまするが、
条約の
特徴として考えられまするのは、従来のこういう
漁業について、これは新らしい試みの
一つだと考えられますが、必要なる
共同の
保存措置を先ず規定するということ、そしてこの必要なる
共同の
保存措置を規定いたしましたものにつきましては、
締約国どこの国にもこの
共同の
保存措置というものは平等に適用されるということを確認したわけでありまして、この点が仮に
条約の特徴がありとすれば
特徴かと考えるのであります。この
共同の
保存措置の具体的な例といたしましては、
条約にございますように、
北太平洋漁業国際委員会を設けまして、この
漁業国際委員会が必要なる
保存措置の
確定等につきまして研究を続け、又
勧告をし
決定をするということになりまして、この
国際委員会におけるところの
勧告というものが各
締約国において採用すれば、それが即ち最後的にきめられましたる
各国間の
共同保存措置ということになるわけであります。
委員会の
勧告いたします
共同保存措置には大体二つの場合がこの
条約では予期されているわけであります。その第一は、この
条約の第四条第一項(b)に規定してございますように、
科学的調査だとか、或いは一国において、或いはその他の国におきまして、
法的措置を以て
漁獲を或る程度まで制限しておるとか、或いはその
漁獲された
漁獲物が完全に利用されておる、而もこれについて現在もなお
科学的調査が行われている、こういう点を考慮いたしまして、こういう点を備えたものにつきましては、すべてこれは
委員会が
決定した漁族についての場合におきましては、この
委員会の
決定に基く
勧告に基きまして、
各国はこの
当該魚種の
保存措置をとる
漁獲活動をする。
従つて或る国は制限をされますし、場合によ
つて全然この
漁獲に従事しない国もできるということがこの
保存措置の
一つの場合であります。ところが抑止される国、つまりその
漁獲のできない国はどういう国かと申しますと、これはこの魚族につきまして、或る地域について実質的な
漁獲を過去においてしていなかつた、つまり
実績のなかつた国が抑止せざるを得ないということになるわけであります。それから
共同保存措置のもう
一つの場合は、第一、つまり今申上げましたように、或る国は
漁獲に従事していたし、或る司は
漁獲に従事していなかつた。
従つてここに最高の
継続的生産性を維持するために従来
実績のなかつた国は抑止をする、従来
実績のあつた国は新らしい
共同保存措置の下において、その
制限下において
漁獲をするというのが只今申上げました
共同保存措置の
一つの場合になるのでありますが、それ以外に、まだこの
関係国全部で或る国は
漁獲を自制し、或る国は
制限下に
漁獲をするという状態までまだ行
つていない。併しながら実際上これ以
上漁獲を進めること自体についてはいろいろ最高の
生産性維持ということについて疑点があるという事態が発生して来ました場合におきましては、その実際
上漁獲に参加している国だけの間で
共同の
保存措置を講じて最高の
持続性、つまり
保存措置を講じて行くということにする。この場合において
漁獲のない国はその
漁獲には今までの
実績がなかつたことになりますが、併し実際上の
利害関係がございませんし、又その
実績のない国をやめさせるという状態まで行
つていないのでありますから、
関係の国だけでこの
共同の
保存措置をきめて行く。この二つの場合をこの
委員会が、この
条約によ
つてできます
委員会が
勧告する
共同保存措置としてこの
条約は予定しているわけであります。それだけの目的と、それからこの
特徴とを申上げまして、各条の簡単な御
説明を申上げたいと思うわけであります。
先ず第一に前文でございますが、この前文は
条約の大眼目といたします点を謳いました。そして従来
国際法或いは
国際法上の原則に基きまして、
公海の
漁業資源というものを開発する権利というものは
締約国各国にあるという事実を先ず確認いたしました。それから、この権利はあるのでありますが、この権利を極度に
各国が主張いたしますと、その結果、
漁獲資源の枯渇を来する虞れもある場合もあるのでありますから、これにつきましては、当然に最高の継続約
生産性というものを維持するために
共同の協力、
共同の何と申しましようか、義務を負
つて資源の
保存を促進する義務を自由且つ平等の立場において負うということを先ずここに確認したわけであります。それで前文の最後におきましては、こういつたこの
条約の予期しますところの事態を考えまして、先ず
締約国にと
つて共同の
利害関係がある
漁業の最大の
持続的生産性を確保するために必要とされる
保存措置の確定について
科学的研究をする、及びその調整、或いは
締約国にその
保存措置を
勧告するため、
条約の三
締約国を代表する国は、この通りの
条約を結びましたと
言つて一条以下の
条約を規定するために一応の前文を設けたわけであります。
第一条でありますが、これはいわばこの
条約の総則と申上げていいかと思いますが、この条文におきましてこの
条約の全文に通ずる
一般的原則として挙げられたる点を謳つたわけでありまして、先ず第一がこの
条約の
適用区域でありますが、
適用区域は
条約区域とこの
条約では謳
つておりますが、
条約の適用上、この水域は
北太平洋の全般の水域、それからその水域に接続する諸海を含むと書いてあります。
北太平洋が一体どこで、南
太平洋となり、或いは
中部太平洋になるかという問題は
一つここに論議されなければならない問題になるのでありますが、一応常識的に考えまして、
赤道以北の
太平洋を全般的に
北太平洋と呼ぼうということに当時は了解が大体成立
つていると思います。一条の第二項に規定いたしました点は、御存じの
通り各国には領海につきまして主張のいろいろの食い違いがあります。ソ連のように十二浬を主張している国もございますし、
我が国は従来三浬を一応……そうしてこれが
国際慣習上、或いは
国際法上確立されたる原則といたしまして主張して来たわけでありますが、今申上げましたように、国によ
つて広い領海を主張する国もあるのでありますが、この
条約はもともと
北太平洋における
漁業資源についての規定をする
条約で、
国際法の原則をきめる
条約でもなければ、領海を規定する
条約でもないわけであります。ただ問題は、この
条約の中に領海若しくは領水という言葉が出て来ます
関係上、各
関係国の中で領海とは何ぞやという問題が論議になりますと、この
条約の
締結ということは非常にむずかしくな
つて来るわけでありますから、そこで
条約の先ず言葉のうちに、
各国が領海についていろいろ異なる主張を持
つていたにしても、本
条約は何らそれに
関係なしということにいたしまして、一応このむずかしい問題をこの
条約は逃れたわけであります。第三項は、漁船という字をしばしば使
つておりますが、この
漁業に従事する、或いは
漁業に従事する従備を持
つている船、いろいろの解釈ができまして、この点も将来漁船が何であるかということが問題になる
可能性がございますので、三項におきまして、本
条約が規定しております中に
使つた漁船という意味はこの意味だということをここに一応の了解として挙げたわけであります。
第二条は、
北太平洋漁業国際委員会の設置をここに謳いまして、この
条約が
国際委員会を本体として、この
国際委員の
実施機関によ
つて条約の実行を期するというわけでありますから、先ず第一に
国際委員会の設置の点をそこに挙げてあるわけであります。このうちで特に
特徴と思われます点は、この
委員会は決議、
勧告その他にいたしましてもすべて
全会一致であります。
従つて各三国からは、規定してありますところによりますると、四名以下の代表が出るわけでありまして、極端に申しますと、
日本なら
日本から四名の
委員が出席するわけで、三国合せて十二名の
委員がマキシマムに出席するという
可能性もあるのであります。その際も決議、
勧告その他は一国は
一つの票により、而も
委員会の決議として出て来るもの、
勧告として出て来るものはすべてこの三国の一票の票が
集つた三つの票が一致しなければこの
委員会の意思としては、成立しないという点に
一つの
特徴があるかと考えるわけであります。それからこの四人の
委員は
日本なら
日本から出て行くのでありますが、この四人の
委員を、第三項に述べておりますように「
各国別委員会」と書いてございますが、
日本には
日本の
委員会がある、
カナダには
カナダの
委員会がある、
アメリカには
アメリカの
委員会があるわけで、この
委員会を構成するものが表決としては一票を持つということになるわけであります。第四項はおきまして、五項あたりで毎年一回会合する、その他要請があつたら会合するという、一応ほかの
委員会にもありますような規定を設けてございますが、第六項に、
国別委員部が四つございまして、この
国別委員部から成り立つたところの
委員会は
議長、副
議長或いは
事務局長というものが当然に選定されるわけであります。これは第一回の
国際委員会におきましてその最初の
議長なり、副
議長なり、
事務局長なりがきまるわけでありますが、その際に
議長、副
議長が同国から出る、或いは
議長、
事務局長が成る
一つの国から出るということを避けるためには、
議長、副
議長並びに
事務局長は三国の割当てで、翌年度においては昨年
議長をやつた国は副
議長となり、
事務局長をやる、昨年副
議長なり、或いは
事務局長を勤めた国はその次には
議長を勤める、こういう形に順繰りに廻
つて歩こうというのがこの第六項で規定したところで、
各国が平等の義務を負担しよう、権利を持とうという点をこういう点で
委員会では現わしたわけであります。七項は
委員会の本部でありますが、これは第一回の
委員会におきましてきめることになります。つまり
条約は皆様の御審議を経まして議会の承認を得、批准を経たあとにおきまして効力を発生いたしますと、第一回の
国際委員会を開くわけでありますが、この
国際委員会におきまして本部の位置をどうするか、それから本部の構成をどうするかということを
委員会がきめて行くことになるわけであります。第八項におきましては、各
締約国は
国別委員部のために
諮問委員会を設置することができる。
国別委員部は
諮問委員会を以て国内的ないろいろな事情、各般の利益というものをこの
諮問会において代表するということをここで可能なように規定してありまして、この
諮問委員会は全体の
委員会が一応の会議を開くあらゆる場合においてはこの会議に出席して
オブザーヴァー的役目を勤める。併し
委員会から諮問がある場合においてはこの諮問に答える。但し
秘密会と
委員会が
決定した場合は除きますが、それ以外の場合においては大体
委員会の
諮問機関として活動ができるようにと各界、特に業界の
人たちの意見をここに表現しようというのがこの
委員会の意図で、第八項に謳つたところはその趣旨を述べたわけであります。それ以外に
関係者若くは一般からの意見も開く必要もありますので、第九項には
委員会が
公聴会を開くことを規定しております。又単に
委員会だけでなく、
各国別委員部もその国の
関心事におきましては、自国の
公聴会を別途開いてよろしいという規定を第九項に設けてあります。第十項は
委員会の
公用語で、これは
日本語及び英語ということにきま
つておりますが、
日本語及び英語というのは併用する必要がございませんので、
日本から出す資料につきましては
日本語だけのものを出す。或いは英語だけのものを出しても差支えない。そうしてこの資料なり或いは
委員会の提出するものが、
各国の言葉が違うが故に阻害を受けないようにというのが第十項の趣意であります。第十一項、十二項、十三項につきましては経費を規定いたしました。それから十三項につきましては、原則として
こ委員会の
共同の費用は
各国の
共同の分担、
各国の負担したものを
共同経費とすれば
委員会が
決定してこれを
委員会の
共同の費用に充てる。
各国別の費用につきましては、この
国別の事項について活動し、若しくは関連あるところの国からこの経費を支出するという意味で
委員会の経費を十一項、十三項、十三項に謳つたわけであります。
第三条は、
北太平洋漁業国際委員会の任務であります。この任務はいろいろの点でこの
条約を論議します際一番問題になつたところでありますが、
委員会の任務については
委員会の行う
勧告の基礎について定めた第四条かございますが、この四条を憲法とし、そうして
委員会はこの三条の規定に
従つてその任務を遂行することになりますので、この
条約案におきましては、第三条、四条というのがいわばこの
条約の骨子になるわけで、そうしてその骨子をなす、更に運営の主体となるのは
国際委員会ということになるわけであります。第三条の点で特に
説明を差加えなければならないかと思います点は、先ほど
条約の
特徴として
共同保存措置のことを申上げましたが、この
共同保存措置に伴う点が本
委員会の任務といたしまして一番主たる任務に
差当りはなるのではないかと考えるのであります。
漁獲の
自発的抑止を行う場合の
勧告というのは、
委員会が第四条の規定に基いた基礎によりまして
自発的抑止のための条件をすべて合理的に充たしておるという事実を確認いたしました無極につきまして、先ずこの
魚種を
附属書に記載する。そうしてこの規定を
附属書の中にはつきりと述べてしまう。第二に、その該当しておる一、又は二の
締約国がこの魚族の
漁獲を自発的に抑止すること、つまり過去において
実績がなかつたという点をとらえて、今や期限満限に達しておるのにかかわらず、
実績のなかつた国が従来も関心がなかつたのであるから、今後
保存措置を講じた暁においても、この
保存措置内においても
漁獲ができないということで
各国が自発的にこれを抑止するということになるのでありまして、その一方従来
実績があ
つてその
魚種の
漁獲に参加していた国があるわけでありますが、この国におきましても同じく義務を課しまして、
委員会のきめた必要なる
保存措置を引続いて実施して、この
保存措置を実施することにつきましては責任を持
つて報告しなければならないし、又この毎年々々の実情というものは
委員会が取上げて、果してその
共同保存措置を長く続ける必要があるかないかという点につきましても
委員会が
決定をしなければならないわけでありますから、そこでこういう際には、こういう事態が発生いたしました際には、
委員会といたしましてはこの魚族について常に研究を続け、そうして
共同保存措置をするに適当な、その際にどういう
措置をとるか、又その
共同保存措置をすでにする必要がなかつたか、その際には如何にして
附属書からとるかという点をこの第三条は規定しておるのであります。ただここに問題になりますのは、
条約締結の際、例えば今年
条約が批准を得たとしますと、この
国際条約の
締結の際に、第四条に掲げましたようないろいろの
共同保存措置を講ずべき条件がすでにあつたと、こう当時この
条約の会議に参加いたしました国が認定した
魚種というものが大体予測できたわけでありまして、そこでこの
附属書に最初から明記いたしました
魚種については、
委員会は
条約の発効後五年間は
決定も
勧告も行わないという点に
一つの例外がございます。これは実はこの
附属書に最初から挙げました
魚種につきましては、日米間、或いは
日本と
カナダ間にすでに戦前において長い間いろいろの論争を招いた
魚種であります。
従つてこの
魚種につきまして長い間の研究の結果、二年や三年で新しい
決定をするということはむずかしい
魚種でありまして、大部分が四年なり五年なりしませんと、新しい事態と
言つて決定するのには無理な
魚種なのであります。その結果、五年間を据え置き期間といたしまして、五年の後に初めて
委員会がこの問題については新しい事態があり、これについての
決定をし、そうしてこの
勧告を
各国にするということにこの第三条はきめてありますが、この点が
一つの例外をなすかと思います。又
漁獲の
自発的抑止を伴わない場合の
勧告につきましては、今申上げました通り、実際
上実績のない国は
関係がないのでありますから、これは参加しないということになりまして、
従つて漁獲に実際上に参加していた
締約国の
国別委員部だけがこれを
共同保存措置の
決定、
勧告をし、而もこの
共同保存措置の
決定及び
勧告というのは参加した
締約国だけが縛られる。参加しない、つまり
実績のない国はこの
共同保存措置については何らの責任も義務もないということに規定をされたのが
一つの
特徴であります。このほか
委員会の任務といたしまして、各種の報告又は
条約違反に対する
各国間平等の刑の細目の制定についての
勧告、或いは
漁獲についての
各国の記録の編集、或いは
保存措置の効果についての再検討というような任務、これはすべて第三条がこれを謳
つているわけであります。
第四条は先ほど申上げましたように、
委員会が
勧告決定をするに当りまして、いわば基準となるこの
委員会の憲法でありますが、この基準につきましては、これも
委員会におきましては非常な論争があつたわけでありますが、大体合理的なものとして次のようなものを認めたわけであります。先ず四条の(a)、(b)、と並べました点がこの条件になることになるかと思いますが、
委員会は
漁獲の
自発的抑止を
勧告することができる魚族というものはこの条件の(b)でございます。(b)に
褐げた三つの条件がありますが、この三つの条件を充たしておるという点を認めました場合においては、
委員会はこれに
従つて共同保存措置を講じ、且つ
実績のない国について
自発的抑止を
勧告するということができます。これはいろいろ御質疑がほかに出る問題だと思いますので、私は問題になる点を一、二点
拾つてみたいと思うのでありますが、先ず
締約国がこの
条約の
効力発生前二十五年間を
実質的漁獲の、つまり
歴史的利に
関係のある時期となぜ認めたかという問題でありますが、これは主として
日本の事情を考慮いたしました。そうして過去
日本の
水産界の発展から見まして、過去二十五カ年間に
日本が
実績を持
つておるところを確保すれば少くとも
日本は過去の
実績というものを無駄にされる心配はなかろうという見地から二十五年を主張いたしまして、この点は
アメリカも
カナダも承認するところとなりまして二十五年という数ができたわけであります。
それからもう
一つの点といたしましては、この(i)、(ii)、(iii)という科学的な調査その他の条件があ
つて、これに例外規定として但書がついておりますが、この但書のうち、(1)と(2)は問題はないと思うのでありますが、(3)の、「
関係締約国の
漁獲操業の歴史的交錯、この操業によ
つて漁獲される
魚種の交錯並びに
関係締約国間の
共同の
保存及び規制に関する長期にわた
つて確立した歴史が存するために、その結果として操業及び取締の分離が実行困難とな
つている水域。」ということを掲げてありますが、これは実際上から、世界に、こういうような歴史的交錯或いは操業及び取締が実際上分離困難というのは、私どもが論議しましたところでは、
アメリカと
カナダとの海岸以外にはないという結論を得たわけでありまして、これを例外規定として設けましたゆえんのものは、
アメリカと
カナダとの水の流れ、その他従来の
漁獲の
実績から見まして、あの間に発生しました
一つの魚族は、
アメリカの海岸にも行くし
カナダの海岸にも行く。而も一度や二度でなくてその間を往復するという現実の事実がありますし、又例えば
カナダで育ちました、
カナダの川で孵化されました鮭、鱒の類も大きくなるとカリフオルニアの海洋にまで遊びに行く。それが遊んでいる間に
カナダにも入
つて来る。それでいよいよ五年なり六年の月日がたちまして、育
つていよいよ元に自分が孵化した川に卵を生みに帰るというときには、北のほうから入
つて来てカリフオルニアの海岸まで行
つて、カリフオルニアの海岸から更に
カナダの海岸に入り、そうして
カナダの海岸から
カナダの川に入
つて行くという事実があるのでありますから、その際
カナダ側で初めにとるか、或いは回遊しているカリフオルニアでとるか、或いは
カナダの川に戻
つて来たときにとるか、とこでと
つても
実績があるわけで、これは
アメリカの
実績とも言えますし、
カナダの
実績とも言えるわけであります。こういう点から両者を区別して、どちらの
実績だということは実際上の問題として困難となりますので、この二つの国のどちらかが
実績がある場合においては、他の国も
実績があるということで、
アメリカが
アメリカの
実績を主張した場合においても、
アメリカが
実績があるから、
カナダは
実績がないからやめるということをこの魚族については言われないということを規定いたしました。本件は、実は直接の
関係は
日本にはございません。この
条約を結びに来た
カナダの唯一の目的が、この歴史的交錯で自分だけが抑止されてて、
アメリカだけが
漁獲することがないようにということが
カナダの目的たつたのでありますし、
日本にもさしたる支障もありません。
アメリカ若しくは
カナダの一国にだけ抑止はしない。両国を抑止することは理論上あるわけでございますが、一国だけを抑止しないということで
日本には直接の
関係はないわけでありますが、この点がこの
条約で少しいわば特例として設けられた特例になるわけで、これは一に
アメリカと
カナダの
魚種の
関係、海岸の
関係、或いは操業の交錯した
関係から来る特殊の例としてここに認めましたので、私どもはこの
条約を雛形として東南アジアその他の諸国と今後
漁業条約を結ばなければならないかと思うのでありますが、その際に、この第三項が
日本側にと
つて非常な不利になるというようなことは大体予想をしなかつたわけであります。第二項は、先ほどから申しました実際的な実質的な
漁獲ということを
実績といたしまして、この
実績のある国の権利を保護しているわけでありますが、
実績は場合によ
つて戦争があるとか、同盟罷業があるとか、或いは場合によ
つて何らかの事情で海の流れの二、三年間特殊な事情によ
つて違うということも考慮できるわけであります。又国内的な事情によ
つて、従来の
実績を場合によ
つて暫くの間その
実績として続け得ないということもあり得るわけでありますから、この
条約におきましては、そういつた特殊的に、或いは突発的に発生し得る事態によりまして停止された
実績というものは、一応
実績の本質的な考慮には影響を反ぼさないという点を特に考慮いたしました。この点は
日本は戦争、その後に続く長い期間によりまして、
日本の水産業というものは最近の機会において相当いわゆる
実績というものを確立していなかつた場所もありますし、又従来の
実績も続け得なかつた場合もあるのでありますから、
日本のためには恐らくこの条項は有利に解釈し得るというふうに考えますので、
各国も又この
日本の特殊事情につきましては考慮を加えてくれるものだと予期しております。
第五条は、
附属書のことを謳
つております。
附属書は特殊の
魚種と特殊の水域とにつきまして
共同保存措置の実際を謳つたものが
附属書になるわけであります。この
附属書は
条約と分け得ない一部をなすというのが一番取扱上からも条理上からも当然たと思うわけでありまして、第五条の第一項はこの点を不可分の一部となすという点できめたわけであります。又今後
附属書は随時事態の変遷或いは
国際委員会が調査の結果修正を見るわけでありますから、この修正を見た際も、これは
条約の一部と考えられるわけでありまして、それだけを離して考えないということに考えますから、ここに掲げてございますように、第七条の規定に
従つて修正されたこの
附属書を含むものと了解するという意味にここは述べてあります。第二項は、さつきちよつと申上げました第四条の
共同保存措置並びに抑止の条件を初めから、この
条約の
締結の当時から持
つていたものとして規定したものについて規定しているわけであります。この規定につきましては、抑止された国は当然抑止を守るのでありますが、抑止されない国も又決して権利義務がないというわけではありませんで、きめられた制限内においてこの義務を忠実に履行しなければならないという点を謳わざるを得なかつたわけであります。
第六条は、この
条約の
締約国でない第三国が
漁獲に実質上に従事した場合におきましては、折角
締約国間において
共同保存措置をきめ、或る国は抑止するということになりましても、従来この
条約の
締約国でない、
従つてこの
条約に何ら規制されない第三国が現われまして、この三国が実際上の
漁獲に従事するということになりますと、折角の
条約の趣旨は没却されるわけであります。そこでこの点を憂慮いたしまして、この
条約の
締約国でない国が、この以外の国が
委員会の事業又はその
条約の目的の達成を妨げた場合の
措置についての規定で、事実を知つた
締約国、気のついた
締約国はどの国でもいいのでありますが、その国がほかの
締約国の注意を喚起して、そうしてこれによ
つてすべての
締約国はこれを妨害的な影響に対して如何なる有効的な
措置をとるかということを緊急協議をいたしますし、時間があればこの
委員会で取上げまして、改めて
保存措置を廃止するなり、或いは
保存措置を強化するなり、その他の方法なりをとるということを広く規定いたしました。その結果、ここに妨害的影響に対してとるべき
措置について協議するという言葉を書きましたが、協議するということは、決して
委員会を無視するものでもありませんで、緊急
措置をとり得るようにというので、多少余裕がある言葉が使われているわけであります。
第八条は、
各国間の記録に関する義務を
説明しております。これはこの
委員会もできますし、
各国の
関心事項ですから、当然かと思います。
第九条は、国民及び漁船に対する禁止の事項であります。
保存措置を講じまして、成る法的な制限を設けているわけでありますから、これは
条約上そういう
締結をし、そういう義務を一国が負うわけでありますが、国内的な
措置をいたしませんと、実際上
各国の国民に対しては実際上の効果は及ぼさないわけであります。そこで
保存措置を実施するために、
締約国はその国民及び漁船に対してなすべき禁止、又
措置の実施のために必要な法令の制定、施行について規定しているわけで、自発的に抑止に同意した
締約国の国民及び漁船はその
魚種に対する
漁獲活動をすることは禁止されます。又
魚種に対する
保存措置を引続き実施することに同意した
締約国の国民及び漁船は、
保存措置に基いて
決定された規定違反に対して
漁業活動に従事するということは禁止されているわけであります。
第十条は、第九条を受けまして、実際上の違反
措置があつた場合にどうするか、この違反行為に対する取締であります。この取締の点は、申上げるまでもなく他国の国民に或る程度まで強権を発動しなければならないという場合に予想されるわけであります。仮に
日本の禁止した鮭鱒をと
つていけないという区間に
日本の漁船がいたといたしまして、この漁船が鮭鱒をと
つているかいないか、或いはと
つていたとすればどうするか、という点が問題になるわけでありますので、こり違反行為の取締につきましては、憲法その他いろいろ国内の法規も考慮に入れまして、ここに規定しました点が先ず法規上は許される点ではないかという点が
一つ。第二は、このくらいの規定を設けることによ
つて、恐らく
保存措置というものは大体において実際的な効果を持ちはしないか、この趣旨を汲みまして第十条は規定されております。
第十一条は、批准及び
効力発生に関する条項で、批准書の交換は、東京で会議も開かれました
関係もございますので、交換は東京ということにきめまして、
条約は交換された日から効力を発する、これは当然のことであります。又その当時
条約の有効期間を十年と一応してあります。そうして十年後に至りますと、
一つの
締約国が他の
締約国に対してこの
条約を終了させるという意思表示を、意思通知をいたしますと、それから一年間経
つて効力を生ずる。つまり一年間くらい余裕期間があるということになるわけであります。十年は長いか短いか、これも会議の席では大分問題になつたのでありまして、
アメリカ、
カナダの主張はずつと十年よりも長く、十五年、二十年という主張がございました。
日本は今後いろいろの新らしい事態も発生することも予期されますし、この
条約がよいものであるとして、十年後においては
日本も十分協力するであろうと思われますので、一応のここに期間を見て、十年の期間をこの
条約を実際上適用したい、或いはそれによ
つて生ずる
日本水産業に及ぼす影響という点を考えて、又この
条約については再検討をしなければならないと考えましたので、
日本側の主張十年を容れてもらうことにしまして、ここに十年と規定したわけであります。末文は
説明の要がございません。
条約作成の場所、目附、
条約の正文に関しての規定でございます。
附属書でございますが、これは今回
条約を協議します際に、すでに第四条に掲げました
共同保存措置の条件に合
つているというものを
日本、
アメリカ、
カナダから資料を提出いたしました結果、結論としてこの種目だけに、現在においてはこの第四条に合うものとして
共同保存措置を講ずるということに合意をみたわけであります。その
附属書の一に掲げてありますのは「おひよう」でございますが、これは
アメリカ、
カナダでは非常に大事にする魚でございますのですし、又長い間かか
つて枯渇しそうになつたのを、
保存措置が
アメリカと
カナダで生ずることによ
つて漸く最近殖えたという事実もありますし、
日本ではこれをとりに行つた例もございませんし、又
日本の水産業から見ますと、必ずしも
決定的な影響を及ぼす
魚種でもございません。
(b)の「にしん」でございますが、これも海岸近くにあるもので、「にしん」をとりに行くために
日本から行くということは、水産上成立たないだけに過去において
実績もございません。
次の「さけ」、この点につきましては、
日本が必ずしも関心がないとは言えないものでありますが、先ほど申上げました「さけ」の特性から見て、
アメリカで孵化した「さけ」は結局
アメリカに帰る、アラスカに孵化した「さけ」は結局アラスカに帰るという特殊の事情がございますので、この点から必ずしも
アメリカが折角大事にして孵化し、折魚大事にして育てる魚を、
公海に出たからというだけで
日本がと
つてしま
つて返さないということも不合理かと思いますし、逆にアジア方面の海域に発生するところの「さけ」が
アメリカに行きましたときに、向うがとることも面白くないという点もあるのでありますが、「さけ」の特性から見て、大体ここに掲げたような地域において抑制する、若しくは
共同保存措置をすることによ
つてこの
利害関係は避けられようかというふうに考えられたわけでありますが、たた「さけ」について今の点から非常に問題になりましたのは、一体地球の何度から分けたらアジアの「さけ」と
アメリカの「さけ」、若しくは
カナダの「さけ」を分けられるかという点で、これは「さけ」に聞いてみなければわからないわけでありますが、そういうこともできませんので、何とかこれを分けたいというので議論の結果、西経百七十五度というものを一応の線といたしまして、ここにおいて恐らく両者が分れるだろうという算定なんであります。併しこれは飽くまで推定であります。実際上両者の
魚種の資料を持ち合いましたところが、どうも
日本側の調査ではもつと
アメリカの海岸まで行くらしいし、
アメリカの調査によりますと、
アメリカの「さけ」がもつと百七十五度よりはアジアカ面に近付くらしいのでありまして、実際上はまあ仲良く遊んでいるかも知れないのでありまして、この点は今後の調査によりまして、両者を分け得るか、分け得るとすれば何度を分けるか、分け得ないとすればどういう点において分けるかという点になるのでありますが、この点は遺憾ながら今回の
条約、両者の会議におきましては
決定を見ませんので、あとの問題として残すことになりまして、暫定的に百七十五度ときめました。現在
日本の漁船はこの百七十五度の西において
漁獲に従事し始めているわけであります。
従つてこの仮定の線は、将来
委員会ができますと、その
委員会の
決定によりましてきまることになります。又
委員会が今回三国間で同意を得られなかつた問題でありますから、将来
委員会の会議に出ても、
全会一致でありますから、きまらないという公算がかなりあるわけでありますが、その際は
利害関係のない第三国の科学者に任せてその
決定をみようということになりました。そうしてこの第三国の科学者が
決定と言いますか、一応の判定を下しましたときに、
委員会はこの判定に
従つて締約国に
勧告することになります。
従つてその
締約国はそれだけの手順を経たものですから、実際上は当然にこれを受諾するだろうと思われるのでありますが、こういう法律上は勿論一国は独立自主権を持
つているのでありますから、仮にそういう
委員会が、若しくは第三国の
委員会が
決定した結果につきましても、必ずこれをとらなければならないという絶対的な義務はないわけであります。
以上申上げましたことは簡単でございますが、この
北太平洋の
公海漁業に関する
国際条約並びにこれに附属します議定案の大要でございます。