○森崎隆君 私は
日本社会党を代表いたしまして、このたび
政府より提出されました一般職の職員の
給與に関する
法律の一部を改正する
法律案に
反対の意を表明するものであります。
現在勤労階層に属する大多数の
国民と同様に、国家、地方を問わず、公務員の人々が低劣な
給與のために生活苦の中に喘いでいることは、今更賛言を要しないところであります。加うるに朝鮮動乱による特需景気のため、必需物資の高騰を来たしている今日「彼らの生活がますます困窮の度を加えて来ましたことは、万人の承知するごとく、まさに生活破壊の一渉手前まで来ていることは、これ又皆様がたも肯かれることと存じます。彼らが最低生活保障給といたしまして九千七百円ベースを要求しておりますることは、又当然のことと言わたければなりません。去る第八臨時国会におきまして、一度勧告を言明されまして、数日のうちにこれを取消されまして、その
責任を追及されました人事院は、八月の九日に八千五十八円ベースを国会並びに
政府に勧告をしたのでございます。我が社会党は、労働組合等の謙虚な要求を真に妥当なものと認めながらも、今日の
経済情勢に思いをいたし、あらゆる角度からこれを
検討いたしました結果、誠に不満なのでございまするが、人事院の勧告案を承認して、一日も早くこれが実施を決意して来たものでございます。それ以来四カ月を経て第九臨時国会に提出されましたのが主題の
政府案なるものであります。私たちが何故にこの
政府案に絶対
反対をしなければならないかを制限時間内におきまして
簡單に申上げたいと思います。
第一に、
政府案は、現行の六千三百七円ペースは昇給昇格等によりまして本年十二月末には実質六千九百七十三円となるとの一つの仮定の上に、約一千円をその上に積み上げました七千九百八十一円案というものでありまして、これは全然
給與の
体系をなしてい、ないものであります。昇給昇格等によりまして平均額の上昇しまするのは当然のことでございいまして、現行六千三百七円ベースも、そのままに放置いたして置きますれば、昇給又は学歴、年齢構成の
変化につれまして、いつかは八千円に移行して参ることは自然の事柄でございまするが、この場合といえども、ベースは依然六千三百七円ベースと言わなければならぬ。
政府案は、最低生活費に基礎を置きまして、科学的な調査資料に基いて有機的な秩序を保持した
給與体系では絶対にないゆえんなんであります。その結果は私たちをして絶対に承服を許さたい不合理を幾多包含いたし、これを実施いたしまするには非常な困難を伴うこととな
つて参りました。この不合理は現実において如何に
政府が頑張りましても是正せざるを得ないものであります。換言いたしますれば、たとえこの
法律案が
衆議院同様多数の力で本院を通過したといたしましても、この
法律それだけでは絶対にベースの切替えはできないのであります。(
拍手)た
つてこれを強行いたしますならば、大混乱が各職域に巻き起ることは必定なんであります。従いまして、一つの嘘は百の嘘を作り出すという古人の諺の
通りであります。
政府は当然人事院の権限でありまするところの実施面にまで手を入れまして、やれ政令の改正、やれ人事院規則を直してくれ、又闇のいわゆる昇給をしなければならないとい
つたようなことをどうしてもやらなければいけない、複雑怪奇な手続を伴うゆえんであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)若し公団の赤字補填に出しまする厖大な金額に比べまして、ほんの僅かでありまするところの僅か十億程度の金を出しまして、人事院の勧告案をそのままに
採用いたしまするならば、事は至極
簡單に運ぶのであります。ここに
給與体系の生命があるのでありまして、
政府案が如何に非合理的な、文明国にはふさわしからぬものであるかは、これによ
つて明らかなんであります。
日本文明は、若しこの
法律案が通過をいたしまするならば、この一角が
政府並びに国会の手によ
つて一歩後退せしめられることになると私は結論付けていいと考えております。(
拍手)
政府案が人事院勧告の八千五十八円
給與ベースに比較して見ますると、八級の三号あたりで丁度交叉しておるわけです。即ち八級の三号以下におきましては、勧告案、人事院案を遥かに下廻
つております。この八級三号以上におきましてはカーブは急に上昇を見ております。而してこれが人員構成を見ますと、
大蔵省の主計局の
報告書によりますれば、国家公務員法に定められました一般職に属する、公団を除く
政府職員、
特別職たる裁判官及び公共企業体の職員等約九十万人につきまして、一級から八級までに包含される人員は実に九三%二二であります。即ち人事院の勧告案に比較いたしまして、
政府案はこの約九〇%の人員のベースを切下げましてり(
拍手)同時に僅か一〇%の上の者にこれをすり替えようとする案なんである。べース改訂による増給は、現在のように公務員が低賃金によりまして劣悪な生活状態を強いられておる段階におきましては、できるだけ
検討さるべきものであると私は考えます。それにもかかわらず
政府案は、いわゆる下に厚く上に薄からざる
給與の原則を踏みにじりまして、これに逆行するものであります。
政府提案の
説明では、人事院の勧告案を尊重していると申しながら、その結果ば
給與体系に実に革命的な
変化を生ぜしめております。これは明らかに職階制を強化いたし、職場を暗澹たらしめ、勤労意欲を減殺するものでございます。
次に附則第二項に定められましたところの俸給の切替調整につきまして申上げたいと思います。すでに
委員長の経過
報告の
内容にもありましたし、千葉
委員の
討論の
内容にも詳しく述べられておりまするが、これは、現行の六千三百七円ベースより八千円べースと称している
政府案に切替える際に、調整表によりましておのおの一号乃至三号の切下げ、言い換えましたならば減俸を強行いたしまして、然る後、同給同号へ切替えるというこれは計略なんであります。誠に事の乱暴さに驚歎いたす次第であります。その結果、級別に削減される号数が異な
つている場合におきましては、千葉
委員の申される
通り、例えば五級の初号は二号切下げられ、四級の最上位は一号下げられるために、両者とも俸給額は同額でありますため、
かくして切替えました結果におきましては、これまで上位におりました者が下位になり、下位においた者が上位になるという矛盾を起して参ります。更に人事院規則の職務の特殊性によりまして合理的に加算されておりまするところの
調整号俸は、何らの
理由もなくめちやくちやに切りさいなまれることとな
つたわけであります。若しこの人事院規則の九條及び政令四百一号の第十二條の
処置が、現在の
経済情勢より考えまして、
政府の申しますような不合理であると思うならば、これを人事院におきまして研究いたし、職務の再評価を行いまして、その結果に基きまして合理的に
調整号俸の修正を行うこと、これ又私は止むを得ないと考えております。然るに
政府はこうした基本的研究調査に基かず、人事院の実施権を侵犯しまして、独断を以てこれを切るのでありまして、その暴挙は如何に周章狼狽の結果であるかは、何回もの人事
委員会での
政府委員の
答弁がこれを証明している
通りであります。その結果は各職場の
給與の秩序を破壊いたしまして、混乱を惹起することは私は必定であろうと思うのであります。かかる悪法が若し参議院の良識を踏みにじ
つて通過いたしますれば、これが実施の
責任を、人事院が果してその作業をなし得るや否や。私は心から危ぶむものでございます。
これを要しまするに、本
法案は先ず
予算の枠を作りまして、この枠の中で不当な号俸
体系をでつち上げ、その上、枠にはみ出したものを切る。これを切るためにはり号俸調整、即ち減俸
措置を敢行いたし、更に飽き足らず、更に間に合わず、地域給を何らの
理由なくして五分引をしている。こうい
つたでたらめなものでありまして、絶対に公務員の生活を保障する妥当なものではございません。而も人事院の長い努力になる勧告案に徹底的な変更を加え、その科学性を蹂躪いたし、その相貌を変えてしま
つたことは、誠に残念といいますか、悲しいことだと私は考えます。法規の如何にかかわらず、
給與の
体系につきましては一切これを人事院に委ねるべきではないでしようか。これは良識の認めるところでなければなりません。
大蔵省主計局の一隅におきまして計画され、各省の人事官並びに
給與担任者の真摯な
意見を殆んど聞くことなく、民主的討議は一切これを排しまして、ひそかにこれが作成せられ、聞くところによりますと、次官
会議をふつ飛ばしまして、直ちにこれが閣議に持ち込まれたということを聞いております。若しこれが果しで真実であるといたしますならば、かかる暴挙に対しましては実に唖然たらざるを得ないのであります。
本月一日、
衆議院の人事
委員会におきましては、
政府委員より、これらの不合理と困難は全部承知している、十分承知しているが、今実施することが必要であるから実施するのだとの発言があ
つたことは
政府自体がこの
法案の矛盾を痛いほど意識した、実に自暴自棄的な態度を表明しておるのであります。私たちは、意地どか面子とかによりまして不合理と困難性を多分に包蔵するかかる
法案を強硬に押切るべきではないと考えます。私たちは去る第九臨時国会におきましてこの
法案に真摯な
検討を加え、時間の
不足と鬪いながら、これが合理的な修正に努力をして参りました。幸いこれは
審議未了になりまして、
衆議院與党各位のまじめな再
検討を期待し、更には
政府の猛省を促したのでございますが、去る十二月十日、本国会開会劈頭、突如として、而も何ら反省の
あともなく、再び原案をそのまま提案されましたことは、
政府の私はこの蛮勇的糞度胸にただ呆れるばかりであります。(
拍手)而もこの被害を直接受けるところの者は、実に百万人の国家公務員と、これに更に百万を重ねるところの地方公務員でありまして、このことを考えますると、実に無智と暴力に対する場合にも劣らぬ憤怒を覚える次第であります。(
拍手)
政府は常に
予算の均衡を口にいたします。それも諒といたします。併しながら忠実に職務に精励いたし、以て
国民に十分なる奉仕をいたすことは、公務員の当然の責務でありますと共に、同時に最低の生活を保障する適正にして妥当なる
給與を受けることは、これ又彼らの当然の権利であります。(
拍手)富める者が米を食い、貧しい者は麦を食うということをおつしやるようなお方はいざ知らず、(
笑声)
日本国憲法の下におきましては、全
国民の民生安定の一環といたしまして、公務員の生活の保障がなされなければいけないと思います。思えば
昭和二十三年七月三十一日政令二百一号によりまして、彼ら公務員は尊い団体交渉権を剥奪されまして、その代償として、
政府は、彼らの福祉並びに利益のために十分な保護の手段を講じなければならない義務を負うに至
つたのであります。その
政府が、彼らの最低の要求九千七百円べースは勿論のこと、公務員の福祉と利益を保護するた
つた一つの機関たる人事院の長期に亘る努力の結晶でありますところの勧告案を無視いたしまして、今回の愚劣なる
法案を我々に押付けて参りましたことは、
日本国の一大悲劇であります。(
笑声)苦しい生活と鬪いながら、職場を守り、家を守
つておるところの幾百万の公務員並びにその家族の人々が、大いなる期待をかけまして、黙してこの白亜の議事堂を凝視し、全神経をここに集中しております今、彼らの生活の最低限度を保障せんとする私たちが、衷心よりの主張と努力にもかかわりませず、人事
委員会におきまして採決の結果、七対五の多数決によりまして敗れ、ここに
反対討論をしなければならないことを誠に私は悲しむものでございます。政治は飽くまで
国民のためのものでなければいけません。政治は神聖なものであります。如何に口に文化を唱え平和を叫びましても、如何に
危險思想の防止に努力をいたしましても、若し
国民の納得の行かない政治を多数のカで強行せんとするならば、必ず
国民の希望を奪い、その思想を
危險の方面に導くことは、これ又必定なりと私は考えます。(「そうだ」と呼ぶ者あり)過まちを改むるに憚ることなかれ。いやしくも参議院
議員の良識を以て篤と御判断を頂きまするならば、かかる文明を毒すると言いたい
法案を通過せしむることは、私は永久に悔いても償うことのできない汚点を議会史に残すものでありまして、反省の誠意なき
政府には、もはや望みを捨てました。私たちは、
議員諸君の公正なる御判断に心から待ちたいと思います。
これを以て私の
討論を打ち切ります。(
拍手)