○中曽根康弘君 私は、
国民民主党を代表いたしまして、ただいま議題となりました諸
予算のうち、
昭和二十六
年度一般会計予算を次のごとく組みかえせんことを
政府に要求し、本諸原案について反対の意思を表明するものであります。(
拍手)
昭和二十六
年度一般会計予算に対する修正——
歳入、
外国為替特別会計への操入れ中止五百億、
歳出、一、緊急
食糧増産対策費百五十億、内訳、土地改良百億、寒冷地対策その他農業経営改善費三十億、農林漁業協同組合再建利子補給二十億、二、
価格調整費増百億——
食糧、燐鉱石、カリ等
輸入品の価格
調整のためであります。三、
地方財政平衡交付金増百十五億、四、社会保障費七十五億、内訳、戰争犠牲者援護費六十億、健保、
国民健康保險
赤字負担十五億、五、中小
企業振興費三十億——これは
国民金融公庫出資全壊三十億であります。六、文教費増三十億、内訳、義務教育教科書配給代二十億、科学技術研究費増十億、以上五百億であります。なお
講和條約が年内に
締結され、
終戰処理費が
削減可能と
なつた際は、それを
治安並びに自衛力の強化に充当せんとするものであります。以下理由を申し上げます。
昭和二十六
年度予算の編成と、これが
実施にあたり、われわれが最も注目しなければならない條件は、
日本経済に対する
国際経済の決定的な影響でああります。周知のように、朝鮮事変以来、
国際経済の様相は激変し、今や重要
物資及びサービスの国際的需給は急迫し、軍拡的インフレの怒濤は、原料価格輸送及び為替の路線を通じて、とうとうと
日本経済を洗わんとする態勢に転じたのであります。この影響のもとに、
日本経済の基本
政策には明確な転換が要請されるに至
つたのであります。(
拍手)それは、いわゆるドツジラインから、ダレス・ラインとも称すべきものへの転換であります。買手市場を中心にした貿易におけるローガン
構想、平和的安定と、価格を主軸とする自動調節を期待した自由
経済は、今や売手市場を中心にする
物資の国際的割当や、その
世界臨戰態勢からの波及防止をするため
国内経済諸條件の
国家的
調整に席を譲らなければならなくな
つたのであります。(
拍手)今やまさに、その分水嶺に
日本経済は立
つております。いな、すでにダレス・ラインに一歩を印したのであります。この関頭に立
つて、このときこそ、われわれは来るべき
日本経済の方向とその対策につき明確なる認識を持たなければならないのであります。(
拍手)われわれの認識をも
つてすれば、
日本経済は山いわゆる中立国インフレへの進路にあります。なぜならば、現在の
政策をも
つて進むならば、まず
昭和二十四
年度の
財政は、もはや超
均衡の実質を保持しておれない。
昭和二十五
年度における
財政資金の対
民間収支を見ても、当初約千二百億円近くの
引揚げ超過の予測は
朝鮮動乱により裏切られ、主として
輸出増進、
輸入不定に基く
外国為替特別会計の
赤字約二千億円の出現によ
つて相当額の
財政資金支拂い
超過が予想されるに至つたからであります。
朝鮮動乱以来、
輸出の増進と特需の
拡大は、貧血した
日本経済に対して輸血となり、快い刺激を與えて参わました。まさに一昨年以来池田蔵相が
実施して来た、ドツジ氏一辺倒の失政は、内閣瓦解の寸前に通いて天佑の拾い物をしたのであります。(
拍手)かくて
昭和二十六年も、
輸出、特需増進、
輸入の不円滑の大勢にして改まらない限り、
昭和二十五年の
傾向を受けて、
財政はかりにとんとんとしても、
日本銀行の追加信用が供與されるだけ
通貨は膨脹することを免れ得ないのであります。従
つて、今からこの点に対する冷静なる
見通しと十分なる対策を樹立しておく必要があるのであります。
この観点から、現下の
財政政策上緊急の対策としてとらるべきことは、次の二点であります。一、対外的には
物資の買付、割当獲得と、これが輸送の万全を期すること、二、対内的には税制、
物資の
調整等につき、インフレ過程の弾力性ある流動的な
経済政策をとることであり、しかして
国民経済の地域的または業種別の好況、不況の分裂を極力回避して社会
生活の
均衡を確保することであり、そうして最も重大なことは、いたずらなる
外貨の累積や国際
収支の改善に安住することなく、この好機に近代的な国際能率
水準に
企業を
合理化し、これがために
資本の
蓄積をはかわ、そうして根本
目標である
日本経済の自立達成に向
つて着実に邁進することであります。(
拍手)
ここにあた
つて当然要請されることは国際的機能の増大であります。割当の獲得、
輸入の促進、
物資の備蓄、
調整、
自給度の向上、あるいは貧富の懸絶の防止、社会的保障の確立等、いずれも
国家の機能にたよらなければできない、のであります。
国際経済は、完全に物の時代に移りました。しかし
国内経済は、いまだ金と物の中間にあります。
財政や
金融を通じて物財を規制するという間接的
統制の段階にあります。しかも、このことたるや、ドツジ・ラインの時代と異り、すでに自由
経済のごときでは断じてなし得ないことは周知の事実であります。(
拍手)
本年一月二十六日、総司令部
経済科学局企画部長フアイン博士は、日米協会の会合の席上、きわめて示唆に富む講演をしております。それは次の如くであります。「今日のインフレ圧力は、全
世界的
経済情勢に起因するものでへいかに巧妙に企画された
経済統制計画をも
つてしても容易に阻止し得られるものではありません。しかし、それよりももつと重大な問題は、われわれがまだ全
世界的インフレのほんの初期にあるのではないかと思われる一節があることと、そのインフレの波及
範囲が現段階では予測できないことであります。しかし、自由
世界の軍事
予算にま
つてイフレがより一層高進され、その結果として、不足
物資の入手が次第に困難がなり、
物資獲得競争がますます激化されることは火を見るより明らかであります。こうした諸
情勢からすれば、
日本経済の当面する最重要問題は、同
経済がはたして必要を満たすに足る十分な重要原料を確保するだけの能力を持
つているかどうかということであります。もし国際重要
物資割当
委員会が設置されたならば明らかに
日本は、主要諸国の総合調達計画のわく外で、少量の重要
物資を法外の高値で入手するための強力な競争を展開するか、さもなければ、今日の
世界的
供給事情の現実に即応して、既存並びに現在企画中の国際的諸計画に協力的に参加し、必要かつ妥当と思われるような選択的
統制を採用しなければならないでありましよう。」この講演は、
日本経済の前途を示す注目すべき講演であります。
日本の
財政政策の担当者たるや、まさに眼光紙背に徹するの洞察力をも
つて事態を展望し、インフレや
関係方面りあとを追うような、へまなことをせず、あらかじめ周到に自主的に備えなければならないのであります。(
拍手)
しかるに、このたび提出せられました昭知二十六
年度一般会計並びに
特別会計予算を見るに、このような明確な認識と方針をも
つて編成されていないことは、実に遺憾千万であります。(
拍手)なるほど昨
年度の
予算に比して、池田蔵相の苦心の跡はやや認めることができます。率直に申せば、たとえば
財政規模の縮小、
資本蓄積のための
税法の
改正、緊要
物資輸入基金の創設、農林漁業
資金融通制度の設定、
結核対策費、育英費、義務教育促進費等の多少の増額はこれであります。しかしながら、この窮迫した潮流の中にあ
つて、その
程度のものは、單なる宣伝か、お茶を濁す
程度の申訳にすぎない。選挙前の一千億汀
減税の看板の類にすぎないのであります。しかして根本的欠陷として、案に現内閣の
政策には長期的な国策を発見することができないのであります。(
拍手)以下具体的に、第一に
予算の基礎の観点より、第二に
企業の
近代化、
資本蓄積並びに
経済自立の観点より、第三に社会
生活の
均衡確保の観点より本
予算を批判せんとするものであります。
まず第一に問題とすべきは、本
予算の基礎がすでにくずれて、
政府は、
昭和二十六
年度予算にあらずして、二十六
年度暫定
予算案を提出しておるということであります。(
拍手)たとえば本
予算策定の基礎である基準
單価を見ても、それは昨年十月の
物価を基準とし、しかも大部分の
人件費、
物件費は二十五
年度の
單価を襲用しておるのであります。しかるに、安本推計の総合市場
物価指数によれば、
朝鮮動乱の起つた昨年六月二十四日を一〇〇とした指数が、十月ごろには一二四に、本年二月三日には一四四、すなわち
予算編成時に比し約二割の
物価水準の騰貴を示しておるのであります。行政
経費においてすでに破綻しておるのみならず、
食糧の
輸入補給金を検討してみても、外麦、外米の価格はすでに平均して一割近く騰貴しており、これが動向と、特に運賃の値上り、たとえばバンクーバーから横浜まで、動乱当時の一トン六ドル五十セントが、最近十五ドル五十セント、すなわち三倍に騰貴したのを加算すれば、主食、特にいわゆる準戰略
物資である麦の価格が二割くらい上ることは、もはや時の問題であります。(
拍手)二百二十五億の補給金は、運賃を加算すれば、その二倍の四百五十億
程度必要となるのであります。ここにすでに重大な欠陷が露呈されておるのであります。(
拍手)かくて
政府は、もし良心と
自主性を持つならば、みずから
予算を組みかえるか、しからずんば暫定
予算としてこれは提出しなければならない筋のものであります。(
拍手)
第二に、
企業の
近代化、
資本の
蓄積、そして
経済自立達成の観点より検討いたしたいと思います。
まず金業の
近代化の問題を検討しますれば、朝鮮事変前後の
産業界の不況及びその後の活況は、
日本産業の発展の限界を明らかにいたしました。それは、
一つは
企業の
設備の性能度から来る制約であり、他は海外原材料の入手から来る制約であります。もし
世界政局の進展が平和をとりもどして、自由な貿易が行われるならば、そこでは再び、
わが国の軍化学工業が、陳腐化した
生産設備をも
つてして
世界市場から脱落し、わずかに低賃金による繊維工業が
日本に残されるにすぎないのであります。もし逆に、
世界政局の進展がより以上の緊迫を告げるならば、
わが国の
産業は、原材料の不足によ
つてその根底をゆすぶられるのであります。かくて
わが国の
産業は、
産業構造の矛盾の上に進退両難に陥
つている。その間に朝鮮事変は、いわば、つかの間の好況を
日本産業に與えているにすぎないのであります。このつかの間の好況は、あくまでエフイシエンシイ・プロフイツト、つまり効率利益ではない。スケアシテイ・プロフイツト、すなわち稀少利益であります。か
つて戰争中の
わが国産業がそうであつたごとく、スケアシテイ・プロフイツトは、
設備の
合理化より
設備の拡張を、品質の改良より絶対量の
増加を、労働
生産性の向上よりは労働強化をもたらすものであり、それはまさに現に起りつつあるのであります。
政府は昨年来、
企業の
合理化、
近代化を、鐘をたたいて宣伝いたしました。しかし今や、つかの間の好況におぼれ、この国策を放棄せんとしているのは、きわめて遺憾であります。すなわちこの点について第九国会で
政府が公約したことは、今回何も発見することができないのであります。われわれは、
国家百年のために、本
予算及び
外貨予算の
運用において、また
国内資金の動員において、
合理化、
近代化のためにこの好機をのがすべからざるものと、嚴重なる警告を発するものであります。現在の
日本経済にあ
つて、はたして
インヴエントリー・フアイナンスが大切か、
財政投資による
近代化が
国家のためか、深甚なる反省をわずらわしたいのであります。(
拍手)
次に
資本蓄積の点に関連して一言しなければならないことは、
資本調達の機構に関する問題であります。
政府は、今回の東京
銀行の
金融債発行に際して重大な誤謬を犯さんといたしました。
予算委員会において明白に
なつた事実は、大蔵省が東銀債の発行を応擬せんがために、
銀行等の債券発行等に関する法律をたてにして、一方には従来その立場を尊重されて来た興銀、勧銀の
金融債発行を押え、また反対する
地方銀行に対しては、
税法上の違反をあえてして、積立準備金を
資本とみなす等の特例を認め、
地方銀行の頭をなでて治めようとしたのであります。同法による
金融債は長期
資金調達のためにのみ認められたのにもかかわらず、何ゆえか、東京
銀行に対し、短期
資金である
貿易資金の調達を承認するのみならず、積極的に助成した節があるのであります。しかもそれを、
日本銀行総裁、
日本銀行政策委員会の明白なる反対を押し切
つて強行せんとしたのであります。このことは
政府の
金融政策の破綻を明らかに示すものでありまするが、協調と連帯によ
つて業務運営を推進して来た
金融界の徳義を、権力の濫用によ
つて破壊せんとする暴挙であります。(
拍手)のみならず、長期、短期
資金の調達系統を撹乱し、預金吸収という
銀行の正常業務を放擲して、
銀行をして債券の売りさばき競争に狂奔せしめ、その
健全性を害し、のみならず
地方銀行に大打撃を與え、
地方中小
企業資金を中央に吸い上げし
めんとする行為であ
つて、断じてわれわ事れの黙過せざるとこう声あります。(
拍手)幸いに
政府は、野党の反対と社会の正論に反省し、今後の発行については強力にブレーキをかけるとの態度に出たのは、同慶の至りであります。東銀を応援する精力の半分でも無記名定期預金の復活に努力すべきであると、重ねて勧告する次第であります。(
拍手)、
次に
経済自立促進の観点より、いま少しく具体的に検討いたしますれば、第一に
政府の
輸入対策であります。たとえば最も緊要な重化学工業原料たる鉄、塩、ニッケル等の
輸入対策を
政府にただしてみても、なるほど二十六
年度の鋼材
生産予定四百万トン、高炉銑三百二十万トン、これに必要な鉄鉱石三百五十万トンは、比島、マレー、馬鞍山、インドその他からの
輸入計画をも
つて、塩については
輸入必要量百八十万トンを、地中海、紅海、米国、メキシコ等からの
輸入計画をも
つて一応作成してはおります。しかし
輸入契約は、いまだにほとんど結ばれていない。価格は上る一方で、それも
見通しがついていない。船腹の手当は、事まつたくお先まつ暗であります。ひつきよう官僚製のペーバー・プランにすぎないのであります。ニツケルについては、さらにひどく、
政府当局は数字をさえ知らず、事実は
国内必要量千六百トンに対し、
生産及び
輸入にこる
供給量は五百トンをはるかに下る実情にあります。しかも、これらの
国内ストツクは、鉄鋼原料三箇月、工業塩一箇月、ニツケル二、三箇月分にすぎません。そのために、ニツケルのごときは、一年前の価格トン二十万円が、いまやトン三百万円に騰貴しておる
状態にある事のであります。
この事実に対し、
政府は辛うじて今回緊要
物資輸入基金
特別会計を設定し、わずか二十五億の基金で対処せんとし始めたのでありますが、今やこれらの重要
物資は、先ほどのフアイン博士の講演に示されたように、国際的割当
調整を受ける段階に立ち至
つております。
政府が、もしすみやかに
自主性を回復して割当配給を獲得しなければ、
日本経済は戰争中の善良なるサラリーマンのごとく、最低配給によ
つて身体衰弱に階ることは火を見るよりも明らかであります。(
拍手)かくのごとき国際的努力が焦眉の急であります。しかも、もし幸いに割当ルートを獲得したあかつきには、必ずやそれらの
物資は、国際道義上も
統制的
措置を必要とするに至るのであります。しかし、これらに対する新しいくふうを持つた準備態勢を
政府が準備していないこの事実は、無知か怠慢のいずれかのきわみであるとわれわれは考えざるを得ないのであります。(
拍手)
さらに
輸入促進の見地より改革すべきは、五億二千万ドルの保有
外貨の活用であります。西ドイツにおいでは、
外貨の保有があるどころではない、逆に相当の僭越しにな
つております。これに比べて
日本政府の弱腰と無策には、まつたく痛憤を禁じ得ないのでありまして、吉田内閣の姿は、まさに巨額の預金通帳をいだいて飢え死せんとしている、こじきの姿に似ているのであります。(
拍手)
次に、さらに一点検討を加うべきことは為替レートの問題があります。国際的インフレ波及防止のためにも、
国民生活安定、ことに大衆
生活擁護のためにも、
日本の現在の相対的有利の條件を利用して、適当なる為替レート切上げを再検討することは、まさにその時期であ
つて、かくのごとき関心すら現
政府にないことを、きわめて遺憾に存ずるのであります。
次に問題とすべきは、
食糧自給化の点であります。
食糧の自給の点で常に唱えられましたことは、
増産のための長期
資金の
配慮でありました。当初原案二百億に対して、わずか六十億の融通会計設置とは、見かけ倒しというよりしかたがないのでありますが、しかし、ない上りはよろしい。この際特に問題とすべきは、麦の
統制撤廃と燐鉱石の補給金の問題であります。
政府は、本年六月より麦の
統制撤廃を断行せんとしつつあります。われわれは、かくのやごとき反農村的
政策に対しては断固として反対せんとするものであり場ます。(
拍手)その理由は、まづ第一に、この
政策は農村を自由
経済と価格シエーレの中に再びほうり込まんとする
政策のスタートであるということ、第二に、本
予算における賃金
水準を
政府が維持しようとすれば、必ずや麦の値が上
つて来れば売り出動に出てたたくのであ
つて、麦の値段は常に最低価格にすえ置かれる可能性があるからであります。第三に、供麦代金が協同組合に入
つて来なければ、さなきだに崩壊せんとしている協同組合は決定的な打撃を受けるからであります。これに関連して、肥料原料たる燐鉱石の
輸入価格を示しますれば、昨年のトン十五ドルは、いまやトン二十五ないし二十七ドルに
上昇いたしました。かくて肥料価格をすえ置こうとすれば、百万トン
輸入するとして約七十億円内外の補給金を追加せねばならないのであります。もし補給金を計上しなければ、肥料価格は十貫目について現価格の倍、すなわち時価三百七十円に対して、さらに三百円騰貴するのであります。特に燐鉱石を必要とする麦作農民が、しかも対米比価を六四に落されて、何をも
つてこれに耐えることができましようか。(
拍手)公約の協同組合債券利子補給の
予算はどこにも見当らない。いまや、全国農民の吉田内閣に対する恨みは骨髄に達したのであります。(
拍手)彼らの怨みは地軸をゆす
つて、今次
地方選挙において、みごと恩返しをするであろうと、ここで断言するものであります。(
拍手)
次に問題とすべきは、
公共事業と自給のための
資源開発の問題であります。端的に指摘しますれば、二十五
年度の
公共事業費は合計千百四十一億円、本
年度は千百六億円であります。二割ないし四割の
物価騰貴を考えれば、かなりの実質的
事業量の縮小であります。その
内容においても、
食糧増産上最も大切な土地改良については、二十五
年度は五十一億、本
年度は五十八億、開拓については、二十五
年度が六十二億、本
年度が六十四億、
物価騰貴を
考慮すれば縮減であります。さらに港湾施設の改善については、二十五
年度二十六億、本
年度二十九億、住宅については、二十五
年度は五万九千戸、本
年度はわずかに四万一千戸という数字であります。このように
事業が縮減している理由は、何によるのでありましようか。
資金の総花的投下を行
つて、重点的
考慮を拂わないからでありまして、この点は、
国内資源の開発、自給促進
政策がきわめて貧困であることとともに、最も批判さるべき点であります。
さらに
経済自立の点について特に注目すべきは、電力
事業の問題であります。御承知のように、
政府は昨年末、みずから
自主性を放棄して、ポ政令をも
つて九分割を強行いたしました。われわれは断固反対し、いまだに五分割の実現を主張して讓らないのであります。(
拍手)しかるところ、さらに奇怪なことはも先般発表された新電力会社の人事であります。内閣監督下にある公益
事業委員会の内定したあの人事こそは、首相側近にあるそれがしが電力ポスと手を握り、
国家国民の公益を私欲のために壟断せんとした、天人ともに許さざる行為であります。(
拍手)一体それがしなる者は、か
つて電力
事業に経験を有する者でありますか。一体それがしなる者は、東京の
金融界に実力を有する者でありますか。実に側近の肩書を利用し、外資導入に名をかりて、電力界の老ボスと提携し、その勢力の温存をはかつたところの行為でありまして、吉田内閣の人事は、かの
輸出銀行総裁の人事より始めて、ここに積惡きわまれりといわなければならないのであります。(
拍手)幸い、これまた世論に屈して一応白紙にもどすことに
なつた由でありますが、さきの東銀債といい、この電力人事といい、多数の横暴も、ようやく世論の反撃の前に力を喪失して参りました。これからは早い。秋の日のつるべ落しのごとく、おこる平家は間もなく西海の波の果てに沈む運命にあるのであります。(
拍手)
第三に、社会
生活均衡確保の観点より本
予算案を検討いたします。第一にとらうべきは、中央と
地方の
均衡、すなわち
地方財政強化の問題であります。御承知のように、
地方自治の確立は民主主義の基盤であるがゆえに、そのため昨年、
地方税法、平衡交付金制度、災害復旧費全額国庫
負担、事務再配分、起債のわくの確保、この五本の支柱を打立てたのでありますが、
国家公務員の
ベース・アツプに影響されて、
地方団体、特に教職員を中心にする
人件費は、昨年に比し厖大化したのでありますが、税収はほとんど昨年並であり、平衡交付金に至
つては、
地方財政委員会要求千二百九億に対して百九億の著減であり、さらに今回災害復旧費の三分の一が
地方負担によつただけでも三百二十億の
負担増を来しておるのであります。さらにまた起債額も、
地方財政委員会要求六百十五億に対して、わずかに四百億にすぎない。しかも、昨年
地方団体に貸與された短期融資の利子約六億円は、昨年六月の閣議決定において、
政府において
措置することに決定しておきながら、いまだ何らの
措置もしておらないのであります。(
拍手)かくて今や
地方団体は、主として
ベース・アツプによる
人件費の増大と、災害費の
負担、
物価の騰貴のために、二十六
年度予算編成期にあたり、あるいは三箇月の暫定
予算を組むにすぎないもの、あるいは八箇月の骨格
予算を編成するにとどまるもの等続出し、前途の
見通し暗澹として、責任問題を惹起しているのは、実に中央
政府の
地方自治軽視の結果であ
つて、市町村の悲鳴に馬耳東風の
政府の態度は、きわめて不満とするところであります。(相手)
中小
企業に対する対策も依然として貧困であります。全国工場の九割、
輸出の六割を占める中小
企業の重要性、特に社会
政策的重要性は、つとに識者の指摘しているところでありますが、たとえば
国民金融公庫に申し込み零細な借入れも、現在では六に対して一の希望しかかなえられない状況であります。中小
企業信用保険も、いまだに軌道に乘
つておりません。もつと、きめのこまかい、情味のある
政策を、なぜ中小
企業にとらないのか、遺憾千万といわざるを得ないのであります。(
拍手)
さらにまた、昨年十月十六日、社会保障制度
審議会が多年の研鑚をも
つて政府に勧告した社会保障制度の推進は、本
予算において部分的にすら取上げられておらないことは、きわめて不可解であります。(
拍手)のみならず、健康保險、
国民健康保險が厖大なる
赤字を抱いて経営の困難に悩んでおるのを見ても、
政府の誠意を疑わざるを得ないのであります。(
拍手)社会
政策や社会保障は、
財政余力というような
予算のこつぱをも
つて行うべきものでは断じてありません。(
拍手)
経済再建費にまさる人間再建費であります。
政府の深甚なる反省を強く要望してやまない次第であります。(
拍手)
さらに、特にこの際声を大にして叫ばなければならないことは、戰争犠牲者の待遇の不備であります。戰争がぺイしないという原則から、これらの大人は特に優遇さるべきでないということは、りくつではよくわかります。しかし、家庭の柱石を奪われた老母が、あるいは妻が、インフレやデフレの波にもまれながら、野らに、行商に身を刻んだ情景は、まつたく同胞の一人として涙ぐむばかりであむます。(
拍手)また失明した傷痍軍人の年金がわずかに年二千四百円、両足を切断した者がわずかに年二千五百円、これらの事実は、勝者敗者を越えた人道上の問題として胸を痛めるのであります。たとえばドイツにあ
つては、これらの待遇は完全無欠に近い。傷痍着は、
日本における進駐軍のごとく、スペシヤル・カーに乘
つておるのであります。米国にあ
つては、これらの復員軍人援護等の
予算は昨
年度でも六十億ドルに上
つておる事実を見るにつけても、すみやかなる拔本的改革を断じて要求するものであります。(
拍手)
次に労働対策について一言いたします。勤労者の実質賃金指数は、昨年来ようやく旧華事変前の九〇%台に回復、消費
水準も
戰前の七六%に復帰して参りました。しかし、昨年下半期以来の
物価の趨勢は、再びこれらの勤労者の
生活に圧力を加え初めたのであります。今こそ
政府は、石橋インフレの経験に徴じ、事前に賃金スライド制、あるいは
税法におけるスライド的彈力性ある
措置を用意し、理性的な、少しはあか抜けした
政策によ
つて国民経済上、社会
生活上憂うべき摩擦を事前に回避するため万全の
措置を重ねて要望するものであります。
最後に私は、
終戰処理費と警察予備隊の
経費についで所見を申し述べます。
終戰処理費一千二十七億円、警察予備隊
経費百六十億円、うたた感慨無量なるものを禁じ得ないのであります。私は、今やこれらの
経費について本質的検討を加うべき段階に到達したと信ずるのであります。なぜならば、朝鮮事変以来の
情勢は、従来の占領
政策に一段階を画すべき時期が到来したと信ずるからであります。たとえば、朝鮮近海における海上保安庁掃海隊によるあの掃海作業、
日本船、
日本海員による前線への危險なる軍需品の輸送偉業、あるいはまた警察予備隊の
運用が、今や
日本人の自主的
運用下になくて傭兵的存在になりつつあること、これらの事実は、必ずしもポ宣言ないしは降伏條項の
範囲内にありや、疑われる節があるりであむます。将来の
国際情勢の緊迫化につれては、さらに積極的なる国連協力が起り得るのであり、また
日本国民としても、自由と独立を擁護するために心に決するところがなくてはなりません。しかし、それには前提があるのであります。かくのごときポ宣言や降伏條項との
関係において
考慮を要するがごとき積極的国連協力が要請さるるならば、現在のごとき占領、被占領の
関係で
実施することが妥当なりと言い切れるでありましようか。(
拍手)かくのごとき行為は、まさに占領、被占領の上下
関係で
実施すべきことではなくてすみやかに
日本の軍需占領を解いて一まず自由意思をわれわれに返還し、上下
関係にあらざる新たな
関係を連合国と
日本との問に創設し、自由なる
国民の多数意思によ
つてその協力は
実施さるべきであると信ずるのであります。(
拍手)このことは、国際法上からも国際道義上からも肯定さるべきでありまして、われわれは
政府に対し、すみやかに軍事占領とその管理を終結せしむるよう
関係方面に対し要望すべしと主張するものであります。(
拍手)しかしてその
終戰処理費は、自主的に行う保安自衛の
経費として転用すべきであると考えるのであります。
ここに
愼重に
考慮すべきは、自衛の本質に関する問題であります。すなわち
一つの例を示せば、
日本の自衛上最も考うべき最大の悲劇は、伝えられる
中共軍またはソ連軍の侵略に際し、有力なる
日本人部隊の来襲を予期、対処しなければならぬということであります。このときにあ
つても、もしわれわれが真に祖国を防衛せんとするなら、されわれは西郷南州を城山に討つたように、水際において断固撃砕しなければならないのであります。もしその勇気と決心がなければ、われわれは
国民政府のごとく崩壊せざるを得ないのであります。かかる断固撃碎する勇気と決心はどこに生れるか。自衛力が外国の傭兵的存在であ
つては、断じて勇気は生れない。外国の計画と統帥下に防御するがごときごとでは、断じて決心は出て来ないのであります。すなわち自衛力の根底には、民族自決の高い道義カと純潔性が要求せられるのであります。この観点からしでも、警察予備隊は
日本人の完全なる自主的運営のもとに改革せらるべきでありまして、傭兵的予備隊は、今や
日本青年の純情の圏外に脱落して行きつつあるのであります。内外多難の関頭に立
つて、今こそ
政府は警察予備隊の
自主性を回復すべきであると、全
国民の名前において要求するものであります。(
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以上、これを要すれば、本
予算は、一、明確なる内外認識と、雄渾なる国策に立脚して編成されたものでないこと、二、
予算策定の基礎はすでにくずれ、試行錯誤にあらずして、錯誤と錯誤の連続となる暫定
予算であること、三、その
内容において
国民生活の調和と
国民経済の自立達成上重大なる欠陥があること等により断固反対するものであります。(
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