○
小坂善太郎君 ここに昭和二十六年度
一般会計予算、昭和二十六年度
特別会計予算及び昭和二十六年度
政府関係機関予算につきまして、その内容及び
委員会における審議の経過並びに結果について御報告を申し上げます。
今簡單に昭和二十六年度
予算案の特色を申し述べまするに、この
予算編成の構想は、第一点といたしまして、昭和二十四年度予算以来の
均衡財政を堅持して
経済安定政策を推進いたして参りました、これを踏襲しております。第二点といたしまして、
朝鮮動乱以来の
国際情勢の激変に対処いたしまして、
世界的物価の上昇に影響さるる
日本経済の
インフレーシヨン的傾向を防止することを心がけております。第三点といたしまして、いまだに十分に回復していない
日本経済の復興を一段と進めて
経済自立を達成することを目標といたしておる点にあるのであります。
顧みますれば、終戰以降急激に上昇いたしました
インフレーシヨンに対処いたしまして、これを収束せしめんとする努力は六箇年の久しきにわたつて続けられたのでありまするが、ここにようやく経済の実勢は安定いたしまして、生産も増加して参つたのであります。ことに
朝鮮動乱以降の生産及び輸出の増加は目ざましく、昨年十月に入りまして、
鉱工業生産は遂に戰前の水準を突破し、その後も生産は上昇しつつあるのであります。これを昭和二十二年の初頭、国家の財政も赤字である、企業も個人の家計も赤字である、生産は戰前の二割三分程度といつた当時と思い比べまして、まことに隔世の感があるのであります。しかしながら、このように回復いたしましたその原因を検討いたしまするに、基本的にはアメリカの好意ある援助に負うところが多く、また
朝鮮動乱その他の外部からの要因によるところが多いのでありまして、これをそのままに、
わが国経済の実勢を示すものなりとは言いがたいのであります。従いまして、
朝鮮動乱以降の世界の複雑なる情勢に対処するためにも、
経済基盤の
充実強化を目標として努力することが肝要であります。
昭和二十六年度予算は、かかる目標に向つて一段と前進いたしまするために、今述べました三つの
予算構想を織り込んで編成せられたものであります。しかして、この予算の構想を具体化いたしました
予算編成の
基本的條件は次のようなものであります。
まず人件費の單価を、いわゆる八千円ベースといたしております。また
物件費につきましては、昭和二十五年度予算の單価をおおむね取入れましだる事務費を除きまして、その他の
物件費の單価は、昨年十月ごろの
物価水準によつておるのであります。ただ
電気通信省及び
日本国有鉄道の
建設資材に関しまする
予算單価は、
通信機材につきまして三割、
鉄道資材につきましては五割程度が前年度よりも
引上げられておるのであります。さらに
輸出入貿易計画では、外貨の受取りを十四億六千万ドル、
外貨支拂いを十三億八千二百万ドルと予定いたしまして、米国の対
日援助額は一億四千八百万ドルと見込んでおるのであります。食糧につきましては、二十五年度産米の持越高を三百八十六万トン、
明年度中に買い入れまする
国内食糧は五百七十六万トン、
輸入食糧は
玄米換算で二百八十六万トン、合計いたしまして一千二百四十八万トンの供給量に対しまして、需要量は九百万トン程度と考えられておるのであります。米価におきましては、二十五年度産米においては一八二・二
パリテイといたしまして五千五百二十九円、二十六年度産米では一九五
パリテイといたしまして六千百六円で買い入れる予定になつております。昭和二十六年度予算は、かかる構想と
前提條件とによつて編成せられたものであります。
思うに、
経済安定政策の最も有力なる方策は、
財政インフレーシヨンの防止並びに
生産増強と
生産能力の
引上げにあるのであります。しかも、特に
国民負担の軽減が必要であります。このためには、予算の均衡と、その規模の圧縮をはかることが肝要であります。この見地からいたしまして、昭和三十六年度
一般会計及び
特別会計の予算純計額を見まするに、歳入におきましては、前年度よりも四千九百三十六億円を減少いたしまして一兆五千四百八億円、歳出におきましては、同じく四千八百五十八億円を削減いたしまして一兆五千六十三億円となつております。さらに
一般会計、
特別会計及び
政府関係機関を通じまする
総合的予算の収支は、
赤字予算にもならず、超均衡的な
黒字予算ともならずして、ほとんど均衡しておるのであります。このことは、多くの人が
明年度予算をもちまして
中立予算なりと称するゆえんでありまして、日本財政史上注目すべき点ではないかと考えるのであります。
しかして、予算の規模の圧縮に最も役立つた重要なる経費は、
価格調整費と
国債費であります。御承知のごとく、三百六十円レートを媒介といたしまして
日本経済を
国際経済に結合するとともに、経済の正常化を導き、かつまた企業の自主性と健全性とを強化いたしまするために、
価格調整費の削減は望ましいのであります。来年度予算におきまして、
輸入食糧にのみ二百二十五億円の
価格調整費が計上せられ、昭和二十四年度の当初予算の二千二十二億円に比しますると、ここ二箇年間に約十分の一に縮小いたしました一事は、経済の安定が浸透いたしますると同時に、
予算面におきますところの
インフレーシヨン的偏向が一掃せられまして、経済の合理性への意欲がそれだけ貫かれたものと思われるのであります。
価格調整費の削減と関連いたしまして、戰時中から戰後にかけて行われました官僚の
人工的統制経済の不合理と不均衡を正常化するためのデイコントロールが、ここ三箇年におきまして思い切つて行われ、その結果といたしまして一般の
企業意欲が漸次高まることになりましたのは、まことに喜ぶべきことと考えられるのであります。今や
日本経済も、戰後の混乱と混迷の時期を脱しまして、高能率な
合理的生産が行われる正常な状態になつたものと思われるのであります。
次に
国債費が、
歳出削減の一要因といたしまして、前年度のごとく巨額の計上を見ず、法定の
債務償還と利拂いの経費に充当するために二百九億円にとどまつておりまして、前年度よりも二百七十七億円の減少になつておりますることは、
明年度予算の一つの特色をなしております。これによりまして、過去二箇年に行われました
債務償還を通じての
日本銀行のマーケツト・オペレーシヨンと、
市中銀行への
資金源泉の供給という一連の
金融政策は、来年度におきましては、その比重を減ずるものと思われるのであります。これに対しまして、
資金運用部特別会計によつて引受けられる旧
特殊銀行等の発行いたしまする四百億円の
金融債が、
長期資金供給の一方法として、今後におきまして重要なる意義を有するものと考えられるのであるます。
予算構想の第二点におきまする
朝鮮動乱後の情勢に対処しつつ
インフレーシヨンの回避に努めるという政策の一端は、
一般会計からいたしまする
外国為替資金特別会計の繰り入れ、すなわち
インヴエントリー・フアイナンスにおいて集約的に表現せられておると思われるのであります。この五百億円の繰入は、
外国為替資金特別会計が外貨の受取り超過その他によりまして、二十六年度末におきまして一億二千万ドルを保有するものと見込まれておることにあるのであります。これを円貨に換算いたしました四百三十四億円と、予備費の六十六億円とが、五百億円の内容をなすものであります。この受取り超過の一億二千万ドルは、対
日援助見返り資金の予定額の一億四千八百万ドルとほぼ見合つておるのであります。従いまして、一応予算の上では、
輸出超過によ
つて援助額を相殺するという形でもつて
経済自立に対する欲求を表明しているものと見られる次第であります。しかし、
日本経済の側面より見ますれば、
輸出超過は
外国為替資金特別会計の円拂い
輸出代金を増加せしめるものであります。この輸出面から起るところの
インフレーシヨン的傾向を抑止するために、
一般会計から五百億円を計上する措置が必要とせられたのであります。けだし同
特別会計が、
円貨支拂いの
資金源泉を、五百億円の
借入れ限度の拡大と、
日本銀行への
外貨売却によつて調達される
円資金などにのみ依存しますることは、
インフレーシヨン再発の誘因となるやもはかりがたいのであります。かかる理由によりまして、
インヴエントリー・フアイナンスの繰入れは、経済安定の歩調を維持するために通切なる手段と考えられたものと思われるのであります。
次に
明年度予算の特色の一つであるところの
経済自立のための諸政策は、
予算適におきまして幾多の事例をあげ得るのであります。第一に歳入面におきまして、個人の
自発的貯蓄を刺激し、もつて資本の蓄積の増加をはかるための処置が講ぜられておるのであります。すなわち、
所得税の六百十四億円を初め、法人税、相続税、酒税、
揮発油税及び
物品税等におきまして、七百四十三億円の税法上の減税を行つておるのであります。ことに、
所得税におきまする
基礎控除、
扶養控除及び
不具表控除等の
引上げ、未亡人と
老年者控除の新設、
生命保険料控除と
預金利子に関する
源泉選択制度の復活並にび税率の改正等は、
国民負担の軽減と、
資本蓄積と、
社会政策的意味を含めた、画期的な改正と見られるのであります。ことに
社会政策的減税につきましては、いたずらに單なる租税の形式的な
負担公平理論にこだわることなく、未亡人、老年者、
勤労学生等の
租税負担の軽減につきましては特別の配慮がなされた点は、高く評価さるべきではないかと存じます。險しい世間の荒波に、ともすればその声をかき消され、忘れられがちの善良な市民のために、さらに一段と税法土また租税の徴收上多くの配慮が加えられんことを切に政府に期待いたしたいと思うのであります。(拍手)
次に法人につきましては、
耐用年数の改訂、
積立金課税の停止、
機械設備等に対する特別の
償却方法の採用、銀行の
優先株配当の損金繰入れ、
再々評価の実施と、再
評価積立金の即時資本繰入れ等を実行することになつておるのであります。これらの方法によりまして、法人の
資本蓄積は強力に促進せられ、
経済自立の達成に多大の役割を果すものと存ぜられます。
專売益金に関しましては、ピース及びひかりを、それぞれ四月一日から十円値下げをいたし、食塩も一月一日から二割二分方の引下げをなし、
益金総額におきましては、販売量の増加等によりまして、前年度よりも十億円の増収が見込まれておるのであります。
今申し述べましたところの、
経済自立のための減税を中心といたしまする
歳入政策は、これを他の側面から解剖いたしてみますれば、次の考え方をも包含しておると考えられるのであります。すなわち減税は、
給與ベースの
引上げという
予算措置と合せまして、他方におきまする米価の
引上げと
価格調整費の削減によりまし、物価のわずかながらの上昇がもたらす家計と企業への圧迫を相殺いたしまして、相互に均衡せしめんとするところの
安定政策的考え方の一面をも有しておるのであります。
次に
予算面におきまする
経済自立政策は、
建設的経済の増加にその証左を認め得るのであります。
明年度予算の
公共事業は、国と地方との総事業において前年度よりも約大形程度増加いたしまして、一千六百七十一億円に達しておるのであります。これに国鉄の
建設勘定三百十二億円と、
電気通信建設勘定の二百二十四億円を合せますると、
建設的経費は前年度よりも百八十億円の増加となつておるのであります。また食糧の増産と自給度の
引上げを目標といたしますところの
農業関係経費に関しましては、
公共事業費中の
関係経費が増加せられ、
開拓者資金融通、
農業共済再
保險基金及び新たに設けましたところの
農林漁業資金融通特別会計等に
一般会計から約六十億円が出資せられ、前年度よりも約四十七億円の増加となつておるのであります。このほか
食糧増産関係経費二十六億円は、前年度に比べましで約十億円の増加となり、
食糧供出関係費及び
農業保險費も増額せられまして、
食糧政策に対しましては愼重なる考慮が沸われておるやに見受けられるのであります。
さらに
経済自立のための
金融的措置といたしまして昭和二十六年度予算におきまして、商業的な
採算ベースに乘らない
重要企業のために、多額の
国家財資金を
長期産業資金として動員いたしておるのであります。たとえてみまずれば、
見返り資金の
私企業投資三百五十億円、
資金運用部の
金融債の引受四百億円、
一般会計及び
見返り資金から供給される
日本輸出銀行百億円、
農林漁業資金融通特別会計六十億円、
一般会計から供給されまする
中小企業信用保險基金十億円、
緊急物資輸入資金特別会計二十五億円、
開拓者資金融通特別会計十四億円、国民金融公庫二十億円等、合計いたしまして九百七十九億円の
国家資金が、
資源開発、産業の合理化、設備の近代化及び
貿易資金として供給せられることになるのであります。かかる措置は、従来
政府資金がアイドルになつて眠つておつたという非難にこたえるものでありまして、今後におきましても、金融の持つ職能の大いなる点に特に注意し、
金融事情に応じて適宜の方策が講ぜられんことが望ましいと思うのであります。
また
経済自立の
精神的側面に関しましては、六・三制建物の補助四十三億円、
育英資金二十三億円、
試験研究費七十九億円、合せて百四十五億円が計上せられまして、二十五年度よりも三十一億円の増加となつておるのであります、民生安定を目標とする
社会政策的経費は、
生活保護、
社会保險、
結核対策、
失業対策、同
胞引揚げ等の経費におきまして五百六億円が計上せられ、前年度よりも三割方の増加となつておるのであります。右の文教及び
社会政策的経費は、いずれも将来世界的にすぐれた日本と日本人を生み出すために十分とは言えないまでも、適当なる措置であると考えられるのであります。われわれは、われわれの
子供たちがまつすぐに伸びて、すぐれた日本人として、またすぐれた世界人として育つてくれるよう、乏しい財政の中から、できるだけの考慮をいたさねばならぬと思うのであります。敗戰の身は貧しくとも、心ゆたかな日本人を生み出すという環境を、ぜひつくりたいものと念願いたすのであります。(拍手)
このほかに、二十六年度予算におきまする重要な経費といたしまして、
地方財政平衡交付金は、前年度よりも十五億円を増加いたしまして一千百億円となり、
終戰処理費、
賠償施設処理費、
特殊財産処理費及び
解除物件処理費等の
連合国関係経費は一千三十八億円とへ前年慶よりも七十四億円を減少しておることをあげ得るのであります。
なお旧来の預金部が改組せられて新たに設けられました
資金運用部特別会計と、
見返り資金特別会計におきまする
余裕金とにつきましての意義についで言及いたしまするに、両
特別会計の
余裕金を合計いたしますと、昭和二十五年度におきましては一千六百九十三億円、二十六年度におきましては一千六百八十四億円がそれぞれ翌年度に繰越されることに予定されておるのであります。これらの
余裕金と称せられるものは、事実上両
特別会計が
食糧証券場や
外国為替資金証券等にその多くを投資して保有されておるのでありまするが、またこれは今後も保有されるものと予想せられておるのであります。従いまして、かかる措置によりまして、これらの
短期証券の
日銀引受によりまするところの
信用造出は、この限度において押えられておると認められるのであります。現に昭和二十五年度の実績に徴してみまするに、本年度当初におきましては、
一般会計、
特別会計、
預金部資金等を含めました
国庫金と民間の収支の差額は、超
均衡予算といわれまして、年間を通じて一千二百億円の
引揚げ超過になるものと考えられておつたのであります。しかるに、
外国為替特別会計の運用の過程におきまして、輸出入の不均衡による外貨の受取り超過の結果、二十五年度末になりますと、二千八百四十余億円の支拂い超過が
外為会計のみにおいても見込まれておるのでありまして
国庫金対
民間収支におきましては、逆に約七百億円の支拂い超過が予定されるに至つております。この点にかんがみましても、もし見込り資金と
資金運用部特別会計におきまする千七百億円に及ぶ
引揚げ超過がなくて、両
特別会計の
短期政府証券の若干の保有がなかつたならば、通貨の膨脹は恐るべきものがあつたろうと考えられるのであります。従いまして、両
特別会計の約千七百億円に達しまするところの
引揚げ超過の額の一部は、
外為会計の本年度におきまする二千数百余億円の
円貨支排額の若干金額と見合つております。これによりまして、
インフレーシヨン要因と
デフレーシヨン要因が互いに相殺せられておるものと考えられるのであります。このことは、明らかに予算におきまする
経済安定政策と
インフレ抑制策の特色を物語るものと考えるのであります。しかしながら、かかる両
特別会計の
余裕金を解放いたしまして、
外為特別会計の
輸出円代金の支拂額を減額し、さらに
外為会計への五百億円のインヴエントリー、フアイナンスを必要ならしむるためには、輸入の増加による輸出入の均衡が最も希望せられるところであります。まして二十六年度の予算におきましては、その
中立予算的性格から見ましても、万一
外為会計や、あるいはまた
日銀ユーザンス等によるところの
金融操作がまずく、
余裕金との調整が適当でない場合には、この面から
インフレーシヨンの素因がつくり出される懸念がないでもありません。政府におきましても、
輸入政策につきまして万全の諸政策を講ぜられつつあるものと存ぜられるのでありまするが、一段とこれに関するところの適切なる諸方策を講ぜられ、財政的、
金融的措置につきましても愼重に検討され、かつ実施せられんことが期待されるのであります。
最後に講和と予算の問題についてでありまするが、本年は講和の年と信ぜられ、また私どもも、それを衷心より希望いたしておるのであります。対
日援助資金という一本の管とGHQとによつて
国際経済につながつておりましたところの
日本経済の中における予算は
講和会議の後には、
世界経済の中に独立した
日本国予算となるのであります。対
日講和の線に沿いまして、
援助資金打切り後の
外資借款とか、あるいは
国際通貨基金への加入等と、今後の活動の範囲というものはますます
広汎多岐にわたるものと考えられるのであります。
わが国の活動の面も、このことによりましてますます多角化するのでありまして、この予算の対処すべき面もまた多様になるのでありましてわれわれは
客観情勢の変化に対応すべき
財政金融政策を不断に考究する必要があると感ぜられるのであります。
昭和二十六年度の予算の特色または性格ともいうべきものは、以上指摘したようなものであります。
次に、
委員会におきまするところの審議の経過並びに結果について御報告を申し上げます。
本
予算案は、去る一月二十四日
予算委員会に付託せられて以後、昨二月二十六日まで一箇月有余、熱心に審議を重ねて参りました。その間の
質疑応答の詳細は会議録によ
つてごらんを願うことといたしまして、ここには、そのうち若干の問題を取上げて報告するにとどめたいと思います。
まず
国際政局の急展開、これに伴う対
日講和條約
早期締結の
見通し、特に
ダレス特使の来訪等、内外諸情勢の重大化を反映いたしまして、
講和條約の内容、
安全保障、再
軍備等、
わが国の将来にとつて最も重要なる諸問題が取上げられまして、委員と
総理大臣との間に活発なる
質疑応答がかわされたのであります。このような諸問題は、特に将来の
わが国の財政のあり方を大きく決定づけるものでありまして、この概要をまず最初に申し上げたいと思うのであります。
質疑の要旨は、
朝鮮動乱を初めといたしまする緊迫した
国際情勢に対する政府の
見通しは、あまりに楽観的に過ぎはしないか、日本の独立と安全を守るために政府は確固たる所信を持つておるか、国際的に許される範囲内で
自衛能力を確立すべきではないか、しかしてその経費のためには、新しく国民の負担を増加することなく、現在の
終戰処理費の削減をもつてその財源とすべきである、また領土その他に関する国民の切なる要望を総理はいかに
ダレス民に伝えたか、それは
講和條約の内容においていかに具体化される見込みであるか、大体以上のようなものであつたのであります。これに対する
総理大臣の答弁は、昨今の
国際情勢は確かに容易ならざるものがある、しかしながら、中共軍の活動からただちに世界大戰にまで発展するとは考えていない、日本の安全は日本みずから守るという決意であつて、また
日本国民だれしもがこの決意を持つておると思うのであるが、これがただちに再軍備に入るというようなこととは、これは別の問題で、軍備のみが日本を守るゆえんではないと思う、しかも国内の治安は警察で十分守り得るが、国外よりの攻撃に対しては單独で防衛することは不可能であるから、何らかの
集団的保障によらねばなるまい、日本が今ただちに再軍備をやるというようなことは、軽々に考えるべき問題ではない、占領費がどうなるかは
講和條約締結後の問題である、ダレ久氏は日本に対して
講和條件を交渉するために来られたのではなく、日本側の意見を聞きに来たのであつて、国民の意のあるところは十分にお伝えしたつもりである、
講和條約の内容となるような事項についてには言明を避けたい、以上のようなものでありました。さらにこれに関連いたしまして、
講和條約締結後の
ポツダム宣言の効力の問題、
国内治安確保の問題、
愛国心涵養の問題等、種々重要なる問題が取上げられまして、熱心に論議せられたのであります。
次に、
朝鮮動乱の長期化、
世界的軍備拡張の傾向は、
海外原料資材の獲得を困難ならしめ、まだ国際的な
物価騰貴、特に
海上運賃の異常なる高騰を招来して、これらの憂うべき要因により、
わが国経済も漸次
インフレ気構えを見せ、
国民生活は次第に圧迫されつつあるが、政府はいかにしてこれに対処せられんとするか、経済の再統制は避けがたいのではないか、
輸入促進、
船腹確保の
見通しはどうか、加うるに
物価騰貴は
予算編成の
基礎條件に狂いを生じさせて、年度内に必ず
補正予算を必要とする結果になるのてはないか等々の質疑がありました。これに対しまして政府は、物価は確かに上昇の傾向にあるが、その
騰貴率は一様でない、
騰貴率の最も高いものは
軍需資材であるが、
国民生活に最も関係の深い
食糧等は、幸いにしてそれほどでもないようである、
従つてCPIによつてみても、さほど国民の生活が圧迫されているとは言えないであろう、衣料の値上りには重大な関心を持つているけれども、今後原綿・羊毛等は一層豊富に買いつけ得る見込みであるから、心配するほどのことはないと思われる、経済の再統制を云々する前に輸入を促進し、統制を必要としないような状態にすべきであると考えておる、やむを得ざる場合にも一定の物資に
限つて使用制限を強化する等の措置をとることは必要であるかもしれないけれども、かつてのような全面的な統制を行う意思は今日のところ毛頭ない、
輸入促進には
外貨予算の
大幅拡充、
自動承認制品目の拡大その他種々の手段を講じているので、その効果はあがりつつあり、
船腹確保のためには第七次造船の
早急実施、低性能船の改造あるいは買用船を行う等あらゆる方策を講じたい、また
補正予算を必要とするかどうかの点は、予算に若干の
物価騰貴は織り込んであるから、現在の
見通しとしては、
輸入食糧補給金等に若干の問題はあるとしても、大体この予算のままでやつて行けると思う、ただし予算はそのときどきの情勢に最も適合したものでなければならないから、事態が著しく変化した場合を仮定すれば、それはそのときのことであると答えるよりほかはない、との答弁がありました。
なお
輸出超過による
円資金不足額五百億円を
一般会計より外国為替資金に繰入れる方式の可否に関しまして、このような資金を国民の税金によつてまかなうことは、それだけ生活水準の切下げを意味し、輸入に対する政府の無為無策を
国民生活の犠牲によつてカバーせんとするものではないかとの質疑がありましたが、これに対しまして、政府は、一方において七百四十三億円の減税を確保しでいる以上、他方にお、いてインフレ阻止のためこの程度の
一般会計からの
インヴエントリー・フアイナンスを行うのは必要であるとの答弁でありました。
さらに
経済自立と
資本蓄積の問題に関連いたしまして、
国際情勢が昨今のように激動し、輸入の不円滑、
物価騰貴等幾多の惡條件が重なつている状態で、はたして
日本経済の自立は所期の通り達成できるか、また
経済自立三箇年計画はこの予算に十分反映されているかどうか、自立達成のかぎである
資本蓄積に関する対策いかんとの質疑がありましたが、これに対しまして政府は、確かに
国際情勢が変転きわまりない時代であるから、いろいろ国内情勢に変化を受けることもあろうけれども、そのときには自動的にその変化に対処するように計画しつつ自立達成に邁進したい、三箇年計画の初年度としての昭和二十六年度については、予算その他に十分調整をとつてある、
資本蓄積のためには、この予算に見られる通り、税制の面における所要の改正、
国家資金による
長期産業資金の供給、さらに治山治水事業の強化等十分の措置を講じている、との答弁がありました。
次に農業問題に関しまして、この予算においては依然として農業軽視の傾向が強い、経営基礎の弱い農業に対してはどうしても大幅の財政資金の投下が必要であるのに、農業関係の経費がこの程度しか増加されていないということでは農業政策の遂行は不可能ではないか、日本合の最も大きなプールである農村に対する基本的施策いかん、また海外食糧の買付が困難な点よりしても食糧需給の
見通しに多大の不安があるがどうかとの質疑がありました。これに対しまして政府は、昭和二十六年度においては、食糧増産関係費、
公共事業費、
農林漁業資金融通特別会計の新穀等、農林関係の予算は相当程度増大している、農村に対する基本的な政策としては、農業経営にとつて必要な物資の確保、その価格の安定、農業の生産性の高揚、作物転換の指導、互助的団体の育成等をはかつて行きたい、食糧需給の問題は、国内備蓄米の増加を見込み得るから心配はない、雑穀並びに麦の統制は予定通り撤廃するつもりである、との答弁でありました。
さらに社会保障の問題に関連いたしまして、社会保障関係の経費については確かに前年度よりも相当程度の増額をなされておるけれども、制度改正の面においても、金額の面においても、社会保障制度審議会の勧告はほとんど無視されておるといつてもよい、審議会の勧告は国家財政の現状から見ても決して無理なものとは思われないのに、なぜこのような態度をとつたか、これでは社会保障に対する政府の熱意を疑わしめるものがあるという発言がありました。これに対しまして政府は、議会の勧告が遅れたために十分に取り入れることができず、ここでは
一応その試案によつている、財政の現状からして、勧告されている程度の金額を計上できなかつたことは遺憾であるが、今後十分その勧告の線に沿つて努力するつもりである、との答弁がありました。
最後に、
資本蓄積の問題に関連いたしまして
金融債発行の問題が取上げられ、二月十九日には
日本銀行政策
委員会委員中山均君外四名、さらに二月二十五日には
日本銀行理事井上敏夫君外六名を参考人として招いて、その意見を聽取いたしました。この問題に関しましては、主として野党側の委員並びに参考人中のある者は、一年程度の短期
金融債の発行は資金吸収策として適当なものでなく、発行余力のある銀行と、ない銀行との間に著しい不公平を生ずる、そうして預金の横流れその他金融界に無用の波乱を生じさせるものであるとの意見でありました炉、これに対して、他方政府並びに参考人のある者は、
金融債の長期短期の区別はそのときどきの金融情勢によつて決定さるべきものであつて、現在においては、一年程度のものは長期債とみなすべきである、ましてや
資本蓄積の必要性が痛感されている今日、たんす預金を引出す意味においても、かかる方策は必要であり、また銀行間の自由競争をなさしめて、その合理化を促進することにもなる、との意見でありました。しかしながら、さらに政府側より、この問題は今後の施策において解決して行きたいとの発言がありましたこともつけ加えておきます。
次に電力問題に関しまして、二月二十三日、日本発送電総裁小坂順造外四名を参考人として招き、その意見を聽取いたしましたことも申し上げておきます。
さらに
予算案全体について細目にわたり詳細な審議検討を行うため四分科会にわかつて、二月二十日、二十一日の両日審議を行いました。分科会におきまする審議の経過並びに結果につきましては、それぞれ各分科会の主査より報告がありましたが、これらはいず茨も会議録によ
つてごらんを願うことにいたします。
次に公聽会につきまして御報告申上げます。公聽会は二月十四日並びに十七日の両日開催いたし、公述人といたしまして学界、産業、貿易、金融、労働、農業、社会保障、地方財政等の各分野におきますところのそれぞれの権威者の出席を願い、その意見を聽取いたしました。そのうち特にきびしい批判を御紹介申し上げますと次の通りであります。
朝鮮動乱以後、物価は国際的にも国内的にも相当騰貴しつつあるが、この予算には十分それが織り込んでないようであり、また歳出歳入のそれぞれに前提されている
物価水準は、綿密に調べると非常にちぐはぐで、相互に調整されていないように思われる、現在のような激動期に対処する予算としては、予算の中にある程度のクツシヨンを設け、弾力性を特に持たせる必要があるのではないか、次に、この予算には確かに大幅の減税が見込まれ、その点まことにけつこうであるけれども、インフレが高進すれば
租税負担の軽減を帳消しにしてしまうおそれがある、勤労者、中小企業者、農民等に対しては、勤労控除、
基礎控除の面でさらに一段の軽減が必要ではないだろうか、また
資本蓄積の観点から、再評価税、法人税、固定資産税その地に関して、より一層の考慮を沸つてほしいというような意見がありました。次に地方財政の問題に関しましてシヤウプ勧告は、国と地方の行政事務再配分を前提としているのに、その前提を無視して税制のみを実施したため地方財政が窮迫したのである、方向としては今後国税の大幅委譲を行い、平衡交付金もまた削減すべきだということであります。さらに農業に関しましては、
明年度の農家所得は、
物価騰貴によつて実質的に低下せざるを得ない。予算に織り込んである程度の農産物価格では、再生産は不可能である。生産コストの比較的高い麦には二重価格制度が必要なのではないか。また
食糧増産関係経費は少額に過ぎるので、これでは予定の目標は達成せられないであろう。最後に予算の執行の適正化については、
国民負担の軽減という点からいりても、特に
公共事業費等についてはその支出監査を嚴重にし、予算の効率的使用をはかるべきであるというのが公述人の批判のうち特徴的なものであつたように思われたのであります、
質疑は、去る二十六日をもつて終了いたしました。討論に入るに先だちまして国民民主党、農民協同党、社会民主党共同提案になりまする、
予算案の組みかえを政府に要求する動議が提出され、採決いたしましたるところ、これは否決せられました。続いて原三案を一括討論に付し、各党代表よりそれぞれれ賛成あるいは反対の討論がなされました。次いで採決いたしました結果、本
予算案は原案通り可決されました。
以上をもちまして御報告を終ります。(拍手)