○
中野重治君
日本共産党は、この
二つの
法案に
反対します。その
理由を
簡單に述べます。
先ず第一には、この
法案を
審議するのに当
つて、その
審議が
政府側によ
つて説明上妨げられたということを挙げなければならない。これは今まで
法案が本
会議に上程される場合、
委員長によ
つて説明がなされますが、その場合しばしば
委員の熱心なる
質問に対して
政府側が懇切なる
答弁を與えたというようなことが言われておるけれども、この
二つの
法案に
限つては
政府の
答弁は
不親切を極めた、客観的にはこれは
審議を妨害したと言わ
ざるを得ないということを強張しなければならない。実例を挙げれば、例えば
暴力規定を挿入するために、或いは
組合の
会計を上から入
つて來て監査しようというような形に持
つて行くために、
最高裁判所の出した
労働関係事件判決集の中から、そういう
意図を裏附けるのに適当と
政府の方で思われるものだけを
原資料を添附しないで我々に配付をしたのであります。これはその
暴力問題が裁判でさえもまだ
最終決定を見ていないのですから、それが
組合側の
暴力にあるか、惡い
資本家側の
暴力にあるか、ということは未
決定である。そういうものを出している。
会計問題に関しては
経費者の紊乱については触れない、
國家支拂いの遅延については
資料を出さないて、
組合の
会計に
関係した一、二の人が金を使い込んだというようなものだけを持出して來ておる。こういうことは何らか腹黒い企みを持
つているのでなければ、
人間としてなし得ないところであります。この問題は昨日にな
つてやつと問題にな
つた横須賀地方の
組合のサイン問題に関する
説明において一番よく現われている。これは非常に大事な問題であるから、
委員会において
質問が出されたのに対して、
政府則の
答弁の仕方が極めて曖昧であつたために、一部の
委員の間には、この問題がこの
二つの
法案を
審議するのにどんな
本質的関係があるのか分らないという
意見が出る程、あの
政府側の
答弁は
不親切を極めた。こういうことは我々としてはこの
二つの
法案を本当に眞面目に
審議するに際して、
政府側が出したところの妨害行爲であるとこう認め
ざるを得ない。
両
法案の中に入れば、第一には、これはすべてに
亘つて労働組合を弱める。これを上から
取締る、こういう
方針でできております。そのことは第
一條の
規定によく現われておる。これは
現行法の
規定がよしんば完全でないまでも、
改正案の
規定は極めて不完全であるのみならず、
了解に苦しむ。これはすでに今迄に記録にも載
つておりますが、「
本法ハ團結権ノ
保障及團体交渉権ノ
保護助成ニ依
リ労働者ノ
地位ノ
向上ヲ
図リ経済ノ
興隆ニ寄與スルコトヲ以テ目的トス」というのは、欠点があろうとも明瞭である。
改正案では「この
法律は、
労働者が
使用者との
交渉において対等の
立場に立つことを促進することにより
労働者の
地位を
向上させること、
労働者がその
労働條件について
交渉すめために自ら
代表者を選出すること、その他の
團体行動を行うために自主的に
労働組合を組織し、
團結することを擁護すること並びに
使用者と
労働者との
関係を
規制する
労働協約を締結するための
團体交渉をすること及びその
手続を助成することを
目的とする。」こういう、一層問題を具体化し明確化するためだと言いながら、こういうふうに曖昧にすることは、やはりさつ
ぱりした氣持で問題を進めようとする
人間の採らないことであ
つて、このことも
組合弱化を
目的とするということが明らかです。
それから一方では
労働者陣営の
分裂を策している。
労働者というのは
かくのごときものであると基本を
規定しておりながら、
守衞は
労働組合に入れないとか、タイピストはそこから除いてしまうというようなことを、勝手にや
つている。專從者の
給與の問題はすでに明らかな問題です。
日本の
労働者が
鬪爭によ
つて獲得したものを、それを
資本家側が
経済的に援助するのだというように、鶯を烏と言いくるめようとしている。
更に問題を
労働委員会の問題にすれば、
政府は
労働委員会というものを
政府の
行政機関の中に組入れて、これを
役人化そうとしている。そうしてこの
役人化された
労働委員会を
使つて、
組合を許可するとか認可するとか、まるで警察が或る種の営業を取扱うようなやり方に持
つて行こうとしている。このことは
公益委員の方で取扱う裁判的の問題を全く天降り的に挿入したことによく現われている。何故
公益委員のみがあれを取扱わなければならんかという
法律哲学上の問題は全然
説明されていない。
政府がそうやりたいからこれは天降り的に挿入するのだということにな
つている。こういうことはすべて一方からいうと、
憲法及び十六原則に
保障されているところの
労働者の爭議権、ストライキ権の否認の
立場に立
つている。このことは本
会議で
労働大臣自身も言明しております。このストライキ、特に
政府的ストライキ、同情ストライキ等々の否認ということは、
資本家の中でも特殊な性質を持
つている渡邊銕藏氏なんかが公聽会で述べていることと客観的に一致している。そうしてそういうスト否認の
立場に立
つて、ストライキに関して、一方ではストライキを否認するものではないと言いながら、ストライキ開始は実質上妨害されるごときところへ例の無記名投票を上から下まで國全体に
亘つて強行しようということで、実質的にこれを妨げようとしている。こういうことは
衆議院参議院両方の公聽会、それからそれ前に全國のブロツクで開かれた公聽会における
労働者側の
意見を一つも取上げていないということを裏書しております。特に今度の
改正に関して特徴的なことは、さつきにも触れた
暴力規定を挿入して、この
暴力という言葉で
組合の活動を
取締ろう、
彈圧しようとしているところに現われている。
政府自身の言葉によ
つても、それから我々の言葉によ
つても、民自党その他の
資本家的
立場にある人々の言葉によ
つても、
労働組合の活動において
暴力の問題が次第に減
つているということは皆一致して認めている。而も一致して認めているものを無理に
暴力規定を挿入しようとし、他方では同じくもうそんなことは消えてなくな
つているところの門地とか、身分によ
つて組合が
組合員を差別してはならないというようなことを無理に生かそうとしている。一方では戰爭後三年乃至四年の
経驗に即して実地に合せて
法律を改めると言
つておりながら、実地に合わないように改めようとしている。この
暴力の問題については特に我々はこういうことを読まなくてはならん。形の上の
暴力ということが問題なんではなくて、それがどういう歴史的方向をと
つているかということを我々ははつきり認めなくちやならん。アメリカが独立する際には明らかに
暴力の上に立つたけれども、これは歴史の法則に立
つてアメリカの國の発展の方向に立
つておつたからこれは正しかつた。こういう場合によく公共の福祉ということを振かざしてこれを鎭圧しようとするのだけれども、この公共の福祉ということを看板にしてこれを抑えようとするそういう行き方程、そういうことをしようとするものの性質を明らかにするものはありません。パリーコミユーンのときにテイエール
政府は、國をプロシヤ軍に賣
つて置いて、そうして公共の福祉という布れでパーコミユーンに対して大砲を向けた。大体
日本において
終戰後隱退藏物資の摘発とか、或いは惡い質本家に対する
労働者側の
鬪爭というようなものが、それまでの
日本の警察の行き方によれば
暴力的行爲であると、認められるような現象を伴つたということは、これは或る意味で自然であ
つて、若しそうでなかつたならば、その後
政府が
法律を出してまで、この隱退藏物資の摘発ということに國家として乘出すようなことはなかつたでしよう。我々は個々の
暴力の発現形態を捉えるのではなくて、それがどういう事情によ
つて発現して來たかということを捉えたとき、初めて
暴力的な形に問題が爆発しないように自然に、眞直にことを運ぶことができる。これこそ政通的にこの種の問題を扱わねばならん基本
態度であるのに、その逆をや
つている。このことは民自党が統一ある
政府であるならば、他の
法律或いは
法律案との
関係においても見られなければならない……。