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1948-05-31 第2回国会 衆議院 司法委員会 第23号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年五月三十一日(月曜日)     午後一時三十三分開議  出席委員    委員長 井伊 誠一君    理事 石川金次郎君    大村 清一君       佐藤 通吉君    花村 四郎君       松木  宏君    明禮輝三郎君       池谷 信一君    石井 繁丸君       猪俣 浩三君    中村 俊夫君       大島 多藏君    佐竹 晴記君       北浦圭太郎君  出席政府委員         法務政務次官  松永 義雄君         檢 務 長 官 木内 曽益君  委員外出席者         專門調査員   村  教三君         專門調査員   小木 貞一君     ————————————— 五月二十八日  青年補導法案參議院送付)(予參第六号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  刑事訴訟法改正する法律案内閣提出)(第  六九号)     —————————————
  2. 井伊誠一

    井伊委員長 会議を開きます。  刑事訴訟法改正する法律案を議題といたします。政府説明を願います。
  3. 木内曽益

    木内政府委員 刑事訴訟法を改正する法律案の提案の趣旨及び改正の最も重要な点、四点については、法務総裁から説明がありましたので、私からは本案の全編にわたりまして、改正の要点を條文の順序に從つて御説明いたしたいと思います。  第一は、裁判所規則制定権との関係であります。本案の内容にはいる前に、本案の立案にあたつて、憲法第七十七條に基く裁判所規則制定権との関係をいかように考えたかという点を御説明申し上げたいと思います。  憲法第七十七條によりますと、最高裁判所及びその委任を受けた下級裁判所は、訴訟に関する手続について規則を制定する権限を與えられているのでありますが、一方憲法第三十一條は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」、こう規定しておるのであります。そこでこの両者の関係について、いろいろの見解があるのでありますが、政府におきましては、國民の基本的人権に直接の関係ある事項、及び刑事訴訟基本的構造に関する事項は、憲法第三十一條によつて当然法律によるべきものとし、この方針に基きまして本法案を立案したのであります。しかしながら他面憲法第七十七條が裁判所に規則、制定権を與えている趣旨を考えまして、現行法中單純な手続規定はこれを規則に讓り、本案はこれを削除しておるのであります。  次に全編にわたり順次改正の要点を御説明いたします。まず第一編総則、第一章裁判所の管轄という点について申し上げます。本章はおおむね現行刑事訴訟法の通りでありますが、新たに事物管轄を同じうする他の管轄裁判所への事件移送の制度を設けたのであります。これは第十九條であります。これは本案がきわめて徹底した直接審理主義公判中心主義を採用いたしました結果、被告人現在地管轄を有する裁判所において審判するよりも、犯罪地または被告人の住所地を管轄する裁判所において審判する方が被告人の保護ともなり、また審理の便宜も得られるので、この制度を採用いたしたのであります。  次は第二章裁判所職員の除斥、忌避及び回避の方について申し上げます。本章におきましては回避の制度を規定いたしたのであります。これは回避は單なる裁判所内部規律の問題でありますので、裁判所の規則に讓つたわけであります。  次は第三章、訴訟能力被疑者に関する規定を取入れましたほか、現行法通りであります。  第四章の弁護及び補佐につきましては、本章中弁護人制度に関する改正の要点は、次の六点であります。  第一は三十條第一項の規定であります。被疑者弁護人選任権であります。本案におきましては、應急措置法をさらに一歩進めまして、被疑者は身体の拘束を受けていると否とを問わず、すべて弁護人を選任することができるものといたしまして、その保護をはかつたのであります。  第二は特別弁護人の制限であります。これは三十一條になつております。本案におきましても、特別弁護人の制度は、これを認めておるのでありますが、特別弁護人を選任することのできるのは、簡易裁判所及び地方裁判所に限られまして、かつ地方裁判所におきましては、他に弁護士たる弁護人がある場合に限るものといたしまして、著しく特別弁護人を選任し得る場合を制限いたしたのであります。これは本案においては、弁護人が独立して訴訟行為をなし得る範囲を著しく拡張いたし、公判準備及び公判手続において弁護人が行動するについては、專門的法律知識が必要となつておりますので、原則として、弁護人は資格ある弁護士たることを要し、特別弁護人は例外的にこれを認めることといたしたのであります。  第三は、主任弁護人の制度であります。これは三十三條、三十四條に規定いたします。本案におきましては、公判準備及び公判手続において、弁護人に通知をしなければならない場合が著しく多くなります。また弁護人のなし得る訴訟行為も、はなはだ多くなつているのであります。この場合に数人の弁護人に対しまして、すべて通知をしなければならないのだとすることは、きわめて不便であり、また弁護人のなす訴訟行為が相矛盾するのでは、訴訟の進行にいろいろの不便がありまするので、本案におきましては、主任弁護人の制度を設けまして、主任弁護人は、弁護人に対する訴訟行為、または弁護人のする訴訟行為について他の弁護人を代表するものといたしたのであります。しかし証拠調べ終了後の意見の陳述は、すべての弁護人がこれをすることができるようになつておるのであります。  第四は弁護人の数の制限であります。これは三十五條であります。弁護人の数は、各被疑者については、三人を超えることができないものといたし、被告人につきましては、特別の事情があるときは、三人までに制限することができるものといたしたのであります。これは司法法制審議会において、はげしい論戰の末決定された答申に從つたものであります。  第五は貧困その他の事由による弁護人選任の請求権は、應急措置法と同樣であります。これは三十六條であります。  第六は、弁護人被疑者または被告人との交通権であります。これは三十九條であります。被疑者または被告人が供述を拒む権利があり、また終始默秘する権利があることを考えますと、被疑者または被告人弁護人との接見に官憲が立会い、その会談の内容を聽取することは、建前として許されないところでありますので、身体の拘束を受けておる被疑者または被告人は、何人の立合いもなく弁護人または弁護人となろうとする者と接見し、防禦の準備をすることができるものとしたのであります。また書類もしくは物の授受をすることができるものといたしました。但し監獄法その他の法令で、逃亡、罪証隠滅または戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができるものといたし、公訴の提起前におきましては、捜査との調整をはかる必要上、捜査官は、接見または授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができるものといたしたのであります。この指定に対しましては、不服の申立ができることになつております。これが三十九條と四百三十條であります。  次は第五章、裁判の点であります。本章につきましては、單純な手続的規定裁判所の規則に讓つたほかに、現行法通り別に変りはありません。  次は第六章、書類及び送達の点であります。本章は現行法においては、二章にわけられていた書類及び送達を、併せて一章にいたしたのであります。まず公判調書について特別の規定を設けました。それは四十九條でありますが、被告人にも、弁護人がないときは、公判調書の閲覽権を認めた点であります。  次は五十條の規定でありまするが、公判調書が次回の公判期日までに整理されなかつたときは、裁判所書記は、檢察官、被告人または弁護人の請求により、次回の公判期日において、またはその期日までに、前回の公判期日における証人の供述の要旨を告げ、その際請求者から証券の供述の要旨の正確性につきまして異議があつたときは、その旨を調書に記載しなければならないものといたし、公判調書の正確性の担保をはかつたのであります。第三は五十一條の規定でありまするが、被告人及び弁護人の出頭なくして開廷いたしました公判期日公判調書が、次回の公判期日までに整理されなかつたときは、裁判所書記は、次回の公判期日において、またはその期日までに、被告人または弁護人に、前回の公判期日における審理に関する重要な事項を告げねばならないものといたし、被告人の保護をはかつたのであります。次は確定訴訟記録の公開の制度を設けたのであります。これは五十三條であります。何人も被告事件の終結後、原則として訴訟記録を閲覽できるものといたしたのであります。これは裁判の公正を担保する趣旨に基くものであります。次は送達に関する刑事訴訟におきましては、公示送達制度をまつたく認めないことといたしました。そうして被告人の保護をはかつたのであります。但し五十四條に規定しておりまするが、公訴の時効の停止については、特別の規定を設けまして、公示送達を廃止したために起るこの点の弊害を避れたのであります。  第一章 期間、これは五十六條をごらん願いたいのであります。本章は里程猶予の期間に関する規定の内容を、裁判所の規則に譲りまして、そのほかは現行法と同じであります。  次は第八章、被告人の召喚、勾引及び匂留の件であります。本章は、被告人の身体を拘束する原由、身体拘束についての手続、及び不当または不発要な匂留に対する救済方法を定めたものであります。本章中の規定の大部分は、現行法及び應急措置法中に見られるものでありまするが、特に注意すべきものを掲げますと、次の通りであります。  第一は匂留原由を新たに規定いたしまして、かつ匂留期間に関する規定を設けなかつたことであります。現行法におきましては、いかなる程度の犯罪の嫌疑がある場合に、被告人の身体を匂留し得るかが、法文上必ずしも明確ではなおつたのであります。應急措置法におきましては、逮捕の原由といたしまして、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」または「充分な理由」というような條件が設けられたのでありますけれども、これが同時に匂留の條件とはされなかつたのであります。すなわち現行法においては、匂留の原由は匂引の原由であります。すなわち現行法の九十條の規定であります。從つて住居不定というような事実がありますれば、極端に申しますると、犯罪の嫌疑があつてもなくても匂留し得るという理窟であつたのであります。本案はその第六十條におきまして、從來の建前を一擲しまして、勾留の原由といたしましては、常に「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があることを要件といたし、全然嫌疑のない者が拘束を受けることがないように、裁判官に対して審査の義務を課することとなつたのであります。但し、逆に申しますれば、本案においては、犯罪の嫌疑のある者は、たとえ住居不定にあらずとも、一應勾留され得ることとなつたのであります。この意味におきましては、必ずしも勾留し得る場合を制限したとは言えないのでありますが、そのような場合に関しましては、あとで申し述べまするように、保釈制度等の活用により、不必要な勾留を努めて救済しようといたしているのであります。  次に現行法におきましては、勾留の期間を二箇月としているのでありますが、本案におきましては、このような規定は設けなかつたのであります。そのわけは、從來の運用の実情を見まするに、二箇月という期間の制限は、形式的な更新によつて、多くの場合有名無実となつているのであります。本案においては、かくのごとき実効の伴わぬ制限は、これを設けぬことといたしまして、保釈、勾留取消等の運用によつて、不当に長期にわたる勾留を救済しようと考えているのであります。  その二は、不当または不必要な勾留に対する救済であります。右に申し上げたごとく、本案においては、犯罪の嫌疑があれば、身体を拘束し得ることが一應の建前となり、勾留期間に制限はないのでありまするから、不当または不必要の勾留を防止するため、十分の救済手段が設けられねばならぬことは当然であります。そこで、次のごとき規定が設けられたわけであります。  その一つは身体拘束弁護人選任の規定であります。これは七十六條ないし七十九條であります。被疑者たると被告人たるとを問わず、いやしくもその身柄が拘束された場合には、ただちに弁護人選任権を告知され、かつこれを選任し得ることは、應急措置法において定められたところでありまするが本案におきましても、これを全面的に踏襲いたしたのであります。第七十八條及び第七十九條は、弁護士弁護士会、または弁護人、もしくは親族等に対する通知義務を新たに定め、これによつて被告人が不当または不必要の拘束を爭い得る途を開いたのであります。  その二は、勾留理由開示の手続であります。これは八十二條ないし八十六條になつております。この手続は、憲法第三十四條の規定に基きまして、應急措置法中に設けられたものでありまするが、本案においても、これを規定したのであります。この手続によつて、勾留中の被告人は、自分が勾留された理由を知ることができるわけであります。  その三は、勾留理由不存在または勾留不必要の場合における勾留の取消であります。これは八十七條であります。勾留の理由または勾留の必要がなくなつた場合には、請求または職権によつて勾留を取消すべきものといたしたのであります。  その四は保釈であります。これは八十八條、八十九條、九十條であります。保釈については、八十九條に若干の例外の場合を設けましたが、それ以外の場合には、保釈を許すべきものといたしたのであります。例外にあたる場合でも、裁判所の裁量をもつて保釈を許し得るのは言うまでもないことであります。さらに職権により保釈を許し得る途を開くことといたしたのであります。  その五は、不当に長期にわたる勾留の取消またはその場合における保釈であります。これは九十一條の規定であります。勾留による拘禁が不当に長くなつたときには、裁判所は請求または職権によつて、勾留を取消すか、保釈を許さなければならぬものといたしたのであります。以上が勾留される場合の被告人に対して設けられた救済規定の概要であります。  次は勾引、勾留の手続に関するいろいろの規定であります。本章中の勾引、勾留の手続に関する規定について、一言申し上げたいのであります。これらは一見いたしますと、現行法または應急措置法のそれと大差がないようでありまするが、しさいに比較檢討いたすならば、本案の規定が從來の手続規定よりも詳細をきわめており、匂引状、匂留状の執行について嚴格な制限を課しておることは、おわかりのことと思うのであります。ただ一つ、そに中にあつて、七十三條第三項が、急速を要する場合に関し、令状をその執行の際呈示する必要のない例外を定めていることを御注意願いたいのであります。令状は執行の際常にこれを呈示するのが理想であることは申すまでもないところでありますが、この原則を徹底いたしますれば、すでに令状が発せられておつても、たまたま令状を所持していなければ、被告人を逮捕し得ないという不都合な場合も生じ得るので、この例外を特に設けたわけであります。以上が第八章中の重要と思われる規定の説明の概畧であります。  次に第九章にはいるわけでありまするが、その前にちよつと御注意を願いたいのは、本案におきましては、現行法が「被告人の召喚、匂引及び匂留」の章の次に設けている「被告人尋問」の章を削除したということであります。本案におきましても、被告人の供述を求める場合もあり得ることにはなつておるのでありまするが、從来のごとき被告人尋問は、裁判手続の中心ではなくなつたので、これを一章としては規定せぬことといたしたのであります。  次は第九章押收及び捜査の点であります。本章は裁判所の行う押收及び捜索について規定を設けたのであります。しかして本章の規定は、現行法の規定と対比すると、次のごとき諸点が特徴をなしておると考えられます。その一つは、令状主義の徹底であります。これは百六條であります。從來の考え方におきましては、裁判所はみずから押收、捜索をなし得るのであつて、裁判所の押收、捜索には令状は不要であるとも考えられたのでありますが、本案はこの点に関しまして新たなる見解をとり、裁判所の行う押收、捜索についても令状を必要とし、その令状は裁判官以外の者が執行すべきものといたしたのであります。これは百八條にあります。けだし一方において裁判官地位職分を考えますれば、裁判官みずからの押收、捜索の現場において活動するというようなことは、はなはだおもしろくないと考えたからであります。また地方においては、常に令状を要することが、憲法第三十五條の明文にも合致すると考えたからであります。その二は押收令状捜索令状の執行と、人権尊重の規定であります。押收令状捜索令状の執行は、これが乱暴に行われた場合、きわめて人物を侵害するおそれあること、逮捕状、匂留状といささかも異なるところがありません。よつて本案におきましては、時に次のごとき制限規定を設けまして、人権の侵害を防止せんことを企図したのであります。その一は呈示の義務、これは百十條にあります。令状は、処分を受ける者の請求の有無にかかわらず、これを呈示すべきものといたしたのであります。その二は夜間の執行であります。百十六條の規定であります。令状を夜間執行するためには、その旨の記載を要するものといたしたのであります。言いかえますれば、裁判官に対して夜間執行の許可を求め、許可を得て初ため執行し得ることにいたしたのであります。その三は目録の交付であります。これは百二十條の規定であります。押收した者は、必ず押收品目録を交付すべきものといたしたのであります。その四は運搬または保管に不便なものの委託であります。これは百二十一條の規定であります。現行法におきましては、この種の保管の委託は、これを命じ得ることになつていたのでありますが、本案におきましては、相手方の承諾を條件といたしたのであります。  次は押收拒否権制度合理化であります。これは百五條の規定であります。これはふとで申し上げまする証人尋問の意内第百四十九條に対應する改正であります。そもそも被告人被疑者の尋問が大いに制限されました刑事訴訟制度のもとにおきましては、傍証の收集が犯罪証明にとつてきわめて重要なることは、あらためて申すまでもないところであります。特殊の業務に從事する者が、業務上委託を受けて保管し所持する物で、他人の秘密に関するものをむやみに押收するきとは、不当に人の秘密を侵し、かつ業務自体を冒涜するものであります。しかしながら、業務に基く押收拒否権は、あくまでも人の秘密の正当なる保護と業務の保護との点に、その合理性が認めらるべきものでありまして、これが犯人隠避、罪証隠滅にまで濫用さるべきものでないことは明らかであります。第百五條は、新制度のもとにおける傍証の重要性に鑑みまして、從來の規定を多少合理的に変更することにいたしたのであります。  次は第十章檢章の項であります。本章におきましては、あとで申し上げまする鑑定の章におけると同樣に、身体の檢査をなす檢証につきまして、特別の規定を設けたのであります。身体の檢査は、野外における犯罪現場の檢証等の異なり、その方法いかんによりましては、処分を受ける者の人権を侵害する程度が大きいからであります。と同時に、新制度のもとにおきましては、これが証人尋問と同樣に、重要なる証明方法となることもあり得ることと考えますので、正当な理由なく檢査を拒否する者に対しましては、制裁を科し得ることにいたしたのであります。これは百三十二條、百三十三條、百三十四條、百三十七條、百三十八條の規定であります。なおそのほかに、過料の制裁を科する裁判に対しましては、別に抗告の途を認めたのであります。これは四百二十九條であります。  次は第十一章、証人尋問であります。前申し上げましたごとく、本案におきましては、被告人及び被疑者に対して、一切の供述を拒否する権利を認めました結果、今後の裁判におきましては、傍証の收集が、犯罪の証明にきわめて重要なものとなつたのでありまするが、中でも証人尋問は特に重要な役割を果すことになつたのであります、他面重要な証人は、できる限りこれを公判廷で尋問し、しからざる場合におきましては、被告人に対して十分に審問の機会を與へなければならぬというのが、憲法第三十七條の規定する原則でもあります。このような観点から、本案は從來の刑事訴訟法中の証人尋問に関する規定を、ある部分多少修正し、また新たに規定を設けることといたしたのであります。その一は、証言拒否制度合理化、これは百四十六條、百四十七條であります。現行法第百八十六條及び第百八十八條におきましては、一定の親族関係またはこれに準ずる関係のある者の間においては、全面的に証言を拒否し得ることとなつておつたのであります。言いかえますれば、特殊の関係があることさえ立証されるならば、被告人に不利益な証言はもちろんのこと、有利な証害さえも拒否し得るということが、理論的には可能であつたのであります。しかも実際の運用におきましては、この規定が理用されたことはあまりなく、多くのこの種の証人は、進んで被告人のために有利な証言をなし、その際被告人に不利益な証言までも強いられるという例も少くなかつたのであります。これは証言の全面的な拒否を規定して、これを部分的に拒否し得るということに対して明確な考え方がなかつた結果であると思われるのであります。いかに考えても、有利な証言まで拒否し得るというのは、合理的なものとはなしがたいのであります。眞実の有利な証言は、これを得ることが被告人のためにも、被判の公正のためにも、望ましいのであります。新法のもとにおきましては、証人の取調につきましては、尋問の一つ一つに対して異議を申し立てる権利を認めたのでありますから、弁護人その他の者の異議申立により、証人が自己と親族の関係にある被告人に対し不利益な証言を強いられるということは、十分に防止し得るのであります。このような考えから、本案におきましては、百四十六條、百四十七條において、自己または自己と特殊の関係におる者が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれある証言のみについて、拒否権を認めることにいたしたのであります。次に本案の百四十九條は、前申しました押收、捜索の章における百五條と並んで、特殊の業務に從事する者の証言拒否権についても、規定の趣旨を合理的なものたらしめたものであります。  次は宣誓制度合理化、これは百五の刑訴二百一條、二百二條におきまては、宣誓せしめずに尋問すべき証人の種類をきわめて廣範囲に規定しておつたのであります。その趣旨を察しますに、これらの証人はどうせ多少のうそまたは不正確な証言をするであろうから、むしろ宣誓をせしめずしてこれを尋問し、虚偽と眞実との混合した証言の中から、裁判官が眞実を発見しようというにあつたようであります。しかしながら、多少なりとも偽証を認容するがごとき制度は、合理的なものとは言いがたいのであります。一方においては不利益な証言はこれを拒否することを認め、他方においては、証言する者に対して眞実を期待し、また要求することが正しいと思われるのであります。殊に從來の理論におきましても、宣誓した上の証言と、宣誓せざる証言との間には、証拠能力証明力等におきまして、法律上何らの差異はなく、宣誓せざる証言のみを証拠として有罪を認定することも可能であつたことを思いますれば、ある種の証人に対しては宣誓をさせてはならぬという理由が、きわめて乏しいと言わなければならないのであります。以上のごとき考慮から、本案におきましては、宣誓の趣旨を理解し得ざる者を除き、すべての証人に宣誓を命ずることといたしたのであります。次は証人を十分に審問する権利であります。これは百五十七條ないし百五十九條の規定であります。本案は、証人が裁判所外において尋問される場合に関し、立会権、尋問請求権を新たに規定したのであります。この三箇條は読んでいただけば趣旨おのずから明瞭であると考えます。次は証人に対する罰則の強化であります。これは百五十條、百五十一條、百六十條、百六十一條であります。すでに繰返して申し述べましたがごとく、新制度下におきましては、証人が重要な証拠となる事実に鑑みまして、不出頭、不合理の証言拒否等について、從來よりも重い制裁を科し得ることといたしたのであります。なお科料の制裁の裁判に対しても、抗告の途が認められているのであります。これは四百二十九條であります。  次は十二章の鑑定の章であります。本章には三つの新しい規定が設けられました。その一つは百六十七條の留置状、その二は百六十八條の許可状であります。この両者は、應急措置法にも規定されていなかつたものであります。この種の重要な処分に令状主義を徹底しようという考えに基くものであります。その三は百七十二條の規定であります。本章におきましても、身体檢査を特別に規定し、人権保護に愼重を期することといたしたのであります。  次は第十三章通訳及び飜訳であります。本章につきましては、從來と同じでありまして、新しい点はありません。  次は第十四章証拠保全であります。本章は全然新しい規定であります。趣旨とするところは、第百七十九條に明瞭に書いてあるように、被告人被疑者が公判において使用すべき証拠を、公判前に裁判所に請求して保全することを認めたのであります。  次は第十五章訴訟費用の点であります。本章におきましては、第百八十一條第三項の改正に御注意願いたいのであります。これは檢察官のみが上訴を申立てた場合に、その上訴が誤つていたことより生じた訴訟費用は、これを被告人に負担させることができないとしたことであります。これに関連いたしまして、第三百六十八條ないし第三百七十一條におきましては、檢察官のみが上訴して、その上訴が誤つていた場合に、費用の補償を規定したのであります。  次は第二編、第一審、第一章捜査であります。捜査の関係は百八十九條から百九十四條までの点について、まず御説明いたします。本章におきましては、すでに應急措置法で確立されたところを踏襲しまして、これを詳細に規定したに止まる部分が多いのでありますが、また新しい制度を取入れた点も少くありません。まず司法警察制度でありますが、本案においても、現行法通り、司法警察の制度を存置いたしました。しかし新警察法によりますれば、自治体の吏員である警察吏員があるので、これをも包括して從來通り司法警察官吏という名称を用いることは適当でありませんので、総括的名称といたしましては、司法警察職員といたしたのであります。從來の司法警察官に相当するものといたしましては司法警察員、司法警察吏に相当するものといたしましては司法巡査の名称を用いたのであります。しかして警察法上の警察官及び警察吏員は、本案第百八十九條により、すべて司法警察職員となり、森林、鉄道その他特別の事項についてのいわゆる特別司法警察官は、本案第百九十條に基く司法警察職員指定法によつて、司法警察職員として指定されるわけであります。本案におきましては、司法警察職員は、犯罪があると思料しますときは、犯人及び証拠を捜査するものとすると包括的規定を設けているだけでありまして、司法警察員または司法巡査の権限の差異に関し、特に定義的規定は設けなかつたのであります。その権限の差異は、本章中にそれぞれ規定があり、要するに司本警察員は、個々の事件の捜査の主宰者であつて、逮捕状その他の令状の請求権及び逮捕した身柄を釈放すべきか檢察官に送致すべきかの決定権は、司法警察員に與えられております。捜査を逐げた事件を檢察官に送致すべき義務も司法警察員に負わされておるのであります。警察官及び警察吏員中、いかなる階級の者を司法警察員とし、あるいは司法巡査とするかは、各都道府縣、國家地方警察、及び各自治体警察の実情に即しまして、これを決定するのが、適当であるのでありまして、他の法律またはそれぞれの公安委員会の定めるところに讓つたのであります。これは百八十九條の一項であります。  次は檢察官の捜査指示ないし指揮権の問題であります。警察法の根本原則であるところの警察の地方分権化との調整をはかるため、司法警察官吏の捜査は、すべて檢察官の補佐または補助としての捜査であるとする現行法の建前を改めまして、司法警察職員を独立の捜査主体に改め、これに第一次捜査責任を認めるとともに、檢察官の捜査指揮権を合理化し、公訴を実行するために必要な犯罪捜査の重要な事項に関する準則を定める一般的指示権、これに協力を求めるため必要な一般的指揮権及び檢察官の行う捜査の補助をさせるための指揮権の三つとしたことは、先に法務総裁がその提案理由説明において御説明申し上げた通りであります。公訴を実行するため必要な犯罪捜査の重要な事項に関する準則は、現行の司法警察職務規範に相当するものであります。一般的指示権は、かかる準則、すなわち職務規範を定めるものに限られておるのであります。捜査の協力を求めるための一般的指揮権と申すのは、廣く一般的に犯罪捜査計画方針を立て、これに協力を求めるための一般的指揮権を言うのであります。檢察官がみずから犯罪を捜査している場合であると否とを問わないのであります。檢察官の行う捜査の補助をさせるための指揮権と申しますのは、檢察官が特定の犯罪を捜査しておる場合に、直接その指揮のもとに入れて捜査の補助をさせるための指揮権であります。捜査手続が國家刑罰権の実現をはかる刑事手続の第段階であることは、論をまたないところでありまして、この捜査手続自体が、法にかなつて遂行されなければ、正義の顯現もこれを期しがたいのであります。捜査手続自体を法にかなつて執行せしめるためには、檢察官の指示または指揮は絶対に必要であります。殊に現在の司法警察官の質的低下を考えるならば、本案のごとき指示または指揮権は絶対の要請であり、かつ実情に即したものと考えられるのであります。なお檢事総長、檢事長または檢事正は、司法警察職員が正当な理由がなく、檢察官の指示または指揮に從わない場合において必要と認めるときは、その懲戒または罷免の訴追をすることができるのでありますが、この訴追というのは、單なる請求とは違つておりまして、この訴追があれば、当然懲戒または罷免の手続が開始されることを意味するのであります。  次は被疑者の取調べについてであります。これは百九十八條の規定であります。本案におきましては、檢察官、檢察事務官または司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取調べることができるのでありますが、この場合被疑者は逮捕または勾留されている者以外は、出頭を拒み、または出頭後もいつでも退去することができるものとし、さらに檢察官等は取調べに際して被疑者に対し、あらかじめ供述を拒むことができる旨を告げなければならないものといたしたのであります。これは從來、ややもすれば行われがちであつた自白の追求を防止し、憲法第三十八條第一項の趣旨に從い、被疑者の人権を保障するため、特に規定を設けたものであります。  次は被疑者以外の者の取調べについてであります。これは二百二十三條、二百二十六條、二百二十七條であります。本案におきましては、檢察官、檢察事務官、または司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取調べまたはこれに鑑定、通訳もしくは翻訳を嘱託することができるのでありまするが、この場合これらの者は前述の被疑者の場合と同樣に、出頭を拒みまたはいつでも退去することができるものといたしたのであります。これは憲法の精神に從つてこれらの者の人権を保護させるために規定を設けたものであります。しかしながら、犯罪の捜査上重要な証人が、出頭または供述を拒んだ場合には、捜査に支障を生じ、個人の人権を保障することによつて、かえつて公共の福祉に反する結果を來しまするので、かかる場合には第一回公判期日前に限り、檢察官は、裁判官にその者の証人尋問を請求することができるものといたしたのであります。しかしてもしその者が裁判官の尋問に対し、正当の理由なくして、さらに出頭または供述を拒んだ場合には、総則第十一章証人訊問の規定に從い、罪則の適用を受けることになるのであります。さらに檢察官等の取調べに際して任意に供述した者が、公判期日においては他から圧迫を受けて供述を飜えすおそれがあり、しかもその者の供述が犯罪の証明に欠くことができないと認められる場合には、証拠を保全するため、第一回公判期日前に限り、檢察官は、裁判官にその者の証人尋問を請求することができるものといたしたのであります。  次は逮捕並びに公訴提起前の勾留期間の問題であります。これは二百八條第二項でありますが、被疑者の逮捕手続につきましては、令状による場合、緊急逮捕の場合及び現行犯逮捕の場合等いずれも應急措置法におけるものと同樣であり、逮捕より公訴提起までの手続についてもまた同樣であります。ただ應急措置法にもとにおきましては、檢察官が勾留の請求をなした場合には、その日から十日以内に公訴の提起をしなければ、ただちに被疑者を釈放しなければならないことになつておるのでありまするが、本案では、やむを得ない事由がある場合は、その期間を総計十日以内に限り延長することができるものといたしたのであります。これは將來の捜査においては、自白の偏重を避け、傍証の收集に重点が置かれるために、捜査に從來よりも多くの日数を要する場合があることが予想されますので、やむを得ない事由のある場合に限り、裁判官にこの期間の延長を請求することができるものといたしたのであります。  次は準現行犯の点でありますが、これは二百十二條であります。準現行犯につきましては、本案の規定するところは、現行法と趣旨において同樣であります。ただ現行法にもとにおきましては、犯行時と逮捕時との時間的関係がやや廣く解釈せられておるのでありまするが、本案では現行法の準現行犯たる事由のほか、罪を行い終つてから間がないと、明らかに認められるときに、これを現行犯人とみなすことといたし、犯行時との時間的関係を明らかにいたしたのであります。これは現行犯の本質上、かように犯行と時間的に接着する場合のみを、準現行犯とすることが、相当であると思われますので、この点について、現行法よりもやや狹く規定いたしたものであります。  次は身体檢査令状の請求についてであります。これは二百十八條であります。檢察官、檢察事務官または司法警察職員が、犯罪捜査のため行う差押、捜索または檢証については、裁判官に対して令状を請求し、これによつて行わなければならないことは、應急措置法と同樣でありまするが、特に身体の檢査を行う場合には、檢査を受ける者の人権を保護するため、身体檢査令状によることを要するものといたしたのであります。身体檢査令状を請求する場合には、身体の檢査を必要とする理由、及び身体の檢査を受ける者の性別、健康状態等を裁判官に示すことを要し、裁判官は、身体檢査を受ける者の人権を保護するために、身体檢査に関し適当と認める條件を附することができるものといたしたのであります。  次に尊族親に対する告訴、告発の禁止の規定の撤廃であります。現行法におきましては、祖父母または父母に対しては、告訴または告発をすることができないことになつておるのを、本案におきましては、この禁止規定を撤廃いたしました。尊族親に対する告訴、告発の禁止は、從來わが國の淳風美俗に基くものとせられたのでありまするが、すべて國民は法のもとに平等であるといる新憲法のもとにおきましては、これを削除するのを適当と認め、改正案には規定しないことにいたしたのであります。  次は告訴の取消、これは二百三十七條であります。現行法におきましては、告訴は第二審の判決があるまではこれを取消すことができるとしてあるのでありまするが、本案におきましては、告訴の取消は、公訴の提起前に限るものといたしたのであります。これは一旦被害者が告訴し、これに基いて公訴が提起された以上は、事件は國家の手に移つたものであつて、その後において、なお裁判所における訴訟手続の進行が告訴権者の意思によつて左右されることは、適当でないと考えましたので、告訴の取消は、公訴の提起前のみに限るものといたした次第であります。  次は外國の代表者等の告訴またはその取消の特例であります。これは二百四十四條であります。告訴またはその取消は、檢察官または司法警察員に対してなさるべきものでありまするが、刑法二百三十二條第二項の規定によりまして、外國の君主または大統領に代つて、その國の代表者が、名誉毀損の告訴またはその取消をする場合及び外國使節に対する名誉毀損または侮辱の罪について、その使節が告訴または取消をする場合には、特に外務大臣に対して、これをすることができるものといたしたのであります。これは國際外交上の観点から、かかる特例を認めることが相当であると考えたからであります。  次は第二章公訴の点であります。本章も数点において重要な改正がされております。その一つは公訴の時効でありまして、二百五十條であります。公訴の時効につきましては、刑法第百八十條、單純賭博罪の短期時効を廃止いたしまして、これを通常の罪金にあたる罪として、三年の時効期間に改めましたほか、拘留または科料にあたる罪の時効期間を、六箇月から一年に延長いたしたのであります。これは單純賭博罪につきましては、特に短期時効を認める理由に乏しく、拘留、科料にあたる罪については、六箇月の時効期間は短かきに失すると認められるからであります。  次は時効の停止、これは二百五十四條第一項、それから二百五十五條であります。現行法におきましては、公訴の時効は、公訴の提起、公判の処分または二百五十五條の規定によりなされた判事の処分によつて中断するのでありますが、本案におきましては、時効の中断の観念を捨てまして、時効の停止の観念を全面的に採用いたし、時効は公訴の提起によりその進行を停止し、管轄違または公訴棄却の裁判が確定したときから、その進行を始めるものといたしたのであります。但し公訴提起の手続が法令の規定に違反したため無効であるときまたは起訴状の謄本が適法に被告人に送達されなかつたために、公訴の提起がその効力を失つたときは、時効は停止しないのであります。なお犯人が國外にいる場合、または犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達ができなかつた場合には、時効は、その國外にいる期間、または逃げ隠れている期間は、その進行を停止するものといたしたのであります。これは現行法のごとく公判の処分または、判事の処分により時効の中断を認めるときは、これらの処分により繰返し時効は中断され、被告人に不利益であるのみでなく、手続も煩雜でありますから、むしろ時効の中断の観念を捨て、時効は公訴の提起により、その進行を停止するものといたしたのであります。なお時効の中断の観念を排する結果、犯人が國外にいる場合、または國内において逃げ隠れておるため、起訴状の謄本が送達できない場合、その間に時効が完成し遂に公訴提起が不可能となることを防ぐために、かかる期間は、時効は進行を停止するものといたしたのであります。  次は起訴状についてであります。これは二百五十六條であります。公訴の提起は、提訴状を提出してこれをするのでありまするが、提訴状には、被告人の氏名その他、被告人を特定するに足りる事項、公訴事実及び罪名を記載し、公訴事実については、でき得る限り日時、場所及び方法をもつて罪となるべき事実を特定して訴因を明らかにし、罪名については、適用すべき罰條を示して、これを記載しなければならないものといたしたのであります。しかして公判の裁判は、あとで申し上げまするがごとく、訴因を明示して記載された公訴事実に対してなされるものでありまするから、檢察官は、必要に應じて、同一公訴事実について数個の訴因及び罰條を予備的にまたは択一的に記載することができることといたしたのであります。  さらに本案におきましては、公判中心主義を徹底し、かつ当事者訴訟主義を廣く採用いたしました結果、公判期日前に裁判官に、事件につき予断を抱かしめることを防止するため、かかるおそれある書類等は、一切訴状とともに提出することを禁じ、起訴状は、現在行われておるがごとく、訴訟書類を添附することなく、原則として單独に提出されることとし、その記載内容につきましても、かかるおそれある書類等の内容を引用することを禁じたのであります。  次は告訴人、告発人または請求人に対する檢察官の処分の通知であります。これは二百六十條、二百六十一條であります。  現行法のもとにおきましては、告訴事件については、檢察官は、その処分の結果を告訴人に通知することになつているのでありまするが、本案においては、これを廣く告発人、請求人にも廣め、さらにもしその事件について公訴を提起しない処分をした場合には、告訴人、告発人または請求人の請求があれば、その不起訴理由を告げなければならないものといたしたのであります。これはかかる告訴人、告発人または請求人は、その事件の処分に対して種々の利害関係をもつているのでありまするから、その処分の結果を通知し、もし請求があれば、不提訴の理由をも告げることが適当であると考えたからであります。  次は刑法第百九十三條ないし百九十六條の罪、すなわち職権濫用、暴行凌虐等の罪についての公訴の特例であります。これは二百六十二條から二百六十九條までの規定であります。  いわゆる人権蹂躙事件、すなわち刑法第百九十三條ないし百九十六條の罪につきまして、告訴または告発をした者は檢察官の不起訴処分に不服があるときは、その檢察官所属の檢察廳の所在地を管轄する地方裁判所に、事件を裁判所の審判に付することを請求することができるものといたしたのであります。この場合当該地方裁判所がその請求について審理した結果、もし請求が理由あるものと認めて事件を管轄地方裁判所の審判に付する旨の決定をいたしますと、そのときにその事件について公訴の提起があつたものとみなされるのであります。しかしてこの事件につきましては、弁護士の中から指定された者が、その公訴の維持に当るものといたしたのであります。これはかかる種類の犯罪につきましては、檢察官の処分が公正でない場合があるやもしれぬことを慮りまして、特に公訴の提起に代る手続を認めたのでありますて、その事件の公訴維持についても、これを檢察官の責任において行わしめることなく、裁判所によつて指定された弁護士をして担当せしめることといたしたのであります。
  4. 井伊誠一

    井伊委員長 しばらく休憩いたします。     午後二時四十五分休憩     —————————————     午後三時三分開議
  5. 井伊誠一

    井伊委員長 休憩前に引続き会議を開きます。
  6. 木内曽益

    木内政府委員 今度は第三章公判の関係について御説明申し上げます。殊に第一審の公判がいかなる構造をもつかによりまして、訴訟法全体の骨格が定まるものということができると思うのであります。この意味において、今回の改正に際しましても、特に重点をここにおくとともに、被告人基本的人権の保障と実体的眞実の発見と、公平なる裁判、迅速なる公開裁判の実現、この三つの要求をいかに調和せしめるかについて、愼重なる考慮を拂つた次第であります。從つて從來の公判に関する規定は、裁判官の識見と力量とに信頼を置いている点が多く、その意味で運用によつてはすぐれた裁判を期待することができたのでありまするが、一面その運用よろしきを得なければ、公判の手続が形式的に流れ、書面審理の弊を生ずるおそれがあつたのであります。しかも実際の運用を見まするに、必ずしもその弊なしとしない状態であつたのであります。そこで今回の改正では、公判の手続及び証拠に関する規定にかなり根本的な修正を加え、その結果從來規定は、その面目を一新いたしたと申しても過言ではないのであります。  次にその内容のおもな点を大別して申しますと、一つが公判開廷前の手続、その二が開廷の條件、三が公判期日における手続及び証拠、四がその他、こう四項目に大別いたしまして、御説明申し上げたいと思います。第一は公判開廷前の手続についてであります。その一は起訴状の謄本の送達であります。これは二百七十一條第一項の規定であります。裁判所は、公訴の提起を受けたときは、遅滯なく起訴状の謄本を被告人送達しなければ、ならないことにいたしたのであります。起訴状は、その後の公判手続の基礎となるものでありまして、裁判所は起訴状に記載された事実の存否を審判するのであり、被告人はこれに対して防禦の方法を講ずるのでありまするから、被告人保護のため、この制度をとることにしたのであります。もちろんすべての事件について、必ず起訴状の謄本を送達しなければならないとすることについては、論議の余地もないことはないとは申し上げられませんが、送達の方法については、具体的の場合に應じて便宜な方法もとり得るのでありますから、あえてこの改正を行うことといたしたのであります。  次は公判開廷前の勾留に関する処分、これは二百八十條であります。起訴後第一回の公判期日までの間は、公判裁判所をして事件内容に深く関與せしめることは、前申し上げたごとく、起訴状には証拠を添附し、またはその内容を引用してはならないという原則に反することとなりますので、起訴後第一回公判期日までの間に生ずべき勾留に関するいろいろな処分、たとえば勾留理由の開示、保釈勾留執行停止等の処分は、公判裁判所をして取扱わしめず、他の裁判官に行わせることといたしたのであります。  その三は公判期日の変更であります。これは二百七十六條、二百七十七條であります。  次は公判期日の変更について、愼重な手続を経なければならないことといたした点であります。現在公判期日の変更は、裁判長の自由裁量となつているため、いろいろの事情があるものとは思いますが、とにかくその変更が容易に行われがちでありまして、そのため審理期間が長引くきらいがあつたのであまりす。しかしそれは迅速な裁判を國民に保障せんとする新憲法の精神に反するもので、本案においては、期日の変更は、裁判所が行うべきものとし、さらに訴訟関係人の意見を十分聽かなければならないものとするとともに、裁判所がその職権を濫用して期日を変更したときは、訴訟関係人から司法行政上の監督権の発動を促すことができるものといたしたのであります。  次は公判開廷の條件であります。公判開廷の條件についての主要な改正点は、被告人または辯護人の出頭の要否に関する規定に重要な変更を加えたことであります。  その一つ被告人の出頭の問題であります。これは二百八十一條、二百八十五條、二百八十六條であります。まず被告人の出頭でありますが、現在は罰金以下の刑にあたる事件につきましては、すべて被告人の出頭を要せず、またいかなる事件についても、判決宣告の際には、被告人の出頭を要しないことになつているのでありますが、判決の宣告は、現在においても、決して軽々しく考えるべき問題ではなく、被告人に対し、裁判所の最終の見解を示す意味におきまして、被告人の出頭を要するものとするのが望ましいのであります。そこで本案では、第一審の判決がいろいろな意味で著しく重要性を増すことになる点をも考えまして、五千円以下の罰金または科料にあたる事件以外は、判決宣告の期日には、必ず被告人の出頭を要するものといたしました。しかし五千円以下の罰金及び科料にあたる事件以外は、すべての公判期日被告人の出頭を要するものとするのも妥当ではありませんので、勾留にあたる事件については、判決の宣告をする場合、長期三年以下の懲役または禁錮にあたる事件及び五千円を越える罰金にあたる事件については、公判の冒頭、すなわち起訴状の朗読及びこれに関する被告人側の陳述の行われる場合のほかは、裁判所被告人が出頭しないことを許し、その不出頭のまま公判手続を進行させることができるものといたしました。この場合にも裁判所はもちろん被告人の出頭を命じ得るのであります。その他の事件は、公判の冒頭から判決の宣告まで、すべての公判の期日被告人の出頭を要するのであります。  その二は辯護人の出頭の問題であります。これは二百八十九條であります。辯護人の出頭でありますが、現在は、死刑、無期及び短期一年以上の有期の懲役または禁錮にあたる事件につきましては、必ず辯護人の出頭を要し、もし辯護人がないか、または出頭しないときは、國選辯護人を付することになつているのでありますが、これでは大多数の事件が辯護人なくして開廷し得ることになるのでありまして、被告人の辯護に十分でない憾みがあるばかりではなく、今回の改正で、公判の手続がかなり複雜となり、しかも法律的知識を要する場合が多くなりましたので、長期三年を越える懲役または禁錮以上の刑にあたる事件については、すべて辯護人を要することといたしたのであります。  次は公判期日における手続及び証拠の問題であります。これは二百九十四條、二百九十五條であります。檢察官の起訴状の朗読に始まり、証拠調べを経まして、論告及び辯論に終る手続の大綱は、本案におきましても、現行法と大差はないのでありまするが、公判手続に関する規定が複雜となつたために、公非期日における裁判長の訴訟指揮権の適切なる運用に期待しなければならない点が、きわめて多いので、その法的根拠を明確に規定することといたしましたほかに、証拠に関する規定、すなわち証拠能力及び証拠調べに関する規定について、かなり根本的な修正を加えることといたしたのであります。けだし証拠こそ事実認定の基礎をなすものであり、事実認定こそ法令の解釈にもまして、刑事裁判中心であるにもかかわらず、現行法は、この点について、きわめてわずかな規定を設けているに止まり、他はあげて裁判官の自由裁量に任せ、しかも裁判官のこの点に関する自由裁量権の運用は、必ずしもすべて適切妥当であつたとは言い得ないからであります。そこでまず証拠能力に関する規定説明いたし、その後で証拠調べに関する規定について一言申し述べたいと思うのであります。  その一つは自白の件であります。これは三百十九條であります。新憲法は強制、拷問または脅迫による自白、不当に長く抑留または拘禁された後の自白の証拠能力を否定しているのであります。これは任意になされたものでない自白を証拠としてはならないという意味でありますから、この趣旨を明らかにする規定を設けた次第であります。さらに新憲法は自白を唯一の証拠として有罪の認定をしてはならないことを規定しております。この点については、最高裁判所の判例によつて、公判廷における自白には、この憲法規定は、適用されないということになつておるのでありまするが、かりに憲法の解釈が判例の言う通りであつたといたしましても、公判廷における自白だけで有罪の判決をすることは危險でもあり、また実際にも公判廷における自白以外に犯罪事実の存在に関し、まつたく他に論拠となるべき資料のない事件はほとんどないのでありまして、実務の上におきましても、判例の解釈通りにしなければならない必要もないので、憲法の解釈は範例によるといたしましても、法律では公判廷における自白であつても、それだけでは有罪とされないことを明らかにいたしたのであります。これに関連し、英米に行われておる罪状認否、すなわち公訴事実について有罪か無罪かを尋ね、有罪の申立があれば、証拠調べにはいらずそのまま判決の言渡しを行い、無罪の申立があつたときに、初めて証拠調べを行うといういわゆるアレインメントの制度は、その純粹な形のものは、その申立が自白でなく、民事訴訟法の認諾的性質をもつものであるといたしましても、認諾ということは、刑事裁判の本質に反するばかりでなく、自白だけでは有罪認定をしてはならないという憲法規定の精神にも反するものであり、またかりに憲法規定との調整をはかり、多少変形した形態のものをくふうしてみても、被告人保護に薄いきらいがありますので、今回の改正では、このアレインメントの制度は採用しないことといたしたのであります。  その次は調書等の証拠能力、これは三百二十條から三百二十八條までの規定であります。  いわにる聽取書または尋問調書等の人の供述に代るべき書面の証拠能力については、從來から最も問題のあつたことろでありまするが、新憲法施行前においては、聽取書と尋問調書とを区別いたし、聽取書は区裁判所事件についてのみ証拠能力が認められていたのでありますが、いずれにせよ証拠能力がある限り、被告人がいかにその信用すべからざることを主張いたしましても、それを公判廷において朗読し、有罪認定の資料とすることができることになつてつたのであります。しかし新憲法は、被告人に十分証人尋問する機会を與えなければならないことを規定しておるのでありますので、刑事訴訟法の應急的措置に関する法律によつて、聽取書にせよ、尋問調書にせよ、被告人から請求があれば、供述者自身を公判期日に喚問し、被告人に十分その供述者を尋問する機会を與えなければならないことを規定いたしたのであります。しかしこの場合は、供述者の公判期日における供述と、聽取書または尋問調書供述記載とが食い違つても、そのいずれをとるかは、裁判官の自由な判断に委ねられていたのであります。憲法実施のための廳急的措置としては、それで憲法の要求する最小限度を満たしていると思うのでありまするが、今回の改正に当つては、新たなる見地よりこれを再檢討することといたしたのであります。  その次は、傳聞証拠の禁止の問題であります。これは三百二十條であります。御承知の通り、英米におきましては、傳聞証拠の禁止に関する証拠法上の原則があるのであります。本人の述べたことを記載した書面、または本人の述べたことを聽取つた者の供述を証拠とし得るのは、本人を喚問し得ない場合に向るのであります。それは本人を喚問する方が最も直接的であり、被告人もまた十分に反対尋問をする機会が與えられることになるからであります。本案においても、この原則を採用するとともに、その例外に関する規定を詳細に定めることといたしたのであります。第三百二十一條以下の規定がそれであります。  次にその内容をやや詳しく述べることといたします。まず参考人に対する聽取書、これは三百二十一條の一項であります。第一は被告人以外の者の作成した供述書、たとえば参考人に対する聽取書については、これを裁判官の面前における供述を録取した書面と、檢察官の面前における供述を録取した書面と、その他の書面の三種にわかちましていずれの場合にも、供述者を公判期日または公判準備においと取調べ得る場合には、必ず取調べを要することといたし、その上で前後の供述に食い違いがある場合には、裁判官の面前におけるものについては、そのいずれをとるかは裁判官の自由裁量といたし、檢察官の面前におけるものについては、前の供述すなわち檢察官の面前における供述の方が、後の供述すなわち公判期日または公判準備における供述よりも、より信用すべき特別の状況の存ずるときに限り、前の供述すなわち書面の記載の方を証拠にとり得るものといたし、その他の書面、たとえば司法警察員の聽取書のごときは、供述者が公判期日または公判準備において取調べ得る限り証拠とすることができないばかりでなく、取調べ得ない場合にも、その供述犯罪の事実の存否にとつて欠くことのできないもので、しかもその供述が特に信用すべき状況のもとになされたものでなければ証拠にならないことといたしたのであります。  次は檢証調書の問題であります。これは三百二十一條の二項、三項であります。檢証の結果を記載した書面についても、裁判官の檢証の結果を記載した書面と、その他のものとをわかち、裁判官の檢証の結果を記載した書面は、そのまま証拠となりまするけれども、その他のものにつきましては、檢察官、警察官等が証人に立ち、相手方の反対尋問を受け、しかもなおその書面の眞正なことの証明ができなければ、証拠とすることができないものといたし、鑑定書も同樣といたしたのであります。  次は被告人に対する聽取書の問題であります。これは三百二十二條であります。被告人の作成した供述書、たとえば上申書のごときものと、被告人供述を録取した書面で被告人の署名または押印のあるもの、たとえば被告人に対する聽取書のごときもにのついては、証人の場合とやや異なり、その丙容が被告人不利益な事実を承認しているものである場合、たとえば犯罪事実を自白している場合か、あるいはその供述が特別に、信用のできる事情のもとになされたものであるときには、証拠とすることができるのであります。かように証人の場合よりも、被告人の場合の方が、聽取書の証拠能力が廣く認められているのは、應急措置法第十二條にも、その例があるのでありまするが、証人は法廷において供述義務があるのに反し、被告人は完全な默秘権を有するもので、被告人のみが知つている事実については、捜査の段階における聽取書に証拠能力を全然認めないとすれば、事実の眞相を発見するための手がかりがまつたくなくなるということ、及び被告人捜査の段階においても、取調べの冒頭において供述拒否権があるということを告げられるのでありますから、その後自己不利益なる供述をしておれば、それは眞実であることが多いということに、その根拠があるのであります。もちろんかような被告人供述が任意になされたものでない疑いがある場合は、証拠とならないものであり、裁判所は証拠調べ前に、この点を調査しなければならないことも、特に規定を置いて、その趣旨を明らかにいたしたのであります。  次はその他の人の供述に代る書面の問題であります。これは三百二十三條であります。その他の書面で、その性質上人の供述に代るべきところのものについては、公務員が職務上証明することができる事実について作成したもの、商業帳簿のごとき業務の通常の過程において作成されたもののほか、特に信用すべき状況のもとにおいて作成された書面、たとえば日記帳のごときものに限り、証拠能力を認めることといたしたのであります。  次は傳聞の供述についての問題であります。これは三百二十四條であります。人が被告人または第三者の供述を聽いて、その内容を述べることは、文字通り傳聞であつて、前述の聽取書を提出する場合と異ならないので、これについても、聽取書の場合と同樣な制限のもとにおいてのみ、証拠となり得ることとしたのであります。  次は訴訟関係人に異議がない書面または供述等の問題であります。これは三百二十六條、三百二十七條であります。以上が新たに設けられた証拠能力に関する規定の最も重要な部分でありますが、訴訟関係人に異議がない場合には、もちろんかような制限によることを要しないばかりでなく、檢察官及び被告人、または辯護人が合意の上、ある文書の内容またはある証人供述内容を書面に記載して提出すれば、その文書またはその証人を取調べないでも、提出された書面を証拠にすることができることにいたしたのであります。これは訴訟の経済をはかつた規定であります。  次は反証としてのみ使用できる証拠であります。これは三百二十八條規定であります。以上の規定によりまして、証拠とすることができない書面または供述であつても、証人等の供述証明力を爭うためには、これを使用することができるものであつて、たとえば警察官の聽取書であつても、証人が法廷で前言を飜えしたときには、その聽取書を提出して、法廷での供述の信用すべからざるを立証することができるわけであります。しかしかりにかような立証ができましても、その聽取書を直接事実認定に用いることはできないのであります。單に反証としてのみ使用し得るにすぎないのであります。  次は物証の問題であります。物的証拠が從來通り証拠となることについては、言うまでもありません。  次は証拠調べの問題であります。訟訴の形式が、從來よりもかなり当事者主義的になります関係から、証拠調べは檢察官、被告人または辯護人の請求をまつて行われるのが、今までよりも強い意味で原則となるのでありまするが、裁判所職権で証拠調べを行うことはもちろんできるのでありまして、当分新たな訴訟形式に習熟するまでは職権による証拠調べに期待すべき点も少くないと思われるのであります。  次は証拠調請求の予告の問題であります。これは第二百九十九條であります。証人等の取調べを請求するには、あらかじめ相手方にいかなる証拠の取調べを請求するかについて、その氏名及び住居を知る機会を與えなければならないことといたし、証拠物、証拠書類については、これを閲覧する機会を與えなければならないことといたしたのであります。相手方に異議を申し立てる機会を確保せんとする趣旨であります。同樣に裁判所職権で証拠調べの決定をするには、両当事者の意見を聽かなければならないものといたしたのであります。  次は檢察官の冒頭陳述、これは第二百九十六條であります。かくして請求によりまたは職権で証拠調べを行うのでありますが、裁判所は、事件内容を深く理解せずして法廷に臨みますために、手続の進行に混乱を生ずるおそれがあるのでありますので、檢察官は証拠調べの冒頭において、これから何を立証せんとするかを明らかにしなければならないものとし、また裁判所も当事者の意見を聽いてあらかじめ手続の適当な段階において、証拠調べの範囲、順序、方法を定めることができることとして、手続の円満なる進行を期待することといたしたのであります。そのは二百九十七條規定であります。  次は証拠調べの方式であります。これは三百四條の規定であります。まず証人等の場合であります。証拠調べの方式については、いわゆるクロッス・エクザミネーシヨンの方式を採用することも、一應考慮いたしたのでありますが、英米のごとき長い歴史を有するところでは、相当な成績をあげていくも、これを今ただちにわが國に取入れることについては、なお多くの研究を要する点もありますので、証人等は一應從來通り裁判長または陪席の裁判官が先に尋問し、次に請求した当事者が尋問することにいたしたのであります。しかし場合によつてはこの順序を変更し、請求をした当事者をして、まず尋問せしめることもできることといたし、運用の妙にまつことにいたしたのであります。  次は証拠書類及び証拠物の件であります。これは三百五條、三百六條の規定であります。証拠書類及び証拠物の取調べにつきましては、その性質に鑑み、請求者をして朗読せしめ、または展示せしむるのを相当と考え、從來規定を変更いたしたものであります。  次は被告人の取調べでありますが、從來のごとき形式的な被告人尋問は、当事者としての被告人の地位にふさわしくないので、これを改め、公判の冒頭において、起訴状の朗読が終つた後、裁判長から默否権、供述拒否権があることを告げた上、なお被告人供述を拒まない場合にのみ、随時その供述を求むることといたしたのであります。  以上が公判期日における手続の大綱でありますが、なお公判に関連して二、三の改正された点を申し上げてみたいと思います。その一つは三百十二條の起訴状の変更でありますが、起訴状に訴因及び罰條を正確に記載すべきことは、前申し上げましたが、公判の途中において、起訴事実の同一性を害しない限度において、訴因及び罰條の変更を許し、または被判所が変更を命じ得ることにいたしたのであります。これはある訴因について証明がなければ、裁判所は無罪の言渡しをしなければならないのでありますが、一旦無罪の言渡しがありますれば、事実が同一であり限り、再び別の訴因では公訴の提起ができないからであります。これは憲法第三十六條の一事不再理の規定から來る結論であります。たとえば詐欺を訴因として起訴した後、証拠調べの結果恐喝と認められれば、檢察官から訴因の変更を申し出で、または予備的に恐喝の訴因を追加すべきことを申し出ることができ、また裁判所も檢察官に訴因を変更または追加すべきことを命ずることとなるのであります。もちろんかような訴因の追加または変更等によつて被告人の防禦に実質的不利益を生ずることを避けるために、適当な期間公判手続を停止して、被告人に十分な防禦の準備をさせなければならないことといたしたのであります。  次に第一審判決と保釈及び勾留関係であります。これは三百四十三條、三百四十五條規定であります。保釈または勾留執行停止中の者について、禁錮以上の実刑の宣告があれば、その確定を待たず保釈及び勾留執行停止は、その効力を失うこととするとともに、無罪、免訴、執行猶予等の判決があれば、やはりその確定を待たないで、勾留状の効力が消滅することといたしたのであります。これは一審判決があるまでは、被告人は無罪の推定を受け、多くの場合保釈を許される権利をもつのでありますが、一旦一審判決で有罪ときまれば、その後はかような推定を受けるのは妥当でないという思想に基いたのであります。殊に今回の改正におきましては、第一審が從來にもまして愼重となりました結果、かような考え方も許されると思うのであります。もちろん一旦保釈がその効力を失つても、裁判所の裁量によつて保釈を許可することはできるのであります。  次は仮納付の裁判であります。これは三百四十八條規定であります。これは罰金、科料または追徴の裁判を言渡す場合に、判決の確定を待つては、その執行をすることができないか、またはその執行に著しい困難を生ずるおそれがあるときに、判決確定前その金額の仮納付を命ずるのであります。判決が確定すれば、その限度において、仮納付の金額は確定判決の執行とみなされ、また超過金は返還されることはもちろんであります。  次は第三編上訴の関係であります。まず第一に通則について御説明申し上げます。これは主として三百五十三條、三百五十九條の関係を申し上げてみたいと思います。被告人の法定代理人、または保佐人の上訴権の問願であります。これは三百五十三條、三百五十九條、現行法におきましては、被告人の法定代表人または保佐人の上訴権を、被告人の意思いかんを問わない独立上訴権を規定しておるのであります。本案においては、これを被告人の明示した意思に反することのできない被告人のためにする上訴権に改めるとともに、被告人は、法定代理人または保佐人の同意を得なくても、上訴の取下でができることに改めたのであります。これは要するに、刑事訴訟の上訴においては、被告本人の意思を第一と考えて、法当代理人または保佐人の誤つた措置によつて被告人がその意思に反して不利益を受けることを避けようとする趣旨に基くものであります。  その次は上訴権放棄の廃止であります。判決言渡期日には、軽微な事件を除き、必ず被告人の出頭を要することといたしたのは、特に被告人の上訴権を保護する趣旨に出でておるのでありますが、さらにこの思想を徹底し、上訴権は放棄を許さない権利とするのが、被告人保護するゆえんであるのでありまして、上訴の放棄という制度を廃止したのであります。なおあと説明いたしまするがごとく、訴訟及び上告の提起期間を十四日にいたしたのでありまするが、上訴の提起期間中の未決勾留の日数は、上訴申立後の未決勾留の日数を除き、全部これを本刑に參入することにいたしたのであります。これが四百五十九條の期定であります。  次は上訴の制度であります、控訴及び上告は、現行制度を改め、控訴審はこれを原判決の当否を審査する、いわゆる事後審とい、上告審は、原則として、憲法違反はたは判例違反のみを審査する審級といたしたのであります。これは第一審においてきわめて徹底した直接審理主義公判中心主義を採用いたし、第一審にすべての攻撃及び防禦の資料を集中いたし、鄭重にその審理をすることに基いたので、控訴審を現行法通り覆審とする必要が認められないからであります。これに伴い、審級制度もこれを改め、地方裁判所または簡易裁判所の第一審の判決に対する控訴は、すべて高等裁判所がこれを管轄するものといたし、これに関する裁判所法の改正法律案は、引続き國会に提出する考えであります。  次は第二章の控訴の点であります。改正控訴審の要点は、次の諸点であります。一つは三百七十三條の控訴の提起期間を十四日といたしたことであります。次は三百八十四條の控訴の申立の理由は、次のようにいたしたのであります。一つ訴訟手続の法令違反、これは絶対的控訴申立の理由となる場合以外は、判決に影響を及ぼす場合に限り、訴訟申立の理由となるのであります。それから次は判決に影響を及ぼす法令の適用の誤り、次は刑の量定の不当、次は判決に影響を及ぼす事実の誤認、次は再審の事由、次は判決があつた後の刑の廃止もしくは変更または大赦であります。次は三百七十六條の規定でありまするが、裁判所規則で定める期間内に控訴趣意書を差出さなければならないことになつております。次は控訴趣意書は、本案及び裁判所規則で定める方式に從わなければならないということになつております。これは三百七十七條から三百八十三條までの規定がそれであります。次は三百八十五條、三百八十六條に規定するところでありますが、次の場合には、決定で控訴を棄却するわけであります。一つは控訴の申立が法令上の方式に違反したとき、次は控訴の申立が控訴権の消滅後になされたとき、あるいは期間内に控訴趣意書を差出さないとき、次は控訴趣意書が法令上の方式に違反しているとき、次は控訴趣意書に法律によつて認められた控訴申立の理由が記載されていないとき、それだけであります。  次は附帶控訴を廃止いたしました。さらにその次は、三百八十八條、三百九十條までの規定であります。これは被告人のためにする弁論は、弁護人でなければこれをすることができず、被告人は必ずしも公判期日に出頭を要しないという規定であります。次は三百九十二條の規定でありまして、控訴裁判所は、義務として控訴趣意書に包含された事項を調査しなければならないのでありまするが、さらに職権で、控訴趣意書に包含されない事項をも調査することができるということを定めておるのであります。次は三百九十三條の問題で、控訴裁判所は、原判決を破棄するかどうかを決するのに必要な限度におきまして、事実の取調べをすることができるということになつております。次は三百九十八條から四百條までの規定で、原判決を破棄したときは、原則として差し戻したは移送するのでありますが、またただちに判決することもできるということを規定しております。  次は第三章の上告の点について申し上げます。改正上告審の要点は、次の諸点であります。一つは上告の提起期間を控訴の場合と同樣十四日といたしました。次は四百五條規定で、上告の申立の理由は、憲法違反または判例違反に限る。こういたしたのであります。次は四百六條の規定でありまして、憲法違反または判例違反がない場合であつても、法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件裁判所規則の定めるところにより、みずから上告審として受理することができるのであります。かくして受理した事件は、通常の上告事件と変りがないのであります。なおこのたびは跳躍上告を廃止いたしました。それから附帶控訴と同樣附帶上告を廃止いたしました。次は四百九條の規定でありますが、上告審においては、被告人召喚することを要しないことといたしてあります。次は特に重要な規定でありまして、四百十一條であります。憲法違反または判例違反の場合であつても、法令違反、重大な事実の誤認等があつて、原判決を破棄しなければ、著しく正義に反すると認められるときには、原判決を破棄することができるということを規定しておるのであります。  次は四百十二條、四百十三條の規定でありまするが、原判決を破棄したときは、原則として差戻し、または移送をするか、またただちに判決することもできるという規定であります。次は四百十五條から四百八十條までの規定でありまして、上告裁判所の判決につきましては、訂正判決の制度を認めたのであります。これは新しい構想であります。  それから第四章の抗告の点について申し上げます。抗告につきましては、おおむね現行法と変りはないのでありますが、ただ特別抗告の理由應急措置法よりも拡げまして、憲法違反のみでなく、判令違反もその理由に加えたのであります。これが四百三十三條であります。  次は第四編の再審及び第五編の非常上告の点でありますが、再審及び非常上告につきましては、現在の規定とあまり変更はありません。再審につきましては、被告人不利益な再審に関する規定をすべて削除いたしましたが、これは應急措置法以來すでに効力を失つていたものであります。  次は第六編の畧式手続であります。畧式手続につきましては、二、三憲法違反の意見もあつたのでありますが、現在多くの裁判所で実際に行われており、政府憲法違反ではないと考えておるので、存置することといたしたのであります。ただ四百六十一條におきまして、畧式命令をなし得る限度を、五千円以下の罰金及び科料に限り、かつ被疑者異議のない場合においてのみ認めるということにいたしたのであります。さらに正式に裁判申立権者を從來は本人のみと解されていたのでありますが、一般の上訴権者、すなわち法定代理人、弁護人等にも認めることにいたしました。それで正式裁判を求め得る途を廣くしたわけであります。  それから第七編、裁判執行であります。現在の規定に対して重要な変更を加えた点はないのでありますが、ただ死刑の執行につきまして、今までは判決確定後、一定の期間内にその執行をしなければならないというような規定はなかつたのでありますが、確定判決を尊重しなければならないという趣旨から、一應六箇月の期間を設けることにいたしたのであります。これが四百七十五條であります。なお五百條におきまして、貧困者の訴訟費用の負担を免除する途も開いたのであります。この二点が裁判執行の点における。おもな改正点であります。  次は私訴の点でありますが、附帶私訴の制度は、これを廃止することにいたしました。附帶私訴も実益のない制度ではないのでありますが、一般的に申しまして、あまり利用せられることがなく、また刑事裁判の迅速性に障害となり、さらに裁判官の專門化の傾向のある今日、民事訴訟は、やはり民事訴訟手続によつて、十分審理するのを妥当と考えましたので、廃止することにいたしたのであります。  以上をもちまして、一應御説明を終ります。なお詳細な点につきましては、御質問に應じて随時申し上げることいたします。
  7. 井伊誠一

    ○伊井委員長 本日はこれにて会議を閉じます。     午後三時五十七分散会