○
木内政府委員 刑事訴訟法を改正する
法律案の提案の趣旨及び改正の最も重要な点、四点については、
法務総裁から説明がありましたので、私からは本案の全編にわたりまして、改正の要点を條文の順序に從つて御説明いたしたいと思います。
第一は、
裁判所の
規則制定権との関係であります。本案の内容にはいる前に、本案の立案にあたつて、憲法第七十七條に基く
裁判所の
規則制定権との関係をいかように考えたかという点を御説明申し上げたいと思います。
憲法第七十七條によりますと、
最高裁判所及びその委任を受けた
下級裁判所は、訴訟に関する手続について規則を制定する権限を與えられているのでありますが、一方憲法第三十一條は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」、こう規定しておるのであります。そこでこの両者の関係について、いろいろの見解があるのでありますが、政府におきましては、國民の
基本的人権に直接の関係ある事項、及び
刑事訴訟の
基本的構造に関する事項は、憲法第三十一條によつて当然法律によるべきものとし、この方針に基きまして本法案を立案したのであります。しかしながら他面憲法第七十七條が
裁判所に規則、
制定権を與えている趣旨を考えまして、
現行法中單純な
手続規定はこれを規則に讓り、本案はこれを削除しておるのであります。
次に全編にわたり順次改正の要点を御説明いたします。まず第一編総則、第一章
裁判所の管轄という点について申し上げます。本章はおおむね
現行刑事訴訟法の通りでありますが、新たに
事物管轄を同じうする他の
管轄裁判所への
事件移送の制度を設けたのであります。これは第十九條であります。これは本案がきわめて徹底した直接
審理主義、
公判中心主義を採用いたしました結果、
被告人の
現在地管轄を有する
裁判所において審判するよりも、犯罪地または
被告人の住所地を管轄する
裁判所において審判する方が
被告人の保護ともなり、また審理の便宜も得られるので、この制度を採用いたしたのであります。
次は第二章
裁判所職員の除斥、忌避及び回避の方について申し上げます。本章におきましては回避の制度を規定いたしたのであります。これは回避は單なる
裁判所の
内部規律の問題でありますので、
裁判所の規則に讓つたわけであります。
次は第三章、
訴訟能力、
被疑者に関する規定を取入れましたほか、
現行法通りであります。
第四章の弁護及び補佐につきましては、本章中
弁護人制度に関する改正の要点は、次の六点であります。
第一は三十條第一項の規定であります。
被疑者の
弁護人選任権であります。本案におきましては、
應急措置法をさらに一歩進めまして、
被疑者は身体の拘束を受けていると否とを問わず、すべて
弁護人を選任することができるものといたしまして、その保護をはか
つたのであります。
第二は
特別弁護人の制限であります。これは三十一條になつております。本案におきましても、
特別弁護人の制度は、これを認めておるのでありますが、
特別弁護人を選任することのできるのは、
簡易裁判所及び
地方裁判所に限られまして、かつ
地方裁判所におきましては、他に
弁護士たる
弁護人がある場合に限るものといたしまして、著しく
特別弁護人を選任し得る場合を制限いたしたのであります。これは本案においては、
弁護人が独立して
訴訟行為をなし得る範囲を著しく拡張いたし、
公判準備及び
公判手続において
弁護人が行動するについては、
專門的法律知識が必要となつておりますので、原則として、
弁護人は資格ある
弁護士たることを要し、
特別弁護人は例外的にこれを認めることといたしたのであります。
第三は、
主任弁護人の制度であります。これは三十三條、三十四條に規定いたします。本案におきましては、
公判準備及び
公判手続において、
弁護人に通知をしなければならない場合が著しく多くなります。また
弁護人のなし得る
訴訟行為も、はなはだ多くなつているのであります。この場合に数人の
弁護人に対しまして、すべて通知をしなければならないのだとすることは、きわめて不便であり、また
弁護人のなす
訴訟行為が相矛盾するのでは、訴訟の進行にいろいろの不便がありまするので、本案におきましては、
主任弁護人の制度を設けまして、
主任弁護人は、
弁護人に対する
訴訟行為、または
弁護人のする
訴訟行為について他の
弁護人を代表するものといたしたのであります。しかし
証拠調べ終了後の意見の陳述は、すべての
弁護人がこれをすることができるようになつておるのであります。
第四は
弁護人の数の制限であります。これは三十五條であります。
弁護人の数は、各
被疑者については、三人を超えることができないものといたし、
被告人につきましては、特別の事情があるときは、三人までに制限することができるものといたしたのであります。これは
司法法制審議会において、はげしい論戰の末決定された答申に從つたものであります。
第五は貧困その他の事由による
弁護人選任の請求権は、
應急措置法と同樣であります。これは三十六條であります。
第六は、
弁護人の
被疑者または
被告人との交通権であります。これは三十九條であります。
被疑者または
被告人が供述を拒む権利があり、また終始默秘する権利があることを考えますと、
被疑者または
被告人と
弁護人との接見に官憲が立会い、その会談の内容を聽取することは、建前として許されないところでありますので、身体の拘束を受けておる
被疑者または
被告人は、何人の立合いもなく
弁護人または
弁護人となろうとする者と接見し、防禦の準備をすることができるものとしたのであります。また書類もしくは物の授受をすることができるものといたしました。但し監獄法その他の法令で、逃亡、
罪証隠滅または戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができるものといたし、公訴の提起前におきましては、捜査との調整をはかる必要上、捜査官は、接見または授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができるものといたしたのであります。この指定に対しましては、不服の申立ができることになつております。これが三十九條と四百三十條であります。
次は第五章、裁判の点であります。本章につきましては、單純な
手続的規定を
裁判所の規則に讓つたほかに、
現行法通り別に変りはありません。
次は第六章、書類及び送達の点であります。本章は
現行法においては、二章にわけられていた書類及び送達を、併せて一章にいたしたのであります。まず
公判調書について特別の規定を設けました。それは四十九條でありますが、
被告人にも、
弁護人がないときは、
公判調書の閲覽権を認めた点であります。
次は五十條の規定でありまするが、
公判調書が次回の
公判期日までに整理されなかつたときは、
裁判所書記は、檢察官、
被告人または
弁護人の請求により、次回の
公判期日において、またはその期日までに、前回の
公判期日における証人の供述の要旨を告げ、その際請求者から証券の供述の要旨の正確性につきまして異議があつたときは、その旨を調書に記載しなければならないものといたし、
公判調書の正確性の担保をはか
つたのであります。第三は五十一條の規定でありまするが、
被告人及び
弁護人の出頭なくして開廷いたしました
公判期日の
公判調書が、次回の
公判期日までに整理されなかつたときは、
裁判所書記は、次回の
公判期日において、またはその期日までに、
被告人または
弁護人に、前回の
公判期日における審理に関する重要な事項を告げねばならないものといたし、
被告人の保護をはか
つたのであります。次は
確定訴訟記録の公開の制度を設けたのであります。これは五十三條であります。何人も
被告事件の終結後、原則として
訴訟記録を閲覽できるものといたしたのであります。これは裁判の公正を担保する趣旨に基くものであります。次は送達に関する
刑事訴訟におきましては、
公示送達制度をまつたく認めないことといたしました。そうして
被告人の保護をはか
つたのであります。但し五十四條に規定しておりまするが、公訴の時効の停止については、特別の規定を設けまして、
公示送達を廃止したために起るこの点の弊害を避れたのであります。
第一章 期間、これは五十六條をごらん願いたいのであります。本章は
里程猶予の期間に関する規定の内容を、
裁判所の規則に譲りまして、そのほかは
現行法と同じであります。
次は第八章、
被告人の召喚、勾引及び匂留の件であります。本章は、
被告人の身体を拘束する原由、
身体拘束についての手続、及び不当または不発要な匂留に対する
救済方法を定めたものであります。本章中の規定の大部分は、
現行法及び
應急措置法中に見られるものでありまするが、特に注意すべきものを掲げますと、次の通りであります。
第一は
匂留原由を新たに規定いたしまして、かつ
匂留期間に関する規定を設けなかつたことであります。
現行法におきましては、いかなる程度の犯罪の嫌疑がある場合に、
被告人の身体を匂留し得るかが、法文上必ずしも明確ではなお
つたのであります。
應急措置法におきましては、逮捕の原由といたしまして、「
被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」または「充分な理由」というような條件が設けられたのでありますけれども、これが同時に匂留の條件とはされなか
つたのであります。すなわち
現行法においては、匂留の原由は匂引の原由であります。すなわち
現行法の九十條の規定であります。
從つて住居不定というような事実がありますれば、極端に申しますると、犯罪の嫌疑があつてもなくても匂留し得るという理窟であ
つたのであります。本案はその第六十條におきまして、從來の建前を一擲しまして、勾留の原由といたしましては、常に「
被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があることを要件といたし、全然嫌疑のない者が拘束を受けることがないように、
裁判官に対して審査の義務を課することとな
つたのであります。但し、逆に申しますれば、本案においては、犯罪の嫌疑のある者は、たとえ
住居不定にあらずとも、一應勾留され得ることとな
つたのであります。この意味におきましては、必ずしも勾留し得る場合を制限したとは言えないのでありますが、そのような場合に関しましては、あとで申し述べまするように、
保釈制度等の活用により、不必要な勾留を努めて救済しようといたしているのであります。
次に
現行法におきましては、勾留の期間を二箇月としているのでありますが、本案におきましては、このような規定は設けなか
つたのであります。そのわけは、從來の運用の実情を見まするに、二箇月という期間の制限は、形式的な更新によつて、多くの場合
有名無実となつているのであります。本案においては、かくのごとき実効の伴わぬ制限は、これを設けぬことといたしまして、保釈、
勾留取消等の運用によつて、不当に長期にわたる勾留を救済しようと考えているのであります。
その二は、不当または不必要な勾留に対する救済であります。右に申し上げたごとく、本案においては、犯罪の嫌疑があれば、身体を拘束し得ることが一應の建前となり、
勾留期間に制限はないのでありまするから、不当または不必要の勾留を防止するため、十分の
救済手段が設けられねばならぬことは当然であります。そこで、次のごとき規定が設けられたわけであります。
その一つは
身体拘束と
弁護人選任の規定であります。これは七十六條ないし七十九條であります。
被疑者たると
被告人たるとを問わず、いやしくもその身柄が拘束された場合には、ただちに
弁護人選任権を告知され、かつこれを選任し得ることは、
應急措置法において定められたところでありまするが本案におきましても、これを全面的に踏襲いたしたのであります。第七十八條及び第七十九條は、
弁護士、
弁護士会、または
弁護人、もしくは親族等に対する
通知義務を新たに定め、これによ
つて被告人が不当または不必要の拘束を爭い得る途を開いたのであります。
その二は、
勾留理由開示の手続であります。これは八十二條ないし八十六條になつております。この手続は、憲法第三十四條の規定に基きまして、
應急措置法中に設けられたものでありまするが、本案においても、これを規定したのであります。この手続によつて、勾留中の
被告人は、自分が勾留された理由を知ることができるわけであります。
その三は、
勾留理由不存在または勾留不必要の場合における勾留の取消であります。これは八十七條であります。勾留の理由または勾留の必要がなくなつた場合には、請求または職権によ
つて勾留を取消すべきものといたしたのであります。
その四は保釈であります。これは八十八條、八十九條、九十條であります。保釈については、八十九條に若干の例外の場合を設けましたが、それ以外の場合には、保釈を許すべきものといたしたのであります。例外にあたる場合でも、
裁判所の裁量をもつて保釈を許し得るのは言うまでもないことであります。さらに職権により保釈を許し得る途を開くことといたしたのであります。
その五は、不当に長期にわたる勾留の取消またはその場合における保釈であります。これは九十一條の規定であります。勾留による拘禁が不当に長くなつたときには、
裁判所は請求または職権によつて、勾留を取消すか、保釈を許さなければならぬものといたしたのであります。以上が勾留される場合の
被告人に対して設けられた
救済規定の概要であります。
次は勾引、勾留の手続に関するいろいろの規定であります。本章中の勾引、勾留の手続に関する規定について、一言申し上げたいのであります。これらは一見いたしますと、
現行法または
應急措置法のそれと大差がないようでありまするが、しさいに比較檢討いたすならば、本案の規定が從來の
手続規定よりも詳細をきわめており、匂引状、
匂留状の執行について嚴格な制限を課しておることは、おわかりのことと思うのであります。ただ一つ、そに中にあつて、七十三條第三項が、急速を要する場合に関し、令状をその執行の際呈示する必要のない例外を定めていることを御注意願いたいのであります。令状は執行の際常にこれを呈示するのが理想であることは申すまでもないところでありますが、この原則を徹底いたしますれば、すでに令状が発せられておつても、たまたま令状を所持していなければ、
被告人を逮捕し得ないという不都合な場合も生じ得るので、この例外を特に設けたわけであります。以上が第八章中の重要と思われる規定の説明の概畧であります。
次に第九章にはいるわけでありまするが、その前にちよつと御注意を願いたいのは、本案におきましては、
現行法が「
被告人の召喚、
匂引及び匂留」の章の次に設けている「
被告人尋問」の章を削除したということであります。本案におきましても、
被告人の供述を求める場合もあり得ることにはなつておるのでありまするが、從来のごとき
被告人尋問は、
裁判手続の中心ではなくな
つたので、これを一章としては規定せぬことといたしたのであります。
次は第九章
押收及び捜査の点であります。本章は
裁判所の行う
押收及び捜索について規定を設けたのであります。しかして本章の規定は、
現行法の規定と対比すると、次のごとき諸点が特徴をなしておると考えられます。その一つは、
令状主義の徹底であります。これは百六條であります。從來の考え方におきましては、
裁判所はみずから押收、捜索をなし得るのであつて、
裁判所の押收、捜索には令状は不要であるとも考えられたのでありますが、本案はこの点に関しまして新たなる見解をとり、
裁判所の行う押收、捜索についても令状を必要とし、その令状は
裁判官以外の者が執行すべきものといたしたのであります。これは百八條にあります。けだし一方において
裁判官の
地位職分を考えますれば、
裁判官みずからの押收、捜索の現場において活動するというようなことは、はなはだおもしろくないと考えたからであります。また地方においては、常に令状を要することが、憲法第三十五條の明文にも合致すると考えたからであります。その二は
押收令状、
捜索令状の執行と、
人権尊重の規定であります。
押收令状、
捜索令状の執行は、これが乱暴に行われた場合、きわめて人物を侵害するおそれあること、逮捕状、
匂留状といささかも異なるところがありません。よ
つて本案におきましては、時に次のごとき
制限規定を設けまして、人権の侵害を防止せんことを企図したのであります。その一は呈示の義務、これは百十條にあります。令状は、処分を受ける者の請求の有無にかかわらず、これを呈示すべきものといたしたのであります。その二は夜間の執行であります。百十六條の規定であります。令状を
夜間執行するためには、その旨の記載を要するものといたしたのであります。言いかえますれば、
裁判官に対して
夜間執行の許可を求め、許可を得て初ため執行し得ることにいたしたのであります。その三は目録の交付であります。これは百二十條の規定であります。押收した者は、必ず
押收品目録を交付すべきものといたしたのであります。その四は運搬または保管に不便なものの委託であります。これは百二十一條の規定であります。
現行法におきましては、この種の保管の委託は、これを命じ得ることになつていたのでありますが、本案におきましては、相手方の承諾を條件といたしたのであります。
次は
押收拒否権制度の
合理化であります。これは百五條の規定であります。これはふとで申し上げまする
証人尋問の意内第百四十九條に対應する改正であります。そもそも
被告人、
被疑者の尋問が大いに制限されました
刑事訴訟制度のもとにおきましては、傍証の收集が
犯罪証明にとつてきわめて重要なることは、あらためて申すまでもないところであります。特殊の業務に從事する者が、業務上委託を受けて保管し所持する物で、他人の秘密に関するものをむやみに押收するきとは、不当に人の秘密を侵し、かつ
業務自体を冒涜するものであります。しかしながら、業務に基く
押收拒否権は、あくまでも人の秘密の正当なる保護と業務の保護との点に、その合理性が認めらるべきものでありまして、これが犯人隠避、
罪証隠滅にまで濫用さるべきものでないことは明らかであります。第百五條は、新制度のもとにおける傍証の重要性に鑑みまして、從來の規定を多少合理的に変更することにいたしたのであります。
次は第十章檢章の項であります。本章におきましては、あとで申し上げまする鑑定の章におけると同樣に、身体の檢査をなす檢証につきまして、特別の規定を設けたのであります。身体の檢査は、野外における
犯罪現場の檢証等の異なり、その
方法いかんによりましては、処分を受ける者の人権を侵害する程度が大きいからであります。と同時に、新制度のもとにおきましては、これが
証人尋問と同樣に、重要なる
証明方法となることもあり得ることと考えますので、正当な理由なく檢査を拒否する者に対しましては、制裁を科し得ることにいたしたのであります。これは百三十二條、百三十三條、百三十四條、百三十七條、百三十八條の規定であります。なおそのほかに、過料の制裁を科する裁判に対しましては、別に抗告の途を認めたのであります。これは四百二十九條であります。
次は第十一章、
証人尋問であります。前申し上げましたごとく、本案におきましては、
被告人及び
被疑者に対して、一切の供述を拒否する権利を認めました結果、今後の裁判におきましては、傍証の收集が、犯罪の証明にきわめて重要なものとな
つたのでありまするが、中でも
証人尋問は特に重要な役割を果すことにな
つたのであります、他面重要な証人は、できる限りこれを公判廷で尋問し、しからざる場合におきましては、
被告人に対して十分に審問の機会を與へなければならぬというのが、憲法第三十七條の規定する原則でもあります。このような観点から、本案は從來の
刑事訴訟法中の
証人尋問に関する規定を、ある部分多少修正し、また新たに規定を設けることといたしたのであります。その一は、
証言拒否制度の
合理化、これは百四十六條、百四十七條であります。
現行法第百八十六條及び第百八十八條におきましては、一定の
親族関係またはこれに準ずる関係のある者の間においては、全面的に証言を拒否し得ることとなつてお
つたのであります。言いかえますれば、特殊の関係があることさえ立証されるならば、
被告人に不利益な証言はもちろんのこと、有利な証害さえも拒否し得るということが、理論的には可能であ
つたのであります。しかも実際の運用におきましては、この規定が理用されたことはあまりなく、多くのこの種の証人は、進んで
被告人のために有利な証言をなし、その際
被告人に不利益な証言までも強いられるという例も少くなか
つたのであります。これは証言の全面的な拒否を規定して、これを部分的に拒否し得るということに対して明確な考え方がなかつた結果であると思われるのであります。いかに考えても、有利な証言まで拒否し得るというのは、合理的なものとはなしがたいのであります。眞実の有利な証言は、これを得ることが
被告人のためにも、被判の公正のためにも、望ましいのであります。新法のもとにおきましては、証人の取調につきましては、尋問の
一つ一つに対して異議を申し立てる権利を認めたのでありますから、
弁護人その他の者の
異議申立により、証人が自己と親族の関係にある
被告人に対し不利益な証言を強いられるということは、十分に防止し得るのであります。このような考えから、本案におきましては、百四十六條、百四十七條において、自己または自己と特殊の関係におる者が
刑事訴追を受け、または
有罪判決を受けるおそれある証言のみについて、拒否権を認めることにいたしたのであります。次に本案の百四十九條は、前申しました押收、捜索の章における百五條と並んで、特殊の業務に從事する者の
証言拒否権についても、規定の趣旨を合理的なものたらしめたものであります。
次は
宣誓制度の
合理化、これは百五の刑訴二百一條、二百二條におきまては、宣誓せしめずに尋問すべき証人の種類をきわめて廣範囲に規定してお
つたのであります。その趣旨を察しますに、これらの証人はどうせ多少のうそまたは不正確な証言をするであろうから、むしろ宣誓をせしめずしてこれを尋問し、虚偽と眞実との混合した証言の中から、
裁判官が眞実を発見しようというにあつたようであります。しかしながら、多少なりとも偽証を認容するがごとき制度は、合理的なものとは言いがたいのであります。一方においては不利益な証言はこれを拒否することを認め、他方においては、証言する者に対して眞実を期待し、また要求することが正しいと思われるのであります。殊に從來の理論におきましても、宣誓した上の証言と、宣誓せざる証言との間には、
証拠能力、
証明力等におきまして、法律上何らの差異はなく、宣誓せざる証言のみを証拠として有罪を認定することも可能であつたことを思いますれば、ある種の証人に対しては宣誓をさせてはならぬという理由が、きわめて乏しいと言わなければならないのであります。以上のごとき考慮から、本案におきましては、宣誓の趣旨を理解し得ざる者を除き、すべての証人に宣誓を命ずることといたしたのであります。次は証人を十分に審問する権利であります。これは百五十七條ないし百五十九條の規定であります。本案は、証人が
裁判所外において尋問される場合に関し、立会権、尋問請求権を新たに規定したのであります。この三箇條は読んでいただけば趣旨おのずから明瞭であると考えます。次は証人に対する罰則の強化であります。これは百五十條、百五十一條、百六十條、百六十一條であります。すでに繰返して申し述べましたがごとく、新制度下におきましては、証人が重要な証拠となる事実に鑑みまして、不出頭、不合理の証言拒否等について、從來よりも重い制裁を科し得ることといたしたのであります。なお科料の制裁の裁判に対しても、抗告の途が認められているのであります。これは四百二十九條であります。
次は十二章の鑑定の章であります。本章には三つの新しい規定が設けられました。その一つは百六十七條の留置状、その二は百六十八條の許可状であります。この両者は、
應急措置法にも規定されていなかつたものであります。この種の重要な処分に
令状主義を徹底しようという考えに基くものであります。その三は百七十二條の規定であります。本章におきましても、身体檢査を特別に規定し、人権保護に愼重を期することといたしたのであります。
次は第十三章通訳及び飜訳であります。本章につきましては、從來と同じでありまして、新しい点はありません。
次は第十四章証拠保全であります。本章は全然新しい規定であります。趣旨とするところは、第百七十九條に明瞭に書いてあるように、
被告人、
被疑者が公判において使用すべき証拠を、公判前に
裁判所に請求して保全することを認めたのであります。
次は第十五章訴訟費用の点であります。本章におきましては、第百八十一條第三項の改正に御注意願いたいのであります。これは檢察官のみが上訴を申立てた場合に、その上訴が誤つていたことより生じた訴訟費用は、これを
被告人に負担させることができないとしたことであります。これに関連いたしまして、第三百六十八條ないし第三百七十一條におきましては、檢察官のみが上訴して、その上訴が誤つていた場合に、費用の補償を規定したのであります。
次は第二編、第一審、第一章捜査であります。捜査の関係は百八十九條から百九十四條までの点について、まず御説明いたします。本章におきましては、すでに
應急措置法で確立されたところを踏襲しまして、これを詳細に規定したに止まる部分が多いのでありますが、また新しい制度を取入れた点も少くありません。まず司法警察制度でありますが、本案においても、
現行法通り、司法警察の制度を存置いたしました。しかし新警察法によりますれば、自治体の吏員である警察吏員があるので、これをも包括して從來通り司法警察官吏という名称を用いることは適当でありませんので、総括的名称といたしましては、司法警察職員といたしたのであります。從來の司法警察官に相当するものといたしましては司法警察員、司法警察吏に相当するものといたしましては司法巡査の名称を用いたのであります。しかして警察法上の警察官及び警察吏員は、本案第百八十九條により、すべて司法警察職員となり、森林、鉄道その他特別の事項についてのいわゆる特別司法警察官は、本案第百九十條に基く司法警察職員指定法によつて、司法警察職員として指定されるわけであります。本案におきましては、司法警察職員は、犯罪があると思料しますときは、犯人及び証拠を捜査するものとすると包括的規定を設けているだけでありまして、司法警察員または司法巡査の権限の差異に関し、特に定義的規定は設けなか
つたのであります。その権限の差異は、本章中にそれぞれ規定があり、要するに司本警察員は、個々の事件の捜査の主宰者であつて、逮捕状その他の令状の請求権及び逮捕した身柄を釈放すべきか檢察官に送致すべきかの決定権は、司法警察員に與えられております。捜査を逐げた事件を檢察官に送致すべき義務も司法警察員に負わされておるのであります。警察官及び警察吏員中、いかなる階級の者を司法警察員とし、あるいは司法巡査とするかは、各都道府縣、國家地方警察、及び各自治体警察の実情に即しまして、これを決定するのが、適当であるのでありまして、他の法律またはそれぞれの公安委員会の定めるところに讓
つたのであります。これは百八十九條の一項であります。
次は檢察官の捜査指示ないし指揮権の問題であります。警察法の根本原則であるところの警察の地方分権化との調整をはかるため、司法警察官吏の捜査は、すべて檢察官の補佐または補助としての捜査であるとする
現行法の建前を改めまして、司法警察職員を独立の捜査主体に改め、これに第一次捜査責任を認めるとともに、檢察官の捜査指揮権を
合理化し、公訴を実行するために必要な犯罪捜査の重要な事項に関する準則を定める一般的指示権、これに協力を求めるため必要な一般的指揮権及び檢察官の行う捜査の補助をさせるための指揮権の三つとしたことは、先に
法務総裁がその提案理由説明において御説明申し上げた通りであります。公訴を実行するため必要な犯罪捜査の重要な事項に関する準則は、現行の司法警察職務規範に相当するものであります。一般的指示権は、かかる準則、すなわち職務規範を定めるものに限られておるのであります。捜査の協力を求めるための一般的指揮権と申すのは、廣く一般的に犯罪捜査計画方針を立て、これに協力を求めるための一般的指揮権を言うのであります。檢察官がみずから犯罪を捜査している場合であると否とを問わないのであります。檢察官の行う捜査の補助をさせるための指揮権と申しますのは、檢察官が特定の犯罪を捜査しておる場合に、直接その指揮のもとに入れて捜査の補助をさせるための指揮権であります。捜査手続が國家刑罰権の実現をはかる刑事手続の第段階であることは、論をまたないところでありまして、この捜査手続自体が、法にかなつて遂行されなければ、正義の顯現もこれを期しがたいのであります。捜査手続自体を法にかなつて執行せしめるためには、檢察官の指示または指揮は絶対に必要であります。殊に現在の司法警察官の質的低下を考えるならば、本案のごとき指示または指揮権は絶対の要請であり、かつ実情に即したものと考えられるのであります。なお檢事総長、檢事長または檢事正は、司法警察職員が正当な理由がなく、檢察官の指示または指揮に從わない場合において必要と認めるときは、その懲戒または罷免の訴追をすることができるのでありますが、この訴追というのは、單なる請求とは違つておりまして、この訴追があれば、当然懲戒または罷免の手続が開始されることを意味するのであります。
次は
被疑者の取調べについてであります。これは百九十八條の規定であります。本案におきましては、檢察官、檢察事務官または司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、
被疑者の出頭を求め、これを取調べることができるのでありますが、この場合
被疑者は逮捕または勾留されている者以外は、出頭を拒み、または出頭後もいつでも退去することができるものとし、さらに檢察官等は取調べに際して
被疑者に対し、あらかじめ供述を拒むことができる旨を告げなければならないものといたしたのであります。これは從來、ややもすれば行われがちであつた自白の追求を防止し、憲法第三十八條第一項の趣旨に從い、
被疑者の人権を保障するため、特に規定を設けたものであります。
次は
被疑者以外の者の取調べについてであります。これは二百二十三條、二百二十六條、二百二十七條であります。本案におきましては、檢察官、檢察事務官、または司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、
被疑者以外の者の出頭を求め、これを取調べまたはこれに鑑定、通訳もしくは翻訳を嘱託することができるのでありまするが、この場合これらの者は前述の
被疑者の場合と同樣に、出頭を拒みまたはいつでも退去することができるものといたしたのであります。これは憲法の精神に從つてこれらの者の人権を保護させるために規定を設けたものであります。しかしながら、犯罪の捜査上重要な証人が、出頭または供述を拒んだ場合には、捜査に支障を生じ、個人の人権を保障することによつて、かえつて公共の福祉に反する結果を來しまするので、かかる場合には第一回
公判期日前に限り、檢察官は、
裁判官にその者の
証人尋問を請求することができるものといたしたのであります。しかしてもしその者が
裁判官の尋問に対し、正当の理由なくして、さらに出頭または供述を拒んだ場合には、総則第十一章証人訊問の規定に從い、罪則の適用を受けることになるのであります。さらに檢察官等の取調べに際して任意に供述した者が、
公判期日においては他から圧迫を受けて供述を飜えすおそれがあり、しかもその者の供述が犯罪の証明に欠くことができないと認められる場合には、証拠を保全するため、第一回
公判期日前に限り、檢察官は、
裁判官にその者の
証人尋問を請求することができるものといたしたのであります。
次は逮捕並びに公訴提起前の
勾留期間の問題であります。これは二百八條第二項でありますが、
被疑者の逮捕手続につきましては、令状による場合、緊急逮捕の場合及び現行犯逮捕の場合等いずれも
應急措置法におけるものと同樣であり、逮捕より公訴提起までの手続についてもまた同樣であります。ただ
應急措置法にもとにおきましては、檢察官が勾留の請求をなした場合には、その日から十日以内に公訴の提起をしなければ、ただちに
被疑者を釈放しなければならないことになつておるのでありまするが、本案では、やむを得ない事由がある場合は、その期間を総計十日以内に限り延長することができるものといたしたのであります。これは將來の捜査においては、自白の偏重を避け、傍証の收集に重点が置かれるために、捜査に從來よりも多くの日数を要する場合があることが予想されますので、やむを得ない事由のある場合に限り、
裁判官にこの期間の延長を請求することができるものといたしたのであります。
次は準現行犯の点でありますが、これは二百十二條であります。準現行犯につきましては、本案の規定するところは、
現行法と趣旨において同樣であります。ただ
現行法にもとにおきましては、犯行時と逮捕時との時間的関係がやや廣く解釈せられておるのでありまするが、本案では
現行法の準現行犯たる事由のほか、罪を行い終つてから間がないと、明らかに認められるときに、これを現行犯人とみなすことといたし、犯行時との時間的関係を明らかにいたしたのであります。これは現行犯の本質上、かように犯行と時間的に接着する場合のみを、準現行犯とすることが、相当であると思われますので、この点について、
現行法よりもやや狹く規定いたしたものであります。
次は身体檢査令状の請求についてであります。これは二百十八條であります。檢察官、檢察事務官または司法警察職員が、犯罪捜査のため行う差押、捜索または檢証については、
裁判官に対して令状を請求し、これによつて行わなければならないことは、
應急措置法と同樣でありまするが、特に身体の檢査を行う場合には、檢査を受ける者の人権を保護するため、身体檢査令状によることを要するものといたしたのであります。身体檢査令状を請求する場合には、身体の檢査を必要とする理由、及び身体の檢査を受ける者の性別、健康状態等を
裁判官に示すことを要し、
裁判官は、身体檢査を受ける者の人権を保護するために、身体檢査に関し適当と認める條件を附することができるものといたしたのであります。
次に尊族親に対する告訴、告発の禁止の規定の撤廃であります。
現行法におきましては、祖父母または父母に対しては、告訴または告発をすることができないことになつておるのを、本案におきましては、この禁止規定を撤廃いたしました。尊族親に対する告訴、告発の禁止は、從來わが國の淳風美俗に基くものとせられたのでありまするが、すべて國民は法のもとに平等であるといる新憲法のもとにおきましては、これを削除するのを適当と認め、改正案には規定しないことにいたしたのであります。
次は告訴の取消、これは二百三十七條であります。
現行法におきましては、告訴は第二審の判決があるまではこれを取消すことができるとしてあるのでありまするが、本案におきましては、告訴の取消は、公訴の提起前に限るものといたしたのであります。これは一旦被害者が告訴し、これに基いて公訴が提起された以上は、事件は國家の手に移つたものであつて、その後において、なお
裁判所における訴訟手続の進行が告訴権者の意思によつて左右されることは、適当でないと考えましたので、告訴の取消は、公訴の提起前のみに限るものといたした次第であります。
次は外國の代表者等の告訴またはその取消の特例であります。これは二百四十四條であります。告訴またはその取消は、檢察官または司法警察員に対してなさるべきものでありまするが、刑法二百三十二條第二項の規定によりまして、外國の君主または大統領に代つて、その國の代表者が、名誉毀損の告訴またはその取消をする場合及び外國使節に対する名誉毀損または侮辱の罪について、その使節が告訴または取消をする場合には、特に外務大臣に対して、これをすることができるものといたしたのであります。これは國際外交上の観点から、かかる特例を認めることが相当であると考えたからであります。
次は第二章公訴の点であります。本章も数点において重要な改正がされております。その一つは公訴の時効でありまして、二百五十條であります。公訴の時効につきましては、刑法第百八十條、單純賭博罪の短期時効を廃止いたしまして、これを通常の罪金にあたる罪として、三年の時効期間に改めましたほか、拘留または科料にあたる罪の時効期間を、六箇月から一年に延長いたしたのであります。これは單純賭博罪につきましては、特に短期時効を認める理由に乏しく、拘留、科料にあたる罪については、六箇月の時効期間は短かきに失すると認められるからであります。
次は時効の停止、これは二百五十四條第一項、それから二百五十五條であります。
現行法におきましては、公訴の時効は、公訴の提起、公判の処分または二百五十五條の規定によりなされた判事の処分によつて中断するのでありますが、本案におきましては、時効の中断の観念を捨てまして、時効の停止の観念を全面的に採用いたし、時効は公訴の提起によりその進行を停止し、管轄違または公訴棄却の裁判が確定したときから、その進行を始めるものといたしたのであります。但し公訴提起の手続が法令の規定に違反したため無効であるときまたは起訴状の謄本が適法に
被告人に送達されなかつたために、公訴の提起がその効力を失つたときは、時効は停止しないのであります。なお犯人が國外にいる場合、または犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達ができなかつた場合には、時効は、その國外にいる期間、または逃げ隠れている期間は、その進行を停止するものといたしたのであります。これは
現行法のごとく公判の処分または、判事の処分により時効の中断を認めるときは、これらの処分により繰返し時効は中断され、
被告人に不利益であるのみでなく、手続も煩雜でありますから、むしろ時効の中断の観念を捨て、時効は公訴の提起により、その進行を停止するものといたしたのであります。なお時効の中断の観念を排する結果、犯人が國外にいる場合、または國内において逃げ隠れておるため、起訴状の謄本が送達できない場合、その間に時効が完成し遂に公訴提起が不可能となることを防ぐために、かかる期間は、時効は進行を停止するものといたしたのであります。
次は起訴状についてであります。これは二百五十六條であります。公訴の提起は、提訴状を提出してこれをするのでありまするが、提訴状には、
被告人の氏名その他、
被告人を特定するに足りる事項、公訴事実及び罪名を記載し、公訴事実については、でき得る限り日時、場所及び方法をもつて罪となるべき事実を特定して訴因を明らかにし、罪名については、適用すべき罰條を示して、これを記載しなければならないものといたしたのであります。しかして公判の裁判は、あとで申し上げまするがごとく、訴因を明示して記載された公訴事実に対してなされるものでありまするから、檢察官は、必要に應じて、同一公訴事実について数個の訴因及び罰條を予備的にまたは択一的に記載することができることといたしたのであります。
さらに本案におきましては、
公判中心主義を徹底し、かつ当事者訴訟主義を廣く採用いたしました結果、
公判期日前に
裁判官に、事件につき予断を抱かしめることを防止するため、かかるおそれある書類等は、一切訴状とともに提出することを禁じ、起訴状は、現在行われておるがごとく、訴訟書類を添附することなく、原則として單独に提出されることとし、その記載内容につきましても、かかるおそれある書類等の内容を引用することを禁じたのであります。
次は告訴人、告発人または請求人に対する檢察官の処分の通知であります。これは二百六十條、二百六十一條であります。
現行法のもとにおきましては、告訴事件については、檢察官は、その処分の結果を告訴人に通知することになつているのでありまするが、本案においては、これを廣く告発人、請求人にも廣め、さらにもしその事件について公訴を提起しない処分をした場合には、告訴人、告発人または請求人の請求があれば、その不起訴理由を告げなければならないものといたしたのであります。これはかかる告訴人、告発人または請求人は、その事件の処分に対して種々の利害関係をもつているのでありまするから、その処分の結果を通知し、もし請求があれば、不提訴の理由をも告げることが適当であると考えたからであります。
次は刑法第百九十三條ないし百九十六條の罪、すなわち職権濫用、暴行凌虐等の罪についての公訴の特例であります。これは二百六十二條から二百六十九條までの規定であります。
いわゆる人権蹂躙事件、すなわち刑法第百九十三條ないし百九十六條の罪につきまして、告訴または告発をした者は檢察官の不起訴処分に不服があるときは、その檢察官所属の檢察廳の所在地を管轄する
地方裁判所に、事件を
裁判所の審判に付することを請求することができるものといたしたのであります。この場合当該
地方裁判所がその請求について審理した結果、もし請求が理由あるものと認めて事件を管轄
地方裁判所の審判に付する旨の決定をいたしますと、そのときにその事件について公訴の提起があつたものとみなされるのであります。しかしてこの事件につきましては、
弁護士の中から指定された者が、その公訴の維持に当るものといたしたのであります。これはかかる種類の犯罪につきましては、檢察官の処分が公正でない場合があるやもしれぬことを慮りまして、特に公訴の提起に代る手続を認めたのでありますて、その事件の公訴維持についても、これを檢察官の責任において行わしめることなく、
裁判所によつて指定された
弁護士をして担当せしめることといたしたのであります。